タイトル: | 公開特許公報(A)_結晶化度測定方法 |
出願番号: | 2012071670 |
年次: | 2013 |
IPC分類: | G01N 24/08 |
津田 武志 JP 2013205084 公開特許公報(A) 20131007 2012071670 20120327 結晶化度測定方法 株式会社ジェイテクト 000001247 稲岡 耕作 100087701 川崎 実夫 100101328 津田 武志 G01N 24/08 20060101AFI20130910BHJP JPG01N24/08 510LG01N24/08 510P 2 3 OL 11 本発明は、熱可塑性樹脂の結晶化度を測定するための結晶化度測定方法に関するものである。 例えばポリアミド66(PA66)やポリブチレンテレフタレート(PBT)等の結晶性の熱可塑性樹脂からなる成形品の良否を判断する指標として、前記熱可塑性樹脂の結晶化度が広く用いられる。結晶化度は、前記熱可塑性樹脂を構成する結晶相と無定形相の総量中に占める結晶相の割合を表す値であって、かかる結晶化度が高いほど、成形品は高い強度等を有することになるが、逆に柔軟性等は低下する傾向を示す。 前記PA66、PBT等の、いわゆるエンジニアリングプラスチックに分類される熱可塑性樹脂からなる成形品には、主として強靱さ、耐熱性、耐薬品性等が求められ、それらを実現するためには、前記熱可塑性樹脂の結晶化度が高いほど好ましい。 しかし結晶化度は、同じ熱可塑性樹脂であっても熱履歴その他によって変化する。例えば射出成形等によって所定の形状に成形する際の成形条件(特に金型の温度等)や、あるいは成形後の冷却条件(冷却速度等)、さらには成形後のアニールの有無やその温度、時間等によって、熱可塑性樹脂の結晶化度は変化する。 そのため、成形品を形成している熱可塑性樹脂の結晶化度を把握することが、前記成形品の良否、すなわち当該成形品が所期の物性を有しているか否かを判断する上で重要となる。 結晶化度の測定方法としては、示差走査熱量法(Differential scanning calorimetry、DSC法)が広く利用されている。 ところが、結晶化度をDSC法によって求めるためには、100%結晶化した際の融解潜熱の値が必要であるものの、例えば前記PBT等のエンジニアリングプラスチックの多くは前記融解潜熱の値が不明であるため、DSC法によって結晶化度を求めることはできない。 また前記PA66やポリアセタール(POM)等の、融解潜熱が既知の熱可塑性樹脂であっても、例えばガラス繊維等の強化繊維を含む場合、DSC法では、測定結果が前記強化繊維の充てん量のばらつき等の影響を受けるため、正確な結晶化度を求めることはできない。 またDSC法では、測定結果が、測定に供する試料の形状に左右されてばらついたり、測定装置の繰り返し使用によってばらついたりするといった問題もある。 すなわちDSC法では、試料を測定容器中に収容して測定が行われるが、試料の形状によって当該試料と測定容器との接触面積が異なったり、試料の比熱容量が異なったりすると、それが測定結果に影響して、当該測定結果をばらつかせる原因となる。 また測定を繰り返すと、測定装置自体や測定雰囲気のごく僅かな温度変化により測定結果にばらつきを生じてしまう場合もある。 結晶化度の他の測定方法としては、X線回折法や密度法等も知られているが、これらの測定方法でも、やはり測定結果は、強化繊維の充てん量や測定に供する試料形状、あるいは測定装置の繰り返し使用等によってばらついてしまう。 非特許文献1には、パルスNMR(Pulse Nuclear Magnetic Resonance)法を利用してポリウレタン樹脂を解析する方法が記載されている。 