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タイトル:特許公報(B2)_色変換素子およびその色変換方法
出願番号:2010272997
年次:2015
IPC分類:G01N 31/22


特許情報キャッシュ

宮内 雅浩 世継 和也 柳井 俊輔 JP 5709204 特許公報(B2) 20150313 2010272997 20101207 色変換素子およびその色変換方法 独立行政法人産業技術総合研究所 301021533 積水樹脂株式会社 000002462 川口 嘉之 100100549 松倉 秀実 100090516 平川 明 100113608 関根 武彦 100123319 宮内 雅浩 世継 和也 柳井 俊輔 20150430 G01N 31/22 20060101AFI20150409BHJP JPG01N31/22 121Z CAplus/REGISTRY(STN) JSTPlus(JDreamIII) G01N 31/22 特開2007−071866(JP,A) 特開平03−035138(JP,A) 特開平4−351948(JP,A) 特開昭58−752(JP,A) 特表2005−502047(JP,A) Chem. Commun., 2011, 47, 8596-8598 J. Mater. Chem. C, 2014, 2, 3732-3737 日本セラミック協会年会講演予稿集,2012年,Vol.2012, Page.231 2I27 8 2012123990 20120628 13 20130712 (出願人による申告)平成22年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「循環社会構築型光触媒産業創成プロジェクト/光触媒関連基礎技術の開発ならびに新環境科学領域の創成事業」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願 三木 隆 本発明は、容易な工程で色変換が可能な耐久性の高い色変換素子およびその色変換方法に関する。 色変換素子として、光照射によって色が変わるフォトクロミック素子が知られている。例えば、特許文献1に開示されているように、酸化タングステンがフォトクロミック材料として良く使用されるが、着色工程には酸化タングステンを励起するための強い光照射が必要となる。一般的に、フォトクロミズムの原理を用いた色変換素子は、その着色に強い光照射を必要とし、使用範囲が限定されるという問題点があった。 一方、電界の印加によって色が変わるエレクトロクロミック素子も色変換素子として知られている。例えば、特許文献2に開示される色変換素子は、酸化モリブデンのような酸化物発色層と対向電極である透明導電膜からなり、発色層と透明導電膜の間には電解液が満たされている。そして、当該色変換素子は、発色層と対向電極に電場を印加することで着色、脱色が可能である。しかし、特許文献2に開示される色変換素子を含めエレクトロクロミズムの原理を用いた色変換素子は、その色変換に電界を印加するための電源を必要とし、使用範囲が限定されるという問題点があった。また、エレクトロクロミズムの原理を用いた色変換素子では、長期的な耐久性を達成するため、電解液の封止技術にも気を使わなければならないという問題点があった。 更に、以上のような、フォトクロミック素子及びエレクトロミック素子において、有機分子を用いた色変換素子が、例えば、特許文献3及び4に開示されている。しかし、これらの有機分子を用いた色変換素子では長期的な熱的、化学的耐久性は得られないという問題点があった。特開平9-230390号公報特開2010-14917号公報特開平6-95289号公報特開平5-59354号公報F. D. Quarto, A. D. Paola, C. Sunseri, Electrochimica Acta, 26, 1177 (1981).Grunert et al. Journal of Catalysis, 107, 522-534 (1987). 