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タイトル:特許公報(B2)_アルギニンを欠乏させることによってヒト悪性腫瘍を治療する医薬品及び方法
出願番号:2010007090
年次:2013
IPC分類:C12N 9/80,A61K 38/46,A61P 35/00,A61K 45/00,C12N 15/09


特許情報キャッシュ

ニン・マン・チェン ユン・チュン・レウン ワイ・フン・ロ JP 5307042 特許公報(B2) 20130705 2010007090 20100115 アルギニンを欠乏させることによってヒト悪性腫瘍を治療する医薬品及び方法 バイオ−キャンサー・トリートメント・インターナショナル・リミテッド 504466605 蔵田 昌俊 100108855 河野 哲 100091351 中村 誠 100088683 福原 淑弘 100109830 峰 隆司 100075672 白根 俊郎 100095441 村松 貞男 100084618 野河 信久 100103034 ニン・マン・チェン ユン・チュン・レウン ワイ・フン・ロ US 60/390,757 20020620 CN PCT/CN02/00635 20020909 20131002 C12N 9/80 20060101AFI20130912BHJP A61K 38/46 20060101ALI20130912BHJP A61P 35/00 20060101ALI20130912BHJP A61K 45/00 20060101ALI20130912BHJP C12N 15/09 20060101ALI20130912BHJP JPC12N9/80 ZA61K37/54A61P35/00A61K45/00C12N15/00 A C12N 15/00−15/90 UniProt/GeneSeq 国際公開第98/024473(WO,A1) SAVOCA K V,CANCER BIOCHEMISTRY BIOPHYSICS,米国,GORDON AND BREACH SCIENCE PUBLISHER, INC,1994年,V7 N3,P261-268 Biochem.J.,Vol.270(1990)p.697-703 PNAS,Vol.84(1987)p.412-415 13 2004530914 20030620 2010148509 20100708 41 20100215 三原 健治発明の分野 本発明は、アルギナーゼを含有する薬学的組成物及びその使用に関する。特に、本発明は、腫瘍患者のアルギニンレベルを低下させることができる薬学的組成物及びヒト悪性腫瘍を治療するためのその使用に関する。本発明は、組換えタンパク質を作製する方法にも関する。発明の背景 アルギナーゼI(EC3.5.3.1、L−アルギニンアミジノヒドロラーゼ)は、尿素回路において、アルギニンをオルニチンと尿素に変換する尿素生成の最終段階を触媒する重要な哺乳類肝臓の酵素である。ラット肝臓抽出物にはアルギナーゼが豊富に含まれているが、腫瘍細胞培養液に偶然添加した際に、この抽出物がin vitroで抗腫瘍特性を有することが明らかになった(Burton et al., 1967, Cytolytic action of corticosteroids on thymus and lymphoma cells in vitro. Can J. Biochem. 45, 289-297)。その後の実験により、本酵素の抗腫瘍特性が、培養液中の必須アミノ酸であるアルギニンの減少によるものであることが明らかとなった。アルギニン濃度が8μM未満では、癌細胞が細胞死を起こし、再生不能となった(Storr & Burton、1974、The effects of arginine deficiency on lymphoma cells. Br. J. Cancer 30, 50-59)。 さらに最近では、強力なシグナル分子であり、神経伝達物質、平滑筋弛緩物質、および血管拡張物質として機能する一酸化窒素(NO)合成の直接的な前駆体としてのアルギニンの役割に注目が集まっている。NOの生合成には、Ca++、一酸化窒素シンターゼ(NOS)により触媒されるNADPH−依存性反応が関わっている。他に知られているアルギニンの役割としては、オルニチンを介して、細胞増殖及び成長をはじめとする幅広い生理的過程に関与するポリアミン、スペルミジン、及びスペルミンの前駆体として働くことが挙げられる(Wu & Morris, 1998, Arginine metabolism:nitric oxide and beyond. Biochem. J. 336, 1-17)。 アルギニンは、一酸化窒素シンターゼ(NOS)を含むいくつかの重要な酵素の基質としての役割も有している。NOSには、nNOS、eNOS及びiNOSの3種類があり、全てアルギニンを一酸化窒素及びシトルリンに変換する。例えば、NOにより引き起こされる顔面紅潮は、神経型のNOSであるnNOSを介して起こる。誘導型NOSであるiNOSは、マクロファージにより産生されるが、敗血症の際にアルギニンから産生されたNOによって、内毒素性ショックで血管拡張が引き起こされる。内皮型NOSであるeNOSは、血管内皮細胞により産生される。これはアルギニンをNOに変換し、cGMP機構により内皮表面において血小板凝集抑制を引き起こす。局所的な内皮の裏打ち構造でeNOSにより産生されるNOの半減期はおよそ5秒であり、拡散距離はおよそ2ミクロンである。 これらの酵素の産生は、12、17及び7番染色体にそれぞれコードされている様々なNOS遺伝子(NOS1、NOS2、NOS3)により調節されている。これらの遺伝子は、エクソンのサイズ及びスプライスジャンクションの部位が非常に似たゲノム構造を持っている。 アルギニン欠乏によるin vitroにおける抗腫瘍活性が、最近、イギリス、スコットランドのグループ(Scott et al, 2000, Single amino acid (arginine)deprivation:rapid and selective death of cultured transformed and malignanat cells. Br. J. Cancer 83, 800-810;Wheatley et al., 2000, Single amino acid(arginine)restriction: Growth and Death of cultured HeLa and Human Diploid Fibroblasts. Cellular Physiol. Biochem. 10, 37-55)により確認された。乳癌、大腸癌、肺癌、前立腺癌及び卵巣癌といった代表的な癌を含む24種類の様々な腫瘍細胞系列に対して試験を行ったところ、何れもアルギニンを欠乏させてから5日以内に死滅した。そのグループをフローサイトメトリーにより観察したところ、正常細胞系列は最長数週間にわたって細胞周期のG0期で静止期に入り、明らかな悪影響を受けないことが示された。しかし、腫瘍細胞は、アルギニンが欠乏すると、G1期の「R」ポイントを通過し、S期に入る。必須アミノ酸であるアルギニンが存在しないと、タンパク質合成が異常となる。ある細胞株ではアポトーシスによる細胞死が見られた。さらに興味深いことに、繰り返し欠乏させることで、「耐性」を高めることなく、腫瘍を殺すことが可能になる(Lamb et al., 2000, Single amino acid(arginine)deprivation induces Gl arrest associated with inhibition of Cdk4 expression in cultured human diploid fibroblasts. Experimental Cell Research 225, 238-249)。 in vitroでは有効なデータが出ているにもかかわらず、in vivoでアルギニン欠乏によって癌を治療するという試みは成功していなかった。最初に着手したStorrのグループは、肝臓抽出物を腹腔内に投与して腫瘍を有するラットの治療を試みたが良い結果を得られなかった(Storr & Burton, 1974, The effects of arginine deficiency on lymphoma cells. Br. J. Cancer 30, 50-59)。正常な生理的条件下では、血漿アルギニンレベルや他のアミノ酸レベルも、主要な制御器官である筋肉により正常範囲(100−120μM)に維持されることが現在広く知られている。アミノ酸欠乏に直面すると、細胞内タンパク質分解経路が活性化され(プロテアーゼ及びリソソーム系酵素)、循環系にアミノ酸が放出される(Malumbres & Barbacid, 2001, To cycle or not to cycle: a critical decision in cancer. Nature Reviews, 1, 222-231)。このアミノ酸ホメオスタシス機構により、様々なアミノ酸レベルが一定の範囲に維持される。従って、様々な物理的方法又はアルギニン分解酵素を用いた以前のアルギニン欠乏実験で期待される結果が得られなかったのは、身体のアミノ酸ホメオスタシス機構によるものである。 生来の身体ホメオスタシス機構による問題を解決するために、米国特許番号6,261,557号においてTepicらは、治療用組成物、及び、アルギニン減少分が身体の筋肉により補充されないようインスリンなどのタンパク質分解阻害剤と組み合わせてアルギニン分解酵素を用いる癌治療方法について記載している。 インスリンがタンパク質分解阻害剤として作用しうるにもかかわらず、ヒトの体に対する生理的影響が広範囲にわたるために、患者の血糖値が狭い正常範囲内に厳密に維持されない場合は、致命的な問題を引き起こしうる。従って、本発明の目的は、癌治療に対する治療方法及び組成物を改善することにある。 従って、本発明は、1つの側面において、単離され且つ実質的に精製された純度が80−100%の組換えヒトアルギナーゼIを提供する(簡略化するために、特に明記しない限り、以下、「アルギナーゼ」と言う)。好ましい実施形態において、本アルギナーゼの純度は、90−100%である。最も好ましい実施形態においては、本発明のアルギナーゼは少なくとも99%の純度を有する。下記の実施例において、SDS−PAGEによる分離後のデンシトメトリー測定によるアルギナーゼの純度は99.9%を超える。 別の好ましい実施形態において、本発明のアルギナーゼは、十分高い酵素活性と安定性を有するように修飾されており、患者の体内で少なくとも3日間、「適切なアルギニン欠乏状態」(以下、「AAD」という)を維持させる。ある好ましい修飾方法は、アミノ末端に6個のヒスチジンタグを付加することでる。別の好ましい修飾は、酵素の安定性を向上させ、患者によって引き起こされる免疫反応を最低限に抑えるためにPEG処理(pegylation)を行うことである。下記の実施例において、アルギナーゼの血漿半減期は、少なくともおよそ3日であり、比活性は少なくともおよそ250I.U./mgである。 本発明の別の側面において、(a)前記タンパク質をコードする遺伝子をクローニングすることと、(b)前記タンパク質を発現させるための組換えBacillus substilis株を構築することと、(c)フェドバッチ発酵を用いて前記組換えB. substilis細胞を発酵させることと、(d)前記組換えB. substilis細胞にヒートショックを与えて、前記組換えタンパク質の発現を刺激することと、(e)前記発酵による産物から前記組換えタンパク質を精製することと、を含む、組換えタンパク質を作製する方法、を提供する。好ましい実施形態において、組換え株としてプロファージが用いられる。ヒト組換えアルギナーゼのクローニング及び発現のために、フェドバッチ発酵法及び上記プロファージを用いることにより、600nm(OD)波長での最大光学密度が4倍を超えて上昇し、次の項の実施例3で示すように、アルギナーゼの収率及び産生率の両方が5倍を超えて向上する。さらなる実施形態において、組換えタンパク質を産生するために発酵過程をスケールアップすることができる。さらなる実施形態において、明確に規定された180−320g/Lのグルコースと、2−4g/LのMgSO4・7H2Oと、45−80g/Lのトリプトンと、7−12g/LのK2HPO4と、3−6g/LのKH2PO4とを含有する栄養源供給培地を用いて発酵過程を行う。 明確に規定された培養液を用いることにより、本組換えタンパク質と共に不必要な物質が精製されることを防ぎ、医薬品グレードの組換え物質を安全で効果的に産生する方法が確立される。 さらなる別の好ましい実施形態として、アミノ末端に追加された6個のヒスチジンをコードするコード領域が付加されたヒトアルギナーゼ遺伝子と、精製過程にキレートカラムクロマトグラフィー過程を包含する精製方法とを提供する。さらなる好ましい実施形態において、アルギナーゼ酵素はPEG処理によりさらに修飾され、安定性を向上させる。 本発明の別の側面において、アルギナーゼを含有する薬学的組成物をさらに提供する。