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タイトル:特許公報(B2)_封入体形成タンパク質の製造方法
出願番号:2010534829
年次:2014
IPC分類:C12N 15/09,C12N 1/21,C12P 21/02,C12N 9/64


特許情報キャッシュ

中武 博 米田 明広 末永 清剛 平嶋 正樹 前田 浩明 JP 5602635 特許公報(B2) 20140829 2010534829 20091021 封入体形成タンパク質の製造方法 一般財団法人化学及血清療法研究所 000173555 帝人ファーマ株式会社 503369495 田中 光雄 100081422 山崎 宏 100084146 冨田 憲史 100122301 山中 伸一郎 100156111 中武 博 米田 明広 末永 清剛 平嶋 正樹 前田 浩明 JP 2008270941 20081021 20141008 C12N 15/09 20060101AFI20140918BHJP C12N 1/21 20060101ALI20140918BHJP C12P 21/02 20060101ALI20140918BHJP C12N 9/64 20060101ALN20140918BHJP JPC12N15/00 AC12N1/21C12P21/02 CC12N9/64 Z C12N 15/00−15/90 C07K 1/00−19/00 CA/MEDLINE/BIOSIS/WPIDS(STN) UniProt/GeneSeq PubMed Science Direct CiNii RETALLACK, D.M. et al.,"Transport of heterologous proteins to the periplasmic space of Pseudomonas fluorescens using a variety of native signal sequences.",BIOTECHNOLOGY LETTERS,2007年10月,Vol.29, No.10,P.1483-1491 MEDINA-RIVERO, E. et al.,"Modified penicillin acylase signal peptide allows the periplasmic production of soluble human interferon-gamma but not of soluble human interleukin-2 by the Tat pathway in Escherichia coli.",BIOTECHNOLOGY LETTERS,2007年 9月,Vol.29, No.9,P.1369-1374 HALFMANN, G. et al.,"Targeting of interleukin-2 to the periplasm of Escherichia coli.",J. GEN. MICROBIOL.,1993年10月,Vol.139, No.10,P.2465-2473 16 JP2009068133 20091021 WO2010047347 20100429 17 20120507 野村 英雄 本発明は、原核細胞で発現させたときに封入体を形成するタンパク質(以下、「封入体形成タンパク質」と称することもある)の製造方法及び当該製造方法に用いる核酸断片に関する。詳細には、(1)改変型シグナルペプチドをコードする塩基配列の下流に目的タンパク質遺伝子の塩基配列を結合させた配列からなる核酸断片が組み込まれた発現ベクターを調製する工程、(2)該発現ベクターで形質転換された封入体形成タンパク質産生宿主を調製する工程及び(3)該封入体形成タンパク質産生宿主を培養して得られる培養物から封入体形成タンパク質を精製する工程からなる封入体形成タンパク質の製造方法並びに前記(1)の核酸断片に関する。 上記目的タンパク質としては、マトリックスメタロプロテアーゼ7(以下、「MMP-7」と称することもある)が特に好ましく、それゆえ、本発明の特に好ましい態様は、改変型シグナルペプチドをコードする塩基配列、およびプロマトリックスメタロプロテアーゼ7(以下、「proMMP-7」と称することもある)をコードする塩基配列を含む核酸断片、ならびにその核酸断片を用いるMMP-7の製造方法に関する。 大腸菌等のグラム陰性菌において、タンパク質を生産する場合、目的のタンパク質のN末端にシグナル配列をつけることで、ペリプラズム(細胞周辺腔)と呼ばれる内膜(細胞質膜)と細胞壁の間にある間隙にタンパク質が分泌される場合がある。しかしながら、内膜を介したペリプラズムへの目的のタンパク質の輸送の効率は、シグナル配列と目的タンパク質の組合せによって異なり、常に高い輸送効率を得る方法は知られていない。また、大腸菌などのペリプラズムにはタンパク質分解酵素(プロテアーゼ)も分泌されることが知られており、ペリプラズムに分泌された目的タンパク質が分解を受けてしまうこともある。一方、目的タンパク質が変性状態でペリプラズムに分泌されると、そこで封入体と呼ばれる構造を作る場合があり、封入体に取り込まれた目的タンパク質はプロテアーゼによる分解を受けにくいといわれる。さらに、封入体には高濃度の目的タンパク質が取り込まれていることから、精製効率や収率の点でも有利に用いられることがある。しかしながら、目的タンパク質を大腸菌などのグラム陰性菌で発現させて、効率よく封入体を形成させるための方法(シグナルペプチドを改変等)も現在のところ知られていない。 Ibrahimらは、小麦胚芽を用いた無細胞系のタンパク質合成において、大腸菌の内毒素サブユニットBのシグナルの疎水性コア領域にあるP8のロイシンをプロリンに置換することにより、シグナル配列の切断が阻害され、合成速度が2倍に上昇することを示した(例えば、非特許文献1参照)。しかしながら、本結果は無細胞系による単純化された発現系での結果であるため、大腸菌などの生きた細胞を用いた発現系に適応できるとは限らない。また、合成されたタンパク質は可溶性で封入体を形成することはなかった。他の例では、大腸菌のリボース結合タンパク質のシグナル配列に自然発生的に変異(P17のロイシンのプロリンへの変異)が生じた場合、シグナル配列の切断阻害が起こり、可溶性のリボース結合タンパク質前駆体が細胞質内に蓄積されること、その発現量は放射線同位元素を用いたラベリングによって検出しなくてはならないほど微量で、且つ変異前の野生型の発現量と同等であったことが報告されている(例えば、非特許文献2参照)。このように、大腸菌での封入体発現における原核細胞由来シグナル配列の変異の影響は未だ明確ではなく、とりわけ真核細胞由来構造遺伝子の発現への影響は全く知られていない。 また、宿主に遺伝子を導入した組換え体を製造に用いる場合、抗生物質などを含有する選択培地を用いない場合には、組換え体が増殖の過程で導入した遺伝子を排除して導入した形質を失うことが発生し、それが優先的に増殖することによって物質製造の効率が落ちることがある。