タイトル: | 公開特許公報(A)_ワックス状組成物及びその製造方法 |
出願番号: | 2012077731 |
年次: | 2015 |
IPC分類: | C07C 1/207,C07C 9/22,A61K 8/31,A61K 47/06,C07B 61/00 |
小林 達弥 水岡 孝則 JP 2015110524 公開特許公報(A) 20150618 2012077731 20120329 ワックス状組成物及びその製造方法 日清オイリオグループ株式会社 000227009 志賀 正武 100064908 高橋 詔男 100108578 渡邊 隆 100089037 鈴木 三義 100094400 村山 靖彦 100108453 小林 達弥 水岡 孝則 C07C 1/207 20060101AFI20150522BHJP C07C 9/22 20060101ALI20150522BHJP A61K 8/31 20060101ALI20150522BHJP A61K 47/06 20060101ALI20150522BHJP C07B 61/00 20060101ALN20150522BHJP JPC07C1/207C07C9/22A61K8/31A61K47/06C07B61/00 300 24 OL 20 4C076 4C083 4H006 4H039 4C076AA06 4C076DD34A 4C076FF04 4C083AC011 4C083CC01 4C083FF01 4H006AA02 4H006AC11 4H006AD17 4H006BA21 4H006BA30 4H006BA61 4H006BA68 4H006BC31 4H006BE20 4H039CA19 4H039CB10 4H039CG10 本発明は、ワックスの代替物として好適なワックス状組成物及びその製造方法に関する。 近年の目まぐるしい産業の発展において、身の回りにはさまざまな化学構造を有する工業製品が用いられている。中でも、原油を素原料とする炭化水素系化合物は、石油産業の発展とともに、数々の加工法、形態、組成のものが流通しており、極めて身近な産業資材に汎用されている。なかでもパラフィン系炭化水素と称される化合物は、主として原油を沸点や融点などの差で分離精製・分画したものであり、液状の流動パラフィン、固体状のパラフィンワックス、主としてそれらの蒸留残渣であるペトロラタムなどに分類される。これらのパラフィン系炭化水素と称される素材は、その製造スケールが巨大であることから、非常に安価に供給されるため、食品、化学産業品、医薬品、化粧料の業界において好んで使用される素材のひとつである。種々の業界において、例えば、液状の流動パラフィンは潤滑油や化粧料の基材油として用いられ、固形のパラフィンワックスは離型剤、成形性向上剤、艶出し剤、防水・撥水剤や製品に形態を付与するための基材として用いられる。さらに、液状と固形の中間の形状を示し、日本においてワセリンとして知られるペースト状炭化水素であるペトロラタムは、医薬品における軟膏基材や工業製品の離型剤・潤滑剤として用いられる。 パラフィン系炭化水素は、数多くの化合物群を含む原油中から目的とする画分を蒸留などの操作で取り出すため、一般的に目的とする物性(例えば、沸点・融点)以外の共雑物を含むことが知られている。特に、パラフィン系炭化水素の中で、固体成分として知られるパラフィンワックスは、石油原油を常圧蒸留した残渣を、更に真空蒸留又は溶剤分別を行って得られる成分であり、炭素数16〜50程度の主とした直鎖の炭化水素からなる。このため、パラフィンワックスも数多くの化合物の混合物であり、例えば、パラフィンワックスの代表として知られているパラフィン155Fには主融点である炭素数36の炭化水素化合物の前後に5〜10程度の共雑物を含むのが一般的である。このため、原油から精製されたパラフィン系炭化水素を種々の用途として用いる際には、原油を起源とすることに起因する不純物や共雑物の存在によって、いくつかの不具合が生じてしまう。 例えばパラフィンワックスが離型剤として用いられる場合、前述の通り、目的とする融点より低い融点の成分を含む場合が多く、これらの成分が固体性に影響を及ぼし、結果として離形性に大きな影響を与えることが知られている。 また、パラフィンワックスがツヤ出し剤として用いられる場合には、成分組成の違いにより、結晶性が変化し光学特性が影響を受けることが知られている。 パラフィンワックスが防水・撥水剤として用いられる場合、目的としない低融点成分が含まれることにより結晶径の違いを生じる結果、撥水性が低下することや、耐熱性の低下などの理由により防水性を低下させることも知られている。 また、パラフィンワックスを化粧料である口紅に成形性向上剤や形態付与剤として配合する場合、一般的には数多くの化粧料用パラフィンワックスの中から一つないし複数が選定される。口紅は、一般的にパラフィンワックス以外の多く油剤、顔料などの素材を混合・加熱により溶融した後、金型などに流し込み、金型ごと冷却・固化により成型される。これらワックスや油剤の混合物は、冷却速度により結晶サイズが変化することが知られている。この結晶サイズは、固化後の口紅表面の平滑性、すなわち工業製品としての外観に大きく影響を与える。このことから、パラフィンワックスの選定の際には、溶融時に適度な温度で溶融し、さらに成型時にも適度な温度で固化するものが選ばれる。 さらに、口紅は流通の過程で低温〜高温の幅広い温度帯を経由する場合が多い。特に、流通中における高温時の輸送においては、先述のワックスの融点が適切でないと、ワックス成分が溶融し型崩れをおこしたり、口紅中に含まれる油剤やワックス液状化した成分が滴状になり表面に析出する「発汗」と呼ばれる現象を生じたりする。このような背景から、口紅の安定性においては、パラフィンワックスは高融点のものが好まれる。 一方で、口紅は人の体の中でも感触に敏感と言われる口唇に塗布されるものである。このことから、ワックスの融点が高すぎると、その塗布感が非常に硬く感じられ、使用感が悪くなるだけではなく、本来の目的である口唇に対する着色性も低下する。このことから、口紅の使用感においては、パラフィンワックスは比較的低融点のものが好まれるのが一般的である。 前述のような理由から、パラフィンワックス類の選定時には、融点をパラメーターとして、使用感を損なわない低融点性と、安定性に優れた高融点性の成分が含まれるものが選ばれるが、それらにも少なからず目的以上の低融点もしくは高融点の成分が存在する。