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タイトル:特許公報(B2)_凍結乾燥粉末状菌体及びその製造方法
出願番号:2011502775
年次:2014
IPC分類:C12N 1/20,A23L 1/30


特許情報キャッシュ

上條 政幸 寺原 正樹 JP 5583114 特許公報(B2) 20140725 2011502775 20100303 凍結乾燥粉末状菌体及びその製造方法 株式会社明治 000006138 衡田 直行 100103539 上條 政幸 寺原 正樹 JP 2009051118 20090304 20140903 C12N 1/20 20060101AFI20140814BHJP A23L 1/30 20060101ALI20140814BHJP JPC12N1/20 BA23L1/30 ZC12N1/20 A C12N 1/00−7/08 JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII) BIOSIS/MEDLINE/WPIDS(STN) 特表2007−522809(JP,A) 特開2006−273852(JP,A) 特表2007−506411(JP,A) World J.Microbiol.Biotechnol.,2005年,Vol.21,p.739-746 Eur.Food Res.Technol.,2000年,Vol.211,p.433-437 10 NPMD NITE BP-31 IPOD FERM BP-11242 JP2010053421 20100303 WO2010101175 20100910 13 20130111 櫛引 明佳 本発明は、凍結乾燥粉末状菌体及びその製造方法に関し、特に所定の高温条件下においても長期保存が可能である凍結乾燥粉末状菌体及びその製造方法に関する。 近年、プロバイオティクス機能を有する菌株に注目が集まっている。そして、これらの菌の摂取による消化管内の改善・健常化とそれに伴う免疫調整作用による予防医学が盛んになってきている。その中でも特に乳酸菌、ビフィズス菌などはプロバイオティクス菌とも称され、古来より様々な食品として摂取されている。最近では、以前よりもその機能開発がさらに盛んになり、新規な機能性を盛り込んだ商品としての開発も進んでいる。 前記の消化管内の改善・健常化等の目的の為に、これら菌類を含む加工食品群が多数開発されている。また、これら菌類を簡便かつ効果的に摂取するための工夫もなされている。例えば、これら食品群の一般的な一例としてヨーグルトが挙げられるが、さらに摂取しやすいようにこれらの菌類を粉末状とすることが行われている。この粉末状菌体はまた、簡便に応用加工食品を製造するための新規な原料として用いることもでき、その利用価値は高い。 しかし、これらの菌類を粉末状とした場合、摂取時や食品製造時にこれらの菌類が必要量以上生残していなければ、これらの菌類の効果を得ることができない。従って、菌類の有効な保存方法、及び、粉末状に簡便に製造するための方法が望まれている。例えば、凍結乾燥した場合における生残性を向上させる方法が望まれている。 上記目的のために、これまでも様々な検討が行われている。 例えば、特許文献1には、酸性下又は高温下で死滅する乳酸菌、ビフィズス菌等の有用菌を被覆造粒することで、保存という意味で胃液中において溶解せず腸内での溶性の向上を目指している。具体的には生理活性物質を3層被覆により造粒物とし、その一つに糖類を用いている。 また、特許文献2ではビフィドバクテリウム属細菌の生残性改善に、グリセロール、キシリトール、アドニトール、アラビトール、マンニトールから選ばれる糖類を含有する生残性改善剤を培地に添加する方法を提案している。この方法においては、好気条件や低pH条件下で保存時の生残性、菌数維持を目的としている。特にこの技術においては、培地における系での生残率向上をその主旨とする。 また、特許文献3においては、乳酸菌菌体粉末にポリグリセリン脂肪酸エステルを混ぜ、長期安定性が優れ且つ耐酸性、腸溶性に優れた腸溶性乳酸菌組成物を提供する。