タイトル: | 公開特許公報(A)_ケラチン繊維改質剤 |
出願番号: | 2011289351 |
年次: | 2013 |
IPC分類: | A61K 8/97,A61Q 5/00,A61Q 19/00 |
上田 早智江 田口 浩之 亀山 明代 JP 2013136551 公開特許公報(A) 20130711 2011289351 20111228 ケラチン繊維改質剤 花王株式会社 000000918 特許業務法人アルガ特許事務所 110000084 高野 登志雄 100077562 中嶋 俊夫 100096736 村田 正樹 100117156 山本 博人 100111028 上田 早智江 田口 浩之 亀山 明代 A61K 8/97 20060101AFI20130614BHJP A61Q 5/00 20060101ALI20130614BHJP A61Q 19/00 20060101ALI20130614BHJP JPA61K8/97A61Q5/00A61Q19/00 10 OL 13 4C083 4C083AA111 4C083AA112 4C083AC102 4C083AC122 4C083CC02 4C083CC31 4C083DD23 4C083DD27 4C083EE12 4C083EE29 本発明は、皮膚より発生するケラチン繊維の改質剤に関する。 皮膚の付属器官として知られる哺乳類の毛(ケラチン繊維)は、皮膚の角質化によって生じた構造に由来するものであり、一般に体温の保持と体表面の保護の役割を担っている。特に、哺乳類は恒温動物であり、寒冷な環境では体温を保つために長い毛を密に持つものが多い。人の場合、体温保持の役割としての全身を覆う体毛は退化しているが、頭髪や眉毛、睫毛、陰毛などの一部の体毛は紫外線の防御や体表面の保護にとって依然重要である。 ケラチン繊維の物理化学的性質はそれぞれの動物種や個体に固有のものであり、その性質は様々な観点から調査研究され、それらの知見が様々な産業に応用されてきた。例えば、ヒツジ、ヤギ、ラクダ、ラマ、アルパカ等の獣毛は、その繊維が弾力に富み、保温性、撥水性に優れるため、各種繊維産業の原料(動物繊維)として広く利用されている。また、犬、猫、ウサギ等の愛玩動物の体毛は、毛並みや毛色が愛玩用途における着眼点の一つとされ、目的の形質を得るために交配や育種が繰り返しおこなわれてきた。 人の場合、頭髪の状態や性質は人の身体的特徴として容易に認識できるため、その人の印象を決定付ける重要な要素となっている。このため頭髪に関する悩みは多く、薄毛・脱毛等の毛髪の量に関する悩み、くせ毛、白髪、ハリコシ、ツヤ等の髪質に関する悩み、さらには毛髪ダメージ、枝毛・切れ毛やスタイリングといった美容上の悩み等、多種多様な問題が存在する。 また、四肢体幹部の体毛、例えば眉毛、睫毛、顎鬚、口髭、及び陰毛に関しても同様に、その多寡や性質が美容上の悩みや医学上の課題の一つとなっている。このため、これらの悩みや課題に対処するため様々なヘアケア製品、スキンケア製品及び医薬品等の開発が進められている。 このように、ケラチン繊維の物理化学的性質を好ましい状態に維持または改変することは、様々な産業において重要な課題の一つとなっており、ケラチン繊維に対する改質方法(特許文献1、2)や人の毛髪の改質方法(特許文献3、4)が提案されている。 しかしながら、このようなケラチン繊維に対して化学処理を施す従来技術は、あくまでも一時的、限定的な効果しかなく、ケラチン繊維の物理化学的性質を根本的に維持または改変できるものではなかった。 ケラチン繊維は皮膚中の毛包で生成され、皮膚の外へと伸長する。ケラチン繊維の物理化学的性質はその組成や構造に由来するものであり、毛包における代謝状態に依存して決定される。したがって、毛包の代謝状態が変化すれば、皮膚より発生する時点からケラチン繊維の物理化学的性質も変化することが考えられる。毛包の代謝状態の変化は、例えば加齢、栄養状態の変化、妊娠、薬剤の使用等によってもたらされる。非特許文献1には、加齢による羊毛の性質の変化が記載されている。また、非特許文献2には、人の頭髪の曲げ剛性や太さといった性質の加齢による変化が記載されている。 毛包の代謝状態に影響を及ぼす因子として様々なサイトカインが知られている。線維芽細胞増殖因子(Fibroblast growth factor;FGF)は毛包の代謝状態に作用しヘアサイクルの調節に重要な働きをしていることが報告されている(非特許文献3)。