タイトル: | 特許公報(B2)_1,2−プロパンジオールおよびアセトールの製造のための微生物および方法 |
出願番号: | 2009554046 |
年次: | 2014 |
IPC分類: | C12N 1/21,C12P 7/18,C12P 7/24,C12N 15/09 |
フィリップ、スカイユ イザベル、メイニアル‐サル フランソワ、フェルケ ライナー、フィゲ JP 5546870 特許公報(B2) 20140523 2009554046 20080321 1,2−プロパンジオールおよびアセトールの製造のための微生物および方法 メタボリック エクスプローラー 505311917 吉武 賢次 100075812 中村 行孝 100091487 紺野 昭男 100094640 横田 修孝 100107342 フィリップ、スカイユ イザベル、メイニアル‐サル フランソワ、フェルケ ライナー、フィゲ IB PCT/IB2007/001677 20070323 20140709 C12N 1/21 20060101AFI20140619BHJP C12P 7/18 20060101ALI20140619BHJP C12P 7/24 20060101ALI20140619BHJP C12N 15/09 20060101ALI20140619BHJP JPC12N1/21C12P7/18C12P7/24C12N15/00 A C12N 15/00−15/90 C12P 7/00−7/66 CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN) JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII) WPIDS/WPIX(STN) 国際公開第2004/033646(WO,A1) 国際公開第98/037204(WO,A1) 国際公開第2005/073364(WO,A1) FEMS Microbiol. Lett., 2003, Vol.218, p.93-99 Appl. Microbiol. Biotechnol., 2001, Vol.55, p.1-9 J. Bacteriol, 2005, Vol.187, No.16, p.5782-8789 14 EP2008053448 20080321 WO2008116853 20081002 2010521959 20100701 28 20110318 鳥居 敬司発明の背景 緒論 本発明は、改変された微生物ならびに1,2−プロパンジオールおよび/またはアセトールの製造のためのその使用に関する。 C3ジアルコールである1,2−プロパンジオールすなわちプロピレングリコールは、広く用いられている化学物質である。これは、不飽和ポリエステル樹脂、液体洗剤、冷却剤、不凍剤および航空機の徐氷液の成分である。プロピレングリコールは、プロピレン誘導体より有毒であると認識されているエチレン誘導体の代わりとして1993〜1994年以来、使用が増えてきた。 1,2−プロパンジオールは現在、大量の水を消費するプロピレンオキシド水和法を用いた化学的手段により製造されている。プロピレンオキシドは、一方はエピクロロヒドリンを用い、他方はヒドロペルオキシドを用いる2つの方法のいずれかよって製造することができる。両経路とも、毒性が強い物質を用いる。さらに、ヒドロペルオキシド経路は、tert−ブタノールおよび1−フェニルエタノールなどの副生成物を生じる。プロピレンの産生を有利にするためには、これらの副生成物の用途を見出さなければならない。この化学的経路は一般的にラセミ1,2−プロパンジオールを生成するが、2つの立体異性体(R)1,2−プロパンジオールおよび(S)1,2−プロパンジオールはそれぞれ、ある特定の適用(例えば、特殊化学物質および医薬品のためのキラル出発材料)に関して注目されるものである。 アセトールすなわちヒドロキシアセトン(1−ヒドロキシ−2−プロパノン)はC3ケトアルコールである。この生成物は繊維工業のバット染色法において還元剤として使用されている。これは有利にも、環境に有害な排水中の硫黄含量を低減するため、従来の硫黄含有還元剤に取って代わり得る。アセトールはまた、例えばポリオールまたは複素環式分子を製造するために用いられる化学薬品工業の出発材料でもある。これはまた、興味深いキレート特性および溶媒特性を持っている。 アセトールは現在、主として1,2−プロパンジオールの触媒的酸化または脱水によって製造されている。今般、グリセロールのような再生可能な供給原料から出発する新たな方法が提案されている(DE4128692およびWO2005/095536参照)。現在、化学法によるアセトールの製造コストがその産業上の利用および市場を小さくしている。 これら1,2−プロパンジオールおよび/またはアセトールの製造のための化学法の欠点は、生合成を魅力的な選択肢とする。微生物による糖からのこれらの生成物の天然生産に関して2つの経路が同定されている。 1つ目の経路では、6−デオキシ糖(例えば、L−ラムノースまたはL−フコース)がジヒドロキシアセトンリン酸および(S)−ラクトアルデヒドに開裂され、さらに(S)−1,2−プロパンジオールへと還元することができる(Badia et al, 1985)。この経路は大腸菌(E. coli)で機能するものの、デオキシヘキソースのコストが高いために経済上実現可能な方法をもたらすことはできない。 2つ目の経路は、解糖経路、次いでメチルグリオキサール経路を介した汎用糖(例えば、グルコースまたはキシロース)の代謝である。ジヒドロキシアセトンリン酸はメチルグリオキサールへ変換され、これがラクトアルデヒドまたはアセトールのいずれかへ還元することができる。その後、これら2つの化合物は2回目の還元を受け、1,2−プロパンジオールを生じ得る。この経路は、クロストリジウム・スフェノイデス(Clostridium sphenoides)およびサーモアナエロバクター・サーモサッカロリチカム(Thermoanaerobacter thermosaccharolyticum)などの天然(R)−1,2−プロパンジオール生産株によって用いられている。クロストリジウム・スフェノイデスは、リン酸制限条件下、1.58g/lの力価で1,2−プロパンジオールを産生するために用いられている(Tran Din and Gottschalk, 1985)。また、サーモアナエロバクター・サーモサッカロリチカムも、1,2−プロパンジオールの製造に関して検討されてきた(Cameron and Cooney, 1986, Sanchez-Rivera et al, 1987)。得られた最高性能は力価9g/lであり、0.2g/gのグルコースからの収率であった。しかしながら、これらの生物で得られる性能の改良は、利用可能な遺伝的手段が不足しているために限られていると思われる。 先行技術 大腸菌は天然に1,2−プロパンジオールとアセトールを産生する遺伝的能力を有する。1,2−プロパンジオールへの生合成経路は、解糖中間体ジヒドロキシアセトンリン酸から出発する。この代謝中間体は、mgsA遺伝子によりコードされているメチルグリオキサールシンターゼによってメチルグリオキサールへと変換され得る(Cooper, 1984, Totemeyer et al, 1998)。メチルグリオキサールは、DNA、RNAおよびタンパク質などの高分子の求核中心と反応し得る極めて有毒な求電子物質である。これは細菌の増殖を阻害し、極めて低濃度で細胞死をもたらし得る(0.3〜0.7mM)。このため、メチルグリオキサールの解毒のための既存の経路が検討されてきた(Ferguson et al, 1998)。3つの経路が細菌、特に大腸菌で同定されている。・1つ目は、メチルグリオキサールをD−乳酸へ変換するグルタチオン依存性グリオキサラーゼI−II系(gloAおよびgloB遺伝子によりコードされている)・2つ目は、メチルグリオキサールの、D−乳酸への変換を触媒するグルタチオン非依存性グリオキサラーゼIII酵素系・3つ目は、メチルグリオキサールレダクターゼによるメチルグリオキサールの分解を含む。 この最後の系は、1,2−プロパンジオールの製造に適切である。メチルグリオキサールは、C1にアルデヒド、そしてC2のケトンを有するC3ケトアルデヒドである。これらの2つの位置はアルコールへ還元可能で、それぞれ非キラル分子であるアセトール(またはヒドロキシアセトン)と、L型またはD型(図1参照)で存在し得るキラル分子であるラクトアルデヒドを生じる。これらの3つの分子、アセトール、L−ラクトアルデヒドおよびD−ラクトアルデヒドはその後他の位置で還元されて、キラル1,2−プロパンジオールを生じ得る。 大腸菌で優先的に用いられている経路は、現時点では明らかにされていない。大腸菌では、補因子として優先的にNADPHを用いるメチルグリオキサールレダクターゼが同定され、部分的に同定されている(Saikusa et al, 1987)。この反応の生成物はラクトアルデヒドであることが示された。