タイトル: | 特許公報(B2)_遺伝子発現安定化エレメント |
出願番号: | 2010507559 |
年次: | 2010 |
IPC分類: | C12N 15/09,C12N 1/15,C12N 1/19,C12N 1/21,C12N 5/10,C12P 21/02,C12P 21/08 |
山▲崎▼ 友実 増田 兼治 西井 重明 川上 文清 大政 健史 JP 4568378 特許公報(B2) 20100813 2010507559 20090520 遺伝子発現安定化エレメント 東洋紡績株式会社 000003160 国立大学法人大阪大学 504176911 風早 信昭 100103816 浅野 典子 100120927 山▲崎▼ 友実 増田 兼治 西井 重明 川上 文清 大政 健史 JP 2008221222 20080829 20101027 C12N 15/09 20060101AFI20101007BHJP C12N 1/15 20060101ALI20101007BHJP C12N 1/19 20060101ALI20101007BHJP C12N 1/21 20060101ALI20101007BHJP C12N 5/10 20060101ALI20101007BHJP C12P 21/02 20060101ALI20101007BHJP C12P 21/08 20060101ALI20101007BHJP JPC12N15/00 AC12N1/15C12N1/19C12N1/21C12N5/00 101C12P21/02 CC12P21/08 C12N 15/09-15/90 C12P 21/00-21/08 GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq PubMed JSTPlus(JDreamII) CA/BIOSIS/MEDLINE/WPIDS(STN) 特表2000−503205(JP,A) 特表2002−526071(JP,A) 日本生物工学会誌,2008年 8月25日,Vol.86, No.8,pp.393-395 Biotechnol. Prog.,2000年,Vol.16, No.5,pp.710-715 第58回日本生物工学会大会講演要旨集,2006年 8月 3日,p.I93 11 JP2009002228 20090520 WO2010023787 20100304 21 20100219 西村 亜希子 本発明は、遺伝子組換えによって外来遺伝子が導入された哺乳類細胞において、組換えタンパク質を効率良く、安定して生産するために使用することができる遺伝子発現安定化エレメントに関する。本発明の遺伝子発現安定化エレメントは、遺伝子工学的手法により、哺乳類細胞において医薬品などの有用タンパク質を生産するために有用である。 組換えタンパク質を生産する発現システムの開発は、研究または治療に供されるタンパク質の供給源を提供するうえで重要である。発現システムとしては、大腸菌などの原核生物、ならびに酵母(Saccharomyces,PichiaおよびKluyveromyces種)および哺乳類細胞を含む真核細胞の両者が用いられている。これらの中で、特に哺乳類細胞における発現システムが治療用タンパク質の製造には好ましい。なぜなら、ヒトをはじめとする哺乳動物において起こるタンパク質の翻訳後修飾は、時にその生物活性に深く寄与するため、タンパク質の投与対象と類似した翻訳後修飾が可能な哺乳類細胞発現システムを利用した方が、治療用タンパク質の有効性を増強しうるからである。 哺乳類細胞発現システムとしては、チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO)が広く利用される。CHO細胞を用いて組換えタンパク質を高発現するために様々なアプローチが行われてきた。古典的なアプローチとしては、transgene amplificationと称される、目的の組換えタンパク質を発現する導入遺伝子のコピー数を増大させた高発現クローンを選択する方法が挙げられる。この方法によれば、dihydrofolate reductaseのような選択遺伝子と組換えタンパク質を発現する遺伝子とを、選択条件下では生育に選択遺伝子の発現を必要とする変異型細胞に同時導入し、次第に淘汰圧を上げることによって高発現クローンが取得される(非特許文献1,2)。さらに近年のアプローチとしては、CHO細胞の核酸配列の中から内在性プロモーターや好ましいインテグレーション部位の核酸配列などを単離し、ベクターに導入する方法が挙げられる。内在性プロモーターとしては、Chinese hamster EF−1alpha(CHEF1)が利用されている(非特許文献3)。一方、インテグレーション部位を使用する方法では、高い転写活性のある染色体上の稀な部位(ホットスポット)を同定し、この部位に導入遺伝子を導入する(特許文献1)。この他にも、高発現細胞の選択やスクリーニング方法の改良、代謝工学的アプローチも行われている。これらのアプローチは、ある程度の高発現を可能にするが、その一方で、高発現株を取得するには膨大な時間を必要としたり、製造フェーズで組換えタンパク質の安定した合成を維持できないケースがある。 組換えタンパク質の発現は、組換えタンパク質をコードする遺伝子が宿主細胞ゲノム内のどの部位に導入されるかによって大きく変動するが、導入部位の制御は通常、不可能である。従って、遺伝子導入しても大半の細胞は組換えタンパク質を発現しなかったり、発現量が低いため、スクリーニングに膨大な労力を要する。