以上のような問題点に鑑み、本発明が解決しようとする課題は、容易な工程で色変換が可能な耐久性の高い色変換素子およびその色変換方法を実現することにある。 また、本発明の別の目的は、電源を必要としない(自己発電型)酸化還元反応によるクロミック素子(色変換素子)または色変換方法を実現することにある。 本発明の色変換素子及び色変換方法は、上記の課題を解決するために、以下の構成を採用する。 すなわち、本発明の色変換素子は、金属を含む基材と、前記基材に含まれた金属と少なくとも一部において接触した酸化物を含む着色層と、を備える。そして、本発明の色変換素子は、前記金属の酸化還元電位が前記酸化物のフラットバンドポテンシャルよりも負の電位であって、少なくとも前記金属にイオン媒体を接触させて前記酸化物を還元することで着色し、かつ、少なくとも前記酸化物に酸化剤を暴露して前記酸化物を酸化することで脱色するクロミズムに用いることを特徴とする。 また、本発明の色変換方法は、少なくとも前記色変換素子の前記金属にイオン媒体を接触させて前記酸化物を還元することで着色する。また、少なくとも前記色変換素子の前記酸化物を酸化剤に暴露させて前記酸化物を酸化することで脱色する。 なお、前記酸化物は酸化タングステンであってもよい。また、前記酸化タングステンは、結晶性酸化タングステンまたはアモルファス酸化タングステンの少なくともいずれか一方であってもよい。 なお、前記金属はアルミニウムであってもよい。また、前記酸化物はドット状に形成されてもよい。 なお、本発明の色変換素子は、前記酸化剤の還元に用いるイオン媒体を備えても良い。 上記構成によれば、本発明に係る色変換素子及び色変換方法は、少なくとも前記金属をイオン媒体に接触することで着色し、少なくとも前記酸化物を酸化剤(大気(酸素)等)に暴露することで脱色するため、容易な工程で色変換が可能である。また、本発明に係る色変換素子及び色変換方法は、有機分子を必要としないため、長期的な耐久性に優れている。更に、上記構成によれば、少なくとも前記金属をイオン媒体に接触することで着色し、少なくとも前記酸化物を酸化剤(大気(酸素)等)に暴露することで脱色するため、電源を用いずに酸化還元反応を引き起こすことができ、色変換を実現することができる。 本発明によれば、容易な工程で色変換が可能な耐久性の高い色変換素子およびその色変換方法を提供することができる。また、本発明によれば、電源を必要としない(自己発電型)酸化還元反応によるクロミック素子(色変換素子)または色変換方法を実現することができる。本発明の一態様の色変換素子の全体像を示す図。本発明の一態様の色変換素子の着色層と基材との界面状態を示す図。本発明の実施例における色変換素子のエネルギーダイアグラムを示す図。本発明の実施例における色変換素子の走査型電子顕微鏡写真。本発明の実施例における色変換素子(#1試料)の色変換前後の写真。本発明の実施例における色変換素子(#1試料)の色変換後の写真と走査型電子顕微鏡写真。本発明の実施例における色変換素子(#1試料)のX線光電子分光法によってタングステン4f軌道を測定した結果を示す図と測定ポイントを示す写真。本発明の実施例における色変換素子(#2試料)の色変換特性の写真。本発明の実施例における色変換素子(#2試料)の色変換前後の反射スペクトルを示す図。本発明の実施例における色変換素子(#3試料)の色変換前後の写真。本発明の実施例における色変換素子(#2試料)の各種脱色工程での吸光度の変化を示す図。本発明の実施例における色変換素子(#2試料)の繰り返し着色、脱色特性を示す図。本発明の実施例における色変換素子(#2試料)の繰り返し特性評価後の表面の走査型電子顕微鏡写真。 以下、本発明の一側面に係る色変換素子及び色変換方法を、実施の形態(以下、「本実施形態」と表記する)として説明する。ただし、本発明は、本実施形態に限定される訳ではない。 以下すべて、本実施形態の色変換素子は、金属を含む基材と、前記基材に含まれた金属と少なくとも一部において接触した酸化物を含む着色層と、を備える。