生命科学関連特許情報

タイトル:再公表特許(A1)_毛の成長周期研究モデル動物
出願番号:2011071193
年次:2014
IPC分類:A01K 67/027,C12Q 1/68,G01N 33/50,G01N 33/15,C12N 15/09


特許情報キャッシュ

今村 亨 植木 美穂 織田 裕子 JP WO2012036259 20120322 JP2011071193 20110916 毛の成長周期研究モデル動物 独立行政法人産業技術総合研究所 301021533 間山 世津子 100098121 野村 健一 100107870 今村 亨 植木 美穂 織田 裕子 JP 2010209689 20100917 A01K 67/027 20060101AFI20140107BHJP C12Q 1/68 20060101ALI20140107BHJP G01N 33/50 20060101ALI20140107BHJP G01N 33/15 20060101ALI20140107BHJP C12N 15/09 20060101ALN20140107BHJP JPA01K67/027C12Q1/68 AG01N33/50 ZG01N33/15 ZC12N15/00 A AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,SD,SL,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,MD,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IS,JP,KE,KG,KM,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LT,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US,UZ,VC,VN,ZA 再公表特許(A1) 20140203 2012534060 25 2G045 4B024 4B063 2G045DA14 2G045DA36 4B024AA11 4B024CA01 4B024DA02 4B063QA01 4B063QA17 4B063QQ53 4B063QS25 4B063QS34 本発明は、細胞増殖因子の機能が毛包特異的に欠損あるいは抑制された毛の成長周期研究モデル動物、及び該モデル動物を使用した創薬のためのスクリーニング法等に関する。 近年、生活の質を高めることを目的とした生命現象の分子機構の研究が進められて来た。頭髪、体毛、ひげなどの毛についても、これらの毛を作り出す器官である毛包の成長期(アナジェン)、退行期(カタジェン)、休止期(テロジェン)、抜け毛期(エクソジェン)といった、毛成長周期上の各相や皮膚の状態を制御する分子機構が解明され、その知見からそれらを制御することが可能になれば、上記の種々の毛の成長を促進または抑制することが可能となり、様々な社会的局面で生活の質の向上に寄与すると考える人が増えている。 しかし一方で、養毛剤や抑毛剤などは、モデル動物を用いた実験データを十分に取得せずに、あいまいな経験則などに準拠して開発されるケースも少なくない。その最大の理由の一つは、モデル動物として多用されるマウスなど齧歯類が、その寿命に比較して生理的な毛成長周期が長いために、数多くの候補物質から創薬標的を選択する多数解析のためのスクリーニングには適さないことにある。典型的なモデル動物であるマウスの場合、発毛、脱毛研究にはその背部皮膚を用いることになるが、背部皮膚に存在する毛包における毛成長周期は、成長期が18〜19日間、退行期が2日間程度であるのに対して、休止期が3〜5週間、すなわち21〜35日またはそれ以上も持続するため、同一個体での複数回の試験の結果が出るには数ヶ月以上もかかる。また室温や湿度などの飼育環境にも大きく作用され、個体差が大きく、投擲的な解析が困難であることが多いことから、再現性の高い結果を得ようとすると、膨大な労力と時間を必要とする。 ところで、毛成長周期(図1)は毛を作り出す器官である毛包自体の周期的な変化に規定されている。すなわち毛包は、成長期、退行期、休止期、という3つの相をこの順に繰り返す。このうち成長期には、毛包の先端が皮膚よりも深部の皮下脂肪層にまで到達すると共に、大きく太くなりつつ、長い毛軸を形成し、これを体外に長く伸ばす。これが外観的な毛の成長である。退行期は、毛包の構成細胞がアポトーシスを起こすことに伴い、毛包が退縮し、毛包の先端は皮下脂肪層よりも皮膚表面に近い真皮内部にまで移動する。次に来る休止期においては、毛包の構成細胞はほとんど増殖もアポトーシスも起こさず、小さい状態で静止すると考えられている。これら退行期、休止期において、外観的な毛の成長は止まるが、毛が抜けるわけではない、毛が抜けることは、脱毛期と称される独立の相で独立の制御により起こると考えられているが、脱毛期は、上記の三相と完全に無関係ではなく、休止期後期や次の成長期の途中で起こることが多いとされている。 毛成長周期におけるそれぞれの期間を規定する因子のうちで、成長期を維持する因子としては、細胞増殖因子Wntファミリータンパク質(非特許文献1)が、また退行期を誘導する因子としては細胞増殖因子FGF5(非特許文献2)が知られていたが、休止期の維持や制御に係る因子や脱毛期の制御に関わる因子や分子メカニズムに関する詳細な研究はほとんどなされていなかった。したがって、特に毛成長周期において最も長い休止期を短縮できる制御因子が解明されることと共に、当該因子の発現が制御されることで毛成長周期が短縮されて速やかに繰り返され、かつ安定して起こる、毛包での毛成長周期の研究に有用なモデル動物であって、毛包での毛の成長周期に関連する新規薬剤スクリーニングにとって好適なモデル動物の提供が望まれていた。WO2008/102782WO2008/102783Shimizu,H, et al.,J.Invest.Dermatol.122,239-245(2004)Hebert,J.M., et al.,Cell 78,1017-1025(1994)Zhang,X., et al.,J.Biol.Chem.281,15694-700(2006)Kawano,M., et al.,J.Invest.Dermatol.124,877-885(2005)Ohbayashi,N., et al.,Genes & Dev.16,870-879(2002)Tarutani,M., et al.Proc Natl Acad Sci USA 94,7400-7405(1997)Nojima,H.,Experimental Animals 55,137-141(2006)Huelsken,J., et al.Cell 105,533-545(2001)Blanpain,C., et al.,Cell 118,635-648(2004) 本発明は、毛包や皮膚の研究、特に毛包細胞で周期的に起こる毛の成長の研究に有用なモデル動物であって、毛包や皮膚の疾患に対する新規薬剤の開発とそのスクリーニングに活用できるモデル動物を提供することを目的とする。 繊維芽細胞増殖因子18(FGF18)は、FGF受容体に結合し、受容体下流に様々なシグナル伝達を引き起こすシグナル分子である(非特許文献3)。 本発明者らは以前、FGF18が毛包を含む皮膚で高いレベルで発現することを見出し、毛成長周期の休止期で特に高い発現レベルであることを報告した(非特許文献4)。そして、FGF18をマウス休止期皮膚毛包において、抜毛により強制的に毛包の成長期を誘導したあとに、FGF18を背部皮下に持続的に存在させることで、毛の成長を著しく阻害することを見いだし、FGF18及びその活性化物質からなる毛髪成長阻害剤、及びFGF18阻害物質からなる発毛剤について特許出願している(特許文献1,2)。このように、毛包細胞に外部から導入したFgf18遺伝子産物の毛成長に及ぼす影響については解明されてきているが、毛包細胞に内在しているFgf18遺伝子が毛包細胞内でどのようなメカニズムで発現し、毛の成長周期にどのように係わっているのか、という遺伝子機能についてはよくわかっていなかった。 