タイトル: | 公開特許公報(A)_芽胞表面抗原タンパク質と抗体の特異的反応を利用した芽胞の検出法と同定法 |
出願番号: | 2010116610 |
年次: | 2011 |
IPC分類: | C12Q 1/02,G01N 33/53,G01N 33/533,G01N 33/569,G01N 21/78,C12N 1/20 |
高松 宏治 桑名 利津子 今村 大輔 JP 2011239749 公開特許公報(A) 20111201 2010116610 20100520 芽胞表面抗原タンパク質と抗体の特異的反応を利用した芽胞の検出法と同定法 学校法人常翔学園 503420833 キリンビバレッジ株式会社 391058381 平木 祐輔 100091096 藤田 節 100118773 高松 宏治 桑名 利津子 今村 大輔 C12Q 1/02 20060101AFI20111104BHJP G01N 33/53 20060101ALI20111104BHJP G01N 33/533 20060101ALI20111104BHJP G01N 33/569 20060101ALI20111104BHJP G01N 21/78 20060101ALI20111104BHJP C12N 1/20 20060101ALN20111104BHJP JPC12Q1/02G01N33/53 DG01N33/533G01N33/569 FG01N21/78 CC12N1/20 A 8 2 OL 23 特許法第30条第1項適用申請有り ▲1▼電気通信回線での刊行物への投稿論文先行発表 掲載アドレス:http://jb.asm.org/content/vol192/issue2/ 掲載日 :2009年11月20日 公開者 :Daisuke Imamura、Ritsuko Kuwana、Hiromu Takamatsu、Kazuhito Watabe 掲載者 :American Society for Microbiology 公開のタイトル:「Localization of proteins to different layers and regions of Bacillus subtilis spore coats」 ▲2▼刊行物での投稿論文発表 刊行物名 :Journal of Bacteriology 巻数 :Vol.192、No.2 発行日 :2010年1月15日 発行者 :American Society for Microbiology 該当ページ :第518−524ページ 2G054 4B063 4B065 2G054AA08 2G054CA23 2G054CE02 2G054EA03 2G054EB01 2G054FA17 2G054GA03 2G054GA04 4B063QA01 4B063QA18 4B063QQ06 4B063QR75 4B063QS33 4B063QX02 4B065AA01X 4B065AA15X 4B065AA23X 本発明は、芽胞形成細菌の芽胞表層に存在するタンパク質を探索するための技術に関する。また本発明は、この技術を基礎とした芽胞形成細菌の検出法の開発と改良、芽胞形成細菌の除去法、及び医薬品製造等の応用技術に関する。 芽胞形成細菌(内生胞子形成細菌)は、栄養細胞の分裂・増殖(対数増殖期)、芽胞形成、芽胞(休眠)、発芽、発芽後生育、及び栄養細胞の対数増殖という一連の生物学的変化を伴う生活環を有している。栄養細胞は、栄養源の枯渇など環境条件の変化によって不等分裂を起こし、母細胞とプレスポア(Prespore)の2つの細胞に分化する。プレスポアは、母細胞内に取り込まれてフォアスポア(Forespore、前芽胞)となる。フォアスポアが成熟し、芽胞(Spore)になると母細胞は自己溶解する。 芽胞は高い耐久性(耐熱性、耐圧性、耐薬品性)と長期休眠能を持つことから、食品や飲料、医薬品などの分野において芽胞の混入を想定した厳しい殺菌操作が必要となる。また、芽胞の耐久性の強さは種類(菌種や菌株)により異なるため、原料や製品などに混入した場合、迅速かつ正確に種類を同定し種類に応じた対応をしなければならない。一般細菌や栄養細胞であれば、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法による迅速検査が可能であるが、芽胞の場合は強固な外殻構造を持つためにDNAやRNAを効率よく抽出する方法があまり知られておらず、またサンプル中に微量に存在する芽胞からDNAやRNAを効率的に抽出することは困難であり、PCR法による検査があまり有効ではない。その他に、抗原抗体反応に基づく免疫染色法、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)法、フローサイトメトリー(FCM)法などの検査方法も考えられるが、芽胞に特異的な抗原と、それらと特異的に反応する抗体がほとんど知られていないことからそのような検査方法は行われていない。 芽胞形成細菌は多様性に富んでおり、全ての芽胞に共通する抗原は知られていないため、抗原抗体反応に基づく検査法を開発するには、検出対象となる芽胞ごとに抗原を取得し、抗体を調製する必要がある。仮に、抗原の種類や性質が特定されない方法で抗体を取得する場合、可能な限り多くの候補試料から目的に合った反応性を持つ抗体を探し出す必要があるし、目的とする芽胞に反応する抗体が得られても、特異性が低く目的とした芽胞以外の細胞と反応する抗体では実用化できない。従って、抗原が特定されないまま抗体を作製しても、実用化までに多大な労力と費用を要しながらも目的芽胞の特異的検出法は開発できないことになる。さらに、特定された抗原でもそれを安定的に取得できない場合は、同じ反応性を示すポリクローナル抗体を安定して調製することが困難であり、実用化できない。 重篤な健康被害をもたらす芽胞形成細菌として知られるバチルス・アンスラチス(Bacillus anthracis:炭疽菌)の芽胞の検出法については、先行技術が散見され、表面抗原として防御抗原(Protective Antigen:PA)が知られている。この抗原が細胞表面に存在することは既に開示されている(非特許文献1)が、該抗原存在部位の決定は様々な手法を用いたうえでの総合的判断としてなされており、その決定手法は簡便とは言いがたい。 また、特許文献1及び2は、炭疽菌及びその芽胞に反応する抗体を作製し検出に用いているが、抗原物質が特定されない方法で抗体を取得しているため、同一菌種の菌株間における抗体の反応性の違いや、他の芽胞形成細菌に対する抗体の交叉反応性の有無を遺伝子の塩基配列から予測することができず、菌種あるいは菌株ごとに反応性試験が必要となる。従って、適用範囲を炭疽菌又は炭疽菌の特定菌株に限定した場合に有効な手段と考えられるが、他の芽胞形成細菌に対する検出法の開発に寄与しない。 さらに、非特許文献2は、PAの抗原抗体アッセイを利用した2カラーFCM法について開示しており、この方法を用いてバチルス属細菌を判別するための表面抗原を探索中であることも述べられている。しかし、具体的な表面抗原の探索方法が示されていないため実施不可能であるだけでなく、その後、成功報告がなされていない。 バチルス属細菌の芽胞は、内側から順に、コア(Core)、芽胞内膜(Inner spore membrane)、ジャームセルウォール(Germ cell wall)、コルテックス(Cortex)、芽胞外膜(Outer spore membrane)、芽胞殻(Spore Coat、スポアコート)で構成されている。このような基本構造は、ファーミキューテス門(Firmicutes)細菌のほとんど全ての芽胞に共通している。透過型電子顕微鏡を用いた芽胞薄切片の観察により、芽胞殻は大きく内外2つの構造体(インナーコートとアウターコート)に分けられ、それぞれが多層構造(多重殻構造)を持つと推定される。さらに、バチルス・セレウス(B. cereus)や炭疽菌では、芽胞殻の外側にエクソスポリウム(Exosporium)が存在する。エクソスポリウムは芽胞を覆う薄膜で、非定型の袋状構造体である。 芽胞殻やエクソスポリウムはタンパク質などで構成されると考えられ、芽胞殻を構成するタンパク質はコートタンパク質(芽胞殻タンパク質)と呼ばれる。単一もしくは複数種類のコートタンパク質が芽胞の形状に沿って層状に集積し、芽胞を包むようにそれぞれの殻状構造体を形成すると推定されている。現在までに、主にバチルス・ズブチリス(Bacillus subtilis:枯草菌)を用いた研究によって、多種多様なコートタンパク質(芽胞殻タンパク質)が同定され、これらタンパク質の芽胞内での局在化、ネットワーク、芽胞形成における役割などの多くの研究がなされている。いくつかの実験データに基づき、上述のインナーコートとアウターコートは異なるタンパク質で構成されると考えられている。コートタンパク質(芽胞殻タンパク質)の多くは、当初、ドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)による分離とエドマン解析によって同定されていた。その後、枯草菌ゲノム解析の進展によって、新たな研究手法によって同定されるようになった。