タイトル: | 特許公報(B2)_血中尿酸値低減作用を有する乳酸菌 |
出願番号: | 2009543849 |
年次: | 2013 |
IPC分類: | C12N 1/20,A23L 1/30,A61K 35/74,A61P 43/00,A61P 19/06,C12N 15/09 |
坪井 洋 金子 紀子 佐藤 秋菜 粂 晃智 木村 勝紀 JP 5149305 特許公報(B2) 20121207 2009543849 20081127 血中尿酸値低減作用を有する乳酸菌 株式会社明治 000006138 清水 初志 100102978 春名 雅夫 100102118 山口 裕孝 100160923 刑部 俊 100119507 井上 隆一 100142929 佐藤 利光 100148699 新見 浩一 100128048 小林 智彦 100129506 渡邉 伸一 100130845 大関 雅人 100114340 川本 和弥 100121072 坪井 洋 金子 紀子 佐藤 秋菜 粂 晃智 木村 勝紀 JP 2007310892 20071130 20130220 C12N 1/20 20060101AFI20130131BHJP A23L 1/30 20060101ALI20130131BHJP A61K 35/74 20060101ALI20130131BHJP A61P 43/00 20060101ALI20130131BHJP A61P 19/06 20060101ALI20130131BHJP C12N 15/09 20060101ALN20130131BHJP JPC12N1/20 AA23L1/30 ZC12N1/20 EA61K35/74 AA61P43/00 111A61P19/06C12N15/00 A C12N 1/20 A23L 1/30 A61K 35/74 C12N 15/09 CA/BIOSIS/MEDLINE/WPIDS(STN) JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII) GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq PubMed CiNii 国際公開第2004/112809(WO,A1) 国際公開第2006/067940(WO,A1) 特開2008−005834(JP,A) 池永武ら,食事性高尿酸血症モデルラットの血中尿酸値に及ぼす乳酸菌の影響,日本農芸化学会大会講演要旨集,2004年 3月 5日,Vol. 2004,p. 197,3A15a07 小川順ら,プリンヌクレオシド代謝に影響を及ぼす乳酸菌の探索,日本農芸化学会大会講演要旨集,2004年 3月 5日,Vol. 2004,p. 197,3A15a06 池永武ら,高いプリンヌクレオシド代謝能を有する乳酸菌の食事性高尿酸血症モデルラットの血中尿酸値に及ぼす影響,日本栄養・食糧学会総会講演要旨集,2004年 4月 1日,Vol.58th,p. 318,3I-4p 小川順ら,高尿酸血症に有効な乳酸菌におけるプリン体代謝の解析,日本農芸化学会大会講演要旨集,2005年 3月 5日,Vol. 2005,p. 244,30F257a 11 NPMD NITE BP-462 JP2008071559 20081127 WO2009069704 20090604 14 20110610 太田 雄三 本発明は、血中尿酸値低減作用を有する乳酸菌およびその利用方法に関する。また本発明は、前記乳酸菌を含む高尿酸血症の予防および/または治療用の食品または医薬品に関する。 高尿酸血症は、環境要因(生活習慣)や遺伝的要因により、尿酸排泄低下や尿酸産生過剰がおこり、血中の尿酸が過剰になった状態である。高尿酸血症は自覚症状がない場合もあるが、痛風、腎機能障害、尿路結石、動脈硬化症といった深刻な合併症を引き起こす。高尿酸血症の代表的合併症である痛風は、激痛を伴う急性関節炎が主症状として現れる。過去には、痛風は「帝王の病気」と呼ばれており、肉や魚、アルコールなどを頻繁に多く摂取する層の「ぜいたく病」であったが、近年では、食生活の変化によって年々増加傾向にある。現在の日本における痛風の患者数は30〜40万人、高尿酸血症の患者数は推定600万人といわれており、高尿酸血症の予防および治療への関心が高まっている。 高尿酸血症の予防および治療は、食事療法、運動療法、医薬品およびこれらの組み合わせで血中の尿酸値をコントロールすることによって行われる。特に、摂取カロリー制限は高尿酸血症の予防および治療方法として最も選択される方法の一つであるが、厳しいカロリー制限を継続することは必ずしも容易ではない。