以上の技術は、特定条件下における保存や耐性に主眼をおいているものである。 一方、菌類の凍結保存、凍結乾燥保存についての生残性改良についても種々の技術が開発されている。 例えば、特許文献4には、凍結又は凍結乾燥工程において菌体の損傷又は死滅が少なく、かつ生残率の高い製造方法を提供する目的で、乳酸菌類の菌体分散液にコンニャク粉由来の多糖類部分加水分解物を添加して凍結乾燥する方法が開示されている。多糖類部分加水分解物は酵素分解することで得られる所定の分子量を有するものであり、これを製造する繁雑な工程が必要である。また、この技術は凍結融解における生残率向上を主旨としており、この技術で製造された凍結乾燥粉末状菌体の保存後の生残率については全く示唆も言及もされていない。 特許文献5においては、凍結菌を融解後であっても菌生存率及び活性が良好な保存液が提案されている。この菌用凍結保存液はトレハロース及び/又はポリエチレングリコールを有効成分として含有する。これにより凍結時の障害を抑制し、融解後に即使用可能な保存液である点を特徴とする。水分を含んだ系であり、特に凍結から融解という過程における問題を解決する技術である。 また、特許文献6では、ラクトバチルスファーメンタムを澱粉質、糖質を有する保護膜で被覆して噴霧乾燥粉体とする。この技術では、噴霧乾燥時の菌の生残性を高めることに重点を置いた技術である。 さらに、特許文献7では、乾燥乳酸菌等の乾燥微生物とL−アルギニン酸性アミノ酸塩とを共存させることで乾燥状態での保存安定性を向上させている。この技術は微生物(菌)を製剤化する際の微生物の保存安定性向上を主旨としている。尚、この技術で製造したビフィズス菌製剤を40℃で2週間保存した結果が示されているが、その生残率は僅か25%程度であり、数ヶ月に及ぶ長期保存に耐えられるものではなかった。 また、非特許文献1では、その凍結乾燥における機序解析から、微生物の凍結乾燥時における損傷が、細胞膜を構成するリン脂質の物理状態の変化とタンパク質の構造変化とによるところが大きいことを突き止め、これに対して大腸菌などについてトレハロースまたはスクロース存在下にて凍結乾燥を行う研究結果を示している。しかし、トレハロースとスクロースを混合して用いることについては全く示唆も言及もされていない。さらに、具体的な凍結乾燥物の長期保存について、また所定の高温条件における保存についてはなんら対応検討がなされていない。 さらに、非特許文献2では、上記同様の目的からラクトバチルス・サリバリウスの凍結乾燥および保存についての検討が行われている。この文献では、4%トレハロース、4%スクロース、18%脱脂粉乳、4%トレハロースと18%脱脂粉乳、4%スクロースと18%脱脂粉乳、4%トレハロースと4%スクロース、および4%トレハロースと4%スクロースと18%脱脂粉乳を凍結乾燥保護剤に用い凍結乾燥粉末状菌体を−85℃で保存し、その生残率を検討している。尚、凍結乾燥時の菌体懸濁液中の糖濃度は約3.2%、脱脂粉乳濃度は14.4%となる。当該文献に開示された結果によれば、4%スクロースは凍結乾燥粉末状菌体の−85℃保存性を十分に高めることはできないが、4%スクロースと18%脱脂粉乳では凍結乾燥粉末状菌体の−85℃における保存性を高めることができたと報告されている。さらに、4%トレハロース単独で凍結乾燥粉末状菌体の−85℃保存性を高める結果が報告されている。加えて、4%トレハロースと4%スクロースと18%脱脂粉乳の混合溶液で凍結乾燥して得た粉末状菌体を室温(温度未記載)で7週間保存した結果が示されている。ここでは特定の湿度条件(湿度2.8〜5.6%、水分活性で0.028〜0.056)の環境下で保存すれば、高い保存性が維持されると述べられている。しかし、湿度0%および湿度8.8%の環境下では高い保存性を維持できず(それぞれの生残率は約40%および10%)、室温保存可能な条件は極めて低い湿度で、しかも非常に狭い湿度範囲に限られているものであり実用的ではない。このように、非特許文献2の技術は、通常の生活環境から乖離した環境条件での保存試験結果を示しており、さらに高温条件での保存については全く示唆も言及もされておらず、この技術を一般的な食品に応用することは未だ困難なものであった。