生命科学関連特許情報

タイトル:公開特許公報(A)_軸性近視の予防または治療剤
出願番号:2010003646
年次:2011
IPC分類:A61K 45/00,A61P 27/02,A61K 38/17


特許情報キャッシュ

生野 恭司 JP 2011144111 公開特許公報(A) 20110728 2010003646 20100112 軸性近視の予防または治療剤 国立大学法人大阪大学 504176911 岩谷 龍 100077012 生野 恭司 A61K 45/00 20060101AFI20110701BHJP A61P 27/02 20060101ALI20110701BHJP A61K 38/17 20060101ALI20110701BHJP JPA61K45/00A61P27/02A61K37/42 5 OL 10 4C084 4C084AA02 4C084BA01 4C084BA17 4C084BA44 4C084DB01 4C084MA52 4C084MA58 4C084NA14 4C084ZA332 本発明は、軸性近視の予防または治療剤に関するものである。 近視とは、角膜を通過した光が網膜上で結像せず、網膜の手前で結像するために明確に像を捕らえることができない状態をいう。近視矯正は、眼鏡や各種コンタクトレンズ、屈折矯正手術の進歩によりその対処法の選択肢は増えたが、近視は主に両眼性で、非可逆的に進行し、社会的に活動性の高い年齢層が冒されるという特徴から、近視であること自体がQOLの低下につながる。一方、医学的には、強度近視に伴う網膜剥離、近視性網脈絡膜萎縮、近視性脈絡膜新生血管、緑内障、および白内障のリスクが増すことで、より重篤な眼疾患の合併も懸念される。このため、進行が著しい学童期の近視および成人になってから発症する近視における近視進行予防法の確立が期待されている(非特許文献1参照)。 近視は調節性近視と軸性近視の2つに大別される。調節性近視は、長時間の近業による調節、すなわち毛様体筋の収縮亢進による水晶体屈折力の増加が関与しているといわれている。通常、近業を中止すれば毛様体筋は弛緩し調節が解除されるが、長時間の近用作業での収縮状態が固定し近視が顕在化する状態を調節性近視という。一方、軸性近視は、眼球が長くなることで眼軸長(角膜から網膜までの長さ)が延長し、無限遠からの光線が網膜の前で結像するものである。強度近視は眼軸の延長が原因といわれており、各種実験により、眼軸の延長は網膜と中枢神経系の両者が関与していると考えられている(非特許文献1参照)。しかしながら、近視を発症するメカニズムは未だ解明されていない。 近視進行の予防の試みのひとつとして、薬物療法が行われている。例えば、調節性近視については、毛様体筋の収縮亢進による屈折性近視のメカニズムに対して毛様体筋の緊張を改善する方法として、トロピカミド(ミドリンM(登録商標))の点眼療法が試みられている。しかしながら、その効果は統計学的に有意なものではない(非特許文献1参照)。 アトロピンは、その毛様体筋弛緩作用による調節の遮断、動物実験での眼軸長延長の抑制、ドパミン放出による網膜細胞の眼球の成長阻害、正常な眼球の成長を阻害する下垂体由来の成長ホルモンの分泌抑制、といった作用により近視の進行を抑制すると考えられ、統計学的に有意に近視進行を抑制したという台湾での報告があるが、接触性皮膚炎、散瞳による羞明、霧視、紫外線による網膜や水晶体への影響といった短中長期的な副作用が問題となる(非特許文献1参照)。ピレンゼピンは動物実験レベルで眼軸長の延長抑制による形態覚遮断近視を予防したが(非特許文献1参照)、米国で実施された8歳〜12歳の小児を対象とした2年間の臨床試験において、調節性近視(水晶体の屈折)については有意差が認められたが、眼軸長については有意差が認められなかった(非特許文献2参照)。 角膜の屈折率を変える角膜屈折矯正手術によって近視を治療する方法も行われている。