タイトル: | 公開特許公報(A)_ALC水平部材の劣化判定方法 |
出願番号: | 2011034321 |
年次: | 2012 |
IPC分類: | G01N 17/00,G01N 33/38 |
田口 尚 JP 2012173081 公開特許公報(A) 20120910 2011034321 20110221 ALC水平部材の劣化判定方法 住友金属鉱山シポレックス株式会社 399117730 山本 正緒 100083910 辻川 典範 100136825 田口 尚 G01N 17/00 20060101AFI20120814BHJP G01N 33/38 20060101ALI20120814BHJP JPG01N17/00G01N33/38 2 1 OL 7 2G050 2G050AA02 2G050BA12 2G050CA10 2G050EA04 2G050EB01 本発明は、建築物の部材のうち床や屋根のように水平ないし水平に近い角度で傾斜している軽量気泡コンクリート(ALC)製の水平部材について、実際の使用段階において最も重要な問題である耐久性が維持されているか否かを確認するために行われるALC水平部材の劣化判定方法に関する。 ALCパネルは、珪石等の珪酸質原料とセメントや生石灰等の石灰質原料を主原料として製造されている。即ち、これら主原料の微粉末に水とアルミニウム粉末等の添加物を加えてスラリー状とし、補強用の鉄筋を配置した型枠内に流し込み、アルミニウム粉末の反応により発泡させると共に石灰質原料の反応により半硬化させ、所定寸法に切断成形した後、オートクレーブによる高温高圧水蒸気養生を行って製造される。 このようにして製造されるALCパネルは、絶乾かさ比重が0.5程度と軽量でありながら、内部に鉄筋が配置されることによって優れた強度を保持し、しかも耐火性、断熱性、施工性に優れている。従って、このような特性を備えたALCパネルは、外壁材などの建築材料として広く使用されている。また、ALCパネルは普通コンクリートと比べると軽いが強度が低いため、載荷荷重の小さい屋根やスパンの短い床などを構成する水平部材として使用されることもある。 屋根や床などをALCパネルで構成する場合の一般的な施工方法は、図1に示すように、鉄骨梁1の間にALC水平部材2を架け渡して両端支持の状態で敷設し、ALC水平部材2が隣り合う長辺目地4内に鉄筋3を配置した後、モルタルを充填することで隣接するALC水平部材2、2を一体化させる。尚、鉄筋3は取付金物(図示せず)を介して鉄骨梁1に溶接固定され、これによりALC水平部材2の建物躯体への固定がなされている。 建築物の床や屋根は安全性が確保されなければならないが、一般的に床や屋根を構成するALC水平部材は重量物や人が乗るため、永年継続的に使用することによって劣化が認められる。このALC水平部材の劣化現象の一つにパネルの撓みが増幅する現象があり、この現象は長期固定荷重によるクリープ撓みと過積載によるひび割れに起因する撓みの増大が主な原因である。このような経年使用による撓みの増大は居住者や利用者の不安感を招くことにつながるため、ALC水平部材の劣化の程度を判断し、その劣化の程度に応じて対応策を採ることが求められている。 経年使用されたALCパネルの劣化の程度を判定する方法としては、特許文献1に記載されているように、ALCパネルの一部を採取し、採取した試料の吸着時と脱着時の水蒸気吸着等温線を得て、得られた水蒸気吸着等温線の持つヒステリシスの大きさを劣化履歴とする方法がある。しかし、この方法は破壊試験であるため、ALC水平部材に適用すると床や屋根に傷が付くという問題がある。 また、建築物の床や屋根からALC水平部材を取り外して強度試験を行うことも考えられる。しかしながら、建築物の床や屋根からALC水平部材を取り外すことは容易ではないため、ALC水平部材の取り外しと再取り付けに非常に多くの手間とコストを必要とするという欠点がある。