上皮細胞増殖因子(Epidermal Growth Factor;EGF)(非特許文献4)やベータ型トランスフォーミング成長因子(Transforming growth factor−β;TGF−β)(非特許文献5)は毛包の代謝を負に制御し、毛髪の成長を阻害することが報告されている。 血管内皮細胞増殖因子(Vascular endothelial growth factor;VEGF)は、血管透過性因子としても知られており、血管内皮細胞に作用し、細胞分裂や遊走、分化を刺激したり、微小血管の血管透過性を亢進させたりするサイトカインである。 ケラチン繊維を生成する毛包の周囲には微小血管網が発達しており、ケラチン繊維生成に必要な代謝活動はこの血流を通じた栄養供給により支えられている。ケラチン繊維を活発に生成している毛包(成長期毛包)ではVEGFの発現が亢進しており、ケラチン繊維の生成が減退、消失した毛包(退行期及び休止期毛包)ではVEGFの発現が低減していることが報告されている(非特許文献6)。 このような毛包の代謝状態に影響を及ぼす因子を制御する技術は、ケラチン繊維の発生や成長速度を増加又は抑制させることから、羊毛の生産性をあげるための技術として利用されたり、人では育毛剤として応用の可能性が検討されたりしている。しかし、このような技術がケラチン繊維の物理化学的性質をも変化させるかどうかは明らかではなかった。 一方、近年、人の頭髪の曲げ剛性や太さといった性質と毛包におけるVEGFの発現量とに相関関係のあることが見出された(非特許文献2)。したがって、ケラチン繊維を生成する毛包においてVEGFの産生を促進することには、ケラチン繊維の硬さ、強さ及びハリコシ等の物理化学的性質を、皮膚より発生する時点から根本的に維持または改変することに有効である。 さらに、VEGFは皮膚における主要な血管維持又は新生因子でもあり、炎症あるいは創傷治癒時に肥厚した表皮では、VEGFが非常に高く発現しており、真皮での血管の増加と栄養供給を導いていることが報告されている(非特許文献7)。したがって、皮膚においてVEGFの産生を促進することは、創傷の回復・治癒に非常に有効である他、皮膚の新陳代謝の低下等によって生じるくすみや肌の透明感の低下といった肌色改善や養毛・育毛に有効である。 このため、様々なVEGF産生促進剤がこれまでに開発されている。例えば、大豆由来の調製物(特許文献5)、アミハナイグチ、シロヌメリイグチ、ハナイグチ、ウツロベニハナイグチ、アミタケ、キノボリイグチ、エゾウコギ、黄精、ゲンチアナ、センナ、トチュウ、ダイオウ、メリロート、ヨクイニン、クコの実、当帰、地黄、サンシシ、甘草、ニンジン、紅参、紫根、シンビジュームの各抽出物(特許文献6)、タコノキ属(Pandanus L.f.)植物抽出物(特許文献7)、シイタケ、エチナシ、プルーン、モヤシ、アマチャヅルの各抽出物(特許文献8)等にVEGF産生促進作用があることが報告されている。しかし、これらのVEGF産生促進剤は、効果の面で望ましい結果が得られない、あるいは副作用の点から配合が制限される場合があり、また有効量を配合すると着色や不快臭が発生する等の問題が生じる場合もあった。 一方、ゼンコ、ブルーフラッグ根、ガフショクソウ、ヤクチジン、センソウコン、ショウマ、ビャクビ、カクシツ、イリス根及びクイーンズディライトは何れも生薬として民間に使用されている植物であり、ゼンコは解熱、鎮痛、鎮咳、去痰を目的として、ブルーフラッグ根(Blue Flag root)は皮膚病治療や消毒を目的として、ガフショクソウは感冒、下痢腹痛、百日咳に対して、ヤクチジンは健胃、抗利尿、唾液分泌抑制を目的として、センソウコンは止血、利尿を目的として、ビャクビは解熱、消炎、利尿、強壮を目的として、カクシツは駆虫を目的として、それぞれ使用されている。 また、ショウマは消炎、解熱、鎮痛剤として使用され、イリス根は粉末にして歯磨きなどの香料や健胃剤として使用され、クイーンズディライトは緩下薬や利尿薬として使用されている。 しかしながら、斯かる植物にVEGFの産生促進作用のあることは全く知られておらず、さらには、斯かる植物にケラチン繊維の硬さ、強さ及びハリコシ等の物理化学的性質を、皮膚より発生する時点から根本的に維持または改変する作用のあることは全く知られていない。