生命科学関連特許情報

タイトル:公開特許公報(A)_SPFS(表面プラズモン励起増強蛍光分光法)を用いたトロポニンの免疫学的測定法
出願番号:2012004966
年次:2013
IPC分類:G01N 33/53,G01N 33/543,G01N 21/64


特許情報キャッシュ

磯田 武寿 彼谷 高敏 大谷 真紀子 日影 直樹 塚越 正徳 和田 武志 JP 2013145138 公開特許公報(A) 20130725 2012004966 20120113 SPFS(表面プラズモン励起増強蛍光分光法)を用いたトロポニンの免疫学的測定法 コニカミノルタ株式会社 000001270 特許業務法人SSINPAT 110001070 磯田 武寿 彼谷 高敏 大谷 真紀子 日影 直樹 塚越 正徳 和田 武志 G01N 33/53 20060101AFI20130628BHJP G01N 33/543 20060101ALI20130628BHJP G01N 21/64 20060101ALI20130628BHJP JPG01N33/53 DG01N33/543 595G01N21/64 G 4 OL 18 2G043 2G043AA03 2G043BA16 2G043DA02 2G043DA06 2G043EA01 2G043KA02 2G043KA09 2G043LA02 本発明は、医療、バイオテクノロジー等の分野で利用されるSPFS(Surface Plasmon-field enhanced Fluorescence Spectroscopy:表面プラズモン励起増強蛍光分光法)および心筋梗塞等のバイオマーカーとして知られているトロポニンに関する。 急性心筋梗塞は冠動脈の閉塞により心筋が壊死に陥る疾患であるが、この疾患の検査手法としては、胸痛、心電図及び心筋梗塞マーカーを利用することが行われてきている。この心筋梗塞マーカーも大別すると、生化学的指標と免疫学的指標に二分される。生化学的指標には、クレアチンキナーゼ(CK)やその心筋特異性アイソザイム(CKMB)が用いられているが、測定が簡便ではあるものの、CKは心筋梗塞特異性が低く、CKMBもトロポニンTに比し特異性が低いことから、有用性に限界がある。一方、免疫学的指標には、ミオグロビン、ミオシン軽鎖及びトロポニン等が実用化されている。 トロポニンは筋原線維の細いフィラメントに存在するタンパク質複合体で、トロポニンT(分子量37000)、トロポニンI(分子量22500)、トロポニンC(分子量18000)の3つのザユニットからなる。トロポニンは、心筋疾患により引き起こされる心筋細胞の破壊により心筋細胞から血液中に放出され、血液中ではトロポニンT、トロポニンIおよびトロポニンCの3つのサブユニットが単独、又は2つ若しくは3つの異なるサブユニットからなる複合体を形成して存在する。 トロポニンのサブユニットのうちトロポニンIは、正常なヒトの血液中にはほとんど存在せず、心筋疾患に罹患したヒトの血液中に特異的に存在するので、早期に心筋疾患を検出することができるバイオマーカーとして知られていた。たとえば、非特許文献1には、急性心筋梗塞の早期診断における高感度トロポニンIの有用性が記載されている。また、非特許文献2には、慢性心不全患者における高感度cTnI測定の有用性も記載されている。 また、トロポニンTも極めて心筋特異性が高く、心筋梗塞発症後早期から長期間にわたって異常値を示すので、従来のマーカーでは検出できなかった微小心筋障害を診断することが可能となった。すなわち、cTnTは発症早期(発症後3〜4時間以降)から7〜10日までの長い期間にわたる心筋梗塞の診断に有用である。欧州心臓病学会と米国心臓病学会の合同作業チームは、心電図変化と臨床症状に基づく急性心筋梗塞の診断基準を、2000年にcTnTまたはcTnIの血中濃度に心電図所見と臨床症状を加味して診断する新しい基準に変更している。2007年、Circulation(2007; 115: e356-e375)に国立臨床生化学検査アカデミーから,急性冠症候群(ACS)と心不全領域におけるバイオマーカーのガイドラインが発表され,ACSの診断において,トロポニン測定を診断補助に用いることはclass I,エビデンスレベルAと記載された。さらに、非特許文献3には、老齢者の心血管イベントの発現比率とcTnT値との相関が大規模臨床(n=4221)で検証されている。cTnT値は、Roche Elecsys 2010で測定され、下限値は3pg/mL、カットオフ値は13.5pg/mLとされた。その結果、カットオフ値以下であってもcTnT値によって心血管イベントの発現比率に差が認められ、低濃度域においてcTnT値を測定することの意義が示唆されている。 上記のような用途を有することから、血液検体中のトロポニンの濃度を測定するための様々な方法が提案され、比較検討されているが、方法によって測定値の差が大きく、未だ標準的な測定方法は確立されていない。たとえば、非特許文献4では、捕捉用抗体および標識用抗体として、cTnIおよびcTnTの様々なエピトープを認識する抗体を用いて、検出限界値等の対比を行っている。 高感度でトロポニンを検出または定量するための手段として、以下のような発明も提案されている。 特許文献1には、透明基板、該透明基板上に配置される金属膜、該金属膜上に固定される、心筋梗塞マーカーに対する抗体を備えていることを特徴とする表面プラズモン共鳴バイオセンサー(SPR)用測定チップや、このような測定用チップを用いて心筋梗塞マーカーを測定する方法が記載されている。心筋梗塞マーカーとしては、トロポニンT、ミオグロビン等が挙げられている。 特許文献2には、生体試料に由来するトロポニンIを、トロポニンCの存在下で、該トロポニンIの41〜49番目のアミノ酸配列をエピトープとして認識し且つ標識物質で標識された第1抗体(たとえば19C7抗体)と接触させて、前記トロポニンIと、前記トロポニンCと、前記第1抗体との複合体を形成させ、前記複合体を形成した第1抗体の標識物質を測定することを含む、トロポニンIを測定する方法などが記載されている。 一方、各種の生体関連物質を検出または定量するための測定システムの一つとしてSPFSが知られている(たとえば特許文献3参照)。