これに加え、スクリーニング時には十分な発現をしていた細胞でも培養を継続していくうちに次第に発現が低下してしまうこともある。このような位置効果や多大なスクリーニングの必要性を克服するため、導入遺伝子への隣接する染色体や調節エレメントの影響を緩和する染色体エレメント(シス作用性DNAエレメント)が組換えタンパク質の製造に利用されつつある。このようなエレメントの1つがインスレーターと呼ばれる配列で、ニワトリのβ−グロビンLCRの1.2kb長のDNaseI Hypersensitive部位(cHS4)などが良く機能解析され、組換えタンパク質の発現に利用されているが(非特許文献4)、CHO−K1細胞におけるタンパク質発現の増加はそれほど大きなものではないとされている(非特許文献5)。WO00/17337号公報特開2001−37478号公報Kaufman R,Sharp P.(1982)J Mol Biol 159:601−621Schimke R,Brown P,Kaufman R.(1982) Natl Cancer Inst Monogr 60:79−86Running Deer J,Allison DS(2004)Biotechnol Prog 20:880−889Pikaart MJ,Recillas−Targa F,Felsenfeld G.(1998)Genes Dev 12:2852−62Izumi M,Gilbert DM.(1999)J Cell Biochem 76:280−289Blasco MA(2007)Nat Rev Genet 8:299−309Gonzalo S,Jaco I,Fraga MF,Chen T,Li E,Esteller M,Blasco MA(2006)Nat Cell Biol 8:416−424Perrod S,Gasser SM(2003)Cell Mol Life Sci 60:2303−2318Wakimoto BT(1998)Cell 93:321−324McBratney S,Chen CY,Sarnow P.(1993)Current Opinion in Cell Biology 5:961−965Kaufman RJ.(1991)Nucleic Acids Res.19:4485−4490Bao L,Zhou M,Cui Y(2008)Nucleic Acids Research,36,D83−D87 本発明は、かかる従来技術の現状に鑑み創案されたものであり、その目的は、哺乳類細胞、特にCHO細胞において組換えタンパク質の遺伝子発現を安定化し発現効率を増大させることができるエレメントを提供することにある。 本発明者らは、上記課題を解決するため、導入された外来性遺伝子が高度に遺伝子増幅されて高度に遺伝子発現するCHO細胞クローンにおいて外来遺伝子導入部位の近傍の配列を詳しく分析した結果、遺伝子発現の安定化及び発現効率の増大に寄与する特定の領域を同定することに成功し、本発明を完成させるに到った。 すなわち、本発明によれば、以下の(a)〜(g)のいずれか一つ又はそれらの任意の組合せからなることを特徴とする遺伝子発現安定化エレメントが提供される: (a)配列番号1で示す配列からなるDNA; (b)配列番号1で示す配列の部分配列からなるDNAであって、配列番号1で示す配列のうち41820番目から41839番目までの塩基で示す領域の配列を少なくとも含むDNA; (c)配列番号1で示す配列の部分配列からなるDNAであって、配列番号1で示す配列のうち41821番目から41840番目までの塩基で示す領域の配列を少なくとも含むDNA; (d)配列番号1で示す配列の部分配列からなるDNAであって、配列番号1で示す配列のうち45182番目から45200番目までの塩基で示す領域の配列を少なくとも含むDNA; (e)配列番号1で示す配列の部分配列からなるDNAであって、配列番号1で示す配列のうち91094番目から91113番目までの塩基で示す領域の配列を少なくとも含むDNA; (f)配列番号1で示す配列の部分配列からなるDNAであって、宿主細胞中で外来遺伝子発現カセットと近接するように配置された際に、外来遺伝子発現カセットに含まれる外来遺伝子からの目的組換えタンパク質の発現を増大または安定化させることができるDNA;及び (g)前記(a)〜(f)のいずれかのDNAの相補体。 本発明の遺伝子発現安定化エレメントの好ましい態様によれば、(b)又は(c)のDNAは、配列番号1で示す配列のうち41601番目から46746番目、好ましくは41601番目から42700番目までの塩基で示す領域、又はその一部からなる。 また、本発明によれば、かかる遺伝子発現安定化エレメント、及びそれに近接して配置された外来遺伝子発現カセットを含むことを特徴とする外来遺伝子発現ベクター、並びにかかる遺伝子発現安定化エレメントと外来遺伝子発現カセットとがゲノム中に相互に近接するように配置されていることを特徴とする形質転換された宿主細胞も提供される。 本発明の遺伝子発現安定化エレメントは、近接して配置された外来遺伝子への隣接染色体や調節エレメントの影響を低減させて外来遺伝子の遺伝子発現を安定化し発現効率を増大させることができるので、哺乳類細胞発現システム、特にCHO細胞発現システムにおける高発現細胞株の樹立作業を低減短縮することができる。配列番号1の配列中のCTCFの結合配列モチーフの予測部位を示す図である。核酸配列断片の遺伝子発現安定化効果の確認に用いた基本コンストラクトpBS−CMV−SNAP26mの構築を示す図である。配列番号1の配列中のCTCFの結合配列モチーフ及び被験配列の核酸断片の位置を示す図である。