タイトル: | 公開特許公報(A)_微小試料用キャピラリー |
出願番号: | 2012018603 |
年次: | 2013 |
IPC分類: | G01N 1/00,G01N 1/28,G01N 23/20 |
熊坂 崇 牧野 正知 桑本 いづみ 山本 雅貴 JP 2013156218 公開特許公報(A) 20130815 2012018603 20120131 微小試料用キャピラリー 公益財団法人高輝度光科学研究センター 599112582 独立行政法人理化学研究所 503359821 白洲 一新 100124659 熊坂 崇 牧野 正知 桑本 いづみ 山本 雅貴 G01N 1/00 20060101AFI20130719BHJP G01N 1/28 20060101ALI20130719BHJP G01N 23/20 20060101ALI20130719BHJP JPG01N1/00 101HG01N1/28 KG01N1/00 101BG01N23/20 4 1 OL 17 2G001 2G052 2G001AA01 2G001BA14 2G001BA18 2G001CA01 2G001DA09 2G001GA13 2G001HA13 2G001KA08 2G001MA02 2G052AB18 2G052CA03 2G052CA04 2G052DA13 2G052DA25 2G052EB08 2G052EB13 2G052ED17 2G052GA19 2G052GA32 2G052JA07 2G052JA13 2G052JA23 本発明は分析試料を封入する測定用キャピラリーに関し、特に微小な含溶媒試料の結晶回折測定用キャピラリーに関する。 多くの蛋白質や一部の有機低分子などの結晶は、その結晶構造の一部として体積の半分程度におよぶ多くの水(溶媒水)を含んでいる。当該含溶媒試料(結晶)は、溶媒の蒸散で溶媒溶質比が変化し、それによって試料の構造などに影響を及ぼす場合がある。このことは、各種分析法による測定の過程において、試料の状態変化を来たすことになるため、測定結果の一貫性を損なう。特に、蛋白質結晶は溶媒含有量が25-75%と高く、溶媒の蒸散によって大きく性状を変え、X線回折能が顕著に低下する例が多く見られている。従って、試料を安定に支持し、その状態の一貫性を保つ方法は測定の根幹に関わる課題である。 試料からの溶媒の蒸散を防ぐために、これまで主に封入法及び試料凍結法が採用されてきた。封入法は、溶媒の蒸散を制限するため、容器内に試料を支持する方法である。従来、一般的に測定に係る試料の寸法は一辺数百マイクロメートルから数ミリメートルであり、また内容された試料に電磁波や粒子線(以下、量子ビーム)を照射するためにそれらの吸収が少ない容器材料が用いられる。具体的には、試料サイズに対応した数ミリメートル〜数百マイクロメートル内径の肉薄のガラス(リンデマンガラス、硼珪酸ガラス、ソーダガラス、石英ガラスなど)の細管(キャピラリー)内に試料を置き、ガラス自体の溶融あるいはワックスなどで含溶媒試料を封入する。この際、微量の溶媒を細管の先端部等に入れておくことで、密封された細管内の溶媒蒸気圧を一定に保つことができる。 この技術は長らく利用されてきたが、放射光X線のような高強度量子ビームを用いる実験が一般的になると、照射による試料損傷を回避するために、特に不安定な生体試料においては、急速凍結することが不可欠となってきた。しかし、この方法は試料を安定に保持するために試料をガラス管内で空気に露出した状態で封入する必要がある。この結果、試料周りの空気層によって冷却時の熱交換が遅く、熱ひずみ等による試料へのストレスが起きてしまう。このため、前記封入法は試料凍結時にはほとんど用いられていない。 試料を急速凍結する方法(試料凍結法)で広く用いられている支持機構は、一般にクライオループと呼ばれる合成樹脂製のマウント具である。 試料凍結法が開発された初期には石英板や輪切りにされたガラス細管(「X線分析用試料マウント具」、特許文献1)などが用いられた。その後、10-20マイクロメートル径のナイロン繊維を試料サイズと同等の径をもつ環状にし、それを金属製等の筒の先端に接着剤で取り付けたものが市販品として入手できるようになると、それが広く使われるようになった。