タイトル: | 公開特許公報(A)_精製フェノール系化合物の製造方法 |
出願番号: | 2012074104 |
年次: | 2013 |
IPC分類: | C07C 37/82,C07C 39/04 |
久保田 裕久 勢川 順子 JP 2013203692 公開特許公報(A) 20131007 2012074104 20120328 精製フェノール系化合物の製造方法 三菱化学株式会社 000005968 重野 剛 100086911 久保田 裕久 勢川 順子 C07C 37/82 20060101AFI20130910BHJP C07C 39/04 20060101ALI20130910BHJP JPC07C37/82C07C39/04 7 OL 18 4H006 4H006AA02 4H006AC42 4H006AD32 4H006FC52 4H006FE13 本発明は、フェノール系化合物の製造工程で残留する不純物を、スルホン酸型陽イオン交換樹脂を用いて除去する精製フェノール系化合物の製造方法に関する。 フェノールは、ポリカーボネート樹脂やエポキシ樹脂の製造原料、その他、抗酸化剤などとして工業的に有用なビスフェノールAの製造原料などに用いられる非常に重要な化合物であり、工業的にはその多くがクメン法によって製造される。クメン法では、ベンゼンとプロペンをフリーデル・クラフツ反応で付加反応させてクメン(イソプロピルベンゼン)を製造し(下記反応式(i))、これを酸化してクメンヒドロペルオキシドとし、更に、酸で転位させることによってアセトンとフェノールが製造される(下記反応式(ii))) C6H6+CH2=CHCH3 → C6H5CH(CH3)2 …(i) C6H5CH(CH3)2+O2 → C6H5C(OOH)(CH3)2 → C6H5OH+(CH3)2C=O …(ii) ビスフェノールAは、2当量のフェノールと1当量のアセトンとの反応により合成され(下記反応式(iii))、この反応には、助触媒であるチオール化合物で変性されたスルホン酸型陽イオン交換樹脂が触媒として用いられる(特許文献1)。 クメン法によって得られるフェノール中には、アセトール(ヒドロキシアセトン)、メシチルオキシド、ベンズアルデヒド、アセトフェノン、(メチル)ベンゾフラン、α−メチルスチレン等が不純物として含まれている。これらの不純物を含むフェノールをフェノールの誘導体の製造原料として用いると、(1) 助触媒であるチオール化合物を劣化させ、触媒活性を低下させる。(2) 得られるフェノールの誘導体が着色する。という問題がある。特に、上記(2)の点については、ポリカーボネート樹脂の製造原料としてのフェノールの誘導体において、大きな問題となる。即ち、ポリカーボネート樹脂は、その優れた透明性を活かして光学的用途に好適に使用されるため、その着色は重大な欠点となる。従って、出発原料であるフェノールについても、フェノールの誘導体(ビスフェノールA)についても、その色相が問題となる。 しかし、上記のようなフェノール中の不純物は、フェノールと沸点が近接しており、これらの不純物を蒸留により分離することは困難である。 従来、ビスフェノールAの製造原料として用いるフェノール中のこれらの不純物を除去してフェノールを精製する方法として、フェノールをスルホン酸型陽イオン交換樹脂と接触させる方法が提案されている(特許文献2)。 不純物を含むフェノールをスルホン酸型陽イオン交換樹脂と接触させると、スルホン酸型陽イオン交換樹脂の触媒作用で、フェノール中のアセトール等の不純物をフェノールと反応させることにより高分子量化し、フェノールと容易に蒸留分離することができるようになる。 特許文献2では、用いるスルホン酸型陽イオン交換樹脂について、ゲル型でもポーラス型でもよいと記載され、架橋度については2〜8%のものを使用し得るとされているが、具体的には、三菱化学(株)製スルホン酸型陽イオン交換樹脂「ダイヤイオン(登録商標)SK104(現在の商品名は「SK104H」)」が使用されている。 この「SK104」は、平均粒径750μm、均一係数1.5と、平均粒径が大きく、均一係数も大きいゲル型陽イオン交換樹脂である。特開2011−98301号公報特開昭57−72927号公報 本発明者らの検討により、特許文献2で具体的に使用されているゲル型のスルホン酸型陽イオン交換樹脂では、アセトール等の不純物とフェノール系化合物との反応に対する触媒効果が十分ではなく、反応速度が遅いために、フェノール系化合物中の不純物を短時間で除去し得ないという不具合が見出された。また、触媒の耐久性についても満足し得るものではなく、早期に触媒が劣化して触媒活性が低下するという問題も見出された。 本発明は、上記従来の問題点を解決し、フェノール系化合物中のアセトール等の不純物をスルホン酸型陽イオン交換樹脂を用いて除去するに当たり、これらの不純物とフェノール系化合物との反応速度を高め、短時間で効率的にフェノール系化合物を精製する精製フェノール系化合物の製造方法を提供することを課題とする。 本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、スルホン酸型陽イオン交換樹脂として、架橋度が所定値以下のポーラス型のものを用いることにより、アセトール等の不純物とフェノール系化合物との反応速度を高めることができ、また、ポーラス型の陽イオン交換樹脂であれば、その触媒寿命を延長することもできることを見出した。 本発明はこのような知見に基づいて達成されたものであり、以下を要旨とする。[1] 下記式(1)で表されるフェノール系化合物をスルホン酸型陽イオン交換樹脂に接触させて精製する精製フェノール系化合物の製造方法において、該スルホン酸型陽イオン交換樹脂が、架橋度6.0%以下のポーラス型陽イオン交換樹脂であることを特徴とする精製フェノール系化合物の製造方法。