特開平5−186337号公報特開平11−137172号公報特開2001−64189号公報特開平7−313140号公報特開2001−327280号公報特開2005−52100号公報国際公開WO2006/106806号公報サミュエル・ビー・レズリー(SamuelB. Leslie)等、「乾燥時、非損傷バクテリアの細胞膜とタンパク質の双方をトレハロースとスクロースとで保護(Trehalose and Sucrose Protect Both Membranes and Proteins in IntactBacteria during Drying)」、アプライド・アンド・エンバイランメンタル・マイクロバイオロジー(Applied and Environmental Microbiology)、米国、1995年10月、p.3592−3597ガーバー・ザーイド(GaberZayed)等、「凍結乾燥及び保存時のラクトバシラス・サリバリウスの生残性におけるトレハロースと水分含量の影響(Influence of trehalose and moisture content on survival ofLactobacillus salivarius subjected to freeze-drying and storage)」、プロセス・バイオケミストリー(ProcessBiochemistry)、2004年、第39巻、p.1081−1086 上記のように、これまでも有用菌類の保存に関して、また有効な形態に関しての検討は種々行われてきた。特に、粉末状の凍結乾燥菌体もしくは乾燥菌体などについては、その製品形態の簡便性から様々なアプローチがなされているが、いまだ菌類の機能維持、長期保存後の生残率については検討の余地が大きい。例えば、特定のアプローチが、特定の菌類のみにしか効果がなかったり、あるいは多くの菌類に効果があったとしても保存条件として超低温かつ低湿を必要とするなどの著しい制限があったりするため、工業的には未だ有効な手段は開発されていないと言える。特に、常温で長期保存可能な食品への応用が可能な粉末状菌体として用いるためには、通常の生活環境温度で想定される範囲内における高温(30〜40℃)条件下で、特殊な保存条件の制限無く、高い生残性を持つことが必要である。このような性質を有しない粉末状菌体は、その品質を保証できず、食品の材料として用い得るものとはなり得ない。 したがって、本発明の目的は、長期保存に適し、簡便且つ有効な凍結乾燥によって得られる凍結乾燥粉末状菌体、及びその製造方法を提供することである。特に、凍結乾燥後に長期保存をしたとしても、またその長期保存が超低温でなく保存性に影響が大きいと考えられる生活温度帯(特に夏期)で行なわれたとしても、乳酸菌やビフィズス菌などの有用菌の生残率が高い状態で保存することができ、保存後においても簡便に粉末として直接摂取したり、食品製造において原料として有効に活用することができる凍結乾燥粉末状菌体、及びその製造方法を提供するものである。さらには、得られた凍結乾燥粉末状菌体を含有する食品組成物をも提供するものである。 上記従来の問題点に鑑み本発明者らは鋭意研究を進めたところ、糖質の溶液に乳酸菌及び/又はビフィズス菌が懸濁している懸濁液を、凍結乾燥させることによって、有用菌(乳酸菌及び/又はビフィズス菌)の粉末状菌体の生残性、特に高温保存時の生残率が著しく向上することが判り、本発明を完成するに至った。 本発明によって、長期保存に適し、簡便且つ有効な凍結乾燥によって得られる凍結乾燥粉末状菌体が提供される。 即ち、本発明の一態様は、糖質の溶液に乳酸菌及び/又はビフィズス菌が懸濁している懸濁液を凍結乾燥させて、凍結乾燥粉末状菌体を得る凍結乾燥粉末状菌体の製造方法であって、前記糖質がトレハロース及びスクロース(ショ糖)であり、かつ、凍結乾燥前の前記懸濁液中のトレハロース及びスクロースの各々の濃度が6.6〜15重量%である凍結乾燥粉末状菌体の製造方法である。 本発明において、トレハロース及びスクロースの各々の濃度は、6.6〜15重量%、好ましくは8〜12重量%である。 