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タイトル:公開特許公報(A)_水溶性ビスマス化合物結晶とその製造方法
出願番号:2010269603
年次:2012
IPC分類:C07C 229/76,C07C 229/16,C07C 59/08,C01G 29/00,C07F 9/94


特許情報キャッシュ

垣花 眞人 柳澤 遼太郎 加藤 英樹 JP 2012116805 公開特許公報(A) 20120621 2010269603 20101202 水溶性ビスマス化合物結晶とその製造方法 マツモトファインケミカル株式会社 000188939 国立大学法人東北大学 504157024 高橋 徳明 100125748 田嶋 麻美 100171538 垣花 眞人 柳澤 遼太郎 加藤 英樹 C07C 229/76 20060101AFI20120525BHJP C07C 229/16 20060101ALI20120525BHJP C07C 59/08 20060101ALI20120525BHJP C01G 29/00 20060101ALI20120525BHJP C07F 9/94 20060101ALN20120525BHJP JPC07C229/76C07C229/16C07C59/08C01G29/00C07F9/94 8 1 OL 16 4G048 4H006 4H050 4G048AA01 4G048AB02 4G048AD06 4G048AE05 4G048AE08 4H006AA01 4H006AA02 4H006AB82 4H006AC47 4H006BS10 4H006BU32 4H050AA01 4H050AA02 4H050AD15 4H050WB13 本発明は、強酸性ではない水溶液の状態であっても実質的に安定に存在する、新規な水溶性ビスマス化合物結晶に関するものであり、また、その新規な水溶性ビスマス化合物結晶からなるセラミックス材料に関するものである。 ビスマスは、フォトセラミックス材料としては基幹構成元素の1つであり、また、種々の機能性セラミックスの材料として極めて有用である(例えば、特許文献1、2)。また、半金属の特性を生かして、例えば鉛の代替材料としても注目されている。 更に、特許文献3、4には、電着塗料にサリチル酸ビスマス等のビスマス化合物を含有させることが記載されており、特許文献5には、記録材料にオキシ塩化ビスマスを含有させることが記載されている。また、特許文献6には、イソシアネート化合物の合成触媒として有機カルボン酸ビスマスを用いることが記載されている。 しかしながら、ビスマス化合物はその殆どが水に不溶である。また、たとえ水に可溶であっても、加水分解等によって容易に分解する。そのため、強酸性(例えば、pH2未満)の水溶液としてしか安定な水溶液は得られておらず、一般には、pH1以下の水溶液でしか安定に存在しないものが多い。例えば、代表的なビスマス化合物である硝酸ビスマスは水溶液としては安定ではない。このように、乳酸ビスマス錯体及びエチレンジアミン四酢酸ビスマス錯体は、何れも水溶液としては知られてはいるが、該水溶液は種々の分野にビスマス源としては利用し難く、従って、水溶液としての検討も殆どなされていない。 また、単結晶として得られたという報告もあるが(非特許文献1、2)、本発明の水溶性ビスマス化合物結晶とは単結晶の組成も結晶構造も異なり、水溶液としての安定性も異なるものであった。 近年、種々の機能性物質(材料)を調製する上で、水溶液プロセスの有用性は増してきており、強酸性ではない水溶液(例えば、pH2以上の水溶液)として安定な水溶性ビスマスへの要求は、ますます高くなってきている。しかしながら、公知技術では、室温(例えば、25℃)の水における十分な溶解度、pH2以上の水溶液としての安定性等について、十分満足できるものはなかった。