生命科学関連特許情報

タイトル:公開特許公報(A)_還元型グルタチオン高含有乳酸菌発酵物およびその製造方法
出願番号:2012057209
年次:2013
IPC分類:C12N 1/20,A23C 9/123,A23L 1/30,A61K 35/74,A61P 39/06,A61P 9/10,A61P 29/00


特許情報キャッシュ

楠原 史朗 石木 広志 中野 正理 横井 稚恵 伊藤 雅彦 JP 2013188177 公開特許公報(A) 20130926 2012057209 20120314 還元型グルタチオン高含有乳酸菌発酵物およびその製造方法 株式会社ヤクルト本社 000006884 特許業務法人 小野国際特許事務所 110000590 楠原 史朗 石木 広志 中野 正理 横井 稚恵 伊藤 雅彦 C12N 1/20 20060101AFI20130830BHJP A23C 9/123 20060101ALI20130830BHJP A23L 1/30 20060101ALI20130830BHJP A61K 35/74 20060101ALI20130830BHJP A61P 39/06 20060101ALI20130830BHJP A61P 9/10 20060101ALI20130830BHJP A61P 29/00 20060101ALI20130830BHJP JPC12N1/20 AA23C9/123A23L1/30 ZA61K35/74 GA61P39/06A61P9/10 101A61P29/00 13 1 OL 11 4B001 4B018 4B065 4C087 4B001AC05 4B001AC36 4B001BC14 4B001EC05 4B018MD19 4B018MD86 4B018ME04 4B018ME06 4B018MF13 4B065AA49X 4B065AC16 4B065BB12 4B065BB24 4B065BC03 4B065CA24 4B065CA42 4B065CA44 4C087AA01 4C087AA02 4C087BC61 4C087CA10 4C087MA52 4C087NA14 4C087ZA45 4C087ZB11 4C087ZC37 本発明は、還元型グルタチオンを高濃度で含有し、抗酸化活性等優れた生理機能を有するとともに、風味も良好な乳酸菌発酵物およびその製造方法に関する。 アミノ酸またはペプチドは、様々な機能を有しており、製品の品質向上あるいは生理機能の付与を目的として飲食品に添加されている。乳製品においても、例えば、発酵乳製品にシステインを添加することにより、過酷な光照射条件下でも乳酸菌の生残性を維持し、風味の劣化を抑制できることが報告されている(特許文献1)。また、シスチン類を乳飲料に添加することにより、高温殺菌や加熱保存によって生じる乳成分の劣化臭や沈殿の発生等を抑制できることが知られている(特許文献2)。 また特許文献3には、システイン高含有ペプチドを配合したシステイン強化発酵乳食品が開示されているが、これは生体内でのグルタチオンの生合成を促し、体内細胞中のグルタチオン濃度を増加させることを目的としたものである。グルタチオンは、グルタミン酸、システイン、グリシンからなるトリペプチドであり、肝機能向上作用、免疫賦活作用等の他、抗酸化作用を有することが知られている。すなわち、グルタチオンには酸化型および還元型が存在するが、還元型グルタチオン(GSH)はチオール基を有しており、フリーラジカルや過酸化物などの活性酸素種を還元して消去することができる。酸化された2分子のグルタチオンは、互いに結合(S−S結合)した酸化型グルタチオン(GS−SG)となる。 発酵乳製品に利用される乳酸菌の中にも、このような還元型グルタチオンの産生能を有するものがいくつか知られている。このため、乳酸菌中の還元型グルタチオン含有量を高めることができれば、抗酸化活性等優れた生理機能を有する発酵乳製品を得ることができる。例えば、動脈硬化は、血管中の低比重リポタンパク質(LDL)の酸化が主要な原因の一つであると考えられている。すなわち、マクロファージは未変性のLDLはほとんど取り込まないが、酸化LDLは活発に取り込み、これが脂肪滴を多量に含む泡沫細胞に変化し、血管内皮下に蓄積することによって、動脈硬化へと進展する。