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タイトル:公開特許公報(A)_ルテニウム錯体の製造方法
出願番号:2010077527
年次:2010
IPC分類:C07D 213/79,C07F 15/00,H01M 14/00


特許情報キャッシュ

ガオ リアン リ ヨンミン ウェンハイ ツァン 鈴木 祐輔 JP 2010241810 公開特許公報(A) 20101028 2010077527 20100330 ルテニウム錯体の製造方法 ソニー株式会社 000002185 中国科学院上海硅酸塩研究所 510087966 森 幸一 100120640 吉井 正明 100118290 山本 孝久 100094363 ガオ リアン リ ヨンミン ウェンハイ ツァン 鈴木 祐輔 CN 200910130344.3 20090401 C07D 213/79 20060101AFI20101001BHJP C07F 15/00 20060101ALN20101001BHJP H01M 14/00 20060101ALN20101001BHJP JPC07D213/79C07F15/00 AH01M14/00 P 9 1 OL 29 4C055 4H050 5H032 4C055AA01 4C055BA02 4C055BA30 4C055BB19 4C055CA01 4C055DA57 4C055EA01 4H050AA01 4H050AA02 4H050BB20 4H050BC10 4H050BC31 4H050WB14 4H050WB21 5H032AA06 5H032AS16 5H032BB02 5H032BB07 5H032EE16 5H032EE17 5H032HH06 本発明は、色素増感型太陽電池に好適に使用することができるルテニウム錯体の製造方法に関し、特に、シス−ジ(イソチオシアナト)−ビス(2,2’−ビピリジル−4,4’−ジカルボン酸)ルテニウム(II)錯体を、短時間、高純度、高収率で合成することができる製造方法に関するものである。 化石燃料に代わるエネルギー源として、太陽光を利用する太陽電池が注目され、種々の研究が行われている。太陽電池は、光エネルギーを電気エネルギーに変換する光電変換装置の1種であり、太陽光をエネルギー源としているため、地球環境に対する影響が極めて小さく、より一層の普及が期待されている。 色素によって増感された光誘起電子移動を応用した色素増感型太陽電池(以下、DSSC(Dye-Sensitized Solar Cell)と略記することがある。)は、近年、シリコン(Si)系太陽電池等に替わる次世代の太陽電池として注目され、広く研究が行われている。増感色素として、可視光近辺の光を効果的に吸収できる物質、例えばルテニウム(Ru)錯体等が用いられる。 色素増感型太陽電池は、高い光電変換効率を有し、真空装置等の大掛かりな製造装置を必要とせず、酸化チタン等の安価な半導体材料を用いて、簡易に生産性よく製造できるため、新世代の太陽電池として期待されている。 2,2’−ビピリジル−4,4’−ジカルボン酸(4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジンとも呼ばれ、以下、「dcbpy」又は「L」と略記することがある。)配位子を含むルテニウム(II)錯体によるナノ結晶チタニアの増感は、現在、多数の研究所において強力に研究されている。 増感色素を担持させたメソ多孔質チタニアフイルムは、10%から11%の間の光電変換効率を保障する新しい太陽電池のキーコンポーネントである。更に、ルテニウム錯体が増感剤として使用された時、太陽電池は優れた安定性を示し、実用的な応用を可能なものにする。 これまで、色素増感型太陽電池のための増感色素の例として、シス−ジ(イソチオシアナト)−ビス(2,2’−ビピリジル−4,4’−ジカルボン酸)ルテニウム(II)錯体(以下、「Ru(dcbpy)2(NCS)2」又は「RuL2(NCS)2」と略記することがある。)、シス−ジ(イソチオシアナト)−ビス(2,2’−ビピリジル−4,4’−ジカルボン酸)ルテニウム(II)ビス−テトラブチルアンモニウム錯体はそれぞれ、N3、N719の通称で広く知られている。それらの高い価格は、色素増感型太陽電池への適用を制限している。 ルテニウム錯体色素の合成に関する多くの報告がなされており、例えば、次の報告がある。 先ず、後記の非特許文献1には、Ar中で、RuCl3・3H2Oと配位子(dcbpy、2,2’−ビピリジン−4,4’−ジカルボン酸)をDMF(ジメチルホルムアミド)中で8時間還流させる工程を有する、シス−Ru(II)(dcbpy)2Cl2の合成方法が記載されている。 また、後記の非特許文献2、特許文献1には、光を遮蔽した下でRu(II)(dcbpy)2Cl2をDMFに溶解した溶液に、NaNCSの水溶液を加え、次いで、撹拌しながら窒素雰囲気中で反応混合物を加熱して6時間還流させる工程を有する、Ru(dcbpy)2(NCS)2の合成方法が記載されている。 また、後記の非特許文献3には、Ru(II)(dcbpy)2Cl2、Ru(dcbpy)2(NCS)2の合成方法が記載されており、次の記載がある。 Ru(II)(dcbpy)2Cl2の合成は、Ar中でRuCl3(H2O)3をDMF中に溶解し撹拌した後、DMFを更に加えた溶液に、配位子である2,2’−ビピリジン−4,4’−ジカルボン酸を加えて、170℃−180℃で、暗所、Ar雰囲気中で3時間還流させる工程を有しているとしている。 Ru(dcbpy)2(NCS)2の合成は、三つ首フラスコ中のKNCSの水溶液にDMFを加え、次に、暗所で、Ru(II)(dcbpy)2Cl2を加え、5時間還流させる工程を有しているとしている。 また、「ルテニウム錯体の製造方法」と題する後記の特許文献2には、次の記載がある。 (1)3価に純化した塩化ルテニウム(RuCl3・3H2O)と配位子(L;2,2'−ビピリジン−4,4'−ジカルボン酸)を有機溶媒中で加熱反応してRuL2Cl2・2H2Oを生成させ、次いで、得られた反応生成物を有機溶媒に溶解し、該溶解物をチオシアン酸ナトリウムと加熱反応させ、得られた[RuL2(SCN)2]・2H2Oを、ヒドロキシプロピル基含有架橋デキストランを充填剤として用いるカラム精製法により精製することを特徴とする、一般式、[RuL2(SCN)2]・2H2O(Lは、2,2'−ビピリジン−4,4'−ジカルボン酸である)で表わされるルテニウム錯体の製造方法であるとしている。 また、好ましい実施態様は、(2)加熱反応を温度110〜150℃で行うことを特徴とする(1)のルテニウム錯体の製造方法、(3)加熱反応を不活性ガスの存在下、遮光して行うことを特徴とする(1)のルテニウム錯体の製造方法であるとしている。 また、「ルテニウム錯体の製造方法」と題する後記の特許文献3には、次の記載がある。 (1)3価に純化した塩化ルテニウム(RuCl3・3H2O)と配位子(L;2,2’−ビピリジン−4,4’−ジカルボン酸)を有機溶媒中で加熱反応してRuL2Cl2・2H2Oを生成させ、次いで、得られた反応生成物を有機溶媒に溶解し、該溶解物をチオシアン酸ナトリウムと加熱反応させ、得られた[RuL2(SCN)2]・2H2Oを、アルコール性水酸基を有する不溶性架橋高分子からなるゲル濾過担体により精製することを特徴とする、一般式、[RuL2(SCN)2]・2H2O(Lは、2,2’−ビピリジン−4,4’−ジカルボン酸である)で表わされるルテニウム錯体の製造方法であるとしている。 また、好ましい実施態様は、(2)アルコール性水酸基を有する不溶性架橋高分子からなるゲル濾過担体が親水性ポリ(メタ)アクリル酸エステル又はポリビニルアルコールを主体とする半硬質ゲル及び架橋アガロースゲルである(1)のルテニウム錯体の製造方法、(3)加熱反応を温度110〜150℃で行うことを特徴とする(1)のルテニウム錯体の製造方法、(4)加熱反応を不活性ガスの存在下、遮光して行うことを特徴とする(1)のルテニウム錯体の製造方法であるとしている。米国特許第5463057号明細書(EXAMPLE 1, EXAMPLE 2)特開平11−279188号公報(段落0004〜0005)特開2001−139587号公報(段落0004〜0005)P. Liska et al, “ cis-Diaquabis(2,2'-bipyridyl-4,4'-dicarboxylate)-ruthenium(II) Sensitizes Wide Band Gap Oxide Semiconductors Very Effciently over a Broad Spectral Range in the Visible ”, J. Am. Chem. Soc. 1988, 110, 3686 - 3687(p3686)M. K. Nazeeruddin et al, “ Conversion of Light to Electricity by cis-X2Bis(2,2’-bipyridyl-4,4’-dicarboxylate) ruthenium(II) Charge-Transfer Sensitizers (X=Cl-, Br-, I-, CN-, and SCN-) on Nanocrystalline TiO2 Electrodes ”, J. Am. Chem. Soc. 1993, 115, 6382 ≡ 6390(p6383 : Materials)Md. K. Nazeeruddin et al, “ Acid-Base Equilibria of (2,2'-bipyridyl-4,4'-dicarboxylic acid)ruthenium(II) Complexes and the Effect of Protonation on Charge-Transfer Sensitization of Nanocrystalline Titania ”, Inorg. Chem. 1999, 38, 6298 - 6305(p6299 : Synthesis of complexs 1, and 2, p6303 : HPLC of complex 2) 上述の特許文献1、2、3、非特許文献2、3に記載の技術では、(シス−ジクロロ−ビス(2,2'−ビピリジル−4,4'−ジカルボン酸)ルテニウム(II)錯体(以下、「Ru(dcbpy)2Cl2」又は「RuL2Cl2」と略記することがある。)を合成する第1ステップの終了後、生成したRu(dcbpy)2Cl2不純物を単離し、再結晶処理で精製するステップを行っている。そして精製されたRu(dcbpy)2Cl2を使用して、シス−ジ(イソチオシアナト)−ビス(2,2’−ビピリジル−4,4’−ジカルボン酸)ルテニウム(II)錯体(Ru(dcbpy)2(NCS)2)を合成している。 特許文献1、2、3、非特許文献2、3に記載の技術では、中間生成物であるRu(dcbpy)2Cl2を単離、精製を行っているため、最終生成物を得るまでに長時間を必要とし、また、中間生成物の単離、精製を行うことによる、収率の低下が生じてしまう。従って、目的とするRu(dcbpy)2(NCS)2)の収率が低下してしまう。 Ru(dcbpy)2(NCS)2の合成に必要な、RuCl3・3H2Oやdcbpy等の原材料は高コストであり、合成工程で生じる廃液は、取り扱いが困難で環境を汚染する多量の重金属を含んでいる。目的とするRu(dcbpy)2(NCS)2)の収率が低いと、所望の量のRu(dcbpy)2(NCS)2を得るために、原材料の使用量を増大させる必要があり、この結果、合成工程で生じる廃液の処理量も増大してしまう。このためコストの増加を招き、Ru(dcbpy)2(NCS)2を使用するDSSCの低価格化を困難なものとしてしまう。 なお、特許文献1、2、3、非特許文献2、3には、Ru(dcbpy)2Cl2を単離、精製することなしに、目的とするRu(dcbpy)2(NCS)2を合成する技術については言及されていない。 以下、本発明の説明において、「合成された目的分子を含む物質」は「合成反応の終了後に回収された固相(目的分子以外の異性体等の副生成物を含む。)」を意味し、最終生成物は「HPLCで精製された、純度が99%以上の生成物」を意味する。 また、「粗収率」は「(粗生成物の量/理論的な生成物の量)×100(%)」。「真収率」は「(合成された純粋な目的分子の量/理論的な生成物の量)×100(%)」を意味する。「理論的な生成物の量」は「化学量的に生成されるべき目的分子の量」を意味する。更に、「純度」は「(合成された純粋な目的分子の量/合成された目的分子を含む物質の量)×100(%)」を意味する。「純度」は、例えば、後述するように、HPLCによって求めることができる。なお、単に「収率」と示される場合は「真収率」を意味するものとする。 本発明は、上述したような課題を解決するためになされたものであって、その目的は、シス−ジ(イソチオシアナト)−ビス(2,2’−ビピリジル−,4’−ジカルボン酸)ルテニウム(II)錯体(Ru(dcbpy)2(NCS)2)を、短時間、高収率、高純度で合成することができる製造方法を提供することにある。 即ち、本発明は、三塩化ルテニウム(III)と2,2’−ビピリジル−4,4’−ジカルボン酸(dcbpy)を、極性有機溶媒を含む反応容器中で加熱反応させて、シス−ジクロロ−ビス(2,2'−ビピリジル−4,4'−ジカルボン酸)ルテニウム(II)錯体(Ru(dcbpy)2Cl2)を生成させる第1工程と、この第1工程の反応後、生成された前記シス−ジクロロ−ビス(2,2'−ビピリジル−4,4'−ジカルボン酸)ルテニウム(II)錯体を含む前記反応容器中の溶液に、イソチオシアン酸塩を添加して、前記シス−ジクロロ−ビス(2,2'−ビピリジル−4,4'−ジカルボン酸)ルテニウム(II)錯体と前記イソチオシアン酸塩を加熱反応させてシス−ジ(イソチオシアナト)−ビス(2,2'−ビピリジル−4,4'−ジカルボン酸)ルテニウム(II)錯体(Ru(dcbpy)2(NCS)2)を生成させる第2工程とを有する、ルテニウム錯体の製造方法に係わるものである。 本発明によれば、(シス−ジクロロ−ビス(2,2'−ビピリジル−4,4'−ジカルボン酸)ルテニウム(II)錯体(Ru(dcbpy)2Cl2)の合成(第1ステップ)、及び、シス−ジ(イソチオシアナト)−ビス(2,2’−ビピリジル−4,4’−ジカルボン酸)ルテニウム(II)錯体(Ru(dcbpy)2(NCS)2)の合成(第2ステップ)を、第1ステップの合成反応後、Ru(dcbpy)2Cl2の単離、精製を実行することなしに、同一の反応容器内で行うので、Ru(dcbpy)2Cl2の単離、精製によって生じる、収率の低下を防止し、最終生成物を得るまでの時間を短縮することができる。 また、第1及び第2ステップの各反応に対して、反応温度等の反応条件を最適化することによって異性体等の副生成物の生成量を減少させることができるので、目的とするRu(dcbpy)2(NCS)2)を高純度、高収率、低コストで得ることができる。本発明の実施の形態において、ワンポット法と従来法による合成法の比較について説明する図である。同上、ワンポット法による合成法について説明する図である。同上、ワンポット法による合成工程について説明する図である。同上、合成された増感色素(Ru(dcbpy)2(NCS)2)が適用される色素増感型電池の構成を説明する模式断面図である。本発明の実施例において、第1反応ステップにおける反応条件の最適化において使用した原材料を説明する図である。同上、第1反応ステップの反応温度の最適化について試験結果を説明する図である。同上、第1反応ステップの反応温度と生成物N3−1からN3−8の粗生成物の収率、純度との関係を説明する図である。同上、第1反応ステップの反応温度と粗生成物N3−1からN3−4のHPLCクロマトグラムについて説明する図である。同上、第1反応ステップの反応温度と粗生成物N3−5からN3−8のHPLCクロマトグラムについて説明する図である。同上、第1反応ステップの反応温度と不純物の生成について説明する図である。同上、第2反応ステップにおける反応条件の最適化において使用した原材料を説明する図である。本発明の実施例において、第2反応ステップの反応の溶媒比率と反応温度の最適化について説明する図である。同上、第2反応ステップの反応系におけるDMFの量と反応温度と3配位異性体の量との関係について説明する図である。同上、第2反応ステップの反応温度と3配位錯体の生成量の関係について説明する図である。同上、第2反応ステップの反応温度と粗生成物N3−9からN3−12のHPLCクロマトグラムについて説明する図である。同上、NH4NCSの量の最適化における原材料を説明する図である。同上、第2反応ステップにおけるNH4NCSの量の最適化について試験結果を説明する図である。同上、第2反応ステップにおける粗生成物N3−13からN3−15の収率、純度とNH4NCS量との関係について説明する図である。同上、NH4NCSの量と粗生成物N3−13からN3−15のHPLCクロマトグラムについて説明する図である。同上、ワンポット法による最終生成物N3−4、N3−15の吸収スペクトルについて説明する図である。