そして、本実施形態の色変換素子は、前記金属の酸化還元電位が前記酸化物のフラットバンドポテンシャルよりも負の電位であって、少なくとも前記金属にイオン媒体を接触させて前記酸化物を還元することで着色し、かつ、少なくとも前記酸化物に酸化剤を暴露して前記酸化物を酸化することで脱色するクロミズムに用いることを特徴とする。 また、本実施形態の色変換方法は、少なくとも前記色変換素子の前記金属に前記イオン媒体を接触させて前記酸化物を還元することで着色する。そして、少なくとも前記色変換素子の前記酸化物を酸化剤に暴露させて前記酸化物を酸化することで脱色する。 本実施形態の色変換素子の構造及び色変換方法の一例を図1、図2に示す。なお、本発明の色変換素子はこれらの図になんら限定されるものではない。図1は、本実施形態に係る色変換素子の全体像の一例を示す。そして、図2は、本実施形態に係る色変換素子の着色層と基板の界面を拡大した図の一例を示す。 着色層にある酸化物の一部は基材に含まれる金属の一部と接触している。そして、イオン媒体が金属に接触すると、金属の酸化還元電位と酸化物のフラットバンドポテンシャルの電位差によって起電力が生じる。当該起電力によって、金属は酸化し、酸化物は還元されて着色する。このように着色を引き起こすための前記起電力は、前記金属の酸化還元電位と前記酸化物のフラットバンドポテンシャルの電位差によって誘起される。すなわち、着色を起こすためには、つまり、前記酸化物を還元するためには、前記金属の酸化還元電位が前記酸化物のフラットバンドポテンシャルよりも負の電位であることが必要である。なお、着色層にある酸化物が粒子状である場合、全ての粒子が金属に接触する必要は無く、一部の酸化物が金属に接触していれば良い。酸化物が一部でも金属に接触していれば、前記起電力が発生するからである。 本実施形態に係る金属がアルミニウム、酸化物が酸化タングステンの場合の色変換機構について、図3のエネルギーダイアグラムを使って説明する。なお、本実施形態に係る色変換素子における金属と酸化物の組み合わせはこのようにアルミニウムと酸化タングステンの組み合わせに限定されるものではない。 図3における縦軸は標準水素電極電位(NHE)を示し、上方が負(卑)の電位、下方が正(貴)の電位を示す。アルミニウムの酸化還元電位は-1.662Vに対し、酸化タングステンのフラットバンドポテンシャルは非特許文献1に開示されているように、+0.2〜+0.5Vの範囲であることが知られている。従って、アルミニウムと酸化タングステンの間には電位差(ΔE=1.862 V〜2.162 V)が生じる。この電位差による起電力によってアルミニウムは酸化され、酸化タングステンは還元される。 酸化タングステンに存在するタングステンの酸化数は大気中では6価で安定であるが、還元反応によって5価または4価になる。還元される前の酸化タングステンは黄色であるが、酸化数が5価または4価の状態のタングステンは青色である。したがって、上記還元反応によって酸化タングステンは黄色から青色へ変化する。 更に、青色に着色した酸化タングステンを含む色変換素子を酸素等の酸化剤、例えば、大気中に暴露すると、酸化数が5価または4価の状態を含む酸化タングステンが酸化され、タングステンの酸化数が元の6価の状態に戻り脱色する。つまり、酸化タングステンの色は青色から黄色へ戻る。 このような酸化タングステンの着色と脱色は上記工程(還元と酸化)を繰り返すことで繰り返し発現する。 一方、アルミニウムは、酸化されてイオン媒体溶液中に溶出するか、表面に酸化被膜、水酸化物被膜、ないし、アルミン酸被膜の少なくともいずれか一つを生成する。本実施形態の色変換素子は、酸化タングステンの還元飽和容量に達すると酸化反応も停止するので、アルミニウムの溶出量はごく微量で、着色層がはがれることはなく、長期的に繰り返し着色と脱色とを発現することができる。 本実施形態に係る酸化物のフラットバンドポテンシャルはその合成方法、酸化物結晶性や微細組織に影響を受けるが、前記非特許文献1に示されているように、光電流の測定や電気化学的な測定によって測定することができる。なお、金属の酸化還元電位は従来から詳細に調べられている。 なお、本実施形態に係る酸化物として、酸化タングステンを使用することが好ましい。