タイトル: | 公開特許公報(A)_膜分離操作によりメタノールとメチルエステルを分離する方法 |
出願番号: | 2010173476 |
年次: | 2011 |
IPC分類: | C07C 29/76,C07C 31/04,B01D 61/36,B01D 71/02 |
加門 良啓 喜多 英敏 JP 2011051975 公開特許公報(A) 20110317 2010173476 20100802 膜分離操作によりメタノールとメチルエステルを分離する方法 三菱レイヨン株式会社 000006035 国立大学法人山口大学 304020177 宮崎 昭夫 100123788 石橋 政幸 100106138 緒方 雅昭 100127454 加門 良啓 喜多 英敏 JP 2009183354 20090806 C07C 29/76 20060101AFI20110218BHJP C07C 31/04 20060101ALI20110218BHJP B01D 61/36 20060101ALI20110218BHJP B01D 71/02 20060101ALI20110218BHJP JPC07C29/76C07C31/04B01D61/36B01D71/02 6 1 OL 15 4D006 4H006 4D006GA25 4D006GA28 4D006HA28 4D006MA02 4D006MA09 4D006MB01 4D006MB11 4D006MB15 4D006MC03X 4D006NA46 4D006NA50 4D006NA64 4D006PA01 4D006PB13 4D006PB32 4D006PB70 4H006AA02 4H006AD19 4H006FE11 本発明は、メタノールと、炭素数3以上のカルボン酸より誘導されるメチルエステルとを含む混合物から、膜分離操作によってメタノールとメチルエステルを効率よく分離する方法に関する。さらに、メタノールと水と、炭素数3以上のカルボン酸より誘導されるメチルエステルとを含む混合物から膜分離操作によってメタノールとメチルエステルを分離する方法に関する。 炭素数3以上のカルボン酸より誘導されるエステルは多くの用途に使用されている。例えば、プロピオン酸エステルのうち、プロピオン酸メチルはメタクリル酸メチルの原料として、プロピオン酸エチル、プロピオン酸ベンジルは合成香料として使用されている。アクリル酸エステル又はメタクリル酸エステルはポリマーを製造するためのモノマーとして使用され、得られたポリマーは成形材料、塗料、接着剤などとして使用されている。また、酪酸エチル、酪酸イソプロピル、酪酸ブチル、酪酸イソペンチル、イソ吉草酸エチル、イソ吉草酸イソアミル、カプロン酸エチル、カプロン酸アリル、カプロン酸イソアミル、カプリル酸エチル、安息香酸メチル、安息香酸ベンジル、フェニル酢酸エチル、桂皮酸メチル、桂皮酸エチル、サリチル酸メチル、サリチル酸ベンジルは合成香料として使用されている。なお、以後、アクリル酸又はメタクリル酸をあわせて(メタ)アクリル酸、アクリル酸メチルとメタクリル酸メチルをあわせて(メタ)アクリル酸メチル、アクリル酸エステルとメタクリル酸エステルをあわせて(メタ)アクリル酸エステルと呼ぶこともある。 一般に、メチルエステルは、カルボン酸を酸触媒存在下メタノールと反応させることで製造されている。一方、炭素数2以上のアルコールのエステルは、メチルエステルとのエステル交換反応によって製造されている。なお、以後、炭素数2以上のアルコールを高級アルコール、炭素数2以上のアルコールのエステルを高級エステルと呼ぶこともある。 カルボン酸とメタノールによるエステル化反応においては、メチルエステル、メタノールおよび水の混合物が得られる。メチルエステルと高級アルコールとのエステル交換反応においては、メチルエステル、高級エステルおよびメタノールの混合物が得られることは公知である。 酸触媒存在下のエステル化反応は平衡反応であり、通常メタノールはカルボン酸に対して過剰モル使用されるのでカルボン酸はほとんど消費され、未反応カルボン酸はなくなる。したがって反応後の反応液は、過剰のメタノールと、反応生成物であるメチルエステル、反応副生成物である水の混合物となる。 一方、エステル交換反応も同様に平衡反応であり、通常メチルエステルは高級アルコールに対して過剰モル使用されるので、高級アルコールはエステル交換反応によりほとんど消費される。したがって反応後の反応液は、反応副生成物であるメタノール、未反応のメチルエステルおよび反応生成物である高級エステルの混合物となる。