このことは、時に調合した口紅の安定性や使用感を大きく低下させる可能性がある。 パラフィンワックスをヘアワックスなど、特に乳化系の整髪剤に用いる際には、前述した流動パラフィンと同様にこれら炭化水素の構成成分の違いによって、乳化に必要な界面活性剤の親水親油バランス(一般的にはHLBと称する)が異なるため、化粧料の安定性にも大きな影響を与えることが知られている。 一方で、これら炭化水素素材を用いた産業資材には、その製造過程における環境負荷が少ないことも、昨今の世界的な趨勢として求められている。例えば、これら炭化水素素材を用いた産業資材には、原料が化石燃料由来であるよりも植物由来又は微生物発酵由来であるものの方が、製造過程における二酸化炭素の排出量が少なく、環境負荷が少ないと考えられている。また、前記産業資材が使用後に排出された際、産業資材の原料が植物由来又は微生物発酵由来であると、河川や土壌中の微生物等によって容易に分解されやすく、環境負荷が少ないと考えられている。さらには、植物や微生物などの現生生物体の構成物質を起源とする産業資源に含まれる炭素は、化石燃料に含まれる炭素とは異なり、その現生生物体が成長過程で光合成により大気中から吸収した二酸化炭素に由来する。そのため、これらの産業資源を使用しても、大気中の二酸化炭素総量の増減には影響を与えないと考えられている(以下、カーボンニュートラルの概念という場合がある)。以上のことから、原料が動植物由来又は微生物発酵由来であるほうが、原油由来のものよりも、産業資材が使用後に環境中に排出された際にも環境負荷が少ないと考えられる。 そこで、より環境負荷の少ない炭化水素素材を製造する方法が幾つか開示されている。例えば、特許文献1には、植物油等の生物由来の原料油を、ケトン化、水素脱酸素化、及び異性化することにより、炭化水素ベースオイルを製造する方法が開示されている。また、特許文献2には、植物性脂肪アルコールを還元的脱ヒドロキシメチル化することにより、炭化水素混合物を得る方法が開示されている。 特表2009−518530号公報特表2010−531809号公報 しかしながら、特許文献1及び2において製造されている生物由来の炭化水素組成物は、いずれも液状組成物であり、ワックス代替物としても利用可能なワックス状組成物を製造することは非常に困難であった。 本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、既存の炭化水素組成物と比較して、目的とする成分以外の共雑物含有量が低減され、成形性、安定性、離形性、撥水性、防水性、アンチブロッキング性に優れ、環境負荷を低減した炭化水素組成物とその製造方法を提供する。 本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、特定の脂肪酸組成からなる脂肪酸組成物を原料とし、当該脂肪酸組成物に対して、脱炭酸的二量化反応を行った後、得られた脂肪族ケトンに対して水素化脱酸素反応を行うことによって、ワックス状の炭化水素組成物が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。 すなわち、本発明のワックス状組成物の製造方法、ワックス状組成物、及びワックス状組成物の使用方法は、下記[1]〜[24]である。[1] 脂肪酸組成が、(1)直鎖脂肪酸の含有量が30質量%以上100質量%以下である、又は(2)直鎖脂肪酸の含有量が25質量%以上30質量%未満であり、かつ2又は3個のカルボン酸を有する25℃で液状の分岐鎖脂肪酸を含有しない若しくは含有量が検出限界以下である、脂肪酸組成物に対して、脱炭酸的二量化反応を行った後、得られた脂肪族ケトンを含む組成物に対して水素化脱酸素反応を行うことを特徴とする、ワックス状組成物の製造方法。[2] 前記2又は3個のカルボン酸を有する25℃で液状の分岐鎖脂肪酸が、2個のカルボン酸を有する炭素数36の分岐鎖脂肪酸及び3個のカルボン酸を有する炭素数54の分岐鎖脂肪酸からなる群より選択される1種以上である、前記[1]のワックス状組成物の製造方法。[3] 2個のカルボン酸を有する直鎖脂肪酸の含有量が、1個のカルボン酸を有する直鎖脂肪酸の含有量の1/2以下である、前記[1]又は[2]のワックス状組成物の製造方法。[4] 前記2個のカルボン酸を有する直鎖脂肪酸が、2個のカルボン酸を有する炭素数4〜10の直鎖脂肪酸である、前記[1]〜[3]のいずれかのワックス状組成物の製造方法。[5] 前記脂肪酸組成物中の1個のカルボン酸を有する直鎖脂肪酸が、炭素数10〜22である、前記[1]〜[4]のいずれかのワックス状組成物の製造方法。[6] 前記脱炭酸的二量化反応が、II族、VII〜XII族の金属原子からなる群より選択される1以上の存在下で行われる、前記[1]〜[5]のいずれかのワックス状組成物の製造方法。[7] 前記脱炭酸的二量化反応が、Mg、Ca、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、及びZnからなる群より選択される1以上の金属の存在下で行われる、前記[1]〜[6]のいずれかのワックス状組成物の製造方法。[8] 前記金属が、酸化物又は水酸化物である、前記[7]のワックス状組成物の製造方法。[9] 脂肪酸組成が、(1)直鎖脂肪酸の含有量が30質量%以上100質量%以下である、又は(2)直鎖脂肪酸の含有量が25質量%以上30質量%未満であり、かつ2又は3個のカルボン酸を有する25℃で液状の分岐鎖脂肪酸を含有しない若しくは含有量が検出限界以下である、脂肪酸組成物と、II族、VII〜XII族の金属原子からなる群より選択される1以上とにより合成された金属石鹸に対して脱炭酸反応を行った後、得られた脂肪族ケトンを含む組成物に対して水素化脱酸素反応を行うことを特徴とする、ワックス状組成物の製造方法。[10] 前記金属石鹸が、2個の直鎖脂肪酸残基と結合したアルカリ土類金属からなる、前記[9]のワックス状組成物の製造方法。ワックス状組成物の製造方法。[11] 前記金属石鹸が、ステアリン酸マグネシウムである、前記[9]又は[10]のワックス状組成物の製造方法。[12] 前記水素化脱酸素反応が、ケトン基を還元してメチレン基にする反応であり、ヒドラジン又は亜鉛アマルガムの存在下で行われる、前記[1]〜[11]のいずれかのワックス状組成物の製造方法。