生命科学関連特許情報

タイトル:特許公報(B2)_メタボリックシンドローム改善効果を有する乳酸菌
出願番号:2011551729
年次:2012
IPC分類:C12N 1/20,A23L 1/30,A61P 43/00,A61K 35/74,A61P 3/04,A61P 3/06,A61P 3/10,C12R 1/25


特許情報キャッシュ

利光 孝之 池上 秀二 伊藤 裕之 JP 5076029 特許公報(B2) 20120831 2011551729 20110728 メタボリックシンドローム改善効果を有する乳酸菌 株式会社明治 000006138 葛和 清司 100102842 利光 孝之 池上 秀二 伊藤 裕之 JP 2010172256 20100730 20121121 C12N 1/20 20060101AFI20121101BHJP A23L 1/30 20060101ALI20121101BHJP A61P 43/00 20060101ALI20121101BHJP A61K 35/74 20060101ALI20121101BHJP A61P 3/04 20060101ALI20121101BHJP A61P 3/06 20060101ALI20121101BHJP A61P 3/10 20060101ALI20121101BHJP C12R 1/25 20060101ALN20121101BHJP JPC12N1/20 AA23L1/30 ZA61P43/00 107A61K35/74 AA61P3/04A61P3/06A61P3/10C12N1/20 AC12R1:25 C12N 1/00- 7/08 CA/BIOSIS/MEDLINE/WPIDS(STN) JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII) 特開2008−214253(JP,A) 日本農芸化学会大会講演要旨集,vol.2008, p.152, 2B07p18 (2008) Int.J.Food Microbiol., vol.132, pp.56-66 (2009) J.Appl.Microbiol., vol.102, pp.337-343 (2007) 9 IPOD FERM BP-11262 JP2011067239 20110728 WO2012014971 20120202 27 20111207 小金井 悟 本発明は、メタボリックシンドロームに対する改善効果を有する乳酸菌ならびに該乳酸菌を含む医薬組成物および食品組成物に関する。 近年、肥満や糖尿病を含めたメタボリックシンドロームの改善に向けて、種々のアプローチが模索されているが、その1つとしてアディポネクチン(adiponectin)が注目されている。アディポネクチンは、脂肪細胞特異的に発現しており、脂肪細胞からのアディポネクチンの分泌は、肥満者や糖尿病者において顕著に抑制されている(非特許文献1〜3)。脂肪細胞から分泌されたアディポネクチンは、筋肉細胞に働いてIRS−1、PI3−kinaseの活性化を介して糖輸送を亢進させ、脂肪酸輸送蛋白1型(FATP−1)の発現およびAMP−kinaseを介して脂肪酸の酸化および排出を高めることにより、インシュリン感受性を上昇させることがわかっている(非特許文献4)。また、アディポネクチンには脂肪組織の慢性炎症状態に対する抗炎症作用も認められており、TNFαの産生を抑制することによってもインシュリン抵抗性を改善することが知られている(非特許文献5)。したがって、肥満・糖尿病を含めたメタボリックシンドロームの改善には脂肪細胞からのアディポネクチンの分泌を増加させることが重要であると考えられており、近年、脂肪細胞の機能制御を標的とする研究が注目されており、食品因子の機能のターゲットともなってきている(非特許文献6)。 一方、サイトカインとメタボリックシンドロームとの関係についても研究されており、例えば、メタボリックシンドロームの動物モデルにおいて、脂肪組織でのIFNγの増加はメタボリックシンドロームを悪化させるが、IL−10の増加はメタボリックシンドロームを改善することが示唆されている(非特許文献7〜11)。また、アディポネクチンとIL−10との関係について、ヒト初代培養マクロファージ細胞にアディポネクチンを添加すると、IFNγ分泌量が減少し、IL−10分泌量が増加したとする知見が示されている(非特許文献12)。 アディポネクチンの産生に影響を与える食品由来成分や食品素材などについても研究されており、例えば、トマト抽出物由来のナリンゲニンカルコン(特許文献1)、ブドウ抽出物由来のプロアントシアニジン(特許文献2)、リンゴ抽出物由来ポリフェノール(特許文献3)などがアディポネクチン産生を増大させる傾向に影響を与えることが示唆されている。 さらに、乳酸菌のアディポネクチン産生への影響についても研究されており、例えば、LactobacillusgasseriやLactobacillus helveticusのある菌株が血中アディポネクチン濃度を増加促進または減少抑制することが報告されている(特許文献4および特許文献5)。しかしながら、これらの報告は、ある菌株がインビボ(in vivo)でのアディポネクチン産生に影響を与えたことを示しているに過ぎず、メタボリックシンドロームに対する効果について一面的な評価をしたに止まるものであった。特開2008−115163号公報特開2006−182706号公報特開2006−193502号公報特開2008−63289号公報特開2009−107956号公報Maeda,N. et al., "Diet-induced insulinresistance in mice lacking adiponectin/ACRP30", Nature Medicine8(7):pp.731-737,2002Kubota,N. et al., "Disruption ofadiponectin causes insulin resistance and neointimal formation", J BiolChem 277(29):pp.25863-25866,2002Yamauchi,T. et al., "The fat-derivedhormome adiponectin reverses insulin resistance associated with bothlipoatrophy and obesity", Nature Medicine 7(8):pp.941-946,2001Yamauchi,T. et al., "Adiponectinstimulates glucose utilization and fatty-acid oxidation by activatingAMP-activated protein kinase", Nature Medicine 8(11) 1288-1295,2002Zhou,Q. et al., "Evidence foradipose-muscle cross talk: opposing regulation of muscle proteolysis byadiponectin and fatty acids", Endocrinology 148:5696-5705,2007Higurashi,S. et al., "Effect of cheeseconsumption on the accumulation