タイトル: | 特許公報(B2)_腎障害の検出用マーカーとしての尿中メガリンの使用 |
出願番号: | 2011511418 |
年次: | 2015 |
IPC分類: | G01N 33/53 |
斎藤 亮彦 富野 康日己 淺沼 克彦 小笠原 真也 黒澤 寛之 平山 吉朗 JP 5694145 特許公報(B2) 20150213 2011511418 20100427 腎障害の検出用マーカーとしての尿中メガリンの使用 国立大学法人 新潟大学 304027279 学校法人順天堂 502285457 デンカ生研株式会社 591125371 平木 祐輔 100091096 藤田 節 100118773 田中 夏夫 100111741 斎藤 亮彦 富野 康日己 淺沼 克彦 小笠原 真也 黒澤 寛之 平山 吉朗 JP 2009108493 20090427 20150401 G01N 33/53 20060101AFI20150312BHJP JPG01N33/53 V G01N 33/53−33/68 CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN) JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII) 特開2007−263750(JP,A) 米国特許出願公開第2008/0090304(US,A1) 米国特許出願公開第2009/0093010(US,A1) 欧州特許出願公開第01956096(EP,A1) 5 JP2010057490 20100427 WO2010126055 20101104 26 20130425 赤坂 祐樹 本発明は腎疾患を検出する為の検出キットおよび検出マーカーに関する。本発明はまた、尿中メガリンを腎障害の検出用マーカーとして検出の指標とする病態検出方法に関する。さらに、本発明は腎疾患の治療効果の評価法に関する。 Glycoprotein330(gp330)あるいはLow Density Lipoprotein(LDL)-receptor related protein 2(LRP2)としても知られるメガリン(Megalin)は、腎臓の近位尿細管上皮細胞に発現する分子量が約600kDaの糖タンパク質である(非特許文献1、2)。 腎臓においては、メガリンは尿排泄前に近位尿細管腔内のタンパク質等のエンドサイトーシス・再吸収に関係するエンドサイトーシス受容体として機能する。再吸収されたタンパク質等のリガンドは、その後、近位尿細管上皮細胞中のリソゾームにより分解される(非特許文献3)。 糖尿病性腎症は臨床的には糖尿病に罹患後、微量アルブミン尿を呈し、持続蛋白尿、末期腎不全へと至る経過を辿る。よって腎症の早期から現れる臨床像として、糸球体過剰濾過と微量アルブミン尿の重要性を指摘した研究が特記される。詳しくは、1型糖尿病患者で発病早期に腎血流量、糸球体濾過値が増加することは知られていたが、微量アルブミン尿の出現が、その後の腎症発症に繋がる早期の変化であることが指摘され、早期腎症の概念が提唱されたことから始まったものである。さらにこの時期には尿中アルブミン排泄量が、尿蛋白陽性をもたらすには至らないが、異常に増量していることも見出され、微量アルブミン尿と命名された(非特許文献4)。 その後、Mogensen C.E.やViberti G.C.らによって微量アルブミンの臨床的意義が確立され、微量アルブミン尿の存在もその後の腎症進展と強く関係していることから、今日の臨床診断での使用に至っている。微量アルブミン尿の出現は、糸球体での濾過と尿細管での再吸収の両面での機能の均衡と破綻によることが報告されている(非特許文献5、6、7、8、9、10)。 また、尿細管でのアルブミンの再吸収はメガリンを介したエンドサイトーシスによって行なわれていることが報告されている(非特許文献11、12、13、14、15、16、17、18、19)。 微量アルブミン尿から腎障害が進行すると持続性蛋白尿すなわち顕性蛋白尿が出現する時期に入る。この段階では、蛋白尿は試験紙法にて持続的に陽性となる。この時期になると、健康診断での把握は可能となる。 Araki S.らの報告によると、早期腎症例216例に関して6年間治療追跡調査を行なったところ、腎症のRemission(正常アルブミン尿への改善)が51%生じ、かつProgression(顕性腎症への進行)(28%)より高頻度であることを報告している(非特許文献22)。 この解析の結果、Remissionに関わる因子として、(i)微量アルブミン尿が出現してからの期間が短いこと、(ii)レニン−アンジオテンシン系阻害薬が用いられていること、(iii)収縮期血圧が低いこと、(iv)血糖コントロールが良いことの4因子が挙げられている。すなわち、糖尿病性腎症の進行を抑制していくためにはより早期の腎障害の診断および病態把握と治療管理が重要であると考えられる。糖尿病性腎症の治療の基本は(1)血糖の管理、(2)血圧の管理、(3)レニン−アンジオテンシン系の抑制、(4)脂質の管理、(5)食事療法(塩分、蛋白質の制限)、(6)禁煙などの生活習慣の改善である。腎症の発症と進展を阻止する為には、臨床研究によるエビデンスに基づいた的確で積極的な治療が必要となる。血糖管理に関しては、DCCT、UKPDSおよびKumamoto Studyによるエビデンスがあり、腎症進展予防に重要な要素である。一方、血圧管理の重要性に関しては、ACE阻害薬とARBを中心に多くのエビデンスが集積されている。 一方、IgA腎症は慢性糸球体腎炎のうち、糸球体メサンギウム細胞の増殖・メサンギウム基質の拡大(増生)とメサンギウム領域へのIgAを主体とする顆粒状沈着物を認めることを特徴とする疾患である。IgA腎症の診断は腎生検によって確定される。無症候性の検尿異常で発見されることが大半である。持続的顕微鏡的血尿は必発で、間欠的または持続的蛋白尿、肉眼的血尿を呈することもある。肉眼的血尿は急性上気道感染に併発することが多い。尿検査異常の診断には3回以上の検尿を必要とし、そのうち2回以上は一般の尿定性試験に加えて尿沈渣の検鏡も行なう。半数の患者に血清IgA値315mg/dL以上の高値を認める。無症候性の軽微な検尿異常を軽視しないことが大切である。IgA腎症において検査所見は活動性および腎症害の進展の程度を評価する際に有用である。初期には血尿のみであるが、病期の進行とともに蛋白尿が出現する。予後不良因子として高血圧、中等度以上の蛋白尿の持続、初診時の腎機能障害などが挙げられる。よって種々の検査所見を総合的に判断し、腎炎の活動性および腎障害の進展の程度に応じた適切な治療が必要とされる。IgA腎症はチャンス蛋白尿/血尿にて発見されることが多い為、血尿の鑑別診断がまず必要となる。その上で確定診断として腎生検が実施されるが、腎生検施行へは禁忌が存在し、制約が多い。実際の臨床では腎生検を行えない場合は非常に多く、また腎生検を行なうべきか否かの判断には的確な確固たる指標というものが現在存在していない。確定診断としての腎生検においては、光顕所見として巣状分節性からびまん性全節性(球状)までのメサンギウム増殖性変化を、蛍光抗体法または酵素抗体法所見としてびまん性にメサンギウム領域を主体とするIgAの顆粒状沈着(他の免疫グロブリンと比較してIgAが優位である)を、電顕所見としてメサンギウム基質内(特にパラメサンギウム領域を中心とする)の高電子密度物質の沈着を指標として評価される。腎生検からの予後判定は、腎生検光顕標本の組織所見をもとに行い、以下の4群に分ける。1) 予後良好群:透析療法に至る可能性がほとんど無いもの。糸球体所見として軽度のメサンギウム細胞増殖と基質増加のみで、糸球体硬化・半月体の形成・ボウマン嚢との癒着は認めないもの。尿細管・間質・血管所見として、尿細管・間質・血管著変を認めないもの。2) 予後比較的良好群:透析療法に至る可能性が低いもの。糸球体所見として軽度のメサンギウム細胞増殖と基質増加を呈し、糸球体硬化・半月体の形成・ボウマン嚢との癒着を認める糸球体は全生検糸球体の10%未満であるもの。尿細管・間質・血管所見として、尿細管・間質・血管著変を認めないもの。3) 予後比較的不良群:5年以上・20年以内に透析療法に移行する可能性があるもの。糸球体所見として中等度のメサンギウム細胞増殖と基質増加を呈し、糸球体硬化・半月体の形成・ボウマン嚢との癒着を認める糸球体は全生検糸球体の10〜30%であるもの。