さらに近年では、ポリイミド等の合成高分子膜を任意形状に加工できるリソグラフィーの技術で製造される製品(「生体高分子の結晶マウント用装置およびその製造方法」、特許文献2)も使用されている。 この方法では、試料を溶媒ごと環状の部分にすくい取り、低温ガスの吹付等で凍結する。したがって試料が大気に開放されているため溶媒の蒸散が起こるが、すくい取った後ただちに凍結することで、その問題を回避している。また、一般に溶媒として使われる水においては、固体状態においても種々の相が存在することが知られている。本法における凍結の際には、アモルファス状の氷(以下、アモルファス氷)として凍結されることが望ましいが、条件によっては結晶性の氷も析出しやすく、これらの氷(特に六方晶の氷)は試料の破壊が起こる場合がある。これを防ぐためにグリセロールなどのアルコールやトレハロースなどの糖類を溶媒に添加することが一般に行われている。 ところで近年、放射光X線のような高強度量子ビーム等の分析技術の発展によって、従来の試料より微小な数マイクロメートル〜数十マイクロメートルの試料でも測定が可能になってくると、溶媒等の試料以外の成分から生じる量子ビームの散乱ノイズが測定結果に与える影響が無視できなくなってきた。この問題を回避するため、溶媒を除去して凍結する方法として、キャピラリートップマウント法(「環状突起体を有するキャピラリー」特許文献3)が開発されている。しかし、その方法では、微小試料をキャピラリートップに固定することは難しく、また、試料の微小化により体積が減れば、溶媒の蒸散量が微小でも、試料に与える影響は大きくなる点で難がある。また前記クライオループは開放系であるため、空気中での溶媒の蒸散は起こりやすく、凍結までのわずかな時間でも、微小試料の場合は損傷が起こりうる。このため、微小な試料を安定に支持する方法が必要となっていた。 また一方で、結晶回折実験などの分析測定では、試料を種々異なる化学条件下に置くことで、その構造や機能の変化を調べる実験も広く行われている。例えば、酸素をはじめとする種々のガス分子を吸着して輸送する蛋白質ヘモグロビンの機能解明では、酸素、一酸化炭素、一酸化窒素などのガスを吸着させて分析する研究も行われている。しかし、この種の実験には以下に述べるような特殊装置が必要である。 まず、ダイヤモンドアンビルセルなどの高圧容器に導入された試料を常温にて測定する装置がある(非特許文献1)。100メガパスカル以上の超高圧が実現可能であるが、凍結実験には不向きであり、X線回折実験では短波長X線が必要になるなど、大気圧付近でのガス置換などの実験には大掛かりすぎるのが難である。 次に、試料凍結が可能な方法としては、クライオループ等のマウント具ごと高圧容器に差し込んでガス加圧し、試料に当該ガス分子を吸着させる装置がある(Oxford Cryosystems社Xcell)。しかし、この方法では、試料を凍結する直前にガス圧を大気圧に戻すことになっており、分子吸着の圧力依存性を調べることにやや難がある。 別の方法として、ガス圧を大気圧に戻さずに高圧のまま凍結可能な装置を提供する方法がある(Rigaku社Xe-Cryo-Siter)。しかし、この方法では、圧力容器の体積が大きく、ガスの回収が困難なので、希ガスなどの高価なガスを無駄にすることになる。 ほかの方法として、一旦クライオループで凍結した試料を、液体窒素中に保持した高圧容器に差し込んでガスを吸着させる方法も開発されている(「蛋白質−気体分子複合体の作成方法」、特許文献4)。しかし、ガス吸着には高圧容器を含めた系全体の温度上昇が必要になるため、溶媒の相転移温度を跨ぐ温度上昇が必要な場合にはそれによって形成される溶媒結晶による試料の損傷が問題となる。水の場合、アモルファス氷から六方晶等結晶性の氷への相転移がそれに該当する。 よって、百マイクロメートル以下、特に十マイクロメートル以下の微小試料を支持し、かつ、前述した溶媒の蒸散による問題、凍結による問題及びガス置換による問題を解決することができる試料支持具が求められている。特開平第8-338818号公報特開第2005-043134号公報特開第2006-053085号公報特開第2008-031119号公報(Fourme,R.et al.(2006) Biochim.Biophys.Acta 1764,384-390.) 