たとえば、本発明者らは先に非特許文献3で、枯草菌の芽胞をSDSとメルカプトエタノールで処理して得られたタンパク質試料をSDS-PAGEによって分離した後、質量分析計(LC-MS/MS)を用いた解析を行って含有タンパク質の種類を同定している。さらに、それぞれのタンパク質をコードする遺伝子の発現時期を解析し、芽胞殻に存在するタンパク質の種類を推定している。しかし、この時点では本発明に示すような芽胞表層に存在するタンパク質を特定するという発想や技術は得られていなかった。 非特許文献4は、枯草菌の芽胞殻タンパク質を緑色蛍光タンパク質(GFP)で標識し芽胞内の局在部位を検討している。この論文の主目的は、研究対象としたタンパク質が芽胞殻に存在するか否かを知ることであり、それぞれのタンパク質の相対的な位置関係や芽胞表層タンパク質の存在ついては言及していない。 非特許文献5は、抗CotA抗体を用いた枯草菌の芽胞表面タンパク質について原子間力顕微鏡を用いた新しい検出法を開示しているが、ネガティブコントロールを用いた対比実験データが付随されておらず信憑性に疑問がある。また、数少ない既存の抗体のうちから抗CotA抗体1種類のみを試験しており、その他の芽胞殻タンパク質に対する検討がなされていないため、抗CotA抗体を選択した妥当性が確認できず、該検出法は評価不能である。さらに、原子間力顕微鏡はデータ取得に長時間を要し日常検査に利用できるものではない。 非特許文献6は、抗CotB抗体を芽胞表層に存在するタンパク質と推定したうえで枯草菌の野生型芽胞と反応させ、FCM法で検出できたとする報告である。この報告ではネガティブコントロールを用いた対比実験データが開示されておらず信憑性に疑問がある。また、開示されたデータによれば、抗CotB抗体とCotBの反応性が弱く芽胞検出技術としての利用価値はほとんどない。 本発明者らも、非特許文献7によりフォアスポア(前芽胞)の蛍光顕微鏡観察において、GFPあるいは赤色蛍光タンパク質(RFP)で標識した芽胞殻タンパク質がフォアスポア(前芽胞)内に存在することを示した。このことにより、成熟芽胞における該タンパク質の局在部位を推定し、2種類の芽胞殻タンパク質の相対的な位置関係を把握することができるようになった。しかしながら、この時点でも、これらタンパク質の芽胞殻における絶対的位置決定法の想到には至らず、芽胞表層タンパク質を特定するに至らなかった。 上記いずれの報告も芽胞表層に存在するタンパク質について、推定、仮説を提供しているものの、証明に至ったものはなく、芽胞表層に存在するタンパク質は明らかでなかった。したがって、芽胞を精度よく検出できる方法又は手段を提供することは困難であった。特表2007-537277号公報特開2003-238599号公報Redmond, C. et al., Microbiol. 150(2):355-363, 2004年Schumacher, W.C. et al., Appl.Environ.Microbiol. 74(16):5220-5223, 2008年Kuwana, R. et al., Microbiol. 148(12):3971-3982, 2002年Kim, H. et al., Mol.Microbiol. 59(2):487-502, 2006年Tang, J. et al., J.Mol.Recognit. 20(6):483-489, 2007年Isticato, R. et al., J.Bacteriol. 183(21):6294-6301, 2001年Takamatsu, H. et al., J.Bacteriol. 191(4):1220-1229, 2009年 上記のとおり、芽胞殻が多種多様なタンパク質で構成されていることと、それらの一部が芽胞の表層に存在しうることは既知の事実として一般に受け入れられていた。 ところで、枯草菌は遺伝子組換えが容易な非病原性細菌であるため、芽胞殻タンパク質と任意の有用酵素を融合させることにより遺伝子組換えバイオリアクターとして利用したり、芽胞殻タンパク質と任意の病原微生物の抗原を融合させることにより遺伝子組換えワクチンとして用いる技術が試みられ、支持体には代表的な芽胞殻タンパク質が用いられている。しかし、支持体となる芽胞殻タンパク質の芽胞内での存在位置が明らかでなく、従って表層にあることは確認されておらず、その選択が最適か否かの裏付けは示されてこなかった。 炭疽菌に対しては、病原性が極めて強いために抗体を用いた芽胞検出法が開発されその有用性が確かめられていたが、その他の芽胞形成細菌については検出用抗体の積極的な開発はなされなかった。一方で、これらほとんどの芽胞形成細菌はヒトや家畜に無害又は低病原性でありながら、強い抵抗性と長期休眠性を有することから、食品製造分野、医療衛生分野では問題細菌であり、解決されないまま現在に至っている。この分野においては、特定の芽胞を最適な抗体を用いて迅速かつ簡便に検出できる技術の開発が望まれている。 上記のように、バイオリアクター、ワクチン製造分野、食品衛生分野、医療衛生分野などにおいて、支持体としての利用や抗体調製のための基礎技術として、成熟芽胞における芽胞殻タンパク質の位置を決定する技術の確立が望まれている。 上記課題を解決するために鋭意検討した結果、本発明者らは、候補タンパク質を標識して芽胞形成細菌において発現させた場合に標識に基づいて特定される候補タンパク質が構成する殻の直径と、芽胞形成細菌の芽胞長とを比較し、その差に基づいて芽胞における候補タンパク質の位置を特定できることを見出した。また、本発明者らは、このように芽胞の表層に存在すると推定されたタンパク質に対する抗体が、実際に芽胞形成細菌と反応することを確認し、従って、このような芽胞表層に存在するタンパク質を利用して、芽胞形成細菌を検出などできることを見出した。本発明者らは、上記知見により本発明を完成させた。 すなわち、本発明は次のとおりである。[1]芽胞形成細菌において候補タンパク質が芽胞表層に存在するか否かを推定する方法であって、(a)芽胞形成細菌の芽胞長を測定するステップ、(b)候補タンパク質が構成する殻の直径を測定するステップ、(c)上記芽胞長の直径を1とした場合の候補タンパク質が構成する殻の直径比を求め、1から該直径比を引いて2で除した値を該候補タンパク質の絶対的位置とし、絶対的位置が0.06以下であるときに該候補タンパク質が芽胞表層に存在すると推定するステップを含む方法。[2]芽胞長が、芽胞の中心を通り両極を結んだ直線上の明度を光学顕微鏡を用いて評価した場合に観察像の明度の極小値間又は極大値間の距離として得られる、[1]に記載の方法。[3]候補タンパク質が構成する殻の直径が、芽胞における形状と存在位置を保ったまま標識された該候補タンパク質について顕微鏡を用いて標識シグナルを評価した場合に、得られる像の標識シグナル極大値間の距離として得られる、[1]又は[2]に記載の方法。[4]標識が蛍光タンパク質である、[3]に記載の方法。[5]ステップ(c)において芽胞表層に存在すると推定された候補タンパク質について、免疫染色法により該候補タンパク質が芽胞表層に存在することを検証するステップをさらに含む、[1]〜[4]のいずれかに記載の方法。[6]芽胞形成細菌が、バチルス属に属する細菌、クロストリジウム属に属する細菌、スポロラクトバチルス属に属する細菌、ゲオバチルス属に属する細菌、サーモアネロバクター属に属する細菌、サーモアネロバクテリウム属に属する細菌、デスルフォトマキュラム属に属する細菌、モーレラ属に属する細菌、アリシクロバチルス属に属する細菌及びリシニバチルス属に属する細菌から選択される、[1]〜[5]のいずれかに記載の方法。[7]芽胞形成細菌がバチルス・ズブチリスである、[6]に記載の方法。 本発明は、芽胞形成細菌の芽胞表層に存在するタンパク質を効率的かつ確実に探索するための技術を提供する。本発明はまた、この技術を基礎とした芽胞検出法の開発と改良、芽胞の除去法、及び芽胞を用いた医薬品製造等の応用技術の開発に寄与する。従って、本発明により提供される芽胞形成細菌の検出法と除去法は、食品飲料や医薬品の製造分野における衛生管理や、細菌の基礎研究技術に有用である。また、芽胞表層タンパク質の同定は、細菌の応用技術分野における遺伝子組換えワクチン開発や遺伝子組換えバイオリアクターの開発や改良に貢献できる。芽胞形成細菌の芽胞構造の模式図を示す。本発明に係る芽胞表層タンパク質の推定方法において測定する芽胞長及びタンパク質を構成する殻の直径との関係を示す模式図である。芽胞長及びタンパク質を構成する殻の直径を測定した結果を示す。Bは位相差顕微鏡像、Cは蛍光顕微鏡像、AはBとCを重ね合わせた像を示す。Eは、位相差顕微鏡像における長さと明度の関係を示すグラフである。Fは、蛍光顕微鏡像における長さと明度の関係を示すグラフである。Dは、EとFを重ね合わせたグラフである。算出された芽胞殻タンパク質の位置の平均を、芽胞周縁を基準(0)としてピクセル単位で示すグラフである。1ピクセルは64.5ナノメートルに相当する。抗GFP抗体を用いて免疫蛍光染色した枯草菌168株の芽胞の位相差顕微鏡像(中央)、蛍光顕微鏡像(右)及びそれらの重ね合わせ像(左)を示す。抗CgeA抗体を用いて免疫蛍光染色した枯草菌168株の芽胞の位相差顕微鏡像(中央)、蛍光顕微鏡像(右)及びそれらの重ね合わせ像(左)を示す。 以下、本発明を詳細に説明する。1.