したがって、抗酸化活性の高い成分を飲食品として日常的に摂取できれば、LDLの酸化を抑制し動脈硬化を有効に予防できると考えられる。 酵母において、還元型グルタチオン含量を高める方法として培地にシステインを添加する方法が知られている(非特許文献1)。一方で、非特許文献1には、システインに関連するアミノ酸であるシスチンを培地に添加しても還元型グルタチオン含量は増加しなかったことが記載されている(第539頁、右欄17行目〜19行目)。また、乳酸菌の還元型グルタチオン含量を高める方法として、これまで、還元型グルタチオンの構成アミノ酸であるシステイン、グリシン、グルタミン酸の混合物を、培地中の各アミノ酸の最終濃度が約0.003%または0.006%になるように添加して培養する方法が報告されている(非特許文献2)。しかし、この方法では、システイン特有の不快な風味が強く生じてしまい、飲食品として適さないという問題があった。特開2002−17254号公報特開2009−55802号公報特開2006−197834号公報Catalino G. Alfafara, Akihisa Kanda, Toru Shioi, Hiroshi Shimizu,Suteaki Shioya and Ken-ichi Suga. Effect of amino acids on glutathione production by Saccharomyces cerevisiae. Applied Microbiology and Biotechnology Volume36, Number 4, 538-540Leonides Fernandes and James L. Steele. Glutathione Content of Lactic Acid Bacteria.Journal of Dairy Science 76 1233-1242(1993) したがって、本発明は、還元型グルタチオンを高濃度で含有するとともに、風味も良好な乳酸菌発酵物を提供することを課題とするものである。 本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、酵母においては還元型グルタチオン含量を増加しないとされていたシスチンを、乳酸菌の培養において培地に添加することにより、酵母における結果とは逆に、乳酸菌の菌体内に還元型グルタチオンを多く含有し、さらに風味も優れる発酵物が得られることを見出し本発明を完成するに至った。 すなわち本発明は、シスチンを含有する培地で、還元型グルタチオン産生乳酸菌を培養することにより得られる乳酸菌発酵物である。 また本発明は、上記乳酸菌発酵物を含有する発酵乳製品である。 さらに本発明は、シスチンを含有する培地で、還元型グルタチオン産生乳酸菌を培養することを特徴とする乳酸菌発酵物の製造方法である。 本発明の乳酸菌発酵物は、菌体内に還元型グルタチオンを多く含有するものであるため、これを摂取することにより、抗酸化作用など優れた生理機能が得られるものである。すなわち、乳酸菌が還元型グルタチオンを産生しても、それが放出されて菌体外に存在する場合には、すぐに酸化されてしまうため、摂取してもその生理機能が十分に発現されないと考えられるが、本発明の乳酸菌発酵物は、多量の還元型グルタチオンが菌体内で保護されており、腸内に到達してから放出されるため、LDL酸化抑制活性など生体内で優れた生理機能が得られるものである。さらに、この乳酸菌発酵物は、風味も良好で嗜好性に優れ、安全性も高いため、日常的に摂取することが可能であり、動脈硬化、炎症等の各種疾病のリスク低下や、老化防止に有用である。また、従来、シスチンは還元型グルタチオン含量を増加しないとされていたにもかかわらず、本発明においてはシスチンを添加した培地を用いることにより、還元型グルタチオン含量が高く、さらに風味も良好な乳酸菌発酵物を得ることができたものであり、このような効果は先行文献からは何ら示唆されないものである。実施例1において、シスチン無添加または0.01%添加した培地で培養した乳酸菌の菌体内の還元型グルタチオン濃度を示す図である。実施例3において、培地へのシスチン添加量と、得られた発酵乳製品の酸化ラグタイム延長率および還元型グルタチオン含量の関係を示した図である。 本発明の乳酸菌発酵物は、還元型グルタチオン産生乳酸菌をシスチンを含有する培地で培養したものである。