本発明の比較例において、従来法における第1、第2ステップの反応について説明する図である。同上、従来法における第1、第2ステップの反応において使用した原材料について説明する図である。同上、従来法による粗生成物のHPLCクロマトグラムについて説明する図である。 本発明のルテニウム錯体の製造方法では、前記第1工程の反応後、前記反応容器中の溶液の温度を室温まで冷却する構成とするのがよい。このような構成によれば、異性体等の副生成物の生成量を減少させ、目的とするRu(dcbpy)2(NCS)2を高純度で得ることができる。 また、前記第1工程における加熱反応を温度105℃以上、120℃以下で行い、前記第2工程における加熱反応を、温度105℃以上、160℃以下で行う構成とするのがよい。このような構成によれば、温度105℃以上、120℃以下で行う前記第1工程における未反応の前記2,2’−ビピリジル−4,4’−ジカルボン酸は、温度105℃以上、160℃以下で行う前記第2ステップにおいて、前記三塩化ルテニウム(III)と反応して、前記シス−ジクロロ−ビス(2,2'−ビピリジル−4,4'−ジカルボン酸)ルテニウム(II)錯体を生成し、この錯体が前記イソチオシアン酸塩と反応して、前記シス−ジ(イソチオシアナト)−ビス(2,2'−ビピリジル−4,4'−ジカルボン酸)ルテニウム(II)錯体(Ru(dcbpy)2(NCS)2)を生成するので、異性体等の副生成物の生成量を減少させ、高純度で得ることができる。 また、沸点が温度105℃以上、160℃以下となるように前記極性有機溶媒と水を混合した混合液中で前記第2工程における加熱反応を行う構成とするのがよい。このような構成によれば、前記第2工程における加熱反応の温度を、前記極性有機溶媒と水の混合比によって制御することができ、異性体等の副生成物の生成量を減少させ、目的とするRu(dcbpy)2(NCS)2を高純度で得ることができる。例えば、前記極性有機溶媒は、沸点152℃を有するDMF(dimethyl formamide)である。 また、前記極性有機溶媒としてジメチルホルムアミドを使用する構成とするのがよい。このような構成によれば、汎用的な有機溶媒を使用して、目的とするRu(dcbpy)2(NCS)2を得ることができる。 また、前記第2工程の反応後、前記反応容器中の溶液から、精製処理によって、シス−ジ(イソチオシアナト)−ビス(2,2'−ビピリジル−4,4'−ジカルボン酸)ルテニウム(II)錯体を得る第3工程を有する構成とするのがよい。このような構成によれば、目的とするRu(dcbpy)2(NCS)2を高純度で得ることができる。 また、前記精製処理をクロマトグラフィーによって行う構成とするのがよい。このような構成によれば、短時間で単離、精製された純度の高いRu(dcbpy)2(NCS)2を得ることができる。 また、前記イソチオシアン酸塩を前記2,2’−ビピリジル−4,4’−ジカルボン酸(dcbpy)に対する化学量論比の8倍以上添加する構成とするのがよい。このような構成によれば、前記2,2’−ビピリジル−4,4’−ジカルボン酸(dcbpy)に対する化学量論比の理論値の8倍以上添加するので、異性体等の副生成物の生成量を減少させ、目的とするRu(dcbpy)2(NCS)2を高純度で得ることができる。 また、前記イソチオシアン酸塩が、イソチオシアン酸アンモニウム、イソチオシアン酸ナトリウム、イソチオシアン酸カリウムの何れかである構成とするのがよい。このような構成によれば、イソチオシアン酸塩を特定のものに限定する必要がない。 本発明のルテニウム錯体の製造方法は、中間生成物であるRu(dcbpy)2Cl2を合成する第1ステップと、Ru(dcbpy)2(NCS)2を合成する第2ステップからなり、Ru(dcbpy)2Cl2の合成後、Ru(dcbpy)2Cl2を単離、精製する処理を行うことなく、第1及び第2ステップを同一の反応容器内で行うワンポット合成(One-pot synthesis)(以下、ワンポット法ということがある。)による製造方法である。 このワンポット法では、中間生成物であるRu(dcbpy)2Cl2の単離、精製をしないので、簡略な操作処理によってRu(dcbpy)2(NCS)2を合成することができ、合成の中間生成物の単離、精製に伴う複雑な長時間を必要とする操作処理が不要であり、中間生成物の単離、精製に伴う収率の低下が生じない。ワンポット法における第1及び第2ステップの各合成反応に対して、反応温度、反応混合物の組成比等の反応条件を最適化することによって、全体の合成時間を短縮化することができる。 第1ステップの反応温度を105℃以上、120℃以下、より好ましくは、105℃以上、116℃以下とすることによって、中間生成物であるRu(dcbpy)2Cl2の合成を十分に進行させて、第1ステップの反応温度を170℃〜180℃とする場合に比べて、目的分子であるRu(dcbpy)2(NCS)2の純度を約2倍以上に向上させることができる。第1ステップの反応温度が120℃を超えると、目的分子以外の副生成物が析出物として顕著に生成されるので、より好ましくは、第1ステップの反応温度を、この副生成物が析出し始める温度116℃を越えない温度とする。 また、第2ステップの反応温度を150℃〜160℃とし、第2ステップの反応に添加されるNH4NCSの量をdcbpyに対する化学量論比の理論値の8倍過剰として、目的分子以外の異性体等の副生成物の生成を抑制させて、dcbpyと同じモル数のH4NCSを添加する場合に比べて、目的分子であるRu(dcbpy)2(NCS)2の粗生成物(crude product)の純度を約2倍に向上させることができる。 目的とするRu(dcbpy)2(NCS)2の合成過程では反応副生成物が形成されるが、ワンポット法では、ワンポット法における第1及び第2ステップの各合成反応の反応条件を最適化することによって、異性体の生成量を減少させることができ、目的とするRu(dcbpy)2(NCS)2を高収率、高純度、低コストで得ることができる。 以下、図面を参照しながら本発明による実施の形態について詳細に説明する。 <実施の形態> 以下の図面を含む説明において、「dcbpy」又は「L」は、2,2’−ビピリジル−4,4’−ジカルボン酸(2,2'-bipyridyl-4,4'-dicarboxylic acid)、又は、4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジン(4,4'-dicarboxyl-2,2'-bipyridine)とも呼ばれる配位子を示す。 先ず、本発明の実施の形態におけるワンポット法の概要と、このワンポット法と従来法による合成法の比較について説明する。 [ワンポット法によるRu(dcbpy)2(NCS)2の合成と従来法による合成法の比較] 図1は、本発明の実施の形態において、ワンポット法と従来法による合成法の比較について説明する図であり、図1(A)はワンポット法、図1(B)は従来法について説明する図であり、図1(C)は反応に係わる化合物の構造を示す図である。 図2は、本発明の実施の形態において、同一反応容器内で実行されるワンポット法による合成法について説明する図である。 図1(A)、図2に示すように、ワンポット法は、同一の反応容器内で実行される第1ステップと第2ステップからなる。第1及び第2ステップの全体の反応に係る化学量論比は、RuCl3:dcbpy;Ru(dcbpy)2Cl2:NH4NCS:Ru(dcbpy)2(NCS)2=1:2:1:2:1である。 第1ステップでは、Ru(dcbpy)2(NCS)2 は、dcbpyとRuCl3(三塩化ルテニウム、Ruthenium(III) trichloride)をDMF(溶媒)(dimethyl formamide)中に溶解させ、暗条件下、不活性ガス(希ガス又は窒素(N2))雰囲気下で溶媒を還流させて所定の温度、例えば、105℃以上、120℃以下で、少なくとも6時間、反応させ、Ru(dcbpy)2Cl2(cis-dichloro-bis(2,2'-bipyridyl-4,4'-dicarboxylic acid)ruthenium(II)complex)の合成反応が実行される。 第2テップでは、第1ステップが実行された同じ反応容器内に、Ru(dcbpy)2Cl2 とNH4NCS(イソチオシアン酸アンモニウム、ammonium isothiocyanate)をDMF水溶液(DMFと水の混合溶媒)中に溶解させ、暗条件下、不活性ガス(希ガス又は窒素(N2))雰囲気下で溶媒を還流させて所定の温度、例えば、105℃以上、160℃以下で、少なくとも4時間、反応させ、Ru(dcbpy)2(NCS)2(cis-di(isothiocyanato)-bis(2,2'-bipyridyl-4,4'-dicarboxylic acid)ruthenium(II)complex)の合成反応が実行される。なお、この所定の温度は、DMF水溶液(DMFと水の混合溶媒)中のDMFの含有比(体積比)によって制御される。 図1(A)に示す1つの太い線で囲まれる反応は、単一の反応容器内で実行される。ワンポット法では、第1ステップで生成されたRu(dcbpy)2Cl2の単離、精製を実行することなく、第2ステップが実行され、最終的に生成されたRu(dcbpy)2(NCS)2が回収され、単離、精製される。 図1(B)に示すように、従来法による合成法では、図1(A)に示すワンポット法における第1及び第2ステップと同様の合成反応を実行するが、第1ステップで生成されたRu(dcbpy)2Cl2の単離、精製を実行した後に、第2ステップが実行され、最終的に生成されたRu(dcbpy)2(NCS)2が回収され、単離、精製される。 図1(B)に示す太い線で示すように、従来法による合成法では、第1ステップ及び第2ステップにおける各合成反応は、別の反応容器内で実行される。従来法による合成法では、Ru(dcbpy)2Cl2の単離、精製を実行するために生じる収率の低下を招いてしまうという欠点がある。 図1(A)、図2に示すワンポット法では、第1ステップの合成反応は温度105℃以上、120℃以下の加熱反応、第2ステップの合成反応は温度105℃以上、160℃以下の加熱反応で行うのが好ましい。また、最終的に生成されたRu(dcbpy)2(NCS)2の単離、精製処理は、クロマトグラフィーによって行うのが好ましい。また、第1及び第2ステップの合成反応で使用する有機溶媒として、DMFを使用することができる。 更に、第2ステップの合成反応で使用するイソチオシアン酸塩として、NH4NCSの他に、イソチオシアン酸ナトリウム(NaCNS,sodium isothiocyanate)、イソチオシアン酸カリウム(KCNS,potassium isothiocyanate)を使用することもでき、イソチオシアン酸塩をdcbpyに対する化学量論比の理論値の8倍以上添加するのが好ましい。 図3は、本発明の実施の形態において、ワンポット法による合成工程についてより詳細に説明する図である。 [第1ステップ(Ru(dcbpy)2Cl2の合成)] 図3(1)に示すように、ワンポット法における第1ステップでは、冷却器を備えた三つ首フラスコにDMF(溶媒)、及び、RuCl3・3H2Oを入れて、RuCl3・3H2Oを溶解させ(工程(1−1))、dcbpyを添加する(工程(1−2))。次いで、暗条件下、不活性ガス雰囲気下で溶媒を還流させて所定の温度、例えば、105℃以上、120℃以下で、所定の時間、例えば、8時間、反応させ、Ru(dcbpy)2Cl2を生成させ(工程(1−3))、冷却する(工程(1−4))。 [第2ステップ(Ru(dcbpy)2(NCS)2の合成)] 図3(2)に示すように、第2ステップでは、第1ステップによって合成されたRu(dcbpy)2Cl2を含む三つ首フラスコ内の溶液中に、NH4NCS水溶液を添加する(工程(2−1))。次いで、暗条件下、不活性ガス雰囲気下で溶媒を還流させて所定の温度、例えば、105℃以上、160℃以下で、所定の時間、例えば、4時間、反応させ、Ru(dcbpy)2(NCS)2を生成させる(工程(2−2))。 [Ru(dcbpy)2(NCS)2の単離、精製] 以下に説明する工程(2−3)〜工程(2−11)によって、第2ステップによって合成されたRu(dcbpy)2(NCS)2を含む三つ首フラスコ内の溶液から、Ru(dcbpy)2(NCS)2が回収され、単離、精製される。 工程(2−2)の終了後、反応溶液を冷却し(工程(2−3))、Ru(dcbpy)2(NCS)2を含む三つ首フラスコ内の溶液は、ロータリーエバポレータを用いて溶媒を除去する(工程(2−4))。この工程(2−4)によって生じた残渣はNaOH水溶液に溶解され(工程(2−5))、濾過される(工程(2−6))。工程(2−6)による濾過液にHNO3を添加してpH=3.5とし、固相(Ru(dcbpy)2(NCS)2を含む。)を析出させ(工程(2−7))、次いで、冷蔵庫中で終夜冷却する(工程(2−8))。 次いで、冷蔵庫から取り出し、濾過によって固相(Ru(dcbpy)2(NCS)2を含む。)を回収し(工程(2−9))、この固相を真空デシケータ中で乾燥させる(工程(2−10))。最後に、分取HPLC(HPLC:High performance liquid chromatography、高速液体クロマトグラフィー)によって、精製されたRu(dcbpy)2(NCS)2を得る(工程(2−11))。 [ワンポット法と従来法による合成法との相違] 従来法による合成法では、第1ステップ(Ru(dcbpy)2Cl2の合成)の後に、Ru(dcbpy)2Cl2 の精製のため、濾過処理、及び、再結晶処理が実行されるが、本発明のワンポット法では、これらの精製のためのプロセスは省略される。ワンポット法では、少なくとも次の3つの利点がある。 (1)中間生成物であるRu(dcbpy)2Cl2の単離、精製処理を実行しないので、この単離、精製処理によって生じる収率の低下を招くことがない。 (2)全ての合成反応の後に、HPLC(高速液体クロマトグラフィー)によって、目的とする生成物に含まない、dcbpyの1配位錯体や3配位錯体、トランス型異性体、S−型異性体等の副生成物(不純物)に生じる損失がないので、粗生成物の純度が正確に反映された分析を行うことができる。反応因子と原材料の組成比により、粗生成物の純度を向上させることができ、収率を向上させることができる。 (3)ワンポット法による合成の全体は3日以内に終了することができるが、従来法による合成方法では、1週間以上を必要とする。合成時間の短縮は、製造コストの低下に非常に有益である。 以上のようにして合成されたRu(dcbpy)2(NCS)2は、色素増感型光電変換装置、代表的には、色素増感型太陽電池に適用することができる。 [合成されたRu(dcbpy)2(NCS)2が適用される装置の例] 図4は、本発明の実施の形態において合成された増感色素(Ru(dcbpy)2(NCS)2)が適用される色素増感型太陽電池の構成を説明する模式断面図である。 色素増感型太陽電池(DSSC)について簡単に説明する。DSSCは、太陽光11が入射される側に配置された光電極と、これに対向する対向電極と、両極間に保持された電解質溶液16から構成されている。光電極は、光電極側透明基板12上に形成された光電極側透明電導膜13によって形成され、光電極側透明電導膜13上には、増感色素が担持されたナノサイズの酸化チタン(TiO2)半導体多孔質膜14が形成されている。増感色素は、例えば、ルテニウムビピリジル錯体である。対向電極は、図示しない電解質溶液注入孔が形成されている対向極側基板18上に形成された対向電極側電導膜17によって形成されている。 封止剤15によって両電極(光電極側透明電導膜13と光電極側透明基板12からなる光電極、対向電極側電導膜17と対向極側基板18からなる対向電極)が接合され、対向極側基板18に形成された図示しない電解質溶液注入孔から、電解質溶液16が両電極間に注入された後、電解質溶液注入孔が封止される。 このようにして、例えば、I- とI3- のレドックス系がニトリル系の溶媒に溶解された溶液からなる、電解質溶液16は、光電極側透明電導膜13と対向電極側電導膜17の間に保持される。 DSSCの光電極に太陽光11が照射されると、増感色素の基底状態にある電子が励起され励起状態へと遷移し、励起状態の電子は、酸化チタンの価電子帯に移って、酸化チタン半導体の伝導帯へ注入され、光電極に到達する。 一方、電子を失った増感色素は、電解質溶液中の還元剤、例えば、ヨウ化物イオンI- から下記反応 3I- ⇒ I3- +2e-によって電子を受け取り、電解質溶液中に酸化剤、例えば、三ヨウ化物イオンI3- (I2 とI- との結合体)を生成させる。生じた酸化剤は拡散によって対向電極に到達し、上記反応の逆反応 I3- +2e- ⇒ 3I-によって対向電極から電子を受け取り、もとの還元剤に還元される。 透明導電層から外部回路へ送り出された電子は、外部回路で電気的仕事をした後、対向電極に戻る。このようにして、増感色素にも電解質溶液にも何の変化も残さず、光エネルギーが電気エネルギーに変換される。このような過程の繰り返しによって、光が電流に変換されて電気エネルギーが外部に取り出される。 