タイトル: | 公開特許公報(A)_トラニラストを含有する網膜疾患の予防または治療剤 |
出願番号: | 2010122592 |
年次: | 2011 |
IPC分類: | A61K 31/196,A61P 27/02,A61K 9/48,A61K 9/16,A61K 9/20 |
吉田 篤史 平井 慎一郎 JP 2011006406 公開特許公報(A) 20110113 2010122592 20100528 トラニラストを含有する網膜疾患の予防または治療剤 参天製薬株式会社 000177634 深見 久郎 100064746 森田 俊雄 100085132 仲村 義平 100083703 堀井 豊 100096781 酒井 將行 100109162 荒川 伸夫 100111246 佐々木 眞人 100124523 吉田 篤史 平井 慎一郎 JP 2009129786 20090529 A61K 31/196 20060101AFI20101210BHJP A61P 27/02 20060101ALI20101210BHJP A61K 9/48 20060101ALI20101210BHJP A61K 9/16 20060101ALI20101210BHJP A61K 9/20 20060101ALI20101210BHJP JPA61K31/196A61P27/02A61K9/48A61K9/16A61K9/20 5 OL 13 4C076 4C206 4C076AA30 4C076AA31 4C076AA36 4C076AA53 4C076BB01 4C076CC04 4C076CC10 4C076DD23 4C076DD26 4C076DD28 4C076DD41 4C076DD67 4C076EE23 4C076EE30 4C076EE31 4C076EE32 4C206AA01 4C206AA02 4C206DA17 4C206MA01 4C206MA04 4C206MA55 4C206MA57 4C206MA61 4C206MA63 4C206MA72 4C206NA14 4C206ZA33 4C206ZB11 本発明は、トラニラストまたはその医薬的に許容される塩を有効成分として含有する、網膜色素上皮障害を原因とし、且つ脈絡膜血管新生を伴わない網膜疾患の予防または治療剤に関する。 網膜色素上皮(retinal pigment epithelium、以下「RPE」ともいう)は網膜組織の最外層に位置しており、多様な形で視覚受容に重要な役割を果たしている。したがって、網膜色素上皮が萎縮、変性などにより障害されると、視力低下(夜盲を含む、以下同じ)を伴う種々の網膜疾患が引き起こされる。また、網膜色素上皮障害は脈絡膜から網膜への血管の新生(脈絡膜血管新生)の伸展の引き金となり、結果として黄斑部の出血、滲出、網膜剥離などに起因する視力低下を生じさせることもある。すなわち、網膜色素上皮障害を原因とする網膜疾患には、網膜色素上皮障害そのものにより視力低下が生じるものと、網膜色素上皮障害により二次的に生じた脈絡膜血管新生(choroidal neovascularization、以下「CNV」ともいう)の影響により視力低下が生じるものが存在する。 上述した網膜色素上皮障害そのものにより視力低下が生じる網膜疾患、すなわち、網膜色素上皮障害を原因とし、且つ脈絡膜血管新生を伴わない網膜疾患(以下「CNVを伴わないRPE障害疾患」ともいう)の代表例としては、萎縮型加齢黄斑変性(atrophic AMD)が挙げられる。萎縮型加齢黄斑変性は、加齢に伴う網膜色素上皮萎縮により網膜色素上皮が障害され、視力低下が生じる疾患である。一方で、網膜色素上皮障害により脈絡膜血管新生が生じる疾患(以下「CNVを伴うRPE障害疾患」ともいう)の例としては、滲出型加齢黄斑変性(exudative AMD)が挙げられる。滲出型加齢黄斑変性においては、網膜色素上皮障害により生じる脈絡膜血管新生が視力低下を引き起こす原因となる。 したがって、CNVを伴わないRPE障害疾患の治療は、直接的に網膜色素上皮障害を抑制する必要があるため、血管新生抑制により一定の治療効果が得られるCNVを伴うRPE障害疾患の治療よりもはるかに困難である。実際、滲出型加齢黄斑変性の治療においては、レーザー照射による脈絡膜から新生した血管の光凝固や血管新生阻害剤の投与などが有効とされるが、これらの治療法は萎縮型加齢黄斑変性においては奏功せず、現在に至るまで、確立した萎縮型加齢黄斑変性の治療法は見出されていない。 