タイトル: | 公開特許公報(A)_ジアセチル生産株のスクリーニング方法 |
出願番号: | 2012076826 |
年次: | 2013 |
IPC分類: | C12Q 1/68,C12N 1/20,A23C 9/123,A23C 19/032,C12N 15/09 |
藤原 ひとみ 原口 由美子 三浦 真理 瀬戸 泰幸 JP 2013202013 公開特許公報(A) 20131007 2012076826 20120329 ジアセチル生産株のスクリーニング方法 雪印メグミルク株式会社 711002926 特許業務法人 もえぎ特許事務所 110000774 藤原 ひとみ 原口 由美子 三浦 真理 瀬戸 泰幸 C12Q 1/68 20060101AFI20130910BHJP C12N 1/20 20060101ALI20130910BHJP A23C 9/123 20060101ALI20130910BHJP A23C 19/032 20060101ALI20130910BHJP C12N 15/09 20060101ALN20130910BHJP JPC12Q1/68 AC12N1/20 AA23C9/123A23C19/032C12N15/00 A 9 OL 13 4B001 4B024 4B063 4B065 4B001AC31 4B001BC14 4B001EC01 4B024AA11 4B024CA04 4B024CA09 4B024CA20 4B024HA12 4B063QA01 4B063QA05 4B063QA18 4B063QQ06 4B063QR32 4B063QR62 4B063QR66 4B063QS25 4B063QX01 4B065AA01X 4B065AC14 4B065BA25 4B065BA30 4B065BB24 4B065BC03 4B065BC11 4B065CA10 4B065CA42 本発明は、乳酸菌株のうち、発酵乳、カッテージチーズ、サワークリームや発酵バター等の香気成分であるジアセチルを生産する菌株をポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって簡便に選択できるスクリーニング方法に関する。また、本発明は、該スクリーニング方法に使用するPCRプライマー、該スクリーニング方法により選抜されるジアセチル生産株および該生産株を使用して製造した飲食品に関する。 ジアセチルおよびアセトインは発酵乳を主原料とする発酵乳製品、例えば発酵乳、カッテージチーズ、サワークリームや発酵バター等において発酵風味の主体となる香気成分である。これらの成分は製品を発酵させる過程でスターター乳酸菌によって生成される。そのため、ジアセチルおよびアセトインの生成量が多いスターター乳酸菌を用いることで、発酵風味が増強された飲食品を得ることができる。 このような乳酸菌のうち、ラクトコッカス・ラクティス(Lactococcus lactis)の一部の菌株は、ジアセチルの産生能が高いことが明らかになっており、これらの菌株は発酵乳製品のスターター乳酸菌として利用されている。 これらのジアセチル生産株は、クエン酸を前駆体としてジアセチルを産生することから(非特許文献1)、クエン酸を添加して発酵を行ったり、菌株におけるクエン酸の利用性を向上したりすることにより、発酵乳製品において、ジアセチルの産生を増強する方法が報告されている(特許文献1、特許文献2)。 クエン酸を前駆体として、ジアセチルを産生する経路では、菌体内へのクエン酸の取り込みが重要である。クエン酸の取り込みを担っているCitrate permease(Cit−P、以下、Cit−Pと示す場合がある)は膜タンパク質であり、プラスミド上にコードされていることが開示されている(非特許文献2)。 また、これまでのジアセチル生産株の選択は、クエン酸代謝に着目した寒天培地(非特許文献3)、または、液体培養物を用いて呈色反応を実施することで行われていた。 一方で、近年、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって特定の微生物を検出する簡便な方法が報告されている(特許文献3)。これまでに実施されているPCRによる菌種同定・菌株識別法は16S rRNA遺伝子に由来する特定遺伝子領域を用いるものが多い。特開平1−148182号特開平3−219884号特開2003−255号Applied and Environmental Microbiology,31,481−486Applied and Environmental Microbiology,61,3172−3176Applied and Environmental Microbiology,39,926−927 特許文献1、2には、クエン酸の添加やクエン酸の利用性を向上することにより、発酵乳製品におけるジアセチルの産生を増強する方法が報告されていたが、あくまでジアセチルの産生能が高い菌株を用いることで発酵風味を増強していたに過ぎない。 