タイトル: | 公開特許公報(A)_ビアリール化合物の製造方法およびそれに利用可能なマイクロ波反応用触媒 |
出願番号: | 2010164663 |
年次: | 2012 |
IPC分類: | C07C 67/343,B01J 23/44,C07C 69/76,C07B 61/00 |
山下 浩 小野澤 俊也 深谷 訓久 上田 正枝 満倉 由美 小橋 比呂子 坂倉 俊康 安田 弘之 宮治 孝行 高木 由紀夫 JP 2012025687 公開特許公報(A) 20120209 2010164663 20100722 ビアリール化合物の製造方法およびそれに利用可能なマイクロ波反応用触媒 独立行政法人産業技術総合研究所 301021533 エヌ・イーケムキャット株式会社 000228198 特許業務法人 小野国際特許事務所 110000590 山下 浩 小野澤 俊也 深谷 訓久 上田 正枝 満倉 由美 小橋 比呂子 坂倉 俊康 安田 弘之 宮治 孝行 高木 由紀夫 C07C 67/343 20060101AFI20120113BHJP B01J 23/44 20060101ALI20120113BHJP C07C 69/76 20060101ALI20120113BHJP C07B 61/00 20060101ALN20120113BHJP JPC07C67/343B01J23/44 ZC07C69/76 AC07B61/00 300 5 OL 13 1.テフロン (出願人による申告)平成22年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構委託研究「革新的マイクロ反応場利用部材技術開発」産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願 4G169 4H006 4H039 4G169AA03 4G169BA02A 4G169BA02B 4G169BA08A 4G169BA08B 4G169BC72A 4G169BC72B 4G169CB01 4G169CB59 4G169EA01Y 4G169ED10 4H006AA02 4H006AC24 4H006BA25 4H006BA55 4H006BA91 4H006BA95 4H006BJ50 4H006KA31 4H039CA41 4H039CD20 4H039CD40 4H039CD90 本発明は、マイクロ波照射と担持パラジウム触媒を利用するビアリール化合物の効率的な製造方法およびそれに利用可能なマイクロ波反応用担持パラジウム触媒に関する。 これまでビアリール化合物は、例えば、有機ホウ素化合物とハロゲン化アリールをパラジウム触媒下で反応させる鈴木−宮浦反応等を利用して製造されているが、反応が長時間であることや溶媒の使用量が多いことから、環境への負荷を考慮してマイクロ波照射を利用した反応系への転換等、効率的な製造方法が要求されていた。 しかしながら、通常の鈴木−宮浦反応等に用いられるパラジウム触媒は、マイクロ波照射を利用した反応系においては、触媒活性等の面で必ずしも十分なものとはいえず、そのため新たなパラジウム触媒が求められていた。 ところで、多孔質シリカは、さまざまな細孔構造や広い表面積を有することから、触媒用の担体等として優れた材料である。一方、炭素系材料は、一般にマイクロ波吸収特性の指標となる誘電損失係数が大きく、マイクロ波を吸収して加熱されやすい特性を有することから、適切量の炭素成分を含む多孔質シリカ担体を用いて製造される担持金属触媒は、マイクロ波照射下での反応において効果的に使用できる可能性がある。特に、触媒金属がパラジウムであるものは、鈴木−宮浦反応、園頭反応等、さまざまな反応への応用を期待できる。 しかしながら、マイクロ波反応に利用されているパラジウム触媒は、均一系のものやポリマーを担体とした不均一系のものがほとんどであり、実際に、鈴木−宮浦反応については、マイクロ波照射と均一系触媒を用いた、アリールハロゲン化物またはアリールトリフラートと、アリールボロン酸誘導体とのクロスカップリング反応によるビアリール化合物の製造例が報告されていたが(非特許文献1〜4)、炭素成分含有多孔質シリカを担体とした担持パラジウム触媒を使用するものは知られていなかった。 