芽胞表層に存在するタンパク質の推定 本発明は、芽胞形成細菌においてタンパク質が芽胞表層に存在するか否かを推定する方法に関する。 本発明に係る方法において使用する芽胞形成細菌とは、細菌芽胞(spore)を形成する細菌であって、有芽胞菌とも呼ばれる細菌を指す。芽胞形成細菌としては、限定されるものではないが、バチルス属に属する細菌、例えば炭疽菌(Bacillus anthracis)、枯草菌(Bacillus subtilis)、セレウス菌(Bacillus cereus)、バチルス・チューリンゲンシス(Bacillus thuringiensis)、バチルス・ブレビス(Bacillus brevis)、バチルス・コアグランス(Bacillus coagulans)、バチルス・アミロリケファシエンス(Bacillus amyloliquefaciens)、バチルス・プミリス(Bacillus pumilis)、バチルス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)、バチルス・コアフイレンシス(Bacillus coahuilensis);クロストリジウム属に属する細菌、例えば破傷風菌(Clostridium tetani)、ボツリヌス菌(Clostridium botulinum)、ウェルシュ菌(Clostridium perfringens);スポロラクトバチルス属に属する細菌、例えばスポロラクトバチルス・イヌリナス(Sporolactobacillus inulinus;ゲオバチルス属に属する細菌、例えばゲオバチルス・ステアロサーモフィルス(Geobacillus stearothermophilus);サーモアネロバクター属に属する細菌、例えばサーモアネロバクター・マスラニイ(Thermoanaerobacter mathranii)、サーモアネロバクター・アセトエチリカス(Thermoanaerobacter acetoethylicus)、サーモアネロバクター・ブロキイsubsp.ブロキイ(Thermoanaerobacter brockii subsp. brockii)、サーモアネロバクター・ブロキイsubsp.フィンニ(Thermoanaerobacter brockii subsp. finni)、サーモアネロバクター・ブロキイsubsp.ラクチエチリカス(Thermoanaerobacter brockii subsp. lactiethylicus)、サーモアネロバクター・セルロリティカス(Thermoanaerobacter cellulolyticus)、サーモアネロバクター・エタノリカス(Thermoanaerobacter ethanolicus)、サーモアネロバクター・イタリカス(Thermoanaerobacter italicus)、サーモアネロバクター・キブイ(Thermoanaerobacter kivui)、サーモアネロバクター・シデロフィラス(Thermoanaerobacter siderophilus)、サーモアネロバクター・スルフロフィラス(Thermoanaerobacter sulfurophilus)、サーモアネロバクター・サーモコプリエ(Thermoanaerobacter thermocopriae)、サーモアネロバクター・サーモヒドロスルフリカス(Thermoanaerobacter thermohydrosulfuricus)、サーモアネロバクター・ウィエジェリイ(Thermoanaerobacter wiegelii);サーモアネロバクテリウム属に属する細菌、例えばサーモアネロバクテリウム・サーモサッカロリティカム(Thermoanaerobacterium thermosaccharolyticum)、サーモアネロバクテリウム・アシジトレランス(Thermoanaerobacterium aciditolerans)、サーモアネロバクテリウム・アオテアロエンス(Thermoanaerobacterium aotearoense)、サーモアネロバクテリウム・ポリサッカロリティカム(Thermoanaerobacterium polysaccharolyticum)、サーモアネロバクテリウム・サッカロリティカム(Thermoanaerobacterium saccharolyticum)、サーモアネロバクテリウム・サーモスルフリゲネス(Thermoanaerobacterium thermosulfurigenes)、サーモアネロバクテリウム・キシラノリティカム(Thermoanaerobacterium xylanolyticum)、サーモアネロバクテリウム・ゼアエ(Thermoanaerobacterium zeae);モーレラ属に属する細菌、例えばモーレラ・サーモアセティカ(Moorella thermoacetica)、モーレラ・グリセリニ(Moorella glycerini)、モーレラ・ムルデリ(Moorella mulderi)、モーレラ・サーモオートトロフィカ(Moorella thermoautotrophica);アリシクロバチルス属に属する細菌、例えばアリシクロバチルス・アシドテレストリス(Alicyclobacillus acidoterrestris);デスルフォトマキュラム属に属する細菌、例えばデスルフォトマキュラム・ニグリフィカンス(Desulfotomaculum nigrificans)、デスルファトマキュラム・サーモアセトキシダンス(Desulfotomaculum thermoacetoxidans)、デスルファトマキュラム・サーモベンゾイカムsubsp.サーモベンゾイカム(Desulfotomaculum thermobenzoicum subsp. thermobenzoicum)、デスルファトマキュラム・サーモベンゾイカムsubsp.サーモシントロフィカム(Desulfotomaculum thermobenzoicum subsp. thermosyntrophicum)、デスルファトマキュラム・サーモシステルナム(Desulfotomaculum thermocisternum)、デスルファトマキュラム・サーモサポボランス(Desulfotomaculum thermosapovorans)、デスルファトマキュラム・サーモサブテラネウム(Desulfotomaculum thermosubterraneum);リシニバチルス属に属する細菌、例えばリシニバチルス・スフェリカス(Lysinibacillus sphaericus)が挙げられる。なお、当業者には周知であるとおり、上記例示した細菌名及び分類は将来的に変更される可能性もある。 本発明においては、上述した芽胞形成細菌であれば、任意の種及び株のものを用いることができる。芽胞形成細菌の生活環の過程で芽胞構造や構成タンパク質が変化する可能性があることから、本方法に供される芽胞形成細菌は表層構造が完成した成熟芽胞(休眠芽胞)であることが好ましい。成熟芽胞(休眠芽胞)とは、芽胞形成細菌の母細胞内に存在するプレスポアやフォアスポアでなく、発芽芽胞でない状態の芽胞を指す。成熟芽胞は、発芽や人為的処理(酸、アルカリ、有機溶媒、界面活性剤などでの処理)により芽胞の構造が損なわれていないことが望ましい。 芽胞形成(好ましくは成熟芽胞形成)のための細菌培養方法は公知であり、特に限定されるものではない。例えば、細菌の培養に通常用いられる培地を使用して、適当な条件下で培養することにより調製することができる。具体的には、炭素源(ラクトース、グルコース、スクロース、フラクトース、ガラクトース、廃糖蜜など)、窒素源(ペプトン、カゼインの加水分解物、ホエータンパク質加水分解物、大豆タンパク質加水分解物等の有機窒素含有物)、無機塩類(リン酸塩、ナトリウム、カリウム、マグネシウムなど)を含有し、芽胞形成細菌の培養を効率的に行うことができる培地(天然培地又は合成培地、液体培地又は固体培地のいずれも使用可能)を選択することができる。また芽胞形成細菌の培養は、20℃〜70℃、好ましくは30℃から60℃において、好気条件下又は嫌気性条件下で行う。培養の形式は、静置培養、振とう培養、タンク培養などである。また、培養時間は12時間〜20日、好ましくは12時間〜10日とすることができる。培養開始時の培地のpHは5〜9、好ましくは6〜8に維持することが好ましい。当業者であれば、使用する芽胞形成細菌の種類に応じて、適当な培養条件を選択することができる。 細菌芽胞は、高い耐久性(耐熱性、耐圧性、耐薬品性)を有し、その構造の模式図を図1に示す。詳細な構造は細菌種によって異なるが、細菌芽胞は一般的には、内側から順に、コア、コルテックス、芽胞殻(スポアコート)で構成されている。芽胞殻はさらに内外2層に分けられ、2層それぞれが多層構造を持つことが示されている。さらに、セレウス菌や炭疽菌では、芽胞殻の外側に、芽胞を覆う薄膜の非定型の袋状構造体であるエクソスポリウムが存在する。 本発明においては、評価対象となる候補タンパク質が細菌芽胞の表層に存在するか否かを推定する。「表層」とは、芽胞周縁に形成されるタンパク質などから構成される層であり、芽胞が外界と接する領域である。芽胞表層の構造や構成因子の詳細は明らかにされていないが、水やイオン、アミノ酸、単糖などの低分子を透過させ、タンパク質などの高分子を透過させないと考えられる。