タイトル: | 特許公報(B2)_反芻動物の鼓脹症治療剤 |
出願番号: | 2010530888 |
年次: | 2014 |
IPC分類: | A61K 36/18,A61K 36/00,A61P 1/00,A61P 31/04,A61K 31/05,A61K 31/60,A23K 1/18,A23K 1/16 |
鈴木 千枝 長嶋 協 望月 正己 JP 5484340 特許公報(B2) 20140228 2010530888 20090928 反芻動物の鼓脹症治療剤 出光興産株式会社 000183646 川口 嘉之 100100549 佐貫 伸一 100126505 鈴木 千枝 長嶋 協 望月 正己 JP 2008250241 20080929 20140507 A61K 36/18 20060101AFI20140410BHJP A61K 36/00 20060101ALI20140410BHJP A61P 1/00 20060101ALI20140410BHJP A61P 31/04 20060101ALI20140410BHJP A61K 31/05 20060101ALN20140410BHJP A61K 31/60 20060101ALN20140410BHJP A23K 1/18 20060101ALN20140410BHJP A23K 1/16 20060101ALN20140410BHJP JPA61K35/78 CA61K35/78 ZA61P1/00 171A61P31/04 171A61K31/05A61K31/60A23K1/18 BA23K1/16 304CA23K1/16 303B A61K 31/00−31/327 A23K 1/00−3/04 A61K 36/18 A61K 31/05 A61K 31/60 WPI CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN) JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII) 特開2008−035760(JP,A) 特表2008−535878(JP,A) 特許第5424401(JP,B2) 渡部優 外,モネンシン代替物質の探索:カシューナッツ殻油がルーメン発酵におよぼす影響,日本畜産学会大会講演要旨,2008年 3月27日,Vol.109th,p.18 の I27-15 鈴木亮 外,カシューナッツ殻油のルーメン内メタン低減およびプロピオン酸増強効果,日本畜産学会大会講演要旨,2008年 3月27日,Vol.109th,p.8 の VIII YS-05 2 JP2009066788 20090928 WO2010035833 20100401 10 20120709 六笠 紀子 本発明は、カシューナッツ殻油、加熱処理カシューナッツ殻油、アナカルド酸、カルダノール、またはアナカルド酸とカルダノールを含有する鼓脹症の治療剤に関する。 鼓脹症は牛やめん羊等の反芻動物で起こる疾病で、第一胃発酵で生じたガスが排出困難となることが原因の一つとして考えられている。鼓脹症に罹患した反芻動物は発酵ガスの貯留により、第一胃容積の異常な肥大や採食活動の低下、反芻行動の低下、呼吸困難などを呈し、重篤な場合は死に至る。さらに、鼓脹症には急性のものと慢性のものが知られている。急性鼓脹症の場合は症状の進行が著しく速く、呼吸困難により死に至ることが多い。一方で慢性鼓脹症の場合は、発酵ガスの発生が慢性化するため、その治療行為を何度も繰り返すことになる。そのため家畜の生産性の低下と治療行為にかかる労力の消耗を招く。これらの症状により、家畜の生産現場においても、多大な経済的損失を引き起こす主要な疾病の一つとして認識されている。 鼓脹症発生の要因は、現在も様々な研究機関により研究が進められているが、明確にはなっていない。経験的に得られた知見としては、唾液組成(ムチンの分泌不足)、飼料粒度、粗飼料割合、マメ科飼料給与量、易発酵性飼料(大麦などの穀類)の給与量、食塩の添加量などが、鼓脹症発生と関与していると考えられている。