タイトル: | 公開特許公報(A)_タンパク質の可溶化方法 |
出願番号: | 2012004317 |
年次: | 2013 |
IPC分類: | C07K 1/02 |
守口 毅 JP 2013142084 公開特許公報(A) 20130722 2012004317 20120112 タンパク質の可溶化方法 花王株式会社 000000918 特許業務法人アルガ特許事務所 110000084 高野 登志雄 100077562 中嶋 俊夫 100096736 村田 正樹 100117156 山本 博人 100111028 守口 毅 C07K 1/02 20060101AFI20130625BHJP JPC07K1/02 12 OL 13 4H045 4H045AA20 4H045CA40 4H045GA01 4H045HA30 本発明は、皮膚や毛髮についてプロテオミクス解析を行うための試料の可溶化方法に関する。 細胞内では、触媒酵素や、遺伝子の転写因子など多様なタンパク質が生命を維持するために働いている。細胞の種類によって発現しているタンパク質の種類や修飾の状態は様々であり、近年、細胞機能を理解するために、その細胞で発現しているタンパク質全て、すなわちプロテオームの解析が進められている。 プロテオーム解析には、二次元電気泳動法や多次元液体クロマトグラフィを利用したショットガン法(LC−MS/MS法等)が用いられている。二次元電気泳動法は、タンパク質を泳動ゲルに展開し、対象とするタンパク質に対応したスポットを切り出して、酵素消化後、質量分析を行うことによりその種類を網羅的に同定するものであり、ショットガン法では、タンパク質の混合物を酵素で限定分解し、得られたペプチド断片混合物を液体クロマトグラフで分離し、オンラインで質量分析を行うものである。 タンパク質はその大きさも様々であり、また複合体を形成している場合も多いことから、そのままの状態で解析することは困難であり、先ずタンパク質を可溶化する必要がある。従来、二次元電気泳動法による解析の際には、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)等の界面活性剤や、界面活性剤と尿素系試薬の併用によって、組織タンパク質の可溶化が行われてきた。また、最近では、膜タンパク質の可溶化にデオキシコール酸ナトリウム(SDC)が好適であること(非特許文献1)、ヒト脳タンパク質について二次元電気泳動を行う場合の可溶化には、両性界面活性剤であるASB−14/CHAPS混合系が良いこと(非特許文献2)が報告されている。また、動物細胞由来のタンパク質を可溶化する方法として、複数の界面活性剤を段階的に加えて不溶性タンパク質をミセル化した後に、高濃度の尿素一チオ尿素溶液を加える方法(特許文献1)等が報告されている。 しかしながら、ショットガン法においては、SDSを用いると多くの酵素が失活してしまうため、高濃度のSDSは使用できない(非特許文献3)。したがって、この場合の可溶化は、酵素消化に影響を与えない程度の、比較的弱い条件で行うことが求められ、従来より、iTRAQTM buffer(0.1%SDS含有)が使用されているのが現状であり、あらゆるタンパク質について使用できるとは言い難い。 また、非イオン性の界面活性剤であるTriton X−100はイオン性の界面活性剤よりも変性力が弱いので活性を保ったまま膜タンパク質を可溶化するなどの目的に用いられてきたが、一度加えると除去するのが非常に困難である(非特許文献3)。また、尿素を単独で用いた場合、界面活性剤を含んでいないため精製が容易であるが、界面活性剤と併用した場合と比較して検出されるタンパク質が顕著に少ないことが報告されている(非特許文献4)。斯様に、あらゆるタンパク質について適用できる可溶化方法が確立されているわけではない。 一方、皮膚の角化は、皮膚の表面の角層が過剰形成したり、脱落遅延によって厚くなる現象であり、角化により、皮膚表面は乾き、カサカサとなったり、硬くなる。近年、角化に伴って変動するタンパク質を網羅的に解析して角化関連分子データベースを作成し、新規な角化制御技術を構築する試みがなされている。