各核酸配列の断片を含むSNAP26m発現コンストラクトを安定導入されたCHO細胞をFACS解析して得られたSNAP26m発現強度と細胞数の分布を示すグラフである。各核酸配列の断片を含むSNAP26m発現コンストラクトを安定導入されたCHO細胞のFACS解析の結果、10以上のSNAP26mの蛍光シグナルを呈した細胞の割合(%)をプロットしたグラフである。CHO5のデリーションコンストラクト構築、及び配列番号1の配列中の被験配列の位置を示す図である。CHO5、及びCHO5デリーションコンストラクトを安定導入して得られたCHO細胞のFACS解析の結果、10以上のSNAP26mの蛍光シグナルを呈した細胞の割合(%)をプロットしたグラフである。CHO5Δ3の3’デリーションコンストラクト構築のためのInverse PCR法に用いたプライマーの位置、及びデリーションによって得られた被験挿入配列を示す図である。CHO5Δ3、及びCHO5Δ3の3’デリーションコンストラクトを安定導入して得られたCHO細胞のFACS解析の結果、10以上のSNAP26mの蛍光シグナルを呈した細胞の割合(%)をプロットしたグラフである。KOD3G8抗体生産系での核酸配列断片の遺伝子発現安定化効果の確認に用いた基本コンストラクトpEF1α−KOD3G8HC−RE2の構築を示す図である。KOD3G8抗体生産系での核酸配列断片の遺伝子発現安定化効果の確認に用いた基本コンストラクトpEF1α−KOD3G8LC−Hyg−RE2の構築を示す図である。KOD3G8抗体生産系での核酸配列断片の遺伝子発現安定化効果の確認に用いた、各被験配列を挿入済のH鎖あるいはL鎖発現ベクターを示す図である。被験配列を含まないもの(ctrl)、被験配列CHO5Δ3を発現カセットの上流に挿入したもの(2.6k)、被験配列CHO5Δ3−3を発現カセットの上流に挿入したもの(1.1k)、被験配列CHO5Δ3−3を発現カセットの上流および下流の両方に挿入したもの(1.1k/1.1k)について、ポリクローンの培養上清を用いてELISAを行い算出した、抗体生産量をプロットしたグラフである。96ウェルプレートの培養上清を用いてELISAを行い算出した、各クローンの抗体生産量をプロットしたグラフである。被験配列を含まないもの(ctrl)と被験配列CHO5Δ3を発現カセットの上流に挿入したもの(2.6k)、および被験配列を含まないもの(ctrl)と被験配列CHO5Δ3−3を発現カセットの上流および下流の両方に挿入したもの(1.1k/1.1k)をそれぞれ同一グラフ上にプロットしている。6ウェルプレートの培養上清を用いてELISAを行い算出した、各クローンの抗体生産量をプロットしたグラフである。被験配列を含まないもの(ctrl)と被験配列CHO5Δ3を発現カセットの上流に挿入したもの(2.6k)、および被験配列を含まないもの(ctrl)と被験配列CHO5Δ3−3を発現カセットの上流および下流の両方に挿入したもの(1.1k/1.1k)をそれぞれ同一グラフ上にプロットしている。 以下に本発明を詳細に説明する。 本発明の遺伝子発現安定化エレメントは、特許文献2に記載のCHO細胞DR1000L−4N株(CHO細胞−4N株)から本発明者らによって同定された核酸分子である。当該株は、外来遺伝子としてヒト顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(hGM−CSF)遺伝子を、DHFR遺伝子を持つ発現ベクターに導入し、このベクターを、DHFR遺伝子を欠損したCHO細胞DG44株に導入し、導入株をIMDM培地(核酸含有)に10%牛胎児血清を添加した培地で培養して形質転換体を得、この形質転換体を、次いでIMDM培地(核酸不含)、10%透析牛胎児血清を添加した培地で選択し、さらに50nM、100nMのメトトレキセート(MTX)を含み、核酸を含まないIMDM培地を用いて10から100倍程度に増加するまで培養し、MTX濃度を上昇させることにより得られたテロメアタイプのクローン細胞である。 真核細胞のゲノムは、真正染色質と異質染色質の2つのクラスの染色質に分けられる。セントロメアとテロメアの配列は、構成的な異質染色質の主要な部分である。特に、テロメアは、TTAGGGの繰り返し配列とサブテロメア領域からなり、際立った異質染色質の立体構造をとる、遺伝子の乏しい領域である(非特許文献6,7)。テロメアは、ゲノムの安定性に対するその寄与や保護的な役割に加え、テロメア位置効果として知られる現象によって、近くに導入された遺伝子の発現にも影響を与える(非特許文献8,9)。 ところが、DR1000L−4N株は、テロメアタイプのクローン細胞であるにもかかわらず、導入された外来遺伝子は導入部位付近の異質染色体からの不活性化の影響を受けることなく、長期間の培養において、安定したhGM−CSFの高い産生を維持した。これは、外来遺伝子の導入された部位の近傍に、不活性化の進行を強力に遮断するような境界エレメントが存在し、遺伝子発現を安定化していることを示唆する。 そこで、本発明者らは、DR1000L−4N株において外来遺伝子導入部位の近傍の配列を分析した結果、配列表の配列番号1で示す約91kbpの配列からなるDNAが遺伝子発現の安定化に関与していることを見出した。そして、この配列をさらに詳細に分析したところ、この配列の中でも、(i)41820番目から41839番目までの塩基で示す領域、(ii)41821番目から41840番目までの塩基で示す領域、(iii)45182番目から45200番目までの塩基で示す領域、及び(iv)91094番目から91113番目までの塩基で示す領域の4つの領域が、インスレーター結合タンパク質CTCFの結合配列モチーフに相当することを見出した。