of abdominal adipose and decrease in serumadiponectin levels in rats fed a calorie dense diet", International DairyJournal 17:1224-1231,2007Nishimura,S. et al., "CD8+effector T cells contribute to macrophage recruitment and adipose tissueinflammation in obesity", Nature Medicine 15:914-920,2009Winer,S. et al., "Normalization ofobesity-associated insulin resistance through immunotherapy", NatureMedicine 15:921-929,2009Feuerer,M. et al., "Lean, but notobese, fat is enriched for a unique population of regulatory T cells thataffect metabolic parameters", Nature Medicine 15:930-939,2009Exel,E. et al., "Low productioncapacity of interleukin-10 associates with the metabolic syndrome and type 2diabetes", Diabetes 51:1088-1092,2002Esposito,K. et al., "Association oflow interleukin-10 levels with the metabolic syndrome in obese women", JClin Endocrinol Metab 88:1055-1059,2003Wolf,A.M. et al., "Adiponectin inducesthe anti-inflammatory cytokines IL-10 and IL-1RA in human leukocytes",Biochem Biophys Res Commun 323:630-635,2004 本発明者らは、メタボリックシンドロームを改善する乳酸菌を探索する際に、アディポネクチンのみを指標とするのではなく、メタボリックシンドロームにより誘導される炎症の抑制を示す指標も加えた方がより強い改善効果が期待できると考えた。そこで、目的の乳酸菌を探索するための新たな試験系を確立する必要があることを見出した。そして本発明者らは、脂肪細胞のアディポネクチン産生能に加え、免疫系細胞から分泌されるIL−10などの抗炎症性サイトカイン産生能をインビトロ(in vitro)試験系において評価することによって、脂肪細胞の機能制御によりインシュリン抵抗性を始めとしたメタボリックシンドロームを改善し得るプロバイオティクスを探索することができることを見出し、さらに鋭意研究を重ねた結果、本発明を完成するに至った。 すなわち本発明は、脂肪細胞に対しアディポネクチン産生を増大させ、かつ、骨髄由来樹状細胞および/またはマクロファージに対し炎症性免疫関連サイトカインの産生を増大させる、Lactobacillus属菌に関する。 また本発明は、炎症性免疫関連サイトカインがIL−10である、前記のLactobacillus属菌に関する。 さらに本発明は、Lactobacillus plantarumである、前記のLactobacillus属菌に関する。 また本発明は、Lactobacillus plantarum OLL2712菌株(受託番号:FERM BP-11262)に関する。 さらに本発明は、前記の菌の培養物またはその加工物に関する。 また本発明は、前記の菌、前記の培養物およびその加工物からなる群から選択される1種または2種以上を含む、医薬組成物に関する。 さらに本発明は、内臓脂肪の蓄積を抑制するための、前記の医薬組成物に関する。 また本発明は、前記の菌、前記の培養物およびその加工物からなる群から選択される1種または2種以上を含む、食品組成物に関する。 さらに本発明は、内臓脂肪の蓄積を抑制するための、前記の食品組成物に関する。 本発明のLactobacillus属菌は、脂肪細胞に対しアディポネクチン産生を増大させ、かつ、骨髄由来樹状細胞および/またはマクロファージに対し抗炎症性サイトカイン産生を増大させることができる。すなわち、アディポネクチンの産生を増大させることに加え、アディポネクチンに依存しない抗炎症性サイトカインの産生増大をも可能とするものであって、極めて信頼性の高い複合的なアプローチでのメタボリックシンドロームの改善効果を奏する。図1aは、3T3−L1細胞に対し、ピオグリタゾン(Pio)および/またはTNFα(TNF)を添加した場合のアディポネクチンのmRNA発現量の結果を示すグラフである。図1bは、3T3−L1細胞に対し、ピオグリタゾン(Pio)および/またはTNFα(TNF)を添加した場合のCu,Zn−SODのmRNA発現量の結果を示すグラフである。図2aは、TNFα添加によるインシュリン抵抗性の誘導を行った場合の3T3−L1細胞のアディポネクチンのmRNA発現量の結果を示すグラフである。図2bは、TNFα添加によるインシュリン抵抗性の誘導を行った場合の3T3−L1細胞のCu,Zn−SODのmRNA発現量の結果を示すグラフである。図2cは、TNFα添加によるインシュリン抵抗性の誘導を行った場合の3T3−L1細胞のIL−6のmRNA発現量の結果を示すグラフである。図2dは、TNFα添加によるインシュリン抵抗性の誘導を行った場合の3T3−L1細胞のMCP−1のmRNA発現量の結果を示すグラフである。図3aは、TNFα添加によるインシュリン抵抗性の誘導を行っていない場合の3T3−L1細胞のアディポネクチンのmRNA発現量の結果を示すグラフである。図3bは、TNFα添加によるインシュリン抵抗性の誘導を行っていない場合の3T3−L1細胞のCu,Zn−SODのmRNA発現量の結果を示すグラフである。図3cは、TNFα添加によるインシュリン抵抗性の誘導を行っていない場合の3T3−L1細胞のIL−6のmRNA発現量の結果を示すグラフである。図4aは、乳酸菌死菌体がマウス骨髄由来樹状細胞(BMDC)のIL−10産生に及ぼす影響の結果を示すグラフである。図4bは、乳酸菌死菌体がマウス骨髄由来樹状細胞(BMDC)のIL−12(p70)産生に及ぼす影響の結果を示すグラフである。図5aは、乳酸菌死菌体がマウスマクロファージJ774.1のIL−6産生に及ぼす影響の結果を示すグラフである。図5bは、乳酸菌死菌体がマウスマクロファージJ774.1のIL−10産生に及ぼす影響の結果を示すグラフである。図5cは、乳酸菌死菌体がマウスマクロファージJ774.1のIL−12(p40)産生に及ぼす影響の結果を示すグラフである。図6は、乳酸菌の脱脂粉乳培養物が糖尿病・肥満モデルマウス(KKAyマウス)の血中アディポネクチン濃度に及ぼす影響の結果を示すグラフである。平均値±SEを示す。図7は、乳酸菌の脱脂粉乳培養物が糖尿病・肥満モデルマウス(KKAyマウス)の内臓脂肪組織由来脂肪細胞のアディポネクチンmRNA量に及ぼす影響の結果を示すグラフである。平均値±SEを示す。