このうち、反応生成物である高級エステルは、メタノール、メチルエステルとの沸点差が大きいので、分離が比較的容易でありこのエステルを除いたメタノールとメチルエステルの混合物を得ることができる。 メタノールとメチルエステルの混合物を、それぞれの成分に分離して回収することができれば、酸触媒存在下のエステル化反応、あるいはエステル交換反応の原料として再利用することができる。この場合、回収された原料に相当する成分に含まれる、反応生成物に相当する成分の濃度は可能な限り低いことが望ましい。 メタノールとメチルエステルは通常蒸留により分離されているが、蒸留は熱エネルギーを非常に多く消費するプロセスである。さらに、メチルエステルのうち、特にプロピオン酸メチル、又は(メタ)アクリル酸メチルとメタノールの混合物を、通常の蒸留によりそれぞれの成分に分離しようとすると、共沸混合物を形成するため、共沸組成以上に分離することはできない。具体的には、大気圧でのメタノールの沸点が64.7℃で、プロピオン酸メチルの沸点が79.8℃であるのに対し、メタノールとプロピオン酸メチルからなる共沸混合物の共沸組成は大気圧で沸点62.45(℃)、メタノール/プロピオン酸メチル=47.5/52.5(質量%)である。大気圧でのアクリル酸メチルの沸点が80℃であるのに対し、メタノールとアクリル酸メチルからなる共沸混合物の共沸組成は大気圧で沸点62.5(℃)で、メタノール/アクリル酸メチル=54/46(質量%)である。大気圧でのメタクリル酸メチルの沸点が99.5℃であるのに対し、メタノールとメタクリル酸メチルからなる共沸混合物の共沸組成は大気圧で沸点64.2(℃)で、メタノール/メタクリル酸メチル=82/18(質量%)である(非特許文献1)。 そこで、メタノールと(メタ)アクリル酸メチルの分離については、メタノールと共沸混合物を形成する有機溶剤を添加して蒸留を行い、それぞれの成分に分離する方法がこれまでに提案されている(特許文献1〜3)。 この方法を用いれば、確かに通常の蒸留よりは効率よくメタノールと(メタ)アクリル酸メチルを分離することができる。しかし、それでも各成分を完全に分離することは困難であり、また、添加する有機溶剤も加熱する必要があるため、通常の蒸留より熱エネルギーをさらに多く消費することとなる。 蒸留以外の方法では水を加えてメタノールを抽出する方法等もあるが、プロピオン酸メチルや(メタ)アクリル酸メチルもある程度水に溶解性を示し、また、特にメタノールの濃度が高い場合には、水でメタノールを完全に抽出することが困難となり、それぞれの成分に分離しようとするとプロセスが複雑化するため好ましくない。 一方、最近、混合物、特に共沸混合物の分離に膜を用いる分離方法が提案されている。膜を用いる分離は、蒸留のみによる分離と比較して、熱エネルギーの消費量の点で優れている。分離に使用する膜としては、有機系のポリビニルアルコール膜、ポリイミド膜や無機系のゼオライト膜がある。有機系の膜は、無機系の膜と比較して生産性の点で優れ、無機系の膜は、分離性、耐熱性、耐薬品性の点で優れている。 共沸混合物の分離に膜を用いる分離方法としては、例えば、耐薬品性を有する特殊なポリイミド中空糸膜を用いて、メタノールとメタクリル酸メチルとの混合物の蒸気を分離する方法が提案されている(特許文献4)。 この方法によれば、共沸組成より高濃度のメタノールを得ることができる。しかし、膜に透過される前の混合物の蒸気の組成が不明であり、また、膜透過後のメタノール濃度は最高で95.6質量%であり、数質量%のメタクリル酸メチルを含有する。さらに、一般に有機系の膜は耐熱性や耐薬品性に問題があるとされている。この方法では、特殊な処理を施すことで耐薬品性が向上したとされているが、実施例では8時間の透過における分離性能のみ言及されており、繰り返し使用により分離性能が維持できるかは不明である。 一方、無機系の膜では、FAU型の結晶構造を持つX型ゼオライト膜、Y型ゼオライト膜を用いて、共沸混合物である水とエタノール、エタノールとシクロヘキサン、エタノールとベンゼン、メタノールとベンゼン、メタノールとメチル−t−ブチルエーテルを分離する方法が提案されている(特許文献5、6)。 この方法によれば、例示された共沸混合物中から水、メタノール、あるいはエタノールを比較的高濃度で効率よく分離することができる。しかし、共沸混合物として例示されているものは、水/アルコール系溶剤、アルコール系溶剤/炭化水素系溶剤、アルコール系溶剤/エーテル系溶剤の混合物であり、メタノールと炭素数3以上のカルボン酸より誘導されるメチルエステルからなる混合物は記載されていない。