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タイトル:公開特許公報(A)_動物ウイルスに対する被検物質の消毒効果又は抗ウイルス効果を測定する方法
出願番号:2012080092
年次:2013
IPC分類:C12Q 1/70,G01N 33/15


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梶岡 実雄 JP 2013208072 公開特許公報(A) 20131010 2012080092 20120330 動物ウイルスに対する被検物質の消毒効果又は抗ウイルス効果を測定する方法 公益財団法人神奈川科学技術アカデミー 591243103 谷川 英次郎 100088546 梶岡 実雄 C12Q 1/70 20060101AFI20130913BHJP G01N 33/15 20060101ALI20130913BHJP JPC12Q1/70G01N33/15 Z 7 1 OL 9 (出願人による申告)平成23年度、経済産業省、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、革新的部材産業創出プログラム、循環社会構築型光触媒産業創成プロジェクト、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願 4B063 4B063QA06 4B063QQ98 4B063QR79 4B063QX01 本発明は、エンベロープを持つ動物ウイルスに対する被検物質の消毒効果又は抗ウイルス効果を測定する方法に関する。 インフルエンザウイルス(Flu)やノロウイルスの流行が世界的に問題視され、感染防止のためにワクチン開発や抗ウイルスのための消毒薬の開発と環境中のウイルスを減少させるための抗ウイルス材やこの素材を用いた抗ウイルスデバイスの開発が求められている。 インフルエンザウイルス等のヒトとその他の動物に感染するウイルスを培養するには、動物の組織を培養し、その細胞に感染させなければウイルスは増えることができない。このために、消毒薬等の抗ウイルス効果を判定するには、まず初めに動物細胞を培養容器内に培養して、次にウイルスと消毒薬を一定時間混合した後に、生き残っているウイルスを培養容器内の細胞に感染させてウイルスの増殖の有無を観察し抗ウイルス効果を判定する必要がある。 これまでの動物ウイルスに対する抗ウイルス試験は、動物細胞を使った組織培養を避けることができないために、組織培養のため費用がかかり抗ウイルス試験のコストが高くなること、及び試験期間が約2週間必要なことの問題点がある。 また、動物細胞を培養容器内で培養する組織培養技術は、特殊な技術や設備を必要とする為に、特定の場所に限られどこの実験室に於いても容易に実施することができない。さらに、動物ウイルスを扱うために、ヒトへの感染が問題となりバイオハザード対策の施された実験室でのみしか抗ウイルス試験をすることが許されないので、技術の一般化がなされていない。さらに、ウイルス感染症の治療に有効な抗生物質がないこと、また社会の中に動物ウイルス取り扱いの安全性に関する理解が不足しているため、一般住民の中にウイルス試験施設の受け入れに対する抵抗感があるという問題もある。 一方、光触媒のインフルエンザウイルスに対する抗ウイルス効果を調べるために、バクテリオファージであるQBファージを光触媒と接触させた状態で光照射し、光照射後のQBファージの細菌に対する感染力を指標として光触媒の抗ウイルス効果を調べたことが報告されている(非特許文献1)。平成21年度研究概要 平成22年7月16日 財団法人神奈川科学技術アカデミー発行 非特許文献1記載の方法によれば、ヒトを含む動物に感染するインフルエンザウイルスに対する抗ウイルス効果を、インフルエンザウイルスも動物細胞も用いることなく調べることができ、安全かつ簡便に調べることができる。 しかしながら、非特許文献1に記載された方法は、必ずしも正確性に満足できないという問題がある。より正確に抗ウイルス効果を調べることができる方法が求められている。 従って、本発明の目的は、動物ウイルスに対する消毒効果又は抗ウイルス効果を、動物ウイルスも動物細胞も用いることなくin vitroにおいて、公知の方法よりも正確に測定することができる、動物ウイルスに対する被検物質の消毒効果又は抗ウイルス効果を測定する新規な方法を提供することである。 