タイトル: | 公開特許公報(A)_N−保護アミノ酸の製造方法 |
出願番号: | 2010207930 |
年次: | 2011 |
IPC分類: | C07C 269/04,C07C 271/22,C07B 51/00,C07B 53/00 |
西国 智昭 岩木 孝晴 作山 正人 JP 2011063590 公開特許公報(A) 20110331 2010207930 20100916 N−保護アミノ酸の製造方法 積水メディカル株式会社 390037327 特許業務法人 もえぎ特許事務所 110000774 西国 智昭 岩木 孝晴 作山 正人 US 61/243,205 20090917 C07C 269/04 20060101AFI20110304BHJP C07C 271/22 20060101ALI20110304BHJP C07B 51/00 20060101ALI20110304BHJP C07B 53/00 20060101ALI20110304BHJP JPC07C269/04C07C271/22C07B51/00 DC07B53/00 G 7 OL 6 4H006 4H006AA02 4H006AC56 4H006AC80 4H006AC81 4H006AD15 4H006BB14 4H006BB31 4H006BE10 4H006RA06 4H006RB04 本発明は、N-保護アミノ酸の製造方法に関する。詳細には、アルカリ条件下でアミノ酸のアミノ基に保護基を導入する反応を行いN-保護アミノ酸を生成させた後、該反応液から、抽出工程及び濃縮工程を経ることなく、生成したN-保護アミノ酸を結晶として得る方法を提供するものである。 アミノ酸のアミノ基にカルボベンジルオキシ基(以下、Cbz基)などが導入されたN-保護アミノ酸はペプチド合成の原料として繁用されている。N-保護アミノ酸のうち、N-カルボベンジルオキシ-L-シクロヘキシルグリシン(以下、Cbz-CHG)は、セリンプロテアーゼ阻害活性を有する抗ウイルス薬やメタロプロテイナーゼ阻害活性を有する関節炎治療薬などのペプチド構造を分子内に有する医薬品の中間体として重要である。 N-保護アミノ酸の製造方法としては、例えば、Cbz-グリシンについて、グリシンをアルカリ条件(NaOH)下、カルボベンジルオキシクロライド(以下Cbz-Cl)と反応させてCbz-グリシンを生成させ、該反応液を貧溶媒(エーテル)で洗った後に、冷却条件、酸性条件(塩酸)下で結晶を析出させ、該結晶をろ取した後、クロロホルムで再結晶してCbz-グリシンを得る方法が知られている(非特許文献1)。 しかしながら、非特許文献1に記載の方法をCbz-CHGの製造に適用しようとして、アルカリ条件下にCbz-CHGを生成させた反応液を貧溶媒で洗った後に、酸を添加し結晶を析出させようとしても、ガム状の塊が生成してしまい結晶を得ることはできない。 一方、アミノ酸の保護体を製造する際、アミノ酸を出発原料としてその保護体を生成する反応を行なった後、いったん反応液より生成物を反応液とは混合しない有機溶媒で抽出し、該有機溶媒を留去して、必要に応じ貧溶媒を加えて生成物を晶析させる方法も繁用されている。この方法は、低融点のアミノ酸誘導体の製造において、複数種の有機溶媒を使用したり、冷却した有機溶媒を使用するなどの工夫をすることで油状物からも目的アミノ酸の保護体を結晶化することができる方法として知られている。 本発明者らは、上記に基づきアルカリ条件下Cbz-CHGを生成させた反応液について有機溶媒による抽出を行う方法(以下、従来の抽出・晶析法ということがある)を適用したところ、良好にCbz-CHG結晶を得ることができた。しかしながら、この方法では、抽出、濃縮等、工程数が多く高コストであり、また毒性、引火性等の危険性を有し得る有機溶媒を多量に使用する必要があるという問題があった。「ペプチド合成の基礎と実験」18頁(丸善株式会社、昭和60年1月20日発行) 本発明の課題は、N-保護アミノ酸、なかでもシクロヘキシルグリシン(以下、CHGということがある)のN-保護体、さらに詳細には、N-カルボベンジルオキシ-L-シクロヘキシルグリシンの製造において、従来の抽出・晶析法に対して工程数、有機溶媒の使用量、使用する有機溶媒の種類を低下、減少させた方法を提供することにある。 