本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、電磁波や粒子線等の量子ビームによる回折測定時の含溶媒微小結晶の乾燥を防ぎ、急速凍結もでき、ガス置換もできるキャピラリー及びそのキャピラリーを用いた回折測定方法の提供を目的とする。 本発明者らは鋭意に検討した結果、テーパー形状を有するキャピラリーを用いることで前記課題を解決できることを見出した。 本発明のキャピラリーは、以下に列挙する効果を有する。(1)従来の封入法に用いられるものより微小化するとともに、試料を溶媒中に分散した状態で封入することにより試料周りの空気層を排除し、凍結時の冷却効率を高めることができる。(2)キャピラリーの形状と材料であるガラスの剛性とにより、試料冷却に一般的に用いられる吹付低温ガスの脈流による振動を抑制できるため、高い位置決め精度を有する。(3)溶媒が空気に暴露される面積が小さいために、含溶媒微小試料からの溶媒の蒸散を抑制でき、室温で長時間含溶媒微小試料を支持することができる。(4)本発明のキャピラリーは、ひとつのマウント具に複数の試料を同時に支持することも可能なため、複数試料を一回のマウント操作で測定でき、測定実験の際のマウント具交換の頻度を減らし、実験を効率的に行える。(5)キャピラリーを装着するマウント具のねじ込み機構により、キャピラリー内のガス圧を容易に高圧に維持することができるため、試料のガス置換・加圧を簡便に行える。(6)(5)の特徴を生かしつつ、加圧したままで試料を急速凍結することもできる。(a) 本発明のキャピラリーの模式図である。(b) (a)の実物の写真である。(a) 本発明のキャピラリーを装着したマウント具全体の写真である。(b) 本発明のキャピラリーを装着したマウント具全体の写真である。(c)微小含溶媒試料を格納した本発明のキャピラリー先端部の写真である。(d) (c)の試料測定領域の拡大図である。(a) 本発明のキャピラリーに30%(v/v)グリセロール水溶液を封入し、急速凍結させたときの散乱強度データである。(b) (a)と同等条件ながら、試料測定領域の外径が162マイクロメートル、内径が138マイクロメートル、肉厚が12マイクロメートルの場合のX線散乱像である。(c) (a)および(b)を円環平均して一次元化した散乱強度データである。(a) 「サンプルの支持機構」のサンプル支持部材の模式図である。(b) (a)のサンプル支持部材と本発明の微細キャピラリーとの組み合わせの模式図である。(a) 本発明のガス加圧時に使用するアダプターの例示図である。(b) (a)のアダプターに、図4(b)で示した本発明の微細キャピラリーおよびガス配管を取り付けた例示図である。(c) (b)の例示図に対応する写真である。本発明のガス加圧システムの例示図である。(a) 本発明のキャピラリーの試料測定領域(外径16マイクロメートル、内径10マイクロメートル、肉厚3マイクロメートル)に密封された卵白リゾチーム結晶(一辺10マイクロメートル弱)の拡大写真である。先端部をグリスで封じている。(b) (a)の卵白リゾチーム結晶のX線回折像である。(a) 本発明のキャピラリーの試料測定領域(外径20マイクロメートル、内径16マイクロメートル、肉厚2マイクロメートル)にマウントされた甘味蛋白質ソーマチン結晶(一辺8マイクロメートル弱)の拡大写真である。先端部は封じていない。(b) (a)のソーマチン結晶のX線回折像である。 以下、図面等を用いて本発明を実施するための形態について詳細に説明する。なお、個々に開示する実施形態は、本発明の例であり、これに限定されるものではない。(第一実施形態) 本発明の第一の実施形態は、テーパー形状を有するキャピラリーを用いて封入した試料を用いる各種測定である。 本発明のキャピラリーは、必要に応じて、さまざまな状況下で、量子ビーム等による含溶媒微小結晶の回折を測定することができる。例えば、室温においては、本発明のキャピラリーに試料を導入したのちにその両端を封じることで、溶媒の蒸散を防ぐことができる状態で、含溶媒試料の分析測定を実施することができる。また、含溶媒試料を保持しているキャピラリーを急速凍結することによって、量子ビーム等による試料の損傷を抑制して分析測定を実施することができる。この場合は、凍結により溶媒の蒸散の恐れがないのでキャピラリーの端を封じても、封じなくてもよい。特に好ましくは、室温で本発明のキャピラリーにある含溶媒微小結晶の位置を特定した後に、急速凍結で放射光X線等による微小結晶の回折測定を行うことである。 