前記酸化タングステンは、結晶性の酸化タングステンであっても、アモルファスの酸化タングステンであっても構わない。結晶性の酸化タングステンの場合、着色前は黄色、着色後は青色に変化し、アモルファスの酸化タングステンの場合、着色前は透明ないし白色、着色後は青色に変化する。 本実施形態に係る酸化物は、そのフラットバンドポテンシャルが基材に含まれる金属の酸化還元電位よりも正の電位であればどのような酸化物を用いても構わない。本実施形態の着色層として使用できる酸化物は、基材に含まれる金属として何を使用するかに依存する。例えば、基材に含まれる金属としてアルミニウムを用いる場合、アルミニウムの酸化還元電位よりもフラットバンドポテンシャルが正の電位である酸化物として、酸化モリブデン、酸化マンガン、酸化チタン、酸化バナジウム、酸化ニッケル、酸化コバルト、酸化ニオブからなる群から選択される少なくとも一つの酸化物が使用できる。 また、これらの酸化物は、結晶性の酸化物、アモルファスの酸化物、ないしそれらの混合物であっても構わない。また、多色変換をおこなうため、本発明に係る着色層は、前記酸化物の群ないし酸化タングステンから選択される複数の酸化物を組合せて含んでも構わない。 本実施形態に係る基材は、酸化還元電位が前記酸化物のフラットバンドポテンシャルよりも負の電位である金属を含む。本実施形態に係る基材は、金属基材を用いても良いし、金属基材を表面にコートしたガラス、セラミックス等の無機多結晶体や単結晶基板、プラスチック、フィルムなどを用いても良い。また前記基材は、平滑な平板に限る必要は無く、ガラス、セラミックス、金属等の複雑形状な基材や、多孔質の発泡体、ハニカム、ガラスやセラミックスの不織布、ガラス繊維、ガラスやシリカゲルなどのビーズ状物質等であっても良い。なお、前記金属は基板の中に練りこんだ構造でも構わない。 本実施形態に係る金属は、アルミニウムであることが好ましい。アルミニウムは、軽量で安価、そして、酸化還元電位が比較的負(卑)の電位のため、本発明の色変換素子に好適に使用することができる。 本実施形態に係る金属は、その酸化還元電位が前記酸化物のフラットバンドポテンシャルよりも負の電位であればどのような金属を用いても構わない。使用できる金属は、着色層の酸化物として何を使用するかに依存する。例えば、酸化物が酸化タングステンの場合、本実施形態に係る金属は、酸化タングステンのフラットバンドポテンシャルよりも酸化還元電位が負の電位であるリチウム、セシウム、ルビジウム、カリウム、バリウム、ストロンチウム、カルシウム、ナトリウム、マグネシウム、マンガン、タンタル、亜鉛、クロム、鉄、カドミウム、コバルト、ニッケル、スズ、鉛、アンチモン、ビスマス、銅からなる群から選択される少なくとも一つの金属であってもよい。本実施形態に係る基材は、これらの群の金属とアルミニウムから選択される複数の金属を含んでも構わない。 本実施形態に係る着色層は色変化を起こす酸化物を含む。本実施形態に係る着色層は、着色層の耐久性を高めるため、バインダーを備えてもよい。また、前記酸化物が粒子状の場合、全ての粒子が基材に含まれる金属に接触している必要は無く、粒子の一部が接触していれば色変換特性が得られる。 着色層を基材上に形成するための方法は、スピンコーティング、フローコーティング、ディップコーティング、スプレーコーティング、ロールコーティング等であることが好ましい。また、着色層を基材上に形成するための方法は、これらの湿式合成法以外にも、スパッタリング法、CVD法、プラズマCVD法、イオンプレーティング法、MBE、パルスレーザーデポジション(PLD)法等であっても構わない。 本実施形態に係る色変換素子は、少なくとも基材に含まれる金属とイオン媒体とを接触させることで着色しうる。なぜなら、金属に接触した酸化物は、金属がイオン媒体により酸化されることで放出した電子を用いて還元反応することが可能だからである。ただし、イオン媒体は、基材に含まれる金属と着色層にある酸化物の双方に接触することが好ましい。このため、前記酸化物が、前記金属を含む基材の上にドット状に形成されていることが好ましい。