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タイトル:公開特許公報(A)_液面上にバイオフィルムを形成可能な微細藻類、該微細藻類により液面上に形成されたバイオフィルム、並びに該バイオフィルムから得られるバイオマス及びオイル
出願番号:2012099188
年次:2013
IPC分類:C12N 1/12,C07G 99/00,C11B 1/00,C12N 15/09,C12R 1/89


特許情報キャッシュ

金原 秀行 松永 是 田中 剛 田中 祐圭 JP 2013226062 公開特許公報(A) 20131107 2012099188 20120424 液面上にバイオフィルムを形成可能な微細藻類、該微細藻類により液面上に形成されたバイオフィルム、並びに該バイオフィルムから得られるバイオマス及びオイル 富士フイルム株式会社 306037311 国立大学法人東京農工大学 504132881 高松 猛 100115107 尾澤 俊之 100151194 金原 秀行 松永 是 田中 剛 田中 祐圭 C12N 1/12 20060101AFI20131011BHJP C07G 99/00 20090101ALI20131011BHJP C11B 1/00 20060101ALI20131011BHJP C12N 15/09 20060101ALN20131011BHJP C12R 1/89 20060101ALN20131011BHJP JPC12N1/12 CC12N1/12 ZC07G99/00 CC11B1/00C12N15/00 AC12N1/12 CC12R1:89 10 OL 29 4B024 4B065 4H055 4H059 4B024AA17 4B024CA11 4B024GA27 4B065AA83X 4B065AC09 4B065BA22 4B065BC48 4B065BC50 4B065BD16 4B065CA03 4B065CA54 4B065CA60 4H055AA01 4H055AB44 4H055AC61 4H055AD10 4H055AD22 4H055CA61 4H059BA30 4H059BC48 本発明は、液面上にバイオフィルムを形成可能な微細藻類、該微細藻類により液面上に形成されたバイオフィルム、並びに該バイオフィルムから得られるバイオマス及びオイルに関する。本発明に係る微細藻類は、液面上にバイオフィルムを形成する、微細藻類であり、エネルギー分野において有用である。 近年、産業活動の発達などに伴って、大量の化石燃料を使用することによる燃料価格の高騰や、化石燃料を使用することによって大気中に放出された二酸化炭素による温室効果で地球温暖化が進展することが問題となっている。このような問題を解決するための手段として、光エネルギーにより二酸化炭素を固定化し、炭化水素化合物やバイオディーゼル(トリグリセリド)等に変換する能力を有する微細藻類の利用に対する期待が高まっている。例えば、微細藻類を培養することで、光エネルギーを用いて二酸化炭素を固定化し、バイオディーゼルや炭化水素化合物などのバイオマスを産生させる様々な研究が既に行われている。 ところで、微細藻類などの微生物の存在形態には、例えば外的攻撃から身を守るために、粘性のある分泌物を生産して、高次構造体、いわゆるバイオフィルム(biofilm)(微生物集合体若しくは微生物膜)を形成する存在形態があり、昨今、医療、環境などの分野において大きな注目を集めている。バイオフィルムを形成すると、微生物は個々の性質とは異なる挙動を示し、集合体としての性質を示すようになることが知られている。例えば、物理的なバリアを形成しているため、捕食生物からの捕食が、微生物が個々で存在する場合よりもされにくくなるとともに、他の微生物により容易には置き換えられにくくなる。 微細藻類を用いてのバイオマスの生産には、種々の問題点があり、効率的な微細藻類の培養方法、微細藻類の回収方法、更にはオイル等のバイオマスの抽出方法が開発されておらず、コストが高いため、商業規模での生産は行われていない。その最大の原因の一つが、微細藻類の効率的な回収方法がないことである。具体的には、微細藻類は通常、液中に浮遊しながら生育させるため、微細藻類をバイオマスとして利用するためには、非常に希薄な濃度の微細藻類を大量の液中から回収しなければならない。加えて、微細藻類の生育のためには光エネルギーが必要であるため、十分な光の照射を確保するためには液中に存在する微細藻類の濃度を過度に高くすることが出来ない。結果として、液中に浮遊する微細藻類を回収するには、多量の水をろ過する必要があった。また、微細藻類のサイズは一般的に小さく、ろ過も容易ではなかった。このような問題を解決するための回収方法の検討として、沈殿剤を用いる方法、遠心分離機を用いる方法、微細藻類をより大型の生物の餌とした後に、該大型の生物を回収する方法などが試みられたものの、いずれの方法も根本的な解決には至らなかった。 上記のような理由から、微細藻類を効率的、簡便かつ低コストで回収するために、微細藻類を液面上に生育させることが望まれている。 微細藻類の液面上への浮遊については、自然に発生するアオコ、ボツリオコッカス(botryococcus)のブルーミング(大量繁殖)や、海洋で発生する赤潮などがある。しかし、これらはいずれも自然界で発生する現象であるので、液面上に発生する微細藻類は多種、多量の不純物と共に入り混じっており、微細藻類が純粋に液面上で生育しているかについては定かではない。なおアオコとは、純菌化を行っていない微細藻類、すなわち、多種の微細藻類から構成され、液面上に浮き、青粉の表記のごとく、粉状になった微細藻類を主とする凝集物のことを言い、本発明に係るバイオフィルムとは異なるものである。 ボツリオコッカスの培養に関しては、非特許文献1及び2に、ボツリオコッカスがオイルを蓄積した時に、液面上への浮遊性があることが示されている。また、特許文献1には、ボツリオコッカスが液面上に浮くことが要約書に記述されている。しかし、特許文献1では、二酸化炭素と藻とが直接接触することによって、炭化水素化合物の蓄積速度が向上するという現象に基づいて、吸湿性の布の表面上にボツリオコッカスを培養するものであり、液面上に直接ボツリオコッカスが浮いている実施例の記載はない。 非特許文献3は、ボツリオコッカス スデティクス(Botryococcus sudeticus)として、Botryococcus sp. UTEX−2629株を開示しているが、これはボツリオコッカス ブラウニー(Botryococcus Braunii)よりも比重が重く、また、液面上に浮くことに関する記述もない。 以上のように、従来の技術にはボツリオコッカスが液面上に浮くことについて示唆はあるものの、実際にボツリオコッカスを液面上に浮かせた具体的な態様についての記載はなく、ましてや液面上にバイオフィルムを形成することについての記載はない。 また非特許文献4には、渦鞭毛藻(C.cohnii)を培養することで液面上に浮遊することが記載されているが、液面上にバイオフィルムを形成することについての記載はない。米国特許出願公開第2009/0087889号明細書The Ecology of Cyanobacteria. Their Diversity in Time and Space, B.A. Whitton & M. Potts, Eds, Kluwer Academic (1999), pp. 160Oceanological Studies, 1998, 第 27 巻、第 1 号, 出版社: Index Copernicus p17Melis et al., J apply Phycol (2010)“Growth Inhibition of Dinoflagellate Algae in Shake Flasks: Not Due to Shear This Time”, Biotechnol. Prog., 2010, Vol. 26, No. 1, pages 79−87 本発明の目的は、上記従来技術の問題点を解決する性質を持った微細藻類、具体的には液面上にバイオフィルムを形成可能な微細藻類を提供することである。 また本発明の別の目的は、本発明に係る微細藻類により液面上に形成されたバイオフィルム、並びに該バイオフィルムから得られるバイオマス及びオイルを提供することである。 本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、ある種の微細藻類が液面上にバイオフィルムを形成しながら増殖することを見出した。