また、第一胃の常在菌でグラム陽性菌であるStreptococcus bovisが夾膜化し、細胞外に多糖類を蓄積して第一胃液の粘度を高め、泡沫により発酵ガスの排出を阻害することも、主要な原因と考えられている。しかしながら、栄養学的な飼料設計、個体差の大きさなどを踏まえて、これらの条件を調整するのは難しい場合がある。 したがって、鼓脹症発生の制御は困難で、かつその経済的損失は多大なものであり、効果的な治療法や治療剤のニーズは非常に高い。 従来の鼓脹症の主な治療として、発酵ガスのガス抜き、消泡剤の使用、消化管の蠕動運動亢進のための胃腸薬投与がおこなわれている。理想的には緊急性を有する対処療法(ガス抜き、消泡)と、根治治療法(第一胃液性の改善、Streptococcus bovisの殺菌)の両方が必要であるが、従来は単剤で両方を充足する技術・製品が一般化していなかった。物理的な対処療法(ガス抜き、消泡、反芻促進資材の利用)は一時的処置であり、根本原因の解決にはならないため、完治しないと考えられる。とくに、前述した慢性鼓脹症の場合は、発酵ガスが発生しやすく、貯留しやすい状態になっているため、これらの対処療法による効果は低い。さらにガス抜きは、外皮から注射針を挿入しガスを抜いたり、口腔や鼻腔から管を挿入してガスを引き抜いたりする作業のため、大きな労力がかかり煩雑であるとともに、動物にも大きなストレスがかかる。また、Streptococcus bovisの殺菌効果を有する抗生物質も存在するが、治療剤として有効な物は実用化されていない。 カシューナッツ殻油には、抗菌作用(非特許文献1)、コクシジウム症低減作用(特許文献1)が知られているが、反芻動物の鼓脹症治療効果に関しては全く知見がない。特開平8-231410号公報Muroi, H. et al. Bioorganic & Medicinal Chemistry 12,583-587 (2004) 本発明は、反芻動物の鼓脹症を治療することを課題とする。 本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、カシューナッツ殻油、加熱処理カシューナッツ殻油、アナカルド酸、カルダノール、またはアナカルド酸とカルダノールが、鼓脹症の治療に用いることができることを見出し、本発明を完成するに至った。 すなわち、本発明の要旨は、以下の通りである。(1)カシューナッツ殻油、加熱処理カシューナッツ殻油、アナカルド酸、カルダノール、またはアナカルド酸とカルダノールを含有することを特徴とする鼓脹症治療剤。(2)カシューナッツ殻油、加熱処理カシューナッツ殻油、アナカルド酸、カルダノール、またはアナカルド酸とカルダノールを含有することを特徴とする、鼓脹症治療用飼料用組成物。(3)カシューナッツ殻油、加熱処理カシューナッツ殻油、アナカルド酸、カルダノール、またはアナカルド酸とカルダノールを含有することを特徴とする、鼓脹症治療用飼料。(4)鼓脹症がStreptococcus bovisにより引き起こされる、(1)に記載の鼓脹症治療剤。(5)(1)または(4)に記載の鼓脹症治療剤を含有することを特徴とする、鼓脹症治療用飼料用組成物。(6)(5)に記載の鼓脹症治療用飼料用組成物を含有することを特徴とする、鼓脹症治療用飼料。(7)鼓脹症を発症した反芻動物にカシューナッツ殻油、加熱処理カシューナッツ殻油、アナカルド酸、カルダノール、またはアナカルド酸とカルダノールを投与することを特徴とする鼓脹症の治療方法。(8)カシューナッツ殻油、加熱処理カシューナッツ殻油、アナカルド酸、カルダノール、またはアナカルド酸とカルダノールを1〜1,000ml/頭/日 投与することを特徴とする(7)に記載の鼓脹症の治療方法。(9)鼓脹症がStreptococcus bovisにより引き起こされる、(7)または(8)に記載の鼓脹症の治療方法。(10)鼓脹症治療剤の製造のためのカシューナッツ殻油、加熱処理カシューナッツ殻油、アナカルド酸、カルダノール、またはアナカルド酸とカルダノールの使用。(11)鼓脹症治療用飼料用組成物の製造のためのカシューナッツ殻油、加熱処理カシューナッツ殻油、アナカルド酸、カルダノール、またはアナカルド酸とカルダノールの使用。