タイトル: | 公開特許公報(A)_有機フッ素化合物の分解方法 |
出願番号: | 2010021239 |
年次: | 2011 |
IPC分類: | C07B 35/06,C07C 59/135,C07C 309/10 |
堀 久男 忽那 周三 JP 2011157314 公開特許公報(A) 20110818 2010021239 20100202 有機フッ素化合物の分解方法 独立行政法人産業技術総合研究所 301021533 堀 久男 忽那 周三 C07B 35/06 20060101AFI20110722BHJP C07C 59/135 20060101ALI20110722BHJP C07C 309/10 20060101ALI20110722BHJP JPC07B35/06C07C59/135C07C309/10 5 OL 7 (出願人による申告)平成21年度、経済産業省試験研究調査委託費(地球環境保全等試験研究に係るもの)「PFOS/PFOA前駆体物質の分解・無害化反応システムの開発」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願 4H006 4H006AA05 4H006AC13 4H006BA36 4H006BA91 4H006BB31 4H006BM71 4H006BP10 4H006BS10 本発明は、難分解性で環境残留性が懸念され、また原料である天然資源の確保が困難となりつつある有機フッ素化合物に関し、環境リスクの低減および資源の循環利用のためにフッ化物イオンまで分解する方法に関するものである。 有機フッ素化合物のうち、カルボキシル基やスルホ基を有するものは界面活性、光透過性、耐熱性、耐薬品性等で他の材料には見られない優れた性質を持つため様々な用途で利用されてきたが、近年一部の化合物について環境残留性や環境負荷が問題となりつつある。 すなわち、炭素数が7〜11程度のフッ素化カルボン酸やフッ素化アルキルスルホン酸の一部には、生体蓄積性が報告されているため、生態系への影響が懸念されて、製造や使用に関する法規制も開始されつつある。 これらの廃棄物は水中(廃水)に存在することが多いが、これらをフッ化物イオンまで分解できれば既存の水処理技術(カルシウムイオン添加)により環境無害なフッ化カルシウムにできる。 フッ化カルシウムはフッ化水素酸の原料であり、フッ化水素酸は全ての有機フッ素化合物の原料である。 従ってフッ化物イオンまでの効果的な分解方法を開発することは、入手が困難となりつつあるフッ化カルシウムの天然資源(蛍石)の節約、循環利用システムの開発にもつながる。 我々は以前、水中のフッ素化カルボン酸がペルオキソ二硫酸イオン(S2O82-)の存在下で光分解(特許文献1)あるいは熱分解(特許文献2)を効果的に起こすことを見出した。 いずれの方法もペルオキソ二硫酸イオンから硫酸イオンラジカルを生成させ、それが活性種となってフッ素化カルボン酸を分解する方法である。 上述のようにペルオキソ二硫酸イオンの熱分解により硫酸イオンラジカルを得て、それによりフッ素化カルボン酸を分解させることが出来るが、その後、鋭意検討した結果、意外なことではあるが、熱分解の温度は80℃程度の温水が最も望ましいことが分かった(非特許文献1)。 これは、高温であると生成した硫酸イオンラジカルが高温の水との反応に消費され、硫酸イオンラジカルとフッ素化カルボン酸の反応が起こりにくくなるためである。 一方、水中に超音波を照射すると5000 K、1000気圧以上にも達する局所的な高温高圧の反応場が生成することが知られており(非特許文献2)、この超音波の作用によりフッ素化カルボン酸の一種であるペルフルオロオクタン酸(C7F15COOH)およびフッ素化アルキルスルホン酸の一種であるペルフルオロオクタンスルホン酸ナトリウム(C8F17SO3Na、水中では解離してC8F17SO3-イオンとなっている)が水中で分解することが知られていた(非特許文献3)。 最近、生体蓄積性が低い有機フッ素化合物として、ノナフルオロ−3,6−ジオキサヘプタン酸(CF3OCF2CF2OCF2COOH、略称「NFDOHA」)やペルフルオロ(2−エトキシエタン)スルホン酸(CF3CF2OCF2CF2SO3H)などの、ペルフルオロアルキル基の部分にエーテル結合を含むフッ素化カルボン酸やフッ素化アルキルスルホン酸が開発され、利用されつつあるが、これらについても、炭素・フッ素結合を有するため難分解性であり、フッ化物イオンの回収方法も知られていなかった。