光電極側透明基板12として、例えば、石英、サファイア及びガラス等の透明無機基板、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリカーボネート、ポリプロピレン、ポリフェニレンサルファイド、ポリフッ化ビニリデン、ポリイミド、ポリスルフォン、ポリオレフィン等の透明プラスチック基板を使用することができる。これらは、対向電極側基板18としても使用することができる。 光電極側透明導電膜13として、例えば、インジウム−スズ複合酸化物(ITO)、フッ素ドープSnO2(FTO)、アンチモンドープSnO2(ATO)、SnO2 等を使用することができる。 半導体多孔質膜14を構成する半導体材料は、光励起下で伝導帯電子がキャリアとなり、アノード電流を生じるn型半導体材料であることが好ましく、アナターゼ型の酸化チタンTiO2 が好ましいが、この他に、例えば、MgO、ZnO、SnO2、WO3、Fe2O3、In2O3、Bi2O3、Nb2O5、SrTiO3、BaTiO3、ZnS、CdS、CdSe、CdTe、PbS、CuInS、InP等を使用することができる。 半導体微粒子に担持させる増感色素としては、本発明によって合成されるRuビピリジン錯化合物は量子収率が大きく好適に使用される。 電解質溶液16は、少なくとも1種類の可逆的に酸化/還元の状態変化を起す酸化還元系(レドックス対)が溶媒に溶解されたものである。レドックス対は、例えば、I-/I3-、Br-/Br2 等のハロゲン類、キノン/ハイドロキノン、SCN-/(SCN)2 等の擬ハロゲン類、鉄(II)イオン/鉄(III)イオン、銅(I)イオン/銅(II)イオン等である。 より具体的には、電解質として、例えば、ヨウ素(I2)と金属ヨウ化物又は有機ヨウ化物の組合せ、臭素(Br2)と金属臭化物又は有機臭化物の組合せを使用することができる。金属ハロゲン化物塩を構成するカチオンは、Li+、Na+、K+、Cs+、Mg2+、Ca2+ 等であり、有機ハロゲン化物塩を構成するカチオンは、テトラアルキルアンモニウムイオン類、ピリジニウムイオン類、イミダゾリウムイオン類等の第4級アンモニウムイオンが好適である。 この他、電解質として、フェロシアン酸塩とフェリシアン酸塩の組合せ、フェロセンとFe(C5H5)2+イオンの組合せ、ポリ硫化ナトリウム又はアルキルチオールとアルキルジスルフィドの組合せ等を使用することができる。これのうち、ヨウ素(I2)と、ヨウ化リチウム(LiI)、ヨウ化ナトリウム(NaI)、又は、イミダゾリウムヨーダイド等のイミダゾリウム化合物を組合せた電解質が好適である。 電解質溶液16の溶媒として、例えば、アセトニトリル等のニトリル系、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート等のカーボネート系、ガンマブチロラクトン、ピリジン、ジメチルアセトアミド、その他の極性溶媒、メチルプロピルイミダゾリウム−ヨウ素(MPII)等のイオン性液体或いはそれらの混合物を使用することができる。 なお、電解質溶液中の電子複合を防ぎ、開放電圧や短絡電流を向上させる目的で添加剤を加えてもよい。この添加剤としては、tert−ブチルピリジン、1−メトキシベンゾイミダゾール、長鎖アルキル基をもつカルボン酸等が用いられる。 対向電極側導電膜17は電気化学的に安定であることが望ましく、例えば、白金、金、カーボン、導電性ポリマー等を用いることができる。 <実施例> 目的とする分子(以下、目的分子という。)であるRu(dcbpy)2(NCS)2の収率、粗生成物の純度を向上させるためには、ワンポット法によって合成された最終生成物に含まれる、dcbpyの1配位錯体や3配位錯体、トランス型異性体、S−型異性体等の副生成物(不純物)の生成を抑制することが重要である。 ワンポット法における、第1反応ステップ(Ru(dcbpy)2Cl2の合成)、及び、第2反応ステップ(Ru(dcbpy)2(NCS)2の合成)に関する反応条件の最適条件を検討し、Ru(dcbpy)2(NCS)2を合成した。[ワンポット法の反応条件の最適条件を求める実験における共通事項] 先ず、ワンポット法の第1及び第2反応ステップに関する反応条件の最適条件を求める実験において、共通する反応条件について説明する。 [第1ステップ(Ru(dcbpy)2Cl2の合成)] RuCl3・3H2OをDMF(溶媒)100mLに溶解し丸底フラスコに入れ、丸底三つ首フラスコをアルミ箔で包み、遮光下、Arガス雰囲気下で溶液を15分間攪拌した後、溶液にdcbpyを添加して、遮光下、Arガス雰囲気下で還流を行い8時間加熱した。 [第2ステップ(Ru(dcbpy)2(NCS)2の合成)] 第1ステップの反応後、丸底三つ首フラスコ中の溶液を室温まで冷却した後、NH4NCSを丸底三つ首フラスコに添加して、遮光下、Arガス雰囲気下で4時間、還流を行った。 [Ru(dcbpy)2(NCS)2の単離、精製] 第2ステップの反応後、丸底三つ首フラスコ中の溶液を室温まで冷却した後、ロータリーエバポレータを用いて溶媒を除去し、丸底三つ首フラスコ中の残滓を溶液(0.5M NaOH10mL+H2O 20mL)に溶解し、この溶液をフィルターにかけ濾過した。 濾過された溶液に1M HNO3を添加し、PH=1.7の酸性とし、固相(錯体)を析出させた。更に、夜通し冷蔵庫(−17.5℃)に入れて、固相を十分に沈殿させた。この固相をフィルターにかけて回収し、真空デシケータ中で乾燥させて、粗生成物を得た。 次に、第1ステップの反応温度の最適条件を求めるための実験について説明する。 [第1反応ステップ(Ru(dcbpy)2Cl2の合成)の反応温度の最適化] [第1ステップ(Ru(dcbpy)2Cl2の合成)] DMF(溶媒)100mLに溶解したRuCl3・3H2Oを丸底三つ首フラスコに入れ、丸底三つ首フラスコをアルミ箔で包み、遮光下、Arガス雰囲気下で溶液を15分間攪拌した後、溶液にdcbpyを添加して、遮光下、Arガス雰囲気下で8時間、溶媒を加熱、還流させた。この溶媒の加熱を異なる温度とし、低温から高温の異なる反応温度で第1ステップの合成反応を実行した。 第1ステップの合成反応後に実行される、第2ステップの合成反応とこの終了後実行される処理は、次の通りである。 [第2ステップ(Ru(dcbpy)2(NCS)2の合成)] 第1ステップの合成反応後、丸底三つ首フラスコ中の溶液を室温まで冷却した後、H2O 30mLに溶解したNH4NCSを丸底三つ首フラスコに添加して、遮光下、Arガス雰囲気下、4時間、温度110℃で、還流を行い、第2ステップの合成反応を実行した。 [Ru(dcbpy)2(NCS)2の単離、精製] 第2ステップの合成反応後、丸底三つ首フラスコ中の溶液を室温まで冷却した後、ロータリーエバポレータを用いて溶媒を除去し、丸底三つ首フラスコ中の残滓を溶液(0.5M NaOH 10mL+H2O 20mL)に溶解した後、フィルターにかけ濾過した。次いで、濾過された溶液に1M HNO3を添加し、PH=1.7の酸性とし、固相(錯体)を析出させ、更に、夜通し冷蔵庫(−17.5℃)に入れて、固相を十分に沈殿させた。この固相をフィルターにかけて回収し、真空デシケータ中で乾燥させて、粗生成物を得た。 この粗生成物を分取HPLC(高速液体クロマトグラフィー)によって精製されたRu(dcbpy)2(NCS)2を得た。 図5は、本発明の実施例において、第1反応ステップにおける反応条件(反応温度)の最適化において使用した原材料を説明する図である。 図5に示すように、dcbpyの添加量をRuCl3・3H2Oに対する化学量論比の理論値とし、NH4NCSをdcbpyに対する化学量論比の理論値の1.2倍添加している。 図6は、本発明の実施例において、第1反応ステップの反応温度の最適化について試験結果を説明する図であり、反応温度、Ru(dcbpy)2(NCS)2の粗生成物の純度、真収率を示している。図6において、粗生成物の純度はHPLCによって求められた値を示し、真収率はHPLCによって求められた純度を考慮した値を示している。 なお、図6、後述する図8、図9、図12、図15、図17〜図20に示すN3−i(i=1〜15)は試験番号を示し、「N3」は「Ru(dcbpy)2(NCS)2」を示している。 図7は、本発明の実施例において、第1反応ステップの反応温度と生成物N3−1〜N3−8の粗生成物の収率、純度の関係を説明する図であり、図6をグラフ化したものである。 図7において、横軸は第1ステップの反応温度、左側の縦軸は粗生成物の純度、右側の縦軸は真収率を示す。図7に示すように、粗生成物の純度、真収率は反応温度の上昇に略比例して低下し、第1反応ステップの反応温度が低いほど粗生成物の純度は大きくなっている。 例えば、反応温度を124℃、92℃、50℃と低温度とした場合の真収率はそれぞれ、反応温度を178℃とした場合の真収率の3.60倍、5.00倍、9.45倍と大幅に向上する。また、反応温度を178℃から50℃と低温にすることによって、粗生成物の純度は約2.7倍向上する。 図8は、本発明の実施例において、第1反応ステップの反応温度と粗生成物N3−1〜N3−4のHPLCクロマトグラムについて説明する図である。 図9は、本発明の実施例において、第1反応ステップの反応温度と粗生成物N3−5〜N3−8のHPLCクロマトグラムについて説明する図である。 図8、図9において、横軸は溶出時間(min)、縦軸は強度(任意スケール)を示し、HPLCクロマトグラムには、反応温度、生成した不純物、粗生成物の純度が付記されている。 図7、図8に示すように、HPLCクロマトグラムは、目的分子Ru(dcbpy)2(NCS)2(dcbpyの2配位錯体のシス型異性体(cis-form isomer))に由来するメインピーク、不純物1(dcbpyの3配位錯体(tri-ligand complex))に由来するピーク、不純物2(dcbpyの2配位錯体のトランス型異性体(trans-form isomer))、不純物3(dcbpyの2配位錯体のS型異性体(S-form isomer))、不純物4(dcbpyの1配位錯体(mono-ligand complex))にそれぞれ由来するピークを含んでいる。これらピークの位置は点線で示されており、後述する図15、図19、図23においても同様に示されている。 なお、図7、図8、後述する図15、図19、図23に示すHPLCクロマトグラムは、異なる試料によるクロマトグラムをトレースして同一の時間軸で示したものである。これらの図は、トレース図作成時のずれを含むので、クロマトグラムのピーク位置の厳密な比較を意図するものではなく、異なる試料の間におけるクロマトグラムのピーク強度の相対的な比較を意図するものである。 図7、図8に示すように、124℃を超える反応温度では、粗生成物の収率を決めるキー因子は、粗生成物に含まれる3配位錯体である。この3配位錯体は、124℃未満の低温の反応温度では明らかに減少している。また、反応温度が120℃と105℃の間にあった場合は、3配位錯体は形成されなかった。 反応温度が105℃よりも低下した場合には、3配位錯体とは別の沈殿が生成した。3配位錯体は暗赤色であるが、この別の沈殿はうすい赤色を呈し、殆どピンク色である。これは原材料のdcbpyの色に起因しており、dcbpyのDMF(ジメチルホルムアミド)に対する低溶解度による。105℃以下の低い反応温度では第1ステップの合成反応は完了していないと結論することができる。反応温度が105℃と50℃の間で得られたHPLCクロマトグラムは、殆ど同じであり各不純物の比も類似している。 この結果から、第2ステップでは、Ru(dcbpy)2Cl2のClは、NCSだけではなく、dcbpyで置換されることを示している。第2ステップの反応条件では、dcbpy、Ru(dcbpy)2Cl2、Ru(dcbpy)2(NCS)2の3者の間での平衡は、目的分子Ru(dcbpy)2(NCS)2の方向に向かう。 従来法による合成における第1ステップでは、120℃と105℃の間の反応温度が好ましく、最も少ない3配位錯体の生成を伴って、合成反応が完了する。これに対して、ワンポット法における第1ステップにおける反応温度は、120℃と50℃の間の温度がより好ましく、より低温の反応温度での第1ステップにおける完了していない反応は、第2ステップにおいて完了する。 非特許文献3では、第1ステップの反応温度を179℃〜180℃としているが、Ru(dcbpy)2(NCS)2の収率、純度を向上させるためには、上述のように反応温度を105℃以上、120℃以下で実行することが好ましい。 以上説明した、ワンポット法における第1ステップでの反応温度と反応の進行状態、最終生成物に含まれる不純物の生成、及び、第1ステップでの反応温度の評価に関する事項を整理すると、次に示す図10のようになる。 図10は、本発明の実施例において、第1反応ステップの反応温度と、不純物の生成について説明する図である。 図10に示すように、120℃より高い第1ステップの反応温度は、合成反応が過度に進行してしまい、3配位錯体が不純物として生成するので、不適当である。 105℃以上、120℃以下の第1ステップの反応温度は、合成反応が適度に進行し、不純物の生成が抑制され、第2ステップの反応の進行にも好適である。 50℃以上、105℃以下の第1ステップの反応温度は、合成反応の進行が不完全であり、未反応のdcbpyが残存するが、この未反応のdcbpyは第2ステップにおける105℃以上の温度でRuCl3と反応して、Ru(dcbpy)2Cl2を生成し、これがイソチオシアン酸と反応して、Ru(dcbpy)2(NCS)2を生成するので、適切なものである。 以上が、第1ステップの反応温度の最適条件を求めるための実験結果である。 次に、ワンポット法における第2ステップの反応条件(第2ステップの反応温度、及び、第2ステップにおけるNH4NCSの量)の最適条件を求めるための実験について説明する。 [第2反応ステップ(Ru(dcbpy)2(NCS)2の合成)の反応条件の最適化] 第1ステップの反応温度の設定条件によっては、多量の3配位錯体不純物が形成されることがあり、第1ステップの反応温度は粗生成物の純度と収率に対して非常に重要である。また、第2ステップの反応温度の設定条件によっては、種々の異性体が第2ステップで生成される。 これらの異性体が生成される量は、最終生成物(合成試料)の純度に関して決定的な要因となり、真収率とコストとを決まる。従って、第1ステップにおける不純物の生成の抑制と同様に、第2ステップにおける不純物の生成の抑制が重要である。 [第2ステップの反応温度の最適化] [第1ステップ(Ru(dcbpy)2Cl2の合成)] RuCl3・3H2OをDMF(溶媒)100mLに溶解し、温度計付の三つ首フラスコに入れ、三つ首フラスコをアルミ箔で包み、遮光下、Arガス雰囲気下で溶液を15分間攪拌した後、溶液にdcbpyを添加して、遮光下、Arガス雰囲気下で8時間、116℃で加熱した。 [第2ステップ(Ru(dcbpy)2(NCS)2の合成)] 第1ステップの反応後、三つ首フラスコ中の溶液を室温まで冷却する。更に、NH4NCSとH2Oを添加して、混合溶媒(DMF水溶液)による反応系を調製した。この反応系を調製する際、H2Oの添加量を変えて、混合溶媒中のDMFの含有比が異なる反応系を調製した。 この反応系を、遮光下、Arガス雰囲気下で4時間、還流、攪拌した。この反応系の還流温度(第2ステップの反応温度)は、DMF水溶液(DMFと水の混合溶媒)中のDMFの含有比によって制御される。 [Ru(dcbpy)2(NCS)2の単離、精製] 第2ステップの反応後、三つ首フラスコ中の溶液を室温まで冷却した後、ロータリーエバポレータを用いて溶媒を除去し、三つ首フラスコ中の残滓に溶液(5mL 0.5M NaOH+10mL H2O)を添加し、この溶液に超音波を10分間、印加した。 次に、この溶液をフィルターにかけ濾過した後、濾過された溶液に1M HNO3を添加し、PH=1.7の酸性とし、固相(錯体)を析出さた。 次に、夜通し冷蔵庫(−17.5℃)に入れて、固相を十分に沈殿させた。この固相をブフナーロート(吸引ロート)にかけ回収し真空デシケータ中で乾燥させ、粗生成物を得た。 図11は、本発明の実施例において、第2反応ステップにおける反応条件(反応温度)の最適化において使用した原材料を説明する図である。 図11に示すように、dcbpyの添加量をRuCl3・3H2Oに対する化学量論比の理論値の2.05倍とし、NH4NCSをdcbpyに対する化学量論比の理論値の2.9倍添加している。 図12は、本発明の実施例において、第2反応ステップの反応の溶媒比率と反応温度の最適化について説明する図である。 図13は、本発明の実施例において、第2反応ステップの反応系におけるDMFの量と反応温度と3配位異性体の量との関係について説明する図であり、図12をグラフ化したものである。 図14は、本発明の実施例において、第2反応ステップの反応温度と3配位錯体の生成量の関係について説明する図であり、図13をグラフ化しなおしたものである。 図14に示すように、105℃〜125℃の低温では3配位錯体の生成量は少なく、106℃以上では反応温度に略比例して3配位錯体の生成量が増大している。 図15は、本発明の実施例において、第2反応ステップの反応温度と粗生成物N3−9〜N3−12のHPLCクロマトグラムについて説明する図である。