このような状況を改善する方法として、プリン体を分解する乳酸菌、酵母などの微生物を経口的に(例えば医薬品、飲食品として)摂取させて、腸管内で食事から摂取されたプリン体を分解し、その体内への吸収を減少させ、血清尿酸値を低減させる方法が提案されている(特許文献1、非特許文献1)。乳酸菌は古くから食品や医薬品として利用されており、人体への安全性も高いため、乳酸菌摂取は副作用の懸念の低い、高尿酸血症を予防・治療するための有効な方法となり得る。また、上述の通り、高尿酸血症の予防および治療法の第一選択は食事療法であり、尿酸値のコントロールを可能とする乳酸菌を食品として摂取できれば、極めて現実的かつ有力な新規の高尿酸血症の予防および/または治療法となり得る。しかしながら、上記文献で報告された、プリン体分解能を有する乳酸菌:Lactobacillus fermentum、Lactobacillus pentosusはガス生産能を有しており、飲食品や医薬品への応用という観点からは必ずしも適当な菌種とはいえない。 なお、本出願の発明に関連する先行技術文献情報を以下に示す。WO2004/112809日本農芸化学会ホームページ 日本農芸化学会年次大会講演発表データベース(http://isbba.bioweb.ne.jp/jsbba_db/index.html) 「日本農芸化学会 2004.03.30 一般講演、池永武、久米村恵 他:食事性高尿酸血症モデルラットの血中尿酸値に及ぼす乳酸菌の影響」 本発明は上記状況に鑑みてなされたものであり、本発明が解決しようとする課題は、飲食品や医薬品用途に適した、高尿酸血症の予防および/または治療の可能な乳酸菌を提供することであり、また同時に、上記乳酸菌を用いた高尿酸血症の予防および/または治療用組成物を提供することである。 上記課題を解決すべく、本発明者らは鋭意努力を重ねた。まず、イノシンおよびグアノシン存在下で各種乳酸菌を培養し、上記ヌクレオシドの消費量および分解物(ヒポキサンチン、グアニン)の生産量を測定し、ヌクレオシド分解能の顕著な複数の乳酸菌を選抜した。上記選抜によってヌクレオシド分解能が高いと判断された乳酸菌を、プリン体含有飼料で飼育したラットに経口投与し、当該ラットの一般状態および血清尿酸値を測定し、乳酸菌の投与による血清尿酸値への影響を観察した。その結果、血清尿酸値の上昇を有意に抑える乳酸菌:Lactobacillus gasseri OLL2922を見出した。さらに本発明者らは、上記乳酸菌を用いてヨーグルトを調製し、上記乳酸菌がヨーグルトを含む食品の加工用として適していることを確認した。本発明の乳酸菌は、血清尿酸値の上昇を抑制するため、高尿酸値血症や痛風の予防および/または治療用の医薬品として有効に利用できる。また、本発明の乳酸菌は、その血清尿酸値の上昇抑制効果が経口投与による実験で確認されており、さらに実際の食品加工に適していることも確認されているため、食品として利用できる点で有用性が著しく高い。すなわち、本発明は高尿酸血症の予防および/または治療の可能な乳酸菌およびその利用に関し、具体的には、以下の発明を提供するものである。 本発明は、より具体的には以下の〔1〕〜〔14〕を提供するものである。〔1〕 受託番号:NITE BP-462として寄託されているLactobacillus gasseri 乳酸菌 OLL2922株。〔2〕 上記〔1〕に記載の乳酸菌、該乳酸菌含有物および/またはその処理物を含む、血中尿酸値上昇抑制用の飲食品または医薬品。〔3〕 上記〔1〕に記載の乳酸菌、該乳酸菌含有物および/またはその処理物を含む、高尿酸血症の予防および/または治療用の飲食品または医薬品。〔4〕 上記〔1〕に記載の乳酸菌、該乳酸菌含有物および/またはその処理物を含む、プリン体の吸収を抑制するための飲食品または医薬品。〔5〕 上記〔1〕に記載の乳酸菌、該乳酸菌含有物および/またはその処理物を投与することを特徴とする、対象において食品に含まれるプリン体の摂取を抑制する方法。〔6〕 上記〔1〕に記載の乳酸菌、該乳酸菌含有物および/またはその処理物を投与することを特徴とする、対象において血中尿酸値上昇を抑制する方法。〔7〕 上記〔1〕に記載の乳酸菌、該乳酸菌含有物および/またはその処理物を投与することを特徴とする、対象において高尿酸血症を治療する方法。〔8〕 飲食品の原料または中間製品を上記〔1〕に記載の乳酸菌、該乳酸菌含有物および/またはその処理物に接触させる工程を含む、プリン体が低減化された飲食品の製造方法。〔9〕 血中尿酸値上昇抑制用の飲食品または医薬品を製造するための、上記〔1〕に記載の乳酸菌、該乳酸菌含有物および/またはその処理物の使用。