非特許文献3に開示されているジアセチル生産株の選択方法は、複雑な組成の培地を調製する煩雑な工程が必要であるうえに、培養から検出まで2日程度の時間がかかる。さらに、菌株に応じた培養条件の設定が必要であった。 特許文献3には、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって特定の微生物を検出する簡便な方法が開示されているが、この検出方法は菌種もしくは亜種を識別するものであり、同菌種間では16S rRNA遺伝子の相同性が高いため、次亜種を識別することは困難である。例えば、この検出方法では、ジアセチルを産生しないラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・ラクチス(Lactococcus lactis subsp. lactis)とジアセチルを生産するラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・ラクチス・バイオバー・ジアセチルラクティス(Lactococcus lactis subsp. lactis biovar.diacetylactis)を区別することが著しく困難である。さらに、菌種を分類するのみでは産業上有益な活性を持つ菌を識別することができなかった。 本発明は、ジアセチルを産生する経路において、菌体内へのクエン酸の取り込みを担う酵素遺伝子を標的として、PCRによって増幅を行うことにより、ジアセチル産生能を有する乳酸菌株を簡便かつ短時間に検出・識別するスクリーニング方法の提供を目的とするものである。 また、本発明は、該スクリーニング方法に使用するPCRプライマーセットの提供を目的とするものである。さらに、本発明は、このスクリーニング方法によって選抜された乳酸菌株と、該乳酸菌株を使用して、従来にない強い発酵風味を持つ飲食品およびその製造方法を提供することを目的とするものである。 上記目的を達成するため、本発明者らは鋭意検討した結果、ジアセチルを生産する経路において、菌体内へのクエン酸の取り込みを担う酵素遺伝子として、Citrate permease(Cit−P)遺伝子に着目した。 本発明において、Cit−P遺伝子の塩基配列におけるジアセチル生産株で保存性の高い領域を増幅し得るプライマーセットを設計し、それらを用いてPCRを行うことでジアセチル生産菌株を簡便に効率よく識別することが可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。 すなわち、本発明は以下の通りである。(1)ラクトコッカス・ラクティス(Lactococcus lactis)、ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・ラクチス(Lactococcus lactis subsp. lactis)またはラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・クレモリス(Lactococcus lactis subsp. cremoris)の一種以上について、Citrate permease(Cit−P)遺伝子の全部または一部を、PCRにより増幅することで、ジアセチルを生産する菌株を検出することを特徴とするジアセチル生産株のスクリーニング方法。(2)Citrate permease(Cit−P)遺伝子の全部または一部を増幅するためのプライマーが配列表配列番号1(F1)で示される塩基配列を含むプライマーと、配列表配列番号2(R1)で示される塩基配列を含むプライマーとの組み合わせからなることを特徴とする上記(1)に記載のジアセチル生産株のスクリーニング方法。(3)Citrate permease(Cit−P)遺伝子の全部または一部を増幅するためのプライマーが配列表配列番号3(F2)で示される塩基配列を含むプライマーと、配列表配列番号4(R2)で示される塩基配列を含むプライマーとの組み合わせからなることを特徴とする上記(1)に記載のジアセチル生産株のスクリーニング方法。(4)Citrate permease(Cit−P)遺伝子の全部または一部を増幅するためのプライマーが配列表配列番号1(F1)で示される塩基配列を含むプライマーと、配列表配列番号4(R2)で示される塩基配列を含むプライマーとの組み合わせからなることを特徴とする上記(1)に記載のジアセチル生産株のスクリーニング方法。(5)Citrate permease(Cit−P)遺伝子の全部または一部を増幅するためのプライマーであって、配列表配列番号1(F1)で示される塩基配列を含むプライマーと、配列表配列番号2(R1)で示される塩基配列を含むプライマーとの組み合わせからなることを特徴とするジアセチル生産株のスクリーニング用プライマー。