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タイトル:公開特許公報(A)_新規キシログルカン分解酵素
出願番号:2010033922
年次:2011
IPC分類:C12N 9/42,C12P 19/14


特許情報キャッシュ

尾島 孝男 JP 2011167125 公開特許公報(A) 20110901 2010033922 20100218 新規キシログルカン分解酵素 三菱レイヨン株式会社 000006035 国立大学法人北海道大学 504173471 小林 浩 100092783 片山 英二 100095360 大森 規雄 100120134 今里 崇之 100147131 鈴木 康仁 100104282 尾島 孝男 C12N 9/42 20060101AFI20110805BHJP C12P 19/14 20060101ALI20110805BHJP JPC12N9/42C12P19/14 A 8 OL 21 4B050 4B064 4B050CC01 4B050DD11 4B050FF01C 4B050FF08C 4B050FF08E 4B050FF11E 4B050FF12E 4B050FF13C 4B050FF13E 4B050FF14E 4B050LL05 4B050LL10 4B064AF01 4B064AF03 4B064AF11 4B064AF12 4B064CA10 4B064CA21 4B064CB07 4B064DA10 4B064DA16 本発明は、海洋性軟体動物アメフラシに由来する新規なキシログルカナーゼ、その製造方法及び利用方法に関する。 キシログルカンは、グルコースがβ-1,4-グルコシド結合した主鎖と、この主鎖に対してα-1,6-キシロイド結合したキシロースを含み、グルコース及びキシロースの他にもフコース、アラビノースなどの単糖類を含むヘテロ多糖類である。 キシログルカンは、普遍的に存在する植物細胞の細胞壁の構成糖鎖であり、複数種類の単糖を含むことから、単糖生成の原料等としての利用を目的として、その機能及び構造が注目を集めている。現在までに、複数種類のキシログルカン分解酵素(キシログルカナーゼ)が、発見され、その機能等が詳細に研究されている(特許文献1〜5)。 例えば、特許文献1には、オエルスコヴィア属に属する微生物に由来する酵素であって、オリゴキシログルカンの非還元末端のグルコース残基のβ-グルコシド結合を分解することによってイソプリメベロースを生成させる酵素が記載されている。また、特許文献3には、ゲオトリカム属に由来し、キシログルカンの主鎖を形成するβ-グルコシド結合を分解するエンド型キシログルカナーゼが記載され、特許文献4には、ゲオトリカム属菌128株に由来し、還元末端側から2番目のβ-グルコシド結合を特異的に分解するキシログルカナーゼが記載されている。 しかしながら、これまでに報告されるキシログルカナーゼは、キシログルカナーゼ活性以外の酵素活性、例えば、セルラーゼ活性を示すものではない。特開2008-199977号公報特表2007-529993号公報特開2003-261037号公報特開2003-274952号公報特表2003-503322号公報 以上の状況に鑑み、本発明は、キシログルカンに加えて、他の多糖類、例えば、セルロースも分解可能なキシログルカナーゼを提供することを目的とする。 本発明者らは、鋭意研究を行った結果、アメフラシのキシログルカナーゼを単離し、その性質を解明し、当該キシログルカナーゼを化学的に特定することに成功した。単離されたアメフラシ由来のキシログルカナーゼは、驚くべきことに、キシログルカナーゼ活性に加えて高いセルラーゼ活性を示すものであった。このキシログルカナーゼは、キシログルカンであるタマリンドガムを分解して、2糖及び3糖を生成し、結晶性セルロース(アビセル)及び非結晶性セルロース(リン酸膨潤セルロース)に作用して、セロビオースを生じるという作用特性を有していた。本発明は、これらの知見に基づくものである。 即ち、本発明は、以下の通りである。[1] 下記の(a)〜(c)の理化学的性質を有するキシログルカナーゼ。(a) 作用:キシログルカン及びセルロースを分解する(b) 分子量:78,000〜82,000 Da(SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動による)(c) 海洋性軟体生物に由来する[2] 前記キシログルカンがタマリンドガムである、上記[1]に記載のキシログルカナーゼ。