Misra et al (1996)は、同じ生成物アセトールが得られる2つのメチルグリオキサールレダクターゼ活性の精製を記載している。一方のNADH依存性活性はアルコールデヒドロゲナーゼ活性であり得るが、NADPH依存性活性は非特異的アルデヒドレダクターゼであり得る。Altaras and Cameron (1999)は、大腸菌のgldA遺伝子によりコードされているグリセロールデヒドロゲナーゼ(GldA)は、メチルグリオキサールの、(R)−ラクトアルデヒドへの還元、また、アセトールの1,2−プロパンジオールへの変換に活性があることを実証した。 遺伝子yghZが大腸菌からクローニングされ、発現され、そのタンパク質が同定されている(Grant, 2003)。これは補因子としてNADPHを伴い、メチルグリオキサールに対して特異性の高い活性を示すが、この反応の生成物は同定されなかった。この遺伝子は、過剰発現されると、メチルグリオキサール毒性に対する耐性を付与した。 Ko et al (2005)は、メチルグリオキサールの、アセトールへの変換の候補として、大腸菌の9アルド−ケトレダクターゼ(9 aldo-keto reducases)を体系的に検討した。彼らは、4つの精製酵素YafB、YqhE、YeaEおよびYghZがNADPHの存在下でメチルグリオキサールをアセトールへ変換できたことを示した。彼らの研究によれば、メチルグリオキサールレダクターゼYafB、YeaEおよびYghZは、解毒に関してin vivoにおけるメチルグリオキサールの代謝に最も関連がある。Di Luccio et al (2006)は、大腸菌のydjG遺伝子の産物がNADHを伴ってメチルグリオキサールに活性があることを示したが、この反応の生成物の同定は行われなかった。 単純炭素源を用いて1,2−プロパンジオール生産株を得るための大腸菌の遺伝的改変に関するいくつかの検討がCameronのグループ(Cameron et al, 1998, Altaras and Cameron, 1999, Altaras and Cameron, 2000)およびBennettのグループ(Huang et al, 1999, Berrios-Rivera et al, 2003)によって行われた。これらの研究は、ジヒドロキシアセトンリン酸から1,2−プロパンジオールへの経路における酵素活性をコードする1つ、または数個の遺伝子の発現に頼るものである。Cameron et al (1998)は、ラット水晶体アルドースレダクターゼをコードする遺伝子またはgldA遺伝子のいずれかの過剰発現が0.2g/l未満の1,2−プロパンジオールの生産をもたらしたことを示した。この力価の改良は、2つの大腸菌遺伝子mgsAおよびgldAを同時発現させることによって可能である。この組合せを用いれば、0.7g/l力価の1,2−プロパンジオールが得られる(Altaras and Cameron, 1999)。力価および収量のさらなる改良は、大腸菌において完全な1,2−プロパンジオール経路を発現された際に得られた(Altaras and Cameron, 2000)。3つの遺伝子mgsA、gldAおよびfucOは乳酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子(ldhA)欠損株で発現された。この組合せを用いたところ、Cameronのグループによって得られた最良の結果は、嫌気的フラスコ培養における1.4g/lの1,2−プロパンジオールの生産であり、グルコース消費1g当たり0.2gの収率であった。嫌気性流加発酵槽に外挿すると、生産量は1,2−プロパンジオール4.5g/lであり、グルコース1g当たり0.19gの収率であった。力価および収率は低いが、同じアプローチを用いて得られた結果が米国特許第6,087,140号、同第6,303,352号およびWO98/37204にも記載されている。Bennettのグループも、クロストリジウム・アセトブチリカム(Clostridium acetobutylicum)由来のmgs遺伝子および大腸菌由来のgldA遺伝子の過剰発現のためにldhA欠損大腸菌宿主株を用いた。嫌気条件下でのフラスコ培養では力価1.3g/lおよび収率0.12g/gであったが、微好気培養では力価1.4g/lであり、収率は0.13g/gであった。 この段階では、これらの結果は全て、T.サーモサッカロリチカム種で得られたものほど良くはない。 これまでに、メチルグリオキサールをアセトールへ変換する微生物、特に大腸菌からの内因性活性の使用は記載されていない。 本発明は、増強されたメチルグリオキサールレダクターゼ活性を有する改変微生物ならびに1,2−プロパンジオールおよび/またはアセトールの製造のためのその使用に関する。メチルグリオキサールレダクターゼ酵素は微生物由来の遺伝子の産物である。このメチルグリオキサールレダクターゼ活性の増強は、メチルグリオキサールの、アセトールへの変換に関与する1以上の遺伝子、好ましくはyqhD、yafB、ycdW、yqhE、yeaE、yghZ、yajO、tas、ydjGおよびydbCから選択される遺伝子を過剰発現させることによって得られる。 本発明の別の態様において、メチルグリオキサールシンターゼ活性はまた、mgsA遺伝子を過剰発現させることによっても増強される。 本発明のさらなる態様において、Entner-Doudoroff経路がedd遺伝子またはeda遺伝子のいずれか、または双方を欠失させることによって削除される。さらに、メチルグリオキサールからの乳酸の合成に関与する酵素をコードする遺伝子(gloA、aldA、aldBなど)、ピルビン酸からの乳酸の合成に関与する酵素をコードする遺伝子(ldhA)、ギ酸の合成に関与する酵素をコードする遺伝子(pflA、pflB)、エタノールの合成に関与する酵素をコードする遺伝子(adhE)および酢酸の合成に関与する酵素をコードする遺伝子(ackA、pta、poxB)の発現を減弱することにより、不要な副生成物の合成が減弱される。 tpiA遺伝子を欠失させることにより、グルコースの半分がジヒドロキシアセトンリン酸へ、やがては1,2−プロパンジオールおよび/またはアセトールへ代謝されることが好ましい。所望により、利用可能なグリセルアルデヒド3リン酸の一部を1,2−プロパンジオールおよび/またはアセトールの合成へ向け直すため、活性なtpiA遺伝子を用いてグリセルアルデヒド3リン酸活性を低減してもよい。本発明の一態様では、galPによりコードされているもののようなホスホエノールピルビン酸(PEP)とは独立の糖移入を用いるか、または糖ホスホトランスフェラーゼ系により多くのPEPを供給するかのいずれかによって糖移入の高率を高める。これは、ピルビン酸キナーゼのようなPEP消費経路(pykAおよびpykF遺伝子によりコードされる)を排除することによるか、かつ/または例えばPEPシンターゼをコードするppsA遺伝子を過剰発現することによって得られる。 具体的には、1,2−プロパンジオールの製造に関して、グリセロールデヒドロゲナーゼ(gldAによりコードされる)および1,2−プロパンジオールオキシドレダクターゼ(fucOによりコードされる)のような、ジヒドロキシアセトンリン酸を1,2−プロパンジオールへ変換する他の酵素を増強するために所望により微生物を改変してもよい。さらに、ピルビン酸をアセチル−coAへ変換する酵素は、嫌気条件下で見られる高濃度NADHに耐性であることも有用である。これはlpd遺伝子の特異的突然変異により得ることができる。最後に、アセトールの1,2−プロパンジオールへの還元のためのNADHを節約するために、arcA遺伝子およびndh遺伝子を欠失させることができる。1,2−プロパンジオールの製造に用いる微生物は細菌、酵母および真菌から選択されるが、大腸菌またはクロストリジウム・アセトブチリカムのいずれかが好ましい。本発明は、単純炭素源または複合炭素源を含有する適切な増殖培地で改変微生物を培養すること、および生成した1,2−プロパンジオールを回収および精製することによる1,2−プロパンジオールの製造方法を提供する。 具体的には、アセトールの製造に関して、グリセロールデヒドロゲナーゼをコードする遺伝子を減弱または欠失させて1,2−プロパンジオールの形成を妨げる。アセトールの製造に用いる微生物は細菌、酵母および真菌から選択されるが、大腸菌または肺炎桿菌(Klebsiella pneumoniae)のいずれかが好ましい。本発明のもう1つの目的は、単純炭素源を含有する適切な増殖培地で該改変微生物を培養すること、および生成したアセトールを回収および精製することによるアセトールの製造方法である。 本明細書に組み込まれ、本明細書の一部をなす添付図面は本発明を例示し、その説明とともに本発明の原理を説明にするのに役立つ。炭水化物からの1,2−プロパンジオール生産系の開発における中枢代謝の遺伝子工学を示す。陰イオン交換クロマトグラフィーカラムpH7における3つのタンパク質YQHD、YDHFおよびGLDAの溶出プロフィールを示す。