タイトル: | 公開特許公報(A)_スパイシーでフルーティーなホップ香気を強調した発酵麦芽飲料 |
出願番号: | 2011286341 |
年次: | 2013 |
IPC分類: | C12G 3/06,C12C 5/02 |
村 上 敦 司 川 崎 由美子 目 瀬 友一朗 蒲 生 徹 JP 2013132274 公開特許公報(A) 20130708 2011286341 20111227 スパイシーでフルーティーなホップ香気を強調した発酵麦芽飲料 麒麟麦酒株式会社 307027577 勝沼 宏仁 100117787 中村 行孝 100091487 横田 修孝 100107342 伊藤 武泰 100111730 村 上 敦 司 川 崎 由美子 目 瀬 友一朗 蒲 生 徹 C12G 3/06 20060101AFI20130611BHJP C12C 5/02 20060101ALI20130611BHJP JPC12G3/06C12C5/02 4 OL 15 4B015 4B015MA03 本発明は、ホップ香気を有する発酵麦芽飲料に関する。 ホップはビールに爽快な苦味と香りを付与する。ホップに由来する香りはビールのキャラクター形成に大きな影響を与えている。香気特徴を表現する言葉として、フローラル、スパイシー、シトラス、フルーティー、ホッピー、スパイシー、マスカット等が一般的に用いられている(非特許文献1:T. Kishimoto et al., J. Agric. Food Chem., 54, 8855-8861, 2006;非特許文献2:G. T. Eyres et al., J. Agric. Food Chem., 55, 6252-6261, 2007;非特許文献3:V. E. Peacock, et al., J. Agric. Food Chem., 28, 774-777, 1980;非特許文献4:K. C. Lam et al., J. Agric. Food Chem, 34, 763-770, 1986;非特許文献5:V. E. Peacock et al., J. Agric. Food Chem., 29, 1265-1269, 1981)。 ホップの使用方法によってホップ香気の強弱を制御することができる。通常ホップは、煮沸中の麦汁に添加するが、よりホップ香気を強調するために、煮沸終了直前、あるいはワーループールタンク静置中に添加し、できるだけ熱を加えないことで実現できる。以上の仕込み工程中でのホップ使用は、「ケトルホッピング」とも言われている。 さらにホップ香気を強調した場合は、「ドライホッピング」と言われる発酵中の低温の若ビールにホップを添加する方法もある(非特許文献6:「醸造物の成分」(財団法人日本醸造協会:平成11年12月10日発行)、p.259〜261)。このドライホッピングしたビールは、ホップの香味を極端に強調できる一方で、ケトルホッピングしたビールに比べ香味は、刺激感が強くかつ粗い官能評価上の印象を与える。T. Kishimoto et al., J. Agric. Food Chem., 54, 8855-8861, 2006G. T. Eyres et al., J. Agric. Food Chem., 55, 6252-6261, 2007V. E. Peacock, et al., J. Agric. Food Chem., 28, 774-777, 1980K. C. Lam et al., J. Agric. Food Chem, 34, 763-770, 1986V. E. Peacock et al., J. Agric. Food Chem., 29, 1265-1269, 1981「醸造物の成分」(財団法人日本醸造協会:平成11年12月10日発行)、p.259〜261 本発明は、「ドライホッピング」によるスパイシーでフルーティーなホップ香気が強調され、同時に、荒々しさの少ない「ケトルホッピング」の長所を合わせ持つ発酵麦芽飲料を提供することを目的とする。 本発明者らは、飲料中の特定成分の含有量を所定の範囲に制御することにより、スパイシーでフルーティーなホップ香気が強調され、かつ、荒々しさの少ない発酵麦芽飲料を製造できることを見出した。本発明はこの知見に基づくものである。 すなわち、本発明によれば、以下の発明が提供される。