さらに、60℃以下の比較的低い温度でアルコール系溶剤が透過する分離結果として例示されているものには、ゼオライト膜を透過する成分が100%に近い高濃度で分離されている場合には透過流速(全透過量)が小さく、透過流速が大きい場合にはゼオライト膜を透過する成分がそれほど高濃度で分離されず、透過した成分が100%に近い高濃度で分離されて、かつ透過流速が大きい場合は記載されていない。 また、Y型ゼオライト膜やZSM−5型ゼオライト膜を用いて、共沸混合物であるメタノールと酢酸メチルとを分離する方法が提案されている(特許文献7、8)。 この方法によれば、多段蒸留塔より少ない熱エネルギーで、共沸組成より高濃度の酢酸メチルを得ることができる。しかし、共沸混合物として例示されているものには、メタノールと、炭素数3以上のカルボン酸より誘導されるメチルエステルからなる混合物は記載されていない。また、特許文献7では、分離の際、混合物の蒸気を高温高圧で供給する必要がある。米国特許第2916512号明細書特開昭57−9740号公報特公平1−19374号公報特開2007−63171号公報特開平10−212117号公報特開平8−257301号公報特開2006−306762号公報特開2006−247599号公報Ullmann’s Encyclopedia of Industrial Chemistry A16巻 「Methanol」、VCH、1990年、pp465−486 本発明は、メタノールと、炭素数3以上のカルボン酸より誘導されるメチルエステルとを含む混合物から、メタノールを高濃度で効率よく分離することを目的とする。 前記課題を解決するために、本発明者らは鋭意検討した結果、特定の条件下で膜分離操作を行うことによって、高濃度のメタノールを効率よく分離することができることを見出した。 すなわち、本発明に係る方法は、メタノールと、炭素数3以上のカルボン酸より誘導されるメチルエステルとを含む混合物から、FAU型の結晶構造を持つゼオライト膜を用いて膜分離操作を行なうことにより、前記メタノールを分離する方法である。 本発明によれば、メタノールと、炭素数3以上のカルボン酸より誘導されるメチルエステルとを含む混合物から、メタノールを高濃度で効率よく分離することができる。ゼオライト膜の浸透気化法での分離性能を評価するための装置の概略図である。ゼオライト膜の蒸気透過法での分離性能を評価するための装置の概略図である。 本発明で使用される膜としては、分離性、耐熱性、耐薬品性の観点からFAU型の結晶構造を持つゼオライト膜、すなわちX型ゼオライト膜、Y型ゼオライト膜を用いる。製膜の容易さを考慮すれば、Y型ゼオライト膜が特に好ましい。FAU型の結晶構造を持つゼオライト膜において、60℃以下の比較的低い温度で、透過した成分が高濃度で分離されて、かつ透過流速が大きい結果を示したことは、本発明者らにとって大きな驚きであった。 X型ゼオライト膜、Y型ゼオライト膜は、無機化合物を成分とする多孔質管状支持体の表面にNaX型ゼオライト結晶またはNaY型ゼオライト結晶を析出させることで製膜することができる。多孔質管状支持体の成分である無機化合物としては、膜の分離性能を考慮すれば、α−アルミナ、ムライト、ステンレスが好ましい。多孔質管状支持体の表面にゼオライト結晶を析出させるには、多孔質管状支持体表面にNaX型ゼオライトやNaY型ゼオライトを種結晶として塗布し、アルミノシリケートゲルに浸漬して、水熱合成を行なうことが好ましい。水熱合成における昇温と保温は、オイルなどの熱媒、熱風、マイクロ波により行なうことができる。アルミノシリケートゲルから膜表面へのゼオライトの結晶化速度を考慮すると、保温する温度は100℃以上140℃以下が好ましく、保温する時間は、X型ゼオライト膜の場合は3時間以上27時間以下が好ましく、Y型ゼオライト膜の場合は2時間以上6時間以下が好ましい。Y型ゼオライト膜で透過性能の優れた膜を得るには、保温する温度を一定とするより、まず120℃以上140℃以下で1〜2時間保温し、次に100℃以上120℃未満で1〜4時間保温することが好ましい。なお、マイクロ波を用いる場合、周波数としては、家庭用電子レンジで利用できる2450MHzが好ましい。水熱合成終了後は、使用した装置から膜を取出し、膜表面に堆積したアモルファスゲルを除去するために、膜をよく水洗し蒸留水中に24時間以上浸漬させることが好ましい。その後乾燥させればX型ゼオライト膜、Y型ゼオライト膜を得ることができる。 