本発明者らは、Cbz-CHG製造方法について鋭意検討を行ったところ、非特許文献1のようにCbz-CHG含有反応液(アルカリ性)に対して直接酸を添加するのではなく、Cbz-CHG含有反応液(アルカリ性)に対して水溶性有機溶媒を添加した後に、酸により中和を行うと、Cbz-CHGの生成から結晶の取得までの工程において、抽出、濃縮、再結晶のいずれの工程も必要とせずに良好な結晶を得られることを見出し本発明を完成させた。 すなわち、本発明は、アルカリ条件下でアミノ酸のアミノ基に保護基を導入する反応を行いN-保護アミノ酸を生成させた後、該反応液から、抽出工程及び濃縮工程を経ることなく、生成したN-保護アミノ酸結晶を得ることを可能にするものであり、詳細には、以下の[1]〜[7]に記載のものである。 [1] 以下の工程を含むことを特徴とする、N-保護アミノ酸の製造方法。 (1)アルカリ条件下で、アミノ酸のアミノ基に保護基を導入しN-保護アミノ酸を生成させる工程、 (2)該反応液に対して、水溶性有機溶媒、及び随意により水、を加える工程、及び、 (3)工程(2)の後に、該反応液の液性を中性又は酸性とし、N-保護アミノ酸を結晶として得る工程 [2] アミノ酸が、L-シクロヘキシルグリシンである[1]に記載の方法。 [3] N-保護アミノ酸が、N-カルボベンジルオキシ-L-シクロヘキシルグリシンである[1]又は[2]に記載の方法。 [4] 水溶性有機溶媒がイソプロピルアルコールである[1]乃至[3]に記載の方法。 [5] 工程(2)において、N-保護アミノ酸が生成した工程(1)の反応液量に対して、水を0〜0.98容量、イソプロピルアルコールを0.14〜0.56容量添加する[1]乃至[4]に記載の方法。 [6] 工程(2)において、N-保護アミノ酸が生成した工程(1)の反応液量に対して、水を0.01〜0.98容量、イソプロピルアルコールを0.14〜0.56容量添加する[1]乃至[4]に記載の方法。 [7] 工程(2)において、N-保護アミノ酸が生成した工程(1)の反応液量に対して、水を0.49〜0.75容量、イソプロピルアルコールを0.27容量添加する[1]乃至[4]に記載の方法。 本発明によれば、N-保護アミノ酸、なかでもシクロヘキシルグリシンのN-保護体、さらに詳細には、N-カルボベンジルオキシ-L-シクロヘキシルグリシンの製造において、従来の抽出・晶析法に対して工程数、有機溶媒の使用量、使用する有機溶媒の種類を低下、減少させた方法が提供され、アルカリ条件下でアミノ酸のアミノ基に保護基を導入する反応を行いN-保護アミノ酸を生成させた後、該反応液から、抽出工程及び濃縮工程を経ることなく、生成したN-保護アミノ酸を結晶として得ることが可能になる。 本発明の方法が適用可能な「アミノ酸」としては、グリシン、アラニン、シクロヘキシルグリシンを例示することができる。これらのうち、シクロヘキシルグリシンが好適である。 本発明の工程(1)においてN-保護アミノ酸を生成させる際の「アルカリ条件下」とは、保護基を導入しようとするアミノ基が充分に求核性を示す条件を意味し、該「アルカリ条件」を調整する方法としては、NaOHを使用する当業者に周知の方法があげられる。 本発明における「保護基」としては、カルボベンジルオキシ基(本明細書ではCbz-と表記したが、Z-と表記される保護基と同一である)があげられる。該保護基導入試薬としては、前記のアルカリ条件下でアミノ基を保護し得る化合物が好ましい。具体的にはCbz-Clが挙げられる。 本発明における、「アルカリ条件下で、アミノ酸のアミノ基に保護基を導入しN-保護アミノ酸を生成させる工程」は上記の記載に基づき適宜変更することができる。 本発明における「該反応液に対して、水溶性有機溶媒、及び随意により水、を加える工程」に使用する水溶性有機溶媒としては、水と相溶性を有し、水と容易に混合する有機溶媒(以下、水溶性有機溶媒)を挙げることができ、エタノールやイソプロピルアルコールが好適に用いられるが、特にイソプロピルアルコールが好ましい。 