また、ドルーゼンと網膜色素上皮の異常が認められる加齢黄斑変性の初期段階は、特に、初期加齢黄斑症(early age−related maculopathy)と呼ばれ、萎縮型加齢黄斑変性と同様に脈絡膜血管新生を伴わないことが知られている。すなわち、初期加齢黄斑症および萎縮型加齢黄斑変性は、脈絡膜血管新生を伴わない点で、滲出型加齢黄斑変性とは明確に異なる疾患であるといえる。 CNVを伴わないRPE障害疾患のその他の例としては、網膜色素変性症(retinitis pigmentosa)、シュタルガルト病(Stargardt’s disease)、レーベル病(Leber’s disease)、脈絡膜硬化症(choroidal sclerosis)、全脈絡膜萎縮症(chorioderemia)、卵黄状黄斑ジストロフィ(vitelliform macular dystrophy)、小口病(Oguchi’s disease)、眼底白点症(fundus albipunctatus)、白点状網膜炎(retinitis punctata albescens)などを挙げることができる。 上記疾患は、いずれも網膜色素上皮が萎縮、変性などにより障害されることで視力低下が認められる疾患である。すなわち、網膜色素変性症およびシュタルガルト病の原因は網膜色素上皮の変性であるとされ、また、レーベル病、脈絡膜硬化症および全脈絡膜萎縮症においては網膜色素上皮の萎縮がその発症原因の一つであると指摘されている。一方、卵黄状黄斑ジストロフィ、小口病、眼底白点症および白点状網膜炎については、必ずしもその病態は明らかとなっていないものの、やはり網膜色素上皮の障害が一つの原因であると考えられている。 一方、トラニラストは、化学伝達物質遊離抑制作用を有する抗アレルギー剤として広く用いられている。トラニラストについては、多くの薬理作用を有することが知られているが、最近になって、トラニラストが種々の網膜疾患の治療剤として有効であることも報告されている。 たとえば特開平9−278653号公報(特許文献1)には、トラニラストが網膜疾患治療剤となりうることが示唆されており、網膜疾患として網膜血管閉塞症、糖尿病網膜症などの網膜血管障害が開示されている。また、国際公開第97/29744号パンフレット(特許文献2)、Invest. Ophthalmol. Vis. Sci., 40(2), 459−466(1999)(非特許文献1)、Br. J. Pharmacol., 122(6), 1061−1066(1997)(非特許文献2)、ならびに、Cardiovasc. Drug Rev., 16(3), 288−299(1998)(非特許文献3)には、トラニラストが血管新生抑制作用を有することが開示されており、トラニラストが滲出型加齢黄斑変性(または老人性円板状黄斑部変性症)、糖尿病網膜症、未熟児網膜症などの脈絡膜血管新生を伴う網膜疾患の治療剤となりうることが示唆されている。さらに、国際公開第98/47504号パンフレット(特許文献3)、Ophthalmic Res., 34(4), 206−212(2002)(非特許文献4)、ならびに、Graefe’s Arch. Clin. Exp. Ophthalmol., 237(8),691−696(1999)(非特許文献5)には、トラニラストが網膜色素上皮細胞の増殖を抑制することが開示されており、トラニラストが増殖性硝子体網膜症などの網膜色素上皮細胞の過剰増殖に係わる疾患の治療薬となりうることが示唆されている。 しかしながら、トラニラストが萎縮型加齢黄斑変性などのCNVを伴わないRPE障害疾患を治療しうることを記載または示唆する先行技術文献は存在しない。Expert Opin. Ther. Pat., 10(3), 333−341(2000)(非特許文献6)には、寧ろ、萎縮型加齢黄斑変性の治療剤としては網膜色素上皮細胞の増殖を促進する薬剤が好ましいことが示唆されており、上述したように、トラニラストは網膜色素上皮細胞の増殖を抑制することが知られている(特許文献3、非特許文献4、5)。 以上のように、トラニラストがCNVを伴わないRPE障害疾患の予防または治療剤となりうるか否かは全く明らかとなっていない。