好ましい実施形態において、前記アルギナーゼは十分に高い酵素活性及び安定性を有し、患者体内で少なくとも3日間、AADを維持させる。最も好ましい実施形態においては、前記アルギナーゼをさらにPEG処理により修飾して安定性を向上させ、免疫反応を最小限に抑える。 本発明の別の側面によると、アルギナーゼを用いてさらに薬学的組成物を調剤する。 本発明のさらに別の側面において、他のタンパク質分解阻害剤を必要とせずに、調剤された本発明の薬学的組成物を患者に投与して、投与した患者のアルギニンレベルを少なくとも3日間、10μM以下に維持することを含む、疾患の治療方法を提供する。ある好ましい実施形態では、非糖尿病患者に対して体外からのインスリン投与を行わない。 さらに、最も好ましい本発明の治療方法には、患者の血中の血小板数(好ましくは、50,000x109以上に維持する)及びプロトロンビン時間(正常値の2倍を超えないよう維持する)のモニタリングが含まれる。血小板数及びプロトロンビン時間がこれらのレベルに達しない限り、一酸化窒素産生物質を体外から投与しない。 本発明の本側面における別の好ましい実施形態において、30分間にわたる短時間投与として、3,000−5,000I.U./kgのPEG化アルギナーゼを投与する。アルギナーゼ投与前、及び、その後毎日、アルギニンレベル及びアルギナーゼ活性を測定する。第2日目に、AADが一定の基準に到達しない場合は、次回のアルギナーゼ投与用量は、治療を実施する医師が決定する。AADの最大耐性時間とは、血圧が調節され(薬物投与の有無は治療を実施する医師の判断による)、血小板数が50,000x109以上であり、プロトロンビン時間が正常値の2倍未満の時間として定義される。アルギニンレベルとともに、完全血球算定(CBC)及びプロトロンビン時間(PT)測定を毎日行う。本治療中、少なくとも週に2回、肝臓の化学的指標を測定する。 次の詳細な説明において提供する実験データは、十分に効果的な形で提供される場合は、アルギナーゼが悪性腫瘍の治療に有用であることを示している。組換えヒトアルギナーゼIは、本開示において使用されるアルギナーゼの具体的な実施形態であるが、他の形態のアルギナーゼ及び/又は他の採取源から得られるアルギナーゼも、本発明に使用できることが明らかである。図1は、pAB101のプラスミドマップを示す。このプラスミドは、アルギナーゼ(arg)をコードする遺伝子を有し、E.coli中で複製されるが、B. subtilis中では複製されない。図2A、2B及び2Cは、ヒトアルギナーゼIのヌクレオチド配列及びその推定アミノ酸配列を示す。図2Aは、プラスミドpAB101のEcoRI/MunI部位からXbaI部位までのヌクレオチド配列(配列番号:1)を示す。ヌクレオチド(nt)1−6はEcoRI/MunI部位、nt481−486はプロモーター1の−35領域、nt504−509はプロモーター1の−10領域、nt544−549はプロモーター2の−35部位、nt566−571はプロモーター2の−10領域、nt600−605はリボソーム結合部位、nt614−616は開始コドン、nt632−637はNdeI部位、nt1601−1603は停止コドン、nt1997−2002はXbaI部位である。図2Bは、修飾ヒトアルギナーゼのコーディングヌクレオチド配列(配列番号:2)及びそれに対応するコードアミノ酸配列(配列番号:3)を示す。図2Aのヌクレオチド614−1603は、修飾アルギナーゼのアミノ酸配列に対するコード領域である。N末端の6xHis(配列番号:4)タグに下線が付されている。翻訳停止コドンにはアスタリスクが付されている。図2Cは、正常ヒトアルギナーゼIのコーディングヌクレオチド配列(配列番号:8)及びそれに対応するコードアミノ酸配列(配列番号:9)を示す。図3は、アルギナーゼを発現する、B. subtilisのプロファージの構造の模式図である。図4A及び4Bは、2リットルの発酵容器における組換えBacillus subtilis株LLC101の発酵のタイムコースを示す。図4Aは、バッチ発酵で得た結果を示す。図4Bは、フェドバッチ発酵で得た結果を示す。図5A及び5Bは、温度、撹拌速度、pH及び溶存酸素量等のパラメーターの変化を示す発酵の時間変化プロットを表している。図5Aは、バッチ発酵における時間変化プロットを示す。図5Bは、フェドバッチ発酵における時間変化プロットを示す。図6A及び6Bは、ヒートショックから3時間後に最初の5ml HiTrapキレートカラムによって行ったヒトアルギナーゼの生化学的精製の結果を示す。図6Aは、FPLCの実行パラメーター及びタンパク質溶出プロファイルを示す。図6Bは、上記カラムから回収した11−31の各画分5μlをSDS−PAGE(12%)で分析した結果を示す。タンパク質ゲルをクーマシーブリリアントブルーで染色し、脱色してタンパク質バンドが見えるようにした。レーンMは低分子の分子量マーカー(バンドあたり1μg、Bio−Rad)で、各バンドは97,400、66,200、45,000、31,000、21,500、14,400 MW(ダルトン)である。図7A及び7Bは、ヒートショックから3時間後に2回目の5ml HiTrap キレートカラムによって行ったヒトアルギナーゼの精製結果を示す。図7Aは、FPLCの実行パラメーター及びタンパク質溶出プロファイルを示す。図7Bは、上記カラムから回収した9−39の各分画1μlをSDS−PAGE(12%)で分析した結果を示す。タンパク質ゲルをクーマシーブリリアントブルーで染色し、脱色してタンパク質バンドが見えるようにした。レーンMは低分子量の分子量マーカー(バンドあたり1μg、Bio−Rad)で、各バンドは97,400、66,200、45,000、31,000、21,500、14,400 MW(ダルトン)である。図8A及び8Bは、ヒートショックから6時間後に最初の5ml HiTrap キレートカラムによって行ったヒトアルギナーゼの精製結果を示す。図8Aは、FPLCの実行パラメーター及びタンパク質溶出プロファイルを示す。図8Bは、前記カラムから回収した10−32の各分画2.5μlをSDS−PAGE(12%)で分析した結果を示す。タンパク質ゲルをクーマシーブリリアントブルーで染色し、脱色してタンパク質バンドが見えるようにした。レーンMは低分子量の分子量マーカー(バンドあたり1μg、Bio−Rad)で、各バンドは97,400、66,200、45,000、31,000、21,500、14,400 MW(ダルトン)である。図9A及び9Bは、ヒートショックから6時間後に行った2回目の5ml HiTrap キレートカラムによって行ったヒトアルギナーゼの精製結果を示す。図9Aは、FPLCの実行パラメーター及びタンパク質溶出プロファイルを示す。図9Bは、前記カラムから回収した8−E6の各分画2μlをSDS−PAGE(12%)で分析した結果を示す。タンパク質ゲルをクーマシーブリリアントブルーで染色し、脱色してタンパク質バンドが見えるようにした。レーンMは低分子量の分子量マーカー(バンドあたり1μg、Bio−Rad)で、各バンドは97,400、66,200、45,000、31,000、21,500、14,400 MW(ダルトン)である。図10は、細胞密度がさらに高い時にヒートショックを行ったバクテリア細胞の増殖タイムコースを示す。培養密度(OD600nm)がおよそ25になった8時間の時点でヒートショックを行った。図11は、細胞密度がさらに高い時にヒートショックを行ったフェドバッチ発酵の時間変化プロットである。このプロットは、温度、撹拌速度、pH及び溶存酸素量等のパラメーターの変化を示す。図12A及び12Bは、ヒートショック(細胞密度が高い(OD25)時に行った)から6時間後に最初の5ml HiTrapキレートカラムによって行ったヒトアルギナーゼの精製結果を示す。図12Aは、FPLCの実行パラメーター及びタンパク質溶出プロファイルを示す。図12Bは、カラムから回収した16−45の各分画5μlをSDS−PAGE(12%)で分析した結果を示す。タンパク質ゲルをクーマシーブリリアントブルーで染色し、脱色してタンパク質バンドが見えるようにした。レーンMは低分子量の分子量マーカー(バンドあたり1μg、Bio−Rad)で、各バンドは97,400、66,200、45,000、31,000、21,500、14,400 MW(ダルトン)であり、レーン「未精製」はカラム添加前の未精製細胞抽出液、5μlである。図13A及び13Bは、ヒートショック(細胞密度が高い(OD25)時に行った)から6時間後に2回目の5ml HiTrapキレートカラムによって行ったヒトアルギナーゼの精製結果を示す。図13Aは、FPLCの実行パラメーター及びタンパク質溶出プロファイルを示す。図13Bは、カラムから回収した7−34の各分画5μlをSDS−PAGE(12%)で分析した結果を示す。タンパク質ゲルをクーマシーブリリアントブルーで染色し、脱色してタンパク質バンドが見えるようにした。レーンMは低分子量の分子量マーカー(バンドあたり1μg、Bio−Rad)で、各バンドは97,400、66,200、45,000、31,000、21,500、14,400 MW(ダルトン)である。図14A及び14Bは、ヒートショック(細胞密度が高い(OD25)時に行った)から6時間後に最初の1ml HiTrap SP FFカラムによって行ったヒトアルギナーゼの精製結果を示す。図14Aは、FPLCの実行パラメーター及びタンパク質溶出プロファイルを示す。図14Bは、カラムから回収したA11−B7の各分画5μlをSDS−PAGE(12%)で分析した結果を示す。タンパク質ゲルをクーマシーブリリアントブルーで染色し、脱色してタンパク質バンドが見えるようにした。レーンMは低分子量の分子量マーカー(バンドあたり1μg、Bio−Rad)で、各バンドは97,400、66,200、45,000、31,000、21,500、14,400 MW(ダルトン)である。図15A及び15Bは、ヒートショック(細胞密度が高い(OD25)時に行った)から6時間後の、2回目の1ml HiTrap SP FFカラムによって行ったヒトアルギナーゼの精製結果を示す。図15Aは、FPLCの実行パラメーター及びタンパク質溶出プロファイルを示す。図15Bは、カラムから回収したA6−B12の各分画5μlをSDS−PAGE(12%)で分析した結果を示す。タンパク質ゲルをクーマシーブリリアントブルーで染色し、脱色してタンパク質バンドが見えるようにした。レーンMは低分子量の分子量マーカー(バンドあたり1μg、Bio−Rad)で、各バンドは97,400、66,200、45,000、31,000、21,500、14,400 MW(ダルトン)である。図16A及び16Bは、アルギナーゼ:PEGのモル比が1:50になるようにしてmPEG−SPA(MW 5,000)で修飾したヒトアルギナーゼのSDS−PAGE(15%)分析の結果である。図16Aは、反応を氷中で行った際の結果を示す。レーン1:低分子量のタンパク質マーカー、レーン2:アルギナーゼ(5.35μg)PEG非添加(コントロール)、レーン3:反応1時間後、レーン4:反応0.5時間後、レーン5:反応2時間後、レーン6:反応3時間後、レーン7:反応4時間後、レーン8:反応5時間後、レーン9:反応23時間後である。図16Bは、室温で反応を行った際の結果を示す。レーン1:低分子量のタンパク質マーカー、レーン2:アルギナーゼ(5.35μg)PEG非添加(コントロール)、レーン3:反応1時間後、レーン4:反応0.5時間後、レーン5:反応2時間後、レーン6:反応3時間後、レーン7:反応4時間後、レーン8:反応5時間後、レーン9:反応23時間後である。図17A及び17Bは、アルギナーゼ:PEGのモル比が1:20になるようにしてmPEG−SPA(MW 5,000)により修飾したヒトアルギナーゼのSDS−PAGE(15%)分析の結果である。図17Aは、反応を氷中で行った際の結果を示す。レーン1:低分子量のタンパク質マーカー、レーン2:アルギナーゼ(5.35μg)PEG非添加(コントロール)、レーン3:反応1時間後、レーン4:反応0.5時間後、レーン5:反応2時間後、レーン6:反応3時間後、レーン7:反応4時間後、レーン8:反応5時間後、レーン9:反応23時間後である。図17Bは、室温で反応を行った際の結果を示す。レーン1:低分子量のタンパク質マーカー、レーン2:アルギナーゼ(5.35μg)PEG非添加(コントロール)、レーン3:反応1時間後、レーン4:反応0.5時間後、レーン5:反応2時間後、レーン6:反応3時間後、レーン7:反応4時間後、レーン8:反応5時間後、レーン9:反応23時間後である。図18Aは、mPEG−CC(MW 5,000)により修飾したヒトアルギナーゼのSDS−PAGE(15%)分析の結果である。反応は氷中で行った。レーン1:低分子量のタンパク質マーカー、レーン2:アルギナーゼ(5.35μg)PEG非添加(コントロール)、レーン3:アルギナーゼ:PEGのモル比が1:50になるようにして反応を行った際の反応2時間後試料、レーン4:サンプルなし、レーン5:アルギナーゼ:PEGのモル比が1:50になるようにして反応を行った際の反応23時間後試料、レーン6:アルギナーゼ:PEGのモル比が1:20になるようにして反応を行った際の反応2時間後試料、レーン7:アルギナーゼ:PEGのモル比が1:20になるようにして反応を行った際の反応5時間後試料、レーン8:反応5時間後試料、レーン9:反応23時間後の試料である。