[13] 前記水素化脱酸素反応が、 前記脂肪族ケトンを還元し、脂肪族アルコールを合成するケトンの還元反応と、得られた脂肪族アルコールを、分子内脱水させて不飽和結合を形成させる分子内脱水反応と、 前記分子内脱水反応により不飽和結合が形成された炭化水素を還元し、飽和炭化水素を得る不飽和結合の還元反応と、を有する、前記[1]〜[11]のいずれかのワックス状組成物の製造方法。[14] 前記ケトンの還元反応と前記不飽和結合の還元反応の少なくとも一方が、Pt、Pd、Ni、Cu、Cr、Ru、Rh、Li、Al、B、及びZnからなる群より選択される1以上の存在下で行われる、前記[13]のワックス状組成物の製造方法。[15] 前記分子内脱水反応が、ブレンステッド酸及び/又はブレンステッド塩基の共存下で行われる、前記[13]のワックス状組成物の製造方法。[16] 前記脂肪酸組成物における12C同位体に対する14C同位体の割合が、6×10−13〜1.2×10−12の範囲にある、前記[1]〜[15]のいずれかのワックス状組成物の製造方法。[17] 前記[1]〜[16]のいずれかのワックス状組成物の製造方法により製造され、12C同位体に対する14C同位体の割合が、6×10−13〜1.2×10−12の範囲にあることを特徴とするワックス状組成物。[18] パラフィンワックスの代替物として用いられる、前記[17]のワックス状組成物。[19] 離形性向上剤として用いられる、前記[17]のワックス状組成物。[20] 成形性向上剤として用いられる、前記[17]のワックス状組成物。[21] 艶出し剤として用いられる、前記[17]のワックス状組成物。[22] 防水性又は撥水性の付与剤として用いられる、前記[17]のワックス状組成物。[23] 化粧料に用いられる、前記[17]のワックス状組成物。[24] 脂肪酸組成が、(1)直鎖脂肪酸の含有量が30質量%以上100質量%以下である、又は(2)直鎖脂肪酸の含有量が25質量%以上30質量%未満であり、かつ2又は3個のカルボン酸を有する25℃で液状の分岐鎖脂肪酸を含有しない若しくは含有量が検出限界以下である、脂肪酸組成物に対して、脱炭酸的二量化反応を行った後、得られた脂肪族ケトンを含む組成物に対して水素化脱酸素反応を行うことにより得られたワックス状組成物を、パラフィンワックスの代替物として用いることを特徴とする、ワックス状組成物の使用方法。 本発明のワックス状組成物の製造方法により、特定の脂肪酸組成からなる脂肪酸組成物から、各種産業資材に好適なワックス状の炭化水素組成物を得ることができる。当該方法により得られたワックス状組成物は、原油から精製されたワックス状の炭化水素組成物よりも、不純物や共雑物の含有量を顕著に低減することができ、成形性、安定性、離形性、撥水性、防水性、アンチブロッキング性に優れている。さらに、原料とする脂肪酸組成物を生物由来のものを用いることにより、環境負荷が低減されたワックス状炭化水素組成物を得ることができる。このため、当該方法により得られたワックス状組成物は、主にパラフィンワックスの代替物として好適であり、各種産業資材に汎用することができる。離形性の評価方法を模式的に示した図である。<ワックス状組成物の製造方法> 本発明のワックス状組成物の製造方法は、特定の脂肪酸組成からなる脂肪酸組成物に対して、脱炭酸的二量化反応を行った後、得られた脂肪族ケトンを含む組成物に対して水素化脱酸素反応を行うことを特徴とする。特定の脂肪酸組成からなる脂肪酸組成物を原料とすることにより、ワックス状組成物を得ることができる。 なお、本発明及び本願明細書において、直鎖脂肪酸とは、直鎖状の炭化水素(炭素と水素からなる化合物)であって、1又は2個のカルボン酸を有する化合物をいう。つまり、1個のカルボン酸を有する直鎖脂肪酸は、直鎖状の炭化水素の一方の末端の炭素原子に結合している水素原子のうちの1個がカルボキシル基に置換されている化合物である。2個のカルボン酸を有する直鎖脂肪酸は、直鎖状の炭化水素の両末端の炭素原子がそれぞれ、当該炭素原子に結合している1個の水素原子がカルボキシル基に置換されている。 また、本発明及び本願明細書において、分岐鎖脂肪酸とは、分岐鎖を有する炭化水素であって、1又は複数のカルボン酸を有する化合物をいう。つまり、分岐鎖を有する炭化水素の1又は複数の水素原子が、カルボキシル基に置換されている化合物である。[脂肪酸組成物] 原料として用いる脂肪酸組成物は、下記(1)又は(2)の特性のいずれかを備える脂肪酸組成からなる。(1)直鎖脂肪酸の含有量が30質量%以上100質量%以下である。(2)直鎖脂肪酸の含有量が25質量%以上30質量%未満であり、かつ2又は3個のカルボン酸を有する25℃で液状の分岐鎖脂肪酸を含有しない若しくは含有量が検出限界以下である。 以下、各特性について述べる。 前記脂肪酸組成物は、直鎖脂肪酸の含有量が25質量%以上である。前記脂肪酸組成物中の直鎖脂肪酸の含有量は、25質量%以上であればよく、100質量%であってもよく、25〜60質量%であることが好ましく、25〜50質量%であることがより好ましい。脂肪酸組成物中の直鎖脂肪酸の含有量が25質量%以上であることにより、得られた炭化水素組成物をワックス状とすることができる。直鎖脂肪酸の含有量が低い場合には、製造された炭化水素組成物はペースト状や液状になりやすく、ワックス状組成物を製造することは困難である。 前記脂肪酸組成物に含まれる直鎖脂肪酸は、1種類のみであってもよく、2種類以上であってもよい。また、25℃で液状であってもよく、固体状であってもよく、カルボン酸は1個有していてもよく、2個有していてもよい。さらに、前記脂肪酸組成物に含まれる直鎖脂肪酸は、飽和脂肪酸のみであってもよく、不飽和脂肪酸のみであってもよく、飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸の両方を含んでいてもよい。本発明のワックス状組成物の製造方法では、後述するように最終的には還元反応により、反応組成物中の不飽和結合を飽和結合とするため、原料とする脂肪酸組成物中の飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸の含有割合に関わらず、飽和炭化水素を主成分とするワックス状組成物を得ることができる。 前記脂肪酸組成物に含まれる直鎖脂肪酸としては、炭素数8〜22の1個のカルボン酸を有する直鎖脂肪酸や、炭素数4〜10の2個のカルボン酸を有する直鎖脂肪酸が好ましい。