特開平9−278653号公報国際公開第97/29744号パンフレット国際公開第98/47504号パンフレットInvest. Ophthalmol. Vis. Sci., 40(2), 459−466(1999)Br. J. Pharmacol., 122(6), 1061−1066(1997)Cardiovasc. Drug Rev., 16(3), 288−299(1998)Ophthalmic Res., 34(4), 206−212(2002)Graefe’s Arch. Clin. Exp. Ophthalmol., 237(8),691−696(1999)Expert Opin. Ther. Pat., 10(3), 333−341(2000) したがって、CNVを伴わないRPE障害疾患を治療または予防しうる薬剤を探索することは興味深い課題である。 本発明者らは、CNVを伴わないRPE障害疾患を治療または予防しうる薬剤を探索すべく鋭意研究を行ったところ、驚くべきことに、トラニラストの経口投与が、ラットヨウ素酸ナトリウム誘発網膜障害モデルにおいて、網膜色素上皮障害に起因する神経網膜機能の低下を抑制することを見出した。また、本発明者らは、トラニラストが培養ヒト網膜色素上皮細胞(ARPE−19)の細胞死を直接的に保護することをも見出し、結果として本発明に至った。 すなわち、本発明は、トラニラストまたはその医薬的に許容される塩を有効成分として含有する、網膜色素上皮障害を原因とし、且つ脈絡膜血管新生を伴わない網膜疾患の予防または治療剤、である。 また、本発明の他の態様は、トラニラストまたはその医薬的に許容される塩を有効成分として含有するCNVを伴わないRPE障害疾患の予防または治療剤であって、当該CNVを伴わないRPE障害疾患が、萎縮型加齢黄斑変性、初期加齢黄斑症、網膜色素変性症、シュタルガルト病、レーベル病、脈絡膜硬化症、全脈絡膜萎縮症、卵黄状黄斑ジストロフィ、小口病、眼底白点症および白点状網膜炎からなる群より選択される少なくとも1種である予防または治療剤、である。 また、本発明の他の態様は、トラニラストまたはその医薬的に許容される塩を有効成分として含有するCNVを伴わないRPE障害疾患の予防または治療剤であって、投与経路が経口投与である予防または治療剤、である。 また、本発明の他の態様は、トラニラストまたはその医薬的に許容される塩を有効成分として含有するCNVを伴わないRPE障害疾患の予防または治療剤であって、剤型がカプセル剤、細粒剤、顆粒剤、散剤、丸剤または錠剤である予防または治療剤、である。 後述するように、トラニラストの経口投与は、ラットヨウ素酸ナトリウム誘発網膜障害モデルにおいて、網膜色素上皮障害に起因する神経網膜機能の低下を抑制した。また、トラニラストは培養ヒト網膜色素上皮細胞(ARPE−19)の細胞死を直接的に保護した。したがって、トラニラストまたはその医薬的に許容される塩は、CNVを伴わないRPE障害疾患の予防または治療剤となることが期待される。 トラニラストは、下記の化学構造式(I)で示される化合物である。 本発明において、トラニラストとは、トラニラストのフリー体を意味する。 また、トラニラストの塩としては、医薬的に許容される塩であれば特に制限はなく、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硝酸、硫酸、リン酸などの無機酸との塩、酢酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、クエン酸、酒石酸、アジピン酸、グルコン酸、グルコヘプト酸、グルクロン酸、テレフタル酸、メタンスルホン酸、乳酸、馬尿酸、1,2−エタンジスルホン酸、イセチオン酸、ラクトビオン酸、オレイン酸、パモ酸、ポリガラクツロン酸、ステアリン酸、タンニン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、硫酸ラウリルエステル、硫酸メチル、ナフタレンスルホン酸、スルホサリチル酸などの有機酸との塩、臭化メチル、ヨウ化メチルなどとの四級アンモニウム塩、臭素イオン、塩素イオン、ヨウ素イオンなどのハロゲンイオンとの塩、リチウム、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属との塩、カルシウム、マグネシウムなどのアルカリ土類金属との塩、鉄、亜鉛などとの金属塩、アンモニアとの塩、トリエチレンジアミン、2−アミノエタノール、2,2−イミノビス(エタノール)、1−デオキシ−1−(メチルアミノ)−2−D−ソルビトール、2−アミノ−2−(ヒドロキシメチル)−1,3−プロパンジオール、プロカイン、N,N−ビス(フェニルメチル)−1,2−エタンジアミンなどの有機アミンとの塩などが挙げられる。