[3] 前記セルロースが、カルボキシメチルセルロース、リン酸膨潤セルロース及びアビセルからなる群より選択される少なくとも1つである、上記[1]に記載のキシログルカナーゼ。[4] 前記海洋性軟体生物が、腹足綱に属する生物である、上記[1]に記載のキシログルカナーゼ。[5] 前記腹足綱に属する生物が、アワビ又はアメフラシである、上記[4]に記載のキシログルカナーゼ。[6] 下記の(a)〜(c)の理化学的性質を有するキシログルカナーゼの製造方法であって、海洋性軟体生物の消化器官組織又は消化液からキシログルカナーゼ粗酵素を抽出し、該粗酵素をクロマトグラフィー処理することにより前記キシログルカナーゼを採取することを特徴とする方法。(a) 作用:キシログルカン及びセルロースを分解する(b) 分子量:78,000〜82,000 Da(SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動による)(c) 海洋性軟体生物に由来する[7] 前記キシログルカンがタマリンドガムである、上記[6]に記載の方法。[8] 前記セルロースが、カルボキシメチルセルロース、リン酸膨潤セルロース及びアビセルからなる群より選択される少なくとも1つである、上記[6]に記載の方法。[9] 前記海洋性軟体生物が、腹足綱に属する生物である、上記[6]に記載の方法。[10] 前記腹足綱に属する生物が、アワビ又はアメフラシである、上記[6]に記載の方法。[11] 上記[1]に記載のキシログルカナーゼとキシログルカンとを接触させる工程を含む、キシログルカンの分解方法。[12] 前記キシログルカンがタマリンドガムである、上記[11]に記載の方法。[13] 上記[1]に記載のキシログルカナーゼとセルロースとを接触させる工程を含む、セルロースの分解方法。[14] 前記セルロースが、カルボキシメチルセルロース、リン酸膨潤セルロース及びアビセルからなる群より選択される少なくとも1つである、上記[13]に記載の方法。 本発明によれば、キシログルカナーゼ活性と共にセルラーゼ活性を示す新規なキシログルカナーゼが提供される。アメフラシの消化液からキシログルカナーゼを精製する方法の概略を示す図である。アメフラシ由来キシログルカナーゼ粗酵素をTOYOPEARL-Phenyl 650Mカラムクロマトグラフィーで部分精製した結果を示す図である。TOYOPEARL-Phenyl 650Mカラムクロマトグラフィーで部分精製したキシログルカナーゼ画分を、さらにCM-Toyopearlカラムクロマトグラフィーで精製した結果を示す図である。CM-Toyopearlカラムクロマトグラフィーで部分精製したキシログルカナーゼ画分を、さらにSuperdex 75カラムクロマトグラフィーで精製した結果を示す図である。Superded 75カラムクロマトグラフィーで部分精製したキシログルカナーゼ画分を、さらにMono-Sカラムクロマトグラフィーで精製した結果を示す図である。SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動により、精製キシログルカナーゼの分子量が約80,000と見積もられることを示す図である。アメフラシ由来キシログルカナーゼのタマリンドガム分解活性の(A)至適温度、(B)温度安定性、(C)至適pH、(D)pH安定性を示す図である。(A)アメフラシ由来キシログルカナーゼのタマリンドガム分解によるタマリンドガム溶液の粘性低下を示す図である。(B)アメフラシ由来キシログルカナーゼカルボキシメチルセルロース分解によるカルボキシメチルセルロース溶液の粘性低下を示す図である。アメフラシ由来キシログルカナーゼにより、タマリンドガム、アビセル、及びリン酸膨潤セルロースを分解した際に生じるオリゴ糖の組成を示す図である。G1〜G7は、それぞれ、グルコース(G1)、セロビオース(G2)、セロトリオース(G3)、セロテトラオース(G4)、セロペンタオース(G5)、セロヘキサオース(G6)及びセロヘプタオース(G7)を表す。本発明のキシログルカナーゼのセロオリゴ糖(G2〜G6)に対する作用を示す図である。本発明のキシログルカナーゼによるキシログルカンの分解様式を表す図である。 本発明のキシログルカナーゼは、下記の(a)〜(c)の理化学的性質を有する酵素である。(a) 作用:キシログルカン及びセルロースを分解する(b) 分子量:78,000〜82,000 Da(SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動による)(c) 由来:海洋性軟体生物に由来する(a) 作用 本発明のアメフラシ由来キシログルカナーゼは、キシログルカンの主鎖のβ-1,4-結合を加水分解する。