生命科学関連特許情報

タイトル:特許公報(B2)_慢性疼痛の病態モデル動物
出願番号:2010542910
年次:2012
IPC分類:A01K 67/027,G01N 33/15


特許情報キャッシュ

永倉 透記 大江 智也 JP 4853844 特許公報(B2) 20111104 2010542910 20091007 慢性疼痛の病態モデル動物 アステラス製薬株式会社 000006677 森田 拓 100098501 矢野 恵美子 100109357 鈴木 ▲頼▼子 100117846 濱井 康丞 100137464 永倉 透記 大江 智也 JP 2008319048 20081216 20120111 A01K 67/027 20060101AFI20111215BHJP G01N 33/15 20060101ALI20111215BHJP JPA01K67/027G01N33/15 Z A01K 67/027 G01N 33/15 MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN) WPIDS(STN) CA/CONFSCI/SCISEARCH(STN) PubMed JSTPlus/JMEDPlus(JDreamII) Acta Pharmacologica Sinica,2004年,vol. 25,293-296 Eur. J. Pharmacol.,1982年,vol. 83,325-328 ASANUMA M et al.,Effects of chronic catecholamine depletions on muscarinic M1-receptor and its mRNA in rat brain.,J. Neurol. Sci.,1992年,vol. 110,p. 205-214 WOOD P B et al.,Fibromyalgia patients show an abnormal dopamine response to pain.,Eur. J. Neurosci.,2007年,vol. 25,p. 3576-3582 8 JP2009067460 20091007 WO2010070971 20100624 19 20110426 中村 正展 本発明は、生体内アミン量を低下させる処置により慢性疼痛、とりわけ慢性筋肉痛及び/又は慢性触アロディニアを惹起した病態モデル動物、及び、当該病態モデル動物を使用した慢性疼痛、とりわけ線維筋痛症の治療薬のスクリーニング方法に係るものである。 痛みとは、現存する組織損傷を伴った、あるいはそのような経験から表現された不快な感覚、あるいは情動経験である(世界疼痛会議1979年)と定義され、急性疼痛と慢性疼痛に分けられる。 急性疼痛は、生体の組織を侵害する侵害刺激が末梢侵害受容器へ入力され、活動電位に変換されインパルスとして脊髄に伝えられ、そこで下行性など種々の抑制系の影響を受け、感覚伝導系を上行し大脳皮質へ達することによって自覚される。すなわち、急性疼痛とは侵害刺激による生理学的な痛みであり、生体における警告反応として意義がある。急性疼痛は侵害刺激の解除や損傷の治癒によって消失する。 一方、慢性疼痛は、組織損傷が治癒したにもかかわらず訴えられる痛みや、明らかな組織損傷がないにもかかわらず訴えられる痛みのことである。すなわち、慢性疼痛とは、「疾患が通常治癒するのに必要な期間を超えているのにも関わらず訴えられる痛み、あるいは進行性の非がん性疾患に関する痛み」である。 慢性疼痛は急性疼痛のような生体警告系としての生理学的な意義がなく、しかも患者の生活の質(quality of life)を大きく損なう。このように、慢性疼痛は独立した疾患であり、治療すなわち除痛が必要であるが、慢性疼痛の多くは難治性である。 線維筋痛症は、全身の耐えがたい慢性疼痛を中核症状として、不眠、全身の疲労感や鬱症状など種々の随伴症状を伴う疾患である。アメリカリウマチ学会(theAmerican College of Rheumatology)の診断基準は、身体の広範囲に及ぶ痛みが3ヶ月以上続いていること、及び、全身にある(骨に接する靭帯、腱、筋肉など)18箇所の圧痛点の内11箇所以上での圧痛がみられることである。触アロディニアや冷アロディニアと呼ばれる、通常では痛みを起さない触刺激や冷刺激により起こる痛みを伴うことも多い。また、熱刺激に対する感受性が亢進する熱性痛覚過敏を伴うことも多い。線維筋痛症の有病率は人口の約2%であり、極めて多くの患者が存在する。しかしながら、十分に有効な治療方法が存在しないため、有効性の高い新しい治療方法の開発が強く望まれている。 線維筋痛症の病態機序は十分には解明されていない。線維筋痛症の特徴である全身の耐えがたい慢性疼痛および不眠、全身の疲労感や鬱症状など種々の随伴症状を、末梢レベルの異常では十分に説明することが出来ないことから、線維筋痛症の病態機序には中枢神経系の疼痛制御機構の異常が関与すると考えられている(例えば、非特許文献1参照)。実際に機能的核磁気共鳴画像(functional magnetic resonance imaging, fMRI)や、単一光子放射断層撮影(single-photon emission tomography, SPET)を用いた研究結果は、線維筋痛症患者の脳機能には異常があることを示している(例えば、非特許文献2、3参照)。 線維筋痛症患者においては種々の神経伝達物質、サイトカイン、あるいはホルモンの量的変動および機能的異常が示唆されている。線維筋痛症患者の脳脊髄液中の興奮性アミノ酸、サブスタンスP、あるいは神経成長因子(nerve growth factor)の濃度は非患者群と比較して高い。一方、線維筋痛症患者の脳脊髄液中のセロトニン、ドパミン、あるいはノルエピネフリンの代謝物濃度は非患者群と比較して低い(例えば、非特許文献4参照)。脳の島皮質(insula)における脳内興奮性伝達物質である興奮性アミノ酸量と線維筋痛症患者の疼痛レベルに相関があることが報告されている(例えば、非特許文献5参照)。また、線維筋痛症患者において、痛み刺激に対する脳内ドパミンの放出機構に異常があることが報告されている(例えば、非特許文献4参照)。線維筋痛症患者の皮膚組織からインターロイキン−1や腫瘍壊死因子(Tumor Necrosis Factor)などのサイトカインが検出されている(例えば、非特許文献6参照)。また、線維筋痛症患者の成長ホルモン、あるいはインスリン様成長因子(IGF)の分泌機能が低下していることが示唆されている(例えば、非特許文献4参照)。このように、線維筋痛症の病態機序には多くの神経伝達物質、サイトカイン、あるいはホルモンなどが寄与している可能性が示唆されているが、現時点ではどの変化が発症原因で、どれが付随現象であるのか、未解明である。すなわち、線維筋痛症の病態機序は解明されていない(例えば、非特許文献6参照)。 最近、神経のCa2+チャネルリガンドのプレガバリン、選択的セロトニン・ノルエピネフリン取込阻害剤であるデュロキセチン、あるいはドパミン受容体アゴニストであるプラミペキソールが、線維筋痛症患者の疼痛症状スコアを、プラセボ群と比較して統計学的に有意に軽減することが報告された(例えば、非特許文献7〜9参照)。 しかしながら、これらの薬剤の効果は限定的であり、線維筋痛症患者の疼痛を主体とする症状に十分に効果のある治療方法は未だにない。従って、効果が十分で、かつ副作用の少ない、さらに優れた治療薬の開発が強く求められている。 