すなわち非特許文献1では、ポリウレタン樹脂の試料に磁場のパルスを印加した時の、1H核の緩和挙動を示す、1H−NMRのスピン−スピン緩和時間の自由誘導減衰曲線を求め、前記自由誘導減衰曲線を最小二乗法によって緩和時間の長い信号成分から順に非晶相(無定形相)、境界相、および結晶相(結晶相)の3種に対応する信号成分に分離させてそれぞれのT2H(スピン−スピン緩和時間)と成分量とを求めている。 また非特許文献2には、ポリプロピレンとSEBSブロック共重合体との相溶性、ならびに両者の配合物の物性を検証するため、試料をパルスNMR法によって測定して1H−NMRのスピン−スピン緩和時間の自由誘導減衰曲線を求め、前記自由誘導減衰曲線から、ソリッドエコー法によって、緩和時間の短い順にPP結晶相、PP結晶相とPP非晶相との界面相またはPP非晶相とSEBSとの界面相、そしてPP非晶相の3相の比率の、ビニル含量の相違に基づく変化を求めている。 さらに特許文献1には、半結晶性樹脂の試料を温度可変パルスNMR法によって測定して前記1H−NMRのスピン−スピン緩和時間の自由誘導減衰曲線を求め、前記自由誘導減衰曲線を緩和時間の異なる2つの信号成分、すなわち緩和時間の短い信号成分(結晶相に対応)、および長い信号成分(無定形相に対応)に分離して、前記両信号成分の割合の、温度変化による変動から、前記半結晶性樹脂の高次構造の、前記温度変化による変化を評価する方法が記載されている。 かかるパルスNMR法では、DSC法のように融解潜熱の文献値を必要とせずに、種々の熱可塑性樹脂について、前記のように結晶相、および無定形相の定量的な解析が可能である上、試料中の水素原子核(1H)の核スピンを測定するというパルスNMR法の原理上、基本的に水素原子を含まない無機の強化繊維の充てん量のばらつきの影響を排除することも可能である。さらに、測定に供する試料形状や測定装置の繰り返し使用等によって測定結果がばらつくおそれもない。 そのため前記パルスNMR法を利用すれば、種々の結晶性の熱可塑性樹脂を構成する結晶相と無定形相の総量中に占める前記結晶相の割合、すなわち結晶化度を、前記各種のばらつき等を生じることなしに、正確に求めることができる測定方法を開発できる可能性がある。しかし発明者の検討によると、前記従来のパルスNMR法をそのまま単純に利用しても、熱可塑性樹脂の正確な結晶化度を求めることはできなかった。「固体NMR(高分解能NMRとパルスNMR)によるポリウレタン樹脂の相分離構造解析」DlC Technical Review No.12/2006、DIC株式会社、2006年発行「ポリプロピレンと水添ポリスチレン−block−ポリブタジエン−block−ポリスチレン(SEBS)との相溶性と物性、および相溶化剤への応用」JSR TECHNICAL REVIEW No.110/2003、JSR株式会社、2003年発行特開2009−115488号公報 本発明の目的は、パルスNMR法を利用して、種々の熱可塑性樹脂の結晶化度を正確に求めることができる結晶化度測定方法を提供することにある。 請求項1記載の発明は、結晶性の熱可塑性樹脂を構成する結晶相と無定形相の総量中に占める、前記結晶相の割合としての結晶化度を測定するための測定方法であって、前記熱可塑性樹脂を含む試料を、前記熱可塑性樹脂のガラス転移温度より130℃以上高い一定温度に維持しながら、パルスNMR法によって1H−NMRのスピン−スピン緩和時間の自由誘導減衰曲線を求め、前記自由誘導減衰曲線から、前記結晶相、および無定形相にそれぞれ対応する2つの信号成分を分離するとともに、前記両信号成分の強度比から、前記熱可塑性樹脂の結晶化度を求めることを特徴とする結晶化度測定方法である。 この構成によれば、種々の熱可塑性樹脂の結晶化度を、パルスNMR法を利用して、正確に求めることができる。 すなわち結晶性の熱可塑性樹脂は、そのガラス転移温度付近を境として、無定形相の運動性が大きく異なり、前記ガラス転移温度付近より下の温度では、前記無定形相の運動性が著しく制限される。