SPFSは、誘電体部材上に形成された金属薄膜に全反射減衰(ATR)が生じる角度で励起光を照射したときに、金属薄膜を透過したエバネッセント波が表面プラズモンとの共鳴により数十倍〜数百倍に増強されることを利用して、金属薄膜近傍に捕捉されたアナライト(分析対象物)を標識する蛍光体を効率的に励起させ、その蛍光シグナルを測定する方法である。このようなSPFSは、一般的な蛍光標識法などに比べて極めて感度が高いため、サンプル中にアナライトがごく微量しか存在しない場合であってもそれを定量することができる。特開平11−023575号公報特開2010−107363号公報特開2010−145272号公報N Engl J Med 2009; 361: 858-867Therapeutic Research 2010; 31(7): 968-971JAMA 2010; 304(22): 2494-2502Pathology 2010; 42(5): 402-408 心筋梗塞等のバイオマーカーとなる血液検体中のトロポニンは極力低濃度で定量ないし検出できることが望ましい。本発明が解決しようとする課題は、試料中のトロポニンを高感度で定量ないし検出することのできる手段を提供することにある。 本発明者は、SPFSにおいて、固相化された抗トロポニン抗体、トロポニン、および蛍光標識化された抗トロポニン抗体を含むサンドイッチ型免疫複合体を形成し、当該免疫複合体に含まれる蛍光体から発せられる蛍光強度を測定することにより、試料中にトロポニンが極微量しか含まれない場合であっても定量することができることを見いだし、本発明を完成させるに至った。 すなわち、本発明は以下の発明を包含する。 [1]試料中のトロポニンを対象とする免疫学的測定法であって、SPFS用センサーチップの測定領域に固相化された抗トロポニン抗体、トロポニン、および蛍光標識化された抗トロポニン抗体を含むサンドイッチ型免疫複合体を形成する工程、および形成されたサンドイッチ型免疫複合体に含まれる蛍光体から発せられる蛍光強度をSPFS(表面プラズモン励起増強蛍光分光法)により測定する工程を含むことを特徴とする免疫学的測定法。 [2]前記サンドイッチ型免疫複合体を形成する工程が、前記固相化された抗トロポニン抗体と試料中のトロポニンとを反応させて免疫複合体を形成する工程、および形成された免疫複合体と前記蛍光標識化された抗トロポニン抗体とを反応させて前記サンドイッチ型免疫複合体を形成する工程を含む、[1]に記載の免疫学的測定法。 [3]前記固相化された抗トロポニン抗体が1種または2種以上の抗トロポニンモノクローナル抗体であり、前記蛍光標識化された抗トロポニン抗体が、前記固相化された抗トロポニン抗体としての1種または2種以上の抗トロポニンモノクローナル抗体とは異なる、1種または2種以上の抗トロポニンモノクローナル抗体である、[1]または[2]に記載の免疫学的測定法。 [4][1]〜[3]のいずれかに記載の免疫学的測定法に用いられる、固相化された抗トロポニン抗体、トロポニン、および蛍光標識化された抗トロポニン抗体を含むサンドイッチ型免疫複合体が測定領域に形成された、SPFS用センサーチップ。 本発明のSPFSを利用した免疫学的測定法により、従来のELISAのようなサンドイッチ型免疫複合体を形成する方法と比較して、トロポニンの定量性能ないし検出性能を著しく高めることができる。したがって、本発明により心筋トロポニン(cTn)が血液検体中に極微量しか含まれない場合であっても定量することが可能となり、cTnの心筋梗塞等のバイオマーカーとしての有用性を向上させ、診断に役立つ信頼性の高いデータを得ることが可能となる。図1は、公知の抗トロポニンI(cTnI)モノクローナル抗体およびそれらのエピトープを示す。図2は、実施例1−1,1−2,1−3および1−4におけるトロポニンIの定量限界の結果のプロットである。 本明細書では、トロポニンのうち、心筋に由来し血液検体中に存在するものを特に意図する場合に「心筋トロポニン」(cTn)と称することがある。また心筋トロポニン(cTn)のサブユニットそれぞれを「心筋トロポニンT」(cTnT)、「心筋トロポニンI」(cTnI)、「心筋トロポニンC」(cTnC)と称することがある。本発明において、「トロポニン」は、すべてのサブユニットによって構成される複合体全体を指すほか、各サブユニットまたはその部分的な複合体を包含する総称として用いることがある。たとえば、「抗トロポニン抗体」は、「トロポニン」のいずれかの部位をエピトープとして認識する抗体であり、「抗トロポニンI抗体」、「抗トロポニンT抗体」等を包含する。 本明細書において、数値範囲を示す表現「X〜Y」はX以上Y以下を意味する。 以下、本発明についてSPFS単独に基づく態様に則しながら説明するが、本発明は、たとえばSPFS−LPFS測定系など、SPFSと他の測定系ないしシステムとを組み合わせる態様においても適用することができる。また、本発明のSPFSに基づく免疫学的測定法に、公知または慣用の手段を適宜組み合わせることができることももちろんである。 − SPFS用測定部材 − SPFS用測定部材は、一般的に、サンドイッチ型免疫複合体を形成してSPFSによる蛍光測定を行うための場(測定領域)が形成されているセンサーチップと、サンドイッチ型免疫複合体の形成などに用いられる各種の溶液(アナライトを含む試料、標識リガンド溶液、その他の反応試薬等)を測定領域上に保持することのできる、流路またはウェルを構築するための部材とを積層化した構成をとる。 すなわち、本発明は一つの側面において、本発明の免疫学的測定法に用いられる、固相化された抗トロポニン抗体、トロポニン、および蛍光標識化された抗トロポニン抗体を含むサンドイッチ型免疫複合体が測定領域に形成された、SPFS用センサーチップを提供する。 センサーチップは、基本的に、金属薄膜の裏面に励起光を導入するための透明支持体と、当該透明支持体上に形成された、表面プラズモン共鳴を発生させるための金属薄膜と、当該金属薄膜上に形成された、アナライトをセンサー表面に捕捉するための反応層とを含み、さらに必要に応じて、金属薄膜と反応層の間に形成された、蛍光体が金属薄膜に近接しすぎることにより起こる蛍光の金属消光を防止するためのスペーサ層を含んでいてもよい。 