タイトル: | 公開特許公報(A)_色素化合物の定量方法 |
出願番号: | 2010204632 |
年次: | 2012 |
IPC分類: | G01N 30/88,C09B 61/00,C09B 47/00,G01N 30/74,G01N 30/78,G01N 24/08,G01N 30/62 |
橋本 秀樹 溝口 律子 伊波 匡彦 飯沼 喜朗 JP 2012058200 公開特許公報(A) 20120322 2010204632 20100913 色素化合物の定量方法 株式会社サウスプロダクト 504426218 特許業務法人 小野国際特許事務所 110000590 橋本 秀樹 溝口 律子 伊波 匡彦 飯沼 喜朗 G01N 30/88 20060101AFI20120224BHJP C09B 61/00 20060101ALI20120224BHJP C09B 47/00 20060101ALI20120224BHJP G01N 30/74 20060101ALI20120224BHJP G01N 30/78 20060101ALI20120224BHJP G01N 24/08 20060101ALI20120224BHJP G01N 30/62 20060101ALI20120224BHJP JPG01N30/88 CC09B61/00 AC09B61/00 BC09B47/00G01N30/74 EG01N30/78G01N24/08 510PG01N30/62 E 7 3 OL 14 特許法第30条第1項適用申請有り 〔刊行物名〕 第51回日本植物生理学会年会要旨集 〔発行日〕 平成22年3月12日 〔発行所〕 第51回日本植物生理学会年会委員会 〔刊行物等〕 〔刊行物名〕 日本化学会第90春季年会(2010)プログラム 〔発行日〕 平成22年3月12日 〔発行所〕 社団法人日本化学会 〔刊行物等〕 〔刊行物名〕 日本食品科学工学会 第57回大会講演集 〔発行日〕 平成22年9月1日 〔発行所〕 日本食品科学工学会第57回大会事務局 本発明は、色素化合物の定量方法に関し、さらに詳細には、複数の種類の色素化合物を含有する組成物について、それぞれの色素化合物を正確に定量し得る方法に関する。 カロテノイドなどの色素化合物は、抗酸化活性などの生理活性を有することが明らかになってきており、これらの色素化合物を添加した機能性食品が開発されている。カロテノイドは動植物に広く存在する色素であるが、カロテノイドの一次生産を行なう植物にはクロロフィル類が大量に含まれるため、天然由来のカロテノイド素材には、不純物としてクロロフィル類やその分解物であるポルフィリン類が多い。これらは微量でもカロテノイドの異性化及び分解を促進し、安定性を阻害するものであることが知られているため、その定量は重要である。 このカロテノイド素材の定量分析は、一般に高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で行われるが、このようにカロテノイド類の他、クロロフィル類やポルフィリン類が含まれる素材において各色素化合物を正確に測るためには、含有する全ての色素化合物について高純度の標準物質を正確に秤量できるほど大量に用意するか、あるいは全ての色素化合物について、HPLCの展開溶媒中におけるモル分子吸光係数が明らかとなっている必要がある。しかし、クロロフィル類の高純度品は高価であり、市販されているものも少なく、また金属錯体であって水を完全に除去した正確な秤量が困難であるため、モル分子吸光係数の信頼性が本質的に低い。このため、HPLC分析において、HPLCの測定波長における面積比、即ち吸光度の比が暫定的に用いられていることが多く、クロロフィル類・その分解物であるポルフィリン類等の不純物の含量を正確に評価することが困難であった。 一方、クロロフィル類は、植物に広く存在する天然色素であるが、これも様々な生理活性を有することが近年明らかになっている。