そのため、宿主に遺伝子(発現プラスミド等)を導入する際には選択に用いる抗生物質などを分解したり修飾したりすることによって、その抗生物質等に耐性を獲得するための遺伝子も同時に宿主に導入して、該遺伝子を保有しない宿主に毒性をしめす抗生物質等(例えばアンピシリンやテトラサイクリン等)を含む選択培地で培養することで、遺伝子を保持している組換え体を選択し、導入した遺伝子を排除した組換え体の発生を抑制する方法が取られる。しかし、抗生物質は生物に対する毒性を有していたり、薬剤過敏症(アレルギー)の原因になったりすることもあり、組換え体を用いて医薬品や動物医薬品、食品を製造して販売する際には、その混入が厳しく管理される必要がある。そのことから、抗生物質などでの選択を行わなくても導入した遺伝子が維持される構成や方法が望まれている。 MMP-7は、活性部位に亜鉛分子をもつ亜鉛型メタロプロテアーゼファミリーに属するマトリックスメタロプロテアーゼ(以下、「MMP」と称することもある)の一つである(例えば、非特許文献3参照)。MMPは前駆体として産生され、細胞外分泌時にシグナル配列がプロセスされ、次いでプロ配列がプロセスされて活性型になる。細胞外に分泌されたMMPは細胞外マトリックスの代謝を司るのに対して、MMP-7は主に癌細胞より分泌され、浸潤、転移に関与することが報告されている(例えば、非特許文献4参照)。MMP-7は他の多くのMMPが持っているヒンジ、ヘモペキシン様ドメインを持っておらず、MMPの中では最小の分子単位からなり、コラーゲンや細胞外マトリックスを構成しているコンポーネント(フィブロネクチン、ビトロネクチン、ラミニン、アグリカン)を基質とする。 MMP-7は、軟骨組織の主成分であるアグリカンを基質とすること、椎間板ヘルニアの手術検体由来のマクロファージがMMP-7を発現していること(例えば、非特許文献5参照)等からヘルニア塊の自然退縮に関わっていることが推測される。その後、波呂らは、MMP-7をヘルニアイヌの椎間板に投与して椎間板内髄核の容積の減少を観察し、椎間板ヘルニアの治療薬としての可能性を示した(例えば、非特許文献6参照)。MMP-7の医薬品としての開発が望まれるところであるが、MMP-7は生体中に微量にしか存在せず、生体からMMP-7を分離精製することは極めて困難であり、生体成分を用いた場合、潜在的なウイルス汚染など安全面における問題が懸念される。MMP-7は癌細胞からも取得できるが、癌細胞を製造株とするのは好ましいことではない(例えば、非特許文献7参照)。 このような問題を解決する方法として遺伝子組み換え技術によりMMP-7を取得する試みが行われている。動物細胞を用いた系では、CHO細胞でMMP-7を発現させたBarnettらの報告がある(例えば、非特許文献8参照)が、MMP-7の発現量は数mg/L程度と少なく、医薬品の製造に用いるのは現実的な発現系とは言い難い。また、アルカリフォスファターゼのシグナル配列の塩基配列と大腸菌のコドン使用頻度に最適化されたproMMP-7の遺伝子配列とを連結させた核酸断片を用いることにより、34℃では可溶性のMMP-7、42℃では不溶性のMMP-7を発現することが報告されている(例えば、特許文献1参照)。特許第293852号公報Ibrahim et al., J. Biol. Chem., 1987, vol. 262, p.10189-10194Groarke et al., EMBO J., 1985, vol.4, p.1875-1880Soler et al., Biochem Biophys Res Commun、1994、vol.201, p.917-923Ii et al., Exp Biol Med (Maywood)、2006、vol.231, p.20-27Haro et al., J. Spinal Disord, 1999, vol.13, p.245-249Haro et al., J Orthop Res, 2005, vol.23, p.412-419Miyazaki et al., Cancer Research, 1990, vol.50, p.7758-7764Barnett et al., Protein Exp. Purif., 1994,vol.5, p.27-36 前述したように、proMMP-7遺伝子を大腸菌に導入した場合、proMMP-7は大腸菌に対する強い毒性のために発現しない。proMMP-7のN末側にシグナルペプチドを付加することにより、proMMP-7の大腸菌での発現が可能となる。しかしながら、単にシグナルペプチドを付加しただけでは、proMMP-7の発現量は少なく、また発現したproMMP-7の一部がプロテアーゼにより分解される。これらの分解は大腸菌の発現産物の低下もしくは封入体からのリフォールディングにおける収量低下をもたらし、効率的なproMMP-7の製造方法確立の妨げになる。したがって、本発明の目的は、発現量の増加とプロテアーゼによる分解抑制をもたらすことが出来る、新規な組み合わせの遺伝子断片とその遺伝子断片を用いた目的タンパク質の原核細胞での発現方法、引いてはその製造方法を提供することにある。 本発明者らは、上記の目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、(1)シグナルペプチダーゼの結合部位である配列番号1で示されるPhoA-アルカリフォスファターゼシグナルペプチド(以下、「ASPS」と称することもある)のアミノ酸配列の21番目のアラニンを任意のアミノ酸、例えば、アスパラギン酸、グルタミン酸、リジン、ヒスチジン、フェニルアラニン又はチロシンに置換した改変型PhoA-アルカリフォスファターゼシグナルペプチド(以下、「改変型APSP」と称することもある)をコードする塩基配列を、proMMP-7遺伝子の5'側に付加した核酸断片を用いて大腸菌で発現させることにより、プロテアーゼによるproMMP-7の分解が抑制されること、(2)13番目のロイシンをプロリンに置換した改変型APSPを用いることにより、proMMP-7の発現量の増大及びプロテアーゼによる分解の抑制の両方の効果が得られること、及び(3)13番目のロイシンをプロリンに置換し、且つ21番目のアラニンを上記の任意のアミノ酸に置換した改変型APSPを用いた場合は、イソプロピルチオ−ベータ-D-ガラクトシド(IPTG)による発現誘導において、何れか一方を置換した場合に比べて、proMMP-7の発現量が増大することを発見した。更に、上記の改変型シグナルペプチドは、他の封入体を形成するタンパク質、例えば、アビバクテリウム・パラガリナルムC型菌のHMTp210に対しても同様の効果を有することを見出し、本発明を完成するに至った。 したがって、本発明は、以下の通りである。〔1〕原核細胞で発現させたときに封入体を形成するタンパク質(封入体形成タンパク質)をコードする塩基配列からなる核酸断片であって、改変型シグナルペプチドをコードする塩基配列及び目的タンパク質をコードする塩基配列を含む前記核酸断片。