内在遺伝子の機能を直接的に解明する手法として遺伝子ノックアウト技術があるが、FGF18は、軟骨細胞や骨芽細胞の増殖分化や肺の形成など、個体形成や生命維持に不可欠な因子であるため、通常の全身ノックアウトを行うと、個体の機能的形成が正常に起こらず、胎生期または出生直後に死亡することが知られている(非特許文献5)。 そこで、本発明者らは、皮膚とその付属器官においては毛包で選択的に高いレベルで発現しているFgf18遺伝子を毛包特異的にノックアウトすることを想起し、毛包細胞がケラチン細胞の1種であることから、ケラチン5陽性細胞特異的な遺伝子ノックアウト法を、フォスファチジルイノシトールグリカンアンカー合成に関わるPig-a遺伝子に対して適用した技術(非特許文献6)を参考にした。 具体的には、マウスFgf18遺伝子のエクソン3(Fgf18蛋白質の分泌シグナルの一部とその下流をコードする)の上流に、2つのFRT配列で挟まれたネオマイシン耐性遺伝子カセットを挿入し、このネオマイシンカセットとエクソン3が2つのloxP配列で挟まれたターゲティングベクターを作製した(図1)。このターゲティングベクターを用い、マウスES細胞に対してFgf18遺伝子エクソン3アリルをターゲティングした。この細胞をC57BL/6マウスの胚盤胞に注入したものをICRマウスの子宮内に移植して発生させ、得られたキメラの産子をC57BL/6マウスと交配して得られた産子の中から、導入したターゲット遺伝子を有する個体を選択した(F1)。F1の個体をFlpeトランスジェニックマウス個体(理研BRCから分譲:RIKEN RBRC01834;非特許文献7)と交配して、FRT配列で挟まれたネオマイシン耐性遺伝子カセットを欠失した個体を得た(F2)。次にF2マウスをK5-Creトランスジェニックマウス(熊本大学CARDから分譲:CARD ID323;非特許文献6)と交配させてケラチン5陽性細胞特異的にFgf18遺伝子エクソン3を除去した。得られるマウスは、1対のFgf18遺伝子のうちの1つを失ったヘテロノックアウトマウスの「K5Cretg,Fgf18+/floxマウス」である。「K5Cretg,Fgf18+/floxマウス」同士を交配して、Fgf18遺伝子を完全に欠損したホモノックアウトマウスの「K5Cretg,Fgf18flox/floxマウス」を得た。 ところでケラチン5は、ケラチン14と同様に、皮膚と毛包など皮膚付属器官の中では表皮、毛包、皮脂腺など多くの細胞で発現している。ところがFGF18を高いレベルで発現するのは、この中で毛包だけである。従って、上記のようにして得られたコンディショナルノックアウトマウスは、実質的に毛包特異的にFgf18遺伝子を欠損したマウスと表現することができる。したがって、本明細書の中では、特に、Fgf18遺伝子を完全に欠損したホモノックアウトマウスの「K5Cretg,Fgf18flox/floxマウス」を「毛包特異的FGF18欠損マウス」と記述することもある。その作製過程で得られるヘテロノックアウト(K5Cretg,Fgf18+/flox)マウスも、毛包特異的に1対のFgf18遺伝子の片方は欠損しているので、「毛包特異的FGF18欠損マウス(ヘテロ)」ということもできる。 なお、毛包特異的FGF18欠損マウスを作成するに当たっては、上記のK5-Creトランスジェニックマウスを使う代わりにKeratin14遺伝子のプロモーターでCreがドライブされるK14-Creトランスジェニックマウスを用いてこれを作成することも可能である。実際に、K14-Creトランスジェニックマウスを用いて毛包の発現遺伝子をノックアウトした報告もある(非特許文献8)。さらにケラチン5とケラチン14の他に、毛包や表皮で広範に発現することが知られている他のケラチンファミリータンパク質やケラチン結合性タンパク質をコードする遺伝子のプロモーターでCreがドライブされるトランスジェニックマウスを用いて毛包特異的FGF18欠損マウスを作成することも可能である。また、FGF18を高いレベルで発現する毛包のバルジ領域で発現する、ケラチン遺伝子及びその関連遺伝子以外の遺伝子のプロモーターでCreがドライブされるトランスジェニックマウスを用いることによっても、毛包特異的FGF18欠損マウスを作成することが可能である。毛包のバルジ領域で発現する遺伝子の例としては、表皮幹細胞のニッチであるバルジ領域に選択的に発現することが報告された遺伝子群が挙げられる(非特許文献9)が、これらに限定されない。 毛包特異的FGF18欠損マウスは、健康に育ち、生殖能力も備えており、外観的に検知しうる障害を有さないが、驚くべきことに、毛の成長周期の進行の状態が、野生型と著しく異なることを確認した。 すなわち、通常の野生型マウスでは3〜5週間以上も続く毛の成長周期の休止期が、毛包特異的FGF18欠損マウスでは約1週間で終了し、一周期に要する期間も約3週間にまで短縮されていた。また、毛包内のクラブヘアの脱落が防止され、脱落期の進行が遅くなった結果、毛包あたりの毛軸数が全体で2倍以上増加した。しかも、毛成長周期の進行が体表上の「毛周期ドメイン」構造の影響を受けにくく、極めてスムーズに進行する。さらに、この毛包特異的FGF18欠損マウスは加齢が進むにつれ、毛成長周期のスムーズな速やかな繰り返しが反映された結果、複数の縞模様をなすような毛成長フェーズの繰り返しが個体皮膚に現れる。このため、毛包特異的FGF18欠損マウスを用いれば、野生型のマウスにおいては同一個体皮膚表面で再現性良く行うことが極めて困難であった毛髪関連疾患や各種皮膚疾患の予防、治療物質あるいは発毛や脱毛を促進・抑制する物質の評価・スクリーニングを行うことができる。またこのマウスでは、成長を終えた毛の脱落も起こりにくいという特徴を有するため、毛成長周期の速やかな繰り返しと相まって、全身の毛の本数が多くて密集した毛のマウスとなるし、適宜剃毛すれば縞模様の毛が生えたマウスとなるため、体毛の利用や鑑賞・愛玩用に利用できる。 一方、「毛包特異的FGF18欠損マウス(ヘテロ)」の場合は、毛包特異的なFgf18遺伝子の発現量が実質的に半減していると考えられ、毛の成長周期の進行の状態に関し、野生型と毛包特異的FGF18欠損マウス(ホモタイプ)の場合との中間的な性質を示す。すなわち、毛包休止期期間が野生型43日、ホモ型6〜8日に対し、ヘテロ型は30日であった。このヘテロノックアウトマウスは、FGF18の量依存的に毛包特異的に起こる現象の研究モデル動物や該モデル動物を使用した創薬のためのスクリーニング法開発の用途において有用である。具体的には、毛包内の内在性Fgf18遺伝子の発現を抑える物質又はFGF18蛋白質の活性を抑える物質をスクリーニングする際に、野生型と同様の系でスクリーニングが可能である。その際、高発現しているFGF18を一定レベル以下に抑制しなくてはならない野生型を用いる場合に比べ、発現量の少ないヘテロ型の場合は、感度よく被検物質を検出できる。また、毛包サイクルの休止期が、野生型の3/4程度まで短くなり、毛の成長周期全体の進行が早いため、スクリーニングの進行が早まるメリットもある。 以上の知見を得たことで、本発明を完成させた。 また、これらの結果から見て、毛包内の内在性FGF18には、毛の成長サイクルの休止期を延長させる作用と共に、毛包内のクラブヘアを脱落させる作用があることが明らかとなったため、毛包内の内在性Fgf18遺伝子の発現を抑える物質又はFGF18蛋白質の活性を抑える物質が毛の成長サイクルの休止期短縮剤又は脱毛防止剤となることを見出し、同日付で特許出願した。 すなわち、本発明は以下のとおりである。〔1〕 ケラチン5陽性細胞特異的に1対の繊維芽細胞増殖因子18(Fgf18)遺伝子の少なくとも片方がノックアウト又はノックダウンされていることを特徴とする、FGF18の発現が毛包特異的に阻害又は抑制され、毛成長周期の休止期が短縮された非ヒトモデル動物。〔2〕 前記Fgf18遺伝子の両方がノックアウト又はノックダウンされていることを特徴とする、体表面の単位面積あたりの毛軸数が多い、前記〔1〕に記載の非ヒトモデル動物。