〔10〕 高尿酸血症の予防および/または治療用の飲食品または医薬品を製造するための、上記〔1〕に記載の乳酸菌、該乳酸菌含有物および/またはその処理物の使用。〔11〕 プリン体の吸収を抑制するための飲食品または医薬品を製造するための、上記〔1〕に記載の乳酸菌、該乳酸菌含有物および/またはその処理物の使用。〔12〕 対象において食品に含まれるプリン体の摂取を抑制するための、上記〔1〕に記載の乳酸菌、該乳酸菌含有物および/またはその処理物。〔13〕 対象において血中尿酸値上昇を抑制するための、上記〔1〕に記載の乳酸菌、該乳酸菌含有物および/またはその処理物。〔14〕 対象において高尿酸血症を治療するための、上記〔1〕に記載の乳酸菌、該乳酸菌含有物および/またはその処理物。プリン体(イノシン)存在下で各種乳酸菌を培養したときの、各乳酸菌のプリン体分解能を示す図である。プリン体分解率が高いと認められた菌株(星印)を、モデル動物実験対象とした。プリン体(グアノシン)存在下で各種乳酸菌を培養したときの、各乳酸菌のプリン体分解能を示す図である。プリン体分解率が高いと認められた菌株(星印)を、モデル動物実験対象とした。各種乳酸菌のプリン体分解能を、(ヒポキサンチン量+グアニン量)/5-ブロモウラシル量で評価した図である。プリン体分解能の高い乳酸菌(L. fermentum、L. brevis)を食事性高尿酸血症モデル動物に経口投与し、血清尿酸値を測定した結果を示す図である。第1群:陰性群、第2群:対照群、第3群:菌体投与群の結果をそれぞれ示す。L. gasseri OLL2922株およびL. gasseri OLL2959株の遺伝子増幅産物の比較を示す写真である。〔発明の実施の形態〕 本発明は、プリン体分解能を有し、ガス産生能を有しない、新規のLactobacillus gasseri 乳酸菌、OLL2922株に関するものである。本発明は、プリン体分解能を有し、ガス産生能を有しないL. gasseri 乳酸菌OLL2922株が本発明者らによって初めて見出されたことに基づくものである。 Lactobacillus 属は、乳酸菌の代表的な属の一つで、80種以上の種を含む。Lactobacillus属に含まれる種の例として、Lactobacillus delbrueckii subsp. burgalicus、Lactobacillus delbrueckii subsp. lactis、Lactobacillus paracasei subsp. paracasei、Lactobacillus helveticus、Lactobacillus helveticus subsp. jugurti、Lactobacillus acidophilus、Lactobacillus crispatus、Lactobacillus amylovorus、Lactobacillus gallinarum、Lactobacillus gasseri、Lactobacillus oris、Lactobacillus casei subsp. rhamnosus、Lactobacillus johnsonii、Lactobacillus fermentum、Lactobacillus brevisを挙げることができる。本発明のLactobacillus 属乳酸菌は、プリン体分解能を有し、ガス産生能を有しない、Lactobacillus 属乳酸菌である限りいずれの種であってもよいが、好ましくは、Lactobacillus gasseriであり、より具体的にはLactobacillus gasseri OLL2922株(受託番号:NITE BP-462)である。 本発明のLactobacillus gasseri(以下、場合により「L. gasseri」と略す)乳酸菌 OLL2922株は、プリン体分解能を有し、ガス産生能を有しないという特徴を有するL. gasseri乳酸菌である。本発明者らは、多数の乳酸菌についてプリン体分解能およびガス生産能の有無を検討し、L. gasseri OLL2922と名付けたL. gasseri乳酸菌が、プリン体分解能を有し、ガス産生能を有しないことを具体的に見出した。さらにin vivo実験によって、L. gasseri OLL2922が血中の尿酸値上昇を有意に抑制することを突き止めた。 プリン体は、核酸を構成する成分であり、プリンde novo合成、サルベージ回路、食餌中の核タンパク質等によって生体に供給され、不要なプリン体は肝臓において代謝されて排出される。尿酸は、ヒト、高等霊長類、鳥類、爬虫類等におけるプリン体の最終代謝産物である。 本明細書においてプリン体とは、プリン骨格を有する化合物である。