発明の具体的説明 本発明は、炭素源からの1,2−プロパンジオールおよび/またはアセトールの製造に有用な改変微生物に関し、該微生物は微生物由来の1以上の遺伝子によりコードされているメチルグリオキサールレダクターゼ活性の増強によって特徴づけられる。 本明細書において、特許請求の範囲および明細書の解釈に以下の用語を用いることができる。 本発明によれば、「培養」、「増殖」および「発酵」とは、単純炭素源を含有する適切な増殖培地での細菌の増殖を表すために互換的に用いられる。 「改変微生物」とは、メチルグリオキサールレダクターゼ活性を増強させるように改変された、細菌、酵母または真菌などの微生物を表す。このような改変は、遺伝子置換またはメチルグリオキサール還元に関与する遺伝子の発現のためのベクターの導入をはじめとする、微生物を遺伝要素で形質転換するための通常の手段を含む。それはまた、突然変異誘発を誘導するための通常の条件下での微生物の無作為な、または指定された突然変異誘発も含む。それはまた、WO2004/076659に開示されている進化方法など、微生物を進化させるための方法も含む。 「製造に有用」とは、その微生物が発酵により目的の生成物を製造することを表す。発酵は、好気、微好気または嫌気条件下で実施可能な従来の方法である。 本発明において「炭素源」とは、微生物の正常な増殖を支えるために当業者が使用可能ないずれの炭素源も表し、ヘキソース、ペントース、単糖類、二糖類、オリゴ糖、デンプンまたはその誘導体、ヘミセルロース、グリセロールおよびそれらの組合せであり得る。 「増強された酵素活性」とは、その活性が、改変前の同じ微生物で測定された野生型酵素の活性より優れていることを意味する。対応する非改変微生物は、メチルグリオキサールレダクターゼ活性の改変以外は改変微生物と同じ特徴を有する微生物である。メチルグリオキサールレダクターゼ活性は、Misra et al (Molecular and Cellular Biochemistry 156: 117-124 (1996))またはKo et al (J. Bacteriol. 187: 5782-5789 (2005))に開示されている方法などの通常の手段によって測定することができる。 有利には、メチルグリオキサールレダクターゼ活性は、対応する非改変微生物のメチルグリオキサールレダクターゼ活性に比べて少なくとも50%、好ましくは少なくとも100%増強される。 好ましくは、メチルグリオキサールレダクターゼ活性の増強は、メチルグリオキサール還元に関与する少なくとも1つの遺伝子を過剰発現させることによって得られる。「発現」とは、その遺伝子の産物である、対応するタンパク質の生成をもたらす遺伝子配列からの転写および翻訳を指す。 目的遺伝子の過剰発現を得るために、当業者ならば例えば下記のような種々の方法を知っている。 1−遺伝子の天然プロモーターの、該目的遺伝子のより強レベルの発現を誘導するプロモーターでの置換 より強レベルの発現は、遺伝子の天然プロモーターを、選択された微生物で強い遺伝子発現を誘導することが知られているプロモーターで置換することによって得ることができる。このようなプロモーターとしては、大腸菌では、例えば、プロモーターPtrc、Ptac、Plac、λプロモーターcIまたは当業者に知られているその他のプロモーターがある。他の微生物については、当業者がならば、使用可能なプロモーターを決定することができる。 2−以下:・目的遺伝子を担持および発現する発現ベクターを導入すること・遺伝子の付加的コピーをその微生物の染色体へ導入することによる、メチルグリオキサール還元に関与する目的遺伝子の複数のコピーの、微生物への導入。 本発明の特定の実施態様では、次の遺伝子:yqhD、yafB、ydhF、ycdW、yqhE、yeaE、yghZ、yajO、tas、ydjGおよびydbCのうちの少なくとも1つが過剰発現される。該遺伝子はメチルグリオキサールをアセトールへ変換可能な酵素をコードする。好ましくは、yqhD遺伝子が単独でまたは遺伝子と組み合わせて過剰発現される。 本発明の別の実施態様では、増強されたメチルグリオキサール活性を有する微生物がさらに改変される。 好ましくは、本発明の微生物は増強されたメチルグリオキサールシンターゼ活性を提供する。有利には、これはDHAPのメチルグリオキサールへの変換に関与するメチルグリオキサールシンターゼをコードするmgsA遺伝子の発現の増強によって得られる。 この増強された酵素活性を得るための別法は、天然タンパク質よりも高い活性を呈する遺伝子産物の翻訳を可能とする特異的な突然変異をmgsA遺伝子に導入することである。 好ましくは、本発明の微生物において、Entner-Doudoroff経路に関与する少なくとも1つの遺伝子が減弱される。Entner-Doudoroff経路は、解糖の他に、グルコースをグリセルアルデヒド3リン酸とピルビン酸に分解する別の方法を提供する。Entner-Doudoroff経路の減弱は、ほとんどの、または良ければ全てのグルコースが解糖により分解され、1,2−プロパンジオールの製造に利用されることを保証する。 好ましくは、次の遺伝子:edd、edaの少なくとも1つの発現が減弱される。 「酵素の活性の減弱」とは、改変前の同じ微生物で観察された活性に比べた、目的酵素の活性の低下を指す。当業者ならばこの結果を得るための多数の手段を知っており、例えば、下記のものがある:・その遺伝子への、この遺伝子の発現レベルまたはコードされているタンパク質の活性のレベルを低下させる突然変異の導入、・その遺伝子の天然プロモーターの、より低い発現をもたらす強度の低いプロモーターでの置換、・対応するメッセンジャーRNAまたはタンパク質を脱安定化するエレメントの使用、・発現が全く必要でないならば、その遺伝子の欠失。 本発明において「遺伝子の発現の減弱」とは、遺伝子の発現の部分的なまたは完全な抑制を表し、その後、それは「減弱された」と言われる。この発現の抑制は、その遺伝子の発現の阻害、その遺伝子発現に必要なプロモーター領域の全てもしくは一部の欠失、またはその遺伝子のコード領域の欠失のいずれかであり得る。好ましくは、遺伝子の減弱は本質的にその遺伝子の完全な欠失であり、その遺伝子は、本発明の株の同定、単離および精製を助ける選択マーカー遺伝子で置換することができる。遺伝子は好ましくは、相同組換えの技術によって不活性化される(Datsenko, K.A. & Wanner, B. L. (2000) "One-step inactivation of chromosomal genes in Escherichia coli K- 12 using PCR products". Proc. Natl. Acad. Sci. USA 97: 6640-6645)。 本発明の別の実施態様では、メチルグリオキサールから乳酸への変換に関与する少なくとも1つの酵素の活性が減弱される。この減弱の目的は、利用可能なメチルグリオキサールが本質的に1,2−プロパンジオールの合成のために細胞機構によって用いられるというものである(図1参照)。 メチルグリオキサールの、乳酸への変換に関与する遺伝子としては特に下記のものがある:・メチルグリオキサールからのラクトイルグルタチオンの合成を触媒するグリオキサラーゼIをコードするgloA遺伝子、・ラクトアルデヒドデヒドロゲナーゼ((S)ラクトアルデヒドからの(S)乳酸の合成を触媒する)をコードするaldAおよびaldB遺伝子。 これらの遺伝子の1以上を微生物において減弱するのが有利である。好ましくは、遺伝子gloAを減弱するか、または完全に欠失させる。 本発明の微生物において、乳酸、エタノールおよびギ酸などの副生成物の合成に関与する少なくとも1つの酵素が減弱されることが好ましい。 特に、ピルビン酸からの乳酸の合成を触媒する乳酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子ldhA、およびアセチル−CoAからのエタノールの合成を触媒するアルコール−アルデヒドデヒドロゲナーゼをコードする遺伝子adhEを減弱することが有利である。 同様に、アセチル−CoAとギ酸の代わりに、ピルビン酸から、アセチル−CoA CO2とNADHを生産するために微生物にピルビン酸デヒドロゲナーゼ複合体を使用させることもできる。これは、ピルビン酸ギ酸リアーゼをコードする遺伝子pflAおよびpflBを減弱することによって達成することができる。 本発明の別の特定の実施態様では、副生成物である酢酸の合成が、その合成に関与する少なくとも1つの酵素を減弱することにより妨げられる。1,2−プロパンジオールの製造を至適化するためにはこのような酢酸合成を回避することが好ましい。 酢酸の生産を妨げるためには、ackA、ptaおよびpoxBから選択される少なくとも1つの遺伝子を減弱するのが有利である。これらの遺伝子は全て、異なる酢酸生合成経路(図1参照)に関与する酵素をコードしている。 本発明の特定の実施態様では、トリオースリン酸イソメラーゼ活性が減弱される。好ましくは、この結果はtpiA遺伝子の発現を減弱することにより達成される。このtpiA遺伝子は、DHAPの、グリセルアルデヒド3リン酸への変換を触媒する酵素「トリオースリン酸イソメラーゼ」をコードしている(図1参照)。