一般的に、病態モデル動物の妥当性は、表面妥当性(face validity:モデルとヒトにおける疾患とが症状的に類似しているか)、構成概念妥当性(construct validity:モデルが理論的根拠に基づいているか)および予測妥当性(predictive validity:治療薬の効果がモデルと臨床とで相関しているか)の観点から評価される。筋肉痛を伴う慢性疼痛の病態モデル動物として、カラゲニンや酸性水を筋肉内に注入する方法(例えば、非特許文献10、11参照)や反復強制水泳負荷(例えば、非特許文献12参照)による方法が報告されている。しかしながら、表面妥当性、構成概念妥当性、予測妥当性の観点において、線維筋痛症の病態を十分に反映したモデル動物は、これまでに報告されていない。 レセルピンの疼痛誘発作用については、これまでに、レセルピンのラットの腹腔内への単回投与が、熱刺激に対する反応性亢進を起こすことが報告されている。しかしながら、この熱刺激に対する反応性亢進は24時間以内に消失する一過性の急性疼痛であることが報告されている(例えば、非特許文献13参照)。レセルピンによって1日以上の長期間に亘る疼痛が生じることはこれまでに報告されていない。Nature Clinical Practice Rheumatology, 2006年, 第2巻, p90-97Journal of Rheumatology, 2004年, 31巻, p364-378American Journal of the Medical Sciences, 1998年, 315巻, p385-396Current Opinion in Investigational Drugs, 2007年, 第16巻, p829-841Arthritis & Rheumatism 2008年, 第58巻, p903-907Joint Bone Spine, 2008年, 第75巻, p273-279The Journal of Rheumatology, 2008年, 35巻, p502-514Pain, 2008年, 第136巻, p432-444Arthritis & Rheumatism, 2005年, 第52巻, p2495-2505Pain, 2000年, 85巻, p333-343Muscle & Nerve, 2000年, 24巻, p37-46Physiology & Behavior, 2006年, 88巻, p82-87European Journal of Pharmacology, 1982年, 第83巻, p325-328 線維筋痛症の治療薬の創製の為には、表面妥当性、構成概念妥当性、予測妥当性の観点において、線維筋痛症の病態を十分に反映し、かつ被験物質を効率的にスクリーニングすることが出来る病態モデル動物が不可欠である。しかし、そのような条件を十分に満たす病態モデル動物は報告されていない。 そこで、本発明者らは、線維筋痛症の特徴的な症状である筋肉痛と触アロディニアの慢性疼痛症状および鬱症状を持続的に発症し、かつ治療薬の臨床効果予測性が優れる病態モデル動物とそれを用いたスクリーニング方法の開発を目的として、鋭意検討を行った。 その結果、哺乳動物にレセルピンを投与することにより、投与終了後1週間以上に亘って持続する慢性筋肉痛と慢性触アロディニアを発症させることができることを見出した。さらに、この慢性筋肉痛と慢性触アロディニアの発症がレセルピンによる生体内アミン量の低下に起因していることを確認した。さらに、レセルピンを投与した哺乳動物が慢性筋肉痛と慢性触アロディニアと共に鬱症状を随伴することを確認した。さらに、この病態モデル動物に対して、臨床試験で線維筋痛症に対する有効性が証明されているプレガバリン、デュロキセチン、プラミペキソールが有効であり、非ステロイド性抗炎症薬のジクロフェナックが無効であることを確認した。 すなわち、本発明は、[1]哺乳動物に生体内アミン量を低下させる処置をして慢性疼痛を惹起させたことを特徴とする病態モデル動物;[2]慢性疼痛が慢性筋肉痛及び/又は慢性触アロディニアである[1]記載の病態モデル動物;[3]さらに鬱症状を随伴することを特徴とする[1]又は[2]記載の病態モデル動物;[4]生体内アミン量を低下させる処置が生体内アミン量を低下させる薬物の投与である[1]〜[3]記載の病態モデル動物;[5]生体内アミン量を低下させる薬物がレセルピンである[1]〜[4]記載の病態モデル動物;[6]哺乳動物がげっ歯類動物である[1]〜[5]記載の病態モデル動物;[7]げっ歯類動物がラットである[6]記載の病態モデル動物;及び[8]生体内アミン量を低下させる処置が生体内アミン量を低下させる薬物の反復投与である[1]〜[7]記載の病態モデル動物;に関する。 また、本発明は、[9][1]〜[8]記載の病態モデル動物に被験物質を投与することを特徴とする慢性疼痛の治療薬のスクリーニング方法;[10][1]〜[8]記載の病態モデル動物に被験物質を投与し、筋圧痛閾値及び/又は皮膚痛覚閾値を測定することを特徴とする慢性疼痛の治療薬のスクリーニング方法;及び[11]慢性疼痛が線維筋痛症である[9]又は[10]記載のスクリーニング方法;に関する。 本発明の病態モデル動物は、生体内アミン量を低下させる処置により、筋肉痛と触アロディニアの慢性疼痛症状を持続的に発症し、随伴症状として鬱症状を発症する。この病態モデル動物は慢性疼痛症状(筋肉痛と触アロディニア)が持続し、かつ鬱症状を伴う点で、表面妥当性に優れる。ドパミン、ノルエピネフリン、およびセロトニンなどの生体内アミンは痛覚伝達に深く関与しており、生体内アミンによる疼痛制御機構減弱は、慢性疼痛の病態機序となり得る。すなわち、本病態モデル動物は中枢神経系の生体内アミン量の低下が疼痛症状に関わる点で、構成概念妥当性に優れる。さらに、この病態モデル動物は、臨床試験で線維筋痛症に対する有効性が証明されている薬剤が有効で、且つ、単なる非ステロイド性抗炎症薬が無効な点で、予測妥当性にも優れる。従って、当該病態モデル動物は慢性疼痛、とりわけ線維筋痛症の病態モデルとして極めて有用である。従って、本発明により、慢性疼痛、とりわけ線維筋痛症の治療剤候補物質を効率的に評価することができる。レセルピンの反復投与処置の雄ラット(A)および雌ラット(B)の筋圧痛閾値への影響を示した図である。レセルピン反復投与処置の処置の雄ラット(A)および雌ラット(B)の皮膚痛覚閾値への影響を示した図である。脊髄、視床、および前頭前皮質におけるドパミン(A、D、G)、ノルエピネフリン(B、E、H)およびセロトニン(C、F、I)の量へのレセルピンの反復投与処置の影響を各々示した図である(○:溶媒投与群、●:0.1mg/kg投与群、▼:0.3mg/kg投与群、▲:1mg/kg投与群)。レセルピンの反復投与後1日(A)、3日(B)、5日(C)、7日(D)および14日(E)の強制水泳試験における無動時間を示した図である。レセルピンの反復投与誘発筋圧痛閾値低下および皮膚痛覚閾値低下に対するプレガバリン(A、B)、デュロキセチン(C、D)、プラミペキソール(E、F)およびジクロフェナック(G、H)の効果を各々示した図である。レセルピンの単回投与処置の筋圧痛閾値 (A)、皮膚痛覚閾値 (B)、冷感受性 (C)、および熱感受性 (D)への影響を示した図である。脊髄におけるドパミン(A)、ノルエピネフリン(B)、セロトニン(C)、DOPAC(D)、MHPG(E)および5-HIAA(F)量に対する,溶媒単回投与(○)およびレセルピン単回投与(●)の影響を各々示した図である。