タイトル: | 特許公報(B2)_水溶性フタロシアニン色素 |
出願番号: | 2011501625 |
年次: | 2014 |
IPC分類: | C09B 47/24,C07D 487/22 |
砂金 宏明 加賀屋 豊 尾山 洋一 藤田 晴美 JP 5569812 特許公報(B2) 20140704 2011501625 20100224 水溶性フタロシアニン色素 独立行政法人物質・材料研究機構 301023238 松本 悟 100127513 砂金 宏明 加賀屋 豊 尾山 洋一 藤田 晴美 JP 2009040073 20090224 20140813 C09B 47/24 20060101AFI20140724BHJP C07D 487/22 20060101ALI20140724BHJP JPC09B47/24C07D487/22 C09B 47/24 C07D 487/22 CAplus/REGISTRY(STN) 特開2005−060575(JP,A) 特開2004−244580(JP,A) 2 JP2010052884 20100224 WO2010098359 20100902 9 20130221 松元 麻紀子 本発明は、水溶性のフタロシアニン色素に関する。 フタロシアニンおよびその金属錯体(図1)は大きなπ共役系を有する有機色素である。 しかし、その平面性が著しく高いために色素分子間の相互作用が非常に高く、水はもちろん一般的な有機溶媒にも難溶である。 この問題を解決するために、フタロシアニンの外側のベンゼン環の水素原子を他の側鎖基で置換し、あるいは、フタロシアニン錯体に軸配位子を配位させ、一般的な有機溶媒への溶解性を著しく高める試みは、非特許文献1から5、特許文献1に示すように、これまでに数多くなされているが、水への溶解度の向上に成功した例は非常に少ない。 具体的には、非特許文献1では、フタロシアニン色素の親水性コロイドを形成する程度に親水性を高めることには成功しているものの、水に溶けるまでには至っていない。 非特許文献2ではベンゼン環の水素原子をスルフォン酸基(−SO3H)等の親水性の官能基で置換することにより水への溶解度を改善したものの、水溶液中では分子会合が著しい。 非特許文献3、4及び5ではベンゼン環の水素原子をカルボキシル基(−CO2H)等の親水性の官能基で置換することにより水への溶解度を改善したものの、水溶液中では分子会合が著しい。 そのほとんどがベンゼン環の水素原子をスルフォン酸基(−SO3H)やカルボキシル基(−CO2H)等の親水性の官能基あるいはその類縁体で置換することにより、水への溶解度を改善したものである。しかしこの方法で水溶化されたフタロシアニンは、高濃度では顕著な分子会合(複数の分子があたかも1分子のように振舞う現象)を起こし、フタロシアニン色素固有の特性(特に光化学特性)が失われることが知られている。 また、特許文献1ではアンチモンフタロシアニン錯体のアンチモンに配位しうる基を、酸化剤由来の軸配位子XおよびYとするものであるが、酸化剤としては、ハロゲン、有機過酸化物、過酸または酸ハロゲン化物のいずれかが示されているだけであり、水溶性を向上させるために特定の軸配位子を選択することは示されていない。特許第4038572号Journal of InorganicBiochemistry.,102 (2008) 380,H.Isago,K.Miura,Y.Oyama;(発行日2008.3.6)Inorg.Chem.,4(1965)469,J.H.Weberand D.H.Bush.Makromol.Chem.,181(1980)2127 D.Wohrle andG.MeyerMakromol.Chem.,181(1980)575 H.Shirai etal.Phthalocyanines:Propeties and Applications,1989 VCH Publishers,Inc. C.C.Leznoff 本発明は、このような実情に鑑み、10−5Mの高濃度で溶解しても、フタロシアニン色素固有の特性を失うことのない水溶性フタロシアニン色素を提供することを目的とする。 発明1の水溶性フタロシアニン色素は、アンチモンのフタロシアニンの錯体の軸配位子に硫酸基を有していることを特徴とする。 