本願発明者は、鋭意研究の結果、インフルエンザウイルスのようなエンベロープを持つ動物ウイルスに対する消毒効果又は抗ウイルス効果を、バクテリオファージと細菌細胞を用いて調べる際に、バクテリオファージとして、非特許文献1に記載されているQBファージのようなエンベロープを持たないバクテリオファージではなく、Φ6ファージのようなエンベロープを持つバクテリオファージを用いることにより、より正確に動物ウイルスに対する消毒効果又は抗ウイルス効果を測定できることを見出し本発明を完成した。 すなわち、本発明は、Fuselloviridae、Plasmaviridae、Lipothrixviridae、Tectiviridae又はCystoviridaeに属するバクテリオファージと被検物質とを接触させ、接触後のバクテリオファージの細菌細胞への感染力を指標とする、エンベロープを持つ動物ウイルスに対する被検物質の消毒効果又は抗ウイルス効果を測定する方法を提供する。 本発明により、エンベロープを持つ動物ウイルスに対する消毒効果又は抗ウイルス効果を、該動物ウイルスも動物細胞も用いることなく、in vitroにおいて細菌細胞を用いて、公知の方法よりも正確に測定することができる、エンベロープを持つ動物ウイルスに対する被検物質の消毒効果又は抗ウイルス効果の新規な測定方法が提供された。動物ウイルスの消毒薬または抗ウイルス材等に対する効果を細菌ウイルスにより代替試験が可能となる事で(1)細菌ウイルスであるファージの実験はヒトへの感染性の危険性がないのでヒトに対して安全に実験をすることができ、(2)従って、ヒトに感染する動物ウイルスの取り扱いで必要な物理的封じ込め施設であるP2実験室等のバイオハザード対策設備を必要とせず、(3)組織培養技術を必要としないので、試験結果を1日で得ることができ、(4)組織培養技術を必要としないので細菌が培養できる実験室であればだれでも容易に実験ができるという優れた効果を得ることができる。下記実施例において採用した、ウイルス消毒効果試験のフローを示す図である。下記実施例において行った、Φ6ファージとQBファージを用いて、光触媒による抗ウイルス効果を測定した結果を示す図(上段)及びインフルエンザウイルスとネコカリシウイルスを用いて、光触媒による抗ウイルス効果を測定した結果を示す図(下段)である。下記実施例において行った、Φ6ファージとQBファージを用いて、アルコールによる抗ウイルス効果を測定した結果を示す図(上段)及びインフルエンザウイルスとネコカリシウイルスを用いて、アルコールによる抗ウイルス効果を測定した結果を示す図(下段)である。下記実施例において行った、Φ6ファージとQBファージを用いて、次亜塩素酸ナトリウムによる抗ウイルス効果を測定した結果を示す図(上段)及びインフルエンザウイルスとネコカリシウイルスを用いて、次亜塩素酸ナトリウムによる抗ウイルス効果を測定した結果を示す図(下段)である。 上記の通り、本発明の方法は、エンベロープを持つ動物ウイルスに対する被検物質の消毒効果又は抗ウイルス効果を測定する方法である。エンベロープを持つ動物ウイルスの好ましい例としては、インフルエンザウイルス、パラインフルエンザウイルス、ヘルペスウイルス、麻疹ウイルス、ムンプスウイルス及びC型肝炎ウイルス等の、ヒト、家畜、家禽等の動物に感染する病原性のウイルスが好ましいが、これらに限定されるものではない。 本発明の方法では、動物ウイルスを用いず、細菌を宿主とする細菌ウイルスであるバクテリオファージを用いる。本発明で用いられるバクテリオファージは、エンベロープを持つFuselloviridae、Plasmaviridae、Lipothrixviridae、Tectiviridae又はCystoviridaeに属するバクテリオファージである。これらの科に属するウイルスは、エンベロープを有するウイルスであるのでいずれも本発明の方法に用いることができる。これらのうち、好ましいものとしてPlasmaviridaeに属するL2ファージやCystoviridaeに属するΦ6ファージ、Φ8ファージ及びΦ12ファージが好ましく、特にCystoviridaeに属するバクテリオファージが好ましい。中でも、Φ6ファージは、NBRC (NITE Biological Resource Center)から購入することができるので、これを用いる方法は容易に実施することができ、好ましい。これらのバクテリオファージは、宿主が細菌であり、動物に感染することはないので、動物ウイルスを用いる場合に比べて遙かに安全である。 本発明の方法では、エンベロープを持つ動物ウイルスに対する被検物質の消毒効果又は抗ウイルス効果を測定する。