(1)リナロール(Linalool)、α−フムレン(α-Humulene)、ゲラニルアセテート(Geranyl acetate)、α酸、イソα酸およびS−フラクションを少なくとも含んでなる発酵麦芽飲料であって、 リナロールの濃度が108.9〜234.4ppbであり、 α−フムレンの濃度が3.7〜74.7ppbであり、 ゲラニルアセテートの濃度が1.7〜2.4ppbであり、 前記S−フラクションが、逆相クロマトグラフィーにおいてイソα酸のピークより前に検出される全てのピークであり(該逆相クロマトグラフィーは、前記発酵麦芽飲料10mlに1mlの3N塩酸を加え、そこに20mlのイソオクタンを加えて振とうした後に得られるイソオクタン有機溶媒層から10mlを採取し、その溶媒を蒸発させた後に残る固体に、内部標準物質としてβフェニルカルコン12mgを加えたリン酸メタノール溶液(リン酸:メタノール=40ml:400ml)を1ml加え、溶解したものを分析用試料とするものであり、検出を270nmの吸光度によって行うものである)、 前記逆相クロマトグラフィーにおけるα酸のピーク面積が、内部標準物質であるβフェニルカルコンのピーク面積の0.10〜0.35倍であり、 前記逆相クロマトグラフィーにおけるS−フラクションのピーク面積が、イソα酸のピーク面積の0.2191〜0.3760倍である、発酵麦芽飲料。(2)α−フムレンの濃度が37.0〜74.7ppbであり、前記逆相クロマトグラフィーにおけるS−フラクションのピーク面積がイソα酸のピーク面積の0.2463〜0.3760倍である、前記(1)に記載の発酵麦芽飲料。(3)少なくとも予め加熱処理されたホップが添加された発酵前液を発酵させることを含んでなる、前記(1)または(2)に記載の発酵麦芽飲料の製造方法。(4)ホップがヘルスブルッカー種のものである、前記(3)に記載の製造方法。 本発明によれば、スパイシーでフルーティーなホップ香気が強調され、同時に、荒々しさの少ない発酵麦芽飲料が提供される。この発酵麦芽飲料は、「ドライホッピング」製法および「ケトルホッピング」製法の短所が解消され、それぞれの長所を合わせ持つ発酵麦芽飲料である。後記実施例に示されるように、このような発酵麦芽飲料はこれまでに知られておらず、市販品にも見出されないことから、本発明は需要者から求められる新しいタイプの発酵麦芽飲料を提供できる点で有利である。表5に記載の成分について、成分間の相関係数に基づくクラスター解析の結果を示した図である。表5に記載の各試験区と市販品1〜3との関係を、主成分分析で解析した結果を示した図である。発明の具体的説明発酵麦芽飲料 本発明による発酵麦芽飲料は、リナロール(Linalool)、α−フムレン(α-Humulene)、ゲラニルアセテート(Geranyl acetate)、α酸、イソα酸およびS−フラクションを所定の含有量で含有することを特徴とする。 本明細書において「S−フラクション」とは、逆相クロマトグラフィーにおいてイソα酸のピークより前に検出される全てのピークを意味する。よって、S−フラクションのピーク面積は、これらのピークの面積の総和である。 本発明による発酵麦芽飲料における上記成分の含有量は、以下のように規定される: リナロールの濃度が108.9〜234.4ppbであり、 α−フムレンの濃度が3.7〜74.7ppb、好ましくは37.0〜74.7ppbであり、 ゲラニルアセテートの濃度が1.7〜2.4ppbであり、 前記逆相クロマトグラフィーにおけるα酸のピーク面積が、内部標準物質であるβフェニルカルコンのピーク面積の0.10〜0.35倍であり、 前記逆相クロマトグラフィーにおけるS−フラクションのピーク面積が、イソα酸のピーク面積の0.2191〜0.3760倍、好ましくは0.2463〜0.3760倍である。 上述の逆相クロマトグラフィー(逆相カラムを用いた高速液体クロマトグラフィー)は、前記発酵麦芽飲料10mlに1mlの3N塩酸を加え、そこに20mlのイソオクタンを加えて振とうした後に得られるイソオクタン有機溶媒層から10mlを採取し、その溶媒を蒸発させた後に残る固体に、内部標準物質としてβフェニルカルコン12mgを加えたリン酸メタノール溶液(リン酸:メタノール=40ml:400ml)を1ml加え、溶解したものを分析用試料とするものであり、検出を270nmの吸光度によって行うものである。逆相クロマトグラフィーでは、極性の低い物質の方が固定相と強く相互作用して溶出が遅くなる傾向がある。