(上記式(1)において、R1及びR2は同一でも互いに異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜3のアルキル基又は炭素数1〜3のハロアルキル基を表す。)[2] [1]において、前記スルホン酸型陽イオン交換樹脂の架橋度が1.0〜5.0%であることを特徴とする精製フェノール系化合物の製造方法。[3] [1]又は[2]において、前記スルホン酸型陽イオン交換樹脂の平均粒径が10〜850μmであることを特徴とする精製フェノール系化合物の製造方法。[4] [1]ないし[3]のいずれかにおいて、前記スルホン酸型陽イオン交換樹脂の均一係数が1.4以下であることを特徴とする精製フェノール系化合物の製造方法。[5] [1]ないし[4]のいずれかにおいて、前記スルホン酸型陽イオン交換樹脂のスルホン酸基の一部がチオール化合物で変性されており、その変性率が1〜40モル%であることを特徴とする精製フェノール系化合物の製造方法。[6] [5]において、前記チオール化合物がピリジンエタンチオールであることを特徴とする精製フェノール系化合物の製造方法。[7] [1]ないし[6]のいずれかにおいて、前記フェノール系化合物を前記スルホン酸型陽イオン交換樹脂と陰イオン交換樹脂に接触させることを特徴とする精製フェノール系化合物の製造方法。 本発明によれば、フェノール系化合物中のアセトール等の不純物とフェノール系化合物との反応速度を高め、短時間で効率的にフェノール系化合物中の不純物含有量を低減することができる。 また、ゲル型陽イオン交換樹脂は、主として樹脂表面で反応が起こるのに対して、ポーラス型の陽イオン交換樹脂では、樹脂内部にまでフェノール系化合物及び不純物が拡散して樹脂内部でも反応が起こる結果、触媒作用の劣化に到るまでの樹脂寿命を延長することができ、長期に亘り陽イオン交換樹脂を有効に用いることができる。 以下に本発明の精製フェノール系化合物の製造方法の実施の形態を詳細に説明するが、本発明は以下の説明に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変形して実施することができる。なお、本明細書において、「〜」を用いてその前後に数値又は物性値を挟んで表現する場合、その前後の値を含むものとして用いることとする。 本発明の精製フェノール系化合物の製造方法は、下記式(1)で表されるフェノール系化合物をスルホン酸型陽イオン交換樹脂に接触させて精製する精製フェノール系化合物の製造方法において、該スルホン酸型陽イオン交換樹脂が、架橋度6.0%以下のポーラス型陽イオン交換樹脂であることを特徴とする。(上記式(1)において、R1及びR2は同一でも互いに異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜3のアルキル基又は炭素数1〜3のハロアルキル基を表す。) R1及びR2のハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等が挙げられ、これらの中でも好ましいのはフッ素原子である。R1及びR2の炭素数1〜3のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基が挙げられ、これらの中でも好ましいのはメチル基である。R1及びR2の炭素数1〜3のハロアルキル基は好ましくは炭素数1のハロアルキル基であり、更に好ましいのはトリフルオロメチル基である。以上に挙げたR1及びR2の中でも好ましいのは、水素原子、フッ素原子、メチル基、トリフルオロメチル基等であり、これらの中でも水素原子が最も好ましい。なお、R1及びR2が水素原子以外の置換基である場合、R1及びR2の置換基が同一のものであることが好ましい。また、その置換基の位置はオルト位であることが好ましい。 本発明の精製フェノール系化合物の製造方法は、フェノール系化合物中のアセトール等の不純物とフェノール系化合物との反応速度を高め、短時間で効率的にフェノール系化合物中の不純物含有量を低減することができるという特長を有する。これは、本発明に用いる上記スルホン酸型陽イオン交換樹脂が、樹脂内部にまでフェノール系化合物や不純物が拡散し易く、この結果、主として樹脂表面で反応が進行するゲル型のスルホン酸型陽イオン交換樹脂に比べて、陽イオン交換樹脂内でのフェノール系化合物と不純物との反応性を向上させて、反応速度を高めることができるためであると考えられる。[フェノール系化合物] 本発明で精製するフェノール系化合物は、前記式(1)で表され、通常クメン法により製造されたフェノール系化合物であり、アセトール(ヒドロキシアセトン)、メシチルオキシド、ベンズアルデヒド、アセトフェノン、(メチル)ベンゾフラン、(α)−メチルスチレン等を不純物として含むものである。ただし、本発明の精製フェノール系化合物の製造方法を適用するフェノール系化合物はクメン法により製造されたものには限られず、上記のような不純物を含むフェノール系化合物であれば、いずれの製造方法によって得られたものに対しても本発明を好適に用いることができる。なお、本発明においては前記式(1)で表されるフェノール系化合物を単に「フェノール系化合物」と称することがある。 通常、本発明で精製対象とするフェノール系化合物には、上記の不純物が、各々1〜300ppm程度、合計で10〜1000ppm程度含有されている。[スルホン酸型陽イオン交換樹脂]<ポーラス型陽イオン交換樹脂> 本発明において、フェノール系化合物の精製に用いるスルホン酸型陽イオン交換樹脂は、ポーラス型の陽イオン交換樹脂である。