特開2006−132059号公報特開2007−016322号公報特開2007−297341号公報特開2008−297296号公報特開平11−286432号公報特開2000−212059号公報特開2004−43393号公報特開2004−35443号公報PD.Mullaney, GH.Brown, SSY.Young, PG.Hylan; Genetic and phenotypic parameters for wool characteristics in fine-wool Merino, Corriedale and Polwarth sheep. I. Influence of various factors on production; Australian Journal of Agricultural Research; 20(6), p1161-1176, 1969森脇繁,田口浩之;毛髪の加齢に関連する分子の探索とユーカリエキスの作用;フレグランスジャーナル、35(12),p22−27,2007TA. Rosenquist, GR. Martin; Fibroblast growth factor signalling in the hair growth cycle: Expression of the fibroblast growth factor receptor and ligand genes in the murine hair follicle; Developmental Dynamics; 205(4), p379-386, 1996MP. Philpott, MR. Green, T. Kealey; Human hair growth in vitro; Journal of Cell Science; 97, p463-471, 1990K.Foitzik, G.Lindner, S.Mueller-Roever, M.Maurer, N.Botchkareva, V.Botchkarev, B.Handjiski, M.Metz, T.Hibino, T.Soma, GP.Dotto, R.Paus; Control of murine hair follicle regression (catagen) by TGF-β1 in vivo; The FASEB Journal; 14, p752-760, 2000M. Detmar; The role of VEGF and thrombospondins in skin angiogenesis; Journal of Dermatological Science; 24(Suppl 1), S78-84, 2000K.Yano, LF.Brown, M.Detmar; Control of hair growth and follicle size by VEGF-mediated angiogenesis; Journal of Clinical Investigation; 107(4), 409-17, 2001 本発明は、皮膚より発生するケラチン繊維の性質を根本的に変える当該ケラチン繊維の改質剤、及びVEGF産生促進剤を提供することに関する。 本発明者らは、研究を重ねた結果、特定の植物又はその抽出物に優れたVEGF産生促進作用があること、更にはケラチン繊維の硬さ、強さ及びハリコシ等の物理化学的性質を、皮膚より発生する時点から根本的に維持または付与できることを見出した。 すなわち、本発明は、以下の1)〜10)に係るものである。 1)ショウマ、ゼンコ、ブルーフラッグ根、ガフショクソウ、ヤクチジン、センソウコン、ビャクビ、カクシツ、イリス根及びクイーンズディライトから選ばれる植物又はその抽出物を有効成分とする皮膚より発生するケラチン繊維の改質剤。 2)ケラチン繊維が、陸棲哺乳動物の体毛、又は人の頭髪、眉毛、睫毛、顎鬚、口髭若しくは陰毛である1)の皮膚より発生するケラチン繊維の改質剤。 3)ケラチン繊維の改質が、繊維の硬さ、強さ及びハリコシから選ばれる性質の付与である1)の皮膚より発生するケラチン繊維の改質剤。 4)化粧品に配合して使用される1)〜3)の皮膚より発生するケラチン繊維の改質剤。 5)皮膚に塗布して使用される1)〜4)の皮膚より発生するケラチン繊維の改質剤。 6)1日1〜3回、1ヶ月以上使用される5)の皮膚より発生するケラチン繊維の改質剤。 7)ショウマ、ゼンコ、ブルーフラッグ根、ガフショクソウ、ヤクチジン、センソウコン、ビャクビ、カクシツ、イリス根及びクイーンズディライトから選ばれる植物又はその抽出物を有効成分とするVEGF産生促進剤。 8)ショウマ、ゼンコ、ブルーフラッグ根、ガフショクソウ、ヤクチジン、センソウコン、ビャクビ、カクシツ、イリス根及びクイーンズディライトから選ばれる植物又はその抽出物を皮膚に塗布することを特徴とする、皮膚より発生するケラチン繊維に対して硬さ、強さ及びハリコシから選ばれる性質を付与する方法。 