この遺伝子の発現の減弱により、代謝されたグルコースの半分が1,2−プロパンジオールおよび/またはアセトールへ変換されることが確実となる。 本発明の特定の実施態様では、グリセルアルデヒド3リン酸デヒドロゲナーゼ活性が減弱される。グリセルアルデヒド3リン酸デヒドロゲナーゼは、GAPDHとも呼ばれ、グルコースの、ピルビン酸への解凍変換に関与する重要な酵素の1つである。この酵素の減弱の結果、GA3Pの一部が1,2−プロパンジオールおよび/またはアセトールの合成に向け直される。そして、1,2−プロパンジオール/グルコースの収量は1モル/モルより大きくなり得る。このグリセルアルデヒド3リン酸デヒドロゲナーゼの活性は、野生型GADPHの通常活性の約30%未満、より好ましくは10%未満であるのが有利である。 好ましくは、GAPDHをコードするgapA遺伝子の発現が減弱される。 好ましくは、本発明の微生物において、糖移入の効率が高められる。gapA遺伝子発現の強い減弱はGAPDH反応において50%を超える炭素フラックスの低下をもたらし、この結果、移入グルコース1モル当たり1モル未満のPEPが合成される。移入はグルコース6リン酸を生じるPEPからグルコースへのホスホ転移と結びついていることから、PEPは、細胞への単純糖の移入に通常用いられる糖ホスホトランスフェラーゼ系(PTS)により必要とされる。よって、PEP量を減らすと、糖移入に負の影響が及ぶ。 本発明の特定の実施態様では、糖はホスホエノールピルビン酸とは独立の糖移入系によって微生物に移入され得る。リン酸化を含まない遺伝子galPによりコードされているガラクターゼ−プロトン共輸送体が利用可能である。この場合、移入したグルコースは、glk遺伝子によりコードされているグルコースキナーゼ活性によってリン酸化されなければならない。この経路を促進するために、galPおよびglkから選択される少なくとも1つの遺伝子の発現が増強される。結果として、PTSは分配可能となり、それはptsH、ptsIまたはcrrから選択される少なくとも1つの遺伝子を減弱することによって排除することができる。 本発明の別の特定の実施態様では、糖ホスホトランスフェラーゼ系(PTS)の効率が、代謝産物ホスホエノールピルビン酸のアベラビリティーを高めることによって増強される。gapA活性の減弱およびピルビン酸へ向かう炭素フラックスのために、本発明の改変株におけるPEPの量は限定され、細胞へ輸送されるグルコースの量が少なくなり得る。 微生物株においてPEPのアベラビリティーを高めるために使用可能な様々な手段がある。特に、PEP→ピルビン酸の反応を減弱する手段がある。好ましくは、この結果を得るために前記の株においてピルビン酸キナーゼ酵素をコードするpykAおよびpykFから選択される少なくとも1つの遺伝子が減弱される。PEPのアベラビリティーを高める別法は、この酵素の活性を高めることによってホスホエノールピルビン酸シンターゼにより触媒されるピルビン酸→PEPの反応に有利になるようにすることである。この酵素はppsA遺伝子によりコードされている。よって、好ましくは、この微生物において、ppsA遺伝子の発現が好ましくは増強される。両改変が微生物に同時に存在してもよい。 本発明の特定の実施態様では、改変微生物は、主として1,2−プロパンジオールを生産するように設計される。この結果はアセトールおよび他の前駆体(例えば、ラクトアルデヒド)の、1,2−プロパンジオールへの変換に有利となるようにすることによって達成される。これには、下記が含まれる。・グリセロールデヒドロゲナーゼ活性を増強すること。好ましくは、gldA遺伝子の発現が増強される。・好ましくはfucO遺伝子の発現を増強することにより、1,2−プロパンジオールオキシドレダクターゼ活性を増強すること。 特に嫌気性または微好気性条件下で、ピルビン酸の、アセチルCoAへの代謝に有利な酵素(特に、ピルビン酸デヒドロゲナーゼ複合体)がNADHによる阻害に対して低い感受性を有することが有利である。より低い感受性とは、野生型酵素の感受性に対して定義される。このような特徴は、酵素のタンパク質配列においてアラニン55のバリン残基による置換をもたらす、lpd遺伝子(PDCのサブユニットのリポアミドデヒドロゲナーゼをコードする)における特異的突然変異によって得ることができる。 嫌気性または微好気性条件下で、前駆体の、1,2−プロパンジオールへの還元に関するNADHのアベラビリティーが高められることが有利である。これは、グローバルレギュレーターArcA(arcA遺伝子によりコードされている)により媒介されるトリカルボン酸サイクルに対する抑制を軽減することにより得られる。細胞のNADH濃度はまた、遺伝子ndhによりコードされているNADHデヒドロゲナーゼを不活性化することにより増強され得る。よって、好ましくは、arcAおよびndhから選択される少なくとも1つの遺伝子の発現が減弱される。 好ましくは、主として1,2−プロパンジオールを生産するように設計される微生物は細菌、酵母または真菌から選択される。より好ましくは、微生物は腸内細菌科、バチルス科、クロストリジウム科、ストレプトミセス科およびコリネバクテリア科から選択される。いっそうより好ましくは、微生物は大腸菌種またはクロストリジウム・アセトブチリカム種のいずれかに由来するものである。 本発明の別の特定の実施態様では、改変微生物は主としてアセトールを生産するように設計される。好ましくは、この結果は、アセトールの1,2−プロパンジオールへの変換に関与する少なくとも1つの酵素の活性を減弱することにより達成される。好ましくは、gldA遺伝子の発現が減弱される。 有利には、主としてアセトールを生産するように設計される微生物は細菌、酵母または真菌である。より好ましくは、微生物は腸内細菌科、バチルス科、ストレプトミセス科およびコリネバクテリア科の種から選択される。いっそうより好ましくは、微生物は大腸菌種または肺炎桿菌種のいずれかに由来するものである。 本発明はまた、本発明の微生物が炭素源を含有する適切な増殖培地で増殖され、生成された1,2−プロパンジオールが回収される、1,2−プロパンジオールを製造するための方法に関する。1,2−プロパンジオールの製造は好気性、微好気性または嫌気性条件下で行われる。 一つの実施態様において、大腸菌種の微生物が、単純炭素源を含有する適切な増殖培地で増殖される。 別の実施態様では、クロストリジウム・アセトブチリカム種の微生物が単純炭素源または複合炭素源を含有する適切な増殖培地で増殖される。 有利には、回収された1,2−プロパンジオールがさらに精製される。 本発明はまた、本発明の微生物が単純炭素源を含有する適切な増殖培地で増殖され、生成したアセトールが回収される、アセトールを製造するための方法に関する。アセトールの製造は、好気性または微好気性条件下、好ましくは好気性条件下で行われる。 有利には、回収されたアセトールがさらに精製される。 発酵工程のための培養条件は、当業者ならば容易に定義することができる。特に、細菌は20℃〜55℃の間、好ましくは25℃〜40℃の間の温度、好ましくは、C.アセトブチリカムでは約35℃、大腸菌および肺炎桿菌(K. pneumoniae)では約37℃で発酵される。 この工程は回分法、流加法または連続法のいずれかで行うことができる。 「好気性条件下」とは、酸素が、液体相に気体を溶解させることにより培養物に供給されることを意味する。これは、(1)酸素を含有する気体(例えば、空気)を液体相に散布すること、または(2)培養培地を含有する容器を振盪して、上部空間に含まれている酸素を液体相に送ることにより得ることができる。嫌気性条件下ではなく好気性条件下での発酵の利点は、電子受容体としての酸素の存在が、その株の、細胞プロセスのためにより多くのエネルギーをATP形態で生産する能力を改良するということである。従って、その株はその全般的代謝が改良されている。 微好気性条件は、低パーセンテージの酸素(例えば、0.1〜10%の間の酸素を含み、窒素で100%とした混合物を用いる)が液体相に溶解される培養条件として定義される。 嫌気性条件は、培養培地に酸素が供給されない培養条件として定義される。厳密な嫌気性条件は、他の気体の痕跡を除去するために培養培地に窒素のような不活性ガスを散布することにより得られる。硝酸を電子受容体として用い、株によるATP生産を改良し、その代謝を改良することができる。 本発明において「適切な増殖培地」とは、微生物の増殖に適合した既知のモル構成の培地を表す。例えば、少なくとも1つの炭素源を含有し、使用する細菌に適合した既知の設定構成の無機培養培地である。従って、大腸菌および肺炎桿菌用の無機増殖培地は、特に、M9培地(Anderson, 1946, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 32:120-128)、M63培地(Miller, 1992; A Short Course in Bacterial Genetics: A Laboratory Manual and Handbook for Escherichia coli and Related Bacteria, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, New York) と同一もしくは類似の組成のもの、またはSchaefer et al. (1999, Anal. Biochem. 