また、トラニラストは水和物または溶媒和物の形態をとっていてもよい。 トラニラストに幾何異性体または光学異性体が存在する場合は、トラニラストの異性体またはそれらの医薬的に許容される塩も本発明の範囲に含まれる。また、トラニラストにプロトン互変異性が存在する場合には、トラニラストの互変異性体またはそれらの医薬的に許容される塩も本発明の範囲に含まれる。 トラニラスト若しくはその幾何異性体、光学異性体およびプロトン互変異性またはそれらの医薬的に許容される塩に、結晶多形および結晶多形群(結晶多形システム)が存在する場合には、それらの結晶多形体および結晶多形群(結晶多形システム)も本発明の範囲に含まれる。ここで、結晶多形群(結晶多形システム)とは、それら結晶の製造、晶出、保存などの条件および状態(なお、本状態には製剤化した状態も含む)により、結晶形が変化する場合の各段階における個々の結晶形およびその過程全体を意味する。 トラニラストまたはその医薬的に許容される塩は、有機合成化学の分野における通常の方法に従って製造できる。また、トラニラストは、Sigma社(Cat.No.T0318)より市販されている。 本発明において、「網膜色素上皮障害」とは、加齢、遺伝的素因などを原因とする網膜色素上皮の変性、萎縮などにより網膜色素上皮が物理的に障害されること、および/または、網膜色素上皮の機能が低下することを意味する。 本発明において、「脈絡膜血管新生を伴わない」とは、脈絡膜から網膜に血管が新生していないことを意味する。 本発明において、「網膜色素上皮障害を原因とし、且つ脈絡膜血管新生を伴わない網膜疾患」とは、網膜色素上皮障害により生じた脈絡膜血管新生に起因するのではなく、網膜色素上皮障害そのものを原因として視力低下が認められる疾患、または同様の理由により将来的に視力低下が生じる可能性がある疾患を意味する。なお、ここでいう視力低下には夜盲が含まれるものとする。 本発明において、「網膜色素上皮障害を原因とし、且つ脈絡膜血管新生を伴わない網膜疾患」とは、上述した定義に合致する全ての疾患を意味するが、具体例としては、萎縮型加齢黄斑変性、初期加齢黄斑症、網膜色素変性症、シュタルガルト病、レーベル病、脈絡膜硬化症、全脈絡膜萎縮症、卵黄状黄斑ジストロフィ、小口病、眼底白点症、白点状網膜炎などを挙げることができる。なお、これらの疾患のうち、特にトラニラストまたはその医薬的に許容される塩が有効であるのは、萎縮型加齢黄斑変性および初期加齢黄斑症である。 本発明において、トラニラストまたはその医薬的に許容される塩は、医薬的に許容される添加剤を加え、単独製剤または配合製剤として汎用されている技術を用いて製剤化することができる。なお、日本国では、1カプセル中にトラニラスト100mgを含有し、添加物として結晶セルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム(カルメロースカルシウム)、ヒドロキシプロピルセルロース、ステアリン酸カルシウムおよびタルクを含有する医薬組成物「リザベン(登録商標)カプセル100mg」、ならびに、1g中にトラニラスト100mgを含有し、添加物として乳糖、D−マンニトール、ヒドロキシプロピルセルロースおよびタルクを含有する医薬組成物「リザベン(登録商標)細粒10%」が、アレルギー性疾患治療剤として市販されている。 本発明においては、CNVを伴わないRPE障害疾患を予防または治療するため、トラニラストまたはその医薬的に許容される塩を患者に対して経口的または非経口的に投与することができる。本発明の投与形態としては、経口投与、眼への局所投与(点眼投与、結膜嚢内投与、硝子体内投与、結膜下投与、テノン嚢下投与など)、静脈内投与、経皮投与などが挙げられるが、経口投与が特に好ましい。 本発明においては、トラニラストまたはその医薬的に許容される塩は、必要に応じて医薬的に許容され得る添加剤と共に、投与に適した剤型に製剤化される。経口投与に適した剤型としては、たとえば、カプセル剤、細粒剤、顆粒剤、散剤、丸剤、錠剤などが挙げられる。また、非経口投与に適した剤型としては、たとえば、注射剤、点眼剤、眼軟膏、貼布剤、ゲル、挿入剤などが挙げられる。なお、これらは当該分野で汎用されている通常の技術を用いて調製することができる。