また、このようにして形成されたバイオフィルムは、スライドガラスやプラスチックフィルムなどの基板を用いて容易に回収できることを見出した。更に、このようにして回収されたバイオフィルムからオイルを得ることができることを見出し、本発明に係るバイオフィルムがバイオマスとして有用であることを見出した。本発明はこれらの知見に基づいて完成したものであり、以下の構成を有する。 〔1〕 液面上にバイオフィルムを形成可能な、微細藻類。 〔2〕 18S rRNAの遺伝子領域をコードする塩基配列のうち、一部の領域の、ボツリオコッカス スデティクス(Botryococcus sudeticus)に相当する塩基配列との相同性が95.0%以上99.9%以下である、上記〔1〕に記載の微細藻類。 〔3〕 ボツリオコッカス スデティクス(Botryococcus sudeticus) AVFF007株(受託番号FERM BP−11420)である、上記〔1〕又は〔2〕に記載の微細藻類。 〔4〕 液面上の微細藻類の対数増殖期における増殖速度が、乾燥重量で5g/m2/day以上である、上記〔1〕〜〔3〕のいずれか1項に記載の微細藻類。 〔5〕 前記バイオフィルムの含水率が95質量%以下である、上記〔1〕〜〔4〕のいずれか1項に記載の微細藻類。 〔6〕 前記バイオフィルムの乾燥藻体あたりのオイル含有量が10質量%以上である、上記〔1〕〜〔5〕のいずれか1項に記載の微細藻類。 〔7〕 上記〔1〕〜〔6〕のいずれか1項に記載の微細藻類により液面上に形成されたバイオフィルム。 〔8〕 含水率が95質量%以下である、上記〔7〕に記載のバイオフィルム。 〔9〕 上記〔7〕又は〔8〕に記載のバイオフィルムから得られるバイオマス。 〔10〕 上記〔7〕又は〔8〕に記載のバイオフィルムから得られるオイル。 本発明に係る、液面上にバイオフィルムを形成可能な微細藻類によれば、液面上での培養が可能となり、従来の浮遊培養法と比較して、微細藻類の回収が極めて容易になる。即ち、本発明では、微細藻類を回収する段階では、微細藻類の集合体から構成されたバイオフィルムが液面上に浮かんでおり、そのバイオフィルムを回収対象としているため、従来のように大量の培地から微細藻類を回収する必要がなく、液面上のバイオフィルム及びバイオフィルムに含まれている水分のみを回収対象としているため、その回収効率を大幅に向上することができる。これにより、バイオマスの生産コストを大幅に低下できると考えられる。また、回収されたバイオフィルムの含水率は、従来法と比較して同等若しくは低いため、オイル抽出工程の中の藻体乾燥工程などのバイオマス抽出工程の効率が良くなる。C培地の組成である。CSi培地の組成である。AVFF007株の顕微鏡写真(倍率40倍)を示す図である。BLAST解析に使用したAVFF007株の塩基配列(配列番号1)である。微細藻類ボツリオコッカス スデティクス(Botryococcus sudeticus) AVFF007株の系統図である。液面浮遊培養の写真を示す図である。液面上に形成した、微細藻類から構成されたバイオフィルム(図7においてはフィルム状の構造物)を、ガラス基板を用いて回収している様子である。図7の液面上に形成したバイオフィルムを回収した後に、ガラス基板上に堆積したバイオフィルムの様子である。AVFF007株が液面上にフィルム状の構造物を形成する過程の顕微鏡写真を示す図である(左側:倍率4倍、右側:倍率40倍)。なお右側に記載の数値は、培養日数を示す。CSiFF04培地の組成である。実施例2で液面上に形成されたバイオフィルム(三次元状の構造物)の写真を示す図である。実施例2における液面浮遊培養日数と、各液面浮遊培養日数におけるバイオフィルムの乾燥藻体量との関係を示す図である。実施例2における液面浮遊培養日数と、各液面浮遊培養日数におけるバイオフィルムの最大高さ(cm)との関係を示す図である。実施例2における液面浮遊培養日数と、各液面浮遊培養日数におけるバイオフィルムの含水率との関係を示す図である。実施例4で形成したバイオフィルムから得られたオイル成分の分析結果である。 以下、本発明について詳細に説明する。[液面上にバイオフィルムを形成可能な微細藻類] 本発明は、液面上にバイオフィルムを形成可能な微細藻類に関する。 本発明における液面上にバイオフィルムを形成可能な微細藻類は、液面上においてバイオフィルム形成能を有するものである。 本発明で言う微細藻類とは、人の肉眼では、その個々の存在が識別できないような微小な藻類を指す。微細藻類の分類としては、液面上においてバイオフィルム形成能を有するものであれば特に制限はなく、原核生物及び真核生物のいずれであってもよい。 本発明で言うバイオフィルムとは、微生物から構成されているフィルム状の構造物又は後述する立体的な三次元状の構造物のことを言い、通常、岩やプラスチック表面に付着している微生物構造体(微生物集合体若しくは微生物膜)のことを言うが、本発明では、これらに加えて、液面のような流動性のある表面に対して、存在している微生物から構成されたフィルム状の構造物又は後述する立体的な三次元状の構造物のこともバイオフィルムというものとする。なお、一般的には、特に、自然界でのバイオフィルムには、微生物以外に、ゴミや植物の破片などを含んでいるが、本発明でもこれらを含んでいてもよいものとする。ただし、例えば、屋外の様なオープンな環境では、前記の目的微生物以外の混入の回避は不可能であるために、本発明では意図的にこれらを含ませた試料を対象としていない。しかし、微細藻類の回収の効率の観点から、バイオフィルムはゴミや植物の破片などの不純物を含まないことが好ましく、理想的には、本発明に係る微細藻類と該微細藻類の増殖時に分泌される細胞間マトリックスなどのような物質のみから構成されていることがより好ましい。また、本発明では、バイオフィルムは、個々の微細藻類同士が直接もしくは細胞間マトリックスのような物質を介して付着しあっている構造であることが好ましい。 本発明における液面上にバイオフィルムを形成可能な微細藻類は、微細藻類ボツリオコッカス スデティクス(Botryococcus sudeticus)が好ましい。本発明に係る微細藻類の18S rRNAの遺伝子領域をコードする塩基配列のうち、一部の領域の、ボツリオコッカス スデティクスに相当する塩基配列との相同性が95.0%以上99.9%以下であることがより好ましい。なお、ここで言う「一部の領域」とは、1000塩基配列以上の領域を意味する。相同性を試験するにあたっては、全塩基配列を用いての相同性の試験が最も信頼性が高いが、全塩基配列を決定することは極少数の生物種を除いて技術的にもコスト的にも困難であり、またボツリオコッカス スデティクスの塩基配列も特定の一部(具体的には、後述する比較対象としたAVFF007株の塩基配列に対応する塩基配列の近傍)しか公開されていない。更に、一般的には1000塩基配列程度読めば帰属は可能といわれている。以上のことから、本発明では「一部の領域」の塩基配列の比較により相同性を試験したが、その信頼性は十分に高いものと考えられる。 また本発明にかかる微細藻類は、液面上における増殖速度が大きいことが好ましく、具体的には、液面上の微細藻類の対数増殖期における増殖速度(すなわち、対数増殖期の期間における一日あたりの平均増殖速度)が、乾燥重量で0.1g/m2/day以上であることが好ましく、1g/m2/day以上であることがより好ましく、5g/m2/day以上であることが更に好ましく、10g/m2/day以上であることが最も好ましい。液面上の微細藻類の対数増殖期における増殖速度は、乾燥重量で一般的に1000g/m2/day以下である。 特に、液面上での培養及び液面からの回収性が良好であること、高い増殖速度を持つこと、オイルを高い含有率で含有していること、少なくとも培養中は臭いが殆どなく、有毒物質の発生も確認されていないことなどの観点から、本発明にかかる微細藻類は、微細藻類ボツリオコッカス スデティクス AVFF007株(以下、AVFF007株と略称する。)であることがより好ましい。 本明細書の実施例で使用した微細藻類、AVFF007株は、受託番号FERM BP−11420として、2011年(平成23年)9月28日付で独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(日本国茨城県つくば市東一丁目1番地1 中央第6)にブタベスト条約の下で国際寄託されている。 AVFF007株は、本発明者らが京都府の池から単離したボツリオコッカス属スデティクス種に属する淡水微細藻類の新規株である。 以下に、該微細藻類の単離方法(以下、純菌化ともいう)及び該微細藻類のAVFF007株を新規株と判定するに至った経緯を説明する。