生命科学関連特許情報

タイトル:再公表特許(A1)_孔脳症又は脳出血のリスクを予測する方法
出願番号:2012077903
年次:2015
IPC分類:C12Q 1/68,C12N 15/09


特許情報キャッシュ

松本 直通 才津 浩智 JP WO2013069495 20130516 JP2012077903 20121029 孔脳症又は脳出血のリスクを予測する方法 公立大学法人横浜市立大学 505155528 特許業務法人谷川国際特許事務所 110001656 松本 直通 才津 浩智 JP 2011247457 20111111 C12Q 1/68 20060101AFI20150306BHJP C12N 15/09 20060101ALN20150306BHJP JPC12Q1/68 AC12N15/00 A AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IS,JP,KE,KG,KM,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LT,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US,UZ,VC 再公表特許(A1) 20150402 2013542930 22 4B024 4B063 4B024AA11 4B024CA02 4B024DA02 4B024HA14 4B063QA19 4B063QQ02 4B063QQ08 4B063QQ43 4B063QR32 4B063QR55 4B063QR72 4B063QR77 4B063QS34 4B063QX02 本発明は、孔脳症又は脳出血のリスクを予測する方法に関する。 孔脳症は、大脳半球内に脳室との交通を有する嚢胞又は空洞がみられる先天異常であり(非特許文献1)、胎生期における梗塞や出血といった脳循環障害により発生すると推測されている(非特許文献2、3)。孔脳症は、臨床的には半身麻痺(もっとも多く見られる)、四肢麻痺、てんかん、及び精神遅滞を生じる(非特許文献4、5)。一卵性双生児の出産、母体の心拍停止ないしは腹部外傷、プロテインCによる抗凝血経路の不全、及びサイトメガロウイルス感染は、孤発性孔脳症のリスクファクターである(非特許文献2、6)。 近年、IV型コラーゲンα1鎖をコードする遺伝子(COL4A1, MIM 120130)における変異が家族性孔脳症の原因であることが報告された(非特許文献7)。その後、孤発例においてもCOL4A1遺伝子のde novo変異が報告され(非特許文献8〜10)、COL4A1遺伝子の異常が孤発性・家族性双方の孔脳症に関与することが確認された。しかしながら、COL4A1遺伝子変異が同定できない症例が数多く残されていた。Berg, R.A., Aleck, K.A., and Kaplan, A.M. (1983). Familial porencephaly. Arch. Neurol. 40, 567-569.Govaert, P. (2009). Prenatal stroke. Semin Fetal Neonatal Med 14, 250-266.Hunter, A. (2006). Porencephaly. In Human Malformations and related Anomalies, S. RE and H. JG, eds. (New York, Oxford University Press), pp 645-654.Mancini, G.M., de Coo, I.F., Lequin, M.H., and Arts, W.F. (2004). Hereditary porencephaly: clinical and MRI findings in two Dutch families. Eur J Paediatr Neurol 8, 45-54.Vilain, C., Van Regemorter, N., Verloes, A., David, P., and Van Bogaert, P. (2002). Neuroimaging fails to identify asymptomatic carriers of familial porencephaly. Am J Med Genet 112, 198-202.Moinuddin, A., McKinstry, R.C., Martin, K.A., and Neil, J.J. (2003). Intracranial hemorrhage progressing to porencephaly as a result of congenitally acquired cytomegalovirus infection--an illustrative report. 