タイトル: | 特許公報(B2)_歯髄細胞の培養及び保存用抜去歯の移送方法 |
出願番号: | 2011538751 |
年次: | 2012 |
IPC分類: | C12N 5/0775,A61L 27/00 |
斎藤 一郎 大久保 亮 大友 宏一 JP 4918631 特許公報(B2) 20120203 2011538751 20101214 歯髄細胞の培養及び保存用抜去歯の移送方法 学校法人 総持学園 鶴見大学 505055985 株式会社 再生医療推進機構 509249069 岩橋 祐司 100092901 斎藤 一郎 大久保 亮 大友 宏一 JP 2009289090 20091221 20120418 C12N 5/0775 20100101AFI20120329BHJP A61L 27/00 20060101ALN20120329BHJP JPC12N5/00 202HA61L27/00 Z C12N 5/00 BIOSIS/MEDLINE/WPIDS(STN) JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII) 特開2006−305324(JP,A) 特開2006−211957(JP,A) 特開平10−025201(JP,A) Exp.Cell Res., vol.258, pp.33-41 (2000) J.Jpn.Prosthodont.Soc., vol.45, pp.412-421 (2001) 愛院大歯誌, vol.41, pp.239-244 (2003) 日歯周誌, vol.39, pp.432-442 (1997) 6 JP2010072464 20101214 WO2011078011 20110630 13 20110908 長井 啓子関連出願 本出願は、2009年12月21日付け出願の日本国特許出願2009−289090号の優先権を主張しており、ここに折り込まれるものである。 本発明は、歯髄細胞の培養及び保存用抜去歯の移送方法に関し、特に、歯髄細胞を含む歯髄をもつ抜去歯の移送における当該細胞の保存性向上に関する。 古くは輸血によって知られるように、採取された細胞を用い、けがや病気並びに事故等で失われた組織や臓器を再生させる再生医療の研究開発は盛んに行われてきた。近年の再生医療が目指す具体的なプロセスは、未分化な状態の細胞である幹細胞を採取し、これを体外で培養し、場合によっては分化させたのち、患部へ移植して再生を促すというものである。ここで使用される幹細胞としては、胚性幹細胞(ES細胞)と体性幹細胞が知られている。 胚性幹細胞は、高い増殖能と多分化能を有する胚由来の細胞であるが、再生医療への利用に関しては、受精卵を用いることによる倫理的問題や、移植による拒絶反応の問題などが未だ残されている。 他方、体性幹細胞は、胚性幹細胞よりも分化能は限定されているが、比較的未分化な状態で生体の様々な組織に存在するため、自己の細胞を採取培養して治療に用いることが可能となる。したがって、体性幹細胞は、その利用において胚性幹細胞のような倫理面や拒絶反応の問題を孕んでいないことから、最も再生治療における実用化が進んでいる。 これまでに、体性幹細胞は骨髄、筋肉、神経、肝臓、膵臓、小腸など多くの組織に認められているが、間葉系組織(皮膚、骨、軟骨、歯、神経、血管、心筋など)への分化が可能な間葉系幹細胞は、その有用性から現在最も再生医療への応用が期待されている。このような間葉系幹細胞を含む組織としては、骨髄をはじめ、歯髄、脂肪組織、臍帯血などが知られている。しかしながら、前記組織からの幹細胞の採取では、例えば、骨髄においては骨髄穿刺による骨髄採取手術を要し、脂肪組織からの採取は脂肪吸引手術に伴って行われるなど、採取対象が苦痛などのリスクを負うことがあった。なお、臍帯血の採取はほとんど苦痛を伴わないが、厳しい採取条件を満たす設備を施設が必要であり、さらに採取機会が出産時のみという制限がある。 そこで、これらの組織に比べ極めて低リスクで採取できる歯髄幹細胞の利用が提案されている(特許文献1及び2)。