タイトル: | 公開特許公報(A)_アグリカン分解抑制剤 |
出願番号: | 2011074226 |
年次: | 2012 |
IPC分類: | A61K 36/73,A61P 43/00,A61P 19/02 |
橋爪 浩二郎 松浦 正憲 河崎 恵子 JP 2012206983 公開特許公報(A) 20121025 2011074226 20110330 アグリカン分解抑制剤 花王株式会社 000000918 飯田 敏三 100076439 星野 宏和 100141771 宮前 尚祐 100131288 橋爪 浩二郎 松浦 正憲 河崎 恵子 A61K 36/73 20060101AFI20120928BHJP A61P 43/00 20060101ALI20120928BHJP A61P 19/02 20060101ALI20120928BHJP JPA61K35/78 HA61P43/00 111A61P19/02 6 OL 10 4C088 4C088AB51 4C088AC04 4C088CA03 4C088NA14 4C088ZA96 4C088ZC20 4C088ZC41 本発明はアグリカン分解抑制剤、アグリカナーゼ活性阻害剤、及び関節軟骨細胞外基質分解抑制剤に関する。さらに本発明は、関節軟骨細胞外基質の分解に起因する症状又は疾患の予防剤、治療剤に関する。 近年、骨関節疾患の罹患人口が増加している。骨関節疾患の多くは年齢とともに発症者数が増加する傾向にあり、近年の高齢化に伴って罹患人口のさらなる増加が予想されている。 骨関節疾患のひとつである変形性関節症(Osteoarthritis)は、関節軟骨の破壊、変性、消失を特徴とする進行性の疾患である。全国の患者総数は約800万人と推測されており、同じ骨関節疾患のひとつである慢性関節リウマチとくらべてはるかに患者数が多い。現在のところ、変形性関節症の薬物治療法は疼痛緩和を目的とした対症療法であり、疾患の進行そのものを抑える治療法はほとんど確立されていない。また、従来の治療薬には副作用等の問題があるものが多く、より安全で効果の高い予防・治療薬が望まれている。 変形性関節症は、軟骨組織の破壊が原因とされる。軟骨組織は軟骨細胞とそれを取り囲む細胞外基質から構成されており、関節軟骨細胞外基質(以下、単に軟骨基質ともいう)の主成分はII型コラーゲンとプロテオグリカンである。健常人の軟骨組織では、軟骨基質コラーゲン及びプロテオグリカン(アグリカン)の産生と、軟骨基質分解酵素による軟骨基質分解との代謝バランスが適正に保たれている。これに対し、変形性関節症患者では、発症初期において関節軟骨基質の分解・変性が観察されることから、軟骨基質の代謝バランスが分解に傾いていると考えられている。 軟骨基質を分解する酵素としては、ADAMTS(A Disintegrin And Metalloproteinase with ThoromboSpondin motifs)ファミリーに属するメタロプロテアーゼ群、及びMMP(Matrix Metalloproteinase)ファミリーに属するメタロプロテアーゼ群が知られている。これらのファミリーには、アグリカンを分解する酵素アグリカナーゼや、コラーゲンとアグリカンを分解する酵素MMPが含まれる。 近年の研究で、軟骨基質の破壊は、まずアグリカンの酵素的分解と消失が先行して起こり、次いでコラーゲンの酵素的分解が起こること、変形性関節症患者から採取した関節液中にはアグリカン分解産物が多く観察されることが報告されている。さらに、変形性関節症軟骨でのアグリカン分解は、アグリカナーゼ阻害剤によって抑制されるが、MMP阻害剤では抑制されないことも報告されている(非特許文献1参照)。