図18Bは、PEG処理を行わないアルギナーゼ、及びPEG処理を行ったことにより高い活性と安定性を有するアルギナーゼのSDS−PAGE(12%)分析の結果を示す。レーン1:低分子量のタンパク質マーカー(Bio−rad)、レーン2:非処理アルギナーゼ(1μg)、レーン3:PEG処理を行ったアルギナーゼ(1μg):PEGのモル比が1:50になるようにして反応を行った際の反応2時間後試料、レーン4:十分に透析を行った(ultra-dialysis)後のPEG処理アルギナーゼ(1.5μg)。図19A及び19Bは、単離された組換えヒトアルギナーゼの純度測定結果を示す。図19Aにおいて、レーン1:Ikemotoらの方法(Ikemoto et al., 1990, Biochem. J. 270, 697-703)により得た5μgの精製E.coli−発現組換えヒトアルギナーゼ試料、レーン2:この報告の方法により得た5μgの精製B. subtilis−発現組換えヒトアルギナーゼ試料を示す。図19Bは、Lumi-imagerのLumianalyst 32プログラム(Roche Molecular Biochemicals)による、図19Aで示されているタンパク質バンドの密度分析結果を示す。上のパネル:図19A、レーン1の結果、下のパネル:図19A、レーン2の結果である。図20は、in vitroにおける、PEG処理アルギナーゼのヒト血漿中での安定性を示す図表である。図21及び22は、実施例8Aで記述した方法により得たPEG処理アルギナーゼのin vivo測定半減期を示す。図21は、実施例9Aにおいて記述した活性測定法を用いて測定した、本発明により産生させたPEG処理アルギナーゼのin vivoにおける活性を示す。図22は、PEG処理アルギナーゼの第1の半減期と第2の半減期の算出に用いたプロットである。図23は、様々な用量のPEG処理組換えヒトアルギナーゼ(500I.U.、1000I.U.、1500I.U.及び3000I.U.)を腹腔内投与した4群の実験ラットにおけるアルギニン欠乏状態を比較したものである。図24は、Hep3B細胞移植により誘導した腫瘍を有する2群のヌードマウス間の生存率、平均腫瘍サイズ及び腫瘍成長率の比較を示す。このうち1つの群には、500I.U.の用量のアルギナーゼを腹腔内投与し、もう1つのコントロール群にはアルギナーゼ投与を行わなかった。図25A及び25Bは、PLC/PRF5細胞移植により誘導した腫瘍を有する2群のヌードマウス間の、平均腫瘍サイズ及び平均腫瘍質量の比較を示す。このうち1つの群には、500I.U.の用量のアルギナーゼを腹腔内投与し、もう1つのコントロール群にはアルギナーゼ投与を行わなかった。図25A及び25Bは、PLC/PRF5細胞移植により誘導した腫瘍を有する2群のヌードマウス間の、平均腫瘍サイズ及び平均腫瘍質量の比較を示す。このうち1つの群には、500I.U.の用量のアルギナーゼを腹腔内投与し、もう1つのコントロール群にはアルギナーゼ投与を行わなかった。図26A及び26Bは、HuH−7細胞移植により誘導した腫瘍を有する2群のヌードマウス間の、平均腫瘍サイズ及び平均腫瘍質量の比較を示す。このうち1つの群には、500I.U.の用量のアルギナーゼを腹腔内投与し、もう1つのコントロール群にはアルギナーゼ投与を行わなかった。図27は、MCF−7細胞移植により誘導した腫瘍を有する2群のヌードマウス間の平均腫瘍サイズの比較を示す。このうち1つの群には、500I.U.の用量のアルギナーゼを腹腔内投与し、もう1つのコントロール群にはアルギナーゼ投与を行わなかった。図28及び図29は、実施例12で説明する治療を実施中の患者体のアルギニン及びCEAのインビボ濃度をそれぞれ示す。図28及び図29は、実施例12で説明する治療を実施中の患者体のアルギニン及びCEAのインビボ濃度をそれぞれ示す。発明の詳細な説明 本明細書で使用する「PEG処理アルギナーゼ」なる語は、PEG処理により修飾されており、酵素安定性が向上され、免疫反応を最小限に抑えた本発明のアルギナーゼIを指す。 本明細書で使用する「実質的に同様」なる語は、DNAのヌクレオチド配列、RNAのリボヌクレオチド配列、又はタンパク質のアミノ酸配列のうち何れについて使用される場合にも、本明細書に開示した実際の配列との違いがわずかであり、重大な変異がない配列を示す。実質的に同様である配列を有する種は、開示した配列と均等であると見なされ、これらは付記された特許請求の範囲に属する。この点において、「わずかであり、重大でない変異」とは、本明細書中に開示及び/又は請求したDNA、RNA又はタンパク質と実質的に同様の配列が、本明細書中に開示及び/又は請求した配列と機能的に同等であることを意味する。機能的に同等な配列は、本明細書中に開示され、特許請求の範囲に記載されている核酸及びアミノ酸組成と、実質的に同様に機能して実質的に同様の組成を産生する。特に、機能的に同等なDNAは、本明細書中に開示したタンパク質と同様のタンパク質、又は、非極性残基の他の非極性残基への置換あるいは電荷を有する残基の同じような電荷を有する残基への置換等、保存的なアミノ酸変異を有するタンパク質をコードする。これらの変化には、タンパク質の3次元構造が実質的に変化しないことが当業者により公知である変異が含まれる。「十分に高い酵素活性」とは、組換えヒトアルギナーゼの酵素比活性が少なくとも250I.U./mgであることを意味するが、少なくとも300−350I.U./mgであることが好ましく、少なくとも500I.U./mgであれば尚好ましい。好ましい実施形態において、前記アルギナーゼの比活性は、500−600I.U./mgである。「安定性」なる語は、本アルギナーゼのin vitroでの安定性を指す。より好ましくは、安定性とはin vivoにおける安定性を指す。酵素活性低下率は、単離及び精製組換えヒトアルギナーゼの血漿中の安定性と反比例する。このようなヒトアルギナーゼの血漿中における半減期を算出する。 本明細書中で使用する場合、「適切なアルギニン欠乏状態」(AAD)なる語は、in vivoのアルギニン濃度が10μM以下であることを意味する。「疾患」なる語は、肝臓疾患及び癌を含むが、これらに限定されない、あらゆる病理学的状態を意味する。 本明細書中で使用する場合、「半減期(1/2−life)」とは、in vitroでのヒト血漿中のアルギナーゼ濃度が半分に減少するのに必要な時間を意味する。2001年の初め、本発明の発明者の1人により、肝細胞癌(HCC)が自然に一過性に縮小する現象が3例観察された。3人の患者全てのケースで腹腔内出血を伴いHCCが自然に破裂した。そのうちの1例では、血漿アルギニンが3μMに、腹水のアルギニン濃度が7μMに低下していた。これらの患者全員において、肝臓の病巣が破裂した後、薬剤を用いた治療を行わないにもかかわらず、肝臓腫瘍が自然に縮小しα−フェトプロテイン(AFP)が正常になった。ある患者では、HCCの縮小が6ヶ月にわたり継続した。本発明によると、このような縮小が継続したのは、肝臓の破裂により腹腔内に自然に持続的に内因性のアルギナーゼが放出されたことによるアルギニン欠乏が起こったからであると考えられる。従って、本発明者らは、アルギニン欠乏状態を持続することが、HCC縮小を誘導する原因となる要素であると推論した。 次に、本発明の発明者らは、経肝動脈塞栓後に内因性肝臓アルギナーゼが肝臓から放出され全身的なアルギニン欠乏を引き起こしうることを示すために一連の実験を計画した。これは現在、本明細書とともに参考文献として援用される米国仮特許出願番号60/351816として出願されている。本発明者が計画した実験において、切除不能で転移性のHCCを有する患者に対して一時的な肝臓の血流欠損を引き起こすリピオドール及びゲルフォームを用いた経肝動脈塞栓後、測定可能な中程度量の内因性肝臓アルギナーゼが上記患者の全身の循環系に放出されたことが明らかとなった。高用量のインスリン注入を治療計画に取り入れ、低アミノ酸血症状態を誘導した。一連の6例のHCC治療において、4例で予想外の肝臓癌の縮小が見られたが、これは治療効果が全身的であったことを示唆している。1例では、その患者の肝臓及び肝外(腹部リンパ節肥大)疾患に対するCT及びPETによる放射性診断で、完全な寛解状態が持続した。その患者のAFPレベルは、3週間以内に正常値まで低下し、4ヶ月にわたりその状態が持続した。4ヶ月後のインターバルCTにより、肝臓及び肝外両方においてはっきりとした腫瘍がなくなったことが示された。塞栓から4週間後のPETスキャンにより、他の3例の患者全員の肝外疾患(1人は肺疾患、1人は腸間膜/後腹膜/骨、及び1人は後腹膜リンパ節肥大)が縮小したことが明らかとなった。この患者らのアルギナーゼ活性及びアルギニン濃度を試験した結果、全ての例で、2時間から2日間適切なアルギニン欠乏状態が持続していたことが分かった。実際、AADの持続時間は、肝臓及び肝外両方の腫瘍縮小持続期間とよく相関した。 高用量のインスリン注入とともに経肝動脈塞栓術を行っていたが、本発明により、発明者らはその後、インスリン投与が必要であるのは、患者の全身で放出されるアルギナーゼ活性が不十分である可能性があるため筋肉由来のタンパク質分解により欠乏しているアルギニンを補充して治療効果が打ち消されるという事実によるものであることに着目した。本発明により、本発明者らは、治療法を改善してアルギニン欠乏療法の際にインスリン投与を行う必要性をなくすため、筋肉由来のタンパク質分解による作用を無効にするように、患者の全身においてアルギナーゼが十分に高い活性を有する状態を実現した。従って、本発明により、本発明者らは、十分に酵素活性が高く安定で、高用量のインスリンを投与せずに患者の体内で10μM以下という、「適切なアルギニン欠乏状態」(以下「ADD」と言う)を維持するアルギナーゼ酵素を産生させることについて説明する。 従って、内因性のアルギナーゼを補強することに加え、本発明による高い安定性及び活性を有するアルギナーゼにより、患者に望ましくない副作用を与えるタンパク質分解抑制剤を投与せずにAADを得られるというさらなる利点を提供する。 全身的なアルギニン欠乏により、一酸化窒素欠乏に関連する他の望ましくない副作用が引き起こされうる。これらには、血管内皮におけるNOの血管拡張効果が欠如することによる高血圧、血小板凝集及び、NO欠如及び一時的な細胞分裂停止に関連する初期の凝固因子欠乏に続いて2次的に起こる血小板減少症が含まれる。しかし、本発明者は、一酸化窒素ノックアウトマウスにおいて、その動物が高血圧ではなく、血小板数は正常で、正常な平均寿命を有していることを認識している。つまり、本発明の別の局面により、及び血小板減少症の患者において、血小板数が50,000x109を大幅に下回らない限り、顕著な出血傾向は見られない。 次の詳細な実施例により、本発明による、高い安定性及び活性を有するアルギナーゼの産生及び使用方法を教示する。実施例1では、ヒトアルギナーゼI遺伝子を含有するBacillus subtilis LLC101の組換え株の構築を説明する。この実施例の後、組換えB. subtilisの発酵に関する2つの実施例が続く。組換えLLC101細胞の最初の発酵実験では、 バッチ発酵及びフェドバッチ発酵を2Lの発酵容器で行った。バッチ条件下では、細胞密度が十分に高くならないことが分かった。本発明によるフェドバッチ条件下で行った場合のみ、細胞密度が10OD(光学密度)以上に上昇した。これらの実験及び結果を実施例2A及び2Bに示す。2種類の発酵方法の比較を実施例3に示す。従って、単離及び精製組換えヒトアルギナーゼを産生するためにフェドバッチ発酵操作を選択した。フェドバッチ発酵を100L発酵容器にスケールアップした。その実験及び結果を実施例2Cに示す。 LLC101株は、50℃のヒートショックでアルギナーゼ発現を引き起こす熱感受性株である。最初に最適条件を調べる実験を行い、様々な細胞密度でヒートショック処理を施して、アルギナーゼ産生量が最大となる最適条件を確立した。実施例5及び6では、精製過程及び、異なる2種類のOD(600nmにおける光学密度)、即ち12.8及び25でヒートショックを行った際のフェドバッチ発酵で得られた精製アルギナーゼの収率について説明する。実験データから、ヒートショックは全てLLC101の指数関数的増殖期に行われたが、例えば12.8ODなど、細胞密度が低い状態でヒートショックを導入した方が良い結果が得られることが示された。 ヒートショック後の回収時間を様々に変化させて、ヒートショック後のアルギナーゼ発現が最大になる条件をも最適化した。実施例4では、ヒートショック後3時間で細胞を回収し、またフェドバッチ発酵法を使用した結果を示す。 実施例5では、細胞密度12.8ODでヒートショックを行ってから6時間後のアルギナーゼ精製に関して説明する。実施例6では、細胞密度が高い(25OD)状態でヒートショックを行ってから6時間後のアルギナーゼ精製に関して説明する。