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タイトル:特許公報(B2)_電子スピン共鳴測定用試料溶液及びその乾固物,並びにそれらを用いた測定方法
出願番号:2010501972
年次:2013
IPC分類:G01N 24/10,G01R 33/30


特許情報キャッシュ

佐藤 圭創 JP 5253494 特許公報(B2) 20130426 2010501972 20090306 電子スピン共鳴測定用試料溶液及びその乾固物,並びにそれらを用いた測定方法 国立大学法人 熊本大学 504159235 株式会社同仁化学研究所 590005081 筒井 知 100087675 平井 安雄 100099634 佐藤 圭創 JP 2008057368 20080307 20130731 G01N 24/10 20060101AFI20130711BHJP G01R 33/30 20060101ALI20130711BHJP JPG01N24/10 510RG01N24/10 510AG01N24/02 510Z G01N 24/00−24/14 JSTPlus(JDreamII) JST7580(JDreamII) JMEDPlus(JDreamII) 特開2002−179563(JP,A) Masahiro Nishizawa et al.,Spin-Trapping Properties of 5-(Diphenylphosphinoyl)-5-methyl-4,5-dihydro-3H-pyrrole N-Oxide(DPPMDPO),Bull.Chem.Soc.Jpn.,2007年,Vol.80 No.3,pp.495-497 Tomoko SHIMAMURA et al.,Electron Spin Resonance Analysis of Superoxide Anion Radical Scavenging Activity with Spin Trapping Agent, Diphenyl-PMPO,ANALYTICAL SCIENCES,2007年,Vol.23,pp.1233-1235 Kosei Shioji et al.,ESR Measurement Using 2-Diphenylphosphinoyl-2-methyl-3,4-dihydro-2H-pyrrole N-Oxide(DPhPMPO) in Human Erythrocyte Ghosts,Bull.Chem.Soc.Jpn.,2007年,Vol.80 No.4,pp.758-762 5 JP2009054252 20090306 WO2009110585 20090911 14 20100512 田中 洋介 本発明は、スピンアダクトを長時間安定に保存することが可能な、電子スピン共鳴測定用試料溶液及びその乾固物,並びにそれらを用いた測定方法に関する。 電子スピン共鳴(以下、ESRと称する)は、電子スピン共鳴分光装置(以下、ESR装置と称する)を用いて不対電子を検出する分光法であって、選択的且つ定量的なフリーラジカル測定を行える唯一の手段である。フリーラジカルは、一般的に反応性が高く短寿命であるため、直接検出することは困難である。したがって、フリーラジカルをスピントラップ剤で捕捉して生じる比較的安定なラジカル付加物(以下、スピンアダクトと称する)を測定に供する方法、即ちスピントラップ法が頻用される。 従来のスピントラップ剤は不安定で、特に、水溶液中では分解し易い。また、捕捉前のフリーラジカルより安定とは言え、スピンアダクトの寿命は高々数分程度であって長時間保存できない。測定者は、試料の採取又は調製,フリーラジカルの捕捉及び測定を、ESR装置の近傍において、試料毎に順次迅速に行う必要があった。更に、ESR装置は高額であり測定環境を厳密に管理する必要があるから、その設置は容易でなく、特定の限られた者しか使用できない状況にある。 スピントラップ剤自体及びスピンアダクトの安定化を志向して、各種化合物が開発されており、例えば、式(II)で表される化合物(以下、DPPMDPOと称する)を含む、ホスフィニル基を有する新規スピントラップ剤が開示されている(例えば、特許文献1参照)。DPPMDPOは、その水溶液を数ヶ月間室温で保存しても分解せず、高い1−オクタノール/水分配係数を有し有機溶媒に抽出され易い(例えば、非特許文献1参照)。 