9)前記植物又はその抽出物を化粧品に配合して皮膚に塗布する8)の方法。10)1日1〜3回、1ヶ月以上使用する8)又は9)の方法。 本発明の皮膚より発生するケラチン繊維の改質剤は、医薬品、医薬部外品、化粧料等に配合し、皮膚より発生する時点から根本的に、ケラチン繊維(例えば羊毛や人の頭髪、体毛)の質を硬く、及び/又は強くし、ハリやコシを付与するための素材として有用である。 また、本発明のVEGF産生促進剤は、優れたVEGF産生促進作用を有し、血管新生促進効果や血管透過性亢進効果等を発揮することから、医薬品、医薬部外品、化粧料等に配合し、例えば創傷治癒、肌色改善や養毛・育毛、毛包の賦活化、ケラチン繊維の改質等の効果を発揮させる素材として有用である。毛髪の曲げ剛性の変化率を示したグラフ。 本発明において、ショウマとは、キンポウゲ科サラシナショウマ属の、Cimicifuga foetida(西升麻、コウライショウマ)を意味するが、その他、Cimicifuga simplex(晒菜升麻、サラシナショウマ)、C. japonica(イヌショウマ)、C. acerina(オオバショウマ)、C. dahurica(北升麻、フブキショウマ)、C. heraclefolia(関升麻、オオミツバショウマ)、Cimicifuga racemosa (ブラックコホシュ、アメリカショウマ)を用いることもできる。ゼンコとは、セリ科カワラボウフウ属の、Peucedanum praeruptrum(白花前胡)の根を意味する。ブルーフラッグ根(Blue Flag root)とは、アヤメ科アヤメ属のIris versicolorの根を意味する。ガフショクソウ(鵝不食草)とはキク科トキンソウ属のトキンソウ(Centipeda minima (L.) A. Br. et Aschers.)の全草を意味する。ヤクチジン(益智仁)とは、ショウガ科ハナミョウガ属のヤクチ(益智、Alpinia oxyhhylla Miq.)の果実を意味。センソウコンとは、アカネ科アカネ属のアカミノアカネ(Rubia cordifolia L.)の根を意味する。ビャクビ(白薇)とは、ガガイモ科カモメヅル属のフナバラソウ(Cynanchum atratum Bge.)の根を意味する。カクシツとは、ムラサキ科Lappula属のトウホクカクシツ(東北鶴虱、Lappula echinata Gillb.)の果実を意味する。イリス根とは、アヤメ科アヤメ属のイリス(Iris florentina L.)の根を意味し、クイーンズディライトとは、トウダイグサ科のクリーンズディライト(Stillinga sylvatica)を意味する。 上記植物は、ゼンコ、ブルーフラッグ根、ガフショクソウ、ヤクチジン、センソウコン、ビャクビ、カクシツ及びイリス根についてはその該当部位を、ショウマについては、好ましくは根、根茎を、クイーンズディライトについては、好ましくは根を、それぞれそのまま又は粉砕して用いることができる。 本発明の植物抽出物としては、前記植物の用部を、そのままあるいは乾燥した後に適当な大きさに切断したり、粉砕加工したりしたものを抽出して得られる抽出エキスの他、さらに分離精製して得られるより活性の高い画分(成分)が包含される。 抽出は、室温又は加熱した状態で溶剤に含浸させるか又はソックスレー抽出器等の抽出器具を用いて行われる溶剤抽出の他に、水蒸気蒸留等の蒸留法を用いて抽出する方法、炭酸ガスを超臨界状態にして行う超臨界抽出法、あるいは圧搾して抽出物を得る圧搾法等を用いることができる。 溶剤抽出に用いられる抽出溶剤としては、極性溶剤、非極性溶剤のいずれをも使用することができ、これらを混合して用いることもできる。例えば、水;メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール類;エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール等の多価アルコール類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;酢酸メチル、酢酸エチル等のエステル類;テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル等の鎖状及び環状エーテル類;ポリエチレングリコール等のポリエーテル類;ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素等のハロゲン化炭化水素類;ヘキサン、シクロヘキサン、石油エーテル等の炭化水素類;ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素類;ピリジン類;超臨界二酸化炭素;油脂、ワックス、その他オイル等が挙げられ、これらは単独で又は2種以上を組み合わせて使用でき、溶剤を変えて繰り返し行うことも可能である。