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Neurology 76, 844-846. 本発明は、孔脳症の新規原因遺伝子を同定し、胎児期〜周産期の脳出血の予防に役立てることができる新規な手段を提供することにある。 本願発明者らは、COL4A1蛋白質とヘテロトリマーを形成するCOL4A2蛋白質に着目し、日本人孔脳症患者35名においてCOL4A2遺伝子変異を鋭意スクリーニングした結果、2名の患者において、日本人健常者集団には見出されず、病原性予測ツールを用いた評価により病原性であることが強く示唆されるヘテロ変異を同定することに成功した。2名のうちの一方は孤発例であり、もう一方は家族例であった。つまり、COL4A2遺伝子が家族性及び孤発性の孔脳症の原因遺伝子であることを見出し、本願発明を完成した。 すなわち、本発明は、生体から分離された試料に対して実施する方法であって、対象生体のCOL4A2遺伝子に少なくとも1つの変異が存在するか否かを調べることを含み、COL4A2遺伝子の少なくとも一方のアレルに少なくとも1つの変異がある場合に孔脳症又は脳出血のリスクが高いと予測される、孔脳症又は脳出血のリスクを予測する方法を提供する。 本発明により、孔脳症の原因遺伝子として初めてCOL4A2遺伝子が同定され、孔脳症又は脳出血、特に孔脳症又は胎児期〜周産期脳出血のリスクを予測する新規方法が提供された。孔脳症患者及び健常者の双方で同一のCOL4A2遺伝子ヘテロ変異が発見され、該病因変異は不完全浸透度の優性遺伝と考えられる。胎児の両親の少なくとも一方にCOL4A2変異が発見された場合、胎児に該COL4A2変異が遺伝している可能性がある。また、出生前診断により胎児自身にCOL4A2遺伝子変異が存在するか否かを調べることもできる。胎児が孔脳症又は胎児期〜周産期脳出血を生じるリスクが懸念される場合には、経膣分娩を避け、胎児への物理的ダメージが少ない帝王切開を積極的に選択することで、周産期脳出血の発生を防止することができる。また、COL4A2遺伝子は血管の脆弱性に関与する遺伝子であるため、健常保因者は出血性の脳血管疾患のリスクが健常非保因者よりも高いと考えられる。従って、健常保因者では出血性脳血管疾患の予防を重視すべきである。このように、本発明は、成人の脳出血予防にも貢献できる。(A) COL4A2遺伝子にc.3455G>A (p.G1152D) 変異が同定された孔脳症患者1の家系図である。矢印が患者1。患者の母方のおじ(III-1)に先天性の左片麻痺あり。患者の母親 (III-2) 及び母方の祖父 (II-7) はいずれも健常。大伯父 (II-5) にも先天性の片麻痺があり、60代で死亡。(B) COL4A2遺伝子にc.3110G>A (p.G1037E) 変異が同定された孔脳症患者2の家系図である。矢印が患者2。両親には当該変異がなく、de novoで生じた変異であった。(C) 変異部位のゲノム配列の波形データである。左が患者1及びその両親、右が患者2及びその両親のデータである。(D) COL4A2タンパク質のアミノ酸配列のアラインメントである。進化的に保存されたアミノ酸を図中グレー又は黒のボックスで示す。黒のボックスは変異が生じていたGly残基。各アミノ酸配列はNCBI protein databaseから得た;NP_001837.2 (Homo sapiens), NP_034062.3 (Mus musculus), NP_001155862.1 (Gallus gallus), XP_002933063.1 (Xenopus tropicalis), XP_687811.5 (Danio rerio), AAB64082.1 (Drosophila melanogaster), 及びCAA80537.1 (Caenorhabditis elegans)。アラインメントはCLUSTALW(http://clustalw.ddbj.nig.ac.jp/)により実行した。(A-C) 患者1の6歳齢での脳MRI。(A)がT2強調横断像、(B)が冠状断像。(A)及び(B)では右脳室の拡大と右前頭部白質の容積低下が認められる。(C) 脳梁体の萎縮(矢頭)を認めるT1強調正中矢状断。左脚不全麻痺の原因となる病変はこれらの画像中では明らかでない。