タイトル: | 公開特許公報(A)_乳酸菌由来多糖類の製造方法 |
出願番号: | 2010127886 |
年次: | 2011 |
IPC分類: | C12P 19/04,C08B 37/00 |
北原 大輔 龍野 孝一郎 JP 2011250756 公開特許公報(A) 20111215 2010127886 20100603 乳酸菌由来多糖類の製造方法 三菱レイヨン株式会社 000006035 北原 大輔 龍野 孝一郎 C12P 19/04 20060101AFI20111118BHJP C08B 37/00 20060101ALI20111118BHJP JPC12P19/04 CC08B37/00 P 7 OL 8 4B064 4C090 4B064AF11 4B064CA02 4B064CC03 4B064CD05 4B064CD20 4B064DA01 4B064DA10 4C090AA04 4C090BA91 4C090BC24 4C090CA42 4C090DA23 4C090DA26 本発明は、多糖類の製造方法に関する。 乳酸菌は菌の体外に多糖類を生産することが知られており、菌の種類によって多種多様な多糖類を生産する。このような多糖類は、その物理化学的性質や生理機能により、食品や化粧品、医療用途等幅広い用途で用いられることから、その発酵生産方法について盛んに研究がなされている。 そのなかでも、ロシアのコーカサス地方原産の発酵乳ケフィールに含まれるケフィランは、美白、美肌、保湿等の美容効果やコレステロール低下、抗腫瘍、免疫賦活等の成人病予防の効果が期待できることから注目されている。ケフィランを発酵生産する方法として、培地組成の検討が行われている(特許文献1、2参照)。 このような培地としては、一般的にMRS(de MAN、ROGOSA、SHARPE)培地又はMRS培地の組成を改良したものが使用されている。しかしながら、これらの培地では、培地中に高濃度にケフィランを蓄積させることができない。すなわち、ケフィランを効率よく産生させることができない。特開平3−292894号公報特開2002−330798号公報 従って、本発明の主な目的は、培地中に高濃度にケフィランを蓄積させることができる培養方法(すなわち、ケフィランを効率よく産生させることができる方法)を提供することにある。 本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意検討を行った結果、特定の成分を含む培地中で乳酸菌を培養することにより上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成させるに至った。 すなわち、本発明は、ペプトン、酵母エキス及び不飽和脂肪酸若しくはそのエステルを必須成分として含む培地で乳酸菌を培養することにより多糖類を生産する方法に関する。 本発明によれば、培養液中に高濃度の多糖類を蓄積することができることから、効率良く多糖類を生産することができる。 (1)乳酸菌由来の多糖類 乳酸菌の生産する乳酸菌由来の多糖類には、単一の糖からなるホモ多糖と、複数の単糖や単糖誘導体からなるヘテロ多糖がある。 ホモ多糖には、グルコースからなるデキストラン、βグルカン、ムタン、アルテルナン等;フルクトースからなるレバン、イヌリン等;ガラクトースからなるガラクタン等が知られている。 ヘテロ多糖は、単糖のグルコース、ガラクトース、ラムノース、フコース、糖誘導体であるN−アセチルグルコサミン、N−アセチルガラクトサミン、グルクロン酸等の少なくとも2種類以上で構成されるユニットが連なったものである。代表的なヘテロ多糖としては、N−アセチルグルコサミンとグルクロン酸からなるヒアルロン酸、グルコースとガラクトースからなるケフィラン等が挙げられる。本明細書では、これらの多糖類のうち、代表してケフィランについて述べる。 (2)ケフィラン生産能を有する微生物 ケフィラン生産能を有する微生物としては、Lactobacillus属に属する微生物、Lactococcus属に属する微生物、Leuconostoc属に属する微生物、Pediococcus属に属する微生物及びStreptococcus属に属する微生物等が挙げられる。これらの中でも、Lactobacillus属に属する微生物が好ましい。ケフィラン産生能が高いからである。また、これら以外の微生物でも、遺伝子工学的手法を用いてケフィラン生産能を得た微生物も使用することができる。 Lactobacillus属に属する微生物としては、Lactobacillus kefiranofaciensが好ましく、特にLactobacillus kefiranofaciens JCM6985が好ましい。