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タイトル:特許公報(B2)_関節疾患治療用組成物
出願番号:2009537986
年次:2014
IPC分類:A61K 31/734,A61P 19/02,A61P 29/00


特許情報キャッシュ

岩崎 倫政 三浪 明男 笠原 靖彦 五十嵐 達弥 河村 太介 大澤 伸雄 今井 真理子 JP 5491866 特許公報(B2) 20140307 2009537986 20080819 関節疾患治療用組成物 持田製薬株式会社 000181147 国立大学法人北海道大学 504173471 小林 浩 100092783 片山 英二 100095360 星川 亮 100149010 鈴木 康仁 100104282 岩崎 倫政 三浪 明男 笠原 靖彦 五十嵐 達弥 河村 太介 大澤 伸雄 今井 真理子 JP PCT/JP2008/052999 20080221 JP 2007277005 20071024 20140514 A61K 31/734 20060101AFI20140417BHJP A61P 19/02 20060101ALI20140417BHJP A61P 29/00 20060101ALI20140417BHJP JPA61K31/734A61P19/02A61P29/00 101 A61K 31/00 − 31/327 A61K 31/33 − 31/80 A61K 33/00 − 33/44 A61K 38/00 − 38/58 A61K 41/00 − 45/08 A61K 48/00 A61L 15/00 − 33/00 A61P 1/00 − 43/00 CA/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN) JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII) 特表2002−530440(JP,A) 特開2006−321890(JP,A) 特表2003−520575(JP,A) 国際公開第03/087019(WO,A1) 国際公開第2007/083522(WO,A1) 五十嵐 達弥ら,軟骨再生に向けた硬化性高純度低エンドトキシンアルギン酸ゲルを用いた新規移植システムの開発,日整会誌(J. Jpn. Orthop. Assoc.),2007年 8月25日,Vol.81 No.8,p.S838,演題1-1-6 福島 雅典(日本語版総監修),メルクマニュアル,日経BP社,第17版日本語版,pp.420-427 (1999) Guidelines for the management of rheumatoid arthritis: 2002 Update.,Arthritis Rheum. ,2002年 2月,Vol.46 No.2,pp.328-346 伊藤宣と中村孝志,リウマチ疾患の再生医療の現況―関節破壊に対する再生医療,医学と薬学,2005年,Vol.53 No.5,pp.515-522 AGUNG Mら ,リウマチ性疾患における再生医療 軟骨・骨再生,分子リウマチ,2006年,Vol.3 No.2,pp.99-106 5 JP2008065065 20080819 WO2009054181 20090430 42 20110805 川嵜 洋祐 本発明は、獣医用などを含む、関節疾患治療用組成物等に関する。 例えば関節軟骨は硝子軟骨であり、少数の細胞、コラーゲン性の細胞外マトリックス、多くのプロテオグリカンおよび水からなる。骨の場合、血管や神経ネットワークが存在し、自己修復能を有するため、骨折したときでも、十分に骨折部分が修復されることが多い。しかし、関節軟骨には血管および神経ネットワークが存在しない。このため、自己修復能がほとんどなく、特に大きな軟骨欠損部が形成された場合、軟骨欠損部は十分には修復されない。修復される部分にしても、硝子軟骨と力学的特性の異なる線維軟骨が形成される。このため、軟骨欠損が形成されると、関節痛および関節機能の喪失がもたらされ、しばしば変形性関節症へと発展する。また、加齢や関節の酷使によって関節軟骨の表面の磨耗が始まった変形性関節症の初期段階から、病状が進行した結果として、広範な領域での軟骨欠損に至ることもある。 変形性関節症(Osteoarthritis;OA)は、加齢や関節の酷使によって関節軟骨が磨耗減少する退行性疾患であるが、磨耗という力学的原因のみでなく、滑膜細胞や軟骨細胞による炎症性サイトカインの産生、炎症性サイトカインによる発痛物質や蛋白質分解酵素の誘導などの局所炎症反応が関節破壊に関与していると言われている。すなわち、関節軟骨の磨耗(機械的損傷)に伴い、関節組織内で炎症反応が惹起され、炎症反応による自己破壊的軟骨損傷が進行し、関節機能が低下することで機械的損傷が更に進行する、といった悪循環により病態が悪化していく。変形性関節症の治療は、患部の疼痛や炎症の除去に主眼が置かれ、海外では非ステロイド性抗炎症剤の投与が主流である。しかし高年齢者では腎機能が低下してくることもあり、非ステロイド性抗炎症剤の連続的な経口投与は、安全性の観点から困難な場合もある。軟骨関節液の成分の一つであるヒアルロン酸を製剤化した製品は、関節腔内に投与することで関節の潤滑機能を改善し、かつ疼痛抑制作用も有することから、変形性関節症における関節機能改善剤として多く使用されている。しかし、軟骨およびその周囲組織の変性が進んだ重度の変形性関節症においては、最終的には人工関節への置換を行う以外に方法がなく、組織の変性の進行を抑制し、さらには改善するような新たな治療薬の開発が待ち望まれている疾患の一つである(文献1)。 関節リウマチ(Rheumatoid arthritis;RA)は、未だにその発症メカニズムは解明されていないが、滑膜の炎症・異常増殖と、活性化T細胞による過剰な免疫応答が関与しており、その結果として関節組織の破壊が進行するといわれている。関節組織の変性を伴うという点ではOAと類似の症状を示すが、RAは自己免疫疾患の一種とされており、両者の病態は異なっている。近年、炎症性サイトカインであるTNF−αをターゲットとした生物学的製剤がRA治療剤として用いられるようになった。これらの製剤は、抗TNF−α抗体やTNF受容体を有効成分とし、TNF−αの働きを阻害することで、関節破壊の防止に寄与すると考えられている。一方で、全身性にTNF−αの働きを阻害することから、肺炎、結核などの感染症をはじめとする重篤な副作用も臨床上問題となっている。関節組織の変性の進行を抑制でき、かつ安全性の高い新たな治療薬が必要とされている。 アルギン酸は、褐藻類に多く存在する高分子多糖類であって、D−マンヌロン酸(M)とL−グルロン酸(G)という2種類のウロン酸が直鎖状に重合したポリマーである。アルギン酸は、溶液状態では粘性を示すとともに、2価以上の陽イオン存在下ではゲル化するという性質を有することから、増粘剤やゲル化剤として食品、化粧品、医薬製剤の基剤などに広く使われている。ゲル化するという性質を活用し、細胞を懸濁したアルギン酸溶液をカルシウムイオン溶液に滴下することにより細胞を包埋したビーズを作製するといった技術にも用いられてきた。このようなビーズに軟骨細胞等を包埋し、軟骨損傷部に移植するという試みがなされている。文献2には、アルギン酸は、軟骨損傷部にいかなる不利な影響を与えないキャリアとして使用ができ、アルギン酸自体はいかなる治療効果も持たないと考察されている。また、文献3には、アルギン酸ナトリウム溶液に軟骨細胞を懸濁し、ウサギ軟骨欠損部に注入後、表面をCaCl2溶液で硬化させた移植物において、正常な軟骨組織が形成されたが、細胞を含有させずアルギン酸のみを軟骨欠損部に適用した場合は、線維軟骨が形成されたことが開示されている。文献4では、可溶性アルギン酸塩と不溶性アルギン酸塩/ゲルとを混合した自己ゲル化性アルギン酸組成物に、軟骨細胞を含有させ軟骨欠損部に注入する、硬化性組成物が開示されている。 このように、アルギン酸は軟骨細胞等の担体として使用できるバイオポリマーであることは知られており、そのゲル化能を活用して、細胞とともに軟骨欠損部に注入して硬化させる移植担体としての使用が試みられてきた。しかし、細胞を含有しないアルギン酸組成物の治療効果は知られておらず、硬化性でないアルギン酸組成物を関節疾患へ適用する試みはなされていなかった。 [文献] 1.Harumoto Yamada et al.,“Drug therapy for osteoarthritis.”,Clin Rheumatol,Vol.18,2006:pp298−306 2.Cay M.Mierisch et al.,″Transforming Growth Factor−β in Calcium Alginate Beads for the Treatment of Articular Cartilage Defects in the Rabbit″,The Journal of Arthroscopic and Related Surgery,Vol.18,No 8(October),2002:pp892−900 3.E.Fragonas et al,″Articular Cartilage Repair in Rabbits by Using Suspensions of Allogenic Chondrocytes in Alginate″,Biomaterials,Vol.21,2000:pp795−801 4.国際公開2006/044342号パンフレット 変形性関節症の治療薬には、軟骨を磨耗より保護する効果、磨耗や炎症による軟骨の変性変化を抑制する効果、軟骨損傷部を修復させる効果、炎症や疼痛を抑制する効果など、複合的な効果を併せ持つことが求められる。関節における炎症を抑制し、疼痛を抑制できる薬剤が得られれば、肩関節周囲炎の治療や、慢性関節リウマチにおける関節痛の抑制へも応用可能となる。 関節リウマチの治療薬には、滑膜細胞の異常増殖の抑制、過剰な免疫反応に伴う骨軟骨組織の破壊の抑制といった治療効果を有するとともに、副作用が少なく安全性が高いという性質が求められている。RAは自己免疫疾患であるという性質上、治療効果を得ようとすると免疫抑制的な副作用を避けることが困難であるのが現状である。RAに使用可能な医薬品の中で比較的安全性の高いものとしてヒアルロン酸製剤が知られているが、ヒアルロン酸の関節内注入はRAにおける疼痛抑制を目的として使用されており、RAの治療剤とはみなされていない。すなわち、RAに対する治療効果と高い安全性を両立する新たな薬剤の提供が課題となっている。 本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を行った。そして、実質的に炎症、または発熱を惹起しない程度にまでエンドトキシンレベルを低下させたアルギン酸の1価金属塩を含有する組成物を関節内に注入投与することにより、実験的変形性関節症モデルにおいて、軟骨変性変化を抑制し、軟骨を保護する効果が得られることを見出した。また、実験的関節炎疼痛モデルにおいて、同組成物に関節炎による疼痛を抑制する効果があることを見出した。さらに、実験的関節リウマチモデルにおいて、同組成物に滑膜組織の変性を抑制し、骨軟骨組織の破壊・変性を抑制する効果があることを見出し、本発明を完成させた。 変形性関節症において、関節液の主成分であるヒアルロン酸以外の物質で、このような軟骨組織への複合的な効果を有することが実証されたのは初めてである。海藻由来のポリマーであり、動物の体内には元来存在しないアルギン酸が、このような効果を有していることは驚くべきことであった。 関節リウマチは自己免疫疾患の一種であり、変形性関節症とは病態が異なっている。関節リウマチにおいて、関節組織の変性・破壊の進行を抑制する「疾患修飾薬(disease modifying drug)」としての機能を有する薬剤は、抗TNFα抗体やメトトレキサートといった全身性に作用する免疫調節剤が主である。アルギン酸と類似の多糖類であるヒアルロン酸は変形性関節症の治療剤であるが、関節リウマチにおいては関節疼痛の対症療法に用いられているのみである。