視床におけるドパミン(A)、ノルエピネフリン(B)、セロトニン(C)、DOPAC(D)、MHPG(E)および5-HIAA(F)量に対する,溶媒単回投与(○)およびレセルピン単回投与(●)の影響を各々示した図である。前頭前皮質におけるドパミン(A)、ノルエピネフリン(B)、セロトニン(C)、DOPAC(D)、MHPG(E)および5-HIAA(F)量に対する,溶媒単回投与(○)およびレセルピン単回投与(●)の影響を各々示した図である。 以下、本発明を更に詳細に説明する。 本発明で用いる哺乳動物としては、小型哺乳動物が好適であり、例えば、げっ歯類動物であるラット、マウス、スナネズミ、ウサギ、モルモット、ハムスター等が挙げられる。しかしながら、小型哺乳動物に限定されるわけではなく、イヌ、サルなどの大型哺乳動物を用いることも出来る。哺乳動物の雌雄、週齢、体重、分娩の有無等については、目的とする病態モデル動物の作製および被検物質のスクリーニングに適用可能である限り、特に制限はない。 アミンとはアンモニア(NH3)の水素原子をアルキル基などの炭化水素基で置換した形の化合物の総称である。生体内アミンとは、生体内において生合成されるアミンを意味し、例えばカテコールアミン、インドールアミン、イミダゾールアミンが挙げられる。カテコールアミンとしては、例えばドパミン、ノルエピネフリン(ノルアドレナリン)、エピネフリン(アドレナリン)が挙げられる。インドールアミンとしては、例えばセロトニン、メラトニンが挙げられる。イミダゾールアミンとしては、例えばヒスタミンが挙げられる。 生体内アミン量を低下させる処置とは、哺乳動物における生体内アミン量を低下させる処置であり、例えば、生体内アミン量を低下させる薬物の投与が挙げられる。生体内アミン量を低下させる薬物とは、例えば、モノアミン小胞体トランスポーター阻害薬、交感神経抑制薬、生体内アミン生合成阻害薬、神経毒が挙げらる。モノアミン小胞体トランスポーター阻害薬としては、例えばレセルピン、テトラベナジンが挙げられる。交感神経抑制薬としては、例えばグアネチジン、ブレチリウム、α-メチルドパが挙げられる。生体内アミン生合成阻害薬としては、例えばパラクロロフェニルアラニン、α-メチルチロシン、カルビドーパが挙げられる。神経毒としては、例えば6-ヒドロキシドパミン(6-OHDA)、5,7-ジヒドロキシトリプタミン(5,7-DHT)、N-(クロロエチル)-N-エチル-2-ブロモベンジルアミン(DSP-4)が挙げられる。 生体内アミン量を低下させる薬物の投与方法は、動物の種類や体重、薬物の性質に応じて適宜調整する。投与は単回投与でも反復投与(一定の時間を空けて複数回投与すること)でも良い。例えば、反復投与の場合、1日1回又は複数回ずつ、2日〜1ヶ月間、投与することができる。投与経路は皮下投与、腹腔内投与、経口投与などを含むが、これらに限定されない。投与量は動物の種類や体重、投与経路、薬物の性質などに応じて適宜調整する。例えば、ラットにレセルピンを1日1回ずつ、3日間、反復皮下投与する場合は、0.3mg/kg〜1mg/kgが好適である。また、ラットにレセルピンを単回皮下投与する場合は、1mg/kg〜3mg/kgが好適である。投与溶媒として水、生理食塩水などを用いることが出来るが、これらに限定されない。注射器などを用いて投与することが出来るが、この方法に限らない。 慢性疼痛とは、疾患が通常治癒するのに必要な期間を超えているのにも関わらず訴えられる痛み、あるいは進行性の非がん性疾患に関する痛みである。慢性疼痛は通常、ヒトにおいては3〜6月以上続くが、ヒトとは寿命の異なる他の哺乳動物にヒトの疼痛持続時間をそのまま適用することは適切ではない。寿命が1〜3年程度のげっ歯類動物の場合は、一般に数日以上持続する疼痛を慢性疼痛と考えることが出来る。 本発明の病態モデル動物の慢性疼痛は、慢性筋肉痛の指標となる筋圧痛閾値及び/又は触アロディニアの指標となる皮膚痛覚閾値の低下により評価できる。また、慢性疼痛は、ランダルセリット装置による足底部刺激、ピンチ刺激などの機械刺激に対する反応閾値の低下、熱刺激に対する反応閾値の低下、冷刺激に対する反応閾値の低下、電気刺激に対する反応閾値の低下、化学刺激による疼痛行動の増加、肢挙げ行動などの刺激非入力時の自発痛様行動の増加などによっても評価できる。しかしながら、慢性疼痛の評価方法はそれらに限定されない。 例えば、慢性疼痛は、慢性筋肉痛の指標となる筋圧痛閾値;触アロディニアの指標となる皮膚痛覚閾値;冷アロディニアの指標となる冷感受性;及び、熱性痛覚過敏の指標となる熱感受性;の内の1又は2以上の測定により評価できる。 筋圧痛閾値とは、筋肉に徐々に増加する圧刺激を加えていったときに動物が逃避反応を起す最小の圧刺激の大きさであり、その測定は、動物の種類に応じて公知の種々の方法を選択して使用することができる。例えば、ラットの場合は、後述の実施例に示すように、Schafersらの方法、即ち、右後ろ足の腓腹筋に対して徐々に増加する圧刺激を加えて、ラットが回避反応を示す最小の圧刺激の大きさを筋圧痛閾値として測定することができる。 皮膚痛覚閾値とは、皮膚に徐々に増加する触刺激を加えていったときに動物が逃避反応を起す最小の触刺激の大きさであり、その測定は、動物の種類に応じて公知の種々の方法を選択して使用することができる。例えば、ラットの場合は、後述の実施例に示すように、von Frey hair法により、ラットの右後ろ足の足底表面に太さの異なるvon Freyフィラメントを当てて、ラットが回避反応を示す最小の太さのフィラメントを皮膚痛覚閾値として測定することができる。 冷感受性は冷刺激を加えたときの動物の反応性のことであり、その測定は、動物の種類に応じて公知の種々の方法を選択して使用することができる。例えば、ラットの場合は、後述の実施例に示すように、アセトン法により、ラットの後ろ足にアセトンを適用した時の反応回数として測定することができる。熱感受性は熱刺激を加えたときの動物の反応性のことであり、その測定は、動物の種類に応じて公知の種々の方法を選択して使用することができる。例えば、ラットの場合は、後述の実施例に示すように、Hargreavesらの方法により、ラットの後ろ足を赤外線熱で刺激した時の足回避反応潜時として測定することができる。 一方、鬱症状は、強制水泳試験における無動時間の増加を指標として評価することができる。しかしながら、鬱症状の測定は、この指標に限定されるものではなく、他にも、例えば尻尾懸垂時の無動時間、あるいは自発運動量などの指標を用いることも出来る。 本発明のスクリーニング方法において、被検物質の投与は生体内アミン量を低下させる処置後はいつでもよい。例えば、処置終了後1週間以内に投与される。例えば、げっ歯類動物にレセルピンを反復投与後、筋圧痛閾値および皮膚痛覚閾値が有意に低下しており(実施例1)、且つ、鬱症状の指標である強制水泳試験時の無動時間が有意に低下している(実施例3)投与後3日以降7日までの期間の任意の時期に被検物質を投与することによりその効果を評価できる。また、例えば、げっ歯類動物にレセルピンを単回投与後、筋圧痛閾値、皮膚痛覚閾値および冷感受性が有意に亢進している(実施例5)、投与後2日以降10日までの期間の任意の時期に被検物質を投与することにより、その効果を評価できる。 被験物質としては、公知又は新規な合成化合物、天然物、抗体、核酸、ペプチド、タンパク質等の他に、例えば、生物組織抽出物、細胞培養上清等が用いられる。 被験物質の投与は、被験物質の特性に合わせて経口投与、静脈内投与、経皮投与、腹腔内投与、脊髄腔内投与、脳室内投与等により行う。