(D-F) 患者2の2ヶ月齢でのCT画像。(D) 横断像、(E) 冠状断像、(F) 矢状断像。(D), (E) 及び (F) では左右対称性の側脳室の拡大と前頭部白質の左右対称性の極度の容積低下が認められる。右側脳室にはV-Pシャントも視認できる。橋小脳構造は正常。COL4A2遺伝子がコードするIV型コラーゲンα2鎖のアミノ酸配列である。下線部がGly-Xaa-Yaaリピートの領域である。黒いボックスは、実施例で同定された2種類のアミノ酸置換変異が生じたGly残基を示す。 本願発明者らが同定した孔脳症の新規な原因遺伝子であるCOL4A2遺伝子(MIM 120090)は、IV型コラーゲンα2鎖をコードする遺伝子である。IV型コラーゲンは脈管構造を含む全ての組織で発現している基底膜タンパク質である。タイプIVコラーゲンのうち、COL4A1(α1鎖)及びCOL4A2(α2鎖)が最も豊富なコラーゲンであり、2:1の比率でヘテロトリマー(α1α1α2)を形成することが知られている(Khoshnoodi, J., Pedchenko, V., and Hudson, B.G. (2008). Mammalian collagen IV. Microsc Res Tech 71, 357-370.)。ヘテロトリマーを形成するドメインにはGly-Xaa-Yaaリピート(Xaa及びYaaは同一又は異なる任意のアミノ酸を示す)が存在し、このリピート領域で3重らせん構造を形成する。Gly-Xaa-Yaaリピートの位置を図3中に下線で示す。配列表の配列番号1及び2は、COL4A2遺伝子のcDNAのコード領域の配列及びCOL4A2タンパク質のアミノ酸配列であり、配列番号3はGenBankに登録(accession番号NM_001846)されているmRNA配列である。配列番号4〜38には、各エクソン及びその近傍のイントロンの配列を表1の通りに示した。 本発明では、COL4A2遺伝子の変異を指標として対象生体に孔脳症又は脳出血が生じるリスクを予測する。対象生体は、好ましくは出生後のヒト(例えばヒト成人)又はヒト胎児である。脳出血には、胎児期〜周産期脳出血、及び成人期(老年期まで含む)に生じる出血性の脳血管疾患が包含される。COL4A2遺伝子の少なくともいずれか一方のアレルに少なくとも1つの変異があれば、孔脳症及び脳出血のリスクが高いと予測することができる。遺伝様式は不完全浸透度の優性遺伝と考えられ、孔脳症患者にも健常保因者にもヘテロ変異が発見されている。 本発明で指標とするCOL4A2遺伝子中の変異には、COL4A2遺伝子がコードするIV型コラーゲンα2鎖のごく少数のアミノ酸の変化の他、α2鎖の少なくとも一部の領域を欠失するような変化をもたらす塩基配列の変化が包含され、COL4A2遺伝子領域の全体又は一部を欠失する変異も包含される。そのような塩基配列の変異の具体例としては、エクソン又はイントロン領域内での塩基の置換、欠失、挿入、重複等によるミスセンス変異、ナンセンス変異、フレームシフト変異、インフレーム欠失又は挿入変異(1個以上のアミノ酸の欠失若しくは挿入をもたらす)、スプライシング異常を生じる変異、及びCOL4A2遺伝子を含む染色体領域の微細欠失等が挙げられる。 COL4A2遺伝子の変異は、ゲノムDNAやRNA等の核酸試料を用いて塩基配列を解析することで検出可能である。とりわけ、ゲノムDNA試料を用いてゲノム配列の解析を行なうことが最も確実で望ましい。ゲノムDNA等の核酸試料は、末梢血や口腔粘膜スワブ等から常法により容易に調製することができる。また、種々の出生前遺伝子検査法が公知であり、胎児にCOL4A2遺伝子変異が存在するかどうかを調べることも可能である。例えば、胎児から細胞を採取して検査する方法(羊水、絨毛、臍帯血を使用)、母体血中に混在している胎児細胞を用いて胎児の遺伝子変異を検査する非侵襲の検査方法、体外受精した受精卵の1細胞を用いる方法(着床前診断)など、種々の手法が公知である。上記非侵襲の検査方法では、胎児細胞を含有する母体血試料が「生体から分離された試料」に該当し、胎児が「対象生体」に該当する。 タンパク質のアミノ酸配列は、エクソン領域だけではなくイントロン領域における変異によっても影響され得るが、遺伝子検査では通常、エクソン及びその近傍数十〜数百塩基程度、例えば30〜50塩基程度のイントロン領域を含めて検査するのが一般的である。本発明でもエクソン及びその近傍のイントロンを対象に配列解析を行えばよい。