ここで、キシログルカンとは、グルコースがβ-1,4-グルコシド結合した主鎖と、この主鎖に対してα-1,6-キシロイド結合したキシロースを含み、グルコース及びキシロースの他にもフコース、アラビノースなどの単糖類を含むヘテロ多糖類である。キシログルカンの好ましい例としては、タマリンドガムが挙げられる。 本発明のキシログルカナーゼの基質であるキシログルカンは、粘性を示すが、キシログルカンが分解されると反応溶液の粘性が減少するため、本発明のキシログルカナーゼによるキシログルカンの分解度、即ちキシログルカナーゼ活性は、反応溶液の粘度の低下を測定して間接的にモニターすることもできる(図8参照)。粘度は、キャノン-フェンスケ型、不透明液用(逆流型)型、ウベローデ型、希釈形ウベローデ型、キャノン-マニング型及びオストワルド型粘度計等の各種粘度計を用いて測定できる。 本発明のキシログルカナーゼによって、キシログルカンを分解した場合、2糖及び3糖のオリゴ糖が生成される。本発明のキシログルカナーゼによるキシログルカン分解で生じるオリゴ糖の種類は、例えば、本発明のキシログルカナーゼとキシログルカンとを混合して酵素反応を起こさせ、その反応系に含まれるオリゴ糖を薄層クロマトグラフィー等の分析方法によって分析することにより、同定することができる。 本発明のキシログルカナーゼは、キシログルカンに加えてセルロースも分解する。セルロースとは、植物細胞の細胞壁及び繊維の主成分であって、分子式 (C6H10O5)nで表される多糖類である。セルロースは、結晶性又は非結晶性のいずれのセルロースであってもよい。セルロースの好ましい例としては、カルボキシメチルセルロース(CMC)、リン酸膨潤セルロース(Phosphoric Acid Swollen Cellulose:PASC)及びアビセル(Avicel)が挙げられる。 また、本発明のキシログルカナーゼは、セロオリゴ糖も分解することができる。セロオリゴ糖は、セルロースの分解によって生じるオリゴ糖であり、本発明においてセロオリゴ糖の好ましい例としては、セロトリオース、セロテトラオース、セロペンタオース、セロヘキサオースが挙げられる。本キシログルカナーゼはこれらのセロオリゴ糖を分解し、主にセロビオースを生成する。なお、本発明のキシログルカナーゼは、セロビオースを殆ど分解しない。 本発明のキシログルカナーゼによるセルロースの分解度は、例えば、以下の方法によって確認することができる。すなわち、結晶性セルロースであるアビセル、非結晶性セルロースであるリン酸膨潤セルロース、修飾セルロース誘導体であるカルボキシメチルセルロースなどのセルロース基質を本キシログルカナーゼで分解し、それに伴って生じる還元糖をPark & Johnson法などにより定量し、その単位時間当たりの増加量からセルロース分解活性を算出できる。あるいは、カルボキシメチルセルロースの溶液に本キシログルカナーゼを添加し、カルボキシメチルセルロースの分解に伴う粘度低下を経時的に測定することにより分解活性を評価できる。(b) 分子量 本発明のキシログルカナーゼは、SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動で分析した場合、78,000〜82,000 Da、好ましくは、79,000〜81,000 Da、より好ましくは、79,500〜80,500 Da、更に好ましくは、79,750〜80,250 Da、最も好ましくは、80,000 Daの分子量を示す。 分子量は、例えば、質量分析やSDS-PAGEなどの一般的なタンパク質分子量の測定方法によって測定可能であるが、SDS-PAGEによる測定が好ましい。また、SDS-PAGEを行う場合、本発明のキシログルカナーゼは、サンプルローディングに先立って2-メルカプトエタノール等の還元剤の存在下での加熱処理等によって変性されることが好ましい。(c) 由来 本発明のシログルカナーゼは、海洋性軟体生物に由来するものである。海洋性軟体生物の例としては、腹足綱、溝腹綱、単板綱、多板綱、掘足綱、二枚貝綱及び頭足綱に属する生物が挙げられるが、腹足綱に属する生物が好ましい。また、腹足綱に属する生物としては、アメフラシ又はアワビが特に好ましい。 