さらに、トラニラストまたはその医薬的に許容される塩は、これらの製剤の他に眼内インプラント用製剤やマイクロスフェアーなどのDDS(ドラッグデリバリーシステム)化された製剤にすることもできる。 本発明において、トラニラストまたはその医薬的に許容される塩の好ましい剤型は、カプセル剤、細粒剤、顆粒剤、散剤、丸剤または錠剤である。 たとえば、本発明において、トラニラストまたはその医薬的に許容される塩は、結晶セルロース、乳糖、ブドウ糖、D−マンニトール、無水酸水素カルシウム、デンプン、ショ糖などの賦形剤(diluents);カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウム、クロスポピドン、デンプン、部分アルファー化デンプン、低置換度ヒドロキシプロピルセルロースなどの崩壊剤(disintegrants);ヒドロキシプロピルセルロース、エチルセルロース、アラビアゴム、デンプン、部分アルファー化デンプン、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコールなどの結合剤(binders);ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、タルク、含水二酸化ケイ素、硬化油などの滑沢剤(luburicants);精製白糖、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、ポリビニルピロリドンなどのコーティング剤(coating agents);クエン酸、アスパルテーム、アスコルビン酸、メントールなどの矯味剤(flavoring substance)などを適宜選択して添加することで、カプセル剤(capsules)、細粒剤(subtle granules)、顆粒剤(granules)、散剤(powder)、丸剤(pills)または錠剤(tablets)として調製することができる。 すなわち、カプセル剤は、トラニラストまたはその医薬的に許容される塩をそのまま、または上記添加物を加えて顆粒状粉末状、ペースト状、懸濁状または液状とした上で、カプセル封入することで調製することができる。 細粒剤、顆粒剤、散剤および丸剤は、上記添加物を加えてトラニラストまたはその医薬的に許容される塩を細粒状、粒状、粉末状または球状とすることで調製することができる。また、錠剤は、トラニラストまたはその医薬的に許容される塩に上記添加物を加えた上で、間接圧縮法(indirect compression)または間接圧縮法(indirect compression)を用いて調製することができる。 注射剤は、塩化ナトリウムなどの等張化剤;リン酸ナトリウムなどの緩衝化剤;ポリオキシエチレンソルビタンモノオレートなどの界面活性剤;メチルセルロースなどの増粘剤などから必要に応じて選択して用い、調製することができる。 点眼剤は、塩化ナトリウム、濃グリセリンなどの等張化剤;リン酸ナトリウム、酢酸ナトリウムなどの緩衝化剤;ポリオキシエチレンソルビタンモノオレート、ステアリン酸ポリオキシル40、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油などの界面活性剤;クエン酸ナトリウム、エデト酸ナトリウムなどの安定化剤;塩化ベンザルコニウム、パラベンなどの防腐剤などから必要に応じて選択して用い、調製することができ、pHは眼科製剤に許容される範囲内にあればよいが、通常4〜8の範囲内が好ましい。また、眼軟膏は、白色ワセリン、流動パラフィンなどの汎用される基剤を用い、調製することができる。 挿入剤は、生体分解性ポリマー、たとえばヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシビニルポリマー、ポリアクリル酸などの生体分解性ポリマーを本化合物とともに粉砕混合し、この粉末を圧縮成型することにより、調製することができ、必要に応じて、賦形剤、結合剤、安定化剤、pH調整剤を用いることができる。眼内インプラント用製剤は、生体分解性ポリマー、たとえばポリ乳酸、ポリグリコール酸、乳酸・グリコール酸共重合体、ヒドロキシプロピルセルロースなどの生体分解性ポリマーを用い、調製することができる。 