具体的には、1個のカルボン酸を有する直鎖脂肪酸としては、カプリル酸(オクタン酸)、カプリン酸(デカン酸)、ラウリン酸(ドデカン酸)、パルミチン酸(ヘキサデカン酸)、ステアリン酸(オクタデカン酸)、オレイン酸(cis−9−オクタデセン酸)、リノール酸(オクタデカジエン酸)、リノレン酸(オクタデカントリエン酸)、アラキジン酸(エイコサン酸)、エルカ酸(ドコセン酸)、ベヘン酸(ドコサン酸)等が挙げられる。また、2個のカルボン酸を有する直鎖脂肪酸としては、炭素数10のセバシン酸等が挙げられる。本発明においては、前記脂肪酸組成物が、炭素数10〜22の1個のカルボン酸を有する直鎖脂肪酸及び炭素数4〜10の2個のカルボン酸を有する直鎖脂肪酸の両方を含むことが好ましく、炭素数10〜22の1個のカルボン酸を有する直鎖脂肪酸及びセバシン酸を含むことがより好ましい。 本発明においては、前記脂肪酸組成物に含まれる1個のカルボン酸を有する直鎖脂肪酸の含有量は、10質量%以上であることが好ましく、10〜60質量%であることがより好ましく、16〜50質量%であることがさらに好ましく、30〜50質量%であることがよりさらに好ましい。 また、前記脂肪酸組成物としては、2個のカルボン酸を有する直鎖脂肪酸を含むものであることが好ましく、セバシン酸を含むことがより好ましい。セバシン酸を含有する場合、その含有量は1〜15質量%であることが好ましく、1〜10質量%であることがより好ましい。なお、前記脂肪酸組成物が2個のカルボン酸を有する直鎖脂肪酸を含有する場合には、脂肪族ケトン合成の反応効率の点から、2個のカルボン酸を有する直鎖脂肪酸の含有量は、1個のカルボン酸を有する直鎖脂肪酸の含有量の1/2以下であることが好ましい。 但し、前記脂肪酸組成物中の直鎖脂肪酸の含有量が25質量%以上30質量%未満の場合には、当該脂肪酸組成物には、2又は3個のカルボン酸を有する25℃で液状の分岐鎖脂肪酸(以下、「液状分岐鎖のダイマー酸又はトリマー酸」と言うことがある。)が含有されていない、若しくはその含有量は検出限界以下の極微量であることを要する。直鎖脂肪酸の含有量30質量%未満の場合に、液状分岐鎖のダイマー酸又はトリマー酸も含有されている場合には、製造された炭化水素組成物はペースト状や液状になりやすく、ワックス状組成物を製造することは困難である。 液状分岐鎖のダイマー酸又はトリマー酸としては、例えば、炭素数10〜54の2又は3個のカルボン酸を有する分岐鎖脂肪酸が挙げられる。具体的には、炭素数6〜20の1個のカルボン酸を有する不飽和脂肪酸の2分子又は3分子による分子間重合反応によって得られた化合物が挙げられる。液状分岐鎖のダイマー酸又はトリマー酸としては、少なくとも1の分岐鎖構造を有している25℃で液状の脂肪酸であればよく、直鎖不飽和脂肪酸同士が分岐鎖構造を形成するように分子間重合反応することによって得られた化合物であってもよく、分岐鎖不飽和脂肪酸同士が分子間重合反応することによって得られた化合物であってもよい。具体的には、2分子のイソステアリン酸が分子間重合反応することによって得られる炭素数36の二塩基酸(2個のカルボン酸を有する分岐鎖脂肪酸)、3分子のイソステアリン酸が分子間重合反応することによって得られる炭素数54の三塩基酸(3個のカルボン酸を有する分岐鎖脂肪酸)等が挙げられる。 前記脂肪酸組成物は、上記(1)又は(2)の脂肪酸組成を満たす限り、その他の脂肪酸を含有していてもよい。例えば、前記脂肪酸組成物は、1種又は2種以上の分岐鎖脂肪酸を含有していてもよい。 前記脂肪酸組成物に含まれる分岐鎖脂肪酸の炭素原子数やカルボン酸の数は特に限定されるものではなく、例えば、炭素数が5〜54であって、カルボン酸を1〜3個有する分岐鎖脂肪酸が挙げられる。また、前記脂肪酸組成物に含まれる分岐鎖脂肪酸は、飽和脂肪酸のみであってもよく、不飽和脂肪酸のみであってもよく、飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸の両方を含んでいてもよい。 前記脂肪酸組成物は、1個のカルボン酸を有する25℃で液状の分岐鎖脂肪酸(以下、「液状分岐鎖のモノマー酸」ということがある。)を含有していることが好ましい。前記脂肪酸組成物が分岐鎖脂肪酸を含有することにより、得られたワックス状組成物の結晶性を低下させ、柔軟性や粘性を高めることができる。液状分岐鎖のモノマー酸の含有量は、35〜75質量%であることが好ましく、35〜60質量%であることがより好ましい。 液状分岐鎖のモノマー酸としては、例えば、炭素数5〜20の1個のカルボン酸を有する分岐鎖脂肪酸が挙げられる。具体的には、イソ吉草酸(イソペンタン酸)、イソカプロン酸(イソヘキサン酸)、イソエナント酸(イソヘプタン酸)、イソカプリル酸(イソオクタン酸)、イソペラルゴン酸(イソノナン酸)、イソカプリン酸(イソデカン酸)、イソウンデカン酸、イソラウリン酸(イソドデカン酸)、イソトリデシル酸(イソトリデカン酸)、イソミリスチン酸(イソテトラデカン酸)、イソペンタデシル酸(イソペンタデカン酸)、イソパルミチン酸(イソヘキサデカン酸)、イソマルガリン酸(イソヘプタデカン酸)、イソステアリン酸(イソオクタデカン酸、2−ヘプチルウンデカン酸)、イソノナデシル酸(イソノナデカン酸)、及びイソアラキン酸(イソイコサン酸)からなる群より選択される1種以上が好ましく、イソステアリン酸がより好ましい。なお、前記脂肪酸組成物には、液状分岐鎖のモノマー酸を1種類のみ含有していてもよく、2種類以上を含有していてもよい。 前記脂肪酸組成物中の各脂肪酸は、原油から精製されたものであってもよく、水素ガスと炭酸ガスから合成されたものであってもよく、生物由来のもの(動植物由来や酵母発酵物由来のもの)であってもよい。予期せぬ不純物等の混入を抑制し得るため、合成物又は生物由来のものが好ましく、環境負荷の軽減の点から生物由来のものがより好ましい。なお、原油由来の脂肪酸中には14C同位体は含まれていないが、ガスを原料とした合成品や生物由来の脂肪酸には14C同位体が含まれており、12C同位体に対する14C同位体の割合が、6×10−13〜1.2×10−12の範囲にある。 試料の14C含量は、液体シンチレーションスペクトロメータにおいて、計数管中の分解する14C同位体を集計する(リビー計数管法)ことにより、又は加速器質量分析により測定することができる。加速器質量分析(略:AMS)は、核物理分析法を用いて、非常に少量の試料中(ミリグラム範囲)の14C同位体を、ppt〜ppqの範囲(10−12〜10−16)で検出できる。 また、脂肪酸組成物を調整する際には、脂肪酸はそのまま添加してもよく、アルカリ金属塩等の各種塩の状態で添加してもよい。