Ann-Marie,et al.;THE JOURNAL OF BIOLOGICAL CHEMISTRY 277;22201-22208,2002 本発明は、アグリカン分解抑制剤、アグリカナーゼ活性阻害剤、及び関節軟骨細胞外基質分解抑制剤を提供することを課題とする。また本発明は、関節軟骨細胞外基質の分解に起因する症状又は疾患の予防剤、治療剤を提供することを課題とする。 本発明者等は上記課題に鑑み、アグリカン分解を抑制する新規素材の探索を行った。その結果、リンゴ抽出物がアグリカン分解酵素であるアグリカナーゼの活性を阻害し、軟骨基質のアグリカン分解を効果的に抑制することを見出した。本発明はこの知見に基づいて完成されたものである。 本発明は、リンゴ抽出物を有効成分として含有するアグリカン分解抑制剤に関する。 また、本発明は、リンゴ抽出物を有効成分として含有するアグリカナーゼ活性阻害剤に関する。 また、本発明は、リンゴ抽出物を有効成分として含有する関節軟骨基質分解抑制剤に関する。 さらに、本発明は、リンゴ抽出物を有効成分として含有し、関節軟骨細胞外基質の分解によって引き起こされる症状又は疾患(例えば、変形性関節症)を予防、改善するための予防・治療剤に関する。 本発明によれば、アグリカン分解抑制剤、アグリカナーゼ活性阻害剤、及び関節軟骨細胞外基質分解抑制剤を提供することができる。また、本発明によれば、関節軟骨細胞外基質の分解によって引き起こされる症状又は疾患を予防・改善するための予防剤、治療剤を提供することができる。 以下、本発明を詳細に説明する。 本発明のアグリカン分解抑制剤及びアグリカナーゼ活性阻害剤は、リンゴ抽出物を有効成分として含有する。後述の実施例で示されるように、リンゴ抽出物はアグリカナーゼ活性を有意に低下させ、アグリカナーゼによるアグリカン分解を抑制する。 アグリカンは、関節軟骨の細胞外基質に存在する主要なプロテオグリカンであって、コアタンパク質とそれを修飾するコンドロイチン硫酸及びケラタン硫酸グリコサミノグリカンとからなる。アグリカナーゼは、アグリカンのコアタンパク質中の特定の部位を切断してアグリカンを分解する酵素である。代表的なアグリカナーゼとしてADAMTS−4及びADAMTS−5が挙げられ、これらは変形性関節症患者の軟骨中でタンパク質及び遺伝子発現が確認されている(Ann-Marie,et al.;THE JOURNAL OF BIOLOGICAL CHEMISTRY 277;22201-22208,2002)。特に、ADAMTS−5はアグリカン破壊において中心的な役割を担っていると考えられており、ADAMTS−5遺伝子欠損マウスでは軟骨基質破壊が大幅に抑制されること、ADAMTS−5が関節炎に関与することが報告されている(Glasson SS,et al.;Nature;vol.434:644-648,2005、及びStanton H,et al.;Nature;vol.434:648-652,2005参照)。 本発明のアグリカナーゼ活性阻害剤は、特にアグリカナーゼADAMTS−5の活性を好適に阻害する。 さらに本発明は、リンゴ抽出物を有効成分として含有する関節軟骨細胞外基質分解抑制剤を提供するものである。前述のように軟骨基質にはアグリカン及びコラーゲンが含まれ、リンゴ抽出物の作用によりアグリカナーゼによるアグリカン分解を抑制することで、関節軟骨細胞外基質全体の分解を抑制することができる。 リンゴ抽出物が、アグリカン分解抑制作用、アグリカナーゼ活性阻害作用、及び関節軟骨基質分解抑制作用を有することは、従来全く知られておらず、本発明者等により今回新たに得られた知見である。 また本発明は、リンゴ抽出物を有効成分として含有する、関節軟骨細胞外基質の分解に起因する種々の症状や疾患を予防・改善することを目的とした予防剤・治療剤を提供する。リンゴ抽出物の作用により過剰なアグリカン分解を抑制し、分解に傾いた軟骨基質の代謝バランスを修復し、減少したアグリカンを増加させ、軟骨基質を健常化することができる。 