被験物質は通常は投与溶媒を用いて投与する。例えば被験物質を経口投与する場合は、水や有機溶媒等に溶解あるいは懸濁して、注射器やスポイト等で動物に強制投与する方法が好ましい。 本発明のスクリーニング方法の実施に際しては、被検物質の代わりに生理食塩水や蒸留水等の溶媒のみを投与した対照群を、被検物質を投与した群の比較対照に用いることが好ましい。 以下に実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。実施例1 レセルピンの反復投与の筋圧痛閾値および皮膚痛覚閾値への影響1.実験方法 雄性および雌性のSprague-Dawleyラット(Japan SLC、 Hamamatsu、 Japan)を用いた。 筋圧痛閾値測定はSchafersらの方法(Schafers M et al., Pain, 104, 579-588, 2003)に従って実施した。ラットの右後ろ足の腓腹筋に対して最大250 gまで徐々に増加する圧刺激を加えた。ラットが右後ろ足の圧刺激からの回避反応を示す最小の圧刺激の大きさを筋圧痛閾値(g)として測定した。各時点において測定を3回ずつ行い、その平均を測定値とした。皮膚痛覚閾値測定はChaplanらの方法(Chaplan et al., J Neurosci Methods, 53, 55-63, 1994)に従って実施した。一定の圧力を加えることが出来る太さの異なる一連のvon Freyフィラメントを使用して測定した。ラットを金網底の測定用ケージに順応させた後、ラットの右後ろ足の足底表面にvon Freyフィラメント(0.42、0.74、1.2、2.1、3.5、6.0、9.3、15.8 g)を右後ろ足に回避反応が起こるか、あるいは反応が起きず6秒が経過するまで適用した。Von Freyフィラメントはup and down法を用いて適用した。すなわち、最初に太さが中程度のフィラメントを適用し、逃避反応が認められた場合は、その一つ下の太さのフィラメントを適用し、反応が認められなかった時は一つ上の太さのフィラメントを適用した。各時点における皮膚痛覚閾値はChaplanら(Chaplan et al., 前掲)によって報告された計算式を用いて、足逃避反応閾値(g)として算出した。レセルピンの筋圧痛閾値および皮膚痛覚閾値への影響は次のプロトコールに従って検討した。雄性、雌性各24匹のラットを用いた。レセルピン処置前(ベースライン)の筋圧痛閾値および皮膚痛覚閾値を測定した後に、レセルピンの投与用量別に、溶媒(0.5 %酢酸水)群、レセルピン0.1 mg/kg群、0.3 mg/kg群、あるいは1 mg/kg群の何れかに割り当てた(1群当たりの動物数は6)。各群のラットには溶媒あるいはレセルピンを1日1回、3日間、背部皮下に皮下投与した。溶媒あるいはレセルピンの投与容量は全て動物体重1 kgあたり1 mlとした。最終の溶媒あるいはレセルピン投与後、1、3、5、7、10、14および21日後において各ラットの筋圧痛閾値および皮膚痛覚閾値を測定した。筋圧痛閾値および皮膚痛覚閾値の測定は動物へのレセルピン投与用量を知らない実験者が行なった。 全ての測定値は平均値±標準誤差として表記した。各時点における測定値の、レセルピン投与群と溶媒投与群の間の統計学的有意差検定は二元配置分散分析およびBonferroni法によって行なった。危険率(P) 5 %未満を統計学的有意と判定した(P <0.05を*として図中に表記した)。2.結果(1)筋圧痛閾値 雄および雌における結果を図1Aおよび図1Bにそれぞれ示した。レセルピン処置は雄および雌ラット何れにおいても筋圧痛閾値を有意に低下させた(二元配置分散分析)。レセルピン1 mg/kg群では筋圧痛閾値は顕著に低下した。レセルピン1 mg/kg群の筋圧痛閾値は溶媒群と比較して、雄ラットではレセルピン最終投与10日後まで、雌ラットではレセルピン最終投与7日後まで統計学的に有意に低かった(二元配置分散分析およびBonferroni法)。 以上の結果は、レセルピン1 mg/kgの1日1回の3日間反復皮下投与が雄および雌ラットにおいて顕著かつ持続的な筋圧痛閾値低下を惹起することを明らかにした。このレセルピンの持続的筋痛惹起の薬理作用はこれまでに報告されておらず、本実施例において新しく発見されたものである。(2)皮膚痛覚閾値 雄および雌における結果を図2Aおよび図2Bにそれぞれ示した。レセルピン処置は雄および雌ラット何れにおいても皮膚痛覚閾値を有意に低下させた(二元配置分散分析)。レセルピン1 mg/kg群では皮膚痛覚閾値は顕著に低下した。レセルピン1 mg/kg群の皮膚痛覚閾値は溶媒群と比較して、雄ラットではレセルピン最終投与21日後まで、雌ラットではレセルピン最終投与14日後まで統計学的に有意に低かった(二元配置分散分析およびBonferroni法)。 以上の結果から、レセルピン1 mg/kgの1日1回の3日間反復皮下投与が雄および雌ラットにおいて顕著かつ持続的な皮膚痛覚閾値低下(触アロディニア:通常では痛みを引き起こさない触刺激によって生じる痛み)を惹起することを明らかにした。このレセルピンの持続的皮膚痛覚閾値低下惹起の薬理作用はこれまでに報告されておらず、本実施例において新しく発見された。すなわち、以上の(1)および(2)の結果は、本病態モデル動物は、持続的な筋肉痛、および触アロディニアの慢性疼痛症状がおきることから、表面妥当性の観点で優れることを示した。実施例2 脊髄、視床および前頭前皮質におけるドパミン、ノルエピネフリン、およびセロトニン量に対するレセルピンの反復投与の影響1.実験方法 動物は雄性Sprague-Dawleyラット(7週齢、Japan SLC、Hamamatsu、Japan)を用いた。 合計96匹のラットを8つの実験スケジュール(投与前、最終投与の1、3、5、7、10、14、または21日後にサンプル採取)に分け、さらにそれぞれを1群3例ずつになるよう溶媒投与群(0.5%酢酸水)、レセルピン0.1mg/kg投与群、0.3 mg/kg投与群、または1 mg/kg投与群に分けた。実施例1に示したように、ラットに溶媒またはレセルピン0.1、0.3、1 mg/kgを皮下に1日1回、3日間反復投与し、最終投与1、3、5、7、10、14、21日後に脳および脊髄を素早く採取した。視床および前頭前皮質は氷冷したディッシュ上で脳から分離した。 投与前サンプルは、溶媒またはレセルピン反復投与開始前にサンプル採取した。採取したサンプルは迅速に凍結し、測定に用いるまで-80 ℃で保存した。測定当日、各サンプルの組織湿重量を測定し、0.2M過塩素酸/0.1mM EDTA-2Na溶液を添加後に超音波ホモジナイザーを用いてホモジナイズした。15,000g、15分、4℃にて遠心分離後、酢酸ナトリウムを用いて上清をpH3.5に調整し、フィルターを用いて濾過した。これらサンプルのドパミン、ノルエピネフリン、セロトニン量は高性能液体クロマトグラフィー(カラム:SC-5ODS 3.0、150 mm、Eicom Co.、Ltd.、Kyoto、Japan、移動相組成:0.1 M 酢酸ナトリウムバッファー、0.1 M クエン酸バッファー、pH 3.5、5mg/L EDTA-2Na、190 mg/L sodium octane sulfonic acid、17% メタノール)および電気化学検出器(ECD-300、Eicom Co.、Ltd.、Kyoto、Japan)を用いて測定した。測定は流速0.5mL/分、印加電圧750 mV、25 ℃の条件下で実施した。