一方、上記均一系反応では触媒の分離・回収・再利用が難しいため、工業的により有利な不均一系の担持パラジウム触媒を用いたマイクロ波照射を利用した反応系の例も報告されている。このような報告としては、例えば、不均一系の鈴木−宮浦反応では、ポリエチレンまたはポリスチレンを担体とした反応例(非特許文献5)、クロロメチル化ポリスチレン−ジビニルベンゼンポリマー/ガラス複合体を担体とした反応例(非特許文献6)、ポリスチレン−マレイン酸無水物共重合ポリマーを担体とした反応例(非特許文献7)が挙げられる。 しかしながら、これらの報告例で使用されている不均一系の担持パラジウム触媒は、担体としてポリマーを用いているため熱安定性が低い、あるいは、担体がポリエチレンである場合には表面修飾による高機能化が困難である等の問題点があった。そして、当業者において、マイクロ波照射を利用した反応系には、どのような物理的特性・物性の触媒が適しているのかは必ずしも明確ではないため、不均一系に用いられる優れた担持パラジウム触媒は提案されていないのが実情であった。 また、一般に触媒を用いた反応では触媒を加熱等して活性化させる必要があるが、マイクロ波照射を利用した反応系では、触媒は通常の外部加熱と異なり誘電加熱により加熱される(非特許文献8)ので、誘電損失係数等の物性が好ましい範囲の触媒を使用しないと触媒が上手く加熱されず、触媒の活性化が行えない。そのため、従来の触媒をマイクロ波照射を利用した反応系に用いた場合には、触媒の活性・選択性制御が困難になったり、触媒の分解・失活が起きる可能性がある、などの問題点が生じるが、それを解決した触媒も提案されていないのが実情であった。J.Org.Chem.,61,9582(1996)Org.Lett.,4,2973(2002)Green Chem.,5,615(2003)Tetrahedron,61,9349(2005)Org.Lett.,6,2793(2004)Tetrahedron,61,12121(2005)Tetrahedron,61,12168(2005)Chem.Soc.Rev.,27,p.213(1998) 本発明は、以上のような事情に鑑みてなされたものであって、マイクロ波照射と担持パラジウム触媒を利用するビアリール化合物の効率的な製造方法の提供およびこれに用いることのできるマイクロ波反応用の高効率触媒の提供を目的とするものである。 本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、特定の誘電損失係数を有する担持パラジウム触媒、特に特定の誘電損失係数および組成を有する担持パラジウム触媒を、ビアリール化合物の製造方法に利用することにより、効率的にビアリール化合物が製造できることを見出し、本発明を完成させた。 すなわち、本発明は、多孔質シリカにパラジウムを担持させ、その誘電損失係数が0.1〜3.0である担持パラジウム触媒の存在下、マイクロ波を照射し、下記一般式(I) RX (I)(式中、Rは1価のアリール基を示し、Xは臭素、ヨウ素、塩素原子から選ばれるハロゲン原子またはトリフルオロメタンスルホニルオキシ基を示す。アリール基の水素原子の一部は反応に関与しない基で置換されていても差し支えない。)で表されるアリールハロゲン化物またはアリールトリフラートと、下記一般式(II) R’B(OR”)2 (II)(式中、R’は1価のアリール基を示し、R”は水素原子またはアルキル基を示す。分子内の2つのR”がアルキル基の場合、それらが末端で結合して化合物が環状になっていても差し支えない。)で表されるアリールボロン酸誘導体とのクロスカップリング反応を行い、下記一般式(III) R−R’ (III)(式中、RおよびR’は前記と同じ意味である。)で表されるビアリール化合物を製造する方法である。 また、本発明は、有機鋳型成分を含む多孔質シリカ前駆体を、不活性ガス雰囲気下、400℃以上の温度で焼成することにより製造される、炭素成分を0.1〜5質量%(以下、単に「%」という)含有する含炭素多孔質シリカを担体とし、パラジウム担持後の誘電損失係数が0.1〜3.0であることを特徴とするマイクロ波反応用の担持パラジウム触媒である。 