図15において、横軸は溶出時間(min)、縦軸は強度(任意スケール)を示す。 第2ステップの反応温度は、DMF水溶液(DMFと水の混合溶媒)中のDMFの含有比(体積比)によって制御され、図12に示す温度である。なお、粗生成物N3-9を得た溶媒は、純DMFである。 図15に示すHPLCクロマトグラムには、第2ステップの反応温度と混合溶媒中のDMFの含有比(体積比)が示されている。図15に示すCommercialと記したサンプルは、Solaronix 社から購入した市販品(型番Ruthenium535)に関するHPLCクロマトグラムであり、少量の異性体を含んでいる。 図15に示すN3−9〜N−12の4つのHPLCクロマトグラムは、異なる組成の混合溶媒からなる反応系及び還流温度に関するものである。混合溶媒中のDMFの含有比が大きく、還流温度が高いほど、トランス型異性体(不純物2)の生成量は少なかった。 100%DMFの反応系でのトランス型異性体の生成量は最少であり、Sephadex(登録商標)LH-20 カラムクロマトグラフィーによって精製された市販品におけるトランス型異性体よりも少なかった。 図15に示すように、混合溶媒中のDMFの含有比が増大し、還流温度が高くなると共に、トランス型異性体(不純物2)の生成量は減少していくが、3配位錯体(不純物1)の生成量は、再び増大する。 図14に示すように、第2ステップの反応温度が、102℃、106℃、119℃、152℃と上昇すると、HPLCクロマトグラムにおけるピーク比(3配位異性体(不純物1)のピーク高/目的分子のピーク高)は、0.3、0.09、0.12、0.23と変化し、反応温度が高くなると共に、3配位錯体(不純物1)の生成量は減少していくが再び増大している。 また、ピーク比(トランス型異性体(不純物2)のピーク高/目的分子のピーク高)は、0.34、0.15、0.12、0.07と変化し、トランス型異性体(不純物2)の生成量は減少している。 目的分子Ru(dcbpy)2(NCS)2の粗生成物の純度を向上させるためには、第2ステップにおける2配位錯体から3配位錯体への変換を抑制することが必要となる。 [第2ステップにおけるNH4NCSの量の最適化] 後述するように、NH4NCSの量は、粗生成物における3配位錯体(不純物1)の生成に関して決定的な要因である。ワンポット法によらない従来技術による合成法では、NH4NCSをRu(dcbpy)2Cl2に対する化学量論比の約18倍(非特許文献3)、約5倍(非特許文献2、特許文献1、2、3)添加している。本発明では、ワンポット法による合成におけるNH4NCSの量に関する検討を行った。 [第1ステップ(Ru(dcbpy)2Cl2の合成)] DMF(溶媒)100mLに溶解し、温度計付の三つ首フラスコに入れ、三つ首フラスコをアルミ箔で包み、遮光下、Arガス雰囲気下で溶液を15分間攪拌した後、溶液にdcbpyを添加して、遮光下、Arガス雰囲気下で8時間、116℃で加熱した。 [第2ステップ(Ru(dcbpy)2(NCS)2の合成)] 第1ステップの反応後、三つ首フラスコ中の溶液を室温まで冷却し、溶媒DMFとNH4NCSを三つ首フラスコに添加して、反応系を調製した。 異なる反応系では、NH4NCSの添加量が異なる。この反応系を、遮光下、Arガス雰囲気下、4時間、152℃(溶媒DMFの沸点に相当する。)で、還流、攪拌した。 [Ru(dcbpy)2(NCS)2の単離、精製] 第2ステップの反応後、三つ首フラスコ中の溶液を室温まで冷却した後、ロータリーエバポレータを用いて溶媒を除去し、三つ首フラスコ中の残滓に溶液(10mL 0.5M NaOH+20mL H2O)を添加し、この溶液に超音波を10分間、印加した。 次に、この溶液をフィルターにかけ濾過した後、濾過された溶液に1M HNO3を添加し、PH=1.7の酸性とし、固相(錯体)を析出させた。 次に、夜通し冷蔵庫(−17.5℃)に入れて、固相を十分に沈殿させた。この固相をブフナーロート(吸引ロート)にかけ回収し真空デシケータ中で乾燥させ、粗生成物を得た。この粗生成物を分取HPLCによって精製された最終生成物を得た。 図16は、本発明の実施例において、第2反応ステップのNH4NCSの添加量の最適化における原材料を説明する図である。なお、図16におけるNH4NCSに関する数値は理論値を示す。 図16に示すように、dcbpyの添加量をRuCl3・3H2Oに対する化学量論比の理論値の2.05倍とし、NH4NCSをdcbpyに対する化学量論比の理論値と同量添加している。図16に示す原材料の組成を基準として、図17示すように、NH4NCSをdcbpyに対する化学量論比の理論値よりも、僅かに過少、僅かに過大、遥かに過大とした3通りについて、NH4NCSの添加量の収率に及ぼし影響を調べた。 図17は、本発明の実施例において、第2反応ステップにおけるNH4NCSの量の最適化について説明する図であり、反応溶液におけるNH4NCSの量(dcbpyに対する化学量論比の理論値を基準とした過剰量で示す。)、Ru(dcbpy)2(NCS)2の粗生成物の純度、真収率を示している。図17において、粗生成物の純度はHPLCによって求められた値を示し、「(粗生成物に含む目的分子の量/粗生成物の量)×100(%)」を意味する。真収率は、「(最終生成物の量/理論的な生成物の量)×100(%)」を意味する。 図18は、本発明の実施例において、第2反応ステップにおける粗生成物N3−13〜N3−15の収率、粗生成物の純度とNH4NCSの量との関係について説明する図であり、図17をグラフ化したものである。図18において、横軸は反応溶液におけるNH4NCSの量(過剰量)、左側の縦軸は粗生成物の純度、右側の縦軸は真収率を示す。 図19は、本発明の実施例において、第2反応ステップの反応温度と粗生成物N3−13〜N3−15のHPLCクロマトグラムについて説明する図である。図19において、横軸は溶出時間(min)、縦軸は強度(任意スケール)を示し、HPLCクロマトグラムには、粗生成物の純度、生成した不純物が付記されている。 図19に示す、NH4NCSをdcbpyに対する化学量論比の理論値の0.9倍、1.1倍、8倍だけ過剰に添加した場合に得られた粗生成物に関するHPLCクロマトグラムから、純度を向上させるためには、NH4NCSを過剰に添加することが好ましいことが分かる。 NH4NCSの量を変化させた実験による粗生成物のHPLC分析の結果を示す図19から、3配位錯体(不純物1)のピーク高さは、NH4NCSの添加量の増加と共に小さくなっており、NH4NCSの過剰な添加は、3配位錯体(不純物1)の生成を効果的に抑制していることが明らかとなった。 錯体N3−13における化学量論比に対する不十分なNH4NCSの添加は、多量の3配位錯体(不純物1)の生成を引き起こしている。これに対して、化学量論比に対して僅か過剰なNH4NCSの添加は、純度を大幅に改善している。化学量論比(理論量)の理論値に対して8倍の過剰量のNH4NCSを添加した場合には、3配位錯体(不純物1)は殆ど生成されず、粗生成物の純度は82.9%、真収率は47.9%に達した。 図20は、本発明の実施例において、ワンポット法による最終生成物N3−4、N3−15の吸収スペクトル(濃度1.2×10-5mol/Lのエタノール溶液)について説明する図であり、図20(A)はN3−4の吸収スペクトル、図20(B)はN3−15の吸収スペクトルである。図20において、横軸は波長(nm)、縦軸は吸収強度(任意スケール)を示す。N3−4、N3−15は、約295nm、370nm、515nmに極大吸収波長を有する吸収スペクトルを示した。 以上が、第2ステップの反応条件の最適条件を求めるための実験結果であり、この結果と先述した第1ステップの反応条件の最適条件化に基づいて、ワンポット法における最適な反応条件を設定することができる。 [最適化された反応条件によるワンポット法によるRu(dcbpy)2(NCS)2の合成] 次に説明する反応条件は、先述したN3−15を得た条件に基づくものである。 [第1ステップ(Ru(dcbpy)2Cl2の合成)] RuCl3・3H2OをDMF(溶媒)100mLに溶解し、温度計付の三つ首フラスコに入れ、三つ首フラスコをアルミ箔で包み、遮光下、Arガス雰囲気下で溶液を15分間攪拌した後、溶液にdcbpyを添加して、遮光下、Arガス雰囲気下で8時間、116℃で加熱した。 [第2ステップ(Ru(dcbpy)2(NCS)2の合成)] 第1ステップの反応後、夜通しかけて、三つ首フラスコ中の溶液を室温まで冷却し、溶媒DMFを三つ首フラスコに入れ、NH4NCSをdcbpyに対する化学量論比の理論値の8倍だけ過剰に添加した。この反応系を、遮光下、Arガス雰囲気下、4時間、152℃(溶媒DMFの沸点に相当する。)で、還流、攪拌した。 [Ru(dcbpy)2(NCS)2の単離、精製] 第2ステップの反応後、三つ首フラスコ中の溶液を室温まで冷却した後、ロータリーエバポレータを用いて溶媒を除去し、三つ首フラスコ中の残滓に溶液(10mL 0.5M NaOH+20mL H2O)を添加し、この溶液に超音波を10分間、印加した。 次に、この溶液をフィルターにかけ濾過した後、濾過された溶液に1M HNO3を添加し、PH=1.7の酸性とし、固相(錯体)を析出させた。 次に、夜通し冷蔵庫(−17.5℃)に入れて、固相を十分に沈殿させた。この固相をブフナーロート(吸引ロート)にかけ回収し真空デシケータ中で乾燥させ、粗生成物を得た。この粗生成物を分取HPLCによって精製された最終生成物を得た。 このようにして得られた粗生成物の純度は83%、真収率は48%であった。また、加温反応時間は、12時間である。 <比較例> 上述したワンポット法によらず、従来法と同様に方法によりRu(dcbpy)2(NCS)2を合成した。 図21は、本発明の比較例において、従来法における第1、第2ステップの反応について説明する図であり、図21(A)は第1ステップ反応、図21(B)は第2ステップ反応である。 図22は、本発明の比較例において、従来法における第1、第2ステップの反応において使用した原材料について説明する図であり、図22(A)は第1ステップ、図22(B)は第2ステップに関するものである。なお、図22(A)におけるRuL2Cl2に関する数値、図22(B)におけるRuL2(NCS)2に関する数値はそれぞれ、理論値を示す。 第1ステップにおいて、dcbpyの添加量をRuCl3・3H2Oに対する化学量論比の理論値とした。第2ステップにおいて、NH4NCSをRuL2Cl2に対する化学量論比の理論値の2.2倍使用した。 [第1ステップ(Ru(dcbpy)2Cl2の合成)] RuCl3・3H2OをDMF(溶媒)100mLに溶解し三つ首フラスコに入れ、30分間、窒素ガスを三つ首フラスコに流した後、dcbpyを三つ首フラスコに入れた。三つ首フラスコをアルミ箔で包み、遮光下、窒素ガス雰囲気下で溶液を磁気攪拌子(magnetic stirrer)で攪拌しながら、180℃で8時間、還流した。 [Ru(dcbpy)2Cl2の単離、精製] 第1ステップの反応後、三つ首フラスコを室温まで冷却した。溶液をブフナーロート(吸引ロート)にかけ濾過した。三つ首フラスコを超音波洗浄槽に入れて、三つ首フラスコの内壁の固相をDMFで洗い落とした。 濾液が透明になるまでに、DMF溶液とメタノールで固相をそれぞれに洗浄した。 ロータリーエバポレータを用いて溶媒を除去する。残渣に2N HCl水溶液 40mLを添加し、4時間攪拌した。この攪拌溶液をブフナーロートに通し、固相を水で洗浄した。ブフナーロートで集められた固相を真空下で乾燥させ、固相として得られたRu(dcbpy)2Cl2 は、0.61gであり、粗収率は48.4%(=0.61/1.26)であった。 [第2ステップ(Ru(dcbpy)2(NCS)2の合成)] NH4NCSを水 10mLに溶解し100mLの三つ首フラスコに入れ、更に、DMF 20mLを加え、窒素ガスで15分間泡立てた。Ru(dcbpy)2Cl2をDMF 20mLに溶解し三つ首フラスコに入れ、三つ首フラスコをアルミ箔で包み、遮光した。三つ首フラスコ中の溶液を、窒素ガス雰囲気下、5時間、119℃で還流、攪拌した。 [Ru(dcbpy)2(NCS)2の単離、精製] 第2ステップの反応後、三つ首フラスコ中の溶媒を、ロータリーエバポレータを用いて65℃の浴温度で溶媒を除去した。フラスコに、1N NaOH溶液 10mLと水 4mLを加えて、磁気攪拌子(magnetic stirrer)で攪拌した。固相が全て溶解した後、1N HNO3を加えて、溶液をpH=1.7の酸性とした。 暗赤色の固相が生成した溶液を10分間攪拌した後、これを冷蔵庫(−17.5℃)に3時間入れて、暗赤色の細かい固相を析出させた。この固相を含む溶液を遠心管に入れて、5030rpmで5分間、遠心分離機にかけた。 遠心管中の上澄み溶液をピペットで吸引除去した後、固相を、pH=1.7の酸性水、及び、ジエチルエーテルと石油エーテルの混合溶液(混合比=1:1)20mLを用いて、遠心管中の上澄み溶液層が透明となるまで洗浄した。遠心管を蒸気キャビナット中に保持して、夜通し真空中に乾燥した。 この結果、固相として得られたRu(dcbpy)2(NCS)2 は、0.52gであり、粗収率は80%(=0.52/0.65)であった。また、加温反応時間は、13時間である。 図23は、本発明の比較例において、従来法による粗生成物のHPLCクロマトグラムについて説明する図である。図23において、横軸は溶出時間(min)、縦軸は強度(任意スケール)を示す。 以上説明したように、本発明によれば、従来法による合成法おける中間性生物であるRu(dcbpy)2Cl2の単離、精製処理を行うことなく、これら処理に要する時間を不要とし、ワンポット法によって、Ru(dcbpy)2(NCS)2を従来法による合成法よりも短時間で合成することができた。 また、ワンポット法における第1ステップ、及び、第2ステップの反応条件の最適化によって、粗生成物の純度を80%まで、真収率を48%まで高めることができた。 以上、本発明を実施の形態について説明したが、本発明は上述の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づいて各種の変形が可能である。 本発明によって製造されたルテニウム錯体は、色素増感型太陽電池等の色素増感光電変換装置に好適に適用することができる。11…太陽光、12…光電極側透明基板、13…光電極側透明導電膜、14…TiO2 半導体多孔質膜、15…封止剤、16…電解質溶液、17…対向電極側電導膜、18…対向極側基板 三塩化ルテニウム(III)と2,2’−ビピリジル−4,4’−ジカルボン酸を、極性有機溶媒を含む反応容器中で加熱反応させて、シス−ジクロロ−ビス(2,2'−ビピリジル−4,4'−ジカルボン酸)ルテニウム(II)錯体を生成させる第1工程と、この第1工程の反応後、生成された前記シス−ジクロロ−ビス(2,2'−ビピリジル−4,4'−ジカルボン酸)ルテニウム(II)錯体を含む前記反応容器中の溶液に、イソチオシアン酸塩を添加して、前記シス−ジクロロ−ビス(2,2'−ビピリジル−4,4'−ジカルボン酸)ルテニウム(II)錯体と前記イソチオシアン酸塩を加熱反応させてシス−ジ(イソチオシアナト)−ビス(2,2'−ビピリジル−4,4'−ジカルボン酸)ルテニウム(II)錯体を生成させる第2工程とを有する、ルテニウム錯体の製造方法。 前記第1工程の反応後、前記反応容中の溶液の温度を室温まで冷却する、請求項1に記載のルテニウム錯体の製造方法。 前記第1工程における加熱反応を温度105℃以上、120℃以下で行い、前記第2工程における加熱反応を、温度105℃以上、160℃以下で行う、請求項1に記載のルテニウム錯体の製造方法。 沸点が温度105℃以上、160℃以下となるように前記極性有機溶媒と水を混合した混合液中で前記第2工程における加熱反応を行う、請求項3に記載のルテニウム錯体の製造方法。 前記極性有機溶媒としてジメチルフォルムアミドを使用する、請求項1に記載のルテニウム錯体の製造方法。 前記第2工程の反応後、前記反応容器中の溶液から、精製処理によって、シス−ジ(イソチオシアナト)−ビス(2,2'−ビピリジル−4,4'−ジカルボン酸)ルテニウム(II)錯体を得る第3工程を有する、請求項1に記載のルテニウム錯体の製造方法。 前記精製処理をクロマトグラフィーによって行う、請求項6に記載のルテニウム錯体の製造方法。 前記イソチオシアン酸塩を前記2,2’−ビピリジル−4,4’−ジカルボン酸に対する化学量論比の8倍以上添加する、請求項1に記載のルテニウム錯体の製造方法。 前記イソチオシアン酸塩が、イソチオシアン酸アンモニウム、イソチオシアン酸ナトリウム、イソチオシアン酸カリウムの何れかである、請求項1に記載のルテニウム錯体の製造方法。 【課題】Ru(dcbpy)2(NCS)2)を短時間で合成することができる製造方法を提供すること。【解決手段】RuCl3・3H2Oとdcbpyを反応させRu(II)(dcbpy)2Cl2 を合成する第1ステップと、NH4NCSを添加してRu(dcbpy)2(NCS)2 を合成する第2ステップからなり、Ru(II)(dcbpy)2Cl2 の合成後、Ru(II)(dcbpy)2Cl2 を単離、精製する処理をすることなく、第1、第2ステップを同一の反応容器内で行う(ワンポット法)。ワンポット法の第1、第2ステップの各反応に対して反応条件を最適化することにより、合成時間を短縮化し異性体の生成量を減少させ、Ru(dcbpy)2(NCS)2 を高純度、高収率、低コストで得ることができる。【選択図】図1