尿細管・間質・血管所見として、尿細管萎縮は軽度で、間質では一部の硬化糸球体周囲以外には細胞浸潤は軽度であり、血管には軽度の硬化性変化を認める程度のもの。4) 予後不良群:5年以内に透析療法に移行する可能性があるもの。糸球体所見として高度のメサンギウム細胞増殖と基質増加を呈し、糸球体硬化・半月体の形成・ボウマン嚢との癒着を認める糸球体は全生検糸球体の30%以上であるもの。更に硬化部位を加算し全節性硬化に換算するとその硬化率は全糸球体の50%以上であるもの。また代償性肥大を示す糸球体を見ることがある。尿細管・間質・血管所見として、尿細管萎縮および間質細胞浸潤は高度であり、繊維化も高度であるもの。一部の腎内小動脈壁に肥厚あるいは変性を認めることがある。 IgA腎症に対する薬物療法の基本は、個々の患者の病態に適合した薬物を選択することである。クレアチニンクリアランス(Ccr)70mL/min以上かつ尿蛋白1〜2g/dayで、腎生検にて急性炎症所見が主体の症例が副腎皮質ステロイド療法の良い適応となる。一方、慢性病変を主体として緩徐に進行する症例にはレニン-アンジオテンシン系阻害薬やフィッシュオイルによる薬物療法が選択される。既に腎機能が中等度以上に低下し慢性硬化病変が主体をなす予後不良群ではステロイド療法のみでは長期的な腎機能保持は期待できず、その腎機能予後を改善しうる有効な治療法の開発が望まれている。その他にも抗血小板薬や抗凝固療法、クレメジン療法、扁桃摘出療法なども適応される場合がある。IgA腎症は若年で発症し、30〜40%の患者が末期腎不全に陥る疾患である。若くして透析療法を行なわざるをえなくなった場合の経済的・社会的負担は大きい。この様にIgA腎症の鑑別診断ならびに予後予測を可能とする診断には、現在精度の良い的確な指標が無いのが実状である。 世界的に、末期腎不全による透析患者が増加しており、医療経済上も大きな問題となってきている。腎障害、特に糖尿病性腎症やIgA腎症の病態を予測・診断することは、適切な治療を行なう上で最も重要である。一方、従来の診断技術で予後を予測したり、障害の程度を診断することは、診断の精度として不十分である。 糖尿病性腎症前期は尿中に微量アルブミン尿が存在せず、現在の臨床所見では腎症の存在を診断できない時期である。また早期腎症期は微量アルブミン尿が出現する病期とされる。腎機能は正常であるか、あるいは時に促進されているにも関わらず、この時期においても糸球体に結節性病変が存在する例も存在している。これらの所見から、微量アルブミン尿が糖尿病性腎症の早期診断指標として有用か否かが問題となる。近年、微量アルブミン尿を呈した糖尿病性腎症患者群(糖尿病性腎症第II期:早期腎症期)において、顕性アルブミン尿(糖尿病性腎症第III期:顕性腎症期)のステージを経過せず、直に腎不全(糖尿病性腎症第IV期)へ移行する急速進行性の腎障害事例が報告されている。このことから、アルブミン尿を腎疾患の予後予測および障害の程度(病態の進展)を的確かつ早期に判別するための指標とすることの臨床的意義に問題があるのではないかという議論がされている(非特許文献20、21)。 IgA腎症においては、腎生検の所見により、組織学的予後分類がなされ、予後の予測と治療方針の決定に用いられている。しかし、腎生検には幾つかの制約があり、腎生検の適応は、i)1日1.0g以上の尿蛋白がみられる場合、ii)原因不明の腎障害があるが、画像検査で腎臓が萎縮していない場合、iii)血尿が持続し進行する慢性腎炎が疑われる場合、iv)急速に腎機能が低下している場合、である。一方、腎生検の禁忌は、i)慢性的な腎機能障害のため画像検査ですでに腎臓が萎縮している場合、ii)出血傾向やコントロール不全な高血圧のため止血困難な場合、iii)多発性嚢胞腎の場合、iv)腎生検の実施中、検査中および検査後の安静が守れない患者や指示に従えない患者の場合、である。実際の臨床では腎生検を行えない場合が非常に多く、また、現在のところ、腎生検を行なうべきか否かの判断に的確かつ確固たる指標が存在していない。 また上述の糖尿病性腎症やIgA腎症に代表される慢性腎障害に加えて、急性腎不全(AKI)というものが注目・問題視されてきている。近年、AKIは、急性尿細管壊死という構造的異常だけではなく、腎血行動態の機能的異常が重要視されてきている。 急性腎不全とは急速に腎機能が低下した状態のことを示し、急性腎不全の多くは尿細管壊死による腎機能の低下を特徴とする。急性腎不全の原因として、腎前性腎不全、腎実質性腎不全、腎後性腎不全がある。腎前性腎不全は、外傷による出血、脱水、嘔吐、下痢などの細胞外液量の低下、心源性ショックなどの有効循環血液量の減少、および解離性大動脈瘤、腎動脈血栓症などによる腎血流の低下により、腎臓が虚血にさらされることにより生じるものである。腎実質性腎不全は、糸球体性のもの(急性糸球体腎炎、急速進行性糸球体腎炎、結節性多発動脈炎など)、急性尿細管壊死(アミノグリコシド系など抗生物質、消炎鎮痛薬、抗腫瘍薬、造影剤などによるもの)、急性間質性腎炎(βラクタム系など抗生物質、消炎鎮痛薬、抗けいれん薬などによるもの)など、直接腎組織に障害が引き起こされるものである。腎後性腎不全は、尿管の閉塞(尿管結石)、膀胱、尿道の閉塞(前立腺肥大、前立腺ガン)、骨盤部腫瘍など尿の通過する途中に閉塞が起こり、尿の排泄障害が引き起こされるものである。 急性腎不全は開心術・大動脈置換術後などICU管理の必要な疾患が多く、発症後、時間単位での病態の把握が必要となる。急性腎不全の生命予後改善は、早期診断・早期治療介入なくしては望めないのが現状である。 現在、急性腎不全の診断は通常、血清クレアチニン・尿量により行なわれていたが、これらの2項目による診断には問題があった。これら2項目には診断基準が定まっておらず、35通りの急性腎不全の定義が存在することとなっていた。この問題を解決するために、世界的な取り組みとして、急性腎不全ネットワークがつくられ、急性腎不全の診断基準が提言された。当該診断基準では、(1)血清クレアチニンが1.5倍以上の上昇、または0.3mg/dL以上の上昇、(2)1時間当たり0.5mL/kgの乏尿が6時間以上継続、を満たす段階で、急性腎不全と診断すると示されている。さらに、慢性腎臓病のステージ分類と同様に、特に急性腎不全のステージ分類(RIFLE分類・AKIN分類など)が提唱されている。 しかしながら、上記2項目による診断にはなお、問題が存在する。血清クレアチニンは、腎障害に伴って糸球体濾過量が低下しても、すぐに上昇せず、一方、糸球体濾過量が回復傾向にあっても、しばらく上昇し続けることがあり、血清クレアチニンは急性の変化をとらえる早期マーカーならびに治療効果のモニタリング、予後予測マーカーとしての有用性は高いとはいえない。さらに、血清クレアチニンは体重、人種、性別、薬物、筋代謝、栄養状態などの腎外性因子の影響を受けやすい。また尿量は診断に時間がかかるため、発症後は時間単位での病態把握が必要である急性腎不全のマーカーとしては適していない。したがって、測定が簡単で、他の生物学的因子の影響を受けにくく、さらに疾患の早期発見とリスク分類、予後予測を可能とするバイオマーカーの開発が急務である。国際公開第WO 2007/119563号明細書Christensen E.I. , Willnow T.E. (1999) J.Am.Soc.Nephrol. 10 , 2224-2236Zheng G , McCluskey R.T. et al. (1994) J.Histochem. Cytochem. 42 , 531-542Mausbach A.B. , Christensen E.I. (1992) Handbook of physiology : Renal Physiology , Windhager , editor , New York , Oxford University Press , 42-207Keen H. , Chlouverakis C. (1963) Lancet II , 913−916Tojo A. , Endou H. et al. (2001) Histochem. Cell. Biol. 116 (3) , 269-276Tucker B.J. , Blantz R.C. et al. (1993) J. Clin. Invest. 92 (2) , 686-694Evangelista C. , Capasso G. et al. (2006) G. Ital. Nefrol. 