サンプル中のドパミン、ノルエピネフリン、セロトニン量は、サンプル測定と同日に測定した各スタンダードのピーク面積との比較によって算出及び定量した。全ての測定値は平均値±標準誤差として図中に表記し、測定値の単位はng/g組織湿重量とした。 各実験スケジュールにおける測定値の、レセルピン投与群と溶媒投与群の間の統計学的有意差検定は二元配置分散分析およびBonferroni法によって行った。危険率(P)5%未満を統計学的有意と判定した(P<0.05を*として図中に表記した)。また、各時点における各群の平均値をそれぞれの溶媒投与群の平均値に対する百分率として表記した。2.結果 脊髄におけるドパミン、ノルエピネフリン、およびセロトニン量に対するレセルピン投与の効果をそれぞれ図3A、図3Bおよび図3Cに、視床におけるドパミン、ノルエピネフリン、およびセロトニン量に対するレセルピン投与の効果をそれぞれ図3D、図3Eおよび図3Fに、前頭前皮質におけるドパミン、ノルエピネフリン、およびセロトニン量に対するレセルピン投与の効果をそれぞれ図3G、図3Hおよび図3Iに示した。 脊髄においては、レセルピン0.1、0.3、および1 mg/kg投与によって1日後のドパミン量は溶媒投与群に対して46.4%、26.3%、および18.4%にまで減少し、いずれも溶媒投与群に対して有意な減少であった。同様に、ノルエピネフリン量は19.1%、2.6%、および0.6%にまで減少し、いずれも有意な減少であった。同様に、セロトニン量は45.4%、15.7%、および9.1%にまで減少し、いずれも有意な減少であった。その後ドパミン、ノルエピネフリン、およびセロトニン量はいずれも徐々に上昇した。しかし、レセルピン1mg/kg投与群の21日後におけるドパミン、ノルエピネフリン、およびセロトニン量は溶媒投与群に対してそれぞれ70.1%、59.4%、および67.8%であり、いずれも溶媒投与群に対して有意に低かった。すなわち、レセルピン1mg/kgの1日1回の3日間反復皮下投与がラットの脊髄におけるドパミン、ノルエピネフリン、およびセロトニン量を顕著かつ持続的に低下させることを明らかにした。 視床においては、レセルピン0.1、0.3、および1 mg/kg投与によって1日後のドパミン量は溶媒投与群に対して49.2%、53.2%、および24.5%にまで減少し、1 mg/kgの用量において溶媒投与群に対して有意な減少であった。同様に、ノルエピネフリン量は43.8%、6.1%、および1.2%にまで減少し、いずれも有意な減少であった。同様に、セロトニン量は28.8%、14.8%、および8.9%にまで減少し、いずれも有意な減少であった。その後ドパミン、ノルエピネフリン、およびセロトニン量はいずれも徐々に上昇した。しかし、レセルピン1mg/kg投与群の21日後におけるドパミン、ノルエピネフリン、およびセロトニン量は溶媒投与群に対してそれぞれ66.5%、46.0%、および60.7%であり、ノルエピネフリン量は溶媒投与群に対して有意に低かった。すなわち、レセルピン1mg/kgの1日1回の3日間反復皮下投与がラットの視床におけるドパミン、ノルエピネフリン、およびセロトニン量を顕著かつ持続的に低下させることを明らかにした。 前頭前皮質においては、レセルピン0.1、0.3、および1 mg/kg投与によって1日後のドパミン量は溶媒投与群に対して49.1%、21.4%、および13.4%にまで減少し、いずれも溶媒投与群に対して有意な減少であった。同様に、ノルエピネフリン量は10.2%、0.7%、および0.2%にまで減少し、いずれも有意な減少であった。同様に、セロトニン量は42.0%、15.5%、および4.6%にまで減少し、いずれも有意な減少であった。その後ドパミン、ノルエピネフリン、およびセロトニン量はいずれも徐々に上昇した。しかし、レセルピン1mg/kg投与群の21日後におけるドパミン、ノルエピネフリン、およびセロトニン量は溶媒投与群に対してそれぞれ54.9%、29.1%、および47.0%であり、いずれも溶媒投与群に対して有意に低かった。すなわち、レセルピン1mg/kgの1日1回の3日間反復皮下投与がラットの前頭前皮質におけるドパミン、ノルエピネフリン、およびセロトニン量を顕著かつ持続的に低下させることを明らかにした。 ドパミン、ノルエピネフリン、およびセロトニンは痛覚伝達に関与しており、脊髄、視床、および前頭前皮質はいずれも痛覚伝達経路の主要部である。したがってこれらの結果は、実施例1に示した筋圧痛閾値低下および皮膚痛覚閾値低下が、痛覚伝達経路におけるこれら生体内アミン量の低下によって惹起されていることを示す。すなわち、本病態モデル動物は、痛み伝達に関わる中枢神経系において生体内アミン量が低下することが疼痛発症機序として関わっている点において、構成概念妥当性の観点で優れることを示した。実施例3 強制水泳試験における無動時間へのレセルピンの反復投与の影響1.実験方法 動物は雄性Sprague-Dawleyラット(7週齢、Japan SLC、Hamamatsu、Japan)を用いた。強制水泳試験はPorsolt (1977)らの方法を以下のように変更して実施した。マグネット(直径1mm、長さ3mm)をつけた柔らかい針金を動物の両前肢に装着し、水深30cmまで水(24±1℃)の入ったプラスチック製円筒型水槽(直径20cm、高さ45cm)中で動物を1匹ずつ泳がせた。本実験では、シリンダー周囲にあるコイルを通してマグネットを装着した前肢の動きを検出する強制水泳自動測定装置(MicroAct Scratching Test version 1.06; Neuroscience、Tokyo、Japan)を使用して、各動物の無動時間を測定した。 強制水泳試験における無動時間に対するレセルピンの影響は次のプロトコールに従って検討した。合計80匹のラットを5つの実験スケジュール(最終投与の1、3、5、7、または14日後の無動時間測定)に分け、さらにそれぞれを1群8例ずつになるよう溶媒(0.5%酢酸水)投与群とレセルピン1mg/kg投与群に分けた。実施例1に示したようにラットに溶媒またはレセルピン1 mg/kgを皮下に1日1回、3日間反復投与した。1回の強制水泳試験はプレテストセッション(15分間水泳)と、プレテストセッション24時間後のテストセッション(5分間水泳)を含み、無動時間の測定はテストセッションにおいて実施した。プレテストセッションは溶媒またはレセルピン最終投与の0(すなわち、最終投与直後)、2、4、6、および13日後に実施し、テストセッションは溶媒またはレセルピン最終投与の1、3、5、7、および14日後に実施した。各ラットは1回の強制水泳試験のみを実施した。全ての測定値は平均値±標準誤差として表記した。各実験スケジュールにおける測定値の、レセルピン投与群と溶媒投与群の間の統計学的有意差検定はstudentのt検定によって行った。危険率(P)5%未満を統計学的有意と判定した(P<0.05を*として図中に表記した)。2.結果 レセルピン最終投与の1、3、5、7、および14日後の強制水泳試験結果をそれぞれ図4A、図4B、図4C、図4Dおよび図4Eに示した。最終投与1日後では、レセルピン投与による無動時間の有意な増加はみとめられなかった(P = 0.625、Studentのt検定)。一方、最終投与3、5、7、および14日後では、レセルピン投与群は溶媒投与群に対していずれも有意な無動時間の増加を示した(それぞれ、P = 0.0007、P = 0.004、P<0.0001、およびP = 0.0008、 Studentのt検定)。