この場合においても、自動化できスループット性の高いショットガンプロテオミクス解析のようなプロテオミクス解析を利用するのが便利である。 しかしながら、皮膚や毛髪のような、特有の不溶性タンパク質が存在する組織をサンプルとする場合、サンプルの可溶化が特に問題となる。特開2007−112732号公報T'Masuda et al.,Journal of Proteome Research,2008,7,731-740D'Martins et a1., BRIEFINGS IN FUNCTIONAL GENOMICS AND PROTEOMICS.2007,10,1-6できマス!プロテオミクス 質量分析によるタンパク質解析のコツ(中山書店), p6-7Matsuda et al. (2008) J Proteome Res., 7, 731-740. 本発明は、皮膚や毛髮等の不溶性タンパク質を含む試料についてプロテオミクス解析を行うための試料の可溶化方法等を提供することに関する。 本発明者等は、皮膚や毛髪由来の試料をプロテオミクス解析する場合、ショットガン法において通常用いられるiTRAQ buffer(0.1%SDS含有)ではタンパク質が十分に可溶化できず、デスモプラキン(DSP)等の重要な角化関連タンパク質が検出されないことを見出した。 そして、皮膚や毛髮由来の不溶性タンパク質を含む試料の可溶化法について検討した結果、アニオン性界面活性剤であるデオキシコール酸塩と両性界面活性剤である3−(ヒドロキプロピル)ジメチルアンモニオプロパンスルホネート(C7BzO)を組み合わせて用いることにより、不溶性のタンパク質を良好に可溶化でき、質量分析によって当該タンパク質が確実に検出・解析できることを見出した。 すなわち、本発明は、以下の1)〜12)に係るものである。 1)皮膚組織又は毛髪組織由来の試料についてプロテオミクス解析するためのサンプルの調製において、デオキシコール酸塩及び3−(ヒドロキプロピル)ジメチルアンモニオプロパンスルホネート(C7BzO)を用いて試料を処理する工程を含む、前記試料の可溶化方法。 2)少なくとも尿素又はチオ尿素を含むタンパク変性剤の存在下で試料を処理する上記1)の方法。 3)処理が、デオキシコール酸塩及び3−(ヒドロキプロピル)ジメチルアンモニオプロパンスルホネート(C7BzO)並びに少なくとも尿素を含むタンパク変性剤を含有する可溶化剤を試料に添加するものである、上記1)又は2)の方法。 4)可溶化剤中のデオキシコール酸塩の濃度が0.5〜5質量%、3−(ヒドロキシプロピル)ジメチルアンモニオプロパンスルホネート(C7BzO)の濃度が0.5〜5質量%である上記3)の方法。 5)可溶化剤中の尿素の濃度が1M〜8Mであるか又はチオ尿素の濃度が1M〜2Mである上記3)又は4)の方法。 6)デオキシコール酸塩が、デオキシコール酸ナトリウム(SDC)である上記1)〜5)の方法。 7)プロテオミクス解析が、ショットガンプロテオミクス解析である上記1)〜6)のの方法。 8)皮膚組織又は毛髪組織由来の試料についてプロテオミクス解析するためのサンプルの調製において用いられる試料の可溶化剤であって、デオキシコール酸塩及び3−(ヒドロキプロピル)ジメチルアンモニオプロパンスルホネート(C7BzO)並びに少なくとも尿素又はチオ尿素を含むタンパク変性剤を含有する前記可溶化剤。 9)皮膚組織又は毛髪組織由来の試料についてショットガンプロテオミクス解析するためのサンプルの調製方法であって、デオキシコール酸塩及び3−(ヒドロキプロピル)ジメチルアンモニオプロパンスルホネート(C7BzO)を用いた試料の可溶化工程、及び酵素消化工程を含むことを特徴とする前記サンプルの調製方法。 10)可溶化工程と酵素消化工程の間に、タンパク質の精製、化学的切断処理及び希釈をこの順序で行う上記9)の方法。 11)化学的切断処理が、2−ニトロ−5−チオ安息香酸、3−ブロモ−3−メチル−2−(2−ニトロフェニルチオ)−3H−インドール及び臭化シアンから選ばれる1種以上を用いて行う上記10)の方法。 