タイトル: | 公開特許公報(A)_魚類の塩糠漬けから分離した乳酸菌、その培養物及びその利用 |
出願番号: | 2012076277 |
年次: | 2013 |
IPC分類: | A23B 7/10,C12N 1/20,C12N 1/00,C12N 9/99,A23B 4/22,A23L 1/30,C12N 15/09,C12R 1/01 |
矢野 俊博 小柳 喬 熊谷 英彦 JP 2013202008 公開特許公報(A) 20131007 2012076277 20120329 魚類の塩糠漬けから分離した乳酸菌、その培養物及びその利用 石川県公立大学法人 511169999 岩谷 龍 100077012 矢野 俊博 小柳 喬 熊谷 英彦 A23B 7/10 20060101AFI20130910BHJP C12N 1/20 20060101ALI20130910BHJP C12N 1/00 20060101ALI20130910BHJP C12N 9/99 20060101ALI20130910BHJP A23B 4/22 20060101ALI20130910BHJP A23L 1/30 20060101ALI20130910BHJP C12N 15/09 20060101ALN20130910BHJP C12R 1/01 20060101ALN20130910BHJP JPA23B7/10 BC12N1/20 AC12N1/20 AC12N1/00 PC12N9/99C12N1/20 ZA23B4/00 JA23L1/30 ZC12N15/00 AC12N1/00 PC12R1:01C12N1/20 AC12R1:01 10 OL 29 4B018 4B024 4B065 4B069 4B018MD86 4B018ME06 4B024AA05 4B024AA11 4B024CA01 4B024CA09 4B024CA11 4B024CA20 4B024HA11 4B065AA01X 4B065AA99X 4B065AA99Y 4B065AC02 4B065AC08 4B065BC32 4B065BC34 4B065BC37 4B065CA41 4B065CA44 4B065CA60 4B069AA04 4B069DB04 4B069DB17 本発明は、抗酸化作用、又はアンジオテンシン変換酵素阻害活性能を有する乳酸菌の培養物、該培養物を生成する乳酸菌、及びこれらの利用に関する。より詳細には、前記乳酸菌又はその培養物を含有するアンジオテンシン変換酵素阻害剤、抗酸化剤、該乳酸菌を利用する魚類の塩糠漬けの製造方法等に関する。 石川県能登及び加賀地域では、農産資源、水産資源が豊富であるうえ、年間を通じて豊かで良質な水に恵まれ、高品質なコメが産出される。このため、我が国発酵醸造の源である米麹の生産に適し、それを用いての各種発酵食品の製造に適している。また、夏は高温多湿であり塩漬けの発酵・熟成が促進される。この地方ではこのような状況を活かし、発酵食品が伝統的に多種多様生産されている。その中の一つが、この地方でコンカ漬けと呼ばれる魚類の塩糠漬けである。 加賀・能登地方で広範囲に作られているコンカ漬けは、以下のように製造されている。まず、イワシ、サバ、ブリ、フグなどの魚のはらわたを除いたものを、魚体に対し30〜35重量%の塩とともに1〜2週間漬けた(塩蔵)のち、水切りをする。得られた塩漬けの魚を、樽の中に麹と唐辛子を混ぜた糠(ぬか)とともに積み重ねる。その上に重石をし、1日ぐらい置いたのちに、ふたの上まで、先の塩蔵時の漬け汁を注ぎ込み、6か月〜1年間常温で置き、発酵熟成させる。このようなコンカ漬けの発酵は魚の酵素による自己消化と乳酸菌による乳酸発酵によるもので、これによって保存性が付与され、特有の風味が醸される。図9のBに、一例として一般的なイワシ糠漬け(コンカイワシ)の製造方法を示す。 乳酸発酵とは、乳酸菌が糖を代謝(発酵)してその大部分を乳酸に変える反応である。高塩濃度下での乳酸発酵には、好塩性乳酸菌と呼ばれる乳酸菌がしばしば関与している。好塩性乳酸菌は、10〜30%の塩濃度下でも生存可能であり、漬物や魚醤或いは塩糠漬けなどに存在し、それらの主発酵菌である。そのような乳酸菌としてよく知られている種の1つに、テトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)がある。 乳酸菌は古来より醸造食品や漬物中に多く含まれ、その乳酸発酵により食品に風味を付与してきた。石川県では酒、味噌、醤油等のいわゆる醸造食品の他に、かぶらずし、なれずし等の多くの固有の伝統発酵食品があり、それらに乳酸菌が関与している。乳酸菌が関与する発酵食品中には、様々な生理活性を有する機能性物質が含まれており、乳酸菌が作り出す機能性物質、及びその機能が明らかにされつつある。 例えば、乳酸菌のもつ機能性の一つとして、ある種の乳酸菌の乳酸発酵による抗酸化作用が報告されている(特許文献1及び2)。鉄が酸化によってさびるのと同様に人間の体が酸化状態に置かれることによって細胞が劣化するのを防ぐことを抗酸化作用という。体の細胞が劣化するのは人間が摂取した酸素が体内で変質してできる活性酸素が原因である。活性酸素は体内の毒物や細菌、ウイルスを解毒、消去するために必要だが、活性酸素の量が多いと体内で処理できず正常な細胞まで攻撃してしまう。これが酸化であり、体の細胞が劣化するという現象である。この厄介者の活性酸素を取り除くのが抗酸化物質である。 また、ある種の乳酸菌について、乳酸発酵に伴いアンジオテンシン変換酵素(ACE)活性の阻害作用を示すペプチドが生産されることが報告されている(特許文献3)。また、ACE阻害成分として、乳蛋白質もしくは魚類タンパク質の加水分解物または乳酸菌の発酵物が記載されている(特許文献4及び5)。アンジオテンシン変換酵素(ACE)は、強い血圧上昇活性を有するアンジオテンシンIIの産生に関与する酵素であるため、該酵素を阻害する作用を有する物質は、血圧降下機能を有することが期待される。 このように、ある種の乳酸菌の機能性については報告があるものの、石川県の伝統発酵食品であるコンカ漬けに含まれる乳酸菌の機能性については、未だ知られていない。 また、魚類の塩糠漬けであるコンカ漬けは、昔からの経験に基づき製造されてきたが、その発酵に半年〜1年という長期間を有すること、また、発酵が時に不安定で常に良い品質の製品が得られるとは限らないなどの課題を有する。このため、安定した品質のコンカ漬けを、より短期間で製造できる技術の開発が望まれている。特開2004−154055号公報特開2004−154055号公報特開2008−133251号公報特開2002−228号公報特開2002−204671号公報 本発明は、石川県の伝統的な発酵食品、コンカ漬けに含まれる機能性を有する乳酸菌又はその培養物、より具体的には、抗酸化作用及びアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害作用のいずれかの機能を有する乳酸菌の培養物、このような培養物を生成する乳酸菌、並びにその用途、より詳細には、コンカ漬けの短期速醸法、ACE阻害剤、抗酸化剤、ACE阻害作用及び/又は抗酸化作用が強化された飲食品等を提供することを課題とする。 上記課題を解決するために本発明者らは鋭意研究を重ね、石川県の伝統発酵食品、コンカ漬けから主要発酵好塩性乳酸菌(耐塩性乳酸菌)を65株単離してその菌種を同定し、さらにその機能性、及びそれらのコンカ漬け発酵適性について検討した。その結果、単離された好塩性乳酸菌の培養物が、抗酸化作用の指標となるDPPHラジカル消去能、又はACE阻害活性能(ACE阻害作用)を示すことを見出した。さらに、単離された乳酸菌の中には、高温(例えば、約35〜50℃)、高塩濃度でも長期に生育し、発酵を続けるものがあることを見出した。 このような乳酸菌やその培養物は、機能性を有する発酵食品等の開発に非常に有用なものである。例えばこのような乳酸菌やその培養物を使用することにより、抗酸化作用又はACE阻害活性能を有する飲食品や医薬品等を製造することができる。例えば、分離した乳酸菌をスターターとして接種して、コンカ漬け等の乳酸発酵食品の製造を行うことにより、おいしさとともに機能性が付与された乳酸発酵食品を提供することができる。また、該乳酸菌をスターターとして使用し、発酵食品を製造することで、発酵過程の管理が容易になるとともに、最終製品の安定性、機能性が増大するという効果が得られる。例えば、この乳酸菌株を純粋に培養したものをスターターとして添加して、魚類のコンカ漬け等の製造を行うことも可能である。 本発明者らはまた、コンカ漬けから分離したテトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)をスターターとして加え、塩漬けした魚、糠、麹、及び水を添加し、嫌気性の条件下、従来よりも高温の条件(30〜50℃)で発酵を行う工程を行うと、発酵熟成期間を2カ月程度としても、従来の方法と同様の風味、及び成分(有機酸やアミノ酸含量)を有する魚類の塩糠漬けを製造できることを見出した。つまり本発明者らは、従来の半年から1年間を要した魚類の塩糠漬けの発酵熟成期間を2カ月程度に短縮して製造できる魚類の塩糠漬けの製造方法を見出した。 本発明は上記知見に基づき完成されたものであり、以下の〔1〕〜〔10〕を提供する。〔1〕イワシ、サバ、ブリ、及びフグからなる群より選択される少なくとも1種の魚の塩糠漬けより分離された乳酸菌である高温耐性好塩性菌株テトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)をスターターとして加え、塩漬けした魚、糠、麹、及び水を添加した発酵原料を、嫌気性の条件下、温度30〜50℃で発酵させる高温発酵工程を含むことを特徴とする魚類の塩糠漬けの製造方法。