このJMC株については独立行政法人理化学研究所バイオリソースセンター(RIKEN BRC)微生物材料開発室より入手することが可能である。 (3)培地 本発明で使用する培地は、窒素源としてペプトン及び酵母エキス、並びに不飽和脂肪酸若しくはそのエステルの3成分を必須とする。 (3−1)必須成分 (i)ペプトン ペプトンとは、タンパク質を加水分解、酵素分解又は発酵することによって得られる、アミノ酸が複数結合した物質をいう。由来によって様々なペプトンが存在し、例えば、肉エキス、カゼインペプトン、魚肉ペプトン、大豆ペプトン、エンドウ豆ペプトン、小麦ペプトン、大麦ペプトン、綿実ペプトン等が挙げられる。本発明では、これらの中でもカゼインペプトン、大豆ペプトンを用いることが好ましい。これらのペプトンを使用することにより、乳酸菌がケフィランを効率よく産生するからである。 ペプトンの培地中における濃度は特に限定されないが、0.5〜10(w/v)%、好ましくは0.8〜8(w/v)%、より好ましくは1〜5(w/v)%の範囲とすればよい。0.5(w/v)%以上用いるのはケフィラン産生能が上昇するからであり、10(w/v)%以下とするのはそれ以上添加しても飛躍的な効果の上昇が認められないからである。 (ii)酵母エキス 酵母エキスとは、酵母の有効成分を自己消化、酵素処理、熱水処理等で抽出したものをいう。例えば、パン酵母、ビール酵母、トルラ酵母由来のものが挙げられ、本発明ではいずれの酵母を用いてもよい。これらの中でも、パン酵母を使用することにより、乳酸菌がケフィランを効率よく産生するので好ましい。 酵母エキスの培地中における濃度は特に限定されないが、0.2〜10(w/v)%、好ましくは0.5〜8(w/v)%、より好ましくは0.8〜4(w/v)%の範囲とすればよい。0.2(w/v)%以上用いるのはケフィラン産生能が上昇するからであり、10(w/v)%以下とするのはそれ以上添加しても飛躍的な効果の上昇が認められないからである。 (iii)不飽和脂肪酸又はそのエステル 本発明で使用する不飽和脂肪酸又はそのエステルとは、1つ以上の不飽和炭素結合を有する脂肪酸又はそのエステル化合物を意味する。本発明においては、乳酸菌が効率よくケフィランを産生することができれば、炭素数や不飽和度の数は限定されない。より詳細には、例えば、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、エライジン酸、バクセン酸等のモノ不飽和脂肪酸;リノール酸、エイコサジエン酸、ドコサジエン酸等のジ不飽和脂肪酸;リノレン酸、ミード酸等のトリ不飽和脂肪酸;アラキドン酸等のテトラ不飽和脂肪酸、又はこれら不飽和脂肪酸のエステルが挙げられられる。これらの中でもオレイン酸、エライジン酸、オレイン酸エステルが好ましく、オレイン酸及びオレイン酸エステルであるポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート(Tween80)がより好ましい。これらを使用することにより、乳酸菌が効率よくケフィランを産生することができるからである。 不飽和脂肪酸、又はそのエステルの培地中への添加量は0.7〜8mMとすればよく、好ましくは1〜6mM、より好ましくは1.5〜4mMの範囲とすればよい。0.7mM以上とすることによりケフィランを効率よく生産することができる。また、8mM以下とするのは、それ以上使用しても更なるケフィランの生産効率の向上が認められないからである。 (3−2)その他の成分 本発明で使用する培地は、乳酸菌がケフィランを効率よく生産することができれば、上記必須3成分以外の成分を含んでいてもよい。 (3−2−1)炭素源 炭素源としては、グルコース、フルクトース等の単糖類;ラクトース、スクロース、マルトース等の二糖類;オリゴ糖類、セルロース、アミロース、キチン、アガロース等の多糖類;酢酸、プロピオン酸等の有機酸;エタノール、プロパノール等のアルコール類が挙げられる。これらの中でもグルコース、フルクトース、ラクトース、スクロース、マルトース等が好ましく、グルコース、ラクトース、マルトースがより好ましい。培地中における炭素源の濃度は特に限定されない。例えば、0.5〜20(w/v)%、好ましくは2〜15(w/v)%、より好ましくは5〜13(w/v)%とすることができる。0.5(w/v)%以上用いるのはケフィラン産生能が上昇するからであり、20(w/v)%以下とするのはそれ以上添加しても飛躍的な効果の上昇が認められないからである。 (3−2−2)無機塩類 培地に添加される無機塩類の種類は、微生物が十分にケフィランを産生することができれば、特には限定されない。