生命科学関連特許情報

タイトル:公開特許公報(A)_清酒酵母及びそれを用いた酒類又は食品の製造方法
出願番号:2012036571
年次:2013
IPC分類:C12N 1/19,C12N 15/09,C12G 3/02


特許情報キャッシュ

渡辺 大輔 荒木 悠矢 赤尾 健 下飯 仁 JP 2013169198 公開特許公報(A) 20130902 2012036571 20120222 清酒酵母及びそれを用いた酒類又は食品の製造方法 独立行政法人酒類総合研究所 301025634 細田 芳徳 100095832 渡辺 大輔 荒木 悠矢 赤尾 健 下飯 仁 C12N 1/19 20060101AFI20130806BHJP C12N 15/09 20060101ALI20130806BHJP C12G 3/02 20060101ALI20130806BHJP JPC12N1/19C12N15/00 AC12G3/02 119G 4 OL 11 特許法第30条第1項適用申請有り 〔発行者〕 公益社団法人日本生物工学会 〔刊行物名〕 第63回日本生物工学会大会講演要旨集 〔発行日〕 2011年8月25日 4B024 4B065 4B024AA05 4B024CA01 4B024CA04 4B024CA20 4B024DA12 4B024EA04 4B024FA01 4B024GA11 4B065AA80X 4B065AB01 4B065AC02 4B065AC11 4B065BA02 4B065CA42 本発明は、ストレス耐性を増強させるRIM15遺伝子の発現により、高い発酵力を維持しつつ、ストレスに対する優れた耐性を獲得した清酒酵母、並びに該清酒酵母を用いた酒類又は食品の製造方法に関するものである。 現在、全国のほとんどの清酒製造場では公益財団法人日本醸造協会から販売されている「きょうかい酵母」を使用して清酒を製造している。現在用いられているきょうかい酵母に共通した特徴として、清酒もろみにおけるエタノール発酵速度が高く、最終的なエタノール収量も高いという点が挙げられる。この特徴により、あらゆる醸造酒の中でも比較的アルコール度数が高いことで知られる清酒を効率的に製造することが可能となっている。 一方、きょうかい酵母は実験室酵母と比べて熱ショックやエタノールストレスなどの環境変化に弱く、またエタノール濃度の高い清酒もろみ末期においても多くの細胞が死滅していることが確認された(非特許文献1)。酵母の死滅とそれに伴う自己消化は、清酒の色度及びアミノ酸度の増加につながり、酒質を著しく損なうことが知られている。このため、きょうかい酵母のストレス耐性の改善が強く望まれている。 また近年、清酒の品質の多様化を目指して多酸性清酒酵母の開発が広く行われているが、有機酸の中で比較的爽快な酸味を呈するリンゴ酸の生成に関しても、酵母のストレス応答と関連があることが報告されている(非特許文献2)。具体的には、複数のリンゴ酸高生産性清酒酵母株において共通にストレス応答関連遺伝子群の発現上昇が認められたことから、リンゴ酸高生産性株がストレス耐性を獲得している可能性が示唆された。このことから、きょうかい酵母のストレス耐性の改善が、清酒の品質向上に資する可能性も考えられる。 出芽酵母は、発酵に適した環境では環境中の栄養源を勢いよく消費しながら増殖し細胞数を増加させるが、栄養源が枯渇し、生育に適さない環境になると、そのことを感知して増殖抑制及びストレス応答のためのシグナル伝達経路が速やかに働き、代謝活性の低い定常期と呼ばれる状態に移行する。このシグナル伝達経路の中心的役割を果たすのが、定常期移行制御因子Rim15pである(非特許文献3を参照)。 一方、本発明者らは、現在用いられているきょうかい酵母において、Rim15pのC末を欠失させ、当該因子の構造及び機能を欠損させる新規突然変異を同定した(非特許文献4を参照)。このことから、きょうかい酵母では、清酒もろみ中のエタノール濃度が上昇しても定常期に移行しにくいことが原因で、高い代謝活性を維持できているのではないかと考えられた。従って、ストレス耐性を改善するために、当該定常期移行制御因子の遺伝子(RIM15)をきょうかい酵母に導入すると、きょうかい酵母の有する高いエタノール生産能が低下することが予想された。