実施例7は、様々な回収及び精製条件下でのアルギナーゼ収率を比較するデータ比較である。これらのデータでは、細胞密度が低い、12.8ODにおいてヒートショックを行ってから6時間後に細胞を回収した場合にアルギナーゼ収率が高く、162mg/Lとなったことが示されている。アルギナーゼを修飾して安定性を向上させた。実施例8Aでは、モル比が1:140(アルギナーゼ:PEG)となるようにして、架橋剤として塩化シアヌル(cc)を用いた、アルギナーゼに対するPEG処理のプロトコールの1例を示す。実施例8Bでは、本酵素との反応混合液へ添加する架橋剤の割合が大幅に低い、様々なPEG処理プロトコールについて説明する。cc及びプロピオン酸スクシンイミド(SPA)両方を、架橋剤として試験した。この実験結果から、実施例8Bで説明したSPAを用いた方法により、実施例9及び10で述べるように、PEG処理アルギナーゼの半減期が3日になり、特異的活性がおよそ225I.U./mgとなったことが示される。実施例8Cでは、特異的活性がおよそ592I.U./mgである、高活性のPEG処理アルギナーゼ調製方法を説明する。 上記の方法を用いて、高い安定性及び活性を有するアルギナーゼが産生された。このアルギナーゼは十分に高い活性及び安定性を有し、全身のアルギナーゼが筋肉によるアルギニンの補充を速やかに打ち消すため、多量のタンパク質分解阻害剤を使用せずに患者の治療を行うことができる。従って、体外から高用量のインスリンを投与せずに、10μM以下という適切なアルギニン欠乏状態を実現することができる。本発明によるアルギナーゼを用いる様々な治療プロトコールを実施例11で説明する。実施例12では、アルギナーゼを投与した患者の臨床データについて説明して、実施礼11で示した治療プロトコールをさらに裏付ける。 実施例13から14では、本発明によるアルギナーゼの用量反応及び安全な用量を調べることを目的とした、ラットを用いた2つの動物実験について述べる。 実施例15から18では、修飾アルギナーゼの投与により誘導したアルギニン欠乏状態に対する、様々なヒト癌細胞株により誘導した腫瘍の反応を調べることを目的とした、ヌードマウスを用いた別の一連の動物実験について述べる。 先に言及した全ての参考文献は、本明細書中に参考文献として援用する。本発明の実施を以下に掲げる非限定的な実施例において例示する。 本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲によってのみ規定されるものであり、その内容又は実施例の範囲によって限定されるものではない。[実施例1] 組換え株LLC101の構築(a)ヒトアルギナーゼIをコードする遺伝子の単離 ヒトアルギナーゼI遺伝子配列が1987年に公表され(Haraguchi,Yら、1987、Proc.Natl.Acad.Sci.84,412−415)、それをもとにプライマーがデザインされた。Expand High Fidelity PCR System Kit(Roche)を用いてポリメラーゼチェーン反応(PCR)を行い、ヒトアルギナーゼをコードする遺伝子を単離した。プライマー、Arg1(5‘−CCAAACCATATGAGCGCCAAGTCCAGAACCATA−3’)(配列番号:5)及びArg2(5‘−CCAAACTCTAGAATCACATTTTTTGAATGACATGGACAC−3’)(配列番号:6)をそれぞれGenset Singapore Biotechnology Pte Ltd.より購入した。両プライマーとも、融解温度(Tm)は同じ72℃である。プライマーArg1には、NdeI制限酵素認識部位(下線)が含まれており、プライマーArg2には、XbaI制限酵素認識部位(下線)が含まれている。これらの2種類のプライマー(最終濃度は、各300nM)を、5μlのヒト肝臓5‘−stretch plus cDNA ライブラリ(Clontech)が入った0.2mlマイクロチューブに添加した。DNAポリメラーゼ(2.6ユニット、0.75μl)と、4種類のデオキシリボヌクレオチド(各4μl、最終濃度は各200μM)と、反応バッファー(5μl)とdH2O (17.75μl)とをさらに添加した。PCRは、PCR前反応(94℃、5分間)、25回のPCRサイクル(94℃で1分間、57℃で1分間、72℃で1分間)、PCR後反応(72℃で7分間)という条件で行った。0.8%アガロースゲルでPCR産物(5μl)を分析し、1本の1.4kbのバンドがあることを確認した。このDNA断片には、アルギナーゼをコードする遺伝子が含まれる。 (b)プラスミドpSG1113の単離 プラスミドpSG703(Thornewell, S. J. ら、1993, Gene, 133, 47-53)の派生物であるプラスミドpSG1113を、Wizard Plus Minipreps DNA Purification System(Promega)を使用して製造元のマニュアルに従い、pSG1113を有するE.coli、DH5αクローンから単離した。このプラスミドは、E.coliでのみ複製しB. subtilis中では複製しないプラスミドで、アルギナーゼ遺伝子のサブクローニング用ベクターとして使用した。 (c)プラスミドpAB101を構築するための、1.4kbのPCR産物のプラスミドpSG1113へのサブクローニング 上記方法により調製したPCR産物を、6mM Tris−HCl(pH7.9)、6mM MgCl2、150mM NaCl、1mM DTTからなる反応液中において制限エンドヌクレアーゼであるNdeI及びXbaI(Promega)により、37℃にて、1.5時間処理を行った。処理終了後、反応混合液に対してアガロースゲル(0.8%)電気泳動を行い、Qiaex II Gel Extraction Kit(Qiagen)を用いて1.4kbのDNA断片をゲルから回収した。これとは別に、同じ制限エンドヌクレアーゼ及び同様の方法でプラスミドpSG1113を処理した。処理終了後、反応混合液に対してアガロースゲル(0.8%)電気泳動を行い、3.5kbのDNA断片をゲルから回収した。T4DNAリガーゼを用いて、このDNA断片を上記の1.4kbのDNA断片に連結させた。一般的なカルシウム法(Sambrook, J. ら、Molecular Cloning, A Laboratory Manual, second edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York, 1989)によるE.coli XLI−Blueの形質転換にこのライゲーション混合液を使用し、100μg/mlのアンピシリンを含有する栄養寒天プレートに播種した。制限酵素反応により、適切なインサートを含有するプラスミドが入ったコロニーのスクリーニングを行った。構築したプラスミドをpAB101(図1)と名付けた。ORIは、E.coli のori領域、blaはアンピシリン耐性マーカー遺伝子である。プライマーArg1(配列番号:5)、Arg2(配列番号:6)及びArg6(5‘−CTCTGGCCATGCCAGGGTCCACCC−3’)(配列番号:7)を用いてDNA配列決定を行い、アルギナーゼをコードする遺伝子と同一であることを確認した(図2)。 (d)新規組換えB. subtilis プロファージ株、LLC101の構築 Wizard Plus Minipreps DNA Purification System(Promega)を使用して、プラスミド、pAB101を有するクローンからpAB101を抽出して精製した。プラスミド、pAB101(図1)において、0.6kbのMunI−NdeIφ105ファージDNA 断片(「φ105」として表示)及びcat遺伝子(図1及び図3)で、アルギナーゼ遺伝子(arg)の両脇を挟んだ。このプラスミドを用いて、公知の方法(Anagnostopoulos C. 及びSPIZIZEN J., 1961, J. Bacteriol. 81, 741-746)によりコンピーテントB. subtilis 1A304(φ105MU331)の形質転換を行った。B. subtilis株、1A304(φ105MU331)をJ. Errington(Thornewell, S. ら、1993, Gene 133, 47-53)より入手した。Thornewell, S. ら、1993, Gene 133, 47-53及びBaillie, L. W. J. ら、1998、FEMS Microbiol. Letters 163, 43-47(本明細書中に参考文献としてその全体を援用する)に従って、この株が作製された。プラスミドpAB101(図3で直線として示す)を、B. subtilis株、1A304(φ105MU331)に形質転換し、CmRマーカーにより選択して、形質転換体をErS表現型に関してスクリーニングを行った。この形質転換体は図3に示すような二重交差から生じたものと考えられ、強力なファージプロモーターによりアルギナーゼ遺伝子(arg)転写が調節されている(Leung及びErington, 1995, Gene 154, 1-6)。太線は、プロファージゲノムを表し、破線はB. subtilisの染色体を、細線はプラスミドDNAを表す。図3において、転写及び翻訳方向を示す影付きの矢印として遺伝子を示す。相同領域は、縦方向の破線で区切り、相同組換えが起こっている位置を「X」で表す。 クロラムフェニコール(5μg/ml)を含有する寒天プレートに600μlの形質転換細胞を播種して、52個のクロラムフェニコール耐性(CmR)コロニーを得た。これらのコロニーのうち10個を無作為に選択して、エリスロマイシン(20μg/ml)を含有する寒天プレートにストリークしところ、これらのコロニーうち1個は増殖しなかったが、これはそのコロニーがエリスロマイシン感受性(ErS)であったことを意味する。クロラムフェニコール耐性であるがエリスロマイシン感受性であるこのコロニーを分離して、LLC101と名付けた。この新しく構築したプロファージ株の染色体において、エリスロマイシン耐性遺伝子(ermC)を、相同組換えの際に二重交差によりアルギナーゼ遺伝子(arg)に置き換えた。0.6kbのMunI−NdeIφ105ファージDNA断片(「φ105」として表示)及びcat遺伝子が相同配列を有しており、これにより組換えが起こった。このようにして、B. subtilis 1A304(φ105MU331)のプロファージDNAの発現部位にアルギナーゼ遺伝子を入れ、アルギナーゼ遺伝子を強力な温度感受性(誘導性)のプロモーター(Leung, Y. C. 及びErrington, J., 1995, Gene 154, 1-6)の制御下に置いた。 B. SUBTILIS LLC101細胞の発酵[実施例2A] 2リットルの発酵容器でのバッチ発酵 5mg/Lのクロラムフェニコールを添加した栄養寒天(牛肉抽出物 1g/L、ペプトン 10g/L、NaCl 5g/L、及び寒天 20g/L)プレートで B. subtilis LLC101株を維持する。バッチ及びフェドバッチ発酵用の接種試料を調製するために、グルコース 5g/L、トリプトン 10g/L、酵母抽出物 3g/L、クエン酸ナトリウム 1g/L、KH2P04 1.5g/L、K2HPO4 1.5g/L、及び(NH4)2SO4 3g/Lを含有する80mLの発酵培地が入った2本の1Lフラスコに、新しく調製した栄養寒天プレートから上記株の数個のコロニーを移した。250r.p.m.のオービタルシェーカー上で、37℃及びpH7.0にて、細菌の細胞培養を行った。OD600nmが5.5−6.0になった時点(培養時間はおよそ9−11時間)で培養を終了した。次に、1440mlの発酵培地(グルコース 5g/L、トリプトン 10g/L、酵母抽出物 3g/L、クエン酸ナトリウム 1g/L、KH2P04 1.5g/L、K2HPO4 1.5g/L、及び(NH4)2SO4 3g/L)が入った2−Lの発酵容器に、160−mLの培養液を添加した。温度37℃でバッチ発酵を行った。水酸化ナトリウム及び塩酸を添加してpHを7.0に調整した。溶存酸素濃度が20%の飽和度になるように撹拌速度を調整した。培養密度(OD600nm)がおよそ3.0になった時点(3.25時間)で、ヒートショックを行った。ヒートショックの間、発酵容器の温度を37℃から50℃に上げ、その後すぐに37℃に下げた。加熱と冷却のサイクルは1サイクルで0.5時間を要した。培養液のODは、ヒートショックからおよそ3.5時間後に最大値(およそ6.4)に到達した。ヒートショックから6時間後に、アルギナーゼを分離及び精製するために細胞を回収した。ヒートショックから6時間後の発酵培地においておよそ30mg/Lの活性ヒトアルギナーゼを上記株が産生した。発酵のタイムコースは図4Aでプロットされている。温度、撹拌速度、pH及び溶存酸素値等のパラメーターの変化を示すこのバッチの時間変化プロットは図5Aで示す。[実施例2B] 2リットルの発酵容器でのフェドバッチ発酵 37℃、pH7.0、溶存酸素20%飽和度にてフェドバッチ発酵を行った。実施例2Aで説明したバッチ発酵と同様の方法で植菌を行った。まず、増殖培地は実施例2Aで説明したバッチ発酵の場合と全く同じであった。