クロロフィルを含む物質はカロテノイドも含むため、この両方を有効成分とした「食品」としての光合成生物製剤(クロレラ等)・食用の物質に含まれる両方の定量は、食品関連法上義務付けられてきており、その正確な定量方法の確立が求められている。 クロレラなどのような光合成生物の製剤および抽出物に含まれる有効成分としてのクロロフィル・カロテノイド類の定量分析も、一般にHPLCで行なわれるが、ここではクロロフィル・カロテノイド双方が有効成分となり、両方の定量が求められる。そのためHPLCの展開溶媒系は複雑なもの(逆相系の2液、3液のグラジエントなど)を用いることが多く、HPLCの展開溶媒におけるモル分子吸光係数を求める事は原理的に不可能となるため、全ての成分の標準物質を入手することが必須となる。しかし、上記したように、クロロフィル類の高純度品は高価であり、市販されているものも少ない。 さらに、カロテノイドには、一般に複数のシス−トランス異性体が存在する。例えば、甲殻類などに含まれるアスタキサンチンは、オールトランス体が主であるが、その他に9−シス体や13−シス体など多くのシス体が存在することが知られており、光・熱などにより容易に異性化平衡混合物に移行することが知られている。この異性化反応は平衡反応であるため、純度が高いほど異性化の進行は速いことが知られており、製薬としての純度測定においてはシス-トランス異性体の混在が必ず観測される。 しかし、カロテノイドシス体の高純度品は希少かつ不安定であり、市販されている標準物質の種類も少ないため、含有される全てのシス体の標準物質を入手することは容易ではない。またシス体については、モル分子吸光係数が報告されていないものも多く、シス−トランス異性体の含量を正確に評価できないため、カロテノイド含量が正確に測定されていないのが実情であった。 従って、複数の色素化合物を含む色素含有組成物から、各色素化合物の含量を高精度に定量分析できる方法が望まれており、本発明は、そのような方法を提供することを課題とするものである。 本発明者らは上記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、複数の色素化合物を含有する組成物について、1H−NMR分析により求められるモル比(化学量論比)と、HPLC分析により求められる吸光度比から、HPLCの検出波長における全ての色素化合物の比モル分子吸光係数を求めることができるため、この比モル分子吸光係数をHPLC分析における補正係数として用いれば、高価な標準物質を用いること無く各色素化合物の含量を求め得ることを見出し、本発明を完成させるに至った。 すなわち本発明は、複数の色素化合物を含有する色素含有組成物中の各色素化合物を定量する方法であって、次の工程(1)ないし(3): (1)色素含有組成物をHPLC分析し、組成物に含まれる一の色素化合物に対する各 色素化合物の検出波長における吸光度比を求める工程 (2)色素含有組成物を1H−NMR分析し、前記一の色素化合物に対する各色素化合 物のモル比を求める工程 (3)工程(1)で求めた各色素化合物の吸光度比と工程(2)で求めた各色素化合物 のモル比から、前記一の色素化合物に対する各色素化合物の前記検出波長における比 モル分子吸光係数を求める工程を含むことを特徴とする色素化合物の定量方法である。 また本発明は、次の工程(1)ないし(6): (1)色素含有組成物をHPLC分析し、組成物に含まれる一の色素化合物に対する各 色素化合物の展開溶媒および検出波長における吸光度比を求める工程 (2)色素含有組成物を1H−NMR分析し、前記一の色素化合物に対する各色素化合 物のモル比を求める工程 (3)工程(1)で求めた各色素化合物の吸光度比と工程(2)で求めた各色素化合物 のモル比から、前記一の色素化合物に対する各色素化合物の前記展開溶媒および検出 波長における比モル分子吸光係数を求める工程 (4)前記一の色素化合物の前記展開溶媒および検出波長におけるモル分子吸光係数に 基づき、各色素化合物の前記展開溶媒および検出波長におけるモル分子吸光係数を求 