生命科学関連特許情報

タイトル:特許公報(B2)_[18F]SFBの合成方法
出願番号:2011502745
年次:2013
IPC分類:C07D 207/404,A61K 51/00


特許情報キャッシュ

中西 博昭 齊木 秀和 佐治 英郎 木村 寛之 河嶋 秀和 戸松 賢治 久下 裕司 JP 5291791 特許公報(B2) 20130614 2011502745 20100301 [18F]SFBの合成方法 株式会社島津製作所 000001993 国立大学法人京都大学 504132272 野口 繁雄 100085464 中西 博昭 齊木 秀和 佐治 英郎 木村 寛之 河嶋 秀和 戸松 賢治 久下 裕司 JP 2009050814 20090304 20130918 C07D 207/404 20060101AFI20130829BHJP A61K 51/00 20060101ALN20130829BHJP JPC07D207/404A61K49/02 Z C07D 207/404 A61K 51/00 CAplus/REGISTRY(STN) JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII) 特開2008−037767(JP,A) 特開2004−313867(JP,A) TANG,G. et al,Facile synthesis of N-succinimidyl 4-[18F]fluorobenzoate([18F]SFB) for protein labeling,Journal of Labelled Compounds andRadiopharmaceuticals,2008年,Vol.51,p.68-71 MILLER,P.W. et al,Radiolabelling with short-lived PET (positronemission tomography) isotopes using microfluidic reactors,J ChemTechnol Biotechnol,2009年,Vol.84, No.3,p.309-315,Published Online:2008.10.30 BANNWARTH,W. et al,Formation of carboxamides with N,N,N',N'-tetramethyl (succinimido) uronium tetrafluoroborate in aqueous /organic solvent systems,Tetrahedron Letters,1991年,Vol.32, No.9,p.1157-1160 4 JP2010053252 20100301 WO2010101118 20100910 11 20110511 関 景輔 本発明はPET(ポジトロン放出断層撮影法)診断プローブを合成するために、ペプチド、抗体などの高分子化合物、又は低分子化合物などをRI(放射性同位体)である[18F]で標識する試薬として用いられる[18F]SFB(N-succinimidyl 4-[18F] fluorobenzoate)の合成法に関する。 PET診断には、半減期が約110分の短寿命RIである18Fがよく使用されている。18Fの半減期が短いため、18F標識診断プローブは施設内で自動合成装置を用いて製造されている。現在最も有用なPET診断プローブは、がんの早期発見に有用な18F−標識フルオロデオキシグルコース(18F−FDG)である。18F−FDGが保険適用された後は、民間のPETセンター数が100を越えて急激に増加しており、がんの早期発見に対する社会の大きな期待を反映したものと考えられている。このように、PETは先進診断法であるとともに社会に根付いた一般診療法として定着しつつあると言える。これらの社会のニーズに応え、更なる発展を遂げるには、プローブの自動合成技術の確立なくしては広く社会に普及して貢献することは望めない。 18F−FDG以外のPET診断プロ−ブを合成するための標識試薬としては、[18F]SFBがペプチド、抗体及び高分子などを標識する試薬として広く用いられている。 [18F]SFBの合成方法として、三段階反応からなるバッチ合成法が知られている。バッチ合成法としては、2つの反応容器を用いるツーポット(two-pot)操作法を改良したワンポット(one-pot)操作法が報告されている(非特許文献1参照。)。ワンポット操作法は、1つの反応容器に反応試薬を順次添加していく方法である。ワンポット操作法では、第一段階反応として標識前駆体であるethyl 4-(trimethylammonium triflate) benzoateを[18F]でフッ素化してethyl 4-[18F]fluorobenzoateを得る。第二段階反応としてethyl 4-[18F]fluorobenzoateをtetrapropylammonium hydroxide溶液でケン化して[18F]SFBの中間体である4-[18F]fluorobenzoic acid塩([18F]FBA)を得る。第三段階反応としてその中間体をO-(N-succinimidyl)-N,N,N',N'-tetramethyluronium tetrafluoroborateと反応させて目的とする[18F]SFBを得る(非特許文献1参照。)。 この一連の反応において、第三段階反応に入る前に、第二段階反応の生成物である中間体の[18F]FBAの固相抽出による精製とアセトニトリル(MeCN)を用いた共沸・脱水処理が行われている。G. Tang et al., J. Label. Compd. Radiopharm., 51, 68-71 (2008)F. Wust et al., Appl. Radiat. Isot., 59, 43-48 (2003)HJ. Wester et al., Nucl. Med. Biol., 23, 365-372 (1996)W. Bannwarth et al., Tetrahedron Letters 32, 1157-1160 (1991) [18F]SFB合成は、上に紹介したもの以外にも知られているが、いずれの方法もバッチ合成法であり、1つ又は2つの反応容器に反応試薬を順次添加していくように操作を行う点で共通している。それらの合成方法は、合成時間に1〜1.5時間と長時間を必要とし、かつ操作が煩雑であるため一部の施設でしか合成されていないのが現状である。 また、マニュアルで合成する場合、操作が煩雑であり熟練した技術が必要である。一方、自動合成が可能な装置として海外で市販されている装置があるが、大型でありかつ高価なため導入できる施設は限られている。 これらの問題点を解決するためには、以下の視点での改良が必要である。(1)反応効率の向上、すなわち放射化学的収率の向上と合成時間の短縮を図ること。(2)操作技術の簡略化(3)薬剤合成における製造コストの低減 すなわち、本発明の目的は、[18F]SFB合成において、反応効率を向上させて合成時間を短縮し、操作を簡略化するとともに、製造コストを低減することである。 基本的に放射性物質を扱う反応では用いる溶液量が微量であることから、微量化に関してはワンポット合成法も含めて通常のバッチ合成法では限界がある。これに対し、本発明の一形態は、近年その進展が著しいマイクロ加工技術を適用して、マイクロリアクター中の微小流路を利用して反応液を流通させながら反応を行わせる。 すなわち、本発明の一形態は、基板内部に断面の幅及び深さが1mm以下である1本の流路が形成され、前記流路の一端には原料注入口と第1試薬注入口が接続され、前記流路には前記一端から離れた位置に第2試薬注入口が接続され、第2試薬注入口から流路の他端方向に離れた位置に第3試薬注入口が接続され、前記流路の他端が液取出し口に接続されているマイクロリアクターを使用し、その流路の一端から他端に向かって反応溶液を流しつつ、その流路を反応流路とし、流路の途中では反応溶液を外部に取り出すことなく、以下の三段階の反応を連続して行わせる[18F]SFBの合成方法である。(第一段階目反応)原料注入口から[18F]SFBの標識前駆体溶液、第1試薬注入口から第1試薬として18F-イオンを含む溶液をそれぞれ連続して供給し、第2試薬注入口までの流路で標識前駆体をフッ素化する反応。