〔3〕 毛包に作用する薬剤を評価するためのモデル動物である、前記〔1〕又は〔2〕に記載の非ヒトモデル動物。〔4〕 毛包に作用する被検物質を同時に複数種類作用させるか、又は同一被検物質を複数回作用させることを特徴とする評価のためのモデル動物である、前記〔3〕に記載の非ヒトモデル動物。〔5〕 前記〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載の非ヒトモデル動物に、被験物質を投与し、非ヒトモデル動物における休止期の延長、成長期の短縮もしくは延長、又は抜け毛期の促進を指標にして、該被験物質を評価することを特徴とする、該被験物質の毛包に対しての有用性あるいは有害性の評価方法。〔6〕 前記〔1〕に記載の非ヒトモデル動物のうちで、前記Fgf18遺伝子の片方のみがノックアウトされている非ヒトモデル動物を用いてFGF18の発現抑制物質をスクリーニングする方法であって、被検物質を投与した際に、被検物質非存在下の場合と比較してFgf18遺伝子の発現量が減少するか否かを観察する工程を含む、方法。〔7〕 前記〔1〕に記載の非ヒトモデル動物のうちで、前記Fgf18遺伝子の片方のみがノックアウトされている非ヒトモデル動物を用いてFGF18活性抑制物質をスクリーニングする方法であって、被検物質を投与した際に、被検物質非存在下の場合と比較してFgf18下流遺伝子の発現量が変化するか否かを観察する工程を含む、方法。 頭髪、体毛、ひげなどの毛を作り出す器官である毛包の毛周期を構成する成長期、退行期、休止期、抜け毛期などの各フェーズや皮膚及び皮膚付属器官の状態を研究するためのモデル動物であって、多数の毛包の周期進行が体表の毛周期ドメインにほとんど影響されず、毛成長周期の繰り返しが速やかに起こるため、一個体の体表に成長周期上の異なる相を同時に発現させる事も可能であり、抜け毛が起こりにくいことを特徴とする、毛包と皮膚及び皮膚付属器官の研究にとって好適なモデル動物を提供する。同時に、当該モデル動物を用いた毛髪関連疾患や各種皮膚疾患の予防、治療物質あるいは発毛や脱毛を促進・抑制する物質の評価・スクリーニング方法を提供することができる。 脱毛にはストレス性のものがあることは広く知られているが、それがどのように生理的な毛成長制御と関連しているのかなど、ストレス誘発性脱毛症の発症メカニズムは十分に明らかでないため、根治は難しく、対処療法すら十分に有効とは言えない状況にある。本発明のモデル動物は、毛成長周期が速やかに進むため、これら従来のモデル動物では実験が困難な課題にも有用なモデル動物であり、本発明のモデル動物におけるメカニズムを解析することにより、ストレス性脱毛などの発症機構を明らかにすることが可能になると考えられ、このタイプの脱毛のメカニズムに合致した治療とその為の薬剤開発に資するものである。 また、本発明のモデル動物の上記の毛周期上の特徴を、体毛の利用や鑑賞・愛玩用に利用することを特徴とする、産業上有用な動物または愛玩用の動物を提供することができる。[図1] 毛成長周期 図中、「anagen(成長期)」は毛包の成長と毛軸形成が進行する時期、「catagen(退行期)」は毛包が退縮する時期、「telogen(休止期)」は毛包の活動が休止する時期を表し、「anagen」が「propagating anagen」及び「autonomous anagen」に、「telogen」が「refractory telogen」及び「competent telogen」に分けられることを示す。なお、外観的に毛軸が脱落する「脱毛期(exogen)」は、退行期や休止期と直接連結するのではなく、その毛軸が完成した成長期の次の休止期又はその次の成長期の最中に、独立した相として起こるとされている。[図2] Fgf18遺伝子ノックアウト模式図a:マウスFgf18遺伝子のエクソン3付近の構造 図中、太い黒い線はエクソン3を、線部分はイントロン構造を示す。EcoRIは、制限酵素EcoRIの位置を示す。b:ターゲティングベクター構造ならびにゲノム相同組換えの概略図。 図中、「KIprobe」はサザンブロット法による組換え判定・遺伝子型判定などに用いるDNAプローブであり、その相同位置を太線で示す。ボックスで囲んだPGK-Neorは、neomycin耐性遺伝子のカセットを示し、黒三角はloxP配列を示し、灰色三角はFRT配列を示す。c:bの配列からFlp recombinaseによりFRT配列で囲まれたneomycin耐性遺伝子のカセットが除去された様子を示す。d:cの配列からCre recombinaseによりloxP配列で囲まれたFgf18遺伝子のエクソン3が除去された様子を示す。e:サザンブロット解析の結果の一例。hetero、homo、及び野生型の解析結果を示す。[図3ab] 毛包特異的FGF18欠損マウス(K5Cretg;Fgf18flox/flox:ホモノックアウトマウス)において速やかに繰り返される毛成長周期a:若齢における毛包特異的FGF18欠損マウス(ホモノックアウトマウス:下段)及び対照のヘテロノックアウトマウス(K5Cretg,Fgf18+/flox:上段)のそれぞれ代表的な一個体について、背部皮膚の毛成長周期の変遷を経時的に観察したもの。各写真とも、生えている毛をバリカンで短く刈ってから撮影しており、皮膚の色が毛成長周期状の相を反映している。b:毛包特異的FGF18欠損マウス(ホモノックアウトマウス:左)及び対照の野生型マウス(C57BL/6:右)のそれぞれ代表的成体一個体について、それらの背部皮膚における発毛パターンの一例を示したものである。[図3cd] 毛包特異的FGF18欠損マウス(K5Cretg;Fgf18flox/flox:ホモノックアウトマウス)において速やかに繰り返される毛成長周期(2)c:毛包特異的FGF18欠損マウス(ホモノックアウトマウス)の背部皮膚における毛成長周期の変化(Y軸)を、マウスの日齢(X軸)に対してプロットしたものである。d:加齢の進んだ毛包特異的FGF18欠損マウス(ホモノックアウトマウス)の背部皮膚における毛成長周期の変遷を、概ね1週間毎に観察したものであり、各写真とも、観察日前の1週間の毛成長を反映している。[図3e] Fgf18遺伝子毛包特異的欠損マウスのうちのホモタイプ及びヘテロタイプと野生マウスにおける休止期の持続期間の比較[図4] ヘアサイクルドメインの例示 図はマウスの背部皮膚に存在するヘアサイクルドメインを表す。マウス背部皮膚には、図中の縦横線で仕切られた区切りのようにヘアサイクルドメインが存在し、それぞれのドメイン毎に毛周期の制御が異なることが経験的に知られている。ただし、図中の縦横線の数や位置は例示であり、実際は様々なパターンがある。[図5ab] 加齢の進んだ毛包特異的FGF18欠損マウス(ホモノックアウトマウス)におけるクラブヘアの不完全な脱落a:左:加齢の進んだ毛包特異的FGF18欠損マウス(ホモノックアウトマウス)において、背部から指で抜去した毛の状態を示したものである。右:対照として左と同齢のヘテロノックアウトマウスから抜去したクラブヘアーの状態。b:成長期毛包周囲における毛包の状態。なお、図中バーは200μmを表す。[図5cd] 加齢の進んだ毛包特異的FGF18欠損マウスにおけるクラブヘアの不完全な脱落c:休止期毛包周囲における毛包の状態。なお、図中バーは200μmを表す。d:cの枠囲み部分の拡大図 [図5ef] 加齢の進んだ毛包特異的FGF18欠損マウスにおけるクラブヘアの不完全な脱落e:成長期毛包を含む皮膚の切片の免疫染色写真。ケラチン15とPCNA抗原に対する二重染色である。PCNA陽性の成長期毛包のバルジ領域に寄り添うクラブヘアの毛包が観察される。f:eの視野の一部のケラチン15のシグナルのみを表したものである。ケラチン15は皮膚幹細胞に特徴的な抗原であり、成長期毛包のバルジ領域とクラブヘアを包む袋状構造がいずれもケラチン15陽性で連続的な構造体を成していることが分かる。[図5gh] 加齢の進んだ毛包特異的FGF18欠損マウスにおけるクラブヘアの不完全な脱落g:加齢の進んだ毛包特異的FGF18欠損マウス(ホモノックアウトマウス)背部皮膚の成長期毛包周囲の輪切り切片の蛍光観察像。