また表層とは、例えば表層に存在するタンパク質に対する抗体を芽胞形成細菌と反応させた場合に、表層に存在するタンパク質が該抗体と結合することができるような層を意味する。 本発明の方法では、具体的には、(a)芽胞形成細菌の芽胞長を測定するステップと、(b)候補タンパク質が構成する殻の直径を測定するステップを行う。このステップ(a)及び(b)は、同時に行ってもよいし、又は前後して行ってもよく、その順序は特に限定されるものではない。好ましくは、ステップ(a)を先に行い、ステップ(b)を後に行う。 候補タンパク質1種類を評価するにあたり、測定に供する芽胞形成細菌の数は限定されないが、多いほど精度向上が期待できる。したがって、上記ステップに供する芽胞の数は、1以上、好ましくは2以上、例えば20〜100、好ましくは40〜60程度とする。 ステップ(a)における「芽胞長」とは、芽胞の直径を意味する。芽胞形成細菌の中には楕円形態のものも含まれ、そのため、直径を規定する直線はいずれの方向に設定してもよいが、両極を結ぶ点(すなわち芽胞の長軸方向の端から端まで)で、かつ芽胞の中心を通るよう設定することが好ましい。測定距離を長くとった方が、芽胞周縁と候補タンパク質が構成する殻の位置関係がよりはっきりと識別できるからである。また、複数の芽胞を測定する場合に、測定方向が常に一定となるために芽胞間の誤差が少なく精度が向上するためである。従って、「芽胞長」とは、好ましくは、芽胞周縁の長軸方向の末端を極と定義した場合、芽胞の中心を通り両極を結んだ直線の距離を指し、図2においてa-bで表される。 芽胞長は、上述のように芽胞の中心を通り両極を結んだ直線の距離を測定することができる任意の方法を利用して測定することができる。例えば、光学顕微鏡による観察によって芽胞長を測定することができる。好ましくは、位相差装置、対物レンズ、カメラアダプタレンズ、CCDカメラなどを装着した光学顕微鏡により観察を行い、位相差像を取得する。なお、位相差像に代えて、適当な染色を施した芽胞を用いて光学顕微鏡により得られる検鏡像、又は微分干渉顕微鏡による検鏡像も位相差像と同じ目的(芽胞周縁の特定)に用いることができる。 位相差顕微鏡により観察する場合、対物レンズは一般的に用いられる位相差顕微鏡用の100倍油浸レンズが使用できるが、正確なデータを得るためには光学性能の優れたものが望ましい。カメラアダプタレンズは、使用するCCDカメラの種類により限定される。CCDカメラは、白黒撮影用でもカラー撮影用でもよいが、より高感度で画素数の多いものが望ましい。芽胞の大きさは一般的に1〜数マイクロメートル程度であることから、対物レンズとカメラアダプタレンズの組合せによって、CCDカメラの1画素当たりに投影される被写体の面積が64.5nm(ナノメートル)以下になることが望ましい。 位相差像(ポジティブコントラスト)では、フォアスポアや母細胞から遊離した芽胞の本体は明部として観察され、栄養細胞やプレスポアは暗黒色に観察されるため、栄養細胞やプレスポアはフォアスポアや芽胞と識別できる。さらに、芽胞は輪郭が暗部として観察されるため暗部の観察されないフォアスポアと区別される。 位相差顕微鏡では、通常光を照射することにより位相差像が得られる。これを撮影し、画像データとして取り込み、画像解析ソフトを用いてその濃淡を計算することが好ましい。位相差像において、芽胞の輪郭の最も暗い部分を芽胞周縁とみなすことができる(例えば、図3のB)。従って、芽胞長は、芽胞の中心を通り両極を結んだ直線上の明度を光学顕微鏡を用いて評価した場合に観察像の明度の極小値間の距離、又は場合によっては極大値間の距離として得られる(例えば、図3のEにおけるa、b間の長さ)。 ステップ(b)における「タンパク質が構成する殻」(本明細書中、「タンパク質殻」ともいう)とは、芽胞における候補タンパク質が存在する位置又は領域を表すものとし、模式的に図2の内側の楕円として示される。「タンパク質が構成する殻の直径」とは、タンパク質殻の長軸方向の両端を、芽胞の中心を通って結んだ直線の距離を指し、図2においてc-dで表される。 存在位置を検討するタンパク質(候補タンパク質)は、従来の知見を考慮して選択する。例えば枯草菌であれば、芽胞殻タンパク質を検討対象とし、例えばセレウス菌であれば、エクソスポリウム構成タンパク質又は芽胞殻タンパク質を検討対象とする。なお、芽胞殻とエクソスポリウムに含まれるタンパク質が厳密に異なるのか、又は共通性があるのかは、現在のところ確認されていない。そのような芽胞殻タンパク質及びエクソスポリウム構成タンパク質としては、例えば非特許文献3〜7に記載されているものが挙げられる。 候補タンパク質が構成する殻(タンパク質殻)の直径は、上述のようにタンパク質殻の長軸方向の両端を、芽胞の中心を通って結んだ直線の距離を測定することができる方法を利用して測定することができる。例えば、芽胞における候補タンパク質を、芽胞の構造及び該タンパク質の位置を維持したまま標識し、その標識のシグナルに基づいて芽胞におけるタンパク質の位置を特定することによって、そのタンパク質殻の直径を測定することができる。そのような標識としては、候補タンパク質を特異的に標識することができ、芽胞内における候補タンパク質の位置を可視化することができるものが好ましい。例えば検出可能な標識シグナル(光シグナルなど)を生成する標識を使用することができ、例えば蛍光タンパク質(例:緑色蛍光タンパク質(GFP)、赤色蛍光タンパク質(RFP)、シアン蛍光タンパク質(CFP)、黄色蛍光タンパク質(YFP)など)、化学発光タンパク質などを用いることができる。標識は、候補タンパク質に直接的に結合してもよいし、又は標識と特異的に結合する物質を介して間接的に結合してもよい。本発明においては、芽胞を破壊せず構造を維持したまま、候補タンパク質を標識し、正確な局在部位を特定することができる点で、直接的な結合が好ましい。 候補タンパク質と標識との結合は、当技術分野で公知の方法により行うことができる。例えば、芽胞形成細菌において候補タンパク質を標識との融合タンパク質として発現させる手法を利用する。標識として蛍光タンパク質を用いる場合を例として以下に説明する。ただし、本発明においては、蛍光タンパク質の場合と同様に他の標識を使用することが可能である。 融合タンパク質として使用する蛍光タンパク質は、特に限定されるものではなく、蛍光タンパク質としてベクター系が供給されているGFP、RFP、CFP、YFPなどを使用することができる。芽胞形成細菌内で候補タンパク質と蛍光タンパク質との融合タンパク質を発現させるためには、蛍光タンパク質の遺伝子が芽胞形成細菌のコドン使用頻度に適合していることが好ましい。また、芽胞形成細菌内における生産性が確認されていることと、芽胞タンパク質研究に対する使用実績があることが望ましい。これらの観点から、芽胞形成細菌、例えばバチルス属細菌、特に枯草菌においては、RFP又はGFPを用いることが好ましく、GFPを用いることがさらに好ましい。 候補タンパク質と蛍光タンパク質との融合方法は限定されず、遺伝子組換え手法を用いた任意の方法を利用することができる。そのような方法は、例えばMolecular Cloning(Sambrookら編(1989) Cold Spring Harbor Lab. Press, New York)等の文献に記載されている。具体的には、蛍光タンパク質をコードするDNAを相同組換えにより芽胞形成細菌に導入し、候補タンパク質と蛍光タンパク質とを融合タンパク質として発現させる方法や、候補タンパク質をコードするDNAと蛍光タンパク質をコードするDNAとを融合させた状態で、相同組換えにより芽胞形成細菌に導入し、候補タンパク質と蛍光タンパク質とを融合タンパク質として発現させる方法を用いることができる。 候補タンパク質をコードするDNA及び蛍光タンパク質をコードするDNAの調製は、当技術分野で周知の任意の手法を採用することができる。例えば、候補タンパク質をコードするDNAを供与源(例えば芽胞形成細菌)から単離する場合には、グアニジンイソチオシアネート法により調製されたRNAからcDNAを合成する方法により調製することができる。また、PCRによりゲノムDNAを鋳型として増幅することにより調製することも可能である。蛍光タンパク質については、市販の又は公知のベクター系を利用することができる(例えば、pGFG7cプラスミドなど)。このようにして得た候補タンパク質をコードするDNA及び蛍光タンパク質をコードするDNAは、目的によりそのまま、又は所望により制限酵素で消化したり、リンカーを付加することにより使用することができる。 続いて、蛍光タンパク質をコードするDNAを、芽胞形成細菌ゲノムの候補タンパク質遺伝子と融合するように導入するか、あるいは蛍光タンパク質をコードするDNAを候補タンパク質をコードするDNAと融合し、融合物を芽胞形成細菌ゲノムの候補タンパク質遺伝子と置換する。そのようなDNAの導入は、当技術分野で公知のあらゆる手法を用いて行うことができる。例えば、組換えベクターを用いて目的のDNAを宿主(芽胞形成細菌)のゲノムに導入することができる。組換えベクターは、適当なベクターに目的のDNAを連結(挿入)することにより得ることができる。