従って、これらの4つの領域の少なくともいずれかを含む、これらの領域の近傍が特に遺伝子発現の安定化に関与していると考えられた。 これらの知見から、本発明者らは、以下の5種類のDNAが遺伝子発現安定化エレメントとして使用できると考えた。 (a)配列番号1で示す配列からなるDNA; (b)配列番号1で示す配列の部分配列からなるDNAであって、配列番号1で示す配列のうち41820番目から41839番目までの塩基で示す領域の配列を少なくとも含むDNA; (c)配列番号1で示す配列の部分配列からなるDNAであって、配列番号1で示す配列のうち41821番目から41840番目までの塩基で示す領域の配列を少なくとも含むDNA; (d)配列番号1で示す配列の部分配列からなるDNAであって、配列番号1で示す配列のうち45182番目から45200番目までの塩基で示す領域の配列を少なくとも含むDNA;及び (e)配列番号1で示す配列の部分配列からなるDNAであって、配列番号1で示す配列のうち91094番目から91113番目までの塩基で示す領域の配列を少なくとも含むDNA。 これらのエレメントは、CHOゲノムから単離同定されたものであるが、これらのエレメントと相同なエレメントは、他の哺乳類細胞ゲノムにも存在することが予想される。従って、(f)配列番号1で示す配列の部分配列からなるDNAであって、宿主細胞中で外来遺伝子発現カセットと近接するように配置された際に、外来遺伝子発現カセットに含まれる外来遺伝子からの目的組換えタンパク質の発現を増大または安定化させることができるDNAも、遺伝子発現安定化エレメントとして使用することができる。このような相同エレメントは、この技術分野の周知の技術、例えば、種間ハイブリダイゼーションまたはPCRなどによって容易に単離同定されることができる。 また、(g)前記(a)〜(f)のいずれかのDNAの相補体も当然、遺伝子発現安定化エレメントとして使用することができる。本発明の遺伝子発現安定化エレメントは、これらの(a)〜(g)のいずれか一つ又はそれらの任意の組合せからなる。 本発明の遺伝子発現安定化エレメントの好ましい態様では、前記(b)または(c)のDNAは、配列番号1で示す配列のうち41601番目から46746番目までの塩基で示す領域、又はその一部からなる。本発明の遺伝子発現安定化エレメントのさらに好ましい態様では、前記(b)または(c)のDNAは、配列番号1で示す配列のうち41601番目から42700番目までの塩基で示す領域、又はその一部からなる。 目的遺伝子を宿主細胞ゲノムへ導入するための遺伝子構築物としては、プラスミドベクターが一般に用いられる。プラスミドベクターの長さは最大10ないし20kbpであることから、遺伝子発現安定化エレメントの鎖長は出来るだけ短い方が好ましく、好ましい長さとしては5kbp以下、より好ましくは1kb程度である。 本発明の遺伝子発現安定化エレメントがその発現安定化効果を奏するためには、エレメントが宿主細胞ゲノム中で外来遺伝子発現カセットの導入部位に近接する位置に配置されることが必要である。本発明において、用語「近接する」とは、特に制限されるものではないが、好ましくは本発明の遺伝子発現安定化エレメントと外来遺伝子発現カセットとの間の距離が5000bp以下、さらに好ましくは500bp以下であることを意味する。 このような近接配置は、本発明のエレメントを含む核酸配列断片と、外来遺伝子の発現カセットを含む核酸配列断片との混合物をエレクトロポレーションやトランスフェクションなどによって宿主細胞内へ導入し、外来遺伝子の発現量の高い宿主細胞クローンを選択することによって実現することもできるが、近接配置を確実に達成させるためには、本発明の遺伝子発現安定化エレメント、及びそれに近接して配置された外来遺伝子発現カセットを含む外来遺伝子発現ベクターをあらかじめ作成しておき、この発現ベクターで宿主細胞を形質転換させることが望ましい。 本発明において、外来遺伝子の発現カセットとは、例えば外来遺伝子を哺乳類細胞で発現可能なエンハンサー及びプロモーターの下流に配置し、転写された外来遺伝子のRNAが安定化するようにポリアデニル化シグナルを外来遺伝子の下流に配置したものである。かかる発現カセットは、イントロンなどの調節エレメントをさらに含んでもよい。哺乳類細胞で発現可能なエンハンサー及びプロモーターとしては、特に限定されるものではないが、ヒトやマウスのサイトメガロウイルス、サルウイルス40(SV40)などのウイルスに由来するものや、β−アクチンやユビキチン、GAPDH、EF−1αなどの非ウイルス性の細胞遺伝子に由来するエンハンサー/プロモーター、及びそのハイブリッドが挙げられる。外来遺伝子発現カセットには、初めから外来遺伝子を配置しておく必要は必ずしもなく、外来遺伝子の代わりに複数の制限酵素認識配列からなるマルチクローニングサイトを配置しておき、そこに様々な外来遺伝子のcDNAやコーディング領域を後で導入してもよい。 本発明のベクターにおいては、外来遺伝子発現カセットの上流及び下流の両方に、外来遺伝子発現カセットを挟むように、本発明の遺伝子発現安定化エレメントが配置されていることがさらに好ましい。また、本発明のベクターは、複数の外来遺伝子を含むことが好ましく、これらの複数の外来遺伝子は、抗体の重鎖及び/又は軽鎖ポリペプチドをコードすることが好ましい。 本発明のベクターとしては、外来遺伝子が導入された細胞を選択するため、薬剤耐性遺伝子を発現できるものがさらに好ましい。