本発明において、「アメフラシ」とは、腹足綱後鰓類の無楯類 (Anapsidea、Aplysiomorpha) に属する軟体動物の総称であり、具体例としては、以下が挙げられるが、これらに限定されるものではない:クロヘリアメフラシ(Aplysia parvula)、クロスジアメフラシ(Stylocheilus striatus)、アマクサアメフラシ(Aplysia juliana)、ジャンボアメフラシ(Aplysia californica)、ジャノメアメフラシ(Aplysia dactylomela)、アプリシア・エクストラオルディナリア(Aplysia extraordinaria)、ミドリアメフラシ(Aplysia oculifera)、サガミアメフラシ(Aplysia sagamiana)、アプリシア・シドニーエンシス(Aplysia sydneyensis)及びアメフラシ(Aplysia kurodai)。これらの具体例のうち、アメフラシ(Aplysia kurodai)が好ましい。 本発明において、「アワビ」とは、ミミガイ科の巻貝の総称であり、具体例としては、以下が挙げられるが、これらに限定されるものではない:エゾアワビ (Haliotis discus hannai)、クロアワビ (Haliotis discus discus)、メガイアワビ (Haliotis gigantea)、マダカアワビ (Haliotis madaka)、トコブシ (Haliotis diversicolor aquatilis)及びミミガイ (Haliotis asinina)。これらの具体例のうち、エゾアワビ (Haliotis discus hannai)が好ましい。その他の特徴 本発明のキシログルカナーゼは、キシログルカンを効率的に低分子化及びオリゴ化するために、キシログルカンに対してエンド型酵素として作用することが好ましい。 さらに、本発明のキシログルカナーゼは、リン酸膨潤セルロースやアビセルに作用してセロビオースを生成することもできる。また、本発明のキシログルカナーゼは、セロトリオースに作用してセロビオースとグルコースを生成し、セロテトラオースに作用してセロビオースを生成し、セロペンタオース及びセロヘキサオースに作用してセロビオースとセロトリオースを生成することもできる(図10を参照)。 またさらに、本発明のキシログルカナーゼは、以下の(d)〜(g)のいずれか1つ又は複数の特徴を有していてもよい。(d)至適温度:約30〜45℃(最適温度:約35〜40℃) 至適温度は、一定濃度の基質と一定量のキシログルカナーゼを混合し、この混合物を所定の温度で加熱して、一定時間内に分解された基質の量を測定及び比較することによって求めることができる。各温度での基質分解量を比較し、最も多くの基質が分解された温度を至適温度と定めることができる(図7A参照)。また、上述したように、キシログルカナーゼとキシログルカン基質を含む反応溶液の粘度の低下を測定して間接的に基質の分解度をモニターすることもできる。(e)至適pH:pH5.0〜7.5(最適pH:pH5.5〜7.0) 至適pH安定性は、キシログルカナーゼを様々なpH(例えば、pH2.0〜10.0)の条件下で基質と反応させ、定時間内に分解された基質の量を測定及び比較することによって求めることができる。各pHでの基質分解量を比較し、最も多くの基質が分解されたpH領域を至適pH と定めることができる。また、pH安定性は、至適pH(例えば、pH5.0〜7.5)での活性を100%と定義した上で、試験pHにおいてキシログルカナーゼを一定温度(例えば、30℃)で一定時間(例えば、30分間)加熱した後に残存する活性を相対活性として測定することにより、評価することができる。(f)熱安定性:pH 7.0において47℃で30分間の加熱後に50%以上のキシログルカナーゼ活性及び50%以上のセルラーゼ活性が残存する。 熱安定性は、キシログルカナーゼを様々な温度(例えば、0〜80℃)で一定時間(例えば、30分間)加熱処理した後に、加熱前の活性を100%と定義した上で相対活性を測定することにより、評価することができる。(g)N末端アミノ酸配列:GIDVPITNHXWHS-(配列番号1) 本発明のキシログルカナーゼは、そのアミノ酸末端において、配列番号1に示すアミノ酸配列を有する。アミノ酸配列の同一性は、European Bioinfomatics Instituteから入手可能なClustal WやGenetyx社から市販される配列解析ソフトウェアを用いて容易に算出することができる。 以下、本発明のキシログルカナーゼの製造方法を説明する。キシログルカナーゼの製造方法 本発明は、下記の(a)〜(c)の理化学的性質を有するキシログルカナーゼの製造方法であって、海洋性軟体生物の消化器官組織又は消化液からキシログルカナーゼ粗酵素を抽出し、該粗酵素をクロマトグラフィー処理することにより前記キシログルカナーゼを採取することを特徴とする方法、を提供する。