生命科学関連特許情報

タイトル:公開特許公報(A)_胎盤停滞の発生予測法
出願番号:2010192723
年次:2012
IPC分類:A61K 31/5575,A61D 1/08,G01N 33/74,A61K 31/573,A61P 43/00,A61P 15/04,A01K 67/02


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鎌田 八郎 松井 義貴 小山 毅 中村 正明 南橋 昭 JP 2012046471 公開特許公報(A) 20120308 2010192723 20100830 胎盤停滞の発生予測法 独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 501203344 地方独立行政法人北海道立総合研究機構 310010575 平木 祐輔 100091096 藤田 節 100118773 村林 望 100169579 鎌田 八郎 松井 義貴 小山 毅 中村 正明 南橋 昭 A61K 31/5575 20060101AFI20120210BHJP A61D 1/08 20060101ALI20120210BHJP G01N 33/74 20060101ALI20120210BHJP A61K 31/573 20060101ALI20120210BHJP A61P 43/00 20060101ALI20120210BHJP A61P 15/04 20060101ALI20120210BHJP A01K 67/02 20060101ALN20120210BHJP JPA61K31/5575A61D1/08 ZG01N33/74A61K31/573A61P43/00 121A61P15/04 171A01K67/02 6 1 OL 8 特許法第30条第1項適用申請有り 2010年度 日本畜産学会第112回大会にて発表 刊行物名:日本畜産学会 第112回大会 講演要旨 発行者名:社団法人 日本畜産学会 開催日 :平成22年3月28日(日)〜30日(火) 発表日 :平成22年3月29日(月) 講演番号:VI29−14 講演要旨集発行日:平成22年3月28日 (出願人による申告)平成20年度、生物系特定産業技術研究支援センター、基礎的試験研究委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願 2G045 4C086 2G045AA25 2G045CB17 2G045DA24 2G045FB03 2G045GC30 4C086AA01 4C086AA02 4C086DA02 4C086DA10 4C086MA02 4C086MA04 4C086NA14 4C086ZA81 4C086ZC61 4C086ZC75 本発明は、例えば分娩誘起後における胎盤停滞の発生を予測する方法に関する。 ウシ等の家畜における分娩誘起処置は、畜主が希望する日に分娩をさせたい場合、胎子過大を防ぎたい場合、及び分娩予定日を過ぎても分娩しない場合に行われている。しかしながら、分娩誘起処置により、分娩後12時間以上経っても胎盤が子宮内から排出されない疾病である胎盤停滞が高い確率で発生する。従って、当該胎盤停滞の治療法として抗生物質等の投与をせざるを得ない場合があることから、乳汁廃棄を余儀なくされ、あるいは次産に向けての授精が遅れることによる繁殖成績の悪化が認められている。 そこで、畜主は胎盤停滞の発生を承知で分娩誘起を行うか、あるいは難産を承知で分娩誘起処置を行わないかを選択せざるを得ない状況にある。しかしながら、分娩誘起によって必ずしも胎盤停滞が発生するわけではなく、分娩誘起による胎盤停滞の発生を予測することができれば、分娩誘起処置を安心して選択することができる。 ところで、従来において、ウシの分娩誘起方法として分娩予定日の4日前に(1)プロスタグランジンF2α(以下、「PGF2α」と称する)製剤、(2)エストラジオール17β製剤、又は(3)その両方の製剤を投与した場合に、(1)と(3)では製剤投与から分娩までの時間が44〜46時間と短いが、(2)では131時間と非常に長いことが報告されている(非特許文献1)。また、主として分娩予定日を過ぎたウシでのPGF2α製剤と副腎皮質ホルモン製剤による分娩誘起処置は、処置から分娩までの時間が28.6時間と短く、胎盤停滞発生率は17.9%であったことが報告されている(非特許文献2)。 