ここで、「消毒効果又は抗ウイルス効果」は、ウイルスの宿主細胞に対する感染力を低減させる効果を意味する。なお、消毒は、ウイルスのみならず、他の病原性生物にも障害を与えるニュアンスがあり、抗ウイルスは、ウイルスに選択的に障害を与えるニュアンスがあるが、両者の区別は必ずしも明確ではなく、また、本発明においては両者を区別する意味もない。 本発明において、被検物質は、その消毒効果又は抗ウイルス効果を測定することが望まれるいずれの物質であってもよく、液体、固体、気体のいずれでもよく、固体の場合、固形であっても粒子状や粉末状のものであってもよい。 本発明の方法では、先ず、バクテリオファージと被検物質とを接触させる。接触の条件は、試験の目的に応じて適宜設定することができる。例えば、各種消毒薬の消毒効果を調べる場合であれば、消毒薬の使用時にウイルスと接触する条件、例えば、接触時間を1秒〜10分、特には10秒〜5分程度とし、温度は室温下とすることができるが、もちろんこれに限定されるものではない。なお、被検物質は、必要に応じ、適宜希釈したり、固体の場合には溶媒に溶解したり懸濁したりした後にバクテリオファージと接触させてもよい。 接触後、バクテリオファージの細菌細胞への感染力を指標として、被検物質の消毒効果又は抗ウイルス効果を測定する。これは、好ましくは、被検物質による消毒効果又は抗ウイルス効果を排除した後のバクテリオファージの細菌細胞への感染力を測定することにより行うことができる。この場合、被検物質による細菌細胞への影響を除外することができ、より正確にウイルスに対する消毒効果又は抗ウイルス効果を測定することができるが、被検物質による消毒効果又は抗ウイルス効果を排除することは必須的ではない。被検物質による消毒効果又は抗ウイルス効果の排除は、例えば、被検物質が粒子や粉末の場合には、ろ過や遠心分離等により被検物質を除外することにより行うことができる。被検物質が固形(塊)の場合には、単に、バクテリオファージ液を被検物質から回収することにより行うことができる。被検物質が液体の場合には、バクテリオファージと被検物質との混合液を希釈することにより行うことができる。希釈の場合、被検物質による消毒効果又は抗ウイルス効果を完全には排除できないかもしれないが、10倍以上に希釈すれば、被検物質による消毒効果又は抗ウイルス効果は、単純計算で10分の1以下となり、このような場合も事実上、「被検物質による消毒効果又は抗ウイルス効果を排除」したと解釈する。また、被検物質による消毒効果又は抗ウイルス効果を中和することができる物質がわかっている場合には、そのような中和物質を加えることができる。例えば、被検物質が次亜塩素酸ナトリウムの場合に、チオ硫酸ナトリウムを加えて、塩素活性を中和したり、被検物質がタンパク質の場合には、該タンパク質に対するポリクローナル抗体を加える等である。 バクテリオファージの細菌細胞への感染力の測定自体は、周知の常法により行うことができる。例えば、バクテリオファージと被検物質とを一定の条件で接触させた後、好ましくは被検物質による消毒効果又は抗ウイルス効果を排除したバクテリオファージ液をそのまま又は必要に応じて希釈後、軟寒天培地中の宿主である細菌細胞と混合し、平板寒天培地上にまき培養後、生じたプラック(plaque)数を測定することにより行うことができる。ここで使用する細菌細胞としては、用いるバクテリオファージの本来の宿主細胞が好ましく、例えば、Φ6ファージの場合には、シュードモナス サイリンガ(Pseudomonas syringae)を用いることが好ましい。もっとも、本来の宿主でなくても、感染することがわかっている細胞であれば使用可能である。この方法であれば、下記実施例に記載されている通り、例えば、室温下で一夜培養することにより判定可能である。 下記実施例から明らかなように、本発明の方法により測定される被検物質の消毒効果又は抗ウイルス効果は、被検物質による動物ウイルスに対する消毒効果又は抗ウイルス効果とよく対応しており、公知の方法よりも正確にエンベロープを持つ動物ウイルスに対する消毒効果又は抗ウイルス効果を測定することができる。 以下、本発明を実施例に基づきより具体的に説明する。もっとも、本発明は下記実施例に限定されるものではない。(1) 試験方法 エンベロープを持つ動物ウイルスの代表としてインフルエンザウイルスを用い、エンベロープを持たない動物ウイルスの代表としてネコカリシウイルス(ノロウイルスが培養できないためにウイルス性状がノロウイルスと類似しているのでノロウイルスの代替ウイルスとして研究に用いられている。)