270: 88-96)により定義されているものなどの培地、および下記のMPGと呼ばれる最小培養培地であり得る。 大腸菌または肺炎桿菌の培養に用いる炭素源は好ましくは単純炭素源であり、アラビノース、フルクトース、ガラクトース、グルコース、ラクトース、マルトース、スクロースまたはキシロースであり得る。特に好ましい単純炭素源はグルコースである。 従って、C.アセトブチリカム用の増殖培地は、クロストリジウム増殖培地(CGM, Wiesenborn et al., Appl. Environm. Microbiol., 54: 2717-2722)またはMonot et al. (Appl. Environm. Microbiol., 44: 1318-1324)もしくはVasconcelos et al. (J. Bacterid., 176: 1443-1450)により示されているような無機増殖培地と同一もしくは類似の組成のものであり得る。C.アセトブチリカムの培養に用いられる炭素源は単純炭素または複合炭素のいずれかである。単純炭素源はアラビノース、フルクトース、ガラクトース、グルコース、ラクトース、マルトース、スクロースまたはキシロースであり得る。特に好ましい単純炭素源はグルコースである。複合炭素源はデンプンまたはヘミセルロースであり得る。特に好ましい複合炭素源はデンプンである。 本発明は上記、下記および大腸菌に関して実施例に記載されている。よって、本発明の始原株および進化株に関して減弱、欠失または過剰発現可能な遺伝子は、主として大腸菌由来の遺伝子の名称を用いて定義される。しかしながら、この名称は本発明によればより一般的な意味を持ち、他の微生物において対応する遺伝子も包含する。当業者ならば、大腸菌由来の遺伝子のGenBank参照番号を用いて、大腸菌以外の生物における等価な遺伝子を同定することができる。 相同配列の同定の手段およびそれらの相同性%は当業者によく知られており、特に、ウェブサイトhttp://www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/で、このウェブサイトに示されているデフォルトパラメーターとともに使用することができるBLASTプログラムを含む。得られた配列は、例えばCLUSTALWプログラム(http://www.ebi.ac.uk/clustalw/)を、これらのウェブサイトに示されているデフォルトパラメーターとともに用いて利用(アライン)することができる。 PFAMデータベース(protein families database of alignments and Hidden Markov Models http://www.sanger.ac.uk/Software/Pfam/)は、タンパク質配列アライメントの大きなコレクションである。各PFAMは、複数のアライメントの可視化、タンパク質ドメインの観測、生物間での分布の評価、他のデータベースへのアクセスの確保および既知のタンパク質構造の可視化を可能とする。 COG(Clusters of Orthologous Groups of protein http://www.ncbi.nlm.nih. gov/COG/)は、44の主要な系統発生論的系統を表す66の完全に配列決定された単細胞ゲノムに由来するタンパク質配列を比較することにより得られる。各COGは少なくとも3つの系統から定義され、古くから保存されていたドメインの同定が可能となる。参照文献(本明細書に引用されている順)実施例1:ケモスタットで培養された大腸菌株MG1655 lpd*,ΔtpiA,ΔpflAB,ΔadhE,ldhA::km,ΔgloA,ΔaldA,ΔaldB,Δeddにおけるメチルグリオキサールの還元に関与する酵素の抽出、精製および同定a)メチルグリオキサールの還元に関与するNADH依存性またはNADPH依存性酵素の精製方法: メチルの還元に関与するNADH依存性またはNADPH依存性酵素を精製するために設計された全精製工程は5つの段階からなる。各段階で、標的酵素を酵素活性アッセイにより検出した。2つの酵素活性を測定した:1)NADPH依存性メチルグリオキサール還元、2)NADH依存性メチルグリオキサール還元。 1)厳密な嫌気性条件下または微好気性条件下のいずれかで行った大腸菌MG 1655 lpd*,ΔtpiA,ΔpflAB,ΔadhE,ldhA::km,ΔgloA,ΔaldA,ΔaldB,Δedd(株の構築については、WO2005/073364を参照)のケモスタット培養から微生物バイオマスを回収した。 2)これらの細胞を遠心分離により採取し、5mM DTTを含む50mM HEPESバッファーpH7.5で2回洗浄し、同じバッファーに再懸濁させた後、−20℃で保存した。 3)これらの細胞を音波処理により破砕した(0℃、嫌気性条件下、各サイクルの間にプロテアーゼ阻害剤の存在下での2分を挟んで、30秒4サイクル)。細胞残渣を遠心分離により除去し、細胞ホモジネート中に存在する核酸を硫酸ストレプトマイシン処理により沈殿させるか、酵素処理(ベンゾナーゼ)により加水分解した(表I)。 表1によれば、硫酸ストレプトマイシン処理の方が有効であり、高い比活性をもたらす。これにより、目的酵素の生物活性を維持しながら夾雑物(核酸および望まないタンパク質)を除去することが可能となる。 4)硫酸ストレプトマイシンで処理された細胞ホモジネートを遠心分離し、AKTA精製系に接続し、5mM DTTを含む50mM HEPESバッファーで平衡化した陰イオン交換クロマトグラフィーカラム(Ressource Q, Amersham Bioscience)に適用した。タンパク質の分離をpH7または7.5または8で行った。タンパク質を連続KCl勾配(2%)により溶出し、個々の画分として回収した。 5)酵素活性を含む溶出画分をプールし、5mM DTTを含む50mM HEPESバッファーで平衡化した疎水性相互作用クロマトグラフィーカラム(Hitrap phenyl sepharose, Amersham Biosciences)に適用した。 必要であれば、ゲル浸透クロマトグラフィーの最終工程を加えてもよい。 各工程の後に、収率および精製倍率を求めた。最終の精製工程の後、活性画分中に残留するタンパク質をSDSポリアクリルアミドゲルにより分離した。目的タンパク質は、画分の活性とスポットの大きさを相関させることによって同定した。タンパク質スポットを切り出し、洗浄し、特異的プロテアーゼで消化し(トリプシン消化)、質量分析(LC−MS/MSおよびMALDI)を行って同定した。b)嫌気性条件下で増殖させた大腸菌MG1655 lpd*,ΔtpiA,ΔpflAB,ΔadhE,ldhA::km,ΔgloA,ΔaldA,ΔaldB,Δeddにおける、メチルグリオキサール還元に関与する酵素の同定 陰イオン交換クロマトグラフィー(pH7)と、その後の疎水性相互作用クロマトグラフィーを用いた精製工程の結果、メチルグリオキサールを還元する2つのNADPH依存性酵素:yqhD遺伝子によりコードされているYQHD(42KDa)およびydhF遺伝子によりコードされているYDHF(33KDa)が同定された(図2)。第三の酵素も、NADH依存性およびNADPH依存性のメチルグリオキサール還元において活性があることが判明した(gldA遺伝子によりコードされているグリセロールデヒドロゲナーゼ)。 陰イオン交換クロマトグラフィーをpH8で行った後に、疎水性相互作用クロマトグラフィーを行い、ゲル浸透クロマトグラフィーの最終工程を行うと、メチルグリオキサールを還元する別のNADPH依存性酵素:dkgB(yafB)遺伝子によりコードされている2.5−ジケト−D−グルコン酸レダクターゼB(29KDa)が同定された。c)微好気性条件下で増殖された大腸菌MG 1655 lpd*,ΔtpiA,ApflAB,ΔadhE,ldhA::km,ΔgloA,ΔaldA,ΔaldB,Δeddにおける、メチルグリオキサール還元に関与する酵素の同定 陰イオン交換クロマトグラフィー(pH7.5)を用いて設計された精製工程の結果、NADPH依存性のメチルグリオキサール還元を触媒するycdW遺伝子によりコードされているYCDWと呼ばれる36KDaタンパク質が同定された。 陰イオン交換クロマトグラフィーをpH7.5で行った後に疎水性相互作用クロマトグラフィーを行うと、メチルグリオキサールの還元を触媒する他の2つのNADPH依存性酵素:yqhD遺伝子によりコードされているYQHD(42KDa)(すでに嫌気性条件下で増殖させた細胞から精製)およびdkgA(yqhE)遺伝子によりコードされている2.5−ジケト−D−グルコン酸レダクターゼA(31KDa)が同定された。