栄養源供給培地には、200g/L グルコース、2.5g/L MgSO4・7H2O、50g/L トリプトン、7.5g/L K2HPO4、及び3.75g/L KH2P04が含有されていた。pH−スタット制御方式で培地供給を調節した。この方式において、グルコース減少により起こるpH上昇を補正するように培地供給を調整した。発酵時間4.5時間でグルコース濃度が非常に低いレベルまで減少した際、この制御方式を最初に実行した。pH>7.1になった際に、4mLの栄養源供給培地を発酵容器に添加した。グルコース添加後すぐに、pH値は速やかに7.1以下に低下する。およそ10分後、添加したグルコースが完全に細菌細胞に消化された時にpH値が7.1以上に上昇するが、この時にさらに4mLの栄養源供給培地を発酵容器に添加する。培養密度(OD600nm)が12.0−13.0になった時点(5−6時間)で、ヒートショックを行った。ヒートショックの間、発酵容器の温度を37℃から50℃に上げ、その後すぐに37℃に下げた。加熱と冷却のサイクルは1サイクルで0.5時間であった。ヒートショックから3時間及び6時間後に、アルギナーゼを分離及び精製するために細胞を回収した。ヒートショックから6時間後の発酵培地において、少なくともおよそ162mg/Lの活性ヒトアルギナーゼを上記株が産生した。発酵のタイムコースは図4Bでプロットしている。温度、撹拌速度、pH及び溶存酸素値等のパラメーターの変化を示すこのフェドバッチ発酵の時間変化プロットは図5Bで示す。[実施例2C] 100−リットルの発酵容器におけるフェドバッチ発酵 フェドバッチ発酵を100Lの発酵容器にスケールアップした。37℃、pH7.0、溶存酸素20%飽和度にて発酵を行った。10%の接種材料を用いた。まず、増殖培地は実施例2Aで説明したバッチ発酵の場合と全く同じであった。栄養源供給培地には、300g/L グルコース、3.75g/L MgSO4・7H2O、75g/L トリプトン、11.25g/L K2HPO4、及び5.625g/L KH2P04が含有されていた。実施例2Bで説明したフェドバッチ発酵で用いた方法と同様のpH−スタット制御方式で培地供給を調節した。培養密度(OD600nm)が11.5−12.5になった時点(およそ7.5時間)で、ヒートショックを行った。ヒートショックの間、発酵容器の温度を37℃から50℃に上げ、7秒間50℃のまま維持し、すぐに37℃まで冷却した。加熱と冷却のサイクルは1サイクルで0.5時間であった。ヒートショックから2時間及び4時間後に、アルギナーゼを分離及び精製するために細胞を回収した。ヒートショックから2時間及び4時間後の発酵培地中でそれぞれ、少なくともおよそ74mg及び124mg/Lの活性ヒトアルギナーゼを上記株が産生した。これらのデータから、100−Lの発酵容器においては、ヒートショックから4時間後に回収した細胞の方がヒートショックから2時間後に回収した細胞よりもアルギナーゼ産生量が多いことが示される。[実施例3] バッチ発酵とフェドバッチ発酵との比較 下の表1は、バッチ及びフェドバッチ発酵の結果を比較したものである。この比較から、培養液OD、アルギナーゼ収率および産生能の点で、フェドバッチ発酵の方が顕著に優れていることが明らかである。[実施例4] フェドバッチ発酵後の低細胞密度におけるヒートショックから3時間後に回収したアルギナーゼの精製 実施例2Bで説明したようにして、2−Lの発酵容器におけるフェドバッチ発酵を行った。フェドバッチ培養の細胞密度を30分又は60分間隔でモニターして、発酵開始から5.5時間後(培養液のODが12.8に到達した時)に培養温度を50℃に上げた(図4B及び図5B参照)。 ヒートショックから3時間後に回収した細胞培養液(470ml)を、5,000rpmで20分間、4℃にて遠心し、細胞を沈殿させた。細胞の湿重量は15.1gであった。培養上清液を捨て、細胞沈殿物を−80℃で保存した。この細胞はこの温度で数日安定である。細胞内タンパク質を抽出するために、140mlの可溶化バッファー[50mM Tris−HCl(pH 7.4)、0.1M NaCl、5mM MnSO4、ライソザイム(75μg/ml)]で細胞沈殿物を再懸濁した。30℃にて15分間インキュベーションを行った後、Soniprep 150 Apparatus(MSE)を用いて、各回持続時間10秒、2分間隔で、混合液に対して8回(合計時間は80秒)、超音波破砕を行った。およそ500ユニットのデオキシリボヌクレアーゼI(Sigma D4527)を添加し、混合液を37℃にて10分間インキュベーションして染色体DNAを消化した。4℃にて10,000rpm、20分間遠心を行った後、未精製タンパク質抽出物を含有する上清におけるアルギナーゼ活性の有無を調べ、SDS−PAGE(Laemmli, 1970, Nature, 227, 680-685)で分析した。 5mlのHiTrapキレートカラム(Pharmacia)を、5カラム体積分の0.1M NiCl2(dH2Oに溶解)で平衡化した。未精製タンパク質抽出液(140 ml)をカラムに添加した。次の条件下で、流速5ml/分で15カラム体積分を流し、直線的な勾配(0−100%)により溶出を行った。条件は、バッファーA=開始バッファー[0.02M リン酸ナトリウムバッファー(pH 7.4)、0.5M NACl]、バッファーB=0.5M イミダゾール含有開始バッファーであった。溶出プロファイルを図6Aに、タンパク質ゲルを図6Bに示す。分画13−20を集め(16ml)、開始バッファー[0.02M リン酸ナトリウムバッファー(pH 7.4)、0.5M NACl]で10倍に希釈した。この試料を第2の5mlのHiTrapキレートカラム(Pharmacia)に添加し、上記手順を繰り返した。溶出プロファイルを図7Aに、タンパク質ゲルを図7Bに示す。アルギナーゼを含有する、分画12−30を集め(38ml)、50mlのHiPrep 26/10脱塩カラム(Pharmacia)を用いて、次の条件下で脱塩した。条件とは、流速=10ml/分、バッファー=10mM Tris−HCl(pH 7.4)、及び、溶出に用いるバッファー量=1.5カラム体積であった。ブラッドフォード法(Bradford,M.M.,1976,Anal.Biochem.,72,248−254)でタンパク質濃度を測定した。470mlの細胞培養液から合計56.32mgのアルギナーゼを精製した。精製アルギナーゼの収率は、119.8mg/l(細胞培養)、又は3.73mg/g(細胞湿重量)と推定された。[実施例5] フェドバッチ発酵後の低細胞密度におけるヒートショックから6時間後に回収したアルギナーゼの精製 2Lの発酵容器によるフェドバッチ発酵は、実施例4で説明したようにして行った。ヒートショックから6時間後(OD12.8)に回収した細胞培養液(650ml)を、5,000rpmで20分間、4℃にて遠心し、細胞を沈殿させた。細胞の湿重量は24gであった。培養上清液を捨て、細胞沈殿物を−80℃で保存した。この細胞はこの温度で数日安定である。細胞内タンパク質を抽出するために、140mlの可溶化バッファー[50mM Tris−HCl(pH 7.4)、0.1M NaCl、5mM MnSO4、ライソザイム(75μg/ml)]で細胞沈殿物を再懸濁した。30℃にて15分間インキュベーションを行った後、Soniprep 150 Apparatus(MSE)を用いて、各回持続時間10秒、2分間隔で、混合液に対して8回(合計時間は80秒)、超音波破砕を行った。およそ500ユニットのデオキシリボヌクレアーゼI(Sigma D4527)を添加し、混合液を37℃にて10分間インキュベーションして染色体DNAを消化した。4℃にて10,000rpm、20分間遠心を行った後、未精製タンパク質抽出物を含有する上清におけるアルギナーゼ活性の有無を調べ、SDS-PAGE(Laemmli, 1970, Nature, 227, 680-685)で分析した。 5mlのHiTrap キレートカラム(Pharmacia)を、5カラム体積分の0.1M NiCl2(dH2Oに溶解)で平衡化した。未精製タンパク質抽出液(140 ml)をカラムに添加した。次の条件下で、流速5ml/分で15カラム体積分を流し、直線的な勾配(0−100%)により溶出を行った。条件は、バッファーA=開始バッファー[0.02 M リン酸ナトリウムバッファー(pH 7.4)、0.5M NACl]、バッファーB=0.5M イミダゾール含有開始バッファーであった。溶出プロファイルを図8Aに、タンパク質ゲルを図8Bに示す。分画13−24を集め(24ml)、開始バッファー[0.02M リン酸ナトリウムバッファー(pH 7.4)、0.5M NACl]で10倍に希釈した。この試料を第2の5mlのHiTrapキレートカラム(Pharmacia)に添加し、上記手順を繰り返した。溶出プロファイルを図9Aに、タンパク質ゲルを図9Bに示す。アルギナーゼを含有する分画12−24を集め(26ml)、50mlのHiPrep 26/10脱塩カラム(Pharmacia)を用いて、次の条件下で脱塩した。条件とは、流速=10ml/分、バッファー=10mM Tris−HCl(pH 7.4)、及び溶出に用いるバッファー量=1.5カラム体積であった。ブラッドフォード法(Bradford, M. M., 1976, Anal. Biochem., 72, 248-254)でタンパク質濃度を測定した。650mlの細胞培養液から合計85.73mgのアルギナーゼを精製した。精製アルギナーゼの収率は、132mg/l(細胞培養)、又は3.57mg/g(細胞湿重量)と推定された。[実施例6] フェドバッチ 発酵後の高細胞密度におけるヒートショックから6時間後に回収したアルギナーゼの精製 この特別なフェドバッチ発酵は、8時間の時点(培養密度(OD600nm)がおよそ25)でヒートショックを行うことを除き、上記の実施例と同様の手順で行った。ヒートショックの間、発酵容器の温度を37℃から50℃に上げ、その後すぐに37℃に下げた。加熱と冷却のサイクルは1サイクルで0.5時間であった。ヒートショックから6時間後に、アルギナーゼを分離及び精製するために細胞培養液の一部(760ml)を回収した。この発酵での細菌細胞増殖のタイムコースは図10でプロットしている。温度、撹拌速度、pH及び溶存酸素値等のパラメーターの変化を示すこのフェドバッチ発酵の時間変化プロットは図11で示す。 ヒートショックから6時間後に回収した細胞培養液(760ml)を5,000rpmで20分間、4℃にて遠心し、細胞を沈殿させた。細胞の湿重量は32gであった。培養上清液を捨て、細胞沈殿物を−80℃で保存した。この細胞はこの温度で数日安定である。細胞内タンパク質を抽出するために、280mlの可溶化バッファー[50mM Tris−HCl(pH 7.4)、0.1M NaCl、5mM MnSO4、ライソザイム(75μg/ml)]で細胞沈殿物を再懸濁した。30℃にて15分間インキュベーションを行った後、Soniprep 150 Apparatus(MSE)を用いて、各回持続時間10秒、2分間隔で、混合液に対して8回(合計時間は80秒)、超音波破砕を行った。およそ500ユニットのデオキシリボヌクレアーゼI(Sigma D4527)を添加し、混合液を37℃にて10分間インキュベーションして染色体DNAを消化した。4℃にて10,000rpm、20分間遠心を行った後、未精製タンパク質抽出物を含有する上清におけるアルギナーゼ活性の有無を調べ、SDS-PAGE(Laemmli, 1970, Nature, 227, 680-685)で分析した。 5mlのHiTrap キレートカラム(Pharmacia)を、5カラム体積分の0.1M NiCl2(dH2Oに溶解)で平衡化した。未精製タンパク質抽出液(280ml)をカラムに添加した。次の条件下で、流速5ml/分で15カラム体積分を流し、直線的な勾配(0−100%)により溶出を行った。条件は、バッファーA=開始バッファー[0.02M リン酸ナトリウムバッファー(pH 7.4)、0.5M NACl]、バッファーB=0.5M イミダゾール含有開始バッファーであった。溶出プロファイルを図12Aに、タンパク質ゲルを図12Bに示す。分画17−31を集め(30ml)、開始バッファー[0.02M リン酸ナトリウムバッファー(pH 7.4)、0.5M NACl]で10倍に希釈した。この試料を第2の5mlのHiTrapキレートカラム(Pharmacia)に添加し、上記手順を繰り返した。溶出プロファイルを図13Aに、タンパク質ゲルを図13Bに示す。アルギナーゼを含有する分画10−20を集め(22ml)、50mlのHiPrep 26/10脱塩カラム(Pharmacia)を用いて、次の条件下で脱塩した。条件とは、流速=10ml/分、バッファー=10mM Tris−HCl(pH 7.4)、及び溶出に用いるバッファー量=1.5カラム体積であった。次に、その試料を1mlのHiTrap SP FFカラム(Pharmacia)に添加した。次の条件で溶出を行った。条件とは、流速=1ml/分、バッファー=10mM Tris−HCl(pH 7.4)、バッファーB=1M NAClを含有する10mM Tris−HCl(pH 7.4)、直線的勾配(0−100%)、溶出に用いるバッファー量=30カラム体積であった。