〔2〕原核細胞がグラム陰性菌である、〔1〕記載の核酸断片。〔3〕原核細胞が大腸菌である、〔1〕又は〔2〕記載の核酸断片。〔4〕目的タンパク質がプロマトリックスメタロプロテアーゼ7(proMMP-7)又はアビバクテリウム・パラガリナルムC型菌のHMTp210である、〔1〕ないし〔3〕の何れかに記載の核酸断片。〔5〕改変型シグナルペプチドが、原核生物由来の内膜を通過するタンパク質のシグナルペプチドを改変したものである、〔1〕ないし〔4〕の何れかに記載の核酸断片。〔6〕前記タンパク質が、アルカリフォスファターゼ、OmpA、PelB、OmpT、LamB、OmpF及びβ-lactamaseからなる群より選ばれるものである、〔5〕記載の核酸断片。〔7〕改変型シグナルペプチドが、PhoA-アルカリフォスファターゼのシグナルペプチドを改変したもの(改変型APSP)である、〔5〕記載の核酸断片。〔8〕改変型APSPが、配列番号1で示されるアミノ酸配列の13番目のロイシンをプロリン、フェニルアラニン及びトリプトファンからなる群より選ばれる何れかのアミノ酸に置換したものである、〔7〕記載の核酸断片。〔9〕改変型APSPが、配列番号1で示されるアミノ酸配列の21番目のアラニンを、アスパラギン酸、グルタミン酸、リジン、ヒスチジン、フェニルアラニン及びチロシンからなる群より選ばれる何れかのアミノ酸に置換したものである、〔7〕記載の核酸断片。〔10〕改変型APSPが、配列番号1で示されるアミノ酸配列の13番目のロイシンをプロリン、フェニルアラニン及びトリプトファンからなる群より選ばれる何れかのアミノ酸に置換し、且つ、21番目のアラニンを、アスパラギン酸、グルタミン酸、リジン、ヒスチジン、フェニルアラニン及びチロシンからなる群より選ばれる何れかのアミノ酸に置換したものである、〔7〕記載の核酸断片。〔11〕目的タンパク質をコードする塩基配列が、改変型シグナルペプチドをコードする塩基配列の下流に位置する、〔1〕ないし〔10〕の何れかに記載の核酸断片。〔12〕〔1〕ないし〔11〕の何れかに記載の核酸断片が組み込まれた発現ベクター。〔13〕〔12〕記載の発現ベクターで宿主を形質転換することにより得られる、封入体形成タンパク質産生宿主。〔14〕宿主が原核細胞である、〔13〕記載の封入体形成タンパク質産生宿主。〔15〕宿主がグラム陰性菌である、〔13〕又は〔14〕記載の封入体形成タンパク質産生宿主。〔16〕宿主が大腸菌である、〔13〕ないし〔15〕の何れかに記載の封入体形成タンパク質産生宿主。〔17〕下記の(1)〜(3)の工程からなる、原核細胞で発現させたときに封入体を形成するタンパク質(封入体形成タンパク質)の製造方法:(1)〔1〕ないし〔11〕の何れかに記載の核酸断片が組み込まれた発現ベクターを調製する工程、(2)前記(1)の発現ベクターで形質転換された封入体形成タンパク質産生宿主を調製する工程、及び(3)前記(2)の封入体形成タンパク質産生宿主を培養して得られる培養物から封入体形成タンパク質を精製する工程。〔18〕前記発現ベクターが、T7プロモーターの下流に〔1〕ないし〔11〕の何れかに記載の核酸断片が組み込まれた発現ベクターである、〔17〕記載の製造方法。〔19〕宿主が原核細胞である、〔17〕又は〔18〕記載の製造方法。〔20〕宿主がグラム陰性菌である、〔17〕ないし〔19〕の何れかに記載の製造方法。〔21〕宿主が大腸菌である〔17〕ないし〔20〕の何れかに記載の製造方法。〔22〕封入体形成タンパク質産生宿主を抗生物質不含培地中で培養することを特徴とする、〔17〕ないし〔21〕の何れかに記載の製造方法。 本発明に従えば、原核細胞で発現させたときに封入体を形成するタンパク質(封入体形成タンパク質)をコードする塩基配列からなる核酸断片であって、改変型シグナルペプチドと目的タンパク質をコードする塩基配列からなる前記核酸断片、該核酸断片を挿入した発現ベクター、該発現ベクターで形質転換した封入体形成タンパク質産生宿主、及び該封入体形成タンパク質産生宿主を用いた封入体形成タンパク質の製造方法が提供される。 本発明の方法を用いることにより、発現プラスミド保持率が向上し、アンピシリンなどプラスミド保持を目的として使用する抗生物質を培地に添加しなくてもよくなる。さらに、目的タンパク質を発現させるための各種誘導システムの応答性がよくなり、目的タンパク質の発現量が向上する。また、封入体へ組み込まれる目的タンパク質のプロテアーゼによる分解が少なくなり、リフォールディング効率も向上するため、最終的には、機能を持った目的タンパク質として回収される効率が向上する。すなわち、本発明の方法を用いることによって、目的タンパク質を容易に製造することが出来るようになる。 例えば、改変型APSPをコードする塩基配列の下流にプロマトリックスメタロプロテアーゼ7(proMMP-7)遺伝子の塩基配列を結合させた塩基配列からなる核酸断片を用いることにより、proMMP-7産生大腸菌におけるproMMP-7の発現量を増大させることができ、また、該proMMP-7産生大腸菌の培養及び培養物からの精製過程において、大腸菌由来のプロテアーゼによるproMMP-7の分解を抑制することができる。したがって、本発明の方法に従えば、例えば、proMMP-7の精製やproMMP-7のMMP-7への変換が容易となり、効率よくMMP-7を製造することが可能となる。図1は、シグナルペプチダーゼ結合部位(配列番号1で示されるアミノ酸配列の21番目のAla)のみを他のアミノ酸置換した改変型APSPを有する発現ベクターで形質転換して得られたproMMP-7産生大腸菌の可溶化物をSDS-PAGEにかけた後、CBB染色を行った結果を示す。レーン1:MMP7A21D菌、レーン2:MMP7A21D菌、レーン3:MMP7A21E菌、レーン4:MMP7A21E菌、レーン5:MMP7A21K菌、レーン6:MMP7A21K菌、レーン7:MMP7菌、レーン8:MMP7菌図2は、配列番号1で示されるアミノ酸配列の13番目のLeuをProに置換した改変型APSPを有する発現ベクターで形質転換して得られたproMMP-7産生大腸菌の可溶化物をSDS-PAGEにかけた後、CBB染色を行った結果を示す。レーン1:MMP7L13P菌、レーン2:MMP7L13P菌、レーン3:MMP7菌、レーン4:MMP7菌図3は、配列番号1で示されるアミノ酸配列の13番目のLeuのProへの置換と21番目のAlaの他のアミノ酸への置換の両改変を行った発現ベクターで形質転換して得られたproMMP-7産生大腸菌の可溶化物をSDS-PAGEにかけた後、CBB染色を行った結果を示す。レーン1:MMP7L13P-A21D菌、レーン2:MMP7L13P-A21E菌、レーン3:MMP7L13P-A21K菌、レーン4:MMP7L13P-A21H菌、レーン5:MMP7L13P-A21F菌、レーン6:MMP7L13P-A21Y菌、レーン7:MMP7菌図4は、配列番号1で示されるアミノ酸配列の13番目のLeuのProへの置換及び21番目のAlaのグルタミン酸への置換及び両改変を行った発現ベクターで形質転換して得られたproMMP-7産生大腸菌の可溶化物をSDS-PAGEにかけた後、CBB染色を行った結果を示す。