実施例2:メチルグリオキサール還元における遺伝子の関与を評価するための、大腸菌株MG1655 lpd*,ΔtpiA,ApflAB,ΔadhE,ΔldhA::cm,ΔgloA,ΔaldA,ΔaldB,Δeddにおける欠失ΔyqhD,ΔyafB,ΔydhFおよびΔycdWの導入a)改変大腸菌株MG1655 lpd*,ΔtpiA,ΔpflAB,ΔadhE,ldhA::km,ΔgloA,ΔaldA,ΔaldB,Δeddの構築 プロトコール1に従い、大腸菌株MG1655 lpd*,ΔtpiA,ΔpflAB,ΔadhE,ldhA::km,ΔgloA,ΔaldA,ΔaldB,Δedd::cmにおいてクロラムフェニコール耐性カセットを除去した。 プロトコール1:耐性カセットの除去 クロラムフェニコールおよび/またはカナマイシン耐性カセットを以下の技術に従って除去した。クロラムフェニコールおよび/またはカナマイシン耐性カセットのFRT部位にFLPレコンビナーゼ作用を有するプラスミドpCP20をエレクトロポレーションによりこの株へ導入した。42℃で連続培養した後、これらの抗生物質耐性カセットの欠損を、表2に示されたオリゴヌクレオチドを用いたPCR分析により確認した。 この株において予め確立されている改変の存在を、表2に示されたオリゴヌクレオチドを用いて確認した。 得られた株を大腸菌MG1655 lpd*,ΔtpiA,ΔpflAB,ΔadhE,ldhA::km,ΔgloA,ΔaldA,ΔaldB,Δeddと命名した。b)改変大腸菌株MG1655 lpd*,ΔtpiA,ΔpflAB,ΔadhE,ΔldhA::cm,ΔgloA,ΔaldA,ΔaldB,Δeddの構築 カナマイシン耐性カセットを除去するため、およびldhA遺伝子を不活性化するために、プロトコール2に従い、関連遺伝子の大部分を欠失したldhA遺伝子にクロラムフェニコール耐性カセットを挿入した。 プロトコール2:組換えのためのPCR産物の導入および組換え体の選択 遺伝子または遺伝子間領域の置換のために選択され、表3に示されたオリゴヌクレオチドを用い、プラスミドpKD3由来のクロラムフェニコール耐性カセットまたはプラスミドpKD4由来のカナマイシン耐性カセットを増幅した(Datsenko, K.A. & Wanner, B.L. (2000))。次に、得られたPCR産物を、そこで発現したλ Red(γβ,exo)系が相同組換えに極めて有利である、プラスミドpKD46を担持するレシピエント株にエレクトロポレーションにより導入した。その後、抗生物質耐性形質転換体を選択し、その耐性カセットの挿入を、表2に示された適切なオリゴヌクレオチドを用いた分析により確認した。 この株の他の改変も、表2に示されたオリゴヌクレオチドを用いて確認した。 得られた株を大腸菌MG1655 lpd*,ΔldhA::cmΔtpiA,ΔpflAB,ΔadhE,ΔgloA,ΔaldA,ΔaldB,Δeddと命名した。c)改変大腸菌株MG1655 lpd*,ΔtpiA,ΔpflAB,ΔadhE,ΔldhA,ΔgloA,ΔaldA,ΔaldB,Δedd,ΔyqhDの構築 大腸菌株MG1655 lpd*,ΔtpiA,ΔpflAB,ΔadhE,ΔldhA::cm,ΔgloA,ΔaldA,ΔaldB,Δeddにおいて、プロトコール2に記載の技術を表3に示されたオリゴヌクレオチドとともに用い、カナマイシン抗生物質耐性カセットを挿入し、関連遺伝子の大部分を欠失させることにより、yqhD遺伝子を不活性化した。 得られた株を大腸菌MG1655 lpd*,ΔtpiA,ΔpflAB,ΔadhE,ΔldhA::cm,ΔgloA,ΔaldA,ΔaldB,Δedd,ΔyqhD::kmと命名した。 この株の他の改変も、表2に示されたオリゴヌクレオチドを用いて確認した。 次に、クロラムフェニコール耐性カセットおよびカナマイシン耐性カセットをプロトコール1に従って除去した。 得られた株を大腸菌MG1655 lpd*,ΔtpiA,ΔpflAB,ΔadhE,ΔldhA,ΔgloA,ΔaldA,ΔaldB,Δedd,ΔyqhDと命名した。d)改変大腸菌株MG1655 lpd*,ΔtpiA,ΔpflAB,ΔadhE,ΔldhA,ΔgloA,ΔaldA,ΔaldB,Δedd,ΔyafBの構築 大腸菌株MG1655において、プロトコール2に記載の技術を表3に示されたオリゴヌクレオチドとともに用い、カナマイシン抗生物質耐性カセットを挿入し、関連遺伝子の大部分を欠失させることによりyafB遺伝子を不活性化した。得られた株を大腸菌MG1655 ΔyafB::kmと命名した。 大腸菌株MG1655 lpd*,ΔtpiA,ΔpflAB,ΔadhE,ΔldhA::cm,ΔgloA,ΔaldA,ΔaldB,Δeddにおける、その遺伝子をカナマイシン耐性カセットで置換することによるyafB遺伝子の欠失は、ファージP1を用いた形質導入技術によって行った。 プロトコール3:遺伝子欠失のためのファージP1を用いた形質導入 レシピエント大腸菌における、その遺伝子を耐性カセット(カナマイシンまたはクロラムフェニコール)で置換することによる選択された遺伝子の欠失は、ファージP1を用いた形質導入技術によって行った。プロトコールは、(i)単一の遺伝子が欠失したMG1655株でのファージ溶解液の作製、および(ii)このファージ溶解液によるレシピエント株の形質導入の二段階であった。 ファージ溶解液の作製・10mlのLB+Cm 30μg/ml+グルコース0.2%+CaCl2 5mMでの、単一の遺伝子が欠失したMG1655株の一晩培養物100μlを播種する。・振盪しながら37℃で30分インキュベーション。・野生株MG1655で作製したファージP1溶解液100μl(およそ1×109ファージ/ml)を加える。・37℃で3時間、全ての細胞が溶解するまで振盪する。・200μlのクロロホルムを加え、ボルテックスにかける・・4500gで10分の遠心分離を行い、細胞残渣を除去する。・上清を無菌試験管に移し、200μlのクロロホルムを加える。・この溶解液を4℃で保存する。 形質導入・LB培地中、大腸菌レシピエント株の一晩培養物5mlを1500gで10分遠心分離する。・この細胞ペレットを2.5mlのMgSO4 10mM、CaCl2 5mM中に懸濁させる。・対照試験管:細胞100μl 単一の遺伝子が欠失したMG1655株のファージP1 100μl・試験管試験:細胞100μl+単一の遺伝子が欠失したMG1655株のファージP1 100 μl・振盪せずに30℃で30分インキュベーション。・各試験管に1Mクエン酸ナトリウム100μlを加え、ボルテックスにかける。・1mlのLBを加える。・振盪しながら37℃で1時間インキュベーション。・試験管を7000rpmで3分遠心分離した後、ディッシュ上、LB+Cm30μg/mlでプレーティング。・37℃で一晩インキュベーション。 次に、抗生物質耐性形質転換体を選択し、欠失の挿入を、表1に示された適切なオリゴヌクレオチドを用いたPCR分析により確認した。 この株の他の改変も、表2に示されたオリゴヌクレオチドを用いて確認した。 得られた株を大腸菌MG1655 lpd*,ΔtpiA,ΔpflAB,ΔadhE,ΔldhA::cm,ΔgloA,ΔaldA,ΔaldB,Δedd,ΔyafB::kmと命名した。 次に、プロトコール1に従い、クロラムフェニコール耐性カセットおよびカナマイシン耐性カセットを除去した。 得られた株を大腸菌MG1655 lpd*,ΔtpiA,ΔpflAB,ΔadhE,ΔldhA,ΔgloA,ΔaldA,ΔaldB,Δedd,ΔyqfBと命名した。e)改変大腸菌株MG1655 lpd*,ΔtpiA,ΔpflAB,ΔadhE,ΔldhA,ΔgloA,ΔaldA,ΔaldB,Δedd,ΔydhFの構築 大腸菌株MG1655 lpd*,ΔtpiA,ΔpflAB,ΔadhE,ΔldhA::cm,ΔgloA,ΔaldA,ΔaldB,Δeddにおいて、プロトコール2に記載の技術を表3に示されたオリゴヌクレオチドとともに用い、カナマイシン抗生物質耐性カセットを挿入し、関連遺伝子の大部分を欠失させることにより、ydhF遺伝子を不活性化した。得られた株を大腸菌MG1655 lpd*,ΔtpiA,ΔpflAB,ΔadhE,ΔldhA::cm,ΔgloA,ΔaldA,ΔaldB,Δedd,ΔydhF::kmと命名した。 この株の他の改変も、表2に示されたオリゴヌクレオチドを用いて確認した。 次に、プロトコール1に従い、クロラムフェニコール耐性カセットおよびカナマイシン耐性カセットを除去した。 得られた株を大腸菌MG1655 lpd*,ΔtpiA,ΔpflAB,ΔadhE,ΔldhA,ΔgloA,ΔaldA,ΔaldB,Δedd,ΔydhFと命名した。f)改変大腸菌株MG1655 lpd*,ΔtpiA,ΔpflAB,ΔadhE,ΔldhA,ΔgloA,ΔaldA,ΔaldB,Δedd,ΔycdWの構築 大腸菌株MG1655において、プロトコール2に記載の技術を表3に示されたオリゴヌクレオチドとともに用い、カナマイシン抗生物質耐性カセットを挿入し、関連遺伝子の大部分を欠失させることにより、ycdW遺伝子を不活性化した。