本発明のビアリール化合物を製造する方法では、特定の誘電損失係数を有する担持パラジウム触媒を利用することにより、マイクロ波照射による反応を効率的に行うことができる。 また、本発明のマイクロ波反応用の担持パラジウム触媒は、マイクロ波照射下における反応において、オイルバスやアルミブロック等の通常の加熱条件で反応を行った場合よりも、高い触媒活性を示し、その結果、短時間でも高収率で目的物が得られる。 本発明のビアリール化合物を製造する方法(以下、「本発明製法」という)において触媒として使用される、多孔質シリカにパラジウムを担持させ、その誘電損失係数が0.1〜1.5である担持パラジウム触媒(以下、「本発明触媒」)は、多孔質シリカを原料とするものである。ここで多孔質シリカとは、孔を多数有するシリカであれば、形態、形状、粒径、比表面積、平均細孔径等は特に限定されないが、好ましくは100〜1500m2/g、より好ましくは200〜1200m2/gの比表面積、好ましくは0.5〜500nm、より好ましくは1〜100nmの平均細孔径を有するシリカである。このような多孔質シリカとしては、CARiACT Q−3、CARiACT Q−10(いずれも富士シリシア化学社製)等として市販されているものの他、下記の様にして調製されるSBA−15、MCM−41、MCM−48、MCM−50、FSM−16、FSM−22等の基本構造を有する多孔質シリカが挙げられる。 上記SBA−15、MCM−41、MCM−48、MCM−50、FSM−16、FSM−22等の基本構造を有する多孔質シリカは、有機鋳型成分とシリカ源を用いる従来公知の方法(例えば、J.Am.Chem.Soc.,114,10834(1992)、Bull.Chem.Soc.Jpn.,69,1149(1996)、J.Am.Chem.Soc.,120,6024(1998)、Angew.Chem.Int.Ed.,45,3216(2006))に従って調製することができる。 具体的に、上記多孔質シリカのうち、MCM−41、MCM−48、MCM−50、FSM−16またはFSM−22の基本構造を有する多孔質シリカを調製するには、有機鋳型成分として、例えば、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロリド、テトラデシルトリメチルアンモニウムクロリド、ドデシルトリメチルアンモニウムクロリド、ドコシルトリメチルアンモニウムクロリド等の長鎖アルキル基を有する4級アンモニウム塩等を用い、シリカ源として、テトラエトキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラプロポキシシラン等を用いればよい。 一方、SBA−11、SBA−12、SBA−15またはSBA−16の基本構造を有する多孔質シリカを調製するには、有機鋳型成分として、例えば、Brij30、Brij52、Brij56、Tween20、Tween40、Tween60、Tween80、Triton X114、Tergitor TMN6等のポリ(エチレンオキシド)(PEO)の骨格を有する界面活性剤や、Pluronic P123、Pluronic L121、Tetronic 908等のブロック共重合ポリマー等を用い、シリカ源として、テトラエトキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラプロポキシシラン等を用いればよい。 上記有機鋳型成分とシリカ源を用いて多孔質シリカを調製するには、例えば、有機鋳型成分とシリカ源(それらの質量比は通常1:0.5〜1:10)を酸性水溶液中で反応させて得られる多孔質シリカ前駆体を電気炉等の加熱装置に入れ、空気中または窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下、400℃以上、好ましくは400〜600℃の温度で3〜10時間程度焼成すればよい。