すなわち、歯髄幹細胞を含む歯髄細胞は、従来しか医療施設において医療廃棄物として処理されてきた親知らず(智歯)や乳歯などの抜去歯より採取可能であることから収集が容易であり、培養方法や保存方法が確立されている点においても実用性が高いことが示唆されている。特許第4125241号公報特開2004−201612号公報 ところで、一般に、再生医療への使用目的で採取・培養された幹細胞は、実際に治療に用いられる時まで凍結保存を必要とする。しかし、個人が幹細胞を最適条件で長期保存することは到底現実的ではないことから、現在のところ、採取幹細胞の培養・保存処理及び保存そのものは、然るべき細胞保管設備を備えた機関へ委託されることが多い。したがって、当然のことながら、歯髄幹細胞の場合は、各歯科医療施設で抜去された歯が該施設から細胞保管機関移送され、培養・保存処理を施されるまでの間も、幹細胞を生存させておくことが必要となる。 しかしながら、抜去歯から極めて微量しか採取されない歯髄幹細胞をより確実に活用するため、生体内と同様の高い増殖能を維持したままの状態で、歯髄幹細胞を細胞保管機関まで移送する技術は知られていない。そのため、前記機関で細胞の採取・保存処理を行う段階で、既に幹細胞に機能的損傷が加わっている可能性があった。すなわち、前記のようなシステムの場合、準備や輸送などのため、歯が抜去されてから歯髄細胞の摘出、培養及び保存処理を行うまでに24〜48時間程度を要するが、このような時間を経た抜去歯からは完全な歯髄細胞を確保することが難しかった。特に永久歯の場合、保存液に漬けて移送しても、保存液が象牙質に囲まれ、歯髄まで十分に浸透しないため、歯髄細胞は極めて短時間しか保持できない。そこで、抜去歯から予め歯髄細胞をもつ歯髄を摘出し、保存液に漬けた上で移送することが考えられるが、技術や設備の異なる各歯科医療施設において、微量で取り扱い難い歯髄を安定した品質で処理することは実質的に不可能と考えられる。 本発明は上記問題に鑑みなされたものであり、歯髄細胞の生体内における機能を損ねることなく、歯髄細胞の培養及び保存用抜去歯を移送する方法を提供することを目的とする。 上記目的を達成するために本発明者らが鋭意検討を行った結果、抜去歯の歯髄を露出させる特定処理を施した上、保存状態にして輸送することにより、歯髄幹細胞に再生医療に必要な正常な機能を保持させたまま、歯髄を含む抜去歯を移送することが可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。 すなわち、本発明にかかる歯髄細胞の培養及び保存用抜去歯の移送方法は、抜去歯の表面に直線的な溝を入れる工程と、前記抜去歯を溝に沿って分割し、歯髄を露出させる工程と、前記抜去歯を培地に浸し、細胞の保存に適した温度に保持した状態で輸送する工程と、を、含むことを特徴とする。 また、前記方法においては、前記直線的な溝が、抜去歯の歯冠から歯根にかけた縦断線に沿って、該抜去歯の側面から中心に向かって溝を形成されたものであることが好適である。 また、前記方法においては、前記直線的な溝が、抜去歯の歯冠部咬合面の分割線に沿って、該抜去歯の上面から中心に向かって形成されたものであることが好適である。 また、前記方法においては、前記輸送にかかる時間が48時間以内であることが好適である。 また、前記方法においては、前記抜去歯が永久歯であって、歯髄未処置の埋伏歯、過剰歯、又は便宜抜去歯であることが好適である。 また、前記方法においては、前記直線的な溝の長さが5〜10mm、幅が0.5〜1.5mm、深さが2〜4mmであることが好適である。 さらに、本発明にかかる歯髄細胞の培養及び保存用抜去歯の移送方法は、後継永久歯歯根が2/3以上形成された抜去乳歯を培地に浸し、細胞の保存に適した温度に保持した状態で輸送する工程を含むことを特徴とする。 また、前記方法においては、前記輸送にかかる時間が48時間以内であることが好適である。 本発明によれば、歯髄幹細胞を含む歯髄を有する抜去歯を、細胞保管機関等への移送に要する24〜48時間の間、生体内における機能を損ねずに維持することができる。