関節軟骨細胞外基質の分解によって引き起こされる症状又は疾患としては、変形性関節症を挙げることができる。特に、本発明の予防・治療剤は、変形性関節症の予防・改善に用いることが好ましい。なお、変形性関節症(Osteoarthritis)とは、関節軟骨の変性、磨耗および軟骨下骨の硬化、増殖性変化を特徴とする疾患をいう。 本発明に用いる抽出物はリンゴを原料とする。リンゴは、学名:Malus pumilaであるバラ科リンゴ属の植物である。 抽出物の製造には、リンゴの全ての任意の部分が使用可能である。例えば、全木、任意の部位(根、根茎、幹、枝、茎、葉、樹皮、樹液、樹脂、花、果実、種子等)を用いることができ、これらを複数組み合わせて用いてもよい。なかでも、本発明ではリンゴの果実を用いて抽出を行うことが好ましい。リンゴ果実は、従来から食用として用いられていることもあり、安全性が高い。果実としては成熟果実、未熟果実ともに用いることができるが、より多くのポリフェノール化合物を含有することから、未熟果実が特に好ましい。 リンゴ抽出物の抽出には、通常の抽出方法を用いることができる。本発明で用いるリンゴ抽出物は、溶媒等を用いて得られる抽出液であってもよく、果実を搾汁等して得られる果汁でもよい。 抽出方法は特に限定されないが、植物を常温又は加温下にて抽出するか又はソックスレー抽出器等の抽出器具を用いて抽出することにより得ることが好ましい。 抽出物の調製には、上記植物をそのまま又は乾燥粉砕して用いることができる。また、上記植物の水蒸気蒸留物又は圧搾物を用いることもでき、これらは精油等より精製したものを用いることもでき、また市販品を利用することもできる。上記植物又はその水蒸気蒸留物若しくは圧搾物は、いずれかを単独で、又は2種以上を組み合わせて使用してもよい。 抽出に溶媒を用いる場合、溶媒としては特に限定されないが、通常植物成分の抽出に用いられるもの、例えば水、石油エーテル、n−ヘキサン、トルエン、ジクロロエタン、クロロホルム、エーテル、酢酸エチル、アセトン、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、超臨界二酸化炭素等を用いることができる。なかでも、水、エタノール、含水エタノールを用いることが好ましい。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。また、抽出に際して酸やアルカリなどを添加し、抽出溶媒のpHを調整してもよい。 抽出条件も通常の条件を適用でき、例えば上記植物を0〜100℃で0.5時間〜30日間浸漬又は加熱還流すればよい。用いる抽出溶媒の量は、上記植物の重量に対して1倍量〜50倍量、好ましくは5倍量〜20倍量である。 本発明において、上記リンゴ抽出物をそのまま用いてもよいし、さらに適当な分離手段、例えばゲル濾過、クロマトグラフィー、精密蒸留等により活性の高い画分を分画して用いることもできる。また、得られたリンゴ抽出物を希釈、濃縮または凍結乾燥した後、粉末又はペースト状に調製して用いることもできる。 本発明において、リンゴ抽出物とは、前記のような抽出方法で得られた各種溶剤抽出液、その希釈液、その濃縮液、その精製画分又はその乾燥末を含むものである。 特に、本発明で用いるリンゴ抽出物は、リンゴ由来ポリフェノールを主成分として含有するものであることが好ましい。具体的には、リンゴ抽出物中にリンゴ由来ポリフェノールが5質量%以上含まれることが好ましく、30質量%以上含まれることがより好ましい。リンゴ由来ポリフェノールは、例えば、上述の手法で得たリンゴ抽出物から、精製等の手段によりポリフェノール成分を分画することで得られる。 