特開2000−272971号公報特開2001−031219号公報特開2004−137365号公報特表2005−534796号公報特開2004−291264号公報特開2009−007409号公報化学大辞典6(共立出版株式会社発行)、第813頁「乳酸ビスマス」の項、(2003)Inorganic Chemistry, 33, 88 (1994) 本発明は上記背景技術に鑑みてなされたものであり、その課題は、強酸性ではない水溶液中で安定な水溶性ビスマス化合物結晶を提供することにあり、また、それを水に溶解してなる安定なビスマス化合物水溶液を提供することにあり、また、それを用いたセラミックス材料を提供することにある。 本発明者は、上記の課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、ビスマス含有水溶液に、「乳酸若しくは乳酸塩」又は「エチレンジアミン四酢酸若しくはエチレンジアミン四酢酸塩」を共存させる際に、かかる配位子を高濃度に存在させて特定の配位環境を設定することによって、ビスマス化合物を単結晶として析出させることができ、更に、かかるビスマス化合物結晶が、pH2以上の水溶液の状態でも実質的に安定であることを見出した。 また、上記のようにして得られたビスマス化合物の単結晶をX線構造解析したところ、ビスマス原子に、特定の化学構造(配位構造)で乳酸又はエチレンジアミン四酢酸が配位した新規なビスマス化合物であることを見出して、本発明を完成するに至った。 すなわち、本発明は、ビスマスに乳酸又はエチレンジアミン四酢酸が配位した水溶性ビスマス化合物結晶であって、pH2以上の水溶液の状態でも実質的に安定なものであることを特徴とする水溶性ビスマス化合物結晶を提供するものである。 また、本発明は、上記の水溶性ビスマス化合物結晶を水に溶解してなることを特徴とするビスマス化合物水溶液を提供するものである。 また、本発明は、ビスマス含有水溶液に、乳酸若しくは乳酸塩又はエチレンジアミン四酢酸若しくはエチレンジアミン四酢酸塩を加える工程を少なくとも有する水溶性ビスマス化合物結晶の製造方法であって、製造される水溶性ビスマス化合物結晶におけるビスマス原子1個に配位する乳酸又はエチレンジアミン四酢酸の個数をn個とするとき、該ビスマス含有水溶液中のビスマスのモル数の1.7nモル倍以上の乳酸若しくは乳酸塩又はエチレンジアミン四酢酸若しくはエチレンジアミン四酢酸塩を加えることを特徴とする水溶性ビスマス化合物結晶の製造方法を提供するものである。 また、本発明は、上記の水溶性ビスマス化合物結晶からなることを特徴とするセラミックス材料を提供するものである。 また、本発明は、上記のビスマス化合物水溶液を用いて製造することを特徴とするセラミックスの製造方法を提供するものである。 本発明によれば、ビスマスに特定の配位構造で乳酸又はエチレンジアミン四酢酸(以下、「EDTA」と略記する)が配位した新規なビスマス化合物及びビスマス化合物結晶を提供することができる。また、上記課題を解決した水溶性のビスマス化合物結晶、すなわち、強酸性でなくても水溶液として安定な水溶性ビスマス化合物結晶を提供することができる。 また、水に溶解してなるビスマス化合物水溶液は極めて安定であるので、その利用の際の取扱が容易であり、他の水溶性化合物と共に水に溶解して利用することが可能である。また、本発明によれば、水溶液プロセスによって、ビスマスを種々の材料に導入することができるので、セラミックスの合成等に極めて有用である。本発明の「ビスマスに乳酸が配位した水溶性ビスマス化合物」のX線回折による結晶構造の一例を示す図である。 薄い大きな球:Bi、濃い大きな球:O、濃い小さな球:C、薄い小さな球:H本発明の「ビスマスに乳酸が配位した水溶性ビスマス化合物」のX線回折による結晶構造を別の切り口から見たもの一例を示す図である。 薄い大きな球:Bi、濃い大きな球:O、濃い小さな球:C、薄い小さな球:H本発明の「ビスマスに乳酸が配位した水溶性ビスマス化合物」である式(1−1)で表わされる化合物のTG−DTAの測定結果を示す図である。本発明の「ビスマスにEDTAが配位した水溶性ビスマス化合物」のX線回折による化学構造の一例を示す図である。本発明の「ビスマスにEDTAが配位した水溶性ビスマス化合物」である式(2−1)で表わされる化合物のTG−DTAの測定結果を示す図である。 