レーン1:MMP7菌、レーン2:MMP7L13P菌、レーン3:MMP7A21E菌、レーン4:MMP7L13P-A21E菌図5は、発現プラスミドpET-CorC4000、pET-nALP-CorC4000、およびpET-ALP-CorC4000をそれぞれ導入したBL21(DE3)大腸菌の菌体破砕液の一部をSDS-PAGEにかけた後、CBB染色を行った結果を示す。 本発明の特徴は、改変型シグナルペプチドをコードする塩基配列の下流に目的タンパク質をコードする塩基配列を結合させた核酸断片を用いて、封入体形成タンパク質産生宿主を作製し、該封入体形成タンパク質産生宿主の培養物を材料として、封入体形成タンパク質又は目的タンパク質を製造することにある。 改変型シグナルペプチドとしては、大腸菌を用いた発現系において、目的タンパク質を膜通過により細胞質内からペリプラズム又は菌体外に移動させることができるものであれば何れのタンパク質由来のシグナルペプチドであってもよい。原核細胞由来シグナルペプチドであれば全て候補ペプチドとなりうるが、とりわけ、原核生物由来の内膜を通過するタンパク質、例えば、アルカリフォスファターゼ(DAら, Nature, vol.321, 706-708)、PhoA-アルカリフォスファターゼ(Okaら、1985、Proc Natl Acad Sci U S A. vol.82, 7212-7216), OmpA(Ghrayeb ら、1984、EMBO J.、vol.3、2437-2442), PelB(Betterら,1988, Scienc, vol. 240, 1041-1043)、OmpT(Johnsonら、1990、Protein Expression Purif, vol. 7, 104-113), LamBとOmpF(Hoffmanら、1985、Proc Natl Acad Sci U S A. vol.82, 5107-5111), β-lactamase(Villa-komaroffら、1978、Proc Natl Acad Sci U S A. vol.75, 3727-3731)等に由来するシグナルペプチドが挙げられる。好ましくは、アルカリフォスファターゼのシグナルペプチドが用いられ、より好ましくはPhoA-アルカリフォスファターゼのシグナルペプチドが用いられる。原核細胞由来のアルカリフォスファターゼには種々のアイソザイムが存在するが、何れのアイソザイム由来のシグナルペプチドを使用してもよい。 本発明の方法は、全ての真核細胞由来の封入体形成タンパク質に対して使用できる。特に、目的タンパク質遺伝子をそのまま発現させたときに原核細胞にとって毒性的に働き、増殖や発現量の低下をきたす場合や目的タンパク質が分解を受けて産生量が低下する場合に使用すると効果的である。このような性質を有する目的タンパク質として、proMMP-7、アビバクテリウム・パラガリナルムC型菌のHMTp210、HIV-1プロテアーゼ、T細胞レセプター、抗菌ペプチド、ヒトアポトーシス調節タンパク質BOX等が挙げられる。これらの目的タンパク質の遺伝子配列は、オリジナルコドンのままでもよいし、大腸菌のコドン使用頻度に最適化した配列でも構わない。以下、主として改変型APSPの下流にproMMP-7を結合させた封入体形成タンパク質について態様を記述する。 proMMP-7をコードする遺伝子は、市販の腎臓由来のcDNAライブラリー(HumanMTC Panel I, Catalog number:K1420-1, BD社)を用いて、PCRを行うことにより取得できる。PCRに用いるプライマーは、データーベース(Accession Numbers; NM002423;proMMP-7)にproMMP-7の塩基配列が開示されているので、この配列に基づき設計することができる。PCRに用いるプライマーは、DNA 合成受託機関(例えば、QIAGEN 社)などに依頼すれば容易に入手可能である。このとき、目的に応じて5'及び3'末側に適切な制限酵素認識部位の塩基配列が付加される。本願実施例では、制限酵素NdeI及びBamHIの認識部位を付加したP1(配列番号2)及びP2(配列番号3)で示される塩基配列からなるプライマーを使用した。PCRにより増幅した核酸断片は、クローニングベクター、例えば、pCRII-TOPO(Invitrogen社)にクローニングし、DNAシークエンサー(ABI Prism 377 アプライドバイオシステムズ社)により塩基配列の決定が行われる。proMMP-7遺伝子の確認は、得られた塩基配列の結果と既存のproMMP-7の塩基配列とを比較することにより行われる。こうしてproMMP-7をコードする核酸断片(以下、「proMMP-7遺伝子」と称することもある)が取得される。また、ヒトproMMP-7をコードする塩基配列を配列番号21に、ヒトMMP−7のアミノ酸配列を配列番号22に示す。 次いで、proMMP-7遺伝子を鋳型として、PCRにより、proMMP-7遺伝子の5'末側にAPSP又は改変型APSPの付加が行われる。改変型APSPの調製においてアミノ酸配列に変異を導入するときは、サイトダイレクティドミュータジェネシス法が使用される。実際には、本技術を応用したInvitrogen社のGeneTailor Site-Directed Mutagenesis System、Takara 社の Site-Directed Mutagenesis System (Mutan-Super Express Km、Mutan-Express Km、Mutan-K など)、Stratagene 社の QuickChange Multi Site-Directed Mutagenesis Kit、QuickChange XL Site-Directed Mutagenesis Kit、などの市販のキットを用い添付のプロトコールに従って行われる。実施例では、GeneTailor Site-Directed Mutagenesis Systemを使用した。 大腸菌のシグナルペプチターゼは、シグナル配列のよく保存されているP3-P1部位を認識することが知られており、その部位に変異を与えるとシグナルペプチドは切断されなくなる(Shenら、Biochemistry, 1991, vol.30, 11775-11781)。典型的なシグナルペプチドは、疎水的な性質の側鎖を持つアミノ酸残基が比較的高頻度で現れる疎水性コア領域を有することが知られている。また、シグナル配列内のアミノ酸を極性の異なるアミノ酸に変異させることにより、シグナル配列の機能を阻害させることもできる(PUZISSら、J. Bacteriol., 1989, 2303-2311)。 APSPに変異を入れる部位としては、proMMP-7のプロテアーゼによる分解を抑制する機能を保持することができるならば、いずれの部位であってもよい。