毛軸のタンパク質を染める蛍光色素チオフラビンTで染色してある。なお、図中バーは100μmを表す。h:eと同じ試料の拡大観察像。位相差観察像とマージしてある。なお、図中バーは100μmを表す。矢印はメラニンを含む成長期毛包に生える毛軸、それ以外はクラブヘアーを示す。[図5ij] 加齢の進んだ毛包特異的FGF18欠損マウスにおけるクラブヘアの不完全な脱落i:対照としてe,fと同齢のヘテロノックアウトマウス背部皮膚の成長期毛包周囲の輪切り切片の蛍光観察像。毛軸のタンパク質を染める蛍光色素チオフラビンTで染色してある。なお、図中バーは200μmを表す。j:gと同じ試料の拡大観察像。位相差観察像とマージしてある。なお、図中バーは100μmを表す。矢印はメラニンを含む成長期毛包に生える毛軸、それ以外はクラブヘアーを示す。1.本発明の「毛包特異的FGF18欠損非ヒト動物」について 本発明において「毛包特異的FGF18欠損非ヒト動物」又は「毛包特異的FGF18ノックアウト非ヒト動物」というとき、Fgf18遺伝子がケラチン5陽性細胞特異的にその不完全遺伝子に置換されているために、皮膚と毛包など皮膚付属器官の中では、元来毛包で選択的に発現しているFgf18遺伝子の発現が欠損している組織特異的ノックアウト非ヒト動物である。ここで「Fgf18遺伝子の発現が欠損している」とは、上記Fgf18遺伝子の発現が全く起こらないか、または発現しても正常なFgf18遺伝子産物が有する機能を示すことができないことをいう。 典型的な「毛包特異的FGF18欠損非ヒト動物」は、Cre-loxP法を用いてケラチン5陽性細胞特異的にゲノム配列中のFgf18遺伝子におけるエクソン3を欠失した組織特異的ノックアウト非ヒト動物である。エクソン3を欠失させることで、FGF18蛋白質の分泌シグナルの一部とその下流が発現されず、FGF18蛋白質の生物活性が失われる。 なお、shRNAをレトロウィルスベクターやアデノウィルスベクターに組み込んで動物の皮膚や毛包に到達するように導入することでトランスジェニック(ノックダウン)動物を得てもよく、その場合は、これらの動物の皮膚では毛包細胞特異的にFgf18遺伝子の機能が抑制されていることになる。(以下、毛包特異的Fgf18遺伝子抑制非ヒト動物ともいう。) また、本発明のモデル動物の種類については特に限定されず、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ブタ、ウマ、イヌ、ネコ、ウサギ、ニワトリ、ラット、マウス等が用いられるが、この中では、齧歯類が好ましく、特にマウスが好ましい。なお、本発明の実施例では、ターゲティングベクターからネオマイシンカセットを欠失させるために、理研BRCから分譲を受けたFlpeマウスを用い、またCreに繋いだケラチン5陽性細胞特異的プロモーターを有する熊本大学CARDから分譲を受けたK5-Creマウスを用いているが、これらマウスは、一般的なマウス系統C57BL/6に対して、それぞれ非特許文献8及び非特許文献9の手法を適用することで作製することができる。2.本発明の「毛包特異的FGF18欠損非ヒト動物」の製造方法 本発明の「毛包特異的FGF18欠損非ヒト動物」は、以下のようにして作成される。(1)Fgf18遺伝子をケラチン5陽性細胞特異的に欠損する非ヒト動物は、非特許文献6に記載の方法を参考に、周知のジーン・ターゲティング方法〔必要ならば、Book Title:Transgenic Mouse:Methods and Protocols;Series:Methods in Molecular Biology | Volume:209 | Pub.Date:Aug-20-2002 | 9.Conditional Knockout Mice,By:Ralf Kuhn,Frieder Schwenk,Page Range:159-185 | DOI:10.1385/1-59259-340-2:159;Springer〕を用いて次の手順で作製することができる。 (a)Fgf18遺伝子のターゲティング領域の取得 まず、ゲノムライブラリーからFgf18遺伝子の欠失させたい領域(例えばエクソン3を含む領域)を含むDNA断片を取得する。ここで、Fgf18遺伝子の発現産物を産生しない又はFGF18発現産物の機能を失わせることができれば、Fgf18遺伝子のどの領域を欠失させても良いが、Fgf18遺伝子のエクソン3には、FGF18蛋白質の分泌シグナルの一部とその下流領域がコードされているので、エクソン3を欠失させれば、確実にFGF18蛋白質の生物活性を失わせることができるので、本発明実施例では当該領域をターゲット領域として選択した。 マウス由来Fgf18遺伝子のエクソン3を含むゲノム領域の塩基配列は、GenBankなど公的データベースから取得できる(Entrez Gene;Gene ID:14172,updated on 21-Jul-2010;Official Symbol:Fgf18provided by MGI;Official Full Name:fibroblast growth factor 18provided by MGI;Primary source:MGI:1277980)から、エクソン3を含む領域を挟むようにPCRプライマーを設計し、適当なマウスゲノムライブラリー(例えばBacterial Artificial Chromosome:BACクローンライブラリー)からターゲット領域に対応したクローンを得ることができる。他の非ヒト動物、例えばウシ、ヒツジ、ヤギ、ブタ、ウマ、ニワトリ、ラットにおいても、Fgf18遺伝子の相同遺伝子に対して同様の操作を行う。例えば、ラットのFgf18相同遺伝子の塩基配列は、同様にGenBankなどのデータベースから取得できる(Gene ID:29369)。(b)ターゲティングベクターの構築 本発明においては、Cre-loxPのシステム(R.Kuhn et al.Science,269,1427-1429,1995)を利用して、Fgf18遺伝子のエクソン3をケラチン5陽性細胞特異的に欠失させるためのターゲティングベクターを構築する。なお、上記(a)工程を含め、この(b)工程までは、公知遺伝子のゲノム配列でノックアウトしたいターゲット領域を伝えることで株式会社フェニックスバイオなどへの外注により作製してもらうことができる。本発明においても、フェニックスバイオ社に依頼した。 具体的には、Fgf18遺伝子のエクソン3の上流に、2つのFRT配列で挟まれたネオマイシン耐性遺伝子カセットを挿入し、このネオマイシンカセットとエクソン3が2つのloxP配列で挟まれたターゲティングベクターを作成する(図1b)。なお、「loxP配列」とは、バクテリオファージP1のゲノム中にある34塩基からなる配列であり、中央部分の非対称な8bp配列の両側を13bpの対称配列が挟んだ構造になっている。部位特異的組換え酵素Creタンパク質により、DNA中にあるloxP配列同士の間で組換えを起こす性質を用いて、2つのloxP配列で挟まれたDNA配列を欠損させることができる。同様に「FRT配列」は部位特異的組換え酵素Flpの標的となる配列(Flp Recombinase Target)であり、Flpにより2つのFRT配列で挟まれたDNA配列が除去される。(c)ES細胞内での相同組み換え Fgf18遺伝子を改変してその機能を欠損させたターゲティングベクターを公知の方法に準じてES細胞に導入し、一般的に公知な相同組換えの手法(例えば、Nature,Vol.350,No.6315,pp.243.1991)により、機能を欠損したFgf遺伝子をES細胞中のゲノム上の野生型遺伝子と置換して変異クローンを作成する。ターゲティングベクターをES細胞に導入する方法としては、公知の電気穿孔法(エレクトロポレーション法)、リポソーム法、リン酸カルシウム法、DEAE−デキストラン法等も利用できるが、導入遺伝子の相同組み換え効率を考えると、電気穿孔法を用いることが好ましい。