(12)鼓脹症治療用飼料の製造のためのカシューナッツ殻油、加熱処理カシューナッツ殻油、アナカルド酸、カルダノール、またはアナカルド酸とカルダノールの使用。(13)鼓脹症がStreptococcus bovisにより引き起こされる、(10)〜(12)のいずれか1項に記載のカシューナッツ殻油、加熱処理カシューナッツ殻油、アナカルド酸、カルダノール、またはアナカルド酸とカルダノールの使用。 本発明の鼓脹症治療剤は、鼓脹症を発症している反芻動物に投与することにより鼓脹症を治療することができる。また、鼓脹症の再発を防ぐこともできる。すなわち、本発明の鼓脹症治療剤は、消泡効果およびS. bovisの殺菌・抑制効果の両方を有するものである。 本発明の反芻動物の鼓脹症治療剤は、カシューナッツ殻油、加熱処理カシューナッツ殻油、アナカルド酸、カルダノール、またはアナカルド酸とカルダノールを含有することを特徴とする。 本発明に用いるカシューナッツ殻油は、カシューナッツ ツリー(Anacardium occidentale L.)の実の殻に含まれる油状の液体である。カシューナッツ殻油は、その成分として、アナカルド酸、カルダノール、カルドールを含むものである。一般に、アナカルド酸は加熱処理することによりカルダノールに変換される。 カシューナッツの殻を圧搾することにより抽出された非加熱カシューナッツ殻油は、J.Agric.Food Chem. 2001, 49, 2548-2551に記載されるように、アナカルド酸を55〜80質量%、カルダノールを5〜20質量%、カルドールを5〜30質量%含むものである。 非加熱カシューナッツ殻油を130℃以上で加熱処理して得られる加熱処理カシューナッツ殻油は、非加熱カシューナッツ殻油の主成分のアナカルド酸の大部分が脱炭酸しカルダノールに変換され、アナカルド酸を0〜10質量%、カルダノールを55〜80質量%、カルドールを5〜30質量%含むものとなる。 本発明において使用されるカシューナッツ殻油は、カシューナッツの殻を圧搾することにより抽出した植物油として得ることができる。また、本発明において使用されるカシューナッツ殻油は、加熱または抽出により、例えば、カシューナッツ殻を乾留又は溶剤抽出して得ることもできる。さらに、本発明において使用されるカシューナッツ殻油は、特開平8-231410号公報に記載されている方法によって得ることもできる。 本発明において使用されるカシューナッツ殻油は、加熱せずに、カシューナッツの殻を粉砕・破砕して得られたものであってもよい。また、殻そのものであっても良い。 本発明において使用されるカシューナッツ殻油は、市販品を用いることもできる。 本発明のカシューナッツ殻油は、上記のようにして得られた非加熱カシューナッツ殻油を、70℃以上、好ましくは130℃以上に加熱することによって得た加熱カシューナッツ殻油であってもよい。 本発明のカシューナッツ殻油は、カシューナッツの殻から圧搾抽出(非加熱カシューナッツ殻油)し、これを130℃に加熱処理して得たものでもよい。 本発明の鼓脹症治療剤は、カシューナッツ殻油の代わりに、加熱処理カシューナッツ殻油、アナカルド酸、カルダノール、またはアナカルド酸とカルダノールを含んでいてもよい。 本発明において使用されるアナカルド酸としては、天然物アナカルド酸、合成アナカルド酸、それらの誘導体が挙げられる。また、市販のアナカルド酸を用いてもよい。アナカルド酸は、特開平8−231410号公報に記載されるように、カシューナッツの殻を有機溶剤で抽出処理して得られたカシューナッツ油を、例えば、シリカゲルカラムクロマトグラフィーを用いてn−ヘキサン、酢酸エチルおよび酢酸の混合溶媒の比率を変えて溶出することによって得ることができる(特開平3−240721号公報、特開平3−240716号公報など)。このようなアナカルド酸は、カシューナッツ殻油と同様の含有量で、鼓脹症治療剤、鼓脹症治療用飼料用組成物、鼓脹症治療用飼料に含めることができる。 本発明において使用されるカルダノールとしては、天然物カルダノール、合成カルダノール、それらの誘導体が挙げられる。また、本発明において使用されるカルダノールは、カシューナッツ殻油の主成分のアナカルド酸を脱炭酸することにより、得ることができる。 