フリーラジカルのうち、スーパーオキシド陰イオンラジカル(・O2−)及びヒドロキシルラジカル(・OH)は、活性酸素種であり、生体内のシグナル伝達や免疫系において重要な役割を担っている。生体内には、活性酸素種を産生し又は消去する機構が存在し、活性酸素種の量はそれらによって制御されている。しかし、そのバランスが崩れ生体内抗酸化システムの抗酸化力を超える活性酸素種が生じると、即ち酸化ストレスを受けると、癌,動脈硬化,急性肺障害を初めとする様々な疾患が発症し又は増悪すると指摘されている。これらの疾患は、活性酸素種及び活性酸素種によって生じる脂質由来ラジカルによって、核酸,蛋白質等が酸化的傷害を受けることに起因すると考えられている。 これまで、血液,尿他の生体試料を採取し酸化ストレスを測定する方法が検討されてきたが、何れもフリーラジカルそのものではなく、それらによって生成される各種酸化ストレスマーカーを検出するものであった。これらの方法によれば、直接的且つ迅速に酸化ストレスを測定することができず、アーチファクトが大きく、再現性の高い測定ができない。フリーラジカルそのものを検出することが望ましいが、生体試料は金属イオン,還元性物質,蛋白質,溶存酸素等を含む複雑な組成を有していて、アーチファクトを生じ、又はスピンアダクトが2次反応や分解によって短時間で消失する問題がある。 スピントラップ剤DMPO(5,5−Dimethyl−4,5−dihydro−3H−pyrrole N−oxide)と酸素中心ラジカルとのスピンアダクトは本来短寿命であるが、有機溶媒抽出すると、抽出後10時間を越える寿命が観測されることが開示されている(例えば、非特許文献2参照)。DMPOと酸素中心ラジカルとのスピンアダクトが、共存する他ラジカルの攻撃を受けて消滅することが、回避されるとの仮説が述べられている。特開2006−335738号公報Masahiro Nishizawa他4名,Bull. Chem. Soc. Jpn.,2007年,第80巻,第3号, p.495−497Steven Yue Qian他4名, Free Radical Biology & Medicine,2000年,第29巻,第6号,p.568−579 特許文献1及び非特許文献1に記載のスピントラップ剤は水溶液中で安定であるものの、スピンアダクトは必ずしも安定ではない。例えば、DPPMDPOのスーパーオキシド陰イオンラジカルアダクト又はヒドロキシルラジカルアダクトの半減期は、高々8.3分又は13.2分であるから、それらフリーラジカルを測定する場合には、ESR装置近傍でのラジカル捕捉及び測定を余儀無くされる。 また、特許文献1及び非特許文献1には、生体試料を初めとする、複雑な組成を有する試料中のラジカルを捕捉し、スピンアダクトを長時間安定に保存する技術は開示されていない。 非特許文献2に記載の方法は、有機溶媒で抽出したDMPOスピンアダクト溶液を不活性ガス雰囲気下に濃縮した後、不活性ガスが飽和した有機溶媒に再溶解する煩雑な処理方法である。当該処理方法の実施には多大な時間を要するから、処理中にスピンアダクトが消失してしまう虞がある。 スピンアダクトが抽出後10時間を越える寿命を有するとは言え、当該スピンアダクトは着実に消失する。ESR装置近傍でフリーラジカルを捕捉し迅速に測定することは可能であるものの、遠隔地で得られたスピンアダクトを安定に輸送し測定することはできない。 また、特許文献2には、培養細胞を用いることは記載されているものの、生体試料を初めとする、複雑な組成を有する物を用いることは開示されていない。 叙上の通り、上記何れの先行技術によっても、遠隔地にあるESR装置での測定を可能とする程度に長い時間、スピンアダクトを安定に保存することはできない。また、生体試料を初め複雑な組成を有する試料中のフリーラジカルを捕捉し、スピンアダクトの消失やアーチファクトの問題を回避しつつ、ESRで測定する技術は開示されていない。 これらの問題点に鑑み、本発明は、遠隔地への輸送を可能とする程度の長時間、安定にスピンアダクトを保存し、ESRで測定する方法を提供することを課題とする。また、複雑な組成を有する試料中のフリーラジカルにスピントラップ法を適用し、スピンアダクトの消失やアーチファクトの問題を回避しつつ、ESRで測定する方法を提供することを課題とする。更に、生体試料中のフリーラジカルを直接検出することによる、酸化ストレスの測定方法を提供することを課題とする。 