本発明において、トラニラストまたはその医薬的に許容される塩の投与量は、剤型、投与すべき患者の症状の軽重、年令、体重、医師の判断などに応じて適宜変えることができるが、経口投与の場合、一般には、成人に対し1日あたり0.01〜10000mg、好ましくは0.1〜5000mg、より好ましくは0.5〜2500mgを1回または数回に分けて投与することができ、注射剤の場合、一般には、成人に対し0.0001〜2000mgを1回または数回に分けて投与することができる。また、点眼剤または挿入剤の場合には、0.000001〜10%(w/v)、好ましくは0.00001〜1%(w/v)、より好ましくは0.0001〜0.1%(w/v)の有効成分濃度のものを1日1回または数回投与することができる。さらに、貼布剤の場合は、成人に対し0.0001〜2000mgを含有する貼布剤を貼布することができ、眼内インプラント用製剤の場合は、成人に対し0.0001〜2000mg含有する眼内インプラント用製剤を眼内にインプラントすることができる。 以下に、薬理試験および製剤例の結果を示すが、これらの例は本発明をよりよく理解するためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。 [薬理試験1] ヨウ素酸ナトリウムは経口または静脈内投与によりRPE細胞特異的な障害を惹起し、神経網膜の機能の低下、すなわち網膜の光に対する反応性の低下を導くことが報告されている(J. Toxicol. Sci., 21:Suppl 1, 15−32(1996))。したがって、ラットヨウ素酸ナトリウム誘発網膜障害モデルはCNVを伴わないRPE障害疾患の病態モデルとなりうる。そこで、本モデルを用いて、トラニラストがRPE障害に伴う光反応性の低下を抑制するか否かを評価した。また、RPEは物理的に外側血液網膜関門(outer blood−retinal barrier、以下「outer BRB」ともいう)を構成していることから、RPEの障害はouter BRBの破綻を導くことも知られている(Exp. Eye Res., 35, 653−662(1982))。そこで、トラニラストがRPE障害に伴う透過性亢進を抑制するか否かについても併せて評価した。 (ラットヨウ素酸ナトリウム誘発網膜障害モデルの作製方法) ヨウ素酸ナトリウムを生理食塩液に30mg/mLになるように溶解し、ヨウ素酸ナトリウム投与液とした。8匹のBrown Norway系雄性ラット(日本チャールスリバー)にヨウ素酸ナトリウム投与液を1mL/kg静脈内投与し、網膜障害を惹起させた。なお、生理食塩液のみを投与した4匹の動物を正常コントロールとした。 (薬物投与方法) トラニラストを1%(w/v)メチルセルロース溶液(基剤)に20mg/mLになるように懸濁し、トラニラスト投与液とした。ヨウ素酸ナトリウムを投与した8匹の動物のうち4匹に、ヨウ素酸ナトリウムを投与する4日前から投与6日後までの合計11日間にわたってトラニラスト投与液を5mL/kg、すなわちトラニラストとして100mg/kgの用量で1日2回、反復経口投与した。なお、トラニラストを投与しなかった残りの4匹については、基剤を反復経口投与(11日間)した。また、ヨウ素酸ナトリウムを投与していない正常コントロール4匹にも基剤を反復経口投与(11日間)した。すなわち、例数は各群4匹8眼である。 (評価方法) (1)Electroretinogram(ERG)振幅 神経網膜の機能を評価するために、ERGを測定した。トラニラストまたは基剤の反復経口投与開始11日後(反復投与終了日)に動物を暗室に移動させ、0.5%(w/v)トロピカミド−0.5%塩酸フェニレフリン点眼液を点眼して散瞳させた。5%(w/v)塩酸ケタミン注射液および2%塩酸キシラジン注射液の混合液(7:1)を1ml/kg筋肉内投与して全身麻酔した後、ポータブルERG&VEP LE−3000(トーメーコーポレーション社製)にてERGを測定した。なお、光刺激条件は光刺激強度3000cd/m2、光刺激時間10msとした。得られた波形からa波およびb波の振幅を算出した。 (2)フルオレセイン網膜透過性 RPEで構成されるouter BRBのバリア機能を評価するために、フルオレセインの網膜透過性を測定した。トラニラストまたは基剤の反復経口投与開始12日後(反復投与終了日の翌日)に、0.5%(w/v)トロピカミド−0.5%塩酸フェニレフリン点眼液を点眼して散瞳させた。5%(w/v)塩酸ケタミン注射液および2%塩酸キシラジン注射液の混合液(7:1)を約0.4ml/匹の用量で筋肉内投与して全身麻酔した後、1%(w/v)のフルオレセイン溶液を静脈内投与した。