〔2〕温度30〜50℃での発酵を3日以上連続して行う前記〔1〕に記載の製造方法。〔3〕高温耐性好塩性菌株テトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)が、テトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)TY2-21(受託番号:NITE P-1288)である前記〔1〕又は〔2〕に記載の製造方法。〔4〕イワシ、サバ、ブリ、及びフグからなる群より選択される少なくとも1種の魚の塩糠漬けより分離された高温耐性好塩性菌株テトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)であって、該テトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)は、30〜50℃で発酵熟成を行うものであり、かつその培養物がアンジオテンシン変換酵素阻害作用及び/又は抗酸化作用を有することを特徴とするテトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)。〔5〕高温耐性好塩性菌株テトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)が、テトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)TY2-21(受託番号:NITE P-1288)である前記〔4〕に記載のテトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)。〔6〕イワシ、サバ、ブリ、及びフグからなる群より選択される少なくとも1種の魚の塩糠漬けより分離された乳酸菌である高温耐性好塩性菌株テトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)の培養物を有効成分とすることを特徴とするアンジオテンシン変換酵素阻害剤。〔7〕イワシ、サバ、ブリ、及びフグからなる群より選択される少なくとも1種の魚の塩糠漬けより分離された乳酸菌である高温耐性好塩性菌株テトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)の培養物を有効成分とすることを特徴とする抗酸化剤。〔8〕培養物が、高温耐性好塩性菌株テトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)を、大豆由来タンパク質又は哺乳類の乳由来タンパク質を含む培地で培養して得られ、アンジオテンシン転換酵素阻害活性能を有する培養物である前記〔6〕に記載の剤。〔9〕培養物が、高温耐性好塩性菌株テトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)を、大豆由来タンパク質又は哺乳類の乳由来タンパク質を含む培地で培養して得られ、DPPHラジカル消去能を有する培養物である前記〔7〕に記載の剤。〔10〕イワシ、サバ、ブリ、及びフグからなる群より選択される少なくとも1種の魚の塩糠漬けより分離された乳酸菌である高温耐性好塩性菌株テトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)又はその培養物の、アンジオテンシン変換酵素阻害作用及び/又は抗酸化作用が強化された飲食品を製造するための使用。 本発明の乳酸菌をスターターとして使用し、嫌気性条件下、高温条件での発酵を行うことにより、従来の半年から1年間を要した魚類の塩糠漬けの発酵熟成期間を例えば2カ月程度に短縮することが可能であり、有機酸やアミノ酸の生成量が従来法の場合と変わらず、しかも安定した品質の魚類の塩糠漬けを製造できるという効果を奏する。また、本発明の乳酸菌又はその培養物を用いると、アンジオテンシン変換酵素阻害活性能、及び/又は抗酸化作用の機能を有する発酵食品等を製造することができる。さらに、本発明の乳酸菌をスターターとして使用し、発酵食品を製造することで、発酵過程の管理が容易になるとともに、最終製品の安定性や、アンジオテンシン変換酵素阻害作用及び/又は抗酸化作用が増大するという効果も得られる。 また、本発明によれば、副作用がなく安全で、経口投与又は経口摂取で有効なACE阻害作用を示すACE阻害剤、及び抗酸化作用を示す抗酸化剤を提供することができる。図1は、イワシの塩糠漬け試験発酵中の乳酸菌生菌数の推移を示す図である。図2は、イワシの塩糠漬け高温発酵試験中の乳酸菌生菌数の推移を示す図である。図3は、最少培地で培養したTetragenococcus halophilus培養物のACE阻害活性を示す図である。図4は、Tetragenococcus halophilusを大豆タンパク質を含有する培地で培養した培養物のACE阻害活性を示す図である。図5は、Tetragenococcus halophilusを乳由来タンパク質を含有する培地で培養した培養物のACE阻害活性を示す図である。図6は、最少培地で培養したTetragenococcus halophilus培養物のDPPHラジカル消去活性を示す図である。図7は、Tetragenococcus halophilusを大豆タンパク質を含有する培地で培養した培養物のDPPHラジカル消去活性を示す図である。図8は、Tetragenococcus halophilusを乳由来タンパク質を含有する培地で培養した培養物のDPPHラジカル消去活性を示す図である。図9は、従来の一般的なイワシ糠漬けの製造方法(B)と本発明の魚類の塩糠漬けの製造方法(速醸法)の一例(A)を比較して示す図である。 以下、本発明を詳細に説明する。 本発明における乳酸菌の培養物は、イワシ、サバ、ブリ、及びフグからなる群より選択される少なくとも1種の魚の塩糠漬けより分離された高温耐性好塩性乳酸菌株テトラゲノコッカス・ハロフィリス(Tetragenococcus halophilus)の培養物であり、少なくとも下記の一つの作用を有するものである。 1)アンジオテンシン変換酵素阻害作用、2)抗酸化作用。 本発明における乳酸菌株は、イワシ、サバ、ブリ、及びフグからなる群より選択される少なくとも1種の魚の塩糠漬けより分離された高温耐性好塩性のテトラゲノコッカス・ハロフィリス(Tetragenococcus halophilus)であり、好ましくは、その培養物が前記1)〜2)の少なくも1つの作用を有する乳酸菌である。このような乳酸菌も、本発明に包含される。 本明細書中、高温耐性であるとは、通常、約30〜50℃で発酵熟成(乳酸発酵)を行うことを意味し、好ましくは、約35〜50℃で乳酸発酵を行うものである。より好ましくは、約35〜40℃で乳酸発酵を行うものである。また、好塩性とは、通常、約5%〜30%、好ましくは約10〜30%、より好ましくは約15〜25%の塩(食塩)濃度中でも約2年以上生育でき、かつ発酵できることを意味する。また、本発明におけるイワシ、サバ、ブリ、及びフグからなる群より選択される少なくとも1種の魚の塩糠漬けより分離された高温耐性好塩性菌株テトラゲノコッカス・ハロフィリス(Tetragenococcus halophilus)は、通常約30〜50℃の高温及び原料となる魚の生重量の約5〜25%の塩(食塩)濃度中でも生育し、発酵できるものである。好ましくは、約30〜50℃の高温及び原料となる魚の生重量の約5〜20%の塩(食塩)濃度中でも約7日以上、より好ましくは約10日以上、さらに好ましくは約13日以上、さらにより好ましくは14日以上、特に好ましくは約42日以上生育でき、かつ発酵できるものである。 前記乳酸菌、すなわち高温耐性好塩性乳酸菌株テトラゲノコッカス・ハロフィリス(Tetragenococcus halophilus)の分離源であるイワシ、サバ、ブリ、フグなどの魚類の塩糠漬けは、いずれも石川県の伝統的な発酵食品であり、コンカ漬けとも呼ばれるものである。前記魚類の塩糠漬けは、市販されている。また、既知の方法により製造することもできる。乳酸菌の分離及び同定は、自体公知の方法により行うことができる。例えば、分離した乳酸菌が高温耐性好塩性菌株テトラゲノコッカス・ハロフィリス(Tetragenococcus halophilus)であることは、培養温度が37℃、培地の食塩濃度が約5%(好ましくは約10%)以上で生育することや、16SリボソーマルDNAの塩基配列の解析により確認することができる。 本発明における乳酸菌の培養物は、通常、前記高温耐性好塩性乳酸菌株テトラゲノコッカス・ハロフィリス(Tetragenococcus halophilus)(以下、単にテトラゲノコッカス・ハロフィリス(Tetragenococcus halophilus)ともいう)を培地で培養した培養液若しくは培養上澄み、又はその処理物である。培養物には、高温耐性好塩性乳酸菌株テトラゲノコッカス・ハロフィリスが含まれていてもよい。テトラゲノコッカス・ハロフィリスは、1種であってもよく、2種以上であってもよい。培養液又は培養上澄みの処理物として、該培養液又は培養上澄みの希釈液又は濃縮液、該培養液又は培養上澄みを乾燥させて得られる乾燥物、該培養液若しくは培養上澄みの粗精製物若しくは精製物、又はその乾燥物等が挙げられる。粗精製又は精製の方法は、本発明の効果を奏することになる限り特に限定されず、公知の手法により行うことができる。 乳酸菌の培養物は、公知の手法により得られる。例えば、発酵食品である前記魚の糠漬けから分離した高温耐性好塩性乳酸菌株テトラゲノコッカス・ハロフィリス(Tetragenococcus halophilus)を、培地中で通常の条件で培養する方法が挙げられる。