生命科学関連特許情報

タイトル:再公表特許(A1)_多能性幹細胞から分化誘導された細胞の生産方法
出願番号:2010072044
年次:2013
IPC分類:C12N 5/07


特許情報キャッシュ

中内 啓光 紙谷 聡英 鈴木 奈穂 伊藤 慶一 山▲崎▼ 聡 JP WO2011071085 20110616 JP2010072044 20101208 多能性幹細胞から分化誘導された細胞の生産方法 国立大学法人 東京大学 504137912 勝沼 宏仁 100117787 中村 行孝 100091487 横田 修孝 100107342 伊藤 武泰 100111730 森田 裕 100173185 中内 啓光 紙谷 聡英 鈴木 奈穂 伊藤 慶一 山▲崎▼ 聡 US 61/267,566 20091208 C12N 5/07 20100101AFI20130326BHJP JPC12N5/00 202 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,SD,SL,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,MD,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IS,JP,KE,KG,KM,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LT,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PE,PG,PH,PL,PT,RO,RS,RU,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US,UZ,VC,VN,ZA,ZM,ZW 再公表特許(A1) 20130422 2011545228 83 4B065 4B065AA91X 4B065AA93X 4B065AC12 4B065BA30 4B065BB40 4B065CA44 4B065CA46 本発明は、多能性幹細胞から分化誘導された目的細胞の生産方法に関し、より詳しくは、前記非ヒト哺乳動物に、目的細胞への分化誘導剤を投与する工程と、移植した多能性幹細胞が前記非ヒト哺乳動物の生体内でテラトーマを形成するために十分な時間、当該動物を生育させ、前記多能性幹細胞を目的細胞へ分化誘導させる工程と、前記非ヒト哺乳動物から、前記哺乳動物個体に由来する目的細胞を回収する工程とを含む、多能性幹細胞から分化誘導された目的細胞の生産方法、並びに該生産方法によって得られる目的細胞に関する。 幹細胞は、自己複製能と多分化能を合わせ持った未分化な細胞である。特にES細胞やiPS細胞は、生体に投与するとテラトーマ(良性腫瘍)を形成し、その中には3胚葉(消化器官、肝臓、膵臓、膀胱、肺、扁桃腺、咽頭、副甲状腺などになる内胚葉系、血液細胞や筋細胞、骨細胞、心臓、性腺、泌尿器系、脂肪、脾臓などになる中胚葉系、神経細胞や皮膚細胞、内耳、目、乳腺、爪、歯、脊髄と脳を含む神経系などになる外胚葉系)由来の胎児性組織および成熟組織構造が含まれていることから、in vivoにおいて、生殖細胞を含むすべての細胞系列に分化可能な万能性を有していることが知られている(非特許文献1〜4)。 そこで、再生医療等の現場では、ES細胞やiPS細胞といった多能性幹細胞から不全な又は損傷を受けた細胞や組織を体外において作製する技術の開発に期待が寄せられているが、多能性幹細胞を用いても、in vitroの条件下において、機能的な細胞へ効率良く分化誘導することは困難である。 例えば、造血幹/前駆細胞(HSPC)への分化誘導においては、HoxB4を過剰発現させることにより、マウスES細胞から移植可能な造血幹細胞(HSC)が作製できたという報告はある(非特許文献5〜6)。しかしながら、HoxB4によってES細胞から誘導されたHSCは成体型HSCと異なる表現型(胎児型HSCと成体型HSCとの中間位まで発達したHSC)を有しているということが報告されている(非特許文献7〜8)ことからも明らかなように、in vitroの条件下において、多能性幹細胞を機能的な細胞に分化誘導することは困難である。 一方、in vivoにおいてES細胞等から形成されたテラトーマにおいては、前述の通り、様々な細胞が形成され、形成された細胞は機能的であることが期待される。しかしながら、細胞がランダム且つ多種多様に産生されてしまうため、in vivoの条件下においても、多能性幹細胞を所望の機能的な細胞に効率良く分化誘導することは困難であった。 このように、疾患又は損傷の治療を行う際に必要となる目的細胞の生産方法の開発が求められているものの、多能性幹細胞から所望の機能的な細胞に効率良く分化誘導する方法は、実用化されていないのが現状である。Cudennec,C.ら、J Embryol Exp Morphol、1977年、38巻、203〜210ページCudennec,C.A.ら、Cell Differ、1979年、8巻、75〜82ページCudennec,C.A.ら、J Embryol Exp Morphol、1981年、61巻、51〜59ページLi,Z.ら、Proc Natl Acad Sci USA、2009年、106巻、22399〜22404ページKyba,M.ら、Cell、2002年、109巻、29〜37ページChan,K.M.ら、Blood 111、2008年、111巻、2953〜2961ページMatsumoto,K.ら、「Stepwise development of hematopoietic stem cells from embryonic stem cells.」、PLoS One、2009年3月16日(Epub)、4巻、3号、e4820McKinney−Freeman,S.L.ら、Blood、2009年、114巻、268〜278ページ 本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、多能性幹細胞を所望の機能的な細胞に効率良く分化誘導することができる、多能性幹細胞から分化誘導された目的細胞の生産方法を提供することを目的とする。 本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、多能性幹細胞のもつテラトーマ形成能を利用し、in vivoにおいてこれを制御することで、目的の機能的細胞や組織、臓器を作り出す方法を見出し、本発明を完成するに至った。 すなわち、マウス又はヒト由来のiPS細胞をマウスに移植し、目的細胞に分化誘導するためのサイトカイン等を投与することにより、形成されたテラトーマ内またはマウス体内に前記iPS細胞由来の目的とする分化細胞が高効率で形成されることを見出した。また、このようにして誘導された分化細胞を機能不全動物に移植することにより、その機能が回復されることから、誘導された分化細胞は本来の細胞とほぼ同等の機能を有することも明らかにした。さらに、多能性幹細胞を、様々な処置をした個体、例えば臓器形成不全動物や免疫不全動物などに投与することで、より効率的かつ種をこえて目的細胞(目的組織、目的臓器を含む)を得ることが可能となることも示した。 また、多能性幹細胞の遺伝子にあらかじめ処置を加え、時期特異的に自殺遺伝子等の遺伝子の発現を制御することで、目的細胞のみを効率的に誘導することができることも示した。 さらに、ES細胞やiPS細胞等の万能細胞からある程度分化誘導させた多能性幹細胞を用いることで、目的の細胞等をより多く含むテラトーマが形成でき、且つテラトーマの増大による宿主の健康状態への影響も抑えることができることも見出し、本発明を完成するに至った。 本発明は、より詳しくは、以下の発明を提供するものである。(1) 哺乳動物個体に由来する多能性幹細胞を、非ヒト哺乳動物に移植する工程と、前記非ヒト哺乳動物に、目的細胞への分化誘導剤を投与する工程と、移植した多能性幹細胞が前記非ヒト哺乳動物の生体内でテラトーマを形成するために十分な時間、当該動物を生育させ、前記多能性幹細胞を目的細胞へ分化誘導させる工程と、前記非ヒト哺乳動物から、前記哺乳動物個体に由来する目的細胞を回収する工程と、を含む、多能性幹細胞から分化誘導された目的細胞の生産方法。(2) 前記多能性幹細胞が、前記哺乳動物個体の体細胞を用いて調製された人工多能性幹(iPS)細胞である(1)に記載の方法。(3) 前記多能性幹細胞が、前記哺乳動物に由来する受精卵から調製された胚性幹(ES)細胞である(1)に記載の方法。(4) 前記多能性幹細胞が、前記非ヒト哺乳動物の皮下、精巣、及び腎皮膜からなる群より選択される少なくとも一の組織に移植される(1)〜(3)のうちのいずれかに記載の方法。(5) 前記目的細胞が肝細胞又は膵臓細胞であり、当該目的細胞を前記非ヒト哺乳動物に形成されたテラトーマから回収する(1)〜(4)のうちのいずれかに記載の方法。(6) 前記膵臓細胞が膵臓のランゲルハンス氏島細胞である、(5)に記載の方法。(7) 前記目的細胞が造血系細胞であり、当該造血系細胞を前記非ヒト哺乳動物の骨髄から回収する(1)〜(4)のうちのいずれかに記載の方法。(8) 前記多能性幹細胞がLnk欠損細胞である、(7)に記載の方法。(9) 前記多能性幹細胞を目的細胞へ分化誘導させる工程において、共培養細胞の存在下で行う、(1)〜(8)に記載の方法。(10) 前記共培養細胞がOP−9細胞である(9)に記載の方法。(11) 前記分化誘導剤を前記非ヒト哺乳動物の皮下に所定の期間連続的に投与する、(1)〜(10)のうちのいずれか一項に記載の方法。(12) 前記非ヒト哺乳動物が、目的細胞の形成能を欠損している(1)〜(11)のうちのいずれかに記載の方法。(13) 前記非ヒト哺乳動物が、免疫不全動物である(1)〜(12)のうちのいずれかに記載の方法。(14) 前記動物個体に由来する多能性幹細胞を目的細胞へ分化誘導させる工程において、混入する目的細胞以外の細胞を除去する操作を施す、(1)〜(13)のうちのいずれに記載の方法。(15) 前記目的細胞以外の細胞が、未分化状態のままである多能性幹細胞である、(14)に記載の方法。(16) 前記除去する操作が、所望の時期に自殺遺伝子を働かせることにより達成される、(14)又は(15)に記載の方法。(17) (1)〜(16)のうちのいずれかに記載の方法により得られる、目的細胞。 本発明により、多能性幹細胞から目的とする細胞を効率良く分化誘導することが可能となった。しかも、in vitroにおける分化誘導系と異なり、本来の細胞とほぼ同等の機能を有する細胞(例えば、機能不全動物に移植した場合に、当該機能を回復する能力のある細胞)へと分化誘導することが可能となった。ヌードマウスにマウスiPS細胞を移植し、該ヌードマウスにサイトカイン等の分化誘導剤を投与し、該ヌードマウスの生体内にてテラトーマを形成させ、分化誘導された肝細胞、膵臓細胞、又は造血系細胞を産生させる工程を示す、概略図である。分化誘導剤を投与して作製されたテラトーマ内に肝細胞が産生されていることを示す、抗アルブミン抗体、又は抗CK19抗体を用いた免疫染色の顕微鏡写真である。分化誘導剤を投与して作製されたテラトーマ内に肝細胞が産生されていることを示す、抗CYP7A1抗体を用いた免疫染色の顕微鏡写真である。インドシアニングリーン吸着反応の工程を示す概略図、並びに該反応によって染色され、分化誘導剤を投与して作製されたテラトーマ内に肝細胞が産生されていることを示す写真である。分化誘導剤を投与して作製されたテラトーマ内に膵臓細胞(膵臓ランゲルハンス島細胞)が産生されていることを示す、抗インスリン抗体を用いた免疫染色の顕微鏡写真である。テラトーマが形成されたマウスの末梢血におけるCD45及びGFPの発現をフローサイトメーターにより解析した結果を示す、プロット図である。iPS細胞がマウス体内で造血幹細胞に分化し、骨髄にホーミングしたことを示す概略図、並びに、フローサイトメーター解析によって、テラトーマが形成されたマウスの骨髄中にiPS細胞由来の造血前駆細胞 Lineage−c−Kit+Sca−1+(KSL)が存在していることを示すプロット図である。テラトーマが形成されたマウス由来骨髄細胞の、野生型C57/BL6マウスへの移植を示す概略図、並びに、フローサイトメーター解析によって、該移植4週後の野生型C57/BL6マウスにおける末梢血中にiPS細胞由来の各種造血系細胞が存在していることを示すプロット図である。