得られた株を大腸菌MG1655 ΔycdW::kmと命名した。 大腸菌株MG1655 lpd*,ΔtpiA,ΔpflAB,ΔadhE,ΔldhA::cm,ΔgloA,ΔaldA,ΔaldB,Δeddにおける、その遺伝子をカナマイシン耐性カセットで置換することによるycdW遺伝子の欠失は、プロトコール3に記載のファージP1を用いた形質導入技術によって行った。MG1655 ΔycdW::km株においてファージP1の溶解液を得、このファージ溶解液を用い、大腸菌株MG1655 lpd*,ΔtpiA,ΔpflAB,ΔadhE,ΔldhA::cm,ΔgloA,ΔaldA,ΔaldB,Δeddの形質導入を行った。 得られた株を大腸菌MG1655 lpd*,ΔtpiA,ΔpflAB,ΔadhE,ΔldhA::cm,ΔgloA,ΔaldA,ΔaldB,Δedd,ΔycdW::kmと命名した。 この株の他の改変も、表2に示されたオリゴヌクレオチドを用いて確認した。 次に、プロトコール1に従い、クロラムフェニコール耐性カセットおよびカナマイシン耐性カセットを除去した。 得られた株を大腸菌MG1655 lpd*,ΔtpiA,ΔpflAB,ΔadhE,ΔldhA,ΔgloA,ΔaldA,ΔaldB,Δedd,ΔycdWと命名した。f)同定されたメチルグリオキサールレダクターゼをコードする遺伝子に欠失を有する株の培養 欠失ΔyqhD,ΔyafB,ΔydhFおよびΔycdWを有する4つの株をエルレンマイヤーフラスコ内、微好気性条件下、pH6.7のMPG培地中、37℃で培養した。 培養72時間後、アセトールおよび1,2−プロパンジオールの生産を培養上清においてHPLCにより測定した。結果を表4に示す。 これらの結果は、同定されたメチルグリオキサールレダクターゼの全てが、メチルグリオキサールのアセトールへの、さらに1,2−プロパンジオールへの変換に関与していることを示した。yqhDの欠失の結果、おそらくメチルグリオキサールの蓄積のために強い増殖阻害が生じた。また、yqfBおよびydhFの欠失もアセトールおよび1,2−プロパンジオールの生産に主要な影響を持つ。実施例3:大腸菌MG1655(pME101VB01−yqhD−mgsA−gldA)、大腸菌MG1655(pME101VB01−yafB−mgsA−gldA)および大腸菌MG1655(pME101VB01−yqhE−mgsA−gldA)の改変株の構築 1,2−プロパンジオールの生産を高めるために、trcプロモーターを用い、遺伝子の種々の組合せをプラスミドpME101VB01から発現させた。a)プラスミドpME101VB01の構築 プラスミドpME101VB01はプラスミドpME101に由来し、希少な制限エンドヌクレアーゼNheI、SnaBI、PacI、BglII、AvrII、SacIIおよびAgeIに特異的な認識部位配列とその後にクロストリジウム・アセトブチリカムATCC824のadc転写ターミネーターを含む多重クローニング部位を担持している。 低コピーベクターからの発現のために、プラスミドpME101を次のように構築した。プラスミドpCL1920(Lerner & Inouye, 1990, NAR 18, 15 p 4631 - GenBank AX085428)を、オリゴヌクレオチドPME101FおよびPME101RならびにlacI遺伝子を担持するベクターpTrc99A(Amersham Pharmacia Biotech, Piscataway, NJ)由来のBstZ17I−XmnI断片を用いてPCR増幅し、増幅されたベクターにtrcプロモーターを挿入した。 PME101F(配列番号55):ccgacagtaagacgggtaagcctg PME101R(配列番号56):agcttagtaaagccctcgctag 多重クローニング部位とadc転写ターミネーターを含む合成二本鎖核酸リンカーを用いてpME101VB01を作製した。NcoIまたはHindIIIで消化された制限部位によってフランキングされた、相補的な2つの100塩基のオリゴヌクレオチドをアニーリングさせた。この100塩基対の産物をNcoI/HindIIIで消化されたプラスミドpME101にサブクローニングしてpME101VB01を作製した。 pME101VB01 1は、100塩基(配列番号57):catgggctagctacgtattaattaaagatctcctaggagctcaccggtTAAAAATAAGAGTTACCTTAAATGGTAACTCTTATTTTTTTAggcgcgccaからなり、 pME101VB01 2は、100塩基(配列番号58):agcttggcgcgccTAAAAAAATAAGAGTTACCATTTAAGGTAACTCTTATTTTTAaccggtgagctccctagagatctttaattaatacgtagctagccからなり、・多重クローニング部位に対応する領域(下線の小文字)・クロストリジウム・アセトブチリカムATCC 824pSOL1(NC_001988)のadc転写ターミネーター(配列179847〜179814)に相当する領域(大文字)を含む。b)1,2−プロパンジオールの生合成経路の遺伝子の種々の組合せを発現させるためのプラスミドの構築(pME101VB01−yqhD−mgsA−gldA、pME101VB01−yafB−mgsA−gldAおよびpME101YB01−yqhE−mgsA−gldA) 表1に示されたオリゴヌクレオチドを用い、大腸菌MG1655のゲノムDNAから種々の遺伝子をPCR増幅した。 PCR増幅した断片を表5に示される制限酵素で切断し、プラスミドpME101VB01の制限部位へクローニングした。次のプラスミドを構築した:pME101VB01−yqhD−mgsA−gldA、pME101VB01−yqfβ−mgsA−gldAおよびpME101VB01−yqhE−mgsA−gldA。 次に、これらのプラスミドを大腸菌MG1655株に導入した。実施例4:1,2−プロパンジオールを高収量で生産し得る大腸菌MG1655 Ptrc16−gapA,Δedd−eda,ΔgloA,ΔpykA,ΔpykF(pME101VB01−yqhD−mgsA−gldA),(pJB137−PgapA−ppsA)、大腸菌MG1655 Ptrc16−gapA,Δedd−eda,ΔgloA,ΔpykA,ΔpykF(pME101VB01−yqfB−mgsA−gldA),(pJB137−PgapA−ppsA)および大腸菌MG1655 Ptrc16−gapA,Δedd−eda,ΔgloA,ΔpykA,ΔpykF(pME101VB01−yqhE−mgsA−gldA),(pJB137−PgapA−ppsA)の改変株の構築 大腸菌MG1655株における天然gapAプロモーターの、合成ショートPtrc16プロモーター(配列番号69:gagctgttgacgattaatcatccggctcgaataatgtgtgg)での置換は、プロトコール2に記載の技術を表3に示されたオリゴヌクレオチドとともに用い、225pbの上流gapA配列をFRT−CmR−FRTおよび操作プロモーターで置換することにより行う。 耐性カセットの挿入は、表2に示されたオリゴヌクレオチドを用いたPCR分析により確認した。 得られた株を大腸菌MG1655 Ptrc16−gapA::cmと命名した。 大腸菌MG1655株において、プロトコール2に記載の技術を表3に示されたオリゴヌクレオチドとともに用い、カナマイシン抗生物質耐性カセットを挿入し、関連遺伝子の大部分を欠失させることにより、edd−eda遺伝子を不活性化した。得られた株を大腸菌MG1655 Δedd−eda::kmと命名した。 この欠失を、プロトコール3に従い、大腸菌株MG1655 Ptrc16−gapA::cmに導入した。 得られた株を大腸菌MG1655 Ptrc16−gapA::cm,Δedd−eda::kmと命名した。 次に、プロトコール1に従い、抗生物質耐性カセットを除去した。 プロトコール2に従い、表3に示されたオリゴヌクレオチドを用いてMG1655 ΔgloA::cm株を構築し、この欠失を、プロトコール3に従って予め構築した株に導入した。得られた株を大腸菌MG1655 Ptrc16−gapA,Δedd−eda,ΔgloA::cmと命名した。 先の株において、プロトコール2に従い、表3に示されたオリゴヌクレオチドを用い、カナマイシン抗生物質耐性カセットを挿入することにより、pykA遺伝子を不活性化した。得られた株を大腸菌MG1655 Ptrc16−gapA,Δedd−eda,ΔgloA::cm,ΔpykA::kmと命名した。 次に、プロトコール1に従い、抗生物質耐性カセットを除去した。プロトコール2に従い、表3に示されたオリゴヌクレオチドを用い、クロラムフェニコール抗生物質耐性カセットを挿入することにより、pykF遺伝子を不活性化した。得られた株を大腸菌MG1655 Ptrc16−gapA,Δedd−eda,ΔgloA,ΔpykA,ΔpykF::cmと命名した。 次に、プロトコール1に従い、抗生物質耐性カセットを除去した。 