溶出プロファイルを図14Aに、タンパク質ゲルを図14Bに示す。分画A12−B7を集め(7ml)、開始バッファー[0.02M リン酸ナトリウムバッファー(pH 7.4)、0.5M NACl]で10倍に希釈した。この試料を第2の1mlのHiTrap SP FFカラム(Pharmacia)に添加し、溶出を段階的勾配により行ったこと以外は上記手順を繰り返した。溶出プロファイルを図15Aに、タンパク質ゲルを図15Bに示す。分画A7−B12を集め(7ml)、上記で用いた50mlのHiPrep 26/10脱塩カラム(Pharmacia)を用いて脱塩した。ブラッドフォード法(Bradford, M. M., 1976, Anal. Biochem., 72, 248-254)でタンパク質濃度を測定した。760mlの細胞培養液から合計41.61mgのアルギナーゼを精製した。精製アルギナーゼの収率は、55.5mg/l(細胞培養)、又は1.3mg/g(細胞湿重量)と推定された。[実施例7] 様々な回収及び精製条件によるアルギナーゼ収率の比較 下の表2で、様々な回収及び精製条件下で産生されたアルギナーゼの収率を比較する。これらのデータは、12.8という低い細胞密度におけるヒートショックから6時間後に回収する条件の場合、精製後、132mg/Lという高いアルギナーゼ回収率が得られることを示す。[実施例8A] 塩化シアヌル(CC)で活性化したメトキシポリエチレングリコールを用いたPEG処理酵素の調製 50mgのアルギナーゼを20mlのPBSバッファー溶液(pH7.4)で溶解して、最終濃度を2.5mg/mlとした。60℃で10分間、アルギナーゼの熱活性化を行った。活性化後、酵素の温度を室温に戻した。塩化シアヌルで活性化した1gのメトキシポリエチレングリコール(mPEG−CC)(MW=5000、Sigma)を、モル比が1:140(アルギナーゼ:PEG)になるように、アルギナーゼに添加した。マグネチック撹拌棒を使用して、全てのポリエチレングリコール(PEG)が溶解するまで混合液を撹拌した。 全てのPEGが溶解したら、PEG−アルギナーゼ混合液のpHを0.1N NaOHで9.0に調整し、さらにNaOHを添加してその後30分間、9.0に維持した。1NのHClを添加してpHを7.2に戻るように調整し、PEG処理を停止させた。 Hemoflow F40S キャピラリーダイアライザー(Fresenius Medical Car, Germany)を用いて、2−3LのPBSバッファー溶液に対して、PEG処理アルギナーゼを4℃、pH7.4にて透析して過剰なPEGを除去した。透析後、PEG処理アルギナーゼを回収し、最終濃度を再調整した。 PEG処理アルギナーゼを0.2μmのフィルターを用いてろ過して滅菌容器に移し、4℃にて保存した。ヒト患者におけるこの酵素の半減期を測定したところ、およそ6時間であった(図21参照)。[実施例8B] 低PEG比でCC又はSPAのいずれかを使用する条件下での、B.SUBTILIS発現アルギナーゼの精製 PEG処理は、最初にDavis,Abuchowski及び共同研究者(Davis, F. F. ら、1978, Enzyme Eng. 4, 169-173)により1970年代に開発された。薬物剤形の修飾と比べ、治療用タンパク質に対するポリ(エチレングリコール)PEG部分の化学的付加(「PEG」処理として知られている過程)は、重要な薬効を強化しうる新しいアプローチと言える(Harris, J. M. ら、2001, Clin. pharmacokinet. 40, 539-551)。 1979年に、Savocaらは、2,4,6−トリクロロ−s−トリアジン(塩化シアヌル)を架橋剤として用いて、5,000ダルトンのメトキシポリエチレングリコール(mPEG)を共有結合でウシ肝臓アルギナーゼに結合させた(Savoca, K. Vら、1979, Biochimica et Biophysica Acta 578, 47-53)。結合物(PEG−アルギナーゼ)は、元の酵素活性の65%に相当する活性しか示さなかった。マウスにおけるPEG−アルギナーゼの血液循環寿命がウシアルギナーゼの寿命より延長されたと、彼らは報告した。注入したウシアルギナーゼの半減期は1時間に満たないが、一方PEG−酵素の半減期は12時間であった。これらのデータからまた、PEGで修飾されたウシアルギナーゼが、マウスで試験を行った際に免疫原性及び抗原性の両方を示さなかったことも示された。 組換えヒトアルギナーゼ(1.068mg)を125mMのホウ酸バッファー溶液(pH8.3)に、氷中又は室温で溶解した。活性化mPEG、mPEGプロピオン酸スクシンイミド(mPEG−SPA、MW 5,000、Shearwater Corporation)又は塩化シアヌルで活性化したmPEG(mPEG−CC、MW 5,000、Sigma)、を、アルギナーゼ:PEGのモル比が1:50又は1:20になるように上記溶液に添加した。2段階でこの操作を行った。第一段階では、半量のPEGをアルギナーゼ溶液に少量ずつ添加して氷中で穏やかに30分間混合し、推奨されるpH範囲である8.0−8.5から外れないようにした。この溶液に残り半分のPEGを添加して、0.5−23時間、穏やかにさらに混合した。次に、分画分子量が10,000以下である透析膜を用いて、最低3回dH2Oを交換し、4℃にてこの混合液を透析した。PEG−SPA及びMPEG−CC両方が、修飾部位としてリジンのアミノ基及びタンパク質のN−末端を使用する。 氷中又は室温にてmPEG−SPA(MW 5,000)を用いて、アルギナーゼ:PEGのモル比が1:50になるようにしてアルギナーゼを修飾した際、反応1時間後には殆どの酵素分子が修飾された(図16)。反応23時間後でも試料の状態は同様であった。アルギナーゼ分子を様々な数のPEG分子と結合させて、様々な分子量の分子を生成させた。予想したように、1:20のように低いモル比でPEG反応を行うと、PEG修飾されないアルギナーゼの割合が高くなった(図17)。しかし、どちらのアルギナーゼ:PEGのモル比の場合も、反応時間を延長し、氷中ではなく室温で反応を行っても、PEG処理の進行具合に影響が見られなかった。mPEG−SPA(MW 5,000)を用いて1:50のモル比で1時間反応を行った場合、アルギナーゼは元の酵素活性の72−76%を保持した(下の表3参照)が、それはウシアルギナーゼに対して報告された値(65%、Savoca, K. V. ら、1979、Biochimica et Biophysica Acta 578, 47-53)より高かった。 アルギナーゼ:PEGのモル比が1:50になるようにして、mPEG−CC(MW 5000)を用いてアルギナーゼを氷中で修飾すると、反応は極めてゆっくりと進行し、PEG処理が完了するまでに23時間を要した(図18A)。さらに、殆どの酵素分子が非常に高分子量の狭い範囲の分子量に変換された。図18Aで示すように、1:20といったより低いモル比で反応を行うと、反応の進行が著しく遅くなった。[実施例8C] 高活性PEG処理アルギナーゼの精製 15LのB.Braun Biostat C のステンレス製発酵容器におけるフェドバッチ発酵を実施例4で記述したようにして行った。OD12−13で行ったヒートショックから4.5時間後に回収した細胞培養液(8.4L)を5,000rpmで20分間、4℃にて遠心して細胞を沈殿させた。培養上清液を捨て、細胞沈殿物を−80℃で保存した。この細胞はこの温度で数日安定である。細胞内タンパク質を抽出するために、1250mlの可溶化バッファー[50mM Tris−HCl(pH 7.4)、0.1M NaCl、5mM MnSO4、ライソザイム(75μg/ml)]で細胞沈殿物を再懸濁した。30℃にて20分間インキュベーションを行った後、その混合液をビーカーに300mlずつ分け、各ビーカーの混合液をSoniprep 150 Apparatus(MSE)を用いて、各回持続時間10秒、2分間隔で12回(合計時間は120秒)、超音波破砕を行った。およそ5000ユニットのデオキシリボヌクレアーゼI(Sigma D4527)を添加し、混合液を37℃にて15分間インキュベーションして染色体DNAを消化した。4℃にて9,000rpm、30分間ずつ2回遠心を行った後、未精製タンパク質抽出物を含有する上清におけるアルギナーゼ活性の有無を調べ、SDS-PAGE(Laemmli, 1970, Nature, 227, 680-685)で分析した。 未精製タンパク質抽出液(1195ml)をろ過し、597.5mlずつ2つに分注した。次に、各分注液を130−mlのNi-NTA superflow(Qiagen)カラム(Pharmacia)に添加した。次の条件下で、流速5ml/分にて直線的な勾配(0−100%)により溶出を行った。条件は、バッファーA=開始バッファー[0.02M リン酸ナトリウムバッファー(pH 7.4)、0.5M NACl]、バッファーB=0.5M イミダゾール含有開始バッファーであった。純粋なアルギナーゼを含有する分画を集め、Pellicon XL装置(ポリエーテル−スルホン膜、分画分子量=8kDa)及び実験室スケールのクロスフローろ過システム(Millipore)を用いて、PBSバッファー、pH7.4により、35ml/分の速度で4℃にてバッファー交換を行った。ブラッドフォード法(Bradford,M.M.,1976,Anal.Biochem.,72,248−254)でタンパク質濃度を測定した。8.4Lの細胞培養液から合計788mgのアルギナーゼを精製した。精製アルギナーゼの収率は、94mg/l(細胞培養液)と推定された。特異的活性の測定値は、518I.U./mgであった。 高い特異的活性を有するPEG処理アルギナーゼをPBSバッファーで調製した。PEG処理を行う前に精製アルギナーゼ(特異的活性=518I.U./mg)をPBSで調製した。mPEG−SPA、MW 5,000(5.82 g)を、1Lビーカーに入った555mlの精製アルギナーゼ(813.64mg、1.466mg/ml)溶液にゆっくりと添加し、その後2時間40分、室温で撹拌した(アルギナーゼ:PEG−SPAモル比=1:50)。次に、F50(S)キャピラリーダイアライザー(Fresenius Medical Care)を用いて、15LのPBSバッファーに対するultra-dialysisにより混合物を十分に透析して、導入されなかったPEGを全て除去した。PEG−SPAは、リジンのアミノ基及びタンパク質のN−末端を修飾部位として使用する。PEG処理アルギナーゼの特異的活性の測定値は、592I.U./mgに及んだ。非PEG処理アルギナーゼ及びPEG処理アルギナーゼのSDS−PAGE分析の結果を図18Bに示す。PBSバッファー中で、1mg/mlの濃度で保存した場合、アルギナーゼ活性及びタンパク質濃度の点から見て、PEG処理アルギナーゼは、室温にて少なくとも3週間、高い安定性を示した。PBSバッファー中で、1mg/mlの濃度で4℃にて保存した場合、特異的活性が低下することなく最低6ヶ月は安定である。[実施例9A] 実施例8Aで得たアルギナーゼのin vivoにおける半減期測定 PEG処理アルギナーゼを患者に投与した。3mlの血液試料を患者から毎日採取してEDTAを添加した。血液採取用試験管は水を加えシャーベット状にした氷中で前もって4℃に冷却しex−vivoでの酵素反応が起こらないようにした。次に、14000rpmで2分間、血液をすぐにスピンダウンして赤血球を除去した。1.5mlの上清(血漿)をピペットで取り新しいエッペンドルフチューブに移した。次に、血漿を37℃にて30分間インキュベーションした。インキュベーション後、基質として100μMの濃度でアルギニンを添加した。37℃にて、0、10、30、60分間、酵素反応を行った。各時間間隔において、反応試料を300μlずつ採取して、300μlの10%トリクロロ酢酸を含有する新しいエッペンドルフチューブに移し、その採取試料の反応を停止させた。試料を採取し最大速度(14000rpm)で10分間遠心した。上清をピペットで採取し0.45μmフィルターでろ過した。最後に、アミノ酸分析装置(Hitachi、L8800)で様々な時間間隔で採取した試料を分析した。その結果を図21に示す。 実施例8Aで説明したようにして実験2回分のPEG処理アルギナーゼを調製した。第1のPEG処理アルギナーゼを、アルギナーゼ:PEGのモル比が1:140になるようにして調製した。第2のPEG処理アルギナーゼを、アルギナーゼ:PEGのモル比が1:70になるようにして調製した。この2回分の試料調製で用いたPEG処理方法及び条件は同じものである(実施例8A参照)。 時間0において、50mgの第1のPEG処理アルギナーゼ試料を投与した。12時間後に、さらに50mgの第1のPEG処理アルギナーゼ試料を投与した。24時間後に、さらに50mgの第1のPEG処理アルギナーゼ試料の第3回目の投与を行った。 26時間から72時間後まで、断続投与(50mg/回)ではなく、第1のPEG処理アルギナーゼ試料を継続投与した(100mg/日)。