テラトーマ内に混入している目的細胞(肝細胞)以外の細胞を除去するために用いる、自殺遺伝子(TK遺伝子)をコードするベクターと、肝細胞のマーカー遺伝子であるAlbプロモーターの制御下にてCreリコンビナーゼを発現するベクターとを示す概略図、並びに該2種のベクターを用いた、ガンシクロビル投与によるAlb発現細胞(肝細胞)のスクリーニング方法を示す概略図である。テラトーマ内に混入している目的細胞以外の細胞の除去において、自殺遺伝子によるスクリーニング系が有効であることを示す、細胞株の顕微鏡写真である。Lnk−/− GFP トランスジェニック(Tg)マウス又はGFP TgマウスからのiPS細胞の樹立の工程を示す概略図である。Lnk−/−GFP iPS細胞における、Nanog及びSSEA−1の免疫染色の結果を示す顕微鏡写真である。なお図中、スケールバーは100μmを示す。Lnk−/−GFP iPS細胞から作製されたキメラマウスを示す写真である。Lnk−/−GFP iPS細胞由来のテラトーマが形成されたヌードマウスを示す写真である。ヌードマウスから回収した、Lnk−/−GFP iPS細胞由来のテラトーマを示す写真である。なお図中、スケールバーは1.25cmを示す。テラトーマ内の、iPS細胞由来の三胚葉を含む様々な組織を示す顕微鏡写真である。テラトーマ形成を介したiPS細胞からの造血幹細胞(HSC)誘導、並びに該テラトーマを形成したマウス由来の骨髄を移植する工程を示す、概略図である。すなわち、OP9細胞と共に、またはOP9細胞を含めず、iPS細胞をヌードマウスの皮下に注入した。また、サイトカインは浸透圧ポンプに入れ、2週間投与した。そして、iPS細胞由来HSCが検出された骨髄細胞を放射線照射マウスに移植したことを示す、概略図である。iPS細胞を注入してから12週間後のテラトーマ形成ヌードマウスの末梢血をフローサイトメトリーによって分析した結果を示すプロット図である。なお図中、数値はCD45+細胞中のGFP+細胞の割合(GFP+/CD45+cells(%))を示す。CD45+細胞中のGFP+細胞の割合(GFP+/CD45+cells(%))の変化は、iPS細胞注入後の期間、並びにテラトーマのサイズに依存的であることを示すグラフである。各条件下でテラトーマを形成させたマウスの末梢血及び骨髄における、iPS細胞由来のGFP+細胞の割合を示すグラフである。なお、iPS細胞注入12週間後に各条件下におけるテラトーマ形成マウスを5匹ずつ分析した。また図中、左側の縦軸は、テラトーマ形成ヌードマウスの末梢血におけるCD45+細胞中のGFP+細胞の割合(GFP+/CD45+cells(%))を示す。右側の縦軸は、テラトーマ形成ヌードマウスの骨髄におけるKSL細胞中のGFP+細胞の割合(GFP+/KSLcells(%))を示す。さらに、各々の条件下における結果を示す棒グラフにおいて左側は末梢血を分析した結果を示し、右側は骨髄を分析した結果を示す。また、エラーバーは標準偏差を表わす。アスタリスク3つ(***)付されているものは未処理(None、iPS細胞のみ)注入のサンプルと比べて有意に異なる値(p<0.001)であることを示す。iPS細胞注入12週間後の、サイトカイン及びOP9細胞を投与してテラトーマが形成されたマウスの骨髄をフローサイトメトリーで分析した結果を示すプロット図である。テラトーマ形成マウス骨髄由来のGFP+CD34−KSL細胞を一細胞ずつ分け、造血分化を誘導するサイトカインを添加して培養して形成されたiPS細胞由来のコロニーを分析した結果を示す顕微鏡写真である。なお図中左側(Phase)は位相差観察の結果を示し、右側(GFP)は蛍光観察の結果を示す。テラトーマ形成マウス骨髄由来のGFP+CD34−KSL細胞100個を一細胞ずつ分け、造血分化を誘導するサイトカインを添加し、10日間培養してCFC−nmEMの数量及びタイプを評価した結果を示すグラフである。なお、CFC−nmEMは、コロニー形成細胞数−好中球/マクロファージ/赤芽球/巨核球(colony−forming units−neutrophil/macrophage/Erythroblast/Megakaryocyte)のことを示す。また図中横軸の「nm」は好中球/マクロファージの2系統からなるコロニーを、「nmM」は好中球/マクロファージ/巨核球の3系統からなるコロニーを、「nmE」は好中球/マクロファージ/赤芽球の3系統からなるコロニーを、「nmEM」は好中球/マクロファージ/赤芽球/巨核球の4系統からなるコロニーを示す。CD34−KSL細胞由来コロニーのサイトスピン試料をロイコ染色(Leukostain)して観察した顕微鏡写真である。なお図中、GMは顆粒球/マクロファージ、Megは巨核球、Eは赤芽球を示す。骨髄移植アッセイの結果を示すグラフである。すなわち、テラトーマ形成マウス由来の骨髄細胞を放射線照射マウスに移植した一次移植、並びに一次移植の12週間後に行った二次移植のレシピエントマウスの末梢血における、Lnk−/−GFP iPS細胞由来のGFP+/CD45+細胞のキメリズムを示すグラフである。なお、一次移植においては4匹ずつ、二次移植においては10匹ずつ分析した。図中、エラーバーは標準偏差を示す。また各棒グラフにおいて、上から「ミエロイド」「B細胞」「T細胞」を示す。一次移植してから12週間後の、レシピエントマウス(分析数:4匹)の脾臓及び骨髄のLnk−/−GFP iPS細胞由来GFP+造血細胞/CD45+細胞のキメリズムを示すグラフである。なお図中、エラーバーは標準偏差(SD)を示す。また各棒グラフにおいて、上から「ミエロイド」「B細胞」「T細胞」を示す。一次移植してから12週間後の、レシピエントマウス(分析数:4匹)の骨髄細胞における、造血前駆細胞(HPC、Lin−)又は造血幹細胞(HSC、CD34−KSL)中のGFP+細胞の割合を示すグラフである。なお図中、エラーバーは標準偏差(SD)を示す。iPS細胞を注入してから12週間後のテラトーマ形成ヌードマウスの末梢血をフローサイトメトリーによって分析した結果を示すプロット図である。なお図中、数値はCD45+細胞中のGFP+細胞の割合(GFP+/CD45+cells(%))を示す。サイトカイン及びOP9細胞を投与してテラトーマが形成されたマウスの末梢血における、GFP iPS細胞由来のGFP+CD45+細胞数とiPS細胞注入後の期間との対応関係を示すプロット図である。テラトーマ形成ヌードマウスの末梢血におけるCD45+細胞中のGFP+細胞の割合(GFP+/CD45+cells(%))を示すグラフである。なお、iPS細胞を注入してから12週間後に各条件下のマウスを各々4匹ずつ分析した。また図中、エラーバーは標準偏差を表わす。アスタリスク2つ(**)付されているものは未処理のサンプルと比べて有意に異なる値(p<0.01)であることを示す。iPS細胞を注入してから12週間後の、サイトカイン及びOP9細胞を投与してテラトーマが形成されたマウス由来の骨髄細胞を、フローサイトメトリーで分析した結果を示すプロット図である。骨髄移植アッセイの結果を示すグラフである。すなわち、テラトーマ形成マウスの全ての骨髄細胞を移植した一次レシピエントマウス、並びに骨髄からGFP+CD34−KSL細胞40個を選抜して移植した二次レシピエントマウスの末梢血における、GFP iPS細胞由来のGFP+/CD45+細胞のキメリズムを示すグラフである。なお、一次移植においては6匹ずつ、二次移植においては5匹ずつ分析した。エラーバーは標準偏差を表わす。また各棒グラフにおいて、上から「ミエロイド」「B細胞」「T細胞」を示す。一次移植してから12週間後のレシピエントマウス(分析数:6匹)の脾臓及び骨髄における、GFP iPS細胞由来のGFP+造血細胞/CD45+細胞のキメリズムを示すプロット図である。一次移植してから12週間後のレシピエントマウス(分析数:6匹)の脾臓及び骨髄における、造血前駆細胞(HPC、Lin−)又は造血幹細胞(HSC、CD34−KSL)中のGFP+細胞の割合を示すグラフである。なお図中、エラーバーは標準偏差(SD)を示す。テラトーマ形成マウス骨髄由来のGFP+CD34−KSL細胞100個を一細胞ずつ分け、造血分化を誘導するサイトカインを添加して培養し、10日間培養してCFC−nmEMの数量及びタイプを評価した結果を示すグラフである。なお、CFC−nmEMは、コロニー形成細胞数−好中球/マクロファージ/赤芽球/巨核球(colony−forming units−neutrophil/macrophage/Erythroblast/Megakaryocyte)のことを示す。また図中横軸の「nm」は好中球/マクロファージの2系統からなるコロニーを、「nmM」は好中球/マクロファージ/巨核球の3系統からなるコロニーを、「nmE」は好中球/マクロファージ/赤芽球の3系統からなるコロニーを、「nmEM」は好中球/マクロファージ/赤芽球/巨核球の4系統からなるコロニーを示す。X−SCIDマウスにおけるmγc−iPS細胞からT細胞への作製方法を示す概略図である。iPS細胞はX−SCIDマウスから樹立し、mγc遺伝子をそのiPS細胞に導入し、mγc−iPS細胞を作製した。そして、mγc−iPS細胞及びOP9細胞は、テラトーマ形成のため、X−SCIDマウスに注入した。mγc−iPS細胞のPCR解析結果を示す電気泳動写真である。図中、mγc−iPS細胞(mγc−iPSC)♯1〜5は、IL−2Rg変異を有するX−SCIDマウス由来の細胞に3因子(Oct3/4、Klf4、及びSox2)を導入することによって得られた細胞であることを示す。4F B6 iPS細胞(4F B6 iPS iPSC)は、c−Myc導入遺伝子を有し、共通ガンマ鎖(common gamma chain(γc))の変異を有していない細胞であることを示す。純水(Water)は陰性対照を示す。mγc−iPS細胞におけるES細胞マーカー遺伝子の発現をRT−PCRにより解析した結果を示す電気泳動写真である。純水(Water)及びMEFは陰性対照を示す。ES細胞(ESC)は陽性対照を示す。mγc−iPS細胞♯4(mγc−iPSC♯4)におけるGFP及びマウスガンマ鎖(γc)の発現を示すプロット図及びヒストグラムである。なお図中、B6 iPS細胞(B6 iPSC)は陰性対照を示す。また右側の塗りつぶされたヒストグラムはmγc−iPSC♯4の結果を示し、左側の白いヒストグラムは陰性対照(B6 iPS細胞)における結果を示す。iPS細胞を注入してから12週間後のテラトーマ形成マウスの末梢血をフローサイトメトリーによって分析した結果を示すプロット図である。なお図中、数値は各細胞中のGFP+細胞の割合(%)を示す。テラトーマ形成を介したヒトiPS細胞から造血幹細胞(HSC)への誘導方法を示す、概略図である。すなわち、OP9細胞と共に、ヒトiPS細胞をNOD/SCIDマウスの精巣に注入した。また、サイトカインは浸透圧ポンプに入れ、2週間投与した。そして、テラトーマ形成マウスの骨髄細胞を放射線照射NOD/SCIDマウス又は放射線照射NOD/SCID/JAK3欠損マウスに移植したことを示す、概略図である。ヒトiPS細胞を注入してから12週間後のテラトーマ形成ヌードマウスの骨髄細胞をフローサイトメトリーによって分析した結果を示すプロット図である。なお図中「m」はマウス由来であることを示し、「h」はヒト由来であることを示す。骨髄移植8週間後のレシピエントマウスの末梢血におけるキメリズムを示すプロット図である。なお図中、「Sorted」は、テラトーマ形成マウスのmCD45+細胞を除去した骨髄細胞を移植した結果を示す。「Total」は、テラトーマ形成マウスの全ての骨髄細胞を移植した結果を示す。また「m」はマウス由来であることを示し、「h」はヒト由来であることを示す。ヒトiPS細胞由来のテラトーマ切片における、CD45、CD34、及びオステオカルシン(Osteocalcin)の発現を免疫染色によって調べた結果を示す、顕微鏡写真である。なお図中「Merge」はこれら3つの発現を重ね合わせたものを示す。ヒトiPS細胞由来のテラトーマ切片における、CD45、CD34、及びVE−カドヘリン(VE−cadherin)の発現を免疫染色によって調べた結果を示す、顕微鏡写真である。なお図中「Merge」はこれら3つの発現を重ね合わせたものを示す。ヒトiPS細胞由来のテラトーマ切片における、CD45、CD34、及びGFAPの発現を免疫染色によって調べた結果を示す、顕微鏡写真である。