しかしながら、分娩誘起による胎盤停滞発生の予測に関する報告はこれまでなかった。F.E. Rasmussenら, 「Journal of Dairy Science」, 1996年, 第79巻, 第2号, pp. 227-234広井信人, 「家畜診療」, 2008年, 第55巻, 第11号, pp. 673-679 上述するように、分娩誘起による胎盤停滞の発生を予測する技術は、今まで知られていなかった。 そこで、本発明は、上述した実情に鑑み、分娩誘起による胎盤停滞の発生を予測する方法を提供することを目的とする。 上記課題を解決するため鋭意検討した結果、胎盤停滞が発生する場合と発生しない場合において、分娩誘起前の血中エストラジオール17β濃度及び分娩誘起開始から分娩までの時間が有意に異なることを見出し、本発明を完成するに至った。 本発明は、以下を包含する。 (1)分娩誘起前の非ヒト哺乳動物において血中エストラジオール17β濃度を測定する工程及び/又は非ヒト哺乳動物において分娩誘起開始から分娩までの時間を測定する工程を含む、分娩誘起後における胎盤停滞の発生を予測する方法。 (2)PGF2α製剤投与又はPGF2α製剤と副腎皮質ホルモン製剤であるデキサメタゾンの併用投与により分娩誘起を行う、(1)記載の方法。 (3)分娩誘起前の血中エストラジオール17β濃度が120pg/ml以下である場合に、胎盤停滞が発生すると予測する、(1)又は(2)記載の方法。 (4)PGF2α製剤投与による分娩誘起において分娩誘起開始から分娩までの時間が36時間以上である場合に、胎盤停滞が発生すると予測する、(1)〜(3)のいずれか1記載の方法。 (5)PGF2α製剤とデキサメタゾンの併用投与による分娩誘起において分娩誘起開始から分娩までの時間が30時間以上である場合に、胎盤停滞が発生すると予測する、(1)〜(3)のいずれか1記載の方法。 (6)非ヒト哺乳動物がウシである、(1)〜(5)のいずれか1記載の方法。 本発明によれば、分娩誘起後の胎盤停滞の発生を予測することができ、畜産分野において家畜に対して分娩誘起処置を行うか否かを安全に選択することができる。また、本発明により胎盤停滞が予測されない場合には分娩誘起処置を安心して選択でき、一方、胎盤停滞が予測される場合には、分娩誘起を行わないことを選択するか、あるいは分娩誘起を行った場合でも分娩後に早期に治療を行うことができ、胎盤停滞の程度を軽減できる。ウシにおいてPGF2α製剤で分娩誘起した場合における「胎盤停滞なし」の群と「胎盤停滞あり」の群とにおける(A)PGF2α製剤投与前の血中エストラジオール17β濃度(pg/ml)、及び(B)PGF2α製剤投与から分娩までの時間(h)を示すグラフである。ウシにおいてPGF2α製剤で分娩誘起した場合における「胎盤停滞なし」の群と「胎盤停滞あり」の群とにおけるPGF2α製剤(PG)投与前、投与後9〜14時間、分娩後19〜27時間での血中エストラジオール17β濃度(pg/ml)の推移を示すグラフである。 以下、本発明を詳細に説明する。 本発明に係る分娩誘起後における胎盤停滞の発生を予測する方法(以下、「本方法」と称する)は、分娩誘起前の非ヒト哺乳動物において血中エストラジオール17β濃度を測定する工程(以下、「第1実施形態」と称する)、及び/又は非ヒト哺乳動物において分娩誘起開始から分娩までの時間を測定する工程(以下、「第2実施形態」と称する)を含むものである。当該2つの工程は、それぞれ単独で分娩誘起後における胎盤停滞の発生を予測することができ、あるいは双方の工程を行うことで胎盤停滞の発生をより正確に予測することもできる。ここで、「胎盤停滞」とは、分娩(胎子娩出)後、12時間経っても胎盤が子宮内から自然に排出されない疾病を意味する。 本方法の対象動物としては、特に限定されるものではないが、例えばウシ、ブタ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、イヌ、ネコ等の非ヒト哺乳動物が挙げられ、ウシが好ましい。 また、分娩誘起としては、例えば一般的な分娩誘起剤の投与による分娩誘起が挙げられる。分娩誘起剤としては、特に限定されるものではないが、例えばPGF2αやエストラジオール等のホルモン剤、デキサメタゾン等の副腎皮質ホルモン及びこれらの組合せが挙げられる。