なお、本明細書において、便宜上、センサーチップの金属薄膜、反応層等が形成される側を「上」または「表」、その反対側を「下」または「裏」と称することがある。 反応層が形成されている部位が測定領域に相当する。流路またはウェルの底面全域に反応層を形成して測定領域としてもよいし、底面の一部のみに(必要であれば所望のパターニングで)反応層を形成して測定領域としてもよい。測定領域の面積は、一般的にレーザー光として照射される励起光の照射面積を考慮しながら調整することができる。たとえば、励起光のスポット径が1mmφ程度であれば、上記アッセイエリアは通常、少なくとも数mm四方の面積を有するものとなるよう設計される。 SPFSのシステムを、密閉流路を通じて各種の溶液を送液する「流路型」とする場合、センサーチップの上に、流路を形成するための穴のあいた「フローセル」を積載し、必要に応じてさらにその上に、上記フローセルの穴に対応する位置に送液導入口および送液排出口のあいた「天板」を積載し、これらを密着させて固定するようにして、測定部材を構築する。上記フローセルの穴に対応する位置のセンサーチップ表面が、流路の底面をなし、そこに測定領域が形成される。流路型の場合、たとえばポンプやチューブを含む送液手段を用いて、各種の液体を送液導入口から流路内に送液して送液排出口から排出することができ、必要に応じて往復型、循環型の送液を行うこともできる。送液速度や送液(循環)時間などの条件は、試料の量や試料中のアナライトの濃度、流路ないしウェルのサイズや反応層の態様(固相化リガンドの密度等)、ポンプの性能等を考慮しながら、適宜調整することができる。 一方、SPFSのシステムを、上記流路よりも広い空間に各種の溶液を貯留させる「ウェル型」とする場合、センサーチップの上に、ウェルを形成するための貫通孔を有する「ウェル部材」を積載して固定することにより測定部材を構築する。ウェル型の場合、たとえばピペット状の部材を用いて、各種の液体をウェルに添加し、除去することができる。 上記フローセルは、たとえばシート状のポリジメチルシロキサン(PDMS)製とすることができる。上記天板は、測定領域から発せられる蛍光を測定できるよう透明性を有する材料で作製され、たとえばプレート状のポリメタクリル酸メチル(PMMA)製とすることができる。あるいは、フローセルおよび天板を、成形加工やフォトリソグラフィにより所望の形状にしたプラスチック製とすることも可能である。 センサーチップ上にフローセルまたはウェル部材を密着させて固定する手段は特に限定されるものではなく、一般的には物理的に上下から圧力をかけるようにすればよく、必要であれば、透明支持体と同じ光屈折率を有する接着剤、マッチングオイル、透明粘着シートなどを用いてもよい。 (透明支持体) 透明支持体は、プリズムまたは平面基板の形態をとることができる。プリズム形状の透明支持体は、センサーチップ作製後にそのままSPFS測定装置に装着して用いるようにし、平面基板状の透明支持体は、センサーチップ作製後に、SPFS測定装置が備えるプリズムの水平面上に装着して用いるようにする。透明支持体のサイズは特に限定されるものではなく、SPFS測定装置にあわせて調整することができる。透明支持体が平面基板の形状をとる場合、その厚さは通常0.01〜10mmの範囲である。 透明支持体の材料としては、ガラスや、ポリカーボネート(PC)、シクロオレフィンポリマー(COP)などのプラスチックのように、透明な誘電体が挙げられ、d線(588nm)における屈折率〔nd〕が1.40〜2.20の範囲にある物質が好ましい。透明支持体の表面は、金属薄膜を形成する前に、酸またはプラズマによる洗浄処理がなされていることが好ましい。 (金属薄膜) 金属薄膜は、酸化に対して安定であり、かつ表面プラズモンによる電場増強効果が大きい、金、銀、アルミニウム、銅、および白金からなる群から選ばれる少なくとも1種の金属からなる(つまり、上記いずれかの金属単独からなるものであっても、複数の金属の合金からなるものであってもよい。)ことが好ましく、特に金からなることが好ましい。 誘電体部材としてガラス製のもの用いる場合には、ガラスと金属薄膜とをより強固に接着するために、たとえばクロム、ニッケルクロム合金またはチタンからなる接着用薄膜を介在させ、ガラス製の誘電体部材/接着用薄膜/金属薄膜の順に積層することが好ましい。 金属薄膜および接着用薄膜を形成する方法としては、たとえば、スパッタリング法、蒸着法(抵抗加熱蒸着法、電子線蒸着法等)、電解メッキ、無電解メッキ法などが挙げられるが、薄膜形成条件の調整が容易なことから、スパッタリング法または蒸着法が好ましい。 金属薄膜および接着用薄膜の厚さは、金属薄膜の材料に応じて、表面プラズモンが発生し易いように調整することが適切である。一般的には、金属薄膜の厚さは5〜500nmが好ましく、接着用薄膜の厚さは1〜20nmが好ましい。電場増強効果の観点からは、金属薄膜の厚さは、金:20〜70nm、銀:20〜70nm、アルミニウム:10〜50nm、銅:20〜70nm、白金:20〜70nm、およびそれらの合金:10〜70nmがより好ましい。また、接着用薄膜の厚さは、たとえばクロムであれば1〜3nmがより好ましい。 (反応層) 反応層は、一般的に、リガンドと、当該リガンドを金属薄膜または必要に応じて設けられるスペーサ層に固定化するための分子(リンカー)とにより構成される。 上記リンカーは、リガンドをセンサー表面に固定化し、アナライトを捕捉してSPFSによる分析を適切に行うことができるものであれば、その態様は特に限定されるものではなく、1種類の分子からなるものでも、2種類以上の分子からなるもの(複合体)であってもよい。 たとえば、リンカーとしてSAM(Self-Assembled Monolayer:自己組織化単分子膜)を用いる態様が挙げられ、この態様では、金属薄膜等の表面に形成されたSAM−リガンド結合体が反応層をなす。 また、リンカーとしてSAMおよび高分子化合物を併用する態様も挙げられ、この態様では、金属薄膜等の表面に形成されたSAM−高分子化合物−リガンド結合体が反応層をなす。なお、このような高分子化合物を介してリガンドをセンサー表面に固定化する、換言すれば高分子化合物にリガンドを担持させる態様において、高分子化合物からなる層を「固相化層」と称する場合もある。