める工程 (5)工程(4)でHPLCの展開溶媒中におけるモル分子吸光係数を求めた任意の一 の色素化合物において、標準溶媒における吸収スペクトルを測定し、吸光度を測定す る工程 (6)工程(5)で吸光度を決定した任意の一の色素化合物を一定量HPLC分析し、 (4)の工程で得られた前記展開溶媒中におけるモル分子吸光係数を用いてHPLC で求めた吸光度からモル数を決定することにより、任意の一の色素化合物の標準溶媒 におけるモル分子吸光係数の絶対値を求める工程を含むことを特徴とする色素化合物のモル分子吸光係数の決定方法である。 本発明によれば、複数の色素化合物を含有する組成物中に含まれるそれぞれの色素化合物について正確に定量することができる。特に、乾燥重量を正確に秤量することが原理的に困難であるクロロフィル類などの比モル分子吸光係数を高精度に求めることが出来るため、例えば、カロテノイドのオールトランス体などの標準物質のモル分子吸光係数の正確な値を用いることにより、クロロフィルのモル分子吸光係数の正確な値を乾燥重量に頼ることなく決定することが可能となる。これは今までに無い、原理的に非常に精密な金属錯体のモル分子吸光係数の決定法となり、医薬品・健康食品・試薬などによく使用されているクロロフィル・ポルフィリン系の金属錯体化合物の定量に有効である。また、カロテノイド類など複数の異性体が存在する色素含有組成物についても、それぞれの異性体の比モル分子吸光係数を高精度に求めることが出来るため、例えば、正確な値が知られているオールトランス体のモル分子吸光係数を用いて、それぞれの異性体のモル分子吸光係数および含量を正確に分析することが可能である。さらに、NMRの高磁場側にはπ共役系の色素のシグナルのみがでるため、水、蛋白質、有機溶媒等の低分子といった不純物が含まれていても影響を受けることなく、π共役系の色素の比率を決定することが可能となる。したがって、例えば、基本的に脂質、蛋白質、水が含まれるFCP抽出物や光合成生物製剤(クロレラ等)等に対しても適用可能であり、適用範囲が非常に広いものである。実施例1におけるFCP抽出物のHPLCプロファイルを示す図である。実施例1におけるFCP抽出物およびフコキサンチン、クロロフィルa,c1,c2純品の1H−NMRスペクトルを示す図である。実施例1におけるFCP抽出物の1H−NMRスペクトルの高磁場側帰属結果を示す図である実施例2におけるアスタキサンチンのオールトランス体とシス体混合溶液の1H−NMR低磁場側測定結果を示す図である。実施例2におけるアスタキサンチンのオールトランス体とシス体混合溶液のHPLCプロファイルを示す図である。 本発明の測定対象である色素含有組成物に含まれる色素化合物としては、例えば、カロテノイド類、クロロフィル類およびポルフィリン類などのπ共役系を分子構造に含む色素が挙げられる。 カロテノイド類には、炭化水素類であるカロテン類及び化学構造中に酸素を含むキサントフィル類が含まれ、具体的には、カロテン類として、α−カロテン、β−カロテン、γ−カロテン、ε−カロテン、リコピン;キサントフィル類として、フコキサンチン、ルテイン、アスタキサンチン、カンタキサンチン、カプサンチン、ゼアキサンチン、アンテラキサンチン、ビオラキサンチン、クリプトキサンチン及びそれらのエステル類などの誘導体が例示できる。天然に存在するカロテノイドは、一般にオールトランス体(以下、「トランス体」ともいう)が主であり、その他に1または2以上のシス体が存在する。本発明の測定対象である色素含有組成物は、複数の色素化合物を含有するものであり、これは複数の異なる種類の色素化合物を含有する他、1種類の色素化合物の複数の異性体を含有するものも包含される。 クロロフィル類には、クロロフィルa,b,c(c1,c2,c3)などが含まれる。また、ポルフィリン類には、クロロフィル類の分解物やビタミンB12などが含まれる。 本発明方法は、まず工程(1)において、色素含有組成物をHPLC分析し、溶出時間及び吸収スペクトル等によって試料に含まれる各成分の同定を行ない、特定色素化合物に対する各色素化合物の検出波長における吸光度比を求める。