具体的には、分娩誘起剤としてPGF2α製剤の投与又はPGF2α製剤とデキサメタゾンの併用投与により、分娩誘起を行うことができる。PGF2α製剤とデキサメタゾンの併用において、投与の順序は、同時であってよく、あるいはいずれか一方の投与の後に他方の投与が行われる。 本方法の第1実施形態では、分娩誘起前の非ヒト哺乳動物において血中エストラジオール17β濃度を測定する。血中エストラジオール17β濃度の測定は、例えばパーキンエルマー社のDELFIA Estradiol測定キット等の抗原抗体反応を用いた方法によって行うことができる。ウシ等の非ヒト哺乳動物において、分娩誘起前の血中エストラジオール17β濃度が120pg/ml以下、好ましくは100pg/ml以下である場合に胎盤停滞が発生すると予測することができる。 一方、本方法の第2実施形態では、非ヒト哺乳動物において分娩誘起開始から分娩までの時間を測定する。例えば、ウシ等の非ヒト哺乳動物において、PGF2α製剤投与による分娩誘起において分娩誘起開始(PGF2α製剤投与時を分娩誘起開始とする)から分娩までの時間が36時間以上、好ましくは40時間以上である場合に、胎盤停滞が発生すると予測することができる。また、ウシ等の非ヒト哺乳動物において、PGF2α製剤とデキサメタゾンの併用投与による分娩誘起において分娩誘起開始(PGF2α製剤投与時を分娩誘起開始とする)から分娩までの時間が30時間以上、好ましくは32時間以上である場合に、胎盤停滞が発生すると予測することができる。 以上に説明した本方法によれば、分娩誘起後の胎盤停滞の発生を簡便に予測することができる。胎盤停滞は、ホルモン剤等の分娩誘起剤投与による分娩誘起後に高い確率で発生し、その後の繁殖成績に悪影響を及ぼす。分娩誘起は、胎子過大の防止及び分娩予定日を過ぎても分娩しない場合に行われている。本方法によれば、血中エストラジオール17β濃度を指標に分娩誘起前に胎盤停滞の発生を予測できるので、胎盤停滞が予測されない場合には、繁殖成績の悪化を心配せずに分娩誘起を行うことができる。また、胎盤停滞が予測される場合には、分娩誘起を行わないことを選択するか、あるいは分娩誘起を行った場合に、分娩後の早期に治療を開始することで胎盤停滞の程度を軽減できる。さらに、分娩誘起までの時間を利用して、迅速な胎盤停滞治療が可能となる。 以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。〔実施例1〕分娩誘起後における胎盤停滞の発生予測 ホルスタイン種妊娠未経産牛21頭に対して、分娩予定日の4〜7日前にPGF2α製剤(ジノプロストとして50mg)を投与して分娩誘起を行ったところ、12頭は胎盤停滞になり、9頭は胎盤停滞にならなかった。これらの牛についてPGF2α製剤投与前の血中エストラジオール17β濃度を測定し、またPGF2α製剤投与から分娩までの時間を測定した。血中エストラジオール17β濃度の測定は、パーキンエルマー社のDELFIA Estradiol測定キットを用いて行われた。 さらに、分娩予定8日前に2.5mgのデキサメタゾンを皮下注射し、分娩予定7日前にPGF2α製剤(ジノプロストとして50mg)を筋注することにより分娩誘起し、胎盤停滞を起こした牛と胎盤停滞を起こさなかった牛における当該PGF2α製剤投与から分娩までの時間を測定した。 結果を、表1並びに図1及び2に示す。表1は、(A)各牛においてPGF2α製剤のみで分娩誘起した場合におけるPGF2α製剤投与から分娩までの時間(分娩誘導時間)と胎盤停滞の有無、並びに(B)各牛においてPGF2α製剤とデキサメタゾンとの併用で分娩誘起した場合におけるPGF2α製剤投与から分娩までの時間(分娩誘導時間)と胎盤停滞の有無を示す。図1は、各牛においてPGF2α製剤のみで分娩誘起した場合における「胎盤停滞なし」の群(9頭)と「胎盤停滞あり」の群(12頭)とにおける(A)PGF2α製剤投与前の血中エストラジオール17β濃度(pg/ml)、及び(B)PGF2α製剤投与から分娩までの時間(h)を示すグラフである。図2は、各牛においてPGF2α製剤のみで分娩誘起した場合における「胎盤停滞なし」の群(4頭)と「胎盤停滞あり」の群(8頭)とにおけるPGF2α製剤(PG)投与前、投与後9〜14時間、分娩後19〜27時間での血中エストラジオール17β濃度(pg/ml)の推移を示すグラフである。