タイトル: | 公開特許公報(A)_芳香族ポリカーボネートからのビスフェノール化合物の製造方法及び装置 |
出願番号: | 2010026603 |
年次: | 2011 |
IPC分類: | C07C 37/055,C07C 39/16,C08J 11/14,C08J 11/16,B01D 5/00,C07B 61/00 |
辻 俊郎 JP 2011162475 公開特許公報(A) 20110825 2010026603 20100209 芳香族ポリカーボネートからのビスフェノール化合物の製造方法及び装置 国立大学法人北海道大学 504173471 特許業務法人特許事務所サイクス 110000109 辻 俊郎 C07C 37/055 20060101AFI20110729BHJP C07C 39/16 20060101ALI20110729BHJP C08J 11/14 20060101ALI20110729BHJP C08J 11/16 20060101ALI20110729BHJP B01D 5/00 20060101ALI20110729BHJP C07B 61/00 20060101ALN20110729BHJP JPC07C37/055C07C39/16C08J11/14C08J11/16B01D5/00 AC07B61/00 300 12 1 OL 12 4D076 4F401 4H006 4H039 4D076AA13 4D076AA22 4D076BC01 4D076HA03 4F401AA23 4F401BA06 4F401CA67 4F401CA75 4F401CB17 4F401DA08 4F401DA12 4F401DA14 4F401EA11 4F401EA47 4F401EA48 4H006AA02 4H006AA04 4H006AC42 4H006AC91 4H006AD15 4H006BA06 4H006BA32 4H006BA85 4H006BC10 4H006BC11 4H006BC18 4H006BD20 4H006BD81 4H006BE60 4H006FC52 4H006FE13 4H039CA60 4H039CD10 4H039CD40 4H039CD90 4H039CE20 本発明は、芳香族ポリカーボネートからのビスフェノール化合物の製造方法及び装置に関する。 ポリカーボネート(PC)は、耐衝撃性、耐熱性、耐候性、透明性などに優れたエンジニアリングプラスチックであり、CDやレンズといった光学関連を始めとする幅広い分野で使用されている。近年、生産量が右肩上がりで増加しており、今後も生産拡大の流れは続くと考えられている。こうした生産量の増加に伴って、将来的に廃PCの増加が見込まれ、限りある石油資源を有効利用するためにも、リサイクル技術を開発する必要がある。 ポリカーボネート(PC)の分解再生方法としては、大別すると以下の方法がある。1.ポリカーボネートを、有機溶剤やアルコール類、アミン類などを混合した有機溶媒に溶解させて分解する方法(特許文献1、2)あるいはビスフェノールA合成工程で得られる溶媒に溶解させて分解する方法(特許文献3)。2.超臨界水や亜臨界水蒸気を用いて高温高圧化で加水分解する方法(特許文献4、5)3.過熱水蒸気による加水分解方法(非特許文献1、2) 1の方法は、ポリカーボネートから、有機溶媒中で合成モノマーであるビスフェノールAあるいはその誘導体を分解、合成する方法である。それに対して、2及び3は、ポリカーボネートから、加水分解により合成モノマーであるビスフェノールAを得ようとする方法である。ビスフェノールAを構成単位とするポリカーボネートを分解して、原料モノマーであるビスフェノールAを得る技術は、廃ポリカーボネートのリサイクルを行う上で非常に重要である。3の過熱水蒸気による加水分解方法は、常圧で実施できる方法であり、高価な装置を必要とせずにビスフェノールAを再生できる方法であることから特に有用である。