(6)Citrate permease(Cit−P)遺伝子の全部または一部を増幅するためのプライマーであって、配列表配列番号3(F2)で示される塩基配列を含むプライマーと、配列表配列番号4(R2)で示される塩基配列を含むプライマーとの組み合わせからなることを特徴とするジアセチル生産株のスクリーニング用プライマー。(7)Citrate permease(Cit−P)遺伝子の全部または一部を増幅するためのプライマーであって、配列表配列番号1(F1)で示される塩基配列を含むプライマーと、配列表配列番号4(R2)で示される塩基配列を含むプライマーとの組み合わせからなることを特徴とするジアセチル生産株のスクリーニング用プライマー。(8)ラクトコッカス・ラクティス(Lactococcus lactis)、ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・ラクチス(Lactococcus lactis subsp. lactis)またはラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・クレモリス(Lactococcus lactis subsp. cremoris)の一種以上について、Citrate permease(Cit−P)遺伝子の全部または一部をPCRにより増幅することで、ジアセチルを生産する菌株を検出することを特徴とするジアセチル生産株のスクリーニング方法によって選抜されたジアセチル生産株。(9)上記(8)に記載のジアセチル生産株を使用して製造された発酵風味が増強された飲食品。 なお、上記(5)および(6)のプライマーの組み合わせは、プライマーセットとしてジアセチル生産株を識別するために利用することができる。上記(7)のプライマーの組み合わせは、プライマーセットとして特にジアセチル生産能の高い菌株を識別するために利用することができる。 本発明により、上記(5)〜(7)のプライマーのいずれかを検体に加え、PCRによりCitrate permeaseの部分配列を増幅し、得られた遺伝子断片を検出することによってジアセチル生産株を選抜できるスクリーニング方法を提供することができる。また、該スクリーニング方法によって、選抜されたジアセチル生産株、および該乳酸菌株を使用して製造した飲食品等を提供することができる。 本発明により、乳酸菌株ラクトコッカス・ラクティス(Lactococcus lactis)について、PCRによって短時間かつ簡便にジアセチル生産株を識別することが可能となる。本発明は通常のPCRを用いるため、特殊な技術を必要とせず、精度および再現性がよい。また、目的とする物質の代謝経路に関与する遺伝子を直接検出するため、効率よく産業上有益な菌株を選抜することができる。 本発明のスクリーニング方法は、公知のラクトコッカス・ラクティス(Lactococcus lactis)のCitP遺伝子の塩基配列を標的とし、この全部または一部をPCRで増幅することにより、ジアセチル生産株を選抜できるプライマーを用いることを特徴とする。 このような本発明のスクリーニング方法に用い得るプライマーセットは以下のように設計することができる。<プライマーの設計> Citrate permease遺伝子は、ゲノム上に存在する遺伝子配列と、プラスミド上に存在する遺伝子配列の両方が公開されている。プラスミドは菌体内に複数コピーがあるため発現量が多くなり、効率良くクエン酸を取り込むことができると考えられる。そこでNCBI(National center for Biotechnology Information)の塩基配列データベースに公開されているCitrate permease遺伝子の塩基配列情報のうち、5菌株のプラスミド上に存在するCitrate permease遺伝子の配列(表1)に着目し、検出するプライマーを設計した。得られた塩基配列をDDBJ(DNA Date Bank of Japan)のCLUSTAL W Multiple Sequence Alignments(ver.1.83)を用いてアライメントした。5菌株で保存されていた配列のうち、全ての配列に共通な部分から、通常のPCR条件で増幅可能であり、目的の配列を持つもののみを増幅し、他の領域や目的の配列を持たない菌株では増幅断片が生じないF1(配列表配列番号1)、F2(配列表配列番号2)、R1(配列表配列番号3)、R2(配列表配列番号4)を設計した(表2)。 スクリーニングする検体は乳酸菌培養液をそのままPCRに供してもよく、菌体から核酸を抽出したものを用いてもよい。菌体から目的の核酸を抽出するには、例えば、Lysozyme−SDS法や極東製薬工業株式会社のMORA−EXTRACT等の市販のキットも使用することができ、特に限定されるものではない。 