ゲノム配列の解析により変異を検出する場合には、本願配列表の配列番号4〜38や公知のデータベースから入手可能なCOL4A2遺伝子のゲノム配列を参照して適宜プライマーを設計し、ゲノムDNA試料を用いて常法によりシークエンシングを行えばよい。対象生体ゲノムDNA上のCOL4A2遺伝子の塩基配列を決定し、これを野生型配列と比較することにより、変異を詳細に同定できる。決定した塩基配列は、例えばSeqScape (登録商標) 等の公知のソフトウェアを用いて解析することにより、変異の検出やプロファイリングを容易に行うことができる。 変異がホモかヘテロかは、シークエンスの波形データから確認できる。ヘテロ変異がある場合、同一部位に2種類のシグナルが重なることになる。 本発明で対象となるCOL4A2遺伝子変異は主としてヘテロ変異であるため、ヘテロ二本鎖の検出によりCOL4A2遺伝子変異のスクリーニングを行なうことが有効である。ヘテロ変異が存在する場合、ゲノムDNA試料を熱変性後に再会合させることにより、正常型DNAと変異DNAとがハイブリダイズしたヘテロ二本鎖が生じる。ヘテロ二本鎖は、(1)非変性ポリアクリルアミドゲル中で異なる移動度を示す、(2)ミスマッチ部分の塩基は化学物質や酵素による切断を受けやすい、(3)変性の際に異なる変性温度を示す、といった特性を有する。これらの特性を利用してヘテロ二本鎖を検出する方法がこの分野において公知であり、変異の検査方法として実用化もされている。具体的には、例えば、変性高速液体クロマトグラフィー(dHPLC)を用いてヘテロ二本鎖を検出する方法や、High Resolution Melt法が知られている。 High Resolution Melt法とは、二本鎖DNAに高密度で結合する蛍光色素(SYTO(登録商標)9, LC Green(登録商標), EvaGreen(商標)等)を用いて、二本鎖DNAの融解(熱変性)の過程を蛍光強度の変化としてとらえ、ヘテロ二本鎖を検出する方法である。すなわち、二本鎖DNAに高密度で結合する蛍光色素を用いて二本鎖DNAを染色すると、該二本鎖DNAを融解(熱変性)させたとき、二本鎖が解離した部位から蛍光色素が脱落するため、二本鎖DNAからの蛍光シグナルの量が減少する。従って、そのような蛍光色素を用いることで、二本鎖DNAの熱変性の過程を蛍光強度の変化として視覚的にとらえることができる。温度−蛍光のデータを高密度で取得し解析することで、ヘテロ二本鎖の検出を迅速に高感度で行うことができる。市販の機器類及びキット等を用いて容易に実施可能である。使用するプライマーは、本願配列表に記載したCOL4A2遺伝子のエクソン+近傍イントロン領域の配列に基づいて適宜設計可能である。下記実施例には、High Resolution Melt法によるCOL4A2遺伝子変異のスクリーニングに使用できるプライマー及び反応条件の一例を示す。 本発明では、COL4A2遺伝子のエクソン+近傍イントロン領域の全ての塩基配列を決定し、変異の有無を調べてもよい。また、例えば、ヘテロ二本鎖の検出により塩基配列を決定すべき領域を絞り込み、その後に対象領域の塩基配列を決定することで、検査をより効率的に実施することができる。 配列表に示されたCOL4A2遺伝子のcDNA配列、ゲノム配列、及びコードするCOL4A2タンパク質のアミノ酸配列は、正常なCOL4A2配列の典型例である。本発明では、変異の有無は、配列表に示されたCOL4A2遺伝子の配列を基準とし、この基準配列との対比により判断され得る。アミノ酸配列に変化を生じるCOL4A2遺伝子の変異であれば、孔脳症及び脳出血の病因変異であると考えることができるが、中でも、進化的に保存性の高いアミノ酸を変化させる遺伝子変異は、正常な機能が損なわれたCOL4A2タンパク質、例えばα1α1α2ヘテロトリマーを質的ないし量的に正常に形成できないCOL4A2タンパク質を生じる蓋然性が高く、孔脳症及び脳出血の病因変異の典型例である。種々の動物のCOL4A2タンパク質(IV型コラーゲンα2鎖)の配列が公知であり、GenBank等の各種データベースに登録されているので、当業者であれば容易に配列情報を入手して常法により各アミノ酸の進化的保存性を調べることができる。進化的に保存されたアミノ酸残基の変異の代表例としては、ヘテロトリマーの三重らせんドメインであるGly-Xaa-Yaaリピート(Xaa, Yaaは同一又は異なる任意のアミノ酸残基)中のGlyを置換させる変異が挙げられる。あるいはまた、検出された塩基の変異が、多数の健常者集団には認められない変異であったり、NCBIのdbSNPや1000 Genomes Project等の塩基配列の多様性に関する周知のデータベースに登録されていないまれな塩基変異である場合も、本発明で指標となる病因変異と考えて差し支えない。 