還元型グルタチオン産生乳酸菌としては、還元型グルタチオン産生能を有する乳酸菌であれば特に限定されるものではないが、例えば、ストレプトコッカス・サーモフィルス、ストレプトコッカス・アガラクティア等のストレプトコッカス属微生物、ラクトコッカス・ラクティス等のラクトコッカス属微生物、ラクトバチルス・ファーメンタム、ラクトバチルス・ヘルベティカス等のラクトバチルス属微生物等が挙げられ、これらは、1種単独で用いることもできるし、2種以上を組み合わせて用いることもできる。これらの中でも、還元型グルタチオン産生能が高いという点でストレプトコッカス属微生物が好ましく、特にストレプトコッカス・サーモフィルスが好ましい。ストレプトコッカス・サーモフィルスとしては、ストレプトコッカス・サーモフィルスYIT 2001(FERM BP−7538)、ストレプトコッカス・サーモフィルスATCC 19258等を用いることができるが、これらの中でも還元型グルタチオン含量が高くなるため、ストレプトコッカス・サーモフィルスYIT 2001が好適に用いられる。 上記、還元型グルタチオン産生乳酸菌を培養する際には、乳培地、MRS培地等、乳酸菌が生育する種々の培地が適応できるが、培地調整が簡便であり、さらに培養した発酵物の食品への適応性が高いという点で乳培地が好適に用いられる。乳培地としては、牛乳、山羊乳、羊乳、豆乳などの動物及び植物由来の液状乳、または脱脂粉乳、全粉乳などの粉乳、濃縮乳から還元した乳などをそのまま或いは水で希釈したものを用いることができる。また、乳培地の無脂乳固形分(SNF)は通常10〜20w/w%、好ましくは12〜16w/w%である。このような範囲であると還元型グルタチオン含量が高くなるため好ましい。これらの培地には、通常の乳酸菌培地に使用される成分を添加してもよく、例えば、酵母エキス、界面活性剤等を添加することができる。 上記培地にはシスチンを添加する。本発明で用いられるシスチンには、L−シスチン、D−シスチン、DL−シスチンおよびこれらの混合物が含まれるが、L−シスチンが好ましく用いられる。培地中のシスチンの添加量は、通常0.001〜0.01w/w%、好ましくは0.001〜0.004w/w%、より好ましくは0.001〜0.003w/w%、特に好ましくは0.001〜0.002w/w%である。シスチン添加量が多すぎると、製造直後に硫化水素臭が強く感じられ風味上問題となる場合がある。0.001〜0.003w/w%の範囲であると、還元型グルタチオン含量が高く、かつ風味も良好なものが得られる。 本発明の乳酸菌発酵物を得るための乳酸菌の培養条件は特に限定されないが、培養温度は30〜42℃であり、好ましくは30〜34℃である。温度が高いと粉っぽさを感じる場合があり、また還元型グルタチオン含量も低くなる場合がある。温度が30〜34℃の範囲であると、風味が良好で、還元型グルタチオン含量の高いものが得られる。このような温度で通常12〜24時間程度培養を行えばよい。また、このときの培養条件としては、静置、攪拌、振盪、通気等から用いる乳酸菌の培養に適した方法を適宜選択して行えばよい。 このようにして得られる乳酸菌発酵物は、還元型グルタチオンを菌体内に保護された状態で高濃度で含有するものであり、例えば発酵物中に菌体内還元型グルタチオン含量として、好ましくは1200ng/mL、より好ましくは1800ng/mL以上含有するものである。また、還元型グルタチオン産生乳酸菌を1.0×103cfu/mL〜1.0×1015cfu/mL、好ましくは1.0×105cfu/mL〜1.0×1013cfu/mL含有するものである。この発酵物をそのまま、或いは発酵物から遠心分離等で回収した菌体を、食品に添加することが認められている他の副素材と混合することにより飲食品を調製することができ、特に培地として乳培地を用いた発酵物は、そのまま、あるいは他の副素材と混合して発酵乳製品とすることができる。このようにして得られる発酵乳製品は、還元型グルタチオンを菌体内に保護された状態で高濃度で含有するものであり、例えば発酵乳製品中に菌体内還元型グルタチオン含量として、好ましくは600ng/mL、より好ましくは1000ng/mL以上含有するものである。また、還元型グルタチオン産生乳酸菌を5.0×102cfu/mL〜5.0×1014cfu/mL、好ましくは5.0×104cfu/mL〜5.0×1012cfu/mL含有するものである。 