検出器はUV-VIS吸光検出器を用いる。検出波長(λ)は、測定対象の色素化合物の吸収波長領域であれば特に限定されないが、300〜600nmが好ましく、カロテノイド、クロロフィル、ポルフィリン類の全てに共通した吸収帯のある400〜470nmがより好ましい。その他のHPLC条件は、通常のカロテノイド分析に適用される条件を採用することができる。得られたHPLCクロマトグラムにおける特定色素化合物とその他の色素化合物のピーク面積比から、HPLC展開溶媒aおよび検出波長λにおける特定色素に対する各色素化合物の吸光度比が求められる(下記式(1))。 Aas(λ):溶媒aにおける特定色素化合物の吸光度 Aap(λ):溶媒aにおける他の色素化合物の吸光度 次に工程(2)において、色素含有組成物を1H−NMR分析し、組成物に含まれる一の色素化合物に対する各色素化合物のモル比を求める。1H−NMR測定は、シストランス異性体などの熱的に不安定なものを含む場合を考慮して、5度程度の低温で行なうことが望ましい。常温の場合は、短時間測定とし、測定の前後にHPLCによる分析を行い、その平均値を用いるという手法をとることも可能である。測定対象の熱的安定性を考慮して、測定条件を適宜決定する。1H−NMRのその他の好適な測定条件を下記に示す。得られた1H−NMRスペクトルから、組成物中に含まれる色素化合物毎にピーク分離を行い帰属させる。帰属は、文献値やCOSY、NOESY等の各種二次元NMRスペクトルを解析することにより行うことができる。なお、色素含有組成物に含まれる色素化合物が明らかな場合などは、工程(1)および(2)の順序を入れ替えることも可能である。 (1H−NMR測定条件) 取り込み時間:3.5秒 積算回数:128回 パルス角度:45° 待ち時間:12.5秒 このようにピークを帰属させることにより、各色素化合物について、積分値およびプロトン数が求められる。含有される色素化合物の中から一の色素化合物(以下、「特定色素化合物」ということがある)を選択し、これに対する他の色素化合物のモル比をそれぞれ下記式(2)から求める。特定色素化合物は、カロテノイドのオールトランス体など高純度の標準物質の入手が容易であり、正確なモル分子吸光係数の報告値があるものが望ましい。 Cs:特定色素化合物のモル濃度 Cp:他の色素化合物のモル濃度 Is: 特定色素化合物の積分値 Ip: 他の色素化合物の積分値 Hs:特定色素化合物のプロトン数 Hp:他の色素化合物のプロトン数 Ms:特定色素化合物の分子量 Mp:他の色素化合物の分子量 Ws:特定色素化合物の重量 Wp:他の色素化合物の重量 さらに工程(3)において、工程(1)で求めた各色素化合物の吸光度比と、工程(2)で求めた各色素化合物のモル比から、下記式(3)より、特定色素化合物に対する各色素化合物のHPLC展開溶媒および検出波長における比モル分子吸光係数(εap(λ)/εas(λ))が求められる。 このようにして得られた比モル分子吸光係数を補正係数として用いて、特定色素化合物のモル分子吸光係数から、その他の色素化合物のモル濃度を求めることができる。当該展開溶媒および検出波長における特定色素化合物のモル分子吸光係数の報告値がある場合は、その値を用いることができる。また公知の方法により、モル分子吸光係数を測定してもよい。一方、報告値の信頼性が低い場合や、十分なサンプル量が得られない場合は、1H−NMRを用いて特定色素化合物の純度を求め、当該検出波長における吸光度を測定してモル分子吸光係数を求めることが好適である。 1H−NMRによる純度の定量にあたっては、まず特定色素化合物を重クロロホルムなど重水素化溶媒に溶解し定容し、この溶液から一定量を量りとってサンプル溶液とする。次に純度が明らかになっている標準物質を秤量し、重水素化溶媒に溶解、定容して標準溶液とする。この標準溶液を一定量量りとり、サンプル溶液と混合して1H−NMRに供する。