このような態様は、固相化層中にリガンドを三次元的に配置することで、SAMの上層にリガンドを二次元的(平面的)に配置する態様に比べ、センサー表面に高密度でリガンドを固定化することができることから、より好ましい態様といえる。 ・SAM SAMは、分子の一方の末端に金属薄膜(または必要に応じて設けられるスペーサ層)と結合可能な官能基(シラノール基、チオール基等)を、もう一方の末端に固定化する分子と結合可能な反応性官能基(アミノ基、カルボキシル基、グリシジル基等)を有する化合物により形成することができる。このような化合物はSAM形成試薬として容易に入手することができる。たとえば、炭素原子数4〜20程度のカルボキシアルカンチオール(10−カルボキシ−1−デカンチオールなど)は、光学的な影響が少ない、つまり透明性が高く、屈折率が低く、膜厚が薄いSAMを形成することができるため好適である。 ・高分子化合物 必要に応じて用いられる固相化層は、反応層を構成する他の分子(典型的にはSAM)または反応層の下に形成された層(金属薄膜、スペーサ層等)と結合させるための官能基と、リガンドと結合させるための官能基とを有する高分子化合物とにより構成される。 また、SPFSで用いられる各種の溶液には通常水性溶媒が用いられることから、固相化層を構成する高分子化合物は、それとの親和性が高い、ヒドロキシル基やカルボキシル基などの親水性基に富んだ(これらの親水性基が上記所定の官能基として機能してもよい)親水性高分子であることが好ましい。上記親水性基は水素結合により水分子を包接するため、非特異的吸着が起こりにくいという利点も有する。一方、そのような親水性基が少ない(疎水性基が多い)、全体的に疎水的な高分子は、センサー表面に局在しやすいため反応効率が低下したり、疎水性相互作用により非特異的吸着が起こりやすくなったりするおそれがある。 固相化層を構成する高分子化合物としては、たとえば、グルコースもしくはその誘導体(たとえばカルボキシメチル化グルコース)、ビニルエステル、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、オレフィン、スチレン、クロトン酸エステル、イタコン酸ジエステル、マレイン酸ジエステル、フマル酸ジエステル、アリル化合物、ビニルエーテル、ビニルケトンなどの単量体から誘導される単位を含む、単独重合体または共重合体(ランダム、ブロック、グラフト)を用いることができる。 たとえば、デキストランやセルロースに(これらのグルコース単位中の水酸基を介して)カルボキシメチル基が導入されたカルボキシメチルデキストランやカルボキシメチルセルロース、あるいは元来グルコース単位中にカルボキシル基を有しているアルギン酸などの多糖類は、上記所定の官能基を有するとともに、分岐構造が少なく冷水への溶解度が高いため、固相化層を構成する高分子化合物として好適である。また、ポリアスパラギン酸、ポリグルタミン酸、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸などの高分子化合物も、固相化層を構成するために用いることが可能である。 固相化層の湿潤状態における厚さは、リガンドに捕捉されたアナライトを標識する蛍光体が増強されたエバネッセント波で効率的に励起され、かつ金属薄膜による消光が起きないようにすることなどを考慮すると、3〜80nm程度が好ましい。したがって、高分子化合物としてはそのような厚さを生み出せる分子量を有するものが好ましい。たとえばカルボキシメチルデキストランであれば、分子量が約10〜100万の範囲にあるものが好ましい。 高分子化合物に結合させる(すなわち固相化層に担持される)リガンドの密度は、用いる高分子化合物およびリガンドの性状(反応に関係する一分子中の官能基の数等)や、高分子化合物とリガンドとの反応条件(添加量、pH、WSCの濃度等)によって調整することができる。 ・固相化リガンド 本発明におけるリガンドは、アナライトである試料中のトロポニン(特に血液検体中のcTn)と特異的に結合し得る物質、すなわち抗トロポニン抗体である。なお、本発明における「抗体」には、完全な免疫グロブリン(狭義の抗体)だけでなく、Fab、Fab’2、CDR、ヒト化抗体、多機能抗体、単鎖抗体(ScFv)等、本技術分野において公知の抗体断片または抗体誘導体が含まれる。 本発明では、抗トロポニン抗体を、アナライトをセンサー表面に捕捉するためにセンサー表面に固定されたリガンド(すなわち「固相化リガンド」、サンドイッチ型イムノアッセイの一次抗体)として用いる。 一方、本発明では、センサー表面に捕捉されたアナライトを蛍光標識化するための、蛍光体と複合体化したリガンド(すなわちを「蛍光標識化リガンド」、サンドイッチ型イムノアッセイの二次抗体)としても、抗トロポニン抗体を用いる。 抗トロポニン抗体としては、ポリクローナル抗体を用いることも可能であるが、心筋トロポニンに対する結合力に優れた固相化リガンドおよび蛍光標識化リガンドの組み合わせを構築できることから、モノクローナル抗体を用いることが好適である。心筋トロポニンに対するモノクローナル抗体は、心筋トロポニンの様々な部位をエピトープとするものが公知である。たとえば、トロポニンIに対するモノクローナル抗体としては、図1に示すようなものが公知であり、容易に入手することができる。同様に、トロポニンTに対する各種のモノクローナル抗体も公知であり、容易に入手することができる。 本発明では、固相化リガンドとして1種または2種以上の抗トロポニン抗体を用いることができ、また蛍光標識化リガンドとしても1種または2種以上の抗トロポニン抗体を用いることができる。ただし、固相化リガンドと蛍光標識化リガンドがアナライトの同一のエピトープに対して競合的に結合することを避けるため、記固相化された抗トロポニン抗体は1種または2種以上の抗トロポニンモノクローナル抗体であり、前記標識化された抗トロポニン抗体は、前記固相化された抗トロポニン抗体としての1種または2種以上の抗トロポニンモノクローナル抗体とは異なる、1種または2種以上の抗トロポニンモノクローナル抗体であることが好ましい。 