本発明において、前記乳酸菌及び/又はビフィズス菌の好ましい例として、ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属に属する菌類などが挙げられる。 ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属に属する菌類の好ましい例として、ビフィドバクテリウム・ビフィダム(Bifidobacterium bifidum)株、ビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum)株などが挙げられる。 ビフィドバクテリウム・ビフィダム(Bifidobacterium bifidum)株の好ましい例として、ビフィドバクテリウム・ビフィダム(Bifidobacterium bifidum)OLB6378株などが挙げられる。 ビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum)株の好ましい例として、ビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum)No.7株などが挙げられる。 また本発明の別の態様は、上記いずれかに記載の凍結乾燥粉末状菌体の製造方法によって製造された凍結乾燥粉末状菌体である。 本発明のさらに別の態様は、有効量の上記凍結乾燥粉末状菌体を含んでなる食品組成物である。 本発明による長期保存可能な凍結乾燥粉末状菌体の製造方法は、特に固形物・粉末状食品など、長期保存を保証する必要がある場合などに特にその効果が得られる。すなわち、本発明の製造方法により製造された粉凍結乾燥末状菌体は、高温保存時の生残率が著しく向上しているために、保存後に使用しても有用な乳酸菌及び/又はビフィズス菌の効果を得ることができる。 また、本発明の製造方法は簡便な方法であるために、特別な装置や複雑な工程を必要とせず、それに伴うコスト増加もない。 また本発明の製造方法により製造された凍結乾燥粉末状菌体は、そのままで使用することができるために、保存後においても簡便に粉末として直接摂取したり、食品製造において原料として有効に活用することができる。凍結乾燥前の懸濁液中のトレハロース濃度とスクロース濃度がそれぞれ6.6重量%(菌体との混合前の糖溶液として、トレハロースとスクロースをそれぞれ20重量%含有するものを使用した。)である条件下で調製したビフィドバクテリウム・ビフィダムの凍結乾燥粉末状菌体の、20℃、30℃、40℃の各温度下での保存試験の結果を示すグラフである。凍結乾燥前の懸濁液中のトレハロース濃度とスクロース濃度がそれぞれ10重量%(菌体との混合前の糖溶液として、トレハロースとスクロースをそれぞれ30重量%含有するものを使用した。)である条件下で調製したビフィドバクテリウム・ビフィダムの凍結乾燥粉末状菌体の、20℃、30℃、40℃の各温度下での保存試験の結果を示すグラフである。凍結乾燥前の懸濁液中のトレハロース濃度とスクロース濃度がそれぞれ6.7重量%(菌体との混合前の糖溶液として、トレハロースとスクロースをそれぞれ20重量%含有するものを使用した。)である条件下で調製したビフィドバクテリウム・ロンガムの凍結乾燥粉末状菌体(図中の丸数字2)、及び、比較用の凍結乾燥粉末状菌体(図中の丸数字1)の、40℃の温度下での保存試験の結果を示すグラフである。 以下、本発明を詳細に説明するが、本発明は以下に述べる個々の形態には限定されない。 本発明で用いる乳酸菌やビフィズス菌としては、ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属に属する菌類が例示でき、例えばビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum)株、ビフィドバクテリウム・インファンチス(Bifidobacterium infantis)株、ビフィドバクテリウム・ブレーベ(Bifidobacterium breve)株、ビフィドバクテリウム・ビフィダム(Bifidobacterium bifidum)株、ビフィドバクテリウム・アドレッセンティス(Bifidobacterium adolescentis)株等を具体的に挙げることができる。