本発明のスクリーニング法におけるPCRならびに増幅産物の検出には通常用いられる試薬および機器を使用することが可能であり、特に限定されるものではない。 これらのPCRプライマーセットにより増幅産物が確認された検体は、クエン酸からジアセチルを産生するタンパク質群をコードするプラスミドを有していると考えられ、ジアセチル産生能を持つと判断できる。 本発明のスクリーニング方法により、ラクトコッカス・ラクティス(Lactococcus lactis)、ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・ラクチス(Lactococcus lactis subsp. lactis)、ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・クレモリス(Lactococcus lactis subsp. cremoris)のジアセチル生産株を取得することができる。 このようなジアセチル生産株のうち、ラクトコッカス・ラクティス(Lactococcus lactis)の菌株としては、SBT1178(FERM P−16429)、SBT1689(FERM P−16430)、ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・ラクチス(Lactococcus lactis subsp. lactis)の菌株としては、NCIMB701007、NCIMB700176、ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・クレモリス(Lactococcus lactis subsp. cremoris)の菌株としては、SBT0905(FERM P−21240)を挙げることができるが、本発明のスクリーニング方法によって選抜されるジアセチル生産株であればよく、特にこれらに限定されるものではない。なお、本発明のスクリーニング方法を用いることにより、ジアセチル生産株を識別することができるし、Citrate permease(Cit−P)遺伝子の全部または一部をPCRによって増幅した特異的なバンドの評価により、ジアセチル生産株を選択することができる。 なお、ジアセチル生産株とは、グルコースの代謝産物のジアセチルおよびアセトインを検出するVoges−Proskauerテスト(VPテスト)により、ジアセチルおよびその代謝産物であるアセトインの産生によって発色が確認できる、また、は、ガスクロマトグラフィーで測定した場合に培養物中のジアセチル量が0.01ppm以上である菌株のことをいう。ジアセチル高生産株とは、VPテストにより、強い発色(赤色)が確認できる、または、ガスクロマトグラフィーで測定した場合に培養物中のジアセチル量が0.5ppm以上、好ましくは1.0ppm以上である菌株のことをいう。 本発明のスクリーニング方法により選抜されたジアセチル生産株を使用して発酵風味が増強された飲食品を製造することができる。飲食品としては、発酵乳、乳酸菌飲料、カッテージチーズ、サワークリームや発酵バター等を挙げることができるが、特に限定されるものではなく、発酵風味を増強することが期待される飲食品に利用することができる。飲食品への利用方法であるが、発酵工程を有する飲食品では、通常の乳酸菌と同様に用いることができるし、原材料の一部として用いることもできる。よって、該飲食品の一般的な製造方法、製造装置を用いて、本発明における飲食品を製造することができる。 以下に本発明の実施例等をあげて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。[実施例1]1.PCRによる特異的検出(F1プライマー/R1プライマー) 以下の菌株について、本発明のプライマーセット(F1プライマーおよびR1プライマー)を用いてPCRを実施した。1)ラクトコッカス・ラクティス(Lactococcus lactis)(1)SBT1178(FERM P−16429)(2)SBT1689(FERM P−16430)2)ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・ラクチス(Lactococcus lactis subsp. lactis)(1)JCM5805T(2)NCIMB701007(3)NCIMB7001763)ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・クレモリス(Lactococcus lactis subsp. cremoris)(1)SBT0905(FERM P−21240)(2)SBT0987(FERM P−21241) 各菌株の培養菌体を用いて、Lysozyme−SDS法によりDNAを抽出した。