薬剤耐性遺伝子としては、deaminaseをコードするBacillus cereus(bsr)由来のブラストサイジン耐性遺伝子、aminoglycoside 3’−phosphotransferaseをコードするTn5由来のネオマイシン耐性遺伝子、大腸菌由来hphをコードするハイグロマイシン耐性遺伝子、puromycin N−acethyl transferase(PAC)をコードするピューロマイシン耐性遺伝子などが挙げられる。さらに、dihydrofolate reductase(DHFR)遺伝子、glutamine synthetase(GS)遺伝子などの選択マーカー遺伝子を用いてもよい。 本発明のベクターでは、前記薬剤耐性遺伝子を含む、2つ以上の外来タンパク質を発現させるために“プロモーター−外来遺伝子−ポリアデニル化シグナル”からなる発現カセットを複数含んでもよい。また、“プロモーター−外来遺伝子1−−外来遺伝子2−ポリアデニル化シグナル”のように同じプロモーターの転写調節下に外来遺伝子1,2を配置し、外来遺伝子1,2の間に内在性リボソームエントリー部位(Internal ribosome entry sites、IRES)を導入し、発現カセット中の第2の遺伝子生成物の翻訳を増強する方法も有用である(非特許文献10,11)。 本発明の遺伝子発現安定化エレメントが導入される細胞としては、組換えタンパク質の産生に一般的に用いられるチャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO)の他、ベビーハムスターキドニー細胞(BHK)、ヒト繊維肉腫細胞(HT1080)などの哺乳類由来の細胞が例示されるが、これに限定されるものではなく、ヒト、マウス、ラット、ハムスター、モルモット、ウサギ、イヌ、ウシ、ウマ、ヒツジ、サル、ブタなどの動物由来の細胞なども導入対象とすることができる。 以下、実施例を例示することによって、本発明の効果をより一層明確なものとする。実施例1 核酸配列の決定 CHO細胞DR1000L−4N株(CHO細胞−4N株)より作成されたBACライブラリーのうち、hGM−CSF発現カセットを含むクローンCg0031N14を単離した。このクローンCg0031N14に由来するBACより作成したショットガンクローンの5’,3’ワンパスシーケンスを実施し、Phred/Phrap/Consedによる配列情報のアッセンブルを行い、hGM−CSF発現カセットが導入されたCHO細胞の近傍のゲノム配列約91kbpの配列を決定した。その配列を、配列表の配列番号1に示す。実施例2 核酸配列の解析 前記決定された核酸配列中にインスレーター配列が存在するかどうかを、インスレーター結合タンパク質CTCFの結合配列モチーフを検索することによって調査した。解析ツールとしてIn silico CTCFBS prediction tool(http://insulatordb.utmem.edu/)(非特許文献12)を使用した。前記ツールで抽出されたモチーフ配列を表1及び図1に示す。実施例3 導入遺伝子発現の安定化効果の確認 図2に示すスキームに従って、プラスミドpBS−CMV−SNAP26mを構築した。即ち、まずEmerald LucベクターpELuc−test(東洋紡績)の制限酵素ClaI、EcoRIサイトにCMVプロモーター(配列番号6)を導入されたpELuc−CMVプラスミドからEcoRI、NotIでEmerald Luc(ELuc)遺伝子を切出した。一方、SNAPm発現プラスミドpSNAPm(Covalys社)からSNAP26m遺伝子を配列番号7,8のプライマーを用いてPCRで増幅し、pELuc−CMVプラスミドのEcoRI、NotIサイトに導入してpSNAP26m−CMVを構築した。続いて、pSNAP26m−CMVより、CMVプロモーター/SNAP26m/SV40 polyAを配列番号9,10のプライマーを用いてPCRで増幅し、部分消化によって、プラスミドpBluescript II SK(−)(ストラタジーン社)のBamHI、SacIサイトへ導入し、プラスミドpBS−CMV−SNAP26mを構築した。 次に、実施例1で作成したショットガンライブラリーのクローンうち、41820位、45182位のCTCFの結合配列モチーフの付近のCHOゲノム配列を含むクローンを抽出し、CHOゲノムに由来する導入配列(図3参照)をPCRで増幅し、pBS−CMV−SNAP26mのKpnI、XhoIまたはXhoI、ClaIサイトに導入した。ショットガンライブラリークローンと、当該導入配列が組み込まれたSNAP26m発現コンストラクトの対応関係を表2に示す。なお、表2中のSNAP26m発現コンストラクトの欄の(−)は、CHOのゲノム配列が導入されていないpBS−CMV−SNAP26mである。 これらのSNAP26m発現コンストラクトとpPUR(CLONTECH社、Puromycin耐性ベクター)を制限酵素AhdI(New England Biolabs社)でリニアライズした後、それぞれ重量比が9:1となるように混合して混合プラスミドを調製した。 一方、1×105cells/mlに調整したCHO−K1細胞を12ウェルプレートに2mlずつ前日に播種し、一晩培養して、トランスフェクション用のCHO−K1細胞を準備した。この際、培地として10%牛胎児血清を添加したHam’s F12培地(日水製薬)を使用した。 