また、酸化物を含む着色層を均一に基材上にコーティングする場合、その膜厚は1μm以下であることが好ましい。 前記イオン媒体が、前記金属及び前記酸化物と接触することで金属の酸化反応と酸化物の還元反応が同時に進行するが、特に金属の酸化反応を促進するため、前記イオン媒体は、水溶液であることが好ましく、pHの範囲が0〜5、ないし、9〜14の範囲である水溶液であることが更に好ましい。イオン媒体のpHをこの範囲に設定することで、金属の酸化反応が促進され、着色速度が速くなる。 前記金属がアルミニウムの場合、イオン媒体は、pHの範囲が0〜4である水溶液であることが好ましい。イオン媒体のpHがアルカリ性になるとアルミニウムの表面に水酸化物の被膜が生成され、繰り返し色変換特性が悪くなる。したがって、前記金属がアルミニウムである場合、イオン媒体は酸性であることが好ましい。 なお、前記イオン媒体は、水溶液であることが好ましいが、例えば、ゲル状の電解質等、水溶液でなくともよい。 本実施形態に係る色変換素子は、着色した後、少なくとも酸化剤(本実施形態では、酸素)に暴露することで脱色して元の色に戻る。酸素への暴露方法は、例えば、大気中に当該素子を放置することである。その他、脱色速度を高めるため、酸素への暴露方法は、基板に含まれる金属が酸化しない程度の加熱処理を含んでも構わない。金属がアルミニウムの場合、本実施形態に係る色変換素子は、大気中で100℃以上の加熱処理をおこなうことにより、室温で大気暴露するよりも速やかに脱色される。 また、本実施形態に係る色変換素子における酸化剤としては、例えば、オゾン、過酸化水素、ハロゲン(フッ素、塩素、臭素)からなる群より選択される少なくとも一つのガス状のものを用いても良い。また、前記酸化剤として、硝酸カリウム、次亜塩素酸、亜塩素酸、塩素酸、過塩素酸、ヨウ素、過マンガン酸塩、硝酸セリウムアンモニウム、クロム酸、二クロム酸、ニトロベンゼンからなる群より選択される少なくとも一つの物質が含まれる溶媒を用いても構わない。 本発明の色変換素子の使用を開始する時点で、あらかじめ前記イオン媒体を前記金属の表面に接触させた状態であっても構わない。前記色変換素子の使用を開始するまでの間、前記イオン媒体の蒸発を防ぐため、本発明の色変換素子の表面を樹脂フィルム等で被覆しても構わない。 本実施形態に係る色変換素子において、前記着色と脱色は繰り返し発現する。着色工程はイオン媒体との接触、脱色工程は大気中への暴露と大変容易な工程であり、センサー、表示素子などに有用な技術を提供することが期待できる。 次に、本発明を実施例により具体的に説明する。ただし、本発明は、これらの実施例になんら制限されるものではない。 1.色変換素子の作製 基材として1cm角、厚さ1mmのアルミニウム基板を用い、市販の結晶化酸化タングステン粉末を分散させた水溶液を当該アルミニウム基板にスピンコートした。酸化タングステン粉末の固形分濃度10wt%、1wt%とした場合のサンプルを#1、#2試料とする。 更に、1cm角、厚さ1mmのアルミニウム基板の上にパルスレーザーデポジション(PLD法)でアモルファス状の酸化タングステン薄膜をコーティングした。このサンプルを#3試料とする。 2.色変換素子の構造解析 走査型電子顕微鏡(SEM:株式会社日立ハイテクノロジーズ製、S-4800)を用いて色変換素子の構造を観察した。図4に試料のSEM像を示す。#1、#2試料のSEM像はアルミニウム基板の面に対して30°の角度から観察した像であり、#3試料のSEM像はアルミニウム基板の表面から観察した像である。#1、#2試料における酸化タングステンの膜厚はそれぞれ4μm, 0.8μmであった。#3試料における酸化タングステンは、コラム状に成長した多孔質であり、金属基材(アルミニウム基板)とイオン媒体との接触が可能である構造であった。 3.色変換特性の評価 3−1.#1試料の色変換特性 図5は、#1試料をイオン媒体に接触させた前後の写真を示す。#1試料に用いたイオン媒体はpH=1.68のシュウ酸緩衝水溶液である。この結果、#1試料の酸化タングステン(着色層)は点状で部分的に青色に着色した。 