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特許公報(B2)_ルテニウム錯体の製造方法

生命科学関連特許情報

タイトル:特許公報(B2)_ルテニウム錯体の製造方法
出願番号:2010077527
年次:2015
IPC分類:C07F 15/00,C07D 213/79


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ガオ リアン リ ヨンミン ウェンハイ ツァン 鈴木 祐輔 JP 5721338 特許公報(B2) 20150403 2010077527 20100330 ルテニウム錯体の製造方法 中国科学院上海硅酸塩研究所 510087966 田中 光雄 100081422 山田 卓二 100101454 ガオ リアン リ ヨンミン ウェンハイ ツァン 鈴木 祐輔 CN 200910130344.3 20090401 20150520 C07F 15/00 20060101AFI20150430BHJP C07D 213/79 20060101ALN20150430BHJP JPC07F15/00 AC07D213/79 C07F C07D H01M CAplus/CASREACT/REGISTRY(STN) 特開2005−154606(JP,A) 特開平11−279188(JP,A) 特開2001−139587(JP,A) 国際公開第2007/091525(WO,A1) 特開2006−019111(JP,A) 8 2010241810 20101028 29 20130315 堀 洋樹 本発明は、色素増感型太陽電池に好適に使用することができるルテニウム錯体の製造方法に関し、特に、シス−ジ(イソチオシアナト)−ビス(2,2’−ビピリジル−4,4’−ジカルボン酸)ルテニウム(II)錯体を、短時間、高純度、高収率で合成することができる製造方法に関するものである。 化石燃料に代わるエネルギー源として、太陽光を利用する太陽電池が注目され、種々の研究が行われている。太陽電池は、光エネルギーを電気エネルギーに変換する光電変換装置の1種であり、太陽光をエネルギー源としているため、地球環境に対する影響が極めて小さく、より一層の普及が期待されている。 色素によって増感された光誘起電子移動を応用した色素増感型太陽電池(以下、DSSC(Dye-Sensitized Solar Cell)と略記することがある。)は、近年、シリコン(Si)系太陽電池等に替わる次世代の太陽電池として注目され、広く研究が行われている。増感色素として、可視光近辺の光を効果的に吸収できる物質、例えばルテニウム(Ru)錯体等が用いられる。 色素増感型太陽電池は、高い光電変換効率を有し、真空装置等の大掛かりな製造装置を必要とせず、酸化チタン等の安価な半導体材料を用いて、簡易に生産性よく製造できるため、新世代の太陽電池として期待されている。 2,2’−ビピリジル−4,4’−ジカルボン酸(4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジンとも呼ばれ、以下、「dcbpy」又は「L」と略記することがある。)配位子を含むルテニウム(II)錯体によるナノ結晶チタニアの増感は、現在、多数の研究所において強力に研究されている。 増感色素を担持させたメソ多孔質チタニアフイルムは、10%から11%の間の光電変換効率を保障する新しい太陽電池のキーコンポーネントである。更に、ルテニウム錯体が増感剤として使用された時、太陽電池は優れた安定性を示し、実用的な応用を可能なものにする。 これまで、色素増感型太陽電池のための増感色素の例として、シス−ジ(イソチオシアナト)−ビス(2,2’−ビピリジル−4,4’−ジカルボン酸)ルテニウム(II)錯体(以下、「Ru(dcbpy)2(NCS)2」又は「RuL2(NCS)2」と略記することがある。)、シス−ジ(イソチオシアナト)−ビス(2,2’−ビピリジル−4,4’−ジカルボン酸)ルテニウム(II)ビス−テトラブチルアンモニウム錯体はそれぞれ、N3、N719の通称で広く知られている。それらの高い価格は、色素増感型太陽電池への適用を制限している。 ルテニウム錯体色素の合成に関する多くの報告がなされており、例えば、次の報告がある。 先ず、後記の非特許文献1には、Ar中で、RuCl3・3H2Oと配位子(dcbpy、2,2’−ビピリジン−4,4’−ジカルボン酸)をDMF(ジメチルホルムアミド)中で8時間還流させる工程を有する、シス−Ru(II)(dcbpy)2Cl2の合成方法が記載されている。 また、後記の非特許文献2、特許文献1には、光を遮蔽した下でRu(II)(dcbpy)2Cl2をDMFに溶解した溶液に、NaNCSの水溶液を加え、次いで、撹拌しながら窒素雰囲気中で反応混合物を加熱して6時間還流させる工程を有する、Ru(dcbpy)2(NCS)2の合成方法が記載されている。 また、後記の非特許文献3には、Ru(II)(dcbpy)2Cl2、Ru(dcbpy)2(NCS)2の合成方法が記載されており、次の記載がある。 Ru(II)(dcbpy)2Cl2の合成は、Ar中でRuCl3(H2O)3をDMF中に溶解し撹拌した後、DMFを更に加えた溶液に、配位子である2,2’−ビピリジン−4,4’−ジカルボン酸を加えて、170℃−180℃で、暗所、Ar雰囲気中で3時間還流させる工程を有しているとしている。 Ru(dcbpy)2(NCS)2の合成は、三つ首フラスコ中のKNCSの水溶液にDMFを加え、次に、暗所で、Ru(II)(dcbpy)2Cl2を加え、5時間還流させる工程を有しているとしている。 また、「ルテニウム錯体の製造方法」と題する後記の特許文献2には、次の記載がある。 (1)3価に純化した塩化ルテニウム(RuCl3・3H2O)と配位子(L;2,2'−ビピリジン−4,4'−ジカルボン酸)を有機溶媒中で加熱反応してRuL2Cl2・2H2Oを生成させ、次いで、得られた反応生成物を有機溶媒に溶解し、該溶解物をチオシアン酸ナトリウムと加熱反応させ、得られた[RuL2(SCN)2]・2H2Oを、ヒドロキシプロピル基含有架橋デキストランを充填剤として用いるカラム精製法により精製することを特徴とする、一般式、[RuL2(SCN)2]・2H2O(Lは、2,2'−ビピリジン−4,4'−ジカルボン酸である)で表わされるルテニウム錯体の製造方法であるとしている。 また、好ましい実施態様は、(2)加熱反応を温度110〜150℃で行うことを特徴とする(1)のルテニウム錯体の製造方法、(3)加熱反応を不活性ガスの存在下、遮光して行うことを特徴とする(1)のルテニウム錯体の製造方法であるとしている。 また、「ルテニウム錯体の製造方法」と題する後記の特許文献3には、次の記載がある。 (1)3価に純化した塩化ルテニウム(RuCl3・3H2O)と配位子(L;2,2’−ビピリジン−4,4’−ジカルボン酸)を有機溶媒中で加熱反応してRuL2Cl2・2H2Oを生成させ、次いで、得られた反応生成物を有機溶媒に溶解し、該溶解物をチオシアン酸ナトリウムと加熱反応させ、得られた[RuL2(SCN)2]・2H2Oを、アルコール性水酸基を有する不溶性架橋高分子からなるゲル濾過担体により精製することを特徴とする、一般式、[RuL2(SCN)2]・2H2O(Lは、2,2’−ビピリジン−4,4’−ジカルボン酸である)で表わされるルテニウム錯体の製造方法であるとしている。 また、好ましい実施態様は、(2)アルコール性水酸基を有する不溶性架橋高分子からなるゲル濾過担体が親水性ポリ(メタ)アクリル酸エステル又はポリビニルアルコールを主体とする半硬質ゲル及び架橋アガロースゲルである(1)のルテニウム錯体の製造方法、(3)加熱反応を温度110〜150℃で行うことを特徴とする(1)のルテニウム錯体の製造方法、(4)加熱反応を不活性ガスの存在下、遮光して行うことを特徴とする(1)のルテニウム錯体の製造方法であるとしている。米国特許第5463057号明細書(EXAMPLE 1, EXAMPLE 2)特開平11−279188号公報(段落0004〜0005)特開2001−139587号公報(段落0004〜0005)P. Liska et al, “ cis-Diaquabis(2,2'-bipyridyl-4,4'-dicarboxylate)-ruthenium(II) Sensitizes Wide Band Gap Oxide Semiconductors Very Effciently over a Broad Spectral Range in the Visible ”, J. Am. Chem. Soc. 1988, 110, 3686 - 3687(p3686)M. K. Nazeeruddin et al, “ Conversion of Light to Electricity by cis-X2Bis(2,2’-bipyridyl-4,4’-dicarboxylate) ruthenium(II) Charge-Transfer Sensitizers (X=Cl-, Br-, I-, CN-, and SCN-) on Nanocrystalline TiO2 Electrodes ”, J. Am. Chem. Soc. 1993, 115, 6382 ≡ 6390(p6383 : Materials)Md. K. Nazeeruddin et al, “ Acid-Base Equilibria of (2,2'-bipyridyl-4,4'-dicarboxylic acid)ruthenium(II) Complexes and the Effect of Protonation on Charge-Transfer Sensitization of Nanocrystalline Titania ”, Inorg. Chem. 1999, 38, 6298 - 6305(p6299 : Synthesis of complexs 1, and 2, p6303 : HPLC of complex 2) 上述の特許文献1、2、3、非特許文献2、3に記載の技術では、(シス−ジクロロ−ビス(2,2'−ビピリジル−4,4'−ジカルボン酸)ルテニウム(II)錯体(以下、「Ru(dcbpy)2Cl2」又は「RuL2Cl2」と略記することがある。)を合成する第1ステップの終了後、生成したRu(dcbpy)2Cl2不純物を単離し、再結晶処理で精製するステップを行っている。そして精製されたRu(dcbpy)2Cl2を使用して、シス−ジ(イソチオシアナト)−ビス(2,2’−ビピリジル−4,4’−ジカルボン酸)ルテニウム(II)錯体(Ru(dcbpy)2(NCS)2)を合成している。 特許文献1、2、3、非特許文献2、3に記載の技術では、中間生成物であるRu(dcbpy)2Cl2を単離、精製を行っているため、最終生成物を得るまでに長時間を必要とし、また、中間生成物の単離、精製を行うことによる、収率の低下が生じてしまう。従って、目的とするRu(dcbpy)2(NCS)2)の収率が低下してしまう。 Ru(dcbpy)2(NCS)2の合成に必要な、RuCl3・3H2Oやdcbpy等の原材料は高コストであり、合成工程で生じる廃液は、取り扱いが困難で環境を汚染する多量の重金属を含んでいる。目的とするRu(dcbpy)2(NCS)2)の収率が低いと、所望の量のRu(dcbpy)2(NCS)2を得るために、原材料の使用量を増大させる必要があり、この結果、合成工程で生じる廃液の処理量も増大してしまう。このためコストの増加を招き、Ru(dcbpy)2(NCS)2を使用するDSSCの低価格化を困難なものとしてしまう。 なお、特許文献1、2、3、非特許文献2、3には、Ru(dcbpy)2Cl2を単離、精製することなしに、目的とするRu(dcbpy)2(NCS)2を合成する技術については言及されていない。 以下、本発明の説明において、「合成された目的分子を含む物質」は「合成反応の終了後に回収された固相(目的分子以外の異性体等の副生成物を含む。)」を意味し、最終生成物は「HPLCで精製された、純度が99%以上の生成物」を意味する。 また、「粗収率」は「(粗生成物の量/理論的な生成物の量)×100(%)」。「真収率」は「(合成された純粋な目的分子の量/理論的な生成物の量)×100(%)」を意味する。「理論的な生成物の量」は「化学量的に生成されるべき目的分子の量」を意味する。更に、「純度」は「(合成された純粋な目的分子の量/合成された目的分子を含む物質の量)×100(%)」を意味する。「純度」は、例えば、後述するように、HPLCによって求めることができる。なお、単に「収率」と示される場合は「真収率」を意味するものとする。 本発明は、上述したような課題を解決するためになされたものであって、その目的は、シス−ジ(イソチオシアナト)−ビス(2,2’−ビピリジル−,4’−ジカルボン酸)ルテニウム(II)錯体(Ru(dcbpy)2(NCS)2)を、短時間、高収率、高純度で合成することができる製造方法を提供することにある。 即ち、本発明は、三塩化ルテニウム(III)と2,2’−ビピリジル−4,4’−ジカルボン酸(dcbpy)を、極性有機溶媒を含む反応容器中で加熱反応させて、シス−ジクロロ−ビス(2,2'−ビピリジル−4,4'−ジカルボン酸)ルテニウム(II)錯体(Ru(dcbpy)2Cl2)を生成させる第1工程と、この第1工程の反応後、生成された前記シス−ジクロロ−ビス(2,2'−ビピリジル−4,4'−ジカルボン酸)ルテニウム(II)錯体を含む前記反応容器中の溶液に、イソチオシアン酸塩を添加して、前記シス−ジクロロ−ビス(2,2'−ビピリジル−4,4'−ジカルボン酸)ルテニウム(II)錯体と前記イソチオシアン酸塩を加熱反応させてシス−ジ(イソチオシアナト)−ビス(2,2'−ビピリジル−4,4'−ジカルボン酸)ルテニウム(II)錯体(Ru(dcbpy)2(NCS)2)を生成させる第2工程とを有する、ルテニウム錯体の製造方法に係わるものである。 本発明によれば、(シス−ジクロロ−ビス(2,2'−ビピリジル−4,4'−ジカルボン酸)ルテニウム(II)錯体(Ru(dcbpy)2Cl2)の合成(第1ステップ)、及び、シス−ジ(イソチオシアナト)−ビス(2,2’−ビピリジル−4,4’−ジカルボン酸)ルテニウム(II)錯体(Ru(dcbpy)2(NCS)2)の合成(第2ステップ)を、第1ステップの合成反応後、Ru(dcbpy)2Cl2の単離、精製を実行することなしに、同一の反応容器内で行うので、Ru(dcbpy)2Cl2の単離、精製によって生じる、収率の低下を防止し、最終生成物を得るまでの時間を短縮することができる。 また、第1及び第2ステップの各反応に対して、反応温度等の反応条件を最適化することによって異性体等の副生成物の生成量を減少させることができるので、目的とするRu(dcbpy)2(NCS)2)を高純度、高収率、低コストで得ることができる。本発明の実施の形態において、ワンポット法と従来法による合成法の比較について説明する図である。同上、ワンポット法による合成法について説明する図である。同上、ワンポット法による合成工程について説明する図である。同上、合成された増感色素(Ru(dcbpy)2(NCS)2)が適用される色素増感型電池の構成を説明する模式断面図である。本発明の実施例において、第1反応ステップにおける反応条件の最適化において使用した原材料を説明する図である。同上、第1反応ステップの反応温度の最適化について試験結果を説明する図である。同上、第1反応ステップの反応温度と生成物N3−1からN3−8の粗生成物の収率、純度との関係を説明する図である。同上、第1反応ステップの反応温度と粗生成物N3−1からN3−4のHPLCクロマトグラムについて説明する図である。同上、第1反応ステップの反応温度と粗生成物N3−5からN3−8のHPLCクロマトグラムについて説明する図である。同上、第1反応ステップの反応温度と不純物の生成について説明する図である。同上、第2反応ステップにおける反応条件の最適化において使用した原材料を説明する図である。本発明の実施例において、第2反応ステップの反応の溶媒比率と反応温度の最適化について説明する図である。同上、第2反応ステップの反応系におけるDMFの量と反応温度と3配位異性体の量との関係について説明する図である。同上、第2反応ステップの反応温度と3配位錯体の生成量の関係について説明する図である。同上、第2反応ステップの反応温度と粗生成物N3−9からN3−12のHPLCクロマトグラムについて説明する図である。同上、NH4NCSの量の最適化における原材料を説明する図である。同上、第2反応ステップにおけるNH4NCSの量の最適化について試験結果を説明する図である。同上、第2反応ステップにおける粗生成物N3−13からN3−15の収率、純度とNH4NCS量との関係について説明する図である。