発明2は、発明1の水溶性フタロシアニン色素において、前記軸配位子の硫酸基は、水酸基の一部又は全部が硫酸基に置換されたものであることを特徴とする。 アンチモンのフタロシアニンの錯体の軸配位子が、水溶性を左右するとともに、その本来の属性を維持するのに大きく関係するとの知見を得て、これに基づき、本願の両発明を完成したものである。 その結果、発明では、比較的高濃度(>10−5M)でも会合せずに単量体として残り、色素固有の特性が失われることがなかった。フタロシアニンの金属錯体を示す化学構造式。本発明の水溶性フタロシアニン色素の合成フロー。実施例で原料として使用した五価アンチモンのフタロシアニン錯体を示す化学構造式。実施例で得られた水溶性フタロシアニンの化学構造式。表1の化合物2のマススペクトル(アセトン溶液)と同位体分布に基づく理論的スペクトルを示すグラフ。表1の化合物2のIRスペクトルを示すグラフ。表1の化合物2の光吸収スペクトル(水―エタノール混合溶媒)を示すグラフ。表1の化合物2の光吸収スペクトル(水溶液)を示すグラフ。表1の化合物2の光吸収スペクトルの濃度依存性(水溶液)を示すグラフ。1.軸配位子である硫酸基の数;1〜2個 実施例では水酸基の数が2個のものしか示していないが、1個しかない場合でも同様の効果があるものと考えられる。本実施例における製造法の条件を変更することで硫酸基が1個、水酸基が1個という色素も得られ、下記実施例と同様な機能を有するものと考えられる。また質量分析においてもイオン化の条件によってはそのような化学種が検出される。2.硫酸基の解離状態: 本実施例においては固体として単離される色素は図4aの構造をもつ中性化学種(ツヴィッターイオン)と考えられるが、図4の説明で後述する通り、硫酸基の酸解離平衡に伴い陽イオン種と陰イオン種が生じるために、硫酸基の酸解離に伴って派生する化学種(図4a−c)を区別することは意味の無いことである。3.周辺置換基(図3におけるR1−8)の種類 本実施例では周辺置換基が存在しない例ならびに炭化水素基の例としてtert−butyl基、含ヘテロ原子炭化水素の例としてn−butoxy基を示しているが、後二者は主にフタロシアニン色素の溶媒への溶解度の向上を目的として導入されているため、特に水への溶解性には寄与していない。従ってアミノ基等のように硫酸と反応する官能基を除けば、他の置換基でもその置換基による機能を発現させながら実施例と同様の効果が得られると考えられる。 さらに、ハロゲンやニトロ基、シアノ基のような電子吸引性の置換基だけを持つフタロシアニン色素は溶媒への溶解度が著しく低いが、同様に溶解度の低い無置換体(R1,3,5,7=R2,4,6,8=H)においても水溶液への溶解が本実施例によって確認されていることから、ここで除外する理由は無い。従って五価アンチモンと軸配位子としての硫酸基が存在すれば、基本的に従来知られているどのような周辺置換基(硫酸と反応しない限り)をもつフタロシアニン色素でも実施例と同様の効果が得られるものと考えられる。実施例で用いた5価アンチモンを含むフタロシアニン色素(図3)は特許文献1(発明者; 砂金宏明、加賀屋豊)に開示された方法で合成し、特に周辺置換基としてtert−butyl基を有する色素については非特許文献1に詳細に記述されている。 周辺置換基を有しない色素、n−butoxy基を周辺置換基とする色素(図3)については、非特許文献1に記された方法と同様に、それぞれ対応する置換基を有するフタロニトリルとヨウ化アンチモンの混合物を加熱して合成した三価アンチモンのフタロシアニン化合物を過安息香酸t−butylで酸化して合成した。 なお、下記実施例以外にも三価のSb錯体を、例えば過硫酸で酸化することにより硫酸基をもった五価の錯体が得られる可能性を否定できない。 本発明の水溶性フタロシアニン色素の製造方法の実施例を以下に示す。 図2において原料となるフタロシアニン色素は[SbPc(OH)2]+Z−という記号で記されており、図3に示すような構造を持つ(図3については後で詳細に説明する)。この原料を溶解するのに必要最小量の濃硫酸に溶解し、その溶液をろ過した後、ろ液を氷水に滴下する。ここで色素が固体として遊離してくるので、これをろ過して集め、冷水で(洗浄液が中性になるまで)洗浄した後に乾燥する。必要であれば、適当な有機溶媒から再結晶を行う。以下に周辺置換基がtert−butyl基である場合(表1における化合物2)の実施例を紹介する。 