またさらには、ラクトバシルス(Lactobacillus)属、ストレプトコッカス(Streptococcus)属に属する菌類が例示でき、例えばラクトバシルス・ガセリ(Lactobacillus gasseri)株、ラクトバシルス・ブルガリカス(Lactobacillus bulgaricus)株、ストレプトコッカス・サーモフィラス(Streptococcus thermophilus)株等を具体的に挙げることができる。しかし、本発明はこれらの種に限定されるものではなく、またこれらの菌株については、単独あるいは2以上を組み合わせて使用することができる。 上記の中でも好ましい例として、ビフィドバクテリウム・ビフィダム(Bifidobacterium bifidum)株、ビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum)株などが挙げられる。 これら好ましい例の、寄託された菌株の例として、ビフィドバクテリウム・ビフィダム(Bifidobacterium bifidum)OLB6378株、ビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum)No.7株などが挙げられる。(A)ビフィドバクテリウム・ビフィダムOLB6378株の寄託 本発明で用いるビフィドバクテリウム・ビフィダムOLB6378株は、下記の条件で寄託した。(1) 寄託機関名:独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センター(2) 連絡先:〒292−0818 千葉県木更津市かずさ鎌足2−5−8 電話番号0438−20−5580(3) 受託番号:NITE BP−31(4) 識別のための表示:Bifidobacterium bifidum OLB6378(5) 原寄託日: 平成16年(2004年)10月26日(6) ブタペスト条約に基づく寄託への移管日:2006年1月18日(B)ビフィドバクテリウム・ロンガムNo.7株の寄託 本発明で用いるビフィドバクテリウム・ロンガムNo.7株は、下記の条件で寄託した。(1) 寄託機関名:独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(2) 連絡先:〒305−8566 茨城県つくば市東1−1−1 中央第6 電話番号029−861−6029(3) 受託番号:FERM P−13610(4) 識別のための表示:Bifidobacterium longum No.7(5) 寄託日: 平成5年(1993年)4月20日(6) ブタペスト条約に基づく寄託への移管 受領日:平成22年(2010年)3月2日 受領番号:FERM ABP−11242 本発明で用いるビフィドバクテリウム・ビフィダムOLB6378株、及び、ビフィドバクテリウム・ロンガムNo.7株は、以下の菌学的性質を有するものである。 ビフィドバクテリウム・ビフィダムOLB6378株は、ヒト乳幼児糞便由来のグラム陽性偏性嫌気性桿菌である。Lactobacilli MRS Broth(BD)に本菌を接種し、AnaeroPack・ケンキ(三菱ガス化学社製)の使用による嫌気状態にて37℃18時間培養すると、Y字型の菌形態が観察される。また、Bifodobacteirum bifidumの特異的プライマー(腸内フローラシンポジウム8、腸内フローラーの分子生物学的検出・同定、光岡知足、松本隆広)、具体的には、16S rDNAの種特異的プライマーであるBiBIF−1:CCA CAT GAT CGC ATG TGA TT、およびBiBIF−2:CCG AAG GCT TGC TCC CAA Aを用いたPCRでPCR産物が認められた。 ビフィドバクテリウム・ロンガムNo.7株は、ヒト成人糞便由来のグラム陽性偏性嫌気性菌であり、菌形状は桿菌または分岐状の多形であり、芽胞の形成、運動性はない。BL寒天培地(栄研)平板上で本菌を塗布し、スチールウール法にて37℃48時間培養すると、不透明な円形半球状の光沢を有するコロニーを形成する。