(第二段階目反応)第2試薬注入口から第2試薬としてTPAH(tetrapropylammonium hydroxide)溶液を連続して供給し、第3試薬注入口までの流路で第一段階反応の反応生成物をケン化して[18F]SFB中間体を生成する反応。(第三段階目反応)第3試薬注入口から第3試薬としてTSTU(O-(N-succinimidyl)-N,N,N',N'-tetramethyluronium tetrafluoroborate)溶液を連続して供給し、流路の他端までの間で[18F]SFBを生成する反応。 本発明の一形態は、第一段階目反応の開始から第三段階目反応の終了までをマイクロリアクター内の1本の流路内で行うワンフロー(One-flow)合成法であり、流路の途中で反応液を取り出して何らかの処理を施すことはしない。反応条件の設定や反応が進行していることの検証のための操作では、第一段階目反応の終了時点又は第二段階目反応の終了時点で反応液を取り出して反応生成物を測定することは行うが、それは本発明の前処理又は検証のための操作であり、本発明自体ではない。したがって、本発明では第三段階目反応の開始前に第二段階目反応により生成した中間体の精製も脱水も行わない。 そのような精製と脱水の工程を経なくても第三段階目反応が進行するかどうかは非特許文献1には記載されていない。一方、第三段階目の反応に用いるTSTUは、反応溶液中に水が存在していてもカルボキシル基と反応することは報告されている(非特許文献4参照。)。しかし、本発明の反応系において放射化学的収率の向上と合成時間の短縮を図ることができる程度の反応効率をもって反応が進むかどうかは非特許文献4の記載からは読み取ることはできない。 本発明者らは、そのような精製と脱水の工程を経なくても第三段階目反応が本発明の初期の目的を達成できる反応効率をもって進行するという知見を得た。一連の反応を1本の流路内で連続して行わせる本発明は、この知見に基づいて初めて可能になったのである。 本発明の一形態は、マイクロ合成技術を導入することで、これまで1〜1.5時間必要としていた合成時間を大幅に短縮することが可能となった。これは、マイクロリアクター中での微小空間で反応をさせることから反応の効率が向上して短時間で反応が終了することによるものである。また、試薬の調製以降のステップは連続的な送液による自動合成となるため、合成の再現性が得られ易くなる。反応装置そのものは操作法が簡便なため、熟練した技術を必要としない。さらに少量の試薬・溶媒で反応を行なえるため、薬剤合成における製造コストの削減が可能となった。 具体的には、三段階反応用のマイクロチップを用いて、[18F]SFBのワンフロー合成を行う条件を検討した結果、15分の合成時間で、約60%の放射化学的収率(減衰補正後)で[18F]SFBが得られた。このように、従来の合成法と比較して収率の向上・反応時間の短縮を達成した。また、試薬調製以降は自動合成となるため、誰が実験を行っても容易に再現性が得られること、少量の試薬・溶媒で反応が行えること、狭いスペースで合成が可能なことなどが利点として挙げられる。これらのシステムは、PET医薬品合成において、臨床から実験室レベルまで幅広く利用することができる。一実施例で使用する[18F]SFBの合成方法を示す反応式である。同実施例における三段階目の反応について脱水操作の必要性の有無を検証するための実験結果を示すグラフである。第一段階目反応の反応生成物を分析するためのマイクロチップを示す平面図である。同実施例においてマイクロリアクターの温度を調節するための温度調節機構を示す概略斜視図である。図3のマイクロチップを使用して第一段階目反応における温度の影響を調べた結果を示すグラフである。第二段階目反応をマイクロリアクター内で行った場合と従来の反応容器内で行った場合の放射化学的収率の比較結果を示すグラフである。同実施例における溶媒の違いによる放射化学的収率の比較結果を示すグラフである。同実施例を実施するためのマイクロリアクターとして使用したマイクロチップを示す平面図である。同実施例による反応生成物の液体クロマトグラムである。 