プリン体の代表例として、プリンヌクレオチド(アデニル酸、デオキシアデニル酸、グアニル酸、デオキシグアニル酸)、プリンヌクレオシド(アデノシン、デオキシアデノシン、グアノシン、デオキシグアノシン)、プリン塩基(アデニン、グアニン)、プリン塩基を含むオリゴヌクレオチド及びポリヌクレオチドを挙げることができる。プリン塩基は、核酸を構成する他、ATP、GTP、cAMP、cGMP、補酵素A、FAD、NAD等の多様な生体成分を構成する。本明細書においては、プリン骨格を有する限り、このような生体成分も全てプリン体に含まれる。 生体内におけるプリン体は、尿酸に代謝される。プリン体が尿酸まで至る代謝経路は広く知られている。AMPは5'-ヌクレオチダーゼによってアデノシンとなり、アデノシンはイノシンを経てヒポキサンチンとなる。GMPは、5'-ヌクレオチダーゼによってグアノシンとなった後、グアニンとなる。ヒポキサンチンはキサンチンオキシダーゼによって、またグアニンはグアニンデアミナーゼによって、いずれもキサンチンに代謝され、さらにキサンチンはキサンチンオキシダーゼによって尿酸となる。 本発明においてプリン体分解能とは、少なくとも一つのプリン体を分解する能力をいい、分解産物がプリン骨格を有するかどうかは問わない。すなわち、あるプリン体を分解してプリン骨格を有さない化合物にする能力も、あるプリン体を分解して別のプリン体(プリン骨格を有する化合物)にする能力も、本発明におけるプリン体分解能に含まれる。 本発明のL. gasseri乳酸菌は、公知方法によって分離することができる。例えば、ヒト等の哺乳類の糞便から菌を培養し、培養した菌の形状、生理学的特徴等からL. gasseri乳酸菌を分離し、プリン体分解能の有無を検出し、プリン体分解能を有し、かつガス生産能を有しないL. gasseri乳酸菌を選別することで単離可能である。プリン体分解能の検出およびガス生産能の検出は公知方法によって可能であり、プリン体分解能は後述する実施例1が例示できる。また、ガス産生能については、試験管に培地(ラクトバチルスの場合には通常MRS培地を使用)およびダーラム管を入れ、 121℃、15分オートクレーブし、十分に生育した培養液を10μl接種し、至適温度(菌株により30〜37℃)で1〜3日間培養した後、ダーラム管にたまるガスの有無を肉眼観察する方法などが例示できる。 本発明のL. gasseri乳酸菌を培養するには、一般的に乳酸桿菌の培養に適した培地であれば良く、グルコース、ラクトース、ガラクトース、フルクトース、トレハロース、スクロース、マンノース、セロビオース等の炭素源、肉エキス、ペプトン、イーストエキストラクト、カゼイン、ホエータンパク質等の窒素源、硫酸マグネシウム、硫酸鉄、硫酸マンガン等の無機栄養素を含む培地を用いることができる。好適な例の一つとして、Lactobacilli MRS Broth (Difco)を挙げることができる。培養条件は、腸内乳酸菌が生育し得る条件であれば、特に制限はないが、好ましい条件としては、例えば、 pH5.0−pH8.0、温度20℃−45℃であり、より好ましい条件としては、嫌気性、pH5.0−pH7.0、温度30℃−40℃である。 本発明の「プリン体分解能を有し、ガス産生能を有しない、L. gasseri乳酸菌OLL2922株」は、本発明者らによって、独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センターに寄託された。以下に、寄託を特定する内容を記載する。(1)寄託機関名:独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センター(2)連絡先:日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2−5−8 郵便番号292-0818 電話番号0438-20-5580(3)受託番号:NITE BP-462(4)識別のための表示:Lactobacillus gasseri OLL2922株 Lactobacillus gasseri OLL2922株(受託番号:NITE BP-462)は、グラム陽性桿菌であり、Lactobacilli MRS Agar, Difco上でのコロニー形態は円形、淡黄色、扁平状である。生理学的特徴としては、ホモ乳酸発酵形式、45℃での発育性を有する。菌体増殖においては培養中の培地のpHは6.0〜7.0に維持することが好ましい。 本発明者らは、後述するとおり、本発明のL. gasseri乳酸菌をモデル動物に経口投与し、該乳酸菌に血中尿酸値の上昇を抑制する効果があることを確認した。したがって、本発明のL. gasseri乳酸菌は、血中尿酸値の上昇抑制のために、または高尿酸血症の予防および/または治療のために利用することができる。 