ES細胞はマウス以外の非ヒト動物、例えばラットでも樹立されており容易に入手可能であるが、ES細胞以外にiPS細胞、体性幹細胞や受精卵を用いても良い。 また、組み換えES細胞につき、相同組み換えが起こっているかどうかは、ターゲティングベクター中にあらかじめネオマイシン等の薬剤耐性因子を導入しておき、選択培地でスクリーニングを行うことが好ましい。さらに、サザンハイブリダイゼーション法やPCR法アッセイにより、正しく相同遺伝子組み換えが起こった細胞を選択することができる。(d)ターゲット遺伝子を有する個体(F1)の作製 このようにして作製した相同組み換えES細胞クローンを、非ヒト動物の受精卵の胚盤胞(blastcyst)または8細胞期の胚内に導入する。そして、このES細胞胚を偽妊娠状態の仮親の非ヒト動物の子宮に移植し、出産させることによりキメラ非ヒト動物を作製することができる。なお、ES細胞が生殖系列へ導入されたことを確認するには、被毛色などの様々な形質を指標として用いることができるが、体の一部(例えば尾部先端)からDNAを抽出し、サザンブロット解析やPCRアッセイを行うことによっても確認できる。このキメラ非ヒト動物を野生型非ヒト動物と交配して得られた産子の中から、導入したターゲット遺伝子を有する個体(F1)を選択する。 他の方法として、注入キメラ法または集合キメラ法等の手法により胚性幹細胞クローンと正常細胞からなるキメラ個体を作成することもできる。このキメラ個体と正常個体の掛け合わせにより、全身の細胞の染色体上の本発明のFgf18遺伝子と該遺伝子に任意の変異を導入した対立遺伝子とを有し対立遺伝子型がヘテロの個体(ヘテロ個体)を得ることができる。(e)ターゲットベクター由来の薬剤耐性遺伝子カセットの除去(F2) 前記(b)においてターゲットベクターを作製する際に、2つのFRT配列で挟まれたネオマイシン耐性遺伝子などの薬剤耐性遺伝子カセットを挿入していたが、この薬剤耐性遺伝子カセットを速やかにゲノム配列中から除去する。 本発明の実施例では、理研BRCから分譲されたFlpeトランスジェニックマウス(RIKEN RBRC01834、非特許文献8)と交配して、FRT配列で挟まれたネオマイシン耐性遺伝子カセットを欠失したF2個体を得た(図1c)が、当該手法には限られない。なお、このFlpeトランスジェニックマウスは、部位特異的組換え酵素Flpを全身で発現している遺伝子改変マウスであり、このマウスの染色体中にFlp酵素の標的となるFRT配列によって挟まれたDNA領域があると、その領域は全身で除去される。(f)Fgf18遺伝子機能のケラチン5陽性細胞特異的な欠失 次いで、前記F2個体を、Cre酵素をケラチン5陽性細胞特異的に発現している非ヒト動物と交配し、Cre/loxPシステムを作動させて、ケラチン5陽性細胞特異的にFgf18遺伝子機能を欠失させる。 本発明の実施例では、前記F2個体をK5-Creトランスジェニックマウス(熊本大学CARDから分譲、非特許文献9)と交配した。なお、上記K5-Creマウスは、ケラチン5蛋白質が発現する組織でのみ、部位特異的組換え酵素Creを発現する遺伝子改変マウスである。このマウス染色体においてCreの標的となるloxP配列によって挟まれたDNA領域があった場合、毛包などのケラチン5陽性組織でのみその領域は除去され、それ以外の組織においては、loxP配列でターゲットされた遺伝子は除去されない。F2個体とK5-Creマウスとの交配により、ケラチン5陽性細胞特異的にFgf18遺伝子エクソン3領域が削除された染色体(図1d)をヘテロで有するマウスが得られる。当該へテロ欠損マウス同士を交配することで、ホモで欠損している本発明の「毛包特異的FGF18欠損マウス」を得ることができる。毛包においてFgf18遺伝子エクソン3領域が削除されたことは、得られた仔マウスの皮膚を含む尾の一部などでPCR法によりFgf18遺伝子の遺伝子型とK5-Creの発現を確認すればよい。 他の非ヒト動物の場合も同様の手順で行えばよい。3.毛包特異的Fgf18遺伝子抑制非ヒト動物の作製方法 Fgf18遺伝子のshRNAをケラチン5陽性細胞特異的プロモータに繋ぎ、レトロウィルスベクターやアデノウィルスベクターに組み込んで非ヒト動物の皮膚や毛包に到達するように導入することで、毛包特異的にFgf18遺伝子のsiRNAを過剰発現するトランスジェニック(ノックダウン)動物を得ることができる。4.毛包特異的Fgf18遺伝子欠損非ヒト動物の特性 以下、毛包特異的Fgf18遺伝子欠損非ヒト動物として最も典型的な毛包特異的Fgf18遺伝子欠損マウスについて主に述べるが、本発明における非ヒト動物はマウスに限られないことは当然である。(4−1)全体の特徴 Fgf18遺伝子はマウスなど哺乳動物では骨、心筋、胎児肺、その他の組織に発現し、個体形成や生命維持に重要な働きをしていると考えられる。しかし、皮膚と毛包など皮膚付属器官の中でFgf18を高いレベルで発現するのは、毛包だけである。そして、ケラチン5遺伝子を高いレベルで発現するのは、動物の全身では、皮膚の他では、骨、舌、気管支など、ごく一部の組織である。そのため、上記のようにして得られたコンディショナルノックアウトマウスにおいて、天然型のマウスに比べて実質的にFgf18遺伝子の生理的機能が失われていると言えるのは毛包のみである。この理由により、本発明の毛包特異的Fgf18遺伝子欠損非ヒト動物は、個体の健康状態はすこぶる良く、毛包や皮膚の研究のモデル動物として使用できる。このモデル動物を使用して、被験物質が毛成長周期に与える影響、脱毛や発毛の予防、治療剤、あるいは促進剤等になりうるかどうかの評価、あるいはこれに基づくスクリーニングを可能にする点で極めて有用である。 本発明の毛包特異的Fgf18遺伝子欠損マウスにおいて具体的に観察された特性は以下の通りである。(1)毛の成長周期のうち休止期が1/3〜1/5に短縮されたため、毛の成長周期全体の進行が早い。(2)背部皮膚での毛成長周期が帯状に整然と進行する。その際の進行速度が首に近い前方部が最も早く尾部後方部が最も遅いが、その進行速度の速まり方が帯状に整然と進行するため、剃毛を繰り返すと複数の横縞を形成する。その際の横縞数は加齢に比例する。(3)毛包細胞数は増加しないが、毛包からの脱毛速度が遅くなり、結果的に毛包内の毛軸の本数が多く、皮膚表面の全体の毛軸数は野生型の2倍以上となる。(4−2)毛成長周期の進行が早い特性 本発明のモデル動物は野生型に比べ、遙かに早い周期で毛成長が起きる。特に、毛成長周期のうち、休止期が短い(図3c)。本発明のモデル動物は、マウスの場合を例に取ると(図3c)、休止期が約1週間で終了し、次の成長期に入ることが示されている。これに対し、野生型マウスの例では、図3cの48日齢頃から始まる休止期が通常3〜5週間続くことが良く知られている。すなわち、本発明の非ヒトモデル動物は、毛成長周期における休止期が野生型に比較して1/2〜1/10まで短縮された非ヒトモデル動物であり、好ましくは1/3〜1/5に短縮されている。その結果、本発明の非ヒトモデル動物は、毛成長周期自体も1/2〜1/10まで、好ましくは1/3〜1/5にまで短縮されている。本発明の毛包特異的FGF18欠損マウスにおいては、一周期に要する期間が、野生型マウスが6週間から8週間程度またはそれ以上であるのに対して、約3週間にまで短縮されていた。 すなわち、毛包内の内在性Fgf遺伝子の発現が阻害されたことで、毛成長サイクルの休止期が短縮し、同時に毛成長サイクル自体の速度が速まったと考えられる。(4−3)毛成長周期相の固有の表現型 従来からマウスの背部皮膚での毛成長周期が首に近い前方部が最も早く尾部後方部が最も遅い傾向にあることは知られていた。しかし、毛の成長周期の開始時期は背部皮膚の複数の位置で始まるため、野生型マウスの背部皮膚を剃毛すると、図3b右にあるように、背部皮膚全体的にランダムに発毛が始まる。このことの説明のために、マウスの背部皮膚において「ヘアサイクルドメイン」と呼ばれるブロック状に分かれて毛成長周期を決定する制御系の存在を想定することが一般的であった(図4)。