一実施例で[18F]SFBを合成する反応機構は図1に示されるものである。 第一段階目反応では、標識前駆体としてt-butyl 4-N,N,N-trimethyl-ammoniumbenzoate triflate (化合物1)を使用した。この化合物1はMerck社とSigma Aldrich社の特級試薬を用い、非特許文献2,3に記載の方法により合成した。第1試薬としては、サイクロトロンにより生成した18FをK2CO3とKryptofix(登録商標)222(4,7,13,16,21,24-Hexaoxa-1,10-diazabicyclo[8.8.8]-hexacosane;以下K222という)を含む混合溶液に溶出し、乾燥させた後、アセトニトリルにより共沸・脱水処理して得たK222/K[18F]F複合体を使用した。 化合物1と第1試薬はそれぞれ溶液としてマイクロリアクターの2つの液流入口にそれぞれ供給する。それらの溶液の溶媒としてアセトニトリル又はDMSOを用いた。第二段階目反応及び第三段階目反応のための反応試薬の溶媒は第一段階目反応で用いた溶媒と同じものを使用した。 第一段階目反応の生成物として、t-butyl 4-[18F]fluorobenzoate (化合物2)が生成する。 第二段階目反応では、第一段階目反応の生成物である化合物2を含む反応溶液に、第2試薬注入口から第2試薬としてTPAH(tetrapropylammonium hydroxide)溶液を連続して供給する。化合物2とTPAHとの反応により、化合物2がケン化して[18F]SFB中間体である[18F]FBA(4-[18F]fluorobenzoic acid塩)が生成する。 第三段階目反応では、第二段階目反応の生成物である[18F]SFB中間体を含む反応溶液に、第3試薬注入口から第3試薬としてTSTU(O-(N-succinimidyl)-N,N,N',N'-tetramethyluronium tetrafluoroborate)溶液を連続して供給すると、流路の他端までの間で[18F]SFBが生成する。 標識前駆体としては4-(trimethylammoniumtrifate)benzoic acidのエステル、例えばエチルエステル、t-ブチルエステル、ペンタメチルエステルなどを用いることができる。上に示した化合物1はそのうちのt-ブチルエステルである。 このような、三段階の反応機構で合成される[18F]SFBの合成は、実験手技が煩雑であるため、これまでは合成に1時間〜1.5時間を必要としていたが、簡便・迅速合成を達成することを目的として、本発明の一形態では通常のマクロスケールでの合成よりも反応効率の高いマイクロリアクターを採用した。 従来の合成法では、固相抽出による中間体[18F]FBAの精製と、アセトニトリルを用いた共沸・脱水操作が必要とされているので、一連の反応の途中に精製と脱水の工程を設けようとするとワンフロー合成の実現は困難である。そこで、本発明は一連の反応の途中に精製と脱水の工程を設けないようにしたものであるが、それでも目的とする[18F]SFBを合成できることを示す。 非特許文献1に記載されている[18F]SFB合成法を参考にして、第二段階目反応の生成物の精製と脱水操作を省略して第三段階目の反応を行った。この実験は通常の反応容器を用いて行った。具体的には、Kryptofix 222(K222,10mg)をアセトニトリル(500μL)に溶かし、18F-(33mMのK2CO3水溶液に溶解したものを100〜500μL)を加えた。アルゴンガスを吹きつけながら110℃で共沸させ、さらにアセトニトリル(400μL)を加えて共沸させた。アセトニトリル(400μL)による共沸は3回繰り返し、完全に脱水した。そこに化合物1(5mg/1mLのアセトニトリル溶液)を加え、90℃で10分間反応させた。続いてTPAHの1M水溶液20μLを加えて120℃で5分間反応させ、中間体である[18F]FBAを合成した。合成後、反応溶液をアセトニトリルで共沸・脱水したものと、脱水を行わず含水量を1.6〜51%に調整したものとをTSTUと反応させ、[18F]SFBを合成した。 [18F]SFBは高速液体クロマトグラフ(HPLC)により分取し、[18F]SFBの収率を比較した。HPLCでの分取は、移動相として水/MeCN=60/40溶液を使用し、流速1mL/分で行った。18Fの放射能はキュリーメーター又はNaI(Tl)ガンマシンチレーションカウンタを用いて測定した。 その結果を図2に示す。縦軸の放射化学的収率は減衰補正を行ったものである。この結果によれば、低含水率(20%以下程度)の条件であれば収率に大きな影響を与えないことがわかった。2段階目の反応試薬であるTPAHは10−40%水溶液(例えば東京化成工業(株)の製品)であるため、本発明の反応系には必ず水が混入する。しかし、TPAHは一定割合でDMSO又はアセトニトリルに溶解させ、最大でも20%の含水率内になるので、脱水操作を省略してもよいことがわかる。 以上の検討を基に、マイクロリアクターへの導入の検討を行った。 まず初期段階として、[18F]SFB合成の各ステップをマイクロリアクターと従来の反応容器を用いたマクロスケールで反応を行い、反応時間と反応温度による収率の変化を比較した。(第一段階目の反応と第二段階目の反応) 第一段階目の反応と第二段階目の反応をマクロスケールでの反応と比較するためのマイクロリアクターとして、図3に示すマイクロチップを作製した。マイクロチップ1は2枚のガラス基板を接合したものである。一方のガラス基板の表面に反応流路3と、流路3に反応溶液注入口、試薬注入口、液取出し口及び反応停止試薬を注入する口を接続する接続流路を形成し、他方のガラス基板には反応溶液注入口7、試薬注入口9、液取出し口17及び反応停止試薬注入口15となる貫通穴を形成し、反応流路3と接続流路が内側になるように2枚のガラス基板を接合したものである。流路と貫通穴はサンドブラスト法により形成し、ガラス基板の接合はフッ酸接合法により行った。 反応流路3の一端5にはそれぞれの接続流路を介して反応溶液注入口7と試薬注入口9が接続され、流路3の他端3aには液取出し口17と反応停止試薬注入口15がそれぞれの接続流路を介して接続されている。反応流路3は一端5から他端3aまでの間の流路であり、反応流路3及び各接続流路は、幅が150μm、深さが150μmであり、反応流路3は長さが250mmで容積が5.625μLである。 マイクロチップ1はセラミックヒーターを内蔵したアルミニウム製チップステージ上に載置して所定の温度で反応を行わせた。チップステージの一例は図4に示されたものであり、2枚のアルミニウム製プレート30,32の間にセラミックヒーター34と熱電対からなる温度センサ36が挟みこまれたものである。ヒーター34に電源38が接続され、温度調節器40が温度センサ36の検出信号に基づいてプレート30,32の温度が所定の温度になるように、電源38からヒーター34への通電を制御する。 標識前駆体溶液としては化合物1のアセトニトリル溶液(1mg/mL)を使用し、第1試薬としてはK222/K[18F]F複合体溶液(10mg/mL)を使用し、第二段階目反応の試薬としてはTPAH溶液(1M 20μL/500μL:500μLの溶液中に1MのTPAH溶液20μLが含まれている濃度の意味。)を使用し、第一段階の反応温度を90℃と120℃の2種類で行い、第2段階の反応を120℃で行った。この反応をマクロスケールとマイクロリアクター内で行い、各反応時間における収率を比較した。反応温度が90℃のときは溶媒としてアセトニトリルを使用し、反応温度が120℃のときは溶媒としては沸点の高いDMSOを使用した。 第一段階反応の結果を図5に示す。縦軸の放射化学的収率は減衰補正を行ったものである。第一段階目においてマイクロリアクターを用いることでマクロスケールよりも収率の上昇、すなわち反応時間の短縮が達成され、その傾向は反応温度を90℃から120℃に上げることで更に顕著となった。 第二段階目の反応はマクロスケールとマイクロリアクター内でともに120℃で行った。その結果を図6に示す。縦軸の放射化学的収率は減衰補正を行ったものである。この結果によれば、マクロスケールとマイクロリアクター内の反応でほとんど差異がみられない。これは第二段階目の反応は速やかに起こるため、この反応条件ではマクロスケールとマイクロリアクター内反応で違いが現れないものと考えられる。