メタノールと、炭素数3以上のカルボン酸より誘導されるメチルエステルとを含む混合物から効率よくメタノールを分離するためには、X型ゼオライト膜の場合は、アルミノシリケートゲルのシリカ/アルミナのモル比が2以上10以下であることが好ましい。アルミノシリケートゲルを構成するシリカ、アルミナ以外の成分としては酸化ナトリウムと水が挙げられる。酸化ナトリウム/シリカのモル比は1以上3以下であることが好ましく、水/酸化ナトリウムのモル比は20以上50以下であることが好ましい。Y型ゼオライト膜の場合は、アルミノシリケートゲルのシリカ/アルミナのモル比が25以上50以下であることが好ましい。酸化ナトリウム/シリカのモル比は0.6以上1.2以下であることが好ましく、水/酸化ナトリウムのモル比は40以上100以下であることが好ましい。 また、X型ゼオライト膜の場合はアルミノシリケートゲルのエージングの必要はなく、Y型ゼオライト膜の場合はアルミノシリケートゲルのエージング時間は15時間以上21時間以下が好ましく、エージング温度は20℃以上40℃以下が好ましい。 本発明で分離の対象となるメタノールとの混合物の成分である、炭素数3以上のカルボン酸より誘導されるメチルエステルとしては、特に制限はないが、例えば、プロピオン酸メチル、(メタ)アクリル酸メチル、酪酸メチル、イソ酪酸メチル、クロトン酸メチル、吉草酸メチル、イソ吉草酸メチル、2−メチル酪酸メチル、ピバル酸メチル、チグリン酸メチル、アンゲリカ酸メチル、カプロン酸メチル(ヘキサン酸メチル)、エナント酸メチル(ヘプタン酸メチル)、カプリル酸メチル(オクタン酸メチル)、安息香酸メチル、フェニル酢酸メチル、桂皮酸メチル、サリチル酸メチルなどが挙げられる。中でも、メタノールと共沸混合物を形成し、蒸留による分離が困難な点で、プロピオン酸メチル又は(メタ)アクリル酸メチルの場合、特に膜分離が有効である。炭素数2以下のカルボン酸から誘導されるメチルエステル、例えば、ぎ酸メチル、酢酸メチルは、炭素数3以上のカルボン酸より誘導されるメチルエステルと比較して、ゼオライト膜による分離の選択性が低い傾向がある。なお、(メタ)アクリル酸メチルとは、アクリル酸メチル及びメタクリル酸メチルを示す。 本発明で使用されるメタノールと、炭素数3以上のカルボン酸より誘導されるメチルエステルとを含む混合物の組成は、特に限定されないが、高濃度のメタノールを得るためには混合物のメタノール濃度が4質量%以上であることが好ましい。 メタノールと、炭素数3以上のカルボン酸より誘導されるメチルエステルとを含む混合物は、さらに少量の水を含んでも差し支えない。このようなメタノールと炭素数3以上のカルボン酸より誘導されるメチルエステルなどを含む混合物は、エステル化反応又はエステル交換反応の反応液を加熱することで蒸気として得ることができる。エステル化反応では、メタノールと炭素数3以上のカルボン酸とのエステル化により混合物が生成する。エステル交換反応では、例えばアルコールと炭素数3以上のカルボン酸より誘導されるメチルエステルとのエステル交換により混合物が生成する。 エステル化反応に用いることのできる触媒は、酸触媒であれば特に制限はないが、酸性イオン交換樹脂などの不均一系酸触媒が好ましい。エステル交換反応に用いることができる触媒は、特に制限はないが、チタニウムテトラアルコキシド、ジアルキルスズオキシドなどの金属錯体触媒や酸化カルシウムなどの塩基性触媒、または酸性イオン交換樹脂などの不均一系酸触媒が好ましい。硫酸やパラトルエンスルホン酸などの均一系酸触媒は、エステル化反応にもエステル交換反応にも用いることができるが、ゼオライト膜と接触すると膜を溶解する場合がある。 (メタ)アクリル酸メチルを製造する酸触媒存在下のエステル化反応や、(メタ)アクリル酸エステルを製造するエステル交換反応では、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エステルの重合を防止するために、重合防止剤を使用することが好ましい。重合防止剤としては、4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシルなどのN−オキシラジカル系化合物、p−メトキシフェノールなどのフェノール系化合物、ハイドロキノンなどのキノン系化合物、フェノチアジンなどのアミン系化合物が挙げられる。これらは、それぞれ単独でまたは2種類以上を混合して用いることができる。 メタノールと、炭素数3以上のカルボン酸より誘導されるメチルエステルとを含む混合物のFAU型の結晶構造を持つゼオライト膜による膜分離操作では、メタノールが選択的に蒸気の状態で透過され、炭素数3以上のカルボン酸より誘導されるメチルエステルはほとんど透過されない。