生命科学関連特許情報

タイトル:公開特許公報(A)_微生物の培養方法
出願番号:2012044472
年次:2013
IPC分類:C12N 1/20,C12N 1/00,C12N 1/16,C12N 1/14


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木村 修一郎 勝村 泰彦 二階堂 清和 JP 2013179868 公開特許公報(A) 20130912 2012044472 20120229 微生物の培養方法 旭硝子株式会社 000000044 本多 一郎 100096714 杉本 由美子 100124121 篠田 淳郎 100161458 木村 修一郎 勝村 泰彦 二階堂 清和 C12N 1/20 20060101AFI20130826BHJP C12N 1/00 20060101ALI20130826BHJP C12N 1/16 20060101ALI20130826BHJP C12N 1/14 20060101ALI20130826BHJP JPC12N1/20 AC12N1/00 BC12N1/16 BC12N1/14 B 9 1 OL 16 4B065 4B065AA26X 4B065AA60X 4B065AA70X 4B065AA72X 4B065AA73X 4B065AA76X 4B065AA77X 4B065AA79X 4B065AB01 4B065AC14 4B065BB40 4B065BC02 4B065CA60 本発明は微生物の培養方法に関し、詳しくは、適切なタイミングで微生物の植え継ぎを行うことのできる微生物の培養方法に関する。 近年、ゲノムの解読や、培養技術、育種技術、遺伝子改変技術の発達により、微生物に様々な物質を製造させることが可能になり、微生物を用いた産業用酵素や医薬品原体、化合物中間体などの有用物質の生産が盛んに行われている。微生物を用いた有用物質の生産において目的物質の産生量を高めるには、微生物の菌体量をできるだけ多くすることが求められる。その他、食用の為に微生物を培養する場合や、微生物による有機化合物の分解、発酵に用いるために大量の菌体が要求される場合等もあり、いずれにおいても効率的な菌体増殖の手段が求められている。 微生物の培養には液体培地が主に用いられ、炭素源や窒素源などの微生物の生育に必須な成分を含有する液体培地に菌体を導入し、適切な温度に保ちながら振盪・攪拌するなどして培養が行われる(例えば、非特許文献1)。微生物を液体培地中で培養する場合、培地中の栄養分が消費され枯渇すると、微生物の増殖がストップする。その為、ある程度培養を継続した後は、新しい培地に植え継ぎをする必要が生じる。また、工業的な規模で微生物を培養する場合に、数段階のシード培養により段階的に培養液量及び菌量を増加させ、最終的な本培養(主培養)へと植継ぎを実施する手法が一般的に用いられている。 新しい培地への植え継ぎは、できるだけ菌体濃度が高く、かつ、菌体の増殖が活発である段階で行うことが求められる。すなわち、培養を進めれば菌体濃度は上昇していくが、ある程度以上培養を継続すると、培地中の栄養分の欠乏などから菌体の増殖が不活発になる。菌体の増殖が不活発になった段階で新しい培地へ植え継ぎを行うと、新しい培地に順応し、再び活発な菌体増殖が見られるまでの誘導期が長くなることが知られている。さらに、栄養飢餓状態に陥ると代謝経路を変化させる微生物もあり、その場合、目的物質の生産に悪影響を与えうる。 菌体の植え継ぎ方法としては、例えば、培養液を定期的にサンプリングして菌体濃度を測定し、培養時間と菌体濃度の変化との関係から、菌体の増殖が活発かつ菌体濃度が高い指数増殖期の後期に入った段階を判断して菌体を植え継ぐことが行われている。また、同様の培養条件で試験を行い、培養時間の経過に伴う菌体濃度の推移が毎回同じであることを確かめた後、一定の培養時間経過後に植え継ぎを行う場合もある。Methods in Yeast Genetics 2005: A Cold Spring Harbor Laboratory Course Manual しかしながら、培養液を経時的にサンプリングして菌体濃度を測定し、指数増殖期を探る作業は非常に煩雑であり、用いる培地材料の製品ロット差や培養槽の違いにより、最終的な到達菌体濃度が変化し、指数増殖期を示す菌体濃度の範囲が異なる等の影響を考慮する必要がある。一方、時間を指標とする方法は、過去に行われた培養と培養条件が異なれば採用することができず、同じ培養条件であっても、上記の培地材料の製品ロット差や培養槽の違いによる影響を受けることがあるという問題があった。 そこで本発明の目的は、煩雑な作業を要することなく適切なタイミングで微生物の植え継ぎを行うことができ、微生物を効率よく増殖させることが可能な微生物の培養方法を提供することにある。 