(微細藻類AVFF007株の純菌化) 京都府の池から自然淡水を5mLのホモジナイズ用チューブ(株式会社トミー精工、TM−655S)に入れることで採取した。図1に示すC培地と、図2に示すCSi培地との1:1混合(体積比)培地を1.9mL入れた24穴プレート(アズワン株式会社、微生物培養プレート1−8355−02)に、採取してきた自然淡水を100μL加え、プラントバイオシェルフ組織培養用(株式会社池田理化、AV152261−12−2)に設置し、4000ルクスの連続光照射下、23℃で培養を行った。約1ヵ月後、24穴プレートのウェル内に黄色い凝集物が生じたので、光学顕微鏡で観察したところ、多数の微生物の存在を確認した。 アガロース(inviterogen, UltraPureTM Agarose)を1g秤量し、200mLのC培地とCSi培地との1:1混合(体積比)培地を500mL三角フラスコに入れた。これを121℃で10分間オートクレーブ処理し、クリーンベンチ内でアズノールシャーレ(アズワン株式会社、1−8549−04)の中に、冷えて固まる前に約20mLずつ入れることで、アガロースゲルを作製した。 24穴プレート内の微細藻類を含む溶液を希釈し、ディスポスティック(アズワン株式会社、1−4633−12)のループ部分に溶液を付着させ、前記にて準備したアガロースゲル上に塗ることで、アガロースゲル上に微細藻類を塗布したシャーレを調製した。 このシャーレを、プラントバイオシェルフ組織培養用に設置し、4000ルクスの連続光照射下、23℃で培養を行った。約2週間後、緑色のコロニーが、アガロースゲル上に現れたので、滅菌竹串(アズワン株式会社、1−5980−01)を用いて、コロニーをその先端に付着させ、C培地とCSi培地との1:1混合(体積比)培地を2mL入れた24穴プレートのウェル内に懸濁させた。この様にして調製した微細藻類を含む24穴プレートをプラントバイオシェルフ組織培養用に設置し、4000ルクスの連続光照射下、23℃で培養を行った。約2週間後、ウェル内の水溶液が緑色を呈してくるので、すべてのウェルから少量の溶液を採取し、光学顕微鏡を用いて微細藻類を観察し、単一の微細藻類しか存在していないと考えられるウェルを見つけ出すことで、純菌化を行った。 なお、C培地及びCSi培地の組成は、図1及び図2に示す通りで、いずれも、900mLの蒸留水を121℃、10分間のオートクレーブ処理をし、10倍濃度のC培地又はCSi培地を100mL調製後、ポアサイズ0.45μmのフィルターで滅菌を行った溶液と混合することで調製した。 また、AVFF007株の40倍での顕微鏡写真を示す図を、図3に示した。(形態的性質)・分散処理を行った後にしばらく時間を置くと、底面にすべて沈む。・しばらく培養を行うと、液面上に浮くものが現れる。従って、底面に沈んでいるものと液面に浮いているものとに分かれる。さらに培養を継続すると、液面上にフィルム状の構造物が現れる。さらに培養を行うと、三次元状の構造物が現れる。・液面上に浮いているものの方が個々の微細藻類の直径は大きく、平均粒径は22.1μmであり、底面に沈んでいるものは、液面に浮いているものよりも小さく、平均粒径は7.8μmである。・液面のもの、及び、底面のもの、いずれも形態は球状であり、それぞれサイズは一定ではなく分布を持つ。・凝集性があり、巨大なコロニーを形成する・色は緑色であり、培養の進行に伴って、黄色く変色する。・培養中及び回収物の臭いはほとんどないが、生野菜のような臭いを感じることがある。回収物中から溶媒を除去したものは、硫黄のような臭いがする。(培養的性質)・淡水中で成育し、海水中での増殖は極端に遅くなる。海水が数%混入するだけでも増殖速度に影響を及ぼす。・細胞増殖時には、遊走子によって増殖する。1個の細胞から、遊走子は数個から十数個発生する。・光合成による光独立栄養培養が可能である。・増殖には、窒素、リン、カリウム、カルシウム、マグネシウム、イオウ、マンガン、鉄が必須である。他に、亜鉛、コバルト、モリブデン、ホウ素が入っていると好適に増殖する。ビタミン類の添加も増殖を促す。(生理学的性質)・生育温度は、37℃以下である。温度が高いほど増殖性は良い。・40℃ではほとんど増殖しないが、40℃環境下でも少なくとも数時間は耐える。・生育pHは、5以上9以下である。培地の種類に依存して、生育後のpHは8以上、例えばpHが10.5になる場合がある。・光や熱を与えると、カロテノイドを生成しやすくなる。・菌体内にオイルを蓄積し、乾燥重量比で15wt%から30wt%蓄積する。・液面に浮いている藻体は、底面に沈んでいる藻体よりもオイル含有量が高い。・オイルは、炭化水素化合物と脂肪酸が主成分。脂肪酸は、C16:0, C16:1, C18:1, C18:2が主である。炭化水素化合物は、C17, C21が主である。・Nile red染色したAVFF007株を蛍光顕微鏡で観察すると、蛍光視野中の藻体において、明るい蛍光発色の領域としてNile redで発色したオイルの存在が確認される。該オイルは藻体細胞内の広い領域に蓄積されうる。・スライドガラス上にAVFF007株を含む培養液を滴下し、カバーガラスをかけて顕微鏡下観察すると、AVFF007株からオイル状の油滴が放出される。・液面に浮いている藻体は、底面に沈んでいる藻体よりも比重が軽いが、水よりも重い。・光量は、200〜800μmol/m2/sが好適に増殖できる光量であるが、40μmol/m2/s程度でも、1500μmol/m2/s程度でも好適光量の半分程度の増殖速度で増殖は可能である。 更に以下の方法に従って、AVFF007株の同定を行った。(微細藻類AVFF007株の同定) AVFF007株の培養法は、100mL容量の三角フラスコに50mLのCSi培地を導入し、1000×104個/mLのAVFF007株溶液を0.5mL添加し、25℃、光照射下で振盪培養を14日間行った。 AVFF007株の乾燥粉末を得るために、前記によって得られたAVFF007株を含む培地40mLを遠心機(MX−300(トミー精工製)を用いて、6000×g、4℃下、10分間遠心操作を行った。上清を除去した後、固形物を容器ごと液体窒素を使用して凍結し、これを予め液体窒素によって冷やしておいた乳鉢に全量移し、予め液体窒素にて冷やしておいた乳棒を用いて粉砕した。 微細藻類からのDNAの抽出は、DNeasy Plant Mini Kit (Qiagen製) を用いて、記載されているマニュアルに従って抽出を行った。抽出後のDNAは、e−spect (malcom製)を用いて、純度、量を測定した。抽出後のDNAは、精製度の指標であるA260nm/A280nm=1.8以上を達成しており、約5ng/μLのDNAが取得されたことを確認した。 抽出後のDNAの純度は問題なかったことから、超純水を用いて104倍に希釈することで、PCR用の試料を準備した。PCR用の試料としては、18S rRNAの遺伝子領域(rDNA領域)を使用した。PCRは、GeneAmp PCR System 9700 (Applied Biosystems製)を用いて、98℃10秒間、60℃50秒間、72℃10秒間のサイクルを30回行った。なお、使用した酵素は、Prime Star Max (タカラバイオ製)である。得られたPCR産物は1 %アガロース電気泳動により、単一バンドであることを確認した。 PCR生成物の精製は、PCR purification kit (Qiagen製)を用いて行った。方法は、マニュアルに記載の方法に従って行った。PCR反応が十分にできたかどうか、また、精製度を確認するために、e−spectを用いて、純度、量を測定し、A260nm/A280nm=1.8以上であったことから、問題ないと判断した。 次に、精製物を鋳型とし、BigDye Terminator v3.1 Cycle Sequencing kit (Applied Biosystems製)を用いて、サイクルシークエンスを行った。条件は、マニュアルに従った。得られた反応物をABI PRISM 3100−Avant Genetic Analyzer(Applied Biosystems製)を用いて、塩基配列の解読を行った。 これをBLAST(Basic Local Alignment Search Tool)による相同解析を行った。方法は、国立生物工学情報センター(National Center for Biotechnology Information、NCBI)のデータ上の全塩基配列情報に対し、上記配列をBLAST検索し、最も相同性の高い生物種をAVFF007株の近縁種とした。比較対象とした塩基配列(1111塩基、配列番号1)についてのみ、図4に示した。