ここで、発酵乳製品とは、発酵豆乳、若しくは乳等省令により定められている発酵乳、乳製品乳酸菌飲料等の飲料やハードヨーグルト、ソフトヨーグルト、プレーンヨーグルト、更にはケフィア、チーズ等も包含するものである。また、本発明の発酵乳製品には、種々の乳酸菌を利用した飲食品、例えば、プレーンタイプ、フレーバードタイプ、フルーツタイプ、ソフトタイプ、ドリンクタイプ、ハードタイプ、フローズンタイプ等の形態のものが含まれる。 これらの発酵乳製品は、上記した乳酸菌発酵物に必要に応じて、シロップ等の甘味料のほか、それ以外の各種食品素材、例えば、各種糖質、増粘剤、乳化剤、各種ビタミン剤等の任意成分を配合してもよい。これらの食品素材として具体的なものは、ショ糖、グルコース、フルクトース、パラチノース、トレハロース、ラクトース、キシロース、麦芽糖等の糖質、ソルビトール、キシリトール、エリスリトール、ラクチトール、パラチニット、還元水飴、還元麦芽糖水飴等の糖アルコール、アスパルテーム、ソーマチン、スクラロース、アセスルファムK、ステビア等の高甘味度甘味料、寒天、ゼラチン、カラギーナン、グァーガム、キサンタンガム、ペクチン、ローカストビーンガム、ジェランガム、カルボキシメチルセルロース、大豆多糖類、アルギン酸プロピレングリコール等の各種増粘(安定)剤、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、レシチン等の乳化剤、クリーム、バター、サワークリーム等の乳脂肪、クエン酸、乳酸、酢酸、リンゴ酸、酒石酸、グルコン酸等の酸味料、ビタミンA、ビタミンB類、ビタミンC、ビタミンE類等の各種ビタミン類、カルシウム、マグネシウム、亜鉛、鉄、マンガン等のミネラル分、ヨーグルト系、ベリー系、オレンジ系、花梨系、シソ系、シトラス系、アップル系、ミント系、グレープ系、アプリコット系、ペア、カスタードクリーム、ピーチ、メロン、バナナ、トロピカル系、ハーブ系、紅茶、コーヒー系等のフレーバー類を挙げることができる。 本発明の発酵乳製品は風味が良好であるとともに、菌体内に多量の還元型グルタチオンを含有しているため、これを摂取することにより、優れた抗酸化効果等が得られるものであり、例えば、LDLなどの生体内脂質の酸化抑制効果に優れるため、脂質酸化抑制、LDL酸化抑制あるいは動脈硬化の予防・改善用の発酵乳食品として有用なものである。 以下に実施例を挙げて本発明について更に詳細に説明するが、本発明がこれら実施例に限定を受けないことは言うまでもない。 実施例1 シスチン添加による菌体内の還元型グルタチオン含量への影響: 供試菌株として、Streptococcus thermophilus YIT 2001を用いた。変法GAM培地4 mlにYIT 2001凍結保存菌液を0.5%(w/w)接種し、37℃で16時間培養した。これを10%(w/v)脱脂粉乳水溶液に0.2%(v/v)接種し、37℃で20時間静置培養した。この培養液0.06mlを、50 mlコルベン中の、L−シスチンを濃度0.01%(w/w)となるように添加した乳培地(脱脂粉乳16.8%(w/w)(無脂乳固形分(SNF)16%(w/w)))30 mlに接種し、34℃で24時間静置培養して乳酸菌発酵物を得た。培養後、菌体内の還元型グルタチオン含量を下記方法により測定した。結果を図1に示す。(還元型グルタチオンの測定方法:HPLC法) 検体1mLを10 mM エチレンジアミン四酢酸(EDTA)溶液4mLで5倍に希釈した。この希釈溶液600 μLを遠心分離(20,000 g、4℃、10 min)した後、上清(ホエイ)を除去して菌体を得た。得られた菌体にφ 0.1 mm ガラスビーズ(1,000 mg)および2 mM EDTA添加100 mMホウ酸緩衝液(pH = 8.0)800 μLを加え、FastPrep-24で振とう(6.5 m s-1、60 s)し、菌体を破砕した。破砕試料を遠心分離(20,000 g、4℃、10 min)した後、上清200 μLを回収した。これに1 mM 4-(アミノスルホニル)-7-フルオロ-2,1,3-ベンゾオキサジアゾール(ABD-F)添加100 mMホウ酸緩衝液(pH = 8.0)300 μLを添加し、60oCで15分間誘導体化反応を行った。15分間氷冷後、0.1 N 塩酸を 200 μL添加し、HPLC/蛍光検出法で分析、定量した。