特開2007−171125号公報 本発明は、上記した従来の問題点に鑑み、建築物の床や屋根を構成するALC水平部材の経年使用による劣化の程度を、非破壊で且つ簡便に判定できる方法を提供することを目的とする。 上記目的を達成するため、本発明が提供するALC水平部材の劣化判定方法は、建築物のALCパネルからなるALC水平部材の経年使用による劣化を判定する方法であって、該ALC水平部材の中央で2種類の異なる荷重による撓みを測定した後、得られた2種類の異なる荷重による撓みから該ALC水平部材のパネル剛性を算出し、そのパネル剛性から該ALC水平部材のヤング係数を求めてクリープ係数を算出し、得られた該ALC水平部材のクリープ係数を長期撓みの算定によるクリープ係数と比較することを特徴とする。 また、上記本発明によるALC水平部材の劣化判定方法において、前記ALC水平部材のパネル剛性は、ALC水平部材が荷重の1/3を負担しているとの条件に基づいて算出することを特徴とする。 本発明によれば、建築物の部材のうち床や屋根を構成しているALC水平部材について、ALC水平部材を取り外す必要のない簡便な方法で且つ非破壊で、経年使用による劣化の程度を判定することができる。従って、経年使用したALC水平部材の劣化を判断し、その程度に応じて必要な耐久性を維持するための対応策を採ることができる。ALC水平部材による床や屋根の施工方法を説明するための概略の斜視図である。ALC水平部材の撓みの測定を説明するための概略の側面図である。撓み測定試験に用いたALC水平部材の斜視図であって、(a)は目地内にモルタルを充填して一体化された3枚のALC水平部材を示し、(b)は単一枚のALC水平部材を示す。撓み測定試験で得られた荷重と撓みの関係を示すグラフである。実施例で用いたALC水平部材を示す概略の断面図である。 本発明による経年使用した(経年後とも表記する)ALC水平部材の劣化を判定する方法では、(1)ALC水平部材の中央で2種類の異なる荷重による撓みをそれぞれ測定し、(2)得られた2種類の異なる荷重による撓みからALC水平部材のパネル剛性を算出し、(3)そのパネル剛性から経年後のALC水平部材のヤング係数を求めてクリープ係数を算出する。その後、(4)得られた経年使用したALC水平部材のクリープ係数を、長期撓みの算定により予め求めたクリープ係数と比較することによって劣化の程度を判定する。 上記本発明方法を具体的に説明すると、図2に示すように、まず経年後のALC水平部材2の上面中央に荷重Aを載せ、このときのALC水平部材2の鉛直方向への撓み5をALC水平部材2の両端から緊張させた水糸を用いて測定する。次に、上記荷重Aとは異なる荷重BをALC水平部材2の上面中央に載せ、このときのALC水平部材2の鉛直方向への撓み5を上記と同様に測定する。 上記のごとく荷重Aを載せたときの撓みδaは、経年後の初期撓み(δc)と、パネル自重(等分布荷重)による撓み(δ0)と、荷重A(集中荷重)による撓み(δ1)の合計に相当する。また、上記荷重Bを載せたときの撓みδbは、上記撓みδaに更に荷重B(集中荷重)による撓み(δ2)が加わった値に相当する。 また、ALC水平部材に掛かる荷重について検討するため撓み測定試験を実施した。即ち、図3(a)のように目地内にモルタルを充填して一体化された3枚のALC水平部材2のうち中央に位置するALC水平部材2aにのみ荷重を載せたときの撓みと、図3(b)のように上記と同一の単一枚のALC水平部材2bに同様に荷重を載せたときの撓みをそれぞれ測定した。 図4に、3枚のALC水平部材をモルタル目地で一体化した場合(3枚モルタル目地と表示)と、単一枚のALC水平部材の場合(単一枚と表示)における荷重と撓みの関係を示す。この結果から、ALC水平部材に載せた荷重は両側のALC水平部材にも分配されるため、そのALC水平部材は荷重の1/3のみを負担していることが判る。 