(a) 作用:キシログルカン及びセルロースを分解する(b) 分子量:78,000〜82,000 Da(SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動による)(c) 海洋性軟体生物に由来する 本発明において、「粗酵素」とは、キシログルカナーゼとキシログルカナーゼ以外の不純物成分とを含有する混合物を意味するものであり、液体であっても固体であってもよい。 本発明において、「抽出」とは、消化器官組織又は消化液に含まれるキシログルカナーゼを適切な溶媒中に溶出させて回収する操作を意味する。例えば、キシログルカナーゼ粗酵素の抽出方法の具体例として、透析、硫安分画、限外濾過又は凍結乾燥等の一般的なタンパク質濃縮方法が挙げられるが、これらに限定されるものではない。 本発明において、「消化器官組織」とは、上記項目「(c) 由来」に記載する海洋性軟体生物の消化管を構成する組織を意味するものである。消化器官組織の具体例としては、前腸、中腸(胃)、後腸、肝盲嚢、砂嚢及び歯舌等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。消化器官組織の好ましい例としては、前腸、中腸(胃)、後腸が挙げられ、特に中腸(胃)が好ましい。本発明において、「消化液」とは、消化腺から分泌され、キシログルカナーゼを含む液体を意味するものである。 本発明において、「クロマトグラフィー処理」とは、クロマトグラフィー操作によってキシログルカナーゼの純度を高める精製処理を広く意味するものである。ここで、「精製」とは、粗酵素中に含まれるキシログルカナーゼ以外の不純物成分を取り除くことにより、キシログルカナーゼの純度を高める操作を意味する。クロマトグラフィー精製の具体例としては、吸着クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー及びサイズ排除クロマトグラフィー等の精製方法が挙げられるが、これらに制限されるものではない。 以下において、アメフラシからのキシログルカナーゼの製造方法の具体例を説明するが、本発明のキシログルカナーゼの製造方法は、以下に限定されるものではない。 アメフラシ由来のキシログルカナーゼは、アメフラシの内臓や内臓滲出液、特に消化器官の組織や消化液に多く含まれることから、これらの組織や体液から当該酵素を含有する粗酵素を抽出した後、当該粗酵素を更に精製することで高純度のキシログルカナーゼを得ることができる。本発明のキシログルカナーゼの場合、例えば、アメフラシの消化液をリン酸ナトリウムに対して透析することにより粗酵素を得ることができる。また、回収したキシログルカナーゼ粗酵素を精製する方法としては、キシログルカナーゼ粗酵素を緩衝液等に混合し、得られたキシログルカナーゼ混合物を吸着クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー及びサイズ排除クロマトグラフィー等の各種クロマトグラフィー処理で精製することにより高純度のキシログルカナーゼを得ることができる。 最初に、キシログルカナーゼが含まれる組織及び体液、好ましくは、消化器官組織の溶解物や消化液を所定の緩衝液に対して透析し、得られた溶液を遠心分離することにより粗酵素を得ることができる。緩衝液の例としては、濃度が約1〜50 mM、好ましくは約5〜20 mM、より好ましくは約10 mMのリン酸ナトリウムが挙げられるが、これに限定されるものではない。下記の実施例では、消化液を10 mMのリン酸ナトリウム緩衝液(pH 6.0)に対して透析し、得られた溶液を遠心分離(10,000 g、10 min)することによって、キシログルカナーゼ粗酵素を得ている(図1を参照)。 キシログルカナーゼ粗酵素は、更に精製することが好ましく、このような精製は、公知のタンパク質精製方法、例えば、吸着クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー及びサイズ排除クロマトグラフィー等の各種クロマトグラフィー処理により行うことができる。 吸着クロマトグラフィーを行う場合、硫酸アンモニウムの添加によりキシログルカナーゼを疎水性として精製を行うことが可能であるため、疎水性樹脂カラムを用いることが好ましい。疎水性樹脂カラムの例としては、TOYOPEARL Phenyl 650カラム(東ソー社製)等が挙げられるが、これに限定されるものではない。例えば、吸着クロマトグラフィーの前の工程でキシログルカナーゼを透析によって粗抽出し、その後に吸着クロマトグラフィーで精製する場合、吸着クロマトグラフィーの樹脂カラムを透析に用いた緩衝液で事前に平衡化することが好ましい(図2を参照)。 