空気中で焼成する場合には、基本的には、炭素をほとんど含まない、または炭素量が少ない多孔質シリカが得られる。 本発明製法において用いられる多孔質シリカには、炭素成分が含まれていなくてもよいが、炭素成分を0.1〜5%、好ましくは0.1〜4%含有する炭素を含有する多孔質シリカ(以下、「含炭素多孔質シリカ」という)を使用することが、触媒に高い活性と安定性を与えるため、更には、生成物1モルあたりの電力量が少なくて済むため好ましい。このような含炭素多孔質シリカは、上記焼成の際に焼成温度・時間・不活性ガスの気流速度等を制御することにより調製することができる。焼成温度としては、400℃以上、好ましくは400〜600℃であり、時間としては、3〜10時間、好ましくは3〜7時間であり、また気流速度しては、10〜1000mL/分、好ましくは30〜800mL/分である。例えば、焼成温度が低いほど、時間が短いほど、及び/又は、気流速度が低いほど、炭素成分の含有量は増大する傾向がある。 なお、含炭素多孔質シリカは、適当な大きさの誘電損失係数を有し、マイクロ波を適度に吸収する性能を有することから、これにパラジウムを担持させれば、パラジウム触媒を用いる各種のマイクロ波照射を利用した反応系に、通常の使用量で利用できる。このような反応の例としては、鈴木−宮浦反応、園頭反応、ヘック(Heck)反応、スティレ(Stille)反応等として知られる炭素−炭素結合生成を伴う各種の反応や、ブッフバルト−ハートウィッグ(Buchwald−Hartwig)反応として知られる炭素−窒素結合や炭素−酸素結合生成を伴う反応等を挙げることができる。 上記のようにして調製された多孔質シリカは、調製したそのまま、あるいは更に常法に従ってポリエチレングリコール基、ヒドロキシアルキル基、ホスフィノアルキル基、アミノアルキルシリル基等、適当な有機基で修飾して使用することもできる。 上記多孔質シリカへのパラジウムの担持は、液相法、気相法等の従来公知の方法を利用すればよい。液相法としては、例えば、担体と適当なパラジウム化合物を溶液中で混合・濃縮して、担体上にパラジウム化合物を吸着させる方法等を使用できる。液相法に使用されるパラジウム化合物としては、パラジウム塩、パラジウム錯体等が挙げられ、具体的には、酢酸パラジウム、塩化パラジウム、臭化パラジウム、アリルパラジウムクロリドダイマー、ビス(ベンゾニトリル)ジクロロパラジウム等が挙げられる。また、液相法に使用される溶媒としては、パラジウム化合物を溶解できる溶媒であれば特に限定されないが、酢酸パラジウム等のパラジウム錯体を使用する場合には、溶解性のよいテトラヒドロフラン等を用いることが好ましい。一方、気相法で、酢酸パラジウム、アリル(シクロペンタジエニル)パラジウム、ビス(アセチルアセトナト)パラジウム等のパラジウム錯体(昇華精製できるようなパラジウム錯体)を担体に真空下で蒸着させる方法で調製することもできる。なお、本発明触媒におけるパラジウム量は通常0.001〜10%、好ましくは0.01〜5%である。 斯くして調製される本発明触媒は、誘電損失係数が0.1〜3.0、好ましくは0.1〜1.5、より好ましくは0.1〜1.4、特に好ましくは0.7〜1.2である。担持パラジウム触媒の誘電損失係数が3.0より大きい場合には、マイクロ波照射により触媒が加熱されすぎて、触媒の分解・失活が生じる可能性があり、0.1より小さい場合には、マイクロ波吸収が非常に少ないために、効率的な加熱・活性化効果を期待できない。なお、この誘電損失係数の値は、測定周波数によって変化するが、マイクロ波を用いた化学プロセスへの応用を考慮すると、0.3〜30GHzにおいて上記値をもつことが重要である。また、この周波数領域の中では、工業的応用が可能なIMS周波数帯である0.915GHz、2.45GHz、5.8GHzまたは24.125GHzにおいて上記範囲の誘電損失係数を有することが好ましく、特に、家庭用利用が普及し工業的利用も進みつつある安価なマイクロ波周波数である2.45GHz帯において、上記範囲の誘電損失係数を有することが最も好ましい。それらの誘電損失係数が0.1〜1.5の担持パラジウム触媒は、1.5〜2.5g/cm3の真密度、2〜7の比誘電率を通常有するものである。 