なお、加熱処理カシューナッツ殻油を用いる場合、加熱カシューナッツ殻油中のアナカルド酸とカルダノールとの質量比は、好ましくは、0:100〜20:80である。 本発明の鼓脹症治療剤におけるカシューナッツ殻油、加熱処理カシューナッツ殻油、アナカルド酸、カルダノール、またはアナカルド酸とカルダノールの含有量は、前記治療剤の全量基準で、効果やコストの面から、1質量%〜100質量%が好ましく、より好ましくは5質量%〜100質量%、さらに好ましくは10質量%〜100質量%である。1質量%以上含まれていれば鼓脹症を効率よく治療することができる。 本発明においては、カシューナッツ殻油の原液を直接経口投与することもできる。 本発明のカシューナッツ殻油の原液を直接投与する場合、カシューナッツ殻油の投与量は、好ましくは、1〜1,000ml/頭/日、より好ましくは5〜500ml/頭/日、最も好ましくは10〜300ml/頭/日である。 なお、加熱処理カシューナッツ殻油、アナカルド酸、カルダノール、またはアナカルド酸とカルダノールを投与する場合にも、同様の投与量とすればよい。 本発明の鼓脹症治療剤は、Streptococcus bovisによって引き起こされる鼓脹症を治療するために用いることができる。 本発明における鼓脹症治療剤は、マメ科牧草や濃厚飼料の過剰投与によって引き起こされる鼓脹症にも用いることができる。 本発明の鼓脹症治療剤は、カシューナッツ殻油、加熱処理カシューナッツ殻油、アナカルド酸、カルダノール、またはアナカルド酸とカルダノールの他に、例えば乳糖、白糖、D−マンニトール、デンプン、コーンスターチ、結晶セルロース、シリカゲル、軽質無水ケイ酸等の飼料または医薬品または食品に使用することができる賦形剤であればどのようなものを含んでいてもよい。 また、本発明の鼓脹症治療剤は、カシューナッツ殻油、加熱処理カシューナッツ殻油、アナカルド酸、カルダノール、またはアナカルド酸とカルダノールの他に、反芻動物の成長促進に有効な成分、栄養補助成分、保存安定性を高める成分、被覆剤成分等の任意成分をさらに含むものであってもよい。このような任意成分としては、飼料の原料や飼料添加物、食品原料や食品添加物、医薬品原材料等が挙げられる。例えば、エンテロコッカス属細菌、バチルス属細菌、ビフィズス菌等の生菌剤;アミラーゼ、リパーゼ等の酵素;L−アスコルビン酸、塩化コリン、イノシトール、葉酸等のビタミン;塩化カリウム、クエン酸鉄、酸化マグネシウム、リン酸塩類等のミネラル、DL−アラニン、DL−メチオニン、L−リジン等のアミノ酸;フマル酸、酪酸、乳酸、酢酸等の有機酸及びそれらの塩;エトキシキン、ジブチルヒドロキシトルエン、ブチルヒドロキシアニソール、フェルラ酸、ビタミンC、ビタミンE等の抗酸化剤;プロピオン酸カルシウム等の防カビ剤;カルボキシルメチルセルロース(CMC)、カゼインナトリウム、ポリアクリル酸ナトリウム等の粘結剤;レシチン、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル等の乳化剤;アスタキサンチン、カンタキサンチン等の色素;各種エステル、エーテル、ケトン類等の着香料、が挙げられる。 本発明の鼓脹症治療剤の剤形は特に制限されず、例えば、粉剤、液剤、固体、錠剤、カプセル剤、乳剤、ペレット剤、被覆剤など任意の形態が挙げられるが、粉剤、液剤、カプセル剤、ペレット剤、被覆剤が好ましい。 粉剤としては、カシューナッツ殻油、加熱処理カシューナッツ殻油、アナカルド酸、カルダノール、またはアナカルド酸とカルダノールに上記賦形剤を添加し、粉末化することもできる。 液剤としては、カシューナッツ殻油、加熱処理カシューナッツ殻油、アナカルド酸、カルダノール、またはアナカルド酸とカルダノールをそのまま用いてもよいし、あるいは上記賦形剤または任意成分を添加して用いることもできる。 カプセル剤としては、カシューナッツ殻油、加熱処理カシューナッツ殻油、アナカルド酸、カルダノール、またはアナカルド酸とカルダノールをそのままカプセルに詰めてもよいし、あるいは上記賦形剤または任意成分を添加してもよい。 