具体的には、ポリフェノールを吸着する吸着剤を用いてリンゴ抽出物を処理し、吸着剤に吸着した吸着画分を、例えばエタノール等の含水アルコールで溶出させることにより、リンゴ由来ポリフェノール画分を精製することができる。ポリフェノールを吸着する吸着剤として、例えば、親水性ビニルポリマー樹脂(東ソー社製「トヨパールHW40」)、スチレン−ジビニルベンゼン樹脂(三菱化学社製「セパビーズSP−850」)、ゲル型合成樹脂(三菱化学社製「ダイヤイオンHP-20」)が挙げられる。得られたポリフェノール画分は、さらに濃縮処理等を施してもよい。また、凍結乾燥等の乾燥処理を施してもよい。 リンゴ由来ポリフェノールは、精製された市販品を利用することもできる。市販品の一例として、アップルフェノン(商品名、アサヒフードアンドヘルスケア社製)が挙げられる。 本発明で用いる抽出物の抽出方法について好ましい実施態様を挙げるが、本発明はこれに限定されるものではない。 リンゴ抽出物の抽出方法としては、例えばリンゴ果実をpH3.2〜4.6、好ましくはpH3.5〜4.3で破砕し、得られた果汁にペクチナーゼを5〜75℃、好ましくは30〜60℃で10〜100ppm、好ましくは20〜30ppmで清澄化を行い、遠心分離後、5〜75℃、好ましくは15〜25℃で珪藻土(商品名「シリカ300S」、中央シリカ社製)濾過によりさらに清澄化を行い、清澄果汁を得る。或いはヘキサン、クロロホルム等の有機溶媒による分配及び濾過を行い、清澄抽出液を得る。 次いで、得られた抽出物を0〜40℃、好ましくは15〜25℃、pH1.5〜4.2、好ましくはpH3.0〜4.0で前記吸着剤を充填した吸着カラムに通液し、ポリフェノール類を吸着させる。続いて純水を通液し、カラム中の非吸着物質(糖類、有機酸類等)を除去した後、10〜90%、好ましくは30〜80%のエタノールで吸着画分を溶出する。得られた吸着画分からエタノールを25〜100℃、好ましくは35〜90℃で減圧留去し、濃縮液をそのままで液体のリンゴ由来ポリフェノールとしてもよい。或いはデキストリン等の粉末助剤を添加し、噴霧乾燥又は凍結乾燥を行い、リンゴ由来ポリフェノールの粉末品としてもよい。 本発明のアグリカン分解抑制剤、アグリカナーゼ活性阻害剤、関節軟骨基質分解抑制剤、及び関節軟骨細胞外基質の分解によって引き起こされる症状又は疾患を予防・改善するための予防・治療剤(以下、纏めて「本発明の剤」「本発明の各剤」ともいう)は、リンゴ抽出物をそのまま用いてもよい。また、他の成分を加えて組成物としたものであってもよい。他の成分として、例えば、酸化チタン、炭酸カルシウム、蒸留水、乳糖、デンプン等の適当な液体または固体の賦形剤または増量剤を加えることができる。剤中に含有されるリンゴ抽出物の量は特に制限されないが、リンゴ抽出物が固形分換算で0.0001〜100質量%含まれるのが好ましく、0.01〜80質量%含まれるのがより好ましく、0.1〜80質量%含まれるのがさらに好ましい。 本発明の剤の剤形は特に限定されないが、例えば散剤、顆粒剤、カプセル剤、丸剤、錠剤等の固形製剤、水剤、懸濁剤、乳剤等の液剤等が挙げられる。 上記本発明の各剤は、アグリカン等の関節軟骨細胞外基質の分解によって引き起こされる種々の症状又は疾患を予防・治療することを目的としたヒト若しくは動物用医薬組成物、医薬部外品組成物に適用することができる。例えば、医薬組成物や医薬部外品組成物の添加剤、配合剤として用いることができる。このような医薬組成物や医薬部外品組成物の添加剤、配合剤は、香料、色素、酸化防止剤等の医薬用として通常用いられる添加剤または配合剤に、有効成分として上記リンゴ抽出物を混合することで調製できる。 医薬品や医薬部外品には、本発明の剤の他に、助剤、安定化剤、湿潤剤、乳化剤、吸収促進剤及び界面活性剤等の薬学的に許容される担体、賦活剤、その他添加剤を任意に組合せて配合することができる。