目的DNAを挿入するためのベクターは、宿主中のゲノムに組み込み可能なものであれば特に限定されず、例えば、プラスミドDNA、バクテリオファージDNA、レトロトランスポゾンDNAなどが挙げられる。 プラスミドDNAとしては、例えば大腸菌由来のプラスミド(pRFP3KPプラスミド、pUC系プラスミド、pBluescript、ColE系プラスミド、p15A系プラスミド等)、枯草菌由来のプラスミド(例えばpUB110、pTP5等)などが挙げられ、ファージDNAとしてはλファージ(Charon4A、Charon21A、EMBL3、EMBL4、λgt10、λgt11、λZAP)、φX174、M13系ファージベクターなどが挙げられる。レトロトランスポゾンとしては、Ty因子などが挙げられる。 ベクターに目的のDNAを挿入するには、まず、精製されたDNAを適当な制限酵素で切断し、適当なベクターDNAの制限酵素部位又はマルチクローニングサイトに挿入してベクターに連結する。目的のDNAは、導入されたDNAにより候補タンパク質と蛍光タンパク質との融合タンパク質が発現されるようにベクターに組み込まれることが必要である。そこで、組換えベクターには、目的のDNAのほか、必要に応じて相同配列などのエレメントを連結することができる。また、ベクターが細胞内に保持されていることを示す選択マーカーを連結してもよい。なお、選択マーカーとしては、例えばジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ遺伝子などが挙げられる。 以上のようにして宿主における目的DNAの発現に適合するように組換えベクターを作製することができる。この組換えベクターを用いて宿主(芽胞形成細菌)を形質転換することにより、該宿主において候補タンパク質と蛍光タンパク質との融合タンパク質を発現させることができる。 細菌への組換えベクターの導入方法としては、細菌にDNAを導入する方法であれば特に限定されるものではない。例えばカルシウムイオンを用いる方法、エレクトロポレーション法などが挙げられる。このように組換えベクターを導入した宿主は、目的DNAがそのゲノムに導入されている株について選択を行う。具体的には、上記の選択マーカーを指標にして形質転換株を選択する。 上述のようにして、形質転換された芽胞形成細菌においては、蛍光タンパク質との融合タンパク質として候補タンパク質が発現される。そのため、蛍光タンパク質の光シグナルを指標として、候補タンパク質が構成する殻を観察し、候補タンパク質の位置を特定することができる。 芽胞形成細菌における候補タンパク質が構成する殻の観察は、標識を検出することができる任意の方法又は手段により行うことができる。例えば標識として蛍光タンパク質、化学発光タンパク質などの光シグナルを生じる物質を使用した場合には、蛍光観察装置、対物レンズ、カメラアダプタレンズ、CCDカメラなどを装着した光学顕微鏡により行うことができる。対物レンズは一般的に用いられる100倍油浸レンズが使用できるが、正確なデータを得るためには光学性能の優れたものが望ましい。カメラアダプタレンズは、使用するCCDカメラの種類により限定される。CCDカメラは、白黒撮影用でもカラー撮影用でもよいが、より高感度で画素数の多いものが望ましい。芽胞の大きさは一般的に1〜数マイクロメートル程度であることから、対物レンズとカメラアダプタレンズの組合せによって、CCDカメラの1画素当たりに投影される被写体の面積が64.5nm(ナノメートル)以下になることが望ましい。 標識として蛍光タンパク質、化学発光タンパク質などの光シグナルを生じる物質を使用した場合には、励起波長及び測定する光波長(例えば蛍光波長)は、標識に応じて標準的なものを選択すればよく、蛍光観察に用いるキューブユニットの仕様は限定されない。 光シグナル(例えば蛍光)の計測に必要な露光時間は、撮影に用いる顕微鏡とCCDカメラの性能、画像処理のソウトウエアによって異なり、機器の性能に応じた適切な値を設定することができる。値の設定は手動調整のほか、ソフトによる自動計算で行うことができる。蛍光観察時の露光時間が長すぎると非特異的な蛍光の影響が強くなったり、蛍光の検出範囲が不明瞭になるため正確な位置決定ができない。また、露光時間は短すぎると蛍光強度が不十分となり目的タンパク質を検出できないなどの問題がある。 標識として光シグナルを生じる物質(好ましくは蛍光タンパク質)を使用した場合、得られる像(好ましくは蛍光像)では、標識は適切な波長の励起光を照射することにより、芽胞の輪郭に沿って楕円状に、ごくまれに両極又は単極に集中して光シグナル(好ましくは蛍光)を発する(例えば図3のC)。得られた観察像について、撮影を行い、画像データとして取り込み、画像解析ソフトを用いてそのシグナル強度を計算する。例えば標識として蛍光タンパク質を使用した場合、標識の蛍光強度(明度)は芽胞の長軸方向に対して両端が極大値として見出されるので(例えば図3のF)、2つの極大値間の距離がタンパク質殻直径となる。 本発明においては、上述のように得られる、芽胞長を測定するための位相差像と、候補タンパク質殻の直径を測定するための観察像(好ましくは蛍光像)とを重ね合わせて評価することが好ましい(例えば図3のA参照)。解析には標準的な画像解析ソフトを選択すればよく、重ね合わせの結果、画像ファイル間にずれが生じる場合は該ソフトに装備された自動補正機能を用いて修正するか、手動で補正する。画像ファイルの形式は任意であるが、Photoshop(登録商標)(Adobe(登録商標))などの汎用画像処理ソフトで取り扱える型式、すなわちTIFF、JPEG、PICTなどが望ましい。 画像データの重ね合わせ像において、芽胞長に重なる直線上の任意の点における明度(位相差像における明暗、標識の観察像におけるシグナル強度)を計算する。ここで、明度の測定開始位置を基準として、開始位置からの距離を横軸とすれば、明度はグラフとして一義的に表示できる(例えば図3のD〜F)。このグラフにおいて、標識のシグナル強度(明度)は芽胞の長軸方向に対して両端が極大値として見出されるので、2つの極大値間の距離を候補タンパク質が構成する殻の直径と定義する。また、芽胞周縁は芽胞の長軸方向に対して両極が極小値として見出される。極小値2点間の距離が芽胞長である。候補タンパク質が構成する殻の直径から芽胞長を差し引いた値の1/2を候補タンパク質の位置(タンパク質の芽胞周縁からの距離)と定義する。また、芽胞長を1とした場合のタンパク質が構成する殻の直径比を求め、1から該直径比を差し引き、2で除することにより、候補タンパク質の絶対的位置(芽胞周縁からの位置)を求めることができる(図2)。 なお、タンパク質の位置は、芽胞長とタンパク質殻直径に代えて、観察像におけるi)芽胞周縁とタンパク質外周の円周、ii)芽胞、タンパク質の表面積、iii)芽胞、タンパク質の体積、を測定・評価することによっても推定することができる。 また、上記の重ね合わせ像を目視することにより、あるいは、前述の座標と明度を表示したグラフからタンパク質殻の直径と芽胞長を目視で測定することにより、候補タンパク質が芽胞周縁の内外いずれにあるかを推定することができる。 光シグナル強度、及び、芽胞の位相差像の明暗を一定方向から連続的に測定するための機能、タンパク質殻直径と芽胞長を計測する機能、位相差像や複数の標識の画像(蛍光画像)を重ね合せた画像を作成する機能を持つソフトには、ImageJ、Image-Pro(登録商標)(Media Cybernetics)、MetaMorph(登録商標)(Molecular Devices)、RsImageなどがあり、本発明においてはソフトの種類は限定されない。 上述のように決定された候補タンパク質の位置(ピクセル)が−1〜+1である場合、好ましくはタンパク質の位置が0を超えている、又は複数の芽胞について測定した場合のタンパク質の位置の数値範囲が0を挟んで正負に分布している場合には、そのタンパク質は芽胞表層に存在すると推定することができる。また、芽胞長を1とした場合のタンパク質が構成する殻の直径比から求められる絶対的位置については、決定された候補タンパク質の絶対的位置が0.06以下である場合、好ましくはタンパク質の絶対的位置が0未満である、又は複数の芽胞について測定した場合のタンパク質の絶対的位置の数値範囲が0を挟んで分布している場合(好ましくは−0.03〜+0.03)には、そのタンパク質は芽胞表層に存在すると推定することができる。さらに、タンパク質殻直径が芽胞長より大きい場合にも、そのタンパク質が芽胞表層に存在することが推定される。例えば、芽胞長を1とした場合の候補タンパク質が構成する殻の直径比が0.88以上、好ましくは0.95〜1.05である場合には、その候補タンパク質は芽胞表層に存在すると推定することができる。 ここで、候補タンパク質殻直径が大きいほど、そのタンパク質は芽胞の中心部から離れた位置に存在することになるが、そもそも芽胞表面が単一のタンパク質で均一に覆われているのか、複数のタンパク質によりモザイク状に覆われているのか明らでないという問題がある。また、電子顕微鏡観察により示される芽胞の表面構造には凹凸があることから、芽胞表層にはいくつかの異なるタンパク質が露出している可能性がある。