マウスの背部皮膚には図4の縦横線で仕切られた区切りのようにヘアサイクルドメインが存在し、それぞれのドメイン毎に毛周期の制御が異なることが経験的に知られている。ただし、図4における縦横線の数や位置は例示であり、実際には様々なパターンがある。 一方、本発明のFgf18遺伝子毛包特異的欠損マウスは、このようなヘアサイクルドメインを示さず、ブロック状に分かれて毛成長周期を決定する制御系を決定づける因子が失われた可能性が大きく、毛成長周期が首に近い前方部が最も早く尾部後方部が最も遅いという本来の毛成長周期の進行速度の傾向がそのまま発現し、その結果、加齢が進むに従って各相の毛包がシマウマのストライプのように整然と配列した様相を示す。すなわち、このことは、毛包内の内在性Fgf遺伝子の発現が阻害されると、ヘアサイクルドメインのうちでも、非ヒト動物の体軸に対して直交する方向のドメイン間の境界線が失われると考えられる。 このため、このモデルマウスにおいては、同時に背部皮膚に複数の同一成長周期上の相を有する毛包の状態が出現するので、これを利用して、各相に対する披検物質の効果を一度に試験することが可能である。さらに、成長周期の進行が早いため、複数の成長周期に亘って処理しなければその効果が現れないような遅効性をしめす被検物質の毛成長に対する効果を判定する上では最適である。また、この横縞自体を楽しむことのできる非ヒト動物モデルに適用することで、今までにない愛玩動物が誕生する。(4−4)毛包内の毛軸の本数が多い特性 本発明のFgf18遺伝子毛包特異的欠損マウスは、皮膚の単位面積あたりの毛包数は増加しないが、毛成長周期の進行が早まるにもかかわらず、脱毛期の開始時期が遅くなり、前周期の産物としての毛の脱落が起こりにくい。毛包内では、成長期の毛包に生えている成長期毛軸に寄り添い、脱落していないクラブヘアが多数存在している状態となる。すなわち、毛包内の内在性Fgf遺伝子の発現が阻害されたことで、脱毛期の開始時期が遅くなり、クラブヘアの脱落が防止できたと考えられる。 そして、その結果として、毛包あたりの毛軸の本数が単位面積あたり野生型よりも多くなり、1.5〜6倍、好ましくは2倍以上の体毛に覆われた非ヒトモデル動物が得られる。つまり、体表面が密集した体毛でびっしりと覆われた新たな愛玩動物を提供でき、また産業的に体毛を利用する非ヒト動物であれば、刈り取ることのできる体毛量が増大するので、産業上の利用価値が高まる。5.毛包細胞におけるFgf18遺伝子及び遺伝子産物のFGF18蛋白の作用について Fgf18遺伝子のノックアウトマウスの表現型を野生型のマウスと比較解析することにより、毛包細胞におけるFgf18遺伝子及び遺伝子産物のFGF18蛋白の作用としては以下のことが推定される。(1)FGF18は毛包の休止期を維持する機能を有する。すなわち、毛包内の内在性FGF18は、毛の成長周期の休止期を延長させる制御因子であると考えられる。(2)FGF18はクラブヘアを皮膚から脱落させる機能を有する。すなわち、毛包内の内在性FGF18は、今まで未解明であった毛の脱落期を開始させる制御因子であると考えられる。(3)FGF18は動物の体軸(仮にX軸とする)に対して直交する方向(仮にY軸とする)を共有するヘアサイクルドメイン間の境界線を決定づける機能を有する。すなわち、皮膚表面のヘアサイクルドメインを決定する制御因子の1つであると考えられる。6.本発明のモデル動物を用いた評価法及びスクリーニング方法 本発明の非ヒトモデル動物は、非ヒトモデル動物における休止期の延長、成長期の短縮や延長、抜け毛期の促進、を指標にして、該被験物質を評価するためのスクリーニングに用いることができる。 短い休止期を延長する効果を有する物質のスクリーニング、又は複数種類の毛包細胞に作用する薬剤を複数回評価するためのスクリーニングに特に有用である。 本発明の評価法、あるいはこれに基づくスクリーニング方法に供される被験物質は、いかなる公知化合物及び新規化合物であってもよく、例えば、核酸、糖質(複合糖質)、脂質、蛋白質、ペプチド、有機低分子化合物、コンビナトリアルケミストリー技術を用いて作製された化合物ライブラリー、固相合成やファージディスプレイ法により作製されたランダムペプチドライブラリー、あるいは微生物、動植物、海洋生物等由来の天然成分等が挙げられる。 本発明において、短い休止期を延長する効果を有する物質のスクリーニングのためのモデルとしては、6週齢程度またはそれ以降を使用する。また、毛髪関連疾患の治療薬のスクリーニング用モデル動物としては、例えばマウスの場合、40週齢以降を使用すると効果的である。この週齢においては、90%以上の確率で背部皮膚に毛成長相が作るストライプが同時に複数出現する。 本発明の被験物質の評価は以下のように行う。モデル動物としてマウスを用いた休止期延長効果を評価する場合を下記に例として示す。Fgf18遺伝子毛包特異的欠損マウスの飼育下において、被検物質を適切な濃度で背部皮膚に塗布、または皮下注射、または飲み水や餌に混入させ適切な期間、自発的に摂取させる。あるいはマウスの腹腔に注射により適切な量を投与する。濃度・量や回数、投与期間などは適当な条件を設定する方が好ましい。一定期間の(投与)後に、マウス個体の背部皮膚を観察して休止期の延長効果を判定するとともに、必要に応じて解剖し、皮膚組織を組織染色法などにより解析する。 なお、野生型マウス又はヘテロタイプのFgf18遺伝子毛包特異的欠損マウスをコントロールとして使用して、同時に同様な条件下で解析し、お互いの解析結果を比較をすることによって判定することが好ましいが、野生型マウスなどでは休止期の延長を正確に評価することは困難であることから、Fgf18遺伝子毛包特異的欠損マウスで得られた結果と矛盾しないかどうかを判定する。7.毛包特異的なFgf18遺伝子発現抑制物質又はFGF18活性抑制物質のスクリーニング 以下、ヘテロタイプのFgf18遺伝子毛包特異的欠損マウスについて述べるが、他のヘテロタイプのFgf18遺伝子毛包特異的欠損非ヒトモデル動物の場合も同様である。 本発明のヘテロタイプのFgf18遺伝子毛包特異的欠損マウスは、発現量はかなり減少してはいるものの、毛包特異的なFgf18遺伝子発現活性はあるので、野生型マウスと同様に、毛包特異的なFgf18遺伝子発現抑制物質又はFGF18活性抑制物質のスクリーニングに用いることができる。得られたFGF18遺伝子発現抑制物質又はFGF18活性抑制物質は、毛成長休止期短縮剤、抜け毛防止剤又は毛並み調整剤の候補となる。 そして、ヘテロタイプのFgf18遺伝子毛包特異的欠損マウスの場合は、野生型マウスと比較して、休止期が3/4程度まで短縮しており、毛の成長周期全体の進行が早いため、スクリーニングの進行が早まるメリットがある。また、野生型マウスと比較して毛包でのFgf18遺伝子発現量はかなり低いため、被検物質のFgf18遺伝子発現抑制効果を感度よく観察できるメリットもある。 具体的な、毛包特異的なFgf18遺伝子発現抑制物質又はFGF18活性抑制物質のスクリーニング方法は、以下のように行うことができる。 先ず、被検物質を、ヘテロタイプのFgf18遺伝子毛包特異的欠損マウスに対して投与する。被検物質としては、何ら限定されないが、例えば、植物抽出液、ペプチド、タンパク質、非ペプチド性化合物、低分子化合物、合成化合物、発酵生産物、細胞抽出液、動物組織抽出液等が挙げられる。これらの物質は新規な物質であってもよいし、公知の物質であってもよい。被検物質を実験動物に投与する際には、特に被検物質がタンパク質の場合などは、当該被検物質をコードする遺伝子をFGF受容体発現細胞中に導入することも可能である。 次に、当該実験動物におけるFgf18遺伝子の発現をモニターする。実験動物におけるFgf18遺伝子の発現は、例えば、FGF18抗体を用いたELISA等の常法を用いて解析するか、あるいは該実験動物内におけるFgf18遺伝子のmRNA量を定量的逆転写PCR法やノーザンブロット法等により解析するといった方法によりモニターすることができる。 これらいずれかの解析により、被検物質の非存在下の場合と比較して、実験動物内におけるFgf18遺伝子の発現量が低下すれば、当該被検物質は毛髪成長促進或いは発毛といった機能を有する可能性かあること、すなわち毛髪成長促進剤又は発毛剤候補物質であると判断できる。