この逆相クロマトグラフィーに用いられるカラムは特に制限されないが、好ましくはNucleosil 100-5, C18(4.0×250mm;Agilent Technologies社製)とされる。 より具体的には、上述の逆相クロマトグラフィーは、次のように実施することができる。まず、HPLC分析のための試料を調製するため、発酵麦芽飲料10mlに1mlの3N塩酸を加えた後、20mlのイソオクタンを加え、振とうした後に静置する。得られた溶液は、水溶層とイソオクタンから成る有機溶媒層の2層に分離し、イソオクタン有機溶媒層から10mlを採取する。採取した有機溶媒層の液体を、窒素ガス噴霧下で完全に乾燥させて固化する。これに、内部標準物質として、βフェニルカルコン12mgを加えたリン酸メタノール溶液(リン酸:メタノール=40ml:400ml)を1ml加え、溶解したものをHPLC分析用試料とする。次いで、HPLC用逆相カラム(Nucleosil 100-5, C18;4.0×250mm;Agilent Technologies社製)を用い、蒸留水27%、メタノール72%、およびリン酸1%からなる移動相Aと、メタノール99.0%およびリン酸1.0%からなる移動相Bを、1ml/分の一定流速で、運転開始から10分までを移動相Aを100%、10分から40分の間に移動相Aから移動相Bに置換し、40分以降を移動相B100%で送液し、270nmの吸光度を測定する。ここで、イソα酸のピークより前に検出されるピークの総和面積を「S−フラクション」とする。イソα酸およびα酸についても、それぞれの同属体成分が異なるピークとして検出されるため(「醸造物の成分」(財団法人日本醸造協会:平成11年12月10日発行)、p.250〜259)、各々の総和面積を求める。S−フラクション、イソα酸およびα酸の定量値は、S−フラクション、イソα酸およびα酸の個々の面積総和を、内部標準物質βフェニルカルコンのピーク面積でそれぞれ除した値として求めることができる。 本発明による発酵麦芽飲料中の上記香気成分、つまり、リナロール、α−フムレンおよびゲラニルアセテートの含有量は、質量分析計付きガスクロマトグラフィー(GC/MS)により測定することができる。 このGC/MS分析は、具体的には、次のように実施することができる。まず、発酵麦芽飲料中の香気成分をC18固相カラムで抽出し、ジクロロメタン溶出画分を分析用試料として用いる。定量は内部標準法によって行い、内部標準物質にはボルネオール(Borneol)を用い、分析用試料中25ppbになるよう添加する。GC/MSにおけるホップ香気成分の分析条件は、後記実施例に記載の表3に従うことができる。 本発明において「発酵麦芽飲料」とは、炭素源、窒素源および水などを原料として酵母により発酵させた飲料であって、原料として少なくとも麦芽を使用した飲料を意味する。このような発酵麦芽飲料としては、ビール、発泡酒、リキュール(例えば、酒税法上、「リキュール(発泡性)(1)」に分類される飲料)などが挙げられる。本発明による発酵麦芽飲料は、好ましくは、原料として少なくとも水、ホップ、および麦芽を使用した発酵麦芽飲料とされる。発酵麦芽飲料の製造 本発明による発酵麦芽飲料は、リナロール、α−フムレン、ゲラニルアセテート、α酸、イソα酸およびS−フラクションを、所定の含有量となるように添加することにより製造することができる。 上記の香気成分の取得源は特に限定されるものではなく、市販のもの、合成して得られたもの、あるいは天然物から単離・精製されたものいずれを用いてもよい。 本発明による発酵麦芽飲料は、また、少なくとも予め加熱処理されたホップが添加された発酵前液を発酵させることにより製造することができる。 ここで用いられる「予め加熱処理されたホップ」とは、製造工程中に投入される前に、予め加熱処理されたホップである。この加熱処理は、例えば、ホップに水を加えた後、恒温水槽において行うことができる。加熱処理の条件としては、例えば、温度を65℃から90℃未満、好ましくは65℃〜70℃とすることができ、処理時間を1分間から60分間未満、好ましくは1分間〜30分間、さらに好ましくは1分間から10分間とすることができる。 具体的には、本発明による発酵麦芽飲料は、少なくとも水、麦芽、およびホップを含んでなる発酵前液を発酵させることにより製造することができる。