角膜屈折矯正手術によって近視は矯正されるが、眼軸自体は不変であるため軸性近視を根本的に治療することはできず、さらに手術を行なうリスクも高い。 特許文献1には、トランスフォーミング増殖因子TGF−β調節物質を有効成分とする眼軸長制御剤が開示されている。特許文献2には、一般式(I)(式中、A環は置換されていてもよく、R1は水素または保護されていてもよいアミノ基を、R2はプロトンを放出し得る基を示す)で表される化合物またはその塩を含有してなる視機能障害の予防または治療剤が開示されている。特許文献3には、リスペンゼピンおよびヌレゼピンを薬物有効量含む、動物における眼球軸長の異常増大を防止する眼科用薬剤が開示されている。しかしながら、これらの薬剤は未だ臨床使用には至っていない。 このように、調節性近視に関しては、点眼剤による予防も試みられているが、強度近視の原因であると考えられる軸性近視については、動物実験レベルでは眼軸の延長を抑制する薬剤が見出されているものの、現時点において軸性近視の予防及び治療に有効であることが臨床的に証明された薬剤はない。軸性近視を予防および治療することが可能となれば、QOLの向上につながるのみならず、上記の重篤な眼疾患発症のリスクも低減すると考えられる。したがって、軸性近視の予防または治療薬として臨床的に有効な薬剤の開発が強く望まれている。特開平9−301891号公報特開平10−203982号公報特開平6−206820号公報吉野健一、学童児の近視治療について、「治療」2005年(Vol.87)8月臨時増刊号、p1388-1392Siatkowski RM, Cotter SA, Crockett RS, Miller JM, Novack GD, Zadnik K; U.S. Pirenzepine Study Group. Two-year multicenter, randomized, double-masked, placebo-controlled, parallel safety and efficacy study of 2%pirenzepineophthalmicgelinchildrenwithmyopia. J AAPOS. In Press Corrected Proof, Available online 25 March 2008 本発明は、軸性近視の予防および治療効果に優れた軸性近視の予防または治療薬を提供することを目的とする。 本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、ニワトリ(ヒヨコ)の視覚遮断近視モデルにおいて、血管拡張作用を有するブラジキニンを硝子体内に投与すると眼軸長の延長が有意に抑制されることを見出した。軸性近視発症のメカニズムはこれまで解明されておらず、このため軸性近視については有効な予防および治療方法がなかった。この知見は、眼軸長の延長に血管の萎縮が関与していること、すなわち軸性近視の発症に血管の萎縮が関与していることを示すものであり、血管拡張作用を有する化合物が軸性近視の予防および治療に極めて有用であることを初めて明らかにしたものである。 さらに、近視が進行して失明に至る場合には血管が萎縮していることが知られているが(例えば、大野広子、日本眼科紀要、第34巻第6号、1244−1253、1983年を参照)、本発明の予防または治療剤は有効成分に血管拡張作用を有する化合物を含むことから、軸性近視の予防および治療のみならず、軸性近視の進行による失明をも予防または治療できるものであることに想到した。本発明者らは、この知見に基づきさらに研究を重ね、本発明を完成させるに至った。 すなわち、本発明は、軸性近視の予防または治療剤に関し、以下の発明を包含する。[1]血管拡張作用を有する化合物を有効成分とすることを特徴とする軸性近視の予防または治療剤。[2]血管拡張作用を有する化合物がブラジキニンである前記[1]に記載の軸性近視の予防または治療剤。