を用いて各種消毒薬に対して図1に示すような試験方法により消毒効果を求めた。比較対象として細菌ウイルスであるエンベロープを持つΦ6ファージとエンベロープを持たないQβファージを用いて各種消毒薬による消毒効果を求め、動物ウイルスと細菌ウイルスに対する消毒効果との比較を行った。インフルエンザウイルスは、ヒトや鳥、豚等多くの哺乳類に感染するウイルスで直径80〜120nmで、ウイルスヌクレオカプシドの外周を脂質に富んだエンベロープで覆われているRNA型のウイルスである。エンベロープを持っている動物ウイルスとしては、パラインフルエンザウイルス、ヘルペスウイルス、麻疹ウイルス、ムンプスウイルス、C型肝炎ウイルス等がある。ネコカリシウイルスはネコの腸管内で増殖し下痢症を引き起こす直径25〜32nmでエンベロープを持たない正20面体のヌクレオカプシドからなるRNA型のウイルスである。類似のヒトに感染するウイルスとしては、ポリオウイルス、ノロウイルス、A型肝炎ウイルスなどがある。Φ6ファージは、植物に感染する細菌であるシュードモナス サイリンガに感染する細菌ウイルスで、直径80〜100nmで、ヌクレオカプシドの外周を脂質に富んだエンベロープで覆われているRNA型のウイルスである。エンベロープを持っている細菌ウイルスとしては、Φ8ファージ、Φ12ファージ、L2ファージ等がある。Qβファージは大腸菌に感染する細菌ウイルスで、直径25〜32nmで、エンベロープを持たない正20面体のヌクレオカプシドを形成するRAN型ウイルスである。Qβファージの性状に類似するウイルスとしてはMS2ファージ、f2ファージ、M12ファージ等がある。 インフルエンザウイルスは受精後11日目の発育鶏卵の漿尿液腔内にインフルエンザウイルスを感染させ、37℃で3日間培養後ウイルスの増殖した漿尿液を回収し精製したものをインフルエンザウイルス原液とした。ネコカリシウイルスはネコ腎臓細胞(CRFK:Crandell-Reese feline kidney)に感染させ、37℃のCO2インキュベーターで2日間培養後ウイルスの増殖した培養液を精製しネコカリシウイルス原液とした。Φ6ファージはLB(Luria-Bertani)培養液にシュードモナス サイリンガを接種し25℃で一夜振盪培養した菌液にΦ6ファージを感染させ25℃で一夜培養した後4,000回転で20分間遠心した上澄液を孔径0.45μmのフィルターでろ過した液をΦ6ファージ原液とした。QβファージはLB培地に大腸菌を感染させ37℃で4時間程度振盪培養し対数増殖期にある大腸菌にQβファージを感染させ37℃で一夜培養した後4,000回転で20分間遠心した上澄液を孔径0.45μmのフィルターでろ過した液をQβファージ原液とした。 インフルエンザウイルス感染価測定はウイルス測定用試料原液をPBS(Phosphate buffered saline)で10倍段階希釈を行い、試料原液または希釈したウイルス溶液50μLと、0.5% FBS(Fetal bovine serum)を含むDulbecco's modified Eagle's Medium(DMEM)に懸濁したイヌ腎臓細胞(MDCK:Madin-Darby canine kidney)50μLを96穴プレートに植え込んだ。ウイルスと接触させたMDCK細胞は、37℃の炭酸ガスフラン器内で5日間培養した。その後、倒立顕微鏡下でインフルエンザウイルスの増殖によって生じた細胞変性効果(CPE:cytopathogenic effect)を観察して、細胞変性効果を示したウエル数を計測し、Reed-Muench法を用いてウイルス測定試料ごとの残存ウイルス感染価(TCID50/mL)を求めた。 ネコカリシウイルス感染価測定はウイルス測定用試料原液をPBSで10倍段階希釈を行い、試料原液または希釈したウイルス溶液50μLと、0.5% FBSを含むDMEMに懸濁したネコ腎臓細胞(CRFK:Crandell-Reese feline kidney)50μLを96穴プレートに植え込んだ。ウイルスと接触させたCRFK細胞は、37℃の炭酸ガスフラン器内で5日間培養した。その後、倒立顕微鏡下でネコカリシウイルスの増殖によって生じたCPEを観察して、細胞変性効果を示したウエル数を計測し、Reed-Muench法を用いてウイルス測定試料ごとの残存ウイルス感染価(TCID50/mL)を求めた。 