なお、図1及び2におけるグラフの数値は、平均値と標準偏差(エラーバー)で示される。 図1(A)及び図2に示すように、PGF2α製剤のみで分娩誘起した場合において、PGF2α製剤投与前の血中エストラジオール17β濃度を測定したところ、胎盤停滞にならなかった牛では、胎盤停滞になった牛と比べて有意に(P<0.01)高い値を示した。 また、表1(A)及び図1(B)に示すように、PGF2α製剤のみで分娩誘起した場合において、PGF2α製剤投与から分娩までの時間は、胎盤停滞にならなかった牛では、胎盤停滞になった牛と比べて有意に(P<0.01)短かった。 さらに、表1(B)に示すように、PGF2α製剤(PG)とデキサメタゾンとの併用で分娩誘起した場合においても、PGF2α製剤投与から分娩までの時間は、胎盤停滞にならなかった牛では、胎盤停滞になった牛と比べて有意に短かった。 以上の結果から、分娩誘起した牛における胎盤停滞の予測は可能である。 分娩誘起前の非ヒト哺乳動物において血中エストラジオール17β濃度を測定する工程及び/又は非ヒト哺乳動物において分娩誘起開始から分娩までの時間を測定する工程を含む、分娩誘起後における胎盤停滞の発生を予測する方法。 プロスタグランジンF2α製剤投与又はプロスタグランジンF2α製剤とデキサメタゾンの併用投与により分娩誘起を行う、請求項1記載の方法。 分娩誘起前の血中エストラジオール17β濃度が120pg/ml以下である場合に、胎盤停滞が発生すると予測する、請求項1又は2記載の方法。 プロスタグランジンF2α製剤投与による分娩誘起において分娩誘起開始から分娩までの時間が36時間以上である場合に、胎盤停滞が発生すると予測する、請求項1〜3のいずれか1項記載の方法。 プロスタグランジンF2α製剤とデキサメタゾンの併用投与による分娩誘起において分娩誘起開始から分娩までの時間が30時間以上である場合に、胎盤停滞が発生すると予測する、請求項1〜3のいずれか1項記載の方法。 非ヒト哺乳動物がウシである、請求項1〜5のいずれか1項記載の方法。 【課題】分娩誘起後における胎盤停滞の発生を予測する方法を提供することを目的とする。【解決手段】分娩誘起前の非ヒト哺乳動物において血中エストラジオール17β濃度を測定する工程及び/又は非ヒト哺乳動物において分娩誘起開始から分娩までの時間を測定する工程を含む、分娩誘起後における胎盤停滞の発生を予測する方法。【選択図】図1


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特許公報(B2)_胎盤停滞の発生予測法

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タイトル:特許公報(B2)_胎盤停滞の発生予測法
出願番号:2010192723
年次:2015
IPC分類:G01N 33/74


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鎌田 八郎 松井 義貴 小山 毅 中村 正明 南橋 昭 JP 5710180 特許公報(B2) 20150313 2010192723 20100830 胎盤停滞の発生予測法 独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 501203344 地方独立行政法人北海道立総合研究機構 310010575 平木 祐輔 100091096 藤田 節 100118773 村林 望 100169579 鎌田 八郎 松井 義貴 小山 毅 中村 正明 南橋 昭 20150430 G01N 33/74 20060101AFI20150409BHJP JPG01N33/74 G01N 33/48−33/98 MEDLINE(STN) 特開2009−073789(JP,A) A. Wischral,Plasma concentrations of estradiol 17B and PGF2A metabolite and placental fatty acid composition and antioxidant enzyme activity in cows with and without retained fetal membranes,Prostaglandins & other Lipid Mediators,2001年 