各段階で、それまでに構築された全ての欠失の存在を、表3に示されたオリゴヌクレオチドを用いて確認した。 ホスホエノールピルビン酸の生産を高めるために、ppsA遺伝子を、gapAプロモーターを用いてプラスミドpJB137から発現させた。プラスミドpJB137−P gapA−ppsAの構築のため、ppsA遺伝子を、以下のオリゴヌクレオチドを用いて大腸菌MG1655のゲノムDNAからPCR増幅した。1.gapA−ppsAFは、65塩基(配列番号70):ccttttattcactaacaaatagctggtggaatatATGTCCAACAATGGCTCGTCACCGCTGGTGCからなり、・ウェブサイトhttp://genolist.pasteur.fr/Colibri/)の参照配列であるppsA遺伝子(1785136〜1782758)の配列(1785106〜1785136)と相同な領域(大文字)・gapAプロモーター(1860794〜1860761)と相同な領域(小文字)を含む。2.ppsARは、43塩基(配列番号71):aatcgcaagcttGAATCCGGTTATTTCTTCAGTTCAGCCAGGCからなり、・ppsA遺伝子の領域(1785136〜1782758)の配列(1782758〜1782780)と相同な領域(小文字)・制限部位HindIII(下線の文字)を含む。 同時に、大腸菌gapA遺伝子のgapAプロモーター領域を、以下のオリゴヌクレオチドを用いて増幅した。1.gapA−ppsARは、65塩基(配列番号72):GCACCAGCGGTGACGAGCCATTGTTGGACATatattccaccagctatttgttagtgaataaaaggからなり、・ppsA遺伝子(1785136〜1782758)の配列(1785106〜1785136)と相同な領域(大文字)および・gapAプロモーター(1860794〜1860761)と相同な領域(小文字)を含む。2.gapAFは、33塩基(配列番号73):ACGTCCCGGGcaagcccaaaggaagagtgaggcからなり、・gapAプロモーター(1860639〜1860661)と相同な領域(小文字)・制限部位SmaI(下線の文字)を含む。 次に、両断片を、オリゴヌクレオチドppsARおよびgapAF(Horton et al. 1989 Gene 77:61-68)を用いて融合した。PCR増幅した断片を制限酵素HindIIIおよびSmaIで切断し、ベクターpJB137(EMBL受託番号:U75326)のHindIII/SmaI部位にクローニングし、ベクターpJB137−PgapA−ppsAを得た。 種々のpME101VB01プラスミドおよびpJB137−PgapA−ppsAを大腸菌株MG1655Ptrc16−gapA,Δedd−eda,ΔgloA,ΔpykA,ΔpykFに導入した。得られた株をそれぞれ大腸菌MG1655 Ptrc16−gapA,Δedd−eda,ΔgloA,ΔpykA,ΔpykF,pME101VB01−yqhD−mgsA−gldA,pJB137−PgapA−ppsA(株1)、大腸菌MG1655 Ptrc16−gapA,Δedd−eda,ΔgloA,ΔpykA,ΔpykF,pME101VB01−yafB−mgsA−gldA,pJB137−PgapA−ppsA(株2)および大腸菌MG1655 Ptrc16−gapA,Δedd−eda,ΔgloA,ΔpykA,ΔpykF,pME101VB01−yqhE−mgsA−gldA,pJB137−PgapA−ppsA(株3)と命名した。実施例5:好気性条件下での1,2−プロパンジオール生産に関する種々の株の比較 実施例4で記載したように得られた株(株1、2および3)および対照株(対照1:MG1655 pME101VB01−yqhD−mgsA−gldA、対照2:MG1655 pME101VB01−yafB−mgsA−gldA、対照3:MG1655 pME101YB01−yqhE−mgsA−gldAおよび対照4:MG1655 Ptrc16−gapA,Δedd−eda,ΔgloA,ΔpykA,ΔpykF)を、エルレンマイヤーフラスコ内、好気性条件下、炭素源としてグルコースを含む最小培地中で培養した。培養は34℃または37℃で行い、培養培地をMOPSで緩衝させることによりpHを維持した。培養の終了時に、発酵培養液中の1,2−プロパンジオール、アセトールおよび残留グルコースをHPLCにより分析し、グルコースに対する1,2−プロパンジオールおよびグルコースに対する1,2−プロパンジオール+アセトールを算出した。 1,2−プロパンジオールを製造するための方法であって、−大腸菌由来のyqhD遺伝子を過剰発現させることによるメチルグリオキサールレダクターゼ活性の増強、および−Entner-Doudoroff経路に関与するedd遺伝子およびeda遺伝子の少なくとも1つの欠失によって特徴づけられる、炭素源からの1,2−プロパンジオールの製造に有用な改変大腸菌が、炭素源を含有する適切な増殖培地で増殖され、生成した1,2−プロパンジオールが回収される、方法。 前記改変大腸菌において、前記過剰発現が、メチルグリオキサール還元に関与するyqhD遺伝子の天然プロモーターを該遺伝子の強レベルの発現を誘導するプロモーターに置換することによって、またはメチルグリオキサール還元に関与するyqhD遺伝子の複数のコピーを大腸菌に導入することによって得られる、請求項1に記載の方法。 前記改変大腸菌において、mgsA遺伝子の発現の増強によって、またはmgsA遺伝子に導入された特異的な突然変異によって、メチルグリオキサールシンターゼ活性が増強されている、請求項1または2に記載の方法。 前記改変大腸菌において、メチルグリオキサールから乳酸への変換に関与する次の遺伝子:gloA、aldA、aldBの少なくとも1つの発現が減弱されている、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。 前記改変大腸菌において、乳酸、ギ酸またはエタノールの合成に関与する次の遺伝子:ldhA、pflA、pflB、adhEの少なくとも1つの発現が減弱されている、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。 前記改変大腸菌において、酢酸の合成に関与する次の遺伝子:ackA、pta、poxBの少なくとも1つの発現が減弱されている、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。 前記改変大腸菌において、gapA遺伝子の発現の減弱によって、グリセルアルデヒド3リン酸デヒドロゲナーゼ活性が減弱されている、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。 前記改変大腸菌において、ホスホエノールピルビン酸とは独立の糖移入系に関与し、かつ、galPおよびglkから選択される少なくとも1つの遺伝子の発現の増強によって、糖移入の効率が高められている、請求項7に記載の方法。 前記改変大腸菌において、糖ホスホトランスフェラーゼ系の効率が、代謝産物ホスホエノールピルビン酸のアベラビリティーを高めることによって増強されており、ここで、−ピルビン酸キナーゼをコードするpykAおよびpykFから選択される少なくとも1つの遺伝子の発現が減弱されており、および/または−ホスホエノールピルビン酸シンターゼをコードするppsA遺伝子の発現が増強されている、請求項8に記載の方法。 前記改変大腸菌において、−gldA遺伝子の発現の増強によってグリセロールデヒドロゲナーゼ活性が増強されており、および/または−fucO遺伝子の発現の増強によって1,2−プロパンジオールオキシドレダクターゼ活性が増強されている、請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。 前記改変大腸菌において、遺伝子lpdが、アラニン55がバリンで置換される置換をもたらす点突然変異を有する、請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法。 前記改変大腸菌において、−tpiA遺伝子の発現の減弱によってトリオースリン酸イソメラーゼ活性が減弱されており、および/または−arcAおよびndhから選択される少なくとも1つの遺伝子の発現が減弱されている、請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法。 回収された1,2−プロパンジオールがさらに精製される、請求項1〜12のいずれか一項に記載の方法。 炭素源からの1,2−プロパンジオールおよび/またはアセトールの製造に有用な改変大腸菌であって、−大腸菌由来のyqhD遺伝子を過剰発現させることによるメチルグリオキサールレダクターゼ活性の増強、−mgsA遺伝子の発現の増強によるメチルグリオキサールシンターゼ活性の増強、および−Entner-Doudoroff経路に関与するedd遺伝子およびeda遺伝子の少なくとも1つの欠失によって特徴づけられる、改変大腸菌。配列表