陽イオン交換樹脂がゲル型かポーラス型かは、目視にて容易に判別することができ、透明なゲル型陽イオン交換樹脂に対して、ポーラス型はその多孔質により、不透明な外観となる。 ポーラス型の陽イオン交換樹脂は、多孔化剤を用いて、例えば、特開平5−239237号公報等に記載の製造方法等の常法に従って製造することができる。 多孔化剤としては例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ドデカン、イソオクタン、ガソリン、ミネラルオイル等の直鎖または分岐の炭化水素類;n−ブタノール、s−ブタノール、t−ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、オクタノール、メチルイソブチルカルビノール等の炭素数4以上でアルキル鎖が直鎖または分岐のアルコール類;トルエン、キシレン(オルト、メタ、パラ)、ベンゼン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、ニトロベンゼン、ブロモベンゼン、アニリン、エチルベンゼン、ジエチルベンゼンなどの、芳香環が置換されていてもよい芳香族炭化水素類;ジクロロメタン、クロロホルム、ジクロロエタンなどのハロゲン化炭化水素類;ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリウレタン等のポリマー等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。 なお、本発明で用いるスルホン酸型陽イオン交換樹脂は、通常は粒子形状(粒状)である。具体的な形状としては球状、略球状、多面体状、凝集体状など様々な形状が挙げられるが、特に制限されるものではない。<架橋度> 本発明で用いるスルホン酸型陽イオン交換樹脂の架橋度は、6.0%以下である。また、架橋度は好ましくは1.0%以上であり、より好ましくは1.5%以上であり、更に好ましくは2.0%以上であり、特に好ましくは2.5%以上である。一方、好ましくは5.5%以下であり、より好ましくは5.0%以下であり、更に好ましくは4.5%以下である。なお、ここで言う架橋度とは、スルホン酸型陽イオン交換樹脂の製造時において、用いられる全仕込み重合性モノマーの合計重量に対する架橋性芳香族モノマーの重量%により決定されるものである。 この架橋度が前記上限値以下であると、陽イオン交換樹脂内の拡散抵抗が低くなり、触媒活性が向上するために好ましい。一方、架橋度が前記下限値以上であると、陽イオン交換樹脂の強度を保つ観点から好ましく、フェノール系化合物の精製に供するに際し、使用前にフェノール系化合物等に接触させてコンディショニングを行う時の膨潤、収縮が抑えられ、陽イオン交換樹脂の破砕等を防ぐことができるために好ましい。 なお、本発明において、スルホン酸型陽イオン交換樹脂の「触媒活性」、「触媒効果」とは、フェノール系化合物とフェノール系化合物中のアセトール等の不純物との反応に対する触媒活性、触媒効果をさす。<平均粒径> 本発明で用いるスルホン酸型陽イオン交換樹脂は、平均粒径が次のような範囲であることが好ましい。 連続反応槽においては樹脂の濾過性の観点から平均粒径は10μm以上であることが好ましく、50μm以上であることがより好ましく、また、固定床においては通液時の圧力損失を抑える観点から平均粒径は200μm以上であることが好ましく、400μm以上であることがより好ましい。 一方、触媒活性や製品の破砕の抑制の観点から平均粒径は850μm以下であることが好ましく、750μm以下であることがより好ましく、700μm以下であることが更に好ましく、600μm以下であることが特に好ましい。 なお、スルホン酸型陽イオン交換樹脂の平均粒径は、後述の実施例の項に記載される方法で測定、算出される。<均一係数> 本発明で用いるスルホン酸型陽イオン交換樹脂は、粒度分布がシャープであることが好ましく、均一係数が1.4以下であることが好ましく、特に1.2以下、とりわけ1.1以下であることが好ましい。均一係数が上記上限以下であると、触媒活性が向上し、また、スルホン酸型陽イオン交換樹脂の充填層へのフェノール系化合物通液時の圧力損失が緩和される点で好ましい。均一係数は小さい程望ましい。均一係数の下限は1.0である。 なお、本発明において、「均一係数」とは、樹脂の累積粒度分布において、全樹脂の40%が通過する粒径と、全樹脂の90%が通過する粒径の比を意味し、スルホン酸型陽イオン交換樹脂の均一係数は、後述の実施例の項に記載される方法で測定、算出される。 均一係数が小さくなると、粒子の均一性が高くなることを意味し、均一係数1.0は完全に均一粒子であることを表す。 また、本発明に用いるスルホン酸型陽イオン交換樹脂を均一係数の低い樹脂とする方法については、樹脂粒子を分級する方法も知られているし、樹脂を構成する重合体の製造に当たり、噴き出し法等によりあらかじめ均一な樹脂粒子を製造し、これをスルホン化する方法も知られている。本発明の実施例においては分級法によって製造しているが、均一係数の低い樹脂とする方法は、本発明の実施例において示した分級法に限定されるものではない。<交換容量(中性塩分解容量)> 本発明で用いるスルホン酸型陽イオン交換樹脂は、スルホン酸型強酸性陽イオン交換樹脂であることが好ましく、樹脂1mLあたりのスルホン酸基の中性塩分解容量に相当する交換容量が、0.2meq/mL−樹脂以上が好ましく、0.6meq/mL−樹脂以上がより好ましく、一方、1.8meq/mL−樹脂以下が好ましく、1.3meq/mL−樹脂以下がより好ましい。この交換容量が上記下限値以上であると触媒活性が十分なものとなるために好ましく、一方、上記下限値以下であると、触媒活性や触媒の寿命の点で好ましい。 