72時間から144時間まで、第2のPEG処理アルギナーゼ試料を100mg/日で継続投与した。144時間後に継続投与を停止し、この時点から半減期測定を開始した。半減期測定の結果を図22に示す。図22における時間0は、図21の144時間に相当する。 この結果から、アルギナーゼ活性の半減期が2つのフェーズに分かれうることが示唆された。PEG処理酵素の第1の半減期はおよそ6時間である。つまり相対的活性が100%から50%に減少するまでにおよそ6時間を要した(図22参照)。しかし、第2の半減期はおよそ21日間であった。つまり相対的活性が50%から25%に減少するまでにおよそ21日間を要した。このように半減期が2段階になっているのは、PEG処理においてより多量のmPEG−CCを使用したことや特別な投与プロトコールを使用したことをはじめとした多くの要因によるものであると考えられる。[実施例9B] ヒト血漿での測定方法を用いた、in vitroにおけるPEG処理アルギナーゼの半減期測定 精製アルギナーゼ(1mg)を1mlの125mMのホウ酸バッファー溶液(pH8.3)に氷中で溶解した。活性化PEG(mPEG−SPA、MW 5,000)(7.14mg)を、アルギナーゼ:PEGのモル比が1:50になるように上記タンパク質溶液にゆっくりと添加した。実施例8Bで説明した方法に従いこの混合液を氷中で2.5時間撹拌した。 濃度が1mg/mlのPEG処理アルギナーゼ(305.6U.L)をヒト血漿(1ml)に添加した。PEG処理アルギナーゼの最終濃度が0.24mg/mlになるようにした。この混合液を20本のエッペンドルフチューブに等量ずつ分注し(各エッペンドルフチューブに混合液65μl)、次に、37℃にてインキュベーションを行った。各エッペンドルフチューブから混合液を1−2μlずつ採取してアルギナーゼ活性測定に使用した。その結果を図20に示す。測定の結果、半減期はおよそ3日であった。つまり相対的活性が100%から50%に減少するまでにおよそ3日を要した(図22参照)。これは、図20の反応曲線を用いて算出されている。[実施例10] B.SUBTILIS発現ヒトアルギナーゼ及びPEG処理、単離及び精製組換えヒトアルギナーゼの特性 (a)SDS−PEGE及び発光イメージングによるアルギナーゼ純度の測定 Ikemotoら(Ikemotoら、1990, Biochem. J. 270, 697-703)が記述した方法により得た精製E.coli−発現アルギナーゼと、本発明による方法により得た精製B. subtilis−発現アルギナーゼとを比較した(図19A及び19B)。Lumi−imager(登録商標)のLumianalyst 32プログラム(Roche Molecular Biochemicals)を用いた、図19Aで示す全タンパク質バンドの密度分析から、本発明で開発した工程により純度が99.9%を超えるアルギナーゼが産生されたことが示された(図19B)。しかし、純度が80−100%の間のアルギナーゼでも、薬学的組成物を調製するために活性成分として使用しうる。好ましい実施形態において、純度80−100%の組換えアルギナーゼを使用する。さらに好ましい実施形態では、SDS−PAGE及びその後にルミイメージングを用いた測定で、本発明による組換えアルギナーゼの純度が90−100%である。 (b)共役反応による特異的活性の測定 ウレアーゼ、L−グルタミン酸デヒドロゲナーゼ及びNADPHを使用するシステム(Ozer, N., 1985, Biochem. Med. 33, 367-371)において、L−アルギニンからの尿素放出度をモニターした。まとめて反応用混合液を調製するために、0.605g Tris、0.0731g α−ケトグルタル酸、及び0.4355gのアルギニンを40mlのdH2Oに溶解した。1MのHClでpHを8.5に調整し、0.067gのウレアーゼを上記混合溶液に添加した。0.0335gのグルタミン酸デヒドロゲナーゼ及び0.0125gのNADPHを添加する前に、HClでpHをさらに8.3に調整した。dH2Oにより最終体積を50mlにして、反応用混合液を調製した。この反応用混合液(1ml)をピペットで石英キュベットに移した。アルギナーゼ活性を測定するために、1−5μgのアルギナーゼを添加し、340nm(A340)での吸収減少を、30℃にて1−3分間追跡した。アルギナーゼの1I.U.は、ある一定の条件下で1分間に1μmolの尿素を放出する酵素量として定義した。本発明の精製組換えヒトアルギナーゼ特異的活性を測定したところ、518I.U./mgタンパク質であったが、これは精製ヒト赤血球アルギナーゼ(204 I.U./mgタンパク質、Ikemotoら、1989, Ann. Clin. Biochem. 26, 547-553)及びE.coli−発現単離精製組換えヒトアルギナーゼ(389I.U./mgタンパク質、Ikemotoら、1990,Biochem.J.270,697−703)よりも顕著に高かった。 mPEG−SPA(MW 5,000)を用いた、1:50のモル比での2時間40分の反応で、PEG処理アルギナーゼは元の酵素活性(実施例8C参照)の114%の活性を持つようになった。これは即ち、このPEG処理ヒトアルギナーゼの特異的活性が592I.U./mgであったということである。 mPEG−CC(MW 5,000)を用いた場合、PEG処理アルギナーゼは元の酵素活性の64−68%の活性となった(表3)が、これはPEG処理ウシアルギナーゼと同程度である(Savoca, K. V. ら、1979、Biochimica et Biophysica Acta 578, 47-53)。 (c)エレクトロスプレーLC/MSによる非処理アルギナーゼの構造特性分析 図2Bで示すアミノ酸配列によると、B. subtilis−発現及び精製組換えヒトアルギナーゼには、329アミノ酸残基が含有され、分子量の理論値は35,647.7Daである。非処理アルギナーゼに対するHPLC/UV及びマススペクトル分析の同時測定により、分子量が35,634Daであることが分かった。非処理アルギナーゼの分子量の実測値は、6xHisタグ付加ヒトアルギナーゼの推定アミノ酸配列(図2B)から計算した理論値である35,647.7Daとほぼ一致した。LC/MSを基にしたHPLC/UVから純度が98%であることが、また215nmの相対反応におけるHPLC/UV検出を基にしたLC/MSからは純度が100%であることが分かった。 (d)ゲルろ過クロマトグラフィーによる非処理アルギナーゼ及びPEG処理アルギナーゼの構造特性決定 HiLoad16/60 superdexゲルろ過カラム(Pharmacia)を用いて、タンパク質濃度およそ2.8mg/ml(PBSバッファー中)にてゲルろ過クロマトグラフィーによる実験を行ったところ、非処理アルギナーゼの分子量がおよそ78kDaであり、PEG処理アルギナーゼ(実施例8Cで調製)の分子量がおよそ688kDaであることが分かった。モノマーのアルギナーゼ分子量がおよそ36kDaであることから、この結果により、PBSバッファー中で非処理アルギナーゼが二量体として存在することが示唆された。 (e)二次構造 JASCO model J810 CD スペクトロメーターを用いた円偏光二色性(CD)測定により、精製アルギナーゼの二次構造を分析した。10mM リン酸カリウムバッファー(pH7.4)中で同じタンパク質濃度において195nmから240nmまでスキャンしたところ、非処理アルギナーゼのCDスペクトルは、PEG処理アルギナーゼ(実施例8Cで調製)と非常に近い値であることが分かったが、この結果からアルギナーゼの処理前の形態及びPEG処理後の形態が二次構造の面でほぼ同じであるということが示された。 (F)pIの測定 Bio-Rad Model 111 mini IEF cellを用いた測定により、非処理アルギナーゼ(実施例8Cで調製)の等電点(PL)が9.0であることが分かったが、これは文献(Christopher及びWayne、1996, Comp. Biochem. Physiol. 114B, 107-132)における、9.1という値と矛盾しない。 (g)機能特性及び速度論的性質の決定 Ikemotoら(1990, Biochem. J. 270, 697-703)が報告したアルギナーゼ活性測定方法を用いて、非処理アルギナーゼのKm値が1.9±0.7mM、Vmaxが518μmol尿素/分/mM、kcatが2.0±0.5/秒、及びkcat /Kmが1.3±0.4/mM/秒であることが分かった。精製した非処理アルギナーゼのKm値 は、ヒト肝臓アルギナーゼに対して論文で発表されている値(2.6mM)(Carvajal, N. ら、1999)と同等であることが分かった。また、非処理アルギナーゼが最大活性に到達するためにはおよそ1mMのMn2+イオン及び30−50℃の温度が必要である。 PEG処理アルギナーゼのKm値は、2.9±0.3mM、及びVmaxが360μmol尿素/分/mMであることが分かった。PEG処理アルギナーゼのKm値 は、非処理アルギナーゼの値とほぼ同等であり、この結果からアルギニンに対する結合アフィニティーがPEG処理後も保持されていることが示唆された。また、PEG処理アルギナーゼが最大活性に到達するためにはおよそ1mMのMn2+イオン、40−50℃の温度及びpH10という条件が必要である。 PEG処理前後のアルギナーゼの機能特性は同等であり、この結果からPEG−SPA分子がアルギナーゼに共有結合することで全体として性能が向上することが示される。[実施例11] 体外からのアルギナーゼ投与を用いた治療プロトコール 治療中、患者の血液試料を毎日採取して、アルギニン濃度、アルギナーゼ活性、完全血液像、及び全ての凝固機能検査を行った。少なくとも隔日で腎臓及び肝臓機能を測定し、必要とみなされる場合はすぐに検査した。 アルギナーゼ注入を開始してから1時間の間、バイタルサイン(BP、脈拍、呼吸数、酸素濃度計の記録)を15分間隔でチェックし、安定するまで1時間ごとにチェックした。その後は治療担当医師の裁量に委ねた。 新しいアルギナーゼを注入する度に、アルギナーゼ注入の20分前に、ジフェネラミン、10mg i.v.及びヒドロコルチゾン、100mg i.v.を前もって投薬するか、あるいは治療担当医師の裁量に委ねた。 第1日目に、30分間にわたりアルギナーゼを投与した。その後、アルギナーゼを毎週最低8週間にわたり投与した。抗−腫瘍活性が観察された場合は継続してもよい。[実施例12] 体外からのアルギナーゼ注入を行う治療プロトコールの例 広範囲の肺転移を伴う転移性直腸癌の患者で、全ての標準的治療が奏効しなかった54歳の中国人女性に対して、2001年8月初旬にPEG処理組換えアルギナーゼを用いた治療を行った。上記患者の主症状は、咳、食欲不振及び便秘であった。上記患者の腫瘍マーカーCEAは、1100U/mlであった。治療前に、PEG処理組換えアルギナーゼを用いた治療に関するインフォームドコンセントが得られた。 治療方法 850mgの凍結乾燥組換えアルギナーゼIを投与した。上記凍結乾燥品をPBSで溶解しPEG処理を行った。このPEG処理酵素の活性が減少していないことを確認した。 結果 結果を図28及び29に示す。図28では、5日間、1−5μMまでアルギニンが十分に減少していたことを示す(図21も参照のこと)。図29は、4週間後までに、CEAレベルが1100から800まで低下したことを示す。 1)化学療法とは異なり、この治療では、骨髄抑制作用又は脱毛は見られなかった。 2)調整のもと、アルギニンを減少させ、in vitroのデータから最適な腫瘍抑制効果を示すのに必要とされる期間である5日間、アルギニン濃度を治療に必要な範囲(1−8μM)に維持することができる。 3)大きな副作用はなく、本治療が直接原因ではないと考えられる軽い頭痛を訴える程度で、患者は治療に耐えた。 4)治療後、生化学及び放射線医学的検査において疾患状態の改善が観察され、また、CEAが30%低下し、胸部X線での上部の病巣が消失した。[実施例13] アルギナーゼを投与した実験用ラットにおけるin vivoでのアルギニン欠乏 この実施例において、4群のラット(各群2匹、オス1匹、メス1匹)に対して、第0日に、実施例8Cで得た様々な用量のアルギナーゼを投与した。第0日に組換えヒトアルギナーゼを腹腔内投与する前及び、第1日から第6日まで2日ごとに血液試料を尾部静脈から採取した。 図23で示すように、全群で検出不可能なレベルまでアルギニン濃度が低下したが、500I.U.を投与した場合はアルギニン欠乏が1日しか継続せず、効果は用量依存的であると思われた。1000I.U.(午前中に500I.U.を投与し、午後に残りの500I.U.を投与)では、4日間にわたり、完全なアルギニン低下が見られた。1回の投与量が1500I.U.である場合は、6日間にわたり、アルギニン低下が見られた。この用量を倍にして3000I.U.にしても、完全なアルギニン低下期間は延長されなかった。 従って、アルギニンが検出不可能なレベルまで低下し6日間継続するようなアルギニン欠乏状態を誘導するには、1500I.U.のPEG処理アルギナーゼを腹腔内投与するという条件が最適であると思われる。