以下、本発明について説明するが、本発明は、以下の具体的形態に限定されるものではなく、技術的思想の範囲内で任意に変形することができる。1.水溶性ビスマス化合物、用語の定義 本発明は、ビスマスに乳酸又はエチレンジアミン四酢酸が配位した水溶性ビスマス化合物結晶であって、pH2以上の水溶液の状態でも実質的に安定なものであることを特徴とする水溶性ビスマス化合物結晶である。 本発明において、「結晶」とは、原子が規則性を持って配列している固体状の物体をいい、「単結晶」とは、X線構造解析が可能な程度の大きさを有する結晶、具体的には、それに外接する体積最小の直方体の稜の長さが、何れも100μm以上のものをいう。 また、本発明において、「水溶性」とは、25℃の水100gに対象物が5g以上溶解する性質のことをいう。 また、本発明において、「水溶液の状態でも実質的に安定」とは、pH2以上のある特定のpH範囲において、25℃の水溶液中で、少なくとも30日以上、実質的な分解が観測されない性質のことをいう。2.乳酸ビスマス化合物 上記「ビスマスに乳酸が配位した水溶性ビスマス化合物結晶」は、1個のビスマスに2座配位の乳酸が2個、1座配位の乳酸が3個配位し、そのうちの1個の2座配位の乳酸及び3個の1座配位の乳酸が他の1個のビスマスと架橋した化学構造を有し、単位構造が下記式(1)で表わされるものであることが好ましい。 [Bi(C3H4O3)2(C3H5O3)]2− (1) 上記式(1)で表わさせる水溶性ビスマス化合物の対カチオンは特に限定はなく、ビスマス化合物が水溶性となり、pH2以上の水溶液の状態でも実質的に安定なものを与えるものであれば任意の対カチオンが挙げられる。具体的には、例えば、H+(プロトン)、[NR1R2R3R4]+(R1ないしR4は、互いに異なっていてもよい水素原子、アルキル基又はアリール基を示す)、Li+、Na+、K+、Rb+、Cs+等が挙げられる。 式(1)中、(C3H4O3)は2座配位の乳酸を示し、カルボキシル基の水素と水酸基の水素が脱離した構造を有する。また、(C3H5O3)は1座配位の乳酸を示し、カルボキシル基の水素が脱離した構造を有する。上記式(1)で表わされる化学構造を有する乳酸ビスマス化合物は新規である。 ビスマス以外の金属で、乳酸が3個配位した錯体は知られているが、例えばチタン(Ti)の場合、3個とも2座配位である。現在のところ、全ての金属を対象としても、式(1)で表わされる本発明と同様の構造を有するオキシカルボン酸金属錯体は知られていない。また、金属のイオン半径によって錯体のとり得る構造(配位の仕方)は変わってくるので、配位構造に関して言えば、たとえビスマス以外の金属の錯体構造について類似のものが知られていたとしても、その情報はビスマス錯体の発明には適用できない。 具体的には、下記式(1−1)で示される単結晶が実際に確認されている。 [Bi(C3H4O3)2(C3H5O3)][2H+] (1−1) この単結晶について、X線回折を用いて構造解析を行ったところ、図1及び図2に示す化学構造を有する新規の水溶性ビスマス化合物であることが明らかになった。 図1及び図2に示す水溶性ビスマス化合物の結晶構造は、以下の通りである。単斜晶系(monoclinic)、空間群C2、格子定数:a=22.218Å、b=6.0909Å、c=11.160Å、α=90°、β=119.171°、γ=90°、Z=4 X線構造解析から求めた各元素の質量比は以下の通りである。H:3.15質量%、C:22.7質量%、Bi:43.9質量%、O:30.2質量% 元素分析から得られた各元素の質量比は以下の通りである。H:3.17質量%、C:22.57質量%、N:0.00質量%、残差(BiとO):74.26質量% X線構造解析から求めた各元素の質量比と元素分析から得られた各元素の質量比はほぼ一致した。 上記水溶性ビスマス化合物結晶について、TG−DTAを測定した結果を図3に示す。 TG−DTA測定後の試料はX線回折測定で、Bi2O3であることが確認された。 