図8は、乳酸菌の脱脂粉乳培養物が糖尿病・肥満モデルマウス(KKAyマウス)の内臓脂肪重量に及ぼす影響の結果を示すグラフである。平均値±SEを示す。図9は、乳酸菌の脱脂粉乳培養物が糖尿病・肥満モデルマウス(KKAyマウス)の血中中性脂肪値に及ぼす影響の結果を示すグラフである。平均値±SEを示す。図10は、乳酸菌の脱脂粉乳培養物が糖尿病・肥満モデルマウス(KKAyマウス)の血中HbA1c値に及ぼす影響の結果を示すグラフである。平均値±SEを示す。 本発明のLactobacillus属菌は、脂肪細胞に対してアディポネクチン産生を増大させる。ここで脂肪細胞は、インビトロ(in vitro)での培養が確立されている脂肪細胞であれば、とくに限定されないが、例えば、脂肪細胞のモデルとして知られるマウス繊維芽細胞由来3T3−L1細胞などが挙げられる。 また本発明のLactobacillus属菌は、通常、アディポネクチンを産生しない細胞、例えば、骨髄由来樹状細胞、マクロファージに対し炎症性免疫関連サイトカインの産生を増大させる。好ましくは、骨髄由来樹状細胞および/またはマクロファージに対して炎症性免疫関連サイトカインの産生を増大させる。 本発明のLactobacillus属菌が、脂肪細胞に対してアディポネクチン産生を増大させること、および/または、アディポネクチンを産生しない細胞に対し炎症性免疫関連サイトカインの産生を増大させることは、夫々、インビトロにおいて確認することができる。 ここで、炎症性免疫関連サイトカインとは、炎症反応に関連する全てのサイトカインを包含する。炎症性免疫関連サイトカインは、炎症反応を促進する性質を有するサイトカインと炎症反応を抑制する性質を有するサイトカインとに大別することができる。炎症反応を促進する性質を有するサイトカインとしては、これに限定するものではないが、例えば、IL−1α、IL−1β、IL−6、IL−7、IL−8、IL−12、IL−13、IL−17、IL−18、IFNγ、MCP−1、TNFα、LIFなどの炎症性サイトカインなどが挙げられる。炎症反応を抑制する性質を有するサイトカインとしては、これに限定するものではないが、例えば、IL−4、IL−10、TGF−βなどの抗炎症性サイトカイン、IFNα、IFNβなどの抗ウィルス性サイトカインなどが挙げられる。 好ましい炎症性免疫関連サイトカインとしては、メタボリックシンドロームとの関連性が認められるものであり、例えば、IL−10やIL−6が挙げられ、とくに好ましくは、IL−10である。 本発明において「産生が増大した」とは、供試菌体(生菌または死菌)またはその培養物や培養上清などの試料の刺激によって、対象の細胞が発現するアディポネクチン(タンパク質、mRNA)の発現量や炎症性免疫関連サイトカインの発現量などの指標となる値が、統計的誤差の範囲を超えて増大することを意味する。統計的な解析は、当業者に知られたあらゆる統計解析手法を用いてよく、これに限定するものではないが、例えばStudent’s t検定や、マンホイットニーのU検定などが挙げられる。 本発明に包含されるLactobacillus属菌としては、これに限定されるものではないが、例えば、Lactobacillus delbrueckii subsp. burgaricus、Lactobacillusdelbrueckii subsp. lactis、Lactobacillus casei、Lactobacillus helveticus、Lactobacillusacidophilus、Lactobacillus crispatus、Lactobacillus amylovorus、Lactobacillusgallinarum、Lactobacillus gasseri、Lactobacillus oris、Lactobacillus rhamnosus、Lactobacillus johnsonii、Lactobacillusfermentum、Lactobacillus brevis、Lactobacillusplantarumなどが挙げられ、好ましくは、Lactobacillus amylovorus、Lactobacillus plantarumなどが挙げられ、とくに好ましくは、Lactobacillusplantarumが挙げられる。 本発明のLactobacillus属菌は、好ましくは、胃酸または胆汁酸耐性を有するものである。かかる耐性により、腸溶性被覆材などを用いることなく、例えば、乳酸菌含有食品組成物として、生菌のまま腸に到達することができ、腸内環境を改善するとともに、持続的なメタボリックシンドロームの改善および/または予防効果を奏することができる。 本発明のLactobacillus plantarum OLL2712(本明細書において、菌株23ともいう)は、独立行政法人産業技術総合研究所に、受託番号:FERM BP-11262として寄託されており、以下の特徴を有するLactobacillusplantarum菌である。(a)形態的性質桿菌(b)培養的性質培地名: Lactobacilli MRS Broth (Difco, Ref. No. 288130)pH: 無調整培養温度: 37℃培養時間: 18時間 (1)形状: 円形 (2)直径: 1−2mm (3)色調: 白色 (4)隆起状態: 半球状 (5)周縁: 全縁 (6)表面形状: スムーズ (7)透明度: 不透明 (8)粘稠度: バター様(c)生理学的性質 (1)グラム染色性: 陽性 (2)乳酸発酵形式: ホモ乳酸発酵 (3)酸素要求性: 通性嫌気性 (4)発育温度: 15℃+、45℃− 本発明において、メタボリックシンドロームの改善および/または予防を行う対象としては、肥満や糖尿病を含めたメタボリックシンドロームが関与する疾病に罹患している、または、その虞のある動物(例えば、ヒト、家畜動物種、野生動物、ペットなど)を含む。 また、本発明において改善および/または予防の対象となるメタボリックシンドロームには、例えば、糖尿病、肥満(とくに内臓脂肪型肥満)、血圧高値、血糖高値、脂質異常症、動脈硬化症などのメタボリックシンドロームと関連するとされる疾患を含み得る。 本発明のLactobacillus属菌をメタボリックシンドロームの改善および/または予防に対して、医薬用または食品用として用いる場合、生菌、死菌、培養物やその加工物を用いることが可能である。前記培養物とは、本発明のLactobacillus属菌の培養終了後の培養上清や培地成分をそのまま用いるものであり、前記加工物は、培養物に由来すればとくに限定されないが、例えば、培養物の濃縮、ペースト化、噴霧乾燥、凍結乾燥、真空乾燥、ドラム乾燥、液状化、希釈、破砕などの加工により得られる物が挙げられる。これらの加工には、公知の方法を適宜用いることができる。前記培養物中または前記加工物中において、本発明のLactobacillus属菌は、生菌であっても死菌であってもよい。 また本発明のLactobacillus属菌、その培養物、またはその加工物には、適宜、例えば、培地成分、経口経管摂取に適した添加物および水などの溶媒、糖質、タンパク質、脂質、ビタミン類、生体必須微量金属、香料、薬学的に許容し得る担体、食品添加物などの任意成分を添加し、医薬組成物や食品組成物などとすることができる。 本発明の医薬組成物は、典型的には、脂肪細胞に対しアディポネクチン産生を増大させ、かつ、骨髄由来樹状細胞および/またはマクロファージに対し炎症性免疫関連サイトカインの産生を増大させる、Lactobacillus属菌、その培養物およびその加工物から選択される1種または2種以上を含む。