(HPLC条件) 移動相 :0.1% トリフルオロ酢酸(TFA) :アセトニトリル = 88 : 12 波長 :励起波長 380 nm、蛍光波長 510 nm 温度 :カラム 40℃、試料 10℃ 流速 :1.0 mL/ min 注入量 :10 μL 使用カラム :Mightysil RP-18 GP Aqua 内径 4.6 mm、長さ 150 mm(関東化学 ) 図1と表2から、培地へのシスチンの添加により菌体内の還元型グルタチオンが著しく増加することが示された。 実施例2 シスチン添加量による還元型グルタチオン含量および風味への影響: 供試菌株としてStreptococcus thermophilus YIT 2001を用いた。10%(w/v)脱脂粉乳水溶液にYIT2001菌液を0.1%(v/v)接種し、37℃で24時間静置培養した。この培養液20mL(生菌数:9.5×108cfu/ml)をL-シスチン濃度を変えて添加したUHT殺菌乳(脱脂粉乳16.8%(w/w)(SNF16%(w/w))、L-シスチン0〜0.004%(w/w))10Lに接種し、34℃で24時間の攪拌培養を行い、乳酸菌発酵物を得た。当該乳酸菌発酵物515gを均質化後、シロップ(ブドウ糖果糖液糖製品あたり8.75%(w/w)、安定剤(ペクチン) 製品あたり0.41%(w/w))および香料(製品あたり0.11%(v/w))と混合し、1000gの発酵乳製品を得た。乳酸菌発酵物と発酵乳製品について、実施例1と同様の方法により還元型グルタチオン含量を測定した。乳酸菌発酵物については培養終了時(イニシャル)に測定し、発酵乳製品については調合当日(イニシャル)と10℃で21日間保存した後に測定した。また、得られた発酵乳製品の調合当日(イニシャル)および10℃で21日間保存した後の風味を下記基準により評価した。さらに、乳酸菌発酵物と発酵乳製品中のYIT2001の生菌数をBCP加プレートカウント寒天培地を用いて混釈法により測定した。結果を表1に示す。(風味の評価基準) ○: 硫化水素様の臭気は認められない △: 硫化水素様の臭気がやや認められる ×: 硫化水素様の臭気が認められる シスチン添加量が多くなるほど還元型グルタチオン含量も高くなるが、0.003%以上では殆んど高くなることはなかった。また、シスチン添加量0.004%では、硫化水素様の臭気がイニシャルで強く認められた。なお、生菌数はいずれの場合もほとんど変わらなかったため、還元型グルタチオン含量の増加は生菌数が増加したことによるものではないことがわかった。 実施例3 発酵乳製品の抗酸化活性: 実施例2で得られた、シスチンを仕込乳あたり0%(無添加)、0.001%、0.002%、0.003%、0.004%添加した発酵乳製品を被験サンプルとした。検体1mlを10 mM EDTA4mlで5倍希釈し、遠心分離(8000rpm、4℃、10min)して菌体を回収し、さらに10mM EDTAで洗浄した。洗浄菌体を水1mlに懸濁し、この懸濁液に4倍量のエタノールを混合して、室温で2時間振盪抽出した。抽出後に遠心分離(8000 rpm、10 分)して上清を全量回収し、減圧乾固してエタノール抽出物を得た。エタノール抽出物をSep-pak plus tC18にサンプルロードし、10%アセトニトリルで溶出した。回収した溶出液を減圧乾固し、水0.4mlに溶解した後、下記方法によりLDL酸化抑制活性を測定した。また、前記被験サンプル(発酵乳製品)中の還元型グルタチオン含量を実施例1と同様の方法により測定した。結果を図2に示す。(LDL酸化抑制活性の測定方法) ヒト血清から超遠心法でLDL画分を調製し、嫌気条件下においてPBSで一晩透析した。透析後、0.1 mg蛋白質/mLに濃度調整した。このLDL溶液に50μlのサンプルを加えた後、2,2’-アゾビス-4-ジメチルバレロニトリル(V-70;酸化開始剤)を終濃度0.25mMになるように添加し、37℃に保温しながら、過酸化脂質濃度の経時変化を共役ジエン法(234 nmの吸光度)で測定した。V-70の添加から過酸化脂質濃度の上昇が始まるまでの時間(酸化ラグタイム)を求めた。サンプルを添加した時のLDL溶液の酸化ラグタイム延長率(%)を下記式から算出し、LDL酸化抑制活性の指標とした。