12)希釈が、試料溶液中の尿素の濃度が2M以下となるように行われる、上記10)又は11)の方法。 本発明の可溶化方法によれば、角化関連タンパク質等の不溶性タンパク質を含む試料を効率よく可溶化できることから、皮膚組織や毛髪組織由来の試料についてプロテオーム解析が可能となる。ウエスタンブロット(WB)による角化関連分子の検出結果。DSP:デスモプラキン、TG1:トランスグルタミナーゼ1、Lor:ロリクリンLC−MS/MSによるDSG1の検出結果。A:iTRAQ lysis bufferを用いて試料の可溶化を行った場合、B:本発明の方法で試料の可溶化を行った場合を示している。横軸は溶出時間(min)、縦軸はイオン強度を示しており、3つのスペクトルのうち、上段は質量数m/z692.4、中段は質量数m/z820.4、そして、下段は質量数m/z877.4のプロダクトイオンをそれぞれ検出した結果を示している。溶出時間12〜13min付近に認められるピーク(灰色)がDSG1タンパク質に由来するペプチドフラグメントピークを示している。 本発明において、プロテオミクス解析とは、組織や細胞の蛋白質の全体(プロテオーム)を網羅的に解析することを意味する。 プロテオミクス解析を行うための手法としては、二次元電気泳動法、多次元液体クロマトグラフィを利用したショットガン法等が広く知られている。 二次元電気泳動法は、タンパク質を泳動ゲルに展開し、対象とするタンパク質に対応したスポットを切り出して、酵素消化後、質量分析を行うことによりその種類を網羅的に同定するものである。ショットガン法は、タンパク質の混合物を酵素で限定分解し、得られたペプチド断片混合物を液体クロマトグラフ(LC)で分離し、オンラインで質量分析(MS)を行うものであり、具体的には、LCとMSを直列に接続した装置を用いるLC−MS、LCにタンデム型質量分析計(MS/MS)を接続した装置を用いるLC−MS/MSがあり、LC−MS/MSでは、MS内での試料の破断分析が可能となる。 本発明の試料の可溶化方法は、斯かる何れの手法を用いる場合であっても適用できるが、タンパク質の混合物を酵素で限定分解した後、得られたペプチド断片混合物をLCとMSにより解析するショットガン法を採用する場合に特に有用である。(a)可溶化 皮膚や毛髪組織について、プロテオミクス解析を行う場合、組織をそのままの状態で解析することは困難であり、先ずタンパク質を可溶化する必要がある。ここで、可溶化とは、試料中のタンパク質をミセル化して、水に溶解できる状態にすることを意味するが、変性、還元、アルキル化等によりタンパク質の構造を変化させたり、タンパク質を他の構造体から解離させることにより溶解状態とすることも包含する。 本発明において用いられる試料の可溶化は、デオキシコール酸塩及び3−(ヒドロキプロピル)ジメチルアンモニオプロパンスルホネート(C7BzO)を用いて、試料を処理する工程を少なくとも含むものである。具体的には、デオキシコール酸塩及びC7BzOをTris−HCl等の緩衝液に溶解させた可溶化剤を試料に加える処理工程を少なくとも含むことが挙げられる。 ここで、「デオキシコール酸の塩」としては、デオキシコール酸のアルカリ金属塩(ナトリウム塩、カリウム塩)、アルカリ土類金属塩(カルシウム塩、バリウム塩等)、マグネシウム塩、アンモニウム塩やアミン塩等が挙げられるが、デオキシコール酸ナトリウム(「SDC」)が好ましい。 3−(ヒドロキプロピル)ジメチルアンモニオプロパンスルホネートは、スルホベタイン系の両性界面活性剤であり、「C7BzO」と表記される。 デオキシコール酸塩とC7BzOは、両者の質量比(デオキシコール酸塩/C7BzO)が、1/100〜100/1、更には1/20〜20/1となるように使用するのが好ましい。 また、デオキシコール酸塩及びC7BzOを含有する可溶化剤においては、デオキシコール酸塩の含有量は、0.1〜10質量%、好ましくは0.5〜5質量%、より好ましくは2〜5質量%であり、C7BzO含有量は、0.1〜10質量%、好ましくは0.5〜5質量%、より好ましくは2〜5質量%である。 