培地は、特に限定されず、例えば、乳酸菌の培養に通常使用される炭素源、窒素源、ミネラル等を含むもの等を使用することができ、天然培地又は合成培地等を用いることができる。好ましくは、液体培地を用いる。培養物を得るための培養は、例えば、培養温度は、約5〜45℃とすることが好ましく、約25〜37℃とすることがより好ましい。培地のpHは、例えば約4〜8とすることが好ましく、約6〜7とすることがより好ましい。同時にpHを制御してもよく、酸又はアルカリを用いてpHの調整を行うことができる。培養時間は、通常約24時間以上が好ましく、より好ましくは約48〜96時間である。培養は、好気条件下で行ってもよく、嫌気条件下で行ってもよい。好ましくは嫌気条件下で行う。 このように培養した培養液又は培養上澄みを、培養物として使用することができる。 炭素源としては、例えばグルコース、フルクトース、ガラクトース、マンノース、ラクトース、スクロース、セロビオース、廃糖蜜、グリセロール等が挙げられ、好ましくはグルコース、スクロース等である。窒素源としては、無機態窒素源では、例えばアンモニア、アンモニウム塩等、有機態窒素源では、例えば尿素、アミノ酸、タンパク質等をそれぞれ単独もしくは2種以上を混合して用いることができ、好ましくはアンモニウム塩、アミノ酸等である。またミネラル源として、おもにK、P、Mg、Sなどを含む、例えばリン酸一水素カリウム、硫酸マグネシウム等を用いることができる。この他にも必要に応じて、ペプトン、肉エキス、酵母エキス、コーンスティープリカー、カザミノ酸やビオチン、チアミン等の各種ビタミン等の栄養素を培地に添加することもできる。培地中の炭素源、窒素源等の濃度は、乳酸菌が生育できる通常の濃度であればよく、特に限定されない。通常、培養開始時の炭素源濃度は0.1〜15%(wt)程度が好ましく、より好ましくは1〜10%(wt)程度である。培養開始時の窒素源の濃度は、通常0.1〜15%(wt)程度、好ましくは1〜15%(wt)程度、より好ましくは1〜10%(wt)程度とすればよい。 培養物を得るための培地は、例えば、前記1)ACE阻害作用、又は2)抗酸化作用を有する培養物を得る場合には、窒素源としてタンパク質を含むことが好ましい。タンパク質は特に限定されないが、例えば、植物性タンパク質、動物性タンパク質等が挙げられ、1種又は2種以上を用いることができる。植物性タンパク質として、例えば、コメ、コムギ、オオムギ、ライムギ、トウモロコシ等の穀類由来のタンパク質;大豆、空豆、インゲン豆等の豆類由来のタンパク質が好適であり、中でも、大豆由来のタンパク質を好適に用いることができる。大豆由来のタンパク質として、脱脂大豆粉等を好適に使用できる。動物性タンパク質としては、肉エキス、哺乳類の乳由来のタンパク質等が挙げられ、哺乳類の乳由来のタンパク質が好ましい。哺乳類の乳としては、ウシ、ヤギ、ヒツジ、ヒト等の乳が挙げられ、ウシの乳が好ましい。乳由来のタンパク質として、例えば、スキムミルク等が好適に使用できる。 前記タンパク質は、培地中に培養開始時の濃度として5〜15%(wt)程度とすることが好ましく、8〜10%(wt)程度とすることがより好ましい。 前記魚の塩糠漬けから分離した乳酸菌(高温耐性好塩性菌株テトラゲノコッカス・ハロフィリス(Tetragenococcus halophilus))を、大豆由来タンパク質又は哺乳類の乳由来タンパク質を含む培地で培養して得られ、1)ACE阻害作用、及び/又は2)抗酸化作用を有する培養物は、本発明の好ましい態様の1つである。培養物のACE阻害作用及び抗酸化作用は、公知の方法(例えば、ACE阻害作用であれば、Nakanoらの方法(Biosci. Biotechnol. Biochem., 70, 1118-1126, 2006)等)により確認できる。抗酸化作用は、例えば、公知の方法によりDPPHラジカル消去作用を調べることにより確認できる。 本発明におけるACE阻害作用及び/又は抗酸化作用を有する乳酸菌の培養物として、例えば、前記高温耐性好塩性菌株テトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)を、大豆由来タンパク質又は哺乳類の乳由来タンパク質を含む培地で培養して得られ、ACE阻害活作用及び/又はDPPHラジカル消去作用を有する培養物が好ましい。大豆由来タンパク質又は哺乳類の乳由来タンパク質培地で前記乳酸菌を培養して得られる培養物は、通常、高いACE阻害活作用及び/又はDPPHラジカル消去作用を示すものであるため好ましい。 イワシ、サバ、ブリ、及びフグからなる群より選択される少なくとも1種の魚の塩糠漬けより分離された高温耐性好塩性菌株テトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)であって、該テトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)は、30〜50℃で発酵熟成を行うものであり、かつその培養物がアンジオテンシン変換酵素阻害作用及び/又は抗酸化作用を有するテトラゲノコッカス・ハロフィリス(Tetragenococcus halophilus)も、本発明に包含される。このようなテトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)は、前記ACE阻害作用及び/又は抗酸化作用を有する乳酸菌の培養物を生成する乳酸菌として好ましい。 本発明における高温耐性好塩性菌株テトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)として、テトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)TY4-11、テトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)TY2-21等が好ましい。中でも、テトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)TY2-21が好ましい。 テトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)TY2-21は、日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8(郵便番号292-0818)の独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許生物寄託センターに寄託申請し、以下の受託番号で受託された。Tetragenococcus halophilus TY2-21(受託番号:NITE P-1288)(受託日:2012年3月22日) 高温耐性好塩性菌株テトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)の中でも、例えば、テトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)TY2-7(実施例1で単離した表2中の「(2)2-7」と表記されている菌株。)は、その培養物が優れたACE阻害活作用を示すため好ましい。また、テトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)TY E9-5(実施例1で、イワシの塩糠漬けの仕込み樽の中層から、発酵から5カ月目に分離した菌株。表2中に「E中−5」と表記されている。)は、その培養物が優れたDPPHラジカル消去作用を示すため好ましい。 前記高温耐性好塩性菌株テトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)、及びその培養物は、発酵食品から分離された乳酸菌及びその培養物であることから、安全性が高いものである。このような乳酸菌及びその培養物は、1)ACE阻害作用及び/又は2)抗酸化作用を有する医薬、機能性食品等の飲食品の製造のためにも好適に利用される。 本発明は、イワシ、サバ、ブリ、及びフグからなる群より選択される少なくとも1種の魚の塩糠漬けより分離された乳酸菌である高温耐性好塩性菌株テトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)又はその培養物を有効成分とするアンジオテンシン変換酵素阻害剤も、包含する。 本発明は、イワシ、サバ、ブリ、及びフグからなる群より選択される少なくとも1種の魚の塩糠漬けより分離された乳酸菌である高温耐性好塩性菌株テトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)又はその培養物を有効成分とする抗酸化剤も、包含する。 高温耐性好塩性菌株テトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)、及び1)ACE阻害作用及び/又は2)抗酸化作用を有するその培養物、並びにその好ましい態様等は、上述した通りである。 本発明のアンジオテンシン変換酵素阻害剤は、アンジオテンシン変換酵素阻害作用を有する前記テトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)の培養物に、所望により薬学上許容される公知の添加剤等を添加及び混合し、従来充分に確立された公知の製剤製法を用いることにより容易に製造される。 本発明の抗酸化剤は、抗酸化作用、例えばDPPHラジカル消去作用を有する前記テトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)の培養物に、所望により薬学上許容される公知の添加剤等を添加及び混合し、従来充分に確立された公知の製剤製法を用いることにより容易に製造される。 