これにより、抜歯後も生体内に近い状態のままで歯髄幹細胞の培養・保存処理までを行うことが可能となるため、抜去歯から極めて微量しか採取されない歯髄幹細胞を効率的に再生医療へ活用することができる。本発明にかかる方法による(A)乳歯、(B)永久歯の歯髄細胞の増殖曲線である。本発明にかかる方法による(A)乳歯、(B)永久歯の歯髄細胞のALP染色像である。本発明にかかる方法による(A)乳歯、(B)永久歯の歯髄細胞のSA−β−gal染色像である。本発明にかかる方法による歯髄細胞の培養細胞の染色体像である。本発明にかかる方法による歯髄細胞の培養細胞の染色体像である。 本発明は、例えば、各地の歯科医療施設で抜去された歯から得られる歯髄に存在し、歯髄幹細胞を包含する歯髄細胞を細胞保管機関において培養・保存処理し、必要時に再生医療へ利用するというモデルにおいて、歯科医療施設から細胞保管機関に輸送されるまでの間、歯髄の生細胞数やその機能を保存しておくための移送方法を提供するものである。歯髄中の微量の細胞を確実に培養・保存に利用する見地から、本発明は、技術や設備に関わらず、いかなる歯科医療施設でも容易に実施可能であり、且つ安定した細胞保持効果を発揮し得る。 なお、当然のことながら、本発明にかかる方法は、前述した歯科医療施設から細胞保管機関に至る以外の細胞の移送に適用することもできる。 以下、本発明の方法の好適な実施形態について説明する。 本発明に使用する抜去歯は、歯髄を有するものであれば乳歯であっても永久歯であってもよく、通常、歯科医療施設において歯科処置的に抜去されたものを用いることができる。また、自然抜歯であっても、歯の状態が下記条件に合致するものであって、さらに後述の抜去歯の処理を早急に行うことが可能であれば使用することができる。 特に歯髄幹細胞の利用に適した抜去歯としては、次の状態のものが挙げられる。 乳歯としては、未処置歯、修復歯のいずれを用いることも可能であるが、歯髄切断や抜髄などの歯髄処置が施されたものは好ましくない。 さらに、動揺の認められる乳歯については、う蝕がなく、後継永久歯歯根が2/3以上形成されているものが好適である。う蝕があって、根尖性歯周炎(Per)などが生じたものは、正常な歯髄の採取が望めないため好ましくない。 また、動揺の認められない乳歯についても、同様に、う蝕がなく、後継永久歯歯根が2/3以上形成されているものが好適である。しかし、う蝕があっても、進行がC1(エナメル質う蝕)又はC2(象牙質う蝕)に止まり、後継永久歯歯根の2/3以上の形成が認められるものについては好適に用いることができる。一方、う蝕により歯髄炎を発症したものは好ましくない。 永久歯としては、いわゆる親知らず(智歯)である埋伏歯、過剰歯、便宜抜去歯などとして抜歯可能なものが好適であるが、乳歯と同様、歯髄処置されたものや歯髄が罹患したものは好ましくない。 抜歯処置などにより歯に傷や欠損が生じた場合であっても、それがエナメル質や象牙質に止まるなど、後述する抜去歯の処理の遂行に影響しないものである限り問題なく使用することができる。 続いて、抜去歯の処理について具体的に説明する。 上記抜去歯は、必要に応じて表面を清拭・消毒し、表面に直線的な溝を設ける。この溝は、次工程で歯を分割する際のガイドとなるため、該溝に沿って歯を分割した時に、歯の中心にある歯髄が露出するような位置及び方向で形成する必要がある。 分割時における歯髄の露出が可能である限り、溝の形成位置及び方向は制限されないが、例えば、次のような実施形態が挙げられる。(例1) 抜去歯の歯冠から歯根にかけた縦断線に沿って、該抜去歯の側面から中心に向かって溝を形成する。抜去歯の側面における前記縦断線の位置は、該縦断線に沿った溝が、該抜去歯の中心に向けて彫られる限りは限定されない。(例2) 抜去歯の歯冠部咬合面の分割線に沿って、該抜去歯の上面から中心に向かって溝を形成する。このとき、溝となる分割線が咬合面のおおよそ中心を通ることが好ましいが、溝が抜去歯の中心に向けて彫られる限りは前記分割線の位置は問題とならない。 上記溝は、できるだけ長く、深く形成することが望ましい。