標準物質としては、ビストリメチルシリルベンゼン(1,4−BTMSB−d4)などが、安定性が高く、また化学シフトが重ならないため好ましく用いられる。好適な1H−NMR条件を下記に示す。なお、熱による異性化の進行を抑制するために、測定温度は低温で行うことが望ましい。 (1H−NMR測定条件) パルス繰り返し時間:60秒(20〜90秒) 積算回数:8回(4回〜64回) フリップアングル:90° 観測範囲:−5〜15ppm データポイント:32k デジタルフィルタ:ON 測定温度:23〜24℃(4℃〜30℃) サンプル回転:OFF 測定したNMRスペクトルから得られた特定色素化合物および標準物質の積分値、プロトン数を以下の式にあてはめ、その純度を求める。 Cs:特定色素化合物のモル濃度 CSTD:標準物質のモル濃度 Is:特定色素化合物の積分値 ISTD:標準物質の積分値 Hs: 特定色素化合物のプロトン数 Hstd:標準物質のプロトン数 Ms:特定色素化合物の分子量 MSTD:標準物質の分子量 Ws:特定色素化合物の重量 WSTD:標準物質の重量 次いで、分光光度計を用いて特定色素化合物の検出波長(λ)における吸光度Aasを測定する。溶媒はHPLC展開溶媒aを用いる。下記式(5)から特定色素化合物のモル分子吸光係数εasが求められる。 さらに次の工程(5)〜(6)により、各色素化合物の標準溶媒sにおけるモル分子吸光係数を決定することができる。この手法では、少量の各色素化合物の高純度品を用いて標準溶媒中のモル分子吸光係数が決定できるため、乾燥重量を測定することが困難あるいは高純度品が高価である色素化合物に好適に適用できる。 工程(5)では、工程(4)で求めた任意の一の色素化合物xにおいて、標準溶媒sにおける吸収スペクトルを測定し、吸光度Aaxを測定する。 工程(6)では、標準溶媒sにおける吸光度を決定した任意の一の色素化合物xを任意の一定量VxHPLC分析する。ここで検出されたHPLCのピーク面積は、横軸を溶出容積に直すと、前記展開溶媒中における吸光度Aaxと総溶出量Vを掛けたものに相当するので、これを(4)の工程で得られた前記展開溶媒中におけるモル分子吸光係数で割ることよりHPLC分析されたモル数(モル濃度に体積を掛けたもの)を得る(下記式(6))。 V:HPLC検出波長における総溶出量これより、標準溶媒におけるモル分子吸光係数の絶対値を求める(下記式(7))。 色素含有組成物が、カロテノイドのシス−トランス異性体が含有されるカロテノイド異性体混合物である場合には、上記工程(1)〜(3)において、オールトランス体を特定色素化合物とすることによって、各異性体のモル分子吸光係数が求められる。これに基づいて、以下のような簡便な方法によりカロテノイド全体の含量を求めることができる。 カロテノイド異性体混合物のモル分子吸光係数εmixは、トランス体とシス体のモル比およびモル分子吸光係数から以下の式(8)により求めることができる。添え字のtはトランス体、cはシス体を意味する。 シス体が2以上含まれていても、同様に以下の式(9)によりカロテノイド異性体混合物のモル分子吸光係数εmixを求めることができる。 カロテノイド異性体混合物の検出波長(λ)における吸光度Amixを測定し、これと上記εmixを用いて、異性体を含むカロテノイド全体のモル濃度Cmixを以下の式(8)で簡略的に求めることができる。 以下に、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に何ら限定されるものではない。 実施例1 オキナワモズク由来のフコキサンチン-クロロフィルa/c蛋白質(FCP)の色素組成の 決定 オキナワモズク盤状体をフレンチプレス破砕後、超遠心分画により75000〜40000 gの成分をチラコイド膜とした。これを界面活性剤β-dodecyl maltoside(DM)で可溶化し、陰イオン交換カラム(DEAE-fast flow)及びゲルろ過カラム(Superdex 200PG)により精製し、FCPを得た。