ここで誘電損失係数とは下記式で表される複素誘電率の虚数部分の係数である。[数1] ε=ε’−ε’’j (ε:複素誘電率、ε’:比誘電率、ε’’:誘電損失係数) この複素誘電率の測定法としては、例えば、空洞共振器摂動法、同軸プローブ反射法、伝搬遅延法等を挙げることができる。また、粉体サンプルについては、空隙の影響を粉体の真密度測定により補正することによって、測定精度・再現性を向上させることができる。 本発明触媒を用いた本発明製法は、本発明触媒の存在下、マイクロ波を照射することにより、一般式 RX (I)で表されるアリールハロゲン化物またはアリールトリフラートと、一般式 R’B(OR”)2 (II)で表されるアリールボロン酸誘導体とのクロスカップリングにより、一般式 R−R’ (III)で表されるビアリール化合物を効率的に製造できる。 一般式(I)で表されるアリールハロゲン化物またはアリールトリフラートにおいて、Rは1価のアリール基であり、その炭素数は6〜18が好ましく、6〜14がより好ましい。アリール基の具体例としては、フェニル基、ナフチル基、アントリル基等が挙げられる。これらのアリール基の水素原子の一部は反応に関与しない基で置換されていても差し支えなく、それら基の具体例としては、アルキル基、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、アシル基、シアノ基、ニトロ基、フッ素原子等が挙げられる。 また、Xは臭素、ヨウ素、塩素原子から選ばれるハロゲン原子またはトリフルオロメタンスルホニルオキシ基を示す。したがって、それらの基を有するアリールハロゲン化物またはアリールトリフラートの具体例としては、ヨードベンゼン、ブロモベンゼン、クロロベンゼン、ブロモナフタレン、ブロモアントラセン、4−ブロモトルエン、4−ブロモアニソール、4−ブロモ安息香酸エチル、4−クロロ安息香酸エチル、4−ブロモアセトフェノン、4−クロロベンゾニトリル、1−クロロ−4−ニトロベンゼン、1−ブロモ−4−フルオロベンゼン、フェニルトリフラート等が挙げられる。 一方、一般式(II)で表されるアリールボロン酸誘導体において、R’は1価のアリール基であり、その炭素数は6〜18が好ましく、6〜14がより好ましい。R’の具体例としては、上記Rの具体例として例示したもの等が挙げられる。また、R”は、水素原子またはアルキル基で、2つのR”が末端で結合して環状になっているアルキレン基でもよい。そのようなアルキレン基の具体例としては、トリメチレン基、1,1,2,2−テトラメチルエチレン基等を挙げることができる。したがって、それらの基を有するアリールボロン酸誘導体の具体例としては、フェニルボロン酸、4−ホルミルフェニルボロン酸、4−ヒドロキシフェニルボロン酸、3−アミノフェニルボロン酸、4−ビフェニルボロン酸、10−ブロモアントラセン−9−ボロン酸、ピレン−1−ボロン酸、フェニルボロン酸1,3−プロパンジオールエステル、フェニルボロン酸ピナコールエステル、4−カルボキシフェニルボロン酸ピナコールエステル等が挙げられる。 上記一般式(I)で表されるアリールハロゲン化物またはアリールトリフラートと、一般式(II)で表されるアリールボロン酸誘導体とのクロスカップリング反応は、反応促進のために、通常、塩基共存下で反応を行う。その塩基としては、無機系、有機系等、従来公知のものを含む各種の塩基を使用できる。それらの具体例としては、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸セシウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、リン酸カリウム、tert−ブトキシナトリウム、tert−ブトキシカリウム、トリエチルアミン、トリブチルアミン、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセン等が挙げられる。