かかる医薬組成物は、摂取個体の腸内環境を改善し、メタボリックシンドロームに対して改善効果を奏する。さらに本発明の医薬組成物は、内臓脂肪の蓄積を効果的に抑制するために用いることができる。 また、かかる医薬組成物は、投与経路はとくに限定されないが、経口的または非経口的に投与することが含まれ、例えば、経口投与、経管投与、経腸投与を例示できる。簡便かつ安全性の観点から、経口投与が好ましい。また剤型は、とくに限定されないが、投与経路に応じて適宜選択することができ、例えば、エアゾール剤、液剤、エキス剤、エリキシル剤、カプセル剤、顆粒剤、丸剤、眼軟膏剤、経皮吸収型製剤、懸濁剤、乳剤、坐剤、散剤、酒精剤、錠剤、シロップ剤、浸剤、煎剤、注射剤、貼付剤、チンキ剤、点眼剤、トローチ剤、軟膏剤、パップ剤、芳香水剤、リニメント剤、リモナーデ剤、流エキス剤、ローション剤が挙げられる。 経口投与製剤としては、周知の各種剤型とすることができ、例えば、顆粒剤、散剤、錠剤、丸剤、カプセル剤、液剤、シロップ剤、乳剤、懸濁剤、トローチ剤などの剤型とすることができる。また、腸溶性製剤とすることにより、胃酸の効果を受けることなく、より効率的に腸まで運ぶことも可能である。 非経口的な投与としては、注射剤などの形での投与を挙げることができる。また、本発明のLactobacillus属菌、その培養物またはその加工物を、処置を施したい領域に局所的に投与することもできる。例えば、手術中の局所注入、カテーテルの使用により投与することも可能である。 本発明の医薬組成物に用い得る担体としては、界面活性剤、賦形剤、着色料、着香料、保存料、安定剤、緩衝剤、懸濁剤、等張化剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、流動性促進剤、矯味剤などが医薬上許容される担体として挙げられるが、その他常用の担体を適宜使用することができる。具体的には、軽質無水ケイ酸、乳糖、結晶セルロース、マンニトール、デンプン、カルメロースカルシウム、カルメロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート、ポリビニルピロリドン、ゼラチン、中鎖脂肪酸トリグリセライド、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60、白糖、カルボキシメチルセルロース、コーンスターチ、無機塩類などを挙げることができる。 本発明のLactobacillus属菌を医薬組成物に用いる場合、その菌体濃度はとくに限定されないが、濃縮液として利用する場合、2×1010個/g以上、乾燥物として利用する場合、3×1011個/g以上とするのが好ましい。 本発明の医薬組成物において、Lactobacillus属菌、その培養物またはその加工物の配合量は、とくに限定されないが、剤型、症状、体重、用途などに応じて適宜調整することができる。 本発明の医薬組成物の一日当たりの摂取量は、とくに限定されないが、年齢、症状、体重、用途などに応じて適宜調整することができる。典型的には、0.1〜10000mg/kg体重を摂取することができ、好ましくは0.1〜1000mg/kg体重、さらに好ましくは0.1〜300mg/kg体重を摂取することができる。 本発明の食品組成物は、典型的には、脂肪細胞に対しアディポネクチン産生を増大させ、かつ、骨髄由来樹状細胞および/またはマクロファージに対し炎症性免疫関連サイトカインの産生を増大させる、Lactobacillus属菌、その培養物およびその加工物から選択される1種または2種以上を含む。かかる食品組成物は、摂取個体の腸内環境を改善し、メタボリックシンドロームに対して改善効果を奏する。さらに本発明の食品組成物は、内臓脂肪の蓄積を効果的に抑制するために用いることができる。 本発明の食品組成物はさらに、乳酸菌生育を妨げない限り、糖質、タンパク質、脂質、ビタミン類、生体必須微量金属(硫酸マンガン、硫酸亜鉛、塩化マグネシウム、炭酸カリウムなど)、香料やその他の配合物を含むことができる。 糖質としては、糖類、加工澱粉(デキストリンのほか、可溶性澱粉、ブリティッシュスターチ、酸化澱粉、澱粉エステル、澱粉エーテルなど)、食物繊維などが挙げられる。 タンパク質としては、例えば全脂粉乳、脱脂粉乳、部分脱脂粉乳、カゼイン、ホエイ粉、ホエイタンパク質、ホエイタンパク質濃縮物、ホエイタンパク質分離物、α−カゼイン、β−カゼイン、κ−カゼイン、β−ラクトグロブリン、α−ラクトアルブミン、ラクトフェリン、大豆タンパク質、鶏卵タンパク質、肉タンパク質などの動植物性タンパク質、これら加水分解物;バター、乳性ミネラル、クリーム、ホエイ、非タンパク態窒素、シアル酸、リン脂質、乳糖などの各種乳由来成分などが挙げられる。 脂質としては、例えば、ラード、魚油など、これらの分別油、水素添加油、エステル交換油などの動物性油脂;パーム油、サフラワー油、コーン油、ナタネ油、ヤシ油、これらの分別油、水素添加油、エステル交換油などの植物性油脂などが挙げられる。 ビタミン類としては、例えば、ビタミンA、カロチン類、ビタミンB群、ビタミンC、ビタミンD群、ビタミンE、ビタミンK群、ビタミンP、ビタミンQ、ナイアシン、ニコチン酸、パントテン酸、ビオチン、イノシトール、コリン、葉酸などが挙げられ、ミネラル類としては、例えば、カルシウム、カリウム、マグネシウム、ナトリウム、銅、鉄、マンガン、亜鉛、セレンなどが挙げられる。 本発明の食品組成物のカテゴリーや種類に制限はなく、機能性食品、特定保健用食品、特定用途食品、栄養機能食品、健康食品、介護用食品でもよく、また、菓子、乳酸菌飲料、チーズやヨーグルトなどの乳製品、調味料などであってもよい。飲食品の形状についても制限はなく、固形、液状、流動食状、ゼリー状、タブレット状、顆粒状、カプセル状など、通常流通し得るあらゆる飲食品形状をとることができ、各種食品(牛乳、清涼飲料、発酵乳、ヨーグルト、チーズ、パン、ビスケット、クラッカー、ピッツァクラスト、調製粉乳、流動食、病者用食品、栄養食品、冷凍食品、加工食品その他の市販食品など)に添加してもよい。上記飲食品の製造は、当業者の常法によって行うことができる。 本発明のLactobacillus属菌、その培養物、またはその加工物は、上記のとおり、乳製品・発酵乳を含む一般飲食品に加工できる他、ヨーグルトやチーズなどの乳製品・発酵乳の製造用スターターとして利用することも可能である。スターターとする場合は、本発明のLactobacillus属菌の生存および増殖に支障がない限り、また、乳製品製造に支障がない限り、他の微生物が混合されていてもよい。例えば、ヨーグルト用乳酸菌として主要な菌種であるLactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus、Streptococcusthermophilus、Lactobacillus acidophilusなどと混合してもよく、その他、一般にヨーグルト用やチーズ用として用いられる菌種と混合してスターターとすることができる。上記スターターによる乳製品、発酵乳の製造は、常法に従って行うことができる。例えば、加温・混合・均質化・殺菌処理後に冷却した乳または乳製品に、上記スターターを混合し、発酵・冷却することにより、プレーンヨーグルトを製造することができる。 