また、TG−DTA測定後の残差より求めた、TG−DTA測定前の水溶性ビスマス化合物結晶中のビスマスは、結晶全体に対して42.9質量%であった。この値も、上記2つの値とほぼ一致した。 上記の本発明の水溶性ビスマス化合物結晶の物性は、以下の通りである。25℃の水に対する溶解度:25g/水100mL安定なpH範囲:2.4〜3.5 すなわち、上記式(1−1)で表わされるビスマスに乳酸が配位した水溶性ビスマス化合物結晶は、十分な水溶性を有し、25℃で、pH2以上(実際はpH2.4〜3.5の範囲)で安定であり、前記定義の「水溶液の状態でも実質的に安定」であった。 なお、式(1−1)で表わされる化合物の水溶液は、pHが3.5より大きくなると、沈殿が生じる場合がある。 本発明は、(1)ビスマス含有水溶液に、乳酸若しくは乳酸塩又はエチレンジアミン四酢酸若しくはエチレンジアミン四酢酸塩を加える工程を少なくとも有する水溶性ビスマス化合物結晶の製造方法であって、 製造される水溶性ビスマス化合物結晶におけるビスマス原子1個に配位する乳酸又はエチレンジアミン四酢酸の個数をn個とするとき、該ビスマス含有水溶液中のビスマスのモル数の1.7nモル倍以上の乳酸若しくは乳酸塩又はエチレンジアミン四酢酸若しくはエチレンジアミン四酢酸塩を加えることを特徴とする水溶性ビスマス化合物結晶の製造方法でもある。 また、本発明は、(1)ビスマス含有水溶液に、乳酸若しくは乳酸塩又はエチレンジアミン四酢酸若しくはエチレンジアミン四酢酸塩を加える工程、及び、(2)過剰の配位子存在下でビスマスに対する配位環境の変化によって単結晶を析出させる工程、を少なくとも有する水溶性ビスマス化合物結晶の製造方法であって、 製造される水溶性ビスマス化合物結晶におけるビスマス原子1個に配位する乳酸又はエチレンジアミン四酢酸の個数をn個とするとき、該ビスマス含有水溶液中のビスマスのモル数の1.7nモル倍以上の乳酸若しくは乳酸塩又はエチレンジアミン四酢酸若しくはエチレンジアミン四酢酸塩を加えることを特徴とする水溶性ビスマス化合物結晶の製造方法であることが好ましい。 本発明の「ビスマスに乳酸が配位した水溶性ビスマス化合物結晶」は、 ビスマス含有水溶液に、乳酸若しくは乳酸塩を加える工程を少なくとも有する水溶性ビスマス化合物結晶の製造方法であって、 製造される水溶性ビスマス化合物結晶におけるビスマス原子1個に配位する乳酸の個数をn個とするとき、該ビスマス含有水溶液中のビスマスのモル数の1.7nモル倍以上の乳酸若しくは乳酸塩を加える製造方法で製造されることが好ましい。 例えば、上記式(1−1)で表わされる「ビスマスに乳酸が配位した水溶性ビスマス化合物結晶」は、ビスマス原子1個に配位する乳酸の個数は全部で3個であるので、該ビスマス含有水溶液中のビスマスのモル数の5モル倍(1.7×3モル倍)以上の乳酸若しくは乳酸塩を加えて製造することが好ましい。特に好ましくは、9〜18モル倍の乳酸若しくは乳酸塩の使用である。 上記式(1−1)で表わされる化合物は、ビスマス原子1個に配位する乳酸の個数は全部で3個であるので、上記した加える乳酸若しくは乳酸塩の好ましい数値範囲をそれぞれ3で割ると、配位する乳酸(3個)に対するモル倍となる。すなわち、結果として配位する乳酸の1.7モル倍以上の乳酸若しくは乳酸塩を加えて製造することが好ましく、より好ましくは、2〜10モル倍を加えることであり、特に好ましくは、3〜6モル倍を加えることである。 乳酸塩の対カチオンは特に限定はないが、例えば、H+(プロトン)、NH4+、Li+、Na+、K+、Rb+、Cs+等が挙げられる。 加える乳酸若しくは乳酸塩の量が少な過ぎると、上記式(1)で表わされる乳酸ビスマス錯体が得られず、得られるものは、水に対する溶解度が低く、水溶液として安定でないものの場合がある。 例えば、共立出版化学大辞典の「乳酸ビスマス」の項に記載され公知のBi(C3H5O3)(C3H4O3)は、ビスマスに乳酸が2個配位したものであり、上記式(1)で表わされるものではない。 また、水に対する溶解度は、25℃で0.77g/水100mLであるので、本発明の前記した「水溶性」には該当しない。 