[3]点眼投与用である前記[1]または[2]に記載の軸性近視の予防または治療剤。[4]硝子体内投与用である前記[1]または[2]に記載の軸性近視の予防または治療剤。[5]経口投与用である前記[1]または[2]に記載の軸性近視の予防または治療剤。 本発明はまた、血管拡張作用を有する化合物をヒトを含む動物に投与する軸性近視の予防または治療方法、軸性近視の予防または治療のための血管拡張作用を有する化合物、および、軸性近視の予防または治療剤製造のための、血管拡張作用を有する化合物の使用、に関する。 本発明によれば、眼軸長の延長を効果的に抑制することができるため、これまで有効な予防および治療方法がなかった軸性近視を予防および治療することができる。 本発明は、血管拡張作用を有する化合物を有効成分とする軸性近視の予防または治療剤である。 本発明において軸性近視とは、眼軸長(角膜から網膜までの長さ)の延長により、角膜を通過した光が網膜上で結像せず、網膜の手前で結像するために明確に像を捕らえることができない状態の近視を意味する。 また本明細書中、「治療」とは、病態を完全に治癒させることの他、完全に治癒しなくても症状の進展及び/又は悪化を抑制し、病態の進行をとどめること、又は病態の一部若しくは全部を改善して治癒の方向へ導くことを、「予防」とは病態の発症を防ぐこと、抑制すること又は遅延させることを、それぞれ意味するものとする。 本発明の軸性近視の予防または治療剤に用いられる血管拡張作用を有する化合物としては、例えば、血管拡張性ペプチド、カルシウムチャネル阻害剤、エンドセリン受容体拮抗薬、アンジオテンシン作用阻害薬等が好ましい。 血管拡張性ペプチドとしては、キニンが好ましい。キニンは、血漿中のキニノーゲンがタンパク質分解酵素カリクレインによって分解されて生じるポリペプチドである。キニンとしては、ブラジキニン、カリジン、リジルブラジキニン等が好ましい。中でも、ブラジキニンがより好ましい。 カルシウムチャネル阻害剤は、一般に細胞内へのCa流入を抑制することにより血管拡張作用を示し、種々の循環器疾患の治療に広く使用されている。カルシウムチャネル阻害剤としては、塩酸ジルチアゼム等のベンゾジアゼピン誘導体;塩酸ベラパミル、塩酸ベプリジル等のフェニルアルキルアミン誘導体;塩酸ニフェジピン、塩酸ニカルジピン、塩酸ニモヂピン等のジヒドロピリジン誘導体;シンナリジン、フルナリジン等のピペラジン誘導体;その他、塩酸ファスジル等が挙げられる。 エンドセリン受容体拮抗薬としては、ボセンタン等が挙げられる。アンジオテンシン作用阻害薬としては、カプトプリル等が挙げられる。 上記血管拡張作用を有する化合物は、公知の方法により製造することができる。また、市販品を使用することもできる。上記血管拡張作用を有する化合物のうち、例えば、ボセンタンは、トラクリア(登録商標)錠としてアクテリオン ファーマシューティカルズ社から市販されている。カプトプリルは、カプトリル(登録商標)錠等として第一三共社等から市販されている。ブラジキニンは、商品名ブラジキニンとして、和光純薬社から市販されている。 本発明の軸性近視の予防または治療剤は、例えば、血管拡張作用を有する化合物と医薬上許容される担体とを混合等することにより製造することができる。医薬上許容される担体としては、固形製剤において、賦形剤(例えば、乳糖、トウモロコシ澱粉、マンニトール、結晶セルロース、軟質無水ケイ酸等)、潤滑剤(例えば、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、タルク、ポリエチレングリコール、コロイドシリカ等)、結合剤(白糖、マンニトール、マルチトール、デンプン、シロップ、アラビアゴム、ゼラチン、トラガカントガム、アルギン酸ナトリウム、キチン、キトサン、ポリビニルピロリドン等)、崩壊剤(例えば、馬鈴薯澱粉、カルボキシメチルセルロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウム、キチン、キトサン等)などが、また液状製剤において、水、非水性ビヒクル(例えば、エタノール、プロピレングリコール、グリセリン等のアルコール類;オリーブ油、アーモンド油、ゴマ油、綿実油、ヒマシ油、トウモロコシ油等の油脂類;油性エステルなど)、溶解補助剤(例えば、ポリビニルピロリドン、シクロデキストリン、カフェイン、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、マンニトール、安息香酸ベンジル、トリスアミノメタン、コレステロール等)、懸濁化剤(例えば、ステアリルトリエタノールアミン、ラウリル硫酸ナトリウム、ポリソルベート80等の界面活性剤;ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ゼラチン、ソルビットシロップ等の親水性高分子など)、増粘剤(例えば、卵黄レシチン、ゼラチン、アラビアゴム、トラガカントガム、メチルセルロース、ペクチン等)、等張化剤(例えば、ソルビトール、グリセリン、ポリエチレングリコール、グルコース、塩化ナトリウム等)、乳化剤(例えば、レシチン、モノオレイン酸ソルビタン等)、緩衝剤(例えば、リン酸緩衝剤、ホウ酸緩衝剤、クエン酸緩衝剤、酒石酸緩衝剤、酢酸緩衝剤等)、無痛化剤(例えば、ベンジルアルコール等)などが適宜配合される。また、必要に応じて保存剤(例えば、パラオキシ安息香酸エステル類、塩化ベンザルコニウム、クロロブタノール等)、キレート剤(例えば、エデト酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、縮合リン酸ナトリウム等)、抗酸化剤(例えば、亜硝酸塩、アスコルビン酸、システイン等)、着色剤(例えば、タール色素、カンゾウエキス、リボフラビン等)、甘味剤(グルコース、シュークロース、サッカリン等)、着香剤(例えば、バニリン、メントール等)、芳香剤(例えば、ウイキョウ油、メントール等)などを常法に従って添加してもよい。上記以外に、寒天、カゼイン、コラーゲン等が医薬上許容される担体として例示される。 本発明の軸性近視の予防または治療剤は、経口的または非経口的に投与される。経口投与用の製剤としては、例えば錠剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤等の固形製剤;乳剤、シロップ剤、懸濁剤等の液状製剤が挙げられる。非経口投与用の製剤としては、例えば注射剤、軟膏剤、点眼剤等が挙げられる。本発明の軸性近視の予防または治療剤は、効果の点から眼局所投与用の形態で用いることが好ましい。眼局所投与用の製剤としては、点眼剤、注射剤(硝子体内注射剤、結膜下注射剤、テノンのう下注射剤)、眼軟膏剤、眼科用ゲル剤が挙げられる。本発明の軸性近視の予防または治療剤は、非経口投与する場合には点眼剤または硝子体内注射剤の形態で用いることが好ましい。また、これらの製剤を徐放剤とすることが好ましい。投与間隔を空けることが可能となり投与回数を少なくできるからである。特に、眼局所への頻回の注射は合併症のリスクを高めるので、注射剤において徐放剤を用いることが好ましい。徐放剤は、公知の方法により製造することができる。具体的には、例えば生体分解性高分子(ポリ乳酸など)、天然高分子(コラーゲン、ヒアルロン酸など)、合成高分子(メタアクリル酸コポリマーなど)などの微粒子に薬剤を含有させた徐放剤が挙げられる。 錠剤は、血管拡張作用を有する化合物に上述した賦形剤、崩壊剤、結合剤、滑沢剤等を適宜添加して、圧縮成形することにより製造される。この際、所望により、圧縮成形に続いて、上述した甘味剤、着香剤、芳香剤等をさらに添加してもよく、腸溶性または持続性改善のため、自体公知の方法によりコーティングを行ってもよい。コーティングの際に使用するコーティング剤としては、例えば、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、エチルセルロース、酢酸フタル酸セルロース等が用いられる。