上記スターターとしては、製造する乳製品、発酵乳に応じて適宜選択されるが、具体的には、たとえば、Streptococcus属、Lactobacillus属、Lactococcus属、Leuconostoc属およびPediococcus属などに属する乳酸菌あるいはビフィズス菌を用いることができる。 より具体的には、Streptococcus lactis、Streptococcuscremoris、Streptococcus diacetylactis、Streptococcus thermophilus、Enterococcusfaecium、Enterococcus faecalis、Lactobacillusacidophilus、Lactobacillus brevis、Lactobacillus casei、Lactobacillus helveticus、Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus、Lactobacillusdelbrueckii subsp. lactis、Lactobacillus gasseri、Lactobacillus mucosae、Lactobacillus murinus、Lactobacillus plantarum、Lactobacillus oris、Lactobacillus reuteriおよびLactobacillusrhamnosusなどの乳酸菌や、Bifidobacterium longum、Bifidobacterium bifidumおよびBifidobacteriumbreveなどのビフィズス菌のような微生物ををスターターとすることができる。より好適には、Lactobacillusdelbrueckii subsp. bulgaricus、StreptococcusthermophilusおよびLactobacillus delbrueckii subsp. lactisがスターターとして用いることができる。これらの微生物をスターターとして用いる場合、必要に応じて、1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。 これらの微生物を、自然界や発酵乳から単離する方法は公知である。あるいは既に単離された微生物を細胞バンクなどからの分譲によって入手することもできる。さらに、乳酸菌スターターは、市販されている。生成する発酵乳のpHや物理的な性状の違いによって複数の製品が販売されている。なお、発酵乳の物理的な性状とは、固さや口当たり(smoothness)などをいう。 本発明において、混合スターターとして原料乳に加える微生物をセルバンクに寄託された微生物から選択することもできる。混合スターターに利用することができる望ましい菌株の例としては、Lactobacillus bulgaricus JCM 1002TおよびStreptococcusthermophilus ATCC 19258の混合培養物からなる乳酸菌スターター、Streptococcusthermophilus OLS 3059(FERM BP-10740)、Streptococcus thermophilus OLS3294(NITE P-77)、Streptococcus thermophilus OLS3059(FERMP-15487)、Lactobacillus delbrueckii subspecies bulgaricus OLL 1073R-1(FERM BP-10741)、Lactobacillus delbrueckiisubspecies bulgaricus OLL 1255(NITE BP-76)およびLactobacillus delbrueckii subspecies bulgaricus OLL1073R-1(FERM P-17227)の混合培養物からなる乳酸菌スターターが挙げられる。 一般的な発酵乳の製造においては、原料乳(ヨーグルトベースミックス)には、これらの乳酸菌以外の乳酸菌や酵母の中から1種または2種以上を選んだものを添加することもある。本発明においては、コーデックス規格でヨーグルトスターターとして規格化されているラクトバチルス・ブルガリカス(L. bulgaricus)とストレプトコッカス・サーモフィルス(S.thermophilus)の混合スターターを利用するのが好ましい。さらに付加的な微生物を加えるときには、この混合スターターに、目的とする発酵乳の発酵温度や発酵条件を勘案して追加の微生物を混入することもできる。混合スターターに付加的に混合する微生物としては、ラクトバチルス・ガッセリ(L. gasseri)、Lactobacillus plantarumやビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)等の他の乳酸菌を示すことができる。 本発明のLactobacillus属菌を食品組成物に用いる場合、その菌体濃度はとくに限定されないが、濃縮液として利用する場合、2×1010個/g以上、乾燥物として利用する場合、3×1011個/g以上とするのが好ましい。また、食品組成物における本発明のLactobacillus属菌の菌体の含有量(菌体乾燥物質量として)は、食品組成物の固形分中0.01〜100 w/w%、より好ましくは1〜80w/w%さらに好ましくは10〜40w/w%とすることができる。 本発明の食品組成物において、Lactobacillus属菌、その培養物またはその加工物の配合量は、とくに限定されないが、剤型、症状、体重、用途などに応じて適宜調整することができる。 本発明の食品組成物の一日当たりの摂取量は、とくに限定されないが、年齢、症状、体重、用途などに応じて適宜調整することができる。典型的には、0.1〜10000mg/kg体重を摂取することができ、好ましくは0.1〜1000mg/kg体重、さらに好ましくは0.1〜300mg/kg体重を摂取することができる。また、本発明のLactobacillus属菌の菌体の乾燥物質量として0.1〜100mg/kg体重および0.5〜10mg/kg体重、本発明のLactobacillus属菌の菌体数として106〜1012個、107〜1011個、および108〜1010個、を例示することができる。 以下に、本発明を実施例に基づいてさらに説明するが、かかる実施例は、本発明の例示であり、本発明を限定するものではない。例1:マウス繊維芽細胞由来3T3−L1細胞を用いたスクリーニング系の構築 脂肪細胞のモデルであるマウス繊維芽細胞由来3T3−L1細胞株を用いた抗肥満・抗糖尿病活性を有する乳酸菌のスクリーニング系を樹立した。(1)供試菌株 健康なヒト糞便より単離された約270菌株より、胃酸または胆汁酸耐性に優れた20菌株(菌株番号1〜19、23)を選抜して用いた。それらの他に、各種発酵乳から単離された多数の菌株より、免疫調節活性の高い3菌株(菌株番号20〜22)を加えた、下記表1に示す計23菌株を用いた。(2)乳酸菌の培養および培養上清の調製 乳酸菌は、脱脂粉乳培地(表2)およびMRS培地(Lactobacilli MRS Broth (Difco,Ref. No. 288130))を用い、37℃で培養した。 培養上清の調製は、まず、乳酸菌を脱脂粉乳培地およびMRS培地で、37℃、18時間培養した後、上清を回収し、次に、回収した上清を0.22μmフィルターに通して行った。