なお図中「Merge」はこれら3つの発現を重ね合わせたものを示す。テラトーマにおけるヒトiPS細胞由来の細胞をフローサイトメトリーにて分析した結果を示す、プロット図である。また「m」はマウス由来であることを示し、「h」はヒト由来であることを示す。GFP iPS細胞由来のテラトーマにおけるCD45+細胞の免疫染色の結果を示す、顕微鏡写真である。なお図中、「DAPI+merge」は、CD45とGFPとの発現に、DAPI染色の結果を重ね合わせたものを示し、矢印はGFP iPS細胞由来のGFP+CD45+細胞を示す。また、スケールバーは150μmを示す。テラトーマにおけるiPS細胞由来GFP+CD45+細胞及びKSL細胞をフローサイトメトリーで分析した結果を示すプロット図である。なお図中、左側の数値はテラトーマ細胞中のGFP+CD45+細胞の割合(%)を示し、右側の数値は該細胞(テラトーマ細胞中のGFP+CD45+細胞)中のc−Kit+Sca-1+細胞の割合(%)を示す。テラトーマにおけるオステオカルシン(Osteocalcin)、VE−カドヘリン(VE−cadherin)、及びGFAPの免疫染色の結果を示す顕微鏡写真である。なお図中、スケールバーは75μmを示す。テラトーマにおける、CD45、c−Kit、及びHSCニッチマーカー:オステオカルシンの免疫染色の結果を示す顕微鏡写真である。なお図中、「DAPI+merge」は、これら3つの発現と、DAPI染色の結果とを重ね合わせたものを示し、矢印はCD45+c−Kit+細胞を示す。スケールバーは75μmを示す。テラトーマにおける、CD45、c−Kit、及びHSCニッチマーカー:VE−カドヘリン(VE−cadherin)の免疫染色の結果を示す顕微鏡写真である。なお図中、「DAPI+merge」は、これら3つの発現と、DAPI染色の結果とを重ね合わせたものを示し、矢印はCD45+c−Kit+細胞を示す。スケールバーは75μmを示す。未分化なES細胞を移植したマウス(図中左側)、及び内胚葉系前駆細胞に分化誘導してから移植したマウス(図中右側)において形成されたテラトーマを示す写真である。形成されたテラトーマにおける免疫組織化学染色の結果を示す顕微鏡写真である。なお図中「Merge」は、CK19とFoxa2との発現と、DAPI染色との結果を重ね合わせたものを示す。作製したテラトーマ組織切片中のCK19陽性の腸管様構造の数を示すグラフである。 本発明は、(a)哺乳動物個体に由来する多能性幹細胞を、非ヒト哺乳動物に移植する工程と、(b)前記非ヒト哺乳動物に、目的細胞への分化誘導剤を投与する工程と、(c)移植した多能性幹細胞が前記非ヒト哺乳動物の生体内でテラトーマを形成するために十分な時間、当該動物を生育させ、前記多能性幹細胞を目的細胞へ分化誘導させる工程と、(d)前記非ヒト哺乳動物から、前記哺乳動物個体に由来する目的細胞を回収する工程と、を含む、多能性幹細胞から分化誘導された目的細胞の生産方法である。 本発明において「哺乳動物」とは特に制限されることなく、例えば、ヒト、マウス、ラット、ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、サル、イヌ、ネコが挙げられる。また、本発明において「非ヒト哺乳動物」とは特に制限されることなく、例えば、マウス、ラット、ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、サル、イヌ、ネコが挙げられる。 また、本発明にかかる「目的細胞」とは、前記哺乳動物の個体を構成する種々の細胞の中から選択される一又は複数の細胞のことであり、例えば、造血系細胞、肝細胞、膵臓細胞、腸管細胞、胸腺細胞、骨・軟骨細胞が挙げられる。さらに、本発明にかかる「目的細胞」には、前記哺乳動物の個体を構成する種々の細胞群(例えば、組織、臓器)も含まれる。 ここで、「造血系細胞」とは、造血幹細胞(HSC)、造血前駆細胞(HPC)、及びHSC又はHPCから分化してできる細胞、すなわち、赤芽球、骨髄球、巨核球系、リンパ球等の性質を有する細胞を意味し、例えば、HSC、HPC、好中球、マクロファージ、赤芽球、巨核球が挙げられる。 また、「膵臓細胞」とは、膵臓を構成する細胞、すなわち外分泌部を構成する外分泌細胞、ランゲルハンス氏島(内分泌部)を構成するランゲルハンス氏島細胞等を意味し、例えば、腺房細胞、A細胞(α細胞)、B細胞(β細胞)、D細胞(δ細胞)、PP細胞が挙げられる。 先ず、(a)前記哺乳動物の個体に由来する多能性幹細胞を、前記非ヒト哺乳動物に移植する工程について説明する。 本発明において分化誘導させる対象とする「多能性幹細胞」は、前記哺乳動物個体を構成する種々の細胞に分化できる多能性と自己複製能とを有する細胞であり、例えば、胚性幹細胞(Embryonic stem cell、ES細胞)、人工多能性幹細胞(Induced pluripotent stem cell、iPS細胞)、胚性腫瘍細胞(Embryonic carcinoma cell、EC細胞)、胚性生殖細胞(Embryonic Germ cell、EG細胞)、多能性生殖細胞(Multipotent Germline Stem cell、mGS細胞)、受精卵、内部細胞塊(inner cell mass、ICM)といった万能細胞や、外胚葉系前駆細胞、内胚葉系前駆細胞、中胚葉系前駆細胞といった、分化可能な細胞系列が限定されている幹細胞/前駆細胞が挙げられる。 これらの中では、胚を壊すことなく作製することができるという倫理的な観点から、さらに再生医療等に用いる際に、多能性幹細胞から分化した細胞を移植する患者と血液型(赤血球型、白血球型)の点において適合させ易いという観点から、本発明にかかる多能性幹細胞として、前記哺乳動物個体の体細胞を用いて調製されたiPS細胞を用いることが好ましい。 なお、本発明にかかる「iPS細胞」は、前記哺乳動物個体の体細胞に細胞初期化因子を導入することにより、ES細胞(Embryonic stem cells)様の分化多能性を獲得した細胞である。また、本発明に用いられる「細胞初期化因子」は、体細胞に導入されることにより、単独で、又は他の分化多能性因子と協働して該体細胞に分化多能性を付与できる因子であればよく、特に制限されることはないが、Oct3/4、c−Myc、Sox2、Klf4、Klf5、LIN28、Nanog、ECAT1、ESG1、Fbx15、ERas、ECAT7、ECAT8、Gdf3、Sox15、ECAT15−1、ECAT15−2、Fthl17、Sal14、Rex1、Utf1、Tcl1、Stella、β−catenin、Stat3及びGrb2からなる群から選択される少なくとも一種のタンパク質であるであることが好ましい。さらにこれらタンパク質の中では、少ない因子で効率良くiPS細胞を樹立できるという観点から、Oct3/4、c−Myc、Sox2及びKlf4(4因子)を前記体細胞に導入することがより好ましい。また、得られる多能性幹細胞の癌化のリスクを低くするという観点から、c−Mycを除く、Oct3/4、Sox2及びKlf4(3因子)を前記体細胞に導入することがより好ましい。 また、後述の実施例において示すように、目的細胞をより多く含むテラトーマが形成でき、且つテラトーマの増大による宿主の健康状態への影響も抑えることができるという観点から、万能細胞からある程度分化誘導させた多能性幹細胞(例えば、前記分化可能な細胞系列が限定されている幹細胞/前駆細胞)を、本発明にかかる多能性幹細胞として用いることが好ましい。かかる多能性幹細胞の樹立方法としては、例えば、内胚葉系前駆細胞に関しては、後述の実施例に示すような、Collagen−Type4をコートした培養皿に万能細胞を播種し、アクチビンA、BMP4等を添加した無血清培地で培養した後、アクチビンA、EGF、FGF4等を添加した無血清培地で培養する方法が挙げられる。 なお、例えば非特許文献5〜8に記載されているように、遺伝子改変を施すことなく多能性幹細胞を機能的な細胞に分化誘導することは一般的に困難である。しかし、本発明においては、後述の実施例において示すように、遺伝子改変を施さない多能性幹細胞を用いても、分化誘導された機能的な細胞を効率良く得ることができる。 しかしながら、目的細胞の産生数の増加や、目的細胞の機能を亢進させるという観点から、遺伝子改変が施された多能性幹細胞を、本発明にかかる多能性幹細胞として用いることもできる。かかる多能性幹細胞において、遺伝子改変とは特に制限されることなく、公知の技術を適宜採用することができる。例えば、目的細胞の産生数の増加や機能の亢進を誘導するタンパク質の機能や発現を亢進させる場合においては、該タンパク質をコードする遺伝子をトランスジーンとして多能性幹細胞に導入する方法や、該遺伝子の発現調節領域のDNA配列に該遺伝子の発現を亢進させるような変異を多能性幹細胞に導入する方法が挙げられる。さらに、目的細胞の産生数の増加や機能の亢進を阻害するタンパク質の発現や機能を抑制させる場合においては、例えば、多能性幹細胞において該タンパク質をコードする遺伝子をノックアウト又はノックインする方法や、該遺伝子の発現調節領域のDNA配列に該遺伝子の発現を抑制するような変異を多能性幹細胞に導入する方法や、該遺伝子に対するsiRNAやshRNA等をコードするトランスジーンを多能性幹細胞に導入する方法が挙げられる。 さらにまた、目的細胞が造血系細胞である場合、Lnkタンパク質が欠損しているマウスは高い自己複製能を有する造血幹細胞(HSC)を過剰産生し、後述の実施例において示すようにLnkタンパク質が欠損している多能性幹細胞由来のHSCは非常に高い複製能を有していることから、Lnk欠損細胞を、本発明にかかる多能性幹細胞として用いることが好ましい。 なお、Lnkタンパク質とは、HSC等においてTPO/c−mpl経路を負に制御する因子として知られている細胞間アダプタータンパク質であり、典型的には、ヒト由来のLnkとして、Accession No.NP_005466(No.NM_005474)で特定されるタンパク質(遺伝子)が挙げられ、マウス由来のLnkとして、Accession No.NP_032533(No.NM_008507)で特定されるタンパク質(遺伝子)が挙げられる。 また、本発明にかかる「Lnk欠損細胞」とは、Lnkタンパク質の発現及び/又は機能が欠損している細胞のことであり、「Lnk欠損細胞」は、例えば前述の通り、Lnk遺伝子をノックアウト、Lnk遺伝子に対するsiRNAを導入すること等によって調製することができる。 本発明において、前記多能性幹細胞を非ヒト哺乳動物に移植する方法としては特に制限はなく、公知の技術を適宜用いることができる。 また、本発明において、前記多能性幹細胞を非ヒト哺乳動物に移植する組織としては特に制限はなく、例えば、皮下、精巣、腎皮膜、骨髄が挙げられる。これらの中では、マウスiPS細胞等由来のテラトーマが形成される場所として多用されているという観点から、皮下に移植することが好ましい。また、ヒトiPS細胞を非ヒト哺乳動物に移植する場合には、マウス等の皮下等に注入してもテラトーマが形成される頻度は低く、さらに、より血流の多い組織であるという観点から、精巣に移植することが好ましい。また、造血幹細胞への誘導を目的とする場合には、骨髄に移植することが好ましい。さらに、ドナー由来の組織とレシピエントの組織とが混ざりにくいという観点から、目的細胞が存在している組織以外の組織(異所)に移植することが好ましい。 また、本発明において、前記多能性幹細胞を非ヒト哺乳動物に移植する際、前記多能性幹細胞は、他の成分と混合して用いてもよい。このような他の成分としては特に制限はなく、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)等の生理食塩水、培地、緩衝剤、保存剤が挙げられる。 さらに、後述の実施例において示すように造血系細胞への分化誘導の効率を上げるという観点から、またインビトロの研究成果に基づき、神経細胞、血管内皮細胞、心筋細胞への分化誘導の効率を上げられる可能性があるという観点から、共培養細胞を前記多能性幹細胞に混入しておくことが好ましい(インビトロの研究成果については「Zengら、Stem Cells、2004年、22巻、925〜940ページ」、「Soneら、Arterioscler Thromb Vasc Biol.