本発明の発明者は、上記問題点に鑑み、鋭意検討を重ねた結果、スピンアダクトを安定に保存する方法を見出し、本発明を完成した。 即ち、上記課題を解決する第1の発明は、(A)水溶液状又は水分散液状の被検液に、次の一般式(I)で表されるスピントラップ剤を溶解する工程(B)工程(A)で得られた溶液に、少なくとも1種の水不溶性有機溶媒を含む抽出用溶媒を加える工程(C)工程(B)によって得られた有機層を水層と分離して、ESR測定用試料溶液を得る工程を含む方法によって得られるESR測定用試料溶液である。[式(I)中、R1及びR2は、夫々独立して炭素数1乃至6の直鎖状の若しくは分岐鎖を有するアルキル基,炭素数1乃至6の直鎖状の若しくは分岐鎖を有するアルコキシル基,フェニル基,若しくは置換フェニル基を表し、又は、相互に結合して、炭素数2乃至6の直鎖状の若しくは分岐鎖を有する、アルキレン基又はアルキレンジオキシ基を表す。] 第2の発明は、第1の発明に係るESR測定用試料溶液であって、式(I)において、R1及びR2が何れもフェニル基である。 第3の発明は、第1又は第2の発明に係るESR測定用試料溶液であって、被検液が生体試料である。 第4の発明は、第1乃至第3の発明の何れか1の発明に係るESR測定用試料溶液であって、抽出用溶媒が、クロロホルム/メタノール混合溶媒である。 第5の発明は、更に冷却保存されてなる、第1乃至第4の発明の何れか1の発明に係るESR測定用試料溶液である。 第6の発明は、第1乃至第5の発明の何れか1の発明に係るESR測定用試料溶液から、溶媒を揮散させ除去して得られる乾固物である。 第7の発明は、更に冷却保存されてなる、第6の発明に係るESR測定用試料溶液の乾固物である。 第8の発明は、(A)水溶液状又は水分散液状の被検液に、上記一般式(I)で表されるスピントラップ剤を溶解する工程(B)工程(A)で得られた溶液に、少なくとも1種の水不溶性有機溶媒を含む抽出用溶媒を加える工程(C)工程(B)によって得られた有機層を水層と分離して、ESR測定用試料溶液を得る工程(D)工程(C)で得られたESR測定用試料溶液に含まれるスピンアダクトの量を、電子スピン共鳴装置で測定する工程を含む方法によって被検液中のフリーラジカルの量を求める測定方法である。 第9の発明は、(A)水溶液状又は水分散液状の被検液に、上記一般式(I)で表されるスピントラップ剤を溶解する工程(B)工程(A)で得られた溶液に、少なくとも1種の水不溶性有機溶媒を含む抽出用溶媒を加える工程(C)工程(B)によって得られた有機層を水層と分離して、ESR測定用試料溶液を得る工程(D’)工程(C)で得られたESR測定用試料溶液から、溶媒を揮散させ除去して、乾固物を得る工程(E)工程(D’)で得られた乾固物を再溶解して、溶液を得る工程(F)工程(E)で得られた溶液に含まれるスピンアダクトの量を、電子スピン共鳴装置で測定する工程を含む方法によって被検液中のフリーラジカルの量を求めることを特徴とする測定方法である。 被検液中に存在し又はスピントラップ剤溶解後に発生したフリーラジカルは、上記一般式(I)で表されるスピントラップ剤と反応してスピンアダクトを生成し、本発明のESR測定用試料溶液に抽出される。当該溶液中において、スピンアダクトは従来技術では達成不可能な程度に長い時間安定に存在し、遠隔地で生成したスピンアダクトを安定に輸送し、ESRで測定することができる。 被検液が複雑な組成を有するときでも、被検液から分離されたESR測定用試料溶液には夾雑物が少なく、生成したスピンアダクトが2次反応や分解によって短時間で消失し、又はアーチファクトを生じることが回避される。したがって、複雑な組成を有する被検液を測定対象とし、被検液中に存在するフリーラジカルの量をESRで測定することができる。 R1及びR2が何れもフェニル基である本発明のESR測定用試料溶液は、大きな1−オクタノール/水分配係数を有するスピントラップ剤を用いて調製される。スピントラップ剤及びそのスピンアダクトが有機溶媒に抽出され易く、フリーラジカル含有量の低い被検液を用いても、ESR測定を行うに充分な濃度のスピンアダクト溶液が得られ、精度高い測定が可能である。 R1及びR2が同一の置換基であるから、異なるESRスペクトルを与える、スピンアダクトのジアステレオマーが生成しない。ESRスペクトルが複雑になることが回避されるから、解析が容易である。 