H. Urbanczyk, C. Noguchi, H. Wu, D. Watanabe, T. Akao, H. Takagi, and H. Shimoi; J. Biosci. Bioeng. 112, 44-48 (2011)T. Oba, H. Suenaga, S. Nakayama, S. Mitsuiki, H. Kitagaki, K. Tashiro, and S. Kuhara; Biosci. Biotechnol. Biochem. 75, 2025-2029 (2011)E. Swinnen, V. Wanke, J. Roosen, B. Smets, F. Dubouloz, I. Pedruzzi, E. Cameroni, C. De Virgilio, and J. Winderickx; Cell Dev. 1, 3 (2006)第63回日本生物工学会大会講演要旨集、2011年8月25日発行、公益社団法人日本生物工学会発行、第64頁、1Jp12 そこで本発明の課題は、高発酵性を維持しつつ高いストレス耐性も併せ持つ清酒酵母、並びにかかる酵母を使用することを特徴とする酒類又は発酵食品の製造方法を提供することにある。 本発明者らは、正常な構造のRim15pを有する実験室酵母において、RIM15遺伝子を破壊するとエタノール発酵速度が著しく向上することを明らかにした(後述の参考例1、2)。したがって、きょうかい酵母のRIM15遺伝子における機能欠失変異が、当該酵母の高発酵性に大きく寄与しているのだろうと推測された。 一方、従来の知見から、きょうかい酵母のストレス耐性を増強するためには、きょうかい酵母において欠損しているRim15pの機能を回復することが必要であると考えた。そのことを証明するために、親株であるきょうかい酵母に、正常な構造を有する実験室酵母由来のRIM15遺伝子を導入した形質転換酵母を作成したところ、当該形質転換酵母が親株と比べて著しく高いストレス耐性を示すことが判明した。 さらに、かかる形質転換酵母の発酵試験を行った結果、意外なことに、当該形質転換酵母は親株とほぼ同程度の発酵速度を示した。後述の参考例1、2から示唆されるように、Rim15pの欠損が酵母のストレス耐性低下及び発酵性向上と完全に合致していることから、RIM15遺伝子の導入により、発酵速度の低下が予測できた。それにも関わらず、RIM15遺伝子を回復しても発酵速度が低下しないことは、きょうかい酵母を用いた解析によって初めて見出された現象である。そこで、本発明者らは、当該現象はきょうかい酵母の高い発酵性を維持しながらストレス耐性を改善させるために利用可能であると考え、当該形質転換酵母を用いた発酵試験の結果をより詳細に解析することにより、本発明を完成するに至った。 すなわち、本発明の要旨は、〔1〕RIM15遺伝子を発現する組換えベクターで形質転換されてなる、清酒酵母;〔2〕清酒酵母がSaccharomyces cerevisiae K701 UT-1T [pAUR112-ScRIM15](受領番号NITE AP-1219)である、前記〔1〕に記載の清酒酵母;〔3〕前記〔1〕又は〔2〕に記載の清酒酵母を用いることを特徴とする、酒類又は食品の製造方法;並びに〔4〕酒類又は食品が、清酒、焼酎、ビール、ワイン、パン類及び醤油からなる群より選択される少なくとも一種である、前記〔3〕に記載の製造方法;に関するものである。 本発明の形質転換酵母はストレス耐性が高いという特性を有するので、これを使用すれば、酒類又は発酵食品の製造中における酵母の死滅を抑制することができる。その結果、酒類又は発酵食品をより効率的に製造することが可能となるだけでなく、アミノ酸や有機酸を含む呈味成分に特徴を有する酒類又は発酵食品の製造方法を提供することが可能となる。図1は、親株である実験室酵母BY4743株及び遺伝子破壊株(BY4743 Δrim15)を用いて清酒製造を行った際の二酸化炭素発生速度(左)及び二酸化炭素総発生量(右)を示す図である。点線が親株、実線がRIM15遺伝子破壊株のデータを示す。