カプセル剤は、ハードカプセルであっても、ソフトカプセルであってもよい。ハードカプセル剤は、通常、ゼラチン等のカプセルに血管拡張作用を有する化合物等を充填することにより製造できる。ソフトカプセル剤は、通常、ゼラチンにグリセリン等の可塑剤を加えたシートに血管拡張作用を有する化合物および所望により医薬上許容される担体を挟み込み、圧着成型することにより製造することができる。懸濁剤は、例えば血管拡張作用を有する化合物を上述した溶剤中に懸濁させることにより製造することができる。この際、上述した懸濁化剤等を適宜用いてもよい。 注射剤は、例えば血管拡張作用を有する化合物を、上述した保存剤、等張化剤、溶解補助剤等とともに注射用水に溶解させることにより水性注射剤として、あるいはプロピレングリコール、オリーブ油,ゴマ油,綿実油等に溶解あるいは懸濁させることにより油性注射剤として製造することができる。 水性点眼剤は、例えば精製水を加熱し、保存剤を溶解した後、溶解補助剤を加え、次いで血管拡張作用を有する化合物を加えて完全に溶解させることにより製造することができる。この際、必要により緩衝剤、等張化剤、キレート剤、増粘剤等を用いてもよい。 水性懸濁点眼剤は、水性点眼剤に用いられる添加剤の他に、さらに上述した懸濁化剤を適宜選択して用いることにより製造することができる。水性点眼剤および水性懸濁点眼剤は、点眼に通常使用されるpH範囲内に調整して用いることが好ましく、通常約4〜9、好ましくは約5〜8である。 非水性点眼剤は、血管拡張作用を有する化合物をアルコール類(例えばエタノール、エチレングリコール、マクロゴール、プロピレングリコール、グリセリン等)等の水溶性溶剤や油脂類(例えばオリーブ油、ゴマ油、ラッカセイ油、綿実油、ヒマシ油、トウモロコシ油等)等の油性溶剤に溶解あるいは懸濁させることにより製造することができる。 眼軟膏剤は、例えばワセリン、プラスチベース、流動パラフィン等を基剤として適宜選択して用いることにより製造することができる。 眼科用ゲル剤は、例えばカルボキシビニルポリマー、エチレン無水マレイン酸ポリマー、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロックコポリマー、ゲランゴム等を基剤として適宜選択して用いることにより製造することができる。 本発明の軸性近視の予防または治療剤における有効成分の量は、該有効成分により血管拡張作用が発揮される量であれば特に限定されないが、通常製剤の約0.0001〜100重量%であり、好ましくは約0.001〜50重量%である。投与量および投与回数は、年齢、体重、投与形態等により異なるが、成人に対し点眼剤として使用する場合には、血管拡張作用を有する化合物を通常約0.0001〜10w/v%、好ましくは約0.001〜1w/v%含有する製剤を、通常1日あたり数回、好ましくは1〜6回、通常1回数滴、好ましくは1〜3滴投与することができ、硝子体内注射剤として使用する場合には、血管拡張作用を有する化合物を通常約0.0001〜10w/w%、好ましくは約0.001〜1w/w%含有する製剤を、通常4週〜8週ごとに1回、通常1回につき約0.01〜0.2mL投与することができる。また、経口投与する場合には、血管拡張作用を有する化合物を1日あたり体重1kgにつき通常約0.05〜2mg、好ましくは約0.5〜1.5mg投与することができ、この量を通常1日1〜3回に分けて投与することが好ましい。 本発明の軸性近視の予防または治療剤の投与対象としては、ヒト、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、ネコ、ウシ、サル、ブタ等の哺乳動物が好ましく、中でも、ヒトがより好ましい。また、投与対象としては、軸性近視を発症したまたは発症する可能性がある哺乳動物が好ましい。 