したがって、後述するような芽胞形成細菌の検出には、試薬がタンパク質と接触し得る程度に芽胞表層に露出していればよく、タンパク質が芽胞の最外層を覆うように位置することが必須条件ではない。また、エクソスポリウムのように、芽胞を袋状に包む膜に結合していてもよい。 芽胞表層に位置すると推定された複数のタンパク質の位置関係を評価する場合、タンパク質の絶対的位置をタンパク質間で比較し、その差が有意でない時、これらタンパク質はいずれも表層に存在すると判断することができる。差が有意な時、値の大きいタンパク質がより表層に位置すると推定される。この時、複数の芽胞について測定を行い、測定値群をタンパク質間で群間比較することが好ましい(例えば図4参照)。 なお、複数(N種類)のタンパク質の相対的な位置関係を評価する場合は、N種類の候補タンパク質それぞれを異なる標識(例えば蛍光波長の異なるN種類の蛍光タンパク質)で標識し、上記の手法にて重ね合わせ画像を作成し、画像を解析することにより、各候補タンパク質のタンパク質殻直径を測定する。この直径の大きいものほど外側に存在すると推測することができる。 さらに、上述のとおり芽胞表層に存在すると推定されたタンパク質について、該タンパク質又はその標識タンパク質と特異的に結合する抗体を用いた免疫染色法により、芽胞形成細菌の芽胞表層に存在することを検証してもよい。そのような免疫染色法に使用することができる抗体及びその反応手順は、当技術分野で公知のものを使用することができ、後述の「2.芽胞表層タンパク質の利用」の項で詳細に説明している。 本発明に係る方法により、芽胞形成細菌における芽胞表層に存在するタンパク質を簡便、効率的にかつ信頼性をもって決定することが可能となる。また、本発明の方法により、候補タンパク質が芽胞の表層に存在するか否かを推定するだけではなく、芽胞形成細菌のどの位置に存在するかを詳細に判定することができる。2.芽胞表層タンパク質の利用 上述のように本発明に従って芽胞表層に存在すると推定されたタンパク質(「芽胞表層タンパク質」ともいう)を利用して、芽胞形成細菌を検出、同定、除去又は精製することが可能である。具体的には、芽胞表層タンパク質と特異的に結合する物質と、芽胞形成細菌上の芽胞表層タンパク質との反応に基づいて、芽胞形成細菌を検出、同定、除去又は精製する。 例えば、本明細書の実施例3及び4に示されているように、CotZタンパク質及びCgeAタンパク質が枯草菌の芽胞表層に存在することが確認された。そのため、CotZタンパク質と特異的に結合する物質及び/又はCgeAタンパク質と特異的に結合する物質を利用することによって、枯草菌を検出、同定、除去又は精製することが可能である。なお、枯草菌のCgeAタンパク質をコードする遺伝子の塩基配列及びそのアミノ酸配列の一例をそれぞれ配列番号1及び2に、枯草菌のCotZタンパク質をコードする遺伝子の塩基配列及びそのアミノ酸配列の一例をそれぞれ配列番号3及び4に示す。また、CgeAタンパク質は、バチルス・アミロリケファシエンス(Bacillus amyloliquefaciens)(アクセッション番号YP_001421555)、バチルス・プミリス(Bacillus pumilis)(アクセッション番号YP_001487126)、枯草菌(B. subtilis)168(アクセッション番号AAB81150)などに存在することが知られており、CotZタンパク質は、バチルス・アミロリケファシエンス(Bacillus amyloliquefaciens)(アクセッション番号YP_001420770.1)、バチルス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)(YP_090868.1)、セレウス菌(B. cereus)(アクセッション番号YP_002529012.1)、B. プミリス(B. pumilis)(アクセッション番号YP_001486347.1)、リシニバチルス・スフェリカス(Lysinibacillus sphaericus)(アクセッション番号YP_001696970.1)、B. コアフイレンシス(B. coahuilensis)(アクセッション番号ZP_03226709.1)、B. チューリンゲンシス(B. thuringiensis)(アクセッション番号YP_035462.1)、枯草菌(B. subtilis)168(アクセッション番号NP_389056.1)、枯草菌(B. subtilis)subsp. Natto(アクセッション番号BAI84730.1)などに存在することが知られている。 芽胞表層タンパク質と特異的に結合する物質は、該タンパク質と特異的に結合することが知られている物質であれば特に限定されるものではない。例えば、抗体、核酸若しくはペプチドアプタマー、酵素などが挙げられる。好ましくは、芽胞表層タンパク質と特異的に結合する物質は、抗体又は抗体フラグメントである。 芽胞表層タンパク質と特異的に結合する抗体又は抗体フラグメントは、定法に従って調製することができる。抗原となるタンパク質又はペプチドは、芽胞から抽出したものや、化学合成したペプチド、又は遺伝子組み換え技術を利用した方法で生産したものなど、公知の方法により得られたものを使用できる。 化学合成の場合には、公知のペプチド合成手法に従って、例えば市販のペプチド合成機や市販のペプチド合成用キットを用いて、抗原ペプチドを合成することができる。 また、遺伝子組換え手法を用いる場合には、抗原ペプチドをコードする核酸は、芽胞形成細菌(芽胞菌又は発芽菌のいずれでもよい)より抽出したRNAから精製したmRNAを用いて、芽胞表層タンパク質をコードする遺伝子の配列に基づいて設計したプライマーを用いた逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)により、又は芽胞表層タンパク質をコードする遺伝子の配列に基づいて設計したプローブを用いたcDNAライブラリーからのスクリーニングにより得ることができる。あるいは、芽胞形成細菌より抽出したDNAを鋳型として、芽胞表層タンパク質をコードする遺伝子の配列に基づいて設計したプライマーを用いた核酸増幅反応(例えばPCRなど)を行うことにより、抗原ペプチドをコードする核酸を得ることができる。抗原ペプチドを組換え発現させるための発現ベクターは、上記核酸を適当なベクターに連結することにより得ることができる。また、上記核酸又は発現ベクターを、目的の抗原ペプチドが発現し得るように宿主細胞中に導入することにより、形質転換体を作製することができる。このような形質転換体の作製は当技術分野で周知であり、当業者であれば、使用するベクター、宿主細胞などを適宜選択して行うことができる。芽胞表層タンパク質の抗原ペプチドは、該抗原ペプチドをコードする核酸が導入された形質転換体を培養し、その培養物から採取することにより得ることができる。培養後、抗原ペプチドが細胞内又は菌体に生産される場合には、細胞又は菌体を破砕することによりペプチドを抽出する。また、抗原ペプチドが細胞外又は菌体外に生産される場合には、培養液をそのまま使用するか、遠心分離等により細胞又は菌体を除去する。 化学合成又は組換え手法により生成された抗原ペプチドは、タンパク質の単離精製に用いられる一般的な生化学的方法、例えば硫酸アンモニウム沈殿、ゲルクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー等を単独で又は適宜組み合わせて用いることにより、単離精製することができる。目的の抗原ペプチドが得られたか否かは、ポリアクリルアミドゲル電気泳動又は硫酸ドデシルナトリウム−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)等により確認することができる。 上述のように調製された抗原ペプチドを用いて、芽胞表層タンパク質に対する抗体を作製することができる。その場合、抗原性を高めるため、キャリアタンパク質(例えば、キーホールリンペットヘモシアニン(KLH)、ウシ血清アルブミン(BSA)、オボアルブミン(OVA)など)と結合させてもよい。これらのキャリアタンパク質は、当技術分野で公知であり、市販のキットも販売されている。また、このように調製された抗原ペプチドは、芽胞表層タンパク質に対する抗体を精製するためにも用いることができる。 免疫原は、上述のように得られた芽胞表層タンパク質の抗原ペプチド又はキャリアタンパク質と結合した抗原ペプチドを抗原としてバッファーに溶解して調製する。なお、必要であれば、免疫を効果的に行うためにアジュバント(フロイント完全アジュバント(FCA)、フロイント不完全アジュバント(FIA)等)を添加してもよい。 ポリクローナル抗体を作製する場合は、免疫原を、哺乳類、鳥類などの動物、例えばマウス、ウサギ、ラット、ヤギ、ニワトリ、アヒルなどに投与する。免疫は、主として静脈内、皮下、腹腔内、足蹠に注入することにより行われる。また、免疫の間隔は特に限定されず、数日から数週間間隔で、1〜5回の免疫を行う。その後、最終の免疫日から14〜90日後に、血清又は卵黄(鳥類の場合)を採取し、免疫アッセイ、例えば酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)、酵素免疫アッセイ(EIA)、放射性免疫アッセイ(RIA)等で抗体価を測定し、最大の抗体価を示した日に採取する。