フコキサンチンおよびクロロフィルa/cの構造を以下に示す。[高速液体クロマトグラフィー(HPLC)] FCPのメタノール抽出液をHPLC(カラム:Inertsil ODS-P, 4.6 x 150mm、展開溶媒A:0.3M メタノール/アセトニトリル/水(4.5/3.5/2)、展開溶媒B:酢酸エチル/アセトニトリル(7/3)、流速0.8ml/min)で分析し、フォトダイオードアレイ検出器(島津SPD M20A)で検出した。この分析系は既報を元に開発したものであるため、各ピークの帰属には、既報の溶出順序(G. W. Krray et al, J. Phycol., 28,708-712 (1992) 、T.Mizoguchi et al., Org. Biomol.Chem., 7, 2120-2126(2009))及び吸収スペクトルの形状(S. W. Jeffrey et al. (Eds.), “Phytoplankton Pigments in Oceanography”,UNESCO, Madrid, 2nd Ed., 2005.)を参考にした。HPLCプロファイルを図1に示す。4つのメインピークに関しては1H-NMRによる帰属を行った。[1H-NMR] FCP抽出液を重水素置換テトラヒドロフラン-d8に置換して1H-NMR(600MHz)スペクトルを測定し、プロトンシグナルの積分値より各色素の比を決定した。各色素を単離して二次元(COSY及びNOESY)相関で帰属を行ったものと比較することにより、一義的に高磁場側の全てのシグナルを帰属出来た。図2にFCP抽出物、Chl c1, c2, Chla, Fucoxanthin (Fx)純品の1H-NMRスペクトルを示す。また図3に1H-NMRスペクトルの高磁場側の帰属結果を示す。[1H-NMRを用いた色素組成の決定] このような吸光度を用いた化学量論比の検出方法では必ずモル分子吸光係数を用いなければならない。しかしながらクロロフィルは、中心金属のマグネシウムが水と配位結合をするため、乾燥重量の精密測定が非常に困難であり、報告例の多いChl aでもモル分子吸光係数の報告値の精度及び信頼性は低い。特にChl cは上記構造式のように172位にカルボン酸を持つ有機酸であるため、更に取り扱いが困難である。そこで、1H-NMRの積分値を用い、プロトン数を直接比較することによりこの化学量論比を1 : 1 : 5 : 4と決定した。 1H-NMRにより決定したモル比(化学量論比)を用いて、HPLC分析における各物質の補正係数を算出することが出来る。表1にこれらの結果をまとめて示す。 海洋性光合成生物に広く分布する特有のアンテナ色素蛋白複合体であるFCPの色素組成を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)及び1H-NMR測定により決定した。Chl c2だけでなくChl c1もFCPに結合していることを初めて示した。蛋白質に結合した色素の組成比を1H-NMRを用いて決定する手法は、モル分子吸光係数を用いずに済むことより非常に有効である。逆に、1H-NMR及びHPLCを用いることにより、比モル分子吸光係数を正確に決定することが可能となり、HPLC分析に必ず用いられる補正係数を比較的簡単に決定することが可能となる。 参考例1 フコキサンチントランス体のモル分子吸光係数の測定: フコキサンチンのトランス体の純度を1H-NMRを用いて求め、分光光度計により測定した吸光度からモル分子吸光係数を算出した。1H-NMRは、標準物質として1,4-BTMSB-d4(純度99.8%、和光純薬工業)を用いた。標準物質とフコキサンチントランス体(純度94%以上、和光純薬工業)をそれぞれ化学天秤にて正確に秤量し、重クロロホルムに溶解、メスアップし、それぞれの溶液を正確に量り取り、混合して測定用サンプルとした。測定サンプル中に含まれるフキサンチントランス体と標準物質の含有量は、それぞれ2.04mg、1.76mgである。