培養上清は、−20℃で保存した。(3)3T3−L1細胞を用いたアッセイ 3T3−L1細胞株(DSファーマバイオメディカル社より購入)を24ウェルプレートに2×105cells/dishで播種し、10%CS(calf serum)入りDMEM(ダルベッコ変法イーグル培地(Dulbecco'smodified Eagle medium))で2日間培養し、10%FCS(fetal calf serum)入りDMEMに交換し、さらに2日後に分化培地(10%FCS含有DMEM中、インシュリン10μg/ml、デキサメタゾン2.5μM、3−イソブチル−1−メチルキサンチン0.5mM)に交換した。分化培地で48時間培養後、維持培地(10%FCS含有DMEM中、インシュリン10μg/ml)でさらに48時間培養し、以後は10%FCS入りDMEMで培養した。維持培地に交換後7日目の細胞をアッセイに使用した。なお、脂肪細胞分化/維持試薬(AdipoInducer Reagent(for animal cell))はタカラバイオ(株)より購入した。分化培地用添加試薬の組成は、インシュリン溶液(10μg/ml)、デキサメタゾン溶液(2.5μM)、3−イソブチル−1−メチルキサンチン溶液(0.5mM)であった。維持培地用添加試薬の組成は、インシュリン溶液(10μg/ml)であった。 細胞を回収する22時間前に乳酸菌培養上清1%を添加した培地に交換し、その2時間後にさらにTNFα(Sigma-Aldrich社より購入)10ng/mlを添加した。また、乳酸菌培養上清の代わりに、糖尿病治療薬として用いられているピオグリタゾン(pioglitazone、販売元:和光純薬工業、製造元:Alexis)を10μMの濃度になるように添加し、ポジティブコントロールとした。その後、TRIzol試薬(Invitrogen、Life Technologies社より購入)により細胞溶解物を回収し、real-timePCR system(Applied Biosystems、LifeTechnologies社)で遺伝子発現量を測定した。(4)結果 3T3−L1細胞において、アディポネクチンおよびCu,Zn−SOD(Cu,Zn-SuperoxideDismutase)の各mRNA量は、ピオグリタゾンで有意に増加した。なお、Cu,Zn−SODのmRNA量は、メタボリックシンドロームの動物では、この測定値が低下することが示され、アディポネクチンの発現上昇と有意に相関することが示されている。 また、TNFα10ng/mlの添加では有意に抑制され、ピオグリタゾン10μMとTNFα10ng/mlとの共添加によって有意に回復した(図1a〜b)。なお、図1a〜bにおいて、「control」は、何も添加していない3T3−L1細胞の場合、「TNF10ng/ml」は、TNFαを10ng/mlで添加した3T3−L1細胞の場合、「Pio10μM」は、ピオグリタゾンを10μMで添加した3T3−L1細胞の場合、「Pio+TNF」は、ピオグリタゾンを10μM、TNFαを10ng/mlで共添加した3T3−L1細胞の場合である。 その他の代表的な抗酸化因子であるカタラーゼ(catalase)についても同様に有意な効果を確認した(データ省略)。例2:各種乳酸菌脱脂粉乳培養上清の抗肥満・抗糖尿病活性 表1の番号1〜21および23の計22菌株の乳酸菌の脱脂粉乳培養上清およびMRS培養上清が3T3−L1細胞のアディポネクチン発現量に及ぼす影響を評価した。 一次スクリーニングの結果、番号12のLactobacillus amylovorus MEP222812(以下、菌株12)、番号17のLactobacillus plantarum MEP222817(以下、菌株17)、番号23のLactobacillus plantarum OLL2712(以下、菌株23)の脱脂粉乳培養上清が、3T3−L1細胞のアディポネクチン発現量を有意に亢進する作用を示した。さらに、これら3つの菌株について再現性を確認した結果、菌株17と菌株23の2株が安定的な効果を示すことがわかった。 また、マウス骨髄由来BMDC細胞のIL−10産生を顕著に誘導するなどの抗炎症性作用がその死菌体に確認されているLactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus MEP222822(以下、菌株22)の脱脂粉乳培養上清についても同時に評価した。 TNFα(10ng/ml)によってインシュリン抵抗性を誘導した系で評価した結果を図2a〜dに示す。なお、図2a〜dにおいて、「control」は、何も添加していない3T3−L1細胞の場合、「脱脂粉乳+TNF」は、脱脂粉乳培地およびTNFαを10ng/mlを添加した3T3−L1細胞の場合、「菌株22+TNF」は、菌株22を培養した脱脂粉乳培養上清およびTNFαを10ng/mlを添加した3T3−L1細胞の場合、「菌株17+TNF」は、菌株17を培養した脱脂粉乳培養上清およびTNFαを10ng/mlを添加した3T3−L1細胞の場合、「菌株23+TNF」は、菌株23を培養した脱脂粉乳培養上清およびTNFαを10ng/mlを添加した3T3−L1細胞の場合、「pio+TNF」は、ピオグリタゾンを10μM、TNFαを10ng/mlで共添加した3T3−L1細胞の場合である。 菌株17と菌株23の脱脂粉乳培養上清はともに3T3−L1細胞のアディポネクチン発現量を有意に増加させた。さらに、菌株23はIL−6発現量を有意に抑制し、Cu,Zn−SOD発現量を有意に増加させた。一方、菌株22はIL−6発現量を有意に増加させたが、その他の遺伝子発現量には影響がなかった。 ピオグリタゾンはIL−6の抑制はしなかったが、MCP−1を有意に抑制した。一方、菌株23の脱脂粉乳培養上清はIL−6を抑制し、MCP−1には影響しなかった。また、菌株22の培養上清はIL−6を有意に亢進した。 以上の結果より、菌株23の脱脂粉乳培養上清はピオグリタゾンとは異なる機序によってアディポネクチン発現量を増加させることが示唆された。ピオグリタゾンの作用機序は核内受容体型転写因子PPARγのリガンドであり、アディポネクチンなどのPPARγにより転写調節を受ける遺伝子の発現を変化させる。PPARγは特に脂肪細胞に多く発現していることから、脂肪細胞がピオグリタゾンの主要な標的細胞であると考えられる。ピオグリタゾンが脂肪細胞に作用する結果、TNFαや遊離脂肪酸(free fatty acid: FFA)などの産生を抑制する一方、アディポネクチンの分泌を増加させ、その結果として脂肪細胞や骨格筋などのインシュリン抵抗性を改善する。 TNFα添加によるインシュリン抵抗性の誘導をおこなわない系で同様の検討を実施した結果を図3a〜cに示す。なお、図3a〜cにおいて、「control」は、何も添加していない3T3−L1細胞の場合、「脱脂粉乳」は、脱脂粉乳培地を添加した3T3−L1細胞の場合、「菌株17」は、菌株17を培養した脱脂粉乳培養上清を添加した3T3−L1細胞の場合、「菌株23」は、菌株23を培養した脱脂粉乳培養上清を添加した3T3−L1細胞の場合である。 菌株23培養上清はTNFαを添加しない系でも3T3−L1細胞のアディポネクチンおよびCu,Zn−SOD発現量を有意に増加させた。また、IL−6発現量は有意ではないものの平均値で20%程度抑制した。一方、菌株17はいずれの遺伝子発現量にも有意な影響を及ぼさなかった。 