スピントラップ剤が、既知のスピントラップ剤に比べて細胞毒性が低いから、被検液が細胞を含んでいても、細胞傷害を抑制しつつ測定することができる。また、スピントラップ剤が細胞膜透過性を有し、被検液中の細胞中に良好に分散するから、細胞中のフリーラジカルを捕捉することができる。したがって、細胞を含有する被検液を用いた測定に適する。 生体試料を被検液として用いることによって、生体試料中のフリーラジカルを、再現性高く測定することが可能である。更には、当該フリーラジカルを測定することによって、個体の酸化ストレスを測定することができる。食品を投与された個体の生体試料を用いると、食品が生体内で示す抗酸化活性に関する知見を得ることができる。 抽出用溶媒が、クロロホルム/メタノール混合溶媒である本発明のESR測定用試料溶液は、溶解したスピンアダクトを、より長時間安定に保存することができる。遠隔地で生成したスピンアダクトをより安定に輸送し、ESRで測定することができる。 更に冷却保存されてなる本発明のESR測定用試料溶液によれば、有機溶媒の揮発を抑制することによってスピンアダクトの濃度を維持できるから、精度高い測定が可能である。また、スピンアダクトをより長時間安定に保存することができるから、遠隔地で生成したスピンアダクトをより安定に輸送しESRで測定することができる。 本発明のESR測定用試料溶液の乾固物によれば、ESR測定用試料溶液よりも長い時間、スピンアダクトを安定に保存することができる。遠隔地で生成したスピンアダクトを更に安定に輸送し、ESRで測定することができる。 更に冷却保存されてなる本発明のESR測定用試料溶液の乾固物によれば、スピンアダクトを更に長時間安定に保存することができるから、遠隔地で生成したスピンアダクトを更に安定に輸送しESRで測定することができる。実施例1のESR測定用試料溶液の示すESRシグナル相対強度を示すグラフである。実施例2のESR測定用試料溶液の示すESRシグナル相対強度を示すグラフである。本発明のESR測定用試料溶液中におけるスピンアダクトの安定性を示すグラフである。実施例6のESR測定用試料溶液の示すESRシグナル相対強度を示すグラフである。 以下、本発明の実施の形態を、図面を参照しつつ詳しく説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。 まず、本発明を構成する、主な要素について説明する。 本発明に係るスピントラップ剤は、上記一般式(I)で表される化合物であれば特に限定されない。DPPMDPOの他、例えば、式(III),式(IV)又は式(V)で表される化合物が挙げられる。 式(I)中、置換フェニル基とは、フェニル基上の任意炭素に任意置換基が結合したものであって、置換基の種類,位置又は数を特に限定するものではない。スピンアダクトの脂溶性を失わない置換基であることが好ましく、炭素数1乃至6の直鎖状の若しくは分岐鎖を有するアルキル基,炭素数1乃至6の直鎖状の若しくは分岐鎖を有するアルコキシル基,又はハロゲン基が好適である。 ジアステレオマーの共存によってスピンアダクトが複雑で分離困難なESRスペクトルを与えることを回避するために、R1及びR2が同一の置換基であることが好ましい。有機溶媒に効率的に抽出できる様、R1及びR2が何れもフェニル基であることが、より好ましい。 スピンアダクトは、一般式(I)で表されるスピントラップ剤のスピンアダクトであれば、特にその種類は限定されない。好ましくは、スーパーオキシド陰イオンラジカル,ヒドロキシルラジカル,及び脂質由来ラジカルからなる群から選ばれる1種又は2種以上のフリーラジカルから生成するスピンアダクトを含む。 本発明において、水溶液状の被検液は、水が主たる溶媒であれば良く、pH,温度,溶質の種類等を特に限定するものではない。例えば、飲料水,淡水,海水,温泉水,緩衝液,生理食塩水,液体培地,血漿,血清,又はそれらに1種又は2種以上の単体,化合物,核酸,可溶性蛋白質若しくは補酵素が溶解したものが挙げられる。 水分散液状の被検液は、前記水溶液状の被検液に不溶性成分が分散したものであって、不溶性成分の種類を特に限定するものではない。不溶性成分としては、例えば、単体,化合物,高分子,コロイド粒子,不溶性蛋白質,又は動物細胞,植物細胞,微生物細胞等の細胞が挙げられる。 