例えば、カリウム、マグネシウム、ナトリウム、カルシウム、マンガン、コバルト、ニッケル、モリブデン、タングステン、鉄、亜鉛、銅等の、酢酸、リン酸、硫酸、炭酸、塩化物等の塩が挙げられる。これらの中でも、塩化カリウム、リン酸2水素カリウム、リン酸水素2カリウム、硫酸マグネシウム、リン酸マグネシウム、塩化ナトリウム、酢酸ナトリウム、塩化カルシウム、炭酸カルシウム、硫酸マンガン、硫酸第一鉄、硫酸亜鉛、硫酸銅からなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましい。これら無機塩類の添加量は限定されず、当業者が適宜選択することができる。例えば、複数の無機塩類を使用する場合、その合計量として、0.1〜1.6(w/v)%、好ましくは0.3〜1.3(w/v)%、より好ましくは0.5〜1(w/v)%とすればよい。0.1(w/v)%以上用いるのはケフィラン産生能が上昇するからであり、1(w/v)%以下とするのはそれ以上添加しても飛躍的な効果の上昇が認められないからである。 (3−2−3)その他 その他、ビタミンや、培養中の培地の発泡を防ぐための消泡剤等を添加してもよい。さらに、ベクター及び目的遺伝子の脱落を防ぐために選択圧をかけた状態で培養してもよい。すなわち、選択マーカーが薬剤耐性遺伝子である場合には、相当する薬剤を培地に添加してもよい。例えば、アンピシリン耐性遺伝子を含む遺伝子組換え微生物を培養する場合には、培地にアンピシリンを添加してもよい。これらの添加量も限定されず、当業者が適宜選択することができる。 (4)培養方法(本培養) 培地は、加熱処理(加熱殺菌)を行った後に、微生物の培養に用いることができる。滅菌(殺菌)の条件は、微生物が完全に殺菌されれば限定されない。例えば、100〜130℃で5〜30分間、より好ましくは121〜125℃で15〜30分間という条件を挙げることができる。また、培地に使用する成分により、培地の一部又は全部の成分を、ろ過滅菌等による非加熱滅菌を行って使用することもできる。 培養条件も限定されるものではないが、ケフィラン産生菌が嫌気性細菌であるので、無通気状態で静置又は弱攪拌して培養することが好ましい。培地中の成分やpHを均一に保つためにも、弱撹拌(培地が泡立たない程度の撹拌)で培養を行うのがより好ましい。また、大気雰囲気下で培養することもできるが、培地中の溶存酸素を低下させるために培養槽内の気相部および培養液中を窒素等の不活性ガスによって置換しておくことがより好ましい。圧力についても限定されず、大気圧雰囲気下で培養すればよい。 培養液の温度は20〜40℃程度、好ましくは25〜35℃程度、より好ましくは28〜32℃程度に制御すればよい。上記温度範囲で培養することにより十分にケフィランが産生されるからである。pHは4〜8、好ましくは4.3〜7、より好ましくは4.5〜6に制御すればよい。上記pHの範囲で培養することにより十分にケフィランが産生されるからである。培養時間も限定されず、微生物の生育、培養液の量、所望のケフィランの量に応じて適宜選択することができる。 なお、上述した培養(本培養)の前に、前培養を行うことが好ましい。前培養とは、本培養に接種するためのシード(種)を調製するための培養である。前培養を適切に行うことにより、本培養のシードとして必要な菌体量を確保することができる。前培養に用いる培地は、本培養において微生物が十分に生育しケフィランが十分得られれば限定されない。例えば、本培養の初発培地と同様の炭素源、窒素源等、無機塩類を含有することができ、必要に応じてその他の成分を添加することもできる。前培養時の培養温度やpH、圧力、培養時間についても、本培養における微生物の生育を妨げる条件でなければよい。 例えば、前培養の条件としては、グルコース、フルクトース等の炭素源、ポリペプトン、酵母エキス、麦芽エキス等の窒素源、ビタミン、無機塩類を含む培地中で培養すればよい。pHは4〜8に調整し、温度は20〜37℃に制御して嫌気的に培養することが好ましい。培養時間も特には限定されず、例えば48〜96時間とすればよい。 以下、実施例、比較例により本発明をさらに詳細に説明する。 <実施例1、比較例1〜3> ラクトース・1水和物10(w/v)%、カゼインペプトン2(w/v)%(Difco社製トリプトン)、酵母エキス1(w/v)%(オリエンタル酵母)、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート(Tween80)0.1(w/v)%;0.76mM(和光純薬)、リン酸水素2カリウム0.2(w/v)%、酢酸ナトリウム0.5(w/v)%、硫酸マンガン・5水和物0.028(w/v)%、硫酸マグネシウム・7水和物0.058(w/v)%、塩化カルシウム・2水和物0.074(w/v)%、アデカプルロニックL−61 0.02(w/v)%(旭電化工業)の組成からなる培地〔実施例1〕を3Lのジャーファメンターに2.0L添加した後、当該培地を121℃、20分加熱殺菌した。 