また、アリールハロゲン化物またはアリールトリフラートに対するアリールボロン酸誘導体と塩基のモル比は任意に選ぶことができるが、アリールハロゲン化物またはアリールトリフラートに対するビアリール化合物の収率を考慮すれば、通常0.5以上3以下である。 また、アリールハロゲン化物またはアリールトリフラートに対する本発明触媒のモル比は任意に選ぶことができるが、アリールハロゲン化物またはアリールトリフラートに対する本発明触媒中のパラジウムのモル比としては、通常0.0000001〜0.5である。 このカップリング反応は、バッチ型、フロー型等、従来知られている各種形態の反応装置で行うことができる。反応温度は、−20℃以上、好ましくは0〜250℃、より好ましくは、10〜220℃である。反応時間は、反応温度、触媒量、反応装置の形態等に依存するが、1〜300分、好ましくは1〜240分、より好ましくは1〜180分程度である。 また、反応は溶媒の有無にかかわらず実施できるが、溶媒を用いる場合には、トルエン、デカリン(デカヒドロナフタレン)等の炭化水素、ジメチルホルムアミド等のアミド、クロロベンゼン、1,2−または1,3−ジクロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素、アニソール、ジブチルエーテル等のエーテル等、原料と反応するものを除いた各種の溶媒が使用可能で、2種以上混合して用いることもできる。 本発明製法においてマイクロ波の照射は、接触式または非接触式の温度センサーを備えた各種の市販装置、例えば、導波路を用いたシングルモード型、あるいは、家庭用電子レンジと同様のマルチモード型の構造を有するマイクロ波反応装置等が使用できる。それら市販装置の具体例を示すと、Discover(CEM社製:マイクロ波最大出力 300W)、Initiator(Biotage社製:マイクロ波最大出力 400W)、MicroSYNTH(Milestone社製:マイクロ波最大出力 1000W)、グリーン・モチーフ(IDX社製:マイクロ波最大出力 300W)、μReactor(四国計測工業社製:マイクロ波最大出力 800W)等が挙げられる。また、マイクロ波照射の出力、キャビティの種類(マルチモード型、シングルモード型)、照射の形態(連続的、断続的)、強制冷却の有無(空気、不活性ガス、冷媒等による冷却)等は、反応のスケールや種類等に応じて任意に決めることができる。マイクロ波の周波数としては、通常、0.3〜30GHz、好ましくは、工業的応用が可能なIMS周波数帯である0.915GHz、2.45GHz、5.8GHzまたは24.125GHzである。 上記マイクロ波照射を行うカップリング反応により一般式(III)のビアリール化合物が製造される。なお、この式において、RおよびR’としては、前記例示したもの等を挙げることができる。本発明製法に本発明触媒を用いた場合には、例えば、原料としてアリール臭化物を用いると、通常70%以上の収率が得られ、特に、本発明触媒に含炭素多孔質シリカを用いたものを本発明製法に用いた場合には、80%以上の収率が得られる。 また、本発明製法で生成したビアリール化合物については、蒸留、再結晶、カラムクロマトグラフィー等の有機化学上通常用いられる手段により精製を行うことができる。 次に、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。 実 施 例 1 担持パラジウム触媒の製造(1): テフロン製スクリューキャップ付きのテフロン製反応容器に、攪拌子、有機鋳型成分であるポリ(アルキレンオキシド)トリブロック共重合ポリマー(Pluronic P123、シグマアルドリッチ社製(平均分子量5800))10gを純水100gに溶解した溶液、およびテトラエトキシシラン21.25gを添加して、室温で30分攪拌した。この溶液に、濃塩酸71.5gを加え、さらに純水162.5gを添加した。テフロン製キャップを締め、密閉状態にして、室温で30分攪拌し、さらに、80℃で20時間攪拌を続けた。反応混合物を純水1Lに加え、白色固体を濾別して、固体を純水2Lで洗浄した。洗浄固体を、80℃で一晩乾燥させ、有機鋳型成分を含む多孔質シリカ前駆体を白色粉末固体として得た。 