したがって、アルギン酸において変形性関節症で治療効果が得られていても、関節リウマチにおいて治療効果を有するかどうかは予測困難であった。アルギン酸のような、食品や医薬品基剤として汎用されている安全性の高い天然由来の多糖類ポリマーが、関節内投与により関節リウマチの疾患修飾薬として機能することは、驚くべきことであった。 すなわち、本発明は、関節疾患患者の関節内へ注入投与することで、治療効果を得ることのできる組成物を提供する。(1−1)低エンドトキシンアルギン酸の1価金属塩を有効成分として含有し、関節内に注入投与する、関節疾患治療用組成物。(1−2)低エンドトキシンアルギン酸の1価金属塩を有効成分として含有することを特徴とし、関節内に注入投与する、軟骨変性変化抑制用組成物。(1−3)低エンドトキシンアルギン酸の1価金属塩を有効成分として含有することを特徴とし、関節内に注入投与する、軟骨保護用組成物。(1−4)低エンドトキシンアルギン酸の1価金属塩を有効成分として含有することを特徴とし、関節内に注入投与する、軟骨修復用組成物。(1−5)低エンドトキシンアルギン酸の1価金属塩を有効成分として含有することを特徴とし、関節内に注入投与する、関節疼痛抑制用組成物。(1−6)低エンドトキシンアルギン酸の1価金属塩を有効成分として含有することを特徴とし、関節内に注入投与する、関節炎症抑制用組成物。(1−7)低エンドトキシンアルギン酸の1価金属塩を有効成分として含有することを特徴とし、関節内に注入投与する、関節機能改善用組成物。(1−8)低エンドトキシンアルギン酸の1価金属塩を有効成分として含有することを特徴とし、関節内に注入投与する、変形性関節症治療用組成物。(1−9)低エンドトキシンアルギン酸の1価金属塩を有効成分として含有することを特徴とし、関節内に注入投与する、肩関節周囲炎治療用組成物。(1−10)低エンドトキシンアルギン酸の1価金属塩を有効成分として含有することを特徴とし、関節内に注入投与する、関節リウマチにおける関節疼痛抑制用組成物。(1−11)低エンドトキシンアルギン酸の1価金属塩を有効成分として含有することを特徴とし、関節内に注入投与する、関節リウマチ治療用組成物。(1−12)低エンドトキシンアルギン酸の1価金属塩を有効成分として含有することを特徴とし、関節内に注入投与する、関節リウマチにおける滑膜組織変性抑制用組成物。(1−13)低エンドトキシンアルギン酸の1価金属塩を有効成分として含有することを特徴とし、関節内に注入投与する、関節リウマチにおける関節破壊抑制用組成物。(1−14)低エンドトキシンアルギン酸の1価金属塩を有効成分として含有することを特徴とし、関節疾患に関連する病態を緩和、改善または治癒する効果を有する、関節内注入用組成物。(1−15)前記の、関節疾患に関連する病態を緩和、改善または治癒する効果が、軟骨変性変化の抑制、軟骨の保護、軟骨の修復、関節疼痛の抑制、関節炎症の抑制、関節機能の改善、滑膜組織変性の抑制、骨軟骨破壊の抑制および関節破壊の抑制からなる群より選ばれる少なくとも一つである、(1−14)に記載の組成物。(1−16)前記アルギン酸の1価金属塩がアルギン酸ナトリウムである、上記(1−1)ないし(1−15)のいずれか1つに記載の組成物。(1−17)前記アルギン酸ナトリウムは、ゲルろ過クロマトグラフィーにおける重量平均分子量が50万以上であるアルギン酸ナトリウムである、上記(1−16)に記載の組成物。(1−18)細胞(例えば、軟骨組織再生のための細胞)を含有しないことを特徴とする、上記(1−1)ないし(1−17)のいずれか1つに記載の組成物。(1−19)アルギン酸の1価金属塩の硬化剤を含有しないことを特徴とする、上記(1−1)ないし(1−18)のいずれか1つに記載の組成物。(1−20)ゲルろ過クロマトグラフィーにおける重量平均分子量が50万以上である低エンドトキシンアルギン酸ナトリウムを有効成分として含有し、細胞を含有せず、非硬化性であることを特徴とする、関節内に注入投与する、関節リウマチ治療用組成物。 さらに、本発明は、関節疾患およびそれに関連する病態の治療方法を提供する。(2−1)低エンドトキシンアルギン酸の1価金属塩を有効成分として含有することを特徴とする組成物を、関節内に注入投与する、関節疾患治療方法。(2−2)低エンドトキシンアルギン酸の1価金属塩を有効成分として含有することを特徴とする組成物を、関節内に注入投与する、軟骨変性変化抑制方法。(2−3)低エンドトキシンアルギン酸の1価金属塩を有効成分として含有することを特徴とする組成物を、関節内に注入投与する、軟骨保護方法。(2−4)低エンドトキシンアルギン酸の1価金属塩を有効成分として含有することを特徴とする組成物を、関節内に注入投与する、軟骨修復方法。(2−5)低エンドトキシンアルギン酸の1価金属塩を有効成分として含有することを特徴とする組成物を、関節内に注入投与する、関節疼痛抑制方法。(2−6)低エンドトキシンアルギン酸の1価金属塩を有効成分として含有することを特徴とする組成物を、関節内に注入投与する、関節炎症抑制方法。(2−7)低エンドトキシンアルギン酸の1価金属塩を有効成分として含有することを特徴とする組成物を、関節内に注入投与する、関節機能改善方法。(2−8)低エンドトキシンアルギン酸の1価金属塩を有効成分として含有することを特徴とする組成物を、関節内に注入投与する、変形性関節症治療方法。(2−9)低エンドトキシンアルギン酸の1価金属塩を有効成分として含有することを特徴とする組成物を、関節内に注入投与する、肩関節周囲炎治療方法。(2−10)低エンドトキシンアルギン酸の1価金属塩を有効成分として含有することを特徴とする組成物を、関節内に注入投与する、関節リウマチにおける関節疼痛抑制方法。(2−11)低エンドトキシンアルギン酸の1価金属塩を有効成分として含有することを特徴とする組成物を、関節内に注入投与する、関節リウマチ治療方法。(2−12)低エンドトキシンアルギン酸の1価金属塩を有効成分として含有することを特徴とする組成物を、関節内に注入投与する、関節リウマチにおける滑膜組織変性抑制方法。(2−13)低エンドトキシンアルギン酸の1価金属塩を有効成分として含有することを特徴とする組成物を、関節内に注入投与する、関節リウマチにおける関節破壊抑制方法。(2−14)低エンドトキシンアルギン酸の1価金属塩を有効成分として含有することを特徴とする組成物を、関節内に注入投与する、関節疾患に関連する病態を緩和、改善または治癒する方法。(2−15)前記の、関節疾患に関連する病態を緩和、改善または治癒する効果が、軟骨変性変化の抑制、軟骨の保護、軟骨の修復、関節疼痛の抑制、関節炎症の抑制、関節機能の改善、滑膜組織変性の抑制、骨軟骨破壊の抑制および関節破壊の抑制からなる群より選ばれる少なくとも一つである、(2−14)に記載の方法。(2−16)前記アルギン酸の1価金属塩がアルギン酸ナトリウムである、上記(2−1)ないし(2−15)のいずれか1つに記載の方法。(2−17)前記アルギン酸ナトリウムは、ゲルろ過クロマトグラフィーにおける重量平均分子量が50万以上であるアルギン酸ナトリウムである、上記(2−16)に記載の方法。(2−18)前記組成物が、細胞(例えば、軟骨組織再生のための細胞)を含有しないことを特徴とする、上記(2−1)ないし(2−17)のいずれか1つに記載の方法。(2−19)前記組成物が、アルギン酸の1価金属塩の硬化剤を含有しないことを特徴とする、上記(2−1)ないし(2−18)のいずれか1つに記載の方法。(2−20)ゲルろ過クロマトグラフィーにおける重量平均分子量が50万以上である低エンドトキシンアルギン酸ナトリウムを有効成分として含有し、細胞を含有せず、非硬化性であることを特徴とする組成物を、関節内に注入投与する、関節リウマチ治療方法。 本発明の関節疾患治療用組成物は、液体状態で関節内に注入することで、関節疾患および関節疾患に関連する病態の進行を抑え、症状を緩和しあるいは治癒することができる。本発明の1つの態様の組成物は、軟骨の機械的損傷に対し修復・保護・変性抑制効果を発揮するとともに、関節組織での炎症反応および疼痛を抑制する。さらに、自己免疫反応に伴う滑膜組織の変性を抑制し、骨軟骨破壊を抑制し、関節破壊に対して治療効果を発揮する。これらの複合的効果を通して関節疾患における関節機能の改善に寄与する。特に、変形性関節症の治療、肩関節周囲炎の治療、関節リウマチにおける関節痛の緩和、関節リウマチの治療に有用である。 図1は、実施例1のうさぎ軟骨修復モデルにおける全体観察のスコア基準を示す図である。 図2は、実施例1のうさぎ軟骨修復モデルにおける染色のスコア基準を示す図である。 図3は、実施例1のうさぎ軟骨修復モデルにおける、A)コントロール群(empty)の組織の染色写真である。(A)は4週後、(B)は12週後を示す。左から順に、H−E染色、サフラニンO染色、タイプIコラーゲン、タイプIIコラーゲン免疫染色の結果である。 図4は、実施例1のうさぎ軟骨修復モデルにおける、C)食品グレードアルギン酸+細胞あり群の染色写真である。(A)は4週後、(B)は12週後、染色方法については図3と同様である。 図5は、実施例1のうさぎ軟骨修復モデルにおける、D)精製アルギン酸群(細胞なし)の染色写真である。(A)は4週後、(B)は12週後、染色方法については図3と同様である。 図6は、実施例1のうさぎ軟骨修復モデルにおける、E)精製アルギン酸+細胞あり群の染色写真である。(A)は4週後、(B)は12週後、染色方法については図3と同様である。 図7は、実施例1のうさぎ軟骨修復モデルにおける全体観察および染色のスコア結果を示す図である。 図8は、実施例1のうさぎ軟骨修復モデルにおける、精製アルギン酸群の、D)群、E)群についての機械的強度測定の結果を示す図である。 図9は、実施例3のウサギ変形性関節症モデルにおける膝関節の外観を示す写真である。 図10は、実施例3のウサギ変形性関節症モデルにおける膝関節組織の染色写真である。 図11は、実施例4のウサギ変形性関節症モデルにおける膝関節について、india ink染色後の外観を示す写真である。図中、丸で囲まれた部分は、india inkにより着色した軟骨損傷部と正常軟骨の境目を示している。A)コントロール群、B)1%ヒアルロン酸ナトリウム投与群、C)2%アルギン酸ナトリウム投与群(分子量40万)、D)2%アルギン酸ナトリウム投与群(分子量100万)、E)2%アルギン酸ナトリウム投与群(分子量170万)である。なお、写真は複数標本のうちの一例である。 図12は、実施例4のウサギ変形性関節症モデルにおける、india ink染色による膝関節の肉眼的所見をスコア化した結果である。NS,HA,AL40,AL100およびAL170はそれぞれ、A)〜E)(図11と同じ)に対応する。grade1は、india inkによる染色および無傷の表面(no uptake of India ink,indicating intact surface)を示す。grade2は、india inkによる局所的な染色および表面に軽い損傷があること(minimal forcal uptake of India ink,maild surface irregurality)を示す。grade3は、india inkによる大きくくっきりとした染色および明白なフィブリル化(evident large forcal dark patches of India ink,overt fibrillation)を示す。grade4aは、2mm未満の軟骨損傷(erosion of cartilage<2mm)を示す。grade4bは、2mm−5mmの軟骨損傷(erosion of cartilage 2−5mm)を示す。grade4cは、5mmを超える軟骨損傷(erosion of cartilage>5mm)を示す。 図13は、実施例4のウサギ変形性関節症モデルにおける、膝関節組織のサフラニン−O染色写真である。A)〜E)は図11と同じ。なお、写真は複数標本のうちの一例である。 図14は、実施例4のウサギ変形性関節症モデルにおける、病理組織総合評価をスコア化した結果である。NS,HA,AL40,AL100およびAL170はそれぞれ、A)〜E)(図11と同じ)に対応する。 