水分散液状の被検液は、組織若しくは細胞のホモジネート,全血,又はそれらに溶質を溶解し若しくは不溶性成分を分散させたものであっても良い。これらを、緩衝液,生理食塩水,液体培地等の水溶液又は水で、更に希釈して用いることもできる。 水不溶性有機溶媒としては、例えば、ヘキサン,ヘプタン等の炭化水素類,ジエチルエーテル,エチルメチルエーテル等のエーテル類,エチルメチルケトン,ジエチルケトン等のケトン類,1−オクタノール,1−ヘキサデカノール等のアルコール類,ジクロロメタン,クロロホルム,四塩化炭素,ブロモホルム等のハロゲン化炭化水素を用いることができるが、特にこれらに限定されない。 本発明に係る抽出用溶媒は、水不溶性有機溶媒を少なくとも1種含むものであれば特に限定されず、1種の水不溶性有機溶媒のみからなっていても良く,又は水不溶性有機溶媒に、1種又は2種以上の水不溶性若しくは水溶性の有機溶媒が混合されたものであっても良い。抽出用溶媒として混合溶媒を用いる場合には、その混合比が、抽出後の有機層中に含まれる溶媒の混合比と一致することを意味するものではなく、抽出溶媒中の一部の溶媒のみが水相と相分離して有機層を与えても良い。 抽出用溶媒としては、クロロホルム/メタノール混合溶媒,酢酸エチル,クロロホルム/エタノール混合溶媒,又はクロロホルム/イソプロピルアルコール混合溶媒が好適に用いられ、スピンアダクトを最も安定に保存できるクロロホルム/メタノール混合溶媒が特に好適に用いられる。 不活性ガスは、本発明に係るスピントラップ剤,スピンアダクト又は溶媒と化学反応を起こし難い、化学的に安定な気体であれば良く、特定の化学物質に限定されるものではない。希ガス又は窒素ガスが、好適に用いられる。 本発明において、生体試料とは、生きた個体から採取された試料を言う。例えば、血液,リンパ液,腹水等の体液,汗,尿,組織ホモジネート,又はそれらを緩衝液,生理食塩水,液体培地等の水溶液,若しくは水で希釈したものが挙げられる。 次いで、本発明に係るESR測定用試料溶液の調製方法について記載するが、当業者が理解し得る範囲内で種々の変更が可能であり、濃度,容量,時間,温度,器具又は装置類などの諸条件を、特に限定するものではない。 水溶液状又は水懸濁液状の被検液に、本発明に係るスピントラップ剤を添加し、溶解する。スピントラップ剤自体を直接被検液に添加しても良く、予め調製されたストック溶液を添加しても良いが、添加直後から迅速にフリーラジカル捕捉が開始される様に、ストック溶液を用いることが好ましい。ストック溶液の溶媒は特に限定されないが、例えば、水溶液,緩衝液,生理食塩水又は液体培地が好適に用いられる。 前記被検液がフリーラジカルを含有し、又はスピントラップ剤添加後にフリーラジカルを発生すると、それらフリーラジカルはスピントラップ剤で捕捉され、スピンアダクトを生成する。 フリーラジカル捕捉後、抽出用溶媒を添加し、抽出を行う。抽出用溶媒の量は特に限定されないが、効率的な抽出を行うために被検液と同一容量以上であることが好ましい。また、希釈によって測定精度が低下することを回避し、又は乾固を容易とするために、被検液の4倍容量以下であることが好ましい。単に抽出用溶媒を添加するのみでも良いが、ピペッティング,転倒混和等によって水層と有機層を十分に接触させ抽出を行うことが好ましい。 その後、静置し又は遠心分離することによって、相分離させる。分離した有機層を他容器に移し入れ、ESR測定用試料溶液を得る。当該容器の材質は特に限定されず、例えば、ポリエチレン,ポリプロピレン,ポリスチレン,ポリテトラフルオロエチレン等の合成樹脂又はガラス等を用いることができるが、有機溶媒に触れても可塑剤等の異物が溶出し難い、耐薬品性の合成樹脂又はガラスが好適であって、冷却によっても破損し難いガラスがより好適である。 ESR測定用試料溶液を、直ぐに又は冷却保存した後に、ESR測定に供する。ESR測定用試料溶液から、有機溶媒を揮散させ除去して得られる乾固物を、直ぐに又は冷却保存した後に再溶解して、ESR測定に供することもできる。有機溶媒を除去する方法は特に限定されず、例えば、常圧又は減圧下に濃縮しても良く、気体を吹き付けることによって溶媒を揮散させても良い。気体を吹き付ける場合には、不活性ガスが好適に用いられる。 脂質由来ラジカルのスピンアダクトを測定対象とする場合には、ESR測定用試料溶液を直ぐに測定せず、冷却保存した後に測定することが好ましい。