、2007年、27巻、2127〜2134ページ」、「Yamashitaら、FASEB J.、2005年、19巻、1534〜1536ページ」参照)。 本発明にかかる「共培養細胞」は、多能性幹細胞の培養系において、多能性幹細胞の増殖や分化誘導の際の培養条件を整えるために用いることができる細胞を意味し、例えば、フィーダー細胞、ストローマ(Stromal)細胞、より具体的には、OP−9細胞、PA6細胞、MEF(マウス胎児線維芽細胞)、NIH3T3細胞、M15細胞、10T/2細胞が挙げられる。これらの中では本発明にかかる「共培養細胞」として、後述の実施例において示すように、多能性幹細胞に混入させることで、多能性幹細胞の目的細胞への誘導効率をより上げられるという観点から、OP−9細胞を用いることが好ましい。 また、後述の実施例において示すように、腸管細胞、肝細胞、神経細胞、血管内皮細胞等へ分化誘導させる場合には、ラミニン、コラーゲンIV、ヘパラン硫酸プロテオグリカン、エンタクチン/ニドジェン1,2、TGF−β、上皮細胞増殖因子、インシュリン様成長因子、線維芽細胞増殖因子、組織プラスミノーゲン活性化因子3,4、及びEHS腫瘍に自然に産生される他の増殖因子からなる群から選択される少なくとも一の成分を前記多能性幹細胞に混入しておくことが好ましい。 さらに、本発明において、前記多能性幹細胞を移植する非ヒト哺乳動物としては特に制限はなく、前述のマウス等が挙げられるが、多能性幹細胞由来の目的細胞等が誘導されるスペースを確保することにより、分化誘導の効率を上げるという観点から、目的細胞の形成能を欠損している動物であることが好ましい。また、多能性幹細胞の由来である哺乳動物と、該多能性幹細胞が移植される非ヒト哺乳動物とが異種の関係においても、該多能性幹細胞から分化誘導された目的細胞を産生することができるという観点から、免疫不全動物であることが好ましい。 次に、(b)前記非ヒト哺乳動物に、目的細胞への分化誘導剤を投与する工程について説明する。 本発明において、前記非ヒト哺乳動物に投与する「目的細胞への分化誘導剤」としては、多能性幹細胞から目的細胞に分化誘導される際に働く生理活性物質であれば特に制限はなく、例えば、ポリペプチドやタンパク質(サイトカイン、ホルモン、酵素等)、ビタミン類、糖類、脂肪酸、アミノ酸、核酸、ミネラル等が挙げられる。 本発明にかかる「目的細胞への分化誘導剤」として、より具体的には、目的細胞が肝細胞である場合には、レチノイン酸、繊維芽細胞増殖因子1(FGF1)、FGF4、肝細胞増殖因子(HGF)、オンコスタチンM(OsM)が挙げられ、目的細胞が膵臓細胞である場合にはアクチビンA、上皮細胞増殖因子(EGF)、Noggin、インスリン様増殖因子−2(IGF−2)、ニコチン酸アミドが挙げられ、目的細胞が造血系細胞である場合には、幹細胞因子(SCF)、トロンボポエチン(TPO)が挙げられ、目的細胞が腸管細胞ある場合にはアクチビンA、骨形成因子4(BMP4)、EGF、FGF4、NOGGINが挙げられる。 後述の実施例に示すように、膵臓のランゲルハンス氏島細胞への分化誘導においては、先ずアクチビンA等をiPS細胞に添加して内胚葉系の前駆細胞に分化誘導し、該前駆細胞にEGF、bFGF、Nogginを添加して膵臓にコミットした内胚葉系細胞に誘導した後、該内胚葉系細胞にニコチン酸アミドやIGF−2を添加して膵臓のランゲルハンス氏島細胞への分化を誘導する。このように、目的細胞の分化誘導において、「分化誘導剤」が作用する分化段階は、分化誘導剤の種類により異なる。従って、本発明において、前記非ヒト哺乳動物に前記分化誘導剤を投与する所定の期間としては、各々の前記分化誘導剤について、それが作用して目的の分化を誘導するのに十分な期間を意味する。また、各々の前記分化誘導剤は、各々の目的の分化を達成しうる限り、細胞に対して一過的に投与しても良く、また、連続的に投与しても良いが、生体内における本来の臓器の発生を模倣するという観点から、前記分化誘導剤を連続的に投与することが好ましい。 また、本発明において、前記非ヒト哺乳動物における前記分化誘導剤を投与する部位としては特に制限はないが、投与に要する手技が簡便であるという観点から、皮下であることが好ましい。 さらに、本発明において、前記非ヒト哺乳動物に前記分化誘導剤を投与する方法としては特に制限はなく、公知の手法(例えば、浸透圧ポンプを用いる方法)を適宜選択して用いることができる。 次に、(c)移植した多能性幹細胞が前記非ヒト哺乳動物の生体内でテラトーマを形成するために十分な時間、当該動物を生育させ、前記多能性幹細胞を目的細胞へ分化誘導させる工程について説明する。 本発明において、「移植した多能性幹細胞が前記非ヒト哺乳動物の生体内でテラトーマを形成するために十分な時間」として特に制限はないが、移植後4〜12週であることが好ましく、8〜12週であることがより好ましい。前記時間が前記下限未満だと移植した多能性幹細胞が十分に目的細胞に分化誘導されていない傾向にあり、他方、前記時間が前記上限を超えると、テラトーマ増大による前記非ヒト哺乳動物の健康状態に悪影響を及ぼしやすい傾向にある。 また、本発明にかかる、前記動物個体に由来する多能性幹細胞を目的細胞へ分化誘導させる工程において、目的細胞のみを効率的に分化誘導するという観点から、混入する目的細胞以外の細胞を除去する操作を施すことが好ましい。 なお、本発明において、「目的細胞以外の細胞」としては特に制限されることなく、例えば、分化誘導がかからず未分化状態のままである多能性幹細胞(未分化細胞)や目的細胞以外の細胞に分化してしまった多能性幹細胞由来の細胞(他の細胞系譜に分化した細胞)が挙げられる。 また、かかる混入する目的細胞以外の細胞を除去する操作としては特に制限されないが、例えば、後述の実施例に示すような、目的細胞以外の細胞において自殺遺伝子を機能させることが好ましい。これにより、目的とする細胞のみを高度に純化して移殖に用いることができる。 また、目的細胞以外の細胞において自殺遺伝子を機能させることに用いる、「自殺遺伝子」としては、その遺伝子がコードするタンパク質が機能できる条件下において、該タンパク質が発現している細胞に細胞死(アポトーシス、ネクローシス等)を誘導することができる遺伝子であれがよく、例えばチミジンキナーゼ(TK)遺伝子、ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ(HSVtk)遺伝子(Proc.Natl.Acad.Sci,USA 78(1981)1441〜1445ページ 参照)、シトシンデアミナーゼ遺伝子(EG11326 codA 355395..356678 E.coli)、ウラシルホスホリボシルトランスフェラーゼ遺伝子(EG11332 upp 2618894..2618268 E.coli)、グアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(gpt)遺伝子(EG10414 gpt 255977..256435 E.coli)、ニトロレダクターゼ遺伝子が挙げられる。 なおTKは、微生物由来の代謝酵素遺伝子であり、ガンシクロビル(GCV)を代謝し、ガンシクロビル5’−三リン酸を生じさせる。このガンシクロビル5’−三リン酸がDNA合成を阻害することにより、TKを発現している細胞の細胞死を誘導できる。すなわち、GCV添加によってTKが機能できる条件となり、TKが発現している細胞に細胞死が誘導されることになる。 さらに、かかる所望の時期に自殺遺伝子を働かせることにより達成される操作における、「自殺遺伝子を働かせる」方法としては特に制限はなく、自殺遺伝子がコードするタンパク質が機能できる方法であればよく、例えば、後述の実施例に示すような、TK遺伝子を多能性幹細胞に遺伝子導入し、目的細胞へと分化した細胞のみにおいてCre−LoxPシステムによりTK遺伝子を除去する方法が挙げられる。より具体的には、目的細胞が肝細胞である場合には、図9に示すように、HSV由来のTK遺伝子をLoxP配列で挟み込んだウイルスベクターと、肝細胞のマーカー遺伝子であるAlbプロモーターの制御下にCreリコンビナーゼを発現するウイルスベクターを作製する。2つのウイルスを細胞に感染させた後に、本発明において肝細胞への分化誘導を行う。その後、GCVを投与する事で、TK遺伝子がCreの発現により除去されたAlb産生細胞のみが生存でき、未分化細胞や他の細胞系譜に分化した細胞の細胞死を誘導できる。また、前記と同様にして、目的細胞が肝細胞以外の細胞である場合においても、目的細胞に特異的なプロモータ−を選択することによって(例えば、膵臓系譜の細胞を目的細胞とする場合においてはPdx1プロモーターを選択することによって)、目的細胞以外の細胞を除去することができる。 さらに、前記目的細胞以外の細胞が未分化状態のままである多能性幹細胞である場合においては、例えば、多能性幹細胞にに未分化マーカー遺伝子(Nanog、Oct3/4遺伝子等)のプロモーターに自殺遺伝子であるTKを連結した遺伝子を導入したものを用い、該多能性幹細胞を本発明によって目的細胞に分化誘導した後、GCVを投与することで未分化細胞のみを選択的に除去することができる。 次に、(d)前記非ヒト哺乳動物から、前記哺乳動物個体に由来する目的細胞を回収する工程について説明する。 本発明において、前記哺乳動物個体に由来する目的細胞を回収する方法については特に制限されることなく、前記非ヒト哺乳動物の生体内で形成されたテラトーマから回収する方法が挙げられる。また、目的細胞が造血系細胞である場合には、後述の実施例に示すように、本発明の方法によって分化誘導した造血系細胞は驚くべきことにテラトーマから移動し骨髄に生着するので、前記非ヒト哺乳動物の骨髄から回収することもできる。 また、本発明は前述の方法により得られる目的細胞も提供する。すなわち、前述の方法により多能性幹細胞から分化誘導された、前記哺乳動物個体を構成する種々の細胞の中から選択される一又は複数の細胞も提供する。さらに、該哺乳動物の個体を構成する種々の細胞の中から選択される一又は複数の細胞から構成される組織、臓器も提供する。このような「目的細胞」としては特に制限はなく、例えば、造血系細胞、肝細胞、膵臓細胞、腸管細胞、胸腺細胞、骨・軟骨細胞が挙げられる。 以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、実施例1〜3については下記材料を用いて、下記方法等に沿って行った。 <細胞> マウスiPS細胞としては、Kusabira Orangeトランスジェニックマウス(129/Svマウス由来)の尾端線維芽細胞(TTF、tail tip fibroblast)にOct3/4、Sox2、Klf4の3遺伝子をレトロウイルスベクターにより導入して樹立したもの、およびLnkノックアウトマウス(C57BL/6マウス由来)のTTFに上記3遺伝子をレンチウイルスベクターにより導入して樹立したものを使用した。なお、両細胞株ともに、野生型マウスの胚盤胞宿主としてキメラマウスを作製できることを実験前に確認した。 <細胞培養> マウスiPS細胞は、マイトマイシンCで処理したマウス胎仔線維芽細胞(MEF)との共培養によってE14.1KSR培地にて培養した。E14.1KSR培地の組成は以下の通りである。ダルベッコ変法イーグル培地(DMEM、Invitrogen社製)、添加物として15% ノックアウト血清代替物(KSR、Invitrogen社製)、2mM L−グルタミン−ペニシリン−ストレプトマイシン(Invitrogen社製)、1×非必須アミノ酸(Invitrogen社製)、1mM HEPES(Invitrogen社製),0.1mM 2−メルカプトエタノール(Gibco社製)、1000IU/ml 白血病抑制因子(Leukemia Inhibitory Factor、LIF)。 <動物> KSN/Slc−nu/nuマウス及びC57BL/6マウスは、日本SLC株式会社より購入した。 <細胞の投与> 5×106個のiPS細胞を前記ヌードマウスの皮下に投与した。なお血球細胞・造血幹細胞への分化実験においては、同時に1×106個のOP9細胞も投与した。 <テラトーマ形成と目的細胞への分化> マウスiPS細胞は、トリプシン処理により細胞をディッシュから剥がし、5×106cells/50μL程度 PBSに懸濁したものを、KSN/Slc−nu/nuマウスの皮下に注入した。