すなわち、麦芽等の醸造原料から調製された麦汁(発酵前液)に発酵用ビール酵母を添加して発酵を行い、所望により発酵液を低温にて貯蔵した後、ろ過工程により酵母を除去することにより、本発明による発酵麦芽飲料を製造することができる。 上記製造手順において、麦汁の製造は常法に従って行うことができる。例えば、醸造原料と水の混合物を糖化し、濾過して麦汁を得、その麦汁を煮沸し、煮沸した麦汁を冷却することにより麦汁を調製することができる。予め加熱処理されたホップは、ワールプール静置後の熱負荷の少ない状態で添加することができ、例えば、酵母添加の直前に添加することができる。 本発明による発酵麦芽飲料の製造に使用するホップとしては、上記の必須成分、つまり、リナロール、α−フムレン、ゲラニルアセテート、α酸、イソα酸およびS−フラクションを含んでなるものが挙げられ、好ましくはヘルスブルッカー種のものとされる。 本発明による発酵麦芽飲料の製造方法では、ホップ、麦芽以外に、米、とうもろこし、こうりゃん、馬鈴薯、でんぷん、糖類(例えば、液糖)等の酒税法で定める副原料や、タンパク質分解物、酵母エキス等の窒素源、香料、色素、起泡・泡持ち向上剤、水質調整剤、発酵助成剤等のその他の添加物を醸造原料として使用することができる。また、未発芽の麦類(例えば、未発芽大麦(エキス化したものを含む)、未発芽小麦(エキス化したものを含む))を醸造原料として使用してもよい。得られた発酵麦芽飲料は、(i)減圧若しくは常圧で蒸留してアルコールおよび低沸点成分を除去するか、あるいは(ii)逆浸透(RO)膜にてアルコールおよび低分子成分を除去することによって、非アルコール発酵麦芽飲料とすることもできる。 本発明の別の態様によれば、上記の必須成分、つまり、リナロール、α−フムレン、ゲラニルアセテート、α酸、イソα酸およびS−フラクションが、発酵麦芽飲料中で所定の含有量となるように調整することによる、発酵麦芽飲料の香気を調整する方法が提供される。成分の飲料中における含有量の調整は、これら成分を添加してもよいし、また、原料となるホップの品種を選択することで調整してもよい。 以下の例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。実施例1:醸造例 本実施例では、予め熱処理を加えたホップを用いて試飲サンプルを製造し、この試飲サンプルについて官能評価および成分分析を行った。(1)各種試飲サンプルの調製 仕込時の麦芽使用比率を67%とし、副原料(米、コーングリッツおよびコーンスターチ)を使用比率33%として調製した仕込麦汁(麦汁糖度12〜14度)を調製した。電気ヒーターを用いて一定強度で60分間煮沸を行ったところ、蒸発率は10%であった。その後、麦汁を90℃で60分間静置させた。濾紙により濾過を行った後に、氷水中で麦汁を冷却した。その後、発酵前液にビール酵母を添加して1週間主発酵を行い、その後さらに4日間後発酵を行うことにより、試飲サンプルを得た。 ホップとしては、ドイツ産ヘルスブルッカー種(Steiner社より購入)を使用した。ホップは、50倍量の蒸留水中に添加した後、恒温水槽中、65℃で10分間処理し、直ちに氷水中で冷却し、25℃まで低下した後、室温に放置した。ホップの添加時期は、ワールプール静置後の熱負荷の少ない状態で行うべく、酵母添加の直前とした。 試飲サンプルとして、ホップの添加量および麦汁糖度の異なる試験区1〜7を用意した。各試験区の詳細は、下記の表1に示す。(2)各種試飲サンプルの官能評価 得られた各試験区の試飲サンプルおよび市販品を対象として、3名のパネルによる官能評価を行った。官能評価はS、A、BおよびCの4段階評価により行った。 官能評価の判定基準は表2の通りとした。(3)試飲用サンプルの質量分析計付きガスクロマトグラフィー(GC/MS)によるホップ香気成分の分析による指標成分濃度の算出 サンプル中の香気成分をC18固相カラムで抽出し、ジクロロメタン溶出画分をGC/MSに供した。定量は内部標準法を用いた。内部標準物質にはボルネオール(Borneol)を用い、試料中25ppbになるよう添加した。GC/MSにおけるホップ香気成分の分析条件は以下のとおりである。 定量値は、基本的にppbを単位とする濃度として算出したが、標準物質の無い成分については、その成分の定量イオンのレスポンス値(高さ)を内部標準物質であるボルネオール(Borneol)の定量イオンのレスポンス値(高さ)で除した値(%)を定量値とした。