図15は、実施例6のラット実験的関節炎疼痛モデルにおける、歩行状態スコアの経時的変化を示す図である。A)コントロール群(NS)、B)1%ヒアルロン酸ナトリウム投与群(1%HA)、C)2%アルギン酸ナトリウム投与群(分子量100万)(2%AL100)、D)1%アルギン酸ナトリウム投与群(分子量170万)(1%AL170)、E)2%アルギン酸ナトリウム投与群(分子量170万)(2%AL170)である。*:p<0.05 vs NS。 図16は、実施例7のウサギ肩腱板断裂モデルにおける上腕骨骨頭部の標本写真である。黒矢印は軟骨損傷部を示す。Controlは生理食塩水投与群、alginateはアルギン酸投与群を表す。 図17は、実施例8のウサギ変形性関節症モデルの膝関節標本の摩擦係数を示すグラフである。縦軸は摩擦係数を表す。Control(normal)は正常関節、HA(OA)はヒアルロン酸投与したOA関節、AL100(OA)はアルギン酸投与したOA関節を表す。 図18は、実施例9のラット・コラーゲン誘発関節炎モデルにおける、抗原感作後の関節炎発症の程度の時間推移を表すグラフである。縦軸は関節炎スコア、横軸は抗原感作後の日数を表す。A)コントロール群、B)1%ヒアルロン酸ナトリウム投与群、C)2%アルギン酸ナトリウム投与群(分子量100万)、D)1%アルギン酸ナトリウム投与群(分子量170万)、E)2%アルギン酸ナトリウム投与群(分子量170万)である。 図19は、実施例9のラット・コラーゲン誘発関節炎モデルにおける、膝関節の滑膜組織の組織学的評価をスコア化した結果である。A〜Eは図18と同じ。*:p<0.05 vs control。 図20は、実施例9のラット・コラーゲン誘発関節炎モデルにおける、膝関節の膝蓋骨の組織学的評価をスコア化した結果である。A〜Eは図18と同じ。*:p<0.05 vs control。 図21は、実施例9のラット・コラーゲン誘発関節炎モデルにおける、膝関節の大腿骨外側顆の組織学的評価をスコア化した結果である。A〜Eは図18と同じ。*:p<0.05 vs control。 以下、本発明を詳細に説明するが、以下の実施の形態は本発明を説明するための例示であり、本発明はその要旨を逸脱しない限りさまざまな形態で実施することができる。1.概要 「軟骨」は、関節、胸郭壁、椎間板、半月板や、喉頭、気道、耳などの管状構造にみられ、硝子軟骨、弾性軟骨、線維軟骨の3種に分類できる。例えば、関節軟骨は硝子軟骨であり、軟骨細胞、コラーゲン性の細胞外マトリックス、プロテオグリカンおよび水からなり、血管が分布していない。硝子軟骨は、タイプIIコラーゲンに富み、抗タイプIIコラーゲン抗体により染色される、プロテオグリカンを染色するサフラニン−O染色で赤色に染色される、などの特徴を有する。「軟骨損傷」とは、加齢や外傷、その他様々な要因によって、軟骨が障害を受けている状態をいい、例えば、何らかの要因で、軟骨の独特の粘弾性(荷重がかかるとゆっくりと縮んで,荷重がとれるとゆっくりと元に戻る)が低下し、可動性を保ちながら荷重を支えることに支障をきたすなど、軟骨の機能が低下した状態を含む。変形性関節症、関節リウマチなどの疾患においても、軟骨損傷が見られる。 本発明において、「関節疾患」とは、軟骨、軟骨組織および/または関節組織(滑膜、関節包、軟骨下骨など)が機械的刺激や炎症反応により傷害されることにより生じる疾患をいう。「関節疾患治療」とは、機械的刺激や炎症反応により傷害された組織の各種病態を緩和し、改善し、および/または治癒することをいう。たとえば、変形性関節症においては、関節軟骨の磨耗、軟骨組織の変性、滑膜の炎症、炎症に伴う疼痛などの病態が複合的に発生する。一方で、肩関節周囲炎では、滑膜や関節包の炎症とそれに伴う疼痛が主であり、軟骨の磨耗や変性は認めないこともある。関節リウマチは、未だにその発症メカニズムは解明されていないが、自己免疫反応による炎症性サイトカインにより、滑膜組織や軟骨組織が破壊されると考えられている。このように、関節疾患は、複合的な病態を呈する疾患であり、その治療薬は、軟骨を磨耗より保護する効果、磨耗や炎症による軟骨の変性変化を抑制する効果、軟骨損傷部を修復させる効果、炎症や疼痛を抑制する効果、滑膜組織の変性を抑制する効果、骨軟骨破壊を抑制する効果など、複合的な効果を併せ持つことが求められる。本発明の、「低エンドトキシンアルギン酸の1価金属塩を含有する組成物」は、軟骨を機械的刺激より保護する効果、磨耗や炎症による軟骨の変性変化を抑制する効果、軟骨損傷部を修復させる効果、関節組織の炎症や疼痛を抑制する効果、滑膜組織の変性を抑制する効果、および、骨軟骨破壊を抑制する効果を併せもつ。これにより、関節疾患の進行を抑え、症状を緩和し、改善し、および/または治癒することができる。特に、変形性関節症の治療、肩関節周囲炎の治療、関節リウマチにおける関節痛の緩和、関節リウマチの治療に有用である。 また、「関節内に注入投与する」とは、流動性を有する液状の組成物を、関節腔内、滑液包内、腱鞘内などに、注入することをいう。変形性関節症および関節リウマチの治療に用いる場合は、組成物を関節腔内に注入して適用することが好ましい。なお、変形性関節症および関節リウマチは膝、肩、股、腰、足首、手首、指などの体の各関節に発生しうるが、本発明の組成物はいずれの関節にも適用しうる。2.アルギン酸の1価金属塩 本発明の関節疾患治療用組成物に含有させる「アルギン酸の1価金属塩」は、アルギン酸の6位のカルボン酸の水素原子を、Na+やK+などの1価金属イオンとイオン交換することでつくられる水溶性の塩である。アルギン酸の1価金属塩としては、具体的には、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カリウムなどを挙げることができるが、特には、市販品により入手可能なアルギン酸ナトリウムが好ましい。 本発明に用いる「アルギン酸」は、生分解性の高分子多糖類であって、D−マンヌロン酸(M)とL−グルロン酸(G)という2種類のウロン酸が直鎖状に重合したポリマーである。より具体的には、D−マンヌロン酸のホモポリマー画分(MM画分)、L−グルロン酸のホモポリマー画分(GG画分)、及びD−マンヌロン酸とL−グルロン酸がランダムに配列した画分(MG画分)が任意に結合したブロック共重合体である。アルギン酸のD−マンヌロン酸とL−グルロン酸の構成比(M/G比)は、主に海藻等の由来となる生物の種類によって異なり、また、その生物の生育場所や季節による影響を受け、M/G比が約0.4の高G型からM/G比が約5の高M型まで高範囲にわたる。 アルギン酸の1価金属塩は高分子多糖類であり、分子量を正確に定めることは困難であるが、一般的に重量平均分子量で1万〜1000万、好ましくは5万〜300万の範囲である。ゲルろ過クロマトグラフィーにおける重量平均分子量が約100万および約170万のアルギン酸ナトリウムは、分子量が約40万のアルギン酸ナトリウムに比べ、軟骨変性変化抑制効果、軟骨保護効果、軟骨修復効果、および関節疼痛抑制効果に優れていた。通常、高分子多糖類の分子量をゲルろ過クロマトグラフィーにより算出する場合、10〜20%の測定誤差を生じうる。例えば、40万であれば32〜48万、50万であれば40〜60万、100万であれば80〜120万程度の範囲で値の変動が生じうる。したがって、アルギン酸の1価金属塩について、関節疾患への効果が特に優れている好適な重量平均分子量範囲は、少なくとも50万以上、より好ましくは65万以上、さらに好ましくは80万以上である。分子量が高すぎるものは製造が困難であるとともに、水溶液とする際に粘度が高くなりすぎる、溶解性が低下するなどの問題を生じるため、重量平均分子量が500万以下であることが好ましく、より好ましくは300万以下である。 一般に天然物由来の高分子物質は、単一の分子量を持つのではなく、種々の分子量を持つ分子の集合体であるため、ある一定の幅を持った分子量分布として測定される。代表的な測定手法はゲルろ過クロマトグラフィーである。ゲルろ過クロマトグラフィーにより得られる分子量分布の代表的な情報としては、重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)、分散比(Mw/Mn)が挙げられる。 分子量の大きい高分子の平均分子量への寄与を重視したのが重量平均分子量であり、下記式で表される。 Mw=Σ(WiMi)/W=Σ(HiMi)/Σ(Hi) 数平均分子量は、高分子の総重量を高分子の総数で除して算出される。 Mn=W/ΣNi=Σ(MiNi)/ΣNi=Σ(Hi)/Σ(Hi/Mi) ここで、Wは高分子の総重量、Wiはi番目の高分子の重量、Miはi番目の溶出時間における分子量、Niは分子量Miの個数、Hiはi番目の溶出時間における高さである。 軟骨損傷部における軟骨再生効果(特に硝子軟骨再生効果)、関節疾患治療における軟骨修復効果、軟骨変性変化抑制効果、および/または軟骨保護効果は、分子量の大きい分子種の寄与が大きいと考えられるため、分子量の指標としては重量平均分子量を用いればよい。 天然物由来の高分子物質の分子量測定では、測定方法により値に違いが生じうることが知られている(ヒアルロン酸の例:Chikako YOMOTA et.al.Bull.Natl.Health Sci.,Vol.117,pp135−139(1999)、Chikako YOMOTA et.al.Bull.Natl.Inst.Health Sci.,Vol.121,pp30−33(2003))。アルギン酸塩の分子量測定については、固有粘度(Intrinsic viscosity)から算出する方法、SEC−MALLS(Size Exclusion Chromatography with Multiple Angle Laser Light Scattering Detection)により算出する方法が記載された文献がある(ASTM F2064−00(2006),ASTM International発行)。なお、当該文献では、サイズ排除クロマトグラフィー(=ゲルろ過クロマトグラフィー)により分子量を測定するにあたっては、プルランを標準物質として用いた較正曲線により算出するだけでは不十分とし、多角度光散乱検出器(MALLS)を併用すること(=SEC−MALLSによる測定)を推奨している。また、SEC−MALLSによる分子量を、アルギン酸塩のカタログ上の規格値として用いている例もある(FMC Biopolymer社、PRONOVATM sodium alginates catalogue)。 本発明者らは、分子量の異なるアルギン酸ナトリウムについて、OAモデル等で治療効果に差があることを見出しており、それらのアルギン酸について、ゲルろ過クロマトグラフィーによる分子量測定と、SEC−MALLSによる分子量測定を行った。その結果、ゲルろ過クロマトグラフィーによる分子量のほうが、アルギン酸塩の粘度や治療効果との関連性が高いことがわかった。すなわち、関節疾患治療用組成物に用いるアルギン酸塩の、好適な分子量範囲を特定するパラメーターとしては、一般に推奨されているSEC−MALLSによる測定より、ゲルろ過クロマトグラフィーによる分子量が適していることを新たに見出した。したがって、本明細書中においてアルギン酸塩の分子量を特定する場合は、特段のことわりがない限り、ゲルろ過クロマトグラフィーにより算出される重量平均分子量である。 ゲルろ過クロマトグラフィーの好適な条件は実施例に準ずる。代表的な条件としては、プルランを標準物質とした較正曲線を用いることが挙げられる。標準物質として用いるプルランの分子量としては、少なくとも160万、78.8万、40.4万、21.2万および11.2万のものを標準物質として用いることが好ましい。その他、溶離液(200mM硝酸ナトリウム溶液)、カラム条件などを特定できる。カラム条件としては、ポリメタクリレート樹脂系充填剤を用い、排除限界分子量1000万以上のカラムを少なくとも1本用いることが好ましい。代表的なカラムは、TSKgel GMPWx1(直径7.8mm×300mm)(東ソー株式会社製)である。 アルギン酸の1価金属塩は、褐藻類から抽出された当初は、分子量が大きく、粘度が高めだが、熱による乾燥、凍結乾燥、精製などの過程で、分子量が小さくなり、粘度は低めとなる。