このスルホン酸型陽イオン交換樹脂の交換容量は、例えば、以下の方法で求めることができるが、市販のスルホン酸型陽イオン交換樹脂を用いる場合はカタログ値を採用する。 試料10.00mLを採取する。それを脱塩水で濾過管に移し、過剰の脱塩水は、水面が試料の上約10mmになるまで水抜きする。濾過管に2NのHCl280mL、次いで脱塩水約1LをダウンフローSV30hr−1で順次流し、樹脂を再生、洗浄する。 次いで、5重量%NaCl250mLをSV30hr−1で流し、流出液を250mLメスフラスコに全量回収する。 この溶液をメチルレッド・メチレンブルー混合指示薬を用いて0.1NのNaOH水溶液(力値:F)で滴定し、滴定量a(mL)を求める。 交換容量(meq/mL−樹脂)は下記式により算出する。 交換容量(meq/mL−樹脂)=[a(mL)×0.1×F]/10<チオール変性> 本発明で用いるスルホン酸型陽イオン交換樹脂は、そのスルホン酸基の一部がチオール化合物で変性されていてもよく、このようなチオール変性スルホン酸型陽イオン交換樹脂であれば、チオール化合物による助触媒効果でフェノール系化合物と不純物との反応速度をより一層高めることができる。 スルホン酸型陽イオン交換樹脂の変性に用いるチオール化合物は特に限定されるものではなく、陽イオン交換樹脂のスルホン酸基とイオン結合を形成する化合物であればよい。このようなチオール化合物としては、例えば2−アミノエタンチオール、3−アミノプロパンチオール、N,N−ジメチルアミノプロパンチオール等のアミノアルカンチオール類;4−アミノベンゼンチオール;4−ピリジンチオール;3−ピリジンメタンチオール、ピリジンエタンチオール等のピリジンアルカンチオール類;チアゾリジン、2,2−ジメチルチアゾリジン、2−メチル−2−フェニルチアゾリジン、3−メチルチアゾリジン等のチアゾリジン類等、及び、これらのチオール基が保護された誘導体が挙げられる。これらのうち、特にその助触媒活性に優れることから、2−(2−ピリジン)エタンチオール、4−(2−ピリジン)エタンチオール等のピリジンエタンチオールが好ましい。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。 スルホン酸型陽イオン交換樹脂をチオール化合物により変性する割合(変性率)は、スルホン酸型陽イオン交換樹脂の全スルホン酸基の40モル%以下が好ましく、30モル%以下とすることがより好ましく、25モル%以下とすることが更に好ましく、20モル%以下とすることが特に好ましい。一方、この変性率は1モル%以上とすることが好ましく、5モル%以上とすることがより好ましい。 チオール化合物による変性率が前記範囲であると、フェノール系化合物と不純物との反応に必要なスルホン酸基量の低下による触媒活性の低下を引き起こすことなく、チオール化合物由来の基が助触媒として働く効果を最大限に発現させることができる。変性率が小さすぎる場合は反応速度の向上効果が低くなる傾向にあり、触媒としての活性や寿命が不十分となる傾向にある。また、変性率が大きすぎる場合は、反応速度は向上するものの反応に関与するスルホン酸基の量が少なくなるので、反応性が低下する傾向がある。また、高価なチオール化合物を多く使用することになるので、経済的にも好ましくない。 チオール化合物によるスルホン酸型陽イオン交換樹脂の変性は特開2010−119995号公報等に記載の常法に従って行うことができる。 なお、本発明において、チオール化合物による変性率は、下記反応式(iv)及び(v)に基づき担持後のSH基の量をヨウ素滴定(酸化還元滴定)により測定する方法により求めることができる(下記反応式(v)におけるRはスルホン酸型陽イオン交換樹脂である。)。より具体的な方法を後掲の実施例に記載する。 IO3− + 5I− + 5H+ → 3I2 +3H2O …(iv) 2R−SH + I2 → R−S−S−R + 2HI …(v) 本発明で用いるスルホン酸型陽イオン交換樹脂は、上述のような変性スルホン酸型陽イオン交換樹脂のみであっても、未変性スルホン酸型陽イオン交換樹脂のみであってもよく、変性スルホン酸型陽イオン交換樹脂と未変性スルホン酸型陽イオン交換樹脂との併用であってもよい。変性スルホン酸型陽イオン交換樹脂と未変性スルホン酸型陽イオン交換樹脂とを充填した樹脂層にフェノール系化合物を通液して処理を行う場合、両樹脂の配置は、両樹脂の混合状態でもよく、二層構造であってもよい。後者の場合、不純物による変性樹脂の劣化を最小限とするため、未変性樹脂を上流側、変性樹脂を下流側に配置することが好ましい。また、本発明で用いるスルホン酸型陽イオン交換樹脂は、架橋度や、平均粒径、変性に用いたチオール化合物が異なる2種以上の変性スルホン酸型陽イオン交換樹脂の混合物であってもよい。ただし、本発明において、均一係数の小さいスルホン酸型陽イオン交換樹脂を用いることによる前述の効果を得るために、2種以上のスルホン酸型陽イオン交換樹脂を混合して用いる場合、その混合物としてのスルホン酸型陽イオン交換樹脂の均一係数が1.4以下となるようにすることが好ましい。 本発明では、上記好適な物性のスルホン酸型陽イオン交換樹脂を製造して用いてることができるが、架橋度やスルホン酸基量が上記好適範囲の市販品を、必要に応じて分級などにより平均粒径及び均一係数を調整したり、必要に応じてチオール変性したりして用いてもよい。本発明に好適に用いられるポーラス型のスルホン酸型陽イオン交換樹脂の市販品としては、例えば、三菱化学(株)製「ダイヤイオン(登録商標)PK206H」、「ダイヤイオン(登録商標)PK208H」「ダイヤイオン(登録商標)PK210H」などが挙げられる。