そのため試料の温度、すなわち測定温度を前記ガラス転移温度付近より下の一定温度に設定して、パルスNMR法によって自由誘導減衰曲線を求めると、例えば図2に示すように、無定形相に対応する信号成分(下側の破線)の強度が、結晶相に対応する信号成分(上側の破線)の強度よりも大幅に小さくなる。 そのため、前記両信号成分の合成として現れる、図中に実線で示す自由誘導減衰曲線から、前記両信号成分をデータ処理によって良好に、しかも正確に分離させることは困難である。 また、かかる運動性が制限された状態で得られた無定形相に対応する信号成分の強度は、当該無定形相の正確な量を示すものではないため、たとえ図の自由誘導減衰曲線から、前記無定形相に対応する信号成分と、結晶相に対応する信号成分とをほぼ正確に分離できたとしても、両信号成分の強度比から熱可塑性樹脂の正確な結晶化度を求めることはできない。 測定温度を、熱可塑性樹脂のガラス転移温度より高くすると、無定形相の運動性が大きく向上する。そのため、この状態で1H−NMRのスピン−スピン緩和時間の自由誘導減衰曲線を求めると、図1に示すように、無定形相に対応する信号成分と、結晶相に対応する信号成分とが、前記自由誘導減衰曲線中に、はっきりと分離可能な状態で現れ、かかる自由誘導減衰曲線から、前記両信号成分を、データ処理によって正確かつ良好に分離することができる。 ただし測定温度がガラス転移温度より高くても、前記ガラス転移温度+130℃未満である場合には、無定形相の運動性は未だ十分ではなく、前記無定形相に対応する信号成分の強度は、依然として当該無定形相の正確な量を示すものとはならない。そのため、前記無定形相に対応する信号成分と、結晶相に対応する信号成分との強度比から熱可塑性樹脂の正確な結晶化度を求めることはできない。 先に説明した従来の測定方法は、いずれも測定温度を特記していないことから、前記試料を室温、すなわち熱可塑性樹脂のガラス転移温度付近より下、またはガラス転移温度より高くても+130℃未満の範囲で測定していると考えられる。したがって、従来のパルスNMR法をそのまま単純に利用して熱可塑性樹脂の結晶化度を求めようとしても、当該結晶化度の正確な値を求めることはできない。 これに対し本発明によれば、測定温度を、熱可塑性樹脂のガラス転移温度+130℃以上の一定温度に設定して、無定形相の運動性を十分に高めた状態で、1H−NMRのスピン−スピン緩和時間の自由誘導減衰曲線を求めている。 そのため図1に示すように、無定形相に対応する信号成分と、結晶相に対応する信号成分とが、前記自由誘導減衰曲線中に、はっきりと分離可能な状態で現れ、かかる自由誘導減衰曲線から、前記両信号成分を、データ処理によって正確かつ良好に分離することができる。 しかも分離された無定形相に対応する信号成分の強度は、当該無定形相の正確な量を示しているため、前記無定形相に対応する信号成分と、結晶相に対応する信号成分との強度比から熱可塑性樹脂の正確な結晶化度を求めることが可能となる。 例えば両信号成分を、最小二乗法によって、図中に破線で示すように近似的に直線化し、それを外挿して、それぞれ0時間での強度Sh(結晶相)、Ss(無定形相)を求め、前記両強度Sh、Ssの強度比から、式(1): 結晶化度(%)=Sh/(Sh−Ss)×100 (1)によって、熱可塑性樹脂の結晶化度を正確に求めることが可能となる。 請求項2記載の発明は、前記試料を、あらかじめ水分含有率を0.2%以下に調整した状態で測定に供する請求項1に記載の結晶化度測定方法である。 この構成によれば、試料中に含まれる水の量を前記範囲に抑制することで、当該水に含まれる水素原子がスピンNMR法の測定結果に及ぼす影響をできるだけ小さくして、熱可塑性樹脂の結晶化度を、より一層正確に測定することができる。