蒸気の状態で透過された高濃度のメタノールは冷却して液体の状態にすることが好ましい。 本発明における、メタノールと、炭素数3以上のカルボン酸より誘導されるメチルエステルとの混合物をFAU型の結晶構造を持つゼオライト膜により分離する方法としては、混合物を液体の状態(浸透気化法)又は蒸気の状態(蒸気透過法)で供給し、ゼオライト膜により分離する方法が挙げられる。装置をコンパクト化できる点では浸透気化法が好ましく、相変化を伴わず熱エネルギーの消費を低減できる点では蒸気透過法が好ましい。蒸気透過法の場合には、蒸留と組み合わせて使用することが、分離の選択性、熱エネルギーの消費を低減できる点から好ましい。 メタノールの効率的な膜分離を実現するために、膜に対する透過側と供給側でメタノールの濃度差を設けることが好ましい。濃度差を設ける具体的な手段としては、透過側と供給側でできるだけ大きな差圧をつけるか、あるいは透過側にメタノールが滞留しないようにメタノール以外の気体を流すことが挙げられる。できるだけ大きな差圧をつけるためには、供給側を加圧にするか、あるいは透過側を減圧にしなければならない。実現の容易さと透過性を考慮すれば、供給側の圧力は50〜470kPa、透過側の圧力は0.5kPa以下が好ましく、供給側の圧力は大気圧、透過の圧力側は0.1kPa以下がより好ましい。透過側にメタノールが滞留しないように流すメタノール以外の気体としては、メタノールと反応せず不活性で、入手の容易なことを考慮すれば、空気、窒素、アルゴンが好ましい。 分離における供給側の混合物の温度は、実現の容易さを考慮すれば0〜200℃が好ましく、メタノールの透過量を考慮すれば30〜180℃が好ましく、膜分離の選択性と消費する熱エネルギーを考慮すれば50〜150℃がより好ましい。蒸気透過法により、混合物を蒸気の状態で供給する場合には、メタノールの透過量を多くするために、膜分離の前に蒸気を過熱して供給することもできる。 以上のように、本発明の分離方法によれば、メタノールと、炭素数3以上のカルボン酸より誘導されるメチルエステルとを含む混合物からメタノールを効率よく分離することができる。 以下に本発明の実施例を説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。 <FAU型の結晶構造を持つゼオライト膜の製造> (製造例1) ゼオライト膜は機械強度に欠けるため、多孔質管状支持体上に膜を析出させることで調製した。NaY型ゼオライト粉末(東ソー株式会社製、商品名:HSZ−320NAA)に同じ質量の水を加えてペースト状にしたものを多孔質α−アルミナ支持体(株式会社ニッカトー製Fチューブ、外径12mm、内径9mm、平均細孔径1.25μm、気孔率35.2%、全長100mm)の表面に、ゼオライト粉末が析出するまで指で塗布した。一方、アルミン酸ナトリウム(和光純薬工業株式会社製一級)2.598g、水酸化ナトリウム(和光純薬工業株式会社製特級)12.688g、水ガラス(シグマアルドリッチジャパン株式会社製)80g、蒸留水211.7gを混合した。このとき、シリカ/アルミナ/酸化ナトリウム/水=25/1/22/990(モル比)となった。その混合液を室温で4時間撹拌し、30℃で17時間エージング処理することでアルミノシリケートゲル307gを得た。容量0.5Lのオートクレーブ中にアルミノシリケートゲルを仕込み、前述のゼオライト粉末を塗布した支持体を浸漬した。水熱合成として、オートクレーブを密閉してあらかじめ100℃に設定しておいた恒温槽(ヤマト科学株式会社製、商品名:ADP300)に設置し6時間加熱した。水熱合成終了後、作製したY型ゼオライト膜(Y型−1)を水洗し、乾燥してX線回折スペクトルを測定し、NaY型ゼオライト結晶のピークが出現していることを確認した。結果を表1に示す。 (製造例2) 多孔質管状支持体を、多孔質α−アルミナ支持体から、75℃で16時間硝酸処理した多孔質ステンレス支持体(マイクロフィルター株式会社製、外径10mm、内径8.3mm、平均細孔径1.0μm、気孔率30%、全長100mm)に替えた以外は製造例1と同様にY型ゼオライト膜(Y型−2)を作製した。結果を表1に示す。 (製造例3) 製造例1において、多孔質管状支持体を、多孔質α−アルミナ支持体から、多孔質ムライト支持体(株式会社ニッカトー製PMチューブ、外径12mm、内径9mm、平均細孔径1.3μm、気孔率45%、全長100mm)に替えた。