特開2009-108101号公報特開2002-212335号公報特開2006-036668号公報特開2008-195646号公報特開2005-343840号公報T. Sugawara, T. Tsuji; "Monomer recovery from polycarbonate by hydrolysis with a fluidized bed reactor", Innovative Energy & Environmental Chemical Engineering 2008(315-318)菅原敏晃, 辻俊郎; "流動層を用いたポリカーボネートの水蒸気分解",プラスチックリサイクル化学研究会第11回討論会予稿集,(57-58)2008 1の有機溶媒中で分解する方法は、低温で反応し、分解収率は高いが、有機溶剤類を使うことや、製品と有機溶媒との分離が複雑となるのが問題点である。2の超臨界水や亜臨界水蒸気を用いる方法は、水以外の溶媒は使用しないが、高圧の反応装置を必要とするため、エネルギーの消費や生産性に問題点がある。 PCは、上記反応式中(ここでは代表的なビスフェノール‐A(BPA)の例を示した)に示すように、ビスフェノール化合物がエステル結合を介して結合した構造を有している。そのため、3の過熱水蒸気による加水分解方法では、水蒸気によってこのエステル結合が切断されて分解が促進される。PCの水蒸気分解は水蒸気とポリマーの反応であり、水蒸気がポリマー内部に容易に拡散していかないため、反応は溶融ポリマーの表面でしか起こらないと考えられる。このため、水蒸気分解の速度を大きくするためには、水蒸気とポリマーとの接触面積を増やす必要がある。そこで、分解の促進のために、流動媒体として珪砂か川砂(非特許文献1)、あるいはオリビン砂(非特許文献2)を用いる流動層で反応させている。流動層では、流動媒体の外表面に溶融ポリマーが付着して薄膜を形成することで、反応面積を増やすことが可能となる。 ところで、ポリカーボネート樹脂の原料であるビスフェノール化合物は、樹脂原料の中では比較的高価であるが、工業的に大量に使用するには、より安価で、かつ純度の高いものが要求される。廃ポリカーボネートをリサイクルしてビスフェノール化合物を製造する場合もその例外ではない。ところが、上記非特許文献1及び2に記載の方法では、ビスフェノールAの収率は30〜50%程度に留まり、ビスフェノール化合物及び二酸化炭素以外にフェノール等の副生物の生成量も多かった。一般に、製品を安価で大量に製造するには、反応工程が複雑にならないことが重要である。また、純度の高い製品を安価に得るには、精製工程はできる限り簡単でなくてはならない。しかし、上記方法では、多量の副生物が生成することから製品の純度や分離に問題があり、ポリカーボネートのリサイクルは工業的な規模では、未だ実用化に至っていない。 そこで本発明の目的は、芳香族ポリカーボネートを分解してビスフェノール化合物を製造する方法であって、ビスフェノール化合物の収率が高く、副生成物が少なくてビスフェノール化合物の分離が容易な方法を提供することである。さらに本発明は、この方法に利用できる製造装置を提供することも目的とする。 上述の課題を解決するために、本発明者は、炭酸カルシウムまたは炭酸カルシウムを含む鉱物の粒子と、芳香族ポリカーボネートの粒子を加熱混合し、これに常圧の過熱水蒸気を反応させることで、芳香族ポリカーボネートを分解して、高収率でビスフェノール化合物を製造することができることを見出して、本発明を完成させた。 上記課題を解決する本発明は以下のとおりである。[1]芳香族ポリカーボネートを、炭酸カルシウムまたは炭酸カルシウムを含む鉱物の存在下に、過熱水蒸気で加水分解して、少なくともビスフェノール化合物と二酸化炭素を得ることを含む、ビスフェノール化合物の製造方法。[2]前記加水分解は、炭酸カルシウムまたは炭酸カルシウムを含む鉱物が存在する反応器内で実施する、[1]に記載のビスフェノール化合物の製造方法。[3]炭酸カルシウムまたは炭酸カルシウムを含む鉱物及び芳香族ポリカーボネートはいずれも粒子状であり、かつ粒子状の炭酸カルシウムまたは炭酸カルシウムを含む鉱物と粉粒状の芳香族ポリカーボネートとを過熱水蒸気の存在下、反応器内で混合する、[1]または[2]に記載のビスフェノール化合物の製造方法。