トランスフェクションは、18μl GeneJuice Transfection Reagent(メルク)を600μl Opti−MEM I Reduced−Serum Medium(GIBCO)で希釈し、前記の混合プラスミド1μgにこの希釈液103μlを加え、10分間放置した後、この混合液を前記CHO−K1細胞に加え、24時間インキュベートすることにより行った。翌日、培地を除去し、2.5g/l−Trypsin/1mmol/l−EDTA Solution(ナカライテスク)で処理して細胞を分散させ、90mmペトリディッシュに移し、6μg/ml Puromycin(InvivoGen)を含むHam’s F12+10%FBS培地中で3週間選択培養を行った。選択培養中、3〜4日ごとに培地を交換した。選択培養終了後、2.5g/l−Trypsin/1mmol/l−EDTA Solutionで処理して細胞を分散し、2×105細胞を12ウェルプレートに播き込み、翌日、0.5mlのHam’s F12培地に2μM SNAP−Cell−505(Covalys社)を加え、60分間、37℃でインキュベートした。その後、Ham’s F12培地で3回リンスし、培地交換をしながら、10分間のインキュベートを3回行い、未反応の蛍光色素を除去した。この細胞を2.5g/l−Trypsin/1mmol/l−EDTA Solutionで処理して細胞を分散し、D−PBS(−)(ナカライテスク)に細胞を懸濁し、フローサイトメーターBD FACSCaliburでSNAP26mの発現強度を解析した。 図4は、被験配列CHO1〜CHO6がそれぞれ導入されたSNAP26m発現コンストラクトで形質転換された細胞集団のFACS解析の結果を示す。また、図5は、未処理のCHO細胞(図4左上の(−))の解析結果から10以上のシグナル(図4中のM2)を示す細胞をSNAP26mの発現細胞とし、その細胞の割合をプロットしたグラフである。図4,5から明らかな通り、CHO細胞ゲノムの一部を導入したコンストラクト、特に配列番号1の41601〜46746位を導入したCHO4及び5において、有意な発現の上昇が認められた。CHO4とCHO5の間の差異はサンプル間のバラツキの範囲内と考えられるが、念のため、以後の最適領域の絞り込みはCHO5に基づいて実施した。実施例4 遺伝子発現安定化能を有する配列領域の絞り込み(1) 実施例3で発現の上昇が最も高かったコンストラクトCHO5をもとに、KOD −Plus− Mutagenesis Kit(東洋紡績)を用いたInverse PCR法によって、配列番号21、22のプライマーを使って被験配列から配列番号1の41601−42902位に相当する領域をデリーションしたCHO5Δ5を構築した。同様にして、配列番号23,24のプライマーを使って被験配列から配列番号1の42903−44200位に相当する領域をデリーションしたCHO5ΔM、及び配列番号25,26のプライマーを使って被験配列から配列番号1の44201−46746位に相当する領域をデリーションしたCHO5Δ3をそれぞれ構築した(図6)。 これらのSNAP26m発現コンストラクトとpPUR(Puromycin耐性ベクター)を制限酵素AhdIでリニアライズした後、それぞれ重量比が9:1となるように混合して混合プラスミドを調製した。 前記の混合プラスミド1μgを、前日に12ウェルプレートに播種しておいたCHO−K1細胞にトランスフェクションし、24時間インキュベートした。翌日、培地を除去し、2.5g/l−Trypsin/1mmol/l−EDTA Solutionで処理して細胞を分散させ、90mmペトリディッシュに移し、6μg/ml Puromycinを含むHam’s F12+10%FBS培地中で3週間選択培養を行った。選択培養中、3〜4日ごとに培地を交換した。選択培養終了後、2.5g/l−Trypsin/1mmol/l−EDTA Solutionで処理して細胞を分散し、2×105細胞を12ウェルプレートに播き込み、翌日、0.5mlのHam’s F12培地に2μM SNAP−Cell−505(Covalys社)を加え、60分間、37℃でインキュベートした。その後、Ham’s F12培地で3回リンスし、培地交換をしながら、10分間のインキュベートを3回行い、未反応の蛍光色素を除去した。この細胞を2.5g/l−Trypsin/1mmol/l−EDTA Solutionで処理して細胞を分散し、D−PBS(−)(ナカライテスク)に細胞を懸濁し、フローサイトメーターBD FACSCaliburでSNAP26mの発現強度を解析した。 図7は、被験配列CHO5Δ5、CHO5ΔM、CHO5Δ3がそれぞれ導入されたSNAP26m発現コンストラクトで形質転換された細胞集団のFACS解析の結果、シグナル値10以上を示した細胞の割合をプロットしたものである。図7から明らかな通り、CHO5Δ3についてはデリーション前とほぼ同程度のSNAP26mの発現強度が認められたのに対し、CHO5ΔM、CHO5Δ5では発現上昇の効果が明らかに低減した。このことから、発現の安定化には配列番号1の配列の41601〜46746位のうちの5’側〜前半部分が主に寄与していると考えられる。実施例5 遺伝子発現安定化能を有する配列領域の絞り込み(2) 配列番号26〜31のプライマーを使用し、KOD −Plus− Mutagenesis Kit(東洋紡績)を用いたInverse PCR法によって、CHO5Δ3の被験配列の3’がさらにデリーションされたSNAP26m発現コンストラクトを構築した(図8及び表3参照)。 これらのSNAP26m発現コンストラクトを実施例4と同様にして処理し、SNAP26mの発現強度を解析した。 