特に分子中に親水性基(アミド基)を有するPA66等の、高い吸湿性を有する熱可塑性樹脂について、より正確な測定が可能となる。 本発明の結晶化度測定方法によれば、種々の熱可塑性樹脂の結晶化度を、パルスNMR法を利用して、できるだけ正確に求めることが可能となる。本発明の結晶化度測定方法において、パルスNMR法で測定して求められる1H−NMRのスピン−スピン緩和時間の自由誘導減衰曲線の一例を示すグラフである。従来のパルスNMR法で測定して求められる1H−NMRのスピン−スピン緩和時間の自由誘導減衰曲線の一例を示すグラフである。本発明の実施例において求めた、PA66の結晶化度と、測定温度との関係を示すグラフである。本発明の実施例において求めた、PA66の結晶化度と、当該PA66の試料の水分含有率との関係を示すグラフである。本発明の実施例において求めた、PBTの結晶化度と、測定温度との関係を示すグラフである。本発明の実施例において求めた、POMの結晶化度と、測定温度との関係を示すグラフである。 本発明の結晶化度測定方法を実施するには、まずその前準備として、結晶化度を測定する熱可塑性樹脂のガラス転移温度を実測するか、または文献値を求めておく。 次いで、前記結晶化度を測定する熱可塑性樹脂を含む測定用の試料を用意する。 前記試料が、例えば前記熱可塑性樹脂を含む成形品等である場合、その全体または一部を試料とする。 すなわち成形品が、パルスNMR測定装置の試料収容部に十分に収容しうる小型のものである場合は、その全体を試料とすることができる。もちろん、その一部を切り出す等して試料としてもよい。 また成形品が、前記試料収容部に収容できない大型のものである場合は、その一部を切り出す等して試料とする。また、例えば成形品の各部における熱可塑性樹脂の結晶化度の分布等を測定する場合は、当該各部ごとに切り出す等して複数の試料を用意する。 この際、特にPA66等の吸湿性の熱可塑性樹脂を含む試料は、例えば真空乾燥等により、あらかじめその水分含有率を0.2%以下に調整した状態とするのが好ましい。これにより、吸収した水中の水素原子の影響をできるだけ排除して、より正確な測定をすることができる。 なお水分含有率の下限は、言うまでもなく0%である。前記0.2%以下の範囲でも、水分含有率ができるだけ0%近くなるように、試料を真空乾燥等するのが好ましい。 パルスNMR測定装置としては、試料収容部に収容した試料を、前記のように熱可塑性樹脂のガラス転移温度より130℃以上高い一定温度に加熱するための加熱手段を備えたものを用いる。 前記パルスNMR測定装置の試料収容部に前記試料を収容した状態で、前記加熱手段を動作させて、測定温度を、前記試料中に含まれる熱可塑性樹脂のガラス転移温度より130℃以上高い一定温度に加熱する。 そして前記一定温度を維持しながら磁場のパルスを印加して、例えば図1に示す1H−NMRのスピン−スピン緩和時間の自由誘導減衰曲線を求める。 パルスNMR法としては、結晶性高分子等の測定に適したソリッドエコー法を採用するのが好ましい。測定条件は、測定する結晶性高分子の種類等に応じて適宜調整することができる。 次いで前記自由誘導減衰曲線を、最小二乗法等でデータ処理する。通常、結晶相はガウス関数、無定形相はローレンツ関数、両相の混合物である結晶性高分子は両関数の合成(和)として表れる。そのため最小二乗法により、前記自由誘導減衰曲線のうち、結晶相に対応する信号成分をガウス関数、無定形相に対応する信号成分をローレンツ関数にフィッティングさせ、さらに図中に破線で示すようにそれを外挿して、それぞれ0時間での強度Sh、Ssを求める。 そして前記両強度Sh、Ssの強度比から、式(1): 結晶化度(%)=Sh/(Sh−Ss)×100 (1)によって、熱可塑性樹脂の結晶化度を求めることができる。 