アラビノース、キシロース、リボース、グルコース、フラクトース、ガラクトース、シュークロース、マルトース、ラクトース、メリビオース、ラフィノース、メレチトースに対する発酵性を有する。 本発明で用いる保護剤としての糖質は、トレハロースとスクロースとの混合物である。凍結乾燥前の懸濁液中のトレハロースとスクロースの各々の濃度の下限は、高温下での長期保存に好適な凍結乾燥粉末状菌体を得る観点から、6.6重量%、好ましくは8重量%である。該濃度の上限は、濃度を過度に増大させても高温下での長期保存性の効果が同等になる観点から、15重量%、好ましくは12重量%である。トレハロースとスクロースとの重量比は、特に限定されないが、高温下での長期保存に好適な凍結乾燥粉末状菌体を得る観点から、好ましくは1:1である。 これら糖質は、糖質含有水溶液の形態で、培養した菌と混合し、この菌を再懸濁させることが好ましい。こうして得られた懸濁液を凍結乾燥させることによって、本発明の凍結乾燥粉末状菌体を得ることができる。 なお、糖質含有水溶液中には、水及び糖質に加えて、例えば、乳たん白質、アミノ酸、アスコルビン酸等を含有させてもよい。 本発明の凍結乾燥粉末状菌体の製造方法は、特に限定されないが、例えば以下の手順からなる。1)所望の菌類を常法に従い培養する。2)培養された菌を含む培養液をそのまま、次の3)で使用するか、あるいは、培養された菌を含む培養液を、遠心分離等により濃縮もしくは固液分離して、濃縮された培養液(菌体液)もしくは固形分として分離した菌体を得て、これを、次の3)で使用する。3)得られた菌体液または菌体と、所定濃度の糖質(保護剤)を含有する溶液を混合して、懸濁液を得た後、この懸濁液を凍結乾燥させて、本発明の凍結乾燥粉末状菌体を得る。 凍結乾燥の方法としては、凍結乾燥機を用いる方法等を挙げることができ、例えば、低温(例えば−30〜−90℃)で急速に予備凍結した後、室温(例えば0〜20℃)かつ減圧下(好ましくは1000Pa以下、より好ましくは100Pa以下の真空度)で乾燥させ、真空度をこのまま維持したまま、凍結乾燥機の温度を例えば30〜70℃に上昇させて、更に乾燥させればよい。 本発明の凍結乾燥粉末状菌体は、食品添加物としても使用しうるトレハロースとスクロースとを使用しているためにそのまま摂取することも可能であり、また様々な食品組成物にこれを添加して用いることも可能である。また、本発明の凍結乾燥粉末状菌体は長期保存後であっても所定の菌生残率を示すため、これを発酵乳などの種菌等の原料として用いることも可能である。 食品組成物としては各種飲食品(清涼飲料、発酵乳、ヨーグルト、調整粉乳等)が挙げられる。食品組成物はそのまま使用したり、他の食品ないし食品成分と混合するなど、通常の食品組成物における常法にしたがって使用することができる。また、食品組成物の性状は、通常用いられる飲食品の状態、例えば、固体状(粉末、顆粒状その他)、ペースト状、液状ないし懸濁状のいずれでもよい。 食品組成物中のその他の成分は、特に限定されないが、水、タンパク質、糖質、脂質、ビタミン類、ミネラル類、有機酸、有機塩基、果汁、フレーバー類等が挙げられる。これらの成分は、1種単独で用いてもよいし、あるいは2種以上を組み合わせて使用することもできる。なお、食品組成物中のその他の成分としては、合成品及び/又は合成品を多く含む食品を用いてもよい。 以下、一般的に保存が難しい嫌気性菌(ビフィズス菌)を用いた実施例に基づいて本発明を説明するが、本発明はこれにより限定されるものではない。なお、本明細書において、%表示は、明示しない場合には重量%を示す。[実験例1] 以下に示す手順に従い、本発明の製造方法に基づき凍結乾燥粉末状菌体を製造した。1)ビフィドバクテリウム・ビフィダム(Bifidobacterium bifidum)OLB6378株をカゼイン分解培地(酵素分解したカゼインをタンパクとする培地)で中和培養を行った。2)培養液320mlを遠心分離(4℃、10000Gで20分間)して上清307.2mlを除去し、菌体ペレット画分(12.8ml)を得た。3)菌体ペレット画分(4ml)に所定濃度の糖質を含む保護剤液2mlを添加し、菌体を懸濁させ、−80℃にて凍結して凍結乾燥を行った。