結果、菌株23の脱脂粉乳培養上清は、アディポネクチン発現量を亢進してIL−6発現量を抑制したことから、抗肥満・抗糖尿病効果を示す可能性が示唆された。菌株22の脱脂粉乳培養上清にはこのような活性はなく、抗肥満・抗糖尿病素材としての脱脂粉乳培養物の利用という点では菌株23は優れた特性を有することが示された。例3:マウス骨髄由来樹状細胞BMDCを用いたアッセイ BMDCは、7週齢オスICRの大腿骨より抽出した。骨髄液を70μmセルストレイナーに通した後、溶血し、非特異的吸着を防ぐためにウサギIgGを添加した。さらに、ビオチン標識抗CD4抗体、抗CD8抗体、I−Ad(MHCIIマーカー)抗体を添加して、氷上に30分静置した。さらにstreptoavidin磁気ビーズと抗B220抗体磁気ビーズを添加した。再度40μmのセルストレイナーを通した後、auto MACS DEPLETEでネガティブ画分を回収した。この操作により骨髄液中細胞からT細胞、B細胞や抗原提示細胞を除去し、未熟樹状細胞のみを分離できたものとした。 これらを10%GM−CSF(Granulocyte Macrophagecolony-stimulating Factor)入りRPMI(Roswell Park MemorialInstitute)−medium 1640 10mlで培養し、3日後にGM−CSF入りRPMI−medium 1640を5ml追加した。そのさらに5日後にBMDCと考えられる浮遊細胞を回収し、1×105cells/ウェルで96穴プレートにまき、同時に各濃度の乳酸菌死菌体を添加した。24時間後に培養上清を回収し、mouse ELISA kitを用いてIL−10およびIL−12(p70)濃度を定量した。なお、抗体類およびELISA kitはBecton, Dickinson and Companyより購入した。 乳酸菌体が樹状細胞やマクロファージのサイトカイン産生能に及ぼす影響について検討をおこなった。 3T3−L1細胞に対してその脱脂粉乳培養上清が安定的に有意な活性を示した菌株17と菌株23に加え、3T3−L1細胞での検討で何度か有意な活性を示した菌株12の3菌株の凍結乾燥死菌体について、BMDC細胞のサイトカイン産生能に及ぼす影響を調べた。比較対象として、活性が既知の菌株22と、Lactobacillus gasseri MEP222804(以下、菌株4)の死菌体を用いた。各乳酸菌の死菌体(0.5、1、5、10μg/ml)をBMDCに添加し、48時間後のIL−10とIL−12(p70)産生量をELISA法で測定した結果を図4a〜bに示す。なお、図4a〜bにおいて、「菌株12」は、菌株12の死菌体を添加したBMDC細胞の場合、「菌株17」は、菌株17の死菌体を添加したBMDC細胞の場合、「菌株23」は、菌株23の死菌体を添加したBMDC細胞の場合、「菌株22」は、菌株22の死菌体を添加したBMDC細胞の場合、「菌株4」は、菌株4の死菌体を添加したBMDC細胞の場合、である。 菌株23の死菌体は菌株22と同程度のIL−10およびIL−12の産生誘導活性を示した。菌株17の死菌体はこれらに比べてIL−10、IL−12(p70)産生誘導活性が非常に低く、菌株12の死菌体はほとんど活性を示さなかった。例4:マウスマクロファージJ774.1細胞株を用いたアッセイ マウスマクロファージJ774.1細胞(理研セルバンク(RCB)より購入)を、10%FCS入りRPMI培地で培養して3日おきに継代した。1×106cells/mlに調製した細胞懸濁液を250μl/ウェルずつ48ウェルプレートに播種し、同時に各種乳酸菌の凍結乾燥死菌体およびLPS(Wako)を添加し、その48時間後に培養上清を回収した。凍結乾燥死菌体はPBSで10mg/mlに調製し、各濃度となるようにRPMI培地で希釈後125μl/ウェルずつ細胞に添加した。LPSは蒸留水で1mg/mlとした後RPMI培地で4μg/mlに調製し、125μl/ウェルずつ細胞に添加して最終濃度が1μg/mlとなるようにした。 回収した上清中のIL−6、IL−10およびIL−12(p40)濃度をmouse ELISA kit(Becton, Dickinson and Company)を用いて定量した。なお、活性型であるIL−12(p70)はJ774.1細胞では発現していないため、代わりにIL−12(p40)を測定した。 菌株17と菌株23に加え、菌株12の3菌株の凍結乾燥死菌体について、J774.1細胞のサイトカイン産生能に及ぼす影響を調べた。また、菌株4の死菌体はJ774.1細胞のIL−12p40産生能を顕著に亢進する。菌株22は、BMDCでの結果からIL−10産生亢進などの抗炎症性作用が予測された。したがって、上記5菌株の死菌体(1、10μg/ml)をJ774.1細胞に添加し、48時間後のIL−6、IL−10、IL−12(p40)産生量をELISA法で測定した結果を図5a〜cに示す。なお、図5a〜cにおいて、「control」は、何も添加していないJ774.1細胞の場合、「菌株12」は、菌株12の死菌体を添加したJ774.1細胞の場合、「菌株17」は、菌株17の死菌体を添加したJ774.1細胞の場合、「菌株23」は、菌株23の死菌体を添加したJ774.1細胞の場合、「菌株22」は、菌株22の死菌体を添加したJ774.1細胞の場合、「菌株4」は、菌株4の死菌体を添加したJ774.1細胞の場合である。 菌株4は、いずれのサイトカインについても産生誘導能が最も高かった。菌株23は菌株22と同程度のIL−10およびIL−12(p40)産生誘導能を有することが明らかとなった。 BMDCに対して、菌株23の死菌体は、免疫活性の高い抗炎症性乳酸菌である菌株22と同程度のIL−10産生誘導活性を示すことが明らかとなった。また菌株23の死菌体は、J774.1細胞に対しても菌株22と同程度のIL−10産生誘導活性を示すことが明らかとなった。つまり菌株23は菌株22と比較しても遜色ない免疫活性の高い抗炎症性乳酸菌と考えられる。 以上の結果から、菌株23は、3T3−L1細胞に対して、他の菌株に比べて有意にアディポネクチン産生を増大させ、かつ、マウス骨髄由来樹状細胞においても、マウスマクロファージJ774.1細胞においても、IL−10などの抗炎症性サイトカインの産生を、他の菌株に比べて有意に増大させたことが明らかとなった。この結果から、菌株23は、脂肪細胞のアディポネクチン産生能を高めることを介したメタボリックシンドロームに対する改善効果ばかりでなく、免疫系細胞から分泌されるIL−10などの抗炎症性サイトカイン産生能を高めることを介したメタボリックシンドロームに対する改善効果が示唆された。このことは、菌株23を用いた発酵生成物に抗メタボリックシンドローム効果が有することを示唆するものである。例5.糖尿病・肥満モデルマウスを用いた有効性試験 糖尿病・肥満モデルマウスとして、KKマウスに肥満発症遺伝子AYを導入した、KKAyマウスを使用した。KKAyマウスは、若齢期から肥満、インスリン抵抗性、高脂血症を起こすことが知られている。(被検物)・乳酸菌培養物:菌株23(Lactobacillus plantarum OLL2712、(受託番号:FERM BP-11262))を表2に記載の脱脂粉乳培地で培養したものを生菌のまま投与に用いた。乳酸菌培養物に含まれる、菌株23の菌数は2×108cfu/mlであった。本試験における菌株23培養物の投与用量は、1×108cfu/body/day(3.7×109cfu/kg/day)である。