また、前記定義した本発明における「水溶液の状態でも実質的に安定」にも該当しないものである。 また、この化合物が単結晶として得られたという報告もない。従って、本発明における製造方法で製造されたものではないと考えられる。 本発明の「ビスマスに乳酸が配位した水溶性ビスマス化合物結晶」の製造方法は特に限定はないが、以下のように製造されることが好ましい。 すなわち、好ましくは、酢酸、乳酸等の有機酸水溶液に、硝酸ビスマス等のビスマス塩を加えて得られた無色透明溶液に、アンモニア水等のアルカリ水を加える。その後、好ましくは室温(25℃)で、6時間〜24時間撹拌し、生じた白色沈殿をろ過し水洗する。かかる白色沈殿に再度水を加え、そこに上記量の乳酸若しくは乳酸塩を加え、好ましくは室温(25℃)で、約1時間攪拌し、白色沈殿を溶解させて乳酸ビスマス錯体溶液を調製する。得られた錯体溶液を、好ましくは3日〜30日静置して、ビスマスに対する配位子の配位環境を変化させることにより、「ビスマスに乳酸が配位した水溶性ビスマス化合物結晶」を得る。 更に、得られた結晶を水に再溶解し、1日〜30日静置して水を蒸発させることによって再結晶させ、精製された「ビスマスに乳酸が配位した水溶性ビスマス化合物結晶」を得ることが好ましい。 乳酸は、L−乳酸でも、D−乳酸でも、DL−乳酸でもよいが、安定的に合成できる点、単一構造物である点等から、L−乳酸が好ましい。3.EDTAビスマス化合物 上記「ビスマスにエチレンジアミン四酢酸が配位した水溶性ビスマス化合物結晶」は、ビスマスに6座配位のエチレンジアミン四酢酸が1個配位した下記式(2)で表わされる化学構造を有するものであることが好ましい。 [Bi(C10H12N2O8)]− (2) 上記式(2)で表わさせる水溶性ビスマス化合物の対カチオンは特に限定はなく、ビスマス化合物が水溶性となり、pH2以上の水溶液の状態でも実質的に安定なものを与える対カチオンであれば任意のものが挙げられる。具体的には、例えば、[NR1R2R3R4]+(R1ないしR4は、互いに異なっていてもよい水素原子、アルキル基又はアリール基を示す)、Li+、Na+、K+、Rb+、Cs+等が挙げられる。結晶水の有無は特に限定はないが通常は存在する。 式(2)中、C10H12N2O8は6座配位のEDTAを示し、カルボキシル基の水素4個が脱離した構造を有し、カルボキシル基の水素が脱離した4個のOと、2個のNとがビスマスに配位した構造を有する。 EDTAビスマス錯体は、水溶液の状態では知られている。対カチオンがプロトンであるEDTAビスマス錯体の単結晶は報告されているが(非特許文献2参照)、その合成法は、ビスマスとEDTA原料を加えた熱水をろ過し、そのろ液を減圧乾燥させるというもので、錯体を用いた本発明の合成法とは異なる。更に、非特許文献2のプロトンを対カチオンとするEDTAビスマス錯体の基本構造は、本発明のEDTAビスマス錯体とは類似しているが、結晶構造は本発明のEDTAビスマス化合物と異なっている。また、非特許文献2の化合物の水溶性は検討されていない。 本発明においては、後記するように製造方法に特徴があることから、それによって得られた本発明のEDTAビスマス化合物は新規な構造のものであると考えられる。 具体的には、下記式(2−1)で示される単結晶が実際に確認されている。 [Bi(C10H12N2O8)][NH4+]・H2O (2−1) この単結晶について、X線回折を用いて構造解析を行ったところ、図4に示す化学構造の水溶性ビスマス化合物であることが明らかになった。 図4に示す水溶性ビスマス化合物の結晶構造は、以下の通りである。単斜晶系(monoclinic)、空間群P2(1)/C、格子定数:a=12.7252Å、b=9.1261Å、c=12.9817Å、α=90°、β=91.989°、γ=90°、Z=1 X線構造解析から求めた各元素の質量比は以下の通りである。H:3.37質量%、C:22.5質量%、N:7.88質量%、Bi:39.2質量%、O:27.0質量% 元素分析から得られた各元素の質量比は以下の通りである。