100mgの[Sb(tbpc)(OH)2]+I3−(tbpc=テトラ−t−ブチル置換フタロシアニン;0.077mmol)を3mlの氷冷した濃硫酸に溶解し、ろ過して微量の不溶物を取り除いた後、ろ液を約100gの氷に滴下する。得られた青緑色の固体を洗浄液がほとんど中性(pH5〜6)になるまで水洗し、60℃で一昼夜乾燥する。 この固体を3mlのエタノールに溶解し、ろ過して微量の不溶物を取り除いた後、30mlのヘキサンを加えて固体を再び析出させる。さらに、この固体を1mlのジクロロメタンに溶かし8mlのヘキサンを加えて固体を析出させ、この固体を遠心分離で集め、80℃で12時間真空で乾燥させ、47mg(0.041mmol)の目的の固体を得る(収率53%)。 得られた固体を元素分析した結果、炭素50.54%(w/w;以下同);水素4.93%;窒素9.99%で、[Sb(tbpc)(SO4)(HSO4)]・4H2O(C48H57N8O12S2Sb)]の理論値(炭素50.49%;水素5.21%;窒素9.81%)と近似していた。 周辺置換基を持たない水溶性色素(表1における化合物1)ならびにn−butoxy基(同化合物3)をそれぞれ有する水溶性色素は、化合物2と同様に対応する周辺置換基を有する原料色素(図3)を氷冷濃硫酸に溶解した溶液を氷上に滴下し、以下同様に処理することにより合成した。 図3は本実施例で原料として用いたフタロシアニン色素の構造であり、フタロシアニン色素の中心元素として5価のアンチモンを採用している。さらに軸配位子を水酸基(OH基)とし、水に可溶化させるための親水性官能基の導入口としている。図中のR1〜R8は周辺置換基と呼ばれる側鎖基であり、一般的に溶剤に溶け難いフタロシアニン色素の溶解度を高くするための役割を担っている。従って本実施例(表1)に示した通り、炭化水素や含ヘテロ原子(酸素、硫黄等)炭化水素を採用している。R1〜R8はすべて同じでも良く、また逆に全て異なっていても良い。また一部の周辺置換基が単に水素原子であってもよく、実際に実施例にもあるように、溶解性は低いが、すべて水素原子でもかまわない。 図中右側のZ−は対陰イオンを表しており、5価アンチモンを含む当該フタロシアニン色素が分子全体で+1に帯電しているために、その電荷を中和するために存在している。実施例では、Z−としてI3−の場合を示しているが、それは当該原料がI3−として得られ易いというだけの理由であり、必要であれば、イオン交換によって容易に他の塩(例えばBF4−,PF6−,ClO4−等)に変換することができる。 しかしながら、この原料を濃硫酸に溶解し、その後冷水で処理する過程において、その対陰イオンは失われ、他の陰イオンの塩に変換される可能性が非常に高い。実際に実施例ではいずれも原料中の陰イオンであるI3−は失われていることが光吸収スペクトルによって確認されている。従って敢えて他の塩に変換する必要性がないものであるから、本実施例では他の対陰イオンに変換しなかった。 図4aは図2の製法によって得られた水溶性フタロシアニンの構造である。図3同様にフタロシアニン色素の中心元素は5価のアンチモンであり、R1〜R8は図3と同じ周辺置換基である。軸配位子だけが水酸基(−OH基)から硫酸基(−OSO3Hおよび−OSO3−)に変化している。図4aの構造は電気的に中性な化学種を表しているが、硫酸基の酸解離平衡に伴い2個とも解離しなければ陽イオン種(図4b)が、逆に2個とも解離すれば陰イオン種が生じ(図4c)、溶液中ではこの三種の化学種の平衡混合物であると考えられる。固体として単離される場合、電気的に中性でなければならないが、原料の対イオンI3−の存在は光吸収スペクトルから否定され、また以下にも述べる通り質量分析の結果陰イオンが検出されなかったことから、質量分析(図5)で検出された陽イオン種に対陰イオンを伴ったものではなく、軸配位子の硫酸基の1つが酸解離し(すなわち−OSO3−となり)、分子内で電荷を中和している(いわゆるツヴィッターイオンの状態)と考えられる。 図5はアセトン溶液中で測定した図4に示す水溶性フタロシアニン色素のマススペクトル(ESI−MS)の一例であり、周辺置換基がR1,3,5,7=H,R2,4,6,8=tert−butyl基(−C(CH3)3;化合物2)のスペクトルを示している。