[スルホン酸型陽イオン交換樹脂との接触方法] 精製に供するフェノール系化合物とスルホン酸型陽イオン交換樹脂とを接触させる方法としては特に制限はなく、フェノール系化合物とスルホン酸型陽イオン交換樹脂とを攪拌混合した後、スルホン酸型陽イオン交換樹脂を濾過分離する方法、陽イオン交換樹脂を入れた攪拌槽にフェノール系化合物を供給しながら、処理液を抜き出す方法、スルホン酸型陽イオン交換樹脂の充填層にフェノール系化合物を下向流または上向流で通液する方法などが挙げられる。 スルホン酸型陽イオン交換樹脂の充填層にフェノール系化合物を通液する場合、その通液速度としては、SV0.5〜50hr−1、特に1〜15hr−1とすることが好ましい。通液速度が高過ぎると、通液時の圧力損失が大きくなったり、フェノール系化合物と不純物とを十分に反応させることができず、低過ぎると処理効率が低下する傾向にある。 スルホン酸型陽イオン交換樹脂と接触させるフェノール系化合物の温度(処理温度)は、高い方が反応速度が大きいが、樹脂の寿命は短くなる傾向にある。処理温度はフェノール系化合物の融点(40℃)以上で、スルホン酸型陽イオン交換樹脂の耐熱温度以下であり、通常50〜120℃、好ましくは60〜80℃である。[陰イオン交換樹脂] 本発明においては、更に陰イオン交換樹脂を用いてフェノール系化合物を処理してもよく、陰イオン交換樹脂を用いることにより、陰イオン交換樹脂の触媒効果で、フェノール系化合物中の不純物のうち、アセトール、メシチルオキシド等のケトン類やアルデヒド類のカルボニル誘導体をアルドール縮合反応により高分子量化してフェノール系化合物との蒸留分離性を高めることができる。 ここで、陰イオン交換樹脂は、触媒活性の点から強塩基性陰イオン交換樹脂も挙げられるが、耐熱性、ライフの観点から、弱塩基性アニオン交換樹脂が好ましい。例えば、三菱化学(株)製「ダイヤイオン(登録商標)WA30(ジメチルアミノ基を有する弱塩基性樹脂)」、「ダイヤイオン(登録商標)WA20」、「ダイヤイオン(登録商標)CR20(ポリアルキレンポリアミノ基を有する弱塩基性樹脂)」等が挙げられる。 フェノール系化合物を陰イオン交換樹脂と接触させて処理する場合、陰イオン交換樹脂と前述のスルホン酸型陽イオン交換樹脂との混床を形成して、これにフェノール系化合物を通液して、陰イオン交換樹脂による処理とスルホン酸型陽イオン交換樹脂による処理とを同時に行ってもよい。 陰イオン交換樹脂による処理とスルホン酸型陽イオン交換樹脂による処理を別々に行う場合、先にスルホン酸型陽イオン交換樹脂による処理を行った後、陰イオン交換樹脂による処理を行うことが好ましい。即ち、例えば、スルホン酸型陽イオン交換樹脂充填層にフェノール系化合物を通液すると、スルホン酸型陽イオン交換樹脂からポリスチレンスルホン酸やフェノールスルホン酸が溶出して、流出し、フェノール系化合物に含まれるものとなるが、この溶出したポリスチレンスルホン酸やフェノールスルホン酸を含むフェノール系化合物を陰イオン交換樹脂で処理することによりポリスチレンスルホン酸やフェノールスルホン酸を吸着して除去することができ、溶出ポリスチレンスルホン酸やフェノールスルホン酸の処理が不要となる。 このようにして、陰イオン交換樹脂を併用する場合、陰イオン交換樹脂による処理温度としては、前述のスルホン酸型陽イオン交換樹脂によるフェノール系化合物の処理温度である50〜120℃、特に55〜80℃であることが好ましく、このような温度条件に対する耐熱性に優れることから、陰イオン交換樹脂としては弱塩基性陰イオン交換樹脂を用いることが好ましい。 また、用いる陰イオン交換樹脂量については特に制限はないが、スルホン酸型陽イオン交換樹脂量に対して50体積%以下、例えば1〜30体積%、特に1〜10体積%とすることが好ましい。[蒸留精製] 上述のようにして、フェノール系化合物をスルホン酸型陽イオン交換樹脂、或いはスルホン酸型陽イオン交換樹脂と陰イオン交換樹脂で処理した後は、フェノール系化合物を常法に従って蒸留精製することにより、スルホン酸型陽イオン交換樹脂による処理で高分子量化することにより高沸点化合物となった不純物、また、陰イオン交換樹脂による処理で縮合して高分子量化することにより高沸点化合物となった不純物を、フェノール系化合物と効率的に蒸留分離することが可能となり、不純物を高度に除去した高純度の精製フェノール系化合物を得ることができる。 本発明に従って精製されたフェノール系化合物は、フェノール系化合物製造時の不純物が十分に低減された高純度のフェノール系化合物であり、不純物による着色が低減され、ビスフェノールA、更にはビスフェノールA等のビスフェノール類を原料とする芳香族ポリカーボネート樹脂に代表される、フェノール系化合物を出発物質とする各種誘導体の製造原料、その他の用途に有用である。 以下に実施例を挙げて本発明により具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例によって限定されるものではない。なお、以下の実施例における各種の製造条件や評価結果の値は、本発明の実施態様における上限または下限の好ましい値としての意味をもつものであり、好ましい範囲は前記した上限または下限の値と、下記実施例の値または実施例同士の値との組み合わせで規定される範囲であってもよい。 なお、以下の実施例及び比較例で用いたスルホン酸型陽イオン交換樹脂の物性の評価方法は以下の通りである。<架橋度> 全仕込み重合性モノマーの合計重量に対する架橋性芳香族モノマーの割合(重量%)で求めた。<平均粒径(重量平均粒径)> 篩目の径が1180μm、850μm、710μm、600μm、425μm、300μmの篩を、下方になる程、篩目の径が小さくなる様に積み重ねた。