6月,Vol.65/Iss.2-3,pp.117-124 4 2012046471 20120308 7 20130722 特許法第30条第1項適用 2010年度 日本畜産学会第112回大会にて発表 刊行物名:日本畜産学会 第112回大会 講演要旨 発行者名:社団法人 日本畜産学会 開催日 :平成22年3月28日(日)〜30日(火) 発表日 :平成22年3月29日(月) 講演番号:VI29−14 講演要旨集発行日:平成22年3月28日 (出願人による申告)平成20年度、生物系特定産業技術研究支援センター、基礎的試験研究委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願 伊藤 裕美 本発明は、例えば分娩誘起後における胎盤停滞の発生を予測する方法に関する。 ウシ等の家畜における分娩誘起処置は、畜主が希望する日に分娩をさせたい場合、胎子過大を防ぎたい場合、及び分娩予定日を過ぎても分娩しない場合に行われている。しかしながら、分娩誘起処置により、分娩後12時間以上経っても胎盤が子宮内から排出されない疾病である胎盤停滞が高い確率で発生する。従って、当該胎盤停滞の治療法として抗生物質等の投与をせざるを得ない場合があることから、乳汁廃棄を余儀なくされ、あるいは次産に向けての授精が遅れることによる繁殖成績の悪化が認められている。 そこで、畜主は胎盤停滞の発生を承知で分娩誘起を行うか、あるいは難産を承知で分娩誘起処置を行わないかを選択せざるを得ない状況にある。しかしながら、分娩誘起によって必ずしも胎盤停滞が発生するわけではなく、分娩誘起による胎盤停滞の発生を予測することができれば、分娩誘起処置を安心して選択することができる。 ところで、従来において、ウシの分娩誘起方法として分娩予定日の4日前に(1)プロスタグランジンF2α(以下、「PGF2α」と称する)製剤、(2)エストラジオール17β製剤、又は(3)その両方の製剤を投与した場合に、(1)と(3)では製剤投与から分娩までの時間が44〜46時間と短いが、(2)では131時間と非常に長いことが報告されている(非特許文献1)。また、主として分娩予定日を過ぎたウシでのPGF2α製剤と副腎皮質ホルモン製剤による分娩誘起処置は、処置から分娩までの時間が28.6時間と短く、胎盤停滞発生率は17.9%であったことが報告されている(非特許文献2)。 しかしながら、分娩誘起による胎盤停滞発生の予測に関する報告はこれまでなかった。F.E. Rasmussenら, 「Journal of Dairy Science」, 1996年, 第79巻, 第2号, pp. 227-234広井信人, 「家畜診療」, 2008年, 第55巻, 第11号, pp. 673-679 上述するように、分娩誘起による胎盤停滞の発生を予測する技術は、今まで知られていなかった。 そこで、本発明は、上述した実情に鑑み、分娩誘起による胎盤停滞の発生を予測する方法を提供することを目的とする。 上記課題を解決するため鋭意検討した結果、胎盤停滞が発生する場合と発生しない場合において、分娩誘起前の血中エストラジオール17β濃度及び分娩誘起開始から分娩までの時間が有意に異なることを見出し、本発明を完成するに至った。 本発明は、以下を包含する。 (1)分娩誘起前の非ヒト哺乳動物において血中エストラジオール17β濃度を測定する工程及び/又は非ヒト哺乳動物において分娩誘起開始から分娩までの時間を測定する工程を含む、分娩誘起後における胎盤停滞の発生を予測する方法。 (2)PGF2α製剤投与又はPGF2α製剤と副腎皮質ホルモン製剤であるデキサメタゾンの併用投与により分娩誘起を行う、(1)記載の方法。 (3)分娩誘起前の血中エストラジオール17β濃度が120pg/ml以下である場合に、胎盤停滞が発生すると予測する、(1)又は(2)記載の方法。 (4)PGF2α製剤投与による分娩誘起において分娩誘起開始から分娩までの時間が36時間以上である場合に、胎盤停滞が発生すると予測する、(1)〜(3)のいずれか1記載の方法。 (5)PGF2α製剤とデキサメタゾンの併用投与による分娩誘起において分娩誘起開始から分娩までの時間が30時間以上である場合に、胎盤停滞が発生すると予測する、(1)〜(3)のいずれか1記載の方法。 (6)非ヒト哺乳動物がウシである、(1)〜(5)のいずれか1記載の方法。 