34 , S16-20Pollock C.A. , Poronnik P. (2007) Curr. Opin. Nephrol. Hypertens. 16 (4) , 359-364Rippe C. , Rippe B. et al. (2007) Am. J. Physiol. Renal. Physiol. 293 (5) , F1533-1538Blanz R.C. , Thomson S.C. et al. (2007) Trans. Am. Clin. Climatol. Assoc. 118 , 23-43Hosojima M. , Saito A. et al. (2008) Endocriology. 16Baines R.J. , Brunskill N.J. (2008) Nephron. Exp. Nephrol. 110 (2) , e67-71Motoyoshi Y. , Ichikawa I. et al. (2008) Kidney. Int. 74 (10) , 1262-1269Vegt E. , Boerman O.C. et al. (2008) J. Nucl. Med. 49 (9) , 1506-1511Haraldsson B. , Deen W.M. et al. (2008) 88 (2) , 451-487Odera K. , Takahashi R. et al. (2007) 8 (5) , 505-515Brunskill N. (2001) Am. J. Kidney. Dis. 37 , S17-20Cui S. , Christensen E.I. et al. (1996) Am. J. Physiol. 271 , F900-7Saito A. , Gejyo F. et al. (2005) Ann. N. Y. Acad. Sci. 1043 , 637-643Perkins B.A. , Krolewski A.S. et al. (2007) J. Am. Soc. Nephrol. 18 (4) 1353-1361de Boer I.H. , Steffes M.W. (2007) J. Am. Soc. Nephrol. 18 (4) 1036-1037Araki S. , Sugimoto T. et al. (2005) Diabetes. 54 , 2983-2987Tojo A. , Fujita T. et al. (2003) Hypertens. Res. 26 (5) , 413-419 本発明は、糖尿病性腎症、IgA腎症等の腎障害の検出用マーカーおよび該マーカーを用い腎障害の検出方法の提供を目的とする。 上記のように、腎障害の予後予測および障害の程度(病態の進展)を的確かつ早期に判別するための新規の検出マーカーならびに該マーカーを用いた腎障害の早期検出法の開発が望まれていた。しかしながら、従来はそのようなマーカーおよび判定法は存在しなかった。このようなマーカーが存在すれば、腎障害の予後予測および障害の程度(病態の進展)を的確かつ早期に判別することができ、進行性腎障害の発症・進展の阻止に向けた予防治療を施すことが可能になる。 本発明者らは、腎障害の予後予測および障害の程度(病態の進展)を的確かつ早期に判別するためのマーカーを新たに開発すべく鋭意研究を重ねた結果、予後不良の出現度の高い糖尿病性腎症、特に2型糖尿病性腎症やIgA腎症等の進行性腎障害において、病態の進行とともに尿中に出現するメガリンというバイオマーカーを見出した。すなわち、糖尿病性腎症、特に2型糖尿病性腎症やIgA腎症等の進行性腎障害患者の尿中メガリン排泄量は、正常人に比して高く、腎障害の予後予測や障害の程度(病態の進展)の診断マーカーとして有用であることを見出した。本発明者はさらにメガリンをマーカーとする、腎障害、特に糖尿病性腎症やIgA腎症を検出する為の検出キットを開発した。該キットにおいては、尿を採取後、検出試薬を用いてヒトメガリンの尿中濃度を定量的に測定し、その尿中排泄量を以って、腎障害の予後予測や障害の程度(病態の進展)の診断の指標とする。この診断キットによると、腎障害の病態を把握することが可能となる。従来、腎障害、特に糖尿病性腎症やIgA腎症の予後予測や障害の程度(病態の進展)の診断は困難であったが、この診断キットにより治療効果を予測または監視することも可能となり、より有効な治療法を提供することも可能となる。 すなわち本発明は以下の通りである。[1] 被験体から得られた尿からの腎障害の検出のための診断マーカーとしての尿中ヒトメガリンの使用。[2] 腎障害の検出が予後予測を行うための検出である、[1]の尿中ヒトメガリンその使用。[3] 腎障害の予後予測が、尿細管機能障害を評価するためのものである、[2]のヒトメガリンの使用。[4] 腎障害の検出が障害の程度を評価するための検出である、[1]の尿中ヒトメガリンの使用。[5]腎障害の程度の評価が、尿細管機能障害を評価するためのものである、[4]のヒトメガリンの使用。[6] 腎障害が糖尿病性腎症、IgA腎症、ネフローゼ症候群、慢性糸球体腎炎、膜性腎症、ANCA関連腎炎、全身性エリテマトーデス(ループス腎炎)、紫斑病性腎炎、間質性腎炎、半月体形成性腎炎、巣状糸球体硬化症、腎硬化症、急性腎不全、慢性腎不全、腎アミロイドーシス、強皮症腎、シェーグレン症候群による間質性腎炎および、薬剤性腎症からなる群から選択される、[1]〜[5]のヒトメガリンの使用。[7] 腎障害が糖尿病性腎症である[1]〜[5]のヒトメガリンの使用。[8] 腎障害がIgA腎症である[1]〜[5]のヒトメガリンの使用。[9] 腎障害が急性腎不全である[1]〜[5]のヒトメガリンの使用。 本明細書は本願の優先権の基礎である日本国特許出願2009-108493号の明細書および/または図面に記載される内容を包含する。 腎障害、特に、糖尿病性腎症、IgA腎症、ネフローゼ症候群、慢性糸球体腎炎、膜性腎症、ANCA関連腎炎、全身性エリテマトーデス(ループス腎炎)、紫斑病性腎炎、間質性腎炎、半月体形成性腎炎、巣状糸球体硬化症、腎硬化症、急性腎不全、慢性腎不全、腎アミロイドーシス、強皮症腎、シェーグレン症候群による間質性腎炎、薬剤性腎症の患者の尿中メガリン排泄量を測定することで、進行性腎障害の活動度(進展の程度や予後)を評価できる。腎症の発症と進展を阻止する為には、腎障害の部位と程度を評価し、エビデンスに基づいた積極的な治療が必要である。尿中メガリン排泄増多は、腎近位尿細管の障害と該部位での再吸収能の破綻の程度を評価できる。これまでの腎障害診断マーカーは何れも腎障害部位および該部位の機能評価の判断はできない。 また、尿中メガリンは腎症早期から尿中へ排泄増多が認められる為、これまでの腎障害診断マーカーより早期からの腎障害の診断に効果を奏す。よって、尿中メガリンは、これまでの腎障害診断マーカーに比して、障害の部位およびその程度を的確且つより早期に判断できる。従って、腎障害の予後予測ならびに障害の程度(病態の進展)を的確かつ早期に判別することに効力を有し、より早期からの予防医療の立場から有用である。2型糖尿病性腎症(71例)、IgA腎症(81例)、ネフローゼ症候群(18例)での疾患別のヒトメガリンの尿中排泄量測定結果(クレアチニン補正値)を示す図である。少数例のその他の腎症例での疾患別のヒトメガリンの尿中排泄量測定結果(クレアチニン補正値)を示す図である。IgA腎症(59例)での組織学的予後分類でのIgA腎症 (腎生検組織学的予後分類)別のヒトメガリンの尿中排泄量測定結果(クレアチニン補正値)を示す図である。2型糖尿病性腎症(71例)でのアルブミン尿分類(障害の重傷度分類)での糖尿病性腎症病期分類別のヒトメガリンの尿中排泄量測定結果(クレアチニン補正値)を示す図である。健常人(66例)および2型糖尿病性腎症(71例)における、糖尿病性腎症病期分類別の尿中アルブミン濃度(クレアチニン補正値)と尿中ヒトメガリン濃度(クレアチニン補正値)の相関性を示す図である。糖尿病性腎症病期分類の第I〜III期(68例)における、糖尿病性腎症病期分類別の推算糸球体濾過量への尿中ヒトメガリン濃度(クレアチニン補正値)の適合性を示す図である。糖尿病性腎症病期分類の第I〜III期(68例)における、糖尿病性腎症病期分類別の推算糸球体濾過量への尿中アルブミン濃度(クレアチニン補正値)の適合性を示す図である。