ある遺伝子中の変異が病原性変異であるか否かを調べることができる各種の予測ツールが知られている。例えば、SIFT (http://sift.jcvi.org/)、PolyPhen (http://genetics.bwh.harvard.edu/pph/)、PolyPhen-2 (http://genetics.bwh.harvard.edu/pph2/)、Mutation Taster (http://neurocore.charite.de/MutationTaster/index.html)、Align GVGD (http://agvgd.iarc.fr/agvgd_input.php)などが知られている。本発明の方法を実施し、COL4A2遺伝子の変異が検出された場合において、その変異が病原性変異であるかどうかに疑義があるときは、このような公知の予測ツールを用いて病原性変異であるかどうかを判断してもよい。SIFTでは、スコア0.05未満の場合、置換はintolerant(タンパク質機能変化に影響あり)と予測される。PolyPhenでは、スコア2.0を超えた場合、病原性と予測される。PolyPhen-2では、スコア0.000 (良性の可能性が最も大) 〜0.999 (有害の可能性が最も大)でスコア付けされ、スコアをもとにした判定がpossiblyあるいはprobably damagingであるときに、病原性変異が強く示唆される。Align GVGDでは、Class C0 (可能性小) 〜Class C65 (可能性大)の範囲でクラススコア評価され、クラススコアC55以上のCOL4A2変異であれば病原性変異が示唆される。 表2に示した変異は、実施例において血縁関係のない2家系からそれぞれ同定された2種の孔脳症及び脳出血の病因変異である。これらの変異は、いずれもGly-Xaa-Yaaリピート中の進化的に保存されたGly残基における置換変異であり、多数の日本人健常者集団には発見されず、上記予測ツールを用いた評価で病原性の変異であることが強く示唆された変異であった。もっとも、これら2種の変異は本発明で指標となるCOL4A2遺伝子変異の一例であり、当該2家系以外の家系には当然ながら異なる病原性変異が存在し得るので、本発明の範囲はこれらの具体例に限定されるものではない。 両親の少なくとも一方に1又は複数のCOL4A2遺伝子変異が発見された場合、その胎児に該変異が遺伝している可能性があるため、胎児が孔脳症又は胎児期〜周産期脳出血を生じるリスクが通常よりも高いと予測することができる。胎児の遺伝子を調べる出生前診断法も公知であり既に実用化されているため、所望により、胎児自身が実際に親から遺伝した又はde novoで生じたCOL4A2遺伝子変異を有するかどうかを調べてもよい。孔脳症又は胎児期〜周産期脳出血のリスクが懸念される場合、経膣分娩は胎児に物理的ダメージを与え脳出血を惹起し得るので、周産期脳出血の回避のために帝王切開を積極的に選択することが有効である。このように、本発明は安全な出産法の選択に活用することができる。 また、出生後の健常な対象生体にCOL4A2遺伝子変異が発見された場合、COL4A2遺伝子は血管の脆弱性に関わる遺伝子であるため、その対象生体はCOL4A2遺伝子変異を有しない健常者よりも脳出血のリスクが高いと考えられる。この場合は、生活習慣や食生活に十分に留意する等、出血性の脳血管疾患の予防を重視すべきである。本発明は、成人の脳出血予防にも活用することができる。 以下、本発明を実施例に基づきより具体的に説明する。もっとも、本発明は下記実施例に限定されるものではない。 日本人孔脳症患者35名において、COL4A2遺伝子変異をスクリーニングした結果、2名の患者(患者1、2)において、Gly-Xaa-Yaaリピート中のGly残基の置換が同定された。臨床情報及び末梢血サンプルは、書面によるインフォームドコンセントを得た後に患者家族員より得た。実験プロトコルは横浜市立大学医学部の施設内審査委員会に承認された。 患者1は7歳齢であり、近親婚ではない健常な両親から生まれた(図1A、矢印)。妊娠31週時点で出生前超音波検査により右側脳室の拡大が確認されたため、妊娠36週で計画的な帝王切開により出生。アプガースコアは、1分後9点、5分後10点。体重2,900 g (+1.09 SD) 、頭囲32.5 cm (+0.05 SD)。初期発達は遅延し、左手が不自由、脚の動きに異常があった。6ヶ月齢での脳MRIにより、右側脳室の拡大を認めた。