本発明のキャピラリーの材料には、電磁波や粒子線等の量子ビーム等による回折測定に適宜する材料であればよく、特に限定しない。本発明では、ガラスが好ましく、例えば、硼珪酸ガラス、リンデマンガラス、ソーダガラス、石英ガラスなどを用いることができる。本発明で好ましくは、生細胞に遺伝子や薬剤を直接注入する方法であるマイクロインジェクションにも使われているような極微細なガラスキャピラリーの先端部形状を試料の大きさに合わせて加工したものである。具体的には、図1(a)及び(b)のようなテーパー形状のキャピラリーである。また、このキャピラリーの微細な先端部で、例えば、含溶媒微小結晶等の測定の対象となる試料を支持している領域を、以下「試料測定領域」とよぶ。この領域は回折測定において量子ビームを照射する部位で、そこに、図1(b)及び図2(d)のように複数の微小(数マイクロメートル〜数十マイクロメートル)結晶を支持する。 本発明のキャピラリーは、試料測定領域が極細になっているため、その強度を保ち、かつ試料を封入しやすいように他の部分には一定の太さが必要である。よって、本発明でいうキャピラリーがテーパー状であることが好ましい。ここでいうテーパー状とは、細長い構造物の径・幅・厚みなどが先細りになっている形状をいう。このテーパー形状は、後述する急速凍結時の低温ガスの吹付において、その十分な剛性によって試料の振動を抑えることができ、測定時に必要な高い位置決め精度を実現する。 キャピラリーの強度を保つことができれば、任意のテーパーの形状を用いることができ、例えば、線形テーパー、指数関数テーパー、放物線テーパー等が挙げられる。 線形テーパーとは、距離に対し径が線形に変わり、側面の角度は一定になる。テーパーの度合いは、角度のテーパー角または分数のテーパー率で表され、たとえばテーパー率1/100なら100ミリメートルあたり半径が1ミリメートル細くなる形状をいう。指数関数テーパーとは、距離に対し径が指数関数的に変わる。根元から離れると急に細くなり、先は非常に細長くなるため、重量が軽減できる。長さや高さを伸ばすのが目的であれば理想的な形状である。放物線テーパーとは、径が先端からの距離の平方根に比例し、全体の形状が先端を頂点とした放物線になる形状をいう。 テーパー形状ガラスキャピラリーの製作方法の例として、キャピラリープラー(たとえば、株式会社ナリシゲ製PC-10)を用いて、外径1ミリメートル程度のガラス細管をテーパー形状のガラスキャピラリーに加工することが挙げられる。この際、マウントする試料のサイズに対応した内径と肉厚が得られるように、プラーの各種パラメータを設定し、かつ材料として使用するガラス細管の内径と肉厚を選択する。 測定を行うにあたり分析装置に接続する方法については、本発明のキャピラリーを装置に適したマウント具に装着することで対応する。前記マウント具は、本発明のキャピラリーを装置することができれば、特に限定せず、たとえば結晶回折計のゴニオメータヘッドの磁石部に取り付けるためには、図2(a)に示すように金属製の台座(たとえば、SPINE規格マグネットベース)と金属棒、あるいは図2(b)に示すように金属製の台座(たとえば、HAMPTON RESEARCH社製マグネットベース)とキャピラリーを貫通できる金属管を用いて作製する。 また、後述する第二実施形態でも用いる「サンプルの支持機構」(特開第2003-083412号公報)のサンプル支持部材を使用する際には、エポキシ系接着剤などを用いて部材に本発明のキャピラリーを接着することができる。この部材が難接着性のポリアセタール樹脂製である場合、接着用プライマーの塗布によって接着面をあらかじめ処理する。 ここで、試料を本発明のキャピラリーに封入する方法の例として吸い取り法、注入法及びガラス管内試料調製法を説明する。いずれの方法においても、ガラス管内の撥水処理や親水処理などのコーティングによって、試料を含む溶媒を管内の適切な位置に配置することや、吸い上げる液量を制御することが可能である。なお、試料を本発明のキャピラリーに封入する方法はこれに限らない。 吸い取り法には、毛細管現象法、マイクロインジェクター法及びガラス管内気体体積変化法等がある。毛細管現象法とは、ガラス管の先端部を直接試料に沿わせ、溶媒ごと毛細管現象で吸い込ませる方法である。