固相化リガンド、蛍光標識化リガンドそれぞれに用いる抗トロポニン抗体の組み合わせによって、SPFSによる心筋トロポニンの検出(定量)感度が相違する場合があるので、所望の感度を達成できる抗トロポニン抗体の組み合わせを選択して用いることが適切である。たとえば、検出(定量)限界濃度が(0.1pg/mL以上)1pg/mL未満以下と低い、高感度の抗トロポニン抗体の組み合わせを用いることが望ましい。 ・反応層の形成方法 反応層は、反応層の下に形成されている層(金属薄膜、スペーサ層等)に、反応層を構成するSAM、固相化層を構成する高分子化合物、リガンド等を、公知の手法を用いて順次結合させていくことにより形成することができる。 金属薄膜等の上層にSAMを形成するためには、一般的に、SAM構成分子の溶液を金属薄膜等に接触させ、当該分子の一方の末端の官能基(たとえばチオール基)と金属薄膜等(たとえば金)とを反応させるようにする。 続いて、SAMの上層にリガンドを固定化するためには、一般的に、リガンドの溶液をSAMに接触させ、当該リガンドが有する官能基と前記SAM構成分子のもう一方の末端の官能基とを反応させるようにする。たとえば、アミノ基を有するリガンド(本発明においては抗トロポニン抗体)と、カルボキシル基を有するSAM構成分子とは、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDC)などの水溶性カルボジイミド(WSC)および必要に応じてカルボキシル基を活性化(エステル化)するためのN−ヒドロキシコハク酸イミド(NHS)を添加した前記リガンドの溶液をSAMと接触させることにより、アミノ基とカルボキシル基との反応を介して結合させることができる。 一方、SAMの上層に直接リガンドを固定化するのではなく、高分子化合物を結合させて固相化層を形成する(その後リガンドを当該固相化層に担持させる)ためには、一般的に、高分子化合物の溶液をSAMに接触させ、当該高分子化合物が有する官能基と前記SAM構成分子のもう一方の末端の官能基とを反応させるようにする。たとえば、高分子化合物としてカルボキシメチルデキストランを用いる場合、カルボキシメチルデキストランが有するアルデヒド基(還元性末端)とSAMが有するアミノ基とを反応させてシッフ塩基を形成させることにより、これらを結合させることができる。反応条件を調整することにより、SAM等に連結する高分子化合物の数を増減させることも可能である。 あるいは、金属薄膜等に吸着しうる官能基を有する高分子化合物(たとえばチオセミカルバジドで修飾された多糖類)を用いることにより、SAMを介することなく、金属薄膜等に直接高分子化合物を結合させ、これにリガンドを担持させることも可能である。 高分子化合物とリガンドとは、アミンカップリング法、チオールカップリング法、間接的捕捉法(キャプチャー法)等、公知の手法に従って結合させることができる。たとえば、アミンカップリング法を用いる場合は、アミノ基を有するリガンド(本発明においては抗トロポニン抗体)と、カルボキシル基を有する高分子化合物(固相化層)とは、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDC)などの水溶性カルボジイミド(WSC)および必要に応じてカルボキシル基を活性化(エステル化)するためのN−ヒドロキシコハク酸イミド(NHS)を添加した前記リガンドの溶液を高分子化合物と接触させることにより、アミノ基とカルボキシル基との反応を介して結合させることができる。反応条件を調整することにより、直鎖状高分子に結合するリガンドの数を増減させることも可能である。 リガンドを固定化した後、アナライトの非特異的吸着を防止するため、センサー表面は(流路またはウェルの側壁・天板を含めて)牛血清アルブミン(BSA)、カゼイン等によりブロッキング処理をしておくことが望ましい。 (スペーサ層) 必要に応じて設けられるスペーサ層は、誘電体により形成することができる。スペーサ層用の誘電体としては、光学的に透明な各種無機物や、天然または合成ポリマーを用いることができる。なかでも、化学的安定性、製造安定性および光学的透明性に優れていることから、二酸化ケイ素(SiO2)または二酸化チタン(TiO2)が好ましい。 スペーサ層の厚さは、通常10nm〜1mmであり、共鳴角安定性の観点からは、好ましくは30nm以下、より好ましくは10〜20nmである。一方、電場増強効果の観点からは、好ましくは200nm〜1mmであり、さらに電場増強効果の安定性から、400nm〜1,600nmがより好ましい。 このようなスペーサ層は、スパッタリング法、電子線蒸着法、熱蒸着法、ポリシラザン等の材料を用いた化学反応を用いた方法、またはスピンコータによる塗布などによって形成することができる。 − SPFS用測定装置 − 本発明の免疫学的測定法は、一般的なSPFS用測定装置を使用して実施することができる。SPFS用測定装置は、基本的に、SFPFS用測定部材が着脱可能となっており、使用する蛍光体に応じた適切な波長の励起光(好適にはレーザー光)を照射するための光源、励起光をセンサーチップの金属薄膜の裏面に所定の角度で入射させるためのプリズム(透明支持体が平面基板状のセンサーチップを使用する場合)、金属薄膜で反射した光を受光しその強度を測定する受光器、蛍光体から発せられる蛍光を集光するためのレンズおよびその蛍光の強度を測定するための検出器、励起光および蛍光から所定の波長を有する光のみを透過させそれ以外の光をカットするための各種のフィルタなどを備える。より具体的な態様は、たとえば特開2010−145272号公報(特許文献3)など、各種の文献を参照することができる。 − 免疫学的測定法 − 本発明の免疫学的測定法は、試料中のトロポニン(特に血液検体中のcTn)を対象として、その濃度の定量ないしその存在の検出を行うことができる方法であり、下記工程1および2を行うことを含む: (工程1)固相化された抗トロポニン抗体、トロポニン、および蛍光標識化された抗トロポニン抗体を含むサンドイッチ型免疫複合体を形成する工程、および (工程2)形成されたサンドイッチ型免疫複合体に含まれる蛍光体から発せられる蛍光強度をSPFS(表面プラズモン励起増強蛍光分光法)により測定する工程。 