したがって、製造の各工程において適切な温度管理をすることにより、分子量の異なるアルギン酸の1価金属塩を製造することができる。製造の各工程における温度が低めとなるよう管理することで分子量の大きいアルギン酸の1価金属塩が得られ、温度が高くなるほど分子量の小さいアルギン酸の1価金属塩が得られる。また、原料とする褐藻類を適宜選択する、あるいは、製造工程において、分子量による分画を行う、などの手法によっても、分子量の異なるアルギン酸の1価金属塩を製造することができる。さらに、各手法で製造したアルギン酸の1価金属塩について、分子量あるいは粘度を測定した後、異なる分子量あるいは粘度を持つ別ロットのアルギン酸の1価金属塩と混合することにより、目的とする分子量を有するアルギン酸の1価金属塩とすることも可能である。 本発明に用いるアルギン酸は、天然由来でも合成物であってもよいが、天然由来であるのが好ましい。天然由来のアルギン酸としては、例えば、褐藻類から抽出されるものを挙げることができる。アルギン酸を含有する褐藻類は世界中の沿岸域に繁茂しているが、実際にアルギン酸原料として使用できる海藻は限られており、南米のレッソニア、北米のマクロシスティス、欧州のラミナリアやアスコフィラム、豪のダービリアなどが代表的なものである。アルギン酸の原料となる褐藻類としては、例えば、レッソニア(Lessonia)属、マクロシスティス(Macrocystis)属、ラミナリア(Laminaria)属(コンブ属)、アスコフィラム(Ascophyllum)属、ダービリア(Durvillea)属、アラメ(Eisenia)属、カジメ(Ecklonia)属などがあげられる。3.低エンドトキシン処理 本発明の関節疾患治療用組成物に含有されるアルギン酸の1価金属塩は、低エンドトキシンアルギン酸の1価金属塩である。低エンドトキシンとは、実質的に炎症、または発熱を惹起しない程度にまでエンドトキシンレベルを低下させたものである。すなわち、低エンドトキシン処理に供されたものである。驚くべきことに、低エンドトキシン処理することで、組成物を軟骨損傷部に適用したときに、軟骨再生作用をより高めることができる上に、軟骨下骨の再生が促進され、患部の機械的強度を高めることもできることが分かった。すなわち、本発明の組成物において低エンドトキシンアルギン酸を用いることにより、周囲の軟骨における変性や炎症反応が少なく、生体親和性の高い組成物とすることができる。 低エンドトキシン処理は、公知の方法またはそれに準じる方法によって行うことができる。例えば、ヒアルロン酸ナトリウムを精製する、菅らの方法(例えば、特開平9−324001号公報など参照)、β1,3−グルカンを精製する、吉田らの方法(例えば、特開平8−269102号公報など参照)、アルギネート、ゲランガム等の生体高分子塩を精製する、ウィリアムらの方法(例えば、特表2002−530440号公報など参照)、ポリサッカライドを精製する、ジェームスらの方法(例えば、国際公開第93/13136号パンフレットなど参照)、ルイスらの方法(例えば、米国特許第5589591号明細書など参照)、アルギネートを精製する、ハーマンフランクらの方法(例えば、Appl Microbiol Biotechnol(1994)40:638−643など参照)等またはこれらに準じる方法によって実施することができる。本発明の低エンドトキシン処理は、それらに限らず、洗浄、フィルター(エンドトキシン除去フィルターや帯電したフィルターなど)によるろ過、限外ろ過、カラム(エンドトキシン吸着アフィニティーカラム、ゲルろ過カラム、イオン交換樹脂によるカラムなど)を用いた精製、疎水性物質、樹脂または活性炭などへの吸着、有機溶媒処理(有機溶媒による抽出、有機溶剤添加による析出・沈降など)、界面活性剤処理(例えば、特開2005−036036号公報など参照)など公知の方法によって、あるいはこれらを適宜組合せて実施することができる。これらの処理の工程に、遠心分離など公知の方法を適宜組み合わせてもよい。アルギン酸の種類に合わせて適宜選択するのが望ましい。 エンドトキシンレベルは、公知の方法で確認することができ、例えば、リムルス試薬(LAL)による方法、エントスペシー(登録商標)ES−24Sセット(生化学工業株式会社)を用いる方法などによって測定することができる。本発明の組成物に含有されるアルギン酸のエンドトキシンの処理方法は特に限定されないが、その結果として、アルギン酸の1価金属塩のエンドトキシン含有量が、リムルス試薬(LAL)によるエンドトキシン測定を行った場合に、500エンドトキシン単位(EU)/g以下であること好ましく、さらに好ましくは、100EU/g以下、とりわけ好ましくは50EU/g以下、特には30EU/g以下である。低エンドトキシン処理されたアルギン酸ナトリウムは、例えば、Sea Matrix(滅菌)((株)キミカ−(株)持田インターナショナル)、PRONOVATM UP LVG(FMC)など市販品により入手可能である。4.アルギン酸の1価金属塩の溶液の調製 本発明の関節疾患治療用組成物は、アルギン酸の1価金属塩の溶液を用いて調製してもよい。アルギン酸の1価金属塩の溶液は、公知の方法またはそれに準じる方法により調製することができる。すなわち、本発明で用いられるアルギン酸の1価金属塩は、前述の褐藻類を用いて、酸法、カルシウム法など公知の方法により製造することができる。具体的には、例えば、これらの褐藻類から、炭酸ナトリウム水溶液などのアルカリ水溶液を用いて抽出した後、酸(例えば、塩酸、硫酸など)を添加することによってアルギン酸を得ることができ、アルギン酸のイオン交換によりアルギン酸の塩を得ることができる。前述のとおり、低エンドトキシン処理を行う。アルギン酸の塩の溶媒は、生体へ適用可能な溶媒であれば特に限定されないが、例えば、精製水、蒸留水、イオン交換水、ミリQ水、生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)などが挙げられる。これらは、滅菌されていることが好ましく、低エンドトキシン処理されたものが好ましい。例えば、ミリQ水をろ過滅菌して用いることができる。また、本発明の組成物を得るための操作は全てエンドトキシンレベル、および、細菌レベルの低い環境下で行うことが望ましい。例えば、操作はクリーンベンチで、滅菌器具を使用して行うことが好ましく、使用する器具を市販のエンドトキシン除去剤で処理してもよい。 好ましいエンドトキシンレベルを示すまで精製したアルギン酸の1価の塩を用いて、上記のように組成物を作製した場合には、組成物のエンドトキシン含有量は、通常、500EU/g以下であり、さらに好ましくは300EU/g以下、とりわけ好ましくは150EU/g以下である。5.関節疾患治療用組成物の粘度 本発明の関節疾患治療用組成物を関節内に注入する場合の粘度は、関節疾患の治療効果が得られれば特に限定はされないが、好ましくは100mPa・s〜20000mPa・sである。例えば、上記溶媒などを用いて、適度な粘度に調製することができる。このような粘度範囲であれば、シリンジ等で関節内に注入することができる。好ましくは、150mPa・s〜15000mPa・s、より好ましくは200mPa・s〜10000mPa・s、とりわけ好ましくは250mPa・s〜6000mPa・sである。適度な粘度とすることで関節液のクッションとしての機能を補う効果も果たすことができ、関節液中に分散した状態で関節疾患を治療する効果を発揮することが可能となる。 関節疾患治療用組成物の粘度は、例えば、アルギン酸の1価金属塩の溶液中のアルギン酸濃度、アルギン酸の分子量等を制御することにより調整することができる。 アルギン酸の1価金属塩の溶液の粘度は、溶液中のアルギン酸濃度が高い場合に高く、溶液中のアルギン酸濃度が低い場合に低くなる。アルギン酸の1価金属塩の溶液中の好ましいアルギン酸濃度は、分子量の影響を受けるので、一概にはいえないが、おおよそ0.2%w/v〜5%w/v程度であり、さらに好ましくは、0.5%w/v〜3%w/v程度で、とりわけ好ましくは1%w/v〜2.5%w/vである。 低い濃度のアルギン酸の1価金属塩の溶液により、高い粘度の組成物を得るためには、分子量の高いアルギン酸の1価金属塩を選択することができる。アルギン酸の1価金属塩の溶液の粘度は、M/G比によって影響を受けるため、例えば、溶液の粘度等により好ましいM/G比を有するアルギン酸を適宜選択することができる。本発明に用いるアルギン酸のM/G比は、約0.4〜4.0であり、好ましくは約0.8〜3.0、より好ましくは約1.0〜1.6である。 前述のように、M/G比が主に海藻の種類によって決まることなどから、原料として用いられる褐藻類の種類はアルギン酸の1価金属塩の溶液の粘度に影響を及ぼす。本発明で用いられるアルギン酸としては、好ましくは、レッソニア属、マクロシスティス属、ラミナリア属、アスコフィラム属、ダービリア属の褐藻由来であり、より好ましくはレッソニア属の褐藻由来であり、特に好ましくはレッソニア・ニグレッセンズ(Lessonia nigrescens)由来である。6. アルギン酸の1価金属塩含有関節疾患治療用組成物の製剤化及び適用 本発明の関節疾患治療用組成物は、ヒト又はヒト以外の生物、例えばウシ、サル、トリ、ネコ、マウス、ラット、モルモット、ハムスター、ブタ、イヌ、ウサギ、ヒツジ、ウマなどの非ヒト哺乳動物の関節内に注入投与し、関節疾患の治療を行うために用いられる。 本発明の関節疾患治療用組成物の形態は、流動性のある液体状、すなわち、溶液状である。本発明において「流動性を有する」とは、その形態を不定形に変化させる性質を持つことを意味する。好ましくは、例えば、組成物をシリンジなどに封入し、患部へ注入することができるような流動性を有することが望ましい。溶液状である本発明の組成物は、シリンジ、ゲル用ピペット、専用注射器などで関節内に容易に適用することができる。 本発明の関節疾患治療用組成物は、変形性関節症、肩関節周囲炎、関節リウマチなどの関節疾患において、軟骨の修復効果、軟骨変性変化の抑制効果、軟骨保護効果、関節組織の炎症を抑制する効果、関節組織の炎症による疼痛を抑制する効果、滑膜組織変性の抑制効果、および/または骨軟骨破壊の抑制効果を有し、関節疾患の治療効果を発揮する。これらの複合的な効果を通して、関節機能を改善し、関節破壊を抑制する。 本発明の関節疾患治療用組成物の態様の1つは、変形性関節症治療用組成物である。変形性関節症のように、軟骨損傷が関節軟骨の広範にわたる場合、または、明らかな軟骨欠損は生じていないものの、軟骨表面の平滑さが乱れ変性変化が始まっているような、比較的初期の変形性関節症によく見られるタイプの軟骨損傷を治療したい場合には、本発明の組成物を関節腔内に注入し、関節液内にいきわたらせるように適用することが好ましい。アルギン酸の1価金属塩が軟骨損傷部に接触することで、軟骨損傷部における関節の修復を促進し、炎症や磨耗による軟骨の変性変化を抑制し、軟骨を保護する。また、有効成分であるアルギン酸の1価金属塩が関節液内にいきわたることにより、滑膜組織を含めた周辺組織の炎症反応を抑制し、疼痛を抑制する効果を発揮する。同時に、関節液内にアルギン酸の1価金属塩が存在することで、クッションおよび潤滑油としての関節液の機能を補う役割を果たす。 本発明の関節疾患治療用組成物の別の態様の1つは、肩関節周囲炎治療用組成物である。肩関節周囲炎では、滑膜や関節包の炎症とそれに伴う疼痛が主であり、軟骨の磨耗や変性は認めないこともある。アルギン酸の1価金属塩は、滑膜組織を含めた周辺組織の炎症反応を抑制し、疼痛を抑制する効果を発揮するため、本発明の組成物を肩関節腔内、肩峰下滑液包内、または上腕二頭筋長頭腱腱鞘内などに投与することで、肩関節周囲炎を治療することができる。 本発明の関節疾患治療用組成物の別の態様の1つは、関節疼痛抑制用組成物である。関節疼痛は、上述のような変形性関節症、肩関節周囲炎等のほか、関節リウマチにおいてしばしば問題となる。本発明の好ましい態様の一つは、関節リウマチにおける関節疼痛の治療用組成物であり、特に好ましくは、慢性関節リウマチにおける膝関節疼痛抑制用組成物である。