急性腎不全患者でのヒトメガリンの尿中排泄量測定結果(クレアチニン補正値)を示す図である。急性腎障害群(5例)の各原疾患としては、1:脳梗塞、2:腸管壊死に伴う敗血症性ショック、3:肝移植、4:急性肺炎・呼吸不全、5:心原性ショック、である。 以下、本発明を詳細に説明する。 本発明においては、尿検体中のヒトメガリンを腎障害のマーカーとして利用する。配列番号1にヒトメガリンのヌクレオチド配列、配列番号2にヒトメガリンのアミノ酸配列を表す。尿中ヒトメガリンはいかなる方法を用いて測定してもよい。例えば、ヒトメガリンに結合性を有するリガンドを用いて測定することができる。 一例として、ヒトメガリンに結合性を有する2つのリガンドを用い、第1のリガンドを固相に結合し、第2のリガンドを標識して用いる方法が挙げられる。 固相としては、従来の免疫分析において用いられている何れのものをも用いることができ、例えば、プラスチック製のマイクロタイタープレートのウェルや、磁性粒子等を好ましく用いることができる。ヒトメガリンに結合性を有するリガンドとしては、例えば抗ヒトメガリン抗体が挙げられ、モノクローナル抗体もポリクローナル抗体も用いることができる。また、ヒトメガリンに結合性を有するリガンドとして、ヒトメガリンの糖鎖に特異的なレクチンを用いることもできる。レクチンとしては、コンカナバリンA、コムギ胚レクチン(WGA)、ヒマレクチン(RCA)、レンズマメレクチン(LCA)等が挙げられるがこれらには限定されない。さらに、ヒトメガリンに結合性を有するリガンドとして、トランスコバラミンビタミンB12(Transcobalamin-vitamin B12)、ビタミンD結合タンパク質(Vitamin-D-binding protein)もしくはレチノール結合タンパク質(Retinol-binding protein)等のビタミン結合性タンパク質(Vitamin-binding proteins);アポリポプロテインB(Apolipoprotein B)、アポリポプロテインE(Apolipoprotein E)、アポリポプロテインJ/クラステリン(ApolipoproteinJ/clusterin)もしくはアポリポプロテインH(Apolipoprotein H)等のリポプロテイン;副甲状腺ホルモン(PTH)、インスリン、上皮細胞成長因子(EGF)、プロラクチン、レプチンもしくはサイログロブリンまたはこれらの受容体等のホルモンまたはそれらのホルモンの受容体;イムノグロブリン軽鎖、PAP-1もしくはβ2-マイクログロブリン等の免疫およびストレス応答関連タンパク質;Enzymes and enzyme inhibitors : PAI-I、PAI-I-ウロキナーゼ、PAI-I-tPA、プロウロキナーゼ、リポプロテインリパーゼ、プラスミノーゲン、α-アミラーゼ、β-アミラーゼ、α1-マイクログロブリンもしくはリゾチームまたはこれらのインヒビター等の酵素またはそれらの酵素のインヒビター;アミノグリコシド、ポリミキシンB、アプロチニン(Aprotinin)もしくはトリコサンチン(Trichosantin)等の薬剤または毒物;アルブミン、ラクトフェリン、ヘモグロビン、匂い物質結合タンパク質(Odorant-binding protein)、トランスサイレチンもしくはL-FABPであるキャリアタンパク質;ならびにチトクローム−c、カルシウム(Ca2+)、後期糖化生成物(advanced glycation end products(AGE))、キュビリンもしくはNa+-H+交換輸送体アイソフォーム(Na+-H+exchanger isoform 3(NHE3))等の受容体関連タンパク質(RAP)、からなる群から選択される物質またはその結合性断片等が挙げられる。ここで、結合性断片とは、前記物質の断片であって、ヒトメガリンと結合する部位を含む断片をいう。 抗ヒトメガリン抗体等のヒトメガリンに結合性を有するリガンドの固相への結合は、従来からこの分野において周知の方法で行うことができ、例えば、マイクロタイタープレートのウェル等に結合する場合には3〜10μg/mL程度(好ましくは5μg/mL程度)の抗体等のヒトメガリンに結合性を有するリガンド溶液を固相に加え、4℃で一夜(好ましくは12時間以上)放置することにより行うことができる。尚、固相濃度に関しては、上記記載の推奨濃度幅は完全長の抗体を固相する際に、理論的に算出した値である。その理論式は、 Q = (2 / √3)・(MW / N)・(2r)−2・109 (ng / cm2) Q : molecular weight density (ng / cm2) MW : molecular weight (dalton:Da) N : Avogadro’s number = 6・1023 (mole−1) r : Stokes radius of molecular = (R・T20) / (6・π・η20・D20・N) (cm) R : gas constant = 8.3・107 (g・cm2・sec−2・°K−1・mole−1 T20 : room temperature(20℃) = 293°K η20 : viscosity of water at 20℃ = 1・10−2 (g・cm−1・sec−1) D20 : diff. coeff. of molecular ref. to water at 20℃ (cm2・sec−1)であり、これは物理吸着様式による固相化の際に適応される。従って、ヒトメガリンに結合性を有するリガンドの固相化においては、個々の分子量等の上記変動因子に左右された理論上の固相濃度が設定される為、個々の固相分子種および、固相面の形状等で異なる。従って、上記の固相濃度に限定されるものではない。また、固相吸着様式が、共有結合の場合にも、本発明は適応されるが、この場合は吸着面に存在する、共有結合に用いる官能基の数等も加味される為、これについても、固相濃度は限定されるものではない。結合後、タンパク質の非特異的吸着部位をブロックする為に、定法に基づき、ウシ血清アルブミン(以下、BSAと略す)やカゼイン等でブロッキングを行う。また、固相が磁性粒子の場合も、上記マイクロタイタープレートの場合と同様である。 このように固相に結合された抗ヒトメガリン抗体等のヒトメガリンに結合性を有するリガンドと、尿検体を反応させ、尿検体中のヒトメガリンを、抗原抗体反応等のリガンド-レセプター結合反応により前記固相に結合されたヒトメガリンに結合性を有するリガンドを介して固相に結合させる。すなわち、固相に結合された抗ヒトメガリン抗体等のヒトメガリンに結合性を有する第1のリガンド-ヒトメガリンの複合体を形成させる。この抗原抗体反応は4℃〜45℃、より好ましくは20℃〜40℃、さらに好ましくは25℃〜38℃で行うことができ、また、反応時間は、10分〜18時間、より好ましくは10分〜1時間、さらに好ましくは30分〜1時間程度である。 次いで、洗浄後、ヒトメガリンに結合性を有する第2のリガンドを、前記固相に結合された検体中のヒトメガリンと反応させる。すなわち、固相に結合された抗ヒトメガリン抗体等のヒトメガリンに結合性を有する第1のリガンド-ヒトメガリン-ヒトメガリンに結合性を有する第2のリガンドの複合体を形成させる。ヒトメガリンに結合性を有する第2のリガンドとしては抗ヒトメガリン抗体等、ヒトメガリンに結合性を有する第1のリガンドと同じものを用いることができる。但し、ヒトメガリンに結合性を有する第1のリガンドおよびヒトメガリンに結合性を有する第2のリガンドの両方が抗ヒトメガリンモノクローナル抗体である場合、第1の抗ヒトメガリン抗体と第2の抗ヒトメガリン抗体が認識・結合するエピトープは異なっている必要がある。なお、第1の抗ヒトメガリン抗体および第2の抗ヒトメガリン抗体の組合せとしては、モノクローナル抗体およびモノクローナル抗体、モノクローナル抗体およびポリクローナル抗体、ポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体ならびにポリクローナル抗体およびポリクローナル抗体の組合せがあるが、いずれの組合せも用いることができる。この反応は4℃〜45℃、より好ましくは20℃〜40℃、さらに好ましくは25℃〜38℃で行うことができ、また、反応時間は、10分〜18時間、より好ましくは10分〜1時間、さらに好ましくは30分〜1時間程度である。