また、本発明のL. gasseri乳酸菌のプリン体分解能を利用して、本発明の乳酸菌が投与された対象の体内において、食品に含まれるプリン体の摂取を抑制することができる。 本発明において「対象」とは、血中尿酸値が上昇している、若しくはそのおそれのある生物体、または高尿酸血症を発症している、若しくはそのおそれのある生物体などを挙げることができる。本発明のL. gasseri乳酸菌が投与される生物体は、特に限定されるものではないが、動物(例えば、ヒト、家畜動物種、野生動物)を含む。 本発明のL. gasseri乳酸菌は、血中尿酸値上昇抑制用の飲食品または医薬品、高尿酸値血症の予防および/または治療用の医薬品または飲食品の製造に用いることができる。 本発明のL. gasseri乳酸菌を用いて作る飲食品は、カテゴリーや種類に制限はなく、機能性食品、特定保健用食品、健康食品、介護用食品でも良く、また、菓子、乳酸菌飲料、チーズやヨーグルト等の乳製品、調味料等であっても良い。飲食品の形状についても制限はなく、固形、液状、流動食状、ゼリー状、タブレット状、顆粒状、カプセル状など、通常流通し得るあらゆる飲食品形状をとることができる。上記飲食品の製造は、当業者の常法によって行うことができる。上記飲食品の製造においては、乳酸菌生育を妨げない限り、糖質、タンパク質、脂質、食物繊維、ビタミン類、生体必須微量金属(硫酸マンガン、硫酸亜鉛、塩化マグネシウム、炭酸カリウム、等)、香料やその他の配合物を添加することもできる。 本発明のL. gasseri乳酸菌、該乳酸菌含有物および/またはその処理物は、上記の通り乳製品・発酵乳を含む一般飲食品に加工できる他、ヨーグルトやチーズ等の乳製品・発酵乳の製造用スターターとして利用することも可能である。本発明に用いられる乳酸菌処理物としては、例えば、培養物、濃縮物、ペースト化物、噴霧乾燥物、凍結乾燥物、真空乾燥物、ドラム乾燥物、液状物、希釈物、破砕物等が挙げられる。また、乳酸菌としては生菌体、湿潤菌体、乾燥菌体等が適宜使用可能である。スターターとする場合は、本発明のL. gasseri乳酸菌の生息・増殖に支障がない限り、また、乳製品製造に支障がない限り、他の微生物が混合されていても良い。例えば、ヨーグルト用乳酸菌として主要な菌種であるLactobacillus delbruekii subsp. bulgaricus、Streptococcus thermophilus、Lactobacillus acidophilus等と混合しても良く、その他、一般にヨーグルト用やチーズ用として用いられる菌種と混合してスターターとすることができる。上記スターターによる乳製品、発酵乳の製造は、常法に従って行うことができる。例えば、加温・混合・均質化・殺菌処理後に冷却した乳または乳製品に、上記スターターを混合し、発酵・冷却することにより、プレーンヨーグルトを製造することができる。 本発明のL. gasseri乳酸菌、該乳酸菌含有物および/またはその処理物は、生理学的に許容される担体、賦形剤、あるいは希釈剤等と混合し、医薬組成物として経口、あるいは非経口的に投与することができるが、好ましい投与方法は、経口投与である。経口投与製剤としては、周知の各種剤型とすることができ、例えば、顆粒剤、散剤、錠剤、丸剤、カプセル剤、液剤、シロップ剤、乳剤、懸濁剤、トローチ剤等の剤型とすることができる。また、当業者に周知の方法で腸溶性製剤とすることにより、胃酸の効果を受けることなく、本発明のL. gasseri乳酸菌をより効率的に腸まで運ぶことも可能である。 本発明のL. gasseri乳酸菌を用いて製造された医薬品および飲食品は、飲食品中の同菌の作用によって、血中尿酸値上昇抑制効果や高尿酸値血症の予防および/または治療効果を発揮するものと期待できる。さらに、上記医薬品および飲食品は、投与される対象の体内において、食品に含まれるプリン体の摂取を抑制する効果を発揮するものと期待できる。 さらに、本発明のL. gasseri乳酸菌のプリン体分解能を利用して、プリン体量が低減化された飲食品を製造することも可能である。本発明のプリン体量が低減化された飲食品の製造方法は、本発明のL. gasseri乳酸菌を、プリン体を含有する飲食品の原料または中間製品に接触させる工程を含む。この工程により、該原料または中間製品に含まれるプリン体の量を効率よく低減させることが可能となる。上記工程は、本発明のL. gasseri乳酸菌が生存可能、またはL. gasseri乳酸菌により該原料または中間製品の発酵が可能な条件で行なわれることが好ましい。本発明の製造方法は、上記工程のほか、粉砕工程、混合工程、乾燥工程、殺菌および充填工程など、目的とする飲食品の通常の製造工程を含むことができる。