経口投与の医薬用組成物の場合、本発明の剤の他に、経口投与剤の形態に応じて一般に用いられる賦形剤、崩壊剤、結合剤、滑沢剤、界面活性剤、アルコール類、水、水溶性高分子、甘味料、矯味剤、酸味料等を添加し、常法に従って製造することができる。 医薬品等に用いる場合、本発明の剤の使用量は、患者の年齢、症状、患者の程度、投与経路、投与スケジュール、製剤形態、素材の阻害活性の強さなどにより、適宜選択、決定される。例えば、経口投与の場合、一般に1日当たり0.001〜10g/kg体重が好ましく、1日数回に分けて投与してもよい。 また、本発明の各剤は、食品又は飲料用の添加剤や配合剤として用いてもよい。このような食品又は飲料用の添加剤、配合剤は、香料、色素、酸化防止剤等、食品及び飲料用として通常用いられる添加剤または配合剤に、有効成分として上記リンゴ抽出物を混合することで調製できる。 本発明の剤を適用する食品及び飲料の形状は特に限定されない。例えば、本発明の剤に適当な助剤を添加した後、通常の手段を用いて、食用に適した形態、例えば、顆粒状、粒状、錠剤、カプセル、ペースト、液状などに成形して提供することができる。食品及び飲料は、例えば、ブドウ糖、果糖、ショ糖、マルトース、ソルビトール、ステビオサイド、ルブソサイド、コーンシロップ、乳糖、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、コハク酸、乳酸、L−アスコルビン酸、dL−α−トコフェノール、エリソルビン酸ナトリウム、グリセリン、プロピレングリコール、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステルアラビアガム、カラギーナン、カゼイン、ゼラチン、ペクチン、寒天、ビタミンB類、ニコチン酸アミド、パントテン酸カルシウム、アミノ酸類、カルシウム塩類、色素、香料、保存剤等、通常の食品及び飲料に使用されている添加剤を適宜配合して、常法に従って製造することができる。 食品や飲料等に用いる場合、本発明の剤の摂取量は、消費者の年齢、体重、症状、素材の阻害活性の強さなどにより、適宜選択、決定される。一般には、1日当たり0.001〜10g/kg体重が好ましく、1日数回に分けて摂取してもよい。 また、本発明は別の態様として、リンゴ抽出物を用いたアグリカン分解抑制方法、アグリカナーゼ活性阻害方法、関節軟骨細胞外基質分解抑制方法、及び関節軟骨細胞外基質の分解によって引き起こされる症状又は疾患の予防・治療方法を提供することができる。当該方法では、リンゴ抽出物を人間又は動物の身体に適用することを特徴とする。適用部位及び形態としては特に限定されず、上述した本発明の剤を医薬品、医薬部外品、食品、飲料等として用いる場合の適用部位及び適用形態と同様である。また、適用量についても、上述した本発明の剤を医薬品、医薬部外品、食品、飲料等に適用する場合の使用又は摂取量と同様である。 次に、アグリカナーゼ活性阻害作用及びアグリカン分解抑制作用を有する物質の探索方法について説明する。 軟骨基質でのアグリカン分解は、アグリカンのコアタンパク質中の2箇所の特定部位が切断されることによって起こる。この2箇所の切断部位は、第341番目のアスパラギン残基と第342番目のフェニルアラニン残基との間(以下、Asn341−Phe342と称する)と、第373番目のグルタミン酸残基と第374番目のアラニン残基との間(以下、Glu373−Ala374と称する)であり、前者のAsn341−Phe342はMMP−3等によって切断され、後者のGlu373−Ala374はアグリカナーゼによって切断される。変形性骨関節疾患等の患者の関節液中のアグリカン分解産物を調べると、Glu373−Ala374間の切断断片が特に多く含まれることから、アグリカナーゼが軟骨基質破壊において重要な役割を果たしていると考えられる。