特許第4284413号特開2008-285449号公報Hisao Horiほか著、Environmental Science and Technology, 2008, 42, 7438-7443.Yusuf G. Adewuyi、Environmental Science and Technology, 2005, 39, 3409-3420.Hiroshi Moriwakiほか著、Environmental Science and Technology, 2005, 39, 3388-3392. 本発明は、特許文献1および2に記載の発明を更に発展飛翔させ、NFDOHAやペルフルオロ(2−エトキシエタン)スルホン酸などの新しいタイプを含め、フッ素化カルボン酸およびフッ素化アルキルスルホン酸をフッ化物イオンまで高効率で分解できる、工業的に極めて有用な分解方法を提供することを目的とするものである。 本発明者らは、上記課題を、ペルオキソ二硫酸イオンの存在下、超音波照射することにより解決した。 上述のとおり、ペルフルオロオクタン酸やペルフルオロオクタンスルホン酸ナトリウムなどの有機フッ素化合物を、超音波の作用により水中で分解する方法は、本発明以前に既に知られていたが、上述のとおり、水中に超音波を照射すると5000 K、1000気圧以上にも達する局所的な高温高圧の反応場が生成することが知られており、この方法による有機フッ素化合物の分解は、超音波照射によりもたらされるこの高温、高圧が作用するものと理解される。 一方で、水中でペルオキソ二硫酸イオンの存在下、加熱して、有機フッ素化合物を分解する方法においては、80℃程度の温水が最も望ましいことが知られており、これは、ペルオキソ二硫酸イオンの熱分解により生じる硫酸イオンラジカルが、これ以上の高温であると、高温の水との反応に消費され、硫酸イオンラジカルと有機フッ素化合物との反応が起こりにくくなるためであると理解される。 これらの従来の知見からすると、上述のように超音波照射条件下では局所的に相当な高温となるため、硫酸イオンラジカルが発生しても局所的に高温となっている水との反応が優先して、フッ素化カルボン酸やフッ素化アルキルスルホン酸の分解は促進されそうもないと予想される。 しかしながら、本発明者らは、超音波照射にペルオキソ二硫酸イオンを組み合わせたところ、意外にもフッ素化カルボン酸やフッ素化スルホン酸に対する顕著な分解促進効果があることを見出したものであり、通常の超音波照射では分解速度が遅かった、NFDOHAやペルフルオロ(2−エトキシエタン)スルホン酸などの、ペルフルオロアルキル部分にエーテル結合を有する新しいタイプのフッ素化カルボン酸およびフッ素化アルキルスルホン酸を含め、当該方法により、難分解性の有機フッ素化合物が高効率で分解され、フッ化物イオンが回収されることは、極めて予想外のことである。 具体的には、この出願は、以下の発明を提供するものである。〈1〉有機フッ素化合物を、ペルオキソ二硫酸イオンの存在下、超音波照射することを特徴とする、有機フッ素化合物の分解方法。 〈2〉有機フッ素化合物が、フッ素化カルボン酸またはその塩であることを特徴とする、〈1〉に記載の有機フッ素化合物の分解方法。〈3〉フッ素化カルボン酸が、ノナフルオロ−3,6−ジオキサヘプタン酸またはペルフルオロ−3,6,9−トリオキサデカン酸であることを特徴とする、〈2〉に記載の有機フッ素化合物の分解方法。〈4〉有機フッ素化合物が、フッ素化アルキルスルホン酸またはその塩であることを特徴とする、〈1〉に記載の有機フッ素化合物の分解方法。〈5〉フッ素化アルキルスルホン酸が、ペルフルオロ(2−エトキシエタン)スルホン酸であることを特徴とする、〈4〉に記載の有機フッ素化合物の分解方法。 本発明により、難分解性である有機フッ素化合物を高効率で分解し、当該有機化合物に含まれていたフッ素成分をフッ化物イオンとして回収することができる。特に、従来法では高効率での分解が困難であったNFDOHAなどの、ペルフルオロアルキル基の部分にエーテル結合を含むフッ素化カルボン酸やフッ素化アルキルスルホン酸についても、高効率で分解し、フッ化物イオンとして回収することができる。