以上の結果は、レセルピン1mg/kgの1日1回の3日間反復投与が少なくとも最終投与3〜14日後において鬱症状を誘発していることを示す。線維筋痛症患者では高率にうつ病を併発することがよく知られており、随伴症状として鬱症状を発症するという点においても本病態モデル動物は線維筋痛症患者と類似性が高いことを示す。すなわち、本病態モデル動物は、痛み症状に鬱症状が随伴することから、表面妥当性の観点で優れることを示した。実施例4 レセルピンの反復投与誘発筋圧痛閾値低下および皮膚痛覚閾値低下に対する薬物効果の評価1.実験方法 雄性のSprague-Dawleyラット(Japan SLC、Hamamatsu、Japan)を用いた。各薬物毎に30匹のラットを使用した。実施例1に示したとおり、24匹のラットにレセルピン1mg/kgを1日1回、3日間、反復皮下投与し、筋圧痛閾値および皮膚痛覚閾値の低下を惹起した。他6匹のラットにはレセルピン処置をせず、健常対照群として実験に供した。 薬物効果の評価は全てレセルピン最終投与の5日後に実施した。このタイミングにおいて、筋圧痛閾値低下および皮膚痛覚閾値低下が顕著かつ統計学的に有意なレベルであり(実施例1)、かつ鬱症状の指標である強制水泳試験時の無動時間が対照群と比較して有意に延長していた(実施例3)。 薬物効果評価日(レセルピン最終投与の5日後)において、最初に全てのラット(24匹のレセルピン処置ラットおよび6匹の健常ラット)の筋圧痛閾値および皮膚痛覚閾値を測定した。24匹のレセルピン処置ラットは被検薬物の用量別に4群に割り当てた。薬物あるいは溶媒投与後30、60、120、240分後において筋圧痛閾値および皮膚痛覚閾値を測定した。6匹の健常ラットには薬物投与を行なわず、筋圧痛閾値および皮膚痛覚閾値測定のみを実施した。薬物効果の測定は動物への薬物処置内容を知らない実験者が行なった。各被検薬物の溶媒、投与用量、投与経路は下表に示した。 全ての測定値は平均値±標準誤差として表記した。各時点における測定値の、被検薬物投与群と溶媒投与群の間の統計学的有意差検定は二元配置分散分析およびBonferroni法によって行なった。危険率(P) 5 %未満を統計学的有意と判定した(P <0.05を*として図中に表記した)。2.結果 レセルピン誘発筋圧痛閾値低下および皮膚痛覚閾値低下に対するプレガバリンの効果を図5Aおよび図5Bにそれぞれ示した。プレガバリンは用量依存的にレセルピン誘発筋圧痛閾値低下および皮膚痛覚閾値低下を回復させた。プレガバリンの効果は、筋圧痛閾値の指標では10あるいは30mg/kgの用量で、皮膚痛覚閾値の指標では30mg/kgの用量で統計学的に有意であった(二元配置分散分析およびBonferroni法)。この結果は、線維筋痛症患者における臨床試験において有用性が証明されている(Mease PJ et al.、J Rheumatol、35、502-514、2008)プレガバリンの有用な効果を、本病態モデル動物が検出出来ることを示した。 レセルピン誘発筋圧痛閾値低下および皮膚痛覚閾値低下に対するデュロキセチンの効果を図5Cおよび図5Dにそれぞれ示した。デュロキセチンはレセルピン誘発筋圧痛閾値低下を30 mg/kgの用量において統計学的有意に回復させた(二元配置分散分析およびBonferroni法)。デュロキセチンは30mg/kgの用量においてレセルピン誘発皮膚痛覚閾値低下を回復させる傾向を示したが、統計学的には有意ではなかった(二元配置分散分析およびBonferroni法)。この結果は、線維筋痛症患者における臨床試験において有用性が証明されている(Russell IJ et al.、Pain、136、432-444、2008)デュロキセチンの有用な効果を、本病態モデル動物が検出出来ることを示した。 レセルピン誘発筋圧痛閾値低下および皮膚痛覚閾値低下に対するプラミペキソールの効果を図5Eおよび図5Fにそれぞれ示した。プラミペキソールは用量依存的にレセルピン誘発筋圧痛閾値低下および皮膚痛覚閾値低下を回復させた。プラミペキソールの効果は、筋圧痛閾値および皮膚痛覚閾値の指標において0.3あるいは1 mg/kgの用量で統計学的に有意であった(二元配置分散分析およびBonferroni法)。この結果は、線維筋痛症患者における臨床試験において有用性が証明されている(Holman AJ and Myers RR、Arthritis Rheum、52、2495-2505、2005)プラミペキソールの有用な効果を、本病態モデル動物が検出出来ることを示した。 レセルピン誘発筋圧痛閾値低下および皮膚痛覚閾値低下に対する非ステロイド性抗炎症薬であるジクロフェナックの効果を図5Gおよび図5Hにそれぞれ示した。ジクロフェナックは10mg/kgの用量までレセルピン誘発筋圧痛閾値低下および皮膚痛覚閾値低下を回復させなかった。ジクロフェナックの効果は、筋圧痛閾値および皮膚痛覚閾値の指標において何れも統計学的に有意ではなかった(二元配置分散分析およびBonferroni法)。この結果は非ステロイド性抗炎症薬であるイブプロフェン(Yunus MB et al.、J Rheumatol、16、527_532、1989)やナプロキセン(Goldenberg DL et al.、Arthritis Rheum、29、1371_1377、1986)が線維筋痛症患者の治療において有意な効果がないとする知見と一致し、本病態モデル動物が鎮痛薬の効果を非特異的には検出しないことを示した。 上記4つの被検薬物の評価結果は、本病態モデル動物が、被検薬物の線維筋痛症などの慢性疼痛患者における臨床効果について高い予測性を有することを示した。すなわち、本病態モデル動物が予測妥当性の観点で優れることを示した。実施例5 レセルピンの単回投与の筋圧痛閾値、皮膚痛覚閾値、冷感受性、および熱感受性への影響1.実験方法 雄性のSprague-Dawleyラット(Japan SLC、 Hamamatsu、 Japan)を用いた。筋圧痛閾値測定は実施例1と同様に行なった。すなわち、ラットの右後ろ足の腓腹筋に対して最大250 gまで徐々に増加する圧刺激を加えた。ラットが右後ろ足の圧刺激からの回避反応を示す最小の圧刺激の大きさを筋圧痛閾値(g)として測定した。各測定時点において測定を3回ずつ行い、その平均を測定値とした。 皮膚痛覚閾値測定は実施例1と同様に行なった。すなわち、一定の圧力を加えることが出来る太さの異なる一連のvon Freyフィラメントを使用して測定した。ラットを金網底の測定用ケージに順応させた後、ラットの右後ろ足の足底表面にvon Freyフィラメント(0.42、 0.74、 1.2、 2.1、 3.5、 6.0、 9.3、 15.8g)を右後ろ足に回避反応が起こるか、あるいは反応が起きず6秒が経過するまで適用した。Von Freyフィラメントはup and down法を用いて適用した。すなわち、最初に太さが中程度のフィラメントを適用し、逃避反応が認められた場合は、その一つ下の太さのフィラメントを適用し、反応が認められなかった時は一つ上の太さのフィラメントを適用した。各時点における皮膚痛覚閾値は、足逃避反応閾値(g)として算出した。 冷感受性の測定はChoiらの方法(Choi et al.、 Pain、 59、 369-376、 1994)に従って実施した。ラットを金網底の測定用ケージに順応させた後、インスリン注射用シリンジを用いて、50μlのアセトンをラットの右後ろ足の足底表面に噴霧した。