なお測定温度の上限は、熱可塑性樹脂の融点、または軟化点である。これ以上の温度では結晶相の結晶構造が解除されて試料中から結晶相が失われてしまうため、結晶化度を求めることはできない。 かかる本発明の測定方法によれば、種々の熱可塑性樹脂の結晶化度を、パルスNMR法を利用して、できるだけ正確に求めることが可能となる。 〈パルスNMR測定装置〉 パルスNMR測定装置としては、結晶化度を測定する熱可塑性樹脂の試料を収容するための試料収容部と、前記試料収容部に収容した試料を所定の温度に加熱しうる加熱手段とを備えた、日本電子(株)製のJNM−MU25Aを用意した。 〈実施例1〉 結晶化度を測定する熱可塑性樹脂として、ガラス転移温度が50℃であるPA66を用いて測定のための試料を作製し、真空乾燥して、水分含有率を0.18%に調整した。なお試料の水分含有率は、平沼産業(株)製の微量水分測定装置AQ−7と気化付属装置EV−6を用いて測定した。 前記試料を、前記パルスNMR測定装置の試料収容部に収容し、加熱手段を動作させて、測定温度を40℃から180℃まで20℃ずつ昇温しながら、それぞれの温度で、ソリッドエコー法によって1H−NMRのスピン−スピン緩和時間の自由誘導減衰曲線を求めた。 測定温度以外の測定条件は、下記のとおりとした。・ Xaxis Time(信号モニタ画面のX軸の時間):10μS/Div・ Sampling Point(モニタ画面のX軸の、1divisionあたりのサンプリングポイント数):50/Div・ Scan Times(信号の積算回数):64・ Pw1(RFパルスの幅):2.0μS・ Pi1(RFパルスの間隔):8.0μS・ Rep(パルス系列の繰り返し時間):4.0S・ 試料形状:2〜6mm粒状・ 試料量:約0.5g・ 測定モード:ソリッドエコー法・ 観測周波数:25MHz 次いで最小二乗法により、前記自由誘導減衰曲線のうち、結晶相に対応する信号成分をガウス関数、無定形相に対応する信号成分をローレンツ関数にフィッティングさせ、さらに図1中に破線で示すようにそれを外挿して、それぞれ0時間での強度Sh、Ssを求めた。 そして前記両強度Sh、Ssの強度比から、式(1): 結晶化度(%)=Sh/(Sh−Ss)×100 (1)によって、熱可塑性樹脂の結晶化度を求めた。 測定温度ごとの結晶化度を表1、および図3に示す。なお図3では、前記手順で信号成分を分離して結晶化度を求めることができた、測定温度80℃以上での結晶化度をプロットしている。 表1より、測定温度がPA66のガラス転移温度(50℃)付近では、自由誘導減衰曲線が図2の状態となって前記2種の信号成分を良好に分離することができず、結晶化度を求められないことが判った。 また表1および図3より、測定温度をガラス転移温度より高くすると、前記2種の信号成分を良好に分離することができ、前記式(1)によって結晶化度を求められることが判った。 だたし測定温度がガラス転移温度+130℃未満の範囲では、無定形相の運動性が未だ十分でなく、前記無定形相に対応する信号成分の強度が、当該無定形相の正確な量を示す値よりも小さくしか出ないため、前記式(1)によって求められる見かけの結晶化度が高くなることが判った。 これに対し、測定温度をガラス転移温度+130℃以上とすると、無定形相の運動性を十分に高めて、前記無定形相に対応する信号成分の強度を、当該無定形相の正確な量を示す値として、前記式(1)により、正確な結晶化度を求められることが判った。 前記式(1)によって求められるPA66の結晶化度は50%であった。 〈実施例2〉 結晶化度を測定する熱可塑性樹脂として、実施例1で使用したのと同じPA66を用いて測定のための試料を作製し、真空乾燥の条件を変更して、水分含有率が0.18%、2.16%、5.45%、7.25%、および8.91%の5段階に調整した状態で、それぞれ実施例1と同様にして、測定温度180℃での結晶化度を求めた。