PCR反応液は、Tris−HCl buffer(pH8.5)、Taq DNA polymerase、400uM dNTP、4mM MgCl2、0.4μM プライマー(F1プライマー/R1プライマー)、20ng/ul程度に希釈したDNA 1μlを入れ、滅菌水で全量を25μlにした。PCRは、94℃3分変性後、94℃20秒、55℃20秒、72℃30秒で30サイクル、最後に72℃10分反応を行った。PCR後、2%のアガロースゲルを用いて電気泳動を行い、エチジウムブロマイド染色によりPCRで増幅した特異的なバンドを検出した。2.VPテストによるジアセチル産生の有無の確認 グルコースの代謝産物のジアセチルおよびアセトインを検出するVoges−Proskauerテスト(VPテスト)を利用して、供試菌株のジアセチルおよびその代謝産物であるアセトインの産生の有無を調べた。 脱脂乳培地に、供試菌株の培養液をそれぞれ3%接種し、30℃(Lactococcus lactis subsp. cremorisは25℃)で16時間、培養した。脱脂乳の培養物を小試験管にとり、α−ナフトール溶液と40%KOHを加えた。試験管をよく振った後、斜めに傾けて、一時間後に溶液の発色を確認し、赤色になったものを陽性とした。3.ジアセチル産生量の確認 脱脂乳培地に、供試菌株の培養液をそれぞれ3%接種し、30℃(Lactococcus lactis subsp. cremorisは25℃)で10時間、静置培養した。ガスクロマトグラフィーを用いて、Kieronczykらの方法(A. Kieronczyk et al, Int Dairy J, 14:227−235)に準じて脱脂乳培養物中のジアセチル量を測定した。 試験結果を表3に示した。(バンド評価) ++:濃いバンド検出(明確にバンドが検出される。バンドの発色が明確であり、染色して検出する際に明確な白色のバンドが認められる。) + :薄いバンド検出(バンドが検出される。バンドの検出が明確であり、染色して検出する際に灰色のバンドが認められる。) − :バンド未検出(VPテスト評価) ++:赤色 + :オレンジ色 − :変化なし(ジアセチル量)ND:検出限界(0.1ppm)以下 表3の結果から、F1プライマーおよびR1プライマーを用いたPCRにより5菌株のcitP遺伝子検出株SBT1178(FERM P−16429)、SBT1689(FERM P−16430)、NCIMB701007、NCIMB700176、SBT0905(FERM P−21240)が得られた。このうちSBT1178(FERM P−16429)、SBT1689(FERM P−16430)、NCIMB701007、NCIMB700176の4菌株は、VPテストにより脱脂乳培養物中にジアセチルおよびアセトインの強い産生が、SBT0905(FERM P−21240)は、ジアセチルおよびアセトインの産生が認められた。表3に示したように、バンド評価で明確なバンドが認められた菌株は、VPテストでも、ジアセチルおよびアセトインの強い産生を示し、バンドの明確さとジアセチルの産生との関係が示唆された。[実施例2]PCRによる特異的検出 F2プライマーおよびR2プライマーを用いて、実施例1と同様にPCRを実施した。結果を表4に示した。 表4の結果から、実施例1と同様に、F2プライマーおよびR2プライマーを用いたPCRにより、5菌株のcitP遺伝子検出株SBT1178(FERM P−16429)、SBT1689(FERM P−16430)、NCIMB701007、NCIMB700176、SBT0905(FERM P−21240)が得られた。このうちSBT1178(FERM P−16429)、SBT1689(FERM P−16430)、NCIMB701007、NCIMB700176の4菌株は、VPテストにより脱脂乳の培養物中にジアセチルおよびアセトインの強い産生が、SBT0905(FERM P−21240)は、ジアセチルおよびアセトインの産生が認められた。[実施例3]PCRによる特異的検出 F1プライマーおよびR2プライマーを用いて、実施例1と同様にPCRを実施した。PCR条件は、ABI PRISM 9700(Applied biosystems)を用いて、94℃3分変性後、94℃20秒、55℃20秒、72℃1分で30サイクル、最後に72℃10分反応を行った。結果を表5に示した。 表5の結果から、F1プライマーおよびR2プライマーを用いたPCRによりSBT1178(FERM P−16429)、SBT1689(FERM P−16430)、NCIM701007、NCIMB700176の4菌株のcitP遺伝子検出株が得られた。検出された全ての菌株について、VPテストにより脱脂乳の培養物中にジアセチルおよびアセトインの強い産生が認められた。