[脱炭酸的二量化反応] 本発明のワックス状組成物の製造方法においては、まず、前記脂肪酸組成物中の脂肪酸に対して、脱炭酸的二量化反応を行い、脂肪族ケトンを得る。本発明において、2分子の脂肪酸の各カルボン酸から脱炭酸し二量化する方法は、特に限定されるものではなく、公知の化学反応を利用して行うことができる。 例えば、炭素数が[n]である脂肪酸2分子から炭素数が[2n]である金属石鹸を合成した後、熱分解により脱炭酸させることによって、炭素数が[2n−1]である脂肪族ケトンが得られる。 金属石鹸の合成は、例えば、アルカリ土類金属や金属を用いたけん化反応により行うことができる。当該金属としては、例えば、II族、VII〜XII族の金属原子からなる群より選択される1以上を用いることができ、Mg、Ca、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、及びZnからなる群より選択される1以上の金属であることが好ましい。また、当該金属は、酸化物又は水酸化物として用いることがより好ましい。本発明においては、特に酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、酸化亜鉛、水酸化亜鉛等を用いることが好ましい。 金属石鹸の熱分解の温度や反応時間は、脱炭酸反応が生じるために充分な温度・時間であれば特に限定されるものではない。例えば、金属石鹸を、140〜400℃、好ましくは160〜340℃で、5〜30時間、好ましくは10〜24時間加熱することにより、脱炭酸させることができる。 なお、本発明のワックス状組成物の製造方法においては、前記脂肪酸組成物から金属石鹸を合成する工程を省略することもできる。すなわち、原料として前記脂肪酸組成物を用いて脱炭酸的二量化反応を行う替わりに、金属石鹸を原料とし、当該金属石鹸を熱分解により脱炭酸させることにより、後の水素化脱酸素反応に用いる脂肪族ケトンを得てもよい。原料として用いる金属石鹸は、脂肪酸残基の組成が、前記脂肪酸組成物をけん化して得られる金属石鹸と同様となるものを用いる。具体的には、前記脂肪酸組成物と、II族、VII〜XII族の金属原子からなる群より選択される1以上とにより合成された金属石鹸が挙げられ、2個の直鎖脂肪酸残基と結合したアルカリ土類金属からなる金属石鹸であることが好ましい。例えば、前記脂肪酸組成物としてステアリン酸のみからなる組成物を用い、マグネシウムを用いたけん化反応を行い、得られた金属石鹸(ステアリン酸マグネシウム)を熱分解する替わりに、ステアリン酸マグネシウムを直接原料とし、これを熱分解してもよい。[水素化脱酸素反応] 前記脱炭酸的二量化反応によって得られた脂肪族ケトンを含む組成物に対して水素化脱酸素反応を行うことにより、飽和炭化水素を主たる成分とするワックス状組成物を得る。水素化脱酸素反応は、前記脂肪族ケトンのケトン基をメチレン基にし得る反応であれば特に限定されるものではなく、公知の化学反応を適宜組み合わせて行うことができる。 水素化脱酸素反応は、ウォルフ・キッシュナー還元や、クレメンゼン還元等のように、脂肪族ケトン中のケトン基を直接還元してメチレン基にする還元反応であってもよい。ウォルフ・キッシュナー還元やクレメンゼン還元は、常法により行うことができる。例えば、ウォルフ・キッシュナー還元は、ジメチルスルホキシドやジエチレングリコール等の溶媒に溶解させた脂肪族ケトンに、ヒドラジン及び塩基(例えば、水酸化ナトリウム)を加えて、室温〜200℃で反応させる。また、クレメンゼン還元は、塩酸等の強酸性溶媒に溶解させた脂肪族ケトンに、亜鉛アマルガムを添加し反応させる。その他、水素ガスの存在下、パラジウム触媒を用いた触媒水素化により、脂肪族ケトンを直接還元することもできる。 水素化脱酸素反応は、前記脂肪族ケトンを還元し、脂肪族アルコールを合成するケトンの還元反応と、得られた脂肪族アルコールを、分子内脱水させて不飽和結合を形成させる分子内脱水反応と、前記分子内脱水反応により不飽和結合が形成された炭化水素を還元し、飽和炭化水素を得る不飽和結合の還元反応と、の3段階の反応で行うこともできる。各段階の反応は、従来公知の化学反応により行うことができる。これらの3段階の反応は、一の反応系内で全て連続的に行うこともでき、またこのうちの2段階の反応のみを一の反応系内で同時に行うこともでき、それぞれの反応を別個の反応系で順次行うこともできる。 例えば、脂肪族アルコールを合成するケトンの還元反応(すなわち、カルボニル基の炭素−酸素二重結合を還元して水酸基に変換する反応)や、不飽和結合の飽和結合への還元反応(すなわち、脂肪酸中の炭素−炭素二重結合を還元して炭素−炭素一重結合に変換する反応)は、公知の還元反応により行うことができる。また、両還元反応は、同じ触媒を用いた還元反応で実施してもよく、互いに異なる触媒を用いた還元反応で行ってもよい。本発明においては、Pt、Pd、Ni、Cu、Cr、Ru、Rh、Li、Al、B、及びZnからなる群より選択される1以上を触媒として用い、水素ガスを導入した環境下で還元反応を行うことが好ましい。その他、液体アンモニア存在下で、Liを触媒として用いるバーチ還元を行うこともできる。 また、分子内脱水反応は、脂肪族アルコールを分子内で脱水縮合させる反応であれば特に限定されるものではない。例えば、触媒として、ブレンステッド酸及び/又はブレンステッド塩基を用い、これらの共存下で加温することにより、脱水縮合反応を行うことができる。反応温度や時間は、用いる触媒の種類や反応に供される脂肪族アルコールの量等を考慮して適宜調整することができる。例えば、80〜250℃で1〜10時間反応させることができる。 ブレンステッド酸としては、例えば、活性白土、ゼオライト、アルミナ等の酸触媒が挙げられる。ブレンステッド塩基としては、水酸化アルミニウム、水酸化ナトリウム等が挙げられる。 不飽和結合の飽和結合への還元反応によって、分子内脱水反応により形成された不飽和結合と共に、元々原料とした脂肪酸が有していた不飽和結合や、それ以前の反応で形成されていた不飽和結合も還元される。このため、当該還元反応を充分に行うことにより、不飽和炭化水素の含有量が極微量である、又は飽和炭化水素のみからなる(すなわち、不飽和炭化水素の含有量が、通常の検出方法における検出限界以下である)組成物が得られる。[ワックス状組成物] 本発明のワックス状組成物の製造方法により得られた組成物は、飽和炭化水素を主たる成分とするワックス状(25℃で固形状)である。特に当該ワックス組成物は、原油から製造された従来のパラフィンワックスに比べて、高分子量・高融点の共雑化合物や構造不明な不純物等の含有量が非常に少ないため、成形性、安定性、離形性、撥水性、防水性、アンチブロッキング性に優れている。 当該ワックス状組成物は、特にパラフィンワックスの代替物として、各種製品の原料として好適に用いることができる。例えば、当該ワックス状組成物は、離形性向上剤、成形性向上剤、艶出し剤、防水性又は撥水性の付与剤として好適に用いることができる。 また、当該ワックス状組成物は、化粧料、医薬品、医薬部外品の原料としてそのまま用いることもできる。当該ワックス状組成物を化粧料等の原料の一種として使用する場合、化粧料等中における当該ワックス状組成物の含有量は、0.1〜95質量%にすることができ、0.5〜90質量%が好ましく、1〜80質量%がより好ましい。 当該ワックス状組成物を含有させる化粧料の形態は特に限定されるものではないが、固形化粧料であることが好ましい。固形化粧料としては、口紅、リップクリーム、リップグロス、パウダーファンデーション、スティック状コンシーラー、アイカラーペンシル、クレイワックス、ヘアワックス等が挙げられる。 当該ワックス状組成物を含有させる化粧料、医薬品、医薬部外品には、必要に応じて、化粧料等に一般に用いられる各種成分を配合し、従来公知の方法により製造できる。 例えば、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤、親油性非イオン界面活性剤、親水性非イオン界面活性剤、シリコーン系界面活性剤、天然系界面活性剤、液状油脂、固体油脂、ロウ類、炭化水素油、高級脂肪酸、高級アルコール、エステル油、シリコーン油、粉体、保湿剤、天然の水溶性高分子、半合成の水溶性高分子、合成の水溶性高分子、無機の水溶性高分子、増粘剤、紫外線吸収剤、金属イオン封鎖剤、低級アルコール、多価アルコール、単糖、オリゴ糖、多糖、アミノ酸、有機アミン、合成樹脂エマルジョン、pH調製剤、ビタミン類、酸化防止剤、酸化防止助剤、香料、及び水等を必要に応じて適宜配合させることができる。 以下、具体的な実施例に基づいて、本発明についてさらに詳しく説明する。なお、本発明は、以下に示す実施例の内容に何ら限定されるものではない。[実施例1;ワックス状の炭化水素組成物の合成] 攪拌機、温度計、窒素ガス導入管及び水分分離機を備えた2Lの四つ口フラスコに、局方ステアリン酸マグネシウム[製品名:JPM−100(堺化学社製)]591gを仕込み、320℃で12時間反応させた。反応の進行は、反応混合物の一部を抜出し2N塩酸(和光純薬社製)で中和したものを、キシレンに溶解してガスクロマトグラフィにてステアリン酸のピークが消失したことにより確認した。次いで、原料脂肪酸総量(局方ステアリン酸マグネシウム量)に対し5wt%量のPd/C(シグマアルドリッチ社製)を耐圧性金属容器内に仕込み、ヘッドスペースの空気を減圧下で除去した後、水素ガスを1MPaの圧力で連続的に導入し、240℃で6時間反応させた。一度、Pd/Cと遊離した酸化マグネシウム粉末を濾過にて除去した後、局方ステアリン酸マグネシウム量に対して5wt%量の活性白土を加え、常圧下200℃で6時間反応させた。さらに、活性白土を濾過にて除去した後、2wt%量の酸化ニッケルを仕込み、水素ガスを0.5MPaの圧力で連続的に導入し150℃で6時間反応させた。酸化ニッケルを濾過にて除去し、固体状の炭化水素組成物を312g得た。得られた固体炭化水素組成物の純度はガスクロマトグラフィ[GC−2010 カラム;DB−5HT検出器;FID(株式会社島津製作所社製)]で確認した。[実施例2;ワックス状の炭化水素組成物の合成] 攪拌機、温度計、窒素ガス導入管及び水分分離機を備えた2Lの四つ口フラスコに、ミリスチン酸[製品名:PALMAC98−14(ACIDCHEM社製)]133.6g、パルミチン酸[製品名:PALMAC98−16(ACIDCHEM社製)]300.0g、ステアリン酸[製品名:PALMAC98−18(ACIDCHEM社製)]166.4g、酸化亜鉛(和光純薬社製)95.4g、酸化マグネシウム[製品名:工業用酸化マグネシウム(協和化学工業社製)]4.7gを仕込み、280℃で10時間反応させた。反応の進行は、反応混合物の一部を抜出し2N塩酸(和光純薬社製)で中和したものを、キシレンに溶解してガスクロマトグラフィにて脂肪酸のピークが消失したことにより確認した。生成した酸化亜鉛と酸化マグネシウムを濾過にて除去後、408gの白色固体の脂肪族ケトン混合物を得た。この白色固体を無水ジエチルエーテルに溶解させ、アルゴン雰囲気下で水素化アルミニウムリチウム(関東化学工業社製)38gを加え1時間反応させた。ガスクロマトグラフィでケトン化合物のピークが消失したことを確認し、酒石酸カリウムナトリウムの飽和水溶液を徐々に添加した後、1時間攪拌を行った。水層を分液後に減圧下で溶媒を留去し、白色固体状のアルコール組成物を405g得た。当該アルコール組成物に5wt%量の活性白土と2wt%量の酸化ニッケルを仕込み、水素ガスを1MPaの圧力で連続的に導入し150℃で6時間反応させた。活性白土と酸化ニッケルを濾過にて除去し、固体状の炭化水素組成物を312g得た。得られた固体炭化水素組成物の純度はガスクロマトグラフィ[GC−2010 カラム;DB−5HT検出器;FID(株式会社島津製作所社製)]で確認した。 実施例2で得られた炭化水素組成物について、熱的性質、成形性、安定性(発汗性)、離形性、撥水性・防水性およびアンチブロッキング性を評価した。なお、比較例1として市販のパラフィンワックス[製品名:155F(日本精蝋製)]を使用した。<示差走査熱量分析計による熱的性質の測定> 各炭化水素組成物の熱的性質を示差走査熱量分析計(DSC)にて測定した。 測定結果を表1に示す。実施例2の炭化水素組成物は、比較例1の炭化水素組成物よりも融解開始温度と融解終了温度の差が小さかった。このことから、低沸点の共雑物の含有量が少ないことが示唆された。<成形性評価及び安定性評価>(成形性評価及び安定性評価試験のサンプル調製) 表2に示す成分を計量し、100℃に加熱したプレートヒーター上で、ガラス棒で攪拌しながら溶解した。溶解した混合物を、100℃のプレートヒーター上で加温した20mm四方、深さ5mmのステンレス製のトレイ5枚に分注した。5枚のうち2枚を25℃の室温に静置したアルミプレートに移し、室温まで急冷・固化させ、これを急冷サンプルとした。残る3枚のうち2枚はプレートヒーターの加熱を停止し、1時間かけて室温まで冷却したものを徐冷サンプルとした。