関節リウマチは、未だにその発症メカニズムは解明されていないが、自己免疫反応による炎症性サイトカインにより、滑膜組織や軟骨組織が破壊されると考えられている。アルギン酸の1価金属塩は、滑膜組織を含めた周辺組織の炎症反応を抑制し、疼痛を抑制する効果を発揮するため、本発明の組成物を、関節リウマチを罹患した関節内に投与することで、炎症反応とそれに伴う疼痛を抑制することができる。 本発明の関節疾患治療組成物の別の態様の1つは、関節リウマチ治療用組成物である。本発明の組成物は、自己免疫反応に伴う滑膜組織の変性を抑制し、骨軟骨破壊を抑制する。また、自己免疫反応によって関節組織に変性が生じると、関節本来の滑らかな動きができなくなり、軟骨に変形性関節症と同様の機械的損傷が加わるようになる。本発明の組成物はこのような軟骨損傷部における関節の修復を促進し、炎症や磨耗による軟骨の変性変化を抑制し、軟骨を保護する。本発明の組成物は、このような複合的な効果を通して、関節リウマチにおける関節破壊を抑制し、治療効果を発揮する。 本発明の関節疾患治療組成物の別の態様の1つは、関節疾患に伴う各種病態を緩和し、改善し、および/または治癒する組成物である。関節疾患では、軟骨、軟骨組織および/または関節組織(滑膜、関節包、軟骨下骨など)が機械的刺激や炎症反応により傷害され、関節軟骨の磨耗、機械的刺激や炎症反応による軟骨組織の変性変化、滑膜など関節組織の炎症、炎症に伴う関節疼痛、滑膜組織の変性、骨軟骨組織の破壊などの病態が複合的に発生する。本発明の組成物は、低エンドトキシンアルギン酸の1価金属塩を有効成分として含有し、軟骨を機械的刺激より保護する効果、磨耗や炎症による軟骨の変性変化を抑制する効果、軟骨損傷部を修復させる効果、関節組織の炎症や疼痛を抑制する効果、滑膜組織の変性を抑制する効果、および、骨軟骨破壊を抑制する効果を併せもつ。これにより、関節疾患の進行を抑え、症状を緩和し、改善し、および/または治癒することができる。また、本発明の関節疾患治療組成物は、これらの病態の緩緩和、改善、および/または治癒を通して、関節機能を改善する効果を有する。関節機能の改善とは、関節可動域の改善、日常生活動作の改善などを意味する。 本発明の関節疾患治療用組成物を関節内に適用する場合は、投与量は投与対象となる関節の関節液等の量に応じて適宜決めればよく、特に限定されないが、ヒト膝関節や肩関節に投与する場合は、通常1〜5mL、より好ましくは2〜3mLである。また、投与は、例えば1週間毎に連続5回連続行い、その後2〜4週間に1回を継続するといった方法をとりうる。特にこれに限定されるものではなく、症状と効果に応じて適宜増減可能である。例えば、2週に1回、1月に1回、2ヶ月に1回、3ヶ月に1回、または6ヶ月に1回の投与を適宜継続するといった方法もとりうる。アルギン酸は動物の体内に元来存在しない物質であるため、動物はアルギン酸を特異的に分解する酵素を保有していない。アルギン酸は動物体内においては、通常の加水分解により徐々に分解されるが、ヒアルロン酸等のポリマーに比べ体内の分解が緩やかであり、関節内に投与した場合、長期間の効果持続が期待できる。 本発明の関節疾患治療用組成物は、低エンドトキシンアルギン酸の1価金属塩を有効成分として含有することを特徴とする。本発明者らは、アルギン酸を生体の関節内に投与した場合に、アルギン酸自体が軟骨組織および関節組織への治療効果を発揮することを初めて見出した。アルギン酸の1価金属塩とは、好ましくはアルギン酸ナトリウムであり、更に好ましくはゲルろ過クロマトグラフィーにおける重量平均分子量が50万以上であるアルギン酸ナトリウムである。有効成分として含有するとは、アルギン酸が患部に適用された際に、軟骨組織および関節組織への治療効果を発揮できる量で含有されていればよく、少なくとも、組成物全体の0.1%w/v以上であることが好ましい。より好ましくは0.5%w/v以上、特に好ましくは1〜3%w/vである。 本発明の軟骨再生用又は軟骨疾患治療用組成物には、必要に応じて、他の医薬活性成分や、慣用の安定化剤、乳化剤、浸透圧調整剤、緩衝剤、等張化剤、保存剤、無痛化剤、着色剤等、通常医薬に用いられる成分を本発明の組成物に含有させることもできる。 尚、本発明の1つの態様では、本発明の組成物は、低エンドトキシンアルギン酸の1価金属塩以外に、軟骨あるいは関節組織に対し薬理作用を発揮する成分を含まない。低エンドトキシンアルギン酸の1価金属塩のみを有効成分として含有する組成物においても、充分な関節疾患治療効果を発揮しうる。 例えば、施術の手技が簡便で、生体に対しても、軟骨細胞、骨膜採取、骨髄採取などの過度の負担を与えることなく、生体由来や培養工程由来のウイルス等の感染の危険を軽減するためには、細胞を含有しない組成物とすることが好ましい。細胞とは、具体的には、軟骨組織再生のための細胞であり、例えば、骨髄間葉系幹細胞、骨髄間葉系間質細胞、軟骨前駆細胞、軟骨細胞、滑膜細胞、血球系幹細胞、ES細胞等の細胞が挙げられる。本発明の関節疾患治療用組成物は、低エンドトキシンアルギン酸の1価金属塩を有効成分とする組成物であり、アルギン酸自体に関節疾患の治療効果があることを見出したことに基づいている。好適な治療用組成物の例は、ゲルろ過クロマトグラフィーにおける重量平均分子量が50万以上である、低エンドトキシンアルギン酸ナトリウムを有効成分として含有し、細胞を含有しないことを特徴とする、関節内に注入投与する、関節疾患治療用組成物であり、従来用いられているヒアルロン酸製剤より優れた治療効果を発揮することができる。 本発明の関節疾患治療用組成物は、アルギン酸の1価金属塩に対する硬化剤を含まないことが好ましい。アルギン酸の1価金属塩に対する硬化剤とは、アルギン酸の1価金属塩と溶液中で共存させると、アルギン酸を硬化させるあるいはゲル化させる成分のことであり、Ca2+、Mg2+、Ba2+、Sr2+などの2価以上の金属イオン化合物、分子内に2〜4個のアミノ基を有する架橋性試薬などが挙げられる。より具体的には、CaCl2、MgCl2、CaSO4、BaCl2、グルコン酸カルシウム、アルギン酸カルシウム塩などを挙げることができる。これらの成分をアルギン酸が硬化/ゲル化する程度まで含有すると、アルギン酸のゲル化によりシリンジ等での注入が困難になる、関節内でアルギン酸が多量に固化することにより関節の機能を妨げる、などの問題が生じることがある。硬化性の組成物は、軟骨欠損部などの穴に充填して用いるのには適している。一方で、本発明の組成物のように、関節内にいきわたらせ、変形性関節症や関節リウマチの関節組織全体へ複合的な治療効果を発揮させるためには、組成物自体は非硬化性であることが望ましい。一般的な薬剤溶解液には、ごく微量の2価金属イオン等が含まれていることもあるが、アルギン酸の1価金属塩の硬化/ゲル化を意図した添加でないかぎり、ここでいう硬化剤には該当しない。本発明の組成物の好ましい態様の一つは、アルギン酸の1価金属塩の硬化剤を、アルギン酸が硬化/ゲル化する程度にまで含有しない組成物である。還言すれば、本発明の組成物の好ましい態様の一つは、非硬化性の組成物である。 さらに、本発明は、前記本発明の関節疾患治療用組成物を用いる、関節疾患の治療方法を提供する。本発明の関節疾患の治療方法は、前記本発明の関節疾患治療用組成物を関節内に投与することにより、関節疾患の進行を抑え、症状を緩和し、改善し、および/または治癒する。前記本発明の関節疾患治療用組成物を関節内に投与することで、軟骨変性変化の抑制、軟骨の保護、軟骨の修復、関節疼痛の抑制、関節炎症の抑制、滑膜組織変性の抑制、および骨軟骨破壊の抑制からなる群より選ばれる少なくとも一つの効果を発揮し、関節疾患の進行を抑え、症状を緩和し、改善し、および/または治癒する。これらの複合的な効果を通して、関節機能を改善し、関節破壊を抑制する。 本発明の関節疾患治療用組成物を関節内に適用する方法は、特に限定されないが、例えば、シリンジ、ゲル用ピペット、専用充填器などで関節内に直接注入するようにして良い。関節内に注入して適用する場合、18G〜27Gの針を使用するのが好ましい。「関節内に注入投与する」とは、流動性を有する液状の組成物を、関節腔内、滑液包内、腱鞘内などに、注入することをいう。変形性関節症および関節リウマチの治療に用いる場合は、組成物を関節腔内に注入して適用することが好ましい。なお、変形性関節症および関節リウマチは膝、肩、股、腰、足首、手首、指などの体の各関節に発生しうるが、本発明の組成物はいずれの関節にも適用しうる。 また、本発明の組成物を投与する前に、あるいは同時に、あるいは後で、ストレプトマイシン、ペニシリン、トブラマイシン、アミカシン、ゲンタマイシン、ネオマイシン、及びアンホテリシンB等の抗生物質、アスピリン、非ステロイド性解熱鎮痛剤(NSAIDs)、アセトアミノフェン等の抗炎症薬、ステロイド剤等の併用薬を投与するようにしても良い。これらの薬剤は本発明の組成物に混入して用いてもよい。7.関節疾患治療用キット さらに、本発明は、関節疾患治療用キットを提供する。キットには、前記本発明の関節疾患治療用組成物、シリンジ、ゲル用ピペット、専用充填器、取り扱い説明書等を含めることができる。キットとして好適な具体例としては、一体成型され、隔壁により仕切られた二つの部屋からなるシリンジの1室にアルギン酸の1価金属塩を封入し、他方の部屋に溶解液としての生理食塩液を含む溶液を封入し、両部屋の隔壁を用時容易に開通できるよう構成し、用時両者を混合・溶解して用いることのできるキットとする。他の例としては、アルギン酸の1価金属塩溶液をプレフィルドシリンジに封入し、使用時に調製操作なくそのまま投与できるキットとする。さらに、キットには、ストレプトマイシン、ペニシリン、トブラマイシン、アミカシン、ゲンタマイシン、ネオマイシン、及びアンホテリシンB等の抗生物質、アスピリン、非ステロイド性解熱鎮痛剤(NSAIDs)、アセトアミノフェン等の抗炎症薬、ステロイド剤等の併用薬を含めることもできる。 本キットを用いることにより、関節疾患治療を円滑に行うことができる。 なお、本明細書において引用した全ての刊行物、例えば、先行技術文献および公開公報、特許公報その他の特許文献は、その全体が本明細書において参照として組み込まれる。また、本明細書は、日本国特許出願である特願2007−277005号および国際特許出願であるPCT/JP2008/52999の開示内容を包含する。 以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。うさぎ軟骨修復モデル(1)移植細胞の作成 移植細胞とするため、骨髄間葉系間質細胞(BMSC:Bone marrow mesechymal stromal cell)を単離し、培養した。BMSCには、骨髄間葉系幹細胞の他、血球系細胞なども含まれる。4ヶ月齢の日本白うさぎの脛骨より骨髄10mLを採取し、Ca・MgフリーのPBS(Gibco BRL Lab.)で2回洗浄後、DMEM−high glucose(DMED−HG,Sigma Chemical,St.Louis,MO)に懸濁した。血液塊を孔径70μmのセル・ストレーナー(Falcon Co.Ltd)により除去した。細胞を、DMEM−HG、10%胎児ウシ血清(FBS,Gibco,Life Technology,Grand Island,NY)、1%抗生物質(Penicillin−Streptomycin−Fungizone 100X concentrated,Cambrex Biosciences,Walkersville,MD)の培養メディウム中、100mmの培養皿で、37℃、5%CO2、加湿下でインキュベートした。培養メディウムを3日毎に交換し、接着性のない細胞を除去した。接着性のある細胞を10〜14日間単層培養後、トリプシン・EDTA(10mM)(Sigma,UK)ではがして、計数し、3日毎に継代した。(2)方法(施術) メス日本白うさぎ40匹(体重2.6〜2.9kg)を、イソフラン・O2ガスとペントバルビタール静注(0.05mg/kg)により麻酔し、抗生物質(Penicillin G,Meiji−Seika,Japan)の筋注後、脚を剃毛した。前中央部を2cm切開し、傍内側膝蓋アプローチにより、顆間部に到達した。パワードリル(Rexon,Japan)を使って、大腿骨滑車の骨軟骨欠損(直径5mm、深さ2mm)を作成した。