これにより、ヒトメガリンに結合性を有する第2のリガンドは、ヒトメガリンおよびヒトメガリンに結合性を有する第1のリガンドを介して固相に結合される。 次いで、洗浄後、固相に結合された第2の抗ヒトメガリン抗体等のヒトメガリンに結合性を有する第2のリガンドを測定する。これは、免疫分析の分野において定用されている種々の方法により行うことができる。例えば、ヒトメガリンに結合性を有する第2のリガンドを、酵素、蛍光、ビオチン、放射標識等で標識して酵素標識体を作製しておき、これらの標識を測定することにより固相に結合したヒトメガリンに結合性を有する第2のリガンドを測定することができる。これらのうち、酵素あるいは蛍光による標識が好ましく、酵素としてはペルオキシダーゼ、アルカリフォスファターゼ、β‐ガラクトシダーゼおよびグルコースオキシダーゼ等が、蛍光としてはFluorescein Isothiocyanate(FITC)等が挙げられるがこの限りではない。標識の検出は、対応する基質と酵素標識体とを反応させ、反応の結果生じる色素、蛍光、発光等を測定することにより行うことができる。あるいは、ヒトメガリンに結合性を有する第2のリガンドが標識されていない場合には、ヒトメガリンに結合性を有する第2のリガンドに対する、標識された第3の抗体を反応させ、この標識に基づき第3の抗体を測定することによってもヒトメガリンに結合性を有する第2のリガンドを測定することができる。 なお、固相あるいは標識に用いる抗ヒトメガリン抗体は、ヒトメガリンに対して特異的なFabやF(ab’)2のような免疫グロブリン断片、あるいは、組換え体として発現されたscFv、dsFv、diabody、minibody等の組換え抗体であってもよい。本発明において、「抗体」という語は、ヒトメガリンに特異的なこれらの断片をも包含する。これらの断片の調製方法はこの分野において周知である。 上記の方法は、固相に結合された抗ヒトメガリン抗体等のヒトメガリンに結合性を有する第1のリガンドと検体を反応させ、次いで洗浄し、その後にヒトメガリンに結合性を有する第2のリガンドを反応させる2ステップからなる方法である。固相に結合された抗ヒトメガリン抗体等のヒトメガリンに結合性を有する第1のリガンドと検体との反応と検体とヒトメガリンに結合性を有する第2のリガンドとの反応を同時に行わせる1ステップからなる方法を採用してもよい。 本発明は、さらに固相に結合したヒトメガリンもしくはヒトメガリンの一部断片およびヒトメガリンに結合性を有するリガンドを用いて検体中のヒトメガリンを測定する方法であって、検体とヒトメガリンに結合性を有するリガンドを反応させ、次いで、該反応物と前記固相に結合したヒトメガリンを反応させ、固相に結合したヒトメガリンに結合性を有するリガンドを測定し、固相に結合した該ヒトメガリンに結合性を有するリガンドの減少率に基づいて、検体中のヒトメガリンを競合的に定量する、検体中のヒトメガリンを測定する方法をも包含する。この方法のためには、ヒトメガリンを固相に結合する必要があるが、前記の物質の固相へ結合の方法に従って行うことができる。また、ヒトメガリンの一部断片は限定されず、ヒトメガリンに結合性を有するリガンドが結合するヒトメガリンの一部断片を用いればよい。ヒトメガリンの一部断片としては、配列番号2に表されるヒトメガリンのアミノ酸配列の一部部分配列を化学合成や遺伝子工学の手法により作製して用いることができる。ヒトメガリンに結合性を有するリガンドは前記のものを用いることができ、その中でも抗ヒトメガリン抗体が好ましい。競合法においては、用いる固相に結合したヒトメガリンもしくはヒトメガリンの一部断片およびヒトメガリンに結合性を有するリガンドの量が重要であるが、競合法は公知であり、公知技術に基づいて、適宜決定することができる。 さらに、本発明は、ヒトメガリンに結合性を有するリガンドを用いて検体中のヒトメガリンを測定する方法であって、検体と粒子に結合したヒトメガリンに結合性を有するリガンドとを反応させ、凝集反応を生起させた後、得られた凝集の程度に基づいてヒトメガリンを測定するヒトメガリンを測定する方法を包含する。 該方法において用いられる粒子としては、直径0.05〜10μmの、好ましくは直径0.1〜0.4μmのラテックス、直径0.5〜10μmのゼラチン粒子および動物赤血球を挙げることができる。粒子への抗体の結合方法は、この分野において周知であり、物理吸着あるいは共有結合のどちらの結合様式をも適応可能である。 該方法において、粒子上に抗ヒトメガリン抗体が結合されている粒子と検体とを、例えば、黒色のスライドグラス上で混合し、凝集して沈殿する粒子の有無を観察することにより検対中のヒトメガリンを検出することができる。また、この凝集の吸光度測定によりヒトメガリンを定量することもできる。更にまた、Pulse Immunoassayにより検出することも可能である。 本発明のヒトメガリンの測定方法を用いることにより、インタクトなヒトメガリンだけではなく、ヒトメガリンの断片を測定することもできる。 腎障害の患者である被験体から採取し得られた尿中のヒトメガリンをマーカーとして使用することにより、腎障害を検出することができる。腎障害としては、糖尿病性腎症、特に2型糖尿病性腎症や、IgA腎症、ネフローゼ症候群、慢性糸球体腎炎、膜性腎症、ANCA関連腎炎、全身性エリテマトーデス(ループス腎炎)、紫斑病性腎炎、間質性腎炎、半月体形成性腎炎、巣状糸球体硬化症、腎硬化症、急性腎不全、慢性腎不全、腎アミロイドーシス、強皮症腎、シェーグレン症候群による間質性腎炎、薬剤性腎症等が挙げられる。尿中ヒトメガリンは腎症早期から尿中への排泄増多が認められるため、これまでの腎障害診断マーカーより早期から腎障害を検出することができる。また、腎近位尿細管の障害および該部位での再吸収能の破綻により、ヒトメガリンの尿中への排泄が増大するので、尿中ヒトメガリンの測定は、腎臓の障害を有する部位の判定にも利用することができる。さらに、尿中ヒトメガリンの測定は、進行性腎障害の活動度(進展の程度や予後)の評価に利用することができる。さらに、尿中ヒトメガリンの測定は、腎障害の予後予測および障害の程度(病態の進展)の判別に利用することができ、より早期から腎障害を予防することを可能にする。ここで、本発明において、「腎障害の検出」とは、腎障害の検査ともいい、該検出を行うことにより、糖尿病性腎症、特に2型糖尿病性腎症、IgA腎症等の腎障害の予後を予測することができ、また、糖尿病性腎症、特に2型糖尿病性腎症、IgA腎症等の腎障害の程度を評価することができる。腎障害の早期から、尿中にヒトメガリンが排泄され、腎障害の程度が重篤になるにつれ、排泄量が多くなり、尿中のヒトメガリン濃度が高くなる。また、腎障害患者である被験体において、尿中のヒトメガリン濃度が高い場合、予後が不良になり得ると予測することができる。また、尿中ヒトメガリンをマーカーとして、尿細管機能障害を検出することができ、また、尿細管機能障害の程度を評価することができる。すなわち、上記の腎障害の予後予測は、尿細管機能障害を評価するためのものでもあり、腎障害の程度の評価は、尿細管機能障害の程度を評価しうるためのものでもある。 本発明を以下の実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。実施例1 抗ヒトメガリン・マウスモノクローナル抗体の作製 ヒトメガリン50μgをマウス腹腔にアジュバントと共に数回免疫し、その血清力価が上昇したことを確認した。追加免疫(静脈内)後3日目に脾臓を取り出し、脾細胞を得た。これとマウスミエローマ細胞をポリエチレングリコール3500の存在下(10:1細胞)で融合させ、ハイブリドーマ細胞を作製した。この細胞を1週間CO2気下37℃で培養し、その培養上清中の抗ヒトメガリン抗体の有無を調べた。そこで抗体産生を認めた陽性ウェル中の細胞を限界希釈法により希釈し2週間培養し、同様に培養上清の抗ヒトメガリン抗体の有無を調べた。更にその後、抗体産生を認めた陽性ウェル中の細胞を再度限界希釈し、同様の培養を行った。この段階で抗ヒトメガリン抗体を産生している細胞を、フラスコにて培養し、その一部をジメチルスルホキシド(DMSO) 10%含有ウシ胎児血清(FCS)にサスペンドし(5×106個/mL)、液体窒素中に保存した。 次に各ウェルの上清を用い、ヒトメガリンに対する培養上清中の産生抗体の反応性を調べた。