マイクロインジェクター法とは、樹脂性配管等を通じてガラス管をマイクロインジェクター(たとえば、株式会社ナリシゲ製IM-9B)に接続し、吸引する方法である。ガラス管内気体体積変化法とは、ガラス管の末端部を溶融などによって封じたのちにガラス管自体を暖めることによって管内の空気圧を下げておき、この状態で試料に近づけて管を冷却することで、管内空気の収縮によって試料を吸引する方法である。 注入法では、まず試料を溶媒ごと径の太いピペットなどで吸い込んでおき、末端部からガラス管に流し込む。溶媒は毛細管現象で先端部の試料測定領域に移動する。この際に一部の結晶も移動して試料測定領域に移動するため、実験が可能となる。 さらに、これを適当な遠沈管にセットして遠心分離機にかけることで、試料を溶媒ごと先端部に集めることもできる。先端開口部の内径が20マイクロメートル以下のキャピラリーにおいて、100×g程度の重力加速度で5分処理する範囲では、ガラス管の先端部からの溶媒や試料の漏れは認められない。同部の内径が20マイクロメートルを超えると溶液の漏れが生じる場合もあるが、先端部をグリスや接着剤によって密閉しておくことで遠心操作が可能である。ただし、密度が低く遠心によっても沈みにくい試料に対しては、遠心の加速度や時間を増す必要がある。この場合には、管の先端を塞ぐ、あるいは細くすることによって、試料の抜けを防ぐこともできる。この遠心分離機を用いる方法では、結晶の大きさ、数、管の径などに依存するが、アングルローターで回転させることで図2(d)のようにガラス管の側面に一列に試料を並べることも可能である。 結晶試料の場合はガラス管内でこれを析出させることも可能であり、ガラス管内試料調製と呼ぶ。たとえば、蛋白質溶液と沈殿剤溶液をそれぞれ10マイクロリットル管内に吸い取って、先端部に集めた後に封じることで、いわゆるバッチ法の結晶化ができる。さらに、沈殿剤溶液を末端部に加えたのちに封じることで、蒸気拡散法による結晶化も可能である。 この試料調製法では、分析装置に接続する方法として特許「サンプルの支持機構」(特開第2003-083412号公報)のサンプル支持部材を利用することで、同公報の(0090)段落に述べられているように、サンプル支持部材を識別するためのバーコードを貼付するなどして大量のサンプル支持部材それぞれを識別するような構成をサンプル支持部材に備えることにより、大量の試料の管理も可能となっている。 本キャピラリーは、従来の環状マウント具と比べ、溶媒の蒸散量を抑制することができることを確認している。先端部の開口径を10マイクロメートル、末端部の開口径を0.6ミリメートルとしたとき、それぞれに起因する一時間あたりの蒸散量は測定を行った室内の温湿度条件(温度24℃、湿度58.2%)において3ナノリットル以下、もしくは12ナノリットル程度であった。したがって、このようにキャピラリーの両端を閉じずとも、実際には数分程度を要する試料マウント作業では、蒸散量は1ナノリットル以下に抑えられる。微細な試料を扱う場合その溶媒量も微量となるが、たとえば体積1ナノリットルの結晶試料に対して、体積比10倍の10ナノリットルの溶液についても、体積変化率は10%と少ない溶媒濃縮で作業が可能で、溶媒状態の変化による試料への悪影響を最小限にすることができる。 もちろん、試料を含む溶媒の蒸発を防ぐためには、本発明のキャピラリーの何れの端もしくは両端を密封することが好ましい。先端部の密封はグリスや接着剤(たとえば、ゼリー状シアノアクリレート系接着剤やエポキシ系接着剤)、ガラス溶融等によって可能である。これにより前述した溶媒蒸散による試料損傷を抑制することができる。 また、本発明のキャピラリーは、溶媒ごと試料を封入することで、空気層を排除して熱交換の効率を高めることができるため、急速凍結をも行うことができる。熱交換の速度は冷媒の温度差に加え、系の体積と、その系を構成する媒質の熱伝導率で決まる。一般的な測定試料の冷却においては、ガラス、水、空気の熱伝導率が問題となるが、たとえば室温付近においてはそれぞれおおよそ1、0.6、0.02(W/m/K)となっており、ガラスと水の熱伝導率を同等と見做せば、空気層の排除が重要である。また、溶媒量が増えすぎれば、全体としての冷却速度が低下する結果、溶媒水のアモルファス氷での凍結は困難になるため、凍結実験時には溶媒量ひいては試料測定領域の外径を制限することが好ましい。 