ひざを生理食塩水で潤し、欠損部に出血がないことを確認し、欠損部を乾燥させた。 本実施例では、以下の5群に分けて、実験を行った。A)コントロール群(empty)、B)食品グレードアルギン酸群(細胞なし)C)食品グレードアルギン酸+細胞あり(2.5×107個/mL)群、D)精製アルギン酸群(細胞なし)、E)精製アルギン酸+細胞あり(2.5×107個/mL)群 A)のコントロール群は、欠損部に何も適用しなかったものである。また、B)の食品グレードアルギン酸群(細胞なし)は、2%w/vの食品グレードのアルギン酸ナトリウム溶液を欠損部に適用したもの、D)の精製アルギン酸群(細胞なし)は、2%w/vの精製アルギン酸ナトリウム溶液を欠損部に適用したものである。食品グレードのアルギン酸は、和光純薬工業(株)、アルギン酸ナトリウム500(番号199−09961)を用い、精製アルギン酸は(株)キミカ−(株)持田インターナショナル、Sea Matrix(滅菌)(製造番号B5Y01)を用いた。さらに、C)食品グレードアルギン酸+細胞あり群、E)精製アルギン酸+細胞あり群は、(1)で得られた細胞を、2%w/vの食品グレードのアルギン酸ナトリウム溶液または2%w/vの精製アルギン酸ナトリウム溶液に懸濁し、関節軟骨の欠損部に適用したものである。 市販のLALアッセイキット(Limulus Color KY Test Wako,Wako,Japan)により、エンドトキシンレベルを測定したところ、精製アルギン酸ナトリウムでは、5.76EU(エンドトキシン単位)/g、食品グレードアルギン酸ナトリウムでは、75950EU/gであり、精製アルギン酸ナトリウムのエンドトキシンレベルは食品グレードのアルギン酸ナトリウムに比べて極めて低かった。すなわち、精製アルギン酸ナトリウムは、低エンドトキシン処理されたものであった。また、精製アルギン酸ナトリウムの重金属含量は、20ppm以下であり、硫酸鉛は、0.98%以下、ヒ素は2ppm以下であった。 アルギン酸ナトリウム溶液の濃度を2%w/vとしたのは、粘度を施術に適した5000mPa・s〜6000mPa・sにすることができるからである。欠損部が上を向く姿位でうさぎを固定し、ゲル用ピペットを用いて、各組成物を欠損部に適用した。 B)〜E)の各群とも、アルギン酸ナトリウム溶液の粘度が適度であったので、関節液により流れやすい条件にも関わらず、アルギン酸ナトリウム溶液が欠損部から流れることはなかった。その後、移植片の表面に100mMのCaCl2溶液約0.5mlを27Gの針の注射器で10秒間ゆっくりとかけ続けた。移植片の表面層は直ちにゲル化し、移植細胞が患部から外れることはなかった。生理食塩水でCaCl2溶液を洗浄した。さらなる固定は必要なく、施術後、患部を縫合した。ウサギは自由に動くことができた。 被験体のうさぎに、施術後4週後又は12週後に過量のペントバルビタールを静注し安楽死させた。そして、その大腿の末端部を動力のこぎりで切除した。(全体観察) 肉眼で外観全体を観察し、スコア化した。スコア化は、Gabriele G.らの方法(Biomaterial 21(2000)2561−2574)を参考に、図1の基準により得点化した。(染色) その後、被験体をパラホルムアルデヒドで固定し、脱灰、パラフィン固定した。欠損部中央から5μm部分を、サフラニンーO、H−E染色、抗タイプIコラーゲン、抗タイプIIコラーゲン免疫染色を実施した。新たに形成した軟骨組織を評価するため、図2に記載したスコアリングシステムを使って、顕微鏡で評価した。スコアリングは、独立した、ブラインドされた観察者が行った。(機械的強度測定) 患部の機械的強度を圧入テストにより測定した。大腿骨膝関節を上に向けて、強固にクランプ固定した。実験は室温で行った。インデンターを自動で再生軟骨の中心に向けて動かし、負荷(N)に対する移動(mm)を記録した。新生された組織の厚さは、組織切片から計測した。負荷―ひずみ曲線の直線部分からヤング係数を得た。(3)結果 染色の結果を図3〜6に示した。 H−E染色、サフラニンO染色、抗タイプIIコラーゲン免疫染色の結果、E)の精製アルギン酸+細胞あり群(図6)において、4週後の早い段階から、他の群と比較して、最も優れた、硝子軟骨、タイプIIコラーゲンの形成が確認された。12週においては、約80%の軟骨再生が見られた。H−E染色の結果から、軟骨下骨の形成も極めて良好なことが分かる。サフラニンO染色では、プロテオグリカンの形成が見られ、細胞外マトリックスの形成も確認できる。一方、H−E染色、抗タイプIコラーゲン免疫染色によれば、線維軟骨の形成はほとんど見られなかった。 D)の精製アルギン酸群(細胞なし)(図5)は、C)の食品グレードアルギン酸+細胞あり群(図4)と比較して、硝子軟骨、タイプIIコラーゲン、軟骨下骨の形成とも良好であった。細胞を包埋しないD)群において、硝子軟骨細胞による軟骨再生が得られたのは、驚くべき結果であった。また、細胞を包埋しないD)群が、細胞を包埋したC)群と比較して、軟骨損傷の再生能力に優れていることは、予想外の結果であった。 一方、欠損部に何も適用しなかったA)コントロール群(図3)は、軟骨細胞、タイプIIコラーゲンの新生はほとんど見られなかった。 肉眼で外観全体を観察しスコア化した評価結果(Macro)、および、上記染色による観察をスコア化した評価結果(Histological)を図7に示した。 12週における、MacroとHistologicalの結果を合わせた総合スコア(total score)は、E)精製アルギン酸+細胞あり群 22.71点、D)精製アルギン酸群(細胞なし)19.57点、C)食品グレードアルギン酸+細胞あり群 14.75点、B)食品グレードアルギン酸群(細胞なし)10.25点、A)コントロール群(empty)8.43点と、E)精製アルギン酸+細胞あり群が最も優れ、次いで、D)精製アルギン酸群(細胞なし)、C)食品グレードアルギン酸+細胞あり群の順であった。細胞を包埋しないD)群が、細胞を包埋するC)群と比較して、総合スコア(total score)において優れ、軟骨損傷の再生能力に優れていることは、全く予想外の結果であった。 肉眼による外観全体の評価(Macro−total)、染色による評価(Histological−total)とも、スコア化の結果は、いずれも、上記と同様、E)精製アルギン酸+細胞あり群が最も優れ、次いで、D)精製アルギン酸群(細胞なし)の順であった。 Macroの評価項目を見ると、精製アルギン酸を用いた、D)群、およびE)群は、食品グレードアルギン酸を用いたB)群、C)群と比較して、端部融合(新生細胞、元の軟骨に対するもの)((Edge Integration(new tissue relative to native cartilage))、軟骨表面の滑らかさ(Smoothness of cartilage surface)、軟骨表面、充填度(Cartilage surface,degree of filling)、軟骨の色、新生軟骨の不透明さ、透明性(color of cartilage,opacity or translucency of the neocartilage)の全ての項目において優れていた。 Histologicalの評価項目を見ると、精製アルギン酸を用いた、D)群、およびE)群は、特に、支配的な組織の性質(Nature of predominant tissue)、表面の秩序(surface regularity)、構造的な完全性、均質性(Structural integrity,homogeneity)、厚さ(Thickness)、周囲の軟骨への結合(Bonding to adjacent cartilage)、周囲の軟骨における変性変化(degenerative changes in adjacent cartilage)、炎症反応(Inflammatory response)の項目において、食品グレードアルギン酸を用いたB)群、C)群を上回る高スコアであった。 以上より、D)群、E)群は、硝子軟骨、タイプIIコラーゲン、軟骨下骨の形成など、軟骨損傷における軟骨細胞、軟骨組織の形成が極めて良好であった。線維軟骨の形成はほとんど見られなかった。 精製アルギン酸は新生した組織のホスト組織への融合性がよく、周囲の軟骨における変性や炎症反応が少なく、生体親和性が高いことが分かる。 精製アルギン酸群D)群、E)群についての機械的強度測定の結果を図8に示した。 精製アルギン酸群についての機械的強度測定の結果、正常な軟骨組織のヤング係数の10に対して、E)精製アルギン酸+細胞あり群は8と、ほぼ、損傷のない正常な状態にまで、強度の回復が見られた。このことから、細胞を包埋した本発明の組成物は、機械的強度に優れ、強度のある硝子軟骨が再生し、軟骨下骨の形成も良好であることが裏付けられた。精製アルギン酸ナトリウムの分子量分布測定(1)方法 精製アルギン酸ナトリウムの分子量分布測定を、以下の条件にて、ゲルろ過クロマトグラフィー(Gel Filtlation Chromatography)により行った。カラム:TSKgel GMPWx1 2本 + TSKgel G2500PWx1 1本(東ソー株式会社製) (直径7.8mm×300mm×3本)カラム温度:40℃溶離液:200mM 硝酸ナトリウム水溶液試料濃度:0.05%流速:1.0mL/min注入量:200μL検出器:RI(示差屈折計)標準物質:プルラン、グルコース(分子量160万、78.8万、40.4万、21.2万、11.2万、4.73万、2.28万、1.18万、5900、180)(2)結果(3)考察 実施例1のうさぎ軟骨修復モデルにおいて使用した精製アルギン酸ナトリウムの重量平均分子量は、上記方法による測定では170万であった。実施例1に示したように、当該アルギン酸は、細胞あり、なしの両方でうさぎ軟骨修復モデルにおいて硝子軟骨再生効果が認められた。一方で、文献3では、低エンドトキシンアルギン酸(FMC Biopolymer社、PronovaTMLVG、現PronovaTMUP LVG)を用いて同様の実験を行っているが、細胞を含有させずアルギン酸のみを軟骨欠損部に適用した場合は、線維軟骨が形成されることが開示されている。なお、PronovaTMLVGを滅菌した製品がPronovaTMSLG20であり、その重量平均分子量は、上記方法による測定では、44万であった。Sea MatrixTRとPronovaTMは、低エンドトキシンアルギン酸であるという点では共通しているが、両者のアルギン酸は、分子量の点で相違があり、この相違が軟骨再生効果の差異に繋がっているものと考えられる。粘度はアルギン酸の濃度により調節が可能であるが、異なる濃度のアルギン酸ゲル(0.5〜4%)に軟骨細胞を包埋してマウス皮下に移植し、軟骨形成を確認した実験において、アルギン酸の濃度は軟骨形成効果に影響しなかったとの報告もある(Keith T.Paige et al,″De Novo Cartilage Generation Using Calcium Alginate−Chondrocyte Constructs″,Plastic and Reconstructive Surgery Vol.97:1996 p.168−178)。したがって、Sea MatrixTRとPronovaTMの両アルギン酸の軟骨再生効果の差異は、分子量に起因するものと考えられる。すなわち、低エンドトキシンアルギン酸を用いることにより、周囲の軟骨における変性や炎症反応が少なく、生体親和性の高い組成物とすることができるが、それに加えて高分子量のアルギン酸とすることにより、細胞を包埋しない場合においても硝子軟骨を再生できる、軟骨再生効果に非常に優れた軟骨再生用または治療用組成物とすることができることがわかった。分子量としては、重量平均分子量で少なくとも50万以上、好ましくは65万以上の低エンドトキシンアルギン酸が軟骨再生に有用であり、より好ましくは100〜200万、特に150〜200万程度の分子量のものが好適であることがわかった。