H:3.34質量%、C:22.43質量%、N:7.92質量%、残差(BiとO):66.31質量% X線構造解析から求めた各元素の質量比と元素分析から得られた各元素の質量比はほぼ一致した。 上記水溶性ビスマス化合物結晶について、TG−DTAで測定した結果を図5に示す。 TG−DTA測定後の試料はX線回折測定で、Bi2O3であることが確認された。また、TG−DTA測定後の残差より求めた、TG−DTA測定前の水溶性ビスマス化合物結晶中のビスマスは、結晶全体に対して37.7質量%であった。この値も、上記2つの値とほぼ一致した。 この本発明の水溶性ビスマス化合物結晶の物性は、以下の通りである。25℃の水に対する溶解度:30g以上/水100mL水溶液pH:4.9安定なpH範囲:0.0〜10.3 すなわち、上記式(2−1)で表わされるビスマスにEDTAが配位した水溶性ビスマス化合物結晶は、十分な水溶性を有し、25℃で、pH2以上(実際はpH0.0〜10.3の範囲)で安定であり、前記定義の「水溶液の状態でも実質的に安定」であった。 本発明の「ビスマスにEDTAが配位した水溶性ビスマス化合物結晶」は、 ビスマス含有水溶液に、EDTA若しくはEDTA塩を加える工程を少なくとも有する水溶性ビスマス化合物結晶の製造方法であって、 製造される水溶性ビスマス化合物結晶におけるビスマス原子1個に配位するEDTAの個数をn個とするとき、該ビスマス含有水溶液中のビスマスのモル数の1.7nモル倍以上の乳酸若しくは乳酸塩を加える製造方法で製造されることが好ましい。 本発明の「ビスマスにEDTAが配位した水溶性ビスマス化合物結晶」は、 ビスマス含有水溶液に、EDTA若しくはEDTA塩を加える工程を少なくとも有する水溶性ビスマス化合物結晶の製造方法であって、 製造される水溶性ビスマス化合物結晶におけるビスマス原子1個に配位するEDTAの個数をn個とするとき、該ビスマス含有水溶液中のビスマスのモル数の1.7nモル倍以上の乳酸若しくは乳酸塩を加える製造方法で製造されることが好ましい。 EDTA塩の対カチオンは特に限定はないが、例えば、[NH4]+、Li+、Na+、K+、Rb+、Cs+等が挙げられる。 上記式(2−1)で表わされる「ビスマスにEDTAが配位した水溶性ビスマス化合物結晶」は、ビスマス原子1個に配位するEDTAの個数は1個であるので、該ビスマス含有水溶液中のビスマスのモル数の1.7モル倍(1.7×1モル倍)以上のEDTA若しくはEDTA塩を加えて製造することが好ましい。特に好ましくは、2モル倍以上のEDTA若しくはEDTA塩の使用である。上限は特に限定はないが、2.25モル倍以下が好ましい。 上記式(2−1)で表わされる化合物は、ビスマス原子1個に配位するEDTAの個数は1個であるので、上記加えるEDTA若しくはEDTA塩の数値範囲は、そのまま、配位するEATAの個数(すなわち1個)のモル倍と同一である。 加えるEDTA若しくはEDTA塩の量が少な過ぎると、上記式(2)で表わされるEDTAビスマス錯体の単結晶が得られない場合がある。 一方、加えるEDTA若しくはEDTA塩の量が多過ぎると、EDTA若しくはEDTA塩が使用する水に完全に溶解しない場合がある。 上記式(2)で表わされるEDTAビスマス錯体がプロトン以外をカウンターカチオンとして結晶化したという報告はない。従って、本発明における製造方法を使用して得られたEDTAビスマス錯体、特にNH4+を対カチオンとするEDTAビスマス錯体は、従来知られていないものである。 本発明の「ビスマスにEDTAが配位した水溶性ビスマス化合物結晶」の製造方法は特に限定はないが、以下のように製造されることが好ましい。 すなわち、好ましくは、水に、硝酸ビスマス等のビスマス塩を加え、2NH4・EDTA等のEDTA塩を上記した量だけ加え、アンモニア水等でpHを調整し、好ましくは室温(25℃)で、約1時間攪拌することにより無色透明なEDTAビスマス錯体溶液を調製する。その錯体溶液を、好ましくは3日〜30日静置して、ビスマスに対する配位子の配位環境を変化させることにより、「ビスマスにEDTAが配位した水溶性ビスマス化合物結晶」を得る。