45分後にフルオロトロンマスター(OcuMetrics)にて硝子体内のフルオレセイン濃度を測定した。この直後に採血し、血漿中のフルオレセイン濃度を同じくフルオロトロンマスターにて測定した。硝子体内のフルオレセイン濃度を血漿中フルオレセイン濃度で除した値をフルオレセイン網膜透過性とした。 表1中、値は平均±標準誤差(例数8)を示す。 表2中、値は平均±標準誤差(例数8)を示す。 (結果および考察) 表1に示すとおり、正常コントロール群と比較して、ヨウ素酸ナトリウムを投与した基剤投与群のa波およびb波振幅は顕著に減弱しており、ヨウ素酸ナトリウム投与によりRPEが障害された結果、神経網膜機能が低下したものと考えられる。一方で、トラニラスト投与群のa波およびb波振幅は正常コントロール群とほぼ同程度であった。この結果は、トラニラストがRPE障害に伴う神経網膜機能の低下をほとんど完全に抑制したことを示すものである。 また、表2に示す通り、正常コントロール群と比較して、ヨウ素酸ナトリウムを投与した基剤投与群のフルオレセイン網膜透過性は著しく亢進しており、ヨウ素酸ナトリウムによるRPEの器質的破壊がouter BRBのバリア機能の破綻を導いたものと考えられる。一方で、トラニラスト投与群のフルオレセイン網膜透過性は正常コントロール群とほぼ同程度であることから、トラニラストはRPEの物理的障害に対して強力な保護効果を有していることが明らかとなった。 以上のことから、トラニラストがRPE障害に対して強力な保護効果を有し、RPE障害に伴う神経網膜の機能低下を抑制すること、すなわち網膜の光反応性の低下を抑制することが示唆された。すなわち、トラニラストはCNVを伴わないRPE障害疾患に対して予防または治療効果を有しているものと考えられる。 [薬理試験2] トラニラストのRPE細胞に対する保護効果をより直接的に評価するために、ヒトRPE細胞株であるARPE−19細胞を用い、ヨウ素酸ナトリウム誘発RPE細胞死に対する保護効果を検討した。 (実験方法) ARPE−19細胞(ATCC、Cat.No.CRL−2302)を5×104個/ウェルで96ウェルプレートに播種し、インキュベーター(設定:37℃、5%CO2/95%空気)で培養した。培養液は、10%ウシ胎児血清を含有するDMEM/F12を用いた。播種3日後に培地交換し、さらに3日間培養した。次に培養液を除去し、6mMヨウ素酸ナトリウムおよび30μMまたは300μMトラニラストを含有する培養液に交換した。なお、トラニラスはDMSOに溶解し、培養液に0.1%(v/v)になるように添加した。基剤投与群として、0.1%DMSO含有培養液を用いた。培地交換後、インキュベーターで24時間培養した後に細胞生存率を測定した。 (評価方法) 培養液を吸引除去し、培養液とCell Counting Kit−8(同仁化学研究所製 Cat.No.341−07761)の10:1混合液(測定溶液)を100μL/ウェルで添加した。インキュベーターで約1時間培養した後にBenchmark Plus Microplate Reader(Bio−Rad社製)にて450nmの吸光度(リファレンス吸光度650nm)を測定した。なお、細胞を播種せず、測定溶液のみ添加したウェルの吸光度をブランクとして、全ての測定値から差し引いた。ヨウ素酸ナトリウム無投与群の平均値を100%として、各ウェルの細胞生存率を計算した。なお、各投与群3ウェルずつ実施した。 表3中、値は平均±標準誤差(例数3)を示す。 (結果および考察) 表3のとおり、ヨウ素酸ナトリウム添加によりARPE−19の生存率は19.6%まで低下したが、トラニラストを同時に処置することによって、用量依存的に細胞生存率が上昇した。この結果は、トラニラストがRPE細胞死を直接的に保護する作用を有していることを示すものである。すなわち、トラニラストはRPE障害を強力に保護することから、CNVを伴わないRPE障害疾患に対して予防または治療効果を有するものと考えられる。 [製剤例] 製剤例を挙げて本発明の薬剤をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの製剤例にのみ限定されるものではない。 (処方例1:カプセル剤) 1カプセル中 トラニラスト 50mg 結晶セルロース 90mg カルボキシメチルセルロースカルシウム 5mg ヒドロキシプロピルセルロース 4mg ステアリン酸マグネシウム 0.5mg タルク 0.5mg トラニラストおよび結晶セルロースを混合機中で混合し、その混合物にカルボキシメチルセルロースカルシウムおよびヒドロキシプロピルセルロースを加えて造粒する。