このうち、水、エタノール、プロピレングリコール、ブチレングリコール等を用いるのが好ましく、特に水・エタノール混液、例えば90〜95%エタノールを用いるのが好ましい。 抽出は、例えば植物1質量部に対して1〜50質量部の溶剤を用い、3〜100℃、好ましくは20〜40℃で数時間〜数週間、好ましくは1〜30日間、浸漬又は加熱還流することにより行うことができる。 当該溶剤抽出のより好適な態様としては、植物1質量部に対して5〜20質量部の95%エタノールを用い、20〜40℃で、1〜30日間、浸漬することが挙げられる。 また、抽出物の分離精製手段としては、例えば、抽出物を、濾過、活性炭処理、液液分配、カラムクロマトグラフィー、液体クロマトグラフィー、ゲル濾過、精密蒸留等を挙げることができる。 本発明の植物抽出物は、斯くして得られる抽出液や画分をそのまま用いてもよく、適宜溶媒で希釈した希釈液として用いてもよく、或いは濃縮エキスや乾燥粉末としたり、ペースト状に調製したものでもよい。また、凍結乾燥し、用時に、通常抽出に用いられる溶剤、例えば水、エタノール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、水・エタノール混液、水・プロピレングリコール混液、水・ブチレングリコール混液等の溶剤で希釈して用いることもできる。また、リポソーム等のベシクルやマイクロカプセル等に内包させて用いることもできる。 本発明の植物の抽出物は、後記実施例2に示すように、表皮角化細胞におけるVEGFの産生を促進する作用を有することから、毛包や皮膚における血管新生促進効果や血管透過性亢進効果等の効果を発揮し、創傷治癒や肌色改善、養毛・育毛、毛包の賦活化、頭髪等のケラチン繊維の曲げ剛性や太さの増加に有効であると考えられる(H.Rossiter, C.Barresi, J.Pammer, M.Rendl, J.Haigh, EF.Wagner, and E.Tschachler; Loss of Vascular Endothelial Growth Factor A Activity in Murine Epidermal Keratinocytes Delays Wound Healing and Inhibits Tumor Formation; Cancer research; 64, p3508-3516, 2004、前記非特許文献2)。 また、後記実施例4に示すように、本発明の植物の抽出物を、頭部の皮膚に1日3回、6ヶ月間塗布し、皮膚より新たに発生した頭髪(ケラチン繊維)の性質を、植物抽出物を塗布しなかった部分と比べて評価した場合、頭髪の剛性が増加しハリコシが有意に改善されていることが認められた。すなわち、当該植物抽出物には、皮膚より発生する時点から根本的に、ケラチン繊維の質を硬く、及び/又は強くし、ハリコシを付与する効果がある。 したがって、本発明の植物又はその抽出物は、皮膚より発生するケラチン繊維の改質剤、具体的には、当該ケラチン繊維のハリコシ付与剤として使用することができ、また、創傷治癒や肌色改善、ケラチン繊維のハリコシ付与や養毛・育毛に有効なVEGF産生促進剤として使用することができる、さらに、ケラチン繊維の改質剤及びVEGF産生促進剤を製造するために使用することができる。 本発明において、「皮膚より発生するケラチン繊維」とは、皮膚中の毛包で生成され、皮膚の外へと伸長するケラチン繊維を意味し、具体的には陸上に生息している体毛を有する哺乳動物(陸棲哺乳動物)の体毛、人の頭髪、眉毛、睫毛、顎鬚、口髭、及び陰毛等が包含される。当該「ケラチン繊維の改質」とは、当該繊維を硬く、及び/又は強く変化させ、その結果ハリコシを付与する効果をもたらすものを意味する。斯かる作用は、ケラチン繊維の性質の変化であることから、発毛誘導作用(発毛促進作用、毛成長期誘導作用)、毛成長期延長作用を主として意味する、いわゆる毛成長とは明確に区別される作用である。また、本発明において、「ハリコシ」とは、ハリ(引き締まった、力強さ)若しくはコシ(しなやかで丈夫、手触りがしっかりしている)、又はその両者を意味する。 