この積み重ねた篩をバットの上に置き、最上段に積み重ねられた1180μmの篩の中に陽イオン交換樹脂を約100mL入れた。 脱塩水の供給口につないだゴム管から樹脂上にゆるやかに水を注ぎ、小粒を下の方へ篩別した。 1180μmの篩の中に残った陽イオン交換樹脂は、さらに以下の方法により、厳密に小粒を篩別した。即ち、別のバットの1/2位の深さまで水を満たし、1180μmの篩を前記バットの中で上下及び回転運動を与えて動揺させることを繰り返し、小粒を篩別した。 このバットの中の小粒は次の850μmの篩の上へ戻し、また1180μmの篩の上に残った陽イオン交換樹脂はさらに別のバットに採取した。篩の目に陽イオン交換樹脂が詰まっていれば、篩をバットに逆に置き、脱塩水の供給口につないだゴム管に密着させ、水を強く流して篩の目に詰まった陽イオン交換樹脂を取り出した。取り出した陽イオン交換樹脂は、1180μmの篩上に残った陽イオン交換樹脂を採取したバットに移し、合計の容積量をメスシリンダーで測定した。この容積をa(ml)とした。 1180μmの篩を通った陽イオン交換樹脂は850μm、710μm、600μm、425μm、300μmの篩についてそれぞれ同様の操作を行い、メスシリンダーを用いて容積b(850μmの篩上に残った樹脂の容積)(mL)、c(710μmの篩上に残った樹脂の容積)(mL)、d(600μmの篩上に残った樹脂の容積)(mL)、e(425μmの篩上に残った樹脂の容積)(mL)、f(300μmの篩上に残った樹脂の容積)(mL)を求め、最後に300μmの篩を通った樹脂の容積をメスシリンダーで測定し、g(mL)とした。 V=a+b+c+d+e+f+gとし、 a/V×100=a’(%) b/V×100=b’(%) c/V×100=c’(%) d/V×100=d’(%) e/V×100=e’(%) f/V×100=f’(%) g/V×100=g’(%)を算出した。 算出したa’〜g’より片軸に各篩の残留分累計(%)、他の軸に篩目の径(mm)をとり、これを対数確率紙上にプロットした。残留分の多い順に3点を取り、この3点を出来るだけ満足するような線を引き、この線から残留分累計が50%に相当する篩目の径(mm)を求め、これを平均粒径とした。 (なお、上記平均粒径の算出法は、例えば三菱化学株式会社イオン交換樹脂事業部発行「ダイヤイオン1」改訂1版(平成19年10月31日)第140〜142頁に記載される公知の算出法である。)<均一係数> 対数確率紙上に、上記の平均粒径の測定において算出したa’〜g’の各篩の残留分累計(%)とそれに対応する篩目の径(mm)をプロットし、その中から残留分の多い順に3点を選び、この3点を出来るだけ満足するような直線を引いた。この直線から残留分累計が90%に対応する篩目の径(mm)を求め、これを有効径とした。次に、残留分累計40%に対応する篩目の径(mm)を求め、次式により均一係数を求めた。 均一係数=[残留分累計40%に対応する篩目の径(mm)]/[有効径(mm)](なお、上記均一係数の算出法は、例えば三菱化学株式会社イオン交換樹脂事業部発行「ダイヤイオン1」改訂1版(平成19年10月31日)第140〜142頁に記載される公知の算出法である。)<変性率> 100mL三角フラスコに、チオール化合物で変性処理し、セントル脱水した樹脂1g入れ、精秤した。ヨウ化カリウムを0.5g加え、次に酢酸をピペットで1mL加え、更に脱塩水20mLを加えてスターラーで攪拌した。30分後、1/100N−ヨウ素酸カリウム溶液で樹脂を含む溶液を適定した。これを3回繰り返し、その平均値をその樹脂のSH担持量、すなわちチオール化合物の変性率とした。[実施例1]<チオール変性スルホン酸型陽イオン交換樹脂の調製> 三菱化学(株)製スルホン酸型陽イオン交換樹脂「ダイヤイオン(登録商標)PK206H」)(ポーラス型、架橋度3.0%、交換容量0.84meq/mL−樹脂)を490〜510μmの粒度範囲で水簸分級した。この分級後のスルホン酸型陽イオン交換樹脂の平均粒径は500μmで、均一係数は1.03であった。分級後のスルホン酸型陽イオン交換樹脂を10mlのメスシリンダーで秤取り、遠心分離器で脱水した後、シャーレに樹脂を入れ、真空乾燥器で50℃にて8時間乾燥した。 200mLの四つ口フラスコに、コンデンサー、熱電対、ガラス攪拌棒、テフロン(登録商標)攪拌羽、スリーワンモーターをセットし、この四つ口フラスコに、70℃で加熱溶融させたフェノール(キシダ化学社製試薬特級、以下同様)(80.50g)と上記の乾燥陽イオン交換樹脂を入れ、窒素気流下(10mL/min)、70℃に加熱したオイルバスに漬け、70℃で2時間、スルホン酸型陽イオン交換樹脂を静置状態で膨潤させ、その後、180rpmで攪拌しながら、オートピペッターで2−(2−ピリジン)エタンチオールのフェノール溶液を入れて更に1時間膨潤させた。得られたチオール変性スルホン酸型陽イオン交換樹脂の全スルホン酸基に対する変性率は10モル%であった。<被処理フェノールの調製> 125mLの耐圧瓶に、アセトール(ヒドロキシアセトン)(東京化成社製試薬)、メシチルオキサイド(東京化成社製試薬)、2−メチルベンゾフラン(シグマアルドリッチ社製試薬)、アセトフェノン(キシダ化学社製試薬特級)、ベンズアルデヒド(キシダ化学社製試薬特級)、α−メチルスチレン(東京化成製社製試薬)を入れ、更に70℃で溶融させたフェノールを入れ均一溶液にした。各成分の濃度は1.0重量%に調整した。この溶液を更にフェノールで希釈して各成分が1000ppmの被処理フェノールを調製した。<フェノールの精製(フェノール中の不純物の重質比)> 上記のフェノールで膨潤させたチオール変性スルホン酸型陽イオン交換樹脂に、上記の被処理フェノール(9.5g)を、オートピペッターで添加して反応を開始した。 