イオン交換クロマトグラフィーを行う場合、イオン交換樹脂としては、陽イオン交換タイプのイオン交換樹脂を用いることができる。このような、陽イオン交換樹脂を利用したカラムは市販されており、例えば、TOYOPEARL CM-650Mカラム(東ソー社製)等が挙げられるが、これに限定されるものではない。下記の実施例では、透析及び遠心分離によって得たキシログルカナーゼ粗酵素を、TOYOPEARL CM-650Mカラムを用いたイオン交換クロマトグラフィーによって精製している(図3を参照)。 サイズ排除クロマトグラフィーを行う場合、キシログルカナーゼの分子量78,000〜82,000 Da前後のタンパク質を分離できる樹脂を用いることが好ましい。このような樹脂を用いたカラムの例としては、市販のSuperdex 75カラム(GEヘルスケア製)やTOYOPEARL HW50 Fカラム(東ソー社製)が挙げられるが、これに限定されるものではない。実施例では、Superdex 75カラムを用いてゲルろ過を行っている(図4を参照)。 陽イオン交換クロマトグラフィーを再度行う場合、陽イオン交換タイプのイオン交換樹脂を用いることができる。このような、陽イオン交換樹脂の例として、市販のMono-Sカラム(GEヘルスケア製)が挙げられるが、これに限定されるものではない。実施例では、透析及び遠心分離によって得たキシログルカナーゼ粗酵素を、Mono-Sカラムを用いたイオン交換クロマトグラフィーによって精製している(図5を参照)。 上記の各種クロマトグラフィーを行う場合、キシログルカナーゼを吸着剤に吸着させた後、適切な溶離液をカラムに加えて、キシログルカナーゼを吸着剤から溶出させる。吸着剤からの溶出は、溶離液の直線濃度勾配を利用すると、より高純度のキシログルカナーゼを得ることができる。クロマトグラフィー処理は繰り返し行ってもよい。溶出されたキシログルカナーゼ含有分画は、一つにまとめて濃縮してもよい。濃縮は、硫安分画、限外濾過又は凍結乾燥等の一般的なタンパク質濃縮方法によって行うことができる。 上記の各種精製方法を組み合わせることにより、純粋なアメフラシ由来キシログルカナーゼを得ることができる。精製度は、例えばSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)等により確認することができる。下記の実施例において、精製したアメフラシ由来キシログルカナーゼは、SDS-PAGE分析により分子量78,000〜82,000 Daのバンドとして確認されている(図6を参照)。 本発明の製造方法によって得られるキシログルカナーゼは、前述の通り、(a)〜(c)の性質を有する。 ここで、前記キシログルカンは、好ましくは、タマリンドガムである。 また、前記セルロースは、好ましくは、カルボキシメチルセルロース、リン酸膨潤セルロース及びアビセルからなる群より選択される少なくとも1つのものである。 さらに、前記海洋性軟体動物は、好ましくは、アメフラシ又はアワビであり、特に好ましくは、アメフラシ(Aplysia kurodai)又はエゾアワビ(Haliotis discus hannai)である。 本発明の製造方法によって得られるキシログルカナーゼは、キシログルカンを効率的に低分子化及びオリゴ化するために、キシログルカンに対してエンド型酵素として作用することが好ましい。 さらに、本発明の製造方法によって得られるキシログルカナーゼは、リン酸膨潤セルロースやアビセルに作用してセロビオースを生成することもできる。また、本発明の製造方法によって得られるキシログルカナーゼは、セロトリオースに作用してセロビオースとグルコースを生成し、セロテトラオースに作用してセロビオースを生成し、セロペンタオース及びセロヘキサオースに作用してセロビオースとセロトリオースを生成することもできる(図10を参照)。 またさらに、本発明の製造方法によって得られるキシログルカナーゼは、上記(a)〜(c)に加えて、以下の(d)〜(g)のいずれか1つ又は複数の特徴を有していてもよい。(d)至適温度:約30〜45℃(最適温度:約35〜40℃)(e)至適pH:pH5.0〜7.5(最適pH:pH5.5〜7.0)(f)熱安定性:pH 7.0において47℃で30分間の加熱後に50%以上のキシログルカナーゼ活性及び50%以上のセルラーゼ活性が残存する。(g)N末端アミノ酸配列:GIDVPITNHXWHS-(配列番号1) 本発明のキシログルカナーゼ及び本発明の製造方法によって得られるキシログルカナーゼは、以下の用途に利用できる。キシログルカナーゼの用途 本発明は、上記のキシログルカナーゼとキシログルカンとを接触させる工程を含む、キシログルカンの分解方法を提供する。 