本発明者等は、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、微生物培養液のpHを経時的に測定することで上記課題を解決しうることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明者等は、微生物の指数増殖期の後期に培養液のpH変化がプラトーになる期間があること、及びその期間以降に微生物の植え継ぎを行うことで、植え継いだ培養液中での微生物の増殖が遅滞なく活発となることを見いだした。 本発明は、上記知見をもとに完成した、微生物の培養方法に係る下記[1]〜[9]である。[1]液体培地中で微生物を培養する微生物の培養方法であって、経時的に培養液のpHを測定し、pH値の変化がプラトーになった時点以後に、微生物を別の液体培地に植え継ぐ工程を備えることを特徴とする微生物の培養方法。[2]液体培地中で微生物を培養する微生物の培養方法であって、経時的に培養液のpHを測定し、縦軸をpH値、横軸を培養時間としてプロットしたpH変化曲線の傾きがゼロになった時点以後に、微生物を別の液体培地に植え継ぐ工程を備えることを特徴とする微生物の培養方法。[3]液体培地中で微生物を培養する微生物の培養方法であって、経時的に培養液のpHを測定し、pH値の変化が変曲点を迎え、変化の方向が逆転した時点以後に、微生物を別の液体培地に植え継ぐ工程を備えることを特徴とする微生物の培養方法。[4]前記微生物を別の液体培地に植え継ぐ工程が、pH値の変化がプラトーになった時点からpHが0.05変化する時点までの間に行われる[1]の微生物の培養方法。[5]前記液体培地が富栄養培地である[1]〜[4]のいずれかの微生物の培養方法。[6]培養温度が20〜40℃である[1]〜[5]のいずれかの微生物の培養方法。[7]前記微生物が、サッカロミセス(Saccharomyces)属、シゾサッカロミセス(Shizosaccharomyces)属、ハンセヌラ(Hansenula)属、ピキア(Pichia)属、オガタエ(Ogataea)属、カンジダ(Candida)属などの酵母菌類、アスペルギルス(Aspergillus)属、トリコデルマ(Trichoderma)属などの糸状菌類、大腸菌(Escherichiacoli)である[1]〜[6]のいずれかの微生物の培養方法。[8]前記微生物が、シゾサッカロミセス(Shizosaccharomyces)属酵母または大腸菌(Escherichiacoli)である[1]〜[7]のいずれかの微生物の培養方法。[9]前記微生物が、分裂酵母シゾサッカロミセス・ポンベ(Shizosaccharomyces pombe)である[1]〜[8]のいずれかの微生物の培養方法。 本発明により、煩雑な作業を要することなく適切なタイミングで微生物の植え継ぎを行うことができ、微生物を効率よく増殖させることが可能な微生物の培養方法を提供することができる。参考例1における液体培地のpH、溶存酸素濃度(DO)および排気CO2の推移を表すグラフである。参考例1における液体培地のOD660およびグルコース濃度の推移を表すグラフである。参考例2における液体培地のOD660およびグルコース濃度の推移を表すグラフである。参考例2における植え継ぎ後の液体培地のOD660の推移を表すグラフである。参考例3における液体培地のpHおよび溶存酸素濃度(DO)の推移を表すグラフである。参考例3における液体培地のOD660およびグルコース濃度の推移を表すグラフである。参考例4における液体培地のpHおよび溶存酸素濃度(DO)の推移を表すグラフである。参考例4における液体培地のOD660およびグルコース濃度の推移を表すグラフである。参考例5における液体培地のpHおよび溶存酸素濃度(DO)の推移を表すグラフである。参考例5における液体培地のOD660およびグルコース濃度の推移を表すグラフである。参考例6における液体培地のpHおよび溶存酸素濃度(DO)の推移を表すグラフである。参考例6における液体培地のOD600およびグルコース濃度の推移を表すグラフである。実施例1のロット1−1における液体培地のOD660、グルコース濃度およびpHの推移を表すグラフである。実施例1のロット1−2における液体培地のOD660、グルコース濃度およびpHの推移を表すグラフである。実施例1における植え継ぎ後の液体培地のOD660の推移を表すグラフである。実施例2のロット2−1における液体培地のOD660、グルコース濃度およびpHの推移を表すグラフである。実施例2のロット2−2における液体培地のOD660、グルコース濃度およびpHの推移を表すグラフである。実施例2における植え継ぎ後の液体培地のOD660の推移を表すグラフである。 