デオキシコール酸塩及びC7BzOを組み合わせて用いた場合、ヒト皮膚組織のタンパク質可溶化量は、従来タンパク質の可溶化に使用されている、アニオン界面活性剤であるSC(コール酸ナトリウム)やSDCを単独で使用した場合、両性界面活性剤であるCHAPS(3−[(3−コラミドプロピル)ジメチルアンモニオ]−1−プロパンスルホネート)やC7BzOを単独で使用した場合、非イオン性界面活性剤であるNP−40(ポリオキシエチレン -9-オクチルフェニル エーテル)を単独で使用した場合、SCとC7BzO、SDCとCHAPS、C7BzOとNP−40を其々組み合わせて使用した場合に比べて有意に高い(実施例1)。また、デオキシコール酸塩と7BzOの併用は、他の界面活性剤では可溶化できないデスモプラキン(DSP)、トランスグルタミナーゼ1(TG1)、Isopeptideといった角化関連タンパク質を効率よく可溶化できる(実施例2)。 上記界面活性剤による可溶化処理は、通常、タンパク変性剤(例えば、尿素、チオ尿素又は両者の混合物等)の存在下に行われ、少なくとも尿素又はチオ尿素を含むタンパク変性剤の存在下に行われるのが好ましい。タンパク変性剤は、上記の界面活性剤と共に可溶化剤中に配合してもよく、また、界面活性剤とは別個に可溶化工程において、適時添加しても良い。可溶化剤中に少なとも尿素を含むタンパク変性剤を配合する場合、当該尿素の濃度は1M〜8M、好ましくは4M〜8Mとするのがよく、チオ尿素を含むタンパク変性剤を配合する場合、当該チオ尿素の濃度は0.5M〜3M、好ましくは1M〜2Mとするのがよい。 また、本発明の可溶化においては、更に還元剤(例えば、トリス(2−カルボキシエチル)ホスフィン(TCEP)、ジチオスレイトール(DTT)、トリブチルホスフィン(TBP)、ジチオエリスリトール(DTE)等)、アルキル化剤(例えば、メタンチオスルホン酸メチル(MMTS)、ヨードアセトアミド(IAA))等を使用する工程を含むことができる。 斯かる還元剤、アルキル化剤等は、上記の界面活性剤と共に可溶化剤中に配合してもよく、また、界面活性剤とは別個に可溶化工程において、適時添加しても良い。 本発明の試料の可溶化方法を用いて、ショットガンプロテオミクス解析のためのサンプルを調製する場合は、前記可溶化処理後に酵素消化が行われるが、酵素消化前に以下の(b)タンパク質の精製、(c)化学的切断処理及び(d)希釈を行うのが好ましい。(b)タンパク質の精製 タンパク質の精製は、可溶化されたタンパク質を界面活性剤から分離する(界面活性剤を除去)ための手段であり、当該目的を達成できるものであればその手法は特に限定さない。例えば限外濾過、ゲル濾過、アセトン沈殿、TCA沈殿等が挙げられ、限外濾過が好ましい。 斯かるタンパク質の精製工程は、タンパク質と界面活性剤の分離容易性の点から、次の(c)化学的切断処理工程の前に行うことが好ましい。(c)化学的切断処理 化学的切断は、化学的にタンパク質をフラグメント化するための手段であり、配列指向性であってもなくてもよい。化学的切断処理は、当該分野で公知の化学的切断剤を用いる任意の方法によって達成できる。当該化学的切断剤としては、例えば、2−ニトロ−5−チオ安息香酸(NTCB)、3−ブロモ−3−メチル−2−(2−ニトロフェニルチオ)−3H−インドール(BNPS Skatole)、臭化シアン等が挙げられる。 処理は、例えば、NTCB等の化学的切断剤を使用し、10〜120分間、好ましくは30〜60分間、約25℃〜50℃、pH9〜12下で行うことができる。 斯かる化学的切断処理は、可溶化されたタンパク質の凝集・析出防止の点から、次の(d)希釈工程の前に行われる。(d)希釈 希釈は、主として、可溶化処理において用いたタンパク変性剤(尿素、チオ尿素等)の濃度を低下するための処理である。 希釈は、後に行われる酵素消化の酵素反応を阻害しない程度になるように行えばよい。例えば、試料溶液中のタンパク変性剤が尿素の場合には、その濃度が2M以下、好ましくは1M以下、例えば1.6M程度になるように希釈するのが好ましく、チオ尿素の場合には、その濃度が1M以下、好ましくは0.5M以下に希釈するのが好ましい。