ヒトメガリンを140mM NaCl,2.7mM KCl,10mM Na2HPO4,1.8mM KH2PO4,pH7.3(以下、PBS,pH7.3と略す)に溶解した。プラスチック製マイクロタイタープレート(Nunc-ImmunoTM Module F8 MaxisorpTM Surface plate, Nalge Nunc International社製)のウェルに、1ウェル当たり100μLの、上記ヒトメガリン/PBS,pH7.3溶液を加え、3pmol/ウェル、4℃、12時間の条件下で、ヒトメガリンをマイクロタイタープレート上に固相化した。12時間後、ウェルに加えておいたヒトメガリン/PBS,pH7.3溶液をデカンテーションにより除去し、そのマイクロタイタープレートのウェルへ、洗浄液を200μL/ウェルで添加し、デカンテーションによる除去を行い、ウェル内の吸着過剰分のヒトメガリンを洗浄した。この洗浄工程を計2回行った。その後、抗原固相プレートブロッキング液を200μL/ウェルで添加し、4℃、12時間の条件化でヒトメガリン固相化マイクロタイタープレートのウェル内のブロッキングを行った。12時間経過後、4℃のままで保存状態とした。培養上清中の抗体の反応性を確認する為に、このブロッキング完了後のヒトメガリン固相化マイクロタイタープレートを用いた。上記ヒトメガリン固相化マイクロタイタープレートのウェルへ、ハイブリドーマ培養上清を100μL/ウェルで加え、37℃、1時間加温した。その後、ウェルに加えておいた培養上清をデカンテーションにより除去し、そのマイクロタイタープレートのウェルへ洗浄液を200μL/ウェルで添加し、デカンテーションによる除去を行い、ウェル内の洗浄をした。この洗浄工程を計3回行った。その後、ウェルへPeroxidase-Conjugated Goat Anti-Mouse Immunoglobulins(DAKO社製)を100μL/ウェル(2000倍希釈:0.55μg/mL)で加え、37℃、1時間加温した。この酵素標識抗体の希釈には、酵素標識抗体希釈液を用いた。その後、ウェルに加えておいた酵素標識抗体をデカンテーションにより除去し、そのマイクロタイタープレートのウェルへ洗浄液を200μL/ウェルで添加し、デカンテーションによる除去を行い、ウェル内の洗浄をした。この洗浄工程を計3回行った。その後、ウェルへ3,3’,5,5’-tetramethylbenzidine(以下、TMBと略す)溶液(TMB One-Step Substrate System:DAKO社製)をペルオキシダーゼ酵素反応基質溶液として、100μL/ウェルで加え、25℃、30分放置した。その後直ちに、そのウェル内の基質反応液へ反応停止液を100μL/ウェルで添加し、ウェル内での酵素反応を停止させた。その後、本ウェルの吸光度を測定し、450nmの吸光度から630nmの吸光度を差し引いた数値を反応性評価の指標とした。 その結果、固相化したヒトメガリンへ抗ヒトメガリン抗体の強い反応性を示すモノクローナル化ハイブリドーマ細胞を選択し、本培養上清中のイムノグロブリンのクラスとサブクラスをImmunoglobulin Typing Kit,Mouse(和光純薬工業社製)を用いて、培養上清原液100μLから、各クローン毎に確認した。その結果を基に、得られた単クローン細胞ライブラリーの中から、IgGクラスに限定して後述する腹水化へ移行した。 次に、これらの細胞を25mLのフラスコで培養し、更に75mLのフラスコで培養した。この細胞をプリスタン処理マウス腹腔中に注射し、腹水を採取した。実施例2 抗ヒトメガリン・マウスモノクローナル(IgG)抗体の精製 得られた腹水(10mL)と混濁血清処理剤(FRIGEN(登録商標)II:協和純薬工業社製)を、腹水1.5容に対してFRIGEN(登録商標)IIを1容の比率で混和し、1〜2分攪拌振とうすることで、腹水からの脱脂を行った。遠心機で3000rpm(1930×g)、10分間遠心分離を行い、清澄化された腹水遠心上清(10mL)を分取した。この腹水遠心上清(10mL)に硫安分画処理(終濃度50%飽和硫安)を氷浴中で1時間施し、沈降したイムノグロブリン画分をPBSで懸濁溶解させた。この硫安分画操作を計2回行い、腹水からのイムノグロブリン粗画分を得た。得られたイムノグロブリン粗画分(10mL)に対して等量の20mMリン酸ナトリウム, pH7.0(以下、20mM NaPB,pH7.0と称す)を混合し、プロテインGカラム(HiTrap Protein G HP,5mL:GEヘルスケア社製)を用いてアフィニティー精製を行った。サンプルをプロテインGカラムに吸着後、20mM NaPB,pH7.0(50mL)をプロテインGカラム内に通し、サンプル中のIgG以外の夾雑物を洗浄除去した。その後、プロテインGカラムにアフィニティー吸着したIgGは、0.1M グリシン-HCl,pH2.7で溶出させ、カラムからの溶出直後の溶出画分を1M Tris(hydroxymethyl)aminomethane-HCl,pH9.0(以下、Tris(hydroxymethyl)aminomethaneをTrisと略す)で中和し回収した。中和後、アフィニティー精製物に対して500倍容のPBSで4℃、6時間の透析を行い、本透析は計2回行った。本透析操作に用いた透析膜は透析用セルロースチューブ(Viskase Companies社製)で行った。そこで得られたIgG溶出画分を、抗ヒトメガリンモノクローナル抗体の精製物とし、4℃での保存ならびに後述する操作に用いることとした。尚、本精製には、BioLogic LPシステム(Bio Rad Laboratories社製)に上述のプロテインGカラムを接続し、流速は1mL/minで一貫して行った。実施例3 尿中ヒトメガリンの測定 認識するエピトープの異なる2種の抗ヒトメガリンモノクローナル抗体を用いてヒトメガリンの尿中排泄量を測定した。抗ヒトメガリンモノクローナル抗体固相化マイクロタイタープレートと、アルカリフォスファターゼ(以下ALPと略す)標識化抗ヒトメガリンモノクローナル抗体を用いて、尿中ヒトメガリン濃度を測定した。先ず、原尿90μLと2M Tris-HCl,0.2M Ethylenediamine-N,N,N’,N’-tetraacetic acid(以下、Ethylenediamine-N,N,N’,N’-tetraacetic acidをEDTAと略す),10%(vol./vol.) Polyethylene Glycol Mono-p-isooctylphenyl Ether(以下、Polyethylene Glycol Mono-p-isooctylphenyl EtherをTriton X-100と略す), pH8.0溶液10μLを混合し、該混合液100μLを抗ヒトメガリンモノクローナル抗体固相化マイクロタイタープレート(FluoroNuncTM Module F16 Black-MaxisorpTM Surface plate , Nalge Nunc International社製)のウェルへ加えた。37℃で1時間放置し、その後、ウェルに加えておいた尿サンプル溶液をデカンテーションにより除去し、そのマイクロタイタープレートのウェルへ、137mM NaCl,2.68mM KCl,25mM Tris-HCl,0.05%(v./v.) Tween20(以下、TBS-Tと略す)を200μL/ウェルで添加し、デカンテーションによるTBS-Tの除去を行い、洗浄を行った。この洗浄工程を計3回行った。その後、ALP標識化抗ヒトメガリンモノクローナル抗体(0.5ng/mL)溶液を100μL/ウェルで加えた。ALP標識化抗ヒトメガリンモノクローナル抗体は0.2%(wt./v.)casein含有TBS-T(以下標識抗体希釈液)にて調製した。37℃で1時間放置し、その後、ウェルに加えておいたALP標識化抗体溶液をデカンテーションにより除去し、そのマイクロタイタープレートのウェルへ、TBS-Tを200μL/ウェルで添加し、デカンテーションによるTBS-Tの除去を行い、洗浄を行った。この洗浄工程を計4回行った。その後、そのマイクロタイタープレートのウェルへ、20mM Tris-HCl , 1mM MgCl2、pH9.8(以下、Assay Bufferと略す)を200μL/ウェルで添加し、デカンテーションによるAssay Bufferの除去を行い、洗浄を行った。この洗浄工程を計2回行った。