突発的な嘔吐・悪心及びこれに続く動作停止が生後10ヶ月で発生。脳波(EEG)は右前頭部に焦点性棘波を認め、12ヶ月でカルバマゼピン治療を開始。リハビリテーションは10ヶ月で開始。寝返り12ヶ月、這い這い18ヶ月、独歩3歳。痙性三肢麻痺(両麻痺及び左片麻痺)あり、片側・両側麻痺歩行を呈する。発語は流暢で言語理解は正常。5歳時に痙性不全麻痺に起因する足部変形の整形手術。EEGは右後頭部〜後側頭葉部及び中間中心部に棘波を認めた。6歳時の脳MRIにより、右側脳室の拡大、右前頭部白質の容量低下、及び右大脳脚と脳梁体の萎縮を認めた(図2A〜C)。6歳時にWISC-IIIで評価したIQ値は74であった(動作性IQ69、言語性IQ82)。現在患者1は7歳齢であり、地元の学校に通学している。短下肢装具及びハンドアシストを用いて歩行可能。カルバマゼピンとクロバザムによりてんかんを良好にコントロールしている。なお、母方の伯父には歩行に補助具を要する先天性の左片麻痺があり、また母方の大おじにも先天性の片麻痺があった。このことは、家系内に遺伝的素因が存在することを示唆している(図1A)。 患者2は1歳4ヶ月であり、近親婚ではない健常な両親から生まれた(図1B、矢印)。妊娠35週で出生。出生時の体重1,694g (-2.36 SD)、頭囲29 cm (-1.77 SD)。軽度の仮死状態であり、アプガースコアは1分後3点、5分後7点。生後6時間の超音波検査により、左側脳室の拡大とともに右大脳半球に実質性出血を認めた。血液検査の結果、Dダイマーの上昇はなかったがプロトロンビン時間(29.3秒)と活性化部分トロンボプラスチン時間(104.3秒)の有意な増大が確認されたため、新鮮凍結血漿を12日間連日投与した。側脳室の拡大が進行するため、生後37日で脳室−腹腔シャント(V-Pシャント)手術を行なった。2ヶ月齢でのCTにより、側脳室の左右対称性の拡大と前頭部白質の左右対称性の極度の容積低下を認めた(図 2D-F)。血液凝固は7ヶ月齢で正常化した。7ヶ月で頚定・寝返りいずれも見られず、異常姿位と左優位の痙性四肢麻痺を呈した。リハビリテーションの結果、全視野における追視、あやし笑い、不完全な頚定あり。痙縮は改善したが、四肢遠位の共同随意運動とともに深部腱反射亢進を認めた。1歳時のEEGではてんかん発射を認めず。現在の発達指数は20未満。患者2の姉は生後2日に脳室内出血が発見され、V-Pシャントを施行した。姉の発達はほぼ正常であり、内斜視を認めた。不運にも4歳で事故死したため、姉のDNAサンプルは入手不能であった(図1B)。 ゲノムDNAは常法により末梢血白血球から分離した。変異スクリーニングのためのDNAは、illustra GenomiPhi V2 DNA Amplification Kit (GE Healthcare, 英国バッキンガムシャー州)により増幅した。患者1の家族員のDNAは、Oragene (DNA Genotek Inc., カナダ国オンタリオ州) を用いて唾液サンプルより分離した。 まず、COL4A2遺伝子コード領域全長 (GenBankアクセッション番号NM_001846.2) をカバーするエクソン2〜48を、High resolution melting曲線 (HRM) 解析又はダイレクトシークエンシング(エクソン46について)により調べた。リアルタイムPCR及びそれに続くHigh resolution melting解析はRoterGene-6000 (Corbett Life Science) を用いて12μlの反応系で行なった。反応液の組成は、エクソン2/3/7/13/24/42/46/47/48については30 ng DNA, 0.3 μM each primer, 0.4 mM each dNTP, 1.5 μM SYTO9, 1× PCR Buffer for KOD FX and 0.3 U KOD FX polymerase、その他のエクソンについては30 ng DNA, 0.25 μM each primer, 1.5 μM SYTO9,1× HotStarTaq-plus mastermixの組成とした。HRM及びシークエンシングの際に使用したPCRプライマー及び反応条件を表3に示す。 HRM解析で異常な融解曲線パターンを示したサンプルについて配列決定を行なった。PCR産物をExoSAP-IT (GE healthcare)で精製後、BigDye Terminator chemistry version 3 (Applied Biosystems)を用いてサイクルシークエンス反応を行なった。