このサンプルについて、下記条件により1H-NMR分析を行った。なお、測定条件は、低温が望ましいが、フコキサンチンの全トランス体が比較的熱的に安定であることよりこの条件でも相当の結果を得た。 (1H-NMR測定条件) パルス繰り返し時間:60秒 積算回数:8回 フリップアングル:90° 観測範囲:-5〜15ppm データポイント:32k デジタルフィルタ:ON 測定温度:室温 サンプル回転:OFF 測定したNMRスペクトルから得られた標準物質およびトランス体の積分値、プロトン数を上記式(4)にあてはめ、その純度を求めた。フコキサンチンのトランス体の純度Ct(質量分率)は、95.4%であった。 次に分光光度計により下記条件で吸光度を測定した。上記フコキサンチンオールトランス体の純度から、モル分子吸光係数εtは110,000と算出され、報告値(105000;Jeffrey,S.W.et. al.Marine Ecol.1987,38,259-266)とほぼ同程度であった。 (吸光度測定条件) フコキサンチンが5μg/mlになるようにエタノール溶液を調製し、分光光度計(日本分光製、V-530)にて、測定を行った。測定はフコキサンチンのエタノールにおける吸収極大である450nmの吸光度を測定した。 従来は、化学天秤等で乾燥重量を求めて純度を決定していたため数十ミリグラムのサンプル量を必要としていたが、1H-NMRを用いれば数ミリグラムで高精度の純度を求められる利点がある。 実施例2 アスタキサンチン異性体混合物中のアスタキサンチン含量の測定: (1H-NMR分析) アルタキサンチンのトランス体(純度98.8%、Enzo Life Science)、9−シス体(純度99.4%、和光純薬工業)、13−シス体(純度98.6%、和光純薬工業)を用いて、トランス体と9−シス体およびトランス体と13−シス体の混合溶液を調製した。混合質量比は、1:2、1:1、2:1の3種類とした。これらを1〜5mg正確に秤量し、重ベンゼンに溶解、メスアップし、それぞれの溶液を正確に量り取り、混合して測定用サンプルとした。1H-NMRは以下の測定条件で行った。(測定条件) 取り込み時間:3.5秒 積算回数:128回 パルス角度:45° 待ち時間:1.5〜15秒 測定温度:室温 COSYおよびNOESYスペクトル解析と文献値(Osterlie M et al.,(1999) J.Nutri 129, 391-398)から、各ピークを帰属させることができた。この解析に基づいた、9−シス:トランス(1:2)混合溶液および13−シス:トランス(1:1)混合溶液の低磁場側測定結果を図4に示す。 ピーク帰属の結果求められた各異性体の積分値およびプロトン数からトランス/13−シス(Ct/C13c)およびトランス/9−シス(Ct/C9c)のモル比を求めた。 (HPLC分析) トランス体と9−シス体およびトランス体と13−シス体の1:2、1:1、2:1の混合溶液を下記HPLC条件で測定した。HPLCプロファイルを図5に示す。(測定条件) カラム:Luna3μ Silica,φ4.6mm×150mm(phenomenex) 温度:30℃ 移動相:ヘキサン−アセトン(82:18V/V) 流量:1.2ml/min 波長:470nm クロマトグラムのピーク面積比より、13−シス/トランスの吸光度比(A13c/At)および9−シス/トランスの吸光度比(A9c/At)を求めた。 このようにして得られたトランス体と各シス体のモル比および吸光度比を用いて、上記式(3)から比モル分子吸光係数を求めた。トランス/13−シスの比モル分子吸光係数(εt/ε13c)1.17、トランス/9−シスの比モル分子吸光係数(εt/ε9c)1.438が求められた。これよりトランス体のモル分子吸光係数を用いて各シス体の正確な含量およびモル分子吸光係数が得られる。 本発明によれば、カロテノイド・クロロフィルの混合系において、カロテノイド・クロロフィルの含量を簡便かつ正確に測定することが可能である。