従って、荷重Aを載せたときの撓みδaと荷重Bを載せたときの撓みδbは、下記の数式1及び数式2で表すことができる。但し、下記数式1〜2において、δcは経年後の初期撓み、δ0はALC水平部材のパネル自重による撓み、δ1は荷重Aによる撓み、δ2は荷重Bによる撓み、EI’は経年後のパネル剛性、WはALC水平部材のパネル自重、Lは支持スパン、P1は荷重Aの1/3の荷重、P2は荷重Bの1/3の荷重である。下記数式1と数式2から、経年後のパネル剛性EI’を求めることができる。[数式1] δa=δc+δ0+δ1 =δc+(5WL4/(384EI’))+(P1L3/(48EI’))[数式2] δb=δc+δ0+δ1+δ2 =δc+(5WL4/(384EI’))+(P1L3/(48EI’))+(P2L3/(48EI’)) 次に、経年後の剛性EI’を表す下記数式3と偏心距離eを表す下記数式4から、ヤング係数比n’を求める。但し、下記数式3〜4において、Esは補強鉄筋のヤング係数(N/m2)、Bはパネル幅(m)、Dはパネル厚(m)、eは偏心距離(m)、atは引張側補強鉄筋の断面積(m2)、acは圧縮側補強鉄筋の断面積(m2)、dは圧縮縁から引張側補強鉄筋までの距離(m)、dcは圧縮縁から圧縮側補強鉄筋までの距離(m)である。 [数式3] EI’=Es{BD/n’(D2/12+e2)+at(d−D/2−e)2+ac(D/2−dc+e)2} [数式4] e={at(d−D/2)−ac(D/2−dc)}/(BD/n’+at+ac) 上記数式3〜4から求めたヤング係数比n’を用いて、経年後のALC水平部材のヤング係数E’(N/cm2)とクリープ係数φを算出する。即ち、経年後のALC水平部材のヤング係数E’は、E’=Es/n’により計算することができる。また、経年後のALC水平部材のヤング係数E’は、E’=E/(1+φ)で表すことができるから、既知であるALC水平部材の製造時のヤング係数Eを用いて、クリープ係数φをφ=(E−E’)/E’として算出することができる。 上記のごとく求めた経年後のクリープ係数φを予め長期撓みの算定によって求められたクリープ係数の想定値と比較することにより、経年後のクリープ係数φがクリープ係数の想定値より小さければALC水平部材は適切に使用されていると判断することができる。 竣工から25年経過した建築物の床を構成するALCパネルの水平部材について、本発明方法により劣化の程度を判断した。対象のALC水平部材は寸法が100×600×2650mm、長期設計荷重が1,000N/m2である。また、図5に示すように、このALC水平部材2は、直径5.5mmの補強鉄筋(主筋)6が引張側に5本及び圧縮側に2本配置されていて、製造当初のパネル剛性(EI)は120,945Nm2となっている。 先ず、図2に示すように、経年後のALC水平部材2の上面中央に測定者A(体重72kg)が位置し、このときのALC水平部材2の鉛直方向への撓み5をALC水平部材2の両端から緊張させた水糸を用いて測定した。次に、測定者B(体重60kg)も測定者Aと同時に上面中央に載り、そのときの撓みを同様に測定した。上記の撓み測定の結果、測定者Aのみが中央に位置したときの撓み(δa)は8.4×10−3mであり、測定者Aと測定者Bが同時に位置したときの撓み(δb)は9.6×10−3mであった。 次に、上記した数式1と数式2により、経年後のパネル剛性EI’並びに経年後の初期撓みδcを計算により求めた。即ち、パネル自重Wは637×0.6=382N/m、支持スパンLは2.61m、測定者Aによる荷重P1は72/3kg、測定者Bによる荷重P2は60/3kgであるから、計算により初期撓みδcは3.15×10−3m及び経年後のパネル剛性EI’は60,500N・m2と求められた。 