好ましくは、シグナルペプチダーゼの結合部位、更に好ましくは、21番目のAlaに変異が導入される。変異を導入する方法として、アミノ酸の置換、欠失、付加などが挙げられるが、いずれの方法も取り得る。好ましくは、21番目のAlaが他のアミノ酸に置換される。置換されるアミノ酸としては、アスパラギン酸、グルタミン酸、リジン、ヒスチジン、フェニルアラニン及びチロシンからなる群より選択されるアミノ酸が好ましい。 また、APSPの立体構造を変化させるアミノ酸に置換することにより、proMMP-7の発現量の増加(融合タンパク質としての翻訳促進効果とプラスミド保持率増加)とプロテアーゼによる分解の抑制を同時に行うことができる。このような立体構造の変化を起こしやすいアミノ酸としてプロリン、フェニルアラニン、トリプトファンなどが挙げられるが、好ましくはプロリンである。斯かるアミノ酸の置換部位としては、プロリン以外のアミノ酸で構成される部位が可能であるが、好ましくは、13番目のロイシンである。 さらに、APSPの13番目のロイシンをプロリンに置換し、且つ21番目のアラニンを上記の何れかのアミノ酸に置換した改変型APSPをproMMP-7のN末側に結合させた場合、IPTGによる発現誘導において、何れか一方を置換した場合に比べて、発現量を上げることができる。したがって、本発明の改変型APSPの最も好ましい態様は、13番目のロイシンのプロリンへの置換と21番目のアラニンの上記の何れかのアミノ酸への置換がなされた改変型APSPである。上述したように、プロリンは、フェニルアラニン又はトリプトファンであってもよい。 なお、APSPは、由来によっては、配列番号1に示される上記APSPのN末端またはN末端のメチオニンを除去したN末端に、1以上のアミノ酸が付加されているものもある。そのようなAPSPも、配列番号1に示されるAPSPの13番目のロイシン及び/又は21番目のアラニンに相当するアミノ酸を、上述の通り置換する改変を行うことにより、本発明の改変型APSPとして使用することができる。そのような他種のAPSPの例として、E.coli_UTI89株(Acc. No. YP_539434)、E. coli_CFT073株(Acc. No. NP_752424)、Shigella flexneri 2a Str301(Acc. No. NP_706185)に由来するものが挙げられる。ここに挙げた他種のAPSPは、配列番号1に示されるAPSPにおける2〜21番目のアミノ配列と一致する配列を保持し、さらにそのN末端に24アミノ酸が付加された配列(配列番号20)からなるが、APSPとして機能すればこれらに限定されない。 こうして得られたAPSP又は種々のアミノ酸置換を導入した改変型APSPが付加されたproMMP-7遺伝子を適当な発現ベクターに組み込み、当該発現ベクターで宿主細胞を形質転換することによって、proMMP-7の発現が行なわれる。本発明では、原核細胞由来のAPSPを用いるので、宿主細胞としては、大腸菌を用いるのが好ましい。宿主として大腸菌を用いる場合は、大腸菌発現用に、trpプロモーター、T7プロモーター、cspAプロモーターを有する種々の発現ベクターが開発・市販されているのでこれらの中から適宜選択して使用すればよい。発現ベクターに合わせて適当な大腸菌、例えば、BL21、HMS174、DH5α、HB101、JM109 などが宿主として選択される。大腸菌の形質転換は、市販のコンピテントセルを用い、添付の方法に従って行うことができる。大腸菌の培養に使用される培地(例えば、LB、SOC、SOB など)及び形質転換体の選択に用いられる試薬(例えば、アンピシリンなど)や発現誘導に使用される試薬(例えば、インドール酢酸(IAA)、イソプロピルチオ−ベータ-D-ガラクトシド(IPTG))は、一般に市販されているものを使用すればよい。また、培地のpHは、大腸菌の増殖に適した範囲(pH7.2-7.6)で用いられる。 宿主細胞を形質転換するときには公知の方法を利用すればよい。例えば、リン酸カルシウム法、DEAEデキストラン法、リポフェクチン系のリポソームを用いる方法、プロトプラストポリエチレングリコール融合法、エレクトロポレーション法などが利用でき、使用する宿主細胞により適当な方法を選択すればよい。本願実施例では、発現ベクターとしてpET22b(メルク社、製品コード;69744-3)、宿主細胞として、BL21(DE3)、発現システムとして、ラクトースで発現誘導を行うOvernight Express Autoinduction System 1(メルク社、製品コード;71300-3)を用いてproMMP-7を発現させた。 proMMP-7を発現している組換え大腸菌のスクリーニングは、以下のように行われる。発現誘導剤(本願実施例に使用した発現システムではOvernight Express Autoinduction System 1を使用)の存在下に、培養・増殖した菌体の濁度(OD600nm)を測定し、一定の菌量の培養液を高速遠心分離により回収する。その菌体に一定の蒸留水を加え懸濁した後、超音波処理又はフレンチプレス、マントンゴーリン等のホモジナイザーにより菌体を破砕し、高速遠心(15000rpm、15分間)により沈渣を回収する。蒸留水に、適宜界面活性剤(例えば、Triton X100、BugBuster(メルク社))、キレート剤(例えば、EDTA)、リゾチーム等を添加してもよい。沈渣に回収したproMMP-7(封入体を形成)をSDS-PAGE用のSample Bufferで可溶化し、その一定量をSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動にかけ、クマシーブリリアントブルーで染色した後、分子サイズ及び染色像からproMMP-7タンパク質の発現及び発現の程度が確認される。なお、proMMP-7の確認(または検出)には、上記の分子サイズに基づく方法以外に、ELISA法、ウェスタンブロット法、ドットブロット法などの抗原抗体反応に基づく方法が取られることもある。いずれも大腸菌で発現させた外来タンパク質を検出する際の一般的な方法であり、目的に応じて適宜選択すればよい。 こうして得られたproMMP-7産生大腸菌からMMP-7を回収するには以下の方法がとられる。まず、proMMP-7産生大腸菌を培養し、増殖させた菌体を適切な方法で破砕し、proMMP-7からなる封入体を菌体外に放出させる。これまでの大腸菌を用いた遺伝子組換え技術では遺伝子組換え体の選抜に用いる選択マーカー遺伝子として、アンピシリン等の抗生物質に対する耐性遺伝子が用いられてきた。しかしながら、抗生物質を使用することは、環境への拡散や、作出された医薬品としての安全性に対する懸念もあり、工業的な生産技術の開発に当たっての障害になっている。また、組換え体を用いて医薬品や動物医薬品、食品を製造して販売する際には、その混入を厳しく管理することが必要になる。こうした背景により、工業的生産を行う場合の培地として、安全性に十分に配慮した抗生物質不含培地を用いるのが好ましい。