実際上は、例えば、3〜10倍希釈、好ましくは3〜5倍に希釈することが挙げられる。 希釈溶液としては、酵素消化反応を阻害しないものであればよく、例えば、pH7〜9の緩衝液、具体的にはトリス塩酸緩衝液、重炭酸アンモニウム緩衝液、炭酸ナトリウム等を用いることができる。 「酵素消化」は、プロテオミクス解析において、質量分析を行うに際して前処理として通常行われる方法を採用すればよい。「酵素消化」は、上述したとおり、二次元電気泳動法の場合、可溶化処理されたタンパク質を電気泳動にて分離した後行われ、ショットガン法の場合は、可溶化処理後、好ましくは上記タンパク質の精製、化学的切断処理、及び希釈処理をこの順序で行った後、行われる。 ここで、使用される酵素としては、例えば、トリプシン、キモトリプシン、エンドプロテイナーゼLys−C、ペプシン、トロンビン、パパイン、ブロメライン、サーモライシン、サブシリシン(subsilisin)等のプロテアーゼが挙げられる。 処理は、例えば、トリプシンを使用し、3〜16時間、好ましくは12〜16時間、約25℃〜40℃下で行うことができる。 また、酵素消化処理を行った後、適宜必要に応じて、脱塩・濃縮等により、ペプチドを精製することができる。 本発明の方法が適用される試料は、皮膚組織又は毛髪組織由来の試料である。皮膚組織及び毛髪組織は、不溶性タンパクを多く含有する。例えば、皮膚組織には、デスモプラキン(DSP)、トランスグルタミナーゼ1(TG1)、Isopeptide、ロリクリン(Lor)、ケラチン等、毛髪組織には、毛髪特異的ケラチン、DSP、トリコヒアリン(TCHH)等が含まれるが、本発明の方法によれば、斯かるタンパク質を良好に可溶化でき、皮膚組織又は毛髪組織に対する、プロテオミクス解析が可能となる。1.可溶化剤の調製 表1に示すように、界面活性剤としてSDC(0.5〜5%)及びC7BzO(0.5〜5%)及び尿素、チオ尿素を100mM TrisHCl(pH8.0)に混合し、可溶化剤(本発明品処方1〜17)を調製した(尿素濃度:7M、チオ尿素:2M)。 また、比較として、0.1% SDS及び1M Ureaを100mM TrisHCl(pH8.0)に溶解した1TRAQTM buffer(比較品処方1)及び、界面活性剤として、SDC及びC7BzOの代わりに表2に示す各種界面活性剤を用い、上記と同様にして比較可溶化剤(比較品処方2〜14)を調製した。実施例1 可溶化タンパク質の量的比較 タンパク質試料として、14日間培養して角層形成を誘導したヒト皮膚3D培養モデルEpi−model(J−TEC)を実験に用いた。 ショットガンプロテオミクス用可溶化バッファーであるiTRAQ lysis buffer(比較品処方1)、及び上記で調製した表1及び2に示す各種可溶化剤300μlを上記タンパク質試料に加え、氷上で超音波により、3分間撹拌した。その後、15000rpm,30minで遠心分離した上清に終濃度10mMとなるよう還元剤(TCEP:トリス(2−カルボキシエチル)ホスフィン)を添加し、37℃で1時間インキュベート後に終濃度55mMとなるようアルキル化剤(MMTS:メタンチオスルホン酸メチル)を添加し、タンパク質解析サンプルとした。 当該タンパク質解析サンプル中のタンパク質含量を、RC DC protein assayキット(BioRad)を用いて測定し、可溶化タンパク質量(mg/ml)とした。各試験はn=3で行った。結果を表1、表2に併せて示す。2.結果 表1及び表2により、本発明の可溶化剤を用いて可溶化処理を行ったサンプルは、比較可溶化剤を用いて処理されたサンプルより可溶化タンパク質量が多く、本発明の可溶化剤は、可溶化効率が高いことが示された。 また、前記特許文献1(特開2007−112732号公報)には、記載の方法と比較するため、2%CHAPS、2%NP−40、ジギトニン、5%SDC、Ureaを順々に加えて可溶化処理を行う段階法、すなわち、各溶液を加えた後30秒間超音波で撹拌し、更に次の溶液を加えて同様に攪拌処理という方法が記載されている。