同上、NH4NCSの量と粗生成物N3−13からN3−15のHPLCクロマトグラムについて説明する図である。同上、ワンポット法による最終生成物N3−4、N3−15の吸収スペクトルについて説明する図である。本発明の比較例において、従来法における第1、第2ステップの反応について説明する図である。同上、従来法における第1、第2ステップの反応において使用した原材料について説明する図である。同上、従来法による粗生成物のHPLCクロマトグラムについて説明する図である。 本発明のルテニウム錯体の製造方法では、前記第1工程の反応後、前記反応容器中の溶液の温度を室温まで冷却する構成とするのがよい。このような構成によれば、異性体等の副生成物の生成量を減少させ、目的とするRu(dcbpy)2(NCS)2を高純度で得ることができる。 また、前記第1工程における加熱反応を温度105℃以上、120℃以下で行い、前記第2工程における加熱反応を、温度105℃以上、160℃以下で行う構成とするのがよい。このような構成によれば、温度105℃以上、120℃以下で行う前記第1工程における未反応の前記2,2’−ビピリジル−4,4’−ジカルボン酸は、温度105℃以上、160℃以下で行う前記第2ステップにおいて、前記三塩化ルテニウム(III)と反応して、前記シス−ジクロロ−ビス(2,2'−ビピリジル−4,4'−ジカルボン酸)ルテニウム(II)錯体を生成し、この錯体が前記イソチオシアン酸塩と反応して、前記シス−ジ(イソチオシアナト)−ビス(2,2'−ビピリジル−4,4'−ジカルボン酸)ルテニウム(II)錯体(Ru(dcbpy)2(NCS)2)を生成するので、異性体等の副生成物の生成量を減少させ、高純度で得ることができる。 また、沸点が温度105℃以上、160℃以下となるように前記極性有機溶媒と水を混合した混合液中で前記第2工程における加熱反応を行う構成とするのがよい。このような構成によれば、前記第2工程における加熱反応の温度を、前記極性有機溶媒と水の混合比によって制御することができ、異性体等の副生成物の生成量を減少させ、目的とするRu(dcbpy)2(NCS)2を高純度で得ることができる。例えば、前記極性有機溶媒は、沸点152℃を有するDMF(dimethyl formamide)である。 また、前記極性有機溶媒としてジメチルホルムアミドを使用する構成とするのがよい。このような構成によれば、汎用的な有機溶媒を使用して、目的とするRu(dcbpy)2(NCS)2を得ることができる。 また、前記第2工程の反応後、前記反応容器中の溶液から、精製処理によって、シス−ジ(イソチオシアナト)−ビス(2,2'−ビピリジル−4,4'−ジカルボン酸)ルテニウム(II)錯体を得る第3工程を有する構成とするのがよい。このような構成によれば、目的とするRu(dcbpy)2(NCS)2を高純度で得ることができる。 また、前記精製処理をクロマトグラフィーによって行う構成とするのがよい。このような構成によれば、短時間で単離、精製された純度の高いRu(dcbpy)2(NCS)2を得ることができる。 また、前記イソチオシアン酸塩を前記2,2’−ビピリジル−4,4’−ジカルボン酸(dcbpy)に対する化学量論比の8倍以上添加する構成とするのがよい。このような構成によれば、前記2,2’−ビピリジル−4,4’−ジカルボン酸(dcbpy)に対する化学量論比の理論値の8倍以上添加するので、異性体等の副生成物の生成量を減少させ、目的とするRu(dcbpy)2(NCS)2を高純度で得ることができる。 また、前記イソチオシアン酸塩が、イソチオシアン酸アンモニウム、イソチオシアン酸ナトリウム、イソチオシアン酸カリウムの何れかである構成とするのがよい。このような構成によれば、イソチオシアン酸塩を特定のものに限定する必要がない。 本発明のルテニウム錯体の製造方法は、中間生成物であるRu(dcbpy)2Cl2を合成する第1ステップと、Ru(dcbpy)2(NCS)2を合成する第2ステップからなり、Ru(dcbpy)2Cl2の合成後、Ru(dcbpy)2Cl2を単離、精製する処理を行うことなく、第1及び第2ステップを同一の反応容器内で行うワンポット合成(One-pot synthesis)(以下、ワンポット法ということがある。)による製造方法である。 このワンポット法では、中間生成物であるRu(dcbpy)2Cl2の単離、精製をしないので、簡略な操作処理によってRu(dcbpy)2(NCS)2を合成することができ、合成の中間生成物の単離、精製に伴う複雑な長時間を必要とする操作処理が不要であり、中間生成物の単離、精製に伴う収率の低下が生じない。ワンポット法における第1及び第2ステップの各合成反応に対して、反応温度、反応混合物の組成比等の反応条件を最適化することによって、全体の合成時間を短縮化することができる。 第1ステップの反応温度を105℃以上、120℃以下、より好ましくは、105℃以上、116℃以下とすることによって、中間生成物であるRu(dcbpy)2Cl2の合成を十分に進行させて、第1ステップの反応温度を170℃〜180℃とする場合に比べて、目的分子であるRu(dcbpy)2(NCS)2の純度を約2倍以上に向上させることができる。第1ステップの反応温度が120℃を超えると、目的分子以外の副生成物が析出物として顕著に生成されるので、より好ましくは、第1ステップの反応温度を、この副生成物が析出し始める温度116℃を越えない温度とする。 また、第2ステップの反応温度を150℃〜160℃とし、第2ステップの反応に添加されるNH4NCSの量をdcbpyに対する化学量論比の理論値の8倍過剰として、目的分子以外の異性体等の副生成物の生成を抑制させて、dcbpyと同じモル数のH4NCSを添加する場合に比べて、目的分子であるRu(dcbpy)2(NCS)2の粗生成物(crude product)の純度を約2倍に向上させることができる。 目的とするRu(dcbpy)2(NCS)2の合成過程では反応副生成物が形成されるが、ワンポット法では、ワンポット法における第1及び第2ステップの各合成反応の反応条件を最適化することによって、異性体の生成量を減少させることができ、目的とするRu(dcbpy)2(NCS)2を高収率、高純度、低コストで得ることができる。 以下、図面を参照しながら本発明による実施の形態について詳細に説明する。 <実施の形態> 以下の図面を含む説明において、「dcbpy」又は「L」は、2,2’−ビピリジル−4,4’−ジカルボン酸(2,2'-bipyridyl-4,4'-dicarboxylic acid)、又は、4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジン(4,4'-dicarboxyl-2,2'-bipyridine)とも呼ばれる配位子を示す。 先ず、本発明の実施の形態におけるワンポット法の概要と、このワンポット法と従来法による合成法の比較について説明する。 [ワンポット法によるRu(dcbpy)2(NCS)2の合成と従来法による合成法の比較] 図1は、本発明の実施の形態において、ワンポット法と従来法による合成法の比較について説明する図であり、図1(A)はワンポット法、図1(B)は従来法について説明する図であり、図1(C)は反応に係わる化合物の構造を示す図である。 図2は、本発明の実施の形態において、同一反応容器内で実行されるワンポット法による合成法について説明する図である。 図1(A)、図2に示すように、ワンポット法は、同一の反応容器内で実行される第1ステップと第2ステップからなる。第1及び第2ステップの全体の反応に係る化学量論比は、RuCl3:dcbpy;Ru(dcbpy)2Cl2:NH4NCS:Ru(dcbpy)2(NCS)2=1:2:1:2:1である。 第1ステップでは、Ru(dcbpy)2(NCS)2 は、dcbpyとRuCl3(三塩化ルテニウム、Ruthenium(III) trichloride)をDMF(溶媒)(dimethyl formamide)中に溶解させ、暗条件下、不活性ガス(希ガス又は窒素(N2))雰囲気下で溶媒を還流させて所定の温度、例えば、105℃以上、120℃以下で、少なくとも6時間、反応させ、Ru(dcbpy)2Cl2(cis-dichloro-bis(2,2'-bipyridyl-4,4'-dicarboxylic acid)ruthenium(II)complex)の合成反応が実行される。 第2テップでは、第1ステップが実行された同じ反応容器内に、Ru(dcbpy)2Cl2 とNH4NCS(イソチオシアン酸アンモニウム、ammonium isothiocyanate)をDMF水溶液(DMFと水の混合溶媒)中に溶解させ、暗条件下、不活性ガス(希ガス又は窒素(N2))雰囲気下で溶媒を還流させて所定の温度、例えば、105℃以上、160℃以下で、少なくとも4時間、反応させ、Ru(dcbpy)2(NCS)2(cis-di(isothiocyanato)-bis(2,2'-bipyridyl-4,4'-dicarboxylic acid)ruthenium(II)complex)の合成反応が実行される。なお、この所定の温度は、DMF水溶液(DMFと水の混合溶媒)中のDMFの含有比(体積比)によって制御される。 図1(A)に示す1つの太い線で囲まれる反応は、単一の反応容器内で実行される。ワンポット法では、第1ステップで生成されたRu(dcbpy)2Cl2の単離、精製を実行することなく、第2ステップが実行され、最終的に生成されたRu(dcbpy)2(NCS)2が回収され、単離、精製される。 図1(B)に示すように、従来法による合成法では、図1(A)に示すワンポット法における第1及び第2ステップと同様の合成反応を実行するが、第1ステップで生成されたRu(dcbpy)2Cl2の単離、精製を実行した後に、第2ステップが実行され、最終的に生成されたRu(dcbpy)2(NCS)2が回収され、単離、精製される。 図1(B)に示す太い線で示すように、従来法による合成法では、第1ステップ及び第2ステップにおける各合成反応は、別の反応容器内で実行される。従来法による合成法では、Ru(dcbpy)2Cl2の単離、精製を実行するために生じる収率の低下を招いてしまうという欠点がある。 図1(A)、図2に示すワンポット法では、第1ステップの合成反応は温度105℃以上、120℃以下の加熱反応、第2ステップの合成反応は温度105℃以上、160℃以下の加熱反応で行うのが好ましい。また、最終的に生成されたRu(dcbpy)2(NCS)2の単離、精製処理は、クロマトグラフィーによって行うのが好ましい。また、第1及び第2ステップの合成反応で使用する有機溶媒として、DMFを使用することができる。 更に、第2ステップの合成反応で使用するイソチオシアン酸塩として、NH4NCSの他に、イソチオシアン酸ナトリウム(NaCNS,sodium isothiocyanate)、イソチオシアン酸カリウム(KCNS,potassium isothiocyanate)を使用することもでき、イソチオシアン酸塩をdcbpyに対する化学量論比の理論値の8倍以上添加するのが好ましい。 図3は、本発明の実施の形態において、ワンポット法による合成工程についてより詳細に説明する図である。 [第1ステップ(Ru(dcbpy)2Cl2の合成)] 図3(1)に示すように、ワンポット法における第1ステップでは、冷却器を備えた三つ首フラスコにDMF(溶媒)、及び、RuCl3・3H2Oを入れて、RuCl3・3H2Oを溶解させ(工程(1−1))、dcbpyを添加する(工程(1−2))。次いで、暗条件下、不活性ガス雰囲気下で溶媒を還流させて所定の温度、例えば、105℃以上、120℃以下で、所定の時間、例えば、8時間、反応させ、Ru(dcbpy)2Cl2を生成させ(工程(1−3))、冷却する(工程(1−4))。 [第2ステップ(Ru(dcbpy)2(NCS)2の合成)] 図3(2)に示すように、第2ステップでは、第1ステップによって合成されたRu(dcbpy)2Cl2を含む三つ首フラスコ内の溶液中に、NH4NCS水溶液を添加する(工程(2−1))。次いで、暗条件下、不活性ガス雰囲気下で溶媒を還流させて所定の温度、例えば、105℃以上、160℃以下で、所定の時間、例えば、4時間、反応させ、Ru(dcbpy)2(NCS)2を生成させる(工程(2−2))。 [Ru(dcbpy)2(NCS)2の単離、精製] 以下に説明する工程(2−3)〜工程(2−11)によって、第2ステップによって合成されたRu(dcbpy)2(NCS)2を含む三つ首フラスコ内の溶液から、Ru(dcbpy)2(NCS)2が回収され、単離、精製される。 工程(2−2)の終了後、反応溶液を冷却し(工程(2−3))、Ru(dcbpy)2(NCS)2を含む三つ首フラスコ内の溶液は、ロータリーエバポレータを用いて溶媒を除去する(工程(2−4))。この工程(2−4)によって生じた残渣はNaOH水溶液に溶解され(工程(2−5))、濾過される(工程(2−6))。工程(2−6)による濾過液にHNO3を添加してpH=3.5とし、固相(Ru(dcbpy)2(NCS)2を含む。)を析出させ(工程(2−7))、次いで、冷蔵庫中で終夜冷却する(工程(2−8))。 次いで、冷蔵庫から取り出し、濾過によって固相(Ru(dcbpy)2(NCS)2を含む。)を回収し(工程(2−9))、この固相を真空デシケータ中で乾燥させる(工程(2−10))。最後に、分取HPLC(HPLC:High performance liquid chromatography、高速液体クロマトグラフィー)によって、精製されたRu(dcbpy)2(NCS)2を得る(工程(2−11))。 [ワンポット法と従来法による合成法との相違] 従来法による合成法では、第1ステップ(Ru(dcbpy)2Cl2の合成)の後に、Ru(dcbpy)2Cl2 の精製のため、濾過処理、及び、再結晶処理が実行されるが、本発明のワンポット法では、これらの精製のためのプロセスは省略される。ワンポット法では、少なくとも次の3つの利点がある。 (1)中間生成物であるRu(dcbpy)2Cl2の単離、精製処理を実行しないので、この単離、精製処理によって生じる収率の低下を招くことがない。 (2)全ての合成反応の後に、HPLC(高速液体クロマトグラフィー)によって、目的とする生成物に含まない、dcbpyの1配位錯体や3配位錯体、トランス型異性体、S−型異性体等の副生成物(不純物)に生じる損失がないので、粗生成物の純度が正確に反映された分析を行うことができる。反応因子と原材料の組成比により、粗生成物の純度を向上させることができ、収率を向上させることができる。 (3)ワンポット法による合成の全体は3日以内に終了することができるが、従来法による合成方法では、1週間以上を必要とする。合成時間の短縮は、製造コストの低下に非常に有益である。 以上のようにして合成されたRu(dcbpy)2(NCS)2は、色素増感型光電変換装置、代表的には、色素増感型太陽電池に適用することができる。 [合成されたRu(dcbpy)2(NCS)2が適用される装置の例] 図4は、本発明の実施の形態において合成された増感色素(Ru(dcbpy)2(NCS)2)が適用される色素増感型太陽電池の構成を説明する模式断面図である。 色素増感型太陽電池(DSSC)について簡単に説明する。DSSCは、太陽光11が入射される側に配置された光電極と、これに対向する対向電極と、両極間に保持された電解質溶液16から構成されている。光電極は、光電極側透明基板12上に形成された光電極側透明電導膜13によって形成され、光電極側透明電導膜13上には、増感色素が担持されたナノサイズの酸化チタン(TiO2)半導体多孔質膜14が形成されている。増感色素は、例えば、ルテニウムビピリジル錯体である。対向電極は、図示しない電解質溶液注入孔が形成されている対向極側基板18上に形成された対向電極側電導膜17によって形成されている。 封止剤15によって両電極(光電極側透明電導膜13と光電極側透明基板12からなる光電極、対向電極側電導膜17と対向極側基板18からなる対向電極)が接合され、対向極側基板18に形成された図示しない電解質溶液注入孔から、電解質溶液16が両電極間に注入された後、電解質溶液注入孔が封止される。 このようにして、例えば、I- とI3- のレドックス系がニトリル系の溶媒に溶解された溶液からなる、電解質溶液16は、光電極側透明電導膜13と対向電極側電導膜17の間に保持される。 DSSCの光電極に太陽光11が照射されると、増感色素の基底状態にある電子が励起され励起状態へと遷移し、励起状態の電子は、酸化チタンの価電子帯に移って、酸化チタン半導体の伝導帯へ注入され、光電極に到達する。 一方、電子を失った増感色素は、電解質溶液中の還元剤、例えば、ヨウ化物イオンI- から下記反応 3I- ⇒ I3- +2e-によって電子を受け取り、電解質溶液中に酸化剤、例えば、三ヨウ化物イオンI3- (I2 とI- との結合体)を生成させる。生じた酸化剤は拡散によって対向電極に到達し、上記反応の逆反応 I3- +2e- ⇒ 3I-によって対向電極から電子を受け取り、もとの還元剤に還元される。 透明導電層から外部回路へ送り出された電子は、外部回路で電気的仕事をした後、対向電極に戻る。