図2は、親株である実験室酵母BY4743株及び遺伝子破壊株(BY4743 Δrim15)を用いてエタノール発酵試験を行った際の二酸化炭素発生速度(左)及び二酸化炭素総発生量(右)を示す図である。点線が親株、実線がRIM15遺伝子破壊株のデータを示す。図3は、対照株である清酒酵母(K701 UT-1T [pAUR112])及び形質転換株(K701 UT-1T [pAUR112-ScRIM15])を用いたストレス耐性試験の結果を示す図である。点線が対照株、実線が形質転換株のデータを示す。図4は、対照株である清酒酵母(K701 UT-1T [pAUR112])及び形質転換株(K701 UT-1T [pAUR112-ScRIM15])を用いて清酒製造を行った際の二酸化炭素発生速度(左)及び二酸化炭素総発生量(右)を示す図である。点線が対照株、実線が形質転換株のデータを示す。 以下、本発明について具体的に説明する。本発明の酒類又は食品に限定はないが、酒類としては、清酒、焼酎、ビール、ワイン等を例示できる。また、食品としては、パン類、醤油等を例示することができる。 本発明において形質転換に使用する酵母としては、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)に属する清酒酵母が望ましい。具体例として、日本醸造協会から配布されている「きょうかい酵母」(きょうかい7号、きょうかい701号、きょうかい9号等)を挙げることができる。 遺伝子クローニング方法としては、酵母において公知の遺伝子クローニング方法、例えばPCR法を用いて目的遺伝子を増幅させる方法、ショットガンクローニングを行う方法等を適宜選択して用いれば良く、有効な遺伝子クローニング法としてはPCR法が好ましい。 RIM15遺伝子については、SGD(Saccharomyces Genome Database)のホームページ(http://genome-www.stanford.edu/Saccharomyces)に配列が記載されており、かかる配列に基づいて、PCRプライマーを設計して正常なRIM15遺伝子構造を有する酵母のゲノムDNAをテンプレートにしてPCRを行うことにより、目的遺伝子を得ることができる。正常なRIM15遺伝子構造を有する酵母としては、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)に属する実験室酵母(X2180、BY4743等)等が例示される。RIM15遺伝子を増幅するために用いるDNAのプライマーとしては、RIM15-F(配列表の配列番号1)、RIM15-R(配列表の配列番号2)等が例示される。 上述の方法で増幅したRIM15遺伝子を発現ベクターに接続して、酵母に導入することができる。発現ベクターとしては、単コピー型、多コピー型、染色体組込み型のいずれも利用可能である。なお、形質転換の際に用いる選択マーカーとして、アミノ酸などの栄養要求マーカーや薬剤に対する耐性マーカー等が利用可能である。有効な発現ベクターの具体例として、pAUR112(タカラバイオ社製)が例示される。かかる発現ベクターを用いて、RIM15遺伝子を有する組換えベクターを調製する方法は、公知の方法を採用することができる。酵母への組換えベクターの導入方法は、酵母にDNAを導入する方法であれば特に限定されず、例えば酢酸リチウム法、エレクトロポレーション法、スフェロプラスト法等が挙げられる。 RIM15遺伝子を発現する組換えベクターで形質転換されてなる清酒酵母の一例としては、Saccharomyces cerevisiae K701 UT-1T [pAUR112-ScRIM15]株が挙げられる。この株は、K701 UT-1T [pAUR112-ScRIM15]株と命名され、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センターに、受領番号NITE AP-1219(受領日:平成24年2月2日)(現在、寄託番号取得手続中)として寄託されている。 本発明の酒類又は食品の製造方法は、酵母を用いる製造工程において、酵母として本発明の清酒酵母を採用することにより実施することができる。 