この方法において、キシログルカンは、好ましくは、タマリンドガムである。 既に述べたように、上記のキシログルカナーゼは、キシログルカン分解活性に加えて、セルロースを分解する活性を示す。 従って、本発明は、上記のキシログルカナーゼとセルロースとを接触させる工程を含む、セルロースの分解方法を提供する。 この方法において、セルロースは、好ましくは、カルボキシメチルセルロース、リン酸膨潤セルロース及びアビセルからなる群より選択される少なくとも1つのものである。 以下、実施例により本発明の実施方法を更に詳細に説明するが、これらの実施例は、本発明の例示を目的とするものであり、本発明を限定するものではない。実施例1アメフラシ個体からのキシログルカナーゼの抽出及び精製 アメフラシ個体からのキシログルカナーゼの抽出及び精製の概要は図1に示した。すなわち、約10匹のアメフラシ個体(体長約10 cm)を解剖し、胃内腔から消化液を駒込ピペットにより採取した。得られた計50 mLの消化液を10 mM リン酸ナトリウム緩衝液(pH 6.0)に透析した後、硫安分画した。40〜60%飽和硫安で沈殿する画分を10,000 x gで10分間の遠心分離で集め、これを30%飽和硫安で溶解した。不溶物を10,000 x gで10分間の遠心分離で除いた上清を、あらかじめ40%飽和硫安で平衡化しておいたTOYOPEARL-Phenyl 650 M カラム(2.0 x 15 cm)(東ソー社製)に供した。カラムに吸着したタンパク質は、40%飽和硫安、20%飽和硫安、0%飽和硫安を用いて順次溶出し、溶出液は10 mLずつ分取した(図2)。キシログルカナーゼの溶出は、基質として0.15% (w/v)のタマリンドガムを含む反応混液(pH 6.0)にカラムからの溶出液を1/10容添加し、30℃で10分間反応させて生じた還元糖量をPark & Johnson法で定量することにより検出した。図2においてキシログルカナーゼは0%飽和硫安画分に溶出した。このキシログルカナーゼ画分(フラクション番号59〜61は10 mM リン酸ナトリウム緩衝液(pH 6.0)に透析した後、同溶液に平衡化してあるTOYOPEARL-CM 650 M カラム(2.0 x 15 cm)(東ソー社製)に供し、非吸着のタンパク質を10 mM リン酸ナトリウム緩衝液(pH 6.0)で除去した後、吸着したタンパク質を0.5 MのNaClを含む10 mM リン酸ナトリウム緩衝液(pH 6.0)で溶出し、溶出液を10 mLずつ分取した。図3において、キシログルカナーゼは0.5 M NaCl(フラクション番号18〜19)で溶出した。これらの画分はApollo遠心濃縮器により2 mLに濃縮し、Superdex 75(GEヘルスケア)ゲルろ過に供した。図4のクロマトグラフィーにおいて、キシログルカナーゼはフラクション10、11に溶出したので、これらを合一し、10 mM リン酸ナトリウム緩衝液(pH 6.0)に透析した後、同溶液で平衡化しておいたMono-Sカラム(GEヘルスケア)クロマトグラフィーに供した。それにより、キシログルカナーゼはSDS-PAGEで約80,000 Daの単一バンドを示す純度にまで精製された。本酵素は粗酵素から1.1mg得られ、比活性は粗酵素の6倍に上昇し、収率は6%であった。以上の精製結果を表1に示す。粘性試験 精製したキシログルカナーゼにより、タマリンドガム及びカルボキシメチルセルロースを分解した際の粘性低下を測定した。すなわち、タマリンドガム及びカルボキシメチルセルロースを0.15%(w/v)になるように10 mM リン酸ナトリウム緩衝液(pH 6.0)に溶解し、その3.0 mLをオストワルド型粘度計中に加え、30℃で平衡化した。 そこに0.15 mlのキシログルカナーゼ(2.4 mU/mL)を添加し、粘度低下を経時的に測定した(図8参照)。タマリンガムの粘性は反応初期に速やかに低下し、その後ゆっくりと低下し、相対粘度約2.8に漸近した(図8A)。一方、CMCの粘度はゆっくりと低下し、最終的に相対粘度約1.6に漸近した(図8B)。タマリンドガム、リン酸膨潤セルロース及びアビセル分解物の分析 タマリンドガム、リン酸膨潤セルロース(PASC)及びアビセルを1%(w/v)になるように10 mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH 6.0)に溶解あるいは懸濁し、そこにアメフラシ・キシログルカナーゼ(2.4 mU/ml)を1/2容加え、30℃で所定の時間(0時間、12時間又は24時間)反応させた。