このようにして、増感色素にも電解質溶液にも何の変化も残さず、光エネルギーが電気エネルギーに変換される。このような過程の繰り返しによって、光が電流に変換されて電気エネルギーが外部に取り出される。 光電極側透明基板12として、例えば、石英、サファイア及びガラス等の透明無機基板、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリカーボネート、ポリプロピレン、ポリフェニレンサルファイド、ポリフッ化ビニリデン、ポリイミド、ポリスルフォン、ポリオレフィン等の透明プラスチック基板を使用することができる。これらは、対向電極側基板18としても使用することができる。 光電極側透明導電膜13として、例えば、インジウム−スズ複合酸化物(ITO)、フッ素ドープSnO2(FTO)、アンチモンドープSnO2(ATO)、SnO2 等を使用することができる。 半導体多孔質膜14を構成する半導体材料は、光励起下で伝導帯電子がキャリアとなり、アノード電流を生じるn型半導体材料であることが好ましく、アナターゼ型の酸化チタンTiO2 が好ましいが、この他に、例えば、MgO、ZnO、SnO2、WO3、Fe2O3、In2O3、Bi2O3、Nb2O5、SrTiO3、BaTiO3、ZnS、CdS、CdSe、CdTe、PbS、CuInS、InP等を使用することができる。 半導体微粒子に担持させる増感色素としては、本発明によって合成されるRuビピリジン錯化合物は量子収率が大きく好適に使用される。 電解質溶液16は、少なくとも1種類の可逆的に酸化/還元の状態変化を起す酸化還元系(レドックス対)が溶媒に溶解されたものである。レドックス対は、例えば、I-/I3-、Br-/Br2 等のハロゲン類、キノン/ハイドロキノン、SCN-/(SCN)2 等の擬ハロゲン類、鉄(II)イオン/鉄(III)イオン、銅(I)イオン/銅(II)イオン等である。 より具体的には、電解質として、例えば、ヨウ素(I2)と金属ヨウ化物又は有機ヨウ化物の組合せ、臭素(Br2)と金属臭化物又は有機臭化物の組合せを使用することができる。金属ハロゲン化物塩を構成するカチオンは、Li+、Na+、K+、Cs+、Mg2+、Ca2+ 等であり、有機ハロゲン化物塩を構成するカチオンは、テトラアルキルアンモニウムイオン類、ピリジニウムイオン類、イミダゾリウムイオン類等の第4級アンモニウムイオンが好適である。 この他、電解質として、フェロシアン酸塩とフェリシアン酸塩の組合せ、フェロセンとFe(C5H5)2+イオンの組合せ、ポリ硫化ナトリウム又はアルキルチオールとアルキルジスルフィドの組合せ等を使用することができる。これのうち、ヨウ素(I2)と、ヨウ化リチウム(LiI)、ヨウ化ナトリウム(NaI)、又は、イミダゾリウムヨーダイド等のイミダゾリウム化合物を組合せた電解質が好適である。 電解質溶液16の溶媒として、例えば、アセトニトリル等のニトリル系、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート等のカーボネート系、ガンマブチロラクトン、ピリジン、ジメチルアセトアミド、その他の極性溶媒、メチルプロピルイミダゾリウム−ヨウ素(MPII)等のイオン性液体或いはそれらの混合物を使用することができる。 なお、電解質溶液中の電子複合を防ぎ、開放電圧や短絡電流を向上させる目的で添加剤を加えてもよい。この添加剤としては、tert−ブチルピリジン、1−メトキシベンゾイミダゾール、長鎖アルキル基をもつカルボン酸等が用いられる。 対向電極側導電膜17は電気化学的に安定であることが望ましく、例えば、白金、金、カーボン、導電性ポリマー等を用いることができる。 <実施例> 目的とする分子(以下、目的分子という。)であるRu(dcbpy)2(NCS)2の収率、粗生成物の純度を向上させるためには、ワンポット法によって合成された最終生成物に含まれる、dcbpyの1配位錯体や3配位錯体、トランス型異性体、S−型異性体等の副生成物(不純物)の生成を抑制することが重要である。 ワンポット法における、第1反応ステップ(Ru(dcbpy)2Cl2の合成)、及び、第2反応ステップ(Ru(dcbpy)2(NCS)2の合成)に関する反応条件の最適条件を検討し、Ru(dcbpy)2(NCS)2を合成した。[ワンポット法の反応条件の最適条件を求める実験における共通事項] 先ず、ワンポット法の第1及び第2反応ステップに関する反応条件の最適条件を求める実験において、共通する反応条件について説明する。 [第1ステップ(Ru(dcbpy)2Cl2の合成)] RuCl3・3H2OをDMF(溶媒)100mLに溶解し丸底フラスコに入れ、丸底三つ首フラスコをアルミ箔で包み、遮光下、Arガス雰囲気下で溶液を15分間攪拌した後、溶液にdcbpyを添加して、遮光下、Arガス雰囲気下で還流を行い8時間加熱した。 [第2ステップ(Ru(dcbpy)2(NCS)2の合成)] 第1ステップの反応後、丸底三つ首フラスコ中の溶液を室温まで冷却した後、NH4NCSを丸底三つ首フラスコに添加して、遮光下、Arガス雰囲気下で4時間、還流を行った。 [Ru(dcbpy)2(NCS)2の単離、精製] 第2ステップの反応後、丸底三つ首フラスコ中の溶液を室温まで冷却した後、ロータリーエバポレータを用いて溶媒を除去し、丸底三つ首フラスコ中の残滓を溶液(0.5M NaOH10mL+H2O 20mL)に溶解し、この溶液をフィルターにかけ濾過した。 濾過された溶液に1M HNO3を添加し、PH=1.7の酸性とし、固相(錯体)を析出させた。更に、夜通し冷蔵庫(−17.5℃)に入れて、固相を十分に沈殿させた。この固相をフィルターにかけて回収し、真空デシケータ中で乾燥させて、粗生成物を得た。 次に、第1ステップの反応温度の最適条件を求めるための実験について説明する。 [第1反応ステップ(Ru(dcbpy)2Cl2の合成)の反応温度の最適化] [第1ステップ(Ru(dcbpy)2Cl2の合成)] DMF(溶媒)100mLに溶解したRuCl3・3H2Oを丸底三つ首フラスコに入れ、丸底三つ首フラスコをアルミ箔で包み、遮光下、Arガス雰囲気下で溶液を15分間攪拌した後、溶液にdcbpyを添加して、遮光下、Arガス雰囲気下で8時間、溶媒を加熱、還流させた。この溶媒の加熱を異なる温度とし、低温から高温の異なる反応温度で第1ステップの合成反応を実行した。 第1ステップの合成反応後に実行される、第2ステップの合成反応とこの終了後実行される処理は、次の通りである。 [第2ステップ(Ru(dcbpy)2(NCS)2の合成)] 第1ステップの合成反応後、丸底三つ首フラスコ中の溶液を室温まで冷却した後、H2O 30mLに溶解したNH4NCSを丸底三つ首フラスコに添加して、遮光下、Arガス雰囲気下、4時間、温度110℃で、還流を行い、第2ステップの合成反応を実行した。 [Ru(dcbpy)2(NCS)2の単離、精製] 第2ステップの合成反応後、丸底三つ首フラスコ中の溶液を室温まで冷却した後、ロータリーエバポレータを用いて溶媒を除去し、丸底三つ首フラスコ中の残滓を溶液(0.5M NaOH 10mL+H2O 20mL)に溶解した後、フィルターにかけ濾過した。次いで、濾過された溶液に1M HNO3を添加し、PH=1.7の酸性とし、固相(錯体)を析出させ、更に、夜通し冷蔵庫(−17.5℃)に入れて、固相を十分に沈殿させた。この固相をフィルターにかけて回収し、真空デシケータ中で乾燥させて、粗生成物を得た。 この粗生成物を分取HPLC(高速液体クロマトグラフィー)によって精製されたRu(dcbpy)2(NCS)2を得た。 図5は、本発明の実施例において、第1反応ステップにおける反応条件(反応温度)の最適化において使用した原材料を説明する図である。 図5に示すように、dcbpyの添加量をRuCl3・3H2Oに対する化学量論比の理論値とし、NH4NCSをdcbpyに対する化学量論比の理論値の1.2倍添加している。 図6は、本発明の実施例において、第1反応ステップの反応温度の最適化について試験結果を説明する図であり、反応温度、Ru(dcbpy)2(NCS)2の粗生成物の純度、真収率を示している。図6において、粗生成物の純度はHPLCによって求められた値を示し、真収率はHPLCによって求められた純度を考慮した値を示している。 なお、図6、後述する図8、図9、図12、図15、図17〜図20に示すN3−i(i=1〜15)は試験番号を示し、「N3」は「Ru(dcbpy)2(NCS)2」を示している。 図7は、本発明の実施例において、第1反応ステップの反応温度と生成物N3−1〜N3−8の粗生成物の収率、純度の関係を説明する図であり、図6をグラフ化したものである。 図7において、横軸は第1ステップの反応温度、左側の縦軸は粗生成物の純度、右側の縦軸は真収率を示す。図7に示すように、粗生成物の純度、真収率は反応温度の上昇に略比例して低下し、第1反応ステップの反応温度が低いほど粗生成物の純度は大きくなっている。 例えば、反応温度を124℃、92℃、50℃と低温度とした場合の真収率はそれぞれ、反応温度を178℃とした場合の真収率の3.60倍、5.00倍、9.45倍と大幅に向上する。また、反応温度を178℃から50℃と低温にすることによって、粗生成物の純度は約2.7倍向上する。 図8は、本発明の実施例において、第1反応ステップの反応温度と粗生成物N3−1〜N3−4のHPLCクロマトグラムについて説明する図である。 図9は、本発明の実施例において、第1反応ステップの反応温度と粗生成物N3−5〜N3−8のHPLCクロマトグラムについて説明する図である。 図8、図9において、横軸は溶出時間(min)、縦軸は強度(任意スケール)を示し、HPLCクロマトグラムには、反応温度、生成した不純物、粗生成物の純度が付記されている。 図7、図8に示すように、HPLCクロマトグラムは、目的分子Ru(dcbpy)2(NCS)2(dcbpyの2配位錯体のシス型異性体(cis-form isomer))に由来するメインピーク、不純物1(dcbpyの3配位錯体(tri-ligand complex))に由来するピーク、不純物2(dcbpyの2配位錯体のトランス型異性体(trans-form isomer))、不純物3(dcbpyの2配位錯体のS型異性体(S-form isomer))、不純物4(dcbpyの1配位錯体(mono-ligand complex))にそれぞれ由来するピークを含んでいる。これらピークの位置は点線で示されており、後述する図15、図19、図23においても同様に示されている。 なお、図7、図8、後述する図15、図19、図23に示すHPLCクロマトグラムは、異なる試料によるクロマトグラムをトレースして同一の時間軸で示したものである。これらの図は、トレース図作成時のずれを含むので、クロマトグラムのピーク位置の厳密な比較を意図するものではなく、異なる試料の間におけるクロマトグラムのピーク強度の相対的な比較を意図するものである。 図7、図8に示すように、124℃を超える反応温度では、粗生成物の収率を決めるキー因子は、粗生成物に含まれる3配位錯体である。この3配位錯体は、124℃未満の低温の反応温度では明らかに減少している。また、反応温度が120℃と105℃の間にあった場合は、3配位錯体は形成されなかった。 反応温度が105℃よりも低下した場合には、3配位錯体とは別の沈殿が生成した。3配位錯体は暗赤色であるが、この別の沈殿はうすい赤色を呈し、殆どピンク色である。これは原材料のdcbpyの色に起因しており、dcbpyのDMF(ジメチルホルムアミド)に対する低溶解度による。105℃以下の低い反応温度では第1ステップの合成反応は完了していないと結論することができる。反応温度が105℃と50℃の間で得られたHPLCクロマトグラムは、殆ど同じであり各不純物の比も類似している。 この結果から、第2ステップでは、Ru(dcbpy)2Cl2のClは、NCSだけではなく、dcbpyで置換されることを示している。第2ステップの反応条件では、dcbpy、Ru(dcbpy)2Cl2、Ru(dcbpy)2(NCS)2の3者の間での平衡は、目的分子Ru(dcbpy)2(NCS)2の方向に向かう。 従来法による合成における第1ステップでは、120℃と105℃の間の反応温度が好ましく、最も少ない3配位錯体の生成を伴って、合成反応が完了する。これに対して、ワンポット法における第1ステップにおける反応温度は、120℃と50℃の間の温度がより好ましく、より低温の反応温度での第1ステップにおける完了していない反応は、第2ステップにおいて完了する。 非特許文献3では、第1ステップの反応温度を179℃〜180℃としているが、Ru(dcbpy)2(NCS)2の収率、純度を向上させるためには、上述のように反応温度を105℃以上、120℃以下で実行することが好ましい。 以上説明した、ワンポット法における第1ステップでの反応温度と反応の進行状態、最終生成物に含まれる不純物の生成、及び、第1ステップでの反応温度の評価に関する事項を整理すると、次に示す図10のようになる。 図10は、本発明の実施例において、第1反応ステップの反応温度と、不純物の生成について説明する図である。 図10に示すように、120℃より高い第1ステップの反応温度は、合成反応が過度に進行してしまい、3配位錯体が不純物として生成するので、不適当である。 105℃以上、120℃以下の第1ステップの反応温度は、合成反応が適度に進行し、不純物の生成が抑制され、第2ステップの反応の進行にも好適である。 50℃以上、105℃以下の第1ステップの反応温度は、合成反応の進行が不完全であり、未反応のdcbpyが残存するが、この未反応のdcbpyは第2ステップにおける105℃以上の温度でRuCl3と反応して、Ru(dcbpy)2Cl2を生成し、これがイソチオシアン酸と反応して、Ru(dcbpy)2(NCS)2を生成するので、適切なものである。 以上が、第1ステップの反応温度の最適条件を求めるための実験結果である。 次に、ワンポット法における第2ステップの反応条件(第2ステップの反応温度、及び、第2ステップにおけるNH4NCSの量)の最適条件を求めるための実験について説明する。 [第2反応ステップ(Ru(dcbpy)2(NCS)2の合成)の反応条件の最適化] 第1ステップの反応温度の設定条件によっては、多量の3配位錯体不純物が形成されることがあり、第1ステップの反応温度は粗生成物の純度と収率に対して非常に重要である。また、第2ステップの反応温度の設定条件によっては、種々の異性体が第2ステップで生成される。 これらの異性体が生成される量は、最終生成物(合成試料)の純度に関して決定的な要因となり、真収率とコストとを決まる。従って、第1ステップにおける不純物の生成の抑制と同様に、第2ステップにおける不純物の生成の抑制が重要である。 [第2ステップの反応温度の最適化] [第1ステップ(Ru(dcbpy)2Cl2の合成)] RuCl3・3H2OをDMF(溶媒)100mLに溶解し、温度計付の三つ首フラスコに入れ、三つ首フラスコをアルミ箔で包み、遮光下、Arガス雰囲気下で溶液を15分間攪拌した後、溶液にdcbpyを添加して、遮光下、Arガス雰囲気下で8時間、116℃で加熱した。 [第2ステップ(Ru(dcbpy)2(NCS)2の合成)] 第1ステップの反応後、三つ首フラスコ中の溶液を室温まで冷却する。更に、NH4NCSとH2Oを添加して、混合溶媒(DMF水溶液)による反応系を調製した。この反応系を調製する際、H2Oの添加量を変えて、混合溶媒中のDMFの含有比が異なる反応系を調製した。 この反応系を、遮光下、Arガス雰囲気下で4時間、還流、攪拌した。この反応系の還流温度(第2ステップの反応温度)は、DMF水溶液(DMFと水の混合溶媒)中のDMFの含有比によって制御される。 [Ru(dcbpy)2(NCS)2の単離、精製] 第2ステップの反応後、三つ首フラスコ中の溶液を室温まで冷却した後、ロータリーエバポレータを用いて溶媒を除去し、三つ首フラスコ中の残滓に溶液(5mL 0.5M NaOH+10mL H2O)を添加し、この溶液に超音波を10分間、印加した。 次に、この溶液をフィルターにかけ濾過した後、濾過された溶液に1M HNO3を添加し、PH=1.7の酸性とし、固相(錯体)を析出さた。 次に、夜通し冷蔵庫(−17.5℃)に入れて、固相を十分に沈殿させた。この固相をブフナーロート(吸引ロート)にかけ回収し真空デシケータ中で乾燥させ、粗生成物を得た。 図11は、本発明の実施例において、第2反応ステップにおける反応条件(反応温度)の最適化において使用した原材料を説明する図である。 図11に示すように、dcbpyの添加量をRuCl3・3H2Oに対する化学量論比の理論値の2.05倍とし、NH4NCSをdcbpyに対する化学量論比の理論値の2.9倍添加している。 図12は、本発明の実施例において、第2反応ステップの反応の溶媒比率と反応温度の最適化について説明する図である。 図13は、本発明の実施例において、第2反応ステップの反応系におけるDMFの量と反応温度と3配位異性体の量との関係について説明する図であり、図12をグラフ化したものである。 図14は、本発明の実施例において、第2反応ステップの反応温度と3配位錯体の生成量の関係について説明する図であり、図13をグラフ化しなおしたものである。 