具体的には、解読した塩基配列の両端の数塩基は、BLAST解析によって比較対象とされなかったので、図4には示さなかった。なお、図4に示した塩基配列の左上が5’末端であり、右下が3’末端である。 相同解析の結果、Botryococcus sp. UTEX2629株と、Botryococcus sp. UTEX2629株側の1118塩基中、AVFF007株側の1109塩基に相同性(すなわち、99%の相同性)があった。従って、AVFF007株は、Botryococcus sp. UTEX2629株に近縁の微細藻類であると分類した。 以上の解析の結果得られた系統図を図5に示す。AVFF007株は、Characiopodium sp. Mary 9/21 T−3wとも近縁の微生物であり、AVFF007株は、今後、Characiopodium 属に名称が変更される可能性もあり、本発明では、ボツリオコッカス スデティクスの名称が変更された場合には、AVFF007株も同様に名称が変更されるものとする。また、Characiopodium属以外の名称に変更された場合にも同様の処置が行えるものとする。(微細藻類AVFF007株の密度測定) 10mM エチレンジアミン四酢酸(EDTA, Ethylenediamine−N,N,N’,N’−tetraacetic acid)、5mM HEPES(4−(2−hydroxyethyl)−1−piperazineethanesulfonic acid) KOH (pH 7.5)の溶液に塩化セシウムを溶解させることで、塩化セシウム濃度10%ごとに塩化セシウム濃度が35〜105% (w/v)の溶液を調製し、Polyallomer tube (日立工機製)内にtube先端部から液面部に向かって濃度が薄くなるように濃度勾配を作成した。 このチューブの上面に5×106個/mLのAVFF007株をアプライし、遠心機を用いて、20000×g、4℃、30分間の遠心処理を行った。 液面上に浮遊している藻体の細胞密度は1.26 g/mLであり、非特許化文献3に記載のBotryococcus sp. UTEX−2629株の細胞密度、1.34 g/mLよりも軽かった。 以上から、密度の観点からもBotryococcus sp. UTEX−2629株と完全に同一のものではなく、Botryococcus sp. UTEX−2629株に近い微細藻類であると判断した。 更に、Botryococcus sp. UTEX−2629株と近縁の微細藻類であることは、非特許化文献3の図3と、図3に示したAVFF007株の顕微鏡写真を示す図とを見比べると、それらがほぼ同一の形態であることからもわかる。[液面上でのバイオフィルムの形成方法] 本発明の微細藻類を、少なくとも液面浮遊培養することにより、液面上にバイオフィルムを形成することができる。 本発明では、液面上で微細藻類を培養する培養方法のことを液面浮遊培養と言う。すなわち、微細藻類を液中又は液の底面でのみ培養する培養方法は液面浮遊培養には含まれない。 なお本発明における液面とは、典型的には後述する液体培地の液面であり、通常、液体培地と空気との界面である。 本発明において、液面浮遊培養を行うと共に、浮遊培養及び付着培養のいずれか一方又は両方を同時に行うことができる。 本発明では、微細藻類を液中(具体的には後述の液体培地中)に分散させた状態で培養することを浮遊培養と呼んでいる。 本発明で言う付着培養とは、基板上、又は培養容器の底面もしくは側面に微細藻類が付着した状態で培養することを言うものとする。 なお、微細藻類の付着を促進させるために、異なる培地組成からなる培地を用いて、一旦基板上に付着させても良いものとする。例えば、微細藻類の付着を促進させることがあるカルシウムを添加した培地を使用することができる。カルシウムが微細藻類、特に、珪藻の付着に関与することは、例えば、Plant. Physiol. (1980) 65, 129−131.に記載されている。 以上のように、本発明では微細藻類を培養する液体培地中の場所に従って、上述のように培養方法の名称を区別したが、上述のようにこれらは同時に行うことが可能である。すなわち、例えば、微細藻類を液面上で培養すると同時に液中に分散させた状態でも培養している場合には、液面浮遊培養と浮遊培養とを同時に行っていると言う。 液面浮遊培養、浮遊培養及び付着培養により本発明の微細藻類を培養する工程としては、例えば、ボツリオコッカス属に属する微細藻類を培養できる公知の方法が適用できる。例えば、液体培地を入れた三角フラスコ等の培養容器に微細藻類を接種して、静置しながら光照射下で通気培養すればよい。 次に、液面浮遊培養、浮遊培養及び付着培養で使用できる液体培地について説明する。(液体培地) 本発明では、微細藻類を培養できる限り、公知のいかなる液体培地も使用することが可能である。なお、液体培地は、培養する微細藻類の種類に応じて選択することが望ましい。例えば、前述のAVFF007株は淡水で生育するため、液体培地は淡水性であることが好ましい。このような淡水性の液体培地として、上述のC培地、CSi培地等を挙げることができる。その他に、窒素、リン、カリウム、カルシウム、マグネシウム、イオウ、マンガン、鉄を含む培地を好適に用いることができる。 液体培地は、紫外線滅菌、オートクレーブ滅菌、フィルター滅菌しても良く、しなくても良い。(培養容器) 本発明に用いることのできる培養容器の形状は、微細藻類の懸濁溶液を保持できる限りにおいて、公知のいかなる形態の培養容器でも用いることができる。例えば、円柱状、方形状、球状、板状、チューブ状、プラスチックバッグなどの不定形状のものを使用することができる。また、本発明で使用可能な培養容器は、オープンポンド(開放池)型、レースウェイ型、チューブ型(J. Biotechnol., 92, 113, 2001)など様々な公知の方式を用いることができる。培養容器として使用することの可能な形態は、例えば、Journal of Biotechnology 70 (1999) 313−321, Eng. Life Sci. 9, 165−177 (2009). に記載の培養容器をあげることができる。 本発明で使用可能な培養容器は、開放型、閉鎖型のいずれも使用することができるが、培養目的以外の微生物やゴミの混入防止、培地の蒸発抑制、風による液面上のバイオフィルムの破壊や移動の防止、大気中の二酸化炭素濃度以上の二酸化炭素を使用した際の、培養容器外への二酸化炭素の拡散を防ぐために、閉鎖型の培養容器の方が好適に用いることができる。[二酸化炭素] 本発明では、培地中に意図的に二酸化炭素を供給する手段を用いずに培養する方が好ましい。すなわち、培地中への二酸化炭素を含む気体をバブリングによって供給する方法は用いない方が良い。これは、液面上の微細藻類からなるバイオフィルム(フィルム状の構造物もしくは三次元状の構造物)が、バブリングにより破壊されるのを防ぐためである。ただし、破壊が部分的である場合には、バブリングによって二酸化炭素を供給しても良いものとする。また、バブリングによって、液面上に微細藻類を浮かせる方法が、特開2001−340847、特開2007−160178、特開昭62−213892、特開平1−131711などで公開されているが、この方法によって液面上に微細藻類を強制的に浮かせると共に、二酸化炭素を供給する手段を採用しても良いものとする。 本発明では、意図的に二酸化炭素を培地内へと供給する手段を用いない方が好ましいとしているが、気相中の二酸化炭素が液面上の微細藻類もしくは微細藻類の存在していない領域を経由して、培地内へと二酸化炭素が供給される場合は、前記の手段に相当しないものとする。なお、液面上に微細藻類から構成されたフィルム状の構造物が形成される前は、培地の液面と二酸化炭素を含む気体とが直接接触している部分が多く存在しているが、この場合には、液面を介して二酸化炭素が培地中へと溶解するが、これは意図的に二酸化炭素を供給していると言わないものとする。また、液面上にフィルム状の構造物もしくは三次元状の構造物が形成された後でも、フィルム状の構造物もしくは三次元状の構造物を経由して、二酸化炭素が培地中に溶解するが、この場合も意図的に二酸化炭素を培地中へと供給していないものとする。 本発明では、大気中の二酸化炭素を使用することが、コスト面で有利であることから望ましいが、大気中濃度よりも高い濃度の二酸化炭素の利用も可能である。この場合には、拡散による二酸化炭素の損失を防ぐために、閉鎖型の培養容器で培養することが望ましい。この場合における気相中の二酸化炭素の濃度は本発明の効果が達成できる限り特に限定されないが、好ましくは大気中の二酸化炭素濃度以上、20体積%未満であり、より好ましくは0.1〜15体積%であり、0.1〜10体積%が最も好ましい。