また、製造例1において、容量0.5Lのオートクレーブ中にアルミノシリケートゲルを仕込み、ゼオライト粉末を塗布した支持体を浸漬し、水熱合成として、オートクレーブを密閉して100℃で6時間加熱する処理から、パイレックス(登録商標)容器内にアルミノシリケートゲルを仕込み、ゼオライト粉末を塗布した支持体を浸漬し、水熱合成として、マイクロ波反応装置(四国計測工業株式会社製、マイクロ波周波数2450±50MHz、出力1kW)を用いてパイレックス(登録商標)容器にマイクロ波を連続的に照射して容器内の温度を100℃にし、以後はマイクロ波を間欠的に照射することで100℃を4時間保つ処理に替えた。それ以外は製造例1と同様にY型ゼオライト膜(Y型−3)を作製した。結果を表1に示す。 (製造例4〜7) シリカ/アルミナ/酸化ナトリウム/水(モル比)や水熱合成の条件を表1に示すように替えたこと以外は、製造例1〜3と同様にゼオライト膜を作製した。結果を表1に示す。製造例5では、水熱合成として、オートクレーブを密閉して、まずあらかじめ130℃に設定しておいた恒温槽に設置し1時間加熱し、次にあらかじめ100℃に設定しておいた恒温槽に移して3.5時間加熱した。製造例6では、水熱合成として、マイクロ波反応装置を用いてまずパイレックス(登録商標)容器にマイクロ波を連続的に照射して容器内の温度を130℃にし、以後はマイクロ波を間欠的に照射することで130℃を1時間保ち、次にマイクロ波の照射を抑制して容器内の温度を100℃に下げて、以後はマイクロ波を間欠的に照射することで100℃を1時間保った。なお、製造例7において使用したゼオライト粉末は、NaX型ゼオライト粉末(シグマアルドリッチジャパン株式会社製、モレキュラーシーブス13X粉末)であり、アルミノシリケートゲルのエージングは行なわなかった。 <分離性能の測定> (実施例1) 以上のようにして作製したFAU型の結晶構造を持つゼオライト膜の浸透気化による分離性能を測定した。FAU型の結晶構造を持つゼオライト膜を図1に示す装置に取り付けた。具体的に説明すると、恒温水槽(1)の内部に容量0.3Lの供給液用容器(2)を設置し、供給液用容器(2)の中の供給液の温度を一定に保つようにした。供給液として、メタノール(関東化学株式会社製特級)とメタクリル酸メチル(三菱レイヨン株式会社製、商品名:アクリエステルM)の混合物0.25Lを満たした。供給液の温度が高く、蒸発量が多い場合には、供給液用容器(2)にジムロート冷却管を取り付けて、供給液の揮発を抑制した。供給液にFAU型の結晶構造を持つゼオライト膜(3)を浸漬し、その片末端を封止し、残りの末端を、シリコーンチューブ(4)を介してガラス減圧ライン(5)に接続した。ガラス減圧ライン(5)は切替え用コック(6)で枝分かれしており、それぞれのラインを、トラップ管(7)を経由して真空ポンプ(9)に連結した。装置内を減圧にすることで供給液の成分がFAU型の結晶構造を持つゼオライト膜(3)を蒸気の形態で透過するようにし、透過した蒸気を、デュワー瓶(8)に満たした液体窒素により冷却して、トラップ管(7)で捕集した。0.5時間経過ごとに切替え用コック(6)を操作することでトラップ管(7)に捕集した液体(透過液)の質量と組成を測定した。測定後、透過液を供給液に加え、供給液の質量と組成が変化しないようにした。透過液の質量と組成が安定し、3回連続してほとんど変化がなくなった時点で測定を終了し、その平均を透過物質量(kg)とメタノール濃度(質量%)として求めた。通常は、透過を開始して1〜1.5時間経過すると、透過液の質量と組成は安定し、2.5〜3時間経過した時点で測定を終了した。なお、多孔質支持体上に形成されたFAU型の結晶構造を持つゼオライト膜(3)の有効膜面積は、全長100mmの多孔質α−アルミナ支持体のうち、長さ50mmの部分が露出していたことから18.84cm2であった。測定中の装置の圧力は0.1kPa以下を保つようにした。また、透過液の組成はガスクロマトグラフにより測定した。 ゼオライト膜の透過性能は、透過液中に含まれるメタノールの濃度と、次の式で示される分離係数α、α=[Y/(100−Y)]/[X/(100−X)] X:供給液のメタノールの濃度(質量%) 100−X:供給液のメタノール以外の成分の濃度(質量%) Y:透過液のメタノールの濃度(質量%) 100−Y:透過液のメタノール以外の成分の濃度(質量%)透過流速Q[kg/(m2・h)]、Q=w/(A×t) w:透過物質量(kg) A:有効膜面積(m2) t:透過時間(h)で評価した。製造例1で作製したゼオライト膜(Y型−1)を、供給液がメタノール濃度4.67質量%のメタノール/メタクリル酸メチル混合物に浸漬し、温度50℃で浸透気化分離実験を行なった。