図14に示すように、105℃〜125℃の低温では3配位錯体の生成量は少なく、106℃以上では反応温度に略比例して3配位錯体の生成量が増大している。 図15は、本発明の実施例において、第2反応ステップの反応温度と粗生成物N3−9〜N3−12のHPLCクロマトグラムについて説明する図である。図15において、横軸は溶出時間(min)、縦軸は強度(任意スケール)を示す。 第2ステップの反応温度は、DMF水溶液(DMFと水の混合溶媒)中のDMFの含有比(体積比)によって制御され、図12に示す温度である。なお、粗生成物N3-9を得た溶媒は、純DMFである。 図15に示すHPLCクロマトグラムには、第2ステップの反応温度と混合溶媒中のDMFの含有比(体積比)が示されている。図15に示すCommercialと記したサンプルは、Solaronix 社から購入した市販品(型番Ruthenium535)に関するHPLCクロマトグラムであり、少量の異性体を含んでいる。 図15に示すN3−9〜N−12の4つのHPLCクロマトグラムは、異なる組成の混合溶媒からなる反応系及び還流温度に関するものである。混合溶媒中のDMFの含有比が大きく、還流温度が高いほど、トランス型異性体(不純物2)の生成量は少なかった。 100%DMFの反応系でのトランス型異性体の生成量は最少であり、Sephadex(登録商標)LH-20 カラムクロマトグラフィーによって精製された市販品におけるトランス型異性体よりも少なかった。 図15に示すように、混合溶媒中のDMFの含有比が増大し、還流温度が高くなると共に、トランス型異性体(不純物2)の生成量は減少していくが、3配位錯体(不純物1)の生成量は、再び増大する。 図14に示すように、第2ステップの反応温度が、102℃、106℃、119℃、152℃と上昇すると、HPLCクロマトグラムにおけるピーク比(3配位異性体(不純物1)のピーク高/目的分子のピーク高)は、0.3、0.09、0.12、0.23と変化し、反応温度が高くなると共に、3配位錯体(不純物1)の生成量は減少していくが再び増大している。 また、ピーク比(トランス型異性体(不純物2)のピーク高/目的分子のピーク高)は、0.34、0.15、0.12、0.07と変化し、トランス型異性体(不純物2)の生成量は減少している。 目的分子Ru(dcbpy)2(NCS)2の粗生成物の純度を向上させるためには、第2ステップにおける2配位錯体から3配位錯体への変換を抑制することが必要となる。 [第2ステップにおけるNH4NCSの量の最適化] 後述するように、NH4NCSの量は、粗生成物における3配位錯体(不純物1)の生成に関して決定的な要因である。ワンポット法によらない従来技術による合成法では、NH4NCSをRu(dcbpy)2Cl2に対する化学量論比の約18倍(非特許文献3)、約5倍(非特許文献2、特許文献1、2、3)添加している。本発明では、ワンポット法による合成におけるNH4NCSの量に関する検討を行った。 [第1ステップ(Ru(dcbpy)2Cl2の合成)] DMF(溶媒)100mLに溶解し、温度計付の三つ首フラスコに入れ、三つ首フラスコをアルミ箔で包み、遮光下、Arガス雰囲気下で溶液を15分間攪拌した後、溶液にdcbpyを添加して、遮光下、Arガス雰囲気下で8時間、116℃で加熱した。 [第2ステップ(Ru(dcbpy)2(NCS)2の合成)] 第1ステップの反応後、三つ首フラスコ中の溶液を室温まで冷却し、溶媒DMFとNH4NCSを三つ首フラスコに添加して、反応系を調製した。 異なる反応系では、NH4NCSの添加量が異なる。この反応系を、遮光下、Arガス雰囲気下、4時間、152℃(溶媒DMFの沸点に相当する。)で、還流、攪拌した。 [Ru(dcbpy)2(NCS)2の単離、精製] 第2ステップの反応後、三つ首フラスコ中の溶液を室温まで冷却した後、ロータリーエバポレータを用いて溶媒を除去し、三つ首フラスコ中の残滓に溶液(10mL 0.5M NaOH+20mL H2O)を添加し、この溶液に超音波を10分間、印加した。 次に、この溶液をフィルターにかけ濾過した後、濾過された溶液に1M HNO3を添加し、PH=1.7の酸性とし、固相(錯体)を析出させた。 次に、夜通し冷蔵庫(−17.5℃)に入れて、固相を十分に沈殿させた。この固相をブフナーロート(吸引ロート)にかけ回収し真空デシケータ中で乾燥させ、粗生成物を得た。この粗生成物を分取HPLCによって精製された最終生成物を得た。 図16は、本発明の実施例において、第2反応ステップのNH4NCSの添加量の最適化における原材料を説明する図である。なお、図16におけるNH4NCSに関する数値は理論値を示す。 図16に示すように、dcbpyの添加量をRuCl3・3H2Oに対する化学量論比の理論値の2.05倍とし、NH4NCSをdcbpyに対する化学量論比の理論値と同量添加している。図16に示す原材料の組成を基準として、図17示すように、NH4NCSをdcbpyに対する化学量論比の理論値よりも、僅かに過少、僅かに過大、遥かに過大とした3通りについて、NH4NCSの添加量の収率に及ぼし影響を調べた。 図17は、本発明の実施例において、第2反応ステップにおけるNH4NCSの量の最適化について説明する図であり、反応溶液におけるNH4NCSの量(dcbpyに対する化学量論比の理論値を基準とした過剰量で示す。)、Ru(dcbpy)2(NCS)2の粗生成物の純度、真収率を示している。図17において、粗生成物の純度はHPLCによって求められた値を示し、「(粗生成物に含む目的分子の量/粗生成物の量)×100(%)」を意味する。真収率は、「(最終生成物の量/理論的な生成物の量)×100(%)」を意味する。 図18は、本発明の実施例において、第2反応ステップにおける粗生成物N3−13〜N3−15の収率、粗生成物の純度とNH4NCSの量との関係について説明する図であり、図17をグラフ化したものである。図18において、横軸は反応溶液におけるNH4NCSの量(過剰量)、左側の縦軸は粗生成物の純度、右側の縦軸は真収率を示す。 図19は、本発明の実施例において、第2反応ステップの反応温度と粗生成物N3−13〜N3−15のHPLCクロマトグラムについて説明する図である。図19において、横軸は溶出時間(min)、縦軸は強度(任意スケール)を示し、HPLCクロマトグラムには、粗生成物の純度、生成した不純物が付記されている。 図19に示す、NH4NCSをdcbpyに対する化学量論比の理論値の0.9倍、1.1倍、8倍だけ過剰に添加した場合に得られた粗生成物に関するHPLCクロマトグラムから、純度を向上させるためには、NH4NCSを過剰に添加することが好ましいことが分かる。 NH4NCSの量を変化させた実験による粗生成物のHPLC分析の結果を示す図19から、3配位錯体(不純物1)のピーク高さは、NH4NCSの添加量の増加と共に小さくなっており、NH4NCSの過剰な添加は、3配位錯体(不純物1)の生成を効果的に抑制していることが明らかとなった。 錯体N3−13における化学量論比に対する不十分なNH4NCSの添加は、多量の3配位錯体(不純物1)の生成を引き起こしている。これに対して、化学量論比に対して僅か過剰なNH4NCSの添加は、純度を大幅に改善している。化学量論比(理論量)の理論値に対して8倍の過剰量のNH4NCSを添加した場合には、3配位錯体(不純物1)は殆ど生成されず、粗生成物の純度は82.9%、真収率は47.9%に達した。 図20は、本発明の実施例において、ワンポット法による最終生成物N3−4、N3−15の吸収スペクトル(濃度1.2×10-5mol/Lのエタノール溶液)について説明する図であり、図20(A)はN3−4の吸収スペクトル、図20(B)はN3−15の吸収スペクトルである。図20において、横軸は波長(nm)、縦軸は吸収強度(任意スケール)を示す。N3−4、N3−15は、約295nm、370nm、515nmに極大吸収波長を有する吸収スペクトルを示した。 以上が、第2ステップの反応条件の最適条件を求めるための実験結果であり、この結果と先述した第1ステップの反応条件の最適条件化に基づいて、ワンポット法における最適な反応条件を設定することができる。 [最適化された反応条件によるワンポット法によるRu(dcbpy)2(NCS)2の合成] 次に説明する反応条件は、先述したN3−15を得た条件に基づくものである。 [第1ステップ(Ru(dcbpy)2Cl2の合成)] RuCl3・3H2OをDMF(溶媒)100mLに溶解し、温度計付の三つ首フラスコに入れ、三つ首フラスコをアルミ箔で包み、遮光下、Arガス雰囲気下で溶液を15分間攪拌した後、溶液にdcbpyを添加して、遮光下、Arガス雰囲気下で8時間、116℃で加熱した。 [第2ステップ(Ru(dcbpy)2(NCS)2の合成)] 第1ステップの反応後、夜通しかけて、三つ首フラスコ中の溶液を室温まで冷却し、溶媒DMFを三つ首フラスコに入れ、NH4NCSをdcbpyに対する化学量論比の理論値の8倍だけ過剰に添加した。この反応系を、遮光下、Arガス雰囲気下、4時間、152℃(溶媒DMFの沸点に相当する。)で、還流、攪拌した。 [Ru(dcbpy)2(NCS)2の単離、精製] 第2ステップの反応後、三つ首フラスコ中の溶液を室温まで冷却した後、ロータリーエバポレータを用いて溶媒を除去し、三つ首フラスコ中の残滓に溶液(10mL 0.5M NaOH+20mL H2O)を添加し、この溶液に超音波を10分間、印加した。 次に、この溶液をフィルターにかけ濾過した後、濾過された溶液に1M HNO3を添加し、PH=1.7の酸性とし、固相(錯体)を析出させた。 次に、夜通し冷蔵庫(−17.5℃)に入れて、固相を十分に沈殿させた。この固相をブフナーロート(吸引ロート)にかけ回収し真空デシケータ中で乾燥させ、粗生成物を得た。この粗生成物を分取HPLCによって精製された最終生成物を得た。 このようにして得られた粗生成物の純度は83%、真収率は48%であった。また、加温反応時間は、12時間である。 <比較例> 上述したワンポット法によらず、従来法と同様に方法によりRu(dcbpy)2(NCS)2を合成した。 図21は、本発明の比較例において、従来法における第1、第2ステップの反応について説明する図であり、図21(A)は第1ステップ反応、図21(B)は第2ステップ反応である。 図22は、本発明の比較例において、従来法における第1、第2ステップの反応において使用した原材料について説明する図であり、図22(A)は第1ステップ、図22(B)は第2ステップに関するものである。なお、図22(A)におけるRuL2Cl2に関する数値、図22(B)におけるRuL2(NCS)2に関する数値はそれぞれ、理論値を示す。 第1ステップにおいて、dcbpyの添加量をRuCl3・3H2Oに対する化学量論比の理論値とした。第2ステップにおいて、NH4NCSをRuL2Cl2に対する化学量論比の理論値の2.2倍使用した。 [第1ステップ(Ru(dcbpy)2Cl2の合成)] RuCl3・3H2OをDMF(溶媒)100mLに溶解し三つ首フラスコに入れ、30分間、窒素ガスを三つ首フラスコに流した後、dcbpyを三つ首フラスコに入れた。三つ首フラスコをアルミ箔で包み、遮光下、窒素ガス雰囲気下で溶液を磁気攪拌子(magnetic stirrer)で攪拌しながら、180℃で8時間、還流した。 [Ru(dcbpy)2Cl2の単離、精製] 第1ステップの反応後、三つ首フラスコを室温まで冷却した。溶液をブフナーロート(吸引ロート)にかけ濾過した。三つ首フラスコを超音波洗浄槽に入れて、三つ首フラスコの内壁の固相をDMFで洗い落とした。 濾液が透明になるまでに、DMF溶液とメタノールで固相をそれぞれに洗浄した。 ロータリーエバポレータを用いて溶媒を除去する。残渣に2N HCl水溶液 40mLを添加し、4時間攪拌した。この攪拌溶液をブフナーロートに通し、固相を水で洗浄した。ブフナーロートで集められた固相を真空下で乾燥させ、固相として得られたRu(dcbpy)2Cl2 は、0.61gであり、粗収率は48.4%(=0.61/1.26)であった。 [第2ステップ(Ru(dcbpy)2(NCS)2の合成)] NH4NCSを水 10mLに溶解し100mLの三つ首フラスコに入れ、更に、DMF 20mLを加え、窒素ガスで15分間泡立てた。Ru(dcbpy)2Cl2をDMF 20mLに溶解し三つ首フラスコに入れ、三つ首フラスコをアルミ箔で包み、遮光した。三つ首フラスコ中の溶液を、窒素ガス雰囲気下、5時間、119℃で還流、攪拌した。 [Ru(dcbpy)2(NCS)2の単離、精製] 第2ステップの反応後、三つ首フラスコ中の溶媒を、ロータリーエバポレータを用いて65℃の浴温度で溶媒を除去した。フラスコに、1N NaOH溶液 10mLと水 4mLを加えて、磁気攪拌子(magnetic stirrer)で攪拌した。固相が全て溶解した後、1N HNO3を加えて、溶液をpH=1.7の酸性とした。 暗赤色の固相が生成した溶液を10分間攪拌した後、これを冷蔵庫(−17.5℃)に3時間入れて、暗赤色の細かい固相を析出させた。この固相を含む溶液を遠心管に入れて、5030rpmで5分間、遠心分離機にかけた。 遠心管中の上澄み溶液をピペットで吸引除去した後、固相を、pH=1.7の酸性水、及び、ジエチルエーテルと石油エーテルの混合溶液(混合比=1:1)20mLを用いて、遠心管中の上澄み溶液層が透明となるまで洗浄した。遠心管を蒸気キャビナット中に保持して、夜通し真空中に乾燥した。 この結果、固相として得られたRu(dcbpy)2(NCS)2 は、0.52gであり、粗収率は80%(=0.52/0.65)であった。また、加温反応時間は、13時間である。 図23は、本発明の比較例において、従来法による粗生成物のHPLCクロマトグラムについて説明する図である。図23において、横軸は溶出時間(min)、縦軸は強度(任意スケール)を示す。 以上説明したように、本発明によれば、従来法による合成法おける中間性生物であるRu(dcbpy)2Cl2の単離、精製処理を行うことなく、これら処理に要する時間を不要とし、ワンポット法によって、Ru(dcbpy)2(NCS)2を従来法による合成法よりも短時間で合成することができた。 また、ワンポット法における第1ステップ、及び、第2ステップの反応条件の最適化によって、粗生成物の純度を80%まで、真収率を48%まで高めることができた。 以上、本発明を実施の形態について説明したが、本発明は上述の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づいて各種の変形が可能である。 本発明によって製造されたルテニウム錯体は、色素増感型太陽電池等の色素増感光電変換装置に好適に適用することができる。11…太陽光、12…光電極側透明基板、13…光電極側透明導電膜、14…TiO2 半導体多孔質膜、15…封止剤、16…電解質溶液、17…対向電極側電導膜、18…対向極側基板 三塩化ルテニウム(III)と2,2’−ビピリジル−4,4’−ジカルボン酸を、極性有機溶媒を含む反応容器中で加熱反応させて、シス−ジクロロ−ビス(2,2'−ビピリジル−4,4'−ジカルボン酸)ルテニウム(II)錯体を生成させる第1工程と、この第1工程の反応後、生成された前記シス−ジクロロ−ビス(2,2'−ビピリジル−4,4'−ジカルボン酸)ルテニウム(II)錯体を含む前記反応容器中の溶液に、イソチオシアン酸塩を添加して、前記シス−ジクロロ−ビス(2,2'−ビピリジル−4,4'−ジカルボン酸)ルテニウム(II)錯体と前記イソチオシアン酸塩を加熱反応させてシス−ジ(イソチオシアナト)−ビス(2,2'−ビピリジル−4,4'−ジカルボン酸)ルテニウム(II)錯体を生成させる第2工程とを有し、 前記第1工程における加熱反応を温度105℃以上、120℃以下で行い、前記第2工程における加熱反応を、温度105℃以上、160℃以下で行う、ルテニウム錯体の製造方法。 前記第1工程の反応後、前記反応容中の溶液の温度を室温まで冷却する、請求項1に記載のルテニウム錯体の製造方法。 沸点が温度105℃以上、160℃以下となるように前記極性有機溶媒と水を混合した混合液中で前記第2工程における加熱反応を行う、請求項1に記載のルテニウム錯体の製造方法。 前記極性有機溶媒としてジメチルフォルムアミドを使用する、請求項1に記載のルテニウム錯体の製造方法。 前記第2工程の反応後、前記反応容器中の溶液から、精製処理によって、シス−ジ(イソチオシアナト)−ビス(2,2'−ビピリジル−4,4'−ジカルボン酸)ルテニウム(II)錯体を得る第3工程を有する、請求項1に記載のルテニウム錯体の製造方法。 前記精製処理をクロマトグラフィーによって行う、請求項5に記載のルテニウム錯体の製造方法。 前記イソチオシアン酸塩を前記2,2’−ビピリジル−4,4’−ジカルボン酸に対する化学量論比の8倍以上添加する、請求項1に記載のルテニウム錯体の製造方法。 前記イソチオシアン酸塩が、イソチオシアン酸アンモニウム、イソチオシアン酸ナトリウム、イソチオシアン酸カリウムの何れかである、請求項1に記載のルテニウム錯体の製造方法。


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