噴霧直後の1分間に起こる右後ろ足の反応(フリンチング、リフティング、足舐め)回数を測定し、冷感受性の指標とした。各測定時点においてアセトン噴霧は5分間隔で3回実施し、その平均を測定値とした。本測定系においては、反応回数が多い程、冷感受性が亢進していることを示す。 熱感受性の測定はHargreavesらの方法(Hargreaves et al.、 Pain、 32、 77-88、 1988)に従って実施した。プラットホームで支えるガラス板上に透明な測定用ボックスを置き、その中にラットを入れて馴化させた。可動式の赤外線熱源をガラス板下に置き、ラットの右後ろ足の足底面に焦点を合わせた。ラットが熱源から右後ろ足逃避反応を示すまでに要する時間を、足回避反応潜時として測定し、熱感受性の指標とした。本測定系においては、足回避反応潜時が短い程、皮膚熱感受性が亢進していることを示す。 レセルピンの単回投与の筋圧痛閾値、皮膚痛覚閾値、冷感受性、および熱感受性への影響は次のプロトコールに従って検討した。雄性の12匹のラットを用いた。レセルピン処置前(ベースライン)の筋圧痛閾値、皮膚痛覚閾値、冷感受性、および熱感受性を測定した後に、溶媒(0.5 %酢酸水)群あるいはレセルピン(3 mg/kg)群の何れかに割り当てた(1群当たりの動物数は6)。各群のラットには溶媒あるいはレセルピンを背部皮下に皮下投与した。溶媒あるいはレセルピンの投与容量は全て動物体重1 kgあたり1 mlとした。溶媒あるいはレセルピン投与後の急性期(2、4、8、24時間)、および慢性期(2、3、5、7、10、14および21日)の測定時点において各ラットの筋圧痛閾値、皮膚痛覚閾値、冷感受性、および熱感受性を測定した。測定は動物への投与物質内容を知らない実験者が行なった。 全ての測定値は平均値±標準誤差として表記した。各時点における測定値の、レセルピン投与群と溶媒投与群の間の統計学的有意差検定は二元配置分散分析およびBonferroni法によって行なった。危険率(P) 5 %未満を統計学的有意と判定した(P<0.05を*として図中に表記した)。2.結果(1)筋圧痛閾値 レセルピン単回投与による筋圧痛閾値の経時変化を図6Aに示した。レセルピンは投与後2、4、8、および24時間において筋圧痛閾値を有意に上昇させた。一方、投与後2、3、5、7、および10日において筋圧痛閾値を有意に低下させた(二元配置分散分析およびBonferroni法)。すなわち、レセルピン単回皮下投与は急性期(投与後24時間以内)と慢性期(投与後2日以降)では異なる筋圧痛閾値の変化(急性期では感受性鈍磨、慢性期では感受性亢進)を惹起することが明らかになった。(2)皮膚痛覚閾値 レセルピン単回投与による皮膚痛覚閾値の経時変化を図6Bに示した。レセルピンは投与後2時間において皮膚痛覚閾値を有意に低下させた。また、レセルピンは慢性期の投与後2、3、5、7、10、14、および21日において皮膚痛覚閾値を有意に低下させた(二元配置分散分析およびBonferroni法)。すなわち、レセルピン単回皮下投与は急性期(投与後24時間以内)において一過性の(投与4時間後には回復する)触アロディニアを惹起した。この触アロディニアは一旦回復後に、慢性期(投与後2日以降)において持続的な触アロディニアとして再発することが明らかになった。(3)冷感受性 レセルピン単回投与による冷感受性の経時変化を図6Cに示した。レセルピンは投与24時間以内には有意な反応回数増加を示さなかった。一方、投与後2、3、5、7、10日において反応回数を有意に増加させた(二元配置分散分析およびBonferroni法)。すなわち、レセルピン単回皮下投与は急性期(投与後24時間以内)では冷感受性の変化を起こさず、慢性期(投与後2日以降)において冷感受性の亢進を惹起することを明らかにした。(4)熱感受性 レセルピン単回投与による熱感受性の経時変化を図6Dに示した。レセルピンは投与後2および4時間、および投与後3および5日において反応潜時を有意に短縮させた(二元配置分散分析およびBonferroni法)。すなわち、レセルピン単回皮下投与は急性期(投与後24時間以内)において一過性(投与8時間後には回復する)の熱感受性亢進を惹起した。この熱感受性亢進は一旦回復後に慢性期(投与後2日以降)において再発することが明らかになった。 実施例5の結果から、レセルピン処置を受けた動物において、レセルピン処置後の慢性期(投与後2日以降)には、急性期(投与後24時間以内)とは異なる痛覚閾値の変化が生じていることが明らかになった。実施例6 脊髄、視床および前頭前皮質におけるドパミン、ノルエピネフリン、セロトニン、3,4-dihydroxyphenylacetic acid (DOPAC; ドパミン代謝物)、3-Methoxy-4-hydroxyphenylethyleneglycol (MHPG, ノルエピネフリン代謝物)および5-hydroxyindoleacetic acid (5-HIAA; セロトニン代謝物)量に対するレセルピンの単回投与の影響1.実験方法 動物は雄性Sprague-Dawleyラット(7週齢、Japan SLC、 Hamamatsu、 Japan)を用いた。 合計72匹のラットを12の実験スケジュール(投与前、投与の2、4、8、24時間後および2、3、5、7、10、14、21日後にサンプル採取)に分け、さらにそれぞれを1群3例ずつになるよう溶媒投与群(0.5 %酢酸水)またはレセルピン3 mg/kg投与群に分けた。実施例5に示したように、ラットに溶媒またはレセルピン3 mg/kgを皮下に単回投与し、投与の2、4、8、24時間後および2、3、5、7、10、14、21日後に脳および脊髄を素早く採取した。視床および前頭前皮質は氷冷したディッシュ上で脳から分離した。投与前サンプルは、溶媒またはレセルピン投与前にサンプル採取した。採取したサンプルは迅速に凍結し、測定に用いるまで-80 ℃で保存した。測定当日、各サンプルの組織湿重量を測定し、0.2M過塩素酸/0.1mM EDTA-2Na溶液を添加後に超音波ホモジナイザーを用いてホモジナイズした。15,000g、 15分、 4 °Cにて遠心分離後、酢酸ナトリウムを用いて上清をpH3.5に調整し、フィルターを用いて濾過した。これらサンプルのドパミン、ノルエピネフリン、セロトニン、DOPAC、MHPGおよび5-HIAA量は高性能液体クロマトグラフィー(カラム:SC-5ODS 3.0、150 mm、Eicom Co.、 Ltd.、Kyoto、Japan、移動相組成:0.1 M 酢酸ナトリウムバッファー、 0.1 M クエン酸バッファー、 pH 3.5、 5mg/L EDTA-2Na、 200 mg/L sodium octane sulfonic acid、 16% メタノール)および電気化学検出器(ECD-300、Eicom Co.、 Ltd.、Kyoto、Japan)を用いて測定した。測定は流速0.5mL/分、印加電圧750 mV、25 ℃の条件下で実施した。サンプル中のドパミン、ノルエピネフリン、セロトニン、DOPAC、MHPGおよび5-HIAA量は、サンプル測定と同日に測定した各スタンダードのピーク面積との比較によって算出および定量した。 全ての測定値は平均値±標準誤差として図中に表記し、測定値の単位はng/g組織湿重量とした。各実験スケジュールにおける測定値の、レセルピン投与群と溶媒投与群の間の統計学的有意差検定は二元配置分散分析およびBonferroni法によって行った。危険率(P)5%未満を統計学的有意と判定した(P<0.05を*として図中に表記した)。