本発明における「工程(2)の後に、該反応液の液性を中性又は酸性とし、N-保護アミノ酸を結晶として得る工程」において、前記水溶性有機溶媒及び随意により水、を加えた反応液を中和あるいは酸性にするための酸としては、Cbz-L-CHGの生成、結晶化に影響を与えないことを限度として制限はなく、当業者に周知の酸が使用でき、なかでも塩酸が好ましい。 また、反応液に水溶性有機溶媒(イソプロピルアルコール)、及び随意により水、を加えた後、酸(塩酸)を加えて中和を行い、生じた結晶は、ろ過、乾燥させてN-保護アミノ酸(Cbz-L-CHG)を得ることができる。 以上の本発明の方法の後に、必要に応じて、さらに再結晶等の精製を行ってもよい。 前記[1]の方法の工程(2)において、工程(1)の反応後に添加する水溶性有機溶媒、及び随意に添加する水、それぞれの量は、実施例の記載を参考に、生成させたN-保護アミノ酸(Cbz-CHG)の量及び/又は反応液の液量を基準に実験的に最適な範囲を選択することができる。 水溶性有機溶媒がイソプロピルアルコールである場合、N-保護アミノ酸が生成した工程(1)の反応液量に対して、水を0〜1.00容量、好ましくは0〜0.98容量、イソプロピルアルコールを0.10〜0.60、好ましくは0.14〜0.56容量、さらに好ましくは、水を0.49〜0.75容量、イソプロピルアルコールを0.27容量添加するのが好適である。 なお、工程(1)の反応液量は、該反応液量を実測して求めるほかに、工程(1)で添加した溶媒の総容量や、工程(1)における溶質と溶媒の合計量(1kg=1Lとして)を簡易に使用することもできる。 反応液に、随意により水を添加した後に、水溶性有機溶媒をさらに添加し、これらの添加の後に酸による中和を行うという本発明の方法は、従来の抽出・晶析法に対して工程数、有機溶媒の使用量、使用する有機溶媒の種類を低下、減少させられるばかりでなく、一連の操作を同一の反応槽で行うことが可能であり、抽出を行い、さらに濃縮を行うなど、複数の反応槽を使用せざるを得ない従来の抽出・晶析法とは構成が全く異なるものである。 以下に、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。 〔比較例1〕 L-CHG 246kgに、水 2460L及び20% NaOH水溶液 250Lを加え溶解させた。該溶液にCbz-Cl 267kg及び20% NaOH水溶液 280Lを滴下して、L-CHGにCbz基を導入した。 該反応液に酢酸エチル1930Lを添加した後、塩酸 170Lを加えて中和し、抽出を行なった。該抽出液を水 500Lで3回洗浄した後、減圧濃縮を行った。減圧濃縮終了後、濃縮残渣にn-ヘプタン 3200Lを加え、生じた結晶をろ過後、乾燥させてCbz-L-CHG 375kgを得た。 収率82.3%、化学純度99.5%、光学純度100.0%であった。 化学純度は逆相HPLC法、光学純度は順相キラルHPLC法により測定した。なお、以降の測定も同様である。 〔実施例1〕 工程(1):L-CHG 22.5kgに、水 250L及び20% NaOH水溶液 22.8Lを加え溶解させた。該溶液にCbz-Cl 12.2kg及び20% NaOH水溶液 12.8Lを滴下して、L-CHGにCbz基を導入した。 工程(2):該反応液に水 80L及びイソプロピルアルコール 45Lを加えた。 工程(3):工程(2)後の反応液に塩酸 7.8Lを加えて中和を行い、生じた結晶をろ過した。ろ取した結晶を乾燥させてCbz-L-CHG 37.5kgを得た。 収率89.9%、化学純度99.5%、光学純度100.0%であった。 実施例1では、比較例1に対して化学純度、光学純度を維持したまま収率が向上した。また実施例1の方法では、抽出、濃縮の工程を省略し、使用する有機溶媒も酢酸エチル、n-ヘプタンの2種類からイソプロピルアルコールの1種類とすることができた。