この白色粉末固体0.502gを、窒素気流下(約200mL/分)、石英管電気炉中、550℃で5時間焼成し、SBA−15構造を有する含炭素多孔質シリカ(C/SiO2−1)を灰色粉末固体として0.201g得た。 上記で得られたC/SiO2−1 0.201gに、酢酸パラジウム0.00211gをテトラヒドロフラン10mLに溶解した溶液を2.01mL加え、窒素下、室温で5時間攪拌した。この溶液を、減圧下濃縮し、残固体を真空中、80℃で2時間乾燥させて、SBA−15構造を有する含炭素多孔質シリカにパラジウムを担持した触媒(Pd/C/SiO2−1、パラジウム担持量0.1%)を、灰色粉末状固体として得た。 C/SiO2−1について元素分析、窒素吸脱着測定、Pd/C/SiO2−1の真密度測定(ピクノメータ法)および複素誘電率測定(2.45GHz空洞共振器摂動法)を行ったところ、結果は次の通りであった。<測定結果> 元素分析:炭素 0.43%;水素 0.93% 窒素吸脱着測定:BET法比表面積 883m2/g;BJH法中心細孔径 6.2n m 真密度測定:1.83g/cm3 複素誘電率測定:比誘電率 5.10;誘電損失係数 0.997 実 施 例 2 担持パラジウム触媒の製造(2): 石英管電気炉での加熱温度を、550℃から450℃に変更する他は、実施例1と同様に加熱焼成および酢酸パラジウム溶液による処理を行った結果、有機鋳型成分を含む多孔質シリカ前駆体の白色粉末固体0.507gより、SBA−15構造を有する含炭素多孔質シリカを灰色粉末固体として(C/SiO2−2)0.205g、および、C/SiO2−2の0.205gより、SBA−15構造を有する含炭素多孔質シリカにパラジウムを担持した触媒(Pd/C/SiO2−2、パラジウム担持量0.1%)を灰色粉末状固体として得た。 C/SiO2−2の元素分析、窒素吸脱着測定、Pd/C/SiO2−2の真密度測定(ピクノメータ法)および複素誘電率測定(2.45GHz空洞共振器摂動法)を行ったところ、結果は次の通りであった。<測定結果> 元素分析:炭素 1.35%;水素 1.61% 窒素吸脱着測定:BET法比表面積 967m2/g;BJH法中心細孔径 7.1n m 真密度測定:1.71g/cm3 複素誘電率測定:比誘電率 5.43;誘電損失係数 1.164 実 施 例 3 ビアリール化合物の製造: 4−ブロモ安息香酸エチル(Ia)0.50mmol、フェニルボロン酸(IIa)0.55mmol、炭酸カリウム(塩基)1.0mmol、Pd/C/SiO2−1(実施例1で製造した触媒、比誘電率5.10、誘電損失係数0.997) 0.00005mmol(パラジウムのモル数)およびN,N−ジメチルホルムアミド(溶媒)1.0mlを、テフロンバルブ付反応管に入れ、窒素下、密閉して、攪拌しながらマイクロ波反応装置(CEM社製 Discover、2.45GHz、マイクロ波最大出力 300W)でマイクロ波を反応溶液の温度が2分間で所定の温度(140℃)となるよう照射し、それを8分間維持させた。生成物をガスクロマトグラフィーで分析した結果、4−エトキシカルボニルビフェニルが64%の収率で生成したことがわかった(表1)。 また、触媒、原料等の反応条件を変えて、実施例3と同様に反応および分析を行った結果を表1に示した(実施例4〜20)。 上記表より、誘電損失係数が0.1〜3.0の範囲にある触媒を用いることにより、4−ブロモ安息香酸を用いた60分の反応において、70%以上の高い収率でビアリール化合物が得られた。また、誘電損失係数が0.7〜1.2の範囲にあり、含炭素多孔質シリカにパラジウムを担持させた担持パラジウム触媒を用いることにより、同様の反応条件において、80%以上の高い収率、かつ、少ない電力量でビアリール化合物が得られた。 比 較 例 1 ビアリール化合物の製造: 表1の実施例5において、誘電損失係数が0.997の担持パラジウム触媒の代わりに、下記測定結果を示す誘電損失係数が>3.0の市販の担持パラジウム触媒(エヌ・イー ケムキャット社製:カーボン担持パラジウム:パラジウム担持量5%、水54.2%含有)を用いてIaとIIaとの反応を行った結果、IIIaの収率は27%から3%へと大きく低下した。