反応開始60分後に、予めメタノール5.0mLを入れた20mLスクリューバイアル瓶に、反応溶液を1mLサンプリングしてクエンチした。このメタノール希釈液を以下の条件でGC(ガスクロマトグラフ)分析を行い、各成分の濃度を求めた。(GC分析条件) GC装置:Agilent 6850シリーズ 昇温条件:50℃→10℃/分→300℃(10分間保持) 分析時間:35分 分析カラム:Agilent J&W GCカラム HP−5 50m×0.20mmID、0.33μm キャリアガス:He 40cm/S 検出器:FID 気化室温度:200℃ 検出器温度:250℃ スプリット比:5/1 注入量:1.00μL(メタノール中) 結果を表1Bに示す。[実施例2] 実施例1において、スルホン酸型陽イオン交換樹脂として、三菱化学(株)製スルホン酸型陽イオン交換樹脂「ダイヤイオン(登録商標)PK208H」(ポーラス型、架橋度4.0%、交換容量1.12meq/mL−樹脂)を490〜510μmの粒度範囲で水簸分級したものを用いた。そのまま脱水、真空乾燥し、その後、実施例1と同様にして2−(2−ピリジン)エタンチオールによる変性を行い、得られたチオール変性スルホン酸型陽イオン交換樹脂を用いて実施例1と同様にしてフェノールの精製を行い、結果を表1Bに示した。 なお、水簸分級していない「ダイヤイオン(登録商標)PK208H」の平均粒径と均一係数を測定したところ、平均粒径は500μmで、均一係数は1.03であった。[比較例1] 実施例1において、スルホン酸型陽イオン交換樹脂として、三菱化学(株)製「ダイヤイオン(登録商標)PK228H」(ポーラス型、架橋度14.0%、交換容量2.07meq/mL−樹脂)を水簸分級することなく、そのまま脱水、真空乾燥し、その後、チオール化合物を含まないフェノールで膨潤させて、チオール化合物による変性を行わずに、同様にフェノールの精製に供した。 結果を表1Bに示す。 なお、水簸分級していない「ダイヤイオン(登録商標)PK228H」の平均粒径と均一係数を測定したところ、平均粒径は750μmで、均一係数は1.5であった。[比較例2]<ゲル型のスルホン酸型陽イオン交換樹脂の製造> 比較例2においては以下に示すように特開2006−328290号公報の実施例に記載した方法と同様の方法により架橋度が6.4%、交換容量が1.84meq/mL−樹脂のゲル型のスルホン酸型陽イオン交換樹脂を製造した。・反応器: 重合反応用の反応器として、攪拌翼、圧力計、窒素管、温度計を取り付けたステンレス(以下適宜「SUS」と略する。)製の耐圧性の反応器を使用した。・水相: 水相として、2重量%ポリビニルアルコール水溶液30mL及び0.1重量%メチレンブルー水溶液10mLを含む水溶液2150mLを調製した。得られた水相を攪拌しながら、10μmのSUS製焼結フィルターを通じて窒素ガスを1時間バブリングした。溶存酸素濃度は0.1ppm以下であった。・油相(モノマー相): 原料モノマーとして、スチレン497gと、ジビニルベンゼン(ダウ・ケミカル社製、純度63%)56.2gを用いるとともに、重合開始剤として、含水BPO(過酸化ベンゾイル)(BPO濃度75重量%)0.75gと、PBZ(t−ブチルパーベンゾエート)0.55g(全モノマー量に対してBPO、PBZともに0.1重量%)を用い、これらを混合して油相(モノマー相)を調製した。得られた油相を攪拌しながら、10μmのSUS製焼結フィルターを通じて窒素ガスを1時間バブリングし、溶存酸素をほぼ完全に除去した。・重合反応: 上述の水相と油相を上述の反応器に入れ、室温で、1kPaで減圧した後、窒素ガスで置換するという脱気操作を3回繰り返すことにより、反応器中の気相を窒素置換し、気相中の酸素をほぼ完全に除去した上で、反応器を密閉した。30℃で30分間、110rpmで攪拌し、懸濁液とした。2時間かけて80℃まで昇温し、80℃で4時間保持した(前段重合)後、2時間かけて120℃まで昇温し、120℃で更に4時間保持する(後段重合)ことにより、二段階に分けて重合反応を行なった。反応の終了後、反応器を50℃以下に冷却し、得られた重合体を反応器から取り出して脱塩水で洗浄し、真空乾燥器を用いて50℃で8時間乾燥した。得られた重合体の収率は99.5%であった。・スルホン酸基の導入: 得られた重合体200gを2Lの3つ口フラスコに入れ、ニトロベンゼン400gを加え、室温で0.5時間攪拌した後、80℃まで昇温して更に3時間攪拌し、重合体を膨潤した。一度室温まで冷却した後、98%硫酸1400gを加え、攪拌した。4時間かけて100℃まで昇温し、更に100℃で4時間保持して反応させた。その後、反応液を冷却し、内温が50℃を越えないようにしながら、脱塩水を15時間かけて滴下した。この間、途中3回反応液を抜き出し、硫酸を除去した。その後、ニトロベンゼンと水相を除去し、更に脱塩水を加えて加熱することにより、残留するニトロベンゼンを留去した。得られた樹脂を10BVの脱塩水で洗浄することにより、スルホン酸型陽イオン交換樹脂を製造した。 製造されたゲル型のスルホン酸型陽イオン交換樹脂の平均粒径と均一係数を測定したところ、平均粒径は750μmで、均一係数は1.5であった。 スルホン酸型陽イオン交換樹脂として、このゲル型のスルホン酸型陽イオン交換樹脂を用いたこと以外は実施例1と同様にしてフェノールの精製を行い、結果を表1Bに示した。[比較例3] 実施例1において、スルホン酸型陽イオン交換樹脂として、三菱化学(株)製「ダイヤイオン(登録商標)SK104H」(ゲル型、架橋度4.0%、交換容量1.25meq/mL−樹脂)を水簸分級することなく、そのまま脱水、真空乾燥し、その後、実施例1と同様に変性処理を行い(ただし変性率は20モル%)、同様にフェノールの精製に供した。 