従って、この結果より、F1プライマーおよびR2プライマーを用いたPCRにより、ジアセチル生産株の中でも高生産株を効率的にスクリーニング可能であることが確認された。[実施例4]発酵乳の製造 温水8965.5g、脱脂乳900g、無塩バター100g、ゼラチン4g、ペクチン0.5gを入れて攪拌し、溶解して原料ミックスとした。この原料ミックスを均質機で処理後、殺菌し、乳酸菌スターターとしてジアセチル生産株のラクトコッカス・ラクティス(Lactococcus lactis)SBT1178(FERM P−16429)を3%添加して発酵ミックスを調製した。 対照として、同様にラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・ラクチス((Lactococcus lactis subsp. lactis)JCM5805Tを3%添加した発酵ミックスを調製した。 これらの発酵ミックスを、それぞれ30℃で酸度0.8%になるまで発酵させた。 4℃で保存後、製造した発酵乳について、9名のパネラーで官能評価を行った。「発酵風味の強さ」(−2:弱い、−1:やや弱い、0:どちらともいえない、+1:やや強い、+2:強い)「発酵風味の好ましさ」(−2:好ましくない、−1:やや好ましくない、0:どちらともいえない、+1:やや好ましい、+2:好ましい)「おいしさ」(−2:おいしい、−1:ややおいしい、0:どちらともいえない、+1:ややおいしくない、+2:おいしくない)について、5段階で評価を行い、平均点を表6に示した。 表6の結果から、実施例5で製造した発酵乳は、対照品に比べて発酵風味が強く、好ましい評価が得られた。 したがって本発明のスクリーニング方法により得られた菌株を用いることにより、発酵風味が増強されたおいしい発酵乳を製造することができることが確認できた。[実施例5]カッテージチーズの製造 脱脂乳を殺菌し、32℃まで冷却後、ジアセチル産生菌のラクトコッカス・ラクティス(Lactococcus lactis)SBT1178(FERM P−16429)を5%添加した。対照として、同様にラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・ラクチス((Lactococcus lactis subsp. lactis)JCM5805Tを5%添加したものも作成した。レンネット0.1%を添加し、31℃で5時間発酵させた。pH4.6に下がったカードをカッティングし、20分静置後、お湯を入れて徐々に温度を上げた。51℃になったところで20分間おき、ホエーを排除後、水洗したものにドレッシングクリームを混合した。 5℃で保存後、製造したカッテージチーズについて、実施例5と同様に、9名のパネラーで官能評価を行った。「発酵風味の強さ」(−2:弱い、−1:やや弱い、0:どちらともいえない、+1:やや強い、+2:強い)「発酵風味の好ましさ」(−2:好ましくない、−1:やや好ましくない、0:どちらともいえない、+1:やや好ましい、+2:好ましい)「おいしさ」(−2:おいしい、−1:ややおいしい、0:どちらともいえない、+1:ややおいしくない、+2:おいしくない)について、5段階で評価行った平均点を表7に示した。 表7の結果から、実施例6で作成したカッテージチーズは対照品に比べ風味が強く、好ましいとの評価が得られた。本発明のスクリーニング方法により得られた菌株を用いて、発酵乳やカッテージチーズ等のおいしい乳製品を製造することが可能であることが明らかとなった。 本発明によってスクリーニングされたジアセチル生産株を用いることにより、従来にない強い発酵風味を持つ飲食品を製造することが可能となる。このように本発明のスクリーニング方法および該方法によってスクリーニングされた菌株は、発酵バター、発酵乳、チーズ等の乳製品の製造分野において、幅広く利用することが可能である。[寄託生物材料への言及](1)Lactococcus lactis SBT1178イ 当該生物材料を寄託した寄託機関の名称及び住所工業技術院生命工学技術研究所日本国茨城県つくば市東1丁目1番3号(郵便番号305−8566)ロ イの寄託機関に生物材料を寄託した日付平成9年9月17日ハ イの寄託機関が寄託について付した受託番号FERM P−16429(2)Lactococcus lactis SBT1689イ 当該生物材料を寄託した寄託機関の名称及び住所上記(1)に同じロ イの寄託機関に生物材料を寄託した日付平成9年9月17日ハ イの寄託機関が寄託について付した受託番号FERM P−16430(3)Lactococcus lactis subsp. cremoris SBT0905イ 当該生物材料を寄託した寄託機関の名称及び住所独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センター日本国茨城県つくば市東1丁目1番1中央第6(郵便番号305−8566)ロ イの寄託機関に生物材料を寄託した日付平成19年3月6日ハ イの寄託機関が寄託について付した受託番号FERM P−21240(4)Lactococcus lactis subsp. cremoris SBT0987イ 当該生物材料を寄託した寄託機関の名称及び住所上記(3)に同じロ イの寄託機関に生物材料を寄託した日付平成19年3月6日ハ イの寄託機関が寄託について付した受託番号FERM P−21241ラクトコッカス・ラクティス(Lactococcus lactis)、ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・ラクチス(Lactococcus lactis subsp. lactis)またはラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・クレモリス(Lactococcus lactis subsp. cremoris)の一種以上について、Citrate permease(Cit−P)遺伝子の全部または一部をPCRによって増幅することで、ジアセチルを生産する菌株を検出することを特徴とするジアセチル生産株のスクリーニング方法。Citrate permease(Cit−P)遺伝子の全部または一部を増幅するためのプライマーが配列表配列番号1(F1)で示される塩基配列を含むプライマーと、配列表配列番号2(R1)で示される塩基配列を含むプライマーとの組み合わせからなることを特徴とする請求項1に記載のジアセチル生産株のスクリーニング方法。Citrate permease(Cit−P)遺伝子の全部または一部を増幅するためのプライマーが配列表配列番号3(F2)で示される塩基配列を含むプライマーと、配列表配列番号4(R2)で示される塩基配列を含むプライマーとの組み合わせからなることを特徴とする請求項1に記載のジアセチル生産株のスクリーニング方法。Citrate permease(Cit−P)遺伝子の全部または一部を増幅するためのプライマーが配列表配列番号1(F1)で示される塩基配列を含むプライマーと、配列表配列番号4(R2)で示される塩基配列を含むプライマーとの組み合わせからなることを特徴とする請求項1に記載のジアセチル生産株のスクリーニング方法。Citrate permease(Cit−P)遺伝子の全部または一部を増幅するためのプライマーであって、配列表配列番号1(F1)で示される塩基配列を含むプライマーと、配列表配列番号2(R1)で示される塩基配列を含むプライマーとの組み合わせからなることを特徴とするジアセチル生産株のスクリーニング用プライマー。Citrate permease(Cit−P)遺伝子の全部または一部を増幅するためのプライマーであって、配列表配列番号3(F2)で示される塩基配列を含むプライマーと、配列表配列番号4(R2)で示される塩基配列を含むプライマーとの組み合わせからなることを特徴とするジアセチル生産株のスクリーニング用プライマー。Citrate permease(Cit−P)遺伝子の全部または一部を増幅するためのプライマーであって、配列表配列番号1(F1)で示される塩基配列を含むプライマーと、配列表配列番号4(R2)で示される塩基配列を含むプライマーとの組み合わせからなることを特徴とするジアセチル生産株のスクリーニング用プライマー。ラクトコッカス・ラクティス(Lactococcus lactis)、ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・ラクチス(Lactococcus lactis subsp. lactis)またはラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・クレモリス(Lactococcus lactis subsp. cremoris)の一種以上について、Citrate permease(Cit−P)遺伝子の全部または一部をPCRによって増幅することで、ジアセチルを生産する菌株を検出することを特徴とするジアセチル生産株のスクリーニング方法によって選抜されたジアセチル生産株。請求項8に記載のジアセチル生産株を使用して製造された発酵風味が増強された飲食品。 【課題】ジアセチル産生能を有する乳酸菌株をPCRによって簡便かつ短時間にスクリーニングする方法、およびそれにより得られる菌株を提供する。【解決手段】ジアセチルを生成する経路において、菌体内へのクエン酸の取り込みを担う酵素遺伝子を標的としたPCRによって、簡便にかつ効率良くジアセチル生産株をスクリーニングする。この方法により選抜された乳酸菌株を得て、該乳酸菌株を使用することにより、従来にない強い発酵風味を持つ飲食品を製造する。【選択図】なし配列表