本発明の微生物の培養方法は、液体培地中で微生物を培養する微生物の培養方法であって、経時的に培養液のpHを測定し、pH値の変化がプラトーになった時点以後に、微生物を別の液体培地に植え継ぐ工程を備えることを特徴とするものである。微生物を液体培地で培養する場合、培養開始時点では、培地中の栄養分の含有量は最大であり、菌体濃度は最小である。そして、培養を継続していくと、培地中の栄養分が消費される一方、菌体は増殖していく。それに伴い、培地中の各成分濃度、例えばグルコースなどの炭素源濃度、アミノ酸などの窒素源濃度、溶存酸素濃度なども変化していく。微生物の培養を継続する中で変化する様々なパラメーターを解析する中で、本発明者等はpH変化に一定の特徴があることを見出した。すなわち、培養液のpHは培養開始時点から低下または上昇していくが、ある程度培養が継続されると、pH低下または上昇が止まる。本明細書において、上記のpH低下または上昇が止まる時点をpH変化がプラトーになった時点と称する。 微生物用の液体培地は、菌体の増殖を目的とする培養に用いるものであれば、通常、炭素源、窒素源、その他ビタミン、リンなど生育に必須な成分もしくは、生育を早めるための成分を含む。そして、強酸性、強アルカリ性などの特殊な環境下で生育する微生物の培養に用いる培地でなければ、これらの栄養成分の他に培地のpHに大きく影響するような成分を入れて、培地を強酸性ないし強アルカリ性に調整することはない。培養液のpH変化は、微生物による炭素源、窒素源などの栄養分の消費に関連する基本的な代謝活動に由来するものと考えられる。本培養に至るまでのシード培養段階では操作の煩雑性などの理由により、薬剤を用いた培養液のpH制御を実施しないことが一般的である。このため、pHの絶対値は各培地、培養によって異なるが、pHが低下または上昇からやがてプラトーに至るというpH変化の動きは、微生物の増殖培養用培地による培養であれば共通すると考えられる。また、培養液のpH制御を行う場合にはアルカリや酸の添加量の経時変化を同様に指標にすることができると考えられる。 菌体の増殖は、一般的に、誘導期を経て、菌体が指数関数的に増殖する指数増殖期に入る。その後、菌体増殖が停止する静止期に至る。菌体の増殖速度は、指数増殖期が最も高い為、培地中の菌体を指数増殖期に保つことが効率的な菌体増殖に繋がる。培地の栄養分が消費され、枯渇してくると、菌体増殖はやがて静止期に入ってしまう。そのため、指数増殖期から静止期に入る前に、栄養分を供給すべく培養液を植え継ぐことが必要になる。一方、培地自体のコスト、植え継ぎにかかる手間を考えると、菌体濃度がなるべく高くなるまでひとつの培地で培養を続けた方が効率が良い。以上のことを考慮すると、菌体の増殖が活発で、かつ、菌体濃度が高い、指数増殖期の後期において、培地の植え継ぎを行うことが最も好ましい。 本発明者等は、さらなる検討の結果、培地のpH変化がプラトーになる時点が、菌体増殖フェーズにおいて、指数増殖期の後期に当たることを見出した。この対応関係を利用して、pHを経時的に測定し、pH変化がプラトーになったことを見計らって、植え継ぎを行うことで、手間のかかる培養液の経時的なOD(吸光度)測定を行わなくとも、指数増殖期の後期に培養液の植え継ぎを行うことができる。 以下、本発明をさらに詳細に説明する。 [プラトー] 本発明において、pH変化がプラトーになった時点とは、培養液のpH低下または上昇が止まる時点を指す。このpH変化が止まる時点とは、ごく一時的な、一瞬のpH変化の停止ではなく、ある程度まとまった時間単位で見たときのpH変化の停止である。これは、pHの経時的な変化を、縦軸をpH値、横軸を培養時間としてプロットしたpH変化曲線において、いわゆる極小値に当たる時点である。この場合の極小値とは、数時間単位の区間における極小値、例えば、8時間単位の区間における極小値であって、数分単位の短時間の区間における極小値ではない。通常、培養を開始してから菌体増殖が静止期に至るまでの間に、pHの極小値は一点のみ現れる。培養を開始してから菌体増殖が静止期に至るまでの間に、数時間単位の区間における極小値が複数回現れる場合は、最初に現れる極小値を植え継ぎの時点とするのが好ましい。 また、pH変化がプラトーになった時点とは、pHの経時的な変化を、縦軸をpH値、横軸を培養時間としてプロットしたpH変化曲線において傾きがゼロになる時点でもある。 培地のpH変化がプラトーに至った後、通常、培養液のpHはそれまでと逆方向に転じる。この、pH変化からプラトーを経てpH変化の方向が逆転した時点を植え継ぎの指標にしてもよい。プラトーになった後に、pHが殆ど変化しない状態が続くこともあるが、この場合もpHの変化がプラトーになった時点を指標にすればよいので不都合はない。 本発明の培養方法においては、培養液のpH変化がプラトーになった時点を指標にして植え継ぎを行う。培養温度、微生物、培地の種類などによって指数増殖期の継続時間が異なるため、プラトーになった時点から何時間以内に植え継ぎを行うかは、培養条件に応じて適宜決定することができる。確実に指数増殖期の後期に当たる時点で植え継ぎが行えるように、植え継ぎを行う時期は、プラトーになった時点からそれほど時間を置かずに行うことが好ましく、pH変化がプラトーになった時点からグルコース等の炭素源が消費されるまでの間に植え継ぎを行うのが好ましい。より詳細には、植継ぎを行う時期は、pH変化がプラトーになった時点からpHが0.05変化するまでの範囲と規定することができる。分裂酵母を用いた検討では、pH変化がプラトーになった時点からpHが0.15変化した時点で植継ぎを行った条件では、上記範囲で植え継いだ条件と比較して、植継ぎ先の本培養での菌体増殖の立ち上がりが若干遅かった。 [pH測定方法] 本発明において、pH測定方法は特に限定されず、公知の方法を用いることができる。pHの変化を経時的に測定するために、リアルタイムで測定できる装置を用いることが好ましい。培地のpHの測定は、公知の測定機器を用いることにより直接行えるため簡易である。例えば、メトラ―・トレド株式会社pH電極(製品番号:405-DPAS-SC-K8S)を用い、pH電極先端の液絡部が培地に浸かるように培養槽に取付けることで、pHの経時変化をオンラインでリアルタイム測定することが可能である。一方、培養液の菌体濃度を吸光度により測定する場合、菌体が高濃度になると吸光度の信頼性が低くなるため、菌体を含む培地をサンプリングして水で希釈してから吸光光度計を用いて測定する必要があり、煩雑である。 [初期菌体濃度] シード培養の開始時において、菌体濃度は特に限定されず、培養ごとに目的、培養目標量などを考慮して適宜決定することができる。シード培養開始時の菌体濃度を低く設定することで、本培養までのシード培養の段階数を減らすことができるため、OD660が0.08〜0.71の状態で培養を開始するのが好ましく、0.18〜0.38の状態で培養を開始するのがより好ましい。OD(Optical density)とは光学密度を示し、OD660は660nmの波長の光の吸光度であり、酵母菌体濃度の指標として一般的に用いられている。OD600も同様に600nmの波長の光の吸光度を示し、大腸菌等の菌体濃度の指標として一般的に用いられている。これらの測定方法は、例えば、株式会社日立製作所のU-1500形レシオビーム分光光度計(型式:118-0110)を用い、試料用プラスチックセル中に培養槽からサンプリングした培養液を入れOD660の値を測定することが可能である。培養液原液の菌体濃度が高い場合には、水で希釈し測定を行う。さらに、菌体濃度の測定方法は特に限定されず、上記以外の公知の方法を用いることができる。 [植え継ぎ] 植え継ぎは、微生物を培養している培地の一部または全部を、未使用の別の培地に加えることである。植え継ぎ前の培地と植え継ぎ先の培地の組成は同じであってもよく、異なっていてもよい。また、植え継ぎ前の培養スケールと植え継ぎ後の培養スケールが同じであってもよく、異なっていてもよい。例えば、始めは少量の培地で培養を行い、植え継ぎを繰り返すことで段々とスケールアップしていくことができる。植え継ぎは、上記のように植え継ぎ後の培地のOD660が培養開始時点で0.08〜0.71になるように行うのが好ましく、0.18〜0.38になるように行うのがより好ましい。 [培地] 本発明の培養方法において使用する培地は、微生物の増殖に用いられるものであれば、合成培地、半合成培地、天然培地などいずれの培地も使用することができる。好ましくは、炭素源、窒素源を含む培地である。炭素源としてはグルコース、スクロースが好ましい。窒素源としてはアミノ酸、アンモニウム塩が好ましい。また、微生物の増殖速度が高くなる為、富栄養培地がより好ましい。富栄養培地としては、酵母抽出物(イーストエクストラスト)、トリプトン、ペプトン、ポリペプトンなどのタンパク質分解物、麦芽汁等の天然成分由来のものを含むものが好ましい。富栄養培地の具体例としては、YPD培地、YEL培地、LB培地等が挙げられる。また、培地は、上記栄養分の他、ビタミン類、核酸類、金属塩類等、リン、微量元素など、微生物の生育を促進するための物質を含んでいてもよい。さらに、炭素源が代謝されて生成したエタノール、酢酸等を炭素源として微生物が消費する場合もある。 [培養] 本発明の培養方法において、微生物を培養する為の培養槽は特に制限はない。培養装置は、培養液の温度を一定に保ち、培養液を攪拌する機能を有していることが好ましい。最適な培養温度は、微生物の種類、培養目的等によって異なるため、培養温度は適宜決定することができるが、好ましくは20〜40℃であり、より好ましくは25〜37℃である。 [微生物] 本発明の培養方法は、いずれの微生物にも適用することができる。