適切な試料測定領域の外径を求めるため、図3に示すように、凍結に一般に用いられる溶媒である30%グリセロール水溶液において、一般的に用いられる100ケルビンの低温ガスの吹付による急速凍結を行い、X線散乱を測定した。測定条件は以下のとおりである(X線源:大型放射光施設SPring-8 BL41XU, X線ビームサイズ直径30マイクロメートル, X線波長:1.000オングストローム,カメラ距離130ミリメートル,X線検出器:Rayonix社製CCD MX-225HE,振動角:1.0度,抗凍結溶液:30%(v/v)glycerol)。その結果、図3に示すように、外径150マイクロメートル、内径128マイクロメートル、肉厚11マイクロメートルの試料測定領域においては、ぼやけた円環状の散乱が見える(図3(a))ものの、結晶性の氷は析出していない。一方、外径162マイクロメートル、内径138マイクロメートル、肉厚12マイクロメートルの試料測定領域においては、中心付近に明瞭な二重の円環が見られている(図3(b))。これらの散乱像を円環平均したグラフが(図3(c))であるが、回折角の値より、この原因は結晶性氷の析出であると考えられる。 したがって、一般的な試料凍結を行う際の試料測定領域の外径は150マイクロメートル以下に制限することが望ましい。また、本発明のキャピラリーの試料測定領域の肉厚は、上述のように熱交換の効率を高めるだけでなく、量子ビーム散乱によって生じるノイズを抑制するために11マイクロメートル以下が好ましい。また、本発明のキャピラリーの試料測定領域の外径が150マイクロメートル、120マイクロメートル、96マイクロメートル、60マイクロメートル、36マイクロメートル、及び、16マイクロメートルであることが好ましい。一方の肉厚は、11マイクロメートル、10マイクロメートル、8マイクロメートル、5マイクロメートル、3マイクロメートル、及び、2マイクロメートルであることが好ましい。外径は16マイクロメートル以下でも製造および利用が可能であるが、微細になるほど破損が起こりやすく、実体顕微鏡等での視認が困難となるため、作業性が低下する。(第二実施形態) 本発明の第二の実施形態は、本発明のキャピラリーのガス加圧実験への応用である。前記したように、本発明のキャピラリーは、一定の圧力にも破壊されず耐えうるため、一端が密封された場合他端からガス等により加圧することができる。これと第一実施形態の手法によって、ガス加圧したままの条件で試料を急速凍結することができるようになるとともに、従来法よりも消費するガス体積を極小さくすることができる。 このガス加圧実験に応用する本発明のキャピラリーの好ましい実施形態は、例えば、図4(a)及び(b)のように、「サンプルの支持機構」(特開第2003-083412号公報)との組み合わせである。図1に示す本発明のキャピラリーを、図4(a)に示すサンプルの支持機構に組み合わせて図4(b)を作製する。本発明者はサンプルの支持機構にかかる発明の共同発明者であり、ここにて特開第2003-083412号公報の内容を引用し、本発明の一部とする。 「サンプルの支持機構」は凍結された試料の分析装置への装着と回収の操作を自動化するための機構であり、そこには図4(a)に示したサンプル支持部材に特徴的なねじ部分が採用されているので、ガスの封じ切りに都合がよい。また、図4(a)の右側にあたる先端部の一部の内径を細くした形状にすることで、キャピラリーの抜け止めとしている。これと本法を組み合わせ、さらにガス加圧システムのガス溜め容器にサンプル支持部材のねじ部分をねじ込むことで、極微小なガス耐圧の閉空間を容易につくることができた。 この実施形態における可能な最大圧力は、キャピラリー部分の耐圧に依存する。一般に、ガラス管の耐圧、すなわち機械強度については、瑕などの欠点等によって異なるが、許容内圧をP、内径の外径に対する比をr、設計応力(平均切線方向応力)をσとすると、P=σ(1-r2)/(1+r2)という式が成り立つ(AGC-IWAKIガラス技術資料:なお、安全率を2とした場合、硼珪酸ガラスのσは7メガパスカル)とされている。したがって、テーパー形状のガラス管については厳密な予測はできないものの、内径及び肉厚を適宜に調整することで耐圧を変えることができるといえる。