菌体の破砕には、例えば、化学物質、界面活性剤、酵素などで溶解させる方法またはフレンチプレスや超音波処理などの物理的処理による方法が取られるが、何れの方法でもよい。これらの方法をいくつか組合せることにより、より効果的に菌体を破砕することができる。封入体含有破砕液の遠心分離と洗浄を繰り返すことにより大部分の菌体成分が除去される。洗浄には、トリス緩衝液、リン酸緩衝液、グリシン緩衝液、炭酸緩衝液など一般的な緩衝液が使用される。封入体は、封入体含有溶液を遠心分離することにより、沈殿として回収される。 回収した封入体は、一旦、還元剤及び変性剤を含有する溶液で溶解される。斯かる還元剤として、システイン、グルタチオン、ジチオスレイトール及び2−メルカプトエタノールなどを使用することができる。これらは幾つかを組合わせて使用してもよい。還元剤の濃度は、溶解する封入体の量に依存するが、10〜200mMの範囲で使用される。変性剤としては、尿素、グアニジン塩酸塩などを用いることができる。斯かる尿素及びグアニジン塩酸塩は、それぞれ4〜8M及び2〜6Mの濃度範囲で使用される。また、緩衝液としては、封入体の回収で使用するものと同様の緩衝液が使用される。溶解時の温度は、40℃以下であれば特に制限する必要はない。溶解時間は、封入体の溶解状況を見ながら設定すればよく、通常、30分〜1時間攪拌される。 次に、封入体の溶解液に、界面活性剤、金属イオンを含むリフォールディングバッファーを加えることにより、proMMP-7のリフォールディング、すなわち正常な立体構造の構築が行われる。この時使用する界面活性剤としてブリッジ35、金属イオンとして酢酸亜鉛、塩化コバルトなどが、それぞれ0.5〜2%及び0.05mM〜0.2mMの濃度範囲で使用される。リフォールディングするときの緩衝液の種類及び濃度は、封入体を溶解するときと同じものを使用すればよい。緩衝液のpHは、7.0〜9.0の範囲で使用される。リフォールディングは、1日以上静置することにより行われる。 リフォールディング溶液からproMMP-7を精製する際には、一般に、タンパク質化学において使用される精製方法、例えば、遠心分離、塩析法、限外ろ過法、等電点沈殿法、電気泳動法、イオン交換クロマト法、ゲルろ過クロマト法、アフィニティークロマト法、疎水クロマト法、ハイドロキシアパタイトクロマト法などの方法を組み合わせた方法が使用される。得られたタンパク質やポリペプチドの量は、BCA Protein Assay Reagent Kit(Pierce Biotechnology, Inc)、Protein Assay Kit (BIO-RAD, Inc)などのタンパク質測定試薬を用いて測定される。例えば、陽イオンカラムにproMMP-7を吸着させ、洗浄後、高塩濃度で溶出することによりproMMP-7を精製することができる(Onedaら、J Biochem., 1999, vol.126, 905-911)。 次いで、proMMP-7のMMP-7への変換が行われる。変換方法としては、proMMP-7含有溶液を1mM (4-aminophenyl)mercuric acetate(APMA)又は0.2μMトリプシン存在下、37℃で保温する方法やproMMP-7含有溶液を53℃で保温する方法(Crabbeら, Biochemistry, 1992, vol.31, 8500-8507)が挙げられるが、何れの方法を用いてもよい。保温時間は1-48時間の範囲で行われるが、試薬及びproMMP-7の濃度や処理量等により適宜調節される。トリプシンはN-tosyl-L-phenylalanine chloromethyl ketone(TPCK)処理したものが使用される。 MMP-7の活性を測定する方法としては、蛍光基質(Dnp-Pro-Leu-Gly-Leu-Trp-Ala-D-Arg-NH2: 配列番号23)のMMP-7による切断を蛍光測定装置により測定する方法がある(Crabbeら, Biochemistry, 1992, vol.31, 8500-8507)。実際には、斯かる原理に基づくMMP-7活性測定Kit(ANASPEC社)が市販されているので、これを用い、添付のプロトコールに従って、活性の測定が行われる。こうして変換されたMMP-7をproMMP-7から分離精製するときは、前述のタンパク質精製方法が使用される。 アビバクテリウム・パラガリナルムC型菌のHMTp210遺伝子を取得する場合は、菌体から抽出した全RNA、mRNA又はゲノムDNAを出発材料としてPCRを行うことにより取得できる。PCRに用いるプライマーは、徳永らが開示したHPG-C型菌由来のHMTp210遺伝子の塩基配列に基づいて設計される(特表平10-514499)。HMTp210遺伝子のクローニング、発現ベクターの構築、HMTp210タンパク質の発現及び精製はproMMP-7と同様の方法に従えばよい。 本発明の方法により得られたMMP-7及びHMTp210は、治療、診断又は他の用途のために製薬学的調合剤に処方することができる。例えば、MMP-7は、静脈内投与のための調合剤に対しては、通常、生理学的に適合しうる物質、例えば塩化ナトリウム、グリシン等を含み、かつ生理学的条件に適合しうる緩衝されたpHを有する水溶液中に溶解される。また、長期安定性の確保の観点から、最終的剤型として凍結乾燥製剤の形態をとることも考慮されうる。なお、静脈内に投与される組成物のガイドラインは政府の規則、例えば「生物学的製剤基準」によって確立されている。本願発明のMMP-7を有効成分として含有する医薬品組成物の具体的な用途としては、椎間板ヘルニア患者などへの投与療法が挙げられる。 以下、実施例に従い、本発明を更に詳細に説明するが、下記の実施例に何ら限定されるものではない。《APSPを有するproMMP-7発現ベクター(pETMMP7)の構築》 腎臓のcDNAライブラリー(HumanMTC Panel I, Catalog#: K1420-1, BD社)よりプライマーP1(配列番号2)とP2(配列番号3)を用いてproMMP-7遺伝子をPCRにより増幅した。増幅されたDNAをクローニングベクター(pCRII-TOPO, Invitrogen)に挿入し、得られたDNAの塩基配列を決定した。塩基配列の決定には、DNAシークエンサーを用いて行った。当該塩基配列とデーターベース(Accession Numbers: NM002423)に登録されているproMMP-7の塩基配列のホモロジー検索を行い、proMMP-7遺伝子が挿入されたプラスミド(pCRproMMP-7)を得た。 次に、pCRproMMP-7を鋳型として、制限酵素NdeI認識配列、PhoA-アルカリフォスファターゼシグナルペプチド(APSP)配列をコードする塩基配列及びproMMP-7のN末端配列をコードする塩基配列からなるプライマーP3(配列番号4)と制限酵素BamHI認識配列及びproMMP-7のC末端配列をコードする塩基配列からなるプライマーP4(配列番号5)を用いて、PCRを行った。