反応物はSephadex G-50 (GE healthcare) とMultiscreen-96 (Millipore)を用いてゲル濾過にて精製し、ABI Genetic Analyzer 3100 (Applied Biosystems)でシークエンスを得た。得られたシークエンスは、SeqScape version 2.1.1 software (Applied Biosystems)を用いて変異の有無について解析を行なった。変異が認められたサンプルに関しては、ゲノムDNAを鋳型として用いて再度配列解析を行ない、ゲノムDNA上での変異を確認した。 その結果、患者1でc.3455G>A (p.G1152D)、患者2でc.3110G>A (p.G1037E) という2種類のヘテロ接合変異が同定された。いずれの変異もGly-Xaa-Yaaリピート中の進化的に保存されたGly残基で生じており (図1D)、この2種の変異がコラーゲンIV α1α1α2ヘテロトリマーを変化させ得ることが示唆された。これらの変異は日本人健常コントロール200例には発見されず、インターネットの予測ツールを用いた評価によると、これらの置換変異が病原性であることが強く示唆された(表4)。 患者1のc.3455G>A変異は、無症候の患者母及び母方の祖父、並びに先天性の左片麻痺のある母方のおじにも認められた(図1A及びB)。従って、c.3455G>A変異は不完全浸透度の優性病原性変異であると考えられる。患者2のc.3110G>A変異は両親には認められず、de novo変異であった (図1C)。 生体から分離された試料に対して実施する方法であって、対象生体のCOL4A2遺伝子に少なくとも1つの変異が存在するか否かを調べることを含み、COL4A2遺伝子の少なくとも一方のアレルに少なくとも1つの変異がある場合に孔脳症又は脳出血のリスクが高いと予測される、孔脳症又は脳出血のリスクを予測する方法。 前記対象生体が出生後のヒト又はヒト胎児である請求項1記載の方法。 ヒト胎児が孔脳症又は胎児期〜周産期脳出血を生じるリスクを予測する方法である請求項2記載の方法。 ゲノムDNA試料を用いてゲノム配列を調べることにより行なわれる請求項1ないし3のいずれか1項に記載の方法。 前記少なくとも1つの変異は、ミスセンス変異、ナンセンス変異、フレームシフト変異、インフレーム欠失及び挿入変異、スプライシング異常を生じる変異、並びにCOL4A2遺伝子領域の全体若しくは一部を欠失する変異からなる群より選択される少なくとも1つである請求項1ないし4のいずれか1項に記載の方法。 前記少なくとも1つの変異は、COL4A2タンパク質中のGly-Xaa-Yaaリピート(ここで、Xaa及びYaaは同一又は異なる任意のアミノ酸を示す)中のグリシンの置換を生じる変異である請求項5記載の方法。 前記少なくとも1つの変異が、下記(1)及び(2)からなる群より選択される少なくとも1つである請求項6記載の方法。(1) COL4A2遺伝子コード領域の第3455位のG(配列番号31中の第301位)がAになる変異(2) COL4A2遺伝子コード領域の第3110位G(配列番号28中の第385位)がAになる変異 要約 日本人孔脳症患者35名においてCOL4A2遺伝子変異を鋭意スクリーニングした結果、COL4A2遺伝子が家族性及び孤発性の孔脳症の原因遺伝子であることが明らかとなった。孔脳症患者及び健常者の双方で同一のCOL4A2遺伝子ヘテロ変異が発見され、該病因変異は不完全浸透度の優性遺伝と考えられる。COL4A2遺伝子変異を有する生体は孔脳症又は脳出血が生じるリスクが高いと予測することができる。配列表20130730A16333全文3 生体から分離された試料に対して実施する方法であって、対象生体のCOL4A2遺伝子の少なくとも一方のアレルに、孔脳症又は脳出血高リスクの指標となる下記の変異が存在するか否かを調べることを含む、孔脳症又は脳出血のリスクを予測する方法。(1) COL4A2遺伝子コード領域の第3455位のG(配列番号31中の第301位)がAになる変異(2) COL4A2遺伝子コード領域の第3110位のG(配列番号28中の第385位)がAになる変異 前記対象生体が出生後のヒト又はヒト胎児である請求項1記載の方法。 ヒト胎児が孔脳症又は胎児期〜周産期脳出血を生じるリスクを予測する方法である請求項2記載の方法。 ゲノムDNA試料を用いてゲノム配列を調べることにより行なわれる請求項1ないし3のいずれか1項に記載の方法。


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