4.セラミックス材料 上記した水溶性ビスマス化合物結晶はセラミックス材料となる。また、上記したビスマス化合物水溶液を用いてセラミックスを好適に製造することが可能である。 かかるセラミックスの製造方法は、金属塩の水溶液からセラミックスを製造する公知の製造方法が適用できる。 本発明の水溶性ビスマス化合物結晶が、優れた水溶性を示し、強酸ではない水溶液中でも安定である作用・効果は明らかではなく、以下の作用効果の範囲に限定されるわけではないが、本発明の水溶性ビスマス化合物結晶は、水溶液中で安定な錯体構造を形成し、ビスマスの加水分解性が抑制されているからであると考えられる。 また、単結晶として得られたのは、水溶液中の過剰の配位子の存在下でビスマスに対する配位環境の変化によって単結晶が析出し易くなったからであると考えられる。 以下に、実施例及び比較例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限りこれらの実施例に限定されるものではない。実施例1 酢酸60gを水160gに溶解し、25℃において、そこに硝酸ビスマス(Bi(NO3)3・5H2O)を、48.5g加えて撹拌を行った。得られた無色透明の溶液に、濃度28%のアンモニア水を100g加えて、25℃で12時間撹拌を行った。得られた白色沈殿をろ過した後、水洗した。 上記水洗した白色沈殿に、水240gを加え、25℃で撹拌をしながら、ビスマスに対して9モル倍(81g)のL−乳酸を加えた。加えたL−乳酸の量は、結果として配位することになる乳酸(ビスマス1個に対して乳酸3個)の3モル倍(9モル倍/3個=3モル倍)であった。 得られた乳酸ビスマスの水溶液を、25℃で7日静置したところ、水溶性ビスマス化合物結晶が得られた。 この水溶性ビスマス化合物結晶15gを、25℃の水50gに加えたところ、容易に溶解し均一な水溶液になった。この水溶液を、25℃で7日間、静置して水を蒸発させたところ再結晶ができた。得られた結晶は針状であり、X線回折による結晶構造解析が可能である程の大きさであった。結晶構造解析の結果を図1及び図2に示す。 得られた水溶性ビスマス化合物結晶は、前記式(1−1)で表わされる化学構造を有していた。化学構造、結晶構造、結晶や水溶液の物性等については、前記した通りであった。すなわち、単結晶として得られた水溶性ビスマス化合物結晶(乳酸ビスマス化合物)は、新規なものであり、「水溶性」であり、「水溶液の状態でも実質的に安定」であった。 図1に得られた結晶構造を示す。複数の乳酸を介して錯体がy軸方向に連なった構造をとっている。乳酸のBiへの配位の仕方は3種類あった。 別の切り口から見た構造を図2に示す。図2に示すように、錯体の連なりは層状の構造をとっている。水溶液中では特定のビスマス−乳酸の結合切れて、単核のBi錯体として安定化しているものと考えられる。 以上より、組成式は、Bi(C3H4O3)2(C3H5O3) が妥当である。 TG−DTA測定を行ったところ、図4に示す結果が得られた。190℃〜400℃にかけて乳酸の脱離および分解反応が見られた。460℃における発熱反応は酸化ビスマスの結晶化によるものである。実施例2 水150gに、硝酸ビスマス(Bi(NO3)3・5H2O)を、25℃において、48.5g加えて撹拌を行った。得られた溶液に、2NH4・EDTAをビスマス1モルに対して2.25モル倍(73.4g)加えた後、濃度28質量%のアンモニア水を15g加え撹拌後、25℃で、7日間、静置したところ、水溶性ビスマス化合物結晶が得られた。 板上結晶が得られたが、X線回折による結晶構造解析が可能である程の大きさであった。化学構造を図4に示す。 得られた水溶性ビスマス化合物結晶は、前記式(2−1)で表わされる化学構造を有していた。 化学構造、結晶構造、結晶や水溶液の物性等については、前記した通りであった。すなわち、単結晶として得られた水溶性ビスマス化合物結晶(EDTAビスマス化合物)は、新規なものであり、「水溶性」であり、「水溶液の状態でも実質的に安定」であった。 TG−DTA測定を行ったところ、図5に示す結果が得られた。