以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。 実施例1:ニワトリ近視モデルを用いた眼軸長抑制試験 (1)ニワトリ視覚遮断近視モデル 生後6日齢のヒヨコ(白色レグホン)を入手し、ビニールテープを用いて作製したマスクで片眼を遮蔽した。遮蔽は常に右眼に行い、左眼は対照とした。ヒヨコは通常の飼育条件で飼育した。 (2)血管拡張作用を有する化合物 血管拡張作用を有する化合物として、血管拡張剤であるブラジキニン(和光純薬社製)を使用した。ブラジキニンは生理食塩水を用いて93.75pmolに調製した。対照には生理食塩水を使用した。 (3)投与方法 遮蔽によって近視誘導中のヒヨコに、ブラジキニンを週に1回(7日ごとに)硝子体腔に注射した。具体的には、ヒヨコをケタラール(登録商標)とセラクタール(登録商標)で麻酔した後、インスリン注射用シリンジを用いて角膜輪から2mm程度外側に刺入した。 ブラジキニン投与群には、ブラジキニンの93.75pmol溶液を50μL硝子体内に注入した。ヒヨコの眼球容積は約1mLであるため、ブラジキニンの最終眼内濃度は約4.69pmolになる。ブラジキニン投与群の対照群には、生理食塩水を50μL硝子体内に注入した。 (4)眼球の計測 近視を誘導して4週間後にヒヨコを屠殺、眼球を摘出して、左右眼球の大きさをキャリパで測定した。軸性近視の程度を眼軸縦方向の長さ(眼軸長)および横方向の最大直径(最大横径)で評価した。左右の眼軸長差および最大横径差を算出し、その差を近視の程度とし、対照群における近視誘導の程度と上記薬剤を注入した場合の近視誘導の程度の差を比較した。 (5)結果 ブラジキニン投与群および対照群の結果を表1に示した。表1から明らかなように、ブラジキニン投与群は、対照群と比較して有意に眼軸長および最大横径を減少させた。 表中、*、**は、対照群と比較して有意に減少したことを意味する(Unpaired t-test *は、P<0.05、**は、P<0.01)。 以上のように、血管拡張作用を有する化合物がヒヨコモデルにおける軸性近視の進行を有意に抑制したことから、血管拡張作用を有する化合物により眼軸の延長を予防および抑制できることが明らかとなった。 実施例2 血管拡張作用を有する化合物として、ブラジキニンに替えてカリジンまたはリジルブラジキニンを用いる以外は、実施例1と同様の実験を行なう。カリジンまたはリジルブラジキニン投与群においては、対照群と比較して、眼軸長および最大横径の延長が有意に抑制される。 実施例3 ブラジキニンに替えて塩酸ジルチアゼムを用いる以外は、実施例1と同様の実験を行なう。塩酸ジルチアゼム投与群においては、対照群と比較して、眼軸長および最大横径の延長が有意に抑制される。 実施例4 ブラジキニンに替えて塩酸ベラパミルまたは塩酸ベプリジルを用いる以外は、実施例1と同様の実験を行なう。塩酸ベラパミル投与群および塩酸ベプリジル投与群においては、対照群と比較して、眼軸長および最大横径の延長が有意に抑制される。 実施例5 ブラジキニンに替えて塩酸ニフェジピン、塩酸ニカルジピンまたは塩酸ニモヂピンを用いる以外は、実施例1と同様の実験を行なう。塩酸ニフェジピン投与群、塩酸ニカルジピン投与群および塩酸ニモヂピン投与群においては、対照群と比較して、眼軸長および最大横径の延長が有意に抑制される。 実施例6 ブラジキニンに替えてシンナリジンまたはフルナリジンを用いる以外は、実施例1と同様の実験を行なう。シンナリジン投与群およびフルナリジン投与群においては、対照群と比較して、眼軸長および最大横径の延長が有意に抑制される。 実施例7 ブラジキニンに替えて塩酸ファスジルを用いる以外は、実施例1と同様の実験を行なう。塩酸ファスジル投与群においては、対照群と比較して、眼軸長および最大横径の延長が有意に抑制される。 実施例8 ブラジキニンに替えてボセンタンを用いる以外は、実施例1と同様の実験を行なう。