上記と同様に増幅されたDNAをクローニングベクターに挿入し、得られたDNAの塩基配列を決定した。塩基配列に変異がないことを確認した後、得られたプラスミドを制限酵素NdeI及びBamHIで切断し、予め同じ制限酵素で切断した発現ベクターpET22b(メルク社、製品コード;69744-3)に挿入し、proMMP-7遺伝子が挿入されたプラスミド(pETMMP7)を得た。《改変型APSPを有する発現ベクターpETMMP7の構築》(1)シグナルペプチダーゼ認識部位の改変 実施例1で得たpETMMP7のAPSPのシグナルペプチダーゼ認識部位(配列番号1で示されるアミノ酸配列の21番目のアラニン(Ala))に、GeneTailor Site-Directed Mutagenesis System(Invitrogen社)を用いて、変異を導入した。変異配列を含むプライマーとそのプライマー配列と一部同じ配列を持つ逆向きのプライマーで、メチル化されたpETMMP7を鋳型にPCRを行うことにより、変異が導入される。アスパラギン酸(Asp)、グルタミン酸(Glu)、リジン(Lys)にそれぞれ置換した。 (2)シグナル配列に構造変化を与える改変 前記(1)と同様の方法により、APSPの13番目のロイシン(Leu)をプロリン(Pro)に置換した。 (3)シグナルペプチダーゼ認識部位とシグナル配列に構造変化を与える改変 前記(1)と同様の方法により、21番目のアラニンをそれぞれAsp, Glu, Lys, ヒスチジン(His)、フェニルアラニン(Phe)、チロシン(Tyr)に、且つAPSPの13番目のロイシンをプロリンに置換した。それぞれの改変型APSPを有する発現ベクター、APSPにおける改変内容、改変に用いたプライマーを表1に示す。《非改変型及び改変型APSPを有するpETMMP7の発現》 実施例1で得た非改変型のAPSPを有するpETMMP7、実施例2で得た改変型APSPを有するpETMMP7で大腸菌(BL21(DE3))を形質転換し、proMMP-7の発現を行った。形質転換に用いた発現ベクター及び得られたproMMP-7産生大腸菌を表2に示す。 発現誘導は、Overnight Express Autoinduction System 1(メルク社;製品コード71300-3)を用いて、添付のプロトコールに従って行った。簡単には、125mLの三角フラスコに50μg/mL Ampicillin(和光純薬株式会社)を含むLB培地50mLに各コロニーを懸濁し、Kitの試薬を添加し、37℃で16時間培養した。その菌体液のOD600nmを測定し、OD600nm=20、1mLに相当する菌体を遠心分離により沈渣に回収した。沈渣を200μLのBugBusterにより破砕し、遠心分離により沈査を得た。沈渣をSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)用のSample Bufferで可溶化し、15%アクリルアミドゲルSDS-PAGEにかけ、CBB染色を行った。その結果、シグナルペプチダーゼ結合部位(21番目のAla)のみを他のアミノ酸置換した改変型APSPを有する発現ベクターで形質転換して得られたMMP7A21D菌、MMP7A21E菌、MMP7A21K菌は、非改変型のAPSPを有する発現ベクターで形質転換して得られたMMP7菌に比べて、proMMP-7の分解物(分子量28-30kD)の量が減少した(図1参照)。 また、13番目のLeuをProに置換した改変型APSPを有する発現ベクターで形質転換して得られたMMP7L13P菌は、MMP7菌に比べて、proMMP-7(分子量31kD)の発現量の増加と分解の抑制が認められた(図2参照)。更に、13番目のLeuのProへの置換と21番目のAlaの他のアミノ酸への置換の両改変を行った発現ベクターで形質転換して得られたMMP7L13P-A21D菌、MMP7L13P-A21E菌、MMP7L13P-A21K菌、MMP7L13P-A21H菌、MMP7L13P-A21F菌、MMP7L13P-A21Y菌を、ラクトース誘導(Overnight Express Autoinduction System 1)を行ったときには、proMMP-7発現量の増加と分解の抑制効果が増強された(図3参照)。また、MMP7菌, MMP7L13P菌, MMP7A21E菌, MMP7L13P-A21E菌を、IPTG誘導を行ったときには、MMP7L13P-A21E菌において、発現量の増加が認められた(図4参照)。《proMMP-7産生大腸菌のプラスミドの保持率》 実施例3で得たMMP7L13P-A21E菌及びMMP7菌を、それぞれ500mLの三角フラスコに50μg/mL Ampicillinを含むLB培地100mLに懸濁し、6時間培養した後、各培養液をLB寒天プレートに播種した。それぞれのコロニーを100個、50μg/mL Ampicillinを含むLB寒天プレートに植え継いで、コロニーの増殖を調べた。その結果、コロニーが増殖した割合は、MMP7L13P-A21E菌で100個、MMP7菌で28個であった。 実施例3で得たMMP7L13P-A21E菌を、Ampicillinを含まないLB培地100mLに懸濁し、6時間培養した後、各培養液10μLを前記と同様に培養して菌体を継代した。その継代培養を6回繰り返した後、各培養液をLB寒天プレートに播種した。それぞれのコロニーを100個、50μg/mL Ampicillinを含むLB寒天プレートに植え継いで、コロニーの増殖を調べた。その結果、コロニーが増殖した割合は、92個であった。《proMMP-7からMMP-7への変換》(1)水銀による活性化 MMP7菌, MMP7L13P-A21E菌をOvernight Express Autoinduction System 1により発現させ、BugBusterにより菌体を破砕し、沈渣を調製した。その沈渣1mgに対して10μLの封入体溶解液(6M塩酸グアニジン、0.1MDTT)の割合で、沈渣を溶解した。その封入体溶解液をリフォールディングバッファー(0.1mM zinc acetate, 0.2M NaCl, 10mM CaCl2, 1% Brij35/50mM Tris-HCl, pH7.5)で10倍に希釈した。その溶液をMMP-7活性測定Kit(Enzolyte520MMP-7 Assay Kit, ANASPEC社、製品コード71153)のプロトコールに従い、水銀でproMMP-7を活性化し、切断された蛍光基質の蛍光を蛍光測定機器で測定した。標準品としてオリエンタル酵母社製のproMMP-7を用いた。その結果、MMP7菌のリフォールディング溶液のproMMP-7の濃度は36.2μg/mLであり、MMP7L13P-A21E菌では、383.2μg/mLであった。リフォールディング溶液でのproMMP-7の収量は約10倍に増加した。 (2)加熱による自己活性化 上記(1)で得た封入体溶解液をリフォールディングバッファー(0.1mM zinc acetate 0.2M NaCl 10mM CaCl2 1% Brij35/50mM Tris-HCl pH7.5)で100倍に希釈した。