具体的には、被検物質を作用させない場合と比較して、Fgf18遺伝子のmRNA量が0.8倍以下、好ましくは0.7倍以下、より好ましくは0.5倍以下に減少すれば、確実にFGF18の発現抑制物質であるといえる。培養角化細胞や培養真皮細胞、培養毛乳頭細胞でのFGF18のmRNA発現量は、培養条件や細胞の種類により様々であるので、上記の方法などにより個別に測定し、その数値が0.8倍以下に減少することを目安にスクリーニングすればよい。 また、当該実験動物において、仮に被検物質を投与したことでFGF18の活性が抑制されれば、FGF18情報伝達経路においてFgf18の下流にある遺伝子(Fgf18下流遺伝子)の発現レベルが影響を受けるはずであるから、FGF18下流遺伝子の発現レベルをモニターすることにより、被検物質によってFGF18活性が抑制されたかどうかがわかる。 すなわち、上記Fgf18遺伝子の発現モニター方法と同様に、被検物質を存在させた場合に、被検物質の非存在下の場合と比較して、実験動物内におけるFgf18下流遺伝子の発現量が変化すれば、被検物質の存在によりFGF18活性が抑制されたと判定することができ、当該被検物質は毛髪成長促進或いは発毛といった機能を有する可能性があると判断できる。具体的には、モニター対象として、休止期毛包とその近傍においてFGF18により抑制されているFgf18下流遺伝子を選択し、被検物質を作用させない場合と比較して、FGF18の活性によって発現が抑制されるFgf18下流遺伝子のmRNA量が1.5倍以上、好ましくは2倍以上、より好ましくは3倍以上に増加したときに、FGF18活性抑制物質であると判定する。 このような工程を経てスクリーニングされたFGF18の発現抑制物質又はFGF18活性抑制物質は、単独で、もしくは併用して、毛成長休止期短縮剤、抜け毛防止剤又は毛並み調整剤として用いることができる。 以下に、本発明を実施例としてさらに具体的に説明するが、本発明は該実施例に何ら限定・制約されるものではない。 遺伝子操作的手法として、特に断らない限りモレキュラー・クローニング((Molecular Cloning-A laboratory Manual、Sambrook and Russell社刊)に記載された公知の方法を用いた。(実施例1) Fgf18遺伝子毛包特異的欠損(ノックアウト)マウス作製 マウスFgf18遺伝子を含むBACクローンを129マウスBACクローンライブラリーから取得した。このクローンを用い、Fgf18遺伝子のエクソン3の上流にloxP-FRT[PGK-Neor]FRT配列を導入し、下流にloxP配列を導入した、エクソン3を欠損するためのターゲティングベクターを構築した(図2)。なお、当該ターゲティングベクター作製は、「マウスFgf18遺伝子のエクソン3欠失用のターゲティングベクター」として、フェニックスバイオ社に外注した。 129マウス由来のES細胞にこのベクターを導入し、細胞集団の中から、Fgf18遺伝子がこの配列によって組み換えられた(ターゲットされたと称する)細胞を選択し、クローン化した。そのうちの一つのES細胞株をトランスジェニックマウスの作出に用いた。C57BL/6マウス(濃褐色体毛、日本SLC社)の胚盤胞にこの細胞を注入し、さらにこの胚盤胞を、偽妊娠状態にした雌のICRマウス(白色体毛、日本SLC社)の子宮内に導入した。マウスが分娩した仔について、体毛の色からキメラマウスを区別した。これらの操作を63個の胚盤胞について行い、キメラマウス仔が16個体得られた。これらのマウスを飼育し、性成熟後、C57BL/6マウスと交配し、35匹の仔が得られた。これらのゲノムを分析したところ、15匹の個体がターゲットされたFgf18遺伝子を含んでいることが示された(これをF1とする)。 次に[PGK-Neor]カセットを除去するため、F1マウスをFlpeトランスジェニックマウスと交配し、仔マウスが67個体得られた。これらについてFgf18遺伝子アリルを分析したところ、12個体について、目的の配列(導入されたloxP-FRT[PGK-Neor]FRT-Exon3-loxPをloxP-FRT-Exon3-loxPとして)を有していることが確認された(F2)。 ここで用いたFlpeトランスジェニックマウスは、理研BRCから入手した(RIKEN RBRC01834;非特許文献8)。 次に毛包特異的にFgf18遺伝子エクソン3を除去する目的で、F2マウスをさらにK5-Creトランスジェニックマウスと交配した。得られた仔マウスは4週齢に達した時点で離乳させ、皮膚を含む尾の一部を切除し、Fgf18遺伝子の遺伝子型とCreの発現を確認した。離乳した37匹の個体のうち、6匹のK5Cretg;Fgf18+/floxマウス(メス1匹、オス5匹)が得られた。K5Cretg;Fgf18+/floxマウス同士を交配することにより、29匹のマウスが得られた。これらの遺伝子型を解析したところ、一匹の個体はK5Cretg;Fgf18flox/flox(以降、これをFgf18ホモ欠失体と称する)であることが示された。同様にしてK5Cretg;Fgf18+/floxマウスコロニーを交配することで、Fgf18ホモ欠失体を多数得ることが出来た。 以下、このFgf18ホモ欠失体をFgf18遺伝子毛包特異的欠損動物と称する。 ここで用いたK5Creトランスジェニックマウスは、九州大学CARDから入手した(CARD ID323;非特許文献9)。 これらのマウス皮膚においてFgf18遺伝子のエクソン3が欠落しているDNAが存在することは、サザンブロットで確認された。その例を示す。 なお、K5Cretg;Fgf18+/floxマウス同士の交配において生じる仔の遺伝型は、通常のメンデルの法則に従うものだった。(実施例2)Fgf18遺伝子毛包特異的欠損(ノックアウト)マウスにおける休止期の短縮と速やかに繰り返される毛成長周期(2−1)Fgf18遺伝子毛包特異的欠損(ノックアウト)マウスの毛成長周期の観察 Fgf18遺伝子毛包特異的欠損マウスは、生存・成長し、生殖可能であり、健康状態も外観的に良好であった。その背部皮膚に生えている体毛を、短く刈ることにより、特徴的な毛成長サイクルの波を示すことが分かった。図3aに示すのは、Fgf18遺伝子毛包特異的欠損マウスの代表的な個体(ホモノックアウト体)[K5Cretg;Fgf18flox/flox]と、その対象としてFgf18遺伝子の1対2本のうち1本のみが破壊されている対照群の代表的な個体(ヘテロノックアウト体)[K5Cretg;Fgf18+/flox]を、32日齢以降、写真撮影したものである。尚、これらの写真撮影に先行して体毛をバリカンで刈ってあるので、体表の色調がわかるようになっている。32日齢では、背部皮膚はいずれのマウスも初めの生理的成長期にあり、黒い色を示している。37日齢になると、首に近い部分がピンクがかった色になり、休止期に入ったことを示す。40日齢では、背部皮膚全体が休止期である。ホモノックアウト体の場合、47日齢で、次の成長期に入ったことが、皮膚が青みがかった着色を示すことでわかる(図3a)。これに対して、対照のヘテロノックアウト体では、休止期がずっと長く続く(図3a)。 Fgf18遺伝子毛包特異的欠損マウス(68日齢)の背部皮膚における毛成長周期は、前位(首に近い位置)から後位(尾に近い位置)に向かってスムーズに進捗し。毛包の形態形成(図3cのMで示すサイクル)に加えて既に2回のサイクル(図3cの1,2)がまわり、3回目のサイクル(図3cの3)に入ったことが見て取れる(Fig.3b 左)。これに対して野生型のマウス(89日齢)では、次の成長期の開始の場所や時期は、個体によって多様であり、一個体の背部皮膚の中においてさえも、「毛成長ドメイン」によって異なる相を示す(Fig.3b 右,及び図4)。従って、Fgf18遺伝子毛包特異的欠損マウスにおいては、マウスの齢に対する関数として、一般的な毛成長周期における各相の変遷をFig.2aと同様にして示すことが出来る(Fig.3C)。 