残る1枚は25℃の恒温槽で静置し、安定性評価試験の比較用標品とした。(成形性の評価) 上記で調製したサンプルの表面状態を目視にて確認した。 ◎:凹凸がなく表面は滑らかな状態である。 ○:若干の凹凸があり表面はやや粗い状態である。 △:顕著な凹凸があり表面は粗い状態である。(安定性(発汗性)の評価) 上記で調製したサンプル4つを、庫内温度が20℃と40℃を24時間で1サイクルする恒温庫内に48時間静置した後、庫内温度が40℃の時点でサンプルを庫内から取り出した。取り出した直後の表面状態、及び25℃の室温で1時間静置した後の表面状態の変化を、各サンプルについて目視にて比較用標品と比較した。取り出した直後の表面状態の評価基準; ◎:標品と比較して表面状態に変化はない。 ○:標品と比較して表面に滴状の発汗がやや認められる。 △:標品と比較して表面に滴状の発汗が顕著に認められる。25℃に1時間静置後の表面状態の変化の評価基準; ◎:標品と比較して表面状態に変化はない。 ○:標品と比較して表面の凹凸がやや増加が認められる。 △:標品と比較して表面の凹凸が顕著に増加している。 成形性の評価結果と安定性(発汗性)の評価結果を表3に示す。この結果、実施例2の炭化水素組成物は、比較例1の炭化水素組成物よりも、成形性が良好であり、安定性(発汗性)も良好であった。<離形性、撥水性・防水性およびアンチブロッキング性の評価> 離形性、撥水・防水性およびアンチブロッキング性評価として、ワックス含浸紙におけるテープ剥離性とアンチブロッキング性について評価を実施した。(評価用ワックス含浸紙の調製) ワックス含浸紙は、各炭化水素組成物を100℃で溶解させたワックス溶解液に、市販のA5サイズのPPCコピー用紙(一枚当たりの重量:2.05g)を浸すディップコーティング法にて含浸し、ワックスが固化した後に余剰のワックスをステンレス製のスクレイパーで除去し調製した。(離形性の評価) 図1に、評価方法を模式的に示す。前記で調製したワックス含浸紙から5cm×4cmのテストピース1を作製し、テストピース1の中心部に2cm×6cmのビニールテープ2を貼り付け(図1(A))、圧縮成形機[型式名:AYSR−5(神藤金属工業所製)]にて1MPaの圧力で30分貼付をした。30分経過後、ビニールテープ2のうち、2cm×2cmの部分を残してその他の部分を剥離した(図1(B))。次いで、ビニールテープ2の剥離した部分とテストピース1のビニールテープ2が接着していない部分とを、FUDOHレオメーターの一対のアダプター(3a、3b)にそれぞれ挟み込み(図1(C))、180°剥離応力を以下の条件で測定した。各炭化水素組成物につき4枚のテストピースで測定を実施し、測定の最大応力の平均値を算出した。測定条件;測定機器:FUDOHレオメーター(レオテック社製)アダプター:引張万能型アダプター試料台下降速度:6cm/分ダウンストローク:2cm(撥水性の評価) 撥水性は、調製したワックス含浸紙上に蒸留水(和光純薬社製)を100μL滴下した際に形成される水滴の接触角を接線法にて算出し、初期の接触角とした。さらに、防水性は、撥水性を測定したテストピースを45℃の蒸留水中に1時間浸した後、再度、テストピースと水滴の接触角を測定することにより実施した。(アンチブロッキング性の評価) 調製したワックス含浸紙を5枚重ね、上から150gの重りをのせた状態にて、50℃恒温状態で3日間静置した。3日経過後、重りを除去し、5枚の含浸紙をそれぞれ剥離する際の状態(アンチブロッキング性)を評価した。アンチブロッキング性の評価基準; ○:ブロッキングは認められず5枚の含浸紙は容易に剥離できる。 △:わずかなブロッキングが認められるが5枚の含浸紙は剥離できる。 ×:顕著なブロッキングが認められ5枚のうちで剥離できない含浸紙がある。 最大応力の平均値、初期の水滴の接触角、及び蒸留水中に浸漬後の接触角の測定結果、並びにアンチブロッキング性の評価結果を表4に示す。この結果、実施例2の炭化水素組成物は、比較例1の炭化水素組成物よりも、応力が小さく、離形性に優れていることがわかった。また、初期の接触角はほほ同等であるが、蒸留水中に浸漬後の接触角は、実施例2の炭化水素組成物のほうが比較例1の炭化水素組成物よりも大きく、実施例2の炭化水素組成物が撥水性に優れていることも確認された。さらに、実施例2の炭化水素組成物はアンチブロッキング性も良好であった。[実施例3〜8、比較例1〜7] 原料脂肪酸組成物を表5及び6に示す脂肪酸組成とした以外は、実施例2と同様にして、炭化水素組成物を得た。表5及び6中、「C10」はカプリン酸[製品名:PALMAC 99−10(ACIDCHEM社製)]、「C12」はラウリン酸[製品名:PALMAC98−12(ACIDCHEM社製)]、「C14」はミリスチン酸[製品名:PALMAC98−14(ACIDCHEM社製)]「C16」はパルミチン酸[製品名:PALMAC98−16(ACIDCHEM社製)]、「C18」はステアリン酸[製品名:PALMAC98−18(ACIDCHEM社製)]、「C20」はアラキン酸、「C22」はベヘン酸(アラキン酸/ベヘン酸の混合物[製品名:EDENOR C20−22(コグニス社製)])、「SLFA」は1のカルボン酸を有する直鎖脂肪酸の総量、「C10DA」はセバシン酸[製品名:セバシン酸(小倉合成工業社製)]、「Dimer」は精製ダイマー酸[製品名:EMPOL1012(コグニス社製)]、「iC18」はイソステアリン酸[製品名:PRISORINE 3505(クローダ社製)]、「iFA」は分岐鎖脂肪酸の総量を示す。また「Dimer/iFA」は、分岐鎖脂肪酸の総量に対する精製ダイマー酸の含有割合を示す。 なお、使用した精製ダイマー酸とイソステアリン酸を、GPC (Gel Permeation Chromatography)にて分析したところ、クロマトチャートにおいてダイマー酸の左側にピークは検出されなかった。つまり、使用した精製ダイマー酸とイソステアリン酸には、GPCで検出できるレベルではトリマー酸は含有されていないことが確認された。 この結果、原料脂肪酸組成物中の直鎖脂肪酸含有量(SLFAとC10DAの合計含有量)が25質量%以上であった実施例3〜8の炭化水素組成物は、ワックス状であった。一方で、直鎖脂肪酸含有量が25質量%未満であった比較例2〜4の炭化水素組成物は、液状又はペースト状であった。また、直鎖脂肪酸含有量が25質量%以上30質量%未満であり、かつダイマー酸を含有していた比較例5〜8の炭化水素組成物は、ペースト状であった。 