NFDOHAの超音波分解による分解量に及ぼすペルオキソ二硫酸塩の添加効果を示す図。NFDOHAの超音波分解によるフッ化物イオンの生成に及ぼすペルオキソ二硫酸塩の添加効果を示す図。 本発明でいう有機フッ素化合物とは、炭素・フッ素結合を少なくとも一つ有する化合物である。 本発明でいうフッ素化カルボン酸とは、フッ素原子を少なくとも一つ含むカルボン酸であり、通常、R1C(O)OHで表される。ここで、R1は、少なくともフッ素原子を一つ含むアルキル基またはアリール基等である。これらのアルキル基またはアリール基はフッ素原子の他に水素原子、塩素原子等のハロゲン原子を含んでいてもよい。アルキル基の炭素数に特に制限はないが、通常1〜10である。このようなアルキルとしては、CClF2等を挙げることができる。またアリール基としては、たとえばC6H4F等が例示される。 本発明により分解されるフッ素化カルボン酸は、好ましくは、炭素原子とフッ素原子のみからなるペルフルオロアルキル基を有するカルボン酸、すなわちペルフルオロカルボン酸や、ペルフルオロカルボン酸のペルフルオロアルキル基の中にエーテル結合が挿入されたカルボン酸、すなわちペルフルオロエーテルカルボン酸である。このようなペルフルオロカルボン酸としては、トリフルオロ酢酸、ペンタフルオロプロピオン酸、ペルフルオロオクタン酸等が、また、ペルフルオロエーテルカルボン酸としては、ノナフルオロ−3,6−ジオキサヘプタン酸、ペルフルオロ−3,6,9−トリオキサデカン酸等が挙げられる。 また、本発明のフッ素化カルボン酸は、溶液中で解離してR1COO-イオンの形態であってもよく、塩でも構わない。 本発明でいうフッ素化アルキルスルホン酸とは、フッ素原子を含むアルキルスルホン酸であり、通常、R1SO3Hで表される。ここで、R1は、少なくともフッ素原子を一つ含むアルキル基またはアリール基等である。これらのアルキル基またはアリール基はフッ素原子の他に水素原子、塩素原子等のハロゲン原子を含んでいてもよい。アルキル基の炭素数に特に制限はないが、通常1〜10である。このようなアルキル基としては、CClF2等を挙げることができる。またアリール基としては、たとえばC6H4F等が例示される。 本発明により分解されるフッ素化アルキルスルホン酸は、好ましくは、炭素原子とフッ素原子のみからなるペルフルオロアルキル基を有するスルホン酸、すなわちペルフルオロアルキルスルホン酸、あるいはペルフルオロアルキルスルホン酸のペルフルオロアルキル基の中にエーテル結合が挿入されたスルホン酸、すなわちペルフルオロアルキルエーテルスルホン酸である。ペルフルオロアルキルスルホン酸としては、ペルフルオロブタンスルホン酸、ペルフルオロオクタンスルホン酸等が、また、ペルフルオロアルキルエーテルスルホン酸としては、ペルフルオロ(2−エトキシエタン)スルホン酸等が挙げられる。また、本発明のフッ素化スルホン酸は、溶液中で解離してR1SO3-イオンの形態であってもよく、塩でも構わない。 本発明では、これらのフッ素化カルボン酸やフッ素化アルキルスルホン酸、もしくはそれらの塩を、水中で、ペルオキソ二硫酸イオンの存在下で超音波照射して、フッ化物イオンまでの分解を行わせる。 ペルオキソ二硫酸イオンとは、過硫酸イオンともよばれるイオンであり、化学式S2O82-で表される。水中にペルオキソ二硫酸イオンを存在させるには、水にペルオキソ二硫酸塩あるいはペルオキソ二硫酸を溶解させればよい。この場合、ペルオキソ二硫酸塩としては、ペルオキソ二硫酸カリウム(K2S2O8)、ペルオキソ二硫酸ナトリウム(Na2S2O8)、ペルオキソ二硫酸アンモニウム((NH4)2S2O8)などをあげることができる。 ペルオキソ二硫酸イオンの使用量は、特に制限はないが、使用する有機フッ素化合物に対して、0.1モル倍以上、好ましくは10モル倍以上である。 また、超音波照射条件としては、20 KHz〜1 MHzの周波数が望ましい。 本願発明の反応温度は、0℃〜90℃好ましくは10℃〜30℃であり、反応時間は1時間〜10日程度、好ましくは3時間〜24時間である。 以下、本発明について実施例などによりさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。