工程1として示したサンドイッチ型免疫複合体を形成する工程は、工程2に移る前にサンドイッチ型免疫複合体を形成することができれば、その態様は特に限定されるものではないが、たとえば下記工程1aおよび1bを含む態様が一般的である: (工程1a)前記固相化された抗トロポニン抗体と試料中のトロポニンとを反応させて複合体を形成する工程、および (工程1b)形成された免疫複合体と前記蛍光標識化された抗トロポニン抗体とを反応させて前記サンドイッチ型免疫複合体を形成する工程。 なお、必要に応じて、工程1aおよび工程1bの間、または工程1(工程1b)と工程2の間に、流路またはウェルを洗浄液(たとえば界面活性剤溶液)を用いて洗浄するための洗浄工程を設けてもよい。 一方、工程2は、一般的なSPFSと同様の態様で、金属薄膜に励起光を照射し、金属薄膜で起きる表面プラズモン共鳴によって増強されたエバネッセント波を発生させ、それによってサンドイッチ型免疫複合体に含まれる(蛍光標識化リガンドが有していた)蛍光体から発せられる蛍光の強度(「シグナル」に相当する。)を測定すればよい。また、工程2以前に、または測定領域とは別の領域において、サンドイッチ型免疫複合体が形成されていない状態で工程2と同様に金属薄膜に励起光を照射して、発生する蛍光の強度(「ノイズ」に相当する。)を測定し、前記シグナルの値を当該ノイズの値で補正する(引くまたは除する)ようにすることが好適である。 なお、工程2において蛍光体から発せられる蛍光強度を測定する際には、通常、アナライトも蛍光標識化抗体も含まない水性溶媒(たとえばリン酸緩衝液)で流路ないしウェルを満たした状態にするが、水性溶媒以外の溶媒または空気で満たした状態とすることも可能である。 上記のようにして求められた(好ましくはノイズを用いて補正された)シグナルと、濃度が既知の試料を用いて別途作製された検量線とに基づき、分析された試料中のアナライトの濃度を定量することができる。 このようにして測定される試料中のトロポニン、特に血液検体中のcTn(cTnI、cTnT等)の濃度は、そのcTnがバイオマーカーとして機能する各種の疾患または症状の診断を行う際の参考データとして用いることができる。 ・アナライト、試料(血液検体等) 本発明におけるアナライト(SPFSにより定量ないし検出すべき物質)は、試料中に含まれるトロポニン、特に血液検体中に含まれ心筋梗塞等のバイオマーカーとして利用することのできるcTnである。 トロポニンには、トロポニンI、トロポニンTおよびトロポニンCがサブユニットとして含まれるが、本発明の免疫学的測定法の用途に応じて、典型的には血液検体中のcTnの心筋梗塞等のバイオマーカーとしての用途に応じて、トロポニンI(cTnI)またはトロポニンT(cTnT)のいずれをアナライトとすることが好適である。 本発明では、SPFS分析装置に投入し、センサーチップに設けられた反応層と接触させるための試料として、心筋トロポニンを含有する可能性のある血液検体を分析に供する。血液検体としては、各種のバイオマーカーやその他の生体関連物質を分析する場合と同様のものを用いることができ、必要に応じて抗凝固処理した全血でもよいし、全血を凝固させて沈殿物(血餅)を除去して得られる血清でもよいし、必要に応じてこれらを遠心分離、希釈、試薬との混合等の処理をしたものでもよい(本発明ではそれらすべてを「血液検体」と総称する。)。 なお、試験的な測定や検量線作成用の測定などのために、上記のような血液検体の代わりに、あらかじめ購入等により用意した心筋トロポニンをリン酸緩衝液等に溶解して調製した心筋トロポニン溶液を本発明における試料として用いてもよい。すなわち、本発明の免疫学的測定法は、血液検体中の心筋トロポニンと同様に、上記のような血液検体以外の試料中の心筋トロポニンを対象としてもよい。 ・蛍光標識化リガンド 本発明では、センサー表面に捕捉されたアナライトを蛍光標識化するための蛍光標識化リガンドとして、蛍光体と、抗トロポニン抗体との複合体を用いる。前述したように、固相化リガンド、蛍光標識化リガンドそれぞれに用いる抗トロポニン抗体の組み合わせによって、SPFSによる心筋トロポニンの検出感度が異なる場合があるので、固相化リガンドとして用いる抗トロポニン抗体に応じて、好適な抗トロポニン抗体を蛍光標識化リガンドの作製のために用いるようにする。 蛍光標識化リガンドは、一般的な免疫測定法でも用いられている蛍光体とリガンドとの複合体(コンジュゲート)と同様にして作製することができ、その態様は特に限定されるものではない。たとえば、市販の蛍光体のキット(たとえばAlexa Fluor タンパク質標識キット、インビトロゲン社)を用いて、添付のプロトコールに従い、蛍光体に導入されている官能基と抗トロポニン抗体が有する官能基とを所定の試薬の存在下に反応させることにより、蛍光体−抗トロポニン抗体複合体を作製することができる。蛍光体とリガンドとを結合させるためには、様々な官能基の組み合わせにおける反応を用いることができるほか、ビオチン化した蛍光体とアビジン化した抗トロポニン抗体とをビオチン−アビジン結合させる手法を用いることも可能である。 ・蛍光体 本発明では、一般的なSPFSや従来の蛍光測定法で用いられている、公知の各種の蛍光体を用いることができる。なお、「蛍光体」は、所定の励起光を照射する、または電界効果を利用して励起することによって蛍光を発光する物質の総称であり、「蛍光」には、狭義の蛍光のみならず、燐光やその他の発光も含まれる。 SPFSに用いられる蛍光体としては蛍光色素が代表的であるが、半導体ナノ粒子など、公知のその他の蛍光体であってもよい。 蛍光色素の具体例としては、フルオレセイン・ファミリーの蛍光色素(Integrated DNA Technologies社)、ポリハロフルオレセイン・ファミリーの蛍光色素(アプライドバイオシステムズジャパン(株))、ヘキサクロロフルオレセイン・ファミリーの蛍光色素(アプライドバイオシステムズジャパン(株))、クマリン・ファミリーの蛍光色素(インビトロジェン(株))、ローダミン・ファミリーの蛍光色素(GEヘルスケア バイオサイエンス(株))、シアニン・ファミリーの蛍光色素、インドカルボシアニン・ファミリーの蛍光色素、オキサジン・ファミリーの蛍光色素、チアジン・ファミリーの蛍光色素、スクアライン・ファミリーの蛍光色素、キレート化ランタニド・ファミリーの蛍光色素、BODIPY(登録商標)・ファミリーの蛍光色素(インビトロジェン(株))、ナフタレンスルホン酸・ファミリーの蛍光色素、ピレン・ファミリーの蛍光色素、トリフェニルメタン・ファミリーの蛍光色素、Alexa Fluor(登録商標)色素シリーズ(インビトロジェン(株))などの有機蛍光色素が挙げられる。 