本発明の方法によって製造される飲食品は、そのカテゴリーや種類に制限はなく、例えば機能性食品、特定保健用食品、健康食品、介護用食品でも良く、さらに一般の食品、例えば嗜好品に分類される食品であってもよいが、プリン体摂取量の制限が必要な疾患または症状の患者あるいは、上記疾患または症状予備群の日常的または補助的飲食品として特に有用である。本発明の方法は、プリン体接種の制限が必要な、または希望する対象が、従来プリン体量が多いとされる食品を安全に接種することを可能にする。 なお本明細書において引用された全ての先行技術文献は、参照として本明細書に組み入れられる。 以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが本発明はこれら実施例に制限されるものではない。尚、実施例中、菌株名にJCMと記載された菌株は独立行政法人理化学研究所バイオリソースセンターの微生物材料開発室から入手した基準株、菌株名にATCCと記載された菌株は、American Type Culture Collectionから入手した基準株、菌株名にMEPと記載された菌株は明治乳業株式会社保有菌株である。〔実施例1〕 乳酸菌の尿酸低減作用に関するin vitroの実験方法 各種乳酸菌について、プリン体分解能の有無を以下の方法によって検討した。 各種の乳酸菌(菌体)をDifco Lactobacilli MRS Broth(BD製)培地を用いて、酸素吸着剤「アネロパック」(三菱ガス(株)製)と共に密閉容器に入れ、温度37℃にて一晩嫌気培養した。培養後の菌体懸濁液を回転数3000rpm、温度4℃にて10分間遠心分離して菌体を沈殿回収(集菌)した。 この菌体から1×109 CFU/mLの菌体懸濁液を0.1 Mリン酸ナトリウム緩衝液で調製した。 各種の菌体懸濁液を調製した後に、イノシンとグアノシンをそれぞれが1.25mMになるように各種の菌体懸濁液に加えた。これらの菌体懸濁液を37℃の恒温漕へ入れ、水平回転数140rpmにて30分間あるいは1時間振とう培養した。 振とう培養後の菌体懸濁液(反応液)について、ヌクレオシドの消費量と、ヌクレオシドの分解物である塩基(ヒポキサンチンとグアニン)の生成量を、5-ブロモウラシルを内部標準としてHPLCにて測定した。移動相Aの780μLに、反応液200μL、内部標準として5-ブロモウラシル(1.6 mg/mL) 20μLを加えて混合した。この混合液をフィルター(孔径0.45μm)で濾過した後に、透過液50μLをHPLCに注入した。HPLCの具体的な操作条件は以下の通りである。 HPLC : Waters alliance 2690 カラム : CAPCELL PAK C18 SG120、粒子径 5μm、カラムサイズ 4.6×250 mm(資生堂) 移動相 : A : 25mM KH2PO4(0.1% メタノール) B : 25mM KH2PO4(0.1% メタノール)/メタノール(75:25) グラジエントA/B (min) : 100/0(0)− 100/0(10)− 20/80(20)− 20/80(25)− 100/0(26)− 100/0(40) 検出器 : フォトダイオードアレイ(Waters 996) 検出波長 254nm 流速 : 1 mL/min カラム温度 : 常温 結果を図1〜3に示す。各化合物の定量は、HPLCチャートのピーク面積値に基づき行った。更に図1及び図2の分解率は下式に従い算出した。 分解率=100-(イノシンあるいはグアノシン量/ブランクにおけるイノシンあるいはグアノシン量)×100また、図3の算出方法は以下の通りである。 (ヒポキサンチン量+グアニン量)/5-ブロモウラシル量図1〜3の結果から、ヌクレオシド分解能の顕著であると判断される乳酸菌を選抜した。〔実施例2〕 乳酸菌の尿酸低減作用に関するin vivoの実験方法 先行文献(非特許文献1)に記載された方法に従い、食事性高尿酸血症モデル動物を作製し、該動物の血清尿酸値に及ぼす微生物(乳酸菌)の影響を検討した。上記方法は具体的には、オキソニン酸カリウムを2.5重量%とRNAを1.0重量%で含む混餌を調製して、ラットに摂取させ、摂取後からの血中尿酸値を陰性群や対照群と比較する方法である。本方法のモデル動物は、尿酸生成の阻害薬であるアロプリノールを経口投与した際に、該モデル動物の血中尿酸値が有意に抑制されることが明らかとなっている(食品機能研究ニューズ(第14号)、2005年3月9日発行、(株)メルシャン クリンテック環境検査センター、http://www.m-cleantec.com/gizyutu/news_0503.html)。