次に、ウェルへCDP-Star(登録商標) Chemiluminescent Substrate for Alkaline Phosphatase Ready-to-Use (0.4mM) with Emerald-IITM Enhancer(ELISA-LightTM System:Applied Biosystems社製)をALP酵素反応基質溶液として、100μL/ウェルで加え、37℃、30分遮光放置した。その後直ちに、本ウェルの1秒間の積算発光強度を測定し、測定値を尿中完全長ヒトメガリン測定評価の指標とした。化学発光強度の測定には、Microplate Luminometer Centro LB960とMicroWin2000 software(Berthold社製)を用いた。検量線の標準品としては、腎臓から抽出したNative-ヒトメガリンを使用した。尚、尿中ヒトメガリン測定の臨床結果を、図1および図2に示す。測定対象とした2型糖尿病性腎症患者(71例)、IgA腎症患者(81例)およびネフローゼ症候群患者(18例)の患者背景を表1に示す。図1および表2は、2型糖尿病性腎症、IgA腎症およびネフローゼ症候群の臨床結果を示す。 図1および表2に示すように、尿中メガリン排泄量は、健常人に比して各疾患群で有意に上昇していることが判明した。尚、尿中へのメガリン排泄量の評価に際しては、尿中メガリン濃度を尿中クレアチニン濃度で割って濃度補正したクレアチニン補正値を評価した。これは尿排泄時の濃縮率の影響ではないことを検証する為に、尿中バイオマーカーに常用されているものである。尚、健常人66例から求めた尿中メガリン排泄量の基準値(正常範囲)としては、448fmol(尿メガリン) / g(尿クレアチニン)を用いた。これは、健常人66例の尿中メガリン濃度(クレアチニン補正値)の正規分布から95%信頼区間を求め、この95%信頼区間の上限値が448fmol(尿メガリン) / g(尿クレアチニン)であり、この値を以って、尿中メガリン濃度の基準値として用いた。ただし、今回得られた基準値は、測定系プラットフォームや基準標準物質の規格設定方法の変更によっては変動する場合があり、本値を以って絶対的なCut-Off値として恒久的に使用するものではない。すなわち、Cut-Off値は、448fmol(尿メガリン) / g(尿クレアチニン)には特に限定されない。ただし、本実施例の結果は、該値が一貫して妥当性のある設定基準値として捉えることができることを示唆する。さらに、図2に示すように、少数例ではあるが、慢性糸球体腎炎、膜性腎症、ANCA関連腎炎、ループス腎炎、紫斑病性腎炎、半月体形成性腎炎、巣状糸球体硬化症、腎硬化症、急性腎不全、慢性腎不全、微小糸球体病変、強皮症、移植後腎障害、間質性細胞浸潤、多発性骨髄腫、肥満関連腎症においても健常人に比して、各疾患で尿中メガリン排泄量が高値を認め、上述の尿中メガリン基準値を超える尿中メガリン高値症例が大多数であり、該各疾患においても尿中メガリンの腎障害診断マーカーとして有用であることが判明した。 本実施例によって、尿中ヒトメガリンが特異的に測定評価でき、尿中ヒトメガリンは2型糖尿病性腎症やIgA腎症、ネフローゼ症候群およびその他の腎症例において排泄増多が見られたことから、腎症の病態把握および診断に効果を奏するものと考えられた。実施例4 IgA腎症(59例)における腎生検組織学的予後分類を指標とした場合の、尿中メガリンおよび他の腎障害マーカーの予後予測診断における有用性の比較(有意差検定) 実施例3で得られたIgA腎症81例のヒトメガリン尿中排泄濃度データ中で、腎生検を行った59例に関して、腎生検から得られた組織学的予後分類を指標としてサブ解析を行なった。この解析の目的は、IgA腎症の組織学的予後分類に基づいた場合、予後が悪化するに従って、尿中メガリン排泄量が予後予測の指標となり得るか否かを検証することである。IgA腎症患者(59例)の腎生検組織学的予後分類別の患者背景を表3に示す。 IgA腎症の腎生検組織学的予後分類に基づいた尿中メガリン排泄量のサブ解析の結果を図3および表4に示す。 図3および表4に示すように、予後が不良になるに従って、尿中メガリン排泄量が増大し、かつ尿中メガリン異常高値症例の比率が上昇していることが判明した。また、同様の解析を他の腎障害診断尿マーカーと尿中メガリンで比較した。結果を表5に示す。 表5に示すように、尿中メガリンは、IgA腎症患者59例中40例で基準値を超えていた。この結果は、腎障害のスクリーニング診断に尿中メガリンが最も有用であることを示している(表5)。 更に、予後予測診断における有用性を尿中メガリンと他の腎障害診断尿マーカーで比較した。詳しくは、IgA腎症のアウトカムを腎生検組織学的予後分類に基づいて、予後良好&予後比較的良好群(スコア1)、予後比較的不良群(スコア2)、予後不良群(スコア3)と分類した。この際、アウトカムの表現型としては、各マーカーの基準値(Cut-Off値)以上を示したアウトカムの出現率とした。該検定においては、Mann-Whitney U検定を用いて有意差を求め、評価した。比較対照の腎障害診断尿マーカーとしては、尿中β2-ミクログロブリン(Cut-Off:300μg/g尿クレアチニン)、尿中α1-ミクログロブリン(Cut-Off:12mg/g尿クレアチニン)、尿中N-アセチル-β-D-グルコサミニダーゼ(Cut-Off:6 IU/g尿クレアチニン)、尿蛋白(Cut-Off:0.5g/g尿クレアチニン)を用い、各対照マーカーのCut-Off値については、日常診療で常用されている基準値を採用した。結果を表6に示す。 表6に示すように、IgA腎症の尿診断マーカーとして現在最も汎用されている尿蛋白に比して、尿中メガリンのみが予後予測診断において最も有用であるという結果が得られた。尚、IgA腎症の予後不良の臨床所見の傾向として、腎尿細管障害の合併が一つの要因として考えられており、該合併症の診断の指標としては、現在尿中β2-ミクログロブリン、α1-ミクログロブリン、尿中N-アセチル-β-D-グルコサミニダーゼを診断の指標としている。しかしながら、表5および表6に示すように、尿中メガリンが該腎尿細管合併障害の診断指標として最も効果を奏することも判明した。 本実施例によって、尿中ヒトメガリンが特異的に測定評価でき、尿中ヒトメガリンはIgA腎症の障害の程度や予後予測に従って排泄増多が見られた。この結果は、尿中ヒトメガリンがIgA腎症の病態把握および診断に効果を奏することを示す。実施例5 糖尿病性腎症病期分類の第I〜III期(68例)における、尿中ヒトメガリンおよび他の腎障害マーカーの推算糸球体濾過量との適合性比較(有意差検定) 実施例3で得られた2型糖尿病性腎症71例のヒトメガリン尿中排泄濃度データに関して、糖尿病性病期分類を指標としてサブ解析を行なった。この解析の目的は、糖尿病性腎症の病期分類に基づいた場合、病態が悪化するに従って、尿中メガリン排泄量が障害の程度の病態把握の指標となり得るか否かを検証することである。2型糖尿病性腎症患者(71例)の病態の糖尿病性腎症病期分類別の患者背景を表7に示す。糖尿病性腎症の病期分類に基づいた尿中メガリン排泄量のサブ解析の結果を図4および表8に示す。 図4および表8に示すように、病態が悪化するに従って、尿中メガリン排泄量が増大し、かつ尿中メガリン異常高値症例の比率が上昇していることが判明した。 また、図5に尿中アルブミン排泄量(クレアチニン補正値)と尿中メガリン排泄量(クレアチニン補正値)の相関性を示す。図5に示すように、微量アルブミン尿が出現する前の正常アルブミン尿の段階から、尿中メガリン排泄量が正常範囲(基準値)を超える尿中メガリン異常高値症例が48.7%存在することが判明した。このことは、尿中メガリン排泄が、糖尿病性腎症の診断の現指標である尿中アルブミン排泄よりも、より早期から腎症の発症進展を鋭敏に反映して、増加することを示している。従って、尿中メガリンを糖尿病性腎症の診断マーカーとして使用することで、2型糖尿病性腎症の予後予測および障害の程度(病態の進展)を的確かつ早期に判別することができ、より早期からの予防医療の立場から有用であることが示された。尚、尿中アルブミン排泄量の基準値としては、微量アルブミン尿(Cut-Off:30〜300mg/g尿クレアチニン)、顕性アルブミン尿(Cut-Off:300mg/g尿クレアチニン以上)を用いているが、これは日常診療で常用されている基準値を採用した。 また、推算糸球体濾過量と尿中メガリン排泄量の相関性を図6に示す。