図6は、着色した部分を走査型電子顕微鏡(SEM:株式会社日立ハイテクノロジーズ製、S-4800)により観察した結果を示す。図6より、青色に着色した中心にピンホールがあることが明らかになった。つまり、#1試料において、シュウ酸緩衝水溶液は、このピンホールを介してアルミニウム基板と酸化タングステンとの双方に接触したことにより、アルミニウムの酸化反応及び酸化タングステンの還元反応が進行し、酸化タングステンが着色したものと思われる。したがって、本発明に係る色変換素子の着色にはイオン媒体と金属基材の接触が重要であることがわかった。 次に、#1試料の酸化タングステンの酸化数(価数)を調べるため、X線光電子分光法(XPS:Physical Electronics社製、Quantum 2000)を用い、ビームサイズ1μmの分析でタングステンの4f軌道を測定した。図7は、その測定結果を示す。 非特許文献2には、上記測定により得られるタングステンのスペクトルは、価数(酸化数)が6価よりも低価数のタングステンが生じることにより、そのピーク値がブロード化し、低エネルギー側にシフトすることが示されている。この点、図7において示されるとおり、着色前のタングステン(図7のA)のスペクトルは6価に帰属していることが観測された。また、青色に着色した部分(図7のC)のスペクトルは、そのピーク値がブロード化し、低エネルギー側にシフトしていることが観測されたため、青色の部分に6価よりも低価数のタングステンが生じていることがわかった。このことから、着色は酸化タングステンの還元によって誘起されていることが明らかになった。 3−2.#2試料の色変換特性 #2試料に対し、3種のイオン媒体を用いて、色変換特性を評価した。イオン媒体として、シュウ酸緩衝水溶液(pH=1.68)、大気中の酸化物が溶け込んだ純水(pH=5.5)、ほう酸緩衝水溶液(pH=9.18)を用いた。また、脱色工程として、着色後、#2試料を室温の大気中に放置した。 図8は、#2試料の色変化の様子を示す。#1試料に同条件(イオン媒体としてシュウ酸緩衝水溶液を用いた場合)で着色試験を行った場合よりも、#2試料の方が全面にわたって均一に着色した。これにより、酸化タングステンの膜厚は薄い方が好ましいことが分かった。 また、#2試料を室温の大気中に暴露することで脱色し、再度、イオン媒体に接触させた。これにより、図8に示されるとおり、着色と脱色とが繰り返し発現することがわかった。 また、#2試料において、イオン媒体として、ほう酸緩衝水溶液(pH=9.18)を用いた場合に着色が不均一になり、シュウ酸緩衝水溶液(pH=1.68)を用いた場合に着色が均一になった。これにより、#2試料(基材に含まれる金属がアルミニウム)を均一に着色させるためには、イオン媒体は酸性である方が良いことも明らかになった。なお、イオン媒体が純水の場合、顕著な色変化は起こらなかった。 更に着色から脱色の過程での色変化を定量的に評価するため、分光光度計(日本分光株式会社製、V−660)を用いて拡散反射率を測定した。図9はその測定結果を示す。この結果、着色前は酸化タングステンのバンドギャップ遷移による吸収のプロファイルが見られたが、イオン媒体への浸漬によって強い可視光の吸収が発現し、反射率が顕著に低下した。その後、大気中に暴露することによって再び着色前の状態に復活することがわかった。 3−3.#3試料の色変換特性 図10は、#3試料をイオン媒体に接触させた前後の写真を示す。#3試料を着色させるために用いたイオン媒体はpH=1.68のシュウ酸緩衝水溶液である。この結果、アモルファス状の酸化タングステンである#3試料でも高度に着色することが明らかになった。 4.脱色工程の評価 #2試料に対し、pH=1.68のシュウ酸緩衝水溶液のイオン媒体で着色させた後、脱色工程を各種条件のもと行い、当該各種条件における色の変化を分光光度計(日本分光株式会社製、V−660)により測定し、評価した。図11は、拡散反射率から計算される吸光度のうち、波長550nmの吸光度変化を示す。 この結果、窒素中では青色に着色した試料は元に戻らない一方、酸素存在下では脱色することが明らかになった。