溝の長さ及び幅は、該溝をガイドとした分割を可能とする程度であればよく、抜去歯の大きさや溝を設ける部位によって長さ5〜10mm、幅0.5〜1.5mmの範囲で適宜調節することが好ましい。また、溝の深さはエナメル質から象牙質に至る程度とし、歯の中心に向かって2〜4mmの範囲とすることが好ましい。溝が深すぎると、歯髄細胞が挫滅してしまうことがあるので注意を要する。 なお、前記溝形成は、例えば、注水下にてダイヤモンドポイントを用いて行うことができる。 本発明にかかる方法においては、抜去歯に前記のごとく溝を設けた後、該溝に沿って歯を分割する。抜去歯は、前記溝が歯髄の位置する中心に向けて適切に彫られていれば、該溝に沿って真二つに割ることができる。すなわち、予め前述の工程において適切な溝を入れておくことにより、堅固な歯を技術や設備に関係なく容易に分割することが可能となるのである。 抜去歯を分割する手段は特に制限されないが、通常、ヘーベル等を溝に挿入し、溝に沿って押し開くことで歯牙を2分割することができる。難しい場合は、角ノミ等を溝へ挿入し、木槌等で叩いて2分割してもよい。 予め設けた溝に沿って抜去歯を適切に分割すると、その内部中央に存在する歯髄が露出される。この際、露出した歯髄には器具などを接触させないことが好ましい。 また、歯の分割数にも制限はないが、歯髄を露出させるには2分割で十分であると考えられる。ただし、一度の分割で歯髄が十分に露出されなかった場合は、必要に応じて溝の形成工程から再度やり直す必要がある。 分割した抜去歯は、細胞用の培地又は保存液に浸漬し、細胞の保存に適した温度を保持する。このような状態で輸送することにより、抜去歯内の歯髄に存在し、歯髄幹細胞を包含する歯髄細胞は、元々有している全ての機能(生理活性)、及びその生細胞数を48時間以内の間ほぼ完全に維持することができる。細胞の保存に適した低温度は、代謝活性を抑えた状態で細胞を生存させることのできる温度を意味し、一般に4〜8℃、好ましくは4℃である。 使用する培地又は保存液は、細胞培養や細胞保存に一般的に使用されるものであればよく、特に好ましくはα−MEM培地(20%FBS、100μM L(+)−アスコルビン酸、ペニシリン(50u/ml)/ストレプトマイシン(50μg/ml))である。 このような培地又は保存液を培養用のキャップ付チューブ等に入れ、これに歯髄の露出した分割抜去歯を浸漬してキャップを締め、細胞の保存に適した温度(例えば、4℃)を維持した状態で輸送することが好ましい。 なお、抜去歯が乳歯で、歯根部が吸収されている場合は、培地や保存液が歯髄まで浸透し易い。したがって、乳歯に関しては、上記した歯に溝を形成する工程及び分割する工程を省略し、抜去乳歯を前述のように細胞用の培地又は保存液に浸漬し、低温に保持するのみで輸送することもできる。この場合も、歯髄細胞は24〜48時間の間ほぼ完全な状態で保存される。 もちろん、永久歯と同様に、乳歯に溝の形成及び分割の処理を行ってもよい。 前記手順で移送された抜去歯中の歯髄幹細胞を含む歯髄細胞(歯髄)は、好ましくは細胞保管施設において、適切な条件下で抜去歯から摘出され、公知の細胞処理方法に従って培養・保存処理が為されたのち、長期間保存される。保存した歯髄細胞は、必要時に取り出して再生医療等に利用することができる。もしくは、保存した歯髄細胞にiPS化等の技術を施し、医療や研究に用いることも可能である。 以下、本発明の実施例を示すが、本発明はこれらの実施例に限定されない。 まず、本発明の方法による抜去歯(乳歯・永久歯)の移送(保存)例を示す。<移送(保存)例>乳歯 う蝕がなく、後継永久歯歯根が2/3以上形成された動揺乳歯、あるいは、エナメル質ないし象牙質に限局したう蝕があり、後継永久歯歯根が2/3以上形成された非動揺乳歯を歯科的に抜去した。抜去後α−MEM培地を満たした無菌チューブに入れて低温(4℃)で冷蔵し、輸送時間を含めて24時間保存した。永久歯 う蝕がなく、歯髄未処置の埋伏歯、過剰歯又は便宜抜去歯を歯科的に抜去した。抜去後、歯の側面中央位に歯冠上端から根尖にかけてダイヤモンドポインタを用いて溝を入れた。