本発明によれば、分娩誘起後の胎盤停滞の発生を予測することができ、畜産分野において家畜に対して分娩誘起処置を行うか否かを安全に選択することができる。また、本発明により胎盤停滞が予測されない場合には分娩誘起処置を安心して選択でき、一方、胎盤停滞が予測される場合には、分娩誘起を行わないことを選択するか、あるいは分娩誘起を行った場合でも分娩後に早期に治療を行うことができ、胎盤停滞の程度を軽減できる。ウシにおいてPGF2α製剤で分娩誘起した場合における「胎盤停滞なし」の群と「胎盤停滞あり」の群とにおける(A)PGF2α製剤投与前の血中エストラジオール17β濃度(pg/ml)、及び(B)PGF2α製剤投与から分娩までの時間(h)を示すグラフである。ウシにおいてPGF2α製剤で分娩誘起した場合における「胎盤停滞なし」の群と「胎盤停滞あり」の群とにおけるPGF2α製剤(PG)投与前、投与後9〜14時間、分娩後19〜27時間での血中エストラジオール17β濃度(pg/ml)の推移を示すグラフである。 以下、本発明を詳細に説明する。 本発明に係る分娩誘起後における胎盤停滞の発生を予測する方法(以下、「本方法」と称する)は、分娩誘起前の非ヒト哺乳動物において血中エストラジオール17β濃度を測定する工程(以下、「第1実施形態」と称する)、及び/又は非ヒト哺乳動物において分娩誘起開始から分娩までの時間を測定する工程(以下、「第2実施形態」と称する)を含むものである。当該2つの工程は、それぞれ単独で分娩誘起後における胎盤停滞の発生を予測することができ、あるいは双方の工程を行うことで胎盤停滞の発生をより正確に予測することもできる。ここで、「胎盤停滞」とは、分娩(胎子娩出)後、12時間経っても胎盤が子宮内から自然に排出されない疾病を意味する。 本方法の対象動物としては、特に限定されるものではないが、例えばウシ、ブタ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、イヌ、ネコ等の非ヒト哺乳動物が挙げられ、ウシが好ましい。 また、分娩誘起としては、例えば一般的な分娩誘起剤の投与による分娩誘起が挙げられる。分娩誘起剤としては、特に限定されるものではないが、例えばPGF2αやエストラジオール等のホルモン剤、デキサメタゾン等の副腎皮質ホルモン及びこれらの組合せが挙げられる。具体的には、分娩誘起剤としてPGF2α製剤の投与又はPGF2α製剤とデキサメタゾンの併用投与により、分娩誘起を行うことができる。PGF2α製剤とデキサメタゾンの併用において、投与の順序は、同時であってよく、あるいはいずれか一方の投与の後に他方の投与が行われる。 本方法の第1実施形態では、分娩誘起前の非ヒト哺乳動物において血中エストラジオール17β濃度を測定する。血中エストラジオール17β濃度の測定は、例えばパーキンエルマー社のDELFIA Estradiol測定キット等の抗原抗体反応を用いた方法によって行うことができる。ウシ等の非ヒト哺乳動物において、分娩誘起前の血中エストラジオール17β濃度が120pg/ml以下、好ましくは100pg/ml以下である場合に胎盤停滞が発生すると予測することができる。 一方、本方法の第2実施形態では、非ヒト哺乳動物において分娩誘起開始から分娩までの時間を測定する。例えば、ウシ等の非ヒト哺乳動物において、PGF2α製剤投与による分娩誘起において分娩誘起開始(PGF2α製剤投与時を分娩誘起開始とする)から分娩までの時間が36時間以上、好ましくは40時間以上である場合に、胎盤停滞が発生すると予測することができる。また、ウシ等の非ヒト哺乳動物において、PGF2α製剤とデキサメタゾンの併用投与による分娩誘起において分娩誘起開始(PGF2α製剤投与時を分娩誘起開始とする)から分娩までの時間が30時間以上、好ましくは32時間以上である場合に、胎盤停滞が発生すると予測することができる。 以上に説明した本方法によれば、分娩誘起後の胎盤停滞の発生を簡便に予測することができる。胎盤停滞は、ホルモン剤等の分娩誘起剤投与による分娩誘起後に高い確率で発生し、その後の繁殖成績に悪影響を及ぼす。分娩誘起は、胎子過大の防止及び分娩予定日を過ぎても分娩しない場合に行われている。本方法によれば、血中エストラジオール17β濃度を指標に分娩誘起前に胎盤停滞の発生を予測できるので、胎盤停滞が予測されない場合には、繁殖成績の悪化を心配せずに分娩誘起を行うことができる。