2.結果(1)脊髄における変化 脊髄におけるドパミン、ノルエピネフリン、セロトニン、DOPAC、MHPGおよび5-HIAA量に対するレセルピン単回投与の効果をそれぞれ図7A、図7B、図7C、図7D、図7Eおよび図7Fに示した。レセルピンは投与後2、4、8、24時間、および2、3、5、7、10、14、21日において、ドパミン、ノルエピネフリンおよびセロトニン量のいずれも有意に低下させた(二元配置分散分析およびBonferroni法)。一方、レセルピンは投与後2、4、8、24時間においてDOPAC量を,投与後2、4、8、24時間および2日において5-HIAA量を有意に上昇させたが,いずれも投与後2日または3日以降では有意に変化させなかった(二元配置分散分析およびBonferroni法)。また、レセルピンは投与後4時間および7日においてMHPG量を有意に低下させた(二元配置分散分析およびBonferroni法)。すなわち,脊髄においてはレセルピン単回皮下投与によって,ドパミン、ノルエピネフリン、セロトニンおよびMHPG量は急性期(投与後24時間以内)と慢性期(投与後2日以降)のどちらにおいても低下した。一方,DOPACおよび5-HIAA量は急性期のみで上昇し(DOPACのみ投与後2日も上昇),急性期と慢性期では異なる挙動を示すことが明らかとなった。(2)視床における変化 視床におけるドパミン、ノルエピネフリン、セロトニン、DOPAC、MHPGおよび5-HIAA量に対するレセルピン単回投与の効果をそれぞれ図8A、図8B、図8C、図8D、図8Eおよび図8Fに示した。レセルピンは投与後2、4、8、24時間および2、3、5、7、10、14、21日においてドパミンおよびノルエピネフリン量のいずれも有意に低下させ,投与後8、24時間および2、3、5、7、10日においてセロトニン量を有意に低下させた(二元配置分散分析およびBonferroni法)。一方,レセルピンは投与後2、4、8、24時間において5-HIAA量を有意に上昇させたが,投与後2日以降では有意な差はなかった(二元配置分散分析およびBonferroni法)。また,レセルピンはDOPACおよびMHPG量は有意に変化させなかった(二元配置分散分析およびBonferroni法)。すなわち,視床においてはレセルピン単回皮下投与によって,ドパミン、ノルエピネフリンおよびセロトニン量は急性期(投与後24時間以内)と慢性期(投与後2日以降)のどちらでも低下した。一方,5-HIAA量は急性期のみで上昇し,急性期と慢性期では異なる挙動を示すことが明らかとなった。(3)前頭前皮質における変化 前頭前皮質におけるドパミン、ノルエピネフリン、セロトニン、DOPAC、MHPGおよび5-HIAA量に対するレセルピン単回投与の効果をそれぞれ図9A、図9B、図9C、図9D、図9Eおよび図9Fに示した。レセルピンは投与後2、4、8、24時間および2、3、5、7、10、14日においてドパミン量を,投与後2、4、8、24時間および2、3、5、7、10、14、21日においてノルエピネフリン量を,投与後2、4、8、24時間および2、3、5、7、10日においてセロトニン量を,それぞれ有意に低下させた(二元配置分散分析およびBonferroni法)。また,レセルピンは投与後4時間および7日においてMHPGを,投与後8時間および2、3、5、7、10、14、21日において5-HIAAを,それぞれ有意に低下させた(二元配置分散分析およびBonferroni法)。一方,レセルピンは投与後2、3、5、7、10および14日においてDOPAC量を有意に低下させたが,投与後24時間以内では有意に変化させなかった(二元配置分散分析およびBonferroni法)。すなわち,前頭前皮質においてはレセルピン単回皮下投与によって,ドパミン、ノルエピネフリン、セロトニン、MHPGおよび5-HIAA量は急性期(投与後24時間以内)と慢性期(投与後2日以降)のどちらでも低下した。一方,DOPAC量は慢性期のみで低下し,急性期と慢性期では異なる挙動を示すことが明らかとなった。 下記表1にレセルピンの単回投与処置後の急性期(投与後24時間以内)における生体内アミン量および各代謝物量の変化のまとめを、表2にレセルピンの単回投与処置後の慢性期(投与後2日以降)における生体内アミン量および各代謝物量の変化のまとめを、各々示す。下向き矢印または上向き矢印: レセルピン処置後の急性期(投与後24時間以内)の測定時点において、レセルピン処置ラットの方が溶媒処置ラットと比べて統計学的に有意に少ない、または多いことをそれぞれ示す。−: レセルピン処置後の急性期の測定時点において、レセルピン処置ラットと溶媒処置ラットとの間に統計学的な有意な差がないことを示す。注:レセルピン処置後の急性期の測定時点において、触(フィラメント)刺激および熱刺激に対する感受性は亢進し、筋圧刺激に対する感受性は鈍磨し、また冷刺激に対する感受性は変化しない。下向き矢印または上向き矢印: レセルピン処置後の慢性期(投与後2日以降)の測定時点において、レセルピン処置ラットの方が溶媒処置ラットと比べて統計学的に有意に少ない、または多いことをそれぞれ示す。−: レセルピン処置後の慢性期の測定時点において、レセルピン処置ラットと溶媒処置ラットとの間に統計学的な有意な差がないことを示す。注:レセルピン処置後の慢性期の測定時点において、筋圧刺激、触(フィラメント)刺激、冷刺激、および熱刺激に対する感受性はすべて亢進している。 実施例6の結果から,レセルピン処置を受けた動物においてはアミンの種類または脳内部位によっては,生体内アミン代謝物量が急性期(投与後24時間以内)と慢性期(投与後2日以降)で異なることが明らかになった。生体内アミン代謝物量の増加は生体内アミンシグナルの活性化を表すことが示唆されており(Roth et al., 1976),生体内アミン代謝物量の変化は痛覚閾値に影響を与えていると考えられる。すなわち,実施例5に示した,慢性期と急性期における痛覚閾値変化の相違は,生体内アミン代謝物量によって示唆される生体内アミンシグナルの活性化状態の違いに起因することが示された。 本発明の、慢性疼痛症状(慢性筋肉痛と慢性触アロディニア)および鬱症状を併発した病態モデル動物は、慢性疼痛、とりわけ線維筋痛症の病態を反映したモデルとして極めて有用であり、この病態モデル動物を用いたスクリーニング方法により、慢性疼痛、とりわけ線維筋痛症の治療剤候補物質を効率的に評価することができる。 哺乳動物にレセルピンを投与して慢性筋肉痛及び/又は慢性触アロディニアを惹起させた非ヒト哺乳動物を慢性疼痛の治療剤候補物質をスクリーニング及び/又は評価するための病態モデル動物として使用する方法。 さらに鬱症状を随伴することを特徴とする請求項1記載の方法。 非ヒト哺乳動物がげっ歯類動物である請求項1乃至2記載の方法。 げっ歯類動物がラットである請求項3記載の方法。 レセルピンの投与が反復投与である請求項1乃至4記載の方法。 非ヒト哺乳動物にレセルピンを投与して慢性筋肉痛及び/又は慢性触アロディニアを惹起させた病態モデル動物に被験物質を投与することを特徴とする慢性疼痛の治療薬のスクリーニング方法。 非ヒト哺乳動物にレセルピンを投与して慢性筋肉痛及び/又は慢性触アロディニアを惹起させた病態モデル動物に被験物質を投与し、筋圧痛閾値及び/又は皮膚痛覚閾値を測定することを特徴とする慢性疼痛の治療薬のスクリーニング方法。 慢性疼痛が線維筋痛症である請求項6又は7記載のスクリーニング方法。


ページのトップへ戻る

生命科学データベース横断検索へ戻る