Φ6ファージ感染価の測定はウイルス測定試料原液をPBSで10倍階段希釈を行い、小試験管に試料原液又は希釈したウイルス溶液100μLと25℃で一夜培養したシュードモナス サイリンガ100μLを加えた後0.7%の寒天を含むLB培地3mLと混合し、予め作成しておいたLB平板培地上に流し込み25℃で一夜培養した。翌日寒天平板上にできたプラック(PFU:Plaque forming unit)(ファージが細菌に感染し細菌を死滅させたためにできた溶菌斑)を計測し残存ウイルス感染価(PFU/mL)を求めた。 Qβファージ感染価の測定はウイルス測定試料原液をPBSで10倍階段希釈を行い、小試験管に試料原液又は希釈したウイルス溶液100μLと37℃で一夜培養した大腸菌100μLを加えた後0.7%の寒天を含むLB培地3mLと混合し、予め作成しておいたLB平板培地上に流し込み37℃で一夜培養した。翌日寒天平板上にできたプラックを計測し残存ウイルス感染価(PFU/mL)を求めた。 ウイルス不活化効果(LRV:log10 reduction value)は以下の式から求めた。 LRV=log10(N/N0) N:残存ウイルス量 N0:未処理ウイルス量(2) 光触媒による抗ウイルス効果 光触媒をコーティングした5×5cmのタイル上に150μLのウイルス液を乗せ、その上を4×4cmのフィルムでカバーして、ブラックライトを所定の時間照射した後、光照射後のウイルス液中の残存ウイルス量を図2に示した。ウイルスの感染価の測定は上記と同様に行った。エンベロープを持つΦ6ファージでは光照射1時間でLRVが<-6.3(検出限界値)を示したのに対しエンベロープを持たないQβファージのLRVは-2.4であった。一方インフルエンザウイルスでは光照射4時間後のLRVが-3.9であるのに対してネコカリシウイルスではLRVは-3.0であった。光触媒による抗ウイルス効果はエンベロープを持ったウイルスの方がエンベロープを持たないウイルスより死滅効果が出る結果であった。この結果、光触媒に対する抵抗性は動物ウイルスと細菌ウイルスで同じ挙動を示していた。(3) アルコールによる消毒効果 80%アルコール900μLとウイルス原液100μLを加え15秒、30秒、60秒、120秒、180秒、300秒間接触させた後10倍量のPBSを加えアルコール活性を止め、ウイルス測定用試料原液とした。ウイルスの感染価の測定は、上記と同様に行った。アルコール処理後の残存ウイルス量を図3に示した。インフルエンザウイルスの不活化データは文献1のデータを活用し、ネコカリシウイルスの不活化データは文献2のデータを活用しグラフを作成した。80%アルコールでインフルエンザウイルスとΦ6ファージは15秒以内にLRVは-6.0(検出限界値)以下に不活化されるのに対し、ネコカリシウイルスでは300秒後にLRVは-4.3、Qβファージでは300秒後でLRVは-1.4とアルコールに対するエンベロープの有無による抗ウイルス効果に明らかな差を認めた。この結果は脂質成分に富むエンベロープを持つウイルスは脂質の溶媒であるアルコールとの接触によりエンベロープが溶解しエンベロープが持つ機能を急速に消失してしまうためである。一方エンベロープを持たないウイルスはアルコールの消毒効果に抵抗性を示している。 この結果、アルコールに対する抵抗性は動物ウイルスと細菌ウイルスで同じ挙動を示していた。(4) 次亜塩素酸ナトリウムによる消毒効果 100ppmの残留塩素濃度になる様に調整した次亜塩素酸ナトリウム900μLと各ウイルス液100μLを15秒、30秒、60秒、180秒間させた後、0.6Mチオ硫酸ナトリウム25μLを添加し残留塩素活性を中和したウイルス液を測定試料原液とした。各ウイルスの感染価の測定は、上記と同様に行った。次亜塩素酸ナトリウム処理後の残存ウイルス量を図4に示した。インフルエンザウイルスとネコカリシウイルスの不活化データは文献3のデータを活用しグラフを作成した。100ppmの次亜塩素酸ナトリウム溶液に対してインフルエンザウイルスは15秒でLRVは-3.4(検出限界値)以下となり、ネコカリシウイルスでは120秒でLRVは-1.2しか減少しなかった。これに対しΦ6ファージは120秒でLRVは-2.5に不活化され、Qβファージでは120秒後でもLRVは-0.3と次亜塩素酸ナトリウム溶液に対してエンベロープの有無による抗ウイルス効果に明らかな差を認めた。この結果、次亜塩素酸ナトリウムに対する抵抗性は動物ウイルスと細菌ウイルスで同じ挙動を示していた。参考文献1) 野田伸司、渡辺 実、山田不二造、藤本 進:アルコール類のウイルス不活化作用に関する研究 ウイルスに対する各種アルコールの不活化効果について。