ペレット剤としては、カシューナッツ殻油、加熱処理カシューナッツ殻油、アナカルド酸、カルダノール、またはアナカルド酸とカルダノールに上記賦形剤を添加し、造粒し、ペレット化することもできる。 被覆剤としては、カシューナッツ殻油、加熱処理カシューナッツ殻油、アナカルド酸、カルダノール、またはアナカルド酸とカルダノールに上記賦形剤を添加・造粒し、コーティング剤等で被覆することもできる。 上述のように、本発明の鼓脹症治療剤は、カシューナッツ殻油、加熱処理カシューナッツ殻油、アナカルド酸、カルダノール、またはアナカルド酸とカルダノールおよび必要に応じて賦形剤または任意成分を混合し、製剤化することにより製造することができる。なお、剤の形態によっては、前記したカシューナッツ殻の粉砕・破砕物、或いは何らの処理もしないでカシューナッツ殻をそのまま他の任意成分と混合させて本発明の鼓脹症治療剤とすることができる。さらに、他の任意成分と混合させず、粉砕・破砕物そのものまたはカシューナッツ殻そのものを鼓脹症治療剤とすることができ、前記鼓脹症治療剤そのものを飼料用組成物、または飼料とすることもできる。 本発明の飼料用組成物は、カシューナッツ殻油、加熱処理カシューナッツ殻油、アナカルド酸、カルダノール、またはアナカルド酸とカルダノールを含有することを特徴とする。本発明の飼料用組成物におけるカシューナッツ殻油、加熱処理カシューナッツ殻油、アナカルド酸、カルダノール、またはアナカルド酸とカルダノールの含有量は、飼料用組成物の乾物質量当たり、効果やコストの観点から、0.0005〜100質量%が好ましく、より好ましくは0.05〜90質量%、さらに好ましくは1〜80質量%である。 本発明の鼓脹症治療剤を飼料用組成物として用いる場合は、動物用サプリメント(以下、サプリメントという。)に用いられる他のサプリメント成分と混合してサプリメントとすることができる。サプリメントの種類や、カシューナッツ殻油以外の成分は、特に制限されない。 本発明の飼料はカシューナッツ殻油、加熱処理カシューナッツ殻油、アナカルド酸、カルダノール、またはアナカルド酸とカルダノールを含有することを特徴とする。 なお、本発明の飼料におけるカシューナッツ殻油、加熱処理カシューナッツ殻油、アナカルド酸、カルダノール、またはアナカルド酸とカルダノールの含有量は、飼料の乾物質量当たり、効果やコストの面から、0.5〜500,000質量ppmが好ましく、より好ましくは5〜300,000質量ppm、さらに好ましくは50〜100,000質量ppmである。 本発明の飼料は、カシューナッツ殻油、加熱処理カシューナッツ殻油、アナカルド酸、カルダノール、またはアナカルド酸とカルダノールをそのまままたはカシューナッツ殻油、加熱処理カシューナッツ殻油、アナカルド酸、カルダノール、またはアナカルド酸とカルダノールを含む飼料用組成物を飼料成分に添加し、混合して製造することができる。この際、粉末状、固形状の飼料用組成物を用いる場合は、混合を容易にするために飼料用組成物を液状又はゲル状の形態にしてもよい。この場合は、水、植物油、液体動物油、鉱物油、合成油、水溶性高分子化合物等の流動性液体を液体担体として用いることができる。また、飼料中におけるカシューナッツ殻油、加熱処理カシューナッツ殻油、アナカルド酸、カルダノール、またはアナカルド酸とカルダノールの均一性を保つために、アルギン酸、アルギン酸ナトリウム、キサンタンガム、カゼインナトリウム、アラビアゴム、グアーガム、タマリンド種子多糖類などの水溶性多糖類を配合することも好ましい。 本発明の飼料を摂取させる動物の種類は、反芻動物である。例えば、本発明の飼料は、牛、ヤギ、羊などの反芻動物の飼育に好適である。摂取させる飼料の量は、動物の種類、体重、年齢、性別、健康状態、飼料の成分などにより適宜調節することができ、このとき飼料に含まれるカシューナッツナッツ殻油、加熱処理カシューナッツ殻油、アナカルド酸、カルダノール、またはアナカルド酸とカルダノールが好ましくは1〜1,000ml/頭/日、より好ましくは5〜500ml/頭/日、さらに好ましくは10〜300ml/頭/日である。 飼料を摂取させる方法及び飼育する方法は、動物の種類に応じて、通常用いられる方法をとることができる。 