本発明において微生物とは液体培地で培養が可能な単細胞生物を指す。好ましくは、サッカロミセス(Saccharomyces)属、シゾサッカロミセス(Shizosaccharomyces)属、ハンセヌラ(Hansenula)属、ピキア(Pichia)属、オガタエ(Ogataea)属、カンジダ(Candida)属などの酵母菌類、アスペルギルス(Aspergillus)属、トリコデルマ(Trichoderma)属などの糸状菌類、大腸菌(Escherichiacoli)といった、工業的に大量培養がなされている微生物である。また、本発明の培養方法は、本明細書中の微生物に異種タンパク質をコードする遺伝子が導入された形質転換体にも適用することができる。 以下、参考例および実施例をもって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの参考例、実施例により制限されるものではない。[参考例1:pHとOD660の対応] (シードI培養) 2L坂口フラスコに入ったYEL培地(ベクトン・ディッキンソン社製Bacto Yeast Extract 5g/L、グルコース 30g/L)270mLに、分裂酵母S.pombe異種タンパク質発現株(ATCC38399変異株)冷凍セルストック5.4mLを入れ、100〜110rpmの速度で振とうしながら、30℃で24時間培養した。 (シードII培養) 次に、上記の24時間培養後の分裂酵母を含む培地全量を、エイブル社製30L培養槽に入ったYEL培地13.23Lに加えて、250rpmで攪拌しながら、30℃で培養した。培養中のpH測定は、BROADLEY JAMES社複合型発酵用pH電極(製品番号:F-635-B-120-DH)を用い、pH電極先端の液絡部が培地に浸かるように培養槽に取付け、pHの経時変化をオンラインでリアルタイムに測定した。その際、経時的に培地のpH、溶存酸素濃度、排気CO2、OD660、グルコース濃度を測定した。得られた結果を図1、図2に示す。 図1から明らかなように、培地中のpHは培養開始時から下がり続けるが、培養開始から10数時間経過後に下降が緩やかになり、pH変化がプラトーになった後に、上昇に転じた。また、図2から明らかなように、pH変化がプラトーになる時点は、菌体の増殖フェーズが指数増殖期の後期に当たる時点に対応していた(ポイントA)。また、溶存酸素濃度のオンラインの測定値は、pHの測定値と比較して値の上昇と下降が短い時間で繰り返される測定のブレが大きいため、菌体の増殖フェーズの指標とすることが難しいと考えられる。[参考例2:植え継ぎ時期(OD660)と増殖速度立ち上がりの対応] (シードI培養) 1L坂口フラスコに入ったYEL培地(ベクトン・ディッキンソン社製Bacto Yeast Extract 5g/L、グルコース 30g/L)135mLに、分裂酵母S.pombe異種タンパク質発現株(ATCC38399変異株)の冷凍セルストック2.7mLを入れ、110〜120rpmの速度で振とうしながら、30℃で24時間培養した。 (シードII培養) 次に、上記の24時間培養後の分裂酵母を含む培地のうち30mLを、丸菱バイオエンジ社製2L培養槽に入ったYEL培地1470mLに加えて、700rpmで攪拌しながら、30℃で培養した。その際、経時的にOD660、グルコース濃度を測定した (植え継ぎ、本培養) 上記シードII培養において、図3に示す各時点(ポイントD、EおよびF)毎に分裂酵母を含む培地のうち150mLを採取し、それぞれ別の丸菱バイオエンジ社製3L培養槽に入った完全合成培地(SMF23培地+アミノ酸類+補填ビタミン類)1353mLに加えて、250〜800rpmで攪拌しながら30℃で培養し、OD660を測定して菌体の増殖を調べた。得られた結果を図4に示す。 図3および図4から明らかなように、指数増殖期の後期に菌体の植え継ぎを行った場合(ポイントE)は、指数増殖期の中期に植え継ぎを行った場合(ポイントD)、および、シードII培養開始後24時間経過後に植え継ぎをした場合(ポイントF)に比較して、植え継ぎ後の菌体増殖速度の立ち上がりが早く、OD660が10に達する時間差は5時間以上あった。また、シードII培養開始後24時間経過後に植え継ぎをした場合(ポイントF)は、ポイントDよりも菌体増殖の立ち上がりが遅かった。これは、24時間経過後では菌体増殖が停止した静止期にあったためと考えられる。一方、ポイントEの立ち上がりがポイントDよりも速いのは、ポイントEの時点の方がシードII培養の菌体濃度が高いためと考えられる。[参考例3:分裂酵母野生株を用いた場合のpHとOD660の対応](シードI培養) L字型試験管に入ったYEL培地(ベクトン・ディッキンソン社製Bacto Yeast Extract 5g/L、グルコース 30g/L)5.6mLに、分裂酵母S.pombe 野生株(JY1株)の冷凍セルストック224μLを入れ、95〜105rpmの速度で振とうしながら、30℃で24時間培養した。 (シードI培養) 2L坂口フラスコに入ったYEL培地(ベクトン・ディッキンソン社製Bacto Yeast Extract 5g/L、グルコース 30g/L)270mLに、上記の24時間培養後の分裂酵母を含む培地のうち5.4mLを加えて、95〜105rpmの速度で振とうしながら、30℃で24時間培養した。 (シードIII培養) 次に、上記の24時間培養後の分裂酵母を含む培地全量を、エイブル社製30L培養槽に入ったYEL培地13.23mLに加えて、250rpmで攪拌しながら、30℃で培養した。培養中のpH測定は、BROADLEY JAMES社複合型発酵用pH電極(製品番号:F-635-B-120-DH)を用い、pH電極先端の液絡部が培地に浸かるように培養槽に取付け、pHの経時変化をオンラインでリアルタイムに測定した。その際、経時的に培地のpH、溶存酸素濃度、OD660、グルコース濃度を測定した。得られた結果を図5、図6に示す。 図5から明らかなように、培地中のpHは培養開始時から下がり続けるが、培養開始から10数時間経過後に下降が緩やかになり、pH変化がプラトーになった後に、上昇に転じた。また、図6から明らかなように、pH変化がプラトーになる時点は、菌体の増殖フェーズが指数増殖期の後期に当たる時点に対応していた(矢印で示されるポイント)。[参考例4:異種タンパク質発現酵母株を用いた場合のpHとOD660の対応](シードI培養) L字型試験管2本にそれぞれ入ったYEL+G10培地(ベクトン・ディッキンソン社製Bacto Yeast Extract 5g/L、グルコース 30g/L、G418 10mg/L)各5mLに、分裂酵母S.pombeの異種タンパク質発現・プロテアーゼ破壊株(ATCC38399変異株)の冷凍セルストック各200μLを入れ、95〜105rpmの速度で振とうしながら、30℃で24時間培養した。(シードII培養) 2L坂口フラスコに入ったYEL+G10培地400mLに、上記の24時間培養後の分裂酵母を含む培地のうち8mL(4mL×2本分)を加えて、95〜105rpmの速度で振とうしながら、30℃で24時間培養した。 (シードIII培養) 次に、上記の24時間培養後の分裂酵母を含む培地全量を、エイブル社製30L培養槽に入ったYPD+G100培地(ベクトン・ディッキンソン社製Bacto Yeast Extract 10g/L、Bacto Tryptone 20g/L、グルコース 20g/L、G418 100 mg/L)19.6Lに加えて、300rpmで攪拌しながら、30℃で培養した。培養中のpH測定は、BROADLEY JAMES社複合型発酵用pH電極(製品番号:F-635-B-120-DH)を用い、pH電極先端の液絡部が培地に浸かるように培養槽に取付け、pHの経時変化をオンラインでリアルタイムに測定した。その際、経時的に培地のpH、溶存酸素濃度、OD660、グルコース濃度を測定した。得られた結果を図7、図8に示す。 図7から明らかなように、培地中のpHは培養開始時から下がり続けるが、培養開始から30数時間経過後に下降が緩やかになり、pH変化がプラトーになった。また、図8から明らかなように、pH変化がプラトーになる時点は、菌体の増殖フェーズが指数増殖期の後期に当たる時点に対応していた(矢印で示されるポイント)。また、溶存酸素濃度のオンラインの測定値は、pHの測定値と比較して値の上昇と下降が短い時間で繰り返される測定のブレが大きいため、菌体の増殖フェーズの指標とすることが難しいと考えられる。[参考例5:有機酸産生酵母株を用いた場合のpHとOD660の対応] (シードI培養) 試験管2本にそれぞれ入ったYES培地(ベクトン・ディッキンソン社製Bacto Yeast Extract 5g/L、アデニン硫酸塩 50mg/L、ウラシル 50mg/L、L−ロイシン 50mg/L、L−ヒスチジン塩酸塩一水和物 50mg/L、L−リシン一水和物 50mg/L、グルコース 30g/L)各5 mLに、寒天プレートから分裂酵母S.pombeの有機酸産生株(ATCC38399変異株)の1つのコロニーをそれぞれ植菌し、110〜120rpmの速度で振とうしながら、32℃で24時間培養した。(シードII培養) 1L坂口フラスコに入ったYES培地350 mLに、上記の24時間培養後の分裂酵母を含む培地のうち7mLを加えて、110〜120 rpmの速度で振とうしながら、32℃で24時間培養した。 (シードIII培養) 次に、上記の24時間培養後の分裂酵母を含む培地全量を、エイブル社製5L培養槽に入ったYAD12培地(ベクトン・ディッキンソン社製Bacto Yeast Extract 10g/L、CSL-AST 20g/L、グルコース 120g/L)3500 mLに加えて、溶存酸素濃度下限値を1ppmで維持できるように攪拌回転数をカスケード制御しながら、30℃で培養した。培養中のpH測定は、BROADLEY JAMES社複合型発酵用pH電極(製品番号:F-635-B-120-DH)を用い、pH電極先端の液絡部が培地に浸かるように培養槽に取付け、pHの経時変化をオンラインでリアルタイムに測定した。その際、経時的に培地のpH、溶存酸素濃度、OD660、グルコース濃度を測定した。得られた結果を図9、図10に示す。 図9から明らかなように、培地中のpHは培養開始時から下がり続けるが、培養開始から30数時間経過後に下降が緩やかになり、pH変化がプラトーになり、その後上昇に転じた。また、図10から明らかなように、pH変化がプラトーになる時点は、菌体の増殖フェーズが指数増殖期の後期に当たる時点に対応していた(矢印で示されるポイント)。[参考例6:異種タンパク質発現大腸菌株を用いた場合のpHとOD660の対応] (シードI培養) 0.5L坂口フラスコに入ったLB培地(ベクトン・ディッキンソン社製Bacto Yeast Extract 10g/L、Bacto Tryptone 10g/L、NaCl 5g/L、グルコース 1g/L、トリプトファン 100mg/L)100mLに、大腸菌E.coliの異種タンパク質発現株(K12変異株)の冷凍セルストック75μLを入れ、120〜130rpmの速度で振とうしながら、37℃で22時間培養した。 (シードII培養) 次に、上記の22時間培養後の大腸菌を含む培地のうち30mLを、丸菱バイオエンジ社製2L培養槽に入ったLB培地600mLに加えて、420rpmで攪拌しながら、37℃で培養した。培養中のpH測定は、メトラ―・トレド株式会社pH電極(製品番号:405-DPAS-SC-K8S)を用い、pH電極先端の液絡部が培地に浸かるように培養槽に取付け、pHの経時変化をオンラインでリアルタイムに測定した。その際、経時的に培地のpH、溶存酸素濃度、OD600、グルコース濃度を測定した。得られた結果を図11、図12に示す。 図11から明らかなように、培地中のpHは培養開始時から下がり続けるが、培養開始から3時間強経過後に、pH変化が上昇に転じた。また、図12から明らかなように、pH変化が上昇に転じた時点は、菌体の増殖フェーズが指数増殖期の後期に当たる時点に対応していた(矢印で示されるポイント)。また、溶存酸素濃度のオンラインの測定値は、pHの測定値と比較して値の上昇と下降が短い時間で繰り返される測定のブレが大きいため、菌体の増殖フェーズの指標とすることが難しいと考えられる。[実施例1] (シードI培養) 1L坂口フラスコに入ったYEL培地(ベクトン・ディッキンソン社製Bacto Yeast Extract 5g/L、グルコース 30g/L)135mLに、分裂酵母S.pombe異種タンパク質発現株(ATCC38399変異株)の冷凍セルストック2.7mLを入れ、110〜120rpmの速度で振とうしながら、30℃で12時間培養した。シードI培養は、同様の条件のものを2本用意した。それぞれ、ロット1−1およびロット1−2と称する。なお、シードI培養開始直後のロット1−1のOD660は、0.381、ロット1−2のOD660は0.336であり、培養開始後12時間経過時点でのロット1−1のOD660は7.7であり、ロット1−2のOD660は7.3であった。 (シードII培養) 次に、上記の12時間培養後の分裂酵母を含む培地のうち30mLを、それぞれ丸菱バイオエンジ社製2L培養槽に入ったYEL培地1470mLに加えて、700rpmで攪拌しながら、30℃で培養した。その際、経時的に培地のpH、グルコース濃度、OD660を測定した。結果を図13(ロット1−1)、図14(ロット1−2)に示す。 (植え継ぎ、本培養) 上記シードII培養において、図13または図14に示す各時点(ポイントG、H)において、分裂酵母を含む培地のうち150mLを採取し、それぞれ別の丸菱バイオエンジ社製3L培養槽に入った完全合成培地(SMF23培地+アミノ酸類+補填ビタミン類)1353mLに加えて、250〜800rpmで攪拌しながら30℃で培養し、OD660を測定して菌体の増殖を調べた。得られた結果を図15に示す。 図15から明らかなように、pH変化がプラトーになった時点(ポイントH)で植え継ぎを行った場合の方が、シードII培養開始後24時間経過(ポイントG)で植え継ぎを行った場合よりも菌体増殖の立ち上がりが早く、両条件の間でOD660が10に達するまで時間の差は10時間であった。