水分含有率は、前記と同様に平沼産業(株)製の微量水分測定装置AQ−7と気化付属装置EV−6を用いて測定した。 結果を表2、および図4に示す。 表2および図4より、試料の水分含有率が大きくなるほど、測定温度が同一でも、見かけ上の結晶化度は低下する傾向を示し、正確な結晶化度を求めるためには、試料の水分含有率を0.2%以下にするのが好ましいことが判った。 〈実施例3〉 結晶化度を測定する熱可塑性樹脂として、実施例1で使用したのと同じPA66を用いるとともに、強化繊維として15質量%のガラス繊維を配合して測定のための試料を作製し、真空乾燥して、水分含有率を0.18%に調整した状態で、実施例1と同様にして、測定温度180℃での結晶化度を求めたところ54%であって、強化繊維の充てん量のばらつきの影響を極力排除できることが判った。 〈実施例4〉 結晶化度を測定する熱可塑性樹脂として、ガラス転移温度が22℃であるPBTを用いて測定のための試料を作製した。 前記試料を、前記パルスNMR測定装置の試料収容部に収容し、加熱手段を動作させて、測定温度を100℃から180℃まで20℃ずつ昇温しながら、実施例1と同様にして、それぞれの温度での結晶化度を求めた。 なお測定温度以外の測定条件は前記と同様とした。 結果を表3、および図5に示す。 表3および図5より、PBTでも同様に、測定温度をガラス転移温度+130℃以上とすると、無定形相の運動性を十分に高めて、前記無定形相に対応する信号成分の強度を、当該無定形相の正確な量を示す値として、前記式(1)により、正確な結晶化度を求められることが判った。 前記式(1)によって求められるPBTの結晶化度は38%であった。 〈実施例4〉 結晶化度を測定する熱可塑性樹脂として、ガラス転移温度が−82℃であるPBTを用いて測定のための試料を作製した。 前記試料を、前記パルスNMR測定装置の試料収容部に収容し、加熱手段を動作させて、測定温度を40℃から120℃まで20℃ずつ昇温しながら、実施例1と同様にして、それぞれの温度での結晶化度を求めた。 なお測定温度以外の測定条件は前記と同様とした。 結果を表4、および図6に示す。 表4および図6より、POMでも同様に、測定温度をガラス転移温度+130℃以上とすると、無定形相の運動性を十分に高めて、前記無定形相に対応する信号成分の強度を、当該無定形相の正確な量を示す値として、前記式(1)により、正確な結晶化度を求められることが判った。 前記式(1)によって求められるPOMの結晶化度は51%であった。 結晶性の熱可塑性樹脂を構成する結晶相と無定形相の総量中に占める、前記結晶相の割合としての結晶化度を測定するための測定方法であって、前記熱可塑性樹脂を含む試料を、前記熱可塑性樹脂のガラス転移温度より130℃以上高い一定温度に維持しながら、パルスNMR法によって1H−NMRのスピン−スピン緩和時間の自由誘導減衰曲線を求め、前記自由誘導減衰曲線から、前記結晶相、および無定形相にそれぞれ対応する2つの信号成分を分離するとともに、前記両信号成分の強度比から、前記熱可塑性樹脂の結晶化度を求めることを特徴とする結晶化度測定方法。 前記試料を、あらかじめ水分含有率を0.2%以下に調整した状態で測定に供する請求項1に記載の結晶化度測定方法。 【課題】パルスNMR法を利用して、種々の熱可塑性樹脂の結晶化度を正確に求めることができる結晶化度測定方法を提供する。【解決手段】熱可塑性樹脂を含む試料を、前記熱可塑性樹脂のガラス転移温度より130℃以上高い一定温度に維持しながら、パルスNMR法によって1H−NMRのスピン−スピン緩和時間の自由誘導減衰曲線を求め、前記自由誘導減衰曲線から、前記熱可塑性樹脂を構成する結晶相と無定形相の総量中に占める、前記結晶相の割合としての結晶化度を測定する。【選択図】図3