そこで、上記のタンパク質試料をこの方法により処理したサンプルを調製し、同様にして可溶化タンパク質量を測定した。 その結果、可溶化タンパク質量は7.15mg/mlであった。これより、SDCとC7BzOを組み合わせて用いる本発明の方法は、特許文献1の方法と比較しても、可溶化タンパク質量が多く、高い可溶化力を示すことが確認された。 また、表2に示した比較品において高い可溶化力を示したのは、比較処方4、5、8、9、14であった。このうち、処方8、9は非イオン性の界面活性剤を混合していること、および処方14はUrea単独であることから、前述のとおり、タンパク質可溶化後のLC-MSなどプロテオーム解析において不利な条件であると考えられる。実施例2 可溶化タンパク質の質的比較1.方法ヒト皮膚3D培養モデルEpi−model(J−TEC)(作成14day)をタンパク質試料として用いた。 実施例1において調製した、本発明品処方12(5%SDC/2%C7BzO)、比較品処方1(iTRAQ lysis buffer)、比較品処方3(5%SDC)、比較品処方6(2%C7BzO)、比較品処方9(2%Triton X−100)を用い、実施例1と同様にして、タンパク質試料を可溶化した。 Lane Maker Sample Buffer(Thermo Scientific)により、上記可溶化溶液を希釈し、100℃,2分間処理した後にミニプロティアン2セル(BioRad)、7.5%ready gelにより電気泳動を行った。尚、タンパク質は5ug/laneとなるように調整した。ウエスタンブロット(WB)による角化関連分子の検出を行った。タンパク質を転写したImmun−Biot PVDF membrabe(BioRad)のブロッキングは5wt%スキムミルク,1hr,室温で行い、一次抗体は3hr,室温にて行った。その後、PBS−tweenによりメンブレンを洗浄し、二次抗体を1hr,室温にて行った後、ECL IgG Horseradish Peroxidase Reagent(GE Healthcare)によりバンドを検出した。2.結果 図1に示すように、SDCとC7BzOを組み合わせる本発明品処方12の可溶化剤では、角化関連分子のデスモプラキン(DSP)、トランスグルタミナーゼ1(TG1)、Isopeptideの検出量が、比較品処方1、3、6、9と比較して多く、本発明品は可溶化タンパク質の質的にも優れており、皮膚・毛髪のプロテオーム解析に適していると考えられる。実施例3 LC−MS/MSによるDSG1の検出1.方法 デスモグレイン−1(DSG1)の発現が確認されているヒト皮膚3D培養モデル(作成14day)をiTRAQ lysis buffer(0.1%SDS、2M 尿素、5mM TCEP)及び(5%SDC、2%C7BzO、7M 尿素、2M チオ尿素、5mM TCEP)によりタンパク質を可溶化した。次に、可溶化溶液から限外濾過法により界面活性剤を除去し、8M尿素、2Mチオ尿素溶液に置換した。得られた可溶化溶液にNTCB100μMとなるように混合し、pH11下で37℃、1hrインキュベーション後、重炭酸アンモニウム緩衝液により5倍希釈した(尿素濃度:1.4M)。得られた試料溶液をトリプシン1/20質量%で加え、37℃、16h下でインキュベーションを行なった。その後、Monotip C18(ジーエルサイエンス)による脱塩・濃縮により、ペプチドを精製した。脱塩・濃縮方法はMonoTipをメタノール、Bバッファー(80%ACN、0.1%TFA)、Aバッファー(5%ACN、0.1%TFA)の順にチップに通しコンディショニングした。その後、サンプルをC18に吸着させ、Aバッファーにより洗浄を行い、最終的にBバッファーでペプチドを溶出させ質量分析計用サンプルとした。 四重極型質量分析器TSQ Vantage(Thermo Scientific)を使用して、全ペプチドピークからDSG1タンパク質由来ペプチドピーク(ペプチド配列:EQYGQYALAVR、質量数m/z:649.33)にターゲットを定め、3つのプレカーサーイオンでDSG1を検出する設定にした。結果を図2に示す。