[4]炭酸カルシウムまたは炭酸カルシウムを含む鉱物及び芳香族ポリカーボネートはいずれも粒子状であり、かつ粒子の状炭酸カルシウムまたは炭酸カルシウムが流動している反応器内で、過熱水蒸気と粒子状の芳香族ポリカーボネートが接触する、[1]または[2]に記載のビスフェノール化合物の製造方法。[5]加水分解にて生じたビスフェノール化合物及び二酸化炭素を過熱水蒸気とともに反応器から流出させ、流出物を冷却して水蒸気を凝縮させ、凝縮水と二酸化炭素を分離し、凝縮水中にビスフェノール化合物を晶析させ、晶析したビスフェノール化合物を凝縮水から分離してビスフェノール化合物を得る、[2]〜[4]のいずれか1項に記載のビスフェノール化合物の製造方法。[6]炭酸カルシウムが石灰石である、[1]〜[5]のいずれか1項に記載のビスフェノール化合物の製造方法。[7]炭酸カルシウムを含む鉱物がドロマイトである、[1]〜[5]のいずれか1項に記載のビスフェノール化合物の製造方法。[8]加水分解温度は、300〜500℃の範囲である、[1]〜[7]のいずれか1項に記載のビスフェノール化合物の製造方法。[9]過熱水蒸気が、大気圧0.1MP〜0.5MPのもとで、300〜500℃の温度を示すものである[1]〜[8]のいずれか1項に記載のビスフェノール化合物の製造方法。[10]原料の芳香族ポリカーボネートの炭酸カルシウムに対する供給速度(F/W)が、0.1〜2(kg原料/kg炭酸カルシウム・時間(h))の範囲である[1]〜[9]のいずれか1項に記載のビスフェノール化合物の製造方法。[11]過熱水蒸気の流通下で、芳香族ポリカーボネート粒子と炭酸カルシウムまたは炭酸カルシウムを含む鉱物の粒子を混合するための反応器と、反応器で生じたビスフェノール化合物を未反応の過熱水蒸気とともに冷却するための冷却器を有する、芳香族ポリカーボネートからのビスフェノール化合物の製造装置。[12]冷却器で生じた凝縮水とビスフェノール化合物とを分離するための分離装置をさらに有する[11]に記載の製造装置。 本発明では、加熱溶融した芳香族ポリカーボネートを炭酸カルシウムあるいは炭酸カルシウムを含む鉱物の粒子と混合することにより、過熱水蒸気とポリマーとの接触効率を向上させ、さらに、固体粒子の触媒作用を利用して、芳香族ポリカーボネートと水蒸気との反応速度を促進させていることが特徴である。これにより、有機溶媒や超臨界水などの特別な溶媒を必要とせずに、芳香族ポリカーボネートの分解反応速度を十分大きくすることが可能となった。 本発明によるビスフェノール化合物の製造方法は、有機溶剤を使用しないので、環境にやさしく、また製品であるビスフェノール化合物の純度(選択率)が高いので、分離精製過程を非常に簡略化することができる。さらに炭酸カルシウムの触媒作用により、常圧付近の低い水蒸気分圧でも、十分な反応速度を得ることができるので、特別な高圧の反応装置を用いなくても十分な分解速度が得られる。本発明によれば、廃ポリカーボネートを安価に大量に分解して、純度の高いビスフェノールを原料としてリサイクルすることが、可能となる。実施例及び比較例で用いた装置の概略図を示す。本発明の方法及び非特許文献1及び2の方法における、分解生成物の組成と用いた固体粒子の種類との関係を示す。 本発明は、芳香族ポリカーボネート(本発明では、単に"ポリカーボネート"と称することもある)を、炭酸カルシウムまたは炭酸カルシウムを含む鉱物の存在下に、過熱水蒸気で加水分解して、少なくともビスフェノール化合物と二酸化炭素を得ることを含む、ビスフェノール化合物の製造方法である。 本発明においては、芳香族ポリカーボネートの過熱水蒸気による加水分解を促進するため炭酸カルシウムを用いる。 上記反応式に示した反応が完全に起こった場合、分解生成物は、化学量論的には、84質量%のビスフェノールAと16質量%の炭酸ガスを生成する。図2に、固体粒子として石灰石(CaCO3を95%以上含有)(本発明)、オリビン砂(MgOを40%以上含有)(非特許文献2)、または珪砂(SiO2を95%以上含有)(非特許文献1)を用いた場合のポリカーボネート分解生成物の主な組成の重量割合を示した。 