したがって、健康食品等に用いる天然光合成生物由来のクロロフィル・カロテノイド混合物素材(クロロフィル・カロテノイドを有効成分として含む)の品質管理等に極めて有用である。また本発明によれば、クロロフィル・ポルフィリン系の金属錯体化合物の定量に用いられる基礎的データであるモル分子吸光係数が正確に求められるため、これらの精密な定量に極めて有効である。さらに、カロテノイド素材について、異性体が含まれていても、カロテノイド全体の含量を簡便かつ正確に測定することが可能である。したがって、健康食品等に用いるカロテノイド素材の品質管理等に極めて有用である。 以 上 複数の色素化合物を含有する色素含有組成物中の各色素化合物を定量する方法であって、次の工程(1)ないし(3): (1)色素含有組成物をHPLC分析し、組成物に含まれる一の色素化合物に対する各 色素化合物の検出波長における吸光度比を求める工程 (2)色素含有組成物を1H−NMR分析し、前記一の色素化合物に対する各色素化合 物のモル比を求める工程 (3)工程(1)で求めた各色素化合物の吸光度比と工程(2)で求めた各色素化合物 のモル比から、前記一の色素化合物に対する各色素化合物の前記検出波長における比 モル分子吸光係数を求める工程を含むことを特徴とする色素化合物の定量方法。 色素含有組成物が、カロテノイド類およびクロロフィル類を含有するものである請求項1記載の色素化合物の定量方法。 さらにポルフィリン類を含有するものである請求項2記載の色素化合物の定量方法。 色素含有組成物が、カロテノイド類のシス−トランス異性体を含有するものである請求項1記載の色素化合物の定量方法。 工程(1)ないし(3)における一の色素化合物がカロテノイド類のオールトランス体である請求項4記載の色素化合物の定量方法。 カロテノイド類がフコキサンチンまたはアスタキサンチンである請求項4または5記載の色素化合物の定量方法。 次の工程(1)ないし(6): (1)色素含有組成物をHPLC分析し、組成物に含まれる一の色素化合物に対する各 色素化合物の展開溶媒および検出波長における吸光度比を求める工程 (2)色素含有組成物を1H−NMR分析し、前記一の色素化合物に対する各色素化合 物のモル比を求める工程 (3)工程(1)で求めた各色素化合物の吸光度比と工程(2)で求めた各色素化合物 のモル比から、前記一の色素化合物に対する各色素化合物の前記展開溶媒および検出 波長における比モル分子吸光係数を求める工程 (4)前記一の色素化合物の前記展開溶媒および検出波長におけるモル分子吸光係数に 基づき、各色素化合物の前記展開溶媒および検出波長におけるモル分子吸光係数を求 める工程 (5)工程(4)でHPLCの展開溶媒中におけるモル分子吸光係数を求めた任意の一 の色素化合物において、標準溶媒における吸収スペクトルを測定し、吸光度を測定す る工程 (6)工程(5)で吸光度を決定した任意の一の色素化合物を一定量HPLC分析し、 (4)の工程で得られた前記展開溶媒中におけるモル分子吸光係数を用いてHPLC で求めた吸光度からモル数を決定することにより、任意の一の色素化合物の標準溶媒 におけるモル分子吸光係数の絶対値を求める工程含むことを特徴とする色素化合物のモル分子吸光係数の決定方法。 【課題】複数の色素化合物を含む色素組成物から、各色素化合物の含量を高精度に定量分析できる方法を提供する。【解決手段】複数の色素化合物を含有する色素含有組成物中の各色素化合物を定量する方法であって、次の工程(1)ないし(3):(1)色素含有組成物をHPLC分析し、組成物に含まれる一の色素化合物に対する各色素化合物の検出波長における吸光度比を求める工程(2)色素含有組成物を1H−NMR分析し、前記一の色素化合物に対する各色素化合物のモル比を求める工程(3)工程(1)で求めた各色素化合物の吸光度比と工程(2)で求めた各色素化合物のモル比から、前記一の色素化合物に対する各色素化合物の前記検出波長における比モル分子吸光係数を求める工程を含むことを特徴とする色素化合物の定量方法。【選択図】図3