このことは、高尿酸血症に対する食品の有効性を評価する系として上記方法が有用であることを示している。〔2−1 材料および実験手順〕〔微生物〕 上記in vitro試験でヌクレオシド分解能が高いと判断された、L. gaserri OLL2922株を使用した。各種の乳酸菌からin vitro試験と同様にして菌体懸濁液を調製した。菌体懸濁液を1×109 CFU/10mL/kgでラットへ経口投与した。〔実験動物〕 ラット(Wister SPF、雄、7週齢)を使用した。飼育(馴化と試験)には、ラット用プラスチックケージを使用し、1ケージ当たり1匹のラットを収容した。明暗サイクルは明期を午前7時〜午後7時(12時間)とした。〔予備飼育(馴化)と群分け〕 実験動物は搬入した後に1週間の予備飼育(馴化)を行った。馴化中には、餌(飼料)としてAIN-93G(オリエンタル酵母工業(株))、飲水として水道水を自由摂取させた。予備飼育したラット(入荷7日後、8週齢、Day0)を午前中に非絶食下で尾静脈より採血した。この血液を室温で30分以上放置した後に、回転数10000 rpmにて10分間遠心分離して血清を分取し、血清中の尿酸値をリンタングステン酸法にて測定した。 群分けは各群の血清中の尿酸値が同等になるように行った。試験には、1群当たり5匹のラットを使用し、陰性群(第1群)、対照群(第2群)、菌体投与群(第3群)の合計3群を設定した。群名、餌、投与物(投与用量)、匹数などを以下に示す。・陰性群(第1群):「AIN-93G」給餌、「生理食塩水」投与(10mL/kg)、5匹・対照群(第2群):「オキソニン酸カリウムを2.5重量%、RNAを1.0重量%で混合したAIN-93G」給餌、「生理食塩水」投与(10mL/kg)、5匹・菌体投与群(第3群):「オキソニン酸カリウムを2.5重量%、RNAを1.0重量%で混合したAIN-93G」給餌、5匹。「L. gaserri OLL2922株の懸濁液(1×108 CFU/mL)」投与(10mL/kg)。〔本飼育(試験)〕 群分けした後の翌日より試験期間とし、「AIN-93G」飼料(陰性群)と「AIN-93G+オキソニン酸カリウム+RNA」飼料(対照群、菌体投与群)をそれぞれ給餌器によりラットに8日間自由摂取させた。本飼料の給餌開始日をDay1とし、以後では日付と共にDayを起算した。「AIN-93G+オキソニン酸カリウム+RNA」飼料は、オキソニン酸カリウム(100g、ALDRICH)を2.5重量%とRNA(500g、MP Biomedicals. Inc.)を1.0重量%で含んでいる。菌体投与群の実験動物には、前記の菌体懸濁液を1×109 CFU/10mL/kgで強制経口投与した。陰性群と対照群には、菌体懸濁液ではなく、生理食塩水を10mL/kgで強制経口投与した。〔測定と検査等〕・ 一般状態の観察と体重の測定 全例(全群)においてDay1からDay8の連日、投与時に一般状態を観察し、Day0、Day1、Day5、Day8の午前9〜10時に定時で体重を測定した。・ 摂餌量と摂水量の測定 全例(全群)においてDay1(セット値)、Day5(残値、セット値)、Day8(残値)の午前9〜10時に定時で摂餌量と摂水量を測定した。・ 採血と生化学的検査 全例(全群)においてDay0(午前中)、Day2(投与1時間後)、Day5(投与1時間後)、Day8(投与前)に尾静脈より採血した。採取した血液は、回転数10000 rpmにて10分間遠心分離して血清を分取し、血清中の尿酸値をリンタングステン酸法にて測定した。前記した通り、Day0では当日に血清中尿酸値を測定し、群分けに使用した。・ 剖検と生化学的検査 全例(全群)においてDay8に尾静脈より採血した後に、菌体懸濁液を経口投与した。投与1時間後にネンブタール麻酔(ペントバルビタール40mg/kg)状態にて、腹大動脈より全採血して致死させた。採取した血液は、回転数3000 rpmにて15分間遠心分離して血清を分取し、血清中のクレアチニン、尿酸、尿素窒素を測定した。・ 臓器重量の測定 ラットの腎臓を摘出し、湿重量を測定した。〔統計処理〕 結果は平均値±標準偏差で示し、対照群と菌体投与各群を比較した。数値化した検査値の分散比はF検定を行い、等分散の場合にはStudent's t-検定を、不等分散の場合にはAspin-Welch t-検定を行った。統計処理には、エクセル統計 2004 の統計解析を使用し、最低有意水準を両側5%とした。 一般状態の結果を表1に、血清尿酸値の推移を図4に示す。 各種乳酸菌投与による血清中の尿酸値の低下について、図4に示すように、L.gasseri OLL2922投与群において、有意差が認められた。