糸球体濾過量とは、単位時間あたりの腎臓の全ての糸球体により血漿が濾過される量のことであり、血清クレアチニン濃度および年齢および性別を因数として以下の式で推算糸球体濾過量(eGFR)として求めることができる。eGFR(mL/min/1.73m2) = 194*Cr−1.094*Age−0.287*0.739(if female) 推算糸球体濾過量は、糖尿病性腎症やIgA腎症等の多くの腎疾患を含む慢性腎臓病の一次スクリーニング検査に用いられている腎機能評価の為の指標である。慢性腎臓病のステージ分類によれば、eGFRが60〜89(mL/min/1.73m2)であれば腎機能軽度低下、30〜59(mL/min/1.73m2)であれば腎機能中度低下、15〜29(mL/min/1.73m2)であれば腎機能高度低下、15(mL/min/1.73m2)未満であれば腎不全と評価できる。図6に示すように、eGFRの低下、つまり腎機能低下の進行に従って尿中メガリン排泄量が増多傾向を示し、尿中メガリンの排泄増多は、2型糖尿病性腎症の障害の程度(病態の進展)を的確かつ早期に判別することに効力を有していることが判明した。 また、推算糸球体濾過量と尿中アルブミン排泄量の相関性を図7に示す。図7に示すように、eGFRの低下、つまり腎機能低下の進行に従って尿中メガリン排泄量(図6)と同様に尿中アルブミンが増多傾向を示している。一方、正常アルブミン尿の症例でeGFRが60(mL/min/1.73m2)未満(腎機能異常)および微量アルブミン尿の症例でeGFRが90(mL/min/1.73m2)以上(腎機能正常)を示す所見が存在した。このことは、アルブミン尿の糖尿病性腎症の診断マーカーとしての臨床的意義(診断の精度)が不十分であることを示している。上記の結果は、尿中メガリンを2型糖尿病性腎症の診断の指標とすることにより、アルブミン尿を用いた場合より正確に診断できることを示している。 更に、図6および図7でみられた尿中メガリンの2型糖尿病性腎症の診断マーカーとしての有用性を、推算糸球体濾過量への適合性検定として、尿中メガリンと他の腎障害診断尿マーカーで比較した。詳しくは、2型糖尿病性腎症のアウトカムを、推算糸球体濾過量の慢性腎臓病ステージ分類に基づいて、eGFRが90(mL/min/1.73m2)以上(スコア1)、60〜89(mL/min/1.73m2)(スコア2)、30〜59(mL/min/1.73m2)(スコア3)、15〜29(mL/min/1.73m2)(スコア4)とし、アウトカムの表現型としては、各マーカーの基準値(Cut-Off値)以上を示したアウトカムの出現率とした。該検定においては、Mann-Whitney U検定を用いて有意差を求め、評価した。比較対照の腎障害診断尿マーカーとしては、尿中β2-ミクログロブリン(Cut-Off:300μg/g尿クレアチニン)、尿中α1-ミクログロブリン(Cut-Off:12mg/g尿クレアチニン)、尿中N-アセチル-β-D-グルコサミニダーゼ(Cut-Off:6 IU/g尿クレアチニン)、尿蛋白(Cut-Off:0.5g/g尿クレアチニン) 、尿中アルブミン(Cut-Off:30mg/g尿クレアチニン)を用い、各対照マーカーのCut-Off値については、日常診療で常用されている基準値を採用している。結果を表9に示す。 表9に示すように、糖尿病性腎症の尿診断マーカーとして現在最も汎用されている尿中アルブミンに比して、尿中メガリン、N-アセチル-β-D-グルコサミニダーゼおよび尿蛋白が推算糸球体濾過量に対する適合性においてより効果を奏するという結果が得られた。尚、本実施例で示した解析結果(表9)は糖尿病性腎症病期分類の第I〜III期(腎症前期〜顕性腎症期)を反映したものであり、早期診断の観点からは、糖尿病性腎症病期分類の第I〜II期(腎症前期〜早期腎症期)にフォーカスをする必要がある。その内容を実施例4に記載する。実施例6 腎障害の早期診断を考えた場合の糖尿病性腎症病期分類の第I〜II期(56例)における、への尿中ヒトメガリンと他の腎障害マーカーの推算糸球体濾過量との適合性比較(有意差検定) 糖尿病性腎症病期分類の第I〜II期(腎症前期〜早期腎症期)にフォーカスして、図6および図7でみられた尿中メガリンの2型糖尿病性腎症の診断マーカーとしての有用性を、推算糸球体濾過量との適合性を検定することにより、尿中メガリンと他の腎障害診断尿マーカーで比較した。詳しくは、2型糖尿病性腎症のアウトカムを、推算糸球体濾過量の慢性腎臓病ステージ分類に基づいて、eGFRが90(mL/min/1.73m2)以上(スコア1)、60〜89(mL/min/1.73m2)(スコア2)、30〜59(mL/min/1.73m2)(スコア3)、15〜29(mL/min/1.73m2)(スコア4)とし、アウトカムの表現型としては、各マーカーの基準値(Cut-Off値)以上を示したアウトカムの出現率とした。検定の評価法としては、Mann-Whitney U検定を用いて有意差を求めた。比較対照の腎障害診断尿マーカーとしては、尿中β2-ミクログロブリン(Cut-Off:300μg/g尿クレアチニン)、尿中α1-ミクログロブリン(Cut-Off:12mg/g尿クレアチニン)、尿中N-アセチル-β-D-グルコサミニダーゼ(Cut-Off:6 IU/g尿クレアチニン)、尿蛋白(Cut-Off:0.5g/g尿クレアチニン) 、尿中アルブミン(Cut-Off:30mg/g尿クレアチニン)を用い、各対照マーカーのCut-Off値については、日常診療で常用されている基準値を採用している。結果を表10に示す。 表10に示すように、糖尿病性腎症の尿診断マーカーとして現在最も汎用されている尿中アルブミンに比して、尿中メガリンのみが推算糸球体濾過量に対する適合性においてより効果を奏するという結果が得られた。よって、尿中メガリンを2型糖尿病性腎症の診断マーカーとして使用することで、2型糖尿病性腎症の予後予測ならびに障害の程度(病態の進展)を的確かつ早期に判別することに効力を有し、より早期からの予防医療の立場から有用と考えられる。実施例7 急性腎不全患者でのヒトメガリンの尿中排泄量測定 図8に示すように、尿中メガリン排泄量は、健常人に比して急性腎不全群で有意に上昇していることが判明した。急性腎不全の診断は本疾患の国際基準であるRIFLE分類に従った。尚、尿中へのメガリン排泄量の評価に際しては、尿中メガリン濃度を尿中クレアチニン濃度で割って濃度補正したクレアチニン補正値を評価した。これは尿排泄時の濃縮率の影響ではないことを検証する為に、尿中バイオマーカーに常用されているものである。尚、健常人66例から求めた尿中メガリン排泄量の基準値(正常範囲)としては、448fmol(尿メガリン) / g(尿クレアチニン)を用いた。これは、健常人66例の尿中メガリン濃度(クレアチニン補正値)の正規分布から95%信頼区間を求め、この95%信頼区間の上限値が448fmol(尿メガリン) / g(尿クレアチニン)であり、この値を以って、尿中メガリン濃度の基準値として用いた。ただし、今回得られた基準値は、測定系プラットフォームや基準標準物質の規格設定方法の変更によっては変動する場合があり、本値を以って絶対的なCut-Off値として恒久的に使用するものではない。すなわち、Cut-Off値は、448fmol(尿メガリン) / g(尿クレアチニン)には特に限定されない。ただし、本実施例の結果は、該値が一貫して妥当性のある設定基準値として捉えることができることを示唆する。本実施例によって、尿中ヒトメガリンが特異的に測定評価でき、尿中ヒトメガリンは急性腎不全患者において排泄増多が見られたことから、腎症の病態把握および診断に効果を奏するものと考えられた。 本明細書で引用した全ての刊行物、特許および特許出願をそのまま参考として本明細書にとり入れるものとする。 被験体から得られた尿からのIgA腎症または急性腎不全である腎障害の検出のためのマーカーとしてのヒトメガリンの使用。 腎障害の検出が予後予測を行うための検出である、請求項1記載の尿中ヒトメガリンの使用。 腎障害の予後予測が、尿細管機能障害を評価するためのものである、請求項2記載のヒトメガリンの使用。 腎障害の検出が障害の程度を評価するための検出である、請求項1記載の尿中ヒトメガリンの使用。 腎障害の程度の評価が、尿細管機能障害を評価するためのものである、請求項4記載のヒトメガリンの使用。配列表