[実施例14] 正常ラットと、アルギナーゼによりアルギニン0の状態を誘導されたラットとの間の、第1日から第5日における血中の成分濃度変化の比較 アルギナーゼ投与前、第0日に、5匹のラット群から心臓の動脈血試料を採取した。第0日の試料を非処理コントロールとした。Pathlab Medical Laboratory Ltd, 2ND Floor Henan Building, 90-92 Jaffe Road, Wanchai, Hong Kongにより、全タンパク質、アルブミン、グロブリン、SGOT/AST、SGPT/ALT、ヘモグロビン、フィブリノーゲン A.P.T.T/秒、プロトロンビン/秒、白血球数(WBC)及び血小板数測定が行われた。次に、ラットに単回投与で1500I.U.のアルギナーゼを腹腔内投与した。全ラットにおいてアルギニン0の状態が誘導された。第1日から第5日まで、各日1匹ずつ屠殺して心臓の動脈血を採取し、PathLab Medical Laboratoryが測定を行った。この結果から、PathLab Medical Laboratoryにより言及されているように、全タンパク質が正常範囲であることが示された。[実施例15] Hep3B腫瘍を有するヌードマウスにおけるアルギニン欠乏に対する反応 6匹のBALB/cヌードマウスの右脇腹に、ヒトヘパトーマ(肝臓癌)細胞株(Hep3B2.1−7)を皮下に接種して、腫瘍の成長を誘導した。無作為に選択した3匹のマウスに対して、実施例8Cで説明した方法により得られた500I.U.のPEG処理アルギナーゼを週に1回、腹腔内投与し、一方で他のマウスにはアルギナーゼ処理を行わず、コントロール動物とした。2日に1回、in situで、移植を行ったマウスの固形腫瘍の成長をデジタルキャリパー測定により観察し、腫瘍サイズを算出した。 式:腫瘍サイズ(mm)=2本の垂直径及び1本の対角径の平均値 各群で死亡したマウス数も毎日記録した。 図24で示すように、実験開始後最初の20日間におけるコントロール群の1日あたりの腫瘍サイズ増大率は、PEG処理アルギナーゼで処理した群のおよそ6倍であった。コントロール群の2匹のマウスは24時間以内に死亡したが、PEG処理アルギナーゼで処置を行ったマウスは少なくとも75日間生存した。[実施例16] PLC/PRF/5腫瘍を有するヌードマウスにおけるアルギニン欠乏に対する反応 この実施例では、10匹のBALB/cヌードマウスの背中に、ヒトヘパトーマの固形腫瘍(PLC/PRF/5)を皮下移植して、腫瘍の成長を誘導した。無作為に選択した5匹のマウスに対して、実施例8Cで説明した方法により得られた500I.U.のPEG処理アルギナーゼを週に1回、腹腔内投与し、他の5匹のマウスには200μlのリン酸バッファー塩類溶液(PBS)を腹腔内投与してコントロール動物とした。2日に1回、in situで、移植を行ったマウスの固形腫瘍の成長をデジタルキャリパー測定により観察し、腫瘍サイズ及び質量を算出した。 腫瘍サイズは実施例15で説明したようにして測定し、重量は次の式により算出した。式:腫瘍質量(mg)= 長さx幅2/2(比重を1.0g/cm3と仮定)(ここで長さとは、最長の垂直径であり、幅とは最短の垂直径である。) 図25Aで示すように、実験開始から39日間におけるコントロール群の1日あたりの腫瘍サイズ増大速度は、コントロール群でおよそ6.5mm/日、PEG処理アルギナーゼで処理した群ではおよそ5.3mm/日であった。図25Bで示すように、コントロール群の1日あたりの腫瘍質量増加速度は、PEG処理アルギナーゼで処理した群のおよそ1.8倍の高値を示した。[実施例17] HuH−7腫瘍を有するヌードマウスにおけるアルギニン欠乏に対する反応 この実施例では、10匹のBALB/cヌードマウスの背中に、ヒトヘパトーマ固形腫瘍(HuH−7)を皮下移植して腫瘍の成長を誘導した。無作為に選択した5匹のマウスに対して、実施例8Cで説明した方法により得られた500I.U.のPEG処理アルギナーゼを週に1回、腹腔内投与し、他の5匹のマウスには200μlのリン酸バッファー塩類溶液(PBS)を腹腔内投与してコントロール動物とした。2日に1回、in situで、移植を行ったマウスの固形腫瘍の成長をデジタルキャリパー測定により観察し、実施例15及び16で説明したようにして腫瘍サイズ及び質量を算出した。 図26Aで示すように、実験開始から18日間で、1日あたりの腫瘍サイズ増大速度は、コントロール群でおよそ6.0mm/日、PEG処理アルギナーゼで処理した群ではおよそ5.6mm/日であった。図26Bで示すように、コントロール群において1日あたりの腫瘍質量増加速度は、PEG処理アルギナーゼで処理した群のおよそ1.4倍の高値を示した。[実施例18] MCF−7腫瘍を有するヌードマウスにおけるアルギニン欠乏に対する反応 本実施例では、4匹のBALB/cヌードマウスの右脇腹にヒト乳癌細胞株(MCF−7)を皮下接種して、腫瘍の成長を誘導した。無作為に選択した3匹のマウスに対して、実施例8Cで説明した方法により得られた500I.U.のPEG処理アルギナーゼを週に1回、腹腔内投与し、残りの1匹のマウスにはアルギナーゼ処理を行わず、コントロール動物とした。2日に1回、in situで、移植を行ったマウスの固形腫瘍の成長をデジタルキャリパー測定により観察し、実施例15で説明したようにして腫瘍サイズを算出した。 図27で示すように、PEG処理アルギナーゼで処理を行ったマウスに接種した腫瘍は実験開始から20日以内に消失した。 本明細書及び添付の特許請求の範囲において使用しているように、文脈において別段に明記されていない限り、単数形である「a」、「and」、及び「the」には、複数形の意味が含まれる。 従って、例えば、「a pharmaceutical preparation(1つの医薬品)」に言及した場合、様々な「preparations(複数の調製物)」の混合物が含まれ、「the method of treatment(1つの治療方法)」に言及した場合は、当業者その他にとって公知の同等な工程及び方法にも言及することとなる。 特に定義しない限り、本明細書中で使用する専門用語及び科学用語は、本発明が属する当業者によって広く理解されるものと同じ意味を有する。本明細書中で説明したものと類似又は同等のいかなる方法及び物質をも本発明の実施又は試験に使用しうるが、好ましい方法及び物質は本明細書に記述されているものである。本明細書中に言及した公表物は全て、一緒に参考を引用するために具体的な情報を記述し開示することを目的として本明細書中で参考文献として援用する。本発明は完全に記述されているものであり、本発明の範囲に属する変更は、当業者にとって自明であろう。このような変更は全て、本発明の範囲に属する。 本発明の薬学的組成物は、固形、溶液、乳剤、分散剤、ミセル、リポソーム等の形態の剤型で使用することができ、得られた処方中に、経口ないし非経口での適用に適切な無機ないし有機担体又は賦形剤と混合された状態で、本発明の実施における1つ又は複数の修飾ヒトアルギナーゼが活性成分として含有される。活性成分はアルギナーゼでありうるが、例えば、固形、半固形又は液体で、タブレット、ペレット、カプセル、坐剤、溶液、乳剤、懸濁液、及び医薬品製造での使用に適したその他の形態のための医薬的に許容可能な通常の無毒性担体を伴うアルギナーゼでありうる。さらに、補助剤、安定剤、増粘剤、着色剤、及び香料を使用しうる。目的とする過程、状態又は疾患に対して必要な効果を与えるのに十分な量の、1つ又は複数のアルギナーゼの活性成分が医薬処方に含まれる。 本明細書中で意図する活性成分を含有する医薬処方は、例えば、タブレット、トローチ、薬用ドロップ、水性ないし油性懸濁液、拡散性粉末又は顆粒、乳剤、硬カプセルないし軟カプセル、又はシロップないしエリキシル剤として、経口での使用に適した形態でありうる。医薬品の製造に関する分野で公知のあらゆる方法により、経口での使用を対象とした剤型を調製しうる。タブレットは、被覆されていないもの、又は、消化管における分解及び吸収を遅延させ、それによってより長時間にわたり活性を持続させるために公知の技術により被覆されているものでありうる。これらのタブレットを被覆して、放出を調節できる浸透性の治療用タブレットを形成してもよい。 ある場合には、経口用の処方が、例えば、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、カオリン等の不活性固形希釈剤と活性成分とを混合した硬ゼラチンカプセルの形態でありうる。経口用の処方が、水溶媒又は、例えばピーナツ油、液体パラフィン、又はオリーブオイル等の油性溶媒と活性成分とを混合した軟ゼラチンカプセルの形態でありうる。 薬学的製剤は、注射可能な滅菌溶液ないし懸濁液の形態でもありうる。適切な分散剤ないし加湿剤、及び懸濁化剤を使用する公知の方法により、この懸濁液を調製しうる。注射可能な滅菌製剤はまた、例えば、1,4−ブタンジオール溶液として、非経口で使用可能な無毒性希釈剤又は溶剤を用いた注射可能な滅菌溶液又は懸濁液でもありうる。従来、滅菌不揮発性油が溶剤又は懸濁化剤として用いられている。この目的のために、合成モノ−ないしジグリセリド、脂肪酸(オレイン酸を含む)、ゴマ油、ココナツ油、ピーナツ油、綿実油等の天然植物油、又はオレイン酸エチル等の合成脂肪性賦形剤等を含む、あらゆるブランドの不揮発性油を使用することができる。必要に応じて可溶性酵素を溶解するために溶質として、緩衝液、デキストロース溶液保存剤、抗酸化剤等を導入又は使用しうる。 本医薬処方はまた、他の化学療法剤と組み合わせた補助的な治療剤でありうる。 特許請求の範囲において、配列番号9で示した配列と実質的に同じアミノ酸配列を有するアルギナーゼとは、配列番号9で示した配列とその配列が少なくとも30%一致しているか、又は、本明細書中で説明したアルギナーゼ活性分析を用いて測定した場合に、配列番号9の酵素と、実質的に同様の酵素との間で、酵素活性に著しい違いがないことを意味する。精製を簡便にするために6個のヒスチジンが付加されており、そのアミノ末端に付加されたメチオニンにより翻訳が開始されることになる。他の形態の精製法もまた使用可能であり、従って「実質的に同様」のアルギナーゼが、配列番号3のMHHHHHH配列とホモロジーを有する必要がないことは当業者にとって明らかである。細菌株の中には、配列番号9と少なくとも40%のホモロジーを持つものがありうる。また、哺乳類アルギナーゼの中には、配列番号9と70%のホモロジーを持つものがありうる。 配列表SEQ ID NO: 1(図2A)SEQ ID NO: 2 & 3(図2B:核酸配列(SEQ ID NO: 2);及びアミノ酸配列(SEQ ID NO: 3))SEQ ID NO: 4:6xHis Tag MHHHHHHSEQ ID NO: 5:5'-CCAAACCATATGAGCGCCAAGTCCAGAACCATA-3'(Arg 1)SEQ ID NO: 6:5'-CCAAACTCTAGAATCACATTTTTTGAATGACATGGACAC-3'(Arg 2)SEQ ID NO: 7:5'-CTCTGGCCATGCCAGGGTCCACCC-3'(Arg 6)SEQ ID NO: 8 & 9:(図2C:核酸配列(SEQ ID NO: 8);及びアミノ酸配列(SEQ ID NO: 9))。 Bacillus substilisを宿主に用いた遺伝子組換え技術により得られ、500−600I.U./mgの比活性を生じる修飾を含んでなる、配列番号9のアミノ酸配列を有する単離された組換えヒトアルギナーゼI。 ヒトアルギナーゼIのアミノ末端にさらに6個のヒスチジンが付加されている、請求項1に記載の組換えヒトアルギナーゼI。 少なくとも3日間のin vitro血漿濃度半減期を与える修飾を有する、請求項1に記載の組換えヒトアルギナーゼI。 少なくとも純度が90%である、請求項1に記載の単離された組換えヒトアルギナーゼI。 前記修飾がPEG処理を含んでなる、請求項3に記載の組換えヒトアルギナーゼI。 カップリング剤を用いて少なくとも1個のポリエチレングリコール(PEG)部分が前記アルギナーゼに共有結合されることによって前記PEG処理が与えられる、請求項5に記載の組換えヒトアルギナーゼI。 2,4,6−トリクロロ−s−トリアジン(塩化シアヌル、CC)及びプロピオン酸スクシンイミド(SPA)からなる群から前記カップリング剤が選択される、請求項6に記載の組換えヒトアルギナーゼI。 請求項1に記載の単離された組換えヒトアルギナーゼIおよび薬学的に許容可能なキャリアを含んでなる薬学的組成物。 前記ヒトアルギナーゼIが、そのアミノ末端に付加された6個のヒスチジンを含んでいる、請求項8に記載の薬学的組成物。 前記ヒトアルギナーゼIの患者血漿中の半減期が少なくとも3日である、請求項8に記載の薬学的組成物。 医薬を調製するための請求項1に記載のヒトアルギナーゼIの使用。 ヒト悪性腫瘍を治療するために前記医薬が使用される、請求項11に記載の使用。 前記ヒト悪性腫瘍が肝臓腫瘍、乳癌、結腸癌、又は直腸癌である、請求項12に記載の使用。配列表


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