本発明のアンジオテンシン変換酵素阻害剤及び抗酸化剤の剤型は特に限定されないが、経口投与の剤型が好ましく、添加剤は特に限定されず、公知のものを使用することができる。また必要ある場合には、他の薬剤との併用も可能である。 テトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)の培養物の製剤中の含有量は、通常、最終製剤中に約0.000001〜99質量%である。テトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)の培養物の投与量は、本発明の効果を奏することになる限り特に限定されず、投与対象等に応じて適宜設定すればよい。 例えば、本発明のACE阻害剤は、副作用が少なく、優れた血圧降下作用を発揮することから、例えば、高血圧の予防又は治療のための医薬として好適に使用されるものである。前記ACE阻害剤を含有する高血圧の予防又は治療剤も、本発明の1つである。高血圧の予防又は治療剤の剤形や使用方法等は、上述したACE阻害剤と同様である。なお、「予防」には発症を抑制する又は遅延させることが含まれる。「治療」には、症状又は疾病を完全に治癒させることの他、症状を改善又は緩和することも含まれる。 本発明のACE阻害剤及び抗酸化剤は、前述した医薬品として用いることができるほか、機能性食品、特定保健用食品又はドリンク剤などの飲食品として用いることができるものである。例えばACE阻害剤は、血圧を下げる目的、高血圧を改善する目的又は高血圧を予防する目的の機能性食品、特定保健用食品又はドリンク剤などの飲食品として用いることができる。飲食品組成物中に含まれるテトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)の培養物の量は、通常、最終組成物中に約0.000001〜99質量%の範囲から適宜選択して決定することができる。 本発明のACE阻害剤及び抗酸化剤は、食品添加剤等としても好適に使用される。テトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)又はその培養物を含有する食品添加剤は、飲食品のACE阻害作用、及び/又は抗酸化作用を強化させるために好適に使用することができるものである。例えば、飲食品に本発明のACE阻害剤又は抗酸化剤を添加すると、該剤を添加しない場合と比較して飲食品のACE阻害作用又は抗酸化作用を強化することができる。飲食品のACE阻害作用や抗酸化作用を強化することには、本来ACE阻害作用や抗酸化作用を有しない飲食品にこのような作用を付与することも含まれる。 前記テトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)又はその培養物は、1)ACE阻害活作用又は2)抗酸化作用が強化された飲食品の製造のために好適に使用される。イワシ、サバ、ブリ、及びフグからなる群より選択される少なくとも1種の魚の塩糠漬けより分離された乳酸菌である高温耐性好塩性菌株テトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)又はその培養物の、アンジオテンシン変換酵素阻害作用及び/又はDPPHラジカル消去作用が強化された飲食品を製造するための使用も、本発明に包含される。 前記テトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)又はその培養物を用いて前記飲食品を製造する方法は特に限定されず、例えば、飲食品の製造において前記テトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)又はその培養物を添加する方法等が挙げられる。飲食品としては特に限定されないが、例えば後述する発酵食品等が好ましい。 例えば、発酵食品の製造において、前記テトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)又はその培養物を添加して発酵させる工程を含むことにより、1)ACE阻害作用及び/又は2)抗酸化作用が強化された発酵食品を製造することができる。このような発酵食品の製造方法も、本発明に包含される。1)ACE阻害活作用及び/又は2)抗酸化作用が強化されたとは、前記テトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)又はその培養物を添加しない場合と比較して該食品が高い1)ACE阻害活作用及び/又は2)抗酸化作用を示すことをいう。 発酵食品としては、乳酸発酵を利用して製造されるものが好ましく、例えば、イワシ、サバ、ブリ、フグ等の魚類の塩糠漬け等が好適である。これら以外にも、牛乳等の哺乳類の乳又は豆乳から製造されるヨーグルト、乳酸菌入り米麹、ブルーベリージュース等を用いたジェラード(アイスクリーム)、味噌、醤油、チーズ、清酒、ワイン、漬物、パン等の製造において、前記テトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)又はその培養物を使用することにより、前記1)ACE阻害活作用及び/又は2)抗酸化作用が強化された発酵食品を製造することができる。 前記高温耐性好塩性菌株テトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)又はその培養物の添加量、該乳酸菌の培養物、又は前記乳酸菌を添加して発酵させる条件等は、発酵食品の種類により適宜選択すればよく、特に限定されない。好ましくは、発酵温度は約5〜45℃とする。 例えば、前記テトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)をスターターとして接種して、乳酸発酵食品の製造を行うことも好ましい。これにより、おいしさとともに機能性が付与された乳酸発酵食品を効率よく提供することができる。また、該乳酸菌をスターターとして使用し、発酵食品を製造することで、発酵過程の管理が容易になるとともに、最終製品の安定性、機能性が増大するという効果も得られる。 本発明は、イワシ、サバ、ブリ、及びフグからなる群より選択される少なくとも1種の魚の塩糠漬けより分離された乳酸菌である高温耐性好塩性菌株テトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)をスターターとして加え、塩漬けした魚、糠、麹、唐辛子及び水を添加した発酵原料を、従来とは異なり、密封型の容器等に封入し、脱気による嫌気性の条件下、従来とは異なり、温度約30〜50℃で発酵させる高温発酵工程を含む魚類の塩糠漬けの製造方法も包含する。この場合の高温発酵の温度は、一定であってもいいし、約30〜50℃の間で多少変動してもよい。また、例えば30〜40℃程度(好ましくは約35℃)に約2週間以上おいてその後常温に戻して、熟成させてもよい。発酵熟成を行う容器は、小さいものでは上記の原料の魚二匹を含有する程度の大きさでもいいし、容量1リットルから数百リットルの容器でもよい。従来の魚の塩糠漬けの製造方法では魚体に付着していたと考えられる好塩性乳酸菌が自然に増殖するに任せたが、本法では、好ましくは、分離したTetragenococcus halophilusを純粋に培養したものをスターターとして添加する。分離した菌の純粋培養は、通常の方法で行うことができる。 高温耐性好塩性菌株テトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)及びその好ましい態様等は、上述した通りである。好ましくは、高温耐性好塩性菌株テトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)として、テトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus) TY4-11、テトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus) TY2-21(受託番号:NITE P-1288)等を使用する。より好ましくは、テトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus) TY2-21(受託番号:NITE P-1288)である。 本発明において使用される塩漬けした魚は、通常コンカ漬けの製造に用いられる魚の塩漬けを用いることができる。魚の種類は特限定されず、例えば、イワシ、サバ、ブリ、フグ、ハタハタ、コノシロ、ニシン、トビウオ等が好ましい。塩漬けした魚は、例えば、通常魚から頭及びはらわたを除き、この頭を除いた魚体に対し通常約10〜50重量%、好ましくは約25〜35重量%の塩化ナトリウム(食塩)を魚体にまぶして1〜3週間程度樽等の容器に漬け込み(塩蔵)、水切りすることにより製造される。例えば、イワシの塩漬けは、通常1〜2週間程度塩で漬け込んだ後、水切りすることにより製造される。 糠、麹、及び水の添加量は特に限定されないが、通常、塩漬けした魚に対して、糠を50〜150重量%程度とすることが好ましい。麹の添加量は、塩漬けした魚に対して、5〜20重量%程度とすることが好ましい。水の添加量は、塩漬けした魚に対して、40〜60重量%程度とすることが好ましい。塩の添加量は発酵原料に対して10〜30%程度となるようにすることが好ましい。本発明における発酵原料には、本発明の効果を奏することになる限り、塩漬けした魚、糠、麹、及び水以外の原料を使用してもよい。例えば、所望により、唐辛子等の香辛料、塩(食塩)、他の添加物等を適宜添加してもよい。 スターターとして添加するテトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)の添加量は、例えば、糠1グラムに対して102〜107CFU程度とすることが好ましく、103〜106CFU程度とすることがより好ましい。 