得られた顆粒を乾燥後整粒し、常法により粉末化した上でカプセルに充填する。また、トラニラストならびに添加物の種類および/または量を適宜変更することにより、1カプセル中の含有量が5mg、10mg、100mgまたは500mgのカプセル剤を調製できる。 (処方例2:細粒剤) 1g中 トラニラスト 100mg 乳糖 500mg D−マンニトール 370mg ヒドロキシプロピルセルロース 25mg タルク 5mg トラニラスト、乳糖およびD−マンニトールを混合機中で混合し、その混合物にヒドロキシプロピルセルロースを加えて造粒する。得られた顆粒を乾燥後整粒し、常法により細粒状とする。また、トラニラストならびに添加物の種類および/または量を適宜変更することにより、1g中の含有量が10mg、50mgまたは500mgの細粒剤を調製できる。 (処方例3:錠剤) 100mg中 トラニラスト 1mg 乳糖 66.4mg トウモロコシデンプン 20mg カルボキシメチルセルロースカルシウム 6mg ヒドロキシプロピルセルロース 6mg ステアリン酸マグネシウム 0.6mg トラニラストおよび乳糖を混合機中で混合し、その混合物にカルボキシメチルセルロースカルシウムおよびヒドロキシプロピルセルロースを加えて造粒する。得られた顆粒を乾燥後整粒し、その整粒顆粒にステアリン酸マグネシウムを加えて混合し、打錠機で打錠する。また、トラニラスト並びに添加物の種類および/または量を適宜変更することにより、100mg中の含有量が0.1mg、10mgまたは50mgの錠剤を調製できる。 (処方例4:注射剤) 10ml中 トラニラスト 10mg 塩化ナトリウム 90mg ポリソルベート80 適量 滅菌精製水 適量 トラニラストおよびそれ以外の上記成分を滅菌精製水に溶解して注射剤を調製する。トラニラストの添加量を変えることにより、10ml中の含有量が0.1mg、1mgまたは50mgの注射剤を調製できる。 (処方例5:点眼剤(0.1%(w/v))) 100ml中 トラニラスト 100mg 塩化ナトリウム 900mg ポリソルベート80 適量 リン酸水素二ナトリウム 適量 リン酸二水素ナトリウム 適量 滅菌精製水 適量 滅菌精製水にトラニラストおよびそれ以外の上記成分を加え、これらを十分に混合して点眼液を調製する。トラニラストの添加量を変えることにより、濃度が0.01%(w/v)、0.5%(w/v)または1%(w/v)の点眼剤を調製できる。 トラニラストの経口投与は、ラットヨウ素酸ナトリウム誘発網膜障害モデルにおいて、網膜色素上皮障害に起因する神経網膜機能の低下を抑制した。また、トラニラストは培養ヒト網膜色素上皮細胞(ARPE−19)の細胞死を直接的に保護した。したがって、トラニラストまたはその医薬的に許容される塩はCNVを伴わないRPE障害疾患の予防または治療剤となることが期待される。 トラニラストまたはその医薬的に許容される塩を有効成分として含有する、網膜色素上皮障害を原因とし、且つ脈絡膜血管新生を伴わない網膜疾患の予防または治療剤。 前記網膜疾患が、萎縮型加齢黄斑変性、初期加齢黄斑症、網膜色素変性症、シュタルガルト病、レーベル病、脈絡膜硬化症、全脈絡膜萎縮症、卵黄状黄斑ジストロフィ、小口病、眼底白点症および白点状網膜炎からなる群より選択される少なくとも1種である請求項1に記載の予防または治療剤。 前記網膜疾患が、萎縮型加齢黄斑変性および初期加齢黄斑症からなる群より選択される少なくとも1種である請求項1に記載の予防または治療剤。 投与経路が経口投与である、請求項1〜3のいずれかに記載の予防または治療剤。 剤型がカプセル剤、細粒剤、顆粒剤、散剤、丸剤または錠剤である、請求項1〜3のいずれかに記載の予防または治療剤。 【課題】網膜色素上皮障害を原因とし、且つ脈絡膜血管新生を伴わない網膜疾患を治療または予防しうる薬剤を探索する。【解決手段】トラニラストの経口投与は、ラットヨウ素酸ナトリウム誘発網膜障害モデルにおいて、網膜色素上皮障害に起因する神経網膜機能の低下を抑制した。また、トラニラストは培養ヒト網膜色素上皮細胞(ARPE−19)の細胞死を直接的に保護した。したがって、トラニラストまたはその医薬的に許容される塩は、網膜色素上皮障害を原因とし、且つ脈絡膜血管新生を伴わない網膜疾患の予防または治療剤として有用である。【選択図】なし