さらに工程(1)の反応液の容量を1とした場合のCbz-L-CHGを得るまでに使用する溶媒の容量比を添加容量から求めると、比較例1における約1.7倍(反応液の容量2990L対酢酸エチルとn-ヘプタンの合計容量5130L)に対して、実施例1では約0.2倍(反応液の容量285.6L対イソプロピルアルコールの容量45L)と有機溶媒の使用量を顕著に減らすことができた。 〔実施例2〕 工程(1):L-CHG 60.0gに、水 534mL及び20% NaOH水溶液 60.9mLを加え溶解させた。溶液を活性炭処理し、水79mLを加えた。該溶液にCbz-Cl 65.1g及び20% NaOH水溶液 60.9mLを滴下して、L-CHGにCbz基を導入した。 工程(2):該反応液(液量865mL)を10等分し、各々に水及びイソプロピルアルコール(IPA) を表1の割合で添加した。 工程(3):工程(2)後の反応液に、塩酸 4.1mLを加えて中和を行い、生じた結晶をろ過した。ろ取した結晶を乾燥させてCbz-L-CHGを得た。 各条件での結果は表1に示した。 実施例2では、比較例1に対して化学純度、光学純度を維持したまま収率が向上した。 工程(2)において、N-保護アミノ酸が生成した工程(1)の反応液の容量に対して、水が0〜0.98容量、イソプロピルアルコールが0.14〜0.56容量の範囲で比較例1を上回る収率が得られた。これらの条件のうち、水0.49容量〜0.75容量、イソプロピルアルコール0.27容量のとき最も収率が高かった(条件F、G)。 また本発明の方法では、抽出、濃縮の工程を省略し、使用する有機溶媒も酢酸エチル、n-ヘプタンの2種類からイソプロピルアルコールの1種類とすることができた。さらに工程(1)の反応液の容量を1とし、工程(1)以降Cbz-L-CHGを得るまでに使用する溶媒の容量比を求めると、比較例1における約1.7倍(反応液の容量2990L対酢酸エチルとn-ヘプタンの合計容量5130L)に対して、実施例2では約0.14倍〜0.55倍(反応液の容量86.5mL対イソプロピルアルコールの容量12.1mL〜48.4mL)と有機溶媒の使用量を顕著に減らすことができた。 本発明によれば、抽出・濃縮の工程を含まず、製造工程における有機溶媒の使用量を低減させたN-保護アミノ酸の製造が可能となった。 以下の工程を含むことを特徴とする、N-保護アミノ酸の製造方法。 (1)アルカリ条件下で、アミノ酸のアミノ基に保護基を導入しN-保護アミノ酸を生成させる工程、 (2)該反応液に対して、水溶性有機溶媒、及び随意により水、を加える工程、及び、 (3)工程(2)の後に、該反応液の液性を中性又は酸性とし、N-保護アミノ酸を結晶として得る工程 アミノ酸が、L-シクロヘキシルグリシンである請求項1に記載の方法。 N-保護アミノ酸が、N-カルボベンジルオキシ-L-シクロヘキシルグリシンである請求項1又は2に記載の方法。 水溶性有機溶媒がイソプロピルアルコールである請求項1乃至3に記載の方法。 工程(2)において、N-保護アミノ酸が生成した工程(1)の反応液量に対して、水を0〜0.98容量、イソプロピルアルコールを0.14〜0.56容量添加する請求項1乃至4に記載の方法。 工程(2)において、N-保護アミノ酸が生成した工程(1)の反応液量に対して、水を0.01〜0.98容量、イソプロピルアルコールを0.14〜0.56容量添加する請求項1乃至4に記載の方法。 工程(2)において、N-保護アミノ酸が生成した工程(1)の反応液量に対して、水を0.49〜0.75容量、イソプロピルアルコールを0.27容量添加する請求項1乃至4に記載の方法。 【課題】N-保護アミノ酸の製造方法の提供。【解決手段】アルカリ条件下でアミノ酸のアミノ基に保護基を導入する反応を行いN-保護アミノ酸を生成させた後、該反応液から、抽出工程及び濃縮工程を経ることなく、生成したN-保護アミノ酸を結晶として得る方法。N-保護アミノ酸含有反応液(アルカリ性)に対して水溶性有機溶媒、及び随意に水、を添加した後に、酸により中和を行うと、N-保護アミノ酸の生成から結晶の取得までの工程において、抽出、濃縮、再結晶のいずれの工程も必要とせずに良好な結晶が得られる。【選択図】なし