発酵原料の発酵は、嫌気条件で行う。好ましくは、例えば、密閉できる容器中に前記発酵原料を入れ、該容器を脱気等した後容器を密閉して発酵を行う。容器は、約30〜50℃の温度に耐えられるものであればよいが、例えば、レトルトパウチ等の酸素不透過性膜を包材とする容器、プラスチック樹脂製容器等を好適に用いることができる。嫌気条件で発酵を行うために、例えば、発酵を真空条件で行うことも好ましい。例えば、レトルトパウチ等の容器を使用する場合には、前記原料をレトルトパウチに充填し、次いで脱気、密閉して該レトルトパウチの中で発酵を行う。 本発明の製造方法は、嫌気性の条件下、温度約30〜50℃、好ましくは約30〜40℃で発酵を行う高温発酵工程を含む。高温発酵工程は、例えば、通常24時間以上、好ましくは約3日以上、より好ましくは約7日以上連続して行う。また、高温発酵工程の期間は、通常約30日以内とすることが好ましく、約20日以内とすることがより好ましく、約14日以内とすることがさらに好ましい。このような高温発酵工程は、前記発酵原料を入れた容器を前記温度にインキュベートすること等により行うことができる。嫌気性条件で、このような高温条件で発酵を行うことにより、短期間に発酵熟成を進めることができ、魚類の塩糠漬けを例えば2カ月程度の短期間で製造することができる。 本発明の製造方法においては、前記高温発酵工程の前又は後に、嫌気条件下で室温又は常温での発酵工程を行うことが好ましい。室温又は常温での発酵工程は、好ましくは、高温発酵工程の後に行う。室温又は常温での発酵の期間は、通常5〜60日程度、好ましくは10〜50日程度、より好ましくは10〜45日程度、さらに好ましくは10〜30日程度、特に好ましくは10〜20日程度とすることが好ましい。前記高温発酵工程を経ることにより、その後室温又は常温で発酵を行っても、発酵開始から通常10〜60日程度で魚類の塩糠漬けを製造することができる。このような方法により、例えば従来半年〜1年を要した発酵熟成期間を2カ月程度に短縮しても、従来法で製造したものと同じ良好な品質の魚類の塩糠漬けを製造することができる。このため本発明の製造方法は、魚類の塩糠漬けの短期間速醸方法として好適に用いられる。本発明の製造方法の実施態様の一例を、図9のAに示す。 本発明の好ましい態様においては、前記発酵原料を嫌気性の条件下、温度約30〜50℃で通常24時間以上(好ましくは約3日以上、より好ましくは約7日以上、また好ましくは約30日以内、より好ましくは約20日以内、さらに好ましくは約14日以内)連続して高温発酵させ、その後室温又は常温で10〜50日程度発酵させる。 前記方法により製造された魚類の塩糠漬けは、少量をワンパックで製造した場合は、パウチごと製品とすることが出来る。また、該製品は、従来法での塩ぬか漬けとアミノ酸含量も変わらず、ぬか部分を取ってそのまま食することが出来る。さらに、それをスライスした後、焙る、焼くなどの加熱によっても風味が増し食用に適する。 本発明の製造方法により製造される魚類の塩糠漬けは、発酵熟成期間が短いにもかかわらず、従来の方法で製造されたものと同じ成分であり、風味も従来の方法で製造されたものと同じである。また、従来の方法では、通常温度等を特にコントロールせずに発酵させて製造されていたため、気候等により品質にばらつきが生じる場合があったが、本発明の製造方法によれば、例えば高温発酵工程を行うと、発酵熟成期間を短縮できるだけでなく、安定した品質の塩糠漬けを製造することができるという効果も奏する。さらに、本発明で用いる高温耐性好塩性菌株テトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)として、上述したようにその培養物が1)ACE阻害活作用及び/又は2)抗酸化作用を示すものを用いると、本発明により得られる魚類の塩糠漬けは、ACE阻害活作用及び/又は抗酸化作用を有するという効果も奏する。 以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、これらは本発明を何ら限定するものではない。実施例11−1 乳酸菌の分離及び培養のための培地 イワシの塩糠漬けからの乳酸菌の分離には、MRS培地(市販品、Difco社製)55gを最終液量が1Lとなるような濃度に純水で溶解し、これに最終濃度10%になるように食塩を、また最終濃度2%になるように寒天を添加して作製したプレートを使用した。 分離した乳酸菌の液体培養培地にはMRS培地(市販品、Difco社製)を使用した。1−2 培養方法及び条件 乳酸菌を純粋培養する最初の基本培養は次の方法で行った。4 ml容バイアルとMRS液体培地を別々に120℃、20分オートクレーブし、冷却後、MRS液体培地4 mlをバイアルに分注した。滅菌したつまようじを用いて、乳酸菌コロニー又は冷凍保存液を一掻きMRS液体培地の入ったバイアルにシードし、30℃で2〜3日間培養した。この培養液をそれぞれの目的に応じて使用した。1−3 発酵食品からの乳酸菌の分離方法 菌株分離のために従来の方法(図9のB)で仕込まれたイワシの塩糠漬け(有限会社安新製)の仕込み樽の上、中、下層の糠部分を、あるいは実施例2で製造したイワシの塩糠漬けレトルトパウチ内(石川県立大学、食品科学科で実施)の糠部分を、経時的にサンプリングし、滅菌した0.85%生理食塩水(10 ml/試験管)で適宜、希釈後、その0.1 mlをMRS寒天培地に塗布し、30℃で2〜3日間培養し、コロニーを形成させた。その際、特別に嫌気条件にはしなかった。コロニー数をカウントすることによって原液サンプルのグラム当たりの菌数を算出した。 前記と同様の方法で、市販の魚類のぬか漬けから乳酸菌を分離した。 それぞれのサンプルから得たコロニーの一部(おおよそ各サンプル毎に8コロニー)を4 ml MRS液体培地(4 ml容バイアル中)にて、30℃、2〜3日間培養し、その培養液1 mlを滅菌した30%グリセリン1 mlの入ったバイアルに注入後、-80℃のフリーザーに保存するとともに、残りの培養液を16SrRNA遺伝子の解析を行うためにゲノムDNAの調製に使用した。1−4 16SrRNA遺伝子の解析による乳酸菌の同定<乳酸菌よりゲノムDNAの調製> Wizard(登録商標)Genomic DNA Purification Kit (Promega社製)を使用して、各乳酸菌よりゲノム DNAを調製した。<PCRによる16SrDNA断片の増幅> 前記で抽出したゲノムDNAから、PCRにより16SrDNA断片を増幅した。PCRはEx Taq(登録商標)DNA Polymerase (タカラバイオ社)を用いて行い、16SrDNA用プライマーとして以下の配列のプライマーを用いた。[7-F (プライマー名)]5’-AGAGTTTGATYMTGGCTCAG-3’ (配列番号1)[1510-R (プライマー名)]5’-ACGGYTACCTTGTTACGACTT-3’ (配列番号2) 配列番号1及び2中、Yは、C(シトシン)又はT(チミン)、Mは、A(アデニン)又はC(シトシン)である。 PCRのサイクルは、以下の通りである。96℃、2分→(96℃、15秒→50℃、15秒→72℃、1分30秒)を25サイクル→4℃で保温 増幅断片の精製は、QIAquick(登録商標)PCR purification kit (QIAGEN社) を使用して行った。キットで精製した DNA 溶液、並びに、前記の配列番号1のプライマー及び配列番号2のプライマーを用いて、以下のサイクルで、PCR 機を用いて各乳酸菌の16SrDNA断片を増幅反応した。96℃、1分→(96℃、10秒→50℃、5秒→60℃、4分)を30サイクル 反応後、X terminator(登録商標)Solution (BigDye X Terminator 精製キット、Applied Biosystems社製) を使用して反応液を精製し、得られた上清 40〜50μl をシークエンサー用専用ラックに移し、Genetic Analyzer(製品名、3130xl Genetic Analyzer、Applied Biosystems社製)を用いてシークエンス解析した。1−5 イワシの塩糠漬けより単離した乳酸菌の同定 本研究のために従来の方法(図9のB)により仕込まれた「イワシの塩糠漬け」仕込み樽より上中下層それぞれの糠を仕込み樽から各月ごとに1年間サンプリングした。サンプル毎に生菌を単離して16SrRNA遺伝子の部分塩基配列(約700bp)の解析による菌株の属種の同定を行ったところ、1月目は10株中7株がテトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)で、4ヶ月目、8ヶ月目、10ヶ月目においてもTetragenococcus halophilusが大部分を占める優勢菌であった。従来法による「イワシの塩糠漬け」仕込み樽よりサンプリングした糠(発酵中の経時サンプル)の菌種の割合を表1に示した。1−6 高温処理の微生物に与える影響 また、高温処理が塩ぬか漬けの微生物叢に与える影響を明らかにするため、さらに耐塩性乳酸菌の温度耐性を明らかにするため、従来より小さいスケールで耐塩性乳酸菌テトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetoragenococcus halophilus)を糠1gあたり10の3乗個になるように添加して仕込みを行い、塩ぬか漬けのぬか部分の耐塩性乳酸菌数を経時的に調べた。発酵温度は、35℃とし、それを13日間続けてそのあとは25℃に保った場合(■)と35℃を65日間続けた場合(▲)を比較した。その菌数増殖曲線(生菌数の推移)を図1に示した。