本発明のワックス状組成物の製造方法により得られたワックス状組成物は、成形性、安定性、離形性、撥水性、防水性、アンチブロッキング性に優れており、パラフィンワックス代替物として好適であるため、化粧料、医薬品における軟膏基材、工業用の潤滑剤や離型剤等、様々な工業製品における産業基材として有用である。 1…テストピース(ワックス含浸紙)、W…ワックス、2…ビニールテープ、3a、3b…レオメーターのアダプター。 脂肪酸組成が、(1)直鎖脂肪酸の含有量が30質量%以上100質量%以下である、又は(2)直鎖脂肪酸の含有量が25質量%以上30質量%未満であり、かつ2又は3個のカルボン酸を有する25℃で液状の分岐鎖脂肪酸を含有しない若しくは含有量が検出限界以下である、脂肪酸組成物に対して、脱炭酸的二量化反応を行った後、得られた脂肪族ケトンを含む組成物に対して水素化脱酸素反応を行うことを特徴とする、ワックス状組成物の製造方法。 前記2又は3個のカルボン酸を有する25℃で液状の分岐鎖脂肪酸が、2個のカルボン酸を有する炭素数36の分岐鎖脂肪酸及び3個のカルボン酸を有する炭素数54の分岐鎖脂肪酸からなる群より選択される1種以上である、請求項1に記載のワックス状組成物の製造方法。 2個のカルボン酸を有する直鎖脂肪酸の含有量が、1個のカルボン酸を有する直鎖脂肪酸の含有量の1/2以下である、請求項1又は2に記載のワックス状組成物の製造方法。 前記2個のカルボン酸を有する直鎖脂肪酸が、2個のカルボン酸を有する炭素数4〜10の直鎖脂肪酸である、請求項1〜3のいずれか一項に記載のワックス状組成物の製造方法。 前記脂肪酸組成物中の1個のカルボン酸を有する直鎖脂肪酸が、炭素数10〜22である、請求項1〜3のいずれか一項に記載のワックス状組成物の製造方法。 前記脱炭酸的二量化反応が、II族、VII〜XII族の金属原子からなる群より選択される1以上の存在下で行われる、請求項1〜5のいずれか一項に記載のワックス状組成物の製造方法。 前記脱炭酸的二量化反応が、Mg、Ca、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、及びZnからなる群より選択される1以上の金属の存在下で行われる、請求項1〜6のいずれか一項に記載のワックス状組成物の製造方法。 前記金属が、酸化物又は水酸化物である、請求項7に記載のワックス状組成物の製造方法。 脂肪酸組成が、(1)直鎖脂肪酸の含有量が30質量%以上100質量%以下である、又は(2)直鎖脂肪酸の含有量が25質量%以上30質量%未満であり、かつ2又は3個のカルボン酸を有する25℃で液状の分岐鎖脂肪酸を含有しない若しくは含有量が検出限界以下である、脂肪酸組成物と、II族、VII〜XII族の金属原子からなる群より選択される1以上とにより合成された金属石鹸に対して脱炭酸反応を行った後、得られた脂肪族ケトンを含む組成物に対して水素化脱酸素反応を行うことを特徴とする、ワックス状組成物の製造方法。 前記金属石鹸が、2個の直鎖脂肪酸残基と結合したアルカリ土類金属からなる、請求項9に記載のワックス状組成物の製造方法。 前記金属石鹸が、ステアリン酸マグネシウムである、請求項9又は10に記載のワックス状組成物の製造方法。 前記水素化脱酸素反応が、ケトン基を還元してメチレン基にする反応であり、ヒドラジン又は亜鉛アマルガムの存在下で行われる、請求項1〜11のいずれか一項に記載のワックス状組成物の製造方法。 前記水素化脱酸素反応が、 前記脂肪族ケトンを還元し、脂肪族アルコールを合成するケトンの還元反応と、得られた脂肪族アルコールを、分子内脱水させて不飽和結合を形成させる分子内脱水反応と、 前記分子内脱水反応により不飽和結合が形成された炭化水素を還元し、飽和炭化水素を得る不飽和結合の還元反応と、を有する、請求項1〜11のいずれか一項に記載のワックス状組成物の製造方法。 前記ケトンの還元反応と前記不飽和結合の還元反応の少なくとも一方が、Pt、Pd、Ni、Cu、Cr、Ru、Rh、Li、Al、B、及びZnからなる群より選択される1以上の存在下で行われる、請求項13に記載のワックス状組成物の製造方法。 前記分子内脱水反応が、ブレンステッド酸及び/又はブレンステッド塩基の共存下で行われる、請求項13に記載のワックス状組成物の製造方法。 前記脂肪酸組成物における12C同位体に対する14C同位体の割合が、6×10−13〜1.2×10−12の範囲にある、請求項1〜15のいずれか一項に記載のワックス状組成物の製造方法。 請求項1〜16のいずれか一項に記載のワックス状組成物の製造方法により製造され、12C同位体に対する14C同位体の割合が、6×10−13〜1.2×10−12の範囲にあることを特徴とするワックス状組成物。 パラフィンワックスの代替物として用いられる、請求項17に記載のワックス状組成物。 離形性向上剤として用いられる、請求項17に記載のワックス状組成物。 成形性向上剤として用いられる、請求項17に記載のワックス状組成物。 艶出し剤として用いられる、請求項17に記載のワックス状組成物。 防水性又は撥水性の付与剤として用いられる、請求項17に記載のワックス状組成物。 化粧料に用いられる、請求項17に記載のワックス状組成物。 脂肪酸組成が、(1)直鎖脂肪酸の含有量が30質量%以上100質量%以下である、又は(2)直鎖脂肪酸の含有量が25質量%以上30質量%未満であり、かつ2又は3個のカルボン酸を有する25℃で液状の分岐鎖脂肪酸を含有しない若しくは含有量が検出限界以下である、脂肪酸組成物に対して、脱炭酸的二量化反応を行った後、得られた脂肪族ケトンを含む組成物に対して水素化脱酸素反応を行うことにより得られたワックス状組成物を、パラフィンワックスの代替物として用いることを特徴とする、ワックス状組成物の使用方法。 【課題】既存の炭化水素組成物と比較して、目的とする成分以外の共雑物含有量が低減され、成形性、安定性、離形性、撥水性、防水性、アンチブロッキング性に優れ、環境負荷を低減した炭化水素組成物とその製造方法の提供。【解決手段】脂肪酸組成が、(1)直鎖脂肪酸の含有量が30質量%以上100質量%以下である、又は(2)直鎖脂肪酸の含有量が25質量%以上30質量%未満であり、かつ2又は3個のカルボン酸を有する25℃で液状の分岐鎖脂肪酸を含有しない若しくは含有量が検出限界以下である、脂肪酸組成物に対して、脱炭酸的二量化反応を行った後、得られた脂肪族ケトンに対して水素化脱酸素反応を行うことを特徴とする、ワックス状組成物の製造方法。【選択図】なし