[実施例2] (シードI培養) 1L坂口フラスコに入ったYEL培地(ベクトン・ディッキンソン社製Bacto Yeast Extract 5g/L、グルコース 30g/L)135mLに、分裂酵母S.pombe 異種タンパク質発現株(ATCC38399変異株)の冷凍セルストック2.7mLを入れ、110〜120rpmの速度で振とうしながら、30℃で24時間培養した。シードI培養は、同様の条件のものを2本用意した。それぞれ、ロット2−1およびロット2−2と称する。なお、シードI培養開始直後のロット2−1のOD660は、0.348、ロット2−2のOD660は0.329であり、培養開始後24時間経過時点でのロット2−1のOD660は20.3であり、ロット2−2のOD660は19.7であった。 (シードII培養) 次に、上記の24時間培養後の分裂酵母を含む培地のうち30mLを、それぞれ丸菱バイオエンジ社製2L培養槽に入ったYEL培地1470mLに加えて、700rpmで攪拌しながら、30℃で培養した。その際、経時的に培地のpH、グルコース濃度、OD660を測定した。結果を図16(ロット2−1)、図17(ロット2−2)に示す。 (植え継ぎ、本培養) 上記シードII培養において、図16または図17に示す各時点(ポイントI、J)において、分裂酵母を含む培地のうち150mLを採取し、それぞれ別の丸菱バイオエンジ社製3L培養槽に入った完全合成培地(SMF23培地+アミノ酸類+補填ビタミン類)1353mLに加えて、250〜800rpmで攪拌しながら30℃で培養し、OD660を測定して菌体の増殖を調べた。得られた結果を図18に示す。 図18から明らかなように、pH変化がプラトーになった時点(ポイントJ)で植え継ぎを行った場合の方が、シードII培養開始後24時間経過(ポイントI)で植え継ぎを行った場合よりも菌体増殖の立ち上がりが早く、両条件の間でOD660が10に達するまで時間の差は、8時間近くあった。 液体培地中で微生物を培養する微生物の培養方法であって、経時的に培養液のpHを測定し、pH値の変化がプラトーになった時点以後に、微生物を別の液体培地に植え継ぐ工程を備えることを特徴とする微生物の培養方法。 液体培地中で微生物を培養する微生物の培養方法であって、経時的に培養液のpHを測定し、縦軸をpH値、横軸を培養時間としてプロットしたpH変化曲線の傾きが負の値からゼロになった時点以後に、微生物を別の液体培地に植え継ぐ工程を備えることを特徴とする微生物の培養方法。 液体培地中で微生物を培養する微生物の培養方法であって、経時的に培養液のpHを測定し、pH値の変化が変曲点を迎え、変化の方向が逆転した時点以後に、微生物を別の液体培地に植え継ぐ工程を備えることを特徴とする微生物の培養方法。 前記微生物を別の液体培地に植え継ぐ工程が、pH値の変化がプラトーになった時点からpHが0.05変化する時点までの間に行われる請求項1記載の微生物の培養方法。 前記液体培地が富栄養培地である請求項1〜4のいずれか一項記載の微生物の培養方法。 培養温度が20〜40℃である請求項1〜5のいずれか一項記載の微生物の培養方法。 前記微生物が、サッカロミセス(Saccharomyces)属、シゾサッカロミセス(Shizosaccharomyces)属、ハンセヌラ(Hansenula)属、ピキア(Pichia)属、オガタエ(Ogataea)属およびカンジダ(Candida)属からなる群から選ばれるの酵母菌類、アスペルギルス(Aspergillus)属およびトリコデルマ(Trichoderma)属からなる群から選ばれる糸状菌類、または、大腸菌(Escherichiacoli)である請求項1〜6のいずれか一項記載の微生物の培養方法。 前記微生物が、シゾサッカロミセス(Shizosaccharomyces)属酵母菌または大腸菌(Escherichiacoli)である請求項1〜7のいずれか一項記載の微生物の培養方法。 前記微生物が、分裂酵母シゾサッカロミセス・ポンベ(Shizosaccharomyces pombe)である請求項1〜8のいずれか一項記載の微生物の培養方法。 【課題】煩雑な作業を要することなく適切なタイミングで微生物の植え継ぎを行うことができ、微生物を効率よく増殖させることが可能な微生物の培養方法を提供する。【解決手段】液体培地中で微生物を培養する微生物の培養方法であって、経時的に培養液のpHを測定し、pH値の変化がプラトーになった時点以後に、微生物を別の液体培地に植え継ぐ工程を備えることを特徴とする微生物の培養方法である。また、液体培地中で微生物を培養する微生物の培養方法であって、経時的に培養液のpHを測定し、縦軸をpH値、横軸を培養時間としてプロットしたpH変化曲線の傾きが負の値からゼロになった時点以後に、微生物を別の液体培地に植え継ぐ工程を備えることを特徴とする微生物の培養方法である。【選択図】図1


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