以下、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明はこれらの実施例等によりなんら制限されるものではない。参考例1 サッカロミセス・セレビシエBY4743株及びこれを親株としたRIM15遺伝子破壊株を用いた清酒製造試験を行った。なお、BY4743株、BY4743 Δrim15株については、いずれもEUROSCARFから、それぞれY20000、Y37281として入手可能である。 親株であるBY4743株とBY4743 Δrim15株を用いて、以下に示す方法で清酒を製造した。 掛米40g、麹米10g、水80mL、90%乳酸17.8μL混合による一段仕込を実施した。掛米として精米歩合70%のアルファー化米、麹米として精白歩合70%の乾燥麹を用いた。各酵母は、YPD培地(酵母エキス1%、ペプトン2%、グルコース2%含有)において一晩振とう培養した後、滅菌蒸留水により洗浄し、酵母数が1×107cells/mLになるように仕込時に添加した。発酵温度は15℃とした。仕込試験は各株について4回ずつ繰り返した。仕込後、発酵モニター装置(アトー株式会社製ファーモグラフII)を用いて発酵に伴う二酸化炭素発生量を求め、各株について平均二酸化炭素発生量を算出した。結果を図1に示す。 二酸化炭素発生速度のピーク値及び二酸化炭素総発生量について、親株と遺伝子破壊株における値の有意差検定も行った。さらに、仕込後20日目には、遠心分離によって回収した清酒におけるエタノール濃度を測定し、各株について平均エタノール濃度を算出した。また、得られた平均エタノール濃度について、親株と遺伝子破壊株における濃度の有意差検定も行った。なお、エタノール濃度の測定は、株式会社島津製作所製ガスクロマトグラフGC-17Aを用いて行った。 RIM15遺伝子破壊株は、親株に比べて発酵に伴う二酸化炭素発生速度のピーク値が大きく(親株:14.7±0.8mg/30min、RIM15遺伝子破壊株:20.5±0.7mg/30min、0.1%未満の危険率で有意に親株より大きい)、二酸化炭素総発生量の値も大きかった(親株:5.60±0.00g、RIM15遺伝子破壊株:10.07±0.24g、0.1%未満の危険率で有意に親株より大きい)。さらに、最終的なエタノール濃度も、親株が11.2±0.3容量%であるのに対し、RIM15遺伝子破壊株が17.0±0.2容量%と著しく高い(0.1%未満の危険率で有意に親株より高い)ことから、RIM15遺伝子破壊株を用いた場合、エタノール発酵速度が速く、エタノール生産性に優れることが分かった。参考例2 上述のサッカロミセス・セレビシエBY4743株及びBY4743 Δrim15株を用いてエタノール発酵試験を実施した。 高濃度グルコース含有YPD培地(酵母エキス1%、ペプトン2%、グルコース20%含有)50mLを用いたエタノール発酵試験を実施した。各酵母は、YPD培地において一晩振とう培養した後、酵母密度がOD660=0.1/mLになるように高濃度グルコース含有YPD培地に添加し、5日間静置培養した。発酵温度は30℃とした。発酵試験は各株について4回ずつ繰り返した。培養開始後、発酵モニター装置(アトー株式会社製ファーモグラフII)を用いて発酵に伴う二酸化炭素発生量を求め、各株について平均二酸化炭素発生量を算出した。結果を図2に示す。二酸化炭素発生速度のピーク値及び二酸化炭素総発生量については、親株と遺伝子破壊株における値の有意差検定も行った。 RIM15遺伝子破壊株は、親株に比べて発酵に伴う二酸化炭素発生速度のピーク値が大きく(親株:11.3±1.5mg/15min、RIM15遺伝子破壊株:16.3±2.7mg/15min、5%未満の危険率で有意に親株より大きい)二酸化炭素総発生量の値も大きいことから(親株:2.74±0.13g、RIM15遺伝子破壊株:3.23±0.21g、0.1%未満の危険率で有意に親株より大きい)、RIM15遺伝子破壊株を用いた場合、エタノール発酵速度が速く、エタノール生産性に優れることが分かった。実施例1〔形質転換株の作成〕 RIM15遺伝子の上流811bp、RIM15遺伝子のコード領域5313bp及びRIM15遺伝子の下流500bpを含むPCR産物を得るために、プライマーRIM15-F(配列表の配列番号1)、RIM15-R(配列表の配列番号2)を設計した。