また、胎盤停滞が予測される場合には、分娩誘起を行わないことを選択するか、あるいは分娩誘起を行った場合に、分娩後の早期に治療を開始することで胎盤停滞の程度を軽減できる。さらに、分娩誘起までの時間を利用して、迅速な胎盤停滞治療が可能となる。 以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。〔実施例1〕分娩誘起後における胎盤停滞の発生予測 ホルスタイン種妊娠未経産牛21頭に対して、分娩予定日の4〜7日前にPGF2α製剤(ジノプロストとして50mg)を投与して分娩誘起を行ったところ、12頭は胎盤停滞になり、9頭は胎盤停滞にならなかった。これらの牛についてPGF2α製剤投与前の血中エストラジオール17β濃度を測定し、またPGF2α製剤投与から分娩までの時間を測定した。血中エストラジオール17β濃度の測定は、パーキンエルマー社のDELFIA Estradiol測定キットを用いて行われた。 さらに、分娩予定8日前に2.5mgのデキサメタゾンを皮下注射し、分娩予定7日前にPGF2α製剤(ジノプロストとして50mg)を筋注することにより分娩誘起し、胎盤停滞を起こした牛と胎盤停滞を起こさなかった牛における当該PGF2α製剤投与から分娩までの時間を測定した。 結果を、表1並びに図1及び2に示す。表1は、(A)各牛においてPGF2α製剤のみで分娩誘起した場合におけるPGF2α製剤投与から分娩までの時間(分娩誘導時間)と胎盤停滞の有無、並びに(B)各牛においてPGF2α製剤とデキサメタゾンとの併用で分娩誘起した場合におけるPGF2α製剤投与から分娩までの時間(分娩誘導時間)と胎盤停滞の有無を示す。図1は、各牛においてPGF2α製剤のみで分娩誘起した場合における「胎盤停滞なし」の群(9頭)と「胎盤停滞あり」の群(12頭)とにおける(A)PGF2α製剤投与前の血中エストラジオール17β濃度(pg/ml)、及び(B)PGF2α製剤投与から分娩までの時間(h)を示すグラフである。図2は、各牛においてPGF2α製剤のみで分娩誘起した場合における「胎盤停滞なし」の群(4頭)と「胎盤停滞あり」の群(8頭)とにおけるPGF2α製剤(PG)投与前、投与後9〜14時間、分娩後19〜27時間での血中エストラジオール17β濃度(pg/ml)の推移を示すグラフである。なお、図1及び2におけるグラフの数値は、平均値と標準偏差(エラーバー)で示される。 図1(A)及び図2に示すように、PGF2α製剤のみで分娩誘起した場合において、PGF2α製剤投与前の血中エストラジオール17β濃度を測定したところ、胎盤停滞にならなかった牛では、胎盤停滞になった牛と比べて有意に(P<0.01)高い値を示した。 また、表1(A)及び図1(B)に示すように、PGF2α製剤のみで分娩誘起した場合において、PGF2α製剤投与から分娩までの時間は、胎盤停滞にならなかった牛では、胎盤停滞になった牛と比べて有意に(P<0.01)短かった。 さらに、表1(B)に示すように、PGF2α製剤(PG)とデキサメタゾンとの併用で分娩誘起した場合においても、PGF2α製剤投与から分娩までの時間は、胎盤停滞にならなかった牛では、胎盤停滞になった牛と比べて有意に短かった。 以上の結果から、分娩誘起した牛における胎盤停滞の予測は可能である。 分娩誘起前のウシにおいて血中エストラジオール17β濃度を測定する工程であって、分娩誘起前の血中エストラジオール17β濃度が120pg/ml以下である場合に、胎盤停滞が発生すると予測する、前記工程及び/又はウシにおいて分娩誘起開始から分娩までの時間を測定する工程を含む、分娩誘起後における胎盤停滞の発生を予測する方法。 プロスタグランジンF2α製剤投与又はプロスタグランジンF2α製剤とデキサメタゾンの併用投与により分娩誘起を行う、請求項1記載の方法。 プロスタグランジンF2α製剤投与による分娩誘起において分娩誘起開始から分娩までの時間が40時間以上である場合に、胎盤停滞が発生すると予測する、請求項1又は2記載の方法。 プロスタグランジンF2α製剤とデキサメタゾンの併用投与による分娩誘起において分娩誘起開始から分娩までの時間が30時間以上である場合に、胎盤停滞が発生すると予測する、請求項1又は2記載の方法。


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