この図から明らかなように、高温(35℃)で13日間保ったサンプルでは、その後も耐塩性乳酸菌数を保持できたが、65日間保ったサンプルでは菌数の減少が認められた。このことから、高温(35℃)での保持期間(発酵期間)は13日程度が適当であることが分かり、この塩濃度で増殖が可能であり発酵が進むことを確認した。 実施例1でイワシの塩糠漬けから単離した乳酸菌のうち、前記1−6、及び後述する実施例2〜5で使用した菌株は、以下の通りである。 実施例1の1−6で使用した前記菌株は、市販イワシ塩糠漬け(有限会社安新製)から分離したものでテトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)H2株と命名した株である。また、実施例2〜3で使用した菌株は、市販イワシ塩糠漬け(有限会社安新製)から分離した菌株から、20%食塩存在下MRS培地で生育が早く、生育量も多い菌株を選抜した中の2菌株であるテトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)TY2-21株およびTY4-11株である。ただし、実施例で使用したものは、自然に生育してくる耐塩性乳酸菌と区別するために、薬剤耐性、すなわち、リファンピシン(Rifampicin)(Rif)あるいはカナマイシン(Kanamycin)(Km)耐性を変異原処理により付与したもの(テトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)TY2-21Rif、テトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)TY2-21Km、テトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)TY4-11Rif及びテトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)TY4-11Km)である。例えばテトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)TY2-21Rif及びテトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)TY2-21Kmはそれぞれ、以下には単にRif2-21株及びKam2-21株とも記載する。さらに、実施例4〜6で使用したテトラゲノコッカス・ハロフィルスは、前記で塩糠漬け樽中の糠から、あるいは市販塩糠漬けから分離した表2に示す以下の65の菌株である。 菌株の表記におけるアルファベットは、イワシのコンカ漬けを製造する際の、糠に漬けている時間を表わす。つまり、菌株を分離したサンプルの発酵期間を示す。Hは発酵期間2カ月目の樽から分離した菌株を意味し、Iは3カ月目、Jは4カ月目、Kは5カ月目、Lは6カ月目、Cは9カ月目、Eは11カ月目、Fは12カ月の樽から分離した菌株であることを意味する。 また、上、中、下という記載は、樽のどの部分から単離されたかを表す。つまり「上」、「中」、「下」の記載は、それぞれ樽の上部、中部、下部から分離した菌株であることを示す。単離された順に数字を記載している。つまり数字は、分離した番号を示す。具体的には例えば、「C下−5」は、発酵期間9ヶ月の樽の下部から分離した5番目の菌株を示している。 また、例えば(1)2-10のように、名前が(1)や(2)など数字を付したものは、市販のイワシのコンカ漬けから単離されたT.halophilusを表わしており、(1)や(2)の次の数字は、製品別(1:イワシ塩糠漬け、2:サバ塩糠漬け、3:ブリ塩糠漬け、4:フグ塩糠漬け)に付された数字であり、最後に単離された順に数字が与えられている。菌を分離した市販品は、以下の通りである。(1)及び(2):有限会社安新製、(3):輪島の朝市、(4):任孫商店製、(5)株式会社スギヨ製、(6)油与商店製、(7)原清商店製 例えば「(1)2-6」は、有限会社安新製のサバ塩糠漬けから分離された6番目の菌株であることを意味する。 先に示したように、TY2-21及びTY4-11株は市販塩糠漬けから分離した菌株である。実施例2及び3では、この菌株に対して変異原処理により薬剤耐性を付与した菌株を使用している。薬剤耐性の確認は、該薬剤50μg/mLを含むMRS培地(食塩10%含有)での生育により確認した。 前記乳酸菌のうち、テトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)TY2-21については、日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8(郵便番号292-0818)の独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センターに寄託申請し、以下の受託番号で受託されたTetragenococcus halophilus TY2-21(受託番号:NITE P-1288)(受託日:2012年3月22日)実施例2 イワシ塩糠漬けの速醸試験を行った。2−1高温期間の検討 発酵促進のための高温インキュベートの時間を、スターターとして添加した好塩性乳酸菌の菌数変化と乳酸およびアミノ酸の生成を目安に検討した。 頭とはらわたを除いたイワシの魚体に対し、30%の重量の食塩を撒き塩して2週間塩漬けにした。塩漬け後、水切りしたものを、塩漬けイワシとして以下の試験に用いた。 180mm×260mmレトルトパウチ(商品名ナリロンポリRタイプ、キムラ・テック有限会社製)に、前記塩漬けしたイワシ2匹、糠200g、麹20g、水160mLを入れ、Rif2-11株を103cfu/g糠の割合で添加したパウチ内を真空とした後密閉した。密閉したレトルトパウチを下記の条件(サンプルE、F、G及びH)で高温(35℃)インキュベートした。インキュベート(発酵)開始から123日目まで生菌数を調査した。生菌数の測定は、実施例1の1−3の方法で行った。 サンプルEは、高温(35℃)で1週間インキュベートした後、室温でインキュベートして製造したサンプルである。サンプルFは、高温(35℃)で2週間インキュベートした後、室温でインキュベートして製造したサンプルである。サンプルGは、高温(35℃)で3週間インキュベートした後、室温でインキュベートして製造したサンプルである。サンプルHは、28日間室温でインキュベートした後、高温(35℃)で3週間インキュベートし、次いで室温でインキュベートして製造したサンプルである。また、各サンプル中の生菌数、乳酸、アミノ酸、有機酸の生成量を、インキュベート(発酵)開始から123日目のサンプルで測定した。 サンプル中の総乳酸菌生菌数の測定は、実施例1の1−3に記載の方法で行った。また、実施例1の1−3に記載の方法において、MRS培地の代わりにMRS(塩化ナトリウム10%)培地に50μg/mLのRifampicinを添加した培地を用いることにより、テトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetoragenococcus halophilus)TY2-21Rif株(Rifampicin耐性株)の生菌数を測定した。 乳酸、アミノ酸含量及び有機酸量の測定は、以下の方法により行った。2−2 乳酸含有量測定 Merck Chemicals Japanの乳酸測定キットを用いて行った。すなわち、キットに付属されている試験紙の先端部にサンプル溶液を染み込ませ、キットの測定部位にセットし、5分間反応させた。5分後、測定終了の合図音が鳴ると測定画面に乳酸量が表示されるのでその値を記録した。2−3 アミノ酸含有量測定 アミノ酸含有量は、日立社製 L-8500 アミノ酸分析システムを用いた高速液体クロマトグラフィーにより測定し、検出はニンヒドリンを用いたポストカラム法により行った。2−4 有機酸量測定 有機酸含有量は、株式会社日立製作所・L-8900有機酸分析システムを用いた高速液体クロマトグラフィーにより測定した。 図2のA〜Dに、実施例2の発酵試験中の各サンプルにおける乳酸菌生菌数の推移を示す(図2A、B、C及びDは、それぞれ上記サンプルE、F及びHの乳酸菌数を示してある)。すなわち、MRS(塩化ナトリウム10%)培地で測定した菌数は、自然に混入生育した耐塩性乳酸菌数と添加したテトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetoragenococcus halophilus) Rif2-11株の両菌数の総和(総乳酸菌数)(■)を示している。一方、MRS(塩化ナトリウム10%)培地+Rif、すなわちMRS(塩化ナトリウム10%)培地に50μg/mLのRifampicinを添加した培地で測定した菌数は、テトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetoragenococcus halophilus)TY2-21Rif株(Rifampicin耐性株)のみの菌数(▲)を示している。その結果、図2に示すように、添加スターター菌(Tetragenococcus halophilus)TY2-21Rif株)は発酵開始23日目ぐらいまでは、発酵菌の大部分を占めていることが明らかになった。 また発酵開始後14日目の糠中の生成乳酸及びアミノ酸量を測定したところ従来法で製造したイワシの塩漬けにおけるアミノ酸量と変わらないアミノ酸生成量が示された(表3)。表3は、速醸イワシコンカ漬け各サンプル(E、F、G及びH)のアミノ酸分析の結果を示した表である。したがって高温インキュベート時間は14日間ぐらいで十分であることが分った。 速醸イワシコンカ漬け各サンプル(サンプルE、サンプルF、サンプルG及びサンプルH)について、発酵開始から123日目のサンプルの有機酸分析結果を、表4に示す。