当該皮膚より発生するケラチン繊維の改質剤は、皮膚より発生するケラチン繊維の質を硬く、及び/又は強く変化させ、その結果ハリコシを付与する効果を発揮させるために、人若しくは動物用の医薬品、医薬部外品、化粧品又は食品に配合することができる。好ましくは、皮膚、例えば頭部の皮膚に塗布し、生えてくる頭髪を硬く及び/又は強くし、ハリコシを付与するために、医薬部外品、化粧品に配合することができる。また、当該VEGF産生促進剤は、創傷治癒、肌色改善、ケラチン繊維のハリコシ付与等の効果を付与するために、人若しくは動物用の医薬品、医薬部外品、化粧品又は食品等に配合することができる。 尚、本発明の皮膚より発生するケラチン繊維の改質剤及びVEGF産生促進剤には、その有効成分である上記植物又はその抽出物の他に、使用態様に応じて、各種製剤担体、保存剤、香料等が含まれていてもよい。 また、本発明の皮膚より発生するケラチン繊維の改質剤やVEGF産生促進剤が配合された上記化粧品や食品には、皮膚より発生するケラチン繊維の改質、ケラチン繊維のハリコシ付与、創傷治癒、肌色改善や養毛・育毛、VEGFの産生促進等をコンセプトとし、必要に応じてその旨を表示した化粧品、美容食品、病者用食品若しくは特定保健用食品等の機能性食品が包含される。 上記本発明の皮膚より発生するケラチン繊維の改質剤やVEGF産生促進剤が配合された医薬品の投与形態としては、例えば錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、シロップ剤等による経口投与又は静脈内注射、筋肉注射剤、坐剤、吸入薬、経皮吸収剤、点眼剤、点鼻剤等による非経口投与が挙げられる。また、このような種々の剤型の医薬製剤を調製するには、本発明の植物又はその抽出物を単独で、又は他の薬学的に許容される賦形剤、結合剤、増量剤、崩壊剤、界面活性剤、滑沢剤、分散剤、緩衝剤、保存剤、嬌味剤、香料、被膜剤、担体、希釈剤等を適宜組み合わせて配合すればよい。これら医薬製剤中の本発明の植物又はその抽出物の含有量は、乾燥物として一般的に0.001〜10質量%とすることが好ましく、特に0.01〜1質量%とすることが好ましい。 本発明の植物又はその抽出物を含有する医薬品の成人1人当たりの1日の投与量は、植物又はその抽出物として、例えば0.001〜100mgとすることが好ましく、0.1〜10mgであることがより好ましい。 上記本発明の皮膚より発生するケラチン繊維の改質剤やVEGF産生促進剤が配合された食品の形態としては、上述した経口投与製剤と同様の形態(錠剤、カプセル剤、シロップ等)が挙げられる。種々の形態の食品を調製するには、本発明の植物又はその抽出物を単独で、又は他の食品材料や、溶剤、軟化剤、油、乳化剤、防腐剤、香科、安定剤、着色剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、保湿剤、増粘剤等を適宜組み合わせて配合すればよい。当該食品中の植物又はその抽出物の含有量は、乾燥物として、一般的に0.001〜10質量%とすることが好ましく、特に0.01〜1質量%とすることが好ましい。 また、本発明の皮膚より発生するケラチン繊維の改質剤やVEGF産生促進剤が配合された医薬部外品や化粧料としては、皮膚外用剤、洗浄剤、メイクアップ化粧料、頭皮頭髪用化粧料を挙げることができ、使用方法に応じて、ローション、乳液、ゲル、クリーム、軟膏剤、粉末、顆粒等の種々の剤型で提供することができる。このような種々の剤型の医薬部外品や化粧料は、本発明の植物又はその抽出物を単独で、又は医薬部外品、皮膚化粧料、頭皮頭髪用化粧料及び洗浄料に配合される、油性成分、保湿剤、粉体、色素、乳化剤、可溶化剤、洗浄剤、紫外線吸収剤、増粘剤、薬剤、香料、樹脂、防菌防黴剤、植物抽出物、アルコール類等を適宜組み合わせて配合することにより調製することができる。当該医薬部外品、化粧料中の植物又はその抽出物の含有量は、乾燥物として、一般的に0.001〜10質量%とすることが好ましく、特に0.01〜1質量%とすることが好ましい。 以上のとおり、本発明の植物又はその抽出物は、皮膚より発生するケラチン繊維の改質剤として、すなわち、皮膚中の毛包で生成され、皮膚の外へと伸長するケラチン繊維(例えば羊毛や人の頭髪、体毛)の質を硬く、及び/又は強く変化させ、その結果ハリコシを付与する目的で使用されるが、皮膚、例えば頭部の皮膚に直接塗布して使用するのが好ましい。したがって、本発明は、当該植物又はその抽出物を皮膚に塗布し、ケラチン繊維に対して硬さ、強さ及びハリコシから選ばれる性質を付与する方法を提供するものでもある。