結果を表1Bに示す。 なお、水簸分級していない「ダイヤイオン(登録商標)SK104H」の平均粒径と均一係数を測定したところ、平均粒径は750μmで、均一係数は1.5であった。[比較例4〜7] 比較例3において、2−(2−ピリジン)エタンチオールの代りに、表1Aに示すチオール化合物を用い、表1Aに示す変性率としたこと以外は同様にしてスルホン酸型陽イオン交換樹脂の変性処理を行い、得られたチオール変性スルホン酸型陽イオン交換樹脂を用いて、実施例1と同様にしてフェノールの精製を行い、結果を表1Bに示した。[比較例8] 実施例1において、スルホン酸型陽イオン交換樹脂として、三菱化学(株)製「ダイヤイオン(登録商標)RCP145H」(ポーラス型、架橋度14.0%、交換容量0.87meq/mL−樹脂)を用いたこと以外は同様にして(ただし変性率は20モル%)、フェノールの精製を行った。 結果を表1Bに示す。 なお、水簸分級していない「ダイヤイオン(登録商標)RCP145H」の平均粒径と均一係数を測定したところ、平均粒径は750μmで、均一係数は1.5であった。〔結果の評価〕 表1A,Bより架橋度が6.0%以下のポーラス型のスルホン酸型陽イオン交換樹脂を用いることにより、フェノール中の不純物を効率的に除去することができることが分かる。 これに対して、比較例1,8ではポーラス型であるが、架橋度が大きいために、不純物の除去効果が悪い。比較例2〜7はゲル型であるために不純物の除去効果が悪く、ゲル型のスルホン酸型陽イオン交換樹脂では、チオール変性を行っても、十分な結果は得られなかった。[実施例3]<触媒の負荷試験>実施例1と同様の反応装置に70℃に加熱したフェノール(89.90g)と、乾燥した三菱化学(株)製スルホン酸型陽イオン交換樹脂「ダイヤイオン(登録商標)PK206H」)を加えた。100℃に加熱したオイルバスに付けて30分間静置膨潤後、180rpmで30分間攪拌した。アセトール、メシチルオキシド、メチルスチレン、ベンズアルデヒドの4種類の不純物をそれぞれ各1.0g量り取り、フェノール溶液に添加して反応を開始した。15分毎に反応溶液をサンプリングし、20%フェノール/メタノール溶液で希釈し、GC分析を行って不純物の減少速度を確認した。この結果を、表2Aに示した。 さらに反応開始後の1時間目以降、1時間おきに6時間まで上記4種類の不純物を含む混合溶液を2.0gずつ加え、8時間100℃で反応させた後、室温まで放置することにより冷却した。12時間後まで室温で保管していたが、溶液は結晶化しないで、赤褐色の溶液のままであった。<触媒寿命の評価> 前記反応の12時間後、オイルバスを加熱し内温を70℃に設定し、4種類の不純物の濃度が1000ppmとなるように混合物のフェノール溶液9.3gを添加した。時間毎に反応溶液をサンプリングし、20%フェノール/メタノール溶液で希釈した溶液についてGC分析を行い、触媒寿命の評価を行った。反応4時間後の各成分の残留率を表2Bに示した。[比較例9] 用いた樹脂の種類を「PK206H」から三菱化学(株)製「ダイヤイオン(登録商標)SK104H」に変更した以外は実施例3と同様に実施した。その結果を表2A及び表2Bに示す。〔結果の評価〕 実施例3のスルホン酸型陽イオン交換樹脂は、比較例9のスルホン酸型陽イオン交換樹脂と比較して、不純物の低下速度が大きく、長期間活性を維持することができる。 下記式(1)で表されるフェノール系化合物をスルホン酸型陽イオン交換樹脂に接触させて精製する精製フェノール系化合物の製造方法において、 該スルホン酸型陽イオン交換樹脂が、架橋度6.0%以下のポーラス型陽イオン交換樹脂であることを特徴とする精製フェノール系化合物の製造方法。(上記式(1)において、R1及びR2は同一でも互いに異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜3のアルキル基又は炭素数1〜3のハロアルキル基を表す。) 請求項1において、前記スルホン酸型陽イオン交換樹脂の架橋度が1.0〜5.0%であることを特徴とする精製フェノール系化合物の製造方法。 請求項1又は2において、前記スルホン酸型陽イオン交換樹脂の平均粒径が10〜850μmであることを特徴とする精製フェノール系化合物の製造方法。 請求項1ないし3のいずれか1項において、前記スルホン酸型陽イオン交換樹脂の均一係数が1.4以下であることを特徴とする精製フェノール系化合物の製造方法。 請求項1ないし4のいずれか1項において、前記スルホン酸型陽イオン交換樹脂のスルホン酸基の一部がチオール化合物で変性されており、その変性率が1〜40モル%であることを特徴とする精製フェノール系化合物の製造方法。 請求項5において、前記チオール化合物がピリジンエタンチオールであることを特徴とする精製フェノール系化合物の製造方法。 請求項1ないし6のいずれか1項において、前記フェノール系化合物を前記スルホン酸型陽イオン交換樹脂と陰イオン交換樹脂に接触させることを特徴とする精製フェノール系化合物の製造方法。 【課題】アセトール等の不純物を含むフェノール系化合物に対し、スルホン酸型陽イオン交換樹脂を用い、短時間で効率的に精製フェノールを製造する。【解決手段】スルホン酸型陽イオン交換樹脂として、架橋度6.0%以下のポーラス型陽イオン交換樹脂を用いる。架橋度が6.0%以下のポーラス型の陽イオン交換樹脂は、樹脂内部にまでフェノール系化合物や不純物が拡散し易く、この結果、主として樹脂表面で反応が進行するゲル型の陽イオン交換樹脂に比べて、陽イオン交換樹脂内でのフェノール系化合物と不純物との反応性が高く、効率的に精製フェノールを製造することができる。【選択図】なし