また、大気中で加熱処理をすることによって酸化反応が促進され、脱色速度が向上することも明らかになった。 5.色変換の繰り返し特性の評価 #2試料に対し、着色工程としてpH=1.68のシュウ酸緩衝水溶液に10分間浸漬、脱色工程として120℃の大気中に30分間暴露を5回繰り返した場合の吸光度の変化を、分光光度計(日本分光株式会社製、V−660)を用いて評価した。結果を図12に示したが、着色、脱色が繰り返し再現することが明らかになった。 繰り返し特性を評価した後、表面の微細組織を走査型電子顕微鏡(SEM:株式会社日立ハイテクノロジーズ製、S-4800)を用いて観察した。結果を図13に示したが、表面組織に大きな変化はなく着色層の剥離も見られなかった。 本発明の色変換素子は、着色工程がイオン媒体との接触、脱色工程が酸素への暴露と非常に容易な工程で色変換が可能である。また、有機分子を使用していないため繰り返し耐久性も高い。本発明の色変換素子は、センサー、表示素子、遮光素子などに有用な技術を提供することができる。 金属を含む基材と、 前記基材に含まれた金属と少なくとも一部において接触した酸化物を含む着色層と、を備え、 前記金属の酸化還元電位が前記酸化物のフラットバンドポテンシャルの最小値よりも負の電位であって、 少なくとも前記金属にイオン媒体を接触させて前記酸化物を還元することで着色し、かつ、少なくとも還元された前記酸化物に酸化剤を暴露して前記酸化物を酸化することで脱色するクロミズムに用い、 前記酸化物は酸化タングステンであり、 前記酸化剤は酸素であることを特徴とする色変換素子。 前記酸化タングステンが結晶性の酸化タングステンないしアモルファスの酸化タングステンの少なくともいずれか一方であることを特徴とする請求項1に記載の色変換素子。 前記金属がアルミニウムであることを特徴とする請求項1または2に記載の色変換素子。 前記酸化物が、ドット状に形成されていることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の色変換素子。 前記イオン媒体が水溶液であって、pHの範囲が0〜5、または、9〜14の範囲であることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の色変換素子。 金属を含む基材と、 前記基材に含まれた金属と少なくとも一部において接触した酸化物を含む着色層と、 イオン媒体と、を備え、 前記金属の酸化還元電位が前記酸化物のフラットバンドポテンシャルの最小値よりも負の電位であって、 少なくとも前記金属の表面に前記イオン媒体を接触させて前記酸化物を還元することで着色し、かつ、少なくとも還元された前記酸化物に酸化剤を暴露して前記酸化物を酸化することで脱色するクロミズムに用い、 前記酸化物は酸化タングステンであり、 前記酸化剤は酸素であることを特徴とする色変換素子。 金属を含む基材と、前記基材の上部に設けられた酸化物を含む着色層と、を備え、前記金属と前記酸化物とが少なくとも一部において接触し、前記金属の酸化還元電位が前記酸化物のフラットバンドポテンシャルの最小値よりも負の電位である色変換素子の色変換方法において、 少なくとも前記金属にイオン媒体を接触させて前記酸化物を還元することで着色し、 前記酸化物は酸化タングステンであり、 前記酸化剤は酸素であることを特徴とする色変換方法。 金属を含む基材と、前記基材の上部に設けられた酸化物を含む着色層と、を備え、前記金属と前記酸化物とが少なくとも一部において接触し、前記金属の酸化還元電位が前記酸化物のフラットバンドポテンシャルの最小値よりも負の電位である色変換素子の色変換方法において、 少なくとも前記金属の表面に前記イオン媒体を接触させて前記酸化物を還元することで着色し、かつ、少なくとも還元された前記酸化物に酸化剤を暴露させて前記酸化物を酸化することで脱色し、 前記酸化物は酸化タングステンであり、 前記酸化剤は酸素であることを特徴とする色変換方法。


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