たとえば、本発明のキャピラリーの試料測定領域の肉厚を内径の1/4以上の範囲にすることで、上式によって求められる設計応力は2.5メガパスカルとなる。実際に、外径0.7ミリメートル、内径0.3ミリメートル、肉厚0.2ミリメートルの硼珪酸ガラス管から製作した、試料測定領域の外径が13.5マイクロメートルで肉厚が2.25マイクロメートル(内径の外径に対する比;r=2/3)のキャピラリーは、2メガパスカルの圧力に耐えることを実験的に確認した。肉厚の上限は加工するガラス管に依存するが、市販品を用い内径の外径に対する比としてr=1/4を下限として製造できることを確認した。 測定の実施に当たっては、試料調製として、図4(a)に示したマウント具を用い、前記の吸い取り法で試料をキャピラリー中に封入した後、先端部を封じきる。あるいは、前記ガラス管内試料調製方法によりキャピラリー内に試料を調製する。これを図5(a)に示したアダプターに接続する。アダプターは、アルミニウム等の耐圧性をもつ金属の部材で作製したペン型の構造を有し、中心部を貫通するガスを通す管の両側に試料マウント具およびガス配管との接続部を有する。試料マウント具は図5(a)の右端部にOリングを介して接続する。さらに、アダプターの左端部は、たとえば図6のように、ガスボンベとガス圧調節機構(ハンドポンプ、リーク弁、圧力ゲージ及び安全弁等)を介した系に接続できるようになっている。接続部はガス配管のコネクタ形状に応じた加工をすることで任意の配管が可能である。その結果得られる図5(b)の状態で、試料へのガス加圧を開始する。アダプターは特開第2003-083412号公報に含まれる試料凍結ならびに試料回収機構にセットし、その機構を利用してトレイに収納することができる。 以下に本発明の実施例を記述し、本発明の結晶の回折測定方法及びそのための回折測定装置について具体的に説明する。ただし、本発明の技術的範囲はこれらに限定されるものではない。 (実施例1)X線回折実験 外径1ミリメートル、内径0.6ミリメートル、肉厚0.2ミリメートルのガラス管を加工して得られたテーパー状キャピラリーを用い、上述のガラス管内試料調製方法によってキャピラリーの試料測定領域(外径16マイクロメートル、肉厚3マイクロメートル)に封入された微小結晶を、定法により低温ガスの吹付により急速凍結して試料観察用CCDカメラによる結晶位置の確認と位置決めを行った後に、X線を照射して、回折像を収集することができた。その結果を図7に示した。ひきつづき、表1の実験条件のもとで90枚の回折像を収集し、表2のような回折強度データを得た。そのデータに基づいて卵白リゾチーム分子の構造精密化を行い、表3のような解析結果を得ている。また、外径20マイクロメートル、肉厚2マイクロメートルの試料測定領域を持つキャピラリーを用い、8マイクロメートルのソーマチン結晶について、図8(a)のように先端部を封じることなく、図8(b)のような回折像を測定することができた。 本発明は、含溶媒微小試料を安定に保持することができるキャピラリーを提供することで、ごく微量な蛋白質結晶でも、室温または凍結下、もしくは異なるガス雰囲気下での回折測定を可能とする。特に大きな結晶を作成するのが困難な高難度蛋白質の構造解析において、それらの微小結晶からの回折測定の促進につながると期待できる。 テーパー形状を有する分析試料封入用キャピラリー。 試料測定領域の外径が16マイクロメートル以上150マイクロメートル以下であることを特徴とする請求項1に記載のキャピラリー。 前記試料測定領域の肉厚が2マイクロメートル以上11マイクロメートル以下であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のキャピラリー。 前記試料測定領域の内径の外径に対する比が1/4以上2/3以下であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のキャピラリー。 【課題】 本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、放射光のビーム等による回折測定時の含溶媒微小結晶の乾燥を防ぎ、急速凍結もでき、ガス置換もできるキャピラリー及びそのキャピラリーを用いた回折測定方法の提供。【解決手段】 放射光試料測定領域の外径が150マイクロメートル以下のキャピラリー 。【選択図】 図1