4)凍結乾燥終了直後の凍結乾燥粉末状菌体0.5gに生理食塩水を添加して覆水し、覆水液中の生菌数をBL寒天平板培地で測定した。5)さらに、凍結乾燥粉末状菌体0.5gをラミジップ(登録商標;プラスチック製の袋の商品名)に入れて20℃又は30℃で53日間保存後の凍結乾燥粉末状菌体についても同様に生菌数をBL寒天平板培地で用いて測定した。 本実験例において用いた保護剤液は以下に示す表1の通りである。 以上の本発明による試料1,2及び比較試料1,2,3についてのビフィドバクテリウム・ビフィダムの保存試験の結果を表2に示す。なお、比較試料1,2については生残率が低かったため、20℃で7日間保存した場合の結果のみを参考として併記する。 表2より明らかなように、本発明の方法による実施例1〜4では、凍結乾燥粉末状菌体を所定の高温条件下で53日間保存しても、生菌数の減少が見られなかった。特に、実施例2、4のようにかなり生活環境温度に近い高温下であっても、その生残率を飛躍的に高めることができることが分かった。これにより本発明の製造方法は、品質保証期間が比較的長い固形状・粉末状食品に十分適用しうる技術であることが分かった。 一方、比較例1、2は非特許文献2に代表されるトレハロースのみの系についての試験であるが、トレハロースのみでは目的を十分に達成することができないことが分かった。特に、非特許文献2では超低温下、湿度条件下での保存時の効果が述べられているが、本実験のような生活環境温度では所望の効果を得ることができないことが分かった。 また、非特許文献2と同様の濃度のトレハロース・スクロース併用系について比較例3、4において検討を行ったが、生活環境を想定した温度条件下では生菌数は半減してしまうことが分かった。 したがってこれら比較例の方法によって得られた凍結乾燥粉末状菌体は、品質保証期間が長い固形・粉末状食品に適用することが難しく、これら食品への実用に適する技術ではないことがわかった。[実験例2] 本発明の製造方法によって得られた凍結乾燥粉末状菌体について、さらに高温条件下(20℃、30℃、40℃)で、長期保存(〜6ヶ月)した場合の効果についての実験を行った。 なお、用いた凍結乾燥粉末状菌体は、仕込み量を約30倍に増やした以外は、試料1及び2と同じ製造方法に従い製造したものである。従って以下、試料1、2として説明する。 以上の実験により得られた結果を図1及び図2に示す。 図から明らかなように、試料1(図1参照。トレハロースを20重量%含む溶液と、スクロースを20重量%含む溶液を混合して得られた、トレハロースとスクロースを各6.6重量%ずつ含有する保護剤溶液)、及び、試料2(図2参照。トレハロースを30重量%含む溶液と、スクロースを30重量%含む溶液を混合して得られた、トレハロースとスクロースを各10重量%ずつ含有する保護剤溶液)は共に、20℃及び30℃の保存温度条件下であっても6ヶ月後にも十分な生菌数を維持しており、非常に高い生残性を示した。 かなり極端な生活環境温度条件ではあるが、40℃保存については、試料1は1ヶ月保存後において93.9%の生残性を示している。従ってこの条件においては、保護剤溶液の濃度として試料1で用いた濃度がより好ましいことが分かった。[実験例3] 下記の表3に示す試料を用いかつ40℃で3ケ月間保存した以外は実施例1と同様にして、実験した。結果を表4に示す。表4から、トレハロースとスクロースの質量比が3:1〜1:3の間で生残性が11〜17%とそれぞれ差はみられず、同等の効果を有していることがわかった。[実験例4] 以下に示す手順に従い、本発明による製造方法に基づき凍結乾燥粉末状菌体を製造した。1) ビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum)No.7株を、カゼイン分解培地(酵素分解したカゼインをタンパクとする培地)で中和培養した。2) 培養液5400mlを遠心分離(4℃、10000Gで20分間)して上清5200mlを除去し、菌体ペレット画分(200ml)を得た。3) 菌体ペレット画分(200ml)に所定濃度の糖質を含む保護剤液100mlを添加し、菌体を懸濁させ、−80℃にて凍結して凍結乾燥を行った。