表4中の数値は、各サンプル中の遊離有機酸濃度であり、単位は「mg/g」である。2−5 テトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetoragenococcus halophilus)TY4-11Rif株を用いたイワシ塩糠漬けの速醸試験 前記イワシ塩糠漬けの速醸試験において、テトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetoragenococcus halophilus)TY2-21Rif株の代わりにテトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetoragenococcus halophilus)TY4-11Rif株を用いた意外は、同様の操作を行ってイワシ塩糠漬けを製造した。さらに、前記と同様の方法で、製造したイワシ塩糠漬け中の生菌数、乳酸、アミノ酸含量及び有機酸量を測定した。その結果、テトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetoragenococcus halophilus)TY2-21Rifの代わりにテトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetoragenococcus halophilus)TY4-11Rif株を用いても、テトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetoragenococcus halophilus)TY2-21Rif株の場合と同様の結果が得られた。実施例33−1 テトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)TY2-21Km株を用いたイワシ塩糠漬けの速醸試験 高温耐性好塩性優良菌株の確認のため、実施例2においてRif2-11株の代わりに、テトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)TY2-21Km株(Kanamycin耐性株)をスターターとして、106cfu/g糠、添加した以外は実施例2の2−1に記したサンプルEの製造条件で実験を行い、イワシ塩糠漬けを製造した。発酵中のサンプルの総乳酸菌(耐塩性乳酸菌)生菌数、及びカナマイシン耐性乳酸菌数を測定した。 サンプル中の総乳酸菌(耐塩性乳酸菌)生菌数の測定は、実施例1の1−3に記載の方法で行った。また、実施例1の1−3に記載の方法において、MRS培地の代わりにMRS(塩化ナトリウム10%)培地に50μg/mLのカナマイシンを添加した培地を用いることにより、テトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetoragenococcus halophilus)TY2-21Km株(Kanamycin耐性株)の生菌数を測定した。 その結果、表5に示すように、添加スターター菌は発酵(インキュベート)開始123日目まで、発酵菌の大部分を占めていることが明らかになった。表5は、抗生物質耐性の好塩性乳酸菌株であるテトラゲノコッカス・ハロフィリス(Tetragenococcus halophilus)TY2-21Km株の高温、高塩濃度、レトルトパウチ内真空条件下での発酵における生菌数の経時変化を示す表である。表5から、乳酸菌総数とスターターとして加えたテトラゲノコッカス・ハロフィラスのカナマイシン耐性株がほぼ同じ菌数であり、スターター菌株が殆どを占めていることが明らかである。つまり、テトラゲノコッカス・ハロフィルスTY2-21株は、高温、高塩濃度、レトルトパウチ内真空条件下でも良く生育する菌であることが分る。3−2 テトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)TY4-11Km株を用いたイワシ塩糠漬けの速醸試験 前記3−1において、テトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)TY2-21Km株の代わりに、テトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)TY4-11Km株(Kanamycin耐性株)をスターターとして添加した以外は前記3−1と同様の方法で実験を行い、イワシ塩糠漬けを製造した。前記3−1と同様に発酵中の乳酸菌数を測定した。その結果、3−1のテトラゲノコッカス・ハロフィリス(Tetragenococcus halophilus)TY2-21Kmと同様に、乳酸菌総数とスターターとして加えたテトラゲノコッカス・ハロフィラスのカナマイシン耐性株がほぼ同じ菌数であり、スターター菌株が殆んどを占めていた。つまり、テトラゲノコッカス・ハロフィルスTY4-11株は、高温、高塩濃度、レトルトパウチ内真空条件下でも良く生育する菌であることが分った。実施例4 実施例1で分離したテトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)の培養物のACE阻害活性を調べた。ACE阻害活性能の検討4−1 使用菌株 表2に示す菌株を使用した。4−2 試薬及び機器 培養液としてMRS培地、寒天培地はOxoid社のものを使用した。アネロパック・ケンキ(商品名)は三菱ガス化学(株)のものを使用した。ACE阻害活性能測定における基質(N-Hippuryl-His-Leu hydrate)と酵素(ウサギ肺由来のアンジオテンシン変換酵素(ACE))はシグマアルドリッチジャパン社のものを使用した。4−3 方法(菌の培養及び保存)培養:実施例1の1−3で−80℃で冷凍保存されていた菌株を解凍し、15mlプラスチックチューブにMRS液体培地9ml、及び乳酸菌1mlを入れて、35℃に設定したインキュベータで2〜3日培養した。 前記のプラスチックチューブをインキュベータから取り出し、MRS寒天培地に塗り付けて、アネロパック・ケンキ(商品名)を使って、37℃で24〜48時間、嫌気培養した。保存:前記の方法でMRS寒天培地上にできたコロニーを拾い上げ、新たなMRS寒天培地に塗り付けて、35℃でインキュベートした。この操作は1ヶ月おきに行った。4−4 サンプル調製(1)タンパク質を含む培地で培養したサンプル 乳タンパク質培地として、北海道スキムミルク(商品名、雪印メグミルク(株)製)54gにグルコース50gを加え、450mlの純水(DW)に溶かしたものを使用し、大豆タンパク質培地として、Soy Protein(商品名、ヘルシーベスト(株)製)54gにグルコース50gを加え、450mlの純水(DW)に溶かしたものを使用した。プラスチックチューブにMRS液体培地9ml、及び乳酸菌1mlを入れ、35℃で1〜2日間インキュベートしたものを遠心分離し、沈殿物に生理食塩水(0.85%NaCl) 1mlを加えた。得られた乳酸菌を、前記の乳タンパク質培地、又は大豆タンパク質培地に加えた。これを50mlプラスチックチューブに40mlずつ分注し、73℃のウォーターバスで30分低温殺菌した。しばらく置き、粗熱を取った後、35℃で2〜3日間インキュベートした。ACE阻害活性能の試験溶液にはこのサンプル(上澄み)を1/10倍希釈したものを使用した。(2)最少培地で培養したサンプル 乳酸菌自身の生産するACE阻害活性物質の有無について検討するため、表6に示す組成の最少培地で乳酸菌を培養した。具体的には前記(1)において、乳タンパク質培地を含む培地の代わりに最少培地を使用した以外は、同様の方法でサンプルを調製した。 ACE阻害活性能の試験溶液には、このサンプル(上澄み)を1/10倍希釈したものを使用した。4−5 測定法:Nakanoらの方法(Biosci. Biotechnol. Biochem., 70, 1118-1126, 2006)を一部変更した蛍光法により行った。下記表7に示されるように、基質(N-Hippuryl-His-Leu hydrate 2mg/mlバッファー)50μlと試験溶液25μlを混合した中にACE溶液50μl(1.25mU)を10秒ごとに時間を正確に測りながら各試験溶液(C1及びS1)に順番に入れ、ボルテックスミキサーでよく混合した後、37℃で1時間反応させた。1時間後、0.3M NaOH 750μlを、各試験溶液(C1及びS1)に順番に10秒ごとに加え、ボルテックスミキサーでよく混合した。ACE溶液を添加しないC2及びS2についても0.3M NaOH 750μlを順番に10秒ごとに加え、ボルテックスミキサーでよく混合した。その後、OPA(O-フタルアルデヒド 20mg/mlメタノール)50μlを10秒ごとに各試験溶液に順番に加え、ボルテックスミキサーで混合し、10分間室温に放置した。10分後、3M HCl 100μlを10秒ごとに各試験溶液に順番に加え、ボルテックスミキサーで混合し、1時間以上室温に置き、蛍光光度340nmで蛍光強度(Ex:340nm、Em:455nm)を測定した。またACE阻害活性は、以下のように算出した。ACE阻害活性(%)={(C1-C2)−(S1-S2)}/(C1-C2) ×100C1(control 1)…ACEありコントロールの蛍光強度C2(control 2)…ACEなしコントロールの蛍光強度S1…ACEあり試験溶液の蛍光強度S2…ACEなし試験溶液の蛍光強度 表7に、ACE阻害活性測定のために調製した各コントロール及び試験溶液の組成を示す。 最少培地、乳タンパク質(動物性タンパク質)培地及び大豆タンパク質(植物性タンパク質)培地それぞれを用いて乳酸発酵させた培地の上澄み(乳酸菌培養物)を用い、ACE阻害活性を測定した。