プライマー設計のためのソフトウェアは、SGD(Saccharomyces Genome Database)のホームページ(http://genome-www.stanford.edu/Saccharomyces)に添付のものを使用した。 実験室酵母X2180からゲノムDNAを抽出し、プライマーRIM15-F(配列表の配列番号1)、RIM15-R(配列表の配列番号2)を用いてPCR法によりDNA増幅を実施し、PCR産物をpAUR112ベクターのSmaIサイトにクローニングした。得られた組換えベクターを、酢酸リチウム法により清酒酵母きょうかい701号由来ウラシル要求性株(K701 UT-1T株)に導入した。SC-Ura寒天培地(0.67%yeast nitrogen base without amino acids、0.77 g/L complete supplement mixture minus uracil、2%グルコース含有)上で、30℃、3日間培養し、得られた単コロニーを同じ組成のSC-Ura寒天培地で再度培養し、生育してきたものを形質転換株とした。この株は、K701 UT-1T [pAUR112-ScRIM15]株と命名され、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センターに、受領番号NITE AP-1219(受領日:平成24年2月2日)(現在、寄託番号取得手続中)として寄託された。また、同様の方法により、空ベクターを導入した対照株も作成された。この株は、K701 UT-1T [pAUR112]株と命名され、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センターに、受領番号NITE AP-1218(受領日:平成24年2月2日)(現在、寄託番号取得手続中)として寄託された。〔ストレス耐性試験〕 上述のK701 UT-1T [pAUR112]株及びK701 UT-1T [pAUR112-ScRIM15]株を用いてストレス耐性試験を実施した。各酵母は、SC-Ura培地において一晩振とう培養した後、酵母密度がOD660=0.1/mLになるようにYPD培地(酵母エキス 1%、ペプトン2%、グルコース2%含有)に添加し、1週間振とう培養して定常期の細胞を得た。培養温度は25℃とした。当該細胞を54℃の温浴に移して熱ショックを与え、直後(0分)、15分、30分後にサンプリングを行った。各試料をYPD寒天培地上に塗布し、30℃、3日間培養し、得られた単コロニーの数を計測した。 試験は各株について3回以上繰り返した。各株において熱ショック付与直後のコロニー数を100%とした時のコロニー数を求め、平均生存率を算出した。結果を図3に示す。平均生存率については、両株における値の有意差検定も行った。 図3から明らかなように、形質転換株は、対照株に比べて熱ショック処理後の平均生存率が1%未満の危険率で有意に高いことが示された(対照株(15分後):0.018%、形質転換株(15分後):10.4%、対照株(30分後):0.0016%、形質転換株(30分後):4.4%)。この結果から、実験室酵母由来のRIM15遺伝子の導入により、親株である清酒酵母きょうかい701号のストレス耐性が顕著に回復したことが示された。〔清酒製造試験〕 上述のK701 UT-1T [pAUR112]株及びK701 UT-1T [pAUR112-ScRIM15]株を用いて以下に示す方法で清酒を製造した。掛米40g、麹米10g、水80mL、90%乳酸17.8μL混合による一段仕込を実施した。掛米として精米歩合70%のアルファー化米、麹米として精白歩合70%の乾燥麹を用いた。各酵母は、SC-Ura培地において一晩振とう培養した後、滅菌蒸留水により洗浄し、酵母数が1×107cells/mLになるように仕込時に添加した。発酵温度は15℃とした。仕込試験は各株について3回以上繰り返した。 仕込後、発酵モニター装置(アトー株式会社製ファーモグラフII)を用いて発酵に伴う二酸化炭素発生量を求め、各株について平均二酸化炭素発生量を算出した。結果を図4に示す。