大気中の二酸化炭素濃度は、一般に0.04体積%程度と言われている。(光源及び光量) 前記光照射において用いることのできる光源は、いかなる光源も用いることができるが、太陽光、LED光、蛍光燈、白熱球、キセノンランプ光、ハロゲンランプなどを用いることができ、この中でも、自然エネルギーである太陽光、発光効率の良いLED、簡便に使用することのできる蛍光燈を用いることが好ましい。 光量は、100ルクス以上100万ルクス以下であることが好ましく、300ルクス以上50万ルクス以下が更に好ましい。最も好ましい光量は、1000ルクス以上20万ルクス以下である。光量は、多ければ多いほど微細藻類の増殖速度が向上するため好ましいが、1000ルクス以上であると、微細藻類の成長速度が充分に速く、20万ルクス以下であると、光障害の発生が抑えられ、微細藻類の増殖速度が減少したり、死滅する割合の増加を充分に抑えることができる。 光は、連続照射、及び、ある一定の時間間隔で照射、非照射を繰り返す方法のいずれでもかまわないが、自然の状態に近いことから、12時間間隔で光をON、OFFすることが好ましい。なお、実験の結果から、液面浮遊培養は、培養開始直後は、連続照射が、培養中期から培養後期には、12時間間隔で光をON、OFF照射することが好ましい。 光の波長は、特に制限を設けないが、光合成が行える波長であれば、どの様な波長でも用いることができる。好ましい波長は、太陽光もしくは太陽光に類似の波長であるが、単一の波長を照射することで光合成生物の育成速度が向上する例も報告されており、本発明でもこの様な照射方法を用いることが好ましい。一方でコストの観点では、単一の波長の光を用いた照射よりも、波長を制御しない光を用いた照射がコスト的に有利であり、太陽光を用いるのがコストの観点では最も有利である。(その他培養条件) 微細藻類を培養する液体培地(培養溶液)のpHは2以上11以下の範囲内であることが好ましく、5以上9以下の範囲内であることがより好ましく、5以上7以下の範囲内であることが特に好ましい。培養溶液のpHをこの範囲内とすることにより、微細藻類の増殖速度を好適に増加させることができる。なお、液体培地のpHとは、培養開始時のpHのことである。また、培養開始直後と培養開始後のpHは、微細藻類の増殖に伴って変化する場合があることから、培養開始直後の液体培地のpHは、微細藻類の回収時のpHと異なっていても良いものと本発明ではしている。 培養温度は、0℃以上90℃以下であることが好ましい。より好ましくは、15℃以上50℃以下であり、特に好ましくは、20℃以上40℃未満である。培養温度が20℃以上40℃未満であると、微細藻類の増殖速度が十分速く、特に、37℃での培養が最も増殖速度が速い。 微細藻類の下限初期藻体濃度は、培養溶液中に藻体が1個あれば、時間をかけさえすれば増殖は可能であるため、その制限は特に設けないが、好ましくは1個/mL以上であり、より好ましくは1000個/mL以上であり、更に好ましくは1×104個/mL以上である。微細藻類の上限初期藻体濃度は、どの様な高濃度でも増殖が可能であるため、その制限は特に設けないが、ある濃度以上であると藻体濃度が高ければ高いほど、投入藻体数と増殖後の藻体数の比が低下することから、10000×104個/mL以下が好ましく、1000×104個/mL以下がより好ましく、500×104個/mL以下が更に好ましい。 培養の期間としては、当該微細藻類が生育する限り培養を継続することができ、通常、1〜100日間で行うことが好ましく、7〜50日間で行うことがより好ましく、10〜30日間で行うことが更に好ましい。[液面上に形成されたバイオフィルム] 本発明は、本発明の微細藻類により液面上に形成されたバイオフィルムに関する。 バイオフィルムとは、通常、フィルム状の構造物であり、微細藻類がお互いにつながりあうことで、フィルム状の構造を形成している状態のことを言う。微細藻類がお互いにつながりあうためには、例えば、微細藻類から細胞間マトリックスなどのような物質(例えば、多糖等)を放出し、それらの化学的な作用によって、微細藻類同士を結び付けている。すなわち、弱い水流の動き程度ではお互いが離れない程度に結合している状態のことを言う。一般的には、この様なフィルム状の構造物のことを生物膜などと表記される場合も多い。 本発明に係るバイオフィルムは、微細藻類AVFF007株により形成された、フィルム状の構造物又は後述する立体的な三次元状の構造物であることが好ましい。 本発明に係るバイオフィルムは、培養容器全面に渡って、微細藻類凝集物の切れ目がない均一なフィルム状の構造物であっても良いが、そのようなフィルム状の構造物の一部が気泡状に盛り上がり形成された立体的な三次元状の構造物であっても良い。また、このような立体的な三次元状の構造物の一部が、更に気泡状に盛り上がり形成された複雑な構造物であっても良い。フィルム状構造物の一部が気泡状に盛り上がる現象は、微細藻類の増殖の進行に伴って観察される。なお気泡状に盛り上がる現象は、微細藻類の増殖の際にCO2を固定することによって排出された酸素によるものと推定される。また、三次元状の構造物を形成した場合、光源に近い部位に微細藻類が多く存在している構造であっても良い。 気泡状に盛り上がり形成された立体的な三次元状の構造物は、培養容器内に多数あっても良く、それぞれのサイズは異なっていても良い。 三次元状の構造物が発達するほど、微細藻類の存在箇所が液面から離れるようになり、かつ、光源に近くなる。このことは、液面からの水分の供給が減少し、かつ、光照射による熱の拡散がしにくくなり、その結果、液面から離れた箇所に存在する微細藻類ほど含水率が低下する。含水率の低下は、回収工程後のオイル抽出工程を行う際の脱水工程の簡略化を可能とし、微細藻類を用いたバイオマス生産のコスト削減に対して有利である。また、一般的には、回収工程の際に、遠心分離機を用いて、微細藻類の含水率を下げる処理を行うが、本発明の培養方法による回収法では、遠心分離機により得られた微細藻類の含水率よりも低い含水率にすることも可能である。 また、微細藻類の増殖の進行に伴って、フィルム状の構造物には、しわ状の構造が表れることがあるが、フィルム状の構造物はこの様な構造を伴っていても良い。 更に、微細藻類の増殖の進行に伴って、フィルム状の構造物又は立体的な三次元状の構造物には、ひだ状又はカーテン状の構造を培地中に形成することがあるが、フィルム状の構造物又は立体的な三次元状の構造物はこの様な構造を伴っていても良い。 以上のように、フィルム状の構造物又は立体的な三次元状の構造物は、しわ状、ひだ状、カーテン状の構造を伴っても良く、或いは、フィルム状の構造物は気泡状の構造を伴って形成される立体的な三次元状の構造物となっても良く、その様な構造を伴うことによって、単位面積あたりの藻体量が増加する点から好ましい。 フィルム状の構造物の面積は、液面上に存在しているフィルム状の構造物の断片が、基板を用いて回収を行う際に、基板から液面を介して逃げない程度の面積であることが好ましく、培養容器全面に渡って、フィルム状の構造物の切れ目がないことがより好ましい。例えば、この様な面積として、1cm2以上をあげることができ、好ましくは10cm2以上である。最も好ましくは、100cm2以上である。この様な面積の上限は培養容器の液面の面積以下であれば特に限定されない。 フィルム状の構造物の厚さは、通常、1μm〜10000μmの範囲であり、1μm〜1000μmの範囲であることが好ましく、10μm〜1000μmの範囲であることがより好ましい。 本発明に係るバイオフィルムが、フィルム状の構造物の一部又は複数の部分において気泡状に盛り上がり形成された立体的な三次元状の構造物である場合、培地の液面を基準とした該三次元状の構造物の高さは通常、0.01mm〜100mmの範囲であり、0.1mm〜20mmの範囲であることが好ましく、5mm〜20mmの範囲であることがより好ましい。 本発明に係るバイオフィルムの単位面積あたりの乾燥藻体重量は、0.001mg/cm2以上であることが好ましく、0.1mg/cm2以上であることがより好ましく、1mg/cm2以上であることが特に好ましい。最も好ましくは、5mg/cm2以上である。単位面積あたりの乾燥藻体重量が大きい方が、採取されるオイルなどのバイオマスの量が大きくなることが見込まれるからである。バイオフィルムの単位面積あたりの乾燥藻体重量は通常100mg/cm2以下である。 また本発明に係るバイオフィルム中の微細藻類の、単位面積当りの膜密度は、10万個/cm2以上であることが好ましく、100万個/cm2以上であることがより好ましく、1000万個/cm2以上であることが特に好ましい。