また自然の同位体分布に基づき、図4の分子構造で硫酸基が二個とも解離していない陽イオン種(図4b)を仮定して計算された理論スペクトルも示しているが、両者は大変良く一致している。図4の説明で述べた通り、溶液中ではこの陽イオン種を含む三種の化学種の平衡混合物であり、さらにこの測定は陽イオンを検出する条件で測定しているため、実験結果と図4aと矛盾するものではない。分子量約1051及び1053に強いピークが観測されるのは、アンチモンには2種類の安定同位体(121Sbと123Sb)がほぼ同じ比率で存在しているためである。測定条件によっては軸配位子が非解離型の硫酸基(−OSO3H)ではなく、ナトリウム塩(すなわち−OSO3Na)、カリウム塩(−OSO3K)、またはその混合物として検出される場合がある。またネガティヴスキャン(陰イオンを検出するモード)による測定では陰イオン(例えば原料に含まれていたI3−やSO42−)は検出されなかった。 図6は図4に示す水溶性フタロシアニン色素のIRスペクトル(KBr拡散反射法)の一例であり、周辺置換基がR1,3,5,7=H,R2,4,6,8=tert−butyl基(−C(CH3)3;化合物2)のスペクトル(実線)を示している。 原料の色素のスペクトル(破線)には観測されない590および607cm−1の一対のシャープな吸収帯、800〜900cm−1にかけての幅広い吸収帯、ならびに1044cm−1の強い吸収体に幾つかの吸収ピークが観測される。前二者はそれぞれ(金属イオンに配位した)硫酸基の変角振動、後二者はS−O伸縮振動と帰属され、Sb−OSO4−という結合が存在していることを支持している。 化合物2の場合、純水には微量(〜10−6M程度)ながら溶解するが非常に強く会合している。しかし界面活性剤の存在下では溶解度も増し、界面活性剤濃度がある程度高い場合はほとんど非会合型として溶存している(図8)。また界面活性剤存濃度を一定(2%(w/v))にし、730nm付近の主吸収帯における吸収強度が化合物2の濃度にどのように影響を受けるのかを調べたのが図9である。縦軸には730nm付近の最も強度の高い吸収帯における吸光度を示している。会合現象が起こらない場合、色素は単量体として存在し、吸光度は色素の濃度に比例して増加する(Lambert−Beerの法則)。図9の例は、2%という低濃度の界面活性剤の存在下でも、比較的高濃度(2x10−5M)まで色素が会合現象を起こさずに単量体として存在することを示している。 化合物1の場合、化合物2と同様に純水には微量(〜10−6M程度)ながら溶解するが非常に強く会合している。Triton−X100(市販の界面活性剤の一種で、UnionCarbide社の商標)の添加は溶解度を著しく(>50倍)向上させ、会合も一部解けるものの、Ttiton−X100の20%(w/v)水溶液中でもほとんど会合したままである。 化合物3の場合、純水および高濃度のTtiton−X100の水溶液(30%(w/v))にはまったく溶けない。 化合物1〜3の水溶性はアルコールの添加によって大きく向上する。 図7は水溶液中における化合物2の光吸収スペクトルにおけるエタノール添加の影響を調べた例であり、各溶液中の色素の濃度は一定になるように調整してある。上にも述べたように純水への溶解度は低いが、10%(v/v;以下同じ)のエタノールが存在すると、溶解度は大きく改善される(>100倍)が、ほとんどが会合した状態と考えられる。しかしエタノール濃度を増やすとともに、非会合種の比率が増え、30%の濃度では非会合種のピークがはっきりと観測される。50%のエタノール存在下では会合はほとんど無く、純エタノールとほとんど同じスペクトルが観測される(吸収ピークの位置が溶媒の組成によって異なるのは、溶媒効果であると考えられる)。 化合物1および3についても同様の傾向を示す。 水溶性のフタロシアニン色素はインクジェット技術との併用による印刷や、燃料電池・工業排水の浄化(有害有機物の光分解)用の均一触媒、癌の光線力学的治療(PDT)用感光色素等多くの分野で応用が考えられる。 アンチモンのフタロシアニンの錯体の軸配位子に硫酸基を有していることを特徴とする水溶性フタロシアニン色素。 請求項1に記載の水溶性フタロシアニン色素において、前記軸配位子の硫酸基は、水酸基の一部又は全部が硫酸基に置換されたものであることを特徴とする水溶性フタロシアニン色素。