当該方法は、頭髪に代表されるケラチン繊維が細く、ハリコシが不足している人、或いは今以上にケラチン繊維を太く、強くして、ハリコシ付与を望む人を対象として適用されるものである。したがって、その主目的は、髪のボリュームアップ、根元の立ち上がりアップ、ふんわり感の付与、髪のしなやかさの付与、しっかりとした手触り感の付与、及び/又はツヤを付与して、外観を美しく保つという美容であり、当該方法は医師が行うような医療行為を意味するものではない。 この場合、植物又はその抽出物(乾燥物)として、例えば1日あたり、0.001〜100mg、好ましくは0.1〜10mgを、数回、好ましくは1〜3回、1ヶ月以上、好ましくは4ヶ月以上、継続投与するのが好ましい。実施例1 植物抽出物の製造(1)ショウマ抽出物の製造 中国、陝西省産のショウマ(Cimicifuga foetida)の根茎(新和物産社)40gに95重量%エタノール水溶液を400ml加え、室温で22日間浸漬後、ろ過してショウマの抽出物を得た(固形分0.74重量%、抽出液量360ml)。(2)ゼンコ抽出物の製造 中国、浙江省産のハクカゼンコ(Peucedanum praeruptorum Dunn )の根(新和物産社)40gに95重量%エタノール水溶液を400ml加え、室温で43日間浸漬後、ろ過してゼンコの抽出物を得た(固形分0.8重量%、抽出液量370ml)。(3)ブルーフラッグ根抽出物の製造 アメリカ合衆国産のBlue Flag root(Iris versicolor )の根(American Botanical社)40gに95重量%エタノール水溶液を400ml加え、室温で20日間浸漬後、ろ過してBlue Flag rootの抽出物を得た(固形分0.73重量%、抽出液量325ml)。(4)ガフショクソウ抽出物の製造 中国、広西省産のトキンソウ(Centipeda minima (L.) A. Br. Et Aschers.)の全草(新和物産社)40gに95重量%エタノール水溶液を400ml加え、室温で27日間浸漬後、ろ過してガフショクソウの抽出物を得た(固形分0.76重量%、抽出液量330ml)。(5)ヤクチジン抽出物の製造 中国、広東省産のヤクチ(Alpinia oxyphylla Miq.)の果実(新和物産社)40gに95重量%エタノール水溶液を400ml加え、室温で10日間浸漬後、ろ過してヤクチジンの抽出物を得た(固形分0.6重量%、抽出液量360ml)。(6)センソウコン抽出物の製造 中国、陝西省産のアカミノアカネ(Rubia cordifolia L.)の根(新和物産社)40gに95重量%エタノール水溶液を400ml加え、室温で38日間浸漬後、ろ過してセンソウコンの抽出物を得た(固形分0.54重量%、抽出液量350ml)。(7)ビャクビ抽出物の製造 中国、山東省産のフナバラソウ(Cynanchum atratum Bge.)の根(新和物産社)40gに95重量%エタノール水溶液を400ml加え、室温で27日間浸漬後、ろ過してビャクビの抽出物を得た(固形分0.88重量%、抽出液量360ml)。(8)カクシツ抽出物の製造 中国、広東省産のトウホクカクシツ(Lappula echinata Gillb.)の果実(新和物産社)40gに95重量%エタノール水溶液を400ml加え、室温で29日間浸漬後、ろ過してカクシツの抽出物を得た(固形分0.54重量%、抽出液量350ml)。(9)イリスコン抽出物の製造 アメリカ合衆国産のニオイイリス(Iris florentina L.)の根(American Botanical社)細断物40gに95重量%エタノール水溶液を400ml加え、室温で10日間浸漬後、ろ過してイリスコンの抽出物を得た(固形分1.15重量%、抽出液量360ml)。(10)クイーンズディライト抽出物の製造 アメリカ合衆国産のクイーンズディライト(Stillingia sylvatica) の根(American Botanical社)細断物40gに95重量%エタノール水溶液を400ml加え、室温で22日間浸漬後、ろ過してクイーンズディライトの抽出物を得た(固形分0.69重量%、抽出液量332.8ml)。実施例2 VEGFの産生促進作用(1)材料及び方法 評価は以下の手順で行った。試験には正常人新生児包皮由来表皮角化細胞(クラボウ:凍結NHEK(F))を用いた。1穴あたり2×104cells/mlになるように細胞を12穴マイクロプレートに播種した。培養にはEpilife(クラボウ)を用い、5%CO2、37℃の条件下で培養した。