・陽性対照薬剤:ピオグリタゾン塩酸塩(Pioglitazone Hydrochloride、フナコシ株式会社)を、カルボシキメチルセルロースナトリウム(Wako)溶液に溶解後、蒸留水で希釈し1mg/mlに調製して投与に用いた。ピオグリタゾン塩酸塩は、脂肪組織でのTNFα発現を抑制してインスリン抵抗性を改善し、糖の取り込みと利用を促進することが確認されている、2型糖尿病の治療薬である。ピオグリタゾン塩酸塩のCasNo.は112529-15-4、化学名は(5RS)-5-{4-[2-(5-Ethylpyridin-2-yl)ethoxy]benzyl}thiazolidine-2,4-dione monohydrochlorideである。本試験におけるピオグリタゾン塩酸塩の投与用量は、0.5mg/body/dayである。この用量は、Mohapatraらの論文を参考に設定した(Mohapatra J,etal.,Pharmacology.84-4:203,2009)。(動物試験) 5週齢の雄KKAyマウス(日本クレア社)を、マイクロベント飼育装置(アレンタウン社製)で個飼いし、1週間の馴化飼育を行った。馴化飼育後、マウスを血糖値、HbA1c値、体重を基に3群(コントロール群、乳酸菌投与群、陽性対照群、各n=4)に分けた(day0)。この時、各群の体重の平均値は約27gであった。さらに、day1からday21までの3週間、コントロール群に表2に記載の脱脂粉乳培地、乳酸菌投与群に乳酸菌培養物、陽性対照群に陽性対照薬剤を1日1回、0.5ml/body経口投与した。被検物の投与期間中、水は自由摂取、餌はCRF-1の自由摂取とした。 被検物の投与期間中、週一回(day0、day7、day14およびday21)、3時間半の絶食後に尾静脈より血液を採取し、血糖値、ヘモグロビンA1c値を測定した。採血後は、CRF-1を自由摂取させた。また、3週間の投与期間中、週2回(day0、day4、day7、day11、day14、day18およびday21)、体重と摂餌量を測定した。 投与終了後に頚椎脱臼による安楽死後に解剖し、腎周囲脂肪組織、精巣上体周囲脂肪組織を採取し、各湿重量(g)を測定し、その合計を内臓脂肪重量(g)とした。さらに、脂肪組織を遠心分離により成熟脂肪細胞画分(MAF画分)と間質血管画分(SVF画分)に分離し、MAF画分はアディポネクチンmRNA発現量の解析を行った。(測定方法)・血糖値:血糖測定機器(Breeze2、バイエル薬品社)にて測定した。・血中ヘモグロビンA1c(HbA1c):Hemoglobin A1c Testing Analyzer(DCA2000 system、バイエルメディカル社)を用いて血中のヘモグロビンA1cの濃度を測定した。・血中アディポネクチン:mouse adiponectin ELISA kit(大塚製薬)を用いて血中のアディポネクチンの濃度を測定した。・血中トリグリセリド:富士ドライケムシステム及び富士ドライケムスライドTG-PIII(富士フィルム)を用いて血中のトリグリセリドの濃度を測定した。・MAF画分のアディポネクチンmRNA発現:TRizol試薬(invitrogen)を用いてMAF画分からtotal RNAを抽出し、PrimeScript RT reagent kit(Takara)を用いてcDNAを合成し、ABI 7300 real time PCR system(ABI)を用いてMAF画分のアディポネクチンmRNA発現量を測定した。(結果)・試験期間中の摂餌量及び体重変化に群間の差はなかった。・乳酸菌投与群(菌株23)及び陽性対照群(pio)では全ての個体で試験期間中に血中アディポネクチン濃度が増加したが、コントロール群(脱脂粉乳)では半数が減少した(図6、day21の血中アディポネクチン濃度からday0の血中アディポネクチン濃度を差し引いた値を血中アディポネクチン濃度の変化量として算出した。)。・内臓脂肪組織由来脂肪細胞のアディポネクチン遺伝子発現量は、乳酸菌投与群で増加傾向であった(図7)。(P=0.08 vs. コントロール群、マンホイットニーのU検定)。脂肪組織中の脂肪細胞においてアディポネクチンmRNA量が増加すると、アディポネクチン産生量が増加し、全身の組織における糖の取り込みが促進されると考えられる。また、アディポネクチンは脂肪の燃焼を促進することから、脂肪の蓄積を抑制するとも考えられる。・内臓脂肪重量は乳酸菌投与群で有意に低値であった(図8)。(P=0.02 vs. コントロール群、マンホイットニーのU検定)・血中トリグリセリド値は乳酸菌投与群で増加が抑制される傾向があった(図9)。(P=0.08(day21) vs. コントロール群、マンホイットニーのU検定、Student’s t-test)・血中HbA1c値は乳酸菌投与群及び陽性対照群において増加が抑制された個体が多かった(図10、day21の血中HbA1c値からday0の血中HbA1c値を差し引いた値を血中HbA1cの変化量として算出した)。例6:ヨーグルトの製造 ヨーグルトベースミックスを常法に従って調製し、混合スターター(Lactobacillusbulgaricus およびStreptococcus thermophilus)のみを接種したものと、混合スターターに菌株23(Lactobacillus plantarum OLL2712、(受託番号:FERMBP-11262))を加えて接種したものとを、夫々発酵させ、ヨーグルトを製造した。 結果、菌株23を加えて接種して得られたヨーグルトは、加えないで得られたヨーグルトに比べて、同等以上の好ましい風味と物性を持っていることが示された。 本発明のLactobacillus属菌によれば、アディポネクチンの産生を増大させることに加え、アディポネクチンに依存しない炎症性免疫関連サイトカインの産生の増大をも可能とするものであって、極めて信頼性の高い複合的なアプローチでのメタボリックシンドロームの改善効果を奏するので、医薬組成物や食品組成物に含有させることによって、簡便にかつ効果的に摂取することができ、メタボリックシンドロームの改善が可能である。 ラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum) OLL2712菌株(受託番号:FERM BP-11262)。 請求項1に記載の菌株の培養物またはその加工物。 請求項1に記載の菌株、請求項2に記載の培養物およびその加工物から選択される1種または2種以上を含む、医薬組成物。 内臓脂肪の蓄積を抑制するための、請求項3に記載の医薬組成物。 脂肪細胞に対しアディポネクチン産生を増大させ、かつ、骨髄由来樹状細胞および/またはマクロファージに対し炎症性免疫関連サイトカインの産生を増大させるための、請求項3または4に記載の医薬組成物。 炎症性免疫関連サイトカインがIL−10である、請求項5に記載の医薬組成物。 請求項1に記載の菌株、請求項2に記載の培養物およびその加工物から選択される1種または2種以上を含む、食品組成物。 内臓脂肪の蓄積を抑制するための、請求項7に記載の食品組成物。 脂肪細胞に対しアディポネクチン産生を増大させ、かつ、骨髄由来樹状細胞および/またはマクロファージに対し炎症性免疫関連サイトカインの産生を増大させるための、請求項7または8に記載の食品組成物。


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