スーパーオキシド陰イオンラジカルのスピンアダクト及びヒドロキシルラジカルのスピンアダクトは、脂質由来ラジカルのスピンアダクトに比べて不安定であるから、冷却下においても徐々に消失する。したがって、抽出後に冷却保存することによって、脂質由来ラジカルのスピンアダクトのみを残留させ選択的に測定することができるからである。 ESR測定用試料溶液又はその乾固物を冷却保存する場合には、フリーラジカル他の物質の混入によってアーチファクトを生じ又はスピンアダクトが消失することを回避するため、密閉容器を用いることが好ましく、容器内に不活性ガスを充填することがより好ましい。保存温度は特に限定されないが、より安定な保存を可能とするため、冷却することが好ましい。クロロホルムとメタノールが容量比2:1で混合された混合溶媒を抽出用溶媒として用い約−30℃で冷却保存することによって、ESR測定用試料溶液を2週間以上、乾固物を1ヶ月以上安定に保存することができる。 以下、実施例を記載する。全ての実施例において、試薬は特級以上の等級のものを用いた。濃度は、特に断らない限り終濃度を表す。また、スピントラップ剤は、予め500mM乃至1Mの水溶液を調製し、これをストック溶液として用いた。尚、本発明は、これら実施例に限定されるものではない。(ヒト血中の貪食細胞から放出されるフリーラジカルの測定) ヘパリン(持田製薬株式会社製;Novo−Heparin 5000 units for injection) 約1mLを含有する注射筒にヒト血液を採取した。その血液1mLに、リポ多糖(和光純薬工業株式会社製;Lipopolysaccharide, from E−coli O55;以下、LPSと略称する) 0.01mg/mL,リノール酸(ナカライテスク社製) 20μL,DPPMDPO(株式会社同仁化学研究所製;商品名 diphenyl−PMPO) 5mMを加えた。この混合液を、37℃で2時間インキュベートした。リポ多糖刺激によって血中貪食細胞から放出されたスーパーオキシド陰イオンラジカル及びヒドロキシルラジカルは、リノール酸と反応することによって、脂質由来ラジカルを生成する。当該脂質由来ラジカル,スーパーオキシド陰イオンラジカル及びヒドロキシルラジカルは、DPPMDPOで捕捉され、スピンアダクトを生じる。 インキュベート後、鉄キレート剤であるDeferoxamine(Sigma Chemicals社製;以下、DFXと略称する) 0.4mMを添加することによって、金属が触媒する、スーパーオキシド陰イオンラジカルの産生及び過酸化水素からのヒドロキシルラジカルの産生を止めた。クロロホルムとメタノールが容量比2:1で混合された混合溶媒 2mLを加え、ピペッティングした後、1500×gで10分間遠心分離した。有機層を分離し、30分後、160μLのセルに入れ、ESR測定に供した。測定には、ESR装置JES−TE200(日本電子株式会社製)を用い、以下の測定条件を採用した(以下全ての測定において、同一条件を採用した)。 マイクロ波周波数: 9.431 GHz 中心磁場: 335.3±5mT マイクロ波出力: 40mW 磁場変調幅: 0.25mT 増幅比: 320 応答時間: 0.3秒 掃引時間: 2分 その結果、脂質由来ラジカルアダクトのESRスペクトルのみが観測された。ESRシグナルを積分し、シグナル強度を求めた。一般的に用いられる他のスピントラップ剤POBN[α−(4−pyridyl−1−oxide)−N−tert−butylnitrone](Alexis社製)又はDMPO(株式会社同仁化学研究所製)を用いて同様の測定を行った。得られたESRシグナルの相対強度を、図1に示す。 DPPMDPOを用いると、POBN又はDMPOを用いた場合に比べて、約5倍のシグナル強度を示す。DPPMDPOのフリーラジカル捕捉の反応速度定数が大きくフリーラジカルを捕捉し易いため、及びスピンアダクトの抽出効率が高く有機層に抽出され易いため、高濃度のスピンアダクト溶液が得られる。 本実施例において、ラジカル消去能を有する物質又は酵素である、Trolox(Calbiochem Novabiochem Novagen社製),アスコルビン酸(和光純薬工業株式会社製),Superoxide dismutase(Sigma Chemicals社製;Cu,Zn−SOD from bovine erythrocyte;以下、SODと略称する)又はグルタチオン(和光純薬工業株式会社製)を更に添加すると、何れの場合においてもシグナル強度が有意に減弱した。 