図9は、被験配列CHO5Δ3、CHO5Δ3−1〜5のSNAP26m発現コンストラクトで形質転換された細胞集団のFACS解析の結果、シグナル値10以上を示した細胞の割合をプロットしたものである。図9から明らかな通り、配列番号1の配列の41601〜42700位を含むCHO5Δ3−1からCHO5Δ3−3までについては、サンプル間のバラツキはあるものの、デリーション前とほぼ同程度のSNAP26mの発現強度が認められたのに対し、かかる領域の3’側が欠失したCHO5Δ3−4及びCHO5Δ3−5では発現上昇の効果が明らかに低減した。実施例6 抗KOD抗体発現系における遺伝子発現安定化能の評価 図10および11に示すスキームに従って、プラスミドpEF1α−KOD3G8HC−RE2およびpEF1α−KOD3G8LC−Hyg−RE2を構築した。即ち、既存のプロモーターをEF−1αプロモーターに変更したpCI−neoプラスミド(プロメガ社)のXbaI−NotIサイトに抗KOD抗体の重鎖あるいは軽鎖を挿入したプラスミドであるpEF1α−KOD3G8HCあるいはpEF1α−KOD3G8LCを鋳型に、KOD −Plus− Mutagenesis Kit(東洋紡績)を用いたInverse PCR法によって、配列番号32、33のプライマーを使って発現カセット上流への被験配列挿入用に制限酵素SalIおよびNheIサイトを付加したpEF1α−KOD3G8HC−REおよびpEF1α−KOD3G8LC−REを構築した。更に本プラスミドを鋳型に、KOD −Plus− Mutagenesis Kit(東洋紡績)を用いたInverse PCR法によって、配列番号34、35のプライマーを使って発現カセット下流への被験配列挿入用に制限酵素BsiWIおよびXhoIサイトを付加したpEF1α−KOD3G8HC−RE2およびpEF1α−KOD3G8LC−RE2を構築した。pEF1α−KOD3G8LC−RE2については、さらにAflII、BstBIで処理し、ネオマイシン耐性遺伝子を切出した。一方、pTK−Hyg(クロンテック社)からハイグロマイシン耐性遺伝子を配列番号36、37のプライマーを使ってPCRで増幅し、上述のネオマイシン耐性遺伝子が切出されたpEF1α−KOD3G8LC−RE2のAflII、BstBIサイトに導入してpEF1α−KOD3G8LC−Hyg−RE2を構築した。 次に、これらのプラスミドの発現カセットの上流あるいは発現カセットの上流および下流の両方に被験配列を挿入し、図12に記載のプラスミドを構築した。具体的には、プラスミドpEF1α−KOD3G8HC−RE2およびpEF1α−KOD3G8LC−Hyg−RE2の発現カセット上流のNheI、BglIIサイトに、配列番号38、39のプライマーセットを使ってPCRで増幅した被験配列CHO5Δ3を挿入して、プラスミドpEF1α−KOD3G8HC−2.6kおよびpEF1α−KOD3G8LC−Hyg−2.6kを構築した。また、プラスミドpEF1α−KOD3G8HC−RE2およびpEF1α−KOD3G8LC−Hyg−RE2の発現カセット上流のNheI、BglIIサイトに、配列番号38、40のプライマーセットを使ってPCRで増幅した被験配列CHO5Δ3−3を挿入して、プラスミドpEF1α−KOD3G8HC−1.1kおよびpEF1α−KOD3G8LC−Hyg−1.1kを構築した。更に、プラスミドpEF1α−KOD3G8HC−1.1kおよびpEF1α−KOD3G8LC−Hyg−1.1kの発現カセット下流のBsiWI、XhoIサイトに、配列番号41、42のプライマーセットを使ってPCRで増幅した被験配列CHO5Δ3−3を挿入してプラスミドpEF1α−KOD3G8HC−1.1k/1.1kおよびpEF1α−KOD3G8LC−Hyg−1.1k/1.1kを構築した。 これらのKOD3G8のH鎖およびL鎖発現コンストラクトを制限酵素AhdIでリニアライズした後、被験配列CHO5Δ3を発現カセットの上流に挿入したもの(2.6k)、被験配列CHO5Δ3−3を発現カセットの上流に挿入したもの(1.1k)、被験配列CHO5Δ3−3を発現カセットの上流および下流の両方に挿入したもの(1.1k/1.1k)、および被験配列を含まないもの(ctrl)のそれぞれについて、H鎖およびL鎖発現コンストラクトを重量比が1:1となるように混合して混合プラスミドを調製した。 前記の混合プラスミド2μgを、前日に6ウェルプレートに播種しておいたCHO−K1細胞にトランスフェクションし、24時間インキュベートした。翌日、培地を除去し、2.5g/l−Trypsin/1mmol/l−EDTA Solutionで処理して細胞を分散させ、90mmペトリディッシュに移し、G418およびHygroGoldを含むHam’s F12+10%FBS培地中で10日間選択培養を行った。選択培養中、3〜4日ごとに培地を交換し、G418濃度を250μg/mlから700μg/mlまで、HygroGold濃度を150μg/mlから350μg/mlまで段階的に上昇させた。選択培養終了後、2.5g/l−Trypsin/1mmol/l−EDTA Solutionで処理して細胞を分散し、1.84×105細胞を6ウェルプレートに播き込んだ。3日間培養後、培養上清を回収し、ポリクローンでのKOD3G8抗体の生産量をELISA(パイロコッカス・コダカラエンシスKOD1由来のDNAポリメラーゼを固相化したもの)で測定した。 具体的には、30μg/ml濃度のKOD1由来のDNAポリメラーゼ抗原を固相化したELISAプレートに、培養上清を添加し、35℃で2時間インキュベートした。