感染症学雑誌 第55巻 第5号 355-366昭和56年2) C.Gehrke,J.Steinmann,P.Goroncy-Bermes:Inactivation of feline calicivirus,a surrogate of norovirus(formerly Norwalk-like viruses),by different types of alchol in vitro and in vivo. Journal of Hospital Infection(2004)56,49-55.3) Takeshi Sanekata,Toshiaki Fukuda,Takanori Miura,Hirofumi Morino,Cheolsung Lee,Ken Maeda,Kazuko Araki,Toru Otake, Takuya Kawahata,and Takashi Shibata:Evaluation of the Antiviral Activity of Chlorine Dioxide and Sodium Hypochlorite against Feline Calicivirus,Human Influenza Virus,Measles Virus,Canine Distemper Virus,Human Herpesvirus,Human Adenovirus,Canine Adenovirus and Canine Parvovirus. Biocontrol Science,2010,Vol.15,No.2,45-49. 動物ウイルスを用いた試験を行う場合には、バイオハザード対策上の安全設備P2またはP3実験室を設けなければならない。しかし、細菌ウイルスであるファージを用いた実験では、P1レベルの設備でよいために、何処でも安全に実験ができるので、ウイルスに対する消毒薬や抗ウイルス材等の効果試験が通常の実験室で可能となり、早く、安価に何処でも試験を行うことができるのでウイルス消毒薬、抗ウイルス材の開発を広く普及、促進させることができるので社会的有用性は高い。 Fuselloviridae、Plasmaviridae、Lipothrixviridae、Tectiviridae又はCystoviridaeに属するバクテリオファージと被検物質とを接触させ、接触後のバクテリオファージの細菌細胞への感染力を指標とする、エンベロープを持つ動物ウイルスに対する被検物質の消毒効果又は抗ウイルス効果を測定する方法。 前記バクテリオファージが、Cystoviridaeに属する請求項1記載の方法。 前記バクテリオファージが、Φ6ファージ、Φ8ファージ、Φ12ファージ及びL2ファージからなる群より選ばれる少なくとも一種である請求項1記載の方法。 前記バクテリオファージが、Φ6ファージである請求項3記載の方法。 エンベロープを持つ動物ウイルスが、インフルエンザウイルス、パラインフルエンザウイルス、ヘルペスウイルス、麻疹ウイルス、ムンプスウイルス及びC型肝炎ウイルスから成る群から選ばれる少なくとも1種である請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。 エンベロープを持つ動物ウイルスが、インフルエンザウイルスである請求項5記載の方法。 前記バクテリオファージと被検物質とを接触させた後、被検物質による消毒効果又は抗ウイルス効果を排除した後のバクテリオファージの細菌細胞への感染力を測定する、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。 【課題】動物ウイルスに対する消毒効果又は抗ウイルス効果を、動物ウイルスも動物細胞も用いることなくin vitroにおいて、公知の方法よりも正確に測定することができる、動物ウイルスに対する被検物質の消毒効果又は抗ウイルス効果を測定する新規な方法を提供すること。【解決手段】エンベロープを持つ動物ウイルスに対する被検物質の消毒効果又は抗ウイルス効果を測定する方法は、Fuselloviridae、Plasmaviridae、Lipothrixviridae、Tectiviridae又はCystoviridaeに属するバクテリオファージと被検物質とを接触させ、接触後のバクテリオファージの細菌細胞への感染力を指標とする。【選択図】図1


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