溝の深さは象牙質までとした。 その後、溝に沿ってヘーベルで歯を二つに縦断し、歯髄を露出させた。分割した歯は、α−MEM培地を満たした無菌チューブに入れて4℃で冷蔵し、輸送時間を含めて24時間の保存を行った。 上述の移送(保存)例を行った乳歯及び永久歯の歯髄細胞を下記手順で培養・保存し、その機能の保持に関して検討した。<培養方法>1.歯髄の採取 前記移送(保存)例の抜去歯(抜歯から24時間)を滅菌シャーレ上において写真を撮った。その後、ピンセットとリーマーを使って、歯髄を取り出した。歯髄を取り出した歯は、写真を撮り、ホルマリン固定した。 歯髄を回収し、100×g 4℃ 20sec遠心した後、上清を除いてリンス用PBSを10ml加え、これを再度遠心するリンス工程を3回繰り返した。 上清を除いて酵素分解用培地を2ml加え、37℃にて1時間(30分に1回混ぜる)処理し、これを2000rpm(4℃)で5分間遠心した。 上清を除いてα−MEM培地を5ml加え、2000rpm(4℃)で5分間遠心した。その後、上清を除いてα−MEM培地を5ml加えて細胞数をカウントし、得られた歯髄細胞をT−25フラスコに播種した。 なお、上記酵素分解用培地は、α−MEM培地(α−MEM:395ml、FCS:100ml、200mMアスコルビン酸:250μl、PS:5mlの混合液)7.5ml、DispaseII(2.4U/ml、Roche社製)2.5ml、コラゲナーゼ(和光純薬社製)30mgの混合液である。2.歯髄細胞培養 前記工程後、培地を2日に1回交換し、コンフルエントになったら次の継代操作を行った。 また、播種1日後と継代前に細胞の写真を撮影した。3.継代 培養細胞をPBS(−)で2回リンス後、0.05%トリプシン/EDTAを1ml加えて再度リンスし、37℃下で5分間インキュベートした。 その後、新しいα−MEM培地を5ml加えて懸濁し、1000rpm(4℃)で5分間遠心した。上清を除去し、新しい培地に懸濁して10cmディシュに播種し、培養した(継代2代目)。 なお、継代2代目を3日以上培養した培地を10ml採取して−20℃にて保存しておいたものをウイルス検査の検体とした。 以上の操作を繰り返すことにより、継代3〜10代目も同様にして得た。4.ストックの作成 各継代のストックは次のようにして得た。 前記継代操作後に細胞数をカウントし、1000rpm(4℃)で5分間遠心した。その後、上清を除去し、1バイアルにつき細胞数が1×106cells/ml以上になるようにセルバンカーIIを加えて懸濁した。これを1バイアルにつき1mlずつ分注し、バイアルをBIO FREEZING VESSELに入れて−80℃で2日間おいた後、液体窒素へ移した。 上記方法で培養した3・7・10継代目の歯髄細胞を、次の方法で試験した。<増殖曲線の作成> ディシュ上で培養している細胞をPBS(−)で2回洗浄後、さらに0.05%トリプシン/10mM EDTAを1ml加えて、洗浄した。その後、37℃下で5分間インキュベートし、細胞がディシュから剥がれた事を確認したら、培地を加えて懸濁した。細胞懸濁液を1000rpm(4℃)で5分間遠心し、上清を除いたら、再度培地を加えて懸濁し、1000rpm(4℃)で5分間遠心した。 その後、細胞を新しい培地に懸濁して、細胞数をカウントした。 5.4×105cellsの細胞を9.5mlの培地に懸濁し、24wellプレートの12wellに500μl/wellで分注した。その後、各wellに培地を500μlずつ加えて、1ml/wellとした。 これを37℃、5%CO2インキュベーターで培養し、24時間毎に2wellずつ細胞数をカウントした。カウントは細胞増殖がプラトーに達するまで行い、図1に示す増殖曲線を得た。 図1の(A)は乳歯、(B)は永久歯の歯髄細胞の増殖曲線である。前記乳歯、永久歯のいずれも前述の移送(保存)例で得たものであり、歯髄細胞の培養は上記培養方法による。 図1に示すように、使用した永久歯、乳歯のいずれの歯髄細胞も、10継代までほぼ同等の増殖能を維持し、一般的な歯髄細胞(抜歯後直ぐに培養したもの)の増殖曲線に比べても異常は認められなかった。 