バイオフィルム中の微細藻類の、単位面積当りの膜密度が10万個/cm2未満では、液面上にバイオフィルムの形成が確認できず、微細藻類の回収性が悪くなる。一方、バイオフィルム中の微細藻類の、単位面積当りの膜密度が1000万個/cm2以上であれば、膜密度が高く、強固なバイオフィルムが液面上に形成され、回収性が向上する。バイオフィルム中の微細藻類の、単位面積当りの膜密度の上限値は、多ければ多いほど好ましいため特に限定されないが、通常、100億個/cm2以下である。 本発明に係るバイオフィルムは、水分を除去する工程の省力化とコストダウンの観点から、含水率が低いことが好ましい。具体的には、バイオフィルムの含水率は95質量%以下であることが好ましく、90質量%以下であることがより好ましく、80質量%以下であることが特に好ましく、70質量%以下が最も好ましい。バイオフィルムの含水率は通常50質量%以上である。なお、含水率は、乾燥前の藻体の重量から乾燥後の藻体の重量を差し引いた値に対して、乾燥前の藻体の重量で割って、100を掛けたものである。 また本発明に係るバイオフィルムは、バイオマスとしての有用性の観点から、オイル含有量が高いことが好ましい。具体的には、バイオフィルムの乾燥藻体あたりのオイル含有量が5質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましく、15質量%以上であることが特に好ましい。バイオフィルムの乾燥藻体あたりのオイル含有量は通常80質量%以下である。 また本発明の微細藻類としては、上記の構造や、上記範囲の面積、厚さ、単位面積あたりの乾燥藻体重量、含水率、オイル含有量を有するバイオフィルムを液面上に形成可能な微細藻類であることが、上記と同様の理由で好ましい。(液面上に形成されたバイオフィルムの回収) 本発明において、液面上に形成されたバイオフィルム(微細藻類から構成されたフィルム状の構造物、又は、該フィルム状の構造物の一部又は複数の部分において気泡状に盛り上がり形成された立体的な三次元状の構造物)は、基板を用いて容易に回収することができる。 具体的には、上述のように本発明において液面上に形成されたバイオフィルムは、微細藻類が細胞間マトリックスなどのような物質を介して化学的な作用により結びついており、弱い水流の動き程度ではお互いが離れない程度に結合しているので、基板にバイオフィルムを堆積させることで容易に回収することができる。 以上で説明した、液面浮遊培養からバイオフィルムの回収までを、図面を用いて説明する。 図6は、液面浮遊培養を行っている写真を示す図である。図6に示される様に、液面上に微細藻類から構成されたバイオフィルム(図6においてはフィルム状の構造物)を形成することが、本発明の微細藻類の特徴である。 図7は、液面上にバイオフィルム(図の例においてはフィルム状の構造物)を形成させた後に、液面上に浮いている微細藻類から構成されたフィルム状の構造物を、ガラス基板(スライドガラス(76×26mm))を用いて回収している様子である。液面上のバイオフィルムに対して、ガラス基板の長辺を斜めに挿入し、そのまま左方向へと進めると共に、ガラス基板上に液面上の藻を堆積させることによって、バイオフィルムを回収した。なお図7では、図の右側から左側にガラス基板を移動させているが、基板の移動方向は逆(すなわち、左側から右側へのガラス基板の移動)でも良いし、複数回回収しても良い。複数回回収する場合には、バイオフィルムを付着させたままの基板を用いても良いし、基板上のバイオフィルムを基板上から一旦除去した後の基板を用いても良いし、新しい基板を用いても良い。また、図7では1枚の基板しか記していないが、複数枚の基板を同時に用いても良い。また、基板の角度や大きさ、速度などは目的に応じて自由に設定することができる。 液面上のバイオフィルムを回収するタイミングであるが、培養容器内の液面がバイオフィルムで部分的に覆われている状態で回収することも可能であるが、微細藻類の藻体量が多いことから、培養容器内の液面が全てバイオフィルムで覆われてから回収することが好ましい。また、バイオフィルムが液面を全て覆いつくした後に、しばらく培養を継続してから回収を行っても良い。 基板によるバイオフィルムの回収の際には、基板は培養容器内の液面の辺とほぼ同一の長さであることが好ましい。これは、基板が該辺よりも短いと、回収量が低下すること、及び、基板と培養容器の壁との間を通って、液面上の微細藻類が回収対象からはずれたり、回収された基板上の微細藻類が基板の進行方向とは反対の側に移動したりしてしまうからである。また、基板は、培養容器の短辺と同じ長さであることが好ましい。 図8は、ガラス基板上に回収後のバイオフィルムが折り重なったように堆積している様子を示している。 基板の形状は、フィルム状、板状、繊維状、多孔質状、凸状、波状などいかなる形状のものでも良いが、バイオフィルムの堆積などのしやすさ、および基板からの微細藻類の回収のしやすさから、フィルム状又は板状であることが好ましい。 また、基板としては、ガラス基板としてのスライドガラスの他に、ナイロンフィルム等の他の基板も用いることができる。また、基板のサイズは、培養容器のサイズに応じて適宜変更できる。 基板からのバイオフィルムの回収は、バイオフィルムを基板から剥離させることが可能な方法であればいかなる公知の方法を使用することもできる。例えば、重力による方法、セルスクレーパーのようなものを用いて基板からバイオフィルムを剥ぎ取る方法、水流を用いる方法、超音波を用いる方法などをあげることができるが、重力による自然落下を利用した方法、もしくは、セルスクレーパーのようなものを用いる方法が好ましい。これらの方法では、バイオフィルムを溶媒や液体培地などで薄めることがなく、効率的であるからである。また、重力による自然落下を用いてバイオフィルムを回収した後に、更にセルスクレーパーのようなものを用いて、基板上に残存している藻類を回収することもできる。(素材) 本発明で使用可能な培養容器、基板の素材は、特に限定することはなく、公知のものを使用することができる。例えば、有機高分子化合物や無機化合物、それらの複合体から構成された素材を使用することができる。また、それらの混合物を用いることも可能である。 有機高分子化合物としては、ポリエチレン誘導体、ポリ塩化ビニル誘導体、ポリエステル誘導体、ポリアミド誘導体、ポリスチレン誘導体、ポリプロピレン誘導体、ポリアクリル誘導体、ポリエチレンテレフタレート誘導体、ポリブチレンテレフタレート誘導体、ナイロン誘導体、ポリエチレンナフタレート誘導体、ポリカーボネート誘導体、ポリ塩化ビニリデン誘導体、ポリアクリロニトリル誘導体、ポリビニルアルコール誘導体、ポリエーテルスルホン誘導体、ポリアリレート誘導体、アリルジグリコールカーボネート誘導体、エチレン−酢酸ビニル共重合体誘導体、フッ素樹脂誘導体、ポリ乳酸誘導体、アクリル樹脂誘導体、エチレン−ビニルアルコール共重合体、エチレン−メタクリル酸共重合体等などを用いることができる。 無機化合物としては、ガラス、セラミックス、コンクリートなどを用いることができる。 金属化合物としては、鉄、アルミニウム、銅やステンレスなどの合金を用いることができる。 上記の中でも、基板、若しくは培養容器の素材の一部は、ガラス、ポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロン、ポリスチレン、塩化ビニル、ポリエステルの中から選ばれる少なくとも一つから構成されていることが好ましい。 また、培養容器、基板の素材が同一であっても良く、異なっていても良い。 また、閉鎖型の培養容器を用いる場合には、受光面は、光が透過する素材である方が良く、透明材料であれば更に良い。[バイオマス及びオイル] 本発明は、本発明の微細藻類により液面上に形成されたバイオフィルムから得られるバイオマス及びオイルにも関する。 本発明において、「バイオマス」とは、化石資源を除いた再生可能な生物由来の有機性資源をいい、例えば、生物由来の物質、食料、資材、燃料、資源などが挙げられる。 本発明において、「オイル」とは、可燃性の流動性物質のことであり、主として、炭素、水素から構成された化合物のことであり、場合によっては、酸素、窒素などを含む物質のことである。オイルは、一般的に混合物であり、ヘキサンやアセトンなどの低極性溶媒を用いて抽出される物質である。その組成は、炭化水素化合物や脂肪酸、トリグリセリドなどから構成されている。また、エステル化して、バイオディーゼルとして使用するものもある。 