本発明では、アグリカナーゼによるアグリカンGlu373−Ala374間の切断に着目して、アグリカン分解抑制剤の探索を行った。 本発明で用いた探索方法の一態様を以下に示すが、本発明はこれに限定されるものではない。 酵素としてアグリカナーゼの1つであるADAMTS−5を、基質としてGlu373−Ala374を含む球間ドメイン(IGD)領域のアグリカンを使用する。なお、アグリカンのコアタンパク質は、N末端側に2個の球状ドメインG1及びG2を、C末端側に球状ドメインG3を持ち、G1とG2の間に球間ドメイン(IGD)を、G2とG3の間にグリコサミノグリカン結合領域を有する。アグリカナーゼによる切断部位Glu373−Ala374は球間ドメイン上に存在する。 まず、上記酵素と基質に抽出物試料を加えて酵素分解反応を行う。ADAMTS−5の作用によって、アグリカン中のGlu373−Ala374結合が切断され、アグリカン分解産物が産出する。このアグリカン分解産物は2種類のアグリカン断片を含み、一方はC末端にGlu373を、他方はN末端にAla374を持っているが、どちらの分解断片もアグリカナーゼ活性強度に応じて定量的に産出される。なお、基質として用いたアグリカン上のIGD領域において、酵素ADAMTS−5によって切断される部位は、上記Glu373−Ala374のみである。 次いで、N末端Ala374に特異的に結合する抗体を用いて、N末端にAla374を持つアグリカン断片を検出・定量する。または、C末端Glu373に特異的に結合する抗体を用いて、C末端にGlu373を持つアグリカン断片を検出・定量してもよい。或いは、アグリカン断片に特異的に結合する抗体を1次抗体として使用し、さらに1次抗体に結合する2次抗体を用いて検出、定量を行うこともできる。 得られた結果を、抽出物試料を加えない系で得られた結果と比較することで、当該試料の添加によるアグリカン分解抑制効果及びアグリカナーゼ活性阻害効果を確認できる。 以下、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。実施例1.リンゴ抽出物1の調製 バラ科リンゴ(学名:Malus pumila)の完熟果実乾燥品(新和物産より入手)40gに、50v/v%エタノール水400mlを加え、室温、静置条件にて、9日間抽出した。ろ過により不溶物を除去し、抽出液337ml(固形分含量:8.15w/v%)を得た。本抽出液をイオン交換水により、固形分1w/v%となるように希釈し、リンゴ抽出物サンプル1とした。 得られたリンゴ抽出物サンプル1を、終濃度0.0001%(10000倍希釈)となるよう下記3.の評価系に添加して、アグリカン分解抑制作用を検証した。2.リンゴ抽出物2の調製 アップルフェノンC−100(商品名、アサヒフードアンドヘルスケア社製)を用い、これを50v/v%エタノール水にエキス濃度1w/v%となるように溶解して、リンゴ抽出物サンプル2とした。なお、アップルフェノンC−100は、リンゴ(Malus pumila)の未熟果実を圧搾抽出した後、得られた抽出物をポリフェノール吸着樹脂で精製することにより製造されたリンゴ由来ポリフェノールである。3.アグリカン分解抑制効果の検証 上記で調製したリンゴ抽出物をサンプルとして用い、下記の手順でアグリカン分解抑制効果の検証を行った。なお、以下の操作において、リンゴ抽出物、基質、酵素及び反応停止液の希釈にはTris Buffer(50mM Tris-HCl(pH7.5),150mM NaCl,5mM CaCl2)を用いた。 