ここでは、マウスの首に近い背部皮膚(Fig.3bで点線囲みの部分)における毛成長周期の相を、皮膚の色及び前週の毛成長履歴によって判断し、単純化のために成長期または休止期として表している。その結果、Fgf18遺伝子毛包特異的欠損マウスにおいては、休止期はわずか1週間程度しか持続しないこと、各成長周期は休止期を含めた全体として約3週間であることがわかった。これに対して野生型マウスでは通常、休止期は3から5週間、あるいはより長い期間持続する。 図3dでは、加齢の進んだFgf18遺伝子毛包特異的欠損マウスの代表的な3個体を示す。これらのマウスは背部皮膚の毛を刈ってから1週間飼育し、その一週間に生えた毛を含めた姿を撮影している。特徴的な表現型として、このように加齢が進んだFgf18遺伝子毛包特異的欠損マウスにおいては、同じ成長周期相の毛包が、外観上ストライプを形成するように並んだ。さらに特徴として、ストライプの数は、マウスの日齢に依存して、加齢が進むほど増えていくことが分かった。加齢が進んだマウスにおいて、毛成長周期が一回回るために必要な期間は、前位においては約3週間であったが(Fig.3d)、後位においては、約4週間だった(Fig.3d)。したがって、加齢が進んだFgf18遺伝子毛包特異的欠損マウスにおいて、この前位と後位の間の成長周期長の差が、ストライプ間の距離を縮めていることが理解できる。(2−2)Fgf18遺伝子毛包特異的欠損マウスの休止期の短縮 Fgf18遺伝子毛包特異的欠損(ホモノックアウト)マウス(K5Cretg;Fgf18flox/flox)、Fgf18遺伝子を一つだけ有するヘテロノックアウトマウス(K5Cretg;Fgf18+/flox)、及び対照マウスとしてFgf18遺伝子を二つとも有する野生型マウス(wild type)について、図3cと同様の方法によって毛包の成長期と休止期を判定し、休止期の持続期間を解析した結果を示す。それぞれ1群3匹以上を解析し、平均値及び標準偏差を算出してグラフにした。*1は、図3cにおいて37日齢ごろから開始する休止期の期間を示す。*2及び*3は、図3cにおいてそれぞれ58日齢ごろ及び78日齢ごろから開始する休止期の期間を示す。ヘテロノックアウトマウス群と野生型マウス群においては、各休止期が長く持続するために*2及び*3は解析困難であるため*1の休止期の期間のみを示す。この結果より、Fgf18遺伝子毛包特異的欠損マウス(ホモノックアウトマウス)において休止期が短縮していることが明確に示される。(実施例3)Fgf18遺伝子毛包特異的欠損マウスにおける不完全な生理的脱毛。 休止期の毛包に生えている毛は、それ以前の毛成長周期で完成された毛であり、クラブヘアー(club hair)と称する。一般的にマウスにおいては、休止期毛包に生えているクラブヘアーをグローブをはめた指先でつまみ、緩やかに引き抜くことが出来る。Fgf18遺伝子毛包特異的欠損マウス(ホモノックアウトマウス)においては、このようにして引き抜いた毛が、複数の毛の束になっていることを発見した(図5a、左)。 対象のヘテロノックアウトマウスにおいては、そのような束はまれであった(図5a、右)。引き抜いた毛の長さを、それぞれの群で200本以上測定すると、ホモノックアウトマウス(6.40+/-0.53mm)でもヘテロノックアウトマウス(6.38+/-0.65mm)でも、ほとんど同じであった。さらに毛の種類(guard,awl, and zigzag hairs)の分布にも差異は認められなかった。これらのことから、Fgf18遺伝子毛包特異的欠損マウスにおいて、毛成長周期の成長期は正常に進行していることが強く示唆された。 毛周期が成長期である特徴を示す皮膚の3.7mm2領域内の全毛包とそこに存在する毛軸数を、加齢の進んだFgf18遺伝子毛包特異的欠損マウス(ホモノックアウトマウス)及び対象のヘテロノックアウトマウスにおいて、その背部皮膚の毛包の数及びそこに存在する毛軸数を計測した。(表1)表1:毛包細胞が保持する毛軸数 この結果から見て、Fgf18遺伝子毛包特異的欠損マウスの毛包数は対照群と変わらないものの、それぞれの毛包内に保持される毛軸数の数が多いため、全体で毛軸数が2倍強となっていることが理解できる。 さらに、加齢の進んだFgf18遺伝子毛包特異的欠損マウス(ホモノックアウトマウス)及び対象のヘテロノックアウトマウスにおいて、その背部皮膚の毛包の状態を拡大して観察した。すると、成長期の毛包に生えている成長期毛軸に寄り添って、脱落していないクラブヘアーが多数存在していることが明らかになった(図5c)。さらにフルフォーカスイメージングで皮膚を観察したところ、脱落していないクラブヘアーを包む袋様の構造は、成長中の毛軸のバルジ領域付近に一体化したように寄り添っていることが確認された。 また、加齢の進んだFgf18遺伝子毛包特異的欠損マウスにおいて、その背部皮膚の毛包を輪切りにした切片を作成し、チオフラビンT(黄色)及びDAPI(赤色)で染色し、観察した。すると、ホモノックアウトマウスにおいては、それぞれの毛包にはメラニンに富む成長期毛軸と、多くは3〜6本の、メラニンのないクラブヘアーが共存していることが示された(図5f)。これに対して、対象のヘテロノックアウトマウスにおいては、成長期毛包に含まれるクラブヘアーの本数は多くは1〜2本であった。その分布は、表1に示されるとおりである。これらの観察により、Fgf18遺伝子毛包特異的欠損マウス(ホモノックアウトマウス)においては、クラブヘアーの正常な脱落(脱毛期)のためのメカニズムが不完全になっていることが示唆された。なお、そうではあっても、毛包あたりの残存毛軸数が、完了したと考えられる毛成長周期の数(10 to 12 cycles)よりも少ないことから、不完全とはいってもある程度の毛軸の脱落は起きていると考えられた。 ケラチン5陽性細胞特異的に1対の繊維芽細胞増殖因子18(Fgf18)遺伝子の少なくとも片方がノックアウト又はノックダウンされていることを特徴とする、FGF18の発現が毛包特異的に阻害又は抑制され、毛成長周期の休止期が短縮された非ヒトモデル動物。 前記Fgf18遺伝子の両方がノックアウト又はノックダウンされていることを特徴とする、体表面の単位面積あたりの毛軸数が多い、請求項1に記載の非ヒトモデル動物。 毛包に作用する薬剤を評価するためのモデル動物である、請求項1又は2に記載の非ヒトモデル動物。 毛包に作用する被検物質を同時に複数種類作用させるか、又は同一被検物質を複数回作用させることを特徴とする評価のためのモデル動物である、請求項3に記載の非ヒトモデル動物。 請求項1〜4のいずれかに記載の非ヒトモデル動物に、被験物質を投与し、非ヒトモデル動物における休止期の延長、成長期の短縮もしくは延長、又は抜け毛期の促進を指標にして、該被験物質を評価することを特徴とする、該被験物質の毛包に対しての有用性あるいは有害性の評価方法。 請求項1に記載の非ヒトモデル動物のうちで、前記Fgf18遺伝子の片方のみがノックアウトされている非ヒトモデル動物を用いてFGF18の発現抑制物質をスクリーニングする方法であって、被検物質を投与した際に、被検物質非存在下の場合と比較してFgf18遺伝子の発現量が減少するか否かを観察する工程を含む、方法。 請求項1に記載の非ヒトモデル動物のうちで、前記Fgf18遺伝子の片方のみがノックアウトされている非ヒトモデル動物を用いてFGF18活性抑制物質をスクリーニングする方法であって、被検物質を投与した際に、被検物質非存在下の場合と比較してFgf18下流遺伝子の発現量が変化するか否かを観察する工程を含む、方法。 本発明では、Cre-loxPシステムを利用して、ケラチン5陽性細胞特異的にFgf18遺伝子をノックアウトした非ヒト動物を作製し、毛包特異的にFGF18発現が阻害されて毛成長サイクルの休止期が短縮された非ヒトモデル動物を提供した。当該非ヒトモデル動物は、毛包や皮膚の研究、特に毛包細胞で周期的に起こる毛成長の研究に有用なモデル動物であって、毛包や皮膚の疾患に対する新規薬剤の開発とそのスクリーニングに活用できる。【選択図】なし


ページのトップへ戻る

生命科学データベース横断検索へ戻る