140℃〜240℃にかけての質量減少は、結晶水の脱離反応、240℃〜340℃にかけての質量の減少は、EDTAの脱離および分解反応、470℃における急激な発熱反応はEDTAの燃焼及び酸化ビスマスの結晶化によるものである。 本発明のビスマス錯体は、水溶性であり、pH2以上の水溶液中で安定であるため、水溶液プロセスを用いて、種々のビスマスを含んだ機能性物質(材料)を調製することができるようになるため、セラミックス、電着塗料、画像形成材料等の分野に広く利用されるものである。 ビスマスに乳酸又はエチレンジアミン四酢酸が配位した水溶性ビスマス化合物結晶であって、pH2以上の水溶液の状態でも実質的に安定なものであることを特徴とする水溶性ビスマス化合物結晶。 上記ビスマスに乳酸が配位した水溶性ビスマス化合物結晶が、1個のビスマスに2座配位の乳酸が2個、1座配位の乳酸が3個配位し、そのうちの1個の2座配位の乳酸及び3個の1座配位の乳酸が他の1個のビスマスと架橋した化学構造を有し、単位構造が下記式(1)で表わされるものである請求項1に記載の水溶性ビスマス化合物結晶。 [Bi(C3H4O3)2(C3H5O3)]2− (1) 上記ビスマスにエチレンジアミン四酢酸が配位した水溶性ビスマス化合物結晶が、ビスマスに6座配位のエチレンジアミン四酢酸が1個配位した下記式(2)で表わされる化学構造を有するものである請求項1に記載の水溶性ビスマス化合物結晶。 [Bi(C10H12N2O8)]− (2) 請求項1ないし請求項3の何れか1項に記載の水溶性ビスマス化合物結晶を水に溶解してなることを特徴とするビスマス化合物水溶液。 ビスマス含有水溶液に、乳酸若しくは乳酸塩又はエチレンジアミン四酢酸若しくはエチレンジアミン四酢酸塩を加える工程を少なくとも有する水溶性ビスマス化合物結晶の製造方法であって、製造される水溶性ビスマス化合物結晶におけるビスマス原子1個に配位する乳酸又はエチレンジアミン四酢酸の個数をn個とするとき、該ビスマス含有水溶液中のビスマスのモル数の1.7nモル倍以上の乳酸若しくは乳酸塩又はエチレンジアミン四酢酸若しくはエチレンジアミン四酢酸塩を加えることを特徴とする水溶性ビスマス化合物結晶の製造方法。 ビスマス含有水溶液に、乳酸若しくは乳酸塩又はエチレンジアミン四酢酸若しくはエチレンジアミン四酢酸塩を加える工程を少なくとも有する請求項1ないし請求項3の何れか1項に記載の水溶性ビスマス化合物結晶を得る製造方法であって、該水溶性ビスマス化合物結晶におけるビスマス原子1個に配位している乳酸又はエチレンジアミン四酢酸の個数をn個とするとき、該ビスマス含有水溶液中のビスマスのモル数の1.7nモル倍以上の乳酸若しくは乳酸塩又はエチレンジアミン四酢酸若しくはエチレンジアミン四酢酸塩を加えることを特徴とする水溶性ビスマス化合物結晶の製造方法。 請求項1ないし請求項3の何れか1項に記載の水溶性ビスマス化合物結晶からなることを特徴とするセラミックス材料。 請求項4に記載のビスマス化合物水溶液を用いて製造することを特徴とするセラミックスの製造方法。 【課題】強酸性ではない水溶液中で安定な水溶性ビスマス化合物結晶、及び、それを水に溶解してなる安定なビスマス化合物水溶液を提供すること。【解決手段】ビスマスに乳酸又はエチレンジアミン四酢酸が配位した水溶性ビスマス化合物結晶であって、pH2以上の水溶液の状態でも実質的に安定な水溶性ビスマス化合物結晶であり、特に、1個のビスマスに2座配位の乳酸が2個、1座配位の乳酸が3個配位し、そのうちの1個の2座配位の乳酸及び3個の1座配位の乳酸が他の1個のビスマスと架橋した化学構造を有し、単位構造が下記式(1)で表わされる水溶性ビスマス化合物結晶であり、[Bi(C3H4O3)2(C3H5O3)]2−(1)また、ビスマスに6座配位のエチレンジアミン四酢酸が1個配位した下記式(2)で表わされる化学構造を有する水溶性ビスマス化合物結晶である。[Bi(C10H12N2O8)]−(2)【選択図】図1


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