96wellの蛋白高結合マイクロプレート(CORNING社製、製品番号#3361)の各ウェルに、基質としてアグリカン(商品名:RECOMBINANT INTERGLOBULAR DOMAIN T331-G458(Aggrecan-IGD1)、CHEMICON社製)40μL、アグリカン分解酵素としてADAMTS−5(商品名:RECOMBINANT HUMAN ADAMTS-5、CHEMICON社製)40μL、上記で調製したリンゴ抽出物サンプル1又は2を20μL添加混合した。基質アグリカンは終濃度0.025μM、酵素ADAMTS−5は終濃度1.5nMとし、リンゴ抽出物サンプル1又は2は終濃度0.0001%となるように調製した。37℃で3時間反応後、EDTAを50μL/ウェル(30mM)を加えて反応を停止し、4℃で一晩静置した。翌日、洗浄液としてTBS−T(BIO-RAD社製;20mM Tris−HCL(pH7.6),0.8%NaCl,0.1%Tween-20)を用いてプレートを3回洗浄し、ブロッキング液として1%BSA(Bovine Serum Albumin、ROCKLAND社製)250μL/ウェルを添加した後、室温にて2時間静置させた。プレートをTBS−Tで3回洗浄後、一次抗体として抗アグリカン抗体(商品名:Aggrecan ARGxx antibody[BC-3]、abcam社製)をブロッキング液(1%BSA、TBS−T)で500倍に希釈したもの100μL/ウェルを加え、室温で1.5時間反応させた。プレートをTBS−Tで3回洗浄後、二次抗体として西洋わさびペルオキシダーゼ結合抗マウスIgG抗体(商品名:ECLTM Anti-mouse IgG,Horseradish Peroxidase、GE Healthcare UK社製)をブロッキング液(1%BSA、TBS−T)で1000倍に希釈したもの100μL/ウェルを加えて室温で1.5時間反応させた。TBS−Tで3回洗浄後、発色剤としてTMB−solution(TMB-solution Kit(BIO-RAD社製))100μL/ウェルを添加し、暗所で30分反応させた後、1N H2SO4 100μL/ウェルを加えて反応を停止させた。 また、リンゴ抽出物サンプル1又は2を添加しない以外は上記と同様の操作を行ったコントロールサンプルを作製した。 さらに、リンゴ抽出物サンプル1又は2の代わりに、アグリカナーゼ活性阻害剤として知られているアクチノニン(Actinonin)(SIGMA製)を終濃度10μMとなるよう添加した以外は上記操作と同様にして、参考用サンプル(ポジティブコントロール)を作製した。 各サンプルについて、最大波長450nmの吸光度をマイクロプレートリーダー(BIO-RAD社製)で測定した。コントロールサンプルの吸光度を100としたときの各サンプルの吸光度を相対値であらわし、アグリカン分解活性(ADAMTS−5酵素活性)とした。結果を表1に示す。 表1に示すとおり、リンゴ抽出物1及び2を添加した系ではコントロールと比べてアグリカン分解活性が非常に低かった。すなわち、リンゴ抽出物がアグリカナーゼ活性を阻害し、アグリカン分解を効果的に抑制することがわかった。 リンゴ抽出物を有効成分として含有するアグリカン分解抑制剤。 リンゴ抽出物を有効成分として含有するアグリカナーゼ活性阻害剤。 前記アグリカナーゼがADAMTS−5であることを特徴とする請求項2記載のアグリカナーゼ活性阻害剤。 リンゴ抽出物を有効成分として含有する関節軟骨細胞外基質分解抑制剤。 リンゴ抽出物を有効成分として含有し、関節軟骨細胞外基質の分解により引き起こされる症状又は疾患を予防、改善するための予防・治療剤。 関節軟骨細胞外基質の分解により引き起こされる症状又は疾患が、変形性関節症であることを特徴とする請求項5記載の予防・治療剤。 【課題】新規なアグリカン分解抑制剤を提供する。【解決手段】リンゴ抽出物を有効成分として含有するアグリカン分解抑制剤。【選択図】なし