その後は、血清又は卵黄中に存在する芽胞表層タンパク質に対して特異的なポリクローナル抗体の反応性を上記の免疫アッセイなどで測定する。 例えば、CgeAタンパク質に対するウサギポリクローナル抗体(抗血清)の作製方法がKuwana, R. et al., Microbiol, 150(2):163-170, 2004年に記載されており、同じ手法を用いて任意の芽胞表層タンパク質に対する抗体を作製することができる。 抗血清を直接免疫学的測定方法に用いることもできるが、芽胞表層タンパク質又は抗原ペプチドを用いるアフィニティクロマトグラフィー、プロテインA又はプロテインGアフィニティクロマトグラフィーなどを行って、抗血清中の抗体を精製して使用することが好ましい。 モノクローナル抗体を作製する場合は、免疫原を、哺乳類、例えばマウス、ウサギ、ラットなどに投与する。免疫は、主として静脈内、皮下、腹腔内、足蹠に注入することにより行われる。また、免疫の間隔は特に限定されず、数日から数週間間隔で、1〜5回の免疫を行う。そして、最終の免疫日から14〜90日後に抗体産生細胞を採集する。抗体産生細胞としては、リンパ節細胞、脾臓細胞、末梢血細胞等が挙げられる。 ハイブリドーマを得るため、抗体産生細胞とミエローマ細胞との細胞融合を行う。抗体産生細胞と融合させるミエローマ細胞として、一般に入手可能な株化細胞を使用することができる。使用する細胞株としては、薬剤選択性を有し、未融合の状態ではHAT選択培地(ヒポキサンチン、アミノプテリン、チミジンを含む)で生存できず、抗体産生細胞と融合した状態でのみ生存できる性質を有するものが好ましい。ミエローマ細胞としては、例えばP3X63-Ag.8.U1(P3U1)、NS-Iなどのマウスミエローマ細胞株が挙げられる。ミエローマ細胞と抗体産生細胞との細胞融合は、血清を含まないDMEM、RPMI-1640培地などの動物細胞培養用培地中で、抗体産生細胞とミエローマ細胞とを混合し、細胞融合促進剤(例えばポリエチレングリコール等)の存在下で融合反応を行う。また、エレクトロポレーションを利用した市販の細胞融合装置を用いて細胞融合させることもできる。細胞融合処理後の細胞から目的とするハイブリドーマを選別する。例えば、細胞懸濁液をウシ胎児血清含有RPMI-1640培地などで適当に希釈後、マイクロタイタープレート上にまく。各ウエルに選択培地(例えばHAT培地)を加え、以後適当に選択培地を交換して細胞培養を行う。その結果、選択培地で培養開始後、10〜30日程度で生育してくる細胞をハイブリドーマとして得ることができる。 次に、増殖してきたハイブリドーマの培養上清を、芽胞表層タンパク質又は芽胞形成細菌の芽胞に反応する抗体が存在するか否かについてスクリーニングする。ハイブリドーマのスクリーニングは、通常の方法に従えばよく、例えば酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)、酵素免疫アッセイ(EIA)、又は放射性免疫アッセイ(RIA)等を採用することができる。融合細胞のクローニングは、限界希釈法等により行い、目的のモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを樹立する。 樹立したハイブリドーマからモノクローナル抗体を採取する方法として、通常の細胞培養法又は腹水形成法等を採用することができる。上記抗体の採取方法において抗体の精製が必要とされる場合は、硫安塩析法、イオン交換クロマトグラフィー、ゲル濾過、アフィニティークロマトグラフィーなどの公知の方法を適宜選択して、又はこれらを組み合わせることにより精製することができる。 本発明においては、同一菌種又は近縁種の芽胞形成細菌の芽胞を含めて感度よく検出することが望ましい場合は、ポリクローナル抗体を使用することが好ましく、特定の菌種又は菌株に限定的に反応する抗体を取得することが望ましい場合には、モノクローナル抗体を使用することが好ましい。 さらに、上述のようにして作製した芽胞表層タンパク質と特異的に結合する抗体分子から、一本鎖抗体(米国特許第4,946,778号)、F(ab’)2フラグメント、及びFabフラグメントなどを、当技術分野で公知の技術を利用して作製することができる。このような抗体誘導体及び抗体フラグメントも、目的とする活性、すなわち芽胞表層タンパク質との反応性を保持する限り、本発明において使用することが可能である。 上述の通り作製した芽胞表層タンパク質と特異的に結合する物質(好ましくは抗体)を用いて、芽胞形成細菌を検出し、同定し、除外し、又は精製することが可能である。この検出、同定、除外及び/又は精製は、芽胞表層タンパク質と特異的に結合する物質と、芽胞形成細菌の芽胞に存在する芽胞表層タンパク質との結合を検出することができる、当技術分野で公知の任意の方法により実施することができる。 本発明に係る方法においては、サンプルと、芽胞表層タンパク質と特異的に結合する物質とを接触させ、サンプル中の芽胞形成細菌に存在する芽胞形成タンパク質と、該物質との反応を検出することによって、サンプル中の芽胞形成細菌の存在を検出する又は被験細菌が芽胞形成細菌であると同定する。本発明において「検出」とは、芽胞形成細菌の存在の有無を検出することだけではなく、芽胞形成細菌を定量的に検出すること、芽胞形成細菌を免疫染色することも含む。 本発明において「接触」とは、サンプル中に存在する芽胞形成細菌の芽胞表層タンパク質と、該芽胞表層タンパク質と特異的に結合する物質とが結合できるように近接することができる状態にすることを意味し、例えば、液状サンプルと該物質を含有する溶液とを混合すること、液状サンプルを該物質を固定化した固相支持体にアプライすること、固形サンプルに対して該物質を含有する溶液を塗布すること、該物質を含有する溶液に固形サンプルを浸漬することなどの操作が含まれる。 なお、芽胞表層タンパク質と特異的に結合する物質は、1種を使用してもよいし、又は複数種を組み合わせて使用することも可能である。例えば、1種の芽胞表層タンパク質と特異的に結合する1種の物質又は複数種の物質を使用することができ、あるいは複数種の芽胞表層タンパク質と特異的に結合する複数種の物質を使用することができる。 芽胞形成細菌に存在する芽胞表層タンパク質と、該タンパク質と特異的に結合する物質との反応を検出するためのアッセイは、液相系及び固相系のいずれで行ってもよく、またアッセイの条件も当業者に公知である。 また本発明に係る方法においては、サンプルと、芽胞表層タンパク質と特異的に結合する物質とを接触させ、該物質と結合した芽胞表層タンパク質を有する芽胞形成細菌を分離することによって、サンプルから芽胞形成細菌を除去又は精製することができる。 以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。実施例1:蛍光融合タンパク質発現株の作製 芽胞殻タンパク質として知られるCotB、CotC、CotD、CotF、CotZ、GerQ、YaaH、YmaG、YsnD、YtxOをコードする遺伝子について、これらを挟むプライマーを用いて枯草菌168のゲノムDNAをPCR法で増幅させた。増幅産物をBamHI、XhoIで処理後、DNA連結酵素を用いてgfp遺伝子をもつpGFP7Cプラスミドと連結し、定法に従い、大腸菌(Escherichia coli)JM109に形質転換した。組換え大腸菌から目的プラスミドを抽出し、コンピテントセルを用いた相同組換えにより枯草菌168株の染色体DNAに導入した。形質転換体はクロラムフェニコール耐性によりセレクションした。 得られた遺伝子組換え枯草菌の芽胞を蛍光顕微鏡で観察したところ、芽胞の91%以上においてGFPに由来する蛍光が確認できた。実施例2:蛍光顕微鏡観察 蛍光顕微鏡はオリンパス社製、テレビカメラはRoper Scientific社製CoolSNAP ES/OL、対物レンズはAUPlanApo100×を用いた。位相差像と蛍光像の重ね合わせ画像はRSImagePro ver.4.5を用いて解析した。コントラストとバランスの調整にはDENEBA社製CANVAS8ソフトを用いた。 GFPの蛍光撮影のための曝露時間は0.5〜2秒であった。画像における1ピクセルは64.5nmに相当した。実施例3:芽胞殻タンパク質の位置決定 実施例1で作製したGFPとの融合タンパク質として芽胞殻タンパク質を発現する枯草菌168株について、芽胞を調製し、顕微鏡観察を行った。顕微鏡観察は、検討対象であるタンパク質それぞれについて、40個以上の芽胞を用いて行った。 結果を図3に示す。GFP融合タンパク質産生芽胞の位相差像(図3のB)と蛍光観察像(図3のC)の重ね合わせ像(図3のA)のX1からX2までの明度を、画像解析ソフトを用いて連続的に計測した。図3のD〜Fに示すグラフの横軸は長さを、縦軸は明度を示す。 位相差顕微鏡では、芽胞の周囲が暗い輪郭として観察された(図3のB)。横軸に芽胞中心を通り両極を結んだ直線上の位置、縦軸に位相差像の明るさ(明度)を示したグラフ(図3のE)では、aとbは位相差像の最暗部(ネガティブピーク)を示し、芽胞周縁がネガティブピーク(極小値)として認識された。このab間の距離は芽胞長を示す。