また、Eu、Tb等の希土類錯体系の蛍光色素(たとえばATBTA−Eu3+)、青色蛍光タンパク質(BFP)、シアン蛍光タンパク質(CFP)、緑色蛍光タンパク質(GFP)、黄色蛍光タンパク質(YFP)、赤色蛍光タンパク質(DsRed)またはAllophycocyanin(APC;LyoFlogen(登録商標))などに代表される蛍光タンパク質、ラテックスやシリカなどの蛍光微粒子なども、蛍光色素として挙げられる。 なお、血液検体に由来する試料を分析に供する場合は、血液中の血球成分由来の鉄による吸光の影響を最小限に抑えるため、Cy5やAlexa Fluor 647など、近赤外領域に最大蛍光波長を有する蛍光色素を用いることが望ましい。また、センサーチップの金属薄膜に含まれる金属による吸光の影響も考慮することが好ましい。たとえば、金属薄膜に金が用いられている場合には、最大蛍光波長が600nm以上の蛍光色素が好ましく、金属薄膜に銀が用いられている場合には、最大蛍光波長が400nm以上の蛍光色素が好ましい。 [実施例1−1]581(固相)/C5(標識) (1)センサーチップの作製 厚さ1mmのガラス製の透明支持体「S−LAL 10」((株)オハラ、屈折率(nd):1.72)をプラズマ洗浄した後、該支持体の片面にクロム薄膜をスパッタリング法により形成し、さらにその表面に金薄膜をスパッタリング法により形成した。クロム薄膜の厚さは1〜3nm以下、金薄膜の厚さは42〜47nmであった。 上記工程により得られた金属薄膜を備えた透明支持体を、1mMに調整した11−アミノ−1−ウンデカンチオールのエタノール溶液10mLに24時間浸漬し、金薄膜の表面にSAMを形成した。この透明支持体をエタノール溶液から取り出し、エタノールおよびイソプロパノールそれぞれで洗浄した後、エアガンを用いて乾燥させた。 続いて、上記工程により得られたSAMを備えた透明支持体を、分子量50万〜100万のカルボキシメチルデキストラン(CMD)を1mg/mLと、N−ヒドロキシコハク酸イミド(NHS)を0.5mMと、水溶性カルボジイミド(WSC)として1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDC)を1mMとを含む、pH7.4のMES緩衝生理食塩水(MES)(イオン強度:10mM)に1時間浸漬して、SAMの表面に固相化層としてCMDを固定化し、その後1MのNaOH水溶液に30分間浸漬することで未反応のコハク酸エステルを加水分解した。CMDからなる固相化層の平均膜厚は70nmであり、密度は1.9ng/mm2であった。 続いて、上記工程により得られた固相化層を備えた透明支持体を、NHSを50mMと、WSCを100mMとを含むMESに1時間浸漬させた後に、抗ヒトトロポニンI IgG1モノクローナル抗体「581」溶液(Hytest社、2.5μg/mL)に30分間浸漬することで、CMDに当該モノクローナル抗体を固定化した。 さらに、1質量%の牛血清アルブミン(BSA)および1Mのアミノエタノールを含むPBSを30分間循環送液することで、非特異的吸着防止処理を行なった。 上記のようにして得られたセンサーチップに、長さ10mm、幅5mmの穴を有する厚さ0.5mmのPDMS製シートを載せ、さらにこのPDMS製シートの周囲にシリコーンゴム製スペーサを配置した。これらのPDMS製シートおよびシリコーンゴム製スペーサの上に、当該PDMS製シートの穴に対応する位置に送液導入用の穴および送液排出用の穴が形成されているPMMA製天板を載せた。これらのセンサーチップ、PDMS製シートおよびシリコーンゴム製スペーサ、ならびにPMMA製天板の積層体を外周部で圧着し、ビスで固定して、SPFS用測定部材を作製した。 (2)蛍光標識化リガンドの作製 抗ヒトトロポニンIIgG1モノクローナル抗体「C5」溶液(Hytest社、2.5μg/mL)と、AlexaFluor647標識キット(Invitrogen社)とを用いて、当該キットの所定の手順に従い、AlexaFluor647標識化C5を作製した。その後、分子量カットフィルタ(日本ミリポア(株))を用いて未反応物を除去し、AlexaFluor647標識化C5を精製し、下記アッセイの実施まで4℃で保存した。 (3)アッセイの実施 前記工程(1)で作製した測定部材の流路に、ヒトトロポニンIを100pg/mL(=0.1ng/mL)含むPBS溶液0.1mLを送液し、25分間循環させた。 続いて、Tween20を0.05質量%含むトリス緩衝生理食塩水(TBS)を送液し、10分間循環させて流路を洗浄した後、前記工程(2)で作製したAlexaFluor647標識化C5を2μg/mL含むPBS溶液を送液し、5分間循環させた。 再度、Tween20を0.05質量%含むトリス緩衝生理食塩水(TBS)を送液し、10分間循環させて流路を洗浄した後、PBSバッファー(pH7.4)で流路を満たした状態にしてから、測定領域の金属薄膜の裏面からレーザ光(640nm、40μW)を照射し、測定領域の上部に設置された光電子増倍管(PMT)で蛍光量を測定した。この測定値を、トロポニンI濃度が100pg/mLにおける「シグナル」(S)とした。 一方、トロポニンIを100pg/mL含むPBS溶液の代わりにトロポニンIを全く含まない(0pg/mL)PBS溶液を送液し、それ以外は上記と同様の手順により、蛍光量を測定した。この測定値を「ノイズ」(N)とした。 また、送液するトロポニンIのPBS溶液の濃度を10000pg/mL、3160pg/mL、1000pg/mL、316pg/mL、31.6pg/mL、10pg/mL、3.16pg/mL、1pg/mL、0.316pg/mL、0.1pg/mL、0.031pg/mLに変化させ、それ以外は上記と同様の手順により蛍光量を測定し、それらの測定値を各濃度における「シグナル」(S)とした。 縦軸を「シグナル」−「ノイズ」(S−N)の値(単位:a.u.)