(4)試飲用サンプルの高速液体クロマトグラフィー(HPLC)による苦味成分内標比の算出 HPLC分析のための試料を調製するため、試飲サンプル10mlに1mlの3N塩酸を加えた後、20mlのイソオクタンを加え、振とうした後に静置した。得られた溶液は、水溶層とイソオクタンから成る有機溶媒層の2層に分離し、イソオクタン有機溶媒層から10mlを採取した。採取した有機溶媒層の液体を、窒素ガス噴霧下で完全に乾燥させて固化した。これに、内部標準物質として、βフェニルカルコン12mgを加えたリン酸メタノール溶液(リン酸:メタノール=40ml:400ml)を1ml加え、溶解したものをHPLC分析用試料とした。HPLCの分析条件は、以下の通りである。 HPLC用逆相カラム(Nucleosil 100-5, C18;4.0×250mm;Agilent Technologies社製)を用い、蒸留水27%、メタノール72%、およびリン酸1%からなる移動相Aと、メタノール99.0%およびリン酸1.0%からなる移動相Bを、1ml/分の一定流速で、運転開始から10分までを移動相Aを100%、10分から40分の間に移動相Aから移動相Bに置換し、40分以降を移動相B100%で送液し、270nmの吸光度を測定した。ここで、イソα酸のピークより前に検出されるピークの総和面積を「S−フラクション」とした。イソα酸およびα酸についても、それぞれの同属体成分が異なるピークとして検出されるため(「醸造物の成分」(財団法人日本醸造協会:平成11年12月10日発行)、p.250〜259)、各々の総和面積を求めた。S−フラクション、イソα酸およびα酸の定量値は、S−フラクション、イソα酸およびα酸の個々の面積総和を、内部標準物質βフェニルカルコンのピーク面積でそれぞれ除した値として求めた。(5)試飲用サンプルの官能評価、GC/MS分析およびHPLC分析の結果 試飲用サンプルの官能評価、GC/MS分析およびHPLC分析の結果を、下記の表5にまとめた。 官能評価の結果において、試験区1、2、4、5、6および7では「S」判定となり、スパイシーでフルーティーなホップ香気を強調し、同時に荒々しさの少ない、最も好ましい香味バランスを示した。試験区3では「A」判定となり、S判定と同様に好ましいが、やや香気強度が弱かった。これに対し、3種の市販品(市販品1〜3)はいずれも「C」判定となり、スパイシーでフルーツ香が感じられなかった。試験例1:香味に関連した指標成分の探索 表5の官能評価結果に密接に関連した成分指標を得るため、香気成分と苦味成分を解析した。香気成分ついては、ミルセン(Myrcene)、リナロール(Linalool)、α−フムレン(α-Humulene)、δ−セリネン(delta-Selinene)、α−アモルフェン(alpha-Amorphene)、α−ユウデスモル(α-Eudesmol)、β−ユウデスモル(β-Eudesmol)、β−カリオフィレン(β-Caryophyllene)、ゲラニルアセテート(Geranyl acetate)、β−シトロネロール(β-Citronellol)、ネロール(Nerol)およびゲラニオール(Geraniol)を候補とした。苦味成分については、S−フラクション、イソα酸、α酸、およびS−フラクションのイソα酸に対する比率を候補とした。これらの候補について、指標成分を得るための統計解析を行った。 統計解析(多変量解析)を行う前に、成分間の多重共線性を排除すべく、成分間の相関係数を計算し、その値に基づいてクラスター解析を行った。距離は、[非類似度]=1−[相関係数]と定義し、クラスター間の結合では、群平均法を採用した。その結果を、図1に示す。 図1において、結合距離0.2以下のクラスターを相関係数が高い成分群とみなし、そのクラスター内からひとつの成分を選択した。その結果、S−フラクション/イソα酸、α酸、リナロール(Linalool)、β−ユウデスモル(β-Eudesmol)、α−フムレン(α-Humulene)、ゲラニルアセテート(Geranyl acetate)およびイソα酸を選択し、次の主成分分析に供した。 主成分分析の結果、因子1と因子2で累積寄与率68.8621%に達した(表6)。各試験区の因子1と因子2での散布図を図2に示した。 図2では、官能評価結果において「S」判定または「A」判定を得た試験区の全てが、市販品と明確に分離できており、選択した7成分が香味に密接に関連し、機能していることを確認した。