細胞密度が50〜60%コンフルエントに達した後、培地をFBS及びインシュリン不含のEpilife(−)培地に交換した。細胞をEpilife(−)培地に24時間馴化させた後、培地を、実施例1で製造した植物抽出物を0.5重量%で添加したEpilife(−)培地に交換し、試験を開始した。なお、陰性コントロールとしては上記製造方法で製造した植物抽出物の抽出溶媒である95重量%エタノール水溶液を0.5重量%で添加したEpilife(−)培地を用いた。試験開始から24時間後、培地を回収し、培地上清中に分泌されたVEGFの量をELISAキット(R&Dシステムズ)により定量した。また、同時に細胞を250μlのNaOH(0.1N)で回収し、タンパク質量をBCATM Protein Assayキット(Pierce)により定量した。(2)結果 表1に示したように、本発明植物抽出物について、VEGF産生促進作用が認められた。実施例3 頭皮ローションの調製 本例では実施例1で製造したショウマ抽出物を用いて、表2に示す組成の頭皮ローションを調製した。実施例4 髪質の評価(1)実施要領 実施例3で調製したローションを用いて、男女パネラー(全10名)による使用試験を実施した。尚、比較として実施例1で製造したショウマ抽出物の抽出溶媒である95重量%エタノール水溶液を配合したショウマ抽出物不含の比較ローションを準備した。両者を下記条件で使用してもらい、6ヵ月後、パネラーから採取した毛髪の物性を計測した。(2)使用条件 ハーフヘッド使用試験とし、左右の一方の側頭部に本発明ローション、もう一方の側頭部に比較ローションを6ヵ月間、頭皮に塗布してもらった。塗布は1日3回(朝/昼/晩)とした。1回あたりのローション使用量は1mlとした。(3)官能評価結果 試験開始時及び6ヵ月間の塗布終了時に、パネラーの左右の側頭部からランダムに、毛髪をそれぞれ約50本、根元よりカットした。カットした毛髪から20本をランダムに選抜し、根元より6cm部分(塗布期間中に皮膚より発生した毛髪部分)を毛髪物性の測定に用いた。毛髪物性は、毛髪のハリコシの指標である曲げ剛性を、曲げ弾性測定器を用いて測定した。その結果、本発明ローションを塗布した場合に、皮膚より発生した毛髪の剛性が増加、すなわち、ハリコシが有意に増加することが認められた(図1)。この結果と、実施例2の結果から、ショウマ抽出物は毛包の代謝状態に働きかけ、ケラチン繊維の質を変化させる成分として使用することが出来ることが実証された。 ショウマ、ゼンコ、ブルーフラッグ根、ガフショクソウ、ヤクチジン、センソウコン、ビャクビ、カクシツ、イリス根及びクイーンズディライトから選ばれる植物又はその抽出物を有効成分とする皮膚より発生するケラチン繊維の改質剤。 ケラチン繊維が、陸棲哺乳動物の体毛、又は人の頭髪、眉毛、睫毛、顎鬚、口髭若しくは陰毛である請求項1記載の皮膚より発生するケラチン繊維の改質剤。 ケラチン繊維の改質が、繊維の硬さ、強さ及びハリコシから選ばれる性質の付与である請求項1記載の皮膚より発生するケラチン繊維の改質剤。 化粧品に配合して使用される請求項1〜3のいずれか1項記載の皮膚より発生するケラチン繊維の改質剤。 皮膚に塗布して使用される請求項1〜4のいずれか1項記載の皮膚より発生するケラチン繊維の改質剤。 1日1〜3回、1ヶ月以上使用される、請求項5記載の皮膚より発生するケラチン繊維の改質剤。 ショウマ、ゼンコ、ブルーフラッグ根、ガフショクソウ、ヤクチジン、センソウコン、ビャクビ、カクシツ、イリス根及びクイーンズディライトから選ばれる植物又はその抽出物を有効成分とするVEGF産生促進剤。 ショウマ、ゼンコ、ブルーフラッグ根、ガフショクソウ、ヤクチジン、センソウコン、ビャクビ、カクシツ、イリス根及びクイーンズディライトから選ばれる植物又はその抽出物を皮膚に塗布することを特徴とする、皮膚より発生するケラチン繊維に対して硬さ、強さ及びハリコシから選ばれる性質を付与する方法。 前記植物又はその抽出物を化粧品に配合して皮膚に塗布する請求項8記載の方法。 1日1〜3回、1ヶ月以上使用する請求項8又は9記載の方法。 【課題】皮膚より発生するケラチン繊維の性質を根本的に変える当該ケラチン繊維の改質剤、VEGF産生促進作用剤の提供。【解決手段】ショウマ、ゼンコ、ブルーフラッグ根、ガフショクソウ、ヤクチジン、センソウコン、ビャクビ、カクシツ、イリス根及びクイーンズディライトから選ばれる植物又はその抽出物を有効成分とする皮膚より発生するケラチン繊維の改質剤又はVEGF産生促進剤。【選択図】なし