また、DPPMDPOの終濃度を10mM又は20mMとして、同様の手技によってESR測定を行った。DPPMDPO濃度が高くなるにつれ濃度依存的にシグナル強度が高くなるものの、何れの濃度においても、充分に解析可能なESRスペクトルが得られ、細胞毒性を認めなかった。DMPOを用いた場合、濃度100mMまで濃度依存的にシグナル強度が高くなるが、20mM以上では明らかな細胞毒性が認められる。5mM DPPMDPOと同等のESRスペクトルを得るためには、DMPOの濃度を約25mMとする必要があり、細胞毒性の影響を回避できない(データ提示せず)。(t−Butylラジカルの測定) ヘパリン 約1mLを含有する注射筒にヒト血液を採取した。その血液1mLに、t−Butyl hydroperoxide(Sigma Chemicals社製) 10mM及びDPPMDPO 5mMを加え、室温で30分インキュベートした。t−Butyl hydroperoxideは血中ヘモグロビンと反応してt−Butylラジカルを生じ、当該ラジカルがDPPMDPOで捕捉されスピンアダクトを生じる。 インキュベート後、クロロホルムとメタノールが容量比2:1で混合された混合溶媒 2mLを加え、ピペッティングした後、1500×gで10分間遠心分離した。有機層を分離し、30分後、160μLのセルに入れ、ESR測定に供した。実施例1と同様に、DPPMDPOを用いると、POBN又はDMPOよりも有意に高いシグナル強度が得られた。 また、Trolox,アスコルビン酸又はグルタチオンを添加することによって、シグナル強度が有意に減弱した。一方、SODを添加しても、有意のシグナル強度減弱は認められなかった。これは、SODはスーパーオキシド陰イオンラジカルを消去できるものの、本実施例で生じるt−Butylラジカルを消去できないためと解される。(Xanthine oxidaseによって産生されるフリーラジカルの測定) 1mLのリン酸緩衝液(pH 7.4)に、Xanthine oxidase(EC 1.17.3.2;Roche Diagnostics社製;以下、XOと略称する) 0.1U/mL,hypoxanthine(Simga Chemicals社製;以下、HPXと略称する) 0.1mg/mL,リノール酸 20μL,Fe3+ 100μM,DPPMDPO 10mMを加え、37℃で30分間インキュベートした。XO及びHPXによってスーパーオキシド陰イオンラジカルが生じ、その一部はリノール酸と反応して脂質由来ラジカルを生成する。スーパーオキシド陰イオンラジカル及び脂質由来ラジカルは、DPPMDPOに捕捉されスピンアダクトを生じる。 インキュベーション後、クロロホルムとメタノールが容量比2:1で混合された混合溶媒 2mLを加え、ピペッティングした後、1500×gで10分間遠心分離した。有機層を分離し、30分後、160μLのセルに入れ、ESR測定に供した。 その結果、脂質由来ラジカルアダクトのESRスペクトルのみが観測された。ESRシグナルを積分し、ESRシグナル強度を求めた。その結果を、図2に示す。ESRシグナルを積分して得たシグナル強度は、HPXを添加しなかったコントロールに比べ、有意に高い強度を示した。また、SOD及びHPXに、更にCu,Zn−SOD(EC 1.15.1.1;Sigma Chemicals社製) 500U/mLを加えると、有意に低いシグナル強度を示した。スーパーオキシド陰イオンラジカルが消失することによって、スピンアダクトの生成量が減少し、有機溶媒に抽出されるスピンアダクトの量も減少していることが示された。(ESR測定用試料溶液中におけるスピンアダクトの保存安定性評価) 実施例2で得たESR測定用試料溶液を、密閉ガラス容器中、−30℃で2週間冷却保存した。当該溶液のESR測定を行い、シグナルを積分して得たシグナル強度を、溶液調製直後のシグナル強度と比較した。POBN又はDMPOを用いて同様の比較を行った結果を、図3に示す。図3は、本発明のスピンアダクト溶液中におけるスピンアダクトの安定性を示すグラフである。2週間後のシグナル強度を、溶液調製直後のシグナル強度に対する相対値として示す。 本発明に係るスピンアダクトの溶液中で、スピンアダクトは安定に存在し、2週間経過後も98.33±2.52%が残存していた。