試験例2:香味に関連した指標成分の範囲の特定 試験例1において選択された7成分の各定量値の範囲と、官能評価結果との関係を表7にまとめた。 表7では、官能評価において「S」判定となった試験区の各成分の定量値を枠線で囲んでおり、枠線で囲まれた定量値の最小値と最大値を、下段の「最も好ましい範囲」に記入した。そして、この「最も好ましい範囲」に含まれる、「S」判定以外のサンプルからの定量値も、枠線で囲んだ。 さらに、表7では、枠線で囲まれた数値の最小値と最大値の間からは外れるが、官能評価において「A」判定となった試験区の各成分の定量値に下線を付しており、下線を付した定量値と枠線で囲まれた定量値を総合したときの最小値と最大値を、下段の「好ましい範囲」に記入した。そして、上述の「最も好ましい範囲」からは外れるが、この「好ましい範囲」に含まれる、「S」判定または「A」判定以外のサンプルからの定量値にも下線を付した。 市販品には、全ての成分で上記の好ましい範囲に入る商品がないことを、成分値からも検証できた。表7によれば、β−ユウデスモル(β-Eudesmol)およびイソα酸を含めずとも好ましい範囲が特定できたが、特にβ−ユウデスモル(β-Eudesmol)は、市販品では全く異なる値を取っていることが分かった。 以上の分析から、7成分の好ましい定量値の範囲として、リナロール(Linalool)(ppb):108.9〜234.4、α−フムレン(α-Humulene)(ppb):3.7〜74.7、ゲラニルアセテート(Geranyl acetate)(ppb):1.7〜2.4、α酸:0.10〜0.35、およびS-フラクション/イソα酸:0.2191〜0.3760が特定された。また、7成分の最も好ましい定量値の範囲として、リナロール(Linalool)(ppb):108.9〜234.4、α−フムレン(α-Humulene)(ppb):37.0〜74.7、ゲラニルアセテート(Geranyl acetate)(ppb):1.7〜2.4、α酸:0.10〜0.35、およびS-フラクション/イソα酸:0.2463〜0.3760が特定された。 リナロール(Linalool)、α−フムレン(α-Humulene)、ゲラニルアセテート(Geranyl acetate)、α酸、イソα酸およびS−フラクションを少なくとも含んでなる発酵麦芽飲料であって、 リナロールの濃度が108.9〜234.4ppbであり、 α−フムレンの濃度が3.7〜74.7ppbであり、 ゲラニルアセテートの濃度が1.7〜2.4ppbであり、 前記S−フラクションが、逆相クロマトグラフィーにおいてイソα酸のピークより前に検出される全てのピークであり(該逆相クロマトグラフィーは、前記発酵麦芽飲料10mlに1mlの3N塩酸を加え、そこに20mlのイソオクタンを加えて振とうした後に得られるイソオクタン有機溶媒層から10mlを採取し、その溶媒を蒸発させた後に残る固体に、内部標準物質としてβフェニルカルコン12mgを加えたリン酸メタノール溶液(リン酸:メタノール=40ml:400ml)を1ml加え、溶解したものを分析用試料とするものであり、検出を270nmの吸光度によって行うものである)、 前記逆相クロマトグラフィーにおけるα酸のピーク面積が、内部標準物質であるβフェニルカルコンのピーク面積の0.10〜0.35倍であり、 前記逆相クロマトグラフィーにおけるS−フラクションのピーク面積が、イソα酸のピーク面積の0.2191〜0.3760倍である、発酵麦芽飲料。 α−フムレンの濃度が37.0〜74.7ppbであり、前記逆相クロマトグラフィーにおけるS−フラクションのピーク面積がイソα酸のピーク面積の0.2463〜0.3760倍である、請求項1に記載の発酵麦芽飲料。 少なくとも予め加熱処理されたホップが添加された発酵前液を発酵させることを含んでなる、請求項1または2に記載の発酵麦芽飲料の製造方法。 ホップがヘルスブルッカー種のものである、請求項3に記載の製造方法。 【課題】「ドライホッピング」によるスパイシーでフルーティーなホップ香気が強調され、同時に、荒々しさの少ない「ケトルホッピング」の長所を合わせ持つ発酵麦芽飲料の提供。【解決手段】リナロール(Linalool)、α−フムレン(α-Humulene)、ゲラニルアセテート(Geranyl acetate)、α酸、イソα酸およびS−フラクションを所定の濃度で含んでなる発酵麦芽飲料。【選択図】なし