珪砂は、主成分が二酸化珪素であり、活性が比較的低い。珪砂を用いた場合は、ポリカーボネートの分解速度は非常に低く、相対的にビスフェノールの分解速度が早くなるため、温度400℃でもビスフェノールAの収率は33質量%であった。 酸化マグネシウムを50質量%含むオリビン砂を用いた場合は、ポリカーボネートの分解速度は大きいが、製品のビスフェノールAが、フェノールやイソプロペニルフェノール、およびその他の化合物に分解してしまうため、最大でもビスフェノールAの収率は53質量%と、低い値であった。 それに対して、本発明の実施態様の1つである、石灰石を用いた場合のビスフェノールAの収率は80質量%であり、理論的最大値の95%以上の収率が得られた。 このように、炭酸カルシウムは、芳香族ポリカーボネートの分解に対する触媒作用が大きく、しかもビスフェノールA等のビスフェノール化合物に対する分解活性は低いため、目的製品であるビスフェノール化合物の収率を非常に高くすることができる。 本発明では、ポリカーボネート加水分解のために炭酸カルシウムまたは炭酸カルシウムを含む鉱物の粒子を用いる。炭酸カルシウムは、例えば、天然の石灰石をそのまま用いることができる。石灰石は、例えば、石灰岩、方解石、アラレ石などから調製したものであることができる。また、炭酸カルシウムを含む鉱物としては、例えば、ドロマイト(Mg・Ca(CO3)2)を挙げることができる。但し、これらの限定される意図ではない。炭酸カルシウムを含有する材料であれば、本発明では利用できる。しかし、カルシウム化合物であっても、炭酸カルシウムを熱分解して生成する酸化カルシウムCaO(生石灰)は、ビスフェノール化合物に対する分解活性が高く、目的製品であるビスフェノール化合物の収率を低下させる。 炭酸カルシウムまたは炭酸カルシウムを含む鉱物の粒子は、ポリカーボネートとの接触を良好に維持するという観点からは粒子状であることが適当であり、粒子径は、接触が良好に維持される範囲で適宜選択できる。炭酸カルシウムまたは炭酸カルシウムを含む鉱物の粒子は、例えば、平均粒子径が、0.1〜10mmの範囲であることができる。但し、粒子径は、反応の形式に応じて適宜選択されるので、上記範囲に限らず、反応の形式に応じて適宜選択できる。 加水分解に供するポリカーボネートは、芳香族ポリカーボネートであれば特に制限はない。本発明において、加水分解に供することかできる芳香族ポリカーボネートについて、以下に具体的に説明する。 芳香族ポリカーボネートは、2価フェノールとカーボネート前駆体とを反応させて得られるものであり、反応の方法としては界面重合法、エステル交換法、ピリジン法等を挙げることができる。本発明の製造方法では、芳香族ポリカーボネートを加水分解して上記2価フェノールであるビスフェノール化合物を生成させ、回収するものである。 上記2価フェノールとしては、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン(ビスフェノールC)、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン(ビスフェノールZ)3,3,5−トリメチル−1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、α,α’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ジイソプロピルベンゼン(ビスフェノールM)等が挙げられる。これらの中でも、特にビスフェノールAが汎用されており、リサイクルには好適である。 また、芳香族ポリカーボネートは、芳香族もしくは脂肪族カルボン酸を共重合したポリエステルカーボネート、2官能性アルコールを共重合した共重合ポリカーボネートおよびこれらを共に共重合したポリエステルカーボネートであってもよい。また、得られたポリカーボネートの2種以上をブレンドした混合物でも差し支えない。その他、芳香族ポリカーボネートとポリオレフィン、PMMA、ABS、飽和ポリエステル(PET、PBT)との混合物であってもよい。