透過液の質量と組成が安定したとき、透過液メタノール濃度は98.96質量%、分離係数αは1970、透過流速Qは0.89kg/(m2・h)となった。結果を表2に示す。 (実施例2〜16) ゼオライト膜、温度、供給液のメタノール濃度を表2に示すように変化させた以外は、実施例1と同様にFAU型の結晶構造を持つゼオライト膜によるメタノール/メタクリル酸メチル混合物の浸透気化分離実験を行なった。結果を表2に示す。なお、浸透気化分離実験における、FAU型の結晶構造を持つゼオライト膜の有効膜面積は、製造例2で作製したゼオライト膜(Y型−2)以外は18.84cm2であり、製造例2で作製したゼオライト膜(Y型−2)のみ15.70cm2であった。 (実施例17〜20) 供給液の成分を表3に示すように変化させた以外は、実施例9と同様に温度60℃でゼオライト膜Y型−1によるメタノール/メチルエステル混合物の浸透気化分離実験を行なった。結果を表3に示す。なお、表3で使用したメチルエステルは、プロピオン酸メチル(和光純薬工業株式会社製特級)、アクリル酸メチル(関東化学株式会社製鹿特級)、酪酸メチル(関東化学株式会社製鹿特級)、イソ酪酸メチル(和光純薬工業株式会社製一級)である。 (実施例21) 供給液を、メタノール濃度9.76質量%のメタノール/プロピオン酸メチル混合物から、組成が水/メタノール/プロピオン酸メチル=10.25/4.98/84.77質量%の混合物に替えたこと以外は実施例17と同様に温度60℃で浸透気化分離実験を行なった。透過液の質量と組成が安定したとき、透過液の組成は水/メタノール/メタクリル酸メチル=93.67/5.59/0.74質量%、分離係数αは130、透過流速Qは1.03kg/(m2・h)となった。 (実施例22) FAU型の結晶構造を持つゼオライト膜の蒸気透過による分離性能を測定した。FAU型の結晶構造を持つゼオライト膜を図2に示す装置に取り付けた。具体的に説明すると、オイルバス(10)で加熱できるように容量0.2Lの三口丸底フラスコ(11)を設置し、三口丸底フラスコ(11)の中に供給液として、メタノール/プロピオン酸メチル混合物0.15Lを満たした。オイルバス(10)の温度を100℃に設定し、供給液から発生した蒸気が10段オールダーショウ(12)を通って、ゼオライト膜設置容器(13)に導かれるようにした。ゼオライト膜設置容器(13)にFAU型の結晶構造を持つゼオライト膜(3)を据え付け、その片末端を封止し、残りの末端をシリコーンチューブ(4)を介してガラス減圧ライン(5)に接続した。ガラス減圧ライン(5)は切替え用コック(6)で枝分かれしており、それぞれのラインを、トラップ管(7)を経由して真空ポンプ(9)に連結した。供給液が十分に加熱され、コンデンサー(14)による還流が生じ蒸気の組成が安定した状態になってから、真空ポンプ(9)による減圧を開始し、ゼオライト膜設置容器(13)の蒸気の成分がFAU型の結晶構造を持つゼオライト膜(3)を透過するようにした。以後は実施例1と同様に装置を操作して、0.5時間経過ごとに切替えながらトラップ管(7)で透過液を捕集し、透過液メタノール濃度、分離係数、透過流速を測定した。なお、蒸気が滞りなくゼオライト膜設置容器(13)に到達するように、10段オールダーショウ(12)とゼオライト膜設置容器(13)にはリボンヒーターを巻きつけて加熱し、蒸気の温度を測定した。FAU型の結晶構造を持つゼオライト膜(3)を透過しなかった成分はコンデンサー(14)で冷却されて10段オールダーショウ(12)に戻された。蒸気が発生する系内が加圧にならないように、均圧管(15)を大気中に開放した。また、FAU型の結晶構造を持つゼオライト膜(3)の有効膜面積は、実施例1と同様に18.84cm2であった。 FAU型の結晶構造を持つゼオライト膜(3)として製造例1で作製したゼオライト膜(Y型−1)を、供給液としてメタノール濃度40.00質量%のメタノール/プロピオン酸メチル混合物を用い、蒸気透過分離実験を行なった。リボンヒーターによる加熱で100℃を保ったゼオライト膜設置容器(13)の蒸気は、安定した状態でメタノール濃度47.21質量%のメタノール/プロピオン酸メチル混合物であった。透過液の質量と組成が安定したとき、透過液はメタノール濃度99.80質量%のメタノール/プロピオン酸メチル混合物で、分離係数αは450、透過流速Qは3.37kg/(m2・h)となった。 (実施例23) 図2の三口丸底フラスコ(11)に、1−ブタノール0.0593kg、プロピオン酸メチル0.0705kg、チタニウムテトラ−n−ブトキシド(関東化学株式会社製)0.0003kgを仕込み、均一になるまで撹拌した。オイルバス(10)の温度を100℃に設定し、供給液から発生した蒸気が10段オールダーショウ(12)を通って、ゼオライト膜設置容器(13)に導かれるようにした。以後は実施例22と同様に装置を操作して、0.5時間経過ごとに切替えながらトラップ管(7)で透過液を捕集した。透過開始から6時間経過後、それまでに捕集した透過液を全て合わせたものの質量は0.0248kgであり、透過液はメタノール濃度99.57質量%のメタノール/プロピオン酸メチル混合物となった。オイルバス(10)の加熱を停止し、三口丸底フラスコ(11)を冷却して得た残液の質量は0.1044kgであった。残液の組成は1−ブタノール/プロピオン酸メチル/プロピオン酸ブチル=0.51/0.65/98.84質量%であり、仕込んだ1−ブタノールを基準とするプロピオン酸ブチルの収率は99.1%となった。 (比較例1) ゼオライト膜Y型−1を、市販されているA型ゼオライト膜(三井造船株式会社製、外径12mm、全長100mm、露出部分長さ50mm、有効膜面積18.84cm2)に替えたこと以外は実施例9と同様に温度60℃で浸透気化分離実験を行なった。しかしながら、透過を開始して3時間が経過しても透過液は留出しなかった。 (比較例2) ゼオライト膜Y型−1を、市販されているT型ゼオライト膜(三井造船株式会社製、外径12mm、全長100mm、露出部分長さ50mm、有効膜面積18.84cm2)に替えたこと以外は実施例9と同様に温度60℃で浸透気化分離実験を行なった。しかしながら、透過を開始して3時間が経過しても透過液は留出しなかった。 (比較例3) 供給液を、メタノール濃度12.36質量%のメタノール/メタクリル酸メチル混合物から、メタノール濃度8.13質量%のメタノール/酢酸メチル(関東化学株式会社製鹿一級)混合物に替えた以外は実施例2と同様に温度50℃で浸透気化分離実験を行なった。透過液の質量と組成が安定したとき、透過液メタノール濃度は88.37質量%、分離係数αは90、透過流速Qは0.38kg/(m2・h)となった。 本発明の分離方法によれば、メタノールと、炭素数3以上のカルボン酸より誘導されるメチルエステルとを含む混合物から、高濃度のメタノールと、炭素数3以上のカルボン酸より誘導されるメチルエステルをそれぞれ効率よく分離することができる。例えば、酸触媒存在下でのエステル化反応、エステル交換反応において高濃度で原料を回収し、再利用することができる。1. 恒温水槽2. 供給液用容器3. ゼオライト膜4. シリコーンチューブ5. ガラス減圧ライン6. 切替え用コック7. トラップ管8. デュワー瓶9. 真空ポンプ10. オイルバス11. 三口丸底フラスコ12. 10段オールダーショウ13. ゼオライト膜設置容器14. コンデンサー15. 均圧管 メタノールと、炭素数3以上のカルボン酸より誘導されるメチルエステルとを含む混合物から、FAU型の結晶構造を持つゼオライト膜を用いて膜分離操作を行なうことにより、前記メタノールを分離する方法。 メタノールと、炭素数3以上のカルボン酸より誘導されるメチルエステルとを含む混合物が、エステル交換反応の反応液を加熱して得られた蒸気であり、蒸気透過法により前記メタノールを分離する請求項1に記載の方法。 メタノールと、炭素数3以上のカルボン酸より誘導されるメチルエステルとを含む混合物がさらに水を含む混合物である請求項1又は2に記載の方法。 炭素数3以上のカルボン酸より誘導されるメチルエステルが、プロピオン酸メチル、アクリル酸メチル又はメタクリル酸メチルである請求項1から3のいずれか1項に記載の方法。 ゼオライト膜がY型ゼオライト膜である請求項1から4のいずれか1項に記載の方法。 ゼオライト膜が、NaY型ゼオライトを種結晶として、シリカ/アルミナのモル比が25以上50以下であって、20℃以上40℃以下で15時間以上21時間以下エージングされたアルミノシリケートゲルを用いて、水熱合成によって製造されたY型ゼオライト膜である請求項1から5のいずれか1項に記載の方法。 【課題】メタノールと、炭素数3以上のカルボン酸より誘導されるメチルエステルとを含む混合物から、メタノールを高濃度で効率よく分離する方法を提供する。【解決手段】メタノールと、炭素数3以上のカルボン酸より誘導されるメチルエステルとを含む混合物から、FAU型の結晶構造を持つゼオライト膜を用いて膜分離操作を行なうことにより、前記メタノールを分離する方法。【選択図】図1