ウサギ変形性関節症モデル(前十字靭帯(ACL)切除モデル)(1)方法メス日本白うさぎ(Japanese white rabbit;体重2.6〜2.9kg)を用いて両膝関節に対し、Vignon Eらの方法に準じてOAモデルを作成した(Vignon E,Bejui J,Mathieu P,Hartmann JD,Ville G,Evreux JC,et al.Histological cartilage changes in a rabbit model of osteoarthritis.J Rheumatol 1987;14(Spec No):104−6)。以下の4群について各3匹(6膝)を用意した。A)コントロール群(生理食塩水投与)、B)1%ヒアルロン酸ナトリウム溶液投与群(分子量約90万、粘度約2300mPa・s)C)1%精製アルギン酸ナトリウム溶液投与群(分子量約170万、粘度約500mPa・s)D)2%精製アルギン酸ナトリウム溶液投与群(分子量約170万、粘度約5000mPa・s) B)〜D)の溶液は生理食塩水にて作成した。C)〜D)の精製アルギン酸ナトリウムは、実施例1で用いている精製アルギン酸ナトリウム((株)キミカ−(株)持田インターナショナル、Sea Matrix(滅菌)、製造番号B5Y01)と同一である。 前十字靭帯切除手術後、4週目、5週目、6週目、7週目、8週目に、上記A)〜D)の各溶液を、関節腔内に投与した(週1回、計5回投与)。投与は、27G針を用い、膝蓋骨腱を貫通させ、1回あたり0.3mL/膝を注入した。9週目にウサギを安楽死させ、膝関節組織標本を取得した。感染、異物反応などの炎症はすべての膝で認めなかった。(2)結果(全体観察) 肉眼で膝関節(大腿骨および脛骨の膝関節軟骨)外観全体を観察した。結果を図9に示す。A群(生理食塩水投与)では肉眼的に軟骨欠損、骨棘などの変形性関節症の所見を多く認めた。他の群ではA群に比較して軟骨損傷の程度(大きさ、深さ)が軽かった。肉眼的所見をスコア化しても同様の結果であった。(染色) 膝関節組織標本をパラホルムアルデヒドで固定し、脱灰、パラフィン固定した。サフラニン‐O染色により組織学的評価を行った。結果を図10に示す。各図上部は大腿骨側軟骨であり、下部は脛骨側軟骨であり、軟骨変性の変化は両側軟骨において判定する。A群(生理食塩水投与)では軟骨基質の染色性の低下、軟骨表面の粗さを認めた。B群(1%ヒアルロン酸ナトリウム溶液投与)では軟骨表面はA群より平滑ではあるが、染色性の低下を認めた。C群(1%精製アルギン酸ナトリウム溶液投与)およびD群(2%精製アルギン酸ナトリウム溶液投与)では、軟骨表面は平滑であり、A群およびB群と比べ染色性の低下は軽度であった。また軟骨表面にアルギン酸が残存していた。 以上より、アルギン酸ナトリウムの関節内注射はACL切除OAモデルにおいて、軟骨変性を抑制し、軟骨を保護する作用を示した。変形性関節症の治療薬として用いられている1%ヒアルロン酸ナトリウム溶液投与と同等もしくはそれ以上の効果が認められた。また、アルギン酸ナトリウムが軟骨表面に付着していたことから、アルギン酸ナトリウムは関節軟骨と親和性を示し、軟骨表面を被覆・保護していることが確認された。ウサギ変形性関節症モデル(前十字靭帯(ACL)切除モデル)における分子量の異なるアルギン酸の治療効果の評価(1)方法メス日本白色家兎(Japanese white rabbit;体重2.6〜2.9kg)を用いて両膝関節に対し、Vignon Eらの方法に準じてOAモデルを作成した(Vignon E,Bejui J,Mathieu P,Hartmann JD,Ville G,Evreux JC,et al.Histological cartilage changes in a rabbit model of osteoarthritis.J Rheumatol 1987;14(Spec No):104−6)。以下の5群について各5匹(10膝)を用意した。A)コントロール群(生理食塩水投与)、B)1%ヒアルロン酸ナトリウム溶液投与群(ARTZ(登録商標)、科研製薬(株)、分子量約90万、粘度約2300mPa・s)C)2%精製アルギン酸ナトリウム溶液投与群(PronovaTMSLM20、FMC Biopolymer社、分子量約40万)D)2%精製アルギン酸ナトリウム溶液投与群((株)キミカ製、滅菌、分子量約100万)E)2%精製アルギン酸ナトリウム溶液投与群(Sea Matrix(滅菌)、(株)キミカ製、分子量約170万) C)〜E)の溶液は生理食塩水にて作成した。 前十字靭帯切除手術後、4週目、5週目、6週目、7週目、8週目に、上記A)〜E)の各溶液を、関節腔内に投与した(週1回、計5回投与)。投与は、27G針を用い、膝蓋腱を貫通させ、1回あたり0.3mL/膝を注入した。9週目にウサギを安楽死させ、膝関節組織標本を取得した。感染、異物反応などの炎症反応はすべての膝で認めなかった。(2)結果(全体観察) 肉眼で膝関節(大腿骨および脛骨の膝関節軟骨)外観全体を観察した。軟骨表面の損傷の程度を評価するのに、Choji SHIMIZUらの方法に準じてindia inkで染色しスコア化を行った(J Rheumatol Vol.25,pp1813−1819,1998)。肉眼的所見を図11に示す。india inkの染色では、軟骨損傷部と正常軟骨の境目が着色する。A群(生理食塩水投与)では肉眼的に深く広範な軟骨欠損、骨棘などの変形性関節症の所見を多く認めた。他の群ではA群に比較して軟骨損傷の程度(大きさ、深さ)が軽かった。肉眼的所見をスコア化した結果を図12に示す。膝関節について、大腿骨内側顆(Medial Femoral Condyle:MFC)、脛骨内側顆(Medial Tibial Plateau:MTP)、大腿骨外側顆(Lateral Femoral Condyle:LFC)、脛骨外側顆(Lateral Tibial Plateau:LTP)の4箇所の観察を行った。いずれの部位においても、B〜E群はA群に比較して軟骨損傷の程度が軽かった。また、軟骨損傷の程度は、B群およびC群に比べ、D群およびE群にて軽度な傾向が認められた。アルギン酸の分子量の違いにより、軟骨変性変化抑制効果・軟骨保護効果・軟骨修復効果に差があると考えられた。(プロテオグリカン染色) 膝関節組織標本をパラホルムアルデヒドで固定し、脱灰、パラフィン固定した。サフラニンーO染色により組織学的評価を行った。結果を図13に示す。各図上部は大腿骨側軟骨であり、下部は脛骨側軟骨であり、軟骨変性の変化は両側軟骨において判定する。A群(生理食塩水投与)では軟骨基質の染色性の低下、軟骨表面の粗さを認めた。B群(1%ヒアルロン酸ナトリウム溶液投与)では軟骨表面はA群より平滑ではあるが、染色性の低下を認めた。アルギン酸ナトリウム溶液投与群(C〜E群)では、軟骨表面は平滑であり、A群およびB群と比べ染色性の低下は軽度であった。また軟骨表面にアルギン酸が付着していた。(病理組織総合評価) 肉眼的観察、染色による観察の総合的な評価として、Toshiyuki KIKUCHIらの方法に準じたスコア化を行い、投与薬物の効果を評価した(Osteoarthritis and Cartilage Vol.4,pp99−110,1996)。大腿骨内側顆について、以下の8項目について各4段階評価し、合計点を変形性関節症病変スコアとした。 (1)軟骨表層の消失、(2)軟骨びらん、(3)線維化・亀裂、(4)可染色性プロテオグリカンの消失、(5)軟骨細胞の配列の乱れ、(6)軟骨細胞の消失、(7)軟骨下骨の消失、(8)軟骨細胞クラスターの形成。 有意差検定は群間はANOVAを行い、その後各群間の比較はpost hoc testにてp<0.05を有意とした。 結果を図14に示す。B〜E群は、A群に対し、変形性関節症病変スコアが有意に低かった。また、高分子量アルギン酸投与群(D群、E群)では、ヒアルロン酸投与群(B群)よりも優れた効果が認められたが、低分子量アルギン酸投与群(C群)はヒアルロン酸投与群と同等程度であった。 以上より、アルギン酸ナトリウムの関節内注射はACL切除OAモデルにおいて、軟骨変性変化を抑制し、軟骨を保護する作用を示した。変形性関節症の治療薬として用いられている1%ヒアルロン酸ナトリウム溶液投与と同等もしくはそれ以上の効果が認められた。特に、高分子量アルギン酸は、ヒアルロン酸よりも優れた治療効果を示した。なお、3種のアルギン酸は粘度の点での差違も存在するが、ヒアルロン酸より粘度の低いアルギン酸でもヒアルロン酸と同等以上の効果が認められていることから、治療効果の差は粘度によるものではなく、物質の違いおよび分子量の違いによるものと考えられる。 今回のACL切除OAモデルでは、ACL切除後4週目より薬物の投与を開始した。従って、薬物投与群で認められた変形性関節症病変スコアの低下は、軟骨変性変化の抑制、軟骨保護による、病変進行の抑制効果に加え、既に発生した損傷に対する軟骨修復作用が合わさった結果であると考えられる。本実験の参考とした、上述のToshiyuki KIKUCHIらの論文では、ACL切除後4週目には、生理食塩水投与群ではOAスコアが20〜25に達するとされている。本実験では、ACL切除後4週目より薬剤の投与を開始しているので、OAスコアが20〜25程度の状態から薬剤投与を開始した結果、薬剤の効果により軟骨の状態が改善してOAスコアが低下している可能性が考えられる。また、本評価系では、正常関節のスコアは8となるので、E群(分子量170万のアルギン酸)におけるOA平均スコア(11.3)は、正常関節に近い、非常に良好なスコアであると言える。アルギン酸の分子量測定手法の検討 天然物由来の高分子物質の分子量測定では、測定方法により値に違いが生じうることが知られている。ASTM F2064−00(ASTM International発行(2006);米国材料試験協会(American Society for Testing and Materials)は、工業材料規格および試験法規格の国際標準化・規格設定機関である)では、SEC−MALLS(Size Exclusion Chromatography with Multiple Angle Laser Light Scattering Detection)による測定が推奨されている。そこで、実施例4で用いたアルギン酸ナトリウムについて、SEC−MALLSと実施例2に記載のゲルろ過クロマトグラフィーによる測定法との比較を行った。なお、SEC−MALLSは、ゲルろ過クロマトグラフィーに多角度光散乱検出器(MALLS)を併用した測定法である。(1)方法 ゲルろ過クロマトグラフィーによる測定は、実施例2と同一の方法で行った。SEC−MALLSによる測定は、以下の条件にて行った。多角度光散乱検出器:Wyatt Technology DAWN HELEOSカラム:Shodex SB−806M 2本(昭和電工株式会社製)溶離液:200mM 硝酸ナトリウム水溶液流速:1.0mL/min(2)結果AL170、AL100、AL40は、実施例4で用いた精製(低エンドトキシン)アルギン酸ナトリウムと同一である。M170:(株)キミカー(株)持田インターナショナル、Sea Matrix(滅菌)、1%粘度約500mPa・sAL100:(株)キミカ製、滅菌、1%粘度約100mPa・sAL40:FMC Biopolymer社、PronovaTMSLM20、1%粘度約30mPa・s(3)考察 表2に示すように、3種のアルギン酸塩は、SEC−MALLSにおける分子量は、差異があるとは明確には言えない範囲の差しか認められず、ゲルろ過クロマトグラフィーによる測定結果とは大きな違いがあった。実施例4に示すように、用いた試料間には薬理効果において明確な差があったことから、ゲルろ過クロマトグラフィーによる分子量のほうが、SEC−MALLSによる分子量よりもアルギン酸塩の治療効果との関連性が高く関節疾患治療用組成物に用いるアルギン酸塩の、好適な分子量範囲を特定するパラメーターとしては、ゲルろ過クロマトグラフィーによる分子量が適していることがわかった。ラットの実験的関節炎疼痛に対するアルギン酸の効果(1)方法 ラットの膝関節内に尿酸ナトリウムの針状結晶(MSU)を注入して誘発させた関節炎では、疼痛のため歩行異常を呈する。