ボセンタン投与群においては、対照群と比較して、眼軸長および最大横径の延長が有意に抑制される。 実施例9 ブラジキニンに替えてカプトプリルを用いる以外は、実施例1と同様の実験を行なう。カプトプリル投与群においては、対照群と比較して、眼軸長および最大横径の延長が有意に抑制される。 実施例2〜9から、血管拡張作用を有する化合物により眼軸の延長を予防および抑制できる。 実施例10:製造例 処方1:点眼剤 滅菌精製水にブラジキニン、リン酸2水素ナトリウム・2水和物および塩化ナトリウムを溶解し、水酸化ナトリウムでpHを7に調整した後、滅菌精製水で全量を100mLとして、以下の処方の点眼剤を調製した。100mL中・ブラジキニン 100mg・リン酸2水素ナトリウム・2水和物 0.1g・塩化ナトリウム 0.9g・水酸化ナトリウム 適量・滅菌精製水 適量 なお、上記処方例1と同様にして、ブラジキニンを100mL中にそれぞれ10mgまたは500mg含有する点眼剤を調製することができる。 処方2:注射剤 菌精製水にブラジキニンおよび塩化ナトリウムを溶解し、滅菌精製水で全量を100mLとして、以下の処方の注射剤を調製した。100mL中・ブラジキニン 1mg・塩化ナトリウム 0.9g・滅菌精製水 適量 なお、上記処方例2と同様にして、ブラジキニンを100mL中にそれぞれ0.5mgまたは2mg含有する注射剤を調製することができる。 処方3:内服剤(カプセルの製造) 菌精製水にブラジキニン、微結晶セルロース、乳糖およびステアリン酸マグネシウムを混合し、ゼラチンカプセルに充填し、以下の処方のカプセル剤を調製した。・ブラジキニン 1mg・微結晶セルロース 10mg・乳糖 19mg・ステアリン酸マグネシウム 1mg なお、上記処方例3と同様にして、ブラジキニンを1カプセル中にそれぞれ0.5mgまたは2mg含有するカプセル剤を調製することができる。 処方4:内服剤(錠剤の製造) 以下の各成分を常法により混合したのち、打錠して、1錠中に0.5mgの活性成分を含有する錠剤1000錠を得た。・ブラジキニン 5g・カルボキシメチルセルロース カルシウム 20g・ステアリン酸マグネシウム 10g・微結晶セルロース 920g なお、上記処方例4と同様にして、ブラジキニンを1錠中にそれぞれ1mgまたは2mg含有する錠剤を調製することができる。 実施例11:製造例 上記処方1〜4それぞれにおいて、ブラジキニンに替えて、実施例2〜9で用いた各化合物を用いることにより、各血管拡張作用を有する化合物を含有する点眼剤、注射剤、内服剤および錠剤を製造することができる。 なお本発明は上述した各実施形態および実施例に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。また、本明細書中に記載された学術文献および特許文献の全てが、本明細書中において参考として援用される。 本発明の予防または治療剤は、軸性近視を効果的に予防および治療することができるうえ、高度近視による網膜合併症、失明等の予防にも有効であることから、医療分野において有用である。 血管拡張作用を有する化合物を有効成分とすることを特徴とする軸性近視の予防または治療剤。 血管拡張作用を有する化合物がブラジキニンである請求項1に記載の軸性近視の予防または治療剤。 点眼投与用である請求項1または2に記載の軸性近視の予防または治療剤。 硝子体内投与用である請求項1または2に記載の軸性近視の予防または治療剤。 経口投与用である請求項1または2に記載の軸性近視の予防または治療剤。 【課題】軸性近視の予防および治療効果に優れた治療薬の提供。【解決手段】血管拡張作用を有する化合物を有効成分とする軸性近視の予防または治療剤。具体的には、ブラジキニンが例示され、点眼、硝子内投与、あるいは経口投与により用いられる。【選択図】なし


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