製造例 カシュー・トレーディング(株)よりカシューナッツの殻500kgを入手し、圧搾する事によりカシューナッツ殻油158kgを製造した。また、130℃で加熱処理する事によりアナカルド酸をカルダノールに変換した加熱処理カシューナッツ殻油を、カシュー・トレーディング(株)より入手した。 カシューナッツ殻油の組成は以下の方法で測定した。すなわち、HPLC(Waters600、日本ウォーターズ(株))、検出機(Waters490E、日本ウォーターズ(株))、プリンタ(クロマトパックC−R6A、島津製作所)、カラム(SUPELCOSIL LC18、SUPELCO社)を用いた。アセトニトリル:水:酢酸が80:20:1(容量比)の溶媒を用い、流速は2ml/分とした。280nmの吸光度で検出した。 非加熱カシューナッツ殻油には、アナカルド酸が61.8質量%、カルダノールが8.2質量%、カルドールが19.9質量%、加熱処理カシューナッツ殻油には、アナカルド酸が0.0質量%、カルダノールが71.4質量%、カルドールが14.4質量%含まれていた。 実施例1 慢性ガスの発生を繰り返し、10回程度、消泡剤による処置を受けていたが症状の改善しなかった雄ホルスタインを試験に供試した。供試牛は6ヶ月齢、体重は約300kgであった。試験は投与開始日を0日目とした。カシューナッツ殻油は内容量60mlの針の付いていない注射器(テルモ(株)社製品)に50ml詰めた。投与は強制経口投与で、投与する液量は注射器の目盛で調節した。その後、表1のスケジュールで投与を行った。 カシューナッツ殻油の投与開始後1日目でガス発生による鼓脹が改善され、3日目には症状が消失した。4日目までの投与により治癒したため、カシューナッツ殻油の給与を停止した。その後3ヶ月経過後も再発は認められなかった。この結果から、カシューナッツ殻油は、鼓脹症に対する治療効果が有ると考えられる。 実施例2 試験開始の5日前に穿胃処置を行いガス抜きする事により一旦ガス発生は治まったが再度ガス発生が見られた雌ホルスタインを試験に供試した。供試牛は2ヶ月齢、体重は約100kgであった。試験は投与開始日を0日目とした。実施例1と同様の方法でカシューナッツ殻油を強制経口投与した。表2に記載のとおり、有効投与量を確認する目的で、実施例1とは異なり低い投与量から開始し、投与量を徐々に増加させた。 試験開始日では顕著な鼓脹の改善は見られなかったため、1日目に投与量を20mlに増やしたところガス発生による鼓脹の悪化が抑制された。5日目に1日40ml投与にまで増やすことによりガス発生はおさまり6日目には症状が消失した。7日目までの投与により治癒したため、カシューナッツ殻油の給与を停止した。その後3ヶ月経過後も再発は認められなかった。この結果から、カシューナッツ殻油は、鼓脹症に対する治療効果が有ると考えられる。 実施例3 慢性鼓脹症と診断された雄ホルスタインを試験に供試した。供試牛は5ヶ月齢、体重は230kgであった。試験は投与開始日を0日目とした。加熱処理カシューナッツ殻油は内容量60mlの針の付いていない注射器(テルモ(株)社製品)に50ml詰めた。投与は強制経口投与で、投与する液量は注射器の目盛で調節した。その後、表3のスケジュールで投与を行った。 加熱処理カシューナッツ殻油の経口投与により、慢性的にガス発生を繰り返していた当該供試牛の鼓脹症指数は即効的に顕著な低減を示すことが確認された。本発明の治療剤には、鼓脹症発症牛に対する即効的治療剤として非常に期待できると考えられる。 鼓脹症を発症している反芻動物にカシューナッツ殻油を投与することにより、鼓脹症を治療することができる。また、急性鼓脹症では死亡に至る場合もあるが、本発明の鼓脹症治療剤は、急性鼓脹症の治療も可能である。さらに、慢性鼓脹症では治療に経費がかかり、さらに生育不良のため良質な肉が得られず高く売ることができないが、本発明の鼓脹症治療剤により、一旦症状が改善すると再発しないため、経費削減が可能である。カシューナッツ殻油または加熱処理カシューナッツ殻油を10〜100ml/頭/日の量で鼓脹症を発症した牛に投与することを特徴とする、牛の鼓脹症治療方法。鼓脹症がStreptococcus bovisにより引き起こされる、請求項1に記載の牛の鼓脹症治療方法。