二酸化炭素発生速度のピーク値及び二酸化炭素総発生量について、対照株と形質転換株における値の有意差検定も行った。さらに、発酵開始後20日経過時点においては、清酒もろみ中における酵母の死滅率並びに遠心分離によって回収した清酒におけるエタノール濃度、日本酒度、酸度、アミノ酸度及び有機酸組成を測定し、各株について平均値を算出した。結果を表1に示す。また、得られた平均値について、対照株と形質転換株における値の有意差検定も行った。 なお、酵母の死滅率はメチレンブルー染色法により計測した。エタノール濃度の測定は、株式会社島津製作所製ガスクロマトグラフGC-17Aを用いて行った。日本酒度、酸度及びアミノ酸度については、国税庁所定分析法に従って分析した。有機酸組成は、株式会社島津製作所製高速液体クロマトグラフLC-10ADを用いて分析を行った。 図4から明らかなように、発酵に伴う二酸化炭素発生速度のピーク値又は二酸化炭素総発生量について、形質転換株は対照株との有意な差を示さなかった(危険率5%)。具体的には、二酸化炭素発生速度のピーク値は、対照株で15.5±0.3mL/30min、形質転換株で15.3±0.2mL/30minであり、二酸化炭素総発生量は、対照株で7.02±0.20L、形質転換株で7.01±0.14Lであり、いずれもほぼ同程度であった。二酸化炭素発生速度については、発酵開始後4.5〜8.7日では対照株の方が有意に大きい値を示したが(危険率5%)、15.7日以降では形質転換株の方が有意に値が大きく(危険率5%)、20日間の発酵期間全体を通して見ると両株においてほぼ同じ程度まで発酵が進行したと考えられる。さらに、最終的なエタノール濃度も、対照株で19.55±0.25容量%、形質転換株で19.20±0.28容量%であり、有意な差は観察されなかった(危険率5%)。以上の結果から、実験室酵母由来のRIM15遺伝子の導入が清酒酵母きょうかい701号を用いたエタノール発酵に及ぼす影響はごくわずかしかないことが確認された。 一方、清酒もろみ中の酵母の死滅率については、形質転換株において顕著に低下しており、実験室酵母由来のRIM15遺伝子の導入によるストレス耐性回復効果が認められた。このことに関連して、形質転換株において、アミノ酸度は有意に低く、酸度は有意に高いことが示され、中でも特にリンゴ酸の含有量は対照株と比較して48%増大していた。 酵母は清酒製造環境において高濃度エタノールや低温などのストレスを受けている。これらのストレスを長時間受けると酵母は死滅し、製造効率が低下するだけでなく、酵母細胞の自己消化等に伴い、清酒の品質にも悪影響を及ぼす。ところが、本発明の製造方法では、高い発酵性を維持したままストレス耐性を回復した清酒酵母を使用することにより、アミノ酸度が低く、リンゴ酸濃度が高いという良好な特徴を有する清酒を効率的に製造することが可能となる。また、高いストレス耐性を有する本発明の酵母は、清酒に限らず、焼酎、ビール、ワイン等の酒類やパン類、醤油等の食品の製造にも好適に用いられる。配列表の配列番号1は、RIM15増幅用プライマーである。配列表の配列番号2は、RIM15増幅用プライマーである。 RIM15遺伝子を発現する組換えベクターで形質転換されてなる、清酒酵母。 清酒酵母がSaccharomyces cerevisiae K701 UT-1T [pAUR112-ScRIM15](受領番号NITE AP-1219)である、請求項1に記載の清酒酵母。 請求項1又は2に記載の清酒酵母を用いることを特徴とする、酒類又は食品の製造方法。 酒類又は食品が、清酒、焼酎、ビール、ワイン、パン類及び醤油からなる群より選択される少なくとも一種である、請求項3に記載の製造方法。 【課題】高発酵性を維持しつつ高いストレス耐性も併せ持つ清酒酵母、並びにかかる酵母を使用することを特徴とする酒類又は発酵食品の製造方法を提供すること。【解決手段】RIM15遺伝子を発現する組換えベクターで形質転換されてなる清酒酵母、並びに該清酒酵母を用いることを特徴とする、酒類又は食品の製造方法。【選択図】なし配列表


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