尚、製造当初のパネル剛性EIは120,945Nm2であることから、剛性低下の割合α=EI’/EIは0.50となる。従って、撓み倍率=1/αは2.00であった。ALC水平部材のクリープを考慮した長期撓みの算定では、ALC素材の撓み倍率を1.56と想定しているため、上記撓み倍率2.00は想定値以上であり、ALC水平部材は過積載などによる影響から劣化が進行していると推定できる。 また、対象のALC水平部材が長期設計荷重1,000N/m2の条件下で使用された場合、初期撓み(δc)も含めた撓み(δ)を下記数式5により求めた。ここでW1はパネル自重であって382N/m、W2は設計荷重であって1,000×0.6N/mであるから、撓み(δ)は12.96×10−3mとなり、撓み率(δ/L)は1/201となる。 [数式5] δ=初期撓みδc+パネル自重による撓みδ0+設計荷重による撓みδ* =(3.15×10−3)+(5W1L4/384EI’)+(5W2L4/384EI’) 次に、経年後の剛性EI’を表す上記数式3と、偏心距離eを表す上記数式4から、ヤング係数比n’を求め、次に経年後のALC水平部材のヤング係数E’(N/m2)と、クリープ係数φを算定した。但し、上記数式3及び4において、Esは補強鉄筋のヤング係数で205×109N/m2、Bはパネル幅で0.6m、Dはパネル厚で0.1mである。また、eは偏心距離で3.4×10−3m、atは引張側補強鉄筋の断面積で1.188×10−4m2、acは圧縮側補強鉄筋の断面積で0.475×10−4m2、dは圧縮縁から引張側補強鉄筋までの距離で8.2×10−2m、dcは圧縮縁から圧縮側補強鉄筋までの距離で1.8×10−2mである。 経年後のパネル剛性EI’は既に60,500N・m2と求められているから、上記数式3と4によりALC水平部材と補強鉄筋のヤング係数比n’を算出すると371.7となる。従って、経年後のALC水平部材のヤング係数E’はE’=Es/n’=0.55×109N/m2と計算される。また、ALC水平部材の製造時のヤング係数Eは1.75×109N/m2であることから、クリープ係数φはE’=E/(1+φ)より、φ=(E−E’)/E’=2.18となる。 ALC水平部材のクリープを考慮した長期撓みの算定では、ALC水平部材のクリープ係数を0.78と想定している。従って、上記クリープ係数2.18を上記クリープ係数の想定値と比較すると、上記クリープ係数の想定値以上の値であることから、本実施例の経年使用したALC水平部材は取り替えなどの改修が必要であると推定することができる。 1 鉄筋梁 2 ALC水平部材 3 鉄筋 4 長辺目地 5 撓み 6 補強鉄筋 建築物のALCパネルからなるALC水平部材の経年使用による劣化を判定する方法であって、該ALC水平部材の中央で2種類の異なる荷重による撓みを測定した後、得られた2種類の異なる荷重による撓みから該ALC水平部材のパネル剛性を算出し、そのパネル剛性から該ALC水平部材のヤング係数を求めてクリープ係数を算出し、得られた該ALC水平部材のクリープ係数を長期撓みの算定によるクリープ係数と比較することを特徴とするALC水平部材の劣化判定方法。 前記ALC水平部材のパネル剛性は、ALC水平部材が荷重の1/3を負担しているとの条件に基づいて算出することを特徴とする、請求項1に記載のALC水平部材の劣化判定方法。 【課題】 建築物の床や屋根を構成するALC水平部材の経年使用による劣化の程度を、非破壊で且つ簡便に判定できる方法を提供する。【解決手段】 ALC水平部材2の中央で2種類の異なる荷重による撓みを測定した後、得られた2種類の異なる荷重による撓みからALC水平部材2のパネル剛性を算出し、そのパネル剛性からALC水平部材2のヤング係数を求めてクリープ係数を算出し、得られたクリープ係数を長期撓みの算定によるクリープ係数と比較して、経年使用されたALC水平部材2の劣化を判定する。【選択図】 図1