また、比較例1における平均照射電力は113Wであり、IIIa1molを得るために要した電力量は113kWh/molであった。 真密度測定:1.62g/cm3 複素誘電率測定:比誘電率 50.9;誘電損失係数 >3.0 比較例1の結果は、担持パラジウム触媒の誘電損失係数が3.0より大きい場合には、マイクロ波照射により触媒が加熱されすぎて、触媒の分解・失活が生じる可能性を示したものである。 比 較 例 2 従来法との比較: 表1の実施例5、8および9において、マイクロ波を照射して担持パラジウム触媒を加熱していたのに代えて、アルミブロック(参考例1)またはオイルバス(参考例2、3)を用いた通常加熱で反応を行った結果を参考例として表2に示した。 いずれの参考例でも、対応する実施例よりビアリール化合物の収率は低下していた。この結果は、アルミブロックまたはオイルバスを用いた通常加熱の反応では、マイクロ波照射下の反応ほどには高い触媒活性が得られないことを示したものである。 本発明製法は、機能性化学品として有用なビアリール化合物を、効率的かつ安全に製造できる方法を提供すると共に、これに用いられる担持パラジウム触媒も提供する。 従って、本発明の利用価値は高く、その工業的意義は多大である。 多孔質シリカにパラジウムを担持させ、その誘電損失係数が0.1〜3.0である担持パラジウム触媒の存在下、マイクロ波を照射し、下記一般式(I) RX (I)(式中、Rは1価のアリール基を示し、Xは臭素、ヨウ素、塩素原子から選ばれるハロゲン原子またはトリフルオロメタンスルホニルオキシ基を示す。アリール基の水素原子の一部は反応に関与しない基で置換されていても差し支えない。)で表されるアリールハロゲン化物またはアリールトリフラートと、下記一般式(II) R’B(OR”)2 (II)(式中、R’は1価のアリール基を示し、R”は水素原子またはアルキル基を示す。分子内の2つのR”がアルキル基の場合、それらが末端で結合して化合物が環状になっていても差し支えない。)で表されるアリールボロン酸誘導体とのクロスカップリング反応を行い、下記一般式(III) R−R’ (III)(式中、RおよびR’は前記と同じ意味である。)で表されるビアリール化合物を製造する方法。 多孔質シリカが、有機鋳型成分を含む多孔質シリカ前駆体を、不活性ガス雰囲気下、400℃以上の温度で焼成することにより製造され、炭素成分を0.1〜5質量%含有する含炭素多孔質シリカである請求項1記載のビアリール化合物を製造する方法。 含炭素多孔質シリカが、SBA−15、FSM−22またはMCM−41の基本構造を有するものである請求項2記載のビアリール化合物を製造する方法。 有機鋳型成分を含む多孔質シリカ前駆体を、不活性ガス雰囲気下、400℃以上の温度で焼成することにより製造される、炭素成分を0.1〜5質量%含有する含炭素多孔質シリカを担体とし、パラジウム担持後の誘電損失係数が0.1〜3.0であることを特徴とするマイクロ波反応用の担持パラジウム触媒。 含炭素多孔質シリカが、SBA−15、FSM−22またはMCM−41の基本構造を有することを特徴とする請求項4記載のマイクロ波反応用の担持パラジウム触媒。 【課題】マイクロ波照射と担持パラジウム触媒を利用するビアリール化合物の効率的な製造方法の提供及びマイクロ波反応用の高効率触媒の提供。【解決手段】多孔質シリカにパラジウムを担持させ、その誘電損失係数が0.1〜3.0である担持パラジウムの触媒下、マイクロ波を照射し、式(I)RX(I)(Rはアリール基を示し、Xは臭素、ヨウ素、塩素原子又はトリフルオロメタンスルホニルオキシ基、アリール基は反応に関与しない基で置換されていてもよい)で表されるアリールハロゲン化物又はアリールトリフラートと、式(II)R’B(OR”)2(II)(R’はアリール基、R”は水素原子又はアルキル基、R”は末端で結合し環状になっていてもよい)で表されるアリールボロン酸誘導体とのクロスカップリング反応を行い、式(III)R−R’(III)で表されるビアリール化合物を製造する方法、及びマイクロ波反応用の担持パラジウム触媒。【選択図】なし