iPS細胞の注入と同日を「day1」とし、同日にサイトカイン投与を始めた。サイトカインは総量 100μLをalzet micro−osmotic pump model 1002(DURECT Corporation社製)に入れ、ポンプをマウスの皮下に埋め込んだ。肝細胞(Hepatocyte cell)と膵臓細胞(Islet cell、膵臓のランゲルハンス氏島細胞)に関しては、day14とday28に空のポンプをマウス皮下より除去し、新しいサイトカインの入ったポンプを埋め込んだ。サイトカインの種類、投与量、投与のタイミングの例を図1に示す。なお図1中、「KSN/Slc−nu/nu」はKSNバックグラウンドのヌードマウスを示し、またマウスに注入したサイトカイン等の名称は下記の通りである。RA:Retinoic Acid(レチノイン酸)FGF1:Fibroblast Growth Factor 1(繊維芽細胞増殖因子1)FGF4:Fibroblast Growth Factor 4(繊維芽細胞増殖因子4)HGF:Hepatcyte Growth Factor(肝細胞増殖因子)OsM:Oncostatin M(オンコスタチンM、白血病抑制因子に属するサイトカイン、多面的な作用を持つ)Activin A(アクチビンA)EGF:Epidermal Growth Factor(上皮細胞増殖因子)bFGF:basic FGF(塩基性繊維芽細胞増殖因子)Nicotinamide(ニコチン酸アミド)IGF−2:Inslin Like Growth Factor−2(インスリン様増殖因子−2)OP9:マウス骨髄ストロマ細胞株SCF:Stem Cell Factor(幹細胞因子)TPO:Thrombopoietin(トロンボポエチン、血小板の前駆細胞の増殖および分化に関与する造血因子)。 <免疫染色> 作製したテラトーマ及び、野生型マウスの肝臓、膵臓を、切除後液体窒素で凍結し、O.C.T.コンパウンド(Tissue−TeK社製)で包埋して凍結切片を作製した。切片は、4%パラホルムアルデヒド(PFA)にて固定後、アセトン処理し、MAXBlock Blocking Medium(登録商標、Active motif社製)にて室温1時間ブロッキング後、PBSで2回洗浄し一次抗体をかけて4℃で1晩反応させた。一次抗体は、goat anti−mouse ALB Ab、Rabbit anti−mouse CK19 Ab(Invitrogen社製)、Rat anti−mouse CYP7A1 Ab(Santa Cruz社製)、mouse anti−mouse Insulin Ab(Cell signaling社製)を用いた。次いで、PBSで3回洗浄後、二次抗体にて室温1時間反応させた。二次抗体には、donkey anti−goat IgG Alexa 647、goat anti−rabbit IgG Alexa 488、goat anti−rat IgG Alexa 488、goat anti−mouse IgG Alexa 488(Invitrogen社製)を使用した。 <インドシアニングリーン吸着反応> インドシアニングリーン(Indocyanine green、Sigma社製)は、5mg/ml DMSO(Sigma社製)に溶解し、1mg/mlになるようPBSで調製した。この溶液をマウスに500μL静注し、30分後にテラトーマ及び肝臓を切除して呈色を観察した。または、マウスから切除したテラトーマ及び肝臓をインドシアニングリーン溶液に浸し、37℃で30分インキュベート後に呈色を観察した。 <フローサイトメトリー解析> 血球分化能の判定には末梢血及び骨髄細胞をフローサイトメトリー(FACS Aria)にて解析した。使用した抗体は、anti−mouse CD45− APC、anti−mouse CD4,CD8,Gr−1,Mac−1,B220,IL−7R−Biotin、anti−Streptavidin−APC/Cy7、anti−mouse Sca−1−Pacific Blue、anti−mouse c−Kit−APC、anti−mouse CD3−PE/Cy5、anti−mouse B220−Pacific Blue、anti−mouse Gr−1−APC、anti−mouse Mac−1−APC(BioLegend社製)を用いた。末梢血は、マウスの眼下静脈より採取し、溶血反応後、抗体と反応させ解析した。骨髄細胞は、マウスの大腿骨及び脛骨から採取し、抗体と反応させ解析した。 (実施例1) <肝臓への分化> 前述の通り、肝細胞へ分化させたテラトーマより凍結切片を作製し、肝細胞マーカーである、アルブミン、CK19、CYP7A1の免疫染色を行った。得られた結果を図2及び図3に示す。図2及び図3に示した結果から明らかなように、サイトカインによる分化誘導を受けたテラトーマのみ、肝細胞と同様のマーカーの発現が確認された。 また、前述の通り、肝細胞へ分化させたテラトーマにおけるインドシアニングリーンの吸着反応においても、分化誘導したテラトーマのみで肝臓と同様の吸着を示した。つまり、分化誘導したテラトーマは、肝臓と同様の機能を持つことが示唆された(図4 参照)。 (実施例2) <膵臓への分化> 前述の通り、膵臓細胞へ分化させたテラトーマより凍結切片を作製し、膵臓ランゲルハンス島細胞マーカーである、インスリンの免疫染色を行った。得られた結果を図5に示す。図5に示した結果から明らかなように、サイトカインによる分化誘導を受けたテラトーマのみ、膵臓細胞と同様のインスリンの発現が確認された。 (実施例3) <血球細胞・造血幹細胞への分化> 前述の通り、テラトーマを作製したマウスの末梢血をフローサイトメーターにより解析した結果、ヌードマウス血中に、Lnk−/−iPS細胞由来の血球が確認された(図6 参照)。また、SCF+TPOよりもSCF+TPO+OP9の条件において、iPS細胞由来の血球の割合が高かった。さらに、テラトーマを作製したヌードマウスの骨髄細胞を解析した結果、骨髄中にiPS細胞由来の造血前駆細胞 Lineage−c−Kit+Sca−1+(KSL)が確認された(図7 参照)。また、この骨髄細胞を野生型C57/BL6マウスに移植し、4週後の末梢血を解析したところ、ほぼ100%の血液がiPS細胞由来であり、各種細胞に分化していることを確認した(図8 参照)。つまり、iPS細胞はヌードマウス体内で造血幹細胞に分化し、骨髄へホーミングしたことが示唆された。さらに造血幹細胞および前駆細胞機能を負に制御する蛋白質Lnkを欠損したES細胞、iPS細胞を用いることで、正常なES細胞iPS細胞に比し造血幹細胞・前駆細胞のより多量の増幅が認められた。 (実施例4) <混入する未分化細胞の除去ならびに目的の細胞以外を除去する方法> 前述のような、多能性幹細胞の効率的な分化誘導をin vivoの環境下で行う場合、多能性ゆえの腫瘍形成という問題が生じ得る。また、in vitroにおいて分化誘導した細胞を移植する際にも、混入した未分化細胞が腫瘍を形成する危険性が存在する。従って、目的となる分化細胞だけを生存させるようなスクリーニングの系を本発明においては併用することが好ましい。 これらの問題点を解決しうる一つの手法として、自殺遺伝子によるスクリーニング系が挙げられる。例えば、本来哺乳類動物に存在しない微生物由来の代謝酵素遺伝子であるThymidine Kinase(TK)は、ガンシクロビル(GCV)の添加によりその代謝産物であるガンシクロビル5’−三リン酸を生じる。このガンシクロビル5’−三リン酸がDNA合成を阻害する事で、TKを発現している細胞の細胞死を誘導できる。そして、本発明の一つの態様として、ウイルス由来のTK遺伝子をES細胞又はiPS細胞に遺伝子導入し、目的細胞へと分化した細胞のみにおいてCre−LoxPシステムによりTK遺伝子が除去される系を構築する事で、in vivoの臓器形成環境を利用したES、iPS細胞の目的細胞への効率的な分化を行うことが出来ると考えられる。 具体的には、HSV由来のTK遺伝子をLoxP配列で挟み込んだレトロウイルスベクターと、肝細胞のマーカー遺伝子であるAlbプロモーターの制御下にCreリコンビナーゼを発現するレンチウイルスベクターとを作製する。なお、ウイルス作製にはVSV−Gエンべロープを用いることで、マウスES/iPS細胞及びヒトES/iPS細胞の双方で使用する事が可能となる(図9 参照)。2つのウイルスを細胞に感染させた後に、前述の通り、肝細胞分化誘導を行う。その後、GCVを投与する事で、TK遺伝子がCreの発現により除去されたAlb産生細胞のみが生存でき、未分化細胞や他の細胞系譜に分化した細胞の細胞死を誘導出来ると考えられる。 そこで、前述の可能性を検証した。すなわち、HuH7細胞(ヒト肝癌由来の細胞株)及びNIH3T3細胞(マウス胎児上皮系細胞株)に、図9に示した前記ウイルスベクターを用いてAlbプロモーター制御下のCreリコンビナーゼやTK等の遺伝子導入を行った後にGCVを投与すると、Alb発現細胞であるHuH7細胞のみが生存し、NIH3T3細胞では効率的な細胞死が誘導されること(図10 参照)から、本法が本発明に好適に利用できることが確認された。従って、この系の確立により、未分化な細胞を生体内に移植した後に、GCVを投与する事でAlb発現細胞等の目的となる分化細胞だけを生存させる事が可能となる。 次に、実施例3において示した、本発明の造血幹細胞、造血前駆細胞の生産方法、並びに該方法によって得られたこれら細胞の機能をより詳細に分析した。なお、実施例5〜8については下記材料を用いて、下記方法に沿って行った。 <マウス> C57BL/6(B6)マウス、KSN/Slcヌードマウス、及び緑色蛍光タンパク質(GFP)トランスジェニックマウスは、日本SLC株式会社より購入した。Lnk−/−GFPトランスジェニックマウスは、東京大学 医科学研究所 実験動物研究施設にて、繁殖、維持した。また、B6を遺伝的背景とするX−SCIDマウスの作製及び評価は「Ohbo,Kら、Blood、1996年、87巻、956−967ページ」の記載に沿って行った。さらに、NOD/SCIDマウスは日本クレア株式会社より購入した。また、NOD/SCID/JAK3欠損マウスは三協ラボサービス株式会社より購入した。なお、これらマウスのケアは、東京大学の組み換えDNA実験及び実験動物に関するガイダンスに従って行った。 <細胞株、並びにその培養条件> マウスiPS細胞としては、Lnk−/−GFPトランスジェニックC57BL/6(B6)マウス、又はGFPトランスジェニックB6マウス由来の尾端線維芽細胞(TTF、tail tip fibroblast)にOct3/4、Sox2、及びKlf4の3遺伝子をレンチウィルスall−in−oneベクターにより導入することにより、再プログラミングして樹立したものを使用した。なお、得られたiPS細胞の特性については、後述の図11〜16に示す通りに確認した。 また、マウスiPS細胞は、マウス胎仔線維芽細胞(MEF)との共培養によって、未分化状態を維持した。なお、共培養に用いた培地の組成は以下の通りである。ダルベッコ変法イーグル培地(DMEM、GIBCO社製)、添加物として、15% ノックアウト血清代替物(Knockout SR、GIBCO社製)、20mM HEPES緩衝溶液(Invitrogen社製)、0.1mM MEM非必須アミノ酸溶液(Invitrogen社製)、0.1mM L−グルタミン(Invitrogen社製)、100U/mlペニシリン、100μg/ml ストレプトマイシン(Sigma−Aldrich社製)、0.1mM 2−メルカプトエタノール(GIBCO社製)、及び1000U/ml ESGRO(GIBCO社製)。そして、培地は毎日交換し、細胞は異常増殖と分化とを避けるため、2〜3日毎に継代した。 ヒトiPS細胞としては、正常ヒト表皮角化細胞(Lonza社製)にOct3/4、Sox2、及びKlf4の3遺伝子をレンチウィルスベクターにより導入することにより、再プログラミングして樹立したものを使用した。また、ヒトiPS細胞は、MEFとの共培養によって、未分化状態を維持した。なお、共培養に用いたヒトiPS細胞培養用培地の組成は以下の通りである。ダルベッコ変法イーグル培地−F12(Sigma−Aldrich社製)、添加物として、20% Knockout SR(GIBCO社製)、0.1mM MEM非必須アミノ酸溶液(Invitrogen社製)、0.2mM L−グルタミン(Invitrogen社製)、0.1mM 2−メルカプトエタノール(GIBCO社製)、及び5ng/ml bFGF(Peprotech社製)。