本発明に係るバイオフィルムに含まれるバイオマス及びオイルを採取する方法としては、本発明の効果を損なうものでなければ特に制限されない。 バイオマスの一例であるオイルの一般的な回収方法は、バイオフィルムを加熱乾燥させて、乾燥藻体を得た後、必要に応じて細胞破砕を行い、有機溶媒を用いてオイルを抽出する。抽出されたオイルは、一般的に、クロロフィルなどの不純物を含むため、精製を行う必要がある。精製は、シリカゲルカラムクロマトグラフィーによるもの、蒸留(例えば、特表2010−539300に記載の蒸留方法)によるものなどがある。 また、高濃度の微細藻類の溶液を調製した後、超音波処理によって微細藻類を破砕したり、プロテアーゼや酵素などによって微細藻類を破砕したりした後、有機溶媒を用いて藻体内のオイルを抽出する方法もある(例えば、特表2010−530741に記載の方法)。[乾燥藻体] 本発明における乾燥藻体は、本発明にかかるバイオフィルムを乾燥させたものである。 当該バイオフィルムを乾燥させる方法としては、バイオフィルム中の水分を除去できる方法であれば特に制限されない。例えば、バイオフィルムを天日干しにする方法、バイオフィルムを加熱乾燥させる方法、バイオフィルムを凍結乾燥(フリーズドライ)する方法、バイオフィルムに乾燥空気を吹き付ける方法等が挙げられる。これらのうち、バイオフィルムに含まれる成分の分解を抑制できる観点からは、凍結乾燥する乾燥方法が、短時間で効率的に乾燥できる観点からは、加熱乾燥する方法が好ましい。 以下の実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例によって限定されるものではない。[実施例1]<AVFF007株による液面上でのバイオフィルム(フィルム状の構造物)の形成> 純菌化を行ったAVFF007株を含む溶液全量を5mLのホモジナイズ用チューブ(株式会社トミー精工、TM−655S)に入れ、ビーズ式細胞破砕装置(MS−100、トミー精工株式会社)にセットし、4200rpmで20秒間のホモジナイズ処理を3回行うことで、AVFF007株の懸濁溶液を得た。 この溶液を40mLのCSi培地を入れた三角フラスコに全量入れ、5%CO2雰囲気下のデシケーター中で静置培養(以下、前培養とも言う)した。なお、培養は、温度23℃、光量2000ルクスで行った。 前記の三角フラスコから微細藻類を含む溶液を採取し、5mLのホモジナイズ用チューブに入れ、ビーズ式細胞破砕装置にセットし、4200rpmで20秒間のホモジナイズ処理を3回行った。なお、ここでは細胞破砕用ビーズは使用していない。 この溶液から50μLの微細藻類懸濁液を採取し、予めCSi培地を950μL添加しておいたホモジナイズ用マイクロチューブの中に入れ、ビーズ式細胞破砕装置にセットし、5500rpmで20秒間のホモジナイズ処理を行った。なお、ここでも細胞破砕用ビーズは使用していない。この溶液を約10μL採取し、血球計数板上でカウントしたところ、5mLホモジナイズ用チューブ内の藻体濃度が695×104個/mLであった。 50mL遠沈管(MS−57500, 住友ベークライト株式会社)にCSi培地を50mL入れ、前記5mLチューブ内の微細藻類懸濁液を720μL添加し、これを良く攪拌させた後、6穴プレートに8mLずつ添加した。 培養は、プラントバイオシェルフ組織培養用(株式会社池田理化、AV152261−12−2)を用いて行い、前記6穴プレートを真空デシケーター(アズワン株式会社、1−070−01)内に設置することで行った。4000ルクス、室温(23℃)、光照射ONとOFFとを12時間毎に切り替える条件下で、静置培養を行った。また、真空デシケーター内のCO2濃度は、10%である。 液面浮遊培養途中で6穴プレートを真空デシケーターから取り出し、光学顕微鏡を用いて液面上を直接観察した。観察結果を図9に示した。図9の左側が光学顕微鏡の倍率4倍で観察した結果であり、図9の右側が光学顕微鏡の倍率40倍で観察した結果である。液面浮遊培養1日目までは、液面上にAVFF007株はほとんど存在しておらず、培養2日目で若干存在しだし、培養6日目では、顕微鏡で見る限りは液面上をほぼAVFF007株が覆い尽くしていた。培養7日目には、目視でしっかりとしたフィルム状の構造物が液面上に形成されているのを確認することができ、培養12日目には、液面上のAVFF007株は増殖のための表面積を稼ぐために、しわがよったような状態にまで増殖した。 以上の結果から明らかのように、本発明の微細藻類であるAVFF007株は液面上にバイオフィルムを形成可能である。[比較例1]<NIES−2199株による培養> 国立環境研究所から購入したNIES−2199株を用いて、以下の方法により培養を行った。なお、国立環境研究所の資料によると、NIES−2199株は、Botryococcus braunii Kutzingである。 NIES−2199株は、コンタミ微生物を含んでいることが記載されているため、C培地を含むアガロースゲル上でNIES−2199株の培養を行い、増殖してきたコロニーを、予め2mLのC培地を入れた24穴プレート中の1ウェルに播種することで、純菌化および前培養を行った。 これをプラントバイオシェルフ組織培養用に設置し、4000ルクス、室温、光照射ONとOFFとを12時間毎に切り替える条件下で、20日間静置培養を行った。しかし、NIES−2199株は培地の底面に沈んだままであり、液面上には浮かなかった。[実施例2]<AVFF007株による液面上でのバイオフィルム(フィルム状の構造物の一部又は複数の部分において気泡状に盛り上がり形成された立体的な三次元状の構造物)の形成> 実施例1と同様の方法で微細藻類AVFF007株の前培養を28日間行った。前培養後、液面上のAVFF007株を回収し、ホモジナイズ用5mLチューブの中に全量入れることで、3mLのAVFF007株の懸濁溶液を調製した。調製したAVFF007株の懸濁溶液の藻体濃度を、実施例1と同様にカウントしたところ、32389×104個/mLであった。 500mLガラス製三角フラスコに図10に示すCSiFF04培地を350mL、前記藻類AVFF007株の懸濁溶液を540μL添加することで、AVFF007株の濃度が50×104個/mLの溶液を調製した。 この溶液をPS製ケース28型(アズワン株式会社、素材はポリスチレン)のそれぞれの容器に40mL(水深1.5cm)ずつ入れたものを3個準備した。真空デシケーターの中に、すべてのPS製ケース28型のフタをしない状態で入れ、5%CO2雰囲気下にして、真空デシケーターの扉を閉めた。なお、二酸化炭素は、評価日ごとに新たに調製した。 これをプラントバイオシェルフに設置し、15000ルクス、23℃、光照射ONとOFFとを12時間毎に切り替える条件下、静置培養による液面浮遊培養を行った。 4、7、10日間の液面浮遊培養後、図7について説明した方法と同様の方法で、液面上のバイオフィルムを回収し、バイオフィルムを加熱乾燥することで乾燥重量を測定した。なお、14日間の液面浮遊培養後における、液面上のバイオフィルムは、図11に示した様に、気泡状に盛り上がり形成された立体的な構造物が重なり合い、三次元状の構造物を形成していた。また、液面から離れた位置の微細藻類は、乾燥している様に思われ、更に、黄色から薄茶色に変色していた。ボツリオコッカスなどのオイル蓄積藻類は、オイルを蓄積すると緑色から茶色や黄色、赤色などに着色することが知られており、これらのことから、上記バイオフィルム中のAVFF007株はオイルを蓄積していると考えられた。 液面浮遊培養日数と、各液面浮遊培養日数におけるバイオフィルムの乾燥藻体量との関係を図12に示した。液面浮遊培養開始から10日後には、乾燥藻体重量は12.6mg/cm2に達していた。液面浮遊培養開始から10日目の間では、13g/m2/day、4日目から10日目の間では、20g/m2/day、7日目から10日目の間では、32g/m2/dayの増殖速度に達していた。なお図12から明らかのように、実施例2における液面上のAVFF007株の対数増殖期は4日目から10日目の間である。 また、液面浮遊培養日数と、各液面浮遊培養日数におけるバイオフィルムの最大高さ(cm)との関係を図13に示した。バイオフィルムの最大高さは、液面上に形成されたバイオフィルムにおいて、液面からの高さが最大であった位置におけるバイオフィルムの高さを測定した値である。図13から明らかのように、4日目以後に最大高さが急激に増加しており、この間にフィルム状の構造物から三次元状の構造物へと構造が変化していったことが分かる。 更に、形成したバイオフィルムにおいて、液面から離れた位置に存在していた微細藻類は乾燥しているように思えたため、実施例2におけるバイオフィルムの含水率は低いものと考え、その含水率を算出した。