しかしリサイクルという点からは、ビスフェノール単位は50モル%以上が好ましく、より好ましくは80%ないし90%以上がビスフェノールAであることが好ましい。 芳香族ポリカーボネートの粘度平均分子量は限定されない。しかしながら、粘度平均分子量は、分解の容易性からも、通常成型加工に供される15,000〜30,000の範囲が好ましい。 芳香族ポリカーボネートの入手形態に特に制約はないが、使用済みの製品から分別回収された樹脂成形品、製品製造時に不良品として回収した成形品、並びに成形加工時に生じる不要部分など、比較的不純物の混入が少ないものが、リサイクルには好適である。前記使用済みの製品としては、防音壁、ガラス窓、透光屋根材および自動車サンルーフ、ヘッドランプレンズなどの透明部材、水ボトルなどの容器、並びにCDやDVDなどの光記録媒体などが、多量にリサイクルできる可能性のあるものとして挙げることができる。 また上記の使用済み製品には成型品の表面に印刷塗膜、シール、ラベル、化粧塗膜、導電塗装、導電メッキ、金属蒸着などが施されている場合が多いが、その場合は分解生成物への混入を減らすために、塗膜などをあらかじめ溶剤で剥離させたり、機械的方法で掻きとったりするなどして、できる限り除去した後、粉粒状に粉砕し、分解することが望ましい。粉砕は公知の粉砕機を用いて容易に粉砕することが可能である。 本発明の製造方法の反応の形式は、過熱水蒸気導入または雰囲気下で、ポリカーボネートの粒子と炭酸カルシウムまたは炭酸カルシウムを含む鉱物の粒子を混合できるものであれば、特に制限はない。例えば、炭酸カルシウムまたは炭酸カルシウムを含む鉱物の粒子の流動層にポリカーボネートの粒子を供給する形式のものや、ポリカーボネートの粒子と炭酸カルシウムまたは炭酸カルシウムを含む鉱物の粒子を攪拌槽やロータリーキルン内で混合する形式のもの等を挙げることができる。ポリカーボネートの粒子の適当な粒子径は、反応形式や後述する供給原料速度(F/W)等によっても異なるが、例えば、平均粒子径が0.1〜5mmの範囲であることができる。ポリカーボネートの粉砕品やペレットは、この範囲の平均粒子径とすることができる。 流動層を用いる形式のものは、図1に示す反応装置を用いて実施することができ、実施例としてこの形式の例を示す。但し、本発明の製造方法は、流動層を用いる形式に限定される意図ではない。以下に、図1に示す反応装置を用いて本発明の製造方法を実施する例について、さらに説明する。 図の左側に流動層2用の部位を有する反応器1があり、図の右側には冷却器6が設けられている。反応器1には、下端付近に過熱水蒸気導入口、上端付近に原料であるポリカーボネート粒子の供給口と生成物を含む気体の取り出し口がある。過熱水蒸気導入口は、過熱水蒸気発生器5が接続されている。ポリカーボネート粒子の供給口には、原料タンク3及びフィーダー4が接続されている。気体の取り出し口は冷却器6aに接続されている。 ポリカーボネートの加水分解は、炭酸カルシウムまたは炭酸カルシウムを含む鉱物(以下、炭酸カルシウムまたは炭酸カルシウムを含む鉱物を炭酸カルシウム等と呼ぶことがある)が存在する反応器1内で実施される。粒子状の炭酸カルシウム等が流動している反応器1内の流動層2で、過熱水蒸気と固体状の芳香族ポリカーボネートが流動層を形成する炭酸カルシウム等の粒子と接触する。加水分解にて生じたビスフェノール化合物及び二酸化炭素は、過熱水蒸気とともに反応器1から流出して冷却器6aに移送される。冷却器6aでは流出物を冷却して水蒸気を凝縮させ、製品回収容器7に導き、凝縮水と二酸化炭素を分離する。製品回収容器7においては凝縮水中にビスフェノール化合物を晶析させ、晶析したビスフェノール化合物を凝縮水から分離してビスフェノール化合物を得る。晶析したビスフェノール化合物と凝縮水との分離は、例えば、濾過や遠心分離等の既存の方法で実施できる。二酸化炭素を含む気体は、冷却器6bを経て、未凝集成分をさらに凝集させて、二酸化炭素が主成分である気体を排気される。凝集成分は、製品回収容器7に回収されるか、あるいは別な容器に回収することもできる。