そして、培地は毎日交換し、細胞は7日毎に継代した。 OP9細胞は、20%ウシ胎仔血清(FBS、HyClone社製)を添加した最少必須培地α(α−MEM、Invitrogen社製)からなる成長培地で維持した。 <組織病理及び免疫染色> 組織切片は、テラトーマ組織をパラフィン包埋し、へマトキシリン・エオシン(H&E)染色することによって評価した。 Nanog及びSSEA−1の蛍光免疫染色は、抗マウスNanog抗体(1/100に希釈して使用、Cosmo Bio株式会社製)、及び抗マウスSSEA−1抗体(1/100に希釈して使用、Abcam社製)によってクライオ切片を染色し、次いでAlexa Fluor 546標識抗ウサギIgG抗体(1/300に希釈して使用、Invitrogen社製)、及びアロフィコシアニン(APC)標識抗マウスIgM抗体(1/100に希釈して使用、eBioscienc社製)と共にインキュベーションすることによって行った。また、核の対比染色は、DAPI(Sigma−Aldrich社製)を用いて、製造者の説明書に従って行った。続いて、蛍光免疫染色した切片を、顕微鏡(BX−51)及びデジタルカメラシステム(DP−71)(共にオリンパス社製)にて、視覚化し、写真に撮った。 テラトーマ組織は、ドライアイスを用いて急速に冷凍し、Optimal Cutting Temperature(O.C.T.)コンパウンド(Sakura Finetek社製)中に包埋し、CM3050クライオスタット(Leica Microsystems社製)を用いて、7〜8μmの切片に調製した。そして、これらの組織切片はエタノールで固定して免疫染色した。すなわち、切片は各々、一次抗体と共に4℃で24時間インキュベーションした後、二次抗体と共に室温で30分間インキュベーションした。 なお、一次抗体は、抗マウスCD45抗体(1/50に希釈して使用、BD Bioscience社製)、Alexa Fluor488標識抗マウスCD117 (c−Kit)抗体(1/10に希釈して使用、BioLegend社製)、抗マウス オステオカルシニン抗体(Osteocalcin、BGLAP) (1/200に希釈して使用、LifeSpan Biosciences社製)、及び 抗マウスVE−カドヘリン抗体(1/200に希釈して使用、Abcam社製)を用いた。二次抗体は、Alexa Fluor 546標識ヤギ由来抗ラットIgG抗体、及びAlexa Fluor 647標識ヤギ由来抗ウサギIgG抗体(共にInvitrogen社製)を用いた。 かかる抗体で処理した後、核の対比染色用の4,6−diamidino−2−phenylindole(DAPI)を含有する蛍光染色用マウンテチィングメディウム(Dako社製)で切片を封入し、TCS SP2 AOBS共焦点レーザー走査顕微鏡(Leica Microsystems社製)で観察した。 <胚盤胞注入> iPS細胞は0.25% トリプシン−EDTA溶液(GIBCO社製)によりトリプシン処理した。トリプシン処理したiPS細胞及びMEFを非コ―ティングディッシュに播き直し、MEFを除去するために30分間インキュベーションした。キメラマウスを作製するために、iPS細胞10個をICRマウス由来の胚盤胞に注入し、そして、iPS細胞が注入された胚盤胞を偽妊娠マウスの子宮に移植した。 <テラトーマ形成及びiPS細胞から造血幹細胞(HSC)への分化> マウスiPS細胞からHSCへの分化誘導は下記の通りである。すなわち、5×106個のマウスiPS細胞をKSN/Slc マウス(4〜5週齢)の皮下に注入した。そして、HSCへの分化誘導は下記条件にて行った。1)対照として、iPS細胞のみを注入した。2)200ng幹細胞因子(SCF、Peprotech社製)及び200ngトロンボポエチン(TPO、Peprotech社製)を含有する造血サイトカインをマイクロ浸透圧ポンプ(ALZET社製)に入れ、そのポンプを皮下に2週間埋め込んだ。3)1×106個のOP9間質細胞とともにiPS細胞を移植した。4)前記造血サイトカインと前記OP9間質細胞とを投与した。 また、ヒトiPS細胞からHSCへの分化誘導は下記の通りである。すなわち、1×106個のヒトiPS細胞及び5×105個のOP9間質細胞は、NOD/SCIDマウス(5〜7週齢)の精巣に注入した。さらに、200ngヒトSCF(Peprotech社製)及び200ngTPO(Peprotech社製)を含有する造血サイトカインをマイクロ浸透圧ポンプ(ALZET社製)に入れ、そのポンプを皮下に2週間埋め込んだ。 <フローサイトメトリー分析、及びソーティング> マウスiPS細胞由来の血球細胞に関して、造血幹細胞(HSC)は下記の通り、フローサイトメトリーを用いて分析した。 マウスの末梢血細胞及び脾臓細胞は、APC標識抗CD45抗体(BD Biosciences社製)、APC−Cy7標識抗CD34抗体(eBioscience社製)、Pacific Blue標識抗CD45R/B220抗体(eBioscience社製)、フィコエリトリン(phycoerythrin、PE)−Cy7標識抗Gr−1抗体(BioLegend社製)、PE−Cy7標識抗Mac−1抗体(BioLegend社製)を用いて染色した。 テラトーマが形成されたマウスの骨髄細胞は、Osawa,Mら、Science、1996年、273巻、242〜245ページの記載に沿って分析した。すなわち、骨髄細胞は、ビオチン化した、抗Gr−1抗体、抗Mac−1抗体、抗CD45R/B220抗体、抗CD4抗体、抗CD8抗体、抗IL−7R抗体、及び抗TER119抗体(eBioscience社製)を用いて染色した。 次いで、これら細胞をMACS抗ビオチンマイクロビーズ(Miltenyi Biotec社製)によって標識し、系統+細胞(Lineage+cell)をLS−MACSシステム(Miltenyi Biotec社製)によって除去した。 さらに、細胞をAlexa Fluor 700標識抗CD34抗体、Pacific Blue標識抗Sca−1、APC標識抗c−Kit抗体(全てeBioscience社製)を用いて染色した。また、ビオチン化抗体はストレプトアビジン−APC−Cy7(eBioscience社製)を用いて検出した。そして、4色解析及びソーティングはFACSAria (Becton Dickinson社製)にて行った。 ヒトiPS細胞由来の血球細胞に関して、造血幹細胞(HSC)は下記の通り、フローサイトメトリーを用いて分析した。 テラトーマが形成されたマウスの骨髄細胞を、APC標識抗CD45抗体 (BD Biosciences社製)、Pacific Blue標識抗ヒトCD45抗体(BioLegend社製)、及びFITC標識抗ヒトCD34抗体(BD Biosciences社製)を用いて染色した。 レシピエントマウスの末梢血は、APC標識抗マウスCD45抗体(BD Biosciences社製)、Pacific Blue標識抗ヒトCD45抗体(BioLegend社製),Alexa Fluor488標識抗ヒトCD3抗体(BD Biosciences社製)、APC−H7標識抗ヒトCD19抗体(BD Biosciences社製),、及びPE−Cy7標識抗ヒトCD33抗体(BD Biosciences社製)を用いて染色した。 そして、これらの分析及びソーティングはFACSAria(BD社製)を用いて行った。 <単一細胞培養(Single cell culture)> iPS細胞由来の精製したCD34−KSL細胞を、単一クローンにすべく、各ウェルに200μLの培地を含む96ウェルプレートに播いた。なお、用いた培地の組成は、以下の通りである。S−clone SF−O3培地(三光純薬株式会社製)、添加物として、1%ウシ血清アルブミン(BSA)、マウスSCF(50ng/mL)、マウスTPO(50ng/mL)、マウスIL−3(10ng/mL)、及びマウスEPO(1U/mL)(全てPeproTech社製)。細胞は、37℃、加湿雰囲気、5%CO2環境下で培養した。そして、培養開始10日後、細胞をスライドグラス上にサイトスピンを用いて付着させ、ヘマカラー(登録商標、MERCK社製)を用いた血液塗抹染色に供した。 <骨髄移植アッセイ> Lnk−/− GFP iPS細胞由来HSCに関して、テラトーマが形成されたマウスの1×107個のBM細胞を、致死的に放射線処理(9.5Gy)した野生型B6レシピエントマウスに移植した。そして、移植後4週間及び12週間後に、レシピエントマウスのPB細胞をフローサイトメトリーにて分析した。 また、一次BM移植の12週間後に、一次移植したレシピエントマウス(一次レシピエントマウス)由来の1×107個の骨髄細胞を、別のレシピエントマウス(二次レシピエントマウス)に二次移植として移植した。そして、キメリズムの割合は、(GFP+細胞数/CD45+細胞数)×100%という計算にて導き出した。 さらに、GFP iPS細胞由来HSCに関して、一次レシピエントマウスからGFP+CD34−KSL細胞40個を選別し、B6 骨髄細胞2×105個と共に別のレシピエントマウス(二次レシピエントマウス)に二次移植として移植した。 また、ヒトiPS細胞由来HSCに関して、テラトーマが形成されたマウスの1×107個のBM細胞を、放射線処理(2Gy)したNOD/SCIDレシピエントマウス又はNOD/SCID/JAK3欠損レシピエントマウスに移植した。そして、移植後8週間後に、レシピエントマウスのPB細胞をフローサイトメトリーにて分析した。 (実施例5) <Lnk−/− GFP iPS細胞を用いたHSC誘導方法> 前述の通り、先ずLnk−/− GFP トランスジェニックマウスからiPS細胞を樹立した。すなわち、図11に示す通り、3因子(Oct3/4、Klf4、及びSox2)をレンチウィルスall−in−oneベクターを用いて導入することにより、Lnk−/− GFP トランスジェニックマウスのTTFを再プログラムした。また、得られたiPS細胞(Lnk−/− GFP iPS細胞)は、免疫蛍光分析によって、GFP、Nanog、及びSSEA−1が発現していることが確認された(図12 参照)。さらに、Lnk−/− GFP iPS細胞は、ヌードマウスにおけるテラトーマ形成能を有し、胚盤胞に注入することによてキメラマウスに寄与できることから、多分化能を有していることが確認された(図13〜16 参照)。 そして、Lnkタンパク質欠損iPS細胞を用いてテラトーマを作製することにより、HSCへの誘導が可能であるかどうかを、さらに前記誘導に適した条件を調べるため、Lnk−/− GFP iPS細胞をKSN/Slcヌードマウスの皮下に注入し、下記条件下にてHSCへの分化を誘導した(図17 参照)。条件1:対照として、iPS細胞をヌードマウスに注入した。条件2:造血サイトカイン(SCF及びTPO)をマイクロ浸透圧ポンプに入れ、2週間連続して投与した。条件3:OP9間質細胞株をiPS細胞とともに移植した。条件4:前記造血サイトカイン及び前記OP9間質細胞株を投与した。 次いで、テラトーマ形成マウスの末梢血及び骨髄細胞における、Lnk−/− iPS細胞由来のGFP+CD45+細胞の割合を、所定の時期にフローサイトメトリーによって分析した。得られた結果を図18〜21に示す 図18に示した結果から明らかなように、テラトーマ形成マウスの殆どの末梢血において、Lnk−/− GFP iPS細胞由来のCD45+細胞は検出された。また、テラトーマの成長(サイズ)に沿って、Lnk−/− GFP iPS細胞由来の CD45+細胞の割合は徐々に増加していくことが明らかになった(図19 参照)。そして、図18〜20に示した結果から明らかなように、前記割合は、サイトカイン及びOP9細胞を投与した際に最も高くなった(iPS細胞導入12週間後の平均値は、条件1:0.002±0.01%、条件2:1.02±1.15%、条件3:0.87±0.79%、条件4:4.26±3.79%)。 また、iPS細胞導入後12週間後のテラトーマ形成マウスの骨髄細胞を分析した結果、図21が示す通り、多能性前駆細胞(multipotent progenitors、MPPs)としてLineage(Lin)−細胞、HSPCとしてLin− c−Kit+ Sca−1+(KSL)細胞、及び長期HSC(LT−HSCs)としてCD34−KSL細胞において、GFP+細胞を検出した。