前培養として、Lactobacillus kefiranofaciens JCM6985をLactobacilli MRS Broth 5.5(w/v)%(Difco社)からなる前培養培地200mlを含む300ml三角フラスコに植菌し、30℃、72時間静置培養した。 得られた前培養液を1%接種し、12%水酸化ナトリウム水溶液にて培養液のpHを5.0に制御しながら30℃、96時間無通気条件で微攪拌しながら培養を行った。培養終了後における培養液中のケフィラン含量は、アンスロン硫酸法にて測定した。分析結果は表1に示す。 本培養において、上記(実施例1で使用した)培地組成からトリプトンのみを添加しなかったもの〔比較例1〕、酵母エキスのみを添加しなかったもの〔比較例2〕、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート(Tween80)のみを添加しなかったもの〔比較例3〕を培地として使用した以外は、実施例1と同様に実験を行った。結果は併せて表1に示す。 ※ アンスロン硫酸法 培養液を0.2M NaCl水溶液で20倍に希釈し、その0.7mlにエタノールを等量加えて混合することによりケフィランを析出させた。遠心分離し、上清を取り除き沈殿を得た。上記操作を再度繰り返して得た沈殿に蒸留水を0.7ml加えて溶解し、ケフィラン含有液を作成した。 アンスロン液(アンスロン 0.2gをH2SO4 75mlと蒸留水 25mlの混合液で溶解したもの)5mlを試験管に取り、上記のケフィラン含有液0.5mlを加えて100℃で10分湯浴した。室温まで水冷した後に、620nmの波長における吸光度を測定してケフィラン含有液中の還元糖量を測定し、ケフィラン量を算出した。 <実施例2〜3、比較例4> 培地中に含まれるポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート(Tween80)添加量を0.38mM〔比較例4〕、1.52mM〔実施例2〕、2.28mM〔実施例3〕とした以外は、実施例1と同様に実験を行った。各条件での培養液中のケフィラン含量の分析結果を表2に示す。 <実施例4〜5、比較例5> 培地中に含まれるポリオキシエチレンソルビタンモノオレエートの替わりにオレイン酸を添加し、その添加量を0.38mM〔比較例5〕、1.52mM〔実施例4〕、2.28mM〔実施例5〕にした以外は実施例1と同様に実験を行った。各条件での培養液中のケフィラン含量分析結果を表3に示す。 (i)ペプトン、(ii)酵母エキス及び(iii)不飽和脂肪酸若しくはそのエステルを必須成分として含み、且つ、当該不飽和脂肪酸若しくはそのエステルの濃度が培地中において0.7mM以上である培地で乳酸菌を培養することにより多糖類を生産する方法。 不飽和脂肪酸若しくはそのエステルがオレイン酸又はオレイン酸エステルである請求項1記載の方法。 オレイン酸エステルがポリオキシエチレンソルビタンモノオレエートである請求項2記載の方法。 乳酸菌がケフィラン酸生産能を有する微生物である、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。 ケフィラン酸生産能を有する微生物が、Lactobacillus属に属する微生物、Lactococcus属に属する微生物、Leuconostoc属に属する微生物、Pediococcus属に属する微生物及びStreptococcus属に属する微生物からなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項4記載の方法。 ケフィラン酸生産能を有する微生物が、Lactobacillus kefiranofaciensである請求項5記載の方法。 Lactobacillus kefiranofaciensが、Lactobacillus kefiranofaciens JCM6985である請求項6記載の方法。 【課題】乳酸菌による多糖類の効率的な製造方法の提供。【解決手段】ペプトン、酵母エキス、及び不飽和脂肪酸もしくはそのエステルを含む培地で、Lactobacillus kefiranofaciens等のケフィラン酸生産能を有する乳酸菌を培養することにより、多糖類を生産する方法。培養液中に高濃度の多糖類を蓄積し、効率よく製造できる。【選択図】なし