実施例1 ノナフルオロ−3,6−ジオキサヘプタン酸(CF3OCF2CF2OCF2COOH、NFDOHA)39.4μMとペルオキソ二硫酸カリウム10mMを含む水6Lを超音波照射装置(200W、28KHz)の水槽に入れ、温度を16℃に保ちながら超音波を24時間照射した。照射終了後のNFDOHA の濃度は4.8μM、フッ化物イオン濃度は211μMであった。比較例1 実施例1において、ペルオキソ二硫酸カリウムを導入しなかったこと以外は、実施例1と同様にして反応を行った。その結果、反応後のNFDOHAの濃度は17.7μM、フッ化物イオンの濃度は137μMであった。 このようにNFDOHA は、ペルオキソ二硫酸イオンを入れなくても反応するものの、残存量は高く、かつフッ化物イオンの生成量は少ないことが分かる。実施例2 実施例1において、ペルオキソ二硫酸カリウム5mMを用いたこと以外は、実施例1と同様にして反応を行った。その結果、反応後のNFDOHA の濃度は8.5μM、フッ化物イオンの濃度は180μMであった。 比較例1、実施例1および2を見ると、ペルオキソ二硫酸イオンの濃度が増すほどNFDOHAのフッ化物イオンへの分解反応が促進されていることが分かる(図1および2)。実施例3 ペルフルオロ−3,6,9−トリオキサデカン酸(CF3OCF2CF2OCF2CF2OCF2COOH)39.2μMとペルオキソ二硫酸カリウム10mMを含む水6Lを超音波照射装置(200W、28KHz)の水槽に入れ、温度を16℃に保ちながら超音波を24時間照射した。照射終了後のペルフルオロ−3,6,9−トリオキサデカン酸の濃度は6.1μM、フッ化物イオン濃度は307μMであった。比較例2 実施例3において、ペルオキソ二硫酸カリウムを導入しなかったこと以外は、実施例3と同様にして反応を行った。その結果、反応後のペルフルオロ−3,6,9−トリオキサデカン酸の濃度は23.7μM、フッ化物イオン濃度は143μMであった。 このようにペルフルオロ−3,6,9−トリオキサデカン酸は、ペルオキソ二硫酸イオンを入れなくても反応するものの、残存量は高く、かつフッ化物イオンの生成量は少ないことが分かる。実施例4 ペルフルオロ(2−エトキシエタン)スルホン酸イオン(CF3CF2OCF2CF2SO3-)39.0μM(カリウム塩を使用)とペルオキソ二硫酸カリウム10mMを含む水6Lを超音波照射装置(200W、28KHz)の水槽に入れ、温度を16℃に保ちながら超音波を24時間照射した。照射終了後のペルフルオロ(2−エトキシエタン)スルホン酸イオンの濃度は23.6μM、フッ化物イオン濃度は93.0μMであった。比較例3 実施例4において、ペルオキソ二硫酸カリウムを導入しなかったこと以外は、実施例4と同様にして反応を行った。その結果、反応後のペルフルオロ(2−エトキシエタン)スルホン酸イオンの濃度は29.2μM、フッ化物イオン濃度は57.6μMであった。 このようにペルフルオロ(2−エトキシエタン)スルホン酸イオンは、ペルオキソ二硫酸イオンを入れなくても反応するものの、残存量は高く、かつフッ化物イオンの生成量は少ないことが分かる。 有機フッ素化合物を、ペルオキソ二硫酸イオンの存在下、超音波照射することを特徴とする、有機フッ素化合物の分解方法。 有機フッ素化合物が、フッ素化カルボン酸またはその塩であることを特徴とする、請求項1に記載の有機フッ素化合物の分解方法。 フッ素化カルボン酸が、ノナフルオロ−3,6−ジオキサヘプタン酸またはペルフルオロ−3,6,9−トリオキサデカン酸であることを特徴とする、請求項2に記載の有機フッ素化合物の分解方法。 有機フッ素化合物が、フッ素化アルキルスルホン酸またはその塩であることを特徴とする、請求項1に記載の有機フッ素化合物の分解方法。 フッ素化アルキルスルホン酸が、ペルフルオロ(2−エトキシエタン)スルホン酸であることを特徴とする、請求項4に記載の有機フッ素化合物の分解方法。 【課題】難分解性の有機フッ素化合物、例えばペルフルオロアルキル基の部分にエーテル結合を含むフッ素化カルボン酸およびフッ素化アルキルスルホン酸をフッ化物イオンまで高効率で分解できる、工業的に極めて有用な分解方法の提供。【解決手段】難分解性の有機フッ素化合物(さらに具体的にはノナフルオロ−3,6−ジオキサヘプタン酸やペルフルオロ(2−エトキシエタン)スルホン酸)を、ペルオキソ二硫酸イオンの存在下、超音波照射して高効率に分解し、フッ化物イオンとして回収する。【選択図】なし