4) 凍結乾燥終了直後の凍結乾燥粉末状菌体1gに生理食塩水を添加して覆水し、覆水液中の生菌数をBL寒天平板培地で測定した。5) さらに、凍結乾燥粉末状菌体2gをラミジップ(登録商標;プラスチック製の袋の商品名)に入れて40℃で8日間、30日間、82日間、124日間の各期間保存後の凍結乾燥粉末状菌体についても同様に、生菌数をBL寒天平板培地で測定した。 本実験例において用いた保護剤液は以下の通りである。(1)実施例6 トレハロースとスクロースをそれぞれ20重量%含有する糖溶液(以下、試料6という。)を用いた。この糖溶液と菌体ペレット画分を混合してなる凍結乾燥前の懸濁液中のトレハロースとスクロースの含有率は、それぞれ6.7重量%であった。(2)比較例5 脱脂粉乳6重量%、乳糖1.7重量%、アミノ酸(リジン等)を0.4重量%、その他の成分(デキストリン等)を4重量%含有する溶液(以下、比較試料4という。)を用いた。 結果を表5及び図3に示す。表5から、比較例5の凍結乾燥粉末状菌体(図3中の丸数字の1)が、40℃で約4カ月間保存した場合に0.002%の生残性しか示さないのに対し、実施例6の凍結乾燥粉末状菌体(図3中の丸数字の2)は、40℃で約4カ月間保存した場合に40.0%の高い生残性を示すことがわかる。 本発明による長期保存可能な凍結乾燥粉末状菌体の製造方法によれば、特に固形物・粉末状食品など、長期保存を保証する必要がある場合などに、保存後にも有用な乳酸菌及び/又はビフィズス菌の効果を得ることができる。また、特別な装置や複雑な工程を必要とせず、それに伴うコスト増加もなく経済的にも有利である。さらに、本発明の凍結乾燥粉末状菌体はそのままで使用することができるために、保存後においても簡便に粉末として直接摂取したり、食品製造において原料として有効に活用することができ、その利用価値は高い。 糖質の溶液に乳酸菌及び/又はビフィズス菌が懸濁している懸濁液を凍結乾燥させて、凍結乾燥粉末状菌体を得る凍結乾燥粉末状菌体の製造方法であって、前記糖質がトレハロース及びスクロースであり、かつ、凍結乾燥前の前記懸濁液中のトレハロース及びスクロースの各々の濃度が6.6〜15重量%である凍結乾燥粉末状菌体の製造方法。 凍結乾燥前の前記懸濁液中のトレハロース及びスクロースの各々の濃度が8〜12重量%である、請求項1に記載の凍結乾燥粉末状菌体の製造方法。 前記乳酸菌及び/又はビフィズス菌が、ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属に属する菌類である、請求項1又は2に記載の凍結乾燥粉末状菌体の製造方法。 前記乳酸菌及び/又はビフィズス菌が、ビフィドバクテリウム・ビフィダム(Bifidobacterium bifidum)株である、請求項3に記載の凍結乾燥粉末状菌体の製造方法。 前記乳酸菌及び/又はビフィズス菌が、ビフィドバクテリウム・ビフィダム(Bifidobacterium bifidum)OLB6378株(受託番号:NITE BP−31)である、請求項4に記載の凍結乾燥粉末状菌体の製造方法。 前記乳酸菌及び/又はビフィズス菌が、ビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum)株である、請求項3に記載の凍結乾燥粉末状菌体の製造方法。 前記乳酸菌及び/又はビフィズス菌が、ビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum)No.7株(受託番号:FERM BP−11242)である、請求項6に記載の凍結乾燥粉末状菌体の製造方法。 請求項1〜7のいずれか1項に記載の凍結乾燥粉末状菌体の製造方法によって製造された凍結乾燥粉末状菌体。 有効量の請求項8に記載の凍結乾燥粉末状菌体を含んでなる食品組成物。 請求項1〜7のいずれか1項に記載の凍結乾燥粉末状菌体の製造方法によって、凍結乾燥粉末状菌体を得た後、該凍結乾燥粉末状菌体を20〜40℃の温度下で保存することを特徴とする凍結乾燥粉末状菌体の保存方法。


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