また、非芽胞細胞や母細胞が視野背景より暗いのに対し、新生芽胞は明るいものとして観察された。 蛍光顕微鏡像では、タンパク質が構成する殻(タンパク質殻)の縁において強い蛍光が観察され特に両極で顕著であった(図3のC)。縦軸に蛍光像の蛍光強度(明度と表現)を示したグラフ(図3のF)では、cとdは蛍光標識タンパク質が発した蛍光の強さのピークを示し、タンパク質両極がピーク(極大値)として認識された。このcd間の距離はタンパク質殻直径を示す。 位相差像と蛍光像の重ね合わせ像(図3のA)からグラフを作成し、このグラフ(図3のD)から芽胞長とタンパク質殻直径を求め、これらの値からタンパク質位置(単位:ピクセル)を求めた。 種々の芽胞殻タンパク質の位置を表1及び図4に示す。表1では、実際に測定されたタンパク質の位置をピクセル及びnm(ナノメートル)単位で示す。また、芽胞長を1とした場合のタンパク質殻の直径比と、それに基づいて計算したタンパク質の絶対的位置も示す。図4では、上記式から算出された芽胞殻タンパク質の位置の平均(ピクセル単位)を、芽胞周縁を基準(0)として示した。すなわち、芽胞殻タンパク質の位置は[(d-c)-(b-a)]×1/2で表される。1ピクセルは64.5ナノメートルに相当する。 表1及び図4に示されるように、蛍光標識タンパク質の位置の平均値が「正」となった又は直径比が1より大きくなったものはCotZ-GFPのみであった。一方、目視により芽胞周縁上ないし外側に観察されたものはCotZ-GFP及びCgeA-GFPであった。タンパク質殻直径が大きかったのはCotZ-GFP、CgeA-GFPの順であった。 上記の絶対的位置の検討から、CotZ-GFP及びCgeA-GFPは、これまでの研究(非特許文献5及び6)で芽胞表層に存在すると報告されていたCotA、CotB及びCotCのGFP融合タンパク質よりも外側にあることが示唆された。 各タンパク質の位置を比較すると、図4のように、CotZ-GFP及びCgeA-GFPは今回測定したタンパク質の中で最外層に位置することがわかった。但し、これら距離の測定値は標準偏差を含んだものであったため、これら2種類のタンパク質の位置(測定値)について統計学的処理を行い、P値<0.01のとき有意な差があるとみなした。たとえば、P値がCotZ-GFPとCgeA-GFPでは0.055だが、CgeA-GFPとCotC-GFPでは7.8×10-12であった。以上より、CotZとCgeAの位置に有意な差はなく、いずれも芽胞殻の最外層に位置することが示唆された。従って、タンパク質の絶対的位置が0.06以下、好ましくは0.03以下である場合には、タンパク質が芽胞表層に存在すると推定可能であるといえる。 同様の解析により、YxeEは芽胞殻の外層と内層の中間に位置し、CotT、YmaG、YsnD、CotF、YaaH、CotD、GerQ及びYeeKは芽胞殻内層に存在することがわかった。実施例4:抗GFP抗体を用いた検証 実施例3の解析よりCotZ-GFP及びCgeA-GFPは芽胞殻(スポアコート)の最外層に位置していることが分かった。そこで、これらの最外層タンパク質が芽胞の表面に露出することの検証のため、抗GFP抗体を用いた蛍光顕微鏡観察を行った(図5)。すなわち、実施例1〜3の方法で調製した芽胞に対し、1次抗体としてウサギ由来の抗GFP抗体を、2次抗体としてヤギ由来の蛍光標識抗ウサギIgG抗体(Invitrogen社Alexa Fluor 594 goat anti-rabbit IgG(H+L))を用いて免疫染色を行った。染色された芽胞は顕微鏡観察に供された。位相差像(青)と蛍光標識抗GFP抗体の蛍光(赤)を撮影し、ソフトを用いて重ね合わせ像を作成した。結果を図5に示す。 図5に示されるように、枯草菌野生株はGFPをもっていないため、抗GFP抗体の結合は見られなかったが(蛍光像で芽胞が観察されなかった)、CotZ-GFP株及びCgeA-GFP株の芽胞では抗GFP抗体の結合が観察された(蛍光像で芽胞が確認された)。一方、CotA-GFPなどの他のGFP融合株に同じ操作を行っても、抗GFP抗体の結合が観察できなかった(蛍光像で芽胞が観察できなかった)。 これらの結果はCgeA-GFPとCotZ-GFPが芽胞の表面に露出していることを示しており、これらのタンパク質がスポアコートの最外層に位置しているという、実施例3の解析結果と一致する。実施例5:抗CgeA抗体を用いた検証 抗CgeA抗体を用いてCgeAが枯草菌野生株の芽胞の表面に露出することを検証した。すなわち、実施例1〜3の方法で調製した芽胞(枯草菌168株及びcgeA遺伝子破壊株の芽胞)に対し、1次抗体としてウサギ由来の抗CgeA抗体を、2次抗体としてヤギ由来の蛍光標識抗ウサギIgG抗体(Invitrogen社Alexa Fluor 594 goat anti-rabbit IgG(H+L))を用いて免疫染色を行った。染色された芽胞は顕微鏡観察に供された。なお、本実施例に用いた抗CgeA抗体は発明者が作製したものであり、作製方法はKuwana, R. et al., Microbiol, 150(2):163-170, 2004年にて開示されている。免疫染色後の位相差像(青)と蛍光標識抗CgeA抗体の蛍光(赤)を撮影し、ソフトを用いて重ね合わせ像を作成した。 この結果を図6に示す。野生株の芽胞では抗CgeA抗体の結合が観察された(蛍光像で芽胞が観察された)。この結合はCgeA破壊株では失われたため、抗CgeA抗体とCgeAの特異的な結合であることがわかる。以上の解析より、CgeAは枯草菌芽胞の表面に露出していることが明らかになった。 本発明は、芽胞形成細菌の芽胞表層に存在するタンパク質を効率的かつ確実に探索するための技術を提供する。本発明はまた、この技術を基礎とした芽胞検出法の開発と改良、芽胞の除去法、及び芽胞を用いた医薬品製造等の応用技術の開発に寄与する。従って、本発明により提供される芽胞形成細菌の検出法と除去法は、食品飲料や医薬品の製造分野における衛生管理や、細菌の基礎研究技術に有用である。また、芽胞表層タンパク質の同定は、細菌の応用技術分野における遺伝子組換えワクチン開発や遺伝子組換えバイオリアクターの開発や改良に貢献できる。 芽胞形成細菌において候補タンパク質が芽胞表層に存在するか否かを推定する方法であって、(a)芽胞形成細菌の芽胞長を測定するステップ、(b)候補タンパク質が構成する殻の直径を測定するステップ、(c)上記芽胞長の直径を1とした場合の候補タンパク質が構成する殻の直径比を求め、1から該直径比を引いて2で除した値を該候補タンパク質の絶対的位置とし、絶対的位置が0.06以下であるときに該候補タンパク質が芽胞表層に存在すると推定するステップを含む方法。 芽胞長が、芽胞の中心を通り両極を結んだ直線上の明度を光学顕微鏡を用いて評価した場合に観察像の明度の極小値間又は極大値間の距離として得られる、請求項1に記載の方法。 候補タンパク質が構成する殻の直径が、芽胞における形状と存在位置を保ったまま標識された該候補タンパク質について顕微鏡を用いて標識シグナルを評価した場合に、得られる像の標識シグナル極大値間の距離として得られる、請求項1又は2に記載の方法。 標識が蛍光タンパク質である、請求項3に記載の方法。 ステップ(c)において芽胞表層に存在すると推定された候補タンパク質について、免疫染色法により該候補タンパク質が芽胞表層に存在することを検証するステップをさらに含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。 芽胞形成細菌が、バチルス属に属する細菌、クロストリジウム属に属する細菌、スポロラクトバチルス属に属する細菌、ゲオバチルス属に属する細菌、サーモアネロバクター属に属する細菌、サーモアネロバクテリウム属に属する細菌、デスルフォトマキュラム属に属する細菌、モーレラ属に属する細菌、アリシクロバチルス属に属する細菌及びリシニバチルス属に属する細菌から選択される、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。 芽胞形成細菌がバチルス・ズブチリスである、請求項6に記載の方法。 サンプル中の芽胞形成細菌の検出方法であって、(a)サンプルと、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法により芽胞表層に存在すると推定されたタンパク質と特異的に結合する物質とを接触させるステップ、及び(b)サンプル中の芽胞形成細菌に存在する該タンパク質と該物質との反応を検出するステップを含む方法。 【課題】芽胞形成細菌における芽胞殻タンパク質の位置を決定する技術を確立し、芽胞表層に存在するタンパク質を探索するための方法及び手段を提供すること。【解決手段】芽胞形成細菌において候補タンパク質が芽胞表層に存在するか否かを推定する方法であって、(a)芽胞形成細菌の芽胞長を測定するステップ、(b)候補タンパク質が構成する殻の直径を測定するステップ、(c)上記芽胞長の直径を1とした場合の候補タンパク質が構成する殻の直径比を求め、1から該直径比を引いて2で除した値を該候補タンパク質の絶対的位置とし、絶対的位置が0.06以下であるときに該候補タンパク質が芽胞表層に存在すると推定するステップを含む方法。【選択図】図2配列表