なお、本発明にかかる移送方法を行わず、抜歯後保存液につけるのみで24時間以内に上記培養を行ったものについても同様の試験を行ったところ、永久歯については増殖能がかなり低下しており、継代数を増す毎にその度合は顕著となった。 したがって、本発明により、幹細胞を含む歯髄細胞の増殖能を維持したままで抜去歯を移送することが可能である。<アルカリフォスターゼ(ALP)染色> ディシュ上で培養している細胞をPBS(−)で2回洗浄後、さらに0.05%トリプシン/10mM EDTAを1ml加えて、洗浄した。その後、37℃下で5分間インキュベートし、細胞がディシュから剥がれた事を確認したら、培地を加えて懸濁した。細胞懸濁液を1000rpm(4℃)で5分間遠心し、上清を除いたら、再度培地を加えて懸濁し、1000rpm(4℃)で5分間遠心した。 その後、細胞数をカウントし、6wellプレートに1×105cells/wellで播種して一晩培養した。 培養後、細胞をPBSで1回洗い、2mlの4%PFAで3分固定し、PBSで2回洗った。その後、1mlの検出バッファー(1M Tris−HCl(pH9.5):50ml、3M NaCl:16.67ml、1M MgCl:25ml、B,W:408.33mlの混合液)を加え、2分置いた。 検出バッファーを吸い取り、発色液(検出バッファー:5ml、NBT:16.5μl、BCIP:16μl)500μlを加え、遮光して2時間置いた後、wellの細胞を蒸留水で5分間洗った。 各wellに4%PFA/PBSを700μl加え、室温で10分間インキュベートした。その後、4%PFA/PBSを除き、PBS(−)で3回リンスした。 続いてIMMU−MOUNTを各wellに3滴加え、カバーガラスを被せて室温保存した。 図2の(A)は乳歯、(B)は永久歯の歯髄細胞のALP染色像である。前記乳歯、永久歯のいずれも前述の移送(保存)例で得たものであり、歯髄細胞の培養は上記培養方法による。 アルカリフォスターゼ(ALP)は骨芽細胞のマーカーとして用いられ、骨形成を示す細胞は紫色に染色される(ALP陽性細胞)ことが知られている。 図2に示すように、使用した永久歯、乳歯のいずれの歯髄細胞にもALP陽性細胞が認められた。ALP陽性細胞は継代数の増加に伴って減少がみられたが、継代により細胞の総数自体は増加した。このことから、これらの歯髄細胞は、整形外科疾患(骨折等の骨修復等)において十分に有用であると考えられる。また、この結果は、別途行った一般的な歯髄細胞(抜歯後直ぐに培養したもの)によるものに遜色なかった。 なお、本発明にかかる移送方法を行わず、抜歯後保存液につけるのみで24時間以内に上記培養を行ったものについても同様の試験を行ったところ、永久歯についてはALP陽性細胞数及び細胞の総数が図2(B)に比べ極めて少ないことが分かった。 したがって、本発明により、幹細胞を含む歯髄細胞の骨再生能を維持したままで抜去歯を移送することが可能である。<細胞老化の測定(SA−β−gal染色)> ディシュ上で培養している細胞をPBS(−)で2回洗浄後、さらに0.05%トリプシン10mM/EDTAを1ml加えて、洗浄した。その後、37℃下で5分間インキュベートし、細胞がディシュから剥がれた事を確認したら、培地を加えて懸濁した。細胞懸濁液を1000rpm(4℃)で5分間遠心し、上清を除いたら、再度培地を加えて懸濁し、1000rpm(4℃)で5分間遠心した。 その後、細胞を新しい培地に懸濁して、細胞数をカウントし、1×105cells/wellとなるように6wellプレートに播種したのち、37℃、5%CO2で24時間インキュベートした。 培地を抜いてPBS(−)でリンスし、各wellに4%PFA/PBSを700μl加え、RTで10分間インキュベートした。その後、4%PFA/PBSを除き、PBS(−)で3回リンスした。 SA−β−gal solutionを各wellに700μl加え、室温で一晩インキュベートし、染色された細胞を顕微鏡でチェックして撮影した。 