尚、排気される二酸化炭素が主成分である気体は、回収して二酸化炭素製造の原料として用いることもできる。本発明の製造方法では、副生物が少ないことから二酸化炭素が主成分である気体における二酸化炭素濃度は高く、二酸化炭素製造の原料としては好適である。 加水分解温度は、例えば、300〜500℃の範囲である、好ましくは320〜420℃の範囲である。過熱水蒸気は、大気圧0.1MP〜0.5MPのもとで、300〜500℃の温度を示すものであり、好ましくは400〜500℃の温度を示すものである。請求項1又は2に記載のビスフェノール化合物の製造方法における炭酸カルシウム等と原料のポリカーボネートとの接触時間は、反応温度や炭酸カルシウム等とポリカーボネートの種類、反応形式により適宜決定できる。炭酸カルシウム等を含む固体粒子の重量(W)に対する原料ポリカーボネートの重量供給速度(F)との比(F/W)は、流動層の場合、例えば、0.1〜2(kg/kg・hr)の範囲であることができる。 本発明の製造方法では、炭酸カルシウム等を含む固体粒子は、ポリカーボネートの水蒸気分解反応を非常に促進する一方で、ビスフェノールAに対する分解活性は極めて低い。また分解生成物であるビスフェノールAは、過熱水蒸気とともに気体状態で反応器から流出するので、これを冷却することにより、凝縮水中にビスフェノールAの結晶を得ることができる。ビスフェノールAの水への溶解度は小さいので、本発明では製品の分離が容易で、非常に高純度の製品を得ることができる。 以下本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。実施例1〜3 図1に示す装置を用いて、ポリカーボネートの分解を行い、ビスフェノールAを製造した。反応器は内径52mm高さ600mm、SUS310Sステンレス製の円筒形のものを用いた。内部に整流板を設置し、この上に平均粒子径0.3mmの石灰石(炭酸カルシウム95質量%以上)の粒子を50〜150g入れ、過熱水蒸気を整流板の下から供給して流動化させた、流動層は外部ヒーターで加熱して300℃から450℃間の、所定の温度に保持した。 本発明では攪拌に流動層を用いたが、この部分は機械的な攪拌層や回転型反応器で置き換えることも可能である。原料のポリカーボネートは平均粒子径約3mmのものを、ホッパーから定量フィーダーを用いて流動層に連続的に供給した。過熱水蒸気は、水を蒸発させ、大気圧0.1MPのもとで450℃に加熱し、反応器に供給した。分解により生成したビスフェノールAは過熱水蒸気とともに反応器から流出する。これを冷却器で冷却して水蒸気とともに凝縮させ、回収瓶で回収した。ビスフェノールAの水への溶解度は非常に小さいので、生成物のビスフェノールAは、凝縮水中に結晶となって析出した。所定の時間分解後、回収瓶中の液体をろ過して、固体生成物を回収した。回収した生成物は、乾燥後秤量し、ガスクロマトグラフで成分を分析して、目的製品であるビスフェノールAの純度と収率(製品重量/原料重量)を求めた。 表1の実施例1から実施例3は、反応器の温度を350℃一定とし、流動媒体粒子重量(W)当りの原料の重量供給速度(F)を変えた場合の結果である。F/Wの値が大きいと相対的にビスフェノールAの分解速度が低下するため、ビスフェノールAの収率が高くなった。反応温度350℃、F/W=1.5 h-1で、収率は最大83質量%となり、純度97質量%のビスフェノールAを得ることができた。 実施例4 実施例1とF/Wをほぼ同一とし、反応温度を400℃に上昇させた場合の結果である。温度が高いほうが反応速度は大きくなるが、ビスフェノールAの分解速度も上昇する。このため実施例1と比較すると、ビスフェノールAの純度は多少増加したが、収率は77質量%と低下した。 比較例1 炭酸カルシウムを実質的に含まない珪砂を流動層の媒体粒子とした場合の例である。珪砂は触媒作用がほとんど無いので、ポリカーボネートの分解速度は低く、400℃の場合でビスフェノールAの収率は31質量%であった。 比較例2 炭酸カルシウムは実質的に含まないが、酸化マグネシウムを50質量%含むオリビン砂を流動層の媒体粒子として用いた場合の例である。