(酸化ラグタイムの延長率の算出式) 酸化ラグタイムの延長率(%)=[(酸化ラグタイムT−酸化ラグタイムC)/酸化ラグタイムC]×100 酸化ラグタイムT:LDL溶液にサンプルを添加した時の酸化ラグタイム 酸化ラグタイムC:LDL溶液にサンプルを添加しない時の酸化ラグタイム 図2から、培地にシスチンを添加したものは、いずれも無添加よりも高いLDL酸化抑制活性を示し、還元型グルタチオン量も高かった。無添加、0.001%、0.002%の順に活性が強くなったが、0.002%以上では活性に大きな違いは見られなかった。 実施例4 培養温度の還元型グルタチオン含量および粉っぽさに与える影響: 供試菌株として、Streptococcus thermophilus YIT 2001を用いた。10%(w/v)脱脂粉乳水溶液にYIT2001菌液を0.1%(v/v)接種し、37℃で24時間静置培養した。この培養液20mL(生菌数:8.6×108cfu/ml)をL-シスチン濃度を0.002%(w/w)としたUHT殺菌乳(脱脂粉乳16.8%(SNF16%(w/w))、L-シスチン0.002%(w/w))10Lに接種し、30℃、34℃、37℃で24時間の攪拌培養を行い、乳酸菌発酵物を得た。当該乳酸菌発酵物515gを均質化後、シロップ(ブドウ糖果糖液糖製品あたり8.75%(w/w)、安定剤(ペクチン) 製品あたり0.41%(w/w))および香料(製品あたり0.11%(v/w))と混合し、1000gの発酵乳製品を得た。乳酸菌発酵物と発酵乳製品について、実施例1と同様の方法により還元型グルタチオン含量を測定した。乳酸菌発酵物については培養終了時(イニシャル)に測定し、発酵乳製品については調合当日(イニシャル)に測定した。さらに、乳酸菌発酵物と発酵乳製品中のYIT2001の生菌数をBCP加プレートカウント寒天培地を用いて混釈法により測定した。また、得られた発酵乳製品の調合当日(イニシャル)および10℃で21日間保存した後の風味(粉っぽさ)を下記評価基準により評価した。結果を表2に示す。(風味評価基準) ○:粉っぽさなし ×:粉っぽさあり 表2より、還元型グルタチオン含量は37℃培養より34℃培養の方が多く、34℃培養より30℃培養の方が多かった。また、37℃培養では、粉っぽさが感じられたが、34℃培養および30℃培養では粉っぽさを改善することができた。低温条件下で培養した菌液を用いることにより、還元型グルタチオン含量および風味の面から良好であることが認められた。 本発明の乳酸菌発酵物は、菌体内に還元型グルタチオンを高濃度で含有し、優れた抗酸化活性等を有するものである。したがって、動脈硬化、炎症等の各種疾病の予防に有効な飲食品あるいはその原料として有用なものである。 以上 シスチンを含有する培地で、還元型グルタチオン産生乳酸菌を培養することにより得られる乳酸菌発酵物。 培地中のシスチンの含有量が0.001〜0.01w/w%である請求項1記載の乳酸菌発酵物。 培養する際の培養温度が30〜34℃である請求項1または2に記載の乳酸菌発酵物。 乳酸菌がストレプトコッカス・サーモフィルスである請求項1〜3のいずれかに記載の乳酸菌発酵物。 乳酸菌がストレプトコッカス・サーモフィルスYIT 2001である請求項4記載の乳酸菌発酵物。 培地が乳培地である請求項1〜5のいずれかに記載の乳酸菌発酵物。 請求項6記載の乳酸菌発酵物を含有する発酵乳製品。 シスチンを含有する培地で、還元型グルタチオン産生乳酸菌を培養することを特徴とする乳酸菌発酵物の製造方法。 培地中のシスチンの含有量が0.001〜0.01w/w%である請求項8記載の乳酸菌発酵物の製造方法。 培養する際の培養温度が30〜34℃である請求項8または9に記載の乳酸菌発酵物の製造方法。 乳酸菌がストレプトコッカス・サーモフィルスである請求項8〜10のいずれかに記載の乳酸菌発酵物の製造方法。 乳酸菌がストレプトコッカス・サーモフィルスYIT 2001である請求項11記載の乳酸菌発酵物の製造方法。 培地が乳培地である請求項8〜12のいずれかに記載の乳酸菌発酵物の製造方法。 【解決課題】 還元型グルタチオンを高濃度で含有するとともに、風味にも優れた乳酸菌発酵物を提供すること。【解決手段】 シスチンを含有する培地で、還元型グルタチオン産生乳酸菌を培養することにより得られる乳酸菌発酵物。【選択図】図1


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