また、サイトカイン及びOP9細胞を投与した際に、Lnk−/− GFP iPS細胞由来のKSL細胞の割合が最も高かった(図20 参照) すなわち、これらの結果から、骨髄原始細胞(BM primitive cell)集団を含む、免疫表現型に定義された造血細胞の誘導は、実施例3に記載した結果同様、テラトーマ形成を介してLnk−/−GFP iPS細胞から行うことはでき、さらに造血サイトカイン及び共培養細胞(例えば、OP9細胞)は、この誘導を促進するということも明らかになった。 次に、このようにして得られたLnk−/− GFP iPS細胞由来のHSCに、機能的なHSCが含まれているかどうかをコロニ―アッセイによって調べた。すなわち、骨髄におけるGFP+ CD34−KSL細胞を一細胞ずつに分け、各々96ウェルプレートに播き、コロニ―形成のためのサイトカイン(造血分化を誘導するサイトカイン)と共に10日間培養した。そして、培養10日後のCFC−nmEMの数量及びタイプを評価した。なお、CFC−nmEMは、コロニー形成細胞数−好中球/マクロファージ/赤芽球/巨核球(colony−forming units−neutrophil/macrophage/Erythroblast/Megakaryocyte)のことを示す。得られた結果を図22〜24に示す。 図22〜24に示した結果から明らかなように、播種したCD34−KSL細胞において、22.9%がnmEMコロニーを含む大きいコロニーを形成し(図22 参照)、CD34−KSL細胞は、好中球、マクロファージ、赤芽球、巨核球と全ての血球系譜を形成したため、Lnk−/− GFP iPS細胞由来のHSCは多分化能を有する、すなわち、機能的なHSCであるということが実証された(図23及び図24 参照).。 また、Lnk−/− GFP iPS細胞由来の造血幹/前駆細胞(HSPC)が骨髄再建能(キメリズム)を有しているという直接的な証拠を得るために、図17に示すように、テラトーマ形成マウスの骨髄細胞を、致死的に放射線を照射したB6マウスに移植した。次いで、かかるB6マウス(レシピエントマウス)の末梢血、脾臓、及び骨髄におけるLnk−/− GFP iPS細胞由来のHSPCの割合を調べた。得られた結果を図25〜27、及び表1に示す。 なお、表1は骨髄移植してから12週間後のレシピエントマウスにおけるiPS細胞由来の造血細胞のキメリズムを示した表であり、T細胞のキメリズムはGFP+CD3+/CD45+cellsの割合(%)であり、B細胞のキメリズムはGFP+B220+/CD45+cellsの割合(%)であり、ミエロイドのキメリズムはGFP+Gr−1+Mac−1+/CD45+cellsの割合(%)である(平均値±s.e.,Lnk−/−GFP iPS細胞グループ:n=4、GFPiPS細胞グループ:n=6)。 図25及び表1に示した結果から明らかなように、レシピエントマウスの末梢血細胞を分析した結果、多分化再建能を有しているLnk−/− GFP iPS細胞由来の造血細胞が高頻度で検出された。 また、図26及び表1に示した結果から明らかなように、レシピエントマウスの脾臓及び骨髄を分析した結果、多分化再建能を有しているLnk−/− GFP iPS細胞由来の造血細胞が高頻度で検出された。さらに、図27に示した結果から明らかなようにLnk−/− GFP iPS細胞由来の細胞は、骨髄細胞において、CD34−KSL細胞画分(HSC細胞画分)におけるGFP+細胞の平均割合は、45%という高い割合に達していた。 また、Lnk−/− GFP iPS細胞由来のHSCが長期骨髄再建能を有しているという直接的な証拠を得るために、図17に示すように、一次レシピエントマウスの骨髄細胞を致死的に放射線を照射したB6マウス(二次レシピエントマウス)に移植(二次移植)した。得られた結果を図25に示す。 図25に示した結果から、移植後少なくとも12週間後の二次レシピエントマウスにおいて、Lnk−/− GFP iPS細胞由来の細胞は多系譜の細胞に常駐しており(4週間後:76.6±9.5%、12週間後:60.6±13.2%、なお、これら数値(%)は平均値±標準偏差を示す。また、調べた数は各々、n=10である)、テラトーマ形成を介して、Lnk−/− GFP iPS細胞から、自己複製及び多分化造血再建が長期的に可能なHSCが作製可能であるということが明らかになった。そして、一連の移植実験の観察期間中、白血病やその他の異常(血液異常)はレシピエントマウスにおいて認められず、Lnk−/− GFP iPS細胞由来のHSCは正常な造血能を有していることが明らかになった。 (実施例6) <Lnk変異を有さないGFP iPS細胞からの機能的なHSCの作製> 次に、Lnk欠損を伴わないiPS細胞においても機能的なHSCが誘導できるかどうかを評価するため、図11に示す通り、GFPトランスジェニックマウスからiPS細胞(GFP iPS細胞)を樹立した。そして、Lnk−/− GFP iPS細胞を用いた時と同様の条件にてテラトーマ形成を介したHSC誘導を調べた。得られた結果を図28〜35に示す。 図28及び図29に示した結果から明らかなように、テラトーマ形成マウスの末梢血において、GFP+CD45+細胞は経時的に増加していた。また、GFP+CD45+細胞の割合は、サイトカイン及びOP9細胞の存在下、iPS細胞移植12週間後において最も高くなった(条件1:0.003±0.006%、条件2:0.013±0.01%、条件3:0.025±0.01%、条件4:0.16±0.09%、これら数値(%)は平均値±標準偏差を示す。また調べた数は各々n=4である)(図30 参照)。さらに、図31に示した結果から明らかなように、GFP+細胞は、iPS細胞移植12週間後のテラトーマ形成マウスの骨髄のLin−細胞、KSL細胞、及びCD34−KSL細胞において検出された。 また、図32及び図33に示した結果から明らかなように、テラトーマ形成マウスから得られた骨髄細胞の移植の結果、一次レシピエントマウスの末梢血、脾臓、及び骨髄細胞においてGFP iPS細胞由来の血球細胞が生着していることが検出された。さらに、GFP+細胞は、Lin−細胞、KSL細胞、及びCD34−KSL細胞を含む、レシピエント骨髄中の造血原始細胞画分においても検出された(図34 参照)。 さらに、図35に示した結果から明らかなように、コロニーアッセイにおいて、CD34−KSL細胞は、好中球、マクロファージ、赤芽球、巨核球と全ての血球系譜を形成したため、GFP iPS細胞由来のHSCは多分化能を有する、すなわち、機能的なHSCであるということが実証された。 さらに図32に示した結果から明らかなように、これら一連の骨髄細胞の移植によって得られた二次レシピエントマウスにおいては、移植後4週から12週の間、高いキメリズムが確認され、またGFP+細胞が有する強固な生着能は維持されていた。 従って、本発明の方法は、Lnk変異を伴わないiPS細胞からでさえ、長期骨髄再建能を有する機能的なHSCを作製することができる方法であるということが明らかになった。 (実施例7) <X−SCIDマウスにおけるiPS細胞を介した遺伝子治療> X連鎖重症複合免疫不全症(X−SCID)は、T細胞及びB細胞の免疫における重度の障害を特徴とする重症複合免疫不全症(SCID)の一つである。羅患者は、免疫系において重要な機能を担う多数のサイトカインの受容体が共有している、共通ガンマ鎖(common gamma chain(γc))をコードする遺伝子に変異を有していることが知られている(Buckley,R.H.ら、Journal of Pediatrics、1997年、130巻、378〜387ページ 参照)。 そこで、疾患特異的iPS細胞を用いた遺伝子治療法の開発が期待されているものの(Hanna,J.ら、Science、2007年、318巻、1920〜1923ページ 参照)、今まで機能的な造血幹細胞(HSC)の作製方法が実用化されていなかったため、この点が、かかる遺伝子治療法の開発において大きさ障害となっていた。 前述の通り、本発明の方法によって、移植可能であり、リンパ−ミエロイド系譜の再構成が可能な造血前駆細胞をiPS細胞から作製することができる。そこで次に、遺伝子治療法及び疾患特異的なiPS細胞を用いたX−SCIDの治療モデルに本発明を適用することを試みた。 すなわち先ず、図36に示すように、X−SCIDマウスからiPS細胞を作製し、レトロウィルスを介して、マウスγC遺伝子等の導入を行い、次いでクローンの選択を行うことにより、マウスγCが高発現している細胞株(mγc−iPSC#4)を樹立した。(図37〜39 参照)。 そしてテラトーマを作製するために、X−SCIDマウスの皮下にOP9細胞と共にmγc−iPSC#4を注入した。iPS細胞を注入してから12週間経過後、mγc−iPS細胞(mγc−iPSC)由来のGFP+CD45+細胞が、テラトーマが形成されたX−SCIDマウスの一匹の末梢血において検出された(図40 参照)。 しかしながら、臨床経験から予想された通り、宿主由来の骨髄中に残存している圧倒的多数の同種細胞(B細胞及びミエロイド)と競合することによって、GFPが発現しているB細胞及びミエロイド系統の細胞の子孫の拡大は制限された可能性が最も高く、それら細胞は痕跡程度しか現れなかった(図40 参照)。 対して、機能的に矯正されたmγc−iPSC#4に由来する成熟T細胞の発現においてはは、CD4/CD8細胞が正常に分布していること、並びにナイーブT細胞(CD4+CD62L+)発生がはっきりと認められた(図40 参照)。 これらの結果から、疾患特異的iPS細胞を用いた治療用遺伝子組み換えと、本発明のテラトーマ形成を介した、インビボリンパ球産生に対応する造血幹/前駆細胞(HSPC)の産生方法とを組み合わせることによって、X−SCID遺伝子治療のモデルに成り得るということが示された。 また、従前の遺伝子治療では、ウイルスベクターがランダムに組み込まれたヘテロな細胞集団(患者由来のHSPC等)を移植せざるを得なかったために、移植された患者が白血病に羅患するリスクがあった。一方、前記方法においては、iPS細胞に遺伝子を導入しているので、ゲノムDNA上でリスクのない位置に遺伝子が導入されたiPS細胞を選別し、クローン化して増殖させることができる。従って、安全性を確認したiPS細胞から誘導した造血幹細胞を移植に使用することで、本発明においては、白血病のリスクを回避することもできる遺伝子治療法を提供することもできる。 (実施例8) <テラトーマ形成を介した、ヒトiPS細胞からの生着可能なHSCへの誘導> 次に、テラトーマ形成を介して、ヒトiPS細胞からも機能的なHSCが誘導できるかどうかを調べるため、図41に示す通り、ヒトiPS細胞をNOD/SCIDマウスの皮下に注入してテラトーマを作製し、マウスHSC誘導と同様の方法にてHSCを誘導した。そして、ヒトiPS細胞を注入してから12週間後に、テラトーマ形成マウスの末梢血及び骨髄を分析した。得られた結果を図42、及び表2に示す。 図42及び表2に示した結果から明らかなように、調べた15匹中1匹のマウスの末梢血において、ヒト由来の細胞集団(mCD45−hCD45+)がはっきりと検出され、10匹のテラトーマ形成マウスの骨髄において、mCD45陰性細胞集団中に、ヒト由来細胞の画分(hCD45−hCD34+、hCD45dullhCD34+、及び hCD45+hCD34−)を検出することができた。 さらに、複製能を有している、ヒトiPS細胞由来のHSCが存在していることを確かめるため、図41に示す通り、テラトーマ形成マウスから得られた全骨髄細胞又はmCD45を除去した骨髄細胞を、放射線照射NOD/SCIDマウス、又はNOD/SCID/JAK3欠損マウスに移植した。得られた結果を図43及び表2に示す。 図43及び表2に示した結果から明らかなように、移植してから8週間後のレシピエントマウスの末梢血において、多系譜の複製能を有しているヒトiPS細胞由来の血球細胞の生着が確認された。また、ヒトiPS細胞由来のキメリズムは、mCD45除去細胞を移植したマウス(Sorted)の方が全骨髄細胞を移植したマウス(Total)よりも総じて高かった。 従って、本発明によって、何の遺伝子改変をすることなく、ヒトiPS細胞から生着可能なHSCを産生することができるということが明らかになった。 