(反応条件の検討) 溶媒としてアセトニトリルとDMSOを使用した。アセトニトリルは90〜120℃の反応温度条件ではマイクロリアクター内で蒸発してしまうため、反応温度と溶媒の再検討をマクロ実験系で行った。反応時間は一段階目を10分、二段階目を5分、三段階目を2分とした。反応温度はアセトニトリルを溶媒としたときは70℃、80℃及び90℃の3種類に設定し、DMSOを溶媒としたときは70℃、80℃、90℃及び120℃の4種類に設定し、各温度で三段階の反応を行わせた。HPLC分析により[18F]SFBと化合物2(t-butyl 4-[18F]fluorobenzoate)の収率を比較した。 その結果を図7に示す。縦軸の放射化学的収率は減衰補正を行ったものである。反応温度を上げることで、[18F]SFBへの生成が促進され、化合物2の残存が少なくなった。また、溶媒をアセトニトリルからDMSOに変更することで、化合物2の残存を抑制することができる。 以上の結果から最適な反応時間を求め、三段階反応用のマイクロチップを用いて[18F]SFBのワンフロー合成を行った。 図8は本発明の実施に使用したマイクロリアクターの一例としてのマイクロチップである。マイクロチップ2は2枚のガラス基板を接合したものである。一方のガラス基板の表面に反応流路4と、流路4に原料注入口、液取出し口及び各種試薬を注入する口を接続する接続流路を形成し、他方のガラス基板には原料注入口8、液取出し口18及び各種試薬を注入する口10,12,14,16となる貫通穴を形成し、反応流路4と接続流路が内側になるように2枚のガラス基板を接合したものである。流路と貫通穴はサンドブラスト法により形成し、ガラス基板の接合はフッ酸接合法により行った。 流路4の一端6にはそれぞれの接続流路を介して原料注入口8と第1試薬注入口10が接続され、流路4の一端6から離れた位置に第2試薬注入口12が接続され、第2試薬注入口12から流路4の他端方向に離れた位置に第3試薬注入口14が接続され、流路4の他端20が液取出し口18に接続されている。流路4の他端20には反応停止試薬を注入するための反応停止試薬注入口16がその接続流路を介して接続されている。 反応流路4は、一端6から第2試薬注入口12が接続される位置4aまでが第一段階目の反応流路22、位置4aから第3試薬注入口14が接続される位置4bまでが第二段階目の反応流路24、位置4bから他端20までが第三段階目の反応流路26となっている。 反応流路4及び各接続流路は、幅が150μm、深さが150μmである。第一段階目の反応流路22は長さが250mmで容積が5.625μL、第二段階目の反応流路24は長さが50mmで容積が1.125μL、第三段階目の反応流路26は長さが200mmで容積が4.5μLである。第二段階目の反応は速やかに進行するので、第二段階目の反応流路24の長さが最も短く設計されている。 マイクロチップ2は図4に示されたチップステージ上に載置して120℃の反応温度で反応を行わせた。 [18F]SFBの標識前駆体溶液として化合物1の溶液(濃度は1mg/500μL)、第1試薬としてK222/K[18F]F複合体溶液(濃度は10mg/500μL)、第2試薬としてTPAH溶液(1M TPAH40μL/500μL)、第3試薬としてTSTU溶液(15mg/500μL)をそれぞれ調製し、それぞれ流速0.56μL/分、0.56μL/分、1.12μL/分及び2.24μL/分でマイクロチップのそれぞれの導入口から導入した。各溶液の溶媒としてDMSOを使用した。反応時間は第一段階が5分、第二段階が30秒、第三段階が1分である。 反応生成物の分析のために、反応停止試薬導入口16から反応停止試薬としてDMSO/水(90/10)を加え、反応溶液をHPLCで分取して、ガンマカウンタで測定し、放射化学的収率を計算した。HPLCは逆相HPLCを使用し、カラムはCOSMOSIL 5C18−PAQ、又はCOSMOSIL 5C18−MSII(内径4.6mm、長さ150mm、ナカライテスク社製)を使用した。