バイオフィルムの含水率は、乾燥前の藻体の重量から乾燥後の藻体の重量を差し引いた値に対して、乾燥前の藻体の重量で割って、100を掛けたものである。 液面浮遊培養日数と、各液面浮遊培養日数におけるバイオフィルムの含水率との関係を図14に示した。一般的に、浮遊培養での培養を行った後、凝集剤によって微細藻類を培養容器底面に沈降させ、これを回収した後に遠心分離器によって回収可能な藻体の含水率は約90質量%である。本微細藻類AVFF007株の場合、基板を用いた回収を行うだけで、含水率は約90質量%となる。更に液面浮遊培養が進行するに伴って、液面上の三次元状の構造物が発達し、液面から離れた位置の微細藻類が乾燥しだし、基板によって回収したバイオフィルムの含水率を更に低下させた。 この様に、本発明での液面浮遊培養法によって回収したバイオフィルムの含水率は、遠心分離機(通常、含水率約90質量%)によって得られた微細藻類の回収物よりも含水率を低くすることができる。換言すると、本発明の微細藻類により液面上に形成したバイオフィルムは、回収が容易であるだけでなく、含水率が低く、水分を除去する工程の省力化が可能となり、続くオイル抽出工程(乾燥工程などを含む)等の工程でのコストダウンを期待することができる。[実施例3]<液面培養を行った場合のオイル含有量> 純菌化を行ったAVFF007株を含む溶液を、40mLのC培地とCSi培地との混合培地(体積比1:1)を入れた乾熱滅菌済みの100mL三角フラスコの中に入れ、プラントバイオシェルフ組織培養用に設置し、4000ルクスの連続光照射下、23℃で静置培養(以下、前培養とも言う)を行った。 前記の三角フラスコから微細藻類を含む溶液を採取し、5mLのホモジナイズ用チューブに入れ、ビーズ式細胞破砕装置にセットし、4200rpmで20秒間のホモジナイズ処理を、細胞破砕用ビーズを用いずに3回行った。 この溶液から50μLの微細藻類懸濁液を採取し、予めCSi培地を950μL添加しておいたホモジナイズ用マイクロチューブの中に入れ、ビーズ式細胞破砕装置にセットし、5500rpmで20秒間のホモジナイズ処理を、細胞破砕用ビーズを用いずに行った。この溶液を約10μL採取し、血球計数板上でカウントしたところ、5mLホモジナイズ用チューブ内の藻体濃度が4975×104個/mLであった。 50mL遠沈管にCSi培地を50mL入れ、前記5mLチューブ内の微細藻類懸濁液を361.8μL添加し、これを良く攪拌させた後、6穴プレートに8mLずつ添加し、プラントバイオシェルフ組織培養用上で、4000ルクスの蛍光灯による連続光照射下、培養を行った。なお、室温は23℃に設定し、培養は静置培養である。 培養30日後に、培養を停止し、ナイロンフィルムを用いて液面上のバイオフィルムを回収した。 上記の方法によって得られたバイオフィルムを、50mLの遠沈管に入れ、スピンドライヤー型遠心機(VC−96R、タイテック株式会社)にセットし、2000r/min(440×g)で遠心処理を行った。得られた沈殿物を全量、予め重量を測定しておいた2mLのガラス製サンプル瓶に入れ、これを再度、前記遠心機を用いて遠心処理を行った後、上清を除去し、100℃に設定した送風定温恒温器(DKM600、ヤマト科学株式会社)の乾燥オーブン中で乾燥した。 乾燥後、乾燥微細藻類を含むサンプル瓶の重量を測定し、空のサンプル瓶の重量と、溶媒量から計算される10分の1に希釈した培地中の固形成分の重量とを差し引くことによって、微細藻類の乾燥重量とした。なお、溶媒量は、加熱乾燥前後の重量差から推定した。 上記のサンプル瓶に1mLの5%塩酸−メタノール混合溶液を添加し、100℃に設定した送風定温恒温器を用いて、反応を行った。 室温まで冷却させた後、全量を10mLのサンプル瓶に移し、さらに、1.5mLのヘキサンおよび0.5mLの蒸留水を添加した。ボルテックスミキサーを用いて激しく攪拌した後、静置することで二相に分離させ、ヘキサン相を予め重量を測定しておいた2mLサンプル瓶の中に入れた。 上記の2mLサンプル瓶をスピンドライヤー型遠心機にセットし、2000r/min(440×g)で遠心しながら、減圧下にて有機溶媒を蒸発させた。 蒸発後、55℃に設定した送風定温恒温器の中で加熱し、室温にまで冷却させた後、2mLサンプル瓶の重量を測定し、試料を入れていない時の重量との差をオイル重量とした。また、前記のオイル重量を乾燥藻体重量で割ることによって、乾燥藻体あたりのオイル含有量を計算した。 オイル含有量は、AVFF007株の場合、11.72質量%となった。[実施例4]<オイル成分の分析結果> 純菌化を行ったAVFF007株を1×104cells/mLになるように調製したC培地を5L、幅60cm、奥行き45cm、高さ45cmの水槽に入れ、温度25℃、光照射強度65μmol/m2/sの条件下で静置培養による液面浮遊培養を行った。 培養開始から30日後、パラフィルムに液面上のバイオフィルムを付着させて回収し、回収物を6000×gで10分間、さらに、8000×gで10分間遠心操作を行い、上清を除去後、凍結乾燥を行った。 得られた乾燥物を乳鉢・乳棒を用いて破砕し、ヘキサン4mLを添加した後、全量を遠沈管に移し、1500×gで10分間遠心操作を行った。上清のヘキサン相を回収し、別の容器に入れた。固形物には、5%塩酸−メタノール溶液を添加し、100℃で1時間加熱処理を行った後、室温まで冷却し、ヘキサンおよび蒸留水を添加した。この溶液を攪拌後、8500×gで5分間の遠心操作を行い、水相を除去した後、残ったヘキサン相に対して、再度、蒸留水を添加し、攪拌後、8500×gで5分間遠心操作を行った。上清のヘキサン相を、先ほど回収したヘキサン相に混合し、GC−MSによる分析を行った。 GC−MSの分析条件は、カラムとして、Rtx−5MS (Restek社製)を用い、90℃1分間保持した後、10℃/minで昇温した。 結果を図15に示した。主として、C16、C21をオイル成分として含んでいることが明らかとなった。 また、得られたヘキサン相の溶媒を除去し、使用した乾燥藻体量から算出したオイル含有量は、25質量%であった。 本発明にかかる微細藻類は、液面上にバイオフィルムを形成可能であり、従来の微細藻類の回収と比べて、回収効率を大幅に向上することができ、回収コストを大幅に低下できる。また、回収したバイオフィルムの含水率が、従来法と同等若しくはそれ以下であり、脱水工程でのコストを大幅に低下できる。また回収されたバイオフィルムからオイルを得ることができ、本微細藻類は地球温暖化防止を志向したバイオマスとしても期待できる。 液面上にバイオフィルムを形成可能な、微細藻類。 18S rRNAの遺伝子領域をコードする塩基配列のうち、一部の領域の、ボツリオコッカス スデティクス(Botryococcus sudeticus)に相当する塩基配列との相同性が95.0%以上99.9%以下である、請求項1に記載の微細藻類。 ボツリオコッカス スデティクス(Botryococcus sudeticus) AVFF007株(受託番号FERM BP−11420)である、請求項1又は2に記載の微細藻類。 液面上の微細藻類の対数増殖期における増殖速度が、乾燥重量で5g/m2/day以上である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の微細藻類。 前記バイオフィルムの含水率が95質量%以下である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の微細藻類。 前記バイオフィルムの乾燥藻体あたりのオイル含有量が10質量%以上である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の微細藻類。 請求項1〜6のいずれか1項に記載の微細藻類により液面上に形成されたバイオフィルム。 含水率が95質量%以下である、請求項7に記載のバイオフィルム。 請求項7又は8に記載のバイオフィルムから得られるバイオマス。 請求項7又は8に記載のバイオフィルムから得られるオイル。 【課題】液面上にバイオフィルムを形成可能な微細藻類、該微細藻類により液面上に形成されたバイオフィルム、並びに該バイオフィルムから得られるバイオマス及びオイルを提供すること。【解決手段】液面上にバイオフィルムを形成可能な微細藻類、例えば、ボツリオコッカス スデティクス(Botryococcus sudeticus)に近縁の微細藻類。【選択図】なし


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