次に、PBS−Tで3回洗浄し、10000倍希釈した抗マウス抗体−HRP(DAKO製)を50μl添加して35℃で1時間インキュベートした後、さらにPBS−Tで3回洗浄し、TMB+(3,3’,5,5’−tetramethylbenzidine;DAKO製)で5分間反応させた。50μlの1N硫酸を加えて反応停止後、プレートリーダー(主波長450nm、副波長620nm)で吸光度を測定した。 標準品から作成した検量線をもとに抗体濃度を算出した。なお、標準品として、KOD1由来のDNAポリメラーゼに特異的な抗体を産生するマウスハイブリドーマ細胞系3G8から得られた抗体を用いた。結果を図13に示す。図13から明らかな通り、被験配列を含まないもの(ctrl)と比較して、被験配列CHO5Δ3あるいはCHO5Δ3−3を発現カセット上流に挿入したもの(2.6kあるいは1.1k)、被験配列CHO5Δ3−3を発現カセット上流および下流の両方に挿入したもの(1.1k/1.1k)の全てで抗体生産量が上昇していた。 そこで、被験配列CHO5Δ3を発現カセット上流に挿入したもの、被験配列CHO5Δ3−3を発現カセット上流および下流の両方に挿入したもの、被験配列を含まないものの計3系列について、限界希釈を行い、モノクローンでの生産性の比較を行った。 具体的には、前記のKOD3G8抗体を安定導入したポリクローンの細胞を2.5g/l−Trypsin/1mmol/l−EDTA Solutionで処理して細胞を分散し、0.75細胞/ウェルの濃度で96ウェルプレートに播き込んだ。2週間培養後、培養上清を回収し、KOD3G8抗体の生産量を前記と同様の方法でELISAで測定した。 標準品から作成した検量線をもとに算出した各クローンの抗体生産量をプロットしたグラフを図14に示す。図14から明らかな通り、被験配列を含まないもの(ctrl)と比較して、被験配列CHO5Δ3を発現カセット上流に挿入したもの(2.6k)、被験配列CHO5Δ3−3を発現カセット上流および下流の両方に挿入したもの(1.1k/1.1k)のどちらにおいても高発現クローンの割合が顕著に上昇していた。 次に、96ウェルプレートでの培養上清を用いたスクリーニングでそれぞれについて発現量上位18クローンを拡大培養した後、1.84×105細胞を6ウェルプレートに播き込んだ。3日間培養後、培養上清を回収し、モノクローンでのKOD3G8抗体の生産量を前記と同様の方法でELISAで測定した。 標準品から作成した検量線をもとに算出した各クローンの抗体生産量をプロットしたグラフを図15に示す。図15から明らかな通り、96ウェルプレートでのスクリーニングの場合と同様、被験配列を含まないもの(ctrl)と比較して、被験配列CHO5Δ3を発現カセット上流に挿入したもの(2.6k)、被験配列CHO5Δ3−3を発現カセット上流および下流の両方に挿入したもの(1.1k/1.1k)のどちらにおいても高発現クローンの割合が顕著に上昇していた。 以上の結果から、被験配列CHO5Δ3又はCHO5Δ3−3は、近接して配置された外来遺伝子の遺伝子発現を安定化し、発現効率を増大させることができることが明らかである。 本発明の遺伝子発現安定化エレメントは、哺乳類細胞、特にCHO細胞における外来遺伝子の発現を安定化し、高発現細胞株の樹立作業を低減短縮することができる。従って、本発明の遺伝子発現エレメントを使用した細胞発現システムは、種々の哺乳類細胞のタンパク質の機能解析は勿論、バイオ医薬品として創薬・医療などの産業界に寄与することが大である。 配列番号7〜20は、実施例3で使用したプライマーの配列である。 配列番号21〜26は、実施例4で使用したプライマーの配列である。 配列番号27〜31は、実施例5で使用したプライマーの配列である。 配列番号32〜42は、実施例6で使用したプライマーの配列である。 以下の(a)〜(c)のいずれか一つ又はそれらの任意の組合せからなることを特徴とする遺伝子発現増大エレメント: (a)配列番号1で示す配列のうち41601番目から46746番目までの塩基で示す領域からなるDNA; (b)(a)の配列の部分配列からなるDNAであって、配列番号1で示す配列のうち41601番目から42700番目までの塩基で示す領域の配列を少なくとも含むDNA;及び (c)前記(a)又は(b)のDNAの相補体。 請求項1に記載の遺伝子発現増大エレメント及び外来遺伝子発現カセットを含み、前記遺伝子発現増大エレメントと前記外来遺伝子発現カセットとの間の距離が5000bp以下であることを特徴とする外来遺伝子発現ベクター。 遺伝子発現増大エレメントが、外来遺伝子発現カセットの上流及び下流の両方に配置されていることを特徴とする請求項2に記載の外来遺伝子発現ベクター。 外来遺伝子が、抗体の重鎖又は軽鎖ポリペプチドをコードすることを特徴とする請求項2又は3に記載のベクター。 複数の外来遺伝子を含むことを特徴とする請求項2又は3に記載のベクター。 複数の外来遺伝子が、抗体の重鎖及び/又は軽鎖ポリペプチドをコードすることを特徴とする請求項5に記載のベクター。 請求項1に記載の遺伝子発現増大エレメントと外来遺伝子発現カセットとがゲノム中に5000bp以下の距離に配置されていることを特徴とする形質転換された宿主細胞。 宿主細胞が哺乳類動物細胞であることを特徴とする請求項7に記載の形質転換された宿主細胞。 哺乳類動物細胞がCHO細胞であることを特徴とする請求項8に記載の形質転換された宿主細胞。 請求項7〜9のいずれかに記載の形質転換された宿主細胞を用いることを特徴とするタンパク質を生産する方法。 タンパク質が抗体であることを特徴とする請求項10に記載の方法。配列表