HPLCはグラジエント溶出で行い、移動相は、A=酢酸アンモニウムバッファ(50mM,pH4.0)、B=MeCNとしたとき、容積比で、開始時は75A/25B、20分経過後は20A/80B、30分後は20A/80Bとなるように設定した。移動相の流速は1mL/分である。 反応終了後の反応溶液の液体クロマトグラムは図9に示されるものである。大きなピークが[18F]SFBである。18Fの放射能はキュリーメーター又はガンマシンチレーションカウンタを用いて測定した。図9の横軸の単位は分、縦軸はカウント数である。 その結果を実施例として、従来の合成方法の結果とともに表1に示す。 従来法1〜4はワンポット法又はツーポット法によるもので、文献として発表されたものである。 減衰補正は以下の式に基づいて計算をした。 N=N0/(1/2)(t/T) Nは減衰補正後の収率、 N0は減衰補正前の収率、 Tは半減期、 tは合成時間である。 その結果、本発明の方法によれば、20分の合成時間で、約60%の放射化学的収率(減衰補正後)で[18F]SFBが得られた。 本発明により合成される[18F]SFBは、PET診断法で使用するプローブを合成するのに利用することができる。 2 マイクロチップ 4 反応流路 6 流路4の一端 8 原料注入口 10 第1試薬注入口 12 第2試薬注入口 14 第3試薬注入口 16 反応停止試薬注入口 18 液取出し口 20 流路4の他端 22 第一段階目の反応流路 24 第二段階目の反応流路 26 第三段階目の反応流路 以下の三段階の反応を、途中では反応溶液を外部に取り出すことなく連続して行わせる[18F]SFBの合成方法。(第一段階目反応)[18F]SFBの標識前駆体溶液に第1試薬として18F-イオンを含む溶液を供給して標識前駆体をフッ素化する反応。(第二段階目反応)第一段階目反応終了後の反応溶液に第2試薬としてTPAH(tetrapropylammonium hydroxide)溶液を供給して第一段階反応の反応生成物をケン化することにより[18F]SFB中間体を生成する反応。(第三段階目反応)第二段階目反応終了後の反応溶液に第3試薬としてTSTU(O-(N-succinimidyl)-N,N,N',N'-tetramethyluronium tetrafluoroborate)溶液を供給して[18F]SFBを生成する反応。 基板内部に断面の幅及び深さが1mm以下である1本の流路が形成され、前記流路の一端には原料注入口と第1試薬注入口が接続され、前記流路には前記一端から離れた位置に第2試薬注入口が接続され、第2試薬注入口から流路の他端方向に離れた位置に第3試薬注入口が接続され、前記流路の他端が液取出し口に接続されているマイクロリアクターを使用し、 前記流路の一端から他端に向かって反応溶液を流しつつ、前記流路を反応流路とし、前記流路の途中では反応溶液を外部に取り出すことなく、以下の三段階の反応を連続して行わせる請求項1に記載の[18F]SFBの合成方法。(第一段階目反応)原料注入口から[18F]SFBの標識前駆体溶液、第1試薬注入口から第1試薬としての18F-イオンを含む溶液をそれぞれ連続して供給し、第2試薬注入口までの流路で標識前駆体をフッ素化する反応。(第二段階目反応)第2試薬注入口から第2試薬としてのTPAH溶液を連続して供給し、第3試薬注入口までの流路で第一段階反応の反応生成物をケン化して[18F]SFB中間体を生成する反応。(第三段階目反応)第3試薬注入口から第3試薬としてのTSTU溶液を連続して供給し、流路の他端までの間で[18F]SFBを生成する反応。 前記標識前駆体溶液と18F-イオンを含む溶液の溶媒としてとしてアセトニトリルを使用し、アセトニトリルの沸点未満の温度で反応を起こさせる請求項1又は2に記載の[18F]SFBの合成方法。 前記標識前駆体溶液と18F-イオンを含む溶液の溶媒としてとしてDMSO(dimethyl sulfoxide)を使用し、アセトニトリルの沸点以上でDMSOの沸点未満の温度で反応を起こさせる請求項1又は2に記載の[18F]SFBの合成方法。


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