一般状態は、いずれの群においても、腎機能(クレアチニン値、血清中尿素窒素、腎重量)に問題がなく、体重・摂餌量・摂水量もいずれの群も問題はなかった。〔実施例3〕 発酵乳の製造例 プレーンヨーグルトをL. gasseri OLL2922、L. bulgaricus JCM1002T、S. thermophilus ATCC19258により調製した。まず、脱脂粉乳10%培地を用いて、L. gasseri OLL2922、L. bulgaricus JCM1002T、S. thermophilus ATCC19258のバルクスターターを調製した。次に、ヨーグルトミックス(無脂乳固形分(SNF): 9.5%、脂肪分(FAT): 3.0%)を95℃、5分間で加熱処理した。この加熱処理後のヨーグルトミックスに、L. bulgaricus JCM1002Tと、S. thermophilus ATCC19258のスターターを各1%、L. gasseri OLL2922のスターターを5%で接種し、43℃、4時間で発酵して、プレーンヨーグルトを得た。このプレーンヨーグルトを冷蔵庫(5℃)で冷却してから、風味と物性を確認した。このとき、風味と物性はいずれも良好であった。〔比較例1〕 RAPD (Random Amplified Polymorphic DNA) 法による菌株の識別 RAPD法によりL. gasseri OLL2922株およびL. gasseri OLL2959株 (NITE P-224)の識別を行った。ランダムプライマーRAPD5 (5’-GTCAACGAAG-3’、配列番号:1) を用いて、2922株および2959株から抽出したDNAを鋳型にして以下の条件でPCRを行い、得られた増幅産物を電気泳動したときのパターンを比較した。PCR反応液 (25μl) の組成dH2O 18.7μl10×Ex Taq buffer 2.5μldNTP Mix (2.5mM) 2.0μlEx Taq 0.4μl DNA 1.0μlPrimer (100pmol/μl) 0.4μlPCR条件4 cycles (94℃, 5min, 36℃, 5min, 72℃, 5min)30 cycles (94℃, 1min, 36℃, 1min, 72℃, 2min) その結果、L. gasseri OLL2922株およびL. gasseri OLL2959株の増幅産物は異なるパターンを有することが明らかとなった(図5)。 本発明によって、血中尿酸値を低減可能な乳酸菌が提供された。本発明の乳酸菌を経口摂取することにより、血中尿酸値を低減することができるため、本発明の乳酸菌は痛風や高尿酸血症の予防および/または治療用の食品または医薬品として利用できる。特に、本発明の乳酸菌は、食品製造上、ガス産生による問題がないことが確認されている点で、実用化に適しているといえる。さらに、本発明の乳酸菌を利用すれば、プリン体量を低減させた加工食品の製造も可能になると考えられる。このように、本発明の乳酸菌は、食品および医薬品産業上、極めて有用性が高いといえる。 受託番号:NITE BP-462として寄託されているLactobacillus gasseri 乳酸菌 OLL2922株。 請求項1に記載の乳酸菌の生菌体および/または該乳酸菌の生菌体含有物を含む、血中尿酸値上昇抑制用の飲食品または医薬品。 請求項1に記載の乳酸菌の生菌体および/または該乳酸菌の生菌体含有物を含む、高尿酸血症の予防および/または治療用の飲食品または医薬品。 請求項1に記載の乳酸菌の生菌体および/または該乳酸菌の生菌体含有物を含む、プリン体の吸収を抑制するための飲食品または医薬品。 飲食品の原料または中間製品を請求項1に記載の乳酸菌の生菌体および/または該乳酸菌の生菌体含有物に接触させる工程を含む、プリン体が低減化された飲食品の製造方法。 血中尿酸値上昇抑制用の飲食品または医薬品を製造するための、請求項1に記載の乳酸菌の生菌体および/または該乳酸菌の生菌体含有物の使用。 高尿酸血症の予防および/または治療用の飲食品または医薬品を製造するための、請求項1に記載の乳酸菌の生菌体および/または該乳酸菌の生菌体含有物の使用。 プリン体の吸収を抑制するための飲食品または医薬品を製造するための、請求項1に記載の乳酸菌の生菌体および/または該乳酸菌の生菌体含有物の使用。 対象において食品に含まれるプリン体の摂取を抑制するための、請求項1に記載の乳酸菌の生菌体および/または該乳酸菌の生菌体含有物。 対象において血中尿酸値上昇を抑制するための、請求項1に記載の乳酸菌の生菌体および/または該乳酸菌の生菌体含有物。 対象において高尿酸血症を治療するための、請求項1に記載の乳酸菌の生菌体および/または該乳酸菌の生菌体含有物。配列表