リフォールディング溶液を53℃2時間保温することにより、proMMP-7の自己活性化を行った。その溶液を水銀を添加しないで、MMP-7活性測定Kitの基質を添加し、その蛍光を測定した。標準品としてオリエンタル酵母社製のMMP-7を用いた。その結果、MMP7菌の保温溶液のMMP-7の濃度は27μg/mLであり、MMP7L13P-A21E菌では126μg/mLであった。《アビバクテリウム・パラガリナルムC型菌HMTp210発現》(1)アビバクテリウム・パラガリナルムC型菌HMTp210発現ベクターの構築 アビバクテリウム・パラガリナルムC型菌53-47株より常法に従ってゲノムDNAを抽出し、S1及びS2プライマー(配列番号16、17)を用いて、防御抗原遺伝子であるHMTp210遺伝子の4000bp断片(以下、CorC4000)をPCRにより増幅した。PCR産物を制限酵素NcoI及びXhoIで切断し、予め同じ制限酵素で切断した発現ベクターpET11d(メルク社、製品コード;69439-3)に挿入しCorC4000遺伝子が挿入されたプラスミド(pET-CorC4000)を得た。 (2)改変型APSP、または非改変型APSPを有するHMTp210発現ベクターの構築 pET-CorC4000よりS3及びS4プライマー(配列番号18、19)を用いて、CorC4000遺伝子をPCRにより増幅した。PCR産物を制限酵素BamHIで切断し、pET15b-ALPのBamHI部位に挿入し、改変型APSPをコードする塩基配列及びHMTp210遺伝子が挿入されたプラスミド(pET-ALP-CorC4000)を得た。さらに、同PCR産物を制限酵素BamHIで切断し、pET15b-nALPのBamHI部位に挿入し、非改変型APSPをコードする塩基配列及びKnob-S134遺伝子が挿入されたプラスミド(pET-nALP-CorC4000)を得た。 (3)CorC4000の発現 発現プラスミドpET-CorC4000、pET-nALP-CorC4000、およびpET-ALP-CorC4000をそれぞれ導入したBL21(DE3)大腸菌を50μg/mlのAmpicillinを含むCircle Grow(CG)培地3ml中に播種し、OD600nmの濁度が0.5-1.0になるまで37℃にて培養した。その後、終濃度1mMとなるようにイソプロピル-1-チオ-β-D-ガラクトピラノシドを添加して、さらに16時間培養し、CorC4000の発現を誘導した。そして、培養した大腸菌を遠心分離により集菌した。沈渣をBugBusterにより破砕し、遠心分離により沈渣を得た。沈渣をSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)用のSample Bufferで可溶化し、菌体液がOD600nm=20となるよう調製した。調製した液は5-20%アクリルアミドゲルSDS-PAGEに供試後、CBB染色を行い、APSP付加の有無によるKnob-S134の発現量を比較した。その結果、改変型APSPを有するpET-ALP-S134で形質転換して得られた大腸菌は、APSPを付加しないpET15b-S134および非改変型APSPを有するpET-nALP-S134で形質転換した大腸菌に比べて、発現量の増加が認められた(図5参照)。 本発明の原核細胞で発現させたときに封入体を形成するタンパク質の製造方法は、種々の産業上有用な外来タンパク質を大腸菌で効率よく生産する方法として利用することができる。特に、マトリックスメタロプロテアーゼ7の前駆体であるプロマトリックスメタロプロテアーゼ7の製造に適している。 原核細胞で発現させたときに封入体を形成するタンパク質(封入体形成タンパク質)をコードする塩基配列からなる核酸断片であって、下記(1)〜(3)の何れかから選ばれる、PhoA-アルカリフォスファターゼのシグナルペプチドを改変したもの(改変型APSP)をコードする塩基配列及び目的タンパク質をコードする塩基配列を含む前記核酸断片:(1)配列番号1で示されるアミノ酸配列の13番目のロイシンをプロリン、フェニルアラニン及びトリプトファンからなる群より選ばれる何れかのアミノ酸に置換した改変型APSP;(2)配列番号1で示されるアミノ酸配列の21番目のアラニンを、アスパラギン酸、グルタミン酸、リジン、ヒスチジン、フェニルアラニン及びチロシンからなる群より選ばれる何れかのアミノ酸に置換した改変型APSP;及び(3)配列番号1で示されるアミノ酸配列の13番目のロイシンをプロリン、フェニルアラニン及びトリプトファンからなる群より選ばれる何れかのアミノ酸に置換し、且つ、21番目のアラニンを、アスパラギン酸、グルタミン酸、リジン、ヒスチジン、フェニルアラニン及びチロシンからなる群より選ばれる何れかのアミノ酸に置換した改変型APSP。 原核細胞がグラム陰性菌である、請求項1に記載の核酸断片。 原核細胞が大腸菌である、請求項1又は2に記載の核酸断片。 目的タンパク質がプロマトリックスメタロプロテアーゼ7(proMMP-7)又はアビバクテリウム・パラガリナルムC型菌のHMTp210である、請求項1ないし3の何れか一項に記載の核酸断片。 目的タンパク質をコードする塩基配列が、改変型APSPをコードする塩基配列の下流に位置する、請求項1ないし4の何れか一項に記載の核酸断片。 請求項1ないし5の何れか一項に記載の核酸断片が組み込まれた発現ベクター。 請求項6に記載の発現ベクターで宿主を形質転換することにより得られる、封入体形成タンパク質産生宿主。 宿主が原核細胞である、請求項7に記載の封入体形成タンパク質産生宿主。 宿主がグラム陰性菌である、請求項7又は8に記載の封入体形成タンパク質産生宿主。 宿主が大腸菌である、請求項7ないし9の何れか一項に記載の封入体形成タンパク質産生宿主。 下記の(1)〜(3)の工程からなる、原核細胞で発現させたときに封入体を形成するタンパク質(封入体形成タンパク質)の製造方法:(1)請求項1ないし5の何れか一項に記載の核酸断片が組み込まれた発現ベクターを調製する工程、(2)前記(1)の発現ベクターで形質転換された封入体形成タンパク質産生宿主を調製する工程、及び(3)前記(2)の封入体形成タンパク質産生宿主を培養して得られる培養物から封入体形成タンパク質を精製する工程。 前記発現ベクターが、T7プロモーターの下流に請求項1ないし5の何れか一項に記載の核酸断片が組み込まれた発現ベクターである、請求項11に記載の製造方法。 宿主が原核細胞である、請求項11又は12に記載の製造方法。 宿主がグラム陰性菌である、請求項11ないし13の何れか一項に記載の製造方法。 宿主が大腸菌である請求項11ないし14の何れか一項に記載の製造方法。 封入体形成タンパク質産生宿主を抗生物質不含培地中で培養することを特徴とする、請求項11ないし15の何れか一項に記載の製造方法。配列表


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