同様に調製されたPOBNのスピンアダクトの残存率は81.67±3.21%であり、DMPOのスピンアダクトの残存率は73.33±8.08%であった。本発明によれば、汎用されているPOBN又はDMPOに比べ、スピンアダクトを安定に保存できる。また、調製後少なくとも2週間以内であれば、調製直後の溶液と保存溶液についてほぼ定量的な比較が可能である。 また、添加する有機溶媒の種類及び体積についても検討を加えた。酢酸エチル,クロロホルム/エタノール混合溶媒,クロロホルム/イソプロピルアルコール混合溶媒等の他の有機溶媒でも抽出可能だが、クロロホルムとメタノールが容量比2:1で混合された混合溶媒が最も高い抽出効率と保存安定性を示した。血液1mLに対してクロロホルム/メタノール混合溶媒を3mL又は4mL用いても抽出は可能であり、体積の増加に伴って抽出されるスピンアダクトの量は増加するものの、使用量に見合う抽出効率の向上は認められなかった。(ESR測定用試料溶液の乾固物中におけるスピンアダクトの保存安定性評価) 実施例2で得たスピンアダクトの溶液250μLをガラス容器に入れ、窒素ガスを吹き付けることによって有機溶媒を揮散させ、乾固物を得た。当該乾固物を−30℃で冷却保存した後、クロロホルムとメタノールが容量比2:1で混合された混合溶媒 250μLに再溶解し、溶解後速やかにESR測定を行った。本実施例の乾固物中、スピンアダクトは実施例2の溶液中よりも安定に存在し、少なくとも1ヶ月以上の間、有意の消失を認めなかった。(LPS誘導性急性肺障害マウスの血液を用いたESR測定) 10週齢の雄のC57BL/6Nマウス(体重19−26g;Charles River Laboratories社製)を、抱水クローラル(和光純薬工業株式会社製) 0.5μg/kgで麻酔し、LPS 2.5mg/kgを気管支内に投与して肺障害を誘発させることによって、LPS誘導性急性肺障害マウスを作成した。更に30mg/mLのDFX 0.1mLを腹膜内投与することによって、治療実験マウスを作成した。コントロール群には、相当する量の生理食塩水を気管支内及び腹膜内に投与した。 LPS投与24時間後、抱水クローラル 0.5μg/kgで麻酔し下大静脈より200μL採血した。この血液を生理食塩水で1mLに希釈し、実施例1と同様にして、スピントラッピング及び有機溶媒抽出を行いESR測定に供した。急性肺障害マウスにおいては、LPSによってフリーラジカル及びそれに伴うスピンアダクトの産生量が増加し、それによってコントロール群のマウスよりも有意に高いESRシグナル強度を観測した。鉄キレート剤であるDFXを投与した治療実験マウスでは、フリーラジカル産生が抑制された結果、シグナル強度が約25%減弱された。 本発明が、生体から採取された血液に対しても有効であることが示された。また、本発明が、酸化ストレスに関連する疾病の診断に有効であることが示された。(A)水溶液状又は水分散液状の被検液に、次の一般式(I)で表されるスピントラップ剤を溶解する工程、(B)工程(A)で得られた溶液に、少なくとも1種の水不溶性有機溶媒を含む抽出用溶媒を加える工程、(C)工程(B)によって得られた有機層を水層と分離して、電子スピン共鳴測定用試料溶液を得る工程、及び(D)工程(C)によって得られた電子スピン共鳴測定用試料溶液から溶媒を揮散させ除去して乾固物を得る工程を含む方法によって得られる電子スピン共鳴測定用試料溶液の乾固物であって、式(I)において、R1及びR2の何れもがフェニル基であることを特徴とする電子スピン共鳴測定試料溶液の長期保存乾固物。 被検液が、生体試料であることを特徴とする請求項1に記載の電子スピン共鳴測定用試料溶液の長期保存乾固物。 抽出用溶媒が、クロロホルム/メタノール混合溶媒であることを特徴とする請求項1又は請求項2の何れか1項に記載の電子スピン共鳴測定用試料溶液の長期保存乾固物。 更に冷却保存されてなることを特徴とする請求項1〜請求項3の何れか1項に記載の電子スピン共鳴測定用試料溶液の長期保存乾固物。(E)請求項1〜請求項4の何れかの長期保存乾固物を再溶解して、溶液を得る工程、および(F)工程(E)で得られた溶液に含まれるスピンアダクトの量を、電子スピン共鳴装置で測定する工程を含む方法によって被検液中のフリーラジカルの量を求めることを特徴とする測定方法。


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