反応は100℃で加熱することにより停止させ、この反応停止液を10,000 x gで10分間遠心分離して得られた上清を、TLC60プレート(Merk社製)を用いた薄層クロマトグラフィーに供した。試料は酢酸エチル:酢酸:水=2:2:1(v:v:v)で展開し、10%硫酸-エタノール(v/v)で発色させた(図9)。タマリンドガムからは2〜3糖が生成し、リン酸膨潤セルロース及びアビセルからは2糖(セロビオース)が生成していることが分る。 また、本発明のキシログルカナーゼは、セロトリオースに作用してセロビオースとグルコースを生成し、セロテトラオースに作用してセロビオースを生成し、セロペンタオース及びセロヘキサオースに作用してセロビオースとセロトリオースを生成することも判明した(図10参照)。他の性質の分析図7に示すように、アメフラシ・キシログルカナーゼの至適温度は約40℃(図7A)、至適pHは約6.0(図7C)、温度安定性については30分間の加熱により活性が50%に低下する温度は約47℃(図7B)、pH安定性については30℃で30分間の加熱によって80%以上の活性が保持されるpH範囲は5〜7であった(図7D)。なお、反応混液のpHは, 2〜5の間は10 mM クエン酸ナトリウム, 5.5〜9.0の間は10 mM リン酸ナトリウムによって調整した。反応混液中には0.15% (w/v)のキシログルカナーゼを基質として加え、反応によって生じた還元糖をPark & Johnson法により定量し活性値を算出した。一方、アメフラシ・キシログルカナーゼのN末端13残基のアミノ酸配列は、ABI Procise 472プロテインシーケンサーによりGIDVPITNHXWHS-(配列番号1)と決定された。この配列は既存のデータベース上には存在せず、本酵素が新規の配列を有するものであることが示された。 本発明により、キシログルカン分解活性に加えてセルロース分解活性も示すキシログルカナーゼが提供される。また、本発明のキシログルカナーゼを用いることにより、キシログルカン及びセルロースを効率的に分解することが可能である。また、本発明により、キシログルカン分解活性に加えてセルロース分解活性も示すキシログルカナーゼの製造方法が提供される。さらに、本発明により、キシログルカナーゼを用いたキシログルカン及びセルロースの分解方法が提供される。 下記の(a)〜(c)の理化学的性質を有するキシログルカナーゼ。(a) 作用:キシログルカン及びセルロースを分解する(b) 分子量:78,000〜82,000 Da(SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動による)(c) 海洋性軟体生物に由来する 前記キシログルカンがタマリンドガムである、請求項1に記載のキシログルカナーゼ。 前記セルロースが、カルボキシメチルセルロース、リン酸膨潤セルロース及びアビセルからなる群より選択される少なくとも1つである、請求項1に記載のキシログルカナーゼ。 前記海洋性軟体生物が、腹足綱に属する生物である、請求項1に記載のキシログルカナーゼ。 前記腹足綱に属する生物が、アワビ又はアメフラシである、請求項4に記載のキシログルカナーゼ。 下記の(a)〜(c)の理化学的性質を有するキシログルカナーゼの製造方法であって、海洋性軟体生物の消化器官組織又は消化液からキシログルカナーゼ粗酵素を抽出し、該粗酵素をクロマトグラフィー処理することにより前記キシログルカナーゼを採取することを特徴とする方法。(a) 作用:キシログルカン及びセルロースを分解する(b) 分子量:78,000〜82,000 Da(SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動による)(c) 海洋性軟体生物に由来する 請求項1に記載のキシログルカナーゼとキシログルカンとを接触させる工程を含む、キシログルカンの分解方法。 請求項1に記載のキシログルカナーゼとセルロースとを接触させる工程を含む、セルロースの分解方法。 【課題】キシログルカン分解活性及びセルロース分解活性を示すキシログルカナーゼを提供すること。【解決手段】 下記の(a)〜(c)の理化学的性質を有するキシログルカナーゼ。(a) 作用:キシログルカン及びセルロースを分解する(b) 分子量:78,000〜82,000 Da(SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動による)(c) 海洋性軟体生物に由来する【選択図】なし配列表


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