SA−β−gal solutionを抜き、PBS(−)でリンスを2回行った後、各wellに4%PFA/PBSを700μl加え、室温で10分間インキュベートした。その後、4%PFA/PBSを除き、PBS(−)で3回リンスした。 続いてIMMU−MOUNTを各wellに3滴加え、カバーガラスを被せて室温保存した。 図3の(A)は乳歯、(B)は永久歯の歯髄細胞のSA−β−gal染色像である。前記乳歯、永久歯のいずれも前述の移送(保存)例で得たものであり、歯髄細胞の培養は上記培養方法による。 SA−β−galは細胞の老化マーカーとして用いられ、細胞分裂が停止した老化細胞は青色に染色される(SA−β−gal陽性細胞)ことが知られている。 図3に示すように、使用した永久歯、乳歯のいずれの歯髄細胞にもSA−β−gal陽性細胞は認められず、この結果は継代を重ねても変わらなかった。このことから、これらの歯髄細胞では、継代により増殖能の変化が少なく安定した培養が可能で十分に有用であると考えられる。また、この結果は、別途行った一般的な歯髄細胞(抜歯後直ぐに培養したもの)によるものに遜色なかった。 なお、本発明にかかる移送方法を行わず、抜歯後保存液につけるのみで24時間以内に上記培養を行ったものについても同様の試験を行ったところ、永久歯についてはSA−β−gal陽性細胞が認められた。 したがって、本発明により、幹細胞を含む歯髄細胞の高い増殖能を維持したままで抜去歯を移送することが可能である。<染色体の分析> 上記移送(保存)例による女性の永久歯及び男性の乳歯由来のヒト歯髄細胞各1例を上記培養方法で培養したものについて、染色体数を分析した。それぞれの培養細胞50個について染色体数の分析結果を表1及び表2に示す。具体的な分析方法は次の通りとした。 10代継代した歯髄細胞より染色体標本を作製し、ギムザ染色し、染色体数を決定後、該標本をQuinacrine−Hoechst染色にて分染した。標準核型に基づいて染色体を分類し、核型分析を行った。(表1)染色体数(本) ≦44 45 46 47 48≦ 計 細胞数(個) 0 4 45 0 1 50(表2)染色体数(本) ≦44 45 46 47 48≦ 計 細胞数(個) 2 3 45 0 0 50 図4は表1の染色体数46本の代表例、図5は表2の染色体数46本の代表例である。 表1の染色体数46本の細胞をQ分染法により10個分析した結果、図4に代表されるとおり、全てXX型であった。また、表2の染色体数46本の細胞を同様に分析したところ、図5に示すとおり、全てXY型であった。 表1、2及び図4、5に示すように、分析されたヒト歯髄細胞の染色体数はほぼ全ての細胞で正常な46本であった。 したがって、本発明にかかる移送方法は、歯髄細胞の染色体数の変異を誘起しないことが明らかである。 抜去歯の表面に直線的な溝を入れる工程と、 前記抜去歯を溝に沿って分割し、歯髄を露出させる工程と、 前記抜去歯を培地に浸し、細胞の保存に適した温度に保持した状態で輸送する工程と、を、含むことを特徴とする保存用抜去歯の移送方法。 前記直線的な溝が、抜去歯の歯冠から歯根にかけた縦断線に沿って、該抜去歯の側面から中心に向かって溝を形成されたものであることを特徴とする請求項1に記載の保存用抜去歯の移送方法。 前記直線的な溝が、抜去歯の歯冠部咬合面の分割線に沿って、該抜去歯の上面から中心に向かって形成されたものであることを特徴とする請求項1に記載の保存用抜去歯の移送方法。 前記輸送にかかる時間が48時間以内であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の保存用抜去歯の移送方法。 前記抜去歯が永久歯であって、歯髄未処置の埋伏歯、過剰歯、又は便宜抜去歯であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の保存用抜去歯の移送方法。 前記直線的な溝の長さが5〜10mm、幅が0.5〜1.5mm、深さが2〜4mmであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか記載の保存用抜去歯の移送方法。