珪砂よりもポリカーボネート分解速度は大きいが、ビスフェノールAの分解速度も大きいため、ビスフェノールAの回収率は55質量%で、石灰石を用いた場合よりもかなり低い値であった。 尚、上記比較例1および2において、炭酸カルシウムを実質的に含まないとは、炭酸カルシウムを含有したとしても含有量は1質量%以下であることを意味する。 純度:回収固体成分重量/原料重量, 収率:含有ビスフェノールA重量/固体成分重量 本発明はポリカーボネートのリサイクル分野において有用である。1 反応器2 流動層3 原料タンク4 定量フィーダー5 過熱水蒸気発生器6a、6b 冷却器7 生成物回収容器芳香族ポリカーボネートを、炭酸カルシウムまたは炭酸カルシウムを含む鉱物の存在下に、過熱水蒸気で加水分解して、少なくともビスフェノール化合物と二酸化炭素を得ることを含む、ビスフェノール化合物の製造方法。前記加水分解は、炭酸カルシウムまたは炭酸カルシウムを含む鉱物が存在する反応器内で実施する、請求項1に記載のビスフェノール化合物の製造方法。炭酸カルシウムまたは炭酸カルシウムを含む鉱物及び芳香族ポリカーボネートはいずれも粒子状であり、かつ粒子状の炭酸カルシウムまたは炭酸カルシウムを含む鉱物と粉粒状の芳香族ポリカーボネートとを過熱水蒸気の存在下、反応器内で混合する、請求項1または2に記載のビスフェノール化合物の製造方法。炭酸カルシウムまたは炭酸カルシウムを含む鉱物及び芳香族ポリカーボネートはいずれも粒子状であり、かつ粒子状の炭酸カルシウムまたは炭酸カルシウムを含む鉱物が流動している反応器内で、過熱水蒸気と固体状の芳香族ポリカーボネートが接触する、請求項1または2に記載のビスフェノール化合物の製造方法。加水分解にて生じたビスフェノール化合物及び二酸化炭素を過熱水蒸気とともに反応器から流出させ、流出物を冷却して水蒸気を凝縮させ、凝縮水と二酸化炭素を分離し、凝縮水中にビスフェノール化合物を晶析させ、晶析したビスフェノール化合物を凝縮水から分離してビスフェノール化合物を得る、請求項2〜4のいずれか1項に記載のビスフェノール化合物の製造方法。炭酸カルシウムが石灰石である、請求項1〜5のいずれか1項に記載のビスフェノール化合物の製造方法。炭酸カルシウムを含む鉱物がドロマイトである、請求項1〜5のいずれか1項に記載のビスフェノール化合物の製造方法。加水分解温度は、300〜500℃の範囲である、請求項1〜7のいずれか1項に記載のビスフェノール化合物の製造方法。過熱水蒸気が、大気圧0.1MP〜0.5MPのもとで、300〜500℃の温度を示すものである請求項1〜8のいずれか1項に記載のビスフェノール化合物の製造方法。原料の芳香族ポリカーボネートの炭酸カルシウムに対する供給速度(F/W)が、0.1〜2(kg原料/kg炭酸カルシウム・時間(h))の範囲である請求項1〜9のいずれか1項に記載のビスフェノール化合物の製造方法。過熱水蒸気の流通下で、芳香族ポリカーボネート粒子と炭酸カルシウムまたは炭酸カルシウムを含む鉱物の粒子を混合するための反応器と、反応器で生じたビスフェノール化合物を未反応の過熱水蒸気とともに冷却するための冷却器を有する、芳香族ポリカーボネートからのビスフェノール化合物の製造装置。冷却器で生じた凝縮水とビスフェノール化合物とを分離するための分離装置をさらに有する請求項11に記載の製造装置。 【課題】芳香族ポリカーボネートを分解してビスフェノール化合物を製造する方法であって、ビスフェノール化合物の収率が高く、副生成物が少なくてビスフェノール化合物の分離が容易な方法、およびこの方法に利用できる製造装置を提供する。【解決手段】芳香族ポリカーボネートを、炭酸カルシウムの存在下に、過熱水蒸気で加水分解して、少なくともビスフェノール化合物と二酸化炭素を得ることを含むビスフェノール化合物の製造方法、および、過熱水蒸気の流通下で、芳香族ポリカーボネート粒子と炭酸カルシウム粒子を混合するための反応器1と、反応器で生じたビスフェノール化合物を未反応の過熱水蒸気ともに冷却するための冷却器6aを有する、ビスフェノール化合物の製造装置。【選択図】図1