、横軸をトロポニンIの濃度(単位:pg/mL)として、上記各濃度の結果をプロットした(図2、菱形)。このプロットに基づき、上記測定系によるトロポニンIの定量限界は0.2pg/mLであると判定した。 [実施例1−2]8E10(固相)/M46(標識) 前記センサーチップの作製工程(1)においてCMDに固定化したトロポニンI IgG1モノクローナル抗体として「8E10」を用い、また前記蛍光標識化リガンドの作製工程(2)におけるトロポニンI IgG1モノクローナル抗体として「M46」を用い、得られたAlexaFluor647標識化M46を前記アッセイの実施工程(3)で用いるように変更した以外は、実施例1−1と同様の操作を行い、「シグナル」および「ノイズ」を測定した。各濃度の結果をプロットし(図2、正方形)、上記測定系によるトロポニンIの定量限界は2pg/mLであると判定した。 [実施例1−3]84(固相)/8E10(標識) 前記センサーチップの作製工程(1)においてCMDに固定化したトロポニンI IgG1モノクローナル抗体として「84」を用い、また前記蛍光標識化リガンドの作製工程(2)におけるトロポニンI IgG1モノクローナル抗体として「8E10」を用い、得られたAlexaFluor647標識化8E10を前記アッセイの実施工程(3)で用いるように変更した以外は、実施例1−1と同様の操作を行い、「シグナル」および「ノイズ」を測定した。各濃度の結果をプロットし(図2、三角形)、上記測定系によるトロポニンIの定量限界は50pg/mLであると判定した。 上記以外にも、固定化したトロポニンI IgG1モノクローナル抗体(固相抗体)および蛍光標識化リガンドに用いたトロポニンI IgG1モノクローナル抗体(標識抗体)の様々な組み合わせについて、実施例1−1と同様の操作により検出限界ないし定量限界を求めた。結果(実施例1−1〜1−3を含む。)を下記表に示す。 [実施例1−4]581+8E10(固相)/C5+M18(標識) 前記センサーチップの作製工程(1)においてCMDに固定化したトロポニンI IgG1モノクローナル抗体として「581」および「8E10」を併用し、また前記蛍光標識化リガンドの作製工程(2)におけるトロポニンI IgG1モノクローナル抗体として「C5」および「M18」を併用し、得られたAlexaFluor647標識化C5およびAlexaFluor647標識化M18を前記アッセイの実施工程(3)で併用するように変更した以外は、実施例1−1と同様の操作を行い、「シグナル」および「ノイズ」を測定した。各濃度の結果をプロットしたところ、実施例1−1と同様のシグモイド曲線が得られ、上記測定系によるトロポニンIの定量限界は0.4pg/mLであると判定した。 [実施例2] 前記アッセイの実施工程(3)において、トロポニンIを100pg/mL含むPBS溶液0.1mLの代わりに、トロポニンIを100pg/mL含むヒト血清0.1mLを用いるよう変更した以外は、実施例1−1と同様の操作を行い、「シグナル」および「ノイズ」を測定した。各濃度の結果をプロットしたところ、実施例1−1と同様のシグモイド曲線が得られ、同様の定量限界を有すると判定した。 [実施例3] 前記センサーチップの作製工程(1)においてCMDに固定化した抗体としてトロポニンT IgG1モノクローナル抗体「TT−502」(日本バイオテスト研究所製)を用い、また前記蛍光標識化リガンドの作製工程(2)における抗体としてトロポニンT IgG1モノクローナル抗体「ab45932」(Abcam社製)を用い、得られたAlexaFluor647標識化ab45932を前記アッセイの実施工程(3)で用いるように変更し、さらに、前記アッセイの実施工程(3)において、トロポニンIを100pg/mL含むPBS溶液0.1mLの代わりに、トロポニンTを100pg/mL含むPBS溶液0.1mLを用いるよう変更し、それ以外は、実施例1−1と同様の操作を行い、「シグナル」および「ノイズ」を測定した。各濃度の結果をプロットしたところ、実施例1−1と同様のシグモイド曲線が得られ、同様の定量限界を有すると判定した。 試料中のトロポニンを対象とする免疫学的測定法であって、SPFS用センサーチップの測定領域に固相化された抗トロポニン抗体、トロポニン、および蛍光標識化された抗トロポニン抗体を含むサンドイッチ型免疫複合体を形成する工程、および形成されたサンドイッチ型免疫複合体に含まれる蛍光体から発せられる蛍光強度をSPFS(表面プラズモン励起増強蛍光分光法)により測定する工程を含むことを特徴とする免疫学的測定法。 前記サンドイッチ型免疫複合体を形成する工程が、前記固相化された抗トロポニン抗体と試料中のトロポニンとを反応させて免疫複合体を形成する工程、および形成された免疫複合体と前記蛍光標識化された抗トロポニン抗体とを反応させて前記サンドイッチ型免疫複合体を形成する工程を含む、請求項1に記載の免疫学的測定法。 前記固相化された抗cTn抗体が1種または2種以上の抗トロポニンモノクローナル抗体であり、前記蛍光標識化された抗トロポニン抗体が、前記固相化された抗トロポニン抗体としての1種または2種以上の抗トロポニンモノクローナル抗体とは異なる、1種または2種以上の抗トロポニンモノクローナル抗体である、請求項1または2に記載の免疫学的測定法。 請求項1〜3のいずれかに記載の免疫学的測定法に用いられる、固相化された抗トロポニン抗体、トロポニン、および蛍光標識化された抗トロポニン抗体を含むサンドイッチ型免疫複合体が測定領域に形成された、SPFS用センサーチップ。 【課題】試料中のトロポニン(血液検体中のcTnなど)を高感度で定量ないし検出することのできる手段を提供する。【解決手段】試料中のトロポニンを対象とする免疫学的測定法であって、SPFS用センサーチップの測定領域に固相化された抗トロポニン抗体、トロポニン、および蛍光標識化された抗トロポニン抗体を含むサンドイッチ型免疫複合体を形成する工程、および形成されたサンドイッチ型免疫複合体に含まれる蛍光体から発せられる蛍光強度をSPFS(表面プラズモン励起増強蛍光分光法)により測定する工程を含むことを特徴とする免疫学的測定法。【選択図】なし


ページのトップへ戻る

生命科学データベース横断検索へ戻る