さらに、iPS細胞由来の血球細胞又はHSCはどのように作られ、テラトーマ内に存在しているいのかを調べるため、マウスに形成されたiPS細胞由来のテラトーマを構成する細胞を分析し、HSCニッチ様細胞(HSCs niche−like cells)が存在するかどうかを調べた。 なお、HSCニッチは、HSCの維持に必要な微小環境のことである。HSCに関してはまだ実態は明らかになっていないものの(Calvi,L.M.ら、Nature、2003年、425巻、841〜846ページ、Kiel,M.J.ら、Cell、2005年、121巻、1109〜1121ページ 参照)、昨今の研究成果から、骨芽細胞、内皮細胞、及び骨髄常在グリア細胞(BM−resident glial cells)に含まれる他の細胞種がHSCニッチ形成に寄与していることが示唆されている(骨芽細胞及び内皮細胞に関しては、前記2文献(「Calvi,L.M.ら、2003」、「Kiel,M.J.ら、2005」)参照。骨髄常在グリア細胞に関しては、本発明者等の未公開の観察結果に基づく。)。 そこで、ヒトiPS細胞注入12週間後のテラトーマ組織切片において、骨芽細胞マーカーとしてオステオカルシンの発現を、内皮マーカーとしてVE−カドヘリンの発現を、グリアマーカーとしてグリア線維性酸性タンパク質(glial fibrillary acidic protein、GFAP)の発現を調べた。得られた結果を図44〜46に示す。 図44〜46に示した結果から明らかなように、ヒトiPS細胞由来テラトーマにおいて、オステオカルシン、VE−カドヘリン、又はGFAPを発現している細胞が多く検出された。また、これらのHSCニッチ様細胞の近くに、CD45+CD34+ HSC細胞は高い頻度で存在していることも明らかになった。 さらに、テラトーマのmCD45−細胞において、ヒトiPS細胞由来の細胞画分(hCD45+hCD34−、hCD45+hCD34+、hCD45−hCD34+)が含まれていることがFACS分析によって確認された(図47 参照)。 また、マウスiPS細胞由来のテラトーマにおいて、免疫染色によって、GFP iPS細胞を注入してから12週間後に、GFP+CD45+細胞及びGFP−CD45+細胞が存在していることが確認された (図48 参照)。 さらに、FACS分析によって、CD45+細胞においてGFP+KSL細胞を同定することができ(図49 参照)、かかる結果から、テラトーマにおいてiPS細胞から成体型造血幹細胞が産生されていることが明らかになった.。 また、マウスiPS細胞由来のテラトーマにおいても、オステオカルシン+細胞、VE−カドヘリン+細胞、及びGFAP+細胞といった、HSCニッチ様細胞の存在を確認することができ(図50 参照)。さらに、マウスiPS細胞由来のHSCを含むCD45+c−Kit+細胞は、VE−カドヘリン+細胞及びオステオカルシン+細胞の近くに存在していることが確認された(図51及び図52 参照)。 従って、本発明にかかるテラトーマ形成過程において、造血分化に好適な環境下で、HSCニッチを構成し得る様々な細胞が産生されることによって、テラトーマ内に骨髄に相当する環境が形成され、その結果、HSCは産生されているということが示唆された。 (実施例9) <胚葉系前駆細胞を用いた、マウス個体内での器官形成> 前述のようなES細胞やiPS細胞をマウス個体に直接移植して器官形成を行う方法において、1.多能性幹細胞は様々な細胞系譜の分化能を保持するため、目的細胞以外の細胞が形成される可能性がある。2.移殖した多能性幹細胞のテラトーマ形成能が高過ぎる場合に、目的細胞が形成されるより先にテラトーマの増大により宿主の健康状態が害される可能性がある。といった点が問題に成り得る。 そこで、かかる問題点を解消すべく、その一態様として、ES細胞やiPS細胞を先ずは試験管内で分化誘導させ、多能性を保ちつつ内胚葉系への分化能の高い、内胚葉系前駆細胞を作製しマウスへと移植した。すなわち、以下に記載の材料、方法に沿って行った。得られた結果は図53〜55に示す。 <マウスES細胞の培養> MEF非依存性ES細胞株であるE14tg2aを0.1%ゼラチンコートの培養皿で以下の組成の培地で培養した。グラスゴー改変イーグル培地(Glasgow Modified Eagle Medium、GMEM)、添加物として、10%FCS、1%L−グルタミン−ペニシリン−ストレプトマイシン 溶液(SIGMA社製)、0.1mM 非必須アミノ酸(GIBCO社製)、1mM ピルビン酸ナトリウム、0.1mM 2−メルカプトエタノール、白血病抑制因子(Leukemia Inhibitory Factor、LIF)(1000U/ml)。 <E14Tg2aから前腸内胚葉(内胚葉系前駆細胞)への分化誘導> Collagen−Type4をコートした培養皿に1×104細胞数/mlの密度でE14tg2aを播種した。SFO3無血清培地(三光純薬株式会社製)に20ng/ml ヒト アクチビンA(Peprotech社製)、10ng/ml ヒト BMP4(Peprotech社製)を添加して2日間培養した。2日後からは培地を、SFO3培地に20ng/ml ヒト アクチビンA(Peprotech社製)、20ng/ml マウス EGF(Peprotech社製)、10ng/ml FGF4(SIGMA社製)を添加したものへと変え、更に5日間培養を続けた。 <マウス個体への移植> 未分化なES細胞、及びES細胞から分化誘導して得られた内胚葉系前駆細胞を、8週齢のKSNヌードマウスの腎皮膜へ各々2×106細胞数移植した。移植の際には、各細胞を100μlの氷冷したDMEM無血清培地とマトリゲル(BD Biosciences社製)とを等量に混合した液体に懸濁し、マウス腎皮膜下へと移植した。 なお、マトリゲルとは、細胞外マトリックスタンパク質を豊富に含むEngelbreth−Holm−Swarm(EHS)マウス肉腫から抽出した可溶性基底膜調製品のことであり、主成分は、ラミニン、コラーゲンIV、ヘパラン硫酸プロテオグリカン、およびエンタクチン/ニドジェン1,2であり、これらにTGF−β、上皮細胞増殖因子、インシュリン様成長因子、線維芽細胞増殖因子、組織プラスミノーゲン活性化因子3,4、EHS腫瘍に自然に産生される他の増殖因子が含まれるものである。 <免疫組織化学染色> KSNヌードマウスの腎皮膜下に形成されたテラトーマは適当な大きさに切り分け4%PFA中で一晩振とうした後、10%スクロース溶液で一日、30%スクロース溶液中で2日間振とうした。クリオモルド2号(Sakura Finetek Japan社製)を用いて、O.C.T.コンパウンド(Sakura Finetek Japan社製)中にブロック状に包埋して、ドライアイス上で凍結した。そして、ブロックを、Cryostat CM 3050SIV (Leica社製)を用いて、厚さ7μmに切断し、MASコートを施してあるスライドグラスに張り付けて組織標本を作成した。組織標本はPBSにより洗浄を2回行い、−20℃に氷冷したメタノール(MtOH)に10分間浸した。PBSによりMtOHの洗浄を2回行った後に、5% ロバ血清(SIGMA社製)/PBSでブロッキングを室温で30分間行った。ブロッキングバッファーに希釈した一次抗体(抗−FoxA2およびCK19 抗体)を加えて一晩4℃で反応させた。一次抗体を反応させた後にPBSで3度洗浄を行い、二次抗体としてロバ由来 抗−ヤギ Alexa 546抗体(invitrogen社製)、及びロバ由来 抗−ウサギ Alexa 488抗体(invitrogen社製)をブロッキングバッファーに各々500倍希釈して室温で45分間反応させた。最後に2回PBSで洗浄を行い、4’,6−diamidino−2−phenylindole(DAPI、Roche社製)を10分間反応させた。DAPIを反応させた後に、PBSによる洗浄を一度行った。その後、PBSを除き、Dako Fluorescent Mounting Medium(Dako社製)で包埋し、観察した。 また、未分化なES細胞、及びES細胞から分化誘導して得られた内胚葉系前駆細胞を注入して得られたテラトーマよりランダムに3セクションを選び、組織切片中に存在するCK19陽性の腸管様構造の数をカウントした。 図53〜55に示した結果から明らかなように、ES細胞を移植した場合と比較して、内胚葉系前駆細胞を移植した場合には形成されるテラトーマの大きさは小さかった(図53 参照)。さらに、内胚葉系前駆細胞由来のテラトーマ内では、ES細胞由来のそれと比較して、FoxA2陽性の内胚葉系細胞、特にCK19陽性の腸管様細胞の数は増大していた(図54及び図55 参照)。従って、本発明において、ES細胞等の万能細胞からある程度分化誘導させた多能性幹細胞を用いることで、目的とする臓器を構成する細胞をより多く含むテラトーマが形成でき、且つテラトーマの増大による宿主の健康状態への影響も抑えることができることが明らかになった。 以上説明したように、本発明によれば、多能性幹細胞を所望の機能的な細胞に効率良く分化誘導することが可能となる。したがって、本発明の多能性幹細胞から分化誘導された目的細胞の生産方法は、再生医療、移植医療、細胞医療等において有用である。 哺乳動物個体に由来する多能性幹細胞を、非ヒト哺乳動物に移植する工程と、前記非ヒト哺乳動物に、目的細胞への分化誘導剤を投与する工程と、移植した多能性幹細胞が前記非ヒト哺乳動物の生体内でテラトーマを形成するために十分な時間、当該動物を生育させ、前記多能性幹細胞を目的細胞へ分化誘導させる工程と、前記非ヒト哺乳動物から、前記哺乳動物個体に由来する目的細胞を回収する工程と、を含む、多能性幹細胞から分化誘導された目的細胞の生産方法。 前記多能性幹細胞が、前記哺乳動物個体の体細胞を用いて調製された人工多能性幹(iPS)細胞である請求項1に記載の方法。 前記多能性幹細胞が、前記哺乳動物に由来する受精卵から調製された胚性幹(ES)細胞である請求項1に記載の方法。 前記多能性幹細胞が、前記非ヒト哺乳動物の皮下、精巣、及び腎皮膜からなる群より選択される少なくとも一の組織に移植される請求項1〜3のうちのいずれか一項に記載の方法。 前記目的細胞が肝細胞又は膵臓細胞であり、当該目的細胞を前記非ヒト哺乳動物に形成されたテラトーマから回収する請求項1〜4のうちのいずれか一項に記載の方法。 前記膵臓細胞が膵臓のランゲルハンス氏島細胞である、請求項5に記載の方法。 前記目的細胞が造血系細胞であり、当該造血系細胞を前記非ヒト哺乳動物の骨髄から回収する請求項1〜4のうちのいずれか一項に記載の方法。 前記多能性幹細胞がLnk欠損細胞である、請求項7に記載の方法 前記多能性幹細胞を目的細胞へ分化誘導させる工程において、共培養細胞の存在下で行う、請求項1〜8のうちのいずれか一項に記載の方法。 前記共培養細胞がOP−9細胞である請求項9に記載の方法。 前記分化誘導剤を前記非ヒト哺乳動物の皮下に所定の期間連続的に投与する、請求項1〜10のうちのいずれか一項に記載の方法。 前記非ヒト哺乳動物が、目的細胞の形成能を欠損している請求項1〜11のうちのいずれか一項に記載の方法。 前記非ヒト哺乳動物が、免疫不全動物である請求項1〜12のうちのいずれか一項に記載の方法。 前記動物個体に由来する多能性幹細胞を目的細胞へ分化誘導させる工程において、混入する目的細胞以外の細胞を除去する操作を施す、請求項1〜13のうちのいずれか一項に記載の方法。 前記目的細胞以外の細胞が、未分化状態のままである多能性幹細胞である、請求項14に記載の方法。 前記除去する操作が、所望の時期に自殺遺伝子を機能させることにより達成される、請求項14又は15に記載の方法。 請求項1〜16のうちのいずれか一項に記載の方法により得られる、目的細胞。 哺乳動物個体に由来する多能性幹細胞を、非ヒト哺乳動物に移植する工程と、前記非ヒト哺乳動物に、目的細胞への分化誘導剤を投与する工程と、移植した多能性幹細胞が前記非ヒト哺乳動物の生体内でテラトーマを形成するために十分な時間、当該動物を生育させ、前記多能性幹細胞を目的細胞へ分化誘導させる工程と、前記非ヒト哺乳動物から、前記哺乳動物個体に由来する目的細胞を回収する工程とを含む、多能性幹細胞から分化誘導された目的細胞の生産方法。


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