図3に、最少培地で培養したテトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)培養物のACE阻害活性の測定結果(阻害活性(%))を示す。図3〜5中、横軸は、使用した菌株名を示す。 図4に、テトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)を大豆タンパク質を含有する培地で培養した培養物のACE阻害活性の測定結果を示す。図5に、テトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)を乳由来タンパク質を含有する培地で培養した培養物のACE阻害活性の測定結果を示す。 図3〜5から、いずれの培地での培養物についても、高いACE阻害活性が認められた。これらの結果から、テトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)の培養物がACE阻害活性を有することが分る。特に、動物由来又は植物由来タンパク質を含有する培地での培養物は、高いACE阻害活性を示した。実施例5 実施例1で分離したテトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)の培養物のDPPHラジカル消去活性を調べた。DPPHラジカル消去活性の検討5−1 使用菌株 表2に示す菌株を使用した。5−2 試薬及び機器 培養液、寒天培地、及びアネロパック・ケンキ(商品名)は実施例4と同じものを使用した。DPPHラジカル消去活性測定において、発色剤であるOPA(o-フタルアルデヒド)は和光純薬工業(株)のものを使用した。5−3 方法(菌の培養及び保存) 菌の培養及び保存は、実施例4と同じ方法で行った。サンプル(乳酸菌を、最少培地、乳タンパク質培地、又は大豆タンパク質培地で培養した上澄み)調製も、実施例4と同じ方法で行った。この上澄みをDPPHラジカル消去活性を調べるためのサンプルとし、サンプルと同量の20%エタノールを混合させたものを以下の測定のために使用した。5−4 測定法: MES(2-Morpholineethane sulfonic acid) 4.26gを純水(DW)に溶かし、NaOH溶液でpH 6.0に調整後、100mlにメスアップした。次いで下記表8に示すように、このMESバッファー300μlとDW300μl、50%エタノール(1200μl(サンプル0μl(ブランク))、1100μl(サンプル100μl)、900μl(サンプル300μl)、又は600μl(サンプル600μl))を混合し、最後にDPPH溶液(DPPH3.94mg/50mlエタノール)600μlを加え、2分後に、この溶液のAbs.520nmの吸光度を測定した。またDPPHラジカル活性は以下のように算出した。表8に、DPPHラジカル消去活性測定のために調製したブランク(No.1)及び試験溶液(No.2〜4)の組成を示す。表8中の数値の単位はμlである。 DPPHラジカル活性(%) =(ブランクの吸光度−試験溶液の吸光度)/ブランクの吸光度 ×100 DPPHラジカル消去活性測定ではサンプルの量を100、300、600μlと変化させて各試験溶液のDPPHラジカル消去活性を測定した。乳酸菌を最少培地で培養して得られた上澄み、乳タンパク質培地で培養して得られた上澄み、及び大豆タンパク質培地で培養して得られた上澄みそれぞれの値を測定した。 各種乳酸菌培養物のDPPHラジカル消去活性の測定結果を図6〜8に示す。図6〜8中、横軸は、使用した菌株名を示す。図6は、最少培地で培養したテトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)培養物のDPPHラジカル消去活性の測定結果、図7は、テトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)を大豆タンパク質を含有する培地で培養した培養物のDPPHラジカル消去活性の測定結果、図8は、テトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)を乳由来タンパク質を含有する培地で培養した培養物のDPPHラジカル消去活性の測定結果である。図6〜8から、テトラゲノコッカス・ハロフィルスの培養物が、DPPHラジカル消去活性を示すことが分る。 本発明によれば、優れたACE阻害作用及び/又は抗酸化作用を有する医薬、飲食品等を製造することができる。また、本発明のスターター乳酸菌の添加、真空条件下の発酵、高温条件での発酵、を行うことにより、従来の半年から1年間を要した魚類の塩糠漬けの発酵熟成期間を2カ月程度に短縮することが可能であり、有機酸やアミノ酸の生成量が従来法の場合と変わらない魚類の塩糠漬けを製造可能である。したがって産業上大変有利な製造法であり、産業上の利用の可能性は大きい。 イワシ、サバ、ブリ、及びフグからなる群より選択される少なくとも1種の魚の塩糠漬けより分離された乳酸菌である高温耐性好塩性菌株テトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)をスターターとして加え、塩漬けした魚、糠、麹、及び水を添加した発酵原料を、嫌気性の条件下、温度30〜50℃で発酵させる高温発酵工程を含むことを特徴とする魚類の塩糠漬けの製造方法。 温度30〜50℃での発酵を3日以上連続して行う請求項1に記載の製造方法。 高温耐性好塩性菌株テトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)が、テトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)TY2-21(受託番号:NITE P-1288)である請求項1又は2に記載の製造方法。 イワシ、サバ、ブリ、及びフグからなる群より選択される少なくとも1種の魚の塩糠漬けより分離された高温耐性好塩性菌株テトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)であって、該テトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)は、30〜50℃で発酵熟成を行うものであり、かつその培養物がアンジオテンシン変換酵素阻害作用及び/又は抗酸化作用を有することを特徴とするテトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)。 高温耐性好塩性菌株テトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)が、テトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)TY2-21(受託番号:NITE P-1288)である請求項4に記載のテトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)。 イワシ、サバ、ブリ、及びフグからなる群より選択される少なくとも1種の魚の塩糠漬けより分離された乳酸菌である高温耐性好塩性菌株テトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)の培養物を有効成分とすることを特徴とするアンジオテンシン変換酵素阻害剤。 イワシ、サバ、ブリ、及びフグからなる群より選択される少なくとも1種の魚の塩糠漬けより分離された乳酸菌である高温耐性好塩性菌株テトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)の培養物を有効成分とすることを特徴とする抗酸化剤。 培養物が、高温耐性好塩性菌株テトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)を、大豆由来タンパク質又は哺乳類の乳由来タンパク質を含む培地で培養して得られ、アンジオテンシン転換酵素阻害活性能を有する培養物である請求項6に記載の剤。 培養物が、高温耐性好塩性菌株テトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)を、大豆由来タンパク質又は哺乳類の乳由来タンパク質を含む培地で培養して得られ、DPPHラジカル消去能を有する培養物である請求項7に記載の剤。 イワシ、サバ、ブリ、及びフグからなる群より選択される少なくとも1種の魚の塩糠漬けより分離された乳酸菌である高温耐性好塩性菌株テトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)又はその培養物の、アンジオテンシン変換酵素阻害作用及び/又は抗酸化作用が強化された飲食品を製造するための使用。 【課題】石川県の伝統的な発酵食品、コンカ漬けに含まれる機能性を有する乳酸菌又はその培養物、より具体的には、抗酸化作用及びアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害作用のいずれかの機能を有する乳酸菌の培養物、このような培養物を生成する乳酸菌、並びにその用途、より詳細には、コンカ漬けの短期速醸法、ACE阻害剤、抗酸化剤、ACE阻害作用及び/又は抗酸化作用が強化された飲食品等を提供する。【解決手段】イワシ、サバ、ブリ、及びフグからなる群より選択される少なくとも1種の魚の塩糠漬けより分離された乳酸菌である高温耐性好塩性菌株テトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)をスターターとして加え、塩漬けした魚、糠、麹、及び水を添加した発酵原料を、嫌気性の条件下、温度30〜50℃で発酵させる高温発酵工程を含む魚類の塩糠漬けの製造方法。【選択図】なし配列表