質量分析計の測定条件は以下の通りである。 LC:Acquity UPLC(Waters) カラム:Cadenza CD−C18,150×1mm,3um 移動相A:0.1%ギ酸、1%ACN 移動相B:0.1%ギ酸 in ACNをグラジェント溶出 注入量:200ng/5ul カラム温度:40℃ MS:TSQ Vantage スプレー電圧:4000V シースガス:40 AUXガス:5 スイープガス:0 ベーポライザー温度:100℃ イオントランスファーライン温度:225℃ コリジョンガス、圧力:Ar、1.7mTorr2.結果 iTRAQ lysis bufferを用いて試料の可溶化を行うサンプル調製では、DSG1タンパク質に由来するペプチドフラグメントピークが充分なピーク強度を持って検出されず、DSG1タンパク質の存在を確認することができなかった。一方、SDC及びC7BzOを併用して可溶化し、サンプルを調製する本発明の方法では、DSG1タンパク質に由来するペプチドフラグメントピークが充分なピーク強度を持って3本検出され、DSG1タンパク質の存在を確認することができた。よって、本発明の可溶化方法、ひいてはサンプル調製方法を用いることにより、皮膚組織について効果的なショットガンプロテオミクス解析を行うことができる。 皮膚組織又は毛髪組織由来の試料についてプロテオミクス解析するためのサンプルの調製において、デオキシコール酸塩及び3−(ヒドロキプロピル)ジメチルアンモニオプロパンスルホネート(C7BzO)を用いて試料を処理する工程を含む、前記試料の可溶化方法。 少なくとも尿素又はチオ尿素を含むタンパク変性剤の存在下で試料を処理する請求項1記載の方法。 処理が、デオキシコール酸塩及び3−(ヒドロキプロピル)ジメチルアンモニオプロパンスルホネート(C7BzO)並びに少なくとも尿素を含むタンパク変性剤を含有する可溶化剤を試料に添加するものである、請求項1又は2記載の方法。 可溶化剤中のデオキシコール酸塩の含有量が0.5〜5質量%、3−(ヒドロキプロピル)ジメチルアンモニオプロパンスルホネート(C7BzO)の含有量が0.5〜5質量%である請求項3記載の方法。 可溶化剤中の尿素の濃度が1M〜8Mであるか又はチオ尿素の濃度が1M〜2Mである請求項3又は4記載の方法。 デオキシコール酸塩が、デオキシコール酸ナトリウム(SDC)である請求項1〜5のいずれか1項記載の方法。 プロテオミクス解析が、ショットガンプロテオミクス解析である請求項1〜6のいずれか1項記載の方法。 皮膚組織又は毛髪組織由来の試料についてプロテオミクス解析するためのサンプルの調製において用いられる試料の可溶化剤であって、デオキシコール酸塩及び3−(ヒドロキプロピル)ジメチルアンモニオプロパンスルホネート(C7BzO)並びに少なくとも尿素又はチオ尿素を含むタンパク変性剤を含有する前記可溶化剤。 皮膚組織又は毛髪組織由来の試料についてショットガンプロテオミクス解析するためのサンプルの調製方法であって、デオキシコール酸塩及び3−(ヒドロキプロピル)ジメチルアンモニオプロパンスルホネート(C7BzO)を用いた試料の可溶化工程、及び酵素消化工程を含むことを特徴とする前記サンプルの調製方法。 可溶化工程と酵素消化工程の間に、タンパク質の精製、化学的切断処理及び希釈をこの順序で行う請求項9記載の方法。 化学的切断処理が、2−ニトロ−5−チオ安息香酸、3−ブロモ−3−メチル−2−(2−ニトロフェニルチオ)−3H−インドール及び臭化シアンから選ばれる1種以上を用いて行う請求項10記載の方法。 希釈が、試料溶液中の尿素の濃度が2M以下となるように行われる、請求項10又は11記載の方法。 【課題】皮膚や毛髮等の不溶性タンパク質を含む試料についてプロテオミクス解析を行うための試料の可溶化方法等の提供。 【解決手段】皮膚組織又は毛髪組織由来の試料についてプロテオミクス解析するためのサンプルの調製において、デオキシコール酸塩及び3−(ヒドロキプロピル)ジメチルアンモニオプロパンスルホネート(C7BzO)を用いて試料を処理する工程を含む、前記試料の可溶化方法。【選択図】なし