Shizuhiko IHARAらの方法(Folia pharmacol.japon.,Vol.100,pp359−365(1992))に準じて、MSU投与ラット実験的関節炎疼痛モデルを作成し、アルギン酸ナトリウムの関節内投与の効果を検討した。 Crl:CD系雄性ラットを5週齢で購入し、1週間の馴化後実験に供した。麻酔下でラットの右膝関節内に5.0%MSU生理食塩液懸濁液を0.05mL注入し、2、4、6および24時間後に歩行状態を観察した。歩行状態は正常歩行(0点)、軽い跛行(1点)、中程度の跛行(2点)、つま先立った歩行(3点)および3足歩行(4点)の5段階のスコアで評価した。以下の5群について各10匹を用意した。A)コントロール群(生理食塩水投与)、B)1%ヒアルロン酸ナトリウム溶液投与群(ARTZ(登録商標)、科研製薬(株)、分子量約90万)C)2%精製アルギン酸ナトリウム溶液投与群((株)キミカ製、滅菌、分子量約100万)D)1%精製アルギン酸ナトリウム溶液投与群(Sea Matrix(滅菌)、(株)キミカ製、分子量約170万)E)2%精製アルギン酸ナトリウム溶液投与群(Sea Matrix(滅菌)、(株)キミカ製、分子量約170万) 各溶液50μLを、MSU注入の1時間前に同関節部位に投与した。(2)結果および考察 歩行状態スコアの経時的変化を図15に示す。1%ヒアルロン酸ナトリウム溶液投与群(B群)および2%アルギン酸ナトリウム溶液投与群(C群、E群)の歩行状態スコアは、対照群(A群)に対し有意に低く、疼痛抑制効果が認められた。分子量約170万のアルギン酸ナトリウムにおける1%溶液と2%溶液の比較では、濃度依存的な疼痛抑制効果が認められた(D群、E群)。また、分子量100万と170万の2%アルギン酸ナトリウム溶液では、粘度がそれぞれ約300mPa・sおよび約5000mPa・sと異なっているが、同等の疼痛抑制効果を示した。 MSUは関節内において、滑膜細胞や好中球に直接または間接的に作用し、サイトカインなどの産生を介して関節炎を発症させると考えられている(上記Shizuhiko IHARAら論文)。すなわち、MSUにより炎症反応が誘発されその結果として疼痛を引き起こす。アルギン酸ナトリウム溶液は、該モデルにおいて疼痛抑制効果を示し、変形性関節症治療薬および慢性関節リウマチにおける関節痛抑制薬として用いられているヒアルロン酸ナトリウムと同等の効果が認められた。アルギン酸の1価金属塩は、炎症および疼痛を抑制する効果を有することが確認され、変形性関節症、肩関節周囲炎等の治療薬として有用であり、関節リウマチにおける関節疼痛への適用も可能であると考えられた。 また、分子量43万のアルギン酸ナトリウム((株)キミカ製、滅菌)では、分子量100万のアルギン酸ナトリウムよりも疼痛抑制効果が弱い傾向が認められた。アルギン酸の分子量の違いにより疼痛抑制効果に差があると考えられた。ウサギ肩腱板断裂モデルにおけるアルギン酸関節内投与の効果(1)肩腱板断裂モデルの作製日本白色家兎を用い、肩腱板断裂モデルを作製した。塩酸ケタミンを使用した全身麻酔下に、両肩関節の毛刈後、滅菌操作で肩関節を後方アプローチにて展開した。Omovertebral muscleを切離し、両側棘下筋腱とその上腕骨頭側の腱付着部に10×7mmの欠損部を作成した。右肩関節内に2%精製アルギン酸ナトリウム溶液(Sea Matrix(滅菌)(株)キミカ製、分子量約170万)0.3mLを注入した。左肩関節内にはコントロールとして生理食塩水(大塚製薬)0.3mLを同様の手技にて注入した。術後、両側上肢の固定は行わず飼育ケージの中での自由に運動させた。手術後、週1回、5週間(計5回)、右肩へのアルギン酸溶液投与、左肩への生理食塩水投与を継続した後に、ペントバルビタールの大量静脈内投与により安楽死させ、肩関節組織標本を取得した。(2)結果 肉眼で上腕骨骨頭部を観察したところ、コントロール群では腱断裂部に沿った部位に高度な軟骨欠損が認められたが、アルギン酸投与群では明らかな軟骨損傷は認められなかった(図16)。アルギン酸ナトリウムは軟骨保護効果を示し、軟骨損傷の発生ならびに進展を抑制した。ウサギ変形性関節症モデル(前十字靭帯(ACL)切除モデル)の膝関節摩擦係数の測定(1)方法 実施例4と同様の方法でウサギOAモデル作製し、1%ヒアルロン酸ナトリウム溶液(ARTZ(登録商標)、科研製薬(株)、分子量約90万、粘度約2300mPa・s)を投与したOA膝関節標本(n=4)と、2%精製アルギン酸ナトリウム溶液((株)キミカ製、滅菌、分子量約100万)を投与したOA膝関節標本(n=4)を取得し、Tanaka.E.らの方法(J Dent Res.2004 May;83(5):404−7)に準じて膝関節摩擦係数を測定した。各薬剤の投与は実施例4と同様に行い、前十字靭帯切除手術後9週目にウサギを安楽死させ、膝関節標本を取得した。測定は、膝屈曲角30度、荷重1.8kg、測定時間120秒で各標本5回行った。対照群は正常関節(n=1)とした。(2)結果 アルギン酸を投与したOA膝関節標本では、ヒアルロン酸を投与したOA膝関節標本より有意に低い摩擦係数を示した(図17)。本来、正常関節の摩擦係数は低い数値を示すが、OAの病態が進むと摩擦係数が増加し、摩擦係数の増加がさらに組織の破壊を促進する。アルギン酸を投与したOA膝関節標本において摩擦係数が低いのは、OAの病態が軽度であり、組織が良い状態に保たれていることを反映していると考えられた。すなわち、実施例4における肉眼的所見および組織学的評価において観察された組織状態が、膝関節摩擦係数に反映されているものと考えられた。ラット・コラーゲン誘発関節炎に対するアルギン酸関節内投与の効果 コラーゲン誘発関節炎モデル(CIA)は、病態がヒトの関節リウマチ(RA)と酷似しており、関節リウマチのモデルとして多用されている。ラット・コラーゲン誘発関節炎モデルを作製し、アルギン酸ナトリウムの関節内投与の効果を検討した。(1)モデル動物の作製10週齢のDA/Slc(SPF)雄性ラットを購入し、1週間の馴化の後実験に供した。ウシII型コラーゲン(コラーゲン技術研究会)を0.01mol/L酢酸水溶液に1.5mg/mLとなるように溶解し、等量のFreund’s incomplete adjuvant(Difco)を用いて乳濁液を作製した。この乳濁液をラットの背部皮内4〜6ヵ所に合計0.4mL(コラーゲン量:300μg)投与(感作)し、関節炎を誘発した。(2)被験物質の投与以下の5群について各10匹を用意した。A)コントロール群(生理食塩液投与)B)1%ヒアルロン酸ナトリウム溶液投与群(ARTZ(登録商標)、科研製薬(株)、分子量約90万)C)2%精製アルギン酸ナトリウム溶液投与群((株)キミカ製、滅菌、分子量約100万)D)1%精製アルギン酸ナトリウム溶液投与群(Sea Matrix(滅菌)、(株)キミカ製、分子量約170万)E)2%精製アルギン酸ナトリウム溶液投与群(Sea Matrix(滅菌)、(株)キミカ製、分子量約170万)各投与物質の投与液量はいずれも0.05mL/ratとし、1mL注射筒及び26G注射針を用いて動物の左後肢膝関節腔内に投与した。投与回数は1日1回、感作後0(コラーゲン投与日)、5、10、15、20日の5回投与した。(3)関節炎発症の肉眼的観察 感作後毎日,下記に示した基準により,左後肢足部を肉眼的に観察し,関節炎発症の有無及びその程度を評価した。 スコア0:Normal スコア1:Redness is seen. スコア2:Redness and slight edema are seen at the toes. スコア3:Edema extends from the toes to the full length of the paw スコア4:Severe edema is seen. スコア5:Deformation of the joint is seen. 結果を図18に示す。コントロール群では関節炎の急激な発症が感作後14日より認められ,関節炎の程度は25日まで増強した。感作後25日目までに、全ての群で同等の発症度が得られたが、ヒアルロン酸投与群(B群)およびアルギン酸ナトリウム溶液投与群(C、D、E群)ではコントロール群に比べ発症が遅延する傾向が認められた。遅延の程度は、ヒアルロン酸投与群(B群)よりアルギン酸ナトリウム溶液投与群(C、D、E群)において強く認められた。被験物質は、関節における炎症を抑制している可能性が考えられた。(4)病理組織学的評価 感作後25日に,動物を安楽死させ,左後肢膝関節組織を摘出し、ホルマリン液固定し、10%EDTA水溶液にて脱灰後、パラフィン固定した。Hematoxyline eosin染色及びSafranin0染色を行い、組織学的評価を行った。コラーゲン関節炎の評価項目及び評価基準に従って、各項目を変化なし(評点0)、軽微(評点1)、軽度(評点2)、中等度(評点3)、高度(評点4)の5段階で評価した。滑膜について、炎症細胞浸潤、滑膜細胞増生、肉芽組織形成、線維化を観察し、評点化した結果を図19に示す。膝蓋骨について、関節軟骨表面へのパンヌス形成(滑膜増生を含む)、関節軟骨の破壊(変性、線維化を含む)、骨の破壊(吸収)、サフラニン0染色性低下(プロテオグリカンの減少)を観察し、評点化した結果を図20に示す。骨棘形成(反応性類骨形成、骨膜性骨新生)の観察は、最も骨棘が形成されやすい大腿骨外側顆を対象とした。結果を図21に示す。有意差検定は、Mann−WhitneyのU検定により行った。 滑膜において、アルギン酸ナトリウム溶液投与群(C、D、E群)は、コントロール群に対し、有意な滑膜細胞増生抑制効果、肉芽組織形成抑制効果、ならびに線維化抑制効果を示した。また、高分子量のアルギン酸のほうがより強い効果を示した。 膝蓋骨において、アルギン酸ナトリウム溶液投与群(C、D、E群)は、パンヌス形成、関節軟骨の破壊、ならびに骨の破壊の項目において、抑制傾向を示した。 大腿骨外側顆において、アルギン酸ナトリウム溶液投与群(C、D、E群)は、骨棘形成の抑制傾向を示した。また、高分子量のアルギン酸のほうがより強い効果を示した。 関節リウマチの発症には、滑膜の炎症・異常増殖と、活性化T細胞による過剰な免疫応答が関与しており、その結果として関節組織の破壊が進行するといわれている。アルギン酸ナトリウム溶液は、コラーゲン誘発関節炎モデル動物において、関節内投与により、滑膜組織の変性を強力に抑制した。また、骨および軟骨の破壊・変性に対しても抑制傾向を示した。関節リウマチにおける関節痛の治療に用いられているヒアルロン酸ナトリウム溶液と比較して、優れた組織変性抑制効果が認められた。アルギン酸塩溶液の関節内注入により、組織病変の進行の抑制ならびに改善といった、関節リウマチの治療効果を得られるものと考えられた。 本発明の関節疾患治療用組成物は、液体状態で関節内に注入することで、軟骨の修復効果、軟骨変性変化の抑制効果、軟骨保護効果、関節組織の炎症を抑制する効果、および/または関節組織の炎症による疼痛を抑制する効果、滑膜組織の変性抑制効果、および/または骨軟骨破壊抑制効果を有し、関節疾患の治療効果を発揮する。特に、変形性関節症の治療、肩関節周囲炎の治療、関節リウマチにおける関節痛の緩和、関節リウマチの治療に有用である。 低エンドトキシンアルギン酸の1価金属塩を有効成分として含有し、アルギン酸の1価金属塩の硬化剤を含有しないことを特徴とし、関節内に注入投与する、関節リウマチ治療用組成物。 低エンドトキシンアルギン酸の1価金属塩を有効成分として含